(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142852
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】水中油型乳化物用油脂
(51)【国際特許分類】
A23D 7/00 20060101AFI20241003BHJP
A23L 23/00 20160101ALI20241003BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20241003BHJP
A23F 5/24 20060101ALI20241003BHJP
A23L 9/20 20160101ALN20241003BHJP
A23C 13/12 20060101ALN20241003BHJP
A23C 11/00 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
A23D7/00 508
A23L23/00
A23D7/00
A23L2/00 B
A23F5/24
A23L9/20
A23C13/12
A23C11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055213
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】尾森 仁美
(72)【発明者】
【氏名】永渕 詢大
(72)【発明者】
【氏名】湯澤 優一
(72)【発明者】
【氏名】佐本 裕美
(72)【発明者】
【氏名】萩原 志保
【テーマコード(参考)】
4B001
4B025
4B026
4B027
4B036
4B117
【Fターム(参考)】
4B001AC05
4B001AC06
4B001AC15
4B001AC44
4B001AC99
4B001BC03
4B001EC01
4B025LB20
4B025LG14
4B025LG32
4B025LG53
4B025LG60
4B025LK01
4B026DG02
4B026DG03
4B026DG04
4B026DG08
4B026DH01
4B026DH03
4B026DK01
4B026DK03
4B026DK05
4B026DL04
4B026DL08
4B026DP01
4B026DP03
4B026DP04
4B026DX04
4B027FB24
4B027FC01
4B027FC02
4B027FK06
4B027FK10
4B027FK13
4B027FK18
4B027FK20
4B027FQ17
4B027FQ19
4B027FQ20
4B036LF04
4B036LH04
4B036LH08
4B036LH13
4B036LH15
4B036LH22
4B036LH50
4B036LK06
4B036LP01
4B036LP18
4B036LP19
4B117LC03
4B117LG13
4B117LG17
4B117LK10
4B117LK12
4B117LK18
4B117LL06
4B117LL09
4B117LP13
4B117LP17
(57)【要約】
【課題】
水中油型乳化物、飲料、又は調理加工食品において、特定の油脂を配合することにより、加熱工程に由来する異風味の発生を抑制、ひいては初期の風味を長期間保つことを課題とする。
【解決手段】
以下(1)~(4)全てを満たす、水中油型乳化物用油脂を配合することで、水中油型乳化物、飲料、又は調理加工食品において、加熱工程に由来する異風味の発生を抑制し、ひいては初期の風味を長期間保つことができる。
(1)構成脂肪酸組成中の中鎖脂肪酸含量が合計1重量%以下である。
(2)ヨウ素価が100以下である。
(3)構成トリグリセリド中のS2Uトリグリセリドが合計40重量%以下である。
(4)S2Oトリグリセリド含有量に対するSSOトリグリセリド含有量の割合が15重量%以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下(1)~(4)全てを満たす、水中油型乳化物用油脂。
(1)構成脂肪酸組成中の中鎖脂肪酸含量が合計1重量%以下である。
(2)ヨウ素価が100以下である。
(3)構成トリグリセリド中のS2Uトリグリセリドが合計40重量%以下である。
(4)S2Oトリグリセリド含有量に対するSSOトリグリセリド含有量の割合が15重量%以上である。
ただし、中鎖脂肪酸とは、炭素数が6~10の飽和脂肪酸を示し、S2Uトリグリセリドとは、炭素数16~22の飽和脂肪酸(S)が2分子、炭素数16~22の不飽和脂肪酸(U)が1分子結合しているトリグリセリドを示し、S2Oトリグリセリドとは、炭素数16~22の飽和脂肪酸(S)が2分子、オレイン酸(O)が1分子結合しているトリグリセリドを示し、SSOトリグリセリドとは、トリグリセリド中の1位と2位に結合している脂肪酸が炭素数16~22の飽和脂肪酸(S)で、3位に結合している脂肪酸がオレイン酸(O)であるトリグリセリド及び、トリグリセリド中の2位と3位に結合している脂肪酸が炭素数16~22の飽和脂肪酸(S)で、1位に結合している脂肪酸がオレイン酸(O)であるトリグリセリドを示す。
【請求項2】
さらに、(2)ヨウ素価が64以下である、請求項1記載の、水中油型乳化物用油脂。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の水中油型乳化物用油脂を0.2重量%以上含有する、水中油型乳化物。
【請求項4】
請求項1又は請求項2記載の水中油型乳化物用油脂を0.2重量%以上含有する、飲料又は調理加工食品。
【請求項5】
請求項3記載の水中油型乳化物を0.5重量%以上含有する、飲料又は調理加工食品。
【請求項6】
以下(1)~(4)全てを満たす油脂を用いることによる、水中油型乳化物、飲料、又は調理加工食品の加熱工程に由来する異風味の発生を抑制する方法。
(1)構成脂肪酸組成中の中鎖脂肪酸含量が合計1重量%以下である。
(2)ヨウ素価が100以下である。
(3)構成トリグリセリド中のS2Uトリグリセリドが合計40重量%以下である。
(4)S2Oトリグリセリド含有量に対するSSOトリグリセリド含有量の割合が15重量%以上である。
