(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142875
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】硫酸コバルトの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 51/10 20060101AFI20241003BHJP
C22B 47/00 20060101ALI20241003BHJP
C22B 23/00 20060101ALI20241003BHJP
C22B 26/22 20060101ALI20241003BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20241003BHJP
C22B 3/26 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C01G51/10
C22B47/00
C22B23/00 102
C22B26/22
C22B3/44 101A
C22B3/26
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055254
(22)【出願日】2023-03-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】000207735
【氏名又は名称】大平洋金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100211122
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(72)【発明者】
【氏名】正部家 尚吾
【テーマコード(参考)】
4G048
4K001
【Fターム(参考)】
4G048AA02
4G048AA07
4G048AB02
4G048AB08
4G048AC06
4G048AE05
4G048AE08
4K001AA02
4K001AA07
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4K001AA16
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4K001AA30
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4K001DB03
4K001DB07
4K001DB16
4K001DB22
4K001DB23
4K001DB24
4K001DB26
4K001DB30
4K001DB31
4K001DB34
4K001HA12
(57)【要約】
【課題】本発明は、高いコバルト歩留まりを維持しつつ、コストが低減された、粗水酸化コバルトから硫酸コバルトを得ることができる、硫酸コバルトの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】不純物元素として鉄、銅、アルミニウム、マンガン、カルシウム、亜鉛、ニッケル、マグネシウムからなる群のうち一種以上を含む粗水酸化コバルトから硫酸コバルトを製造する方法において、水相と有機相の体積比及び流量比を調整した連続処理に基づいて、前記水相と前記有機相とのエマルション相を形成させ、pH調整剤として水酸化ナトリウム水溶液を使用する溶媒抽出工程を含むことを特徴とする硫酸コバルトの製造方法を採用する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物元素として鉄、銅、アルミニウム、マンガン、カルシウム、亜鉛、ニッケルおよびマグネシウムからなる群のうち一種以上を含む粗水酸化コバルトから硫酸コバルトを製造する方法において、
水相と有機相との体積比及び流量比を調整した連続処理に基づいて、前記水相と前記有機相とのエマルション相を形成させ、pH調整剤として水酸化ナトリウム水溶液を使用する溶媒抽出工程を含むことを特徴とする硫酸コバルトの製造方法。
【請求項2】
前記エマルション相は、機械撹拌翼を用いて形成させることを特徴とする請求項1に記載の硫酸コバルトの製造方法。
【請求項3】
前記溶媒抽出工程は、脱Mn工程、脱Ni工程、脱Mg工程の順に実施することを特徴とする請求項1に記載の硫酸コバルトの製造方法。
【請求項4】
前記溶媒抽出工程は、脱Mn工程、脱Ni工程、脱Mg工程の順に実施することを特徴とする請求項2に記載の硫酸コバルトの製造方法。
【請求項5】
前記pH調整剤として、アンモニア水を用いないことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の硫酸コバルトの製造方法。
【請求項6】
前記pH調整剤として、アンモニア水を用いないことを特徴とする請求項4に記載の硫酸コバルトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粗水酸化コバルトから硫酸コバルトを製造する方法に関する。より具体的には、本発明は、マンガンおよびコバルトを含有する硫酸溶液からマンガンを分離して、リチウムイオン二次電池用の原料などに利用することができる、マンガン濃度の低い高純度硫酸コバルト水溶液を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫酸コバルトは、リチウムイオン電池の正極材料の原料として重要である。硫酸コバルトをリチウムイオン電池の正極材料のための原料として用いる場合、必要な性能を確保するために、不純物をできるだけ分離して高純度にする必要がある。
【0003】
粗水酸化コバルトは、コバルトの他に、鉄、銅、アルミニウム、マンガン、カルシウム、亜鉛、ニッケル、マグネシウム等の不純物を含んでいる。粗水酸化コバルトから硫酸コバルトを得るにあたり、高いコバルト歩留まりを維持したまま、コストを低減することが求められる。
