(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142879
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】スラスト軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 17/04 20060101AFI20241003BHJP
F16C 32/06 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
F16C17/04 B
F16C32/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055258
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鴫原 拓造
(72)【発明者】
【氏名】梅田 彰彦
【テーマコード(参考)】
3J011
3J102
【Fターム(参考)】
3J011AA04
3J011AA20
3J011BA13
3J011CA04
3J011JA02
3J011KA03
3J011MA03
3J011PA02
3J011RA03
3J102AA02
3J102AA08
3J102BA02
3J102BA18
3J102CA06
3J102CA40
3J102EA03
3J102EA06
3J102EA09
3J102EA13
(57)【要約】 (修正有)
【課題】回転方向が逆転する用途にも適用可能であり、かつ、低回転域でも十分な負荷容量を得ることが可能なテーパランド型のスラスト軸受を提供する。
【解決手段】周方向に沿って配列され、それぞれテーパ部21とランド部22とが設けられた複数の軸受パッド20を備え、複数の軸受パッドの少なくとも一部は、ランド部の表面に形成された凹部41と、凹部に連通する静圧供給孔42とを有し、静圧供給孔から凹部に供給される潤滑流体の静圧と、テーパ部により生じる潤滑流体の動圧とにより、スラスト荷重を支持する複合構造を有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に沿って配列され、それぞれテーパ部とランド部とが設けられた複数の軸受パッドを備え、
前記複数の軸受パッドの少なくとも一部は、
前記ランド部の表面に形成された凹部と、前記凹部に連通する静圧供給孔とを有し、
前記静圧供給孔から前記凹部に供給される潤滑流体の静圧と、前記テーパ部により生じる前記潤滑流体の動圧とにより、スラスト荷重を支持する複合構造を有する、
スラスト軸受。
【請求項2】
前記凹部は、前記ランド部の外周縁に沿うように溝状に形成されている、
請求項1に記載のスラスト軸受。
【請求項3】
前記凹部は、前記ランド部の中央部を囲む環状に形成されている、
請求項1または2に記載のスラスト軸受。
【請求項4】
前記ランド部のうち、環状の前記凹部により囲まれた第1領域の面積が、環状の前記凹部の外側の第2領域の面積よりも大きい、
請求項3に記載のスラスト軸受。
【請求項5】
前記凹部は、前記ランド部のうち、前記テーパ部と接続する辺を除いた各辺に沿って形成されている、
請求項1または2に記載のスラスト軸受。
【請求項6】
周方向に隣り合う前記軸受パッド同士の間に設けられた複数の潤滑流体供給部をさらに備え、
前記静圧供給孔からの前記潤滑流体の供給圧力は、前記複数の潤滑流体供給部からの前記潤滑流体の供給圧力よりも高い、
請求項1または2に記載のスラスト軸受。
【請求項7】
前記静圧供給孔は、前記凹部との接続部に、前記静圧供給孔の内径を絞るオリフィスを有する、
請求項6に記載のスラスト軸受。
【請求項8】
前記複数の軸受パッドの全部が、前記複合構造を有する、
請求項1または2に記載のスラスト軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スラスト軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
滑り軸受からなるスラスト軸受の一種に、テーパランド型軸受がある。テーパランド型軸受は、周方向に隔置される複数のランド部と、複数のランド部の間に配置されて対応するランド部まで高さが漸次増大する複数のテーパ部とを有する。テーパランド型軸受は、回転軸が順方向に回転するとき、テーパ部と回転軸の対向面との間の隙間が狭まることによるくさび効果が発生し、潤滑油の圧力(動圧)が増大することによって回転軸の支持力を発生させる。このようなテーパランド型軸受には、例えば下記特許文献1に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
