IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ グローバルポリアセタール株式会社の特許一覧

特開2024-142910ペレットの製造方法、樹脂組成物、ペレットおよび成形品
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142910
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ペレットの製造方法、樹脂組成物、ペレットおよび成形品
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/20 20060101AFI20241003BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20241003BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20241003BHJP
   C08K 9/08 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08J3/20 B CFG
C08L77/00
C08K7/14
C08K9/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055309
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】523168917
【氏名又は名称】グローバルポリアセタール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智則
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA54
4F070AB24
4F070AC28
4F070AC46
4F070AC48
4F070AD02
4F070AD06
4F070AE27
4F070FA14
4F070FC06
4J002CL011
4J002CL031
4J002DL006
4J002FA046
4J002FA116
4J002FB266
4J002FB276
4J002FD016
4J002GC00
4J002GG00
4J002GL00
4J002GM00
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】 高い機械的強度を有する成形品を製造するためのペレットを安定に提供できるペレットの製造方法、ならびに、樹脂組成物、ペレット、成形品。
【解決手段】 ポリアミド樹脂100質量部に対し、集束剤および/または表面処理剤を含む扁平ガラス繊維を150~230質量部を含み、扁平ガラス繊維の集束剤および/または表面処理剤を280℃で10分間加熱して得られるガス成分がキシリレンジイソシアネート を含む、樹脂組成物のペレットの製造方法であって、樹脂組成物のペレット製造時に、2軸混練押出機を用い、かつ、前記2軸混練押出機のダイ吐出口の樹脂組成物の温度が323~355℃であるペレットの製造方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂100質量部に対し、集束剤および/または表面処理剤を含む扁平ガラス繊維を150~230質量部を含み、
前記扁平ガラス繊維の集束剤および/または表面処理剤を280℃で10分間加熱して得られるガス成分がキシリレンジイソシアネートを含む、樹脂組成物のペレットの製造方法であって、
前記樹脂組成物のペレット製造時に、2軸混練押出機を用い、かつ、前記2軸混練押出機のダイ吐出口の樹脂組成物の温度が323~355℃であるペレットの製造方法。
【請求項2】
前記ポリアミド樹脂の96質量%硫酸における相対粘度が2.0~2.5である、請求項1に記載のペレットの製造方法。
【請求項3】
前記2軸混練押出機のダイ吐出口の樹脂組成物の温度と、前記ポリアミド樹脂の融点の差が77℃以上である、請求項1または2に記載のペレットの製造方法。
【請求項4】
前記扁平ガラス繊維の集束剤および/または表面処理剤を280℃で10分間加熱して得られるガス成分中、ジメチルアルキルアミンガスの割合が55~90質量%である、請求項1または2に記載のペレットの製造方法。
【請求項5】
前記扁平ガラス繊維を600℃、2時間加熱した場合の質量減少率が0.7~1.0質量%である、請求項1または2に記載のペレットの製造方法。
【請求項6】
前記ポリアミド樹脂が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来する、請求項1または2に記載のペレットの製造方法。
【請求項7】
前記ポリアミド樹脂の96質量%硫酸における相対粘度が2.0~2.5であり、
前記2軸混練押出機のダイ吐出口の樹脂組成物の温度と、前記ポリアミド樹脂の融点の差が77℃以上であり、
前記扁平ガラス繊維の集束剤および/または表面処理剤を280℃で10分間加熱して得られるガス成分中、ジメチルアルキルアミンガスの割合が55~90質量%であり、
前記扁平ガラス繊維を600℃、2時間加熱した場合の質量減少率が0.7~1.0質量%であり、
前記ポリアミド樹脂が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来する、請求項1に記載のペレットの製造方法。
【請求項8】
ポリアミド樹脂100質量部に対し、集束剤および/または表面処理剤を含む扁平ガラス繊維を150~230質量部を含み、
前記扁平ガラス繊維の集束剤および/または表面処理剤を280℃で10分間加熱して得られるガス成分がキシリレンジイソシアネートを含む、樹脂組成物。
【請求項9】
