(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142866
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】発熱装置
(51)【国際特許分類】
G21B 3/00 20060101AFI20241003BHJP
G21G 7/00 20090101ALI20241003BHJP
F24V 30/00 20180101ALI20241003BHJP
【FI】
G21B3/00 B
G21G7/00
F24V30/00 302
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055230
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】515023800
【氏名又は名称】テクノゲートウェイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141106
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 清志
(72)【発明者】
【氏名】児玉 紀行
(57)【要約】
【課題】効率的な発熱を実現することができる。
【解決手段】チャンバー2内(反応槽内)に設けられ、重水素を用いて発熱させる発熱基板3と、発熱基板3に対向して設けられた支持基板であるセラミック基板5と、セラミックス基板5側から重水素を含む気体または液体を供給する水素供給部2aと、発熱基板3から発生する熱を冷却して回収する熱回収部と、チャンバー2内(反応槽内)の圧力を所定圧力以上となるように制御する制御部12と、を備えている。これにより、発熱時に燃料が重水素では、ヘリウム4が発生し、重水素と、水素を混ぜてるとヘリウム3と、ヘリウム4が生成される。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応槽内に設けられ、重水素を用いて発熱させる発熱基板と、
前記発熱基板に対向して設けられた支持基板と、
前記支持基板側から重水素を含む気体または液体を供給する水素供給部と、
前記発熱基板から発生する熱を冷却して回収する熱回収部と、
前記発熱基板における重水素の濃度を高くするために前記反応槽内の圧力を所定圧力以上となるように制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする発熱装置。
【請求項2】
前記水素供給部は、前記発熱基板側および前記支持基板側のうち少なくとも一方から、水素を含む気体を供給する
ことを特徴とする請求項1記載の発熱装置。
【請求項3】
前記発熱基板は、多結晶金属で形成され、重水素を用いて発熱させる第1金属層を有する
ことを特徴とする請求項1記載の発熱装置。
【請求項4】
前記第1金属層は、厚さ方向に柱形状に形成された面心立方格子の構造を有する
ことを特徴とする請求項3記載の発熱装置。
【請求項5】
前記発熱基板は、前記第1金属層と、前記第1金属層の厚さ方向における両側から挟み込む前記第1金属より水素脆化耐性が高い第2金属層とを有する
ことを特徴とする請求項3記載の発熱装置。
【請求項6】
前記発熱基板が重水素を用いて発熱した際に生成されるヘリウムを前記反応槽から取り出すヘリウム回収部を、
さらに備えたことを特徴とする請求項1記載の発熱装置。
【請求項7】
反応槽内に設けられ、重水素を用いて発熱させる発熱基板と、
前記発熱基板に対向して設けられた支持基板と、
前記支持基板側から重水素を含む気体または液体を供給する水素供給部と、
前記発熱基板から発生する熱を冷却して回収する熱回収部と、
を備えたことを特徴とする発熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱装置に関し、特に、効率的な発熱を実現する発熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パラジウム合金及びニッケル合金に、水素を供給することにより核融合反応により発熱する原理が注目されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、水素系ガス導入路から容器内部に水素系ガスを導入し、発熱体に水素を吸蔵させた後、ヒータにより発熱体を加熱するとともに、真空引きする発熱装置に関する技術が開示されている。
この発熱装置では、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金からなり、かつ厚さが1000nm未満でなる層状の第1層と、第1層とは異種の水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、またはセラミックスからなり、かつ厚さが1000nm未満でなる層状の第2層とを有する多層膜を備えた構成であり、第1層および第2層間の異種物質界面を、水素が量子拡散により透過することで、過剰熱を発生させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の発熱装置では、発熱体へ供給する水素系ガスの量が不足し、反応する発熱体数が少なくなるので効率的に発熱させることが困難であった。
ヘリウム3は量子コンピューターの冷却に必須だが、ヘリウム3は核兵器の製造時にできる副生成物なので、核兵器を製造しなくなると入手できなくなり、今後供給不足が懸念されている。
【0006】
アメリカなど宇宙技術が進歩している諸国は、月面基地で、ヘリウム3を製造して地球へ搬送する計画が進行であるが、これは、重水素ーヘリウム3核融合開発を目的としていると考えられる。小型の核融合炉は宇宙船の動力源となる可能性が高いからこの核融合炉が開発されているという側面もある。アメリカ以外の諸国でこの核融合炉を開発するためにはヘリウム3の地上での生産が必須である。宇宙船用途では、ヘリウム3は宇宙のいたるところに存在する、特に太陽には多量に存在するので、宇宙船の動力源としては最適である。
【0007】
また、ITERプロジェクトで、現在開発が進められている核融合炉では、その反応で中性子が生成されるので、炉内壁面が放射化して取り扱いが困難という重大な課題があり、この点を解決するためには、重水素ーヘリウム3核融合装置が適していると考えられているし、実際にアメリカではごく小規模のこの反応の実証炉で性能が出ている。
【0008】
核融合技術研究所でKulcinski氏の研究チームは、バスケットボール大の核融合装置内でヘリウム3による小規模な核融合反応を起こす実験を行なっている。この核融合装置は、1ミリワットの電力を継続的に生み出せる。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、効率的な発熱を実現し、効率的なヘリウム生産をすることができる発熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を解決するため、本発明に係る発熱装置の第1の特徴は、
反応槽内に設けられ、重水素を用いて発熱させる発熱基板と、
前記発熱基板に対向して設けられた支持基板と、
前記支持基板側から重水素を含む気体または液体を供給する水素供給部と、
前記発熱基板から発生する熱を冷却して回収する熱回収部と、