テーパランド型軸受は、回転方向に向けてテーパ部と対向面との間の隙間が狭まることによるくさび効果を利用するため、一方向(順方向)への回転のみしか対応できない。つまり、テーパランド型軸受は、回転軸の回転方向が逆転する用途には適用できない。また、順方向の回転でも、回転軸の回転速度が非常に低い場合、くさび効果による動圧が十分に得られないため、スラスト荷重の負荷容量が小さくなる。
【0005】
本開示は、上述した課題を解決するものであり、回転方向が逆転する用途にも適用可能であり、かつ、低回転域でも十分な負荷容量を得ることが可能なテーパランド型のスラスト軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係るスラスト軸受は、周方向に沿って配列され、それぞれテーパ部とランド部とが設けられた複数の軸受パッドを備え、前記複数の軸受パッドの少なくとも一部は、前記ランド部の表面に形成された凹部と、前記凹部に連通する静圧供給孔とを有し、前記静圧供給孔から前記凹部に供給される潤滑流体の静圧と、前記テーパ部により生じる前記潤滑流体の動圧とにより、スラスト荷重を支持する複合構造を有する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、回転方向が逆転する用途にも適用可能であり、かつ、低回転域でも十分な負荷容量を得ることが可能なテーパランド型のスラスト軸受を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施形態のスラスト軸受の使用例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態のスラスト軸受を軸方向から見た模式図である。
【
図4】
図4は、
図2のIV-IV線に沿った模式的な断面図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態のスラスト軸受の軸受パッドに形成される圧力分布の計算結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、第2実施形態の軸受パッドを示した平面図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態の軸受パッドの模式的な断面図である。
【
図8】
図8は、第2実施形態のスラスト軸受の軸受パッドに形成される圧力分布の計算結果を示すグラフである。
【
図9】
図9は、軸受パッドの変形例を示した平面図である。
【
図10】
図10は、スラスト軸受の変形例を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に添付図面を参照して、本開示の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本開示が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。
【0010】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態のスラスト軸受の使用例を示す模式図である。スラスト軸受10-1、10-2は、回転軸100の軸方向に作用する力(スラスト荷重)を支持する軸受である。
【0011】
スラスト軸受10-1、10-2は、環状の支持機構11に設けられている。スラスト軸受10-1、10-2は、回転軸100のスラストカラー110a、110bの軸方向の端面と、それぞれ対面するように設けられている。スラスト軸受10-1、10-2は、回転軸100の軸方向の他方方向の荷重と、一方方向の荷重とをそれぞれ支持する。
【0012】
スラストカラー110aは、支持機構11に対して一方側の位置で回転軸100に固定され、支持機構11側の滑り面が回転軸100の径方向に突出したフランジ状の部材である。スラストカラー110aの滑り面は、軸方向から見て円環状の平坦面である。スラストカラー110bは、支持機構11に対して他方側の位置で回転軸100に固定され、支持機構11側の滑り面が回転軸100の径方向に突出したフランジ状の部材である。スラストカラー110bの滑り面は、軸方向から見て円環状の平坦面である。
【0013】