前記ポリアミド樹脂の96質量%硫酸における相対粘度が2.0~2.5である、請求項8に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記扁平ガラス繊維の集束剤および/または表面処理剤を280℃で10分間加熱して得られるガス成分中、ジメチルアルキルアミンガスの割合が55~90質量%である、請求項8または9に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記扁平ガラス繊維を600℃、2時間加熱した場合の質量減少率が0.7~1.0質量%である、請求項8または9に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
前記ポリアミド樹脂が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来する、請求項8または9に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
前記ポリアミド樹脂の96質量%硫酸における相対粘度が2.0~2.5であり、
前記扁平ガラス繊維の集束剤および/または表面処理剤を280℃で10分間加熱して得られるガス成分中、ジメチルアルキルアミンガスの割合が55~90質量%であり、
前記扁平ガラス繊維を600℃、2時間加熱した場合の質量減少率が0.7~1.0質量%であり、
前記ポリアミド樹脂が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来する、請求項8に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
請求項8、9または13に記載の樹脂組成物のペレット。
【請求項15】
請求項8、9または13に記載の樹脂組成物から形成された成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペレットの製造方法、樹脂組成物、ペレットおよび成形品に関する。特に、ポリアミド樹脂を主要成分とするペレットの製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的なエンジニアリングプラスチックであるポリアミド樹脂は、加工が容易であり、さらに、機械的物性、電気特性、耐熱性、その他の物理的・化学的特性に優れている。このため、車両部品、電気・電子機器部品、その他の精密機器部品等に幅広く使用されている(特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-143023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、ポリアミド樹脂の用途もさらに拡大し、ポリアミド樹脂から形成された成形品にさらに高い機械的強度が求められることがある。さらに、このような高い機械的強度を有する成形品を製造するためのペレットも安定に提供できることが求められる。
本発明はかかる課題を解決することを目的とするものであって、ポリアミド樹脂を含む樹脂組成物であって、機械的強度に優れた成形品を提供可能なペレットの製造方法、樹脂組成物、ならびに、ペレットおよび成形品を提供することを目的とする。
また、ポリアミド樹脂を含むペレットを安定的に提供できるペレットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、ポリアミド樹脂に所定の集束剤および/または表面処理剤を含む扁平ガラス繊維を配合することにより、上記課題が解決されることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>ポリアミド樹脂100質量部に対し、集束剤および/または表面処理剤を含む扁平ガラス繊維を150~230質量部を含み、
前記扁平ガラス繊維の集束剤および/または表面処理剤を280℃で10分間加熱して得られるガス成分がキシリレンジイソシアネートを含む、樹脂組成物のペレットの製造方法であって、
前記樹脂組成物のペレット製造時に、2軸混練押出機を用い、かつ、前記2軸混練押出機のダイ吐出口の樹脂組成物の温度が323~355℃であるペレットの製造方法。
<2>前記ポリアミド樹脂の96質量%硫酸における相対粘度が2.0~2.5である、<1>に記載のペレットの製造方法。
<3>前記2軸混練押出機のダイ吐出口の樹脂組成物の温度と、前記ポリアミド樹脂の融点の差が77℃以上である、<1>または<2>に記載のペレットの製造方法。
<4>前記扁平ガラス繊維の集束剤および/または表面処理剤を280℃で10分間加熱して得られるガス成分中、ジメチルアルキルアミンガスの割合が55~90質量%である、<1>~<3>のいずれか1つに記載のペレットの製造方法。
<5>前記扁平ガラス繊維を600℃、2時間加熱した場合の質量減少率が0.7~1.0質量%である、<1>~<4>のいずれか1つに記載のペレットの製造方法。
<6>前記ポリアミド樹脂が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来する、<1>~<5>のいずれか1つに記載のペレットの製造方法。
<7>前記ポリアミド樹脂の96質量%硫酸における相対粘度が2.0~2.5であり、
前記2軸混練押出機のダイ吐出口の樹脂組成物の温度と、前記ポリアミド樹脂の融点の差が77℃以上であり、
前記扁平ガラス繊維の集束剤および/または表面処理剤を280℃で10分間加熱して得られるガス成分中、ジメチルアルキルアミンガスの割合が55~90質量%であり、
前記扁平ガラス繊維を600℃、2時間加熱した場合の質量減少率が0.7~1.0質量%であり、
前記ポリアミド樹脂が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来する、<1>~<6>のいずれか1つに記載のペレットの製造方法。
<8>ポリアミド樹脂100質量部に対し、集束剤および/または表面処理剤を含む扁平ガラス繊維を150~230質量部を含み、