ただし、中鎖脂肪酸とは、炭素数が6~10の飽和脂肪酸を示し、S2Uトリグリセリドとは、炭素数16~22の飽和脂肪酸(S)が2分子、炭素数16~22の不飽和脂肪酸(U)が1分子結合しているトリグリセリドを示し、S2Oトリグリセリドとは、炭素数16~22の飽和脂肪酸(S)が2分子、オレイン酸(O)が1分子結合しているトリグリセリドを示し、SSOトリグリセリドとは、トリグリセリド中の1位と2位に結合している脂肪酸が炭素数16~22の飽和脂肪酸(S)で、3位に結合している脂肪酸がオレイン酸(O)であるトリグリセリド及び、トリグリセリド中の2位と3位に結合している脂肪酸が炭素数16~22の飽和脂肪酸(S)で、1位に結合している脂肪酸がオレイン酸(O)であるトリグリセリドを示す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中油型乳化物用油脂に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂を含む、水中油型乳化物、飲料、又は調理加工食品などが、加熱工程を経て製造される場合において、加熱工程により劣化が促進され、異風味が発生する場合がある。その場合、これらの初期の風味を長期間保つことが困難であることから、それに対応する技術が求められている。
【0003】
特許文献1には、「乳飲料において、SUS(ただしSは炭素数16~22の飽和脂肪酸を、Uは炭素数16~22の不飽和脂肪酸を示す)の量が所定の値となる様に、SUSを含む油脂を配合するという簡易な方法で、その乳味感を向上させる方法を提供できる」旨が記載されている。
特許文献2には、「乳飲料において、及び乳清タンパク質含有量を低下させることにより加熱殺菌後の風味劣化を防止できる」旨が記載されている。
特許文献3には、「クリームにおいて、原料となる生乳を濃縮しておき、かつ加熱殺菌を行う前までに脱酸素処理を行うことにより、加熱臭の少ないすっきりとした風味を得ることができる」旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-149944号公報
【特許文献2】特開2010-057435号公報
【特許文献3】特開2006-141273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、水中油型乳化物、飲料、又は調理加工食品において、特定の油脂を配合することにより、加熱工程に由来する異風味の発生を抑制し、初期の風味を長期間保つことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、課題の解決に向け鋭意検討を行った。特許文献1では、同じ技術分野の乳飲料の風味向上に係る発明であったが、乳味感付与に関するものであり、加熱工程に由来する異風味の発生を抑制することへの示唆はされていなかった。また特許文献2や3では、加熱工程に由来する異風味の発生を抑制する方法への提案はされていたが、配合上或いは製造工程上の制限を受ける場合があった。
【0007】
本発明者らは更に検討を行ったところ、予想に反して、(1)構成脂肪酸組成中の中鎖脂肪酸含量が合計1重量%以下であり、かつ(2)ヨウ素価が100以下であり、かつ(3)構成トリグリセリド中のS2Uトリグリセリド含量が合計40重量%以下であり、かつ(4)S2Oトリグリセリド含有量に対するSSOトリグリセリド含有量の割合が15重量%以上であるという特定の組成を有する油脂を水中油型乳化物、飲料、又は調理加工食品に配合することにより、加熱工程に由来する異風味の発生を抑制し、特に飲料又は調理加工食品の初期の風味を長期間保つことが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記の発明を含有するものである。
[1] 以下(1)~(4)全てを満たす、水中油型乳化物用油脂。
(1)構成脂肪酸組成中の中鎖脂肪酸含量が合計1重量%以下である。
(2)ヨウ素価が100以下である。
(3)構成トリグリセリド中のS2Uトリグリセリドが合計40重量%以下である。
(4)S2Oトリグリセリド含有量に対するSSOトリグリセリド含有量の割合が15重量%以上である。
ただし、中鎖脂肪酸とは、炭素数が6~10の飽和脂肪酸を示し、S2Uトリグリセリドとは、炭素数16~22の飽和脂肪酸(S)が2分子、炭素数16~22の不飽和脂肪酸(U)が1分子結合しているトリグリセリドを示し、S2Oトリグリセリドとは、炭素数16~22の飽和脂肪酸(S)が2分子、オレイン酸(O)が1分子結合しているトリグリセリドを示し、SSOトリグリセリドとは、トリグリセリド中の1位と2位に結合している脂肪酸が炭素数16~22の飽和脂肪酸(S)で、3位に結合している脂肪酸がオレイン酸(O)であるトリグリセリド及び、トリグリセリド中の2位と3位に結合している脂肪酸が炭素数16~22の飽和脂肪酸(S)で、1位に結合している脂肪酸がオレイン酸(O)であるトリグリセリドを示す。
[2] さらに、(2)ヨウ素価が64以下である、[1]の、水中油型乳化物用油脂。
[3] [1]又は[2]の水中油型乳化物用油脂を0.2重量%以上含有する、水中油型乳化物。
[4] [1]又は[2]の水中油型乳化物用油脂を0.2重量%以上含有する、飲料又は調理加工食品。
[5] [3]の水中油型乳化物を0.5重量%以上含有する、飲料又は調理加工食品。
[6] 以下(1)~(4)全てを満たす油脂を用いることによる、水中油型乳化物、飲料、又は調理加工食品の、加熱工程に由来する異風味の発生を抑制する方法。
(1)構成脂肪酸組成中の中鎖脂肪酸含量が合計1重量%以下である。
(2)ヨウ素価が100以下である。
(3)構成トリグリセリド中のS2Uトリグリセリドが合計40重量%以下である。
(4)S2Oトリグリセリド含有量に対するSSOトリグリセリド含有量の割合が15重量%以上である。