【0004】
例えば、特許文献1には、粗水酸化コバルトから硫酸コバルトを得るにあたり、高いコバルト歩留まりを達成する方法が開示されている。また、特許文献1では、ミキサーセトラーを利用した溶媒抽出を実施し、pH調整剤にアンモニア水を使用している。pH調整剤にアンモニア水を使用すると、アンモニア回収を伴う排液処理を実施する必要があった。アンモニア水とアンモニア回収設備にかかるコストは高く、コスト低減を阻害していた。
【0005】
本発明者らは、粗水酸化コバルトから硫酸コバルトを得るにあたり、ミキサーセトラーを利用した溶媒抽出を実施しており、pH調整剤をアンモニア水から水酸化ナトリウム水溶液へ変更することによるコスト低減を試みた。しかし、ミキサーセトラーを利用した溶媒抽出において、pH調整剤に水酸化ナトリウム水溶液を用いると、水酸化物の沈殿が発生することから、目的元素の抽出率の向上に改善の余地があることを本発明者らは知見した。また、ミキサーセトラーを利用した溶媒抽出の一部工程において、水酸化物の沈殿が多く発生することから、その沈殿を抑制することで分相性の向上に改善の余地があることを本発明者らは知見した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-104563号公報
【特許文献2】特開2022-164276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前述の背景に基づきなされたものであり、高いコバルト歩留まりを維持しつつ、コストが低減された、粗水酸化コバルトから硫酸コバルトを得ることができる、硫酸コバルトの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
有機相の抽出剤濃度を下げることで水酸化物の沈殿を抑制できることが推測され、有機相の抽出剤濃度を下げた分を有機相と水相との流量比を高めることで目的元素の抽出率を維持しようと本発明者らは試みた。しかし、期待される水酸化物の沈殿抑制および分相性向上の効果は得られなかった。また、有機相と水相との比率を高めると混合槽のサイズが大きくなるため、溶媒抽出の設備費用の上昇が懸念された。このように、ミキサーセトラーを利用した溶媒抽出は、コスト低減に向けて多くの問題を抱えていた。
【0009】
本発明者らは、溶媒抽出に関する上記問題を解消するために、以下に示す理由から、従来技術であるミキサーセトラーに代えてエマルションフローを適用した。エマルションフローは、従来のミキサーセトラーと比べ、10倍の生産性の向上が期待できる革新的な溶媒抽出技術である。例えば、特許文献2には、エマルションフローを利用した溶媒抽出と溶媒抽出装置が開示されている。エマルションフローを利用した溶媒抽出装置(エマルションフロー装置)は、液滴噴出ノズルもしくは機械撹拌翼を備え、重液相(多くの場合、水相)と軽液相(多くの場合、有機相)の乳濁混合相(エマルション相)を形成することで高効率に抽出できる。
【0010】
溶媒抽出にエマルションフローを適用すれば、上記問題が解消し、pH調整剤をアンモニア水から水酸化ナトリウム水溶液へ変更することができ、また溶媒抽出装置を小型化することができ、結果としてコスト低減を実現できる可能性がある。よって、後述するように、溶媒抽出の工程では、エマルションフローを用いているが、本発明の範囲はこの限りではない。
【0011】
上記知見に基づいてなされた本発明の要旨は以下の通りである。
(1)不純物元素として鉄、銅、アルミニウム、マンガン、カルシウム、亜鉛、ニッケルおよびマグネシウムからなる群のうち一種以上を含む粗水酸化コバルトから硫酸コバルトを製造する方法において、
水相と有機相との体積比及び流量比を調整した連続処理に基づいて、前記水相と前記有機相とのエマルション相を形成させ、pH調整剤として水酸化ナトリウム水溶液を使用する溶媒抽出工程を含むことを特徴とする硫酸コバルトの製造方法。
(2)前記エマルション相は、機械撹拌翼を用いて形成させることを特徴とする上記(1)に記載の硫酸コバルトの製造方法。
(3)前記溶媒抽出工程は、脱Mn工程、脱Ni工程、脱Mg工程の順に実施することを特徴とする上記(1)または(2)に記載の硫酸コバルトの製造方法。
(4)前記pH調整剤として、アンモニア水を用いないことを特徴とする上記(1)~(3)のいずれか1項に記載の硫酸コバルトの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高いコバルト歩留まりを維持しつつ、コストが低減された、粗水酸化コバルトから硫酸コバルトを得ることができる、硫酸コバルトの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る硫酸コバルトの製造方法を示す工程説明図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る硫酸コバルトの製造方法を示す工程説明図において、不純物除去工程の詳細を示したものである。
【
図3】本発明の比較例に係る硫酸コバルトの製造方法を示す工程説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明に係る硫酸コバルトの製造方法の一実施形態について、図面および表を用いて説明する。なお、表中の「X~Y」(X、Yは任意の数値)は、「X以上Y以下」を意味している。また、「<Z1」(Z1は任意の数値)は、その値がZ未満であることを意味し、また、「≦Z」(Z2は任意の数値)は、その値がZ2以下であることを意味している。
【0015】
図1は、実施形態に係る硫酸コバルトの製造方法を示す工程説明図である。