前記扁平ガラス繊維の集束剤および/または表面処理剤を280℃で10分間加熱して得られるガス成分がキシリレンジイソシアネートを含む、樹脂組成物。
<9>前記ポリアミド樹脂の96質量%硫酸における相対粘度が2.0~2.5である、<8>に記載の樹脂組成物。
<10>前記扁平ガラス繊維の集束剤および/または表面処理剤を280℃で10分間加熱して得られるガス成分中、ジメチルアルキルアミンガスの割合が55~90質量%である、<8>または<9>に記載の樹脂組成物。
<11>前記扁平ガラス繊維を600℃、2時間加熱した場合の質量減少率が0.7~1.0質量%である、<8>~<10>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<12>前記ポリアミド樹脂が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来する、<8>~<11>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<13>前記ポリアミド樹脂の96質量%硫酸における相対粘度が2.0~2.5であり、
前記扁平ガラス繊維の集束剤および/または表面処理剤を280℃で10分間加熱して得られるガス成分中、ジメチルアルキルアミンガスの割合が55~90質量%であり、
前記扁平ガラス繊維を600℃、2時間加熱した場合の質量減少率が0.7~1.0質量%であり、
前記ポリアミド樹脂が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来する、<8>~<12>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<14><8>~<13>のいずれか1つに記載の樹脂組成物のペレット。
<15><8>~<13>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された成形品。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、ポリアミド樹脂を含む樹脂組成物であって、機械的強度に優れた成形品を提供可能なペレットの製造方法、樹脂組成物、ならびに、ペレットおよび成形品を提供可能になった。
また、ポリアミド樹脂を含むペレットを安定的に提供できるペレットを製造可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
【0008】
本明細書で示す規格で説明される測定方法等が年度によって異なる場合、特に述べない限り、2023年1月1日時点における規格に基づくものとする。
【0009】
本実施形態の樹脂組成物は、ポリアミド樹脂100質量部に対し、集束剤および/または表面処理剤(以下、「表面処理剤等」ということがある)を含む扁平ガラス繊維を150~230質量部を含み、扁平ガラス繊維の集束剤および/または表面処理剤を280℃で10分間加熱して得られるガス成分がキシリレンジイソシアネートを含むことを特徴とする。
このような構成とすることにより、機械的強度に優れた成形品を提供可能な樹脂組成物が得られる。すなわち、集束剤等の種類を限定し、扁平ガラスを用いることにより、樹脂組成物から得られる成形品の機械的強度を高くすることができる。また、押出時の樹脂の温度と扁平ガラスの含有量を調整することにより、安定的に生産でき、機械物性に優れた樹脂組成物のペレットを提供可能となる。
【0010】
<ポリアミド樹脂>
本実施形態の樹脂組成物は、ポリアミド樹脂を含む。
本実施形態で用いるポリアミド樹脂は特に定めるものではなく、公知のポリアミド樹脂を用いることができる。ポリアミド樹脂は、脂肪族ポリアミド樹脂であっても、半芳香族ポリアミド樹脂であってもよい。
脂肪族ポリアミド樹脂としては、ポリアミド4、ポリアミド46、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド666、ポリアミド610、ポリアミド11、ポリアミド12等が例示される。
本実施形態で用いるポリアミド樹脂は、半芳香族ポリアミド樹脂であることが好ましい。ここで、半芳香族ポリアミド樹脂とは、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位およびジカルボン酸由来の構成単位の合計構成単位の30~70モル%が芳香環を含む構成単位であることをいい、ジアミン由来の構成単位およびジカルボン酸由来の構成単位の合計構成単位の40~60モル%が芳香環を含む構成単位であることが好ましい。このような半芳香族ポリアミド樹脂を用いることにより、得られる樹脂成形品の機械的強度を高くすることができる。半芳香族ポリアミド樹脂としては、テレフタル酸系ポリアミド樹脂(ポリアミド6T、ポリアミド9T)、後述するキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂などが例示される。
【0011】
本実施形態で用いるポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来するポリアミド樹脂(以下、「キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂」ということがある)が好ましい。キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を用いることにより、キシリレンジイソシアネートとの相溶性に優れ、得られる成形品の機械的強度がより向上する傾向にある。
