IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 宇部興産建材株式会社の特許一覧

特開2024-142905速硬性水硬性組成物及びモルタル組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142905
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】速硬性水硬性組成物及びモルタル組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20241003BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20241003BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B22/08 Z
C04B22/14 C
C04B22/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055301
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】515181409
【氏名又は名称】MUマテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100221992
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真由美
(72)【発明者】
【氏名】片桐 友樹
(72)【発明者】
【氏名】戸田 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】貫田 誠
(72)【発明者】
【氏名】西村 浩一
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MB00
4G112MB13
4G112MB26
4G112PB05
4G112PB10
4G112PB11
(57)【要約】
【課題】速硬性と可使時間とのバランスに優れ、工期を短縮することができる速硬性水硬性組成物及びモルタル組成物を提供すること。
【解決手段】本発明は、ポルトランドセメント、アルミナセメント、及び石膏を含む水硬性成分と、ミョウバンを含む凝結調整剤とを含有し、ポルトランドセメントの含有量が、水硬性成分の合計量100質量部に対して50質量部未満であり、アルミナセメントのガラス化率が80%未満である、速硬性水硬性組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポルトランドセメント、アルミナセメント、及び石膏を含む水硬性成分と、ミョウバンを含む凝結調整剤と、を含有し、
前記ポルトランドセメントの含有量が、前記水硬性成分の合計量100質量部に対して50質量部未満であり、
前記アルミナセメントのガラス化率が80%未満である、速硬性水硬性組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の速硬性水硬性組成物と、水とを含有する、モルタル組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、速硬性水硬性組成物及びモルタル組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
土木・建築分野の各種工事に用いられる水硬性組成物は、工期短縮の観点から、施工中は作業に適した流動性や軟度を維持した後、作業終了後は速やかに硬化する特性を有することが望ましい。
【0003】
特許文献1には、速硬性混和材とセメントとを含む速硬性セメント組成物が開示され、速硬性混和材が、カルシウムアルミネートと、無水石膏と、無機炭酸塩と、オキシカルボン酸と、ミョウバンとを含み、カルシウムアルミネートが、Alに対するCaOの含有量がモル比で1.5以上2.0以下の範囲内にあって、ガラス化率が80%以上であることが記載されている。また、特許文献2には、ケイ酸カルシウム鉱物を主成分とするセメントと、カルシウムアルミネート類と、メタカオリンと、硫酸塩と、炭酸リチウムとを含有する水硬性組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-160994号公報
【特許文献2】特開2014-122129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガラス化率80%以上の非晶質のカルシウムアルミネートを用いた場合、急硬性が得られる反面、可使時間が短くなるという問題点がある。また、水硬性組成物中に含まれるケイ酸カルシウム鉱物を主成分とするセメントの含有量が多いと、早期強度発現性が充分に得られない場合があり、工期を短縮することが困難となる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、速硬性と可使時間とのバランスに優れ、工期を短縮することができる速硬性水硬性組成物及びモルタル組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明者らは、ポルトランドセメント、アルミナセメント及び石膏を含む水硬性成分と、ミョウバンを含む凝結調整剤とを含有する速硬性水硬性組成物におけるポルトランドセメントの含有量とアルミナセメントのガラス化率とを特定の範囲とすることによって、施工中は作業に適した流動性や軟度を維持した後、作業終了後は速やかに硬化し、早期に塗り重ね可能な特性を有する水硬性組成物が得られることを見出し、本発明に至った。
【0008】