図1に示すように、本実施形態に係る硫酸コバルトの製造方法は、以下の浸出工程S1、不純物分離工程S2、結晶化工程S3を含む。
【0016】
浸出工程S1:不純物元素として鉄、銅、アルミニウム、マンガン、カルシウム、亜鉛、ニッケルおよびマグネシウムからなる群のうち一種以上を含む粗水酸化コバルトHRCをスラリー化し、さらに酸で浸出することで浸出スラリーESを得る工程。
不純物分離工程S2:浸出スラリーES中の不純物を分離し、コバルト濃縮液CCLを得る工程。
結晶化工程S3:コバルト濃縮液CCLを結晶化し、硫酸コバルトRCを得る工程。
【0017】
本実施形態に係る硫酸コバルトの製造方法において、原料として使用する粗水酸化コバルトHRCは、銅製錬の副産物として得られ、コバルトの他に不純物として鉄、銅、アルミニウム、マンガン、カルシウム、亜鉛、ニッケル、マグネシウム等を含む粉体である。本実施形態に係る粗水酸化コバルトHRCの概略成分の例を以下の表1に示す。表1においてCo以外の金属成分の各含有量はCoに対する相対質量比で示している。
【0018】
【0019】
以下、本実施形態に係る硫酸コバルトの製造方法について、
図2を適宜参照しつつ詳細に説明する。
図2は、本発明の実施形態に係る硫酸コバルトの製造方法を示す工程説明図において、不純物除去工程の詳細を示したものである。なお、
図2では、不純物分離工程S2を詳細に説明している。
【0020】
[浸出工程S1]
浸出工程S1においては、粗水酸化コバルトHRCに対し、純水を添加し、スラリー濃度(全質量のうちの固体質量)が30%程度となるようにスラリー化し、粗水酸化コバルトスラリーを得る。粗水酸化コバルトスラリーを、常圧のもと、95℃以上の温度で、還元剤および濃硫酸を添加して0.5時間程度浸出させることにより、コバルトを含み、且つ、鉄、銅、アルミニウム、マンガン、カルシウム、亜鉛、ニッケルおよびマグネシウムからなる群のうち1種以上を含む浸出スラリーESが得られる。
【0021】
浸出温度を95℃以上とすることにより、粗水酸化コバルトスラリー中のコバルトの浸出速度を向上させることができる。これにより、粗水酸化コバルトスラリー中に含まれるコバルトの浸出時間を短縮し、同時に、コバルトの浸出率を上昇させることができる。浸出温度の上限は特に限定しないが、浸出液の沸点としてもよい。
【0022】
粗水酸化コバルトHRCに添加する純水は、極力純度の高いものを使用する。純度の低い水、例えば、水道水や工業用水を添加すると、最終的に得られる硫酸コバルトRCの純度低下の要因となる。
【0023】
濃硫酸の添加量は、粗水酸化コバルトHRCの使用量に対して、0.9~1.2倍グラム当量とすることができる。濃硫酸の添加量をこの範囲に調整することで、コバルトの浸出を十分に行い、なおかつ、過剰な硫酸(フリー硫酸)の発生量を抑制することができる。したがって、コバルトの回収コストの上昇を抑制しつつ、粗水酸化コバルトスラリーからのコバルトの浸出率を維持することができる。この結果、効率的にコバルトを回収することができる。
【0024】
粗水酸化コバルトスラリー中のコバルトは、2価のコバルトが大部分を占めており、3価のコバルトもわずかに存在する。また、2価のコバルトが3価のコバルトよりも浸出が容易である。粗水酸化コバルトスラリーに還元剤を添加することで、粗水酸化コバルトスラリー中の3価のコバルトが2価へ変化する。その結果、コバルトの浸出が促進され、コバルトの浸出率を99%以上とすることが可能である。
【0025】
粗水酸化コバルトスラリーに添加する還元剤としては、30~35重量%の過酸化水素水を用いることができる。過酸化水素水の添加量は、粗水酸化コバルトHRCの使用量に対して、0.04~0.2倍グラム当量程度とすることができる。
【0026】
粗水酸化コバルトスラリーの浸出に使用する設備としては、特に限定されず、一般的に使用されている耐酸ライニングが施された撹拌機付の容器などで十分である。
【0027】
[不純物分離工程S2]
不純物分離工程S2では、浸出スラリーES中のコバルトと不純物とを分離し、コバルト濃縮液CCLを得る。不純物分離工程S2は、
図2に示すように、脱Fe工程S21、脱Al工程S22、脱Cu工程S23、脱Mn工程S24、脱Ni工程S25、脱Mg工程S26、Co回収工程S27を含んでいる。
なお、本実施形態では、脱Mn工程S24、脱Ni工程S25、脱Mg工程S26を総称して溶媒抽出工程という。溶媒抽出工程は、脱Mn工程S24、脱Ni工程S25、脱Mg工程S26をこの順で実施することが好ましい。
【0028】
脱Fe工程S21、脱Al工程S22、Co回収工程S27では水酸化物沈殿法を採用する。脱Fe工程S21では鉄、脱Al工程S22ではアルミニウム、Co回収工程S27ではコバルトを主な分離対象としている。
脱Cu工程S23では硫化物沈殿法を採用し、銅を主な分離対象としている。
【0029】
脱Mn工程S24、脱Ni工程S25、脱Mg工程S26(溶媒抽出工程)では、エマルションフローを採用するが、本発明の範囲はこの限りではない。脱Mn工程S24ではマンガン、カルシウム、亜鉛を主な分離対象とし、脱Ni工程S25ではニッケル、脱Mg工程S26ではマグネシウムを主な分離対象としている。
【0030】
以下、不純物分離工程S2に含まれる脱Fe工程S21、脱Al工程S22、脱Cu工程S23、脱Mn工程S24、脱Ni工程S25、脱Mg工程S26、Co回収工程S27について詳細を説明する。
【0031】
[脱Fe工程S21]
浸出工程S1で得られた浸出スラリーESに中和剤を添加し、pHを2.0~3.0の範囲に調整する。浸出スラリーESの温度は90℃以上に維持し、反応時間は3~5時間とする。浸出スラリー中のFe3+が優先的に中和され、水酸化物として沈殿し、スラリーが形成される。スラリーを固液分離することで、中和液Aと中和残渣Aとが得られる。中和残渣Aは廃棄される。
【0032】