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂のジアミン由来の構成単位は、より好ましくは75モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、一層好ましくは90モル%以上、より一層好ましくは95モル%以上、特に一層好ましくは99モル%以上がキシリレンジアミン(好ましくはパラキシリレンジアミンおよび/またはメタキシリレンジアミン、より好ましくはメタキシリレンジアミン)に由来する。キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂のジカルボン酸由来の構成単位は、好ましくは70モル%以上、より好ましくは75モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、一層好ましくは90モル%以上、より一層好ましくは95モル%以上、特に一層好ましくは99モル%以上が、炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する。
パラキシリレンジアミンとメタキシリレンジアミンは併用して使用してもよい。これらを混合して使用する場合には、キシリレンジアミンにおけるメタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンのモル比率は、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの合計を100モルとしたときに、メタキシリレンジアミン/パラキシリレンジアミンが、10~100/90~0であることが好ましく、30~100/70~0であることがより好ましく、50~100/50~0であることがさらに好ましく、80~100/20~0であることが一層好ましく、90~100/10~0であることがより一層好ましい。
【0012】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の原料ジアミン成分として用いることができるメタキシリレンジアミンおよびパラキシリレンジアミン以外のジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2-メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-トリメチル-ヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環式ジアミン、ビス(4-アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0013】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂は、また、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来することが好ましい。
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の原料ジカルボン酸成分として用いるのに好ましい炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸が例示でき、1種または2種以上を混合して使用できるが、これらの中でもポリアミド樹脂の融点が成形加工するのに適切な範囲となることから、アジピン酸またはセバシン酸がより好ましく、アジピン酸がさらに好ましい。
本実施形態におけるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の好ましい一実施形態としてジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上(好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上)がアジピン酸に由来するものが例示される。
【0014】
上記炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、1,7-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸といったナフタレンジカルボン酸の異性体等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0015】
なお、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を主成分として構成されるが、これら以外の構成単位を完全に排除するものではなく、ε-カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等の脂肪族アミノカルボン酸類由来の構成単位を含んでいてもよいことは言うまでもない。ここで主成分とは、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を構成する構成単位のうち、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位の合計数が全構成単位のうち最も多いことをいう。本実施形態では、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂における、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位の合計は、全構成単位の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましく、97質量%以上を占めることがさらに好ましく、99質量%以上を占めることが一層好ましい。
【0016】
ポリアミド樹脂の相対粘度は、2.0以上であることが好ましく、2.1以上であることがより好ましい。相対粘度の上限は特に定めるものではないが、例えば、2.5以下であり、さらには2.3以下とすることもできる。
本実施形態の樹脂組成物がポリアミド樹脂を2種以上含む場合、相対粘度はポリアミド樹脂の混合物の相対粘度とする。