ただし、中鎖脂肪酸とは、炭素数が6~10の飽和脂肪酸を示し、S2Uトリグリセリドとは、炭素数16~22の飽和脂肪酸(S)が2分子、炭素数16~22の不飽和脂肪酸(U)が1分子結合しているトリグリセリドを示し、S2Oトリグリセリドとは、炭素数16~22の飽和脂肪酸(S)が2分子、オレイン酸(O)が1分子結合しているトリグリセリドを示し、SSOトリグリセリドとは、トリグリセリド中の1位と2位に結合している脂肪酸が炭素数16~22の飽和脂肪酸(S)で、3位に結合している脂肪酸がオレイン酸(O)であるトリグリセリド及び、トリグリセリド中の2位と3位に結合している脂肪酸が炭素数16~22の飽和脂肪酸(S)で、1位に結合している脂肪酸がオレイン酸(O)であるトリグリセリドを示す。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水中油型乳化物、飲料、又は調理加工食品において、特定の組成を含む油脂を配合することにより、加熱工程に由来する異風味の発生を抑制し、特に飲料又は調理加工食品の初期の風味を長期間保つことができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0011】
本明細書における水中油型乳化物とは、そのまま飲食に用いることもでき、さらに飲料又は調理加工食品の材料として用いることもできる。
本明細書における飲料とは、飲料すべてを指すが、特に油脂及び/又は水中油型乳化物を少なくとも含むものである。
本明細書における調理加工食品とは、調理加工した食品すべてを指すが、特に油脂及び/又は水中油型乳化物を少なくとも含み、かつ複数の食材を用いて煮込み、味付けなどの調理加工された食品で、具体的にはスープ、シチュー、鍋等のベース、つゆ、ソースなどが例示される。
【0012】
本発明に係る、水中油型乳化物用油脂は、以下(1)~(4)全ての要件を満たすことが必要である。
(1)構成脂肪酸組成中の中鎖脂肪酸含量が合計1重量%以下である。
(2)ヨウ素価が100以下である。
(3)構成トリグリセリド中のS2Uトリグリセリドが合計40重量%以下である。
(4)S2Oトリグリセリド含有量に対するSSOトリグリセリド含有量の割合が15重量%以上である。
ただし、中鎖脂肪酸とは、炭素数が6~10の飽和脂肪酸を示し、S2Uトリグリセリドとは、炭素数16~22の飽和脂肪酸(S)が2分子、炭素数16~22の不飽和脂肪酸(U)が1分子結合しているトリグリセリドを示し、S2Oトリグリセリドとは、炭素数16~22の飽和脂肪酸(S)が2分子、オレイン酸(O)が1分子結合しているトリグリセリドを示し、SSOトリグリセリドとは、トリグリセリド中の1位と2位に結合している脂肪酸が炭素数16~22の飽和脂肪酸(S)で、3位に結合している脂肪酸がオレイン酸(O)であるトリグリセリド及び、トリグリセリド中の2位と3位に結合している脂肪酸が炭素数16~22の飽和脂肪酸(S)で、1位に結合している脂肪酸がオレイン酸(O)であるトリグリセリドを示す。
これらの範囲が適当であると、加熱工程に由来する異風味の発生を抑制でき、初期の風味を長期間保つ効果が得られる。
【0013】
本発明に係る、水中油型乳化物用油脂は、(1)構成脂肪酸組成中の中鎖脂肪酸含量が合計1重量%以下である必要がある。ただし、中鎖脂肪酸とは、炭素数が6~10の飽和脂肪酸を示す。
本発明に係る、該油脂の構成脂肪酸組成中の中鎖脂肪酸含有量は、好ましくは、0.8重量%以下、より好ましくは0.6重量%以下、さらに好ましくは0.4重量%以下、最も好ましくは0.2重量%以下である。
【0014】
本発明に係る、水中油型乳化物用油脂は、(2)ヨウ素価が100以下である必要がある。
本発明に係る、該油脂のヨウ素価は、上限がより好ましくは95以下、90以下、85以下、80以下、75以下、70以下、64以下である。下限がより好ましくは5以上、10以上、15以上、20以上、25以上、30以上、35以上である。
【0015】
本発明に係る、水中油型乳化物用油脂は、(3)構成トリグリセリド中のS2Uトリグリセリドが合計40重量%以下である必要がある。
本発明に係る、該油脂の構成トリグリセリド中のS2Uトリグリセリド含有量は、上限がより好ましくは38重量%以下、35重量%以下であり、下限がより好ましくは5重量%以上、10重量%以上、12重量%以上である。
【0016】
本発明に係る、水中油型乳化物用油脂は、(4)S2Oトリグリセリド含有量に対するSSOトリグリセリド含有量の割合が15重量%以上である必要がある。
ただし、S2Oトリグリセリドとは、炭素数16~22の飽和脂肪酸(S)が2分子、オレイン酸(O)が1分子結合しているトリグリセリドを示し、SSOトリグリセリドとは、トリグリセリド中の1位と2位に結合している脂肪酸が炭素数16~22の飽和脂肪酸(S)で、3位に結合している脂肪酸がオレイン酸(O)であるトリグリセリド及び、トリグリセリド中の2位と3位に結合している脂肪酸が炭素数16~22の飽和脂肪酸(S)で、1位に結合している脂肪酸がオレイン酸(O)であるトリグリセリドを示す。
本発明に係る、該油脂の、S2Oトリグリセリド含有量に対するSSOトリグリセリド含有量の割合は、上限がより好ましくは80重量%以下、75重量%以下、70重量%以下であり、下限がより好ましくは16重量%以上、17重量%以上、18重量%以上、20重量%以上、25重量%以上、30重量%以上、40重量%以上、50重量%以上である。
【0017】
本発明に係る、水中油型乳化物用油脂は、前記(1)~(4)全ての要件を満たすことができれば、種々の油脂類を配合して調製して使用することができる。使用することができる油脂類としては、パーム油、菜種油、ハイエルシン菜種油、ヒマワリ油、ハイオレイックヒマワリ油、大豆油、こめ油、コーン油、綿実油、落花生油、ベニバナ油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、亜麻仁油、パーム核油、ヤシ油、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)、シア脂、サル脂等の植物性油脂、乳脂、牛脂、ラード、魚油、鯨油等の動物性油脂、藻類油、微生物発酵由来の油脂、並びにこれらを分別、水素添加、エステル交換等を施した加工油脂、さらにこれらの混合油脂等が例示できる。
【0018】