前記発熱基板における重水素の濃度を高くするために前記反応槽内の圧力を所定圧力以上となるように制御する制御手段と、
を備えたことにある。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る発熱装置によれば、効率よく重水素を反応体に蓄積させ、効率的な発熱を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】水素、水素イオンおよび水素分子のサイズを模式的に示す図である。
【
図2】クーロンポテンシャル(クーロンエネルギー)を示した図である。
【
図3】本発明者が提案する常温核融合の原理について説明した説明図である。
【
図4】金属格子内のTサイトを模式的に説明した説明図である。
【
図7】本発明の実施形態における連続的な核融合を説明した図である。(a)は、核融合反応前の状態を示し、(b)は、核融合反応時の状態を模式的に説明した説明図である。
【
図8】従来技術と本発明の実施形態とを比較して説明した説明図である。(a)は、従来技術における重水素正イオンD+の状態を示した図であり、(b)は、本発明の実施形態における重水素正イオンD+の状態を示した図である。
【
図9】本発明の実施例1に係る発熱装置の装置概念図である。
【
図10】本発明の実施例1に係る発熱装置の装置構成図である。
【
図11】本発明の実施例1に係る発熱装置における運転条件を示した図である。
【
図12】本発明の実施例2に係る発熱装置の全体概要図である。
【
図13】本発明の実施例2に係る発熱装置の装置構成図である。
【
図14】本発明の実施例2に係る発熱装置の装置概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。各図面を通じて同一若しくは同等の部位や構成要素には、同一若しくは同等の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、現実のものとは異なることに留意すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0014】
また、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置等を例示するものであって、この発明の技術的思想は、各構成部品の配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0015】
(常温核融合および水素脆化の原理)
まず、金属中の水素の性質の正しい理解が、常温核融合の原理、水素脆化の原理を正しく理解するために必須である。そこで、常温核融合および水素脆化の原理について、文献を引用して説明する。
【0016】
参考文献(1)には、要約すると、以下の説明が記載されている。
合金が作る水素化物の最大水素吸収量や安定性は、いくつかの仮説が提案されている。その中にWestlakeによる金属格子の空隙の大きさを判段基準とする幾何学的模型がある。極めて単純な方法であるが、第一近似としては有効である。金属中に存在する水素の電子状態について、
(ア)完全に水素原子は電子を放しH+状態になるというプロトン・モデル
(イ)逆に電子を余分に1個取り込みH-状態になるというアニオン・モデル
の両者が従来は考えられていた。
【0017】
水素吸収による電気抵抗・帯磁率・電子比熱の変化などが、その場に応じて都合のよい方のモデルによって説明されてきた。ところが、近年のSwitendickを開祖とする金属水素化物の電子構造の理論計算の結果によって、上記の(ア)および(イ)の2つのモデルはどちらも事実の一面だけを捕えていることに過ぎないことが判ったと記載されている。
【0018】
ここで、発明者は、金属中の空間の電子の量によって、正、負、中性のいずれの状態にもなりうるという解釈の方が妥当であると考える。金属電位が正の場合には水素は正イオンになりやすく、負の場合には、水素負イオンの大きさが非常に大きいので幾何学的モデルからは結晶内には水素負イオンは存在しえないので、水素原子になりやすいといえる。
【0019】
つまり、金属結晶粒界の空間は狭いので、重水素は正イオンとして、存在することができるが、その場合には金属電位が正である必要がある。金属電位が負の場合には、金属内では水素原子として、その水素原子と同程度の空隙サイトに存在しえる。
つまりどちらの電位でも、狭い結晶粒界の空間の側壁の金属表面近傍では、その結晶粒界側壁にある反応サイトの周囲の結晶粒内金属には重水素原子か重水素正イオンが高濃度に存在できる。
【0020】
図1は、水素、水素イオンおよび水素分子のサイズを模式的に示す図である。
水素原子H0の半径を1×10
-10m=1Åとすれば、負に帯電したヒドリドH-の半径は、電子がEF以上の高いエネルギ準位を埋めているので、約2倍の2×10
-10m=2Åとなる。言うまでもなく、
図1は模式的に描かれており、実際には、水素原子核H+の荷電半径Rが0.87×10
-15m=0.87fmであるから、H0の半径上の電子は水素原子核H+の半径Rを基準にすれば9万倍近く離れた位置にある。ちなみに、水素分子H2の原子核間距離r1は0.74Åである。したがって、水素原子H0の半径1Åを考慮すれば、水素分子H2のサイズは~2.74Å、D2のサイズも~2.74Åとなる。
【0021】
Tサイトのサイズは内接球が1Åなので、Tサイトには単一のDが収納できる程度である。ここにD2分子が入ると、Dと同じ大きさになって核子間隔がゼロになるはずであるが、実際は核子間のクーロン斥力が非常に大きいためにそのようにはならない。通常の水素原子では、その核子間クーロン斥力が非常に高く、核子間をfmオーダまで接近させることは困難である。
【0022】
具体的に検算すると、核融合を可能にするには核子間距離を核融合距離(0.1~1pm(pico meter))より短くする必要であるが、このときのクーロン斥力は、たとえば1.5pmの核融合距離の時に1×10-6Nと推定される。金属内での発生する最大の応力は、降伏応力に相当する。たとえば金属における典型的な降伏応力を、大きく見積もって、10GPaのオーダであるとすれば、水素原子に加えられる圧力は1GPa=109N/m2=1×10-9N/nm2=1×10-11N/Å2であると推定されうる。したがって、核融合を生起させるために必要な1×10-6Nの力は、金属の内部応力である1×10-8N/nm2あるいは1×10-10N/Å2よりも2桁~4桁大きい値となる。
【0023】
(水素原子の深い電子軌道)
上述したように、通常の金属格子からの応力では、核子間クーロン斥力がその応力より勝るので、核融合は発生しない。しかしながら、核融合が発生するためには、この核子間クーロン斥力が何らかの理由で想定より小さいと考えざるを得ず、その理由があるはずである。そこで、水素原子の電子軌道計算の精度、クーロン斥力計算の精度に何らかの問題があると考えた。
【0024】
特に、核間距離がfmオーダでのクーロン力の計算を考えると、クーロン力はr=0で発散するのでr=0近傍の精度が低いはずである。これに関して文献調査を行ったところ、水素原子には深い電子軌道が存在することが理論的に予言されており、その実証が従来の物理学での課題となっていること、その深い軌道が常温核融合の原因であると考える先行文献を発見した(参照文献2~4など)。