本発明の一側面は、ポルトランドセメント、アルミナセメント、及び石膏を含む水硬性成分と、ミョウバンを含む凝結調整剤とを含有し、ポルトランドセメントの含有量が、水硬性成分の合計量100質量部に対して50質量部未満であり、アルミナセメントのガラス化率が80%未満である、速硬性水硬性組成物に関する。
【0009】
本発明の他の一側面は、上記速硬性水硬性組成物と水とを含有するモルタル組成物に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、速硬性と可使時間とのバランスに優れ、工期を短縮することができる速硬性水硬性組成物及びモルタル組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
[速硬性水硬性組成物]
一実施形態に係る速硬性水硬性組成物は、ポルトランドセメント、アルミナセメント、及び石膏を含む水硬性成分と、ミョウバンを含む凝結調整剤とを含有し、ポルトランドセメントの含有量が、水硬性成分の合計量100質量部に対して50質量部未満であり、アルミナセメントのガラス化率が80%未満である。当該水硬性組成物は、フロー維持性(30分以上の可使時間)に優れ、塗り重ね時間の短縮が可能である。以下、本実施形態に係る水硬性組成物が含有する各成分について詳細に説明する。
【0013】
(水硬性成分)
本実施形態に係る水硬性組成物は、水硬性成分としてポルトランドセメント、アルミナセメント、及び石膏を含んでいる。
【0014】
ポルトランドセメントとしては、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント等が挙げられる。いずれの市販品も使用することができる。これらのうちの一種又は二種以上を用いることができる。入手が容易であり、施工性の観点から、普通ポルトランドセメント又は早強ポルトランドセメントを用いることが好ましい。
【0015】
ポルトランドセメントのブレーン比表面積は、好ましくは2500~6000cm/gであり、より好ましくは3000~5500cm/gであり、更に好ましくは3300~5000cm/gである。ポルトランドセメントのブレーン比表面積は、JIS R 5201:2015に準じて求めることができる。ポルトランドセメントのブレーン比表面積が上記の好ましい範囲であることにより、水和反応が好適に進行し、適度な作業性と優れた強度発現性が得られる。
【0016】
ポルトランドセメントの含有量は、速硬性と可使時間とのバランスを調整する観点から、水硬性成分の合計量100質量部に対して0質量部を超えて50質量部未満であり、1~49質量部、10~48質量部、20~47質量部、25~46質量部、又は30~45質量部であってもよい。
【0017】
アルミナセメントのガラス化率は、モルタル組成物の可使時間の観点から、80%未満であり、好ましくは50%以下であり、より好ましくは20%以下であり、更に好ましくは10%以下である。
【0018】
アルミナセメントのガラス化率は、X線回折法により測定されるアルミナセメントのX線回折から、結晶性部分の散乱積分強度(A)と非結晶性部分の散乱積分強度(B)とを求め、以下の式に当てはめることで算出することができる。
ガラス化率(%)=100×B/(A+B)
【0019】
X線回折の測定は、粉末X線回折装置「D2 PHASER 2nd Gen」(ブルカージャパン株式会社製)を用い、管電圧30kV、管電流10mA、測定範囲2θ=5~70°、ステップ幅0.02°、計数時間0.5秒間の条件で行うことができる。
【0020】
アルミナセメントとしては、鉱物組成の異なるものが数種知られ市販されているが、いずれも主成分はモノカルシウムアルミネート(CA)であり、市販品についてはその種類によらず使用することができる。アルミナセメントの主成分は、カルシウムアルミネートである。カルシウムアルミネートとしては、例えば、CA、C12、CAF、CAS等が挙げられる。アルミナセメントは、これらのカルシウムアルミネートのうちの一種のみを含んでいてもよいし、複数種類のカルシウムアルミネートを含んでいてもよい。
【0021】
アルミナセメントは、速硬性の観点から、その組成がCaO/Alモル比で0.7を超えるものが好ましく、0.8~2.8の範囲にあるものがより好ましく、1.0~2.5の範囲にあるものが更に好ましい。
【0022】
アルミナセメントのブレーン比表面積は、好ましくは2000~6000cm/gであり、より好ましくは2300~5000cm/gであり、更に好ましくは2500~4000cm/gである。アルミナセメントのブレーン比表面積は、JIS R 2521:1995に準じて求めることができる。アルミナセメントのブレーン比表面積が上記の好ましい範囲であることにより、水和反応が好適に進行し、速硬性が更に向上する。
【0023】
アルミナセメントの含有量は、速硬性と可使時間とのバランスを調整する観点から、水硬性成分の合計量100質量部に対して、10質量部以上、15質量部以上、20質量部以上、又は25質量部以上であってよく、50質量部以下、47質量部以下、45質量部以下、又は42質量部以下であってよい。
【0024】
石膏としては、例えば、無水石膏、半水石膏、二水石膏等が挙げられる。石膏は種類を問わず、一種又は二種以上を用いることができる。石膏は、モルタル組成物が硬化した後の寸法安定性を保持する成分として機能するものである。
【0025】
石膏のブレーン比表面積は、好ましくは2000~8000cm/gであり、より好ましくは2500~7000cm/gであり、更に好ましくは3000~6000cm/gである。石膏のブレーン比表面積は、JIS R 5201:2015に準じて求めることができる。石膏のブレーン比表面積が上記の好ましい範囲であることにより、水和反応が好適に進行し、適度な作業性と優れた寸法安定性が得られる。