本発明に係る、水中油型乳化物用油脂は、構成脂肪酸組成中のラウリン酸含量が20重量%以下であることが好ましい。より好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下、2重量%以下、最も好ましくは1重量%以下である。
同様に、本発明に係る、水中油型乳化物用油脂は、構成脂肪酸組成中に、カプリル酸(C8)、カプリン酸(C10)、及びラウリン酸(C12)の含有量が合計1重量%以下であることが好ましい。より好ましくは0.8重量%以下、さらに好ましくは0.6重量%以下、最も好ましくは0.4重量%以下である。
【0019】
本発明に係る、水中油型乳化物用油脂は、さらに、構成トリグリセリド中にP2Oトリグリセリド、StPOトリグリセリド、及びSt2Oトリグリセリドが5~45重量%以上含有されていることが好ましい。
ただし、P2Oトリグリセリドとは、パルミチン酸が2分子、オレイン酸が1分子結合しているトリグリセリドを示し、StPOトリグリセリドとは、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸が1分子ずつ結合しているトリグリセリドを示し、St2Oトリグリセリドとは、ステアリン酸が2分子、オレイン酸が1分子結合しているトリグリセリドを示す。
上記要件を満たすことで、加熱工程に由来する異風味の発生を更に抑制でき、初期の風味を長期間保つ効果が得られる点で好ましい。
本発明に係る、該油脂の、構成トリグリセリド中のP2OトリグリセリドとStPOトリグリセリドとSt2Oトリグリセリドの合計含有量は、上限がより好ましくは40重量%以下、35重量%以下であり、下限がより好ましくは10重量%以上、12重量%以上である。
【0020】
本発明に係る、水中油型乳化物は、上記(1)~(4)全ての要件を満たす水中油型乳化物用油脂を含有することにより、得ることができる。該油脂は、本発明に係る水中油型乳化物に対し0.2重量%以上含有することが好ましく、上限がより好ましくは70重量%以下、60重量%以下、50重量%以下、45重量%以下であり、下限がより好ましくは0.5重量%以上、1重量%以上、2重量%以上である。
本発明に係る、水中油型乳化物に該油脂が0.2重量%以上含まれる事により、水中油型乳化物において、加熱工程に由来する異風味の発生を抑制でき、初期の風味を長期間保つ効果が得られる点で好ましい。
本発明に係る、飲料又は調理加工食品は、上記(1)~(4)全ての要件を満たす水中油型乳化物用油脂を含有することによっても、上記水中油型乳化物を含有することによっても、得ることができる。
【0021】
本発明に係る、水中油型乳化物、飲料、又は調理加工食品の油相には、前記油脂を規定量以上配合する限りにおいて、本発明の効果を損なわない範囲で、種々の油脂類を使用することができる。使用することができる油脂類としては、パーム油、菜種油、ハイエルシン菜種油、ヒマワリ油、ハイオレイックヒマワリ油、大豆油、こめ油、コーン油、綿実油、落花生油、ベニバナ油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、亜麻仁油、パーム核油、ヤシ油、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)、シア脂、サル脂等の植物性油脂、乳脂、牛脂、ラード、魚油、鯨油等の動物性油脂、藻類油、微生物発酵由来の油脂、並びにこれらを分別、水素添加、エステル交換等を施した加工油脂、さらにこれらの混合油脂等が例示できる。
本発明に係る、水中油型乳化物、飲料、又は調理加工食品における油相の含量は、特に限定されず、例えば、本発明の水中油型乳化物用油脂を含み0.2重量%以上であることが好ましい。上限がより好ましくは65重量%以下、60重量%以下、55重量%以下、50重量%以下、45重量%以下、40重量%以下、35重量%以下、30重量%以下、25重量%以下、20重量%以下であり、下限がより好ましくは0.4重量%以上、0.6重量%以上、0.8重量%以上、1重量%以上、2重量%以上、3重量%以上、4重量%以上、5重量%以上である。
【0022】
本発明に係る、水中油型乳化物、飲料、又は調理加工食品は、必要に応じて副原料を配合することができる。例えば、乳原料(生乳、生乳、脱脂濃縮乳、脱脂粉乳、生クリーム、バター等)や、糖質甘味料(砂糖、水あめ、果糖、ぶどう糖、糖アルコール、トレハロース等)や、安定剤(グアーガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、アラビアガム、カラギナン、アルギン酸ナトリウム、CMC、水溶性セルロース、ゼラチン、ペクチン等)や、澱粉(イネ・小麦・米等の穀類由来の澱粉や、トウモロコシ由来の澱粉や、馬鈴薯・タピオカ等のいも類由来の澱粉等、もしくはこれらの加工澱粉や化工澱粉等)や、乳化剤(レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド等)や、食塩や、着香料や、着色料や、酸味料や、風味原料(コーヒー、ココア、茶類、チョコレート原料、果汁、果肉、種実類、蜂蜜、メープルシロップ、酒類等)や、各種栄養素(蛋白質や、アミノ酸や、ポリデキストロース、イヌリン、難消化性デキストリンなどの食物繊維や、ビタミン類や、ミネラル類等)等が挙げられる。
また、本発明に係る、水中油型乳化物は、飲料、又は調理加工食品、乳原料を配合しない、植物性原料のみで組み立てても良い。植物性原料として例えば、大豆、エンドウ豆、ソラマメ、ヒヨコ豆に代表される豆類、アーモンド、へーゼルナッツ、カシューナッツ、クルミ、落花生、ピスタチオなどに代表される種子類、米、オーツ麦に代表される穀物類などが挙げられる。また、これらを適当な割合で混合して使用することも可能である。
【0023】
本発明に係る、水中油型乳化物の製造方法について説明する。本発明の水中油型乳化物は、油脂及び油性成分を混合した油相と、水及び水性成分を混合した水相を、乳化することにより得ることができる。