【0025】
核子間クーロン斥力の遮蔽は、水素原子の電子軌道がより深い軌道を持つと考えることで解決できる。核子間クーロン斥力遮蔽の観点から考えると、通常の水素分子では、その軌道電子の共有結合部分が核子間クーロン斥力を遮蔽する可能性はある。しかしながら、共有結合時の核子間距離が0.74Å=7.4x10-11m=74000fmの距離で、その軌道が1Å程度の範囲に広がっているとすれば、この核子間距離が数10fm程度になると、その軌道の広がりは核子間以外の部分にまであることになる。このために、核子間距離が狭くなると核子間に電子が存在しなくなり、その共有結合電子の遮蔽効果は高々数分の一程度の遮蔽効果となって核融合を起こすまでの遮蔽効果を期待できない。
【0026】
これに対して水素原子の深い電子軌道を考慮に入れると、深い軌道に電子をもつフェムト原子でフェムト水素分子を構成すると考えることができる。すなわち、
図1に示す水素分子およびフェムト水素分子のサイズを参照すると、電子雲の広がりも数fm程度の範囲なので、核子間クーロン斥力をほぼ完全に遮蔽するということが理解できる。以下、深い電子軌道に関する文献内容を説明する。
【0027】
水素(HあるいはD)の原子核の周りには電子の深い軌道の存在が理論的に知られており(参照文献7および8)、その半径r0は数fm(たとえば約1.4fm)であると計算されている。この深い電子軌道は、DDL(Deep Dirac Level)、DEO(Deep Electron Orbit)と略記されるが、本明細書ではDEOと記すものとする。本発明者はDEOに遷移した電子が常温核融合の理解に必須であると考える。
【0028】
図2は、クーロンポテンシャル(クーロンエネルギー)を示した図である。
図2に示すように、クーロンポテンシャルE101は、通常の点電化近時のクーロンポテンシャルを示している。
【0029】
クーロンポテンシャルE102は、クーロンポテンシャルE101と比較して、原子核近くで低くなっている。クーロンポテンシャルE102は、電荷が原子核内に均一に分布している場合のクーロンポテンシャルで、こちらがより適切であると考えられる。なお、クーロンポテンシャルE102をつかって深い軌道が数値的に証明されている。
【0030】
このように、水素(HあるいはD)の電子の電子軌道は原子核に近く、原子核間のクーロン斥力を遮蔽すると考えられる。詳細は後述する。
【0031】
図3は、本発明者が提案する常温核融合の原理について説明した説明図である。なお、
図3をはじめとする模式図は常温核融合の原理を説明するための図であり、図面上の原子や分子の大きさの比率は実際の比率を直接反映したものではない。
【0032】
本発明者は常温核融合が次のようなプロセスで発生すると考える。常温核融合のプロセス考察なので、金属内にDが核融合が起きる程度の高濃度に吸蔵された状態から始める。
【0033】
1)D+とD-の接近
金属表面の膨張した格子内の空間(Tサイト)に負イオンD-が入り、その近傍の正イオン(Dの核子)D+と結合して重水素分子D2を形成する(
図3(A)および(B)参照)。
【0034】
2)フェムトD2分子の形成
膨張したTサイトの金属格子が元のサイズに戻ろうとする応力を受けてD2が圧縮され、核子間が接近することで重水素分子D2がフェムト重水素分子(フェムトD2分子)に遷移する(
図3(C)および(D)参照)。
【0035】
3)フェムトD2分子の伸縮運動
フェムトD2分子がTサイト内の空間で安定的に伸縮振動する(
図3(E)参照)。Tサイト内接球の直径1Å、フェムト水素分子は大きさ6fm(femto meter)程度なので、フェムトD2分子はTサイト内でほぼ自由振動をする。その伸縮運動により核子間距離が非常に狭くなる可能性が高くなる。
【0036】
4)核融合
フェムトD2分子の振動運動により核子間の最近接距離が十分狭くなったときに核融合を起こし、核融合によりTサイト内にヘリウムHeが生成される(
図3(E)および(F)参照)。
図3(E)に示すように、フェムト重水素分子(フェムトD2分子)の間には深い軌道の共有結合が存在しており、その密度が高いので、原子核間のクーロン斥力を遮蔽できるので、その分子振動で原子核間の距離が狭くなり、核融合が発生する。
【0037】
5)Dの供給
Heが生成されたTサイトには、金属内に吸蔵されたD0がOサイトからホッピングし、その際、詳しくは後述するがD0がD+としてTサイトに移動する(
図3(G)。なお、ここでは、金属表面での常温核融合なので、すでに重水素が金属内に十分吸蔵されているという前提で説明している。この場合以外にも、正イオンD+が金属内に存在して、それが膨張可能なTサイトに金属側から入ることがあり、これにより常温核融合が連続的に発生する。いったん常温核融合が発生したら、金属電位依存性は小さくなる。つまり、その場合には、詳しくは後述するがD0がD+としてTサイトに移動することになる。
【0038】
6)ヘリウムの追い出し
HeのいるTサイトにD+が入ると、電気陰性度的に金属から電子を受け取って負イオンD-になり、D-はサイズが相当に大きいので、Heが存在するTサイトを押し広げ、HeをTサイトから追い出す(
図3(H))。こうして表面Tサイトは上記
図3(A)の状態に戻り、以下Dが供給されながら核融合が連続的に生起する。
【0039】
次に、金属格子内のTサイトについて説明する。
図4は、金属格子内のTサイトを模式的に説明した説明図である。
常温核融合が発生する条件は下記の特徴がある。
(1)FCC結晶格子(面心立方格子)の構造を有する金属でのみ常温核融合が発生し、そのTサイトは非常に狭いこと。
(2)金属表面にナノ構造を持つ場合、常温核融合が発生する。
(3)ナノ金属粒子では表面のみに重水素がTサイトを占有すること。
【0040】
つまり、ナノ構造金属表面のTサイトが特異性を持つと推測できる。
【0041】
常温核融合は、重水素分子の圧縮で発生するとの仮説に基づいて、このナノ金属粒子表面のナノ構造の特性を、Tサイト内に水素が存在可能かどうか、また、重水素原子が圧縮されるかどうかを基準に表面のナノ構造の特徴を考察する。
【0042】
水素がTサイトを占有することは、サイズ比較からは、バルクでは考えられない現象で、これは、表面の特異な現象である。
【0043】
図4の下の結晶格子の図に示すように、Tサイトの頂点の原子101が表面に露出して、その表面102がFCC結晶格子に対して斜めに横切っている場合には、Tサイトの頂点の原子101は隣接する結晶格子がないので、その原子101は他の原子と結合を持たないことがわかる。つまり、そのTサイトの頂点の原子101は移動可能である。したがって、そのTサイトは膨張する可能性があることが示される。
【0044】
図4の上図には、金属表面の形状に対するTサイトの出現を模式的に表している。ここでは、結晶格子のサイズを0.35×0.35(nm)で示している。表面のR形状R11は曲率半径が40(nm)であり、表面のR形状R12は曲率半径が20(nm)であり、表面のR形状R13は曲率半径が10(nm)である場合を示している。模式的に表したナノラフネスと結晶格子のサイズを比較すると、図中グレイでマークした結晶格子のように、その条件に当てはまるTサイトが存在することが推測できる。これを膨張可能なTサイトと呼ぶ。
【0045】