【0026】
石膏の含有量は、速硬性と可使時間とのバランスを調整する観点から、水硬性成分の合計量100質量部に対して、1質量部以上、5質量部以上、10質量部以上、又は15質量部以上であってよく、40質量部以下、35質量部以下、又は30質量部以下であってよい。
【0027】
(凝結調整剤)
本実施形態に係る水硬性組成物は、凝結調整剤としてミョウバンを含むことで、モルタル組成物の硬化を促進することができる。ミョウバンとしては、例えば、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸アルミニウムナトリウム等が挙げられる。
【0028】
速硬性水硬性組成物におけるミョウバンの含有量は、速硬性を更に向上する観点から、水硬性成分の合計量100質量部に対して0.01~3質量部、0.03~1質量部、0.05~0.80質量部、又は0.08~0.60質量部であってもよい。
【0029】
(細骨材)
本実施形態に係る水硬性組成物は、細骨材を含んでいてもよい。細骨材としては、例えば、珪砂、川砂、陸砂、海砂、砕砂等の砂類が挙げられる。水硬性組成物は、一種の細骨材のみを含んでいてもよいし、二種以上の細骨材を含んでいてもよい。
【0030】
細骨材の含有量は、水硬性成分の合計量100質量部に対して、好ましくは30~300質量部であり、より好ましくは35~270質量部であり、更に好ましくは40~250質量部である。細骨材の含有量を上記範囲とすることにより、作業性を損なわずにモルタル硬化体の強度を一層向上することができる。
【0031】
(その他の成分)
本実施形態に係る水硬性組成物は、高炉スラグ、石灰石、消石灰、フライアッシュ、シリカフューム、膨張材、流動化剤、減水剤、遅延剤、促進剤、収縮低減剤、樹脂粉末、増粘剤、消泡剤等のうちの一種又は二種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で含んでいてもよい。
【0032】
本実施形態に係る水硬性組成物は、土木・建築用途の断面修復材として有用である。また、本実施形態に係る水硬性組成物は、例えば、プレキャスト製品の接合部充填材、目地材、グラウト材、床材等にも使用することもできる。
【0033】
(モルタル組成物)
本実施形態のモルタル組成物は、上述の速硬性水硬性組成物と水とを含有する。モルタル組成物は、速硬性水硬性組成物と水とを混練することによって調製することができる。
【0034】
モルタル組成物を調製する際に、水の配合量を適宜変更することによって、モルタル組成物のフロー値及び単位容積質量を調整することができる。フロー値とは、JIS R 5201-2015「セメントの物理試験方法」に記載の試験方法に準拠して測定される値である。
【0035】
本実施形態のモルタル組成物の5℃におけるフロー値は、好ましくは145~220mmであり、より好ましくは147~210mmであり、更に好ましくは150~200mmである。モルタル組成物のフロー値がこのような範囲にあることによって、モルタル組成物は一層良好な施工性を有する傾向にある。
【0036】
本実施形態のモルタル組成物は、コンクリート構造物と一体化するに際し、適度な作業性と塗り重ね時間を有しており、土木・建築分野の各種工事の工期短縮に好適である。
【実施例0037】
以下、本発明について実施例を挙げてより具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0038】
水硬性組成物及びモルタル組成物を調製するために、以下の材料を準備した。
(1)ポルトランドセメント(早強ポルトランドセメント、UBE三菱セメント株式会社製、ブレーン比表面積4500cm/g)
(2)アルミナセメント(イメリス社製、ブレーン比表面積3100cm/g、CaO/Alモル比1.8、ガラス化率6%)
(3)非晶質アルミナセメント(ブレーン比表面積4520cm/g、CaO/Al2O3、モル比1.78、ガラス化率99%)
(4)石膏(ブレーン比表面積4140cm/g)
(5)凝結調整剤
・ミョウバン(硫酸アルミニウムカリウム、AlK(SO・12HO、純度96.5%以上)
・硫酸カリウム(KSO、純度99%以上)
・ギ酸カルシウム(Ca(HCOO)、純度98%以上)
(6)細骨材(粒径2mm以下の珪砂)
【0039】
[水硬性組成物及びモルタル組成物の調製]
水硬性成分と凝結調整剤とを表1に示す割合(質量部)で水硬性組成物を配合した後、水硬性成分の合計量100質量部に対して細骨材47質量部を加えて調製した粉体に、水粉体比20%(水300g/粉体1500g)で水を加えて混練してモルタル組成物を調製した。
【0040】
(塗り重ね時間)
ポリプロピレン製容器(内寸191×131×15mm)に、調製直後のモルタル組成物を左官コテで厚さ15mmになるように成形した後、温度5±2℃、相対湿度65±10%の試験室で養生し、ゴム硬度計(高分子計器(株)製、CS型)を用いて、モルタル硬化体の表面硬度を計測し、モルタル組成物を成形してから硬度が70に到達するまでの時間(塗り重ね時間)を測定した。塗り重ね時間は、好ましくは120分以下である。
【0041】
(フロー値)
JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に記載の試験方法に準拠して、5℃におけるモルタル組成物の調製直後(初期)のフロー値と、30分後のフロー値とを測定した。初期のフロー値は、好ましくは150mm以上であり、30分後のフロー値は、好ましくは145mm以上である。比較例4のモルタル組成物は、可使時間が短いため、30分後のフロー値の測定ができなかった。
【0042】
【表1】