相対粘度は、以下の方法で求められる。
ポリアミド樹脂を0.2g精秤し、96質量%硫酸20mLに25℃で撹拌溶解する。完全に溶解した後、速やかにキャノン・フェンスケ型粘度計に溶液5mLを取り、25℃の恒温槽中で10分間放置後、溶液の落下時間(t)を測定する。また同様の条件で96質量%硫酸そのものの落下時間(t0)を測定する。tおよびt0から下記式により相対粘度を算出する。
相対粘度=t/t0
【0017】
ポリアミド樹脂の融点は、150~350℃であることが好ましく、180~330℃であることがより好ましく、200~330℃であることがさらに好ましく、200~320℃であることが一層好ましい。本実施形態の樹脂組成物がポリアミド樹脂を2種以上含む場合、最も含有量が多いポリアミド樹脂の融点とする。
【0018】
本明細書において、融点(Tm)は、示差走査熱量測定(DSC)に従い、ISO11357に準拠して、測定した値とする。示差走査熱量計を用い、樹脂を示差走査熱量計の測定パンに仕込み、窒素雰囲気下にて昇温速度10℃/分で融点を超える温度まで昇温し、急冷する前処理を行った後に測定を行う。測定条件は、昇温速度10℃/分で、280℃で5分保持した後、降温速度-5℃/分で100℃まで測定を行い、融点(Tm)を求める。
示差走査熱量計としては、島津製作所社(SHIMADZU CORPORATION)製「DSC-60」を用いる。
【0019】
ポリアミド樹脂は、数平均分子量(Mn)の下限が、6,000以上であることが好ましく、8,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることがさらに好ましく、また、35,000以下が好ましく、30,000以下がより好ましく、25,000以下がさらに好ましく、20,000以下が一層好ましい。このような範囲であると、耐熱性、弾性率、寸法安定性、成形加工性がより良好となる。本実施形態の樹脂組成物がポリアミド樹脂を2種以上含む場合、混合物の数平均分子量とする。
【0020】
ポリアミド樹脂の数平均分子量(Mn)の測定は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリメチルメタクリレート(PMMA)換算値より求める。カラムとしては、充填剤として、スチレン系ポリマーを充填したものを2本用い、溶媒にはトリフルオロ酢酸ナトリウム濃度2mmol/Lのヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を用い、樹脂濃度0.02質量%、カラム温度は40℃、流速0.3mL/分、屈折率検出器(RI)にて測定する。また、検量線は6水準のPMMAをHFIPに溶解させて測定する。
【0021】
本実施形態の樹脂組成物におけるポリアミド樹脂の含有量は、樹脂組成物中、20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、28質量%以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、扁平ガラス繊維の含有率をある程度抑えることで流動性バランスを整えやすい傾向にある。また、本実施形態の樹脂組成物におけるポリアミド樹脂の含有量は、樹脂組成物中、50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましく、42質量%以下であることがさらに好ましい。前記上限値以下とすることにより、扁平ガラス繊維の配合率が高くなり、剛性や強度面で高い物性値が得られやすい傾向にある。
特に、本実施形態の樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂を100質量部としたとき、そのうちキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の割合は、80~100質量部であることが好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、ポリアミド樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
また、本実施形態の樹脂組成物は、ポリアミド樹脂と扁平ガラス繊維の合計が樹脂組成物の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましく、また、100質量%以下を占めることが好ましい。
【0022】
<ガラス繊維>
本実施形態の樹脂組成物は、集束剤および/または表面処理剤を含む扁平ガラス繊維を含み、前記扁平ガラス繊維の集束剤および/または表面処理剤を280℃で10分間加熱して得られるガス成分がキシリレンジイソシアネートを含むことを特徴とする。このような表面処理剤等を用いることにより、ポリアミド樹脂と扁平ガラス繊維の密着性を向上させることができる。また、扁平ガラスを用いることにより、表面処理剤等の付着面積が増え、ポリアミド樹脂との密着性が向上する。ポリアミド樹脂と扁平ガラス繊維の密着性が向上すると、得られる成形品の機械的強度が向上する。また、密着強度が高いため、破断点が発生したとしても、密着している点が多いので、破断を抑制できる。
【0023】
ガラス繊維としては、一般的に供給されるEガラス、Cガラス、Aガラス、Sガラス、Dガラス、Rガラスおよび耐アルカリガラス等のガラスを溶融紡糸して得られる繊維が用いられるが、ガラス繊維にできるものであれば使用可能であり、特に限定されない。本実施形態では、Eガラスを含むことが好ましい。
【0024】
本実施形態で用いるガラス繊維は、集束剤および/または表面処理剤(表面処理剤等)を含む。前記表面処理剤等は、通常、ガラス繊維の表面に有する。前記表面処理剤等は、280℃で10分間加熱して得られるガス成分が、キシリレンジイソシアネート(好ましくはメタキシリレンジイソシアネート)を含む。このような構成とすることにより、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂との密着性が向上する傾向にある。