スラスト軸受10-1は、スラストカラー110aの滑り面と、小さな隙間を隔てて軸方向に対向するように、支持機構11に固定されている。スラスト軸受10-2は、スラストカラー110bの滑り面と、小さな隙間を隔てて軸方向に対向するように、支持機構11に固定されている。各スラスト軸受10-1、10-2は、給油装置120から供給される潤滑流体LFを受け入れる。潤滑流体LFは、オイルである。スラスト軸受10-1、10-2から排出された潤滑流体LFは、回収容器121により回収され、配管を介して給油装置120に戻される。
【0014】
スラスト軸受10-2は、スラスト軸受10-1と実質的に同じ構造を有しているが、回転方向と軸受の向きとの関係から、スラスト軸受10-1が左右反転した構造になっている。以下では、代表してスラスト軸受10-1について説明し、スラスト軸受10-2については説明を省略する。
【0015】
<スラスト軸受の構造>
図2は、第1実施形態のスラスト軸受10-1を軸方向から見た模式図である。スラスト軸受10-1は、円環形状を有し、内側に回転軸100が挿入されている。スラスト軸受10-1は、周方向に沿って配列された複数の軸受パッド20と、周方向に隣り合う軸受パッド20同士の間に設けられた複数の潤滑流体供給部30とを備える。
図2は、スラスト軸受10-1が、8個の軸受パッド20と、8個の潤滑流体供給部30とを備えた例を示している。軸受パッド20の個数、潤滑流体供給部30の個数は、図示したものには限られない。なお、各軸受パッド20は、別体で作製され個別に支持機構11に固定されていてもよいし、環状のベース部材(図示せず)に一体で作製され支持機構11に一括で固定されていてもよい。
【0016】
各軸受パッド20は、軸方向から見て円弧状の、板状部材である。複数の軸受パッド20は、それぞれ1つのテーパ部21と1つのランド部22とが設けられている。テーパ部21とランド部22とは、回転軸100の回転方向(周方向)に沿って並んでいる。1つの軸受パッド20において、テーパ部21が回転方向の上流側、ランド部22が回転方向の下流側に配置されている。1つの軸受パッド20について、テーパ部21からランド部22に向かう方向(
図2の時計方向)が、順方向である。順方向と反対の方向(
図2の反時計方向)を、逆方向とする。
【0017】
<軸受パッドの構造>
図3は、軸受パッドを示した平面図である。
図4は、
図2のIV-IV線に沿った模式的な断面図である。
図4において、軸受パッド20の底面から、テーパ部21およびランド部22が形成された表面に向かう方向を高さ方向とする。高さが増大する方向(スラストカラー110aに近づく方向)を上、高さが減少する方向(スラストカラー110aから離れる方向)を下として説明する。
【0018】
テーパ部21は、
図4に示すように、周方向の一端部から、ランド部22と接続する他端部に向けて、高さが増大する登り傾斜となるように傾斜した傾斜面からなる。このため、テーパ部21は、スラストカラー110aとの間の軸方向の隙間CLが、他端部(ランド部22)に向かうに従って小さくなるように形成されている。
【0019】
ランド部22は、テーパ部21と接続する一端部から、周方向の他端部に渡って、傾斜のない平坦面として形成されている。つまり、ランド部22は、スラストカラー110aとの間の軸方向の隙間CLが、一端部から他端部まで略一定(後述する凹部41の形成箇所を除く)となるように形成されている。
【0020】
潤滑流体供給部30は、周方向に隣接するテーパ部21に、潤滑流体LFを供給する。潤滑流体供給部30は、上面(スラストカラー110a側)に開口する供給口31を有し、流路を介して給油装置120(
図1参照)と接続されている。供給口31は、隣接するテーパ部21の一端部と同等の高さか、またはテーパ部21の一端部の高さよりも低い位置に設けられる。
【0021】
ここで、複数の軸受パッド20の少なくとも一部は、ランド部22の表面に形成された凹部41と、凹部41に連通する静圧供給孔42とを有し、静圧供給孔42から凹部41に供給される潤滑流体LFの静圧と、テーパ部21により生じる潤滑流体LFの動圧とにより、スラスト荷重を支持する複合構造を有する。
【0022】
第1実施形態では、
図2に示したように、複数(8個)の軸受パッド20の全部が、凹部41と静圧供給孔42とを備えた複合構造を有する。各軸受パッド20は、同一構造を有する。
【0023】