浸出スラリーESに添加する中和剤としては、25重量%程度の炭酸カルシウムスラリーが使用できる。
【0033】
浸出スラリーESのpHが2.0未満では、鉄の沈殿が不十分となる。浸出スラリーESのpHが3.0超では、目的外の元素、例えば、コバルトも沈殿し、中和剤添加量が過剰になりコスト増になる。したがって、脱Fe工程S21では浸出スラリーESのpHを2.0~3.0の範囲に調整することが好ましい。
【0034】
浸出スラリーESの温度が90℃未満では反応速度が遅く、水酸化物の形成に時間がかかる。したがって、脱Fe工程S21では浸出スラリーESの温度は90℃以上に維持することが好ましい。
【0035】
脱Fe工程S21に使用する固液分離装置としては、特に限定されないが、フィルタープレス等の濾過装置を用いることができる。濾過装置は、フィルタープレス以外であっても、固体と水分とに分離させることができる濾過装置であればよい。
【0036】
[脱Al工程S22]
脱Fe工程S21後の中和液Aに中和剤を添加し、pHを5.0~6.0の範囲に調整する。中和液Aの温度は50℃以上に維持し、反応時間は1.5~3.5時間とする。中和液Aに含まれるアルミニウムが優先的に中和され、水酸化物として沈殿し、スラリーが形成される。スラリーを固液分離することで、中和液Bと中和残渣Bとが得られる。
【0037】
脱Al工程S22により得られた中和残渣Bはわずかにコバルトを含んでいる。中和残渣Bを浸出スラリーESに戻し、溶解することでコバルトの歩留まり低下を防止できる。
【0038】
中和液Aに添加する中和剤としては、25重量%程度の水酸化カルシウムスラリーを使用できる。
【0039】
中和液AのpHが5.0未満では、アルミニウムの沈殿が不十分となる。浸出スラリーのpHが6.0超では、コバルトの共沈が過大となり、中和剤添加量が過剰になりコスト増になる。したがって、脱Al工程S22では中和液AのpHを5.0~6.0の範囲に調整することが好ましい。
【0040】
中和液Aの温度が50℃未満では反応速度が遅く、水酸化物の形成に時間がかかる。したがって、脱Al工程S22では中和液Aの温度は50℃以上に維持することが好ましい。
【0041】
脱Al工程S22に使用する固液分離装置としては、特に限定されないが、シックナー等の沈降濃縮装置を用いることができる。沈降濃縮装置は、シックナー以外であっても、濃縮スラリーが得られる沈降濃縮装置であればよい。
【0042】
[脱Cu工程S23]
脱Al工程S22後の中和液Bに硫化剤を添加し、0.5時間程度反応させる。酸化還元電位(ORP、Ag/AgCl電極基準)は-200~100mVになるように調整する。中和液Bに含まれる銅が硫化され、硫化物として沈殿し、スラリーが形成される。スラリーを固液分離することで、硫化液と硫化残渣とが得られる。
【0043】
脱Cu工程S23により得られた硫化残渣はわずかにコバルトを含んでいる。硫化残渣を浸出スラリーESに戻し、溶解することでコバルトの歩留まり低下を防止できる。
【0044】
中和液Bに添加する硫化剤としては、10重量%程度の硫化水素ナトリウム水溶液を使用できる。硫化剤由来のナトリウムは、後述の脱Ni工程S25の抽出液Bと脱Mg工程S26の抽出液Cとに残留し、最終的に排液処理工程へ移送される。
【0045】
中和液Bの酸化還元電位が100mV超では、銅の沈殿が不十分となる。中和液Bの酸化還元電位が-200mV未満では、目的外の元素、例えば、コバルトも沈殿し、硫化剤添加量が過剰になりコスト増になる。したがって、脱Cu工程S23では中和液Bの酸化還元電位を-200~100mVの範囲に調整することが好ましい。
【0046】
脱Cu工程S23に使用する固液分離装置としては、特に限定されないが、シックナー等の沈降濃縮装置を用いることができる。沈降濃縮装置は、シックナー以外であっても、濃縮スラリーが得られる沈降濃縮装置であればよい。
【0047】
このように、脱Fe工程S21および脱Al工程S22での水酸化物沈殿法、脱Cu工程S23での硫化物沈殿法により主に浸出スラリーの鉄、アルミニウム、銅を分離できる。脱Cu工程後の硫化液に含まれ得る不純物のマンガン、カルシウム、亜鉛、マグネシウムおよびニッケルは、水酸化物沈殿法や硫化物沈殿法では分離が難しく、以下に説明する、溶媒抽出工程(脱Mn工程S24、脱Ni工程S25、脱Mg工程S26)を行うことにより分離する。なお、本実施形態に係る溶媒抽出工程では、pH調整剤として水酸化ナトリウムを使用する。
【0048】
[脱Mn工程S24](溶媒抽出工程)
脱Mn工程S24では、硫化液(水相)とリン酸エステル系抽出剤を含有する有機溶媒A(有機相)とを接触させる際に、pH調整剤を添加して水相のpHを1.5~2.5に調整する。水相中のマンガン、カルシウム、亜鉛を有機相中に選択的に抽出し、コバルト、マグネシウム、ニッケルが濃化した抽出液Aを得る。このとき、有機相へはマンガン、カルシウム、亜鉛だけでなく、コバルトもわずかに抽出する。
【0049】
水相のpHが1.5未満もしくは2.5超では、マンガン、カルシウム、亜鉛の抽出率とコバルトの抽出率との差が小さくなり、分離が難しくなる。そのため、水相のpHを1.5~2.5に調整することが好ましい。
【0050】
pH調整剤としては、15重量%程度の水酸化ナトリウム水溶液を用いる。pH調整剤由来のナトリウムは、後述の脱Ni工程S25の抽出液Bと脱Mg工程S26の抽出液Cとに残留し、最終的に排液処理工程へ移送される。
【0051】
リン酸エステル系抽出剤としては、マンガン、カルシウム、亜鉛などに対して高い抽出性を有するビス(2-エチルヘキシル)ホスフェートを用いることが好ましい。
【0052】