例えば、水または温水に、水性成分、並びに乳化剤、必要によりpH調整剤等の添加物を加えて攪拌し、溶解あるいは分散させた水相を調製後、あらかじめ調合した油相を添加し予備乳化を行う。さらにこれを、好ましくはバルブ式ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミルなどの均質化装置により圧力0~100MPaの範囲で均質化する。そして、必要によりインジェクション式、インフュージョン式等の直接加熱方式、あるいはプレート式、チューブラー式、掻き取り式などの間接加熱方式を用いたUHT・HTST・低温殺菌、バッチ式、レトルト、マイクロ波加熱等の加熱滅菌もしくは加熱殺菌処理を施してもよい。
さらにこれを、好ましくはバルブ式ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミルなどの均質化装置により圧力0~100MPaの範囲でさらに均質化してもよい。そして、必要により急速冷却、徐冷却などの冷却操作を施してもよい。また、本発明の水中油型乳化物は、必要により、冷蔵若しくは冷凍状態で保存してもよい。
【0024】
本発明に係る、飲料又は調理加工食品は、ある実施形態において、本発明の水中油型乳化物を含有することにより、得ることができる。該水中油型乳化物は、本発明に係る飲料又は調理加工食品に対し0.5重量%以上含有することが好ましく、上限がより好ましくは60重量%以下、50重量%以下、40重量%以下であり、下限がより好ましくは1重量%以上、1.5重量%以上である。
本発明に係る、飲料又は調理加工食品に、該水中油型乳化物が0.5重量%以上含まれる事により、飲料又は調理加工食品における、加熱工程に由来する異風味の発生を抑制でき、初期の風味を長期間保つ効果が得られる点で好ましい。
なお、飲料又は調理加工食品の製造工程においても、殺菌工程を含むことができる。殺菌工程に特段の制約はなく、例えばレトルト殺菌法、低温長時間殺菌法(LTLT製法)、高温短時間殺菌法(HTST製法)、超高温殺菌法(UHT)、超高温滅菌殺菌法(LL)などを挙げることができる。また加熱装置や加熱方式にも特に制限はなく、例えば直接水蒸気を吹き込むスチームインジェクション式や飲料を水蒸気中に噴射して加熱するスチームインフュージョン式などの直接加熱方式、プレートやチューブなど表面熱交換器を用いる間接加熱方式など公知の方法を採用することができる。
【0025】
本発明に係る、飲料又は調理加工食品は、異なる実施形態において、前記本発明に係る水中油型乳化物用油脂を直接含有することによっても、得ることができる。該油脂は、本発明に係る飲料又は調理加工食品に対し0.2重量%以上含有することが好ましく、上限がより好ましくは30重量%以下、25重量%以下、20重量%以下であり、下限がより好ましくは0.4重量%以上、0.6重量%以上である。
本発明に係る、飲料又は調理加工食品に、該油脂が0.2重量%以上含まれる事により、飲料又は調理加工食品における、加熱工程に由来する異風味の発生を抑制でき、初期の風味を長期間保つ効果が得られる点で好ましい。
ただし、油脂を含む水中油型乳化物を配合する飲料又は調理加工食品の方が、油脂を直接含有する飲料又は調理加工食品に比べ、長期の乳化安定性の観点から、好ましい態様であると言える。
なお、飲料又は調理加工食品の製造工程においても、殺菌工程を含むことができる。殺菌工程に特段の制約はなく、例えばレトルト殺菌法、低温長時間殺菌法(LTLT製法)、高温短時間殺菌法(HTST製法)、超高温殺菌法(UHT)、超高温滅菌殺菌法(LL)などを挙げることができる。また加熱装置や加熱方式にも特に制限はなく、例えば直接水蒸気を吹き込むスチームインジェクション式や飲料を水蒸気中に噴射して加熱するスチームインフュージョン式などの直接加熱方式、プレートやチューブなど表面熱交換器を用いる間接加熱方式など公知の方法を採用することができる。
【0026】
本発明はまた、前記(1)~(4)全ての要件を満たす油脂を用いることによる、水中油型乳化物、飲料、又は調理加工食品の加熱工程に由来する異風味の発生を抑制する方法と捉えることもできる。具体的には、(1)構成脂肪酸組成中の中鎖脂肪酸含量が合計1重量%以下であり、かつ(2)ヨウ素価が100以下であり、かつ(3)構成トリグリセリド中のS2Uトリグリセリドが合計40重量%以下であり、かつ(4)S2Oトリグリセリド含有量に対するSSOトリグリセリド含有量の割合が15重量%以上である油脂を、加熱工程を経て製造される水中油型乳化物、飲料、又は調理加工食品へ配合することにより、水中油型乳化物、飲料、又は調理加工食品の異風味の発生を抑制することができる。
【実施例0027】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明の精神は以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中%及び部、比はいずれも重量基準を意味する。
【0028】
(ヨウ素価の測定方法)
油脂のヨウ素価は、基準油脂分析試験法2.3.4.1-2013により測定した。
(脂肪酸組成の測定方法)
油脂の構成脂肪酸組成は、基準油脂分析試験法2.4.2.1-2013により測定した。
(トリグリセリド組成の測定方法)
油脂のトリグリセリドの含量は、下記に示す高速液体クロマトグラフ分析(1)にて具体的なトリグリセリド組成%である、対称型、非対称型トリグリセリドの和(例えばPOP含量とPPO含量の和すなわちP2O含量)として測定し求めることができる。さらに対称型、非対称型トリグリセリド組成は高速液体クロマトグラフ分析(2)にて測定し(S2Oトリグリセリド含量に対するSSOトリグリセリド含量の割合%)として求めることができる。
高速液体クロマトグラフ分析(1)は、(カラム;ODS、溶離液;アセトン/アセトニトリル=80/20、液量;0.9ml/分、カラム温度;25℃、検出器;示差屈折計)にて実施した。
高速液体クロマトグラフ分析(2)は、J.HighResol.Chromatogr.,18,105-107(1995)ADLOF R O、”Analysis of Triacylglycerol Positional Isomers by Silver Ion High Performance Liquid Chromatography. ”に記載の方法に準じて実施した。
【0029】
(油脂実施例1)
