(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142855
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】エレクトロガスアーク溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/173 20060101AFI20241003BHJP
B23K 37/06 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B23K9/173 B
B23K37/06 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055217
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】302040135
【氏名又は名称】日鉄溶接工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】笹木 聖人
(72)【発明者】
【氏名】宮田 幹人
(72)【発明者】
【氏名】兼島 裕紀
(72)【発明者】
【氏名】吉本 宏
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB10
4E001CA01
4E001DA03
4E001DD04
4E001DF02
(57)【要約】
【課題】溶接作業者の作業性の向上が図られたエレクトロガスアーク溶接方法を提供する。
【解決手段】 エレクトロガスアーク溶接方法は、水冷摺動銅当金4を一対の鋼板1の第1開先部21の少なくとも一部を覆うように当該第1表面f1に設置し、ルート間隔L5よりも大きい幅L6を有するセラミックス製の裏当棒材3を、第2開先部22に開口底部220を覆うようにその凸曲面を当接させて設置したうえで、水冷摺動銅当金4と裏当棒材3との間に溶接ワイヤ6を供給して第1溶接部を形成する第1溶接部形成工程と、裏当棒材3を第2開先部22から取り外し、水冷摺動銅当金4を第1表面f1から取り外して第2開先部22の少なくとも一部を覆うように第2表面f2に設置したうえで、水冷摺動銅当金4と第1溶接部との間に溶接ワイヤ6を供給して第2溶接部を形成する第2溶接部形成工程と、を有することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の鋼板の両表面から深さ方向に向かって幅が漸減して開口底部を介して連続する2つの対向した開先部からなる突合せ継手に溶接するエレクトロガスアーク溶接方法において、
溶接する方向に摺動する水冷摺動銅当金を一対の鋼板の第1表面に設けられた第1開先部の少なくとも一部を覆うように当該第1表面に設置し、前記一対の鋼板のルート間隔よりも大きい幅を有するセラミックス製の裏当棒材を、前記第1表面とは反対の第2表面に設けられて前記第1開先部と連続する第2開先部に開口底部を覆うようにその凸曲面を当接させて設置したうえで、前記水冷摺動銅当金と前記裏当棒材との間に溶接ワイヤを供給して第1溶接部を形成する第1溶接部形成工程と、
前記第1溶接部形成工程の後、前記裏当棒材を前記第2開先部から取り外し、前記水冷摺動銅当金を前記第1表面から取り外して前記第2開先部の少なくとも一部を覆うように前記第2表面に設置したうえで、前記水冷摺動銅当金と前記第1溶接部との間に溶接ワイヤを供給して第2溶接部を形成する第2溶接部形成工程と、
を有すること
を特徴とするエレクトロガスアーク溶接方法。
【請求項2】
前記裏当棒材は、断面視において円形であること
を特徴とする請求項1に記載のエレクトロガスアーク溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の鋼板の突合せ継手の両表面から1パスずつ溶接するエレクトロガスアーク溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロガスアーク溶接法は、高能率な自動溶接法であり、造船業、エネルギー産業、建設業等の大型構造物の溶接施工に広く採用されている。
【0003】