この膨張可能なTサイトは当然ながら、金属結晶粒界の側壁面でも曲率を持つ面が存在することや、曲率を持たなくても、結晶格子の面が斜めになっている場合にも膨張可能なTサイトは存在するので、これは多結晶金属全般の特徴だといえる。結晶粒径が柱状になっていると考えると、円柱状の高さ方向にも結晶格子があるので、結晶粒界内の膨張可能なTサイトの総数は非常に数が多くなりえる。
【0046】
図4に示した例では、R形状R11では、この平面上における膨張可能なTサイトの総数は、144(個)であり、R形状R12では、この平面上における膨張可能なTサイトの総数は、72(個)であり、R形状R11では、この平面上における膨張可能なTサイトの総数は、32(個)である。
【0047】
ここで、発熱量がどの程度になるか概算を行う。
膜厚を10nmの金属薄膜で結晶粒径20nmの多結晶シリコンを用いる場合、膜厚方向には結晶格子は、29個存在する。
金属基板の面積が1m*1mとすると、その金属基板内には結晶粒界の個数は、2.5E15個存在するので、すべての膨張可能なTサイトが反応した場合には、1m*1mの板では、2.8*E-6Mwhの値となる。
【0048】
重要な点は、そのサイトに供給される重水素の速度である。本発明の実施形態では、金属薄膜を積層する、あるいは、反応層の数を増やすことで発熱量をスケールアップ可能だが、本質的には、重水素の供給速度を反応サイトの裏面から素早く連続的に供給することが必要であり、本発明の実施形態では、この点に関しての反応装置の構造を工夫している。
【0049】
【0050】
図5(a)に示すように、Tサイトの金属原子のみを取り出して考えると、FCC結晶格子のコーナー部分の金属原子201を頂点として、下側に3個のニッケル原子202~204が存在する。
図5(a)のA-A断面を示した図が、
図5(b)である。
図5(a),(b)に示すように、4個のニッケル原子201~204に囲まれた内側の空間がTサイトとなる。
【0051】
図5(a)に示すように、4個のニッケル原子201~204に囲まれたTサイト内では、ニッケル原子の電気陰性度の関係から、ニッケル原子は正に帯電して、電子を外部に放出する。そのため、
図5(b)に示すように、Tサイト内では、その中心は負に帯電している。すなわち、4個のニッケル原子201~204に囲まれたTサイト内では電子211が分布する。
【0052】
図5(c)に示すように、Tサイトの周囲に重水素正イオンD+が存在すると、そのTサイト内の電子の負電荷にひかれて、重水素正イオンD+がTサイト内に入り重水素負イオンD-になる。重水素負イオンD-のサイズは大きいので、Tサイトを膨張させる。
【0053】
そして、
図5(d)に示すように、重水素負イオンD-にひかれて、周囲の重水素正イオンD+がTサイト内の重水素負イオンD-と結合して、重水素分子D
2が形成される。その重水素分子D
2は膨張したTサイトから圧縮応力を受ける。
【0054】
図5(e)に示すように、その重水素分子D
2がTサイトから圧縮されると小さな重水素分子であるフェムト重水素分子221に遷移する。フェムト重水素分子221は、陽子222a,222bと中性子223a,223bとで構成される原子核と、電子224とを有している。このフェムト重水素分子221の電子224の電子軌道は原子核に近く、原子核間のクーロン斥力を遮蔽する。このフェムト重水素分子221の軌道は、参考文献(5),(6)などに理論的、実験的に証明されている。
【0055】
図5(f)に示すように、フェムト重水素分子221が核融合し、この核融合により、ヘリウム4(符号225)が生成されるとともに、(数式1)のように、24Mevのエネルギーが発生する。
【0056】
D+D=4He+24MeV (数式1)
【0057】
【0058】
図6(a)に示すように、Tサイトの金属原子のみを取り出して考えると、FCC結晶格子のコーナー部分の金属原子301を頂点として、下側に3個のニッケル原子202~204が存在する。
図6(a)のB-B断面を示した図が、
図6(b)である。
図6(a),(b)に示すように、金属原子301と3個のニッケル原子202~204とに囲まれた内側の空間がTサイトとなる。
【0059】
図6(a)に示すように、金属原子301と3個のニッケル原子202~204とに囲まれたTサイト内では、金属原子の電気陰性度の関係から、金属原子は正に帯電して、電子を外部に放出する。そのため、
図6(b)に示すように、Tサイト内では、その中心は負に帯電している。すなわち、金属原子301と3個のニッケル原子202~204に囲まれたTサイト内では電子211が分布する。
【0060】
図6(c)に示すように、Tサイトの周囲に水素正イオンH+が存在すると、そのTサイト内の電子の負電荷にひかれて、水素正イオンH+がTサイト内に入り水素負イオンH-になる。水素負イオンH-のサイズは大きいので、Tサイトを膨張させる。
【0061】
そして、
図6(d)に示すように、水素負イオンH-にひかれて、周囲の水素正イオンH+がTサイト内の水素負イオンH-と結合して、水素分子H
2が形成される。その水素分子H
2は膨張したTサイトから圧縮応力を受ける。
【0062】
図6(e)に示すように、その水素分子H
2がTサイトから圧縮されると小さな水素分子であるフェムト水素分子321に遷移する。フェムト水素分子321は、陽子222a,222bで構成される原子核と、電子224とを有している。フェムト水素分子321は核融合しないので、周囲の金属原子301やニッケル原子202~204と衝突して、衝突した金属原子を核種変換するが、核種返還後の原子核は、フェムト水素分子、フェムト重水素分子の核融合での核種変換なので、より原子番号の大きい、質量数の大きな原子核に変換される。しかしながら、一般に安定な原子核の陽子数と中性子数の関係があり、陽子数が多くなるので、電子捕獲で原子核内に電子がとりこまれて安定化する場合が多い。その他の崩壊の可能性も考えられるが主ではない。つまり、元の金属より質量数が2ないし4多く、原子番号はより大きな元素に変換される。この核種変換の原理は現在研究中でいまだに定まっていない。
【0063】
そのため、
図6(f)に示すように、空孔331が発生する。この空孔331が多数集まるとボイドになるが、反応サイトは金属結晶粒界側壁に存在するので、この高温水素環境脆化を用いると、結晶粒界の空間を広げることができる。
【0064】
図7は、本発明の実施形態における連続的な核融合を説明した図である。(a)は、核融合反応前の状態を示し、(b)は、核融合反応時の状態を模式的に説明した説明図である。
図7(a),(b)において、仮想線Z101と仮想線Z102とに挟まれた領域A101が結晶粒界を示している。
【0065】
金属結晶粒界は一部に結晶粒界同士を結合する金属原子が存在して、それが結晶粒界をつないで金属内で安定化させている。結晶粒界の狭い空間でも、重水素正イオンD+は高濃度に存在できる。そのため、結晶粒界に接する金属部の空隙サイトには重水素正イオンD+が拡散してそのサイト内で水素原子になる。
図7(a)に示すように、結晶粒内に重水素正イオンD+が侵入して、重水素正イオンD+の濃度が非常に高くなる。または、たとえば、Oサイト空間が水素原子より若干狭い場合でもその空間に、周囲の金属原子をおしのけて入ることが可能なので結晶粒界表面近傍のOサイト内では、水素原子濃度が高くなる。)
【0066】