脱Mn工程S24は、上記抽出剤を炭化水素系溶剤で希釈して調整した有機溶媒A(有機相)と硫化液(水相)のエマルション相とを形成させながら接触して行う。抽出剤と炭化水素系溶剤の体積比を1:1に調整した有機溶媒Aを用いる場合、硫化液に対する有機溶媒Aの体積比は2.2以上が好ましい。また、炭化水素系溶剤としては、芳香族系、パラフィン系、ナフテン系溶剤等が利用可能であり、なかでもナフテン系溶剤を用いることが好ましい。
【0053】
抽出後の有機相は、マンガン、カルシウム、亜鉛の他、コバルトも含んでいる。抽出後の有機相と希硫酸(水相)のエマルション相とを形成させながら接触させることによって、有機相中のマンガン、カルシウム、亜鉛、コバルトを希硫酸に逆抽出し、逆抽液Aを得る。抽出剤と炭化水素系溶剤の体積比を1:1に調整した有機溶媒Aを用いる場合、希硫酸に対する抽出後の有機相の体積比は2.2以上が好ましい。逆抽出後の有機相は、脱Mn工程S24に繰り返し使用することができる。有機相を繰り返し使用することでコスト低減へ寄与することができる。
脱Mn工程S24の抽出および逆抽出にエマルションフローを利用することで、ミキサーセトラーを利用した場合よりも有機相の抽出剤濃度を下げて、有機相と水相の流量比を高めることができるため、pH調整剤として水酸化ナトリウムを使用しても水酸化物の沈殿を抑制することができる。
【0054】
脱Mn工程S24に使用される装置としては、機械撹拌翼を備えたエマルションフロー装置を用いることができるが、本発明の範囲はこの限りではない。
【0055】
[脱Ni工程S25](溶媒抽出工程)
脱Ni工程S25では、抽出液A(水相)とホスフィン酸エステル系抽出剤を含有する有機溶媒B(有機相)とを接触させる際に、pH調整剤を添加して水相のpHを4.0~4.3の範囲に調整する。これによって、水相中のコバルト、マグネシウムを有機相中に選択的に抽出し、ニッケルが濃化した抽出液Bを得る。抽出液Bは排液処理される。
【0056】
水相のpHが4.0未満もしくは4.3超では、ニッケルの抽出率とコバルトの抽出率との差が小さくなり、分離が難しくなる。そのため、水相のpHを4.0~4.3に調整することが好ましい。
【0057】
pH調整剤としては、15重量%程度の水酸化ナトリウム水溶液を用いる。pH調整剤由来のナトリウムは、脱Ni工程S25の抽出液B及び脱Mg工程S26の抽出液Cに残留し、最終的に排液処理される。
【0058】
ホスフィン酸エステル系抽出剤としては、コバルトなどに対して高い抽出性を有するジ-(2,4,4-トリメチルペンチル)-ホスフィン酸を用いることが好ましい。
【0059】
脱Ni工程S25は、上記抽出剤を炭化水素系溶剤で希釈して調整した有機溶媒B(有機相)と抽出液A(水相)のエマルション相とを形成させながら接触して行う。抽出剤と炭化水素系溶剤の体積比を3:7に調整した有機溶媒Bを用いる場合、抽出液A及び洗浄液Bに対する有機溶媒Bの体積比は8.1以上が好ましい。炭化水素系溶剤としては、芳香族系、パラフィン系、ナフテン系溶剤等が利用可能であり、なかでもナフテン系溶剤を用いることが好ましい。
【0060】
抽出後の有機相と希硫酸(水相)のエマルション相とを形成させながら接触させることによって、抽出後の有機相を洗浄し、洗浄後液Bを得る。抽出剤と炭化水素系溶剤の体積比を3:7に調整した有機溶媒Bを用いる場合、抽出後の有機相に対する希硫酸の体積比は、特に限定されないが、8.1以上が好ましい。洗浄後液Bにはわずかにコバルトが含まれており、洗浄後液Bを回収することでコバルト歩留まりを向上させることができる。また、洗浄に用いる希硫酸の量を少なくすることにより、洗浄後液Bに分配するコバルト量を少なく、かつ高濃度で回収することができる。
【0061】
洗浄後の有機相と希硫酸(水相)のエマルション相を形成させながら接触させることによって、有機相中のコバルトとニッケルを希硫酸に逆抽出し、逆抽液Bを得る。抽出剤と炭化水素系溶剤の体積比を3:7に調整した有機溶媒Bを用いる場合、希硫酸に対する抽出後の有機相の体積比は8.1以上が好ましい。逆抽出後の有機相は、脱Ni工程S25に繰り返し使用することができる。有機相を繰り返し使用することでコスト低減へ寄与することができる。
脱Ni工程S25の抽出、洗浄および逆抽出にエマルションフローを利用することで、ミキサーセトラーを利用した場合よりも有機相の抽出剤濃度を下げて、有機相と水相の流量比を高めることができるため、pH調整剤として水酸化ナトリウムを使用しても水酸化物の沈殿を抑制することができる。
【0062】
脱Ni工程S25に使用される装置としては、機械撹拌翼を備えたエマルションフロー装置を用いることができるが、本発明の範囲はこの限りではない。
【0063】
[脱Mg工程S26](溶媒抽出工程)
脱Mg工程S26では、逆抽液B(水相)とカルボン酸エステル系抽出剤を含有する有機溶媒C(有機相)とを接触させる際に、pH調整剤を添加して水相のpHを5.5~7.5の範囲に調整する。水相中のコバルトを有機相中に選択的に抽出し、マグネシウムが濃化した抽出液Cを得る。抽出液Cは排液処理される。
【0064】
水相のpHが5.5未満もしくは7.5超では、マグネシウムの抽出率とコバルトの抽出率との差が小さくなり、分離が難しくなる。そのため、水相のpHを5.5~7.5に調整することが好ましい。
【0065】
pH調整剤としては、15重量%程度の水酸化ナトリウム水溶液を用いる。
カルボン酸エステル系抽出剤としては、コバルトとニッケルに対して高い抽出性を有する9,9-ジメチルデカン酸を用いることが好ましい。
【0066】
脱Mg工程S26は、上記抽出剤を炭化水素系溶剤で希釈して調整した有機溶媒C(有機相)と逆抽液B(水相)のエマルション相とを形成させながら接触して行う。抽出剤と炭化水素系溶剤の体積比を4:6に調整した有機溶媒Cを用いる場合、逆抽液Bに対する有機溶媒Cの体積比は3.6以上が好ましい。炭化水素系溶剤としては、芳香族系、パラフィン系、ナフテン系溶剤等が利用可能であり、なかでもナフテン系溶剤を用いることが好ましい。