本実施形態で用いる扁平ガラス繊維においては、ガラス繊維を280℃で10分加熱して発生したガスをTD GC/MSにて分析したとき、ガス100質量%中、キシリレンジイソシアネートガスの割合が、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、また、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、6質量%以下であることが一層好ましい。
本実施形態で用いる扁平ガラス繊維の上記ガス成分について、イソホロンジイソシアネートを実質的に含まないことが好ましい。実質的に含まないとは、上記ガス100質量%中、1質量%以下であることをいい、0.5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%未満であってもよい。
【0025】
本実施形態においては、また、前記表面処理剤等を280℃で10分間加熱して得られるガス成分が、さらに、ジメチルアルキルアミンガスを含むことが好ましい。
【0026】
本実施形態で用いる扁平ガラス繊維におけるジメチルアルキルアミンガスの割合は、扁平ガラス繊維の表面処理剤等を280℃で10分加熱して発生したガスをTD GC/MSにて分析したとき、ガス100質量%中、55質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、65質量%以上であることがさらに好ましく、また、通常、90質量%以下であり、85質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがさらに好ましい。
本実施形態においては、前記発生したガス中、ジメチルアルキルアミンガスを1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。ジメチルアルキルアミンガスを2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0027】
本実施形態で用いる表面処理剤等は、ウレタン系集束剤を含むことが好ましい。ウレタン系集束剤は、通常、イソシアネートとアルコールから得られるものである。本実施形態で用いられるウレタン系集束剤は、イソシアネート成分として、キシリレンジイソシアネートを含むことが好ましい。
【0028】
本実施形態における前記ガス100質量%中、キシリレンジイソシアネートとジメチルアルキルアミンの合計量が、60質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることがより好ましく、69質量%以上であることがさらに好ましく、また、90質量%以下であることが好ましく、88質量%以下であることがより好ましい。
【0029】
本実施形態で用いる扁平ガラス繊維は、600℃、2時間加熱した場合の質量減少率が0.7質量%以上であることが好ましく、0.75質量%以上であることがより好ましく、0.80質量%以上であることがさらに好ましく、0.85質量%以上であることが一層好ましく、0.90質量%以上であることがより一層好ましい。質量減少率を前記下限値以上とすることにより、ガラス繊維とポリアミド樹脂の密着性がより向上する傾向にある。また、本実施形態で用いる扁平ガラス繊維の600℃、2時間加熱した場合の質量減少率は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.95質量%以下であることがより好ましい。質量減少率を前記上限値以下とすることにより、ガラス繊維の解繊性がより向上する傾向にある。
質量減少率は、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0030】
本実施形態で用いるガラス繊維の断面は、扁平である。扁平とは、ガラス繊維の断面が非円形であることをいい、楕円形、長円形等を含む趣旨である。ここで、本実施形態で用いる扁平ガラスは、扁平率が1.1以上であることが好ましく、2.0以上であることがより好ましく、3.0以上であることがさらに好ましく、また、10.0以下であることが好ましく、8.0以下であることがより好ましく、6.0以下であることがさらに好ましい。前記扁平率を前記下限値以上とすることにより、ガラス繊維断面の表面積が増加するため、ガラス繊維とポリアミド樹脂との密着性が向上し、さらに、成形品の反りや成形収縮を効果的に改善することができる。また、前記扁平率を上記上限値以下とすることにより、ポリアミド樹脂との混合、混練時や、樹脂組成物の成形時にポリアミド樹脂に加わる荷重によりガラス繊維が破砕されることを効果的に抑制できる。
ここで、扁平率は、以下の通り定義される。
扁平率=ガラス繊維断面の長径(d1)/ガラス繊維断面の短径(d2)
すなわち(d1)/(d2)比はガラス繊維の断面の扁平の程度を示している。なお、扁平率は、ガラス繊維断面を顕微鏡観察し、ガラス繊維断面の長径(d1)およびガラス繊維断面の短径(d2)の実寸を測定することにより求めることができる。測定に際し、電子顕微鏡を用い、ランダムに取り出した100個の値を測定した平均値とする。ガラス繊維の断面積等についても同様に測定する。
【0031】
ガラス繊維の扁平形状の例としては、特開昭62-268612号公報の第1図の(イ)に示されているような長手方向の中央部がくびれた形状である繭形、(ロ)に示されているような断面の重心に対して対称の位置に略平行である部分を有する形状である長円形、(ハ)に示されているような楕円形が挙げられる。扁平形状が繭型である場合、本実施形態における長径(d1)は特開昭62-268612号公報の第1図(イ)のaに相当し、短径(d2)はbに相当する。長円形である場合は、長径(d1)は特許文献2の第1図(ロ)のaに相当し、短径(d2)はbに相当する。楕円形である場合は、長径(d1)は特許文献2第1図(ハ)のaに相当し、短径(d2)はbに相当する。