図3に示すように、凹部41は、ランド部22の外周縁に沿うように溝状に形成されている。すなわち、ランド部22は、外周縁を構成する辺22a、辺22b、辺22c、辺22dを有する。凹部41は、辺22aに沿って延びる部分41a、辺22bに沿って延びる部分41b、辺22cに沿って延びる部分41c、辺22dに沿って延びる部分41d、を含む。凹部41は、ランド部22の外周縁よりも内側に形成されている。つまり、凹部41の各部分41a~41dは、対応する辺22a~22dに対して、僅かな距離を隔てて内側に位置する。凹部41(各部分41a~41d)は、線状に延びる有底の凹溝である。
【0024】
第1実施形態では、凹部41は、平面視で、ランド部22の中央部を囲む環状に形成されている。すなわち、部分41aと部分41b、部分41bと部分41c、部分41cと部分41d、部分41dと部分41aが、端部において互いに接続している。環状の凹部41によって、ランド部22の表面は、凹部41により囲まれた内側領域である第1領域51と、凹部41の外側領域である第2領域52と、に区画されている。第2領域52は、ランド部22の外周縁と凹部41との間の環状領域である。
【0025】
第1実施形態では、ランド部22のうち、環状の凹部41により囲まれた第1領域51の面積が、環状の凹部41の外側の第2領域52の面積よりも大きい。したがって、
図3の例では、ランド部22の表面の大部分が、凹部41と第1領域51とによって占められている。
【0026】
図4に示す例では、凹部41は、一対の内側面と平坦な底面とを有する矩形断面の溝である。凹部41の溝幅、および凹部41の深さは、特に限定されず、図示した寸法でなくてもよい。
【0027】
図3に示すように、静圧供給孔42は、凹部41に対して1つ設けられている。静圧供給孔42は、
図4に示すように、軸受パッド20を厚み方向に貫通し、凹部41の底面に開口している。静圧供給孔42の開口径は、凹部41の溝幅以下である。静圧供給孔42は、潤滑流体供給部30とは別個に設けられた経路で、給油装置120(
図1参照)と接続されている。そのため、静圧供給孔42への潤滑流体LFの供給圧力と、潤滑流体供給部30への潤滑流体LFの供給圧力とは、給油装置120において別々に制御されうる。具体的には、静圧供給孔42からの潤滑流体LFの供給圧力は、複数の潤滑流体供給部30からの潤滑流体LFの供給圧力よりも高い。つまり、給油装置120は、各軸受パッド20の静圧供給孔42に対して、潤滑流体供給部30への供給圧力よりも高い圧力で、潤滑流体LFを供給する。
【0028】
また、静圧供給孔42は、凹部41との接続部に、静圧供給孔42の内径を絞るオリフィス42aを有する。オリフィス42aの内径は、静圧供給孔42のうちオリフィス42a以外の部分の内径よりも小さい。
【0029】
<スラスト軸受の作用>
次に、第1実施形態のスラスト軸受10-1(10-2)の作用を説明する。
【0030】
回転軸100が回転する際、スラスト軸受10-1は、複数の潤滑流体供給部30から潤滑流体LFを受け入れる。スラスト軸受10-1は、スラストカラー110aと各軸受パッド20との間の隙間CLに潤滑流体LFの液膜を形成する。
【0031】
潤滑流体LFは、スラストカラー110aの順方向移動(
図4の回転方向)に引きずられてテーパ部21の一端部側から他端部(ランド部22)側へ向けて移動する。この時、テーパ部21とスラストカラー110aとの間の隙間CLが、テーパ部21の傾斜角度に応じて小さくなることから、くさび効果によって液膜の動圧が増大する。この動圧により軸方向の支持力が生じる。動圧は、隙間CLの大きさが最小となるテーパ部21とランド部22との境界部分(辺22cの付近)で、最大となる。
【0032】
さらに、第1実施形態では、スラスト軸受10-1は、各軸受パッド20のランド部22の静圧供給孔42から潤滑流体LFを受け入れる。潤滑流体LFは、ランド部22とスラストカラー110aとの間に供給され、静圧供給孔42への供給圧力に応じた静圧を生じる。この静圧により、軸方向の支持力が生じる。
【0033】
静圧供給孔42は、凹部41の底面に開口しているため、通常、凹部41の形成箇所近傍の静圧が増大する。第1実施形態では、凹部41が環状に形成されているため、凹部41の形成領域と、凹部41に囲まれた第1領域51(
図3参照)との全体で、潤滑流体LFの供給圧力に応じた静圧のピークを生じる。
【0034】
図5は、第1実施形態によるスラスト軸受10-1の、1つの軸受パッド20に形成される圧力分布の計算結果を示すグラフ60である。グラフ60の水平方向の2つの軸は、それぞれ軸受パッド20の周方向位置と、径方向位置とを示す。グラフ60の垂直方向の軸は、圧力を示す。グラフ60は、回転軸100が順方向に回転した場合の圧力分布を示している。