パーム分別低融点部(ヨウ素価56)を原料油脂として、ナトリウムメチラートを触媒として0.2重量%添加し、80℃にて30分ランダムエステル交換を行った後、常法に従い水洗、脱色、脱臭を行った。これを油脂実施例1とした。
【0030】
(油脂実施例2)
原料油脂として、パーム分別低融点部(ヨウ素価56)97重量%、ハイエルシン菜種極度硬化油3重量%からなる配合油脂を用いる以外は、油脂実施例1と同様にして同実施例2を得た。
【0031】
(油脂実施例3)
原料油脂として、パーム分別低融点部(ヨウ素価67)を用いる以外は、油脂実施例1と同様にして同実施例3を得た。
【0032】
(油脂実施例4)
原料油脂として、菜種極度硬化油(ヨウ素価2以下)30重量%、ハイオレインヒマワリ油70重量%からなる配合油脂を用いる以外は、油脂実施例1と同様にして同実施例4を得た。
【0033】
(油脂実施例5)
原料油脂として、菜種極度硬化油(ヨウ素価2以下)40重量%、ハイオレインヒマワリ油60重量%からなる配合油脂を用いる以外は、油脂実施例1と同様にして同実施例5を得た。
【0034】
(油脂実施例6)
原料油脂として、パームステアリン(ヨウ素価31)61重量%、パーム油36重量部、ハイエルシン酸菜種極度硬化油3重量%からなる配合油脂を用いる以外は、油脂実施例1と同様にして同実施例6を得た。
【0035】
(油脂比較例7)
原料油脂として、パーム分別低融点部(ヨウ素価67)24.5重量%、パーム極度硬化油14.5重量%、パーム核分別低融点部(ヨウ素価26)45重量%、ハイオレイックヒマワリ極度硬化油(ヨウ素価2)13重量%、ハイオレイックヒマワリ油3重量%からなる配合油を用いる以外は、油脂実施例1と同様にして同比較例7を得た。
【0036】
(油脂比較例8)
パーム核油を原料油脂として、ニッケル触媒(堺化学製SO-750)を0.1%添加し、高温にて水素添加することでヨウ素価4以下まで硬化を行い、常法に従い脱色、脱臭を行った。これを油脂比較例8とした。
【0037】
(油脂比較例9)
原料油脂として、パーム核油95重量%、パーム油5重量%からなる配合油脂を用いる以外は、油脂比較例8と同様にして同比較例9を得た。
【0038】
(油脂比較例10)
原料油脂として、パーム核分別高融点部(ヨウ素価7)を用いる以外は、油脂比較例8と同様にして同比較例10を得た。
【0039】
その他、ヨウ素価67のパーム分別低融点部(油脂実施例7)、精製シアオレイン(同実施例8)、ヨウ素価45のパーム中融点部(同比較例1)、ヨウ素価56のパーム分別低融点部(同比較例2)、精製パーム油(同比較例3)、精製菜種油(同比較例4)、精製ヤシ油(同比較例5)、精製パーム核油(同比較例6)を用いた。いずれも不二製油株式会社製である。
以上の油脂実施例1~8、同比較例1~10の分析値を表1に示す。但しトリグリセリド組成は代表的なものに限定し記載した。
尚、油脂比較例4は、S2O含量が極めて少ない為、測定精度の観点から、S2Oトリグリセリド含有量に対するSSOトリグリセリド含有量の割合%の分析値を記載していない。
同様に、油脂比較例5~10は、ラウリン酸を一定量以上含有するため生じる測定精度の観点から、各種トリグリセリド含量%、及びS2Oトリグリセリド含有量に対するSSOトリグリセリド含有量の割合%の分析値を記載していない。
【0040】
(表1-1)油脂の分析値
・P2L:パルミチン酸が2分子、リノール酸が1分子結合したトリグリセリド
・StPL:ステアリン酸、パルミチン酸、リノール酸が1分子ずつ結合しているトリグリセリド
・P2O:パルミチン酸が2分子、オレイン酸が1分子結合したトリグリセリド
・St2L:ステアリン酸が2分子、リノール酸が1分子結合したトリグリセリド
・StPO:ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸が1分子ずつ結合しているトリグリセリド
・St2O:ステアリン酸が2分子、オレイン酸が1分子結合したトリグリセリド
・PPP:パルミチン酸が3分子結合したトリグリセリド
・P2St:パルミチン酸が2分子、ステアリン酸が1分子結合したトリグリセリド
・St2P:ステアリン酸が2分子、パルミチン酸が1分子結合したトリグリセリド
・StStSt:ステアリン酸が3分子結合したトリグリセリド
【0041】
【0042】
油脂実施例1~8、同比較例1~10について、以下の指標にて評価した。結果を表2-1及び表2-2に示す。
(1)構成脂肪酸組成中の中鎖脂肪酸含量が合計1重量%以下である 。
(2)ヨウ素価が100以下である。
(3)構成トリグリセリド中のS2Uトリグリセリドが合計40重量%以下である。
(4)S2Oトリグリセリド含有量に対するSSOトリグリセリド含有量の割合が15重量%以上である。
【0043】
【0044】
【0045】
(表2-1及び表2-2の評価)
・油脂実施例1~同実施例8は、指標(1)~(4)全てを満たすものであった。
・油脂比較例1~比較例3は、指標(1)及び(2)を満たすが、指標(3)及び(4)を満たさないものであった。
・油脂比較例4は、指標(1)及び(3)を満たすが、少なくとも指標(2)を満たさないものであった。
・油脂比較例5~比較例10は、指標(2)を満たすが、少なくとも指標(1)を満たさないものであった。
【0046】
(検討1)水中油型乳化物
油脂実施例1~3、同実施例7、同比較例1~2を用い、以下水中油型乳化物の調製手順に従い、水中油型乳化物実施例1~4、同比較例1~2を試作した。
【0047】
(水中油型乳化物の調製手順)
表3の配合に従い各油脂を加温融解し、ここに油溶性成分(レシチン)を加えて混合溶解し油相とした。別途、温水に水溶性成分(脱脂粉乳、カゼインナトリウム、乳化剤1、乳化剤2、pH調整剤)を溶解し水相を調製した。乳化タンクにて油相、水相を調合し、予備乳化、均質化の後、冷却した。
得られた水中油型乳化物実施例1~4、同比較例1~2について、一晩保存後に水で希釈したのち、レトルト殺菌(121℃、30分)を行った。
【0048】
(表3)水中油型乳化物の配合
・乳化剤1にはHLB13~16のグリセリン脂肪酸エステルを使用した。
・乳化剤2にはHLB5~8のショ糖脂肪酸エステルを使用した。