【0067】
逆抽液B中のコバルトの大部分は有機相に抽出される。抽出後の有機相と希硫酸(水相)のエマルション相とを形成させながら接触させることによって、抽出後の有機相を洗浄し、洗浄後液Cを得る。抽出剤と炭化水素系溶剤の体積比を4:6に調整した有機溶媒Cを用いる場合、抽出後の有機相に対する希硫酸の体積比は、特に限定されないが、3.6以上が好ましい。洗浄後液Cにはわずかにコバルトが含まれており、洗浄後液Cを回収することでコバルト歩留まりを向上させることができる。また、洗浄に用いる希硫酸の量を少なくすることにより、洗浄液Cに分配するコバルト量を少なく、かつ高濃度で回収することができる。
【0068】
洗浄後の有機相と希硫酸(水相)のエマルション相とを形成させながら接触させることによって、有機相中のコバルトを希硫酸に逆抽出し、逆抽液B1を得る。抽出剤と炭化水素系溶剤の体積比を4:6に調整した有機溶媒Cを用いる場合、希硫酸に対する抽出後の有機相の体積比は3.6以上が好ましい。逆抽出後の有機相は、脱Mg工程S26に繰り返し使用することができる。有機相を繰り返し使用することでコスト低減へ寄与することができる。
脱Mg工程S26の抽出、洗浄および逆抽出にエマルションフローを利用することで、ミキサーセトラーを利用した場合よりも有機相の抽出剤濃度を下げて、有機相と水相の流量比を高めることができるため、pH調整剤として水酸化ナトリウムを使用しても水酸化物の沈殿を抑制することができる。
【0069】
脱Mg工程S26に使用される装置としては、機械撹拌翼を備えたエマルションフロー装置を用いることができるが、本発明の範囲はこの限りではない。
【0070】
[Co回収工程S27]
脱Mn工程S24から得た逆抽液Aは、マンガン、カルシウム、亜鉛、コバルトを含んでいる。逆抽液Aに中和剤を加えてpHを8.2~8.8の範囲に調整する。逆抽液Aの温度は50℃以上に維持し、反応時間は1~3時間とする。逆抽液Aに含まれるコバルトが優先的に中和され、水酸化物として沈殿し、スラリーが形成される。スラリーを固液分離することで、中和液Cと中和残渣Cとが得られる。中和液Cは排液処理される。
【0071】
中和残渣Cはコバルトを含んでいる。中和残渣Cを浸出スラリーに戻し、溶解することで、コバルトの歩留まり低下を防止することができる。
【0072】
中和剤としては、25重量%程度の水酸化ナトリウム水溶液が使用できる。pH調整剤由来のナトリウムは、脱Ni工程S25の抽出液Bと脱Mg工程S26の抽出液Cに残留し、最終的に排液処理工程へ移送される。
【0073】
逆抽液AのpHが8.2未満であると、コバルトの沈殿が不十分となる。逆抽液AのpHが8.8超であると、マンガンの共沈が過大となり、中和剤添加量が過剰になりコスト増になる。したがって、Co回収工程S27では逆抽液AのpHを8.2~8.8の範囲に調整することが好ましい。
【0074】
逆抽液Aの温度が50℃未満では反応速度が遅く、水酸化物の形成に時間がかかる。したがって、Co回収工程S27では逆抽液Aの温度は50℃以上に維持することが好ましい。
【0075】
Co回収工程S27に使用する固液分離装置としては、特に限定されないが、シックナー等の沈降濃縮装置を用いることができる。沈降濃縮装置は、シックナー以外であっても、濃縮スラリーが得られる沈降濃縮装置であればよい。
【0076】
[結晶化工程S3]
結晶化工程S3では、コバルト濃縮液CCLから硫酸コバルトRCを得る。結晶化工程S3に使用する装置としては、特に限定されないが、冷却晶析装置を用いることができる。結晶化工程S3後に得られる硫酸コバルトRCの概略成分の例は以下の表2に示すような組成と成分である。表2において各成分の含有量は質量%で示している。
【0077】
【0078】
以上のプロセスで粗水酸化コバルトHRCから硫酸コバルトRCを製造すると、コバルトの歩留まりを92%以上にできる。なお、冷却晶析装置から発生するろ液を再利用すれば、コバルトの歩留まりを97%以上にすることも可能である。
【実施例0079】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0080】
(実施例)
[浸出工程]
スラリー濃度30%となるようにビーカーへ粗水酸化コバルトと純水を添加し、撹拌することで粗水酸化コバルトスラリーを得た。粗水酸化コバルトの成分は以下の表3に示す通りであった。表3においてCo以外の金属成分の各含有量はCoに対する相対質量比で示している。
【0081】
【0082】
スラリー濃度30%の粗水酸化コバルトスラリーに対し、常圧のもと、過酸化水素水(濃度34.5質量%)と濃硫酸を添加した。反応温度98℃、反応時間0.5時間の条件で浸出させることにより、コバルト、鉄、銅、アルミニウム、マンガン、カルシウム、亜鉛、ニッケル、マグネシウムを含む浸出スラリーを得た。コバルトの浸出率は99.9%であった。ここで、濃硫酸添加量は、粗水酸化コバルトの使用量に対して、1.1倍グラム当量とした。また、過酸化水素水の添加量は、粗水酸化コバルトの使用量に対して、0.15倍グラム当量とした。
【0083】
[脱Fe工程]
浸出スラリーに炭酸カルシウムスラリー(濃度25重量%)を添加し、pHを3.0に調整した。反応温度95℃、反応時間4時間の条件で中和させることにより、スラリーを形成できた。スラリーを吸引ろ過装置で固液分離することで、中和液Aと中和残渣Aとを得た。浸出スラリー中の鉄は、全量が中和残渣Aへ分離した。中和残渣Aは廃棄した。吸引ろ過装置は、ろ紙、ブフナー漏斗、濾過びん、真空ポンプ等から構成された一般的に使用されているものを使用した。
【0084】
[脱Al工程]