特許文献1には、一対の鋼板の突合せ継手に対して、一方の表面に凸型の銅当金を当て、他方の表面に開先内に密着挿入可能な銅当金を裏当した状態で板厚中心部分を溶接し、その後、両表面の開先を溶接する溶接方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された溶接方法によれば、一方側の開先の溶接に際して他方側の開先に密着挿入可能な形状をなす裏当用銅当金を用いる。ここで、銅製の当金は、非金属製の当金と比べて重く、裏当材として開先部に対して容易に取り付けることができない。また、密着挿入可能とするためには突合せ継手と裏当用銅当金の形状を合わせる必要があるため、突合せ継手の形状が異なる場合に裏当用銅当金を繰り返し使うことができない。このため、特許文献1に開示された溶接方法は、溶接作業者の作業性を向上できない問題がある。
【0006】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、溶接作業者の作業性の向上が図られたエレクトロガスアーク溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明におけるエレクトロガスアーク溶接方法は、一対の鋼板の両表面から深さ方向に向かって幅が漸減して開口底部を介して連続する2つの対向した開先部からなる突合せ継手に溶接するエレクトロガスアーク溶接方法において、溶接する方向に摺動する水冷摺動銅当金を一対の鋼板の第1表面に設けられた第1開先部の少なくとも一部を覆うように当該第1表面に設置し、前記一対の鋼板のルート間隔よりも大きい幅を有するセラミックス製の裏当棒材を、前記第1表面とは反対の第2表面に設けられて前記第1開先部と連続する第2開先部に開口底部を覆うようにその凸曲面を当接させて設置したうえで、前記水冷摺動銅当金と前記裏当棒材との間に溶接ワイヤを供給して第1溶接部を形成する第1溶接部形成工程と、前記第1溶接部形成工程の後、前記裏当棒材を前記第2開先部から取り外し、前記水冷摺動銅当金を前記第1表面から取り外して前記第2開先部の少なくとも一部を覆うように前記第2表面に設置したうえで、前記水冷摺動銅当金と前記第1溶接部との間に溶接ワイヤを供給して第2溶接部を形成する第2溶接部形成工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
第2発明におけるエレクトロガスアーク溶接方法は、第1発明において、前記裏当棒材は、断面視において円形であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1発明~第2発明によれば、水冷摺動銅当金を第1開先部の少なくとも一部を覆うように第1表面に設置し、一対の鋼板のルート間隔よりも大きい幅を有するセラミックス製の裏当棒材を、第2開先部に開口底部を覆うように凸曲面を当接させて設置したうえで、水冷摺動銅当金と裏当棒材との間に溶接ワイヤを供給して第1溶接部を形成する第1溶接部形成工程を有する。すなわち、銅製裏当金よりも軽量なセラミックス製の裏当棒材を用いる。このため、裏当棒材を第2開先部に容易に取り付けることができる。また、裏当棒材を第2開先部に凸曲面を当接させて設置するため、裏当棒材を容易に取り付けることができる。これにより、溶接作業者の作業性の向上を図ることができる。
【0010】
特に、第2発明によれば、裏当棒材は、断面視において円形である。このため、開先部の形状によらず開口底部を覆うように裏当棒材を第2開先部にさらに容易に取り付けることができる。これにより、溶接作業者の作業性のさらなる向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本実施形態のエレクトロガスアーク溶接方法のうち一方表面を溶接する際の被溶接材及び溶接機の一例を示す模式側面図である。
【
図2】
図2は、
図1のA-A断面の一例を示す模式断面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態のエレクトロガスアーク溶接方法のうち他方表面を溶接する際の被溶接材及び溶接機の一例を示す模式側面図である。
【
図4】
図4は、
図3のB-B断面の一例を示す模式断面図である。
【
図5】
図5は、本実施形態のエレクトロガスアーク溶接方法に用いる水冷摺動銅当金の変形例を示す模式図であり、
図5(a)が正面図、
図5(b)が側面図、
図5(c)が平面図である。
【
図6】
図6は、
図5(a)の断面を示す模式断面図であり、
図6(a)がC-C断面、
図6(b)がD-D断面、