【0035】
グラフ60において、周方向位置P1が、テーパ部21とランド部22との境界部分(辺22c)に相当し、動圧に対応した圧力ピーク61が形成されている。周方向位置P1と周方向位置P2との間が、ランド部22に相当する領域であり、この領域の略全体に亘って、均一な圧力ピーク62が形成されている。この圧力ピーク62が、静圧供給孔42からの潤滑流体LFの供給圧力によって生じた静圧に対応する。給油装置120は、例えば、動圧の圧力ピーク61の最大値の80%以上の圧力ピーク62を形成するように、潤滑流体LFを静圧供給孔42に供給する。
【0036】
動圧の大きさは流体の速度に依存するため、回転軸100の回転速度が小さいほど圧力ピーク61が小さくなる。そのため、回転軸100が極低速で回転する場合、十分な動圧の圧力ピーク61が得られない。しかし、静圧の圧力ピーク62は、回転軸100の回転速度に依存しない。そのため、回転軸100が極低速で回転した場合でも、圧力ピーク62によってスラスト荷重の支持力を確保できる。
【0037】
回転軸100が逆方向に回転した場合、潤滑流体LFの液膜は、テーパ部21の傾斜を下る方向(隙間CLが拡大する方向)に引きずられるため、くさび効果が得られず、グラフ60のような動圧の圧力ピーク61が形成されなくなる。しかし、静圧の圧力ピーク62は、回転軸100の回転方向に関わらず形成されるため、回転軸100が逆方向に回転した場合でも、スラスト荷重の支持力を確保できる。
【0038】
[第2実施形態]
図6は、第2実施形態の軸受パッド20Aを示した平面図である。
図7は、第2実施形態の軸受パッド20Aの模式的な断面図である。第2実施形態のスラスト軸受10-1(10-2)は、軸受パッド20に代えて、
図6および
図7の軸受パッド20Aを備える。なお、第2実施形態において、軸受パッド20Aの構造以外は、上記第1実施形態と同様であるので、説明を省略する。また、なお、上述した第1実施形態と同様の機能を有する部材には、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0039】
第2実施形態の上記第1実施形態との相違点は、軸受パッド20Aのランド部22に形成される凹部41の平面形状である。
【0040】
図6に示すように、軸受パッド20Aの凹部41は、ランド部22のうち、テーパ部21と接続する辺22cを除いた各辺22a、22bおよび22dに沿って形成されている。すなわち、凹部41は、辺22aに沿う部分41aと、辺22bに沿う部分41bと、辺22dに沿う部分41dと、を含み、辺22cに沿う部分を含まない。部分41aの両端が、それぞれ部分41bと部分41dとに接続している。部分41bおよび部分41dの先端(辺22c側の端部)は、凹部41の他の部分とは接続せずに行き止まりになっている。凹部41は、非環状形状に形成されている。
【0041】
第2実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0042】
<スラスト軸受の作用>
次に、第2実施形態のスラスト軸受10-1(10-2)の作用を説明する。ここでは、第1実施形態との相違点についてのみ説明する。
【0043】
回転軸100の順方向回転に伴って生じる動圧は、上記の通り、
図7に示すテーパ部21とランド部22との境界部分(辺22c)の付近で最大となる。ここで、例えば給油装置120が停止しているなど、何らかの理由で、静圧供給孔42への潤滑流体LFの供給(静圧の圧力ピーク62の発生)が停止するケースを考える。この場合、第2実施形態では、辺22cの付近に凹部41が形成されていないため(凹部41の部分41cが形成されていないため)、辺22cの付近に、ランド部22とスラストカラー110aとの間の空間における容積を増大させる構造が存在しない。そのため、第2実施形態では、上記第1実施形態と比べて、大きな動圧を得やすい構造が実現されている。
【0044】
一方、第2実施形態では、
図3の第1領域51に相当するランド部22の中央部が、凹部41によって囲まれていない。この場合、静圧供給孔42への潤滑流体LFの供給によって形成される静圧の圧力ピーク62は、凹部41の形成領域の近傍に形成される。
【0045】
図8は、第2実施形態によるスラスト軸受10-1の、1つの軸受パッド20Aに形成される圧力分布の計算結果を示すグラフ63である。