【0049】
官能評価は、日々、クリーム素材の研究開発に従事する熟練したパネラー5名で実施した。「レトルト殺菌により生じた異風味の強度」について、コントロール(水中油型乳化物比較例1)を基準として以下の「検討1の官能評価の評価基準」に従い評価し、合議により判定した。評点3以上となるものを合格とした。
【0050】
(検討1の官能評価の評価基準)
5点:非常に異風味が少ない
4点:かなり異風味が少ない
3点:やや異風味が少ない
2点:コントロールと同等
1点:コントロールよりも異風味が強い
【0051】
【0052】
(検討1評価結果の考察)
上記検討結果に見られる通り、油脂に係る前記指標(1)~(4)全てを満たす油脂実施例を用い調製した水中油型乳化物実施例は、いずれもレトルト殺菌により発生する異風味を抑制することができた。一方で、油脂に係る前記指標(1)~(4)を一つ以上満たさない油脂比較例を用い調製した水中油型乳化物比較例は、レトルト殺菌により異風味が発生した。
【0053】
(検討2)水中油型乳化物を用いた飲料
油脂実施例1~8、同比較例1~10を用い、水中油型乳化物およびそれを用いたカフェラテ飲料を試作した。
以下水中油型乳化物の調製手順に従い、水中油型乳化物実施例5~12、同比較例3~12を試作した。
【0054】
(水中油型乳化物の調製手順)
表5の配合に従った。各油脂を加温融解し油相とした。別途、温水に水溶性成分(脱脂粉乳、砂糖、乳化剤、pH調整剤)を溶解し水相を調製した。乳化タンクにて油相、水相を調合し、予備乳化、均質化の後、超高温滅菌装置により殺菌処理、再度均質化し、冷却した。
【0055】
(表5)水中油型乳化物の配合表
・乳化剤にはHLB5~8のショ糖脂肪酸エステルとHLB11~13のポリグリセリン脂肪酸エステルを使用した。
・pH調整剤にはクエン酸ナトリウムと重曹を使用した。
【0056】
(カフェラテ飲料の調製手順)
表6の配合に従い、まず温水をホモミキサーで攪拌しながら砂糖、脱脂粉乳を加え、ここに先の水中油型乳化物、乳化剤を順次加え、最後にpH調整剤をコーヒーエキスと混ぜ合わせてから加えて混合した。温調しながら十分に調合後、均質化し、缶に充填後レトルト殺菌を行い(121℃、30分)、カフェラテ飲料を調製した。殺菌後は冷蔵にて保管した。
前記水中油型乳化物実施例5~12、同比較例3~12を用い前記方法により調製し、それぞれ飲料実施例1~8、同比較例1~10を得た。
【0057】
(表6)カフェラテ飲料の配合表
・乳化剤には三菱ケミカル株式会社製のリョートーCP-Y040を使用した。
・pH調整剤には重曹を使用した。
【0058】
(検討2の官能評価の方法)
容器詰めしたカフェラテ飲料を用い、60℃8週間までの加温試験に供した。
官能評価は、日々、飲料製品の研究開発に従事する熟練したパネラー5名で実施した。「(A)加熱により生じた異風味の強度、つまり、レトルト殺菌後、1週間程度冷蔵にて落ち着かせたのちに試飲し、感じた異風味(レトルト殺菌直後)と、(B)レトルト殺菌後、60℃で4, 6, 8週加温した際の異風味の強度」について、コントロール(飲料比較例1)を基準として以下の「検討2の官能評価の評価基準」に従い評価し、合議により判定した。(A)、(B)共に評点3以上となるものを合格とした。
【0059】
(検討2の官能評価の評価基準)
5点:非常に異風味が少ない
4点:かなり異風味が少ない
3点:やや異風味が少ない
2点:コントロールと同等
1点:コントロールよりも異風味が強い
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
(検討2評価結果の考察)
上記検討結果に見られる通り、油脂に係る前記指標(1)~(4)全てを満たす油脂実施例を用い調製した水中油型乳化物実施例を配合した飲料実施例は、いずれもレトルト殺菌により発生する異風味を抑制し、また該飲料の初期の風味を長期間保つことができた。一方で、油脂に係る前記指標(1)~(4)を一つ以上満たさない油脂比較例を用い調製した水中油型乳化物比較例を配合した飲料比較例は、レトルト殺菌により異風味が発生したか、或いは該飲料の初期の風味を長期間保つことができなかった。
【0065】
(検討3)水中油型乳化物を用いた調理加工食品
油脂実施例1、同実施例2、同比較例1を用い、水中油型乳化物およびそれを用いて、調理加工食品の一種であるホワイトソースを試作した。
以下水中油型乳化物の調製手順に従い、水中油型乳化物実施例13~17、同比較例13を試作した。
【0066】
(水中油型乳化物の調製手順)
表8の配合に従い各油脂を加温融解し、ここに油溶性成分(乳化剤1)を加えて混合溶解し油相とした。別途、温水に水溶性成分(乳蛋白、乳化剤2、pH調整剤)を溶解し水相を調製した。乳化タンクにて油相、水相を調合し、予備乳化、均質化の後、超高温滅菌装置により殺菌処理、冷却した。
【0067】
(表8)水中油型乳化物の配合表
・乳化剤1にはHLB6~9のグリセリン脂肪酸エステルを使用した。
・乳化剤2にはHLB13~16のショ糖脂肪酸エステルを使用した。
・pH調整剤にはクエン酸ナトリウムを使用した。
【0068】
(調理加工食品の調製手順)
表9に従い、40℃で溶解したベシャメルソースを小麦粉と共に混ぜ合わせ、水中油型乳化物と水を加えて更に混ぜ合わせ、食塩を添加し、鍋でとろみが出るまで加熱し、調理加工食品の一種であるホワイトソース(調理加工食品実施例1~5、同比較例1)を調製した。
その後透明パウチに充填し、レトルト殺菌(121℃、30分)を行った。
【0069】
(表9)
・ベシャメルソースには不二製油株式会社製のベシャメルソースFB(バター45部、小麦粉55部)を使用した。
【0070】
(検討3の官能評価の方法)
レトルト殺菌をかけたホワイトソースをパウチのまま60℃にボイルし、風味評価を行った。
官能評価は、日々、クリーム素材の研究開発に従事する熟練したパネラー5名で実施した。レトルト殺菌に由来する異風味の発生を抑制する効果について、「(A)レトルト殺菌により生じた異風味の強度(レトルト殺菌直後)と、(B)レトルト殺菌後、常温で3,6,10か月保存した際の異風味の強度」について、コントロール(調理加工食品比較例1)を基準として以下の「検討3の官能評価の評価基準」に従い評価し、合議により判定した。(A)、(B)共に評点3以上を合格とした。