図6(c)がE-E断面、である。
【
図7】
図7は、
図1のA-A断面の変形例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態としてのエレクトロガスアーク溶接方法の一例について、図面を参照しながら詳細に説明をする。なお、各図において、第1方向Xとし、第1方向Xと直交する1つの方向を第2方向Yとし、第1方向X及び第2方向Yのそれぞれと直交する方向を第3方向Zとする。各図における構成は、説明のため模式的に記載されており、例えば各構成の大きさや、構成毎における大きさの対比等については、図とは異なってもよい。
【0013】
(エレクトロガスアーク溶接方法)
図1~
図4を参照して、本実施形態におけるエレクトロガスアーク溶接方法の一例を説明する。本実施形態におけるエレクトロガスアーク溶接方法は、例えば
図1に示すように、一対の鋼板1の両表面f1、f2から深さ方向に向かって幅が漸減し開口底部210、220を介して連続する2つの対向した各開先部21、22からなる開先部2を突合せ継手として、両面を1パスずつ、2層に分けて溶接する溶接方法である。ここで、両表面f1、f2とは、
図1に示す第1表面f1と、第1表面f1とは反対の第2表面f2とを指す。また、一対の鋼板1が第1方向Xと第2方向Yとを含む平面方向に沿って配置されるとき、深さ方向は第3方向Zに沿って一対の鋼板1の両表面f1、f2から中心に向かう方向を指す。
【0014】
エレクトロガスアーク溶接方法は、一対の鋼板1が有する開先部2を溶接機材で溶接する。ここで、溶接機材は、裏当棒材3と、水冷摺動銅当金4と、溶接トーチ5と、溶接ワイヤ6と、を含む。
【0015】
<一対の鋼板1>
一対の鋼板1は、例えば第1方向Xと第2方向Yとを含む平面方向に沿って、所定のルート間隔となるように互いに離間して配置される。一対の鋼板1は、開先部2が設けられる。一対の鋼板1は、開先部2を突合せ継手として溶接される。
【0016】
一対の鋼板1の寸法としては、例えば第3方向Zに沿った幅L1が80mm~100mmである。
【0017】
<開先部2>
開先部2は、例えば第1表面f1に設けられた第1開先部21と、第1表面f1とは反対の第2表面f2に設けられた第2開先部22と、からなる。第1開先部21は、第2開先部22と対向する。各開先部21、22は、底部において開口した開口底部210、220を有する。第1開先部21の開口底部210は、第2開先部22の開口底部220と連続する。すなわち、第1開先部21は、各開口底部210、220を介して第2開先部22と連続する。開先部2は各開口底部210、220を繋ぐルートフェイス23が設けられてもよい。
【0018】
開先部2の寸法としては、例えばL1が100mmのとき、第3方向Zに沿った第1開先部21の深さL2が約49mm、第3方向Zに沿った第2開先部22の深さL3が約49mm、第3方向Zに沿ったルートフェイス23の幅L4が約2mm、第2方向Yに沿ったルート間隔の幅L5が約8mmである。また、開先角度としては、例えば第1開先部21の開先角度が約20°、第2開先部22の開先角度が第1開先部21と同様に約20°である。第2開先部22の開先角度は、第1開先部21の開先角度と異なってもよい。
【0019】
次に、溶接機材として用いる裏当棒材3、水冷摺動銅当金4、溶接トーチ5について説明する。
【0020】
<裏当棒材3>
裏当棒材3は、エレクトロガスアーク溶接方法に用いられる裏当材である。裏当棒材3は、一部に凸曲面を有する棒状の形状である。裏当棒材3は、第1開先部21を溶接する際に、開口底部220を覆うように第2開先部22に凸曲面が当接されて設置される。この場合、裏当棒材3を開先部2と異なる形状の開先部に容易に取り付けることができる。これにより、溶接作業者の作業性の向上を図ることができる。
【0021】
裏当棒材3は、例えば断面視において円形でもよい。この場合、開先部2の形状によらず開口底部220を覆うように裏当棒材3を第2開先部22にさらに容易に取り付けることができる。これにより、溶接作業者の作業性のさらなる向上を図ることができる。
【0022】
裏当棒材3の幅L6は、ルート間隔の幅L5よりも大きく、例えば9~12mmである。この裏当棒材3を用いることで、第2開先部22の開口底部220を覆うように、第2開先部22に当接させることができる。
【0023】