【0046】
グラフ63において、周方向位置P1が、テーパ部21とランド部22との境界部分(辺22c)に相当し、動圧に対応した圧力ピーク61が形成されている。圧力ピーク62は、ランド部22の中央部から辺22cに対応する領域(周方向位置P1付近)に比べて、ランド部22の外周縁の3つの辺22a、22bおよび22dに対応する領域で高くなっている。
【0047】
このように、第2実施形態に係る軸受パッド20Aは、静圧供給孔42への潤滑流体LFの供給(静圧の圧力ピークの発生)が停止または供給圧力が低下した場合でも、動圧によりスラスト荷重に対する負荷容量を確保しやすい。ただし、第2実施形態では、ランド部22における静圧の圧力ピーク62に起因する支持力が上記第1実施形態と比較して小さくなることから、低回転時や逆回転時の負荷容量が上記第1実施形態と比較して小さくなる。
【0048】
(効果)
本開示の第1態様に係るスラスト軸受は、周方向に沿って配列され、それぞれテーパ部21とランド部22とが設けられた複数の軸受パッド20を備え、複数の軸受パッド20の少なくとも一部は、ランド部22の表面に形成された凹部41と、凹部41に連通する静圧供給孔42とを有し、静圧供給孔42から凹部41に供給される潤滑流体LFの静圧と、テーパ部21により生じる潤滑流体LFの動圧とにより、スラスト荷重を支持する複合構造を有する。本開示によると、複合構造を有する軸受パッド20は、テーパ部21におけるくさび効果を利用した動圧により支持力を得るというテーパランド型軸受に特有の作用に加えて、ランド部22に形成した凹部41に供給される潤滑流体LFの静圧によりスラスト荷重を支持することができる。そのため、回転軸100の回転方向が逆転する場合や回転軸100の回転速度が非常に低い場合などの、くさび効果(動圧)が得られない条件でも、静圧によりスラスト荷重の負荷容量を確保できる。これにより、回転方向が逆転する用途にも適用可能であり、かつ、低回転域でも十分な負荷容量を得ることが可能なテーパランド型のスラスト軸受10-1(10-2)を提供できる。
【0049】
本開示の第2態様に係るスラスト軸受では、凹部41は、ランド部22の外周縁に沿うように溝状に形成されている。本開示によると、凹部41に供給される潤滑流体LFによる静圧の圧力ピーク62を、ランド部22の外周縁に沿った広い範囲で形成できる。これにより、静圧によるスラスト荷重の負荷容量を大きくすることができる。
【0050】
本開示の第3態様に係るスラスト軸受では、凹部41は、ランド部22の中央部を囲む環状に形成されている。本開示によると、凹部41に供給される潤滑流体LFによる静圧の圧力ピーク62が、凹部41の近傍だけでなく、凹部41に囲まれた内周側の領域にも形成される。静圧が高い領域の面積を大きくできるので、スラスト荷重の負荷容量を効果的に大きくすることができる。
【0051】
本開示の第4態様に係るスラスト軸受では、ランド部22のうち、環状の凹部41により囲まれた第1領域51の面積が、環状の凹部41の外側の第2領域52の面積よりも大きい。本開示によると、凹部41の形成領域と第1領域51との全体に亘って、凹部41に供給される潤滑流体LFによる静圧の圧力ピーク62が形成できる。第1領域51の面積が第2領域52の面積よりも大きいので、ランド部22の大部分で、静圧が高い領域を形成できる。その結果、スラスト荷重の負荷容量をより一層効果的に大きくすることができる。
【0052】
本開示の第5態様に係るスラスト軸受では、凹部41は、ランド部22のうち、テーパ部21と接続する辺22cを除いた各辺22a、22bおよび22dに沿って形成されている。本開示によると、くさび効果による動圧の圧力ピーク61が形成される位置(テーパ部21と接続する辺22cの近傍)が凹部41の形成領域から除外されるので、ランド部22に凹部41を設ける場合でも動圧の圧力ピーク61を容易に得ることができる。そのため、例えば凹部41への潤滑流体LFの供給が停止したり供給圧力が低下した場合でも、高い動圧によりスラスト荷重の負荷容量を確保できる。
【0053】
本開示の第6態様に係るスラスト軸受では、周方向に隣り合う軸受パッド20同士の間に設けられた複数の潤滑流体供給部30をさらに備え、静圧供給孔42からの潤滑流体LFの供給圧力は、複数の潤滑流体供給部30からの潤滑流体LFの供給圧力よりも高い。本開示によると、潤滑流体供給部30によって軸受パッド20のテーパ部21に潤滑流体LFを供給しつつ、静圧供給孔42によってランド部22の凹部41に潤滑流体LFを供給できる。そして、静圧供給孔42の供給圧力を潤滑流体供給部30の供給圧力よりも高くすることによって、ランド部22に高い静圧を形成することができる。