【0071】
(検討3の官能評価の評価基準)
5点:非常に異風味が少ない
4点:かなり異風味が少ない
3点:やや異風味が少ない
2点:コントロールと同等
1点:コントロールよりも異風味が強い
【0072】
【0073】
(検討3評価結果の考察)
上記検討結果に見られる通り、油脂に係る前記指標(1)~(4)全てを満たす油脂実施例を用い調製した水中油型乳化物実施例を配合した調理加工食品実施例は、いずれもレトルト殺菌により発生する異風味を抑制し、また該調理加工食品の初期の風味を長期間保つことができた。一方で、油脂に係る前記指標(1)~(4)を一つ以上満たさない油脂比較例を用い調製した水中油型乳化物比較例を配合した調理加工食品比較例は、レトルト殺菌により異風味が発生した。
【0074】
(検討4)水中油型乳化物を用いたPBF飲料
油脂実施例1、同比較例1を用い、水中油型乳化物およびそれを用いた、動物性原料を使用しないプラントベース(PBF)カフェラテ飲料を試作した。
以下水中油型乳化物の調製手順に従い、水中油型乳化物実施例18、同比較例14を試作した。
【0075】
(水中油型乳化物の調製手順)
表11の配合に従った。各油脂を加温融解し油相とした。別途、温水に水溶性成分(オーツ麦糖化液、砂糖、乳化剤、pH調整剤)を溶解し水相を調製した。乳化タンクにて油相、水相を調合し、予備乳化、均質化の後、超高温滅菌装置により殺菌処理、再度均質化し、冷却した。
【0076】
(表11)水中油型乳化物の配合表
・乳化剤にはHLB5~8のショ糖脂肪酸エステルとHLB11~13のポリグリセリン脂肪酸エステルを使用した。
・pH調整剤にはクエン酸ナトリウムと重曹を使用した。
【0077】
(PBFカフェラテ飲料の調製手順)
表12の配合に従い、まず温水をホモミキサーで攪拌しながら砂糖を加え、ここに先の水中油型乳化物、乳化剤を順次加え、最後にpH調整剤をコーヒーエキスと混ぜ合わせてから加えて混合した。温調しながら十分に調合後、均質化し、缶に充填後レトルト殺菌を行い(121℃、30分)、カフェラテ飲料を調製した。殺菌後は冷蔵にて保管した。
前記水中油型乳化物実施例18、同比較例14を用い前記方法により調製し、それぞれ飲料実施例9、同比較例11を得た。
【0078】
(表12)水中油型乳化物の配合表
・乳化剤には三菱ケミカル株式会社製のリョートーCP-Y040を使用した。
・pH調整剤には重曹を使用した。
【0079】
飲料比較例11をコントロールとして、検討2と同様の基準で官能評価を行った。
【0080】
【0081】
上記検討結果に見られる通り、動物性原料を使用しないプラントベース(PBF)の飲料実施例9においても、検討2と同様の結果を得ることができた。
【0082】
(検討5)水中油型乳化物を用いたPBFホワイトソース
油脂実施例2、同比較例1を用い、水中油型乳化物およびそれを用いた、調理加工食品の一種である、動物性原料を使用しないプラントベース(PBF)ホワイトソースを試作した。
以下水中油型乳化物の調製手順に従い、水中油型乳化物実施例19、同比較例15を試作した。
【0083】
(水中油型乳化物の調製手順)
表14の配合に従い各油脂を加温融解し、ここに油溶性成分(乳化剤1)を加えて混合溶解し油相とした。別途、温水に水溶性成分(オーツ麦糖化液、乳化剤2、pH調整剤)を溶解し水相を調製した。乳化タンクにて油相、水相を調合し、予備乳化、均質化の後、超高温滅菌装置により殺菌処理、再度均質化し、冷却した。
【0084】
(表14)水中油型乳化物の配合表
・乳化剤1にはHLB6~9のグリセリン脂肪酸エステルを使用した。
・乳化剤2にはHLB13~16のショ糖脂肪酸エステルを使用した。
・pH調整剤にはクエン酸ナトリウムを使用した。
【0085】
試作した水中油型乳化物は、検討3と同様に調理加工食品を調製した(調理加工食品実施例6、同比較例2)。ただしベシャメルソースは、不二製油株式会社製のベシャメルソースVG(小麦粉70部、植物油脂30部)を使用した。
その後、検討3と同様にレトルト殺菌後のホワイトソースを準備し、調理加工食品比較例2をコントロールとして、検討3と同様の基準で官能評価を行った。
【0086】
【0087】
(検討5評価結果の考察)
上記検討結果に見られる通り、動物性原料を使用しないプラントベース(PBF)のホワイトソース(調理加工食品実施例6)においても、検討3と同様の結果を得ることができた。
【0088】
(検討6)水中油型乳化物ではなく油脂を用いることにより飲料を調製
油脂実施例1~2、同比較例1を用い、水中油型乳化物を用いず油脂を直接添加することによりカフェラテ飲料を試作した。飲料実施例10~11、同比較例12とした。
【0089】
(飲料の調製手順)
表16の配合に従い、温水をホモミキサーで攪拌しながら砂糖、脱脂粉乳を加え、ここに加温融解した油脂(油脂実施例1~2、同比較例1)、乳化剤を順次加え、最後にpH調整剤をコーヒーエキスと混ぜ合わせてから加えて混合した。温調しながら十分に調合後、均質化し、缶に充填後レトルト殺菌を行い(121℃、30分間)、カフェラテ飲料を調製した。殺菌後は冷蔵にて保管した。
【0090】
(表16)飲料の配合表
・乳化剤には三菱ケミカル株式会社製のリョートーCP-Y040を使用した。
・pH調整剤には重曹を使用した。
【0091】
試作した飲料は、検討2と同様の基準で官能評価を行った。
【0092】
【0093】
(検討6評価結果の考察)
上記検討結果に見られる通り、油脂に係る前記指標(1)~(4)全てを満たす油脂実施例を用い、その油脂実施例を含む水中油型乳化物を配合することなく調製した飲料実施例は、その油脂実施例を含む水中油型乳化物を配合し飲料を調製した場合(検討2)と同様、レトルト殺菌により発生する異風味を抑制し、飲料の初期の風味を長期間保つことができた。
本発明により、水中油型乳化物、飲料、又は調理加工食品において、特定の油脂を配合することにより、加熱工程に由来する異風味の発生を抑制することができる。特に飲料又は調理加工食品において、初期の風味を長期間保つことができる。