【0032】
本実施形態で用いる扁平ガラスの断面の直径(円相当直径)は、10μm以上であることが好ましく、12μm以上であることがより好ましく、また、20μm以下であることが好ましく、18μm以下であることがより好ましい。
円相当直径とは、扁平ガラスの断面の断面積と同じ面積の円の直径を意味する。
【0033】
本実施形態で用いる扁平ガラス繊維は、数平均繊維長が100μm以上であることが好ましく、150μm以上であることがより好ましく、200μm以上であることがさらに好ましい。上限値としては、7mm以下であることが好ましく、6mm以下であることがより好ましく、5mm以下であることがさらに好ましい。
本実施形態では、扁平ガラス繊維は、チョップドストランドが好ましい。
【0034】
本実施形態の樹脂組成物における扁平ガラス繊維の含有量は、ポリアミド樹脂100質量部に対し、150質量部以上であり、用途等に応じて、160質量部以上、170質量部以上、180質量部以上、190質量部以上、200質量部以上であってもよい。上記下限値以上とすることにより、機械的強度を向上させることができる。また、本実施形態の樹脂組成物におけるガラス繊維の含有量は、ポリアミド樹脂100質量部に対し、230質量部以下であり、225質量部以下であることが好ましく、220質量部以下であることがより好ましい。一方、扁平ガラス繊維の量を上記上限値以下とすることにより、得られる成形品の外観がより向上する傾向にある。
また、本実施形態の樹脂組成物における扁平ガラス繊維の含有量は、樹脂組成物100質量%に対し、55~70質量%であることが好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、扁平ガラス繊維を、1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0035】
本実施形態の樹脂組成物は、所定の表面処理剤等を含む扁平ガラス繊維以外の強化フィラーを含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。本実施形態の樹脂組成物は、所定の表面処理剤等を含む扁平ガラス繊維以外の強化フィラーを実質的に含まないことが好ましい。実質的に含まないとは、所定の表面処理剤等を含む扁平ガラス繊維以外の強化フィラーの含有量が、樹脂組成物に含まれる所定の表面処理剤等を含む扁平ガラス繊維の含有量の10質量%以下であることをいい、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0036】
<核剤>
本実施形態の樹脂組成物は、核剤を含んでいてもよい。核剤を含むことによって、得られる成形品の外観を良好にすることができる。核剤は、タルクが好ましい。タルクは、ポリオルガノハイドロジェンシロキサン類およびオルガノポリシロキサン類から選択される化合物の少なくとも1種で表面処理されたものを用いてもよい。この場合、タルクにおけるシロキサン化合物の付着量は、タルクの0.1~5質量部であることが好ましい。
【0037】
本実施形態の樹脂組成物が核剤を含む場合、その含有量は、樹脂組成物100質量部に対し、0.1質量部以上であることが好ましく、また、2.0質量部以下であることが好ましく、1.5質量部以下であることがより好ましく、1.2質量部以下であることがさらに好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、核剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0038】
<離型剤>
本実施形態の樹脂組成物は、離型剤を含むことが好ましい。
離型剤は、主に、樹脂組成物の成形時の生産性を向上させるために使用されるものである。離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸アミド系、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200~15000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイル、高級脂肪酸金属塩などが挙げられ、高級脂肪酸金属塩が好ましい。
高級脂肪酸金属塩を構成する高級脂肪酸は、好ましくは炭素数8以上の脂肪酸であり、より好ましくは8~40の脂肪酸である。脂肪酸は、モノカルボン酸であることが好ましい。高級脂肪酸の例には、オクチル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸、セバシン酸などの飽和の脂肪酸や、エルカ酸、オレイン酸、リシノール酸などの不飽和の脂肪酸が含まれ、好ましくはモンタン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、およびベヘン酸であり、さらに好ましくはモンタン酸である。
本実施形態で用いることができる高級脂肪酸金属塩は、上記高級脂肪酸の金属塩であることが好ましい。金属塩を形成する金属元素の例には、ナトリウム、カリウムなどの第1族元素(アルカリ金属);カルシウム、マグネシウム、バリウムなどの第2族元素(アルカリ土類金属);亜鉛、アルミニウムなどの第3族元素が含まれ、好ましくはカルシウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩、アルミニウム塩であり、より好ましくはカルシウム塩である。