裏当棒材3の長さは、例えば30~40mmである。裏当棒材3は、例えば
図2に示すように、溶接方向F1に沿って複数連続して取り付けられてもよい。
【0024】
裏当棒材3の材質としては、セラミックス製である。裏当棒材3の成分組成は特に限定されないが、例えばアルミナ、二酸化ケイ素、酸化マグネシウムを主成分とするコージライト等がある。コージライトは、一般的なアルミナと比べて熱膨張率が低く耐熱衝撃性や機械的強度に優れ、さらに金属と比較して軽量である。
【0025】
<水冷摺動銅当金4>
水冷摺動銅当金4は、エレクトロガスアーク溶接方法に用いられる銅製の当金である。水冷摺動銅当金4は、例えば
図1に示すように、開先部2の少なくとも一部を覆うように両表面f1、f2に設置される。水冷摺動銅当金4は、例えば図示しない溶接台車に搭載されており、開先部2の溶接の進行に伴い両表面f1、f2に沿って摺動する。
【0026】
水冷摺動銅当金4は、当金ブロック41と、シールドガスフード42と、を含む。当金ブロック41のうち両表面f1、f2に設置する面には、各設置面41a、41bと、各設置面41a、41bの間に設けられる凹曲面の溝43と、を有する。水冷摺動銅当金4は、両表面f1、f2に設置される際、設置面41a、41bが両表面f1、f2に接触し、当金ブロック41のうち溝43が開先部2の少なくとも一部を覆う。
【0027】
当金ブロック41は、例えば内部に冷水管411が挿通されている。当金ブロック41は、冷水管411内を冷水が流動することにより、溝43の近傍が冷却される。
【0028】
シールドガスフード42は、例えば内部にガス管421が挿通されている。シールドガスフード42は、開先部2に向かって炭酸ガス等のシールドガスを吹き込むことで、開先部2のうち水冷摺動銅当金4で覆われた領域を大気から遮断する。
【0029】
<溶接トーチ5>
溶接トーチ5は、開先部2のうち水冷摺動銅当金4で覆われた領域に溶接ワイヤ6を供給する。溶接トーチ5は、例えば図示しない溶接台車に搭載されており、開先部2の溶接の進行に伴い両表面f1、f2に沿って摺動する。
【0030】
<溶接ワイヤ6>
溶接ワイヤ6は、開先部2のうち水冷摺動銅当金4で覆われた領域に供給され、開先部2内でアークを発生させながら溶融し、溶融メタルを形成する。開先部2内を満たした溶融メタルは、水冷摺動銅当金4により冷却されて凝固し、溶接ビードを形成する。
【0031】
溶接ワイヤ6の材質としては、例えば「JIS Z 3319:1999/AMENDMENT 1:2007」に記載のエレクトロガスアーク溶接用フラックス入りワイヤ、又はエレクトロガスアーク溶接用の公知のソリッドワイヤ等が用いられる。
【0032】
次に、エレクトロガスアーク溶接方法の手順について説明する。エレクトロガスアーク溶接方法は、第1溶接部形成工程と、第2溶接部形成工程と、を有する。エレクトロガスアーク溶接方法では、第1溶接部形成工程の後に、第2溶接部形成工程を実施する。なお、本実施形態では作業者が各種工程を実施する方法を説明するが、少なくとも一部の工程について、各種溶接機に外部接続される制御機器を介して実施してもよい。
【0033】
<第1溶接部形成工程>
第1溶接部形成工程において、作業者は、例えば
図2に示すように、水冷摺動銅当金4を、第1開先部21の少なくとも一部を覆うように第1表面f1に設置するとともに、裏当棒材3を、第2開先部22に開口底部220を覆うように凸曲面を当接させて設置する。その後、作業者は、水冷摺動銅当金4を溶接方向F1に摺動させながら、水冷摺動銅当金4と裏当棒材3との間の第1空間Q1にシールドガスを吹き込みながら溶接ワイヤ6を供給して溶接ビードである第1溶接部81を形成する。詳しくは、溶接ワイヤ6と溶融池71との間に発生する図示しないアークの熱により供給された溶接ワイヤ6が溶融し、水冷摺動銅当金4で冷却されて第1溶接部81となる。また、裏当棒材3は、例えば鋼製の金属板31に支持されることにより、第2開先部22の開口底部220近傍において脱着自在に取り付けられる。金属板31は、例えば一対の鋼板1の第2表面f2に仮留めとして溶接された1以上の鋼製の拘束板33に支持される。作業者は、例えば金属板31と拘束板33の間に鋼製のくさび32を打ち込むことで、裏当棒材3を金属板31により強固に支持させてもよい。なお、拘束板33に衝撃を与えることで仮留めした溶接部を容易に破壊できるため、作業者は、例えば第1溶接部81を形成した後に拘束板33をハンマー等で打つことで、拘束板33を第2表面f2から容易に撤去することができる。