図7(b)に示すように、膨張可能なTサイト401に重水素正イオンD+が入ると、重水素正イオンD+が膨張可能なTサイト401内に入り重水素負イオンD-になる。重水素負イオンD-のサイズは大きいので、膨張可能なTサイト401を膨張させる。
【0067】
このとき、上述したように、重水素分子D2が形成され、この重水素分子D2がTサイトから圧縮されると小さな重水素分子であるフェムト重水素分子に遷移する。そして、フェムト重水素分子221が核融合し、この核融合により発熱する。
【0068】
ここで、核融合により発熱する発熱量は膨張可能なTサイト401に重水素正イオンD+が侵入する速度が速いと高くなる。
図7(b)に示した例では、膨張可能なTサイト401の周囲に重水素正イオンD+、あるいは重水素原子が存在するので連続的に核融合が発生することとなる。(常温核融合時には水素原子のホッピングで重水素原子が反応サイト内に入るので、水素原子でもよい。)
【0069】
このように、結晶粒界のサイズが小さいので金属中の水素の存在位置の幾何学的モデルからは、一番小さな重水素正イオンD+が多量に存在すると、その内部の格子間にも内部よりも多い重水素正イオンD+、あるいはOサイト内には重水素原子が存在することになる。これにより、膨張可能なTサイト401の周囲の結晶粒界側だけではなく結晶粒側にも存在して膨張可能なTサイト401の裏面側から重水素正イオンD+が入ると重水素負イオンD-になり、ヘリウム4を追い出すので、連続的に核融合が発生することになる。
【0070】
図8は、従来技術と本発明の実施形態とを比較して説明した説明図である。(a)は、従来技術における重水素正イオンD+の状態を示した図であり、(b)は、本発明の実施形態における重水素正イオンD+の状態を示した図である。
図8(a)では、矢印Y102は金属の表面Z103における重水素正イオンD+の流れを示しており、
図8(b)では、
図7と同様に、仮想線Z101と仮想線Z102とに挟まれた領域A101が結晶粒界を示している。
【0071】
図8(a)に示すように、従来技術では、表面積が被小さく結晶粒界はほとんど存在しない(膨張可能なTサイトの割合が小さい)ので、燃料となる重水素正イオンD+が表面の反応サイトに捕獲されずに外報拡散しているので、反応熱は非常に少ない。
【0072】
一方、
図8(b)は、結晶粒界内の構造とその重水素がその結晶粒界内に偏析している様子を示している。本発明の実施形態では、
図9に金属膜の断面構想で示すように、重水素を用いて発熱させる金属層は、厚さ方向に柱形状に形成された面心立方格子の構造を有しているので、結晶粒界が多く形成されており、膨張可能なTサイトの割合が大きい。また、水素原子は結晶粒界に偏析しているので、金属バルク内よりも濃度が高い。これは水素の幾何学モデルでも説明できる。その水素原子は基本的には正イオンとして存在するので、そのため、膨張可能なTサイトに重水素正イオンD+が侵入し易くなる。膨張可能なTサイトに重水素正イオンD+が入ると重水素負イオンD-になり、ヘリウム4を追い出すので、核融合が発生することになる。つまり、従来例では、膨張可能なTサイトの数が少なく、そのサイト周囲を通過して捕獲される重水素の数が少ないという問題があったが、本発明では、金属結晶粒界を用いることによりこれらの課題を解決できる。
核融合により発熱する発熱量は膨張可能なTサイトに重水素正イオンD+が侵入する速度が速いと高くなる。膨張可能なTサイトの周囲に重水素正イオンD+が存在するので連続的に核融合が発生することとなる。従来例では、大半の重水素が膨張可能なTサイトに比較されずに流出していたが、この欠点を解決できる。
【0073】
このように、従来技術と比較して、本発明の実施形態では、重水素を用いて発熱させる金属層に結晶粒界が多数存在するので、膨張可能なTサイトの周囲に重水素正イオンD+が存在することとなり、膨張可能なTサイトに重水素正イオンD+が侵入し易くなり核融合反応が促進される。
【0074】
(実施例1)
図9は、本発明の実施例1に係る発熱装置1の装置概念図であり、
図10は、本発明の実施例1に係る発熱装置の装置構成図である。なお、
図9における上方向は、
図10における左方向となる。
【0075】
図9に示すように、発熱装置1はチャンバー2を有しており、このチャンバー2内に発熱基板3と、金属板4と、支持基板であるセラミックス基板5とが設けられている。
【0076】
チャンバー2は、支持部材21,22を有しており、この支持部材21,22で発熱基板3とセラミックス基板5とを固定すると共に、第1気室2aと、第2気室2bと、第3気室2cとに領域分割している。
【0077】
第1気室2aは重水素ガスや水素ガスが供給される気室であり、供給された重水素や水素ガスはセラミックス基板5内に侵入し、さらに発熱基板3の結晶粒内に重水素正イオンD+および水素正イオンH+が侵入する。侵入した重水素正イオンD+により、第3気室2c内で核融合反応が生じ発熱すると共にヘリウム4が生成される。侵入した水素正イオンH+により、第3気室2c内で水素脆化が生じる。
【0078】
第1気室2aは、第1気室2aの圧力は大気圧でもよいが、ガス流速を稼ぐために、加圧することによりさらに核融合反応を促進させることができる。
【0079】
第3気室2c内において、発熱基板3で核融合反応が発生することにより発熱し、発生した熱は金属板4を介してチャンバー2外の冷却水により熱伝達される。第3気室2cには、水素ガス供給口13が設けられており、この水素ガス供給口13から水素ガスが供給される。
【0080】
第3気室2cには、圧力調節弁6が設けられており、制御部12によってチャンバー2の第3気室2c内の圧力を所定圧力以上となるように制御されている。第3気室2c内で核融合反応が発生するのでヘリウム4が生成される。そのため、核融合反応で生じたヘリウム4が第3気室2cの発熱基板3内に蓄積されることを防止するため、チャンバー2外に対する第3気室2cの圧力を正圧となるように圧力調整されている。これにより、圧力調節弁6は、ヘリウム回収部としてヘリウムを取り出すことができる。具体的には、ヘリウム4、重水素正イオンD+および水素正イオンH+を含むガスが圧力調節弁6を介して第3気室2c外へ放出され、回収される。
【0081】
また、第3気室2cの圧力が所定圧力以上となるように制御されることによって、発熱基板3の結晶粒界側金属に接触する重水素正イオンD+の濃度を高くすることができるので、膨張可能なTサイトに重水素正イオンD+が入り込む確率を高くすることができ、結果、発熱効率を高くすることができる。
【0082】
金属板4は、ニッケルで構成されている。第3気室2cには水素正イオンH+が存在するので、例えば、セラミックスを用いると、核種変換して放射性物質が出る可能性がある。ニッケルは核種変換しても亜鉛に変換され安定するので、金属板4にはニッケルを用いている。
【0083】
また、
図9における上下方向において、金属板4の上面はチャンバー2の上壁下面に接するように設けられており、金属板4の下面は、発熱基板3と所定の空隙d1を空けて設けられている。これにより、重水素正イオンD+および水素正イオンH+を含むガスがヘリウム4と共に空隙d1を通って、圧力調節弁6から第3気室2c外へ放出される。
【0084】