【0054】
本開示の第7態様に係るスラスト軸受では、静圧供給孔42は、凹部41との接続部に、静圧供給孔42の内径を絞るオリフィス42aを有する。本開示によると、オリフィス42aによって、静圧供給孔42から凹部41への潤滑流体LFの供給圧力を容易に高くすることができる。
【0055】
本開示の第8態様に係るスラスト軸受では、複数の軸受パッド20の全部が、複合構造を有する。本開示によると、スラスト軸受10-1(10-2)が備える複数の軸受パッド20の全部で、動圧と静圧との両方によりスラスト荷重の支持力を発生することができる。そのため、回転軸100の順回転時、逆回転時および低速回転時の各ケースにおけるスラスト荷重の負荷容量を容易に大きくすることができる。
【0056】
以上、本開示の実施形態を説明したが、この実施形態の内容により実施形態が限定されるものではない。また、前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、前述した実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【0057】
特に、上記第1および第2実施形態では、凹部41が溝状である例を示したが、上述した実施形態に限定されるものではない。凹部41は、溝状以外の形状を有していてもよい。なお、本明細書において、溝状とは、平面視で、ある方向に延びる凹形状であって、延伸方向の長さ寸法に対して、延伸方向と直交する幅方向の寸法が小さい(つまり、細長い)形状を意味する。
図9は、軸受パッドの変形例(軸受パッド20B)を示した平面図である。凹部41は、
図9に示すように、平面視で幅広の矩形凹形状であってもよい。また、凹部41の平面形状は、楕円形その他の幾何学形状であってもよい。凹部41の平面形状は、例えば、ランド部22の表面形状を小さくした相似形状でもよい。
【0058】
また、上記第1および第2実施形態では、複数の軸受パッド20の全部が、複合構造(ランド部22に凹部41および静圧供給孔42が形成された構造)を有する例を示したが、複数の軸受パッド20の一部のみが、複合構造を有していてもよい。
図10は、スラスト軸受の変形例を示した模式図である。
図10のスラスト軸受10Aは、複合構造を有する第1軸受パッド20Cと、複合構造を有しない第2軸受パッド20Dと、を備える。第1軸受パッド20Cの構造は、上記第1実施形態の軸受パッド20と同じである。第2軸受パッド20Dは、テーパ部21Dとランド部22Dとを備えるが、第1軸受パッド20Cとは異なり、ランド部22Dに凹部41および静圧供給孔42が形成されていない。ランド部22Dは、平坦面となっている。テーパ部21Dは、第1軸受パッド20Cのテーパ部21と同じ形状を有する。
図10では、4個の第1軸受パッド20Cと、4個の第2軸受パッド20Dとが、周方向に交互に配列されている。
【0059】
また、上記第1および第2実施形態では、スラスト軸受10-1に8個の軸受パッド20(20A)を設けた例を示したが、軸受パッド20の個数はこれに限られず、2個~7個または9個以上でもよい。
【0060】
また、上記第1および第2実施形態では、支持機構11に2つのスラスト軸受10-1、10-2を設けた例を示したが、支持機構11に1つのスラスト軸受を設けてもよい。例えば回転軸100の一端側と他端側とに、それぞれ、1つのスラスト軸受を有する支持機構11を別個に設けてもよい。また、スラスト荷重の方向が軸方向の一方のみに限定される場合などでは、1つのスラスト軸受を有する支持機構11を1つ設けるだけでもよい。
【0061】
また、上記第1および第2実施形態では、テーパ部21が傾斜面である例を示したが、テーパ部21は例えばステップ状(階段状)に形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0062】
10-1、10-2、10A スラスト軸受
20、20A、20B 軸受パッド
20C 第1軸受パッド(複合構造を有する軸受パッド)
20D 第2軸受パッド
21、21D テーパ部
22、22D ランド部
22a、22b、22c、22d 辺
30 潤滑流体供給部
41 凹部
42 静圧供給孔
42a オリフィス
51 第1領域
52 第2領域
LF 潤滑流体