【0034】
この場合、銅製裏当金よりも軽量な裏当棒材3を、第2開先部22に容易に取り付けることができる。これにより、溶接作業者の作業性の向上を図ることができる。また、裏当棒材3は、溶接ワイヤ6よりも融点が高いセラミックス製であるため、溶融池71によって一部溶融する。その後、溶融した裏当棒材3の一部は、開先内に形成される溶融池71上に生成される溶融スラグ91の一部となる。
【0035】
溶融池71上には溶融スラグ91が生成される。溶融スラグ91は、形成される第1溶接部81と水冷摺動銅当金4の溝43との間から適宜排出される(溶融スラグ910)。排出された溶融スラグ910は、第1溶接部81の表面を覆いながら溝43で第1溶接部81の外観を良好にする。また、溶融スラグ910の融点は第1溶接部81の融点より低いので、溶接方向F1への移動に伴い、溝43の途中で凝固して凝固スラグ911となる。凝固スラグ911は、第1溶接部81の形成後に、第1溶接部81の表面から取り除かれる。
【0036】
<第2溶接部形成工程>
第1溶接部形成工程の後、第2溶接部形成工程において、作業者は、例えば
図3に示すように、裏当棒材3を第2開先部22から取り外す。また、作業者は、水冷摺動銅当金4を第1表面f1から取り外して、第2開先部22の少なくとも一部を覆うように前記第2表面に設置する。
【0037】
その後、作業者は、例えば
図4に示すように、水冷摺動銅当金4を溶接方向F1に摺動させながら、水冷摺動銅当金4と第1溶接部81との間の第2空間Q2に溶接ワイヤ6を供給して溶接ビードである第2溶接部82を形成する。詳しくは、溶接ワイヤ6と溶融池72との間でアークを発生させながら溶接ワイヤ6を溶融し、溶融メタルを形成する。
【0038】
溶融池72上には溶融スラグ92が生成される。溶融スラグ92は、形成される第2溶接部82と水冷摺動銅当金4の溝43との間から適宜排出される(溶融スラグ920)。溶融スラグ920は、第2溶接部82の表面を覆いながら溝43で第2溶接部82の外観を良好にする。また、溶融スラグ920の融点は第2溶接部82の融点より低いので、溶接方向F1への移動に伴い、溝43の途中で凝固して凝固スラグ921となる。凝固スラグ921は、第2溶接部82の形成後に、第2溶接部82の表面から取り除かれる。
【0039】
上述の工程を実施して、エレクトロガスアーク溶接方法が完了する。なお、第1溶接部形成工程の溶接方向は第2溶接部形成工程の溶接方向と異なってもよい。また、第1開先部21を上方、第2開先部22を下方として第1溶接部形成工程を実施した場合、第2開先部22が上方となるように一対の鋼板1を回転させてから第2溶接部形成工程を実施してもよい。
【0040】
また、本実施形態では、一の溶接トーチ5及び一の溶接ワイヤ6を用いる1電極の溶接法について説明したが、2以上の溶接トーチ5及び2以上の溶接ワイヤ6を用いるいわゆる2電極以上の溶接法を適用してもよい。このとき、溶接ワイヤ6としては、2以上のエレクトロガスアーク溶接用フラックス入りワイヤを用いてもよく、2以上のエレクトロガスアーク溶接用ソリッドワイヤを用いてもよく、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0041】
(エレクトロガスアーク溶接方法の変形例)
図5~
図7を参照して、本実施形態におけるエレクトロガスアーク溶接方法の変形例を説明する。本変形例のエレクトロガスアーク溶接方法は、
図5に示す形状の水冷摺動銅当金4を用いる。
【0042】
図5(a)は、水冷摺動銅当金4のうち一対の鋼板1の両表面f1、f2に対向する面を、
図5(b)は、
図5(a)に示す水冷摺動銅当金4の右側面を、
図5(c)は、
図5(a)に示す水冷摺動銅当金4の上面を、それぞれ示す。水冷摺動銅当金4が有する溝43は、溶接部8を形成するための、両表面f1、f2に平行な第1の溝431と、各溶融スラグ910、920を排出するための第2の溝432と、からなる。第2の溝432の一方端部は、第1の溝431の一方端部に連続している。
【0043】
また、
図6(a)~
図6(c)は、水冷摺動銅当金4の基体である当金ブロック41の断面を示している。詳しくは、
図6(a)は、
図5(a)に示す水冷摺動銅当金4のC-C断面を、