なお、空隙d1をなくし、金属板4と発熱基板3の金属膜表面を部分的に接触させるようにしてもよい。この場合には、発熱基板3は金属板4側の金属膜表面に多数の凸形状を有し、金属板4と発熱基板3の金属膜表面の凸形状先端との点接触により、極狭い空間が形成される。この構造では、熱をその接触部分から効率的に反応漕(冷却水側)に熱伝導させることができるので、発熱基板3の過熱を防止でき、熱の回収効率が高くなる。また、生成されたヘリウムはその空間から圧力調節弁6を介してチャンバー2の外部に取り出すことができる。
【0085】
発熱基板3は、チャンバー2内に設けられ、重水素分子D2を用いて核融合反応により発熱させるニッケル層3aと、ニッケル層3aに対向して設けられたパラジウム層3bとが複数積層されて構成されている。
【0086】
ニッケル層3aは、微結晶のニッケルで構成されており、
図9の上下方向(厚さ方向)に柱形状に形成された面心立方格子の構造を有する。スパッタリング法で形成した金属は結晶粒が10nm~20nmに成膜可能なので、微結晶ニッケル膜もセラミックス基板上に形成できる。結晶粒界はその形状がほぼ円柱状形状になるように堆積させるが、その結晶粒界側壁で曲率を持ち原子的には平らではないので、圧縮可能なTサイトの数は多いと考えられる。その結晶粒界の面積を増やすためにも、結晶粒系のターゲットは10nmとする。また、水素脆化で結晶粒界の空間を広くする製造条件が用いられる。まず低温脆化で、水素ガス中で結晶粒界のすきまを、少し広げて、高温脆化で、その空間の金属元素を核種変換で除去する。
【0087】
このニッケル層3aでは、水素は結晶粒界に偏析して、結晶粒界経由で拡散するので、常温核融合の反応面である結晶粒界側壁部分に効率的に重水素を供給可能である。
【0088】
従って、ニッケルが水素脆化でもろくなり、破壊される可能性があるので、それを防ぐために、ニッケル膜を薄くして、パラジウム層3bとして、ニッケルより水素脆化に耐性のあるパラジウムを挟んで多層で積層する。すなわち、パラジウム層3bは、ニッケル層3aの厚さ方向における両側から挟み込むように設けられており、ニッケルより水素脆化耐性が高いパラジウムで構成されている。
【0089】
セラミックス基板5は、最小細孔径3(nm)の細孔を有する高温水素分離用多孔質セラミック膜で形成されており、このセラミックス基板5の上面には、パラジウム層3bが形成されている。このセラミックス基板5の下面側から重水素ガスを供給することにより、パラジウム層3bの下面側から重水素ガスを供給できる。高温水素分離用なので、ガス供給側には重水素と窒素の混合ガスを常圧で用いて、供給量を調節でき、減圧せずに使用可能である。
【0090】
また、
図9,
図10に示すように、チャンバー2の外側にはヒータ8a,8bが取り付けられている。
発熱基板3は700℃で核融合反応が始めるので、ヒータ8a,8bは、核融合反応が始まる700℃までプレヒートさせる。その後、核融合反応が始まると、核融合反応による発熱により連続的に核融合が維持される。
【0091】
図10に示すように、チャンバー2は、冷却水が充填された外部チャンバー9内に設けられており、ヒータ8a,8bは、チャンバー2の上部に取り付けられている。また、チャンバー2には、冷却水を供給または排出する冷却水排出口16と、冷却水を供給または排出する冷却水供給排出口17とが設けられている。この冷却水排出口16から冷却水が供給され、発熱基板3の核融合反応で発生した熱により加温された冷却水が冷却水供給排出口17から排出されることにより熱回収することもできる。また、上述したように、発熱基板3を核融合反応が始まる700℃までプレヒートさせる必要があるので、制御部12は、ヒータ8a,8bが冷却水で冷却されないように、冷却水排出口16および冷却水供給排出口17から冷却水を排出することにより、冷却水の水位をヒータ8a,8bが浸水しないレベルまで下げる。その後、核融合反応が始まると、核融合反応による発熱により連続的に核融合が維持されるので、冷却水供給排出口17から冷却水を供給することにより冷却水の水位をヒータ8a,8bが浸水するレベルまで上げる。これにより、適切にプレヒートできると共に、核融合反応が始めると、冷却水により適切に熱回収することができる。
【0092】
チャンバー2の上部には、核融合反応により冷却水が沸騰することで発生した水蒸気を排出する蒸気排出口15が設けられている。冷却水排出口16から冷却水が供給され、蒸気排出口15から水蒸気が排出されることにより熱回収する。その後、一般的な発電設備と同様に、例えば、蒸気排出口15から排出された水蒸気をタービンに供給することにより発電することができる。
【0093】
また、
図10に示すように、発熱装置1は、チャンバー2に対して所定距離d2を隔てて設けられ、制御部12により表面電位が制御される対向電極10と、発熱基板3の電位を正電位と負電位との間で切り替えることができる極性切替可能電源7とを有している。
対向電極10は平板状の面を有し、発熱基板3の表面と平行となるように、外部チャンバー9の内側に接触させて対向配置されている。この対向電極10でチャンバー2と外部チャンバー9の電位差がなくなるので、電気分解条件ではなくなり冷却水が電気分解することを抑制し、余分なガスの発生を抑制できる。
【0094】
このように、冷却水が充填された外部チャンバー9に、発熱基板3および対向電極10は冷却水内に配置されている。そして、極性切替可能電源7により対向電極10を正電位にすることで、発熱基板3のニッケル層3aの膨張可能なTサイト内に水素正イオンが入り、負イオンH-に変換されるので、結晶粒界間の応力を高くして、結晶粒間の金属結合を破断する。この現象が発生するのは、結晶粒界に水素正イオンH+が多量に存在する必要があるので、発熱基板3電位は正に設定する。この操作で反応サイト数を増加させる。
【0095】
また、重水素をセラミックス基板5から吸収させる際、極性切替可能電源7により対向電極10を負電位にする。
【0096】
図11は、本発明の実施例1に係る発熱装置1における運転条件を示した図である。
図11に示すステップS101およびS102の区間は、水素脆化で結晶粒界の空間を広げるステップである。常温核融合は起こさずに、ガスは水素で、温度はヒータ8a,8bで制御する。そのため、この時点では冷却水は供給していない。V101は、極性切替可能電源7により印可する電位の設定値を示しており、T101は、図示しない温度計により測定された発熱基板3の温度を示している。
【0097】
以下、ステップS101~105の区間ごとの発熱装置1の運転条件を示す。
<ステップS101:低温水素脆化ステップ>
まず、低温脆化が発生する温度(約200℃)で1時間程度保持し、発熱基板3の膨張可能なTサイト内に水素正イオンが入り、負イオンH-に変換されるので、結晶粒界間の応力を高くして、結晶粒間の金属結合を破断する。この現象が発生するのは、結晶粒界に水素正イオンH+が多量に存在する必要があるので、発熱基板3の電位は正となっている。ここで、低温脆化のステップを省略して高温脆化しても、結晶粒間の金属結合を破断するが、短時間しかこの状態には留まらない。そのため、高温脆化だけだと、結晶粒界がつながっている部分は空間が広がらないという問題があるので、ステップS101の低温脆化のステップを設けている。
【0098】
<ステップS102:高温水素脆化ステップ>