高級脂肪酸金属塩の例には、12-ヒドロキシステアリン酸カルシウム、12-ヒドロキシステアリン酸亜鉛、12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウム、12-ヒドロキシステアリン酸アルミニウム、ベヘン酸カルシウム、ベヘン酸亜鉛、ベヘン酸マグネシウム、モンタン酸カルシウム、モンタン酸亜鉛、モンタン酸マグネシウム、モンタン酸アルミニウムが含まれ、好ましくはモンタン酸カルシウムである。
【0039】
離型剤の詳細は、上記の他、特開2016-196563号公報の段落0037~0042の記載、特開2021-161125号公報の段落0067~0070の記載、および、特開2016-078318号公報の段落0048~0058の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0040】
離型剤の含有量は、樹脂組成物100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、より好ましくは0.1質量部以上であり、また、上限は、1質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.8質量部以下であり、さらに好ましくは0.5質量部以下である。このような範囲とすることによって、射出成形等の金型成形をする場合などに、離型性を良好にすることができ、また、金型汚染を効果的に抑制することができる。
離型剤は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。2種以上用いる場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0041】
<着色剤>
本実施形態の樹脂組成物は、着色剤、特に、黒色着色剤を含んでいてもよい。
黒色着色剤の種類は特に定めるものではないが、カーボンブラック、チタンブラックなどの顔料、ニグロシンおよびアニリンブラックが例示され、カーボンブラックが好ましい。
【0042】
本実施形態に用いるカーボンブラックとしては、従来公知の任意のカーボンブラックを用いることができる。例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等が挙げられる。中でも隠蔽力に優れる、DBP吸収量が30~300g/100cm3のカーボンブラック、特にファーネスブラックを用いることにより、安定した色調を発現させることができるので好ましい。
【0043】
本実施形態の樹脂組成物における着色剤(好ましくは、黒色着色剤)の含有量は、樹脂組成物100質量部に対し、0.1質量部以上であることが好ましく、また、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、3質量部以下であることがさらに好ましく、2質量部以下であることが一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、より高い機械特性が得られる傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は、着色剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0044】
<他の添加剤>
本実施形態の樹脂組成物は、上記以外の添加剤(他の添加剤)を含んでいてもよい。
他の添加剤としては、耐衝撃改良材、アルカリ、酸化チタン、耐加水分解性改良剤、艶消剤、可塑剤、分散剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤、着色剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、難燃剤等が例示される。これらの詳細は、特許第4894982号公報の段落0130~0155の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
また、本実施形態の樹脂組成物には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、国際公開第2021/241471号の段落0047~0103に記載の添加剤を配合でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
他の添加剤は、樹脂組成物100質量部に対し、合計で20.0質量部以下であることが好ましく、10.0質量部以下であることがより好ましく、5.0質量部以下であることがさらに好ましく、1.0質量部以下であることが一層好ましい。他の添加剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
<樹脂組成物の製造方法>
本実施形態において、樹脂組成物の製造方法は、特に定めるものではなく、公知の熱可塑性樹脂組成物の製造方法を広く採用できる。具体的には、各成分を、タンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸押出機、2軸押出機、ニーダーなどで溶融混練することによって樹脂組成物を製造することができる。本実施形態では、2軸押出機を用いて溶融混練することが好ましい。
【0046】
また、例えば、各成分を予め混合せずに、または、一部の成分のみを予め混合し、フィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練して、樹脂組成物を製造することもできる。
さらに、例えば、一部の成分を予め混合し押出機に供給して溶融混練することで得られる組成物をマスターバッチとし、このマスターバッチを再度残りの成分と混合し、溶融混練することによって、ペレットを製造することもできる。
【0047】
より好ましくは、本実施形態のペレットの製造方法は、ポリアミド樹脂100質量部に対し、集束剤および/または表面処理剤を含む扁平ガラス繊維を150~230