図6(b)は、
図5(a)に示す水冷摺動銅当金4のD-D断面を、
図6(c)は、
図5(a)に示す水冷摺動銅当金4のE-E断面を、それぞれ示す。
【0044】
D-D断面における第2の溝432の幅W2及び深さD2は、C-C断面における第1の溝431の幅W1及び深さD1よりも大きい。また、E-E断面における第2の溝432の幅W3及び深さD3は、D-D断面における第2の溝432の幅W2及び深さD2よりも大きい。すなわち、第2の溝432は、第1の溝431に連続する一方端部から他方端部に向かうにつれて、溝幅が連続的に大きくかつ深くなっている。具体的には、第2の溝432の溝幅は、例えば
図5(a)に示す平面視において、第1の溝431の溝幅に対してθ1だけ傾斜して、連続的に大きくなっている。また、第2の溝432の溝幅は、例えば
図5(b)に示す側面視において、第1の溝431の溝幅に対してθ2だけ傾斜して、連続的に深くなっている。
【0045】
この水冷摺動銅当金4を用いることで、例えば
図7に示すように、溶融池71上の溶融スラグ91は、形成される第1溶接部81と水冷摺動銅当金4の溝43との間からよりスムーズに排出される(溶融スラグ910a)。この場合、溶融池71上の溶融スラグ91を適量に保ちやすく、スラグ跳ねが軽減されるため、長時間の溶接が可能となる。排出された溶融スラグ910aは、溶接方向F1への移動に伴い、溝43の途中で凝固して凝固スラグ911aとなる。
【0046】
なお、第2の溝432の溝幅の大きさが第1の溝431と同様に並行で、深さだけ連続的に深くなる場合、一対の鋼板1の幅L1の厚さによっては、溶融池71上の溶融スラグ91が多くなり、溶融スラグ91の排出が十分にできず、スラグ跳ねが起きるおそれがある。また、溶融スラグ91の排出性を良くするために傾斜角度θ2を過大に設定すると、溶融池71から溶融メタルが流出し、溶接が中断するおそれがある。
【0047】
このため、本発明の水冷摺動銅当金4は、第2の溝432が第1の溝431に対して、幅方向にθ1=5~30°だけ傾斜して連続的に大きくなり、深さ方向にθ2=2~10°だけ傾斜して連続的に深くなることが好ましい。この場合、溶融池71から溶融メタルが排出されることなく、溶融池71上の溶融スラグ91のみがスムーズに排出されてスラグ跳ねが起こらない。これにより、長時間の溶接が可能となり、溶接作業者の作業性のさらなる向上を図ることができる。
【0048】
本実施形態によれば、水冷摺動銅当金4を第1開先部21の少なくとも一部を覆うように第1表面f1に設置し、一対の鋼板1のルート間隔L5よりも大きい幅L6を有するセラミックス製の裏当棒材3を、第2開先部22に開口底部220を覆うように凸曲面を当接させて設置したうえで、水冷摺動銅当金4と裏当棒材3との間に溶接ワイヤ6を供給して第1溶接部81を形成する第1溶接部形成工程を有する。すなわち、銅製裏当金よりも軽量なセラミックス製の裏当棒材3を用いる。このため、裏当棒材3を第2開先部22に容易に取り付けることができる。また、裏当棒材3を第2開先部22に凸曲面を当接させて設置するため、開先部2と異なる形状の開先部に容易に取り付けることができる。これにより、溶接作業者の作業性の向上を図ることができる。
【0049】
また、本実施形態によれば、裏当棒材3は、断面視において円形である。このため、開先部2の形状によらず開口底部220を覆うように裏当棒材3を第2開先部22にさらに容易に取り付けることができる。これにより、溶接作業者の作業性のさらなる向上を図ることができる。
【0050】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0051】
1 一対の鋼板
1a、1b 鋼板
2 開先部
21 第1開先部
210 (第1開先部の)開口底部
22 第2開先部
220 (第2開先部の)開口底部
23 ルートフェイス
3 裏当棒材
31 金属板
32 くさび
33 拘束板
4 水冷摺動銅当金
41 当金ブロック
41a、41b 設置面
411 冷水管
42 シールドガスフード
421 ガス管
43 溝
431 第1の溝
432 第2の溝
5 溶接トーチ
6 溶接ワイヤ
7、71、72 溶融池
8 溶接部
81 第1溶接部
82 第2溶接部
9、91、92 溶融スラグ
f1 第1表面
f2 第2表面
F1 溶接方向
Q1 第1空間
Q2 第2空間