次に高温水素環境脆化で、結晶粒界間の金属原子を核種変換で空孔化して、結晶粒界にボイドを発生させる。この現象は小さな重水素分子を発生させるために温度は、700℃程度に設定する。なお、高温水素環境脆化の文献では700℃、常温核融合のトリガー温度も700℃なので、温度が一致している。
発熱基板3の電位は継続して正に設定される。同様に正電位だと膨張したTサイト内の水素負イオンH-のクーロン引力にひかれて周囲の水素正イオンが結合しやすい。
【0099】
以上のステップS101~S102は、金属基板製造時に行うことができるが、常温核融合は発熱して、その金属基板温度が800℃程度と高めで、冷却が必要なので、維持温度が高くなる場合もあり、この場合、金属の拡散で結晶粒界に、金属が結晶成長して結晶粒界が狭くなることが起きると、重水素正イオンが結晶粒界に少なくなるので、核融合が発生しにくくなる。
【0100】
<ステップS103:重水素吸収ステップ>
ステップS103では、極性切替可能電源7により対向電極10を負電位にすることで、重水素をセラミックス基板5から吸収させる。発熱基板3の温度設定は、400℃~700℃で、重水素が金属内を拡散して、反応層に迅速に充填できる温度に設定する。ステップS103の終了時に冷却水を導入する。
【0101】
<ステップS104:常温核融合トリガーステップ>
常温核融合をトリガーするために、発熱基板3の電位を正とする。常温核融合を発生させるためには、膨張可能なTサイトに重水素正イオンを2回導入する必要があるので、金属電位は基本的には正が好ましい。しかし、金属電位を正に設定すると、熱の運ぶ、金属内の自由電子濃度が低くなるので、金属の熱伝導率が低くなり、常温核融合の場合は、局所的に発生するので、そこの温度が上昇して金属が溶融するリスクがある。
【0102】
従来の常温核融合では、この点が制御できていないので、トリガーがかかりにくかったが、本発明の実施形態では、金属電位で熱伝導を制御できるので、ヒータ8a,8bの温度を700℃程度の常温核融合がトリガーする温度に設定する。さらに、冷却水の水位を下げて、冷却を弱くして、金属電位を調節して冷却速度を調節して、発熱基板3の全体が均一に温度上昇する条件を探して、その条件で核融合をトリガーする。
【0103】
<ステップS105:熱回収ステップ>
ステップS104において、常温核融合が発生すると、冷却水に熱を回収させるために発熱基板3の電位を負に設定して、熱伝導率を高くする必要がある。常温核融合を維持する観点からは、温度が高いと水素の移動は金属結晶格子空隙サイト間のポテンシャル障壁をホッピング(水素原子の熱振動での位置移動)で常温核融合が維持できるので、発熱サイトが十分存在する場合には、温度は常温核融合が維持する程度の高く維持できる。
【0104】
しかしながら、温度が高いと、結晶粒界内の空間が狭くなることが原因で発熱量が低下する。発熱量を維持するために、再び、結晶粒界の空間を広げるステップS101~S102から繰り返す。
あるいは、常温核融合中にも水素ガスを混ぜて、徐々に結晶粒界空間を広げる条件に設定しておくと、常温核融合が長期間継続できる。この場合には、この金属脆化のプロセスを制御するために、発生するヘリウム3とヘリウム4とを反応槽(チャンバー2)から取り出し、取り出したヘリウム3の量とヘリウム4の量とを区別してモニターする質量分析装置が必要である。
【0105】
質量分析装置としては、一般的な装置を用い測定することができる。
質量分析装置を用いて発生したヘリウム3の量とヘリウム4の量を測定し、この測定値に基づいて水素ガスの供給量を制御するようにしてもよい。ヘリウム3の発生量は、水素が膨張可能なTサイトにどれだけ到達しているかを示す指標と考えることができるので、測定したヘリウム3の量が低下すると、供給する水素量を増加させるように制御してもよい。また、測定したヘリウム4の量が低下すると、供給する重水素量を増加させるように制御してもよい。
【0106】
発熱量が低下すると、ヘリウム4の量が低下する。そうすると、供給するガスの水素量の割合を増加させ、その影響を監視するために、発生したヘリウム3の量を測定する。これにより、供給した水素が適切に発熱基板3に到達しているかを確認することができる。
【0107】
なお、ヘリウム3の製造には水素と重水素を用いてその両方の分子(DH分子)を圧縮することが必要である。この場合、D+D反応で温度を高くしてD+H反応も同時に発生させるが、H+Hの核融合反応は起こらず、フェムト水素分子が金属を核種変換させる、高温水素環境脆化が発生するので、水素を金属基板内に深く拡散させると金属膜全体が脆化してしまう。それを防ぐために、金属表面近傍の水素濃度が高くできるように高精度な調整を行うために水素は表面側から直接供給している。また常温核融合中でも水素と重水素を金属支持基板から同時に供給するとヘリウム3の製造が可能であるが、これは金属水素脆化をおこらないように注意して水素と重水素の供給のタイミングなどの装置パラメータを制御する必要がある。
【0108】
(実施例2)
本願発明の実施例1では、
図10に示すように、外部チャンバー9内に1つのチャンバー2を設けたが、これに限らない。
本願発明の実施例2では、複数のチャンバー2を設けた発熱装置1を例に挙げて説明する。
図12は、本発明の実施例2に係る発熱装置1の全体概要図である。
図12に示すように、外部チャンバー9内に反応槽であるチャンバー2A~2Jの9つのチャンバー2が左右方向に配列されている。
従来技術では、H2O蒸気以外のガスが混入した混合ガスが放出されるが、発熱基板3において発生するガスを全て外部チャンバー9内で回収しているので、純粋なH2O蒸気を放出することができる。
なお、本願発明の実施例2では、対向電極は設けられていない。発熱基板3とチャンバー2の電位差を発生させないため、全体の電位と発熱基板3の電位は同電位となる。すなわち、チャンバー2(反応槽)の電位はすべて同電位で、かつチャンバー2(反応槽)を、収納している装置筐体(外側)は金属でありその電位と反応槽間での電位差で電気分解条件が発生するのを防ぐために、装置筐体全体もチャンバー2(反応槽)と同電位に設定している。
【0109】
(実施例3)
図13は、本発明の実施例2に係る発熱装置の装置構成図であり、
図14は、本発明の実施例2に係る発熱装置1の装置概念図である。なお、
図14における上方向は、
図13における左方向となる。
図13,
図14に示すように、発熱装置1はチャンバー2を有しており、このチャンバー2内(反応槽内)に発熱基板3と、金属板4と、セラミックス基板5とを有している。また、発熱装置1は、極性切替可能電源7と、対向電極10と、蒸気放出口11とが設けられている。発熱基板3と、金属板4と、セラミックス基板5と、極性切替可能電源7と、対向電極10と、蒸気放出口11とは、それぞれ
図9に示した構成と同一であるので説明を省略する。なお、発熱基板3は、ニッケル層3aと、パラジウム層3bとが交互に複数積層されて構成されていてもよいし、ニッケル層3aと、パラジウム層3bとが各1層ずつ構成されるようにしてもよい。
【0110】
チャンバー2は、支持部材23を有しており、この支持部材23で発熱基板3と金属板4とセラミックス基板5とを固定すると共に、気室2dと、冷却室2eとに領域分割している。気室2dは重水素ガスや水素ガスが供給される気室であり、冷却室2eは冷却水(H2O)が循環される液室である。
【0111】