中和液Aに水酸化カルシウムスラリー(濃度25重量%)を添加し、pHを5.0に調整した。反応温度50℃、反応時間2.5時間の条件で中和させることにより、スラリーを形成できた。スラリーをシックナーで固液分離することで、中和液Bと中和残渣Bとを得た。中和液A中のアルミニウムは、全量が中和残渣Bへ分離した。中和残渣Bは浸出スラリーに戻し、溶解した。
【0085】
[脱Cu工程]
中和液Bに硫化水素ナトリウム水溶液(濃度10重量%)を添加した。酸化還元電位100mV、反応時間0.5時間の条件で硫化させることにより、スラリーを形成できた。スラリーをシックナーで固液分離することで、硫化液と硫化残渣とを得た。中和液B中の銅は、全量が硫化残渣へ分離した。硫化残渣は浸出スラリーに戻し、溶解した。
【0086】
硫化液の成分は、以下の表4に示す通りであった。表4においてCo以外の金属成分の各含有量はCoに対する相対質量比で示している。
【0087】
【0088】
[脱Mn工程](溶媒抽出工程)
有機溶媒A(有機相)として、抽出剤「ビス(2-エチルヘキシル)ホスフェート:D2EHPA」に希釈剤「エクソールD80(エクソンモービル社製)」を体積比1:1の割合で混合して準備した。硫化液(水相)へ水酸化ナトリウム水溶液(濃度15重量%)を添加し、pHを2.2に調整した。機械撹拌翼を備えたエマルションフロー装置を利用し、有機相とpH調整した水相とを体積比2.2:1の割合で接触させる抽出を11段、抽出後の有機相と希硫酸(濃度150g/L)を体積比2.2:1の割合で接触させる逆抽出を4段行うことで、抽出液Aと逆抽液Aとを得た。このとき、硫化液中の99.9%以上のマンガンが逆抽液Aに分配した。硫化液中のカルシウムと亜鉛との全量が逆抽液Aに分配した。また、逆抽液Aには5g/Lのコバルトが含まれていた。
【0089】
[脱Ni工程](溶媒抽出工程)
有機溶媒B(有機相)として、抽出剤「ジ-(2,4,4-トリメチルペンチル)-ホスフィン酸:CYANEX272(Cytec Industries Inc.製)」に希釈剤「エクソールD80(エクソンモービル社製)」を体積比3:7の割合で混合して準備した。抽出液A(水相)へ水酸化ナトリウム水溶液(濃度15重量%)を添加し、pHを4.0に調整した。機械撹拌翼を備えたエマルションフロー装置を利用し、有機相とpH調整した水相とを体積比8.1:1の割合で接触させる抽出を7段、抽出後の有機相と希硫酸(濃度100g/L)とを体積比8.1:1の割合で接触させる洗浄を2段、洗浄後の有機相と希硫酸(濃度100g/L)とを体積比8.1:1の割合で接触させる逆抽出を3段行うことで、抽出液B、洗浄後液B、逆抽液Bを得た。このとき、抽出液A中の99%以上のコバルトおよび99.9%以上のニッケルが逆抽液Bに分配した。脱Cu工程で使用した硫化剤由来のナトリウム、脱Mn工程、脱Ni工程でしたpH調整剤由来のナトリウム、Co回収工程で使用した中和剤由来のナトリウムの99%が抽出液Bに分配した。
【0090】
[脱Mg工程](溶媒抽出工程)
有機溶媒C(有機相)として、抽出剤「9,9-ジメチルデカン酸:Versatic acid-10(Hexion Management (Shanghai) Co., Ltd.製)」に希釈剤「エクソールD80(エクソンモービル社製)」を体積比4:6の割合で混合して準備した。逆抽液B(水相)へ水酸化ナトリウム水溶液(濃度15重量%)を添加し、pHを5.95に調整した。機械撹拌翼を備えたエマルションフロー装置を利用し、有機相とpH調整した水相とを体積比3.6:1の割合で接触させる抽出を7段、抽出後の有機相と希硫酸(濃度100g/L)とを体積比3.6:1の割合で接触させる洗浄を5段、洗浄後の有機相と希硫酸(濃度300g/L)とを体積比3.6:1の割合で接触させる逆抽出を3段行うことで、抽出液Cとコバルト濃縮液を得た。このとき、逆抽液B中の99.9%以上のコバルトがコバルト濃縮液に分配した。脱Mg工程で使用したpH調整剤由来のナトリウムおよび逆抽液B中のナトリウムの99.9%が、抽出液Cに分配した。抽出液Cは、排液処理工程に移送された。
【0091】
[Co回収工程]
逆抽液Aに水酸化ナトリウム水溶液(濃度25重量%)を添加してフリー硫酸を中和した後、水酸化カルシウムスラリー(濃度25重量%)を添加し、pHを8.6に調整した。反応温度50℃、反応時間2時間の条件で中和させることにより、スラリーを形成できた。スラリーを吸引ろ過装置で固液分離することで、中和液Cと中和残渣Cを得た。逆抽液A中のコバルトは、全量が中和残渣Cへ分離した。中和液Cは排液処理した。吸引ろ過装置は、ろ紙、ブフナー漏斗、濾過びん、真空ポンプ等から構成された一般的に使用されているものを使用した。中和残渣Cは浸出スラリーに戻し、溶解した。
【0092】
[結晶化工程]
コバルト濃縮液を冷却晶析装置で結晶化させ、硫酸コバルトを得た。実施例の製造方法で得た硫酸コバルトの成分は、以下の表5に示す通りであった。表5において各成分の含有量は質量%で示している。
【0093】
【0094】
上記の製造方法によるコバルト歩留まり(単位時間に使用する粗水酸化コバルト中のコバルト質量に対する、単位時間に製造される硫酸コバルト中のコバルト質量の割合)は92.2%であった。さらに、冷却晶析装置から発生するろ液を再利用することで、コバルト歩留まりは97.2%となった。
【0095】
(比較例)
図3に示すように、比較例では、粗水酸化コバルトから硫酸コバルトを得るにあたり、浸出工程、脱Fe工程、脱Al工程、脱Cu工程、脱Mn工程、脱Mg工程、脱Ni工程、Co回収工程、結晶化工程を含んでいる。比較例の浸出工程、脱Fe工程、脱Al工程、脱Cu工程、Co回収工程、結晶化工程は、実施例に準じる。比較例の脱Mn工程、脱Mg工程、脱Ni工程は、溶媒抽出工程をこの順で行った点やpH調整剤としてアンモニア水を使用した点などが、実施例と異なる。
【0096】
比較例の製造方法で得た硫酸コバルトの成分は、実施例の製造方法で得た硫酸コバルトの成分と同等であった。また、比較例の製造方法によるコバルト歩留まりは、実施例と同等であった。
以下に、比較例における脱Mn工程、脱Mg工程、脱Ni工程を説明する。
【0097】
[脱Mn工程]
有機溶媒(有機相)として、抽出剤「ビス(2-エチルヘキシル)ホスフェート:D2EHPA」に希釈剤「エクソールD80(エクソンモービル社製)」を体積比4:1の割合で混合して準備した。硫化液(水相)へアンモニア水(濃度30重量%)を添加し、pHを2.2に調整した。ミキサーセトラーを利用し、有機相とpH調整した水相を体積比1~1.1:1の割合で接触させる抽出を12段、抽出後の有機相と後述の脱Mg工程の第2逆抽出後に得られた逆抽液を体積比10~11:1の割合で接触させる第1逆抽出を2段、第1逆抽出後の有機相と希硫酸(濃度150g/L)を体積比10~11:1の割合で接触させる第2逆抽出を1段行った。1回目の逆抽出後に得られた逆抽液は、Co回収工程に利用した。2回目の逆抽出後に得られた逆抽液は、浸出工程に戻した。
【0098】
[脱Mg工程]
有機溶媒(有機相)として、抽出剤「9,9-ジメチルデカン酸:Versatic acid-10(Hexion Management (Shanghai) Co., Ltd.製)」に希釈剤「エクソールD80(エクソンモービル社製)」を体積比1:1の割合で混合して準備した。脱Mn工程で得られた抽出液(水相)へアンモニア水(濃度30重量%)を添加し、pHを6.25に調整した。ミキサーセトラーを利用し、有機相とpH調整した水相を体積比1.4:1の割合で接触させる抽出を5段、抽出後の有機相と希硫酸(濃度150g/L)とを体積比9:1の割合で接触させる第1洗浄を2段、第2洗浄を2段、第2洗浄後の有機相と後述の脱Ni工程の第2逆抽出後に得られた逆抽液を体積比2:1の割合で接触させる第1逆抽出を2段、第1逆抽出後の有機相と希硫酸(濃度150g/L)を体積比2:1の割合で接触させる第2逆抽出を1段行った。抽出後に得られた抽出液は、アンモニア回収を伴う排液処理を行った。第2逆抽出後に得られた逆抽液は、前述の脱Mn工程の第1逆抽出に利用した。
【0099】
[脱Ni工程]
有機溶媒(有機相)として、抽出剤「ジ-(2,4,4-トリメチルペンチル)-ホスフィン酸:CYANEX272(Cytec Industries Inc.製)」に希釈剤「エクソールD80(エクソンモービル社製)」を体積比1:1の割合で混合して準備した。脱Mg工程の第1逆抽出で得られた逆抽液(水相)へアンモニア水(濃度30重量%)を添加し、pHを4.6に調整した。ミキサーセトラーを利用し、有機相とpH調整した水相を体積比2.4:1の割合で接触させる抽出を6段、抽出後の有機相と希硫酸(濃度150g/L)を体積比3.4:1の割合で接触させる第1逆抽出を2段、第1逆抽出後の有機相と希硫酸(濃度150g/L)を体積比2.4:1の割合で接触させる第2逆抽出を1段行った。抽出後に得られた抽出液は、アンモニア回収を伴う排液処理を行った。第2逆抽出後に得られた逆抽液は、前述の脱Mg工程の第1逆抽出に利用した。第1逆抽出後に得られたコバルト濃縮液は、結晶化工程に利用した。
【0100】
実施例と比較例における溶媒抽出工程の違いとコストへの影響について、以下の表6を用いて説明する。なお、表6の比較例における括弧付きローマ数字は、各工程の序数を表している。例えば、洗浄の(i)は、第1洗浄を表す。
【0101】
【0102】
実施例における溶媒抽出工程の順序が脱Mn工程、脱Ni工程、脱Mg工程であるのに対し、比較例の溶媒抽出工程は脱Mn工程、脱Mg工程、脱Ni工程である。脱Ni工程と脱Mg工程の順序を変えた理由は、実施例において非キレート抽出系である脱Mg工程を最終工程にすると、脱Mg工程で使用するアンモニア水由来のアンモニウムイオンを分離できないまま製品に混入させてしまうからである。実施例の溶媒抽出では、pH調整剤にアンモニア水を使用しないため、脱Mg工程を最終工程にすることが可能となった。また、脱Mg工程では水相にナトリウムを分離して除去することが容易であるため、脱Mg工程を最終工程にすることはナトリウム除去の観点からも合理的である。
【0103】
実施例の溶媒抽出ではエマルションフローを利用したため、分相性を悪化させずに高O/A比で送液することが可能となった。その結果、pH調整剤の水酸化ナトリウム水溶液への変更および溶媒抽出装置の小型化に成功した。溶媒抽出装置が小型化したことにより、実施例に要する有機溶媒初期費用(液張り分)を、比較例の場合から75%減少することに成功した。
【0104】
さらに、実施例の溶媒抽出ではエマルションフローを利用したため、pH調整剤として水酸化ナトリウム水溶液を使用することができた。なお、pH調整剤として水酸化ナトリウム水溶液するにあたり、反応効率を維持したまま水酸化物の沈殿を抑制するため、有機相の抽出剤濃度を下げ、有機相と水相の流量比を高めた。pH調整剤の変更により、pH調整剤費用を、比較例の場合から7%減少することに成功した。また、アンモニア回収設備が不要となり、コスト低減に大きく寄与した。
HRC…粗水酸化コバルト、ES…浸出スラリー、CCL…コバルト濃縮液、RC…硫酸コバルト、S1…浸出工程、S2…不純物分離工程、S3…結晶化工程、S21…脱Fe工程、S22…脱Al工程、S23…脱Cu工程、S24…脱Mn工程、S25…脱Ni工程、S26…脱Mg工程、S27…Co回収工程。
不純物元素として鉄、銅、アルミニウム、マンガン、カルシウム、亜鉛、ニッケルおよびマグネシウムからなる群のうち一種以上を含む粗水酸化コバルトから硫酸コバルトを製造する方法において、
水相と有機相との体積比及び流量比を調整した連続処理によって、前記水相と前記有機相とのエマルション相を形成させ、pH調整剤として水酸化ナトリウム水溶液を使用する溶媒抽出工程を含むことを特徴とする硫酸コバルトの製造方法。