重水素ガスは、図示しないガス供給手段によって、裏面側、すなわちセラミックス基板5側から連続的に供給される。供給された重水素はセラミックス基板5内に侵入し、さらに発熱基板3の結晶粒内に重水素正イオンD+が侵入する。また、水素ガスまたは冷却水(H2O)からの水素が金属板4の表面で乖離して水素正イオンH+になり発熱基板3の結晶粒内に侵入する。(数式2)に示すように、侵入した重水素正イオンD+と水素正イオンH+とにより、核融合反応が生じ発熱すると共にヘリウム4およびヘリウム3が生成される。
図9の装置と同様に、金属表面近傍の水素濃度が高くできるように高精度な調整を行うために水素は表面側から直接供給している。
【0112】
D+H=3He (数式2)
【0113】
常温核融合が発生すると、発熱基板3の表面からの水素拡散で表面の水素濃度が一番高くなるのでヘリウム3の生成の割合が高くできる。(数式2)に示すように、重水素正イオンD+と水素正イオンH+とにより、核融合反応が生じ発熱すると共にヘリウム3が生成される。上述した(数式1)に示すように、重水素正イオンD+のみで核融合反応が生じ発熱すると共にヘリウム4が生成されるので、重水素正イオンD+と水素正イオンH+とが存在することにより、ヘリウム3およびヘリウム4が生成される。このように、重水素正イオンD+と水素正イオンH+とが存在することにより、(数式1)および(数式2)から、ヘリウム3ヘリウム4が生成される以外にフェムト水素分子が生成されるので、水素濃度を重水素濃度よりも低くする必要がある。
【0114】
<参照文献>
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Available from http://www.hess.jp/Search/data/11-02-030.pdf
(2)J. L. Paillet and A. Meulenberg, “Relativity and Electron Deep Orbits of the Hydrogen Atom” Journal of Condensed Matter Nuclear Science 21 (2016) pp. 40-58
(3)J. L. Paillet and A. Meulenberg, “Arguments for the Anomalous Solutions of the Dirac Equations”Journal of Condensed Matter Nuclear Science 18 (2016) pp. 50-75
(4)Jaromir A. Maly and Jaroslav Vavra,“Electron Transitions on Deep Dirac Levels I”FUSION TECHNOLOGY Vo. 24, Nov. 1993, pp. 307-318
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(6)J. Maly, J. Vavra, Electron transitions on deep Dirac levels II, Fusion Sci. Technol. v27, 59-70, 1995. available from https://doi.org/10.13182/FST95-A30350
(7)A. Meulenberg and K.P. Sinha,“Deep-electron Orbits in Cold Fusion” Journal of Condensed Matter Nuclear Science 13 (2014) pp. 368-377
(8)Jean-Luc Paillet and Andrew Meulenberg,“Highly relativistic deep electrons and the Dirac equation”(22nd International Conference on Condensed Matter Science ICCF-22, at Assisi (Italy), September 8-13, 2019)
【0115】
(付記)
本出願は、以下の発明を開示する。
【0116】
(付記1)
上記目的を解決するため、本発明に係る発熱装置の第1の特徴は、
反応槽内に設けられ、重水素を用いて発熱させる発熱基板と、
前記発熱基板に対向して設けられた支持基板と、
前記支持基板側から重水素を含む気体または液体を供給する水素供給部と、
前記発熱基板から発生する熱を冷却して回収する熱回収部と、
前記発熱基板における重水素の濃度を高くするために前記反応槽内の圧力を所定圧力以上となるように制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする発熱装置。
これにより、発熱層に接触する重水素濃度を高くすることができるので、膨張可能なTサイトに重水素原子が入り込む確率を高くすることができ、結果、発熱効率を高くすることができる。
【0117】
(付記2)
前記水素供給部は、前記発熱基板側および前記支持基板側のうち少なくとも一方から、水素を含む気体を供給することを特徴とする(付記1)記載の発熱装置。
これにより、結晶粒界が狭くなることを防止することができる。
【0118】
(付記3)
前記発熱基板は、多結晶金属で形成され、重水素を用いて発熱させる第1金属層を有することを特徴とする(付記1)記載の発熱装置。
これにより、反応面の面積が広くなり反応面に膨張可能なTサイトの数が多くなるので、反応数が多くなり、より効率的に発熱させることができる。
【0119】
(付記4)
前記第1金属層は、厚さ方向に柱形状に形成された面心立方格子の構造を有することを特徴とする(付記3)記載の発熱装置。
これにより、反応面の面積が広くなり反応面が膨張可能なTサイトの数が多くなるので、反応数が多くなり、より効率的に発熱させることができる。
【0120】
(付記5)
前記発熱基板は、前記第1金属層と、前記第1金属層の厚さ方向における両側から挟み込む前記第1金属より水素脆化耐性が高い第2金属層とを有する
ことを特徴とする(付記3)記載の発熱装置。
これにより、高温水素環境脆化する結晶粒界の空間を広げることができるので、より効率的に発熱させることができる。
【0121】
(付記6)
前記発熱基板が重水素を用いて発熱した際に生成されるヘリウムを前記反応槽から取り出すヘリウム回収部を、
さらに備えたことを特徴とする(付記1)記載の発熱装置。
これにより、発熱とともに生成したヘリウムを回収することができる。
【0122】
(付記7)
反応槽内に設けられ、重水素を用いて発熱させる発熱基板と、
前記発熱基板に対向して設けられた支持基板と、
前記支持基板側から重水素を含む気体または液体を供給する水素供給部と、
前記発熱基板から発生する熱を冷却して回収する熱回収部と、
を備えたことを特徴とする発熱装置。
これにより、発熱体を十分に冷却しつつ、効率的に発熱させることができる。
【符号の説明】
【0123】
1 発熱装置
2 参照文献
2 チャンバー
2a 第1気室
2b 第2気室
2c 第3気室
2d 気室
2e 冷却室
3 発熱基板
3a ニッケル層
3b パラジウム層
4 金属板
5 セラミックス基板
6 圧力調節弁
7 極性切替可能電源
8 参照文献
8a ヒータ
8b ヒータ
9 外部チャンバー
10 対向電極
11 蒸気放出口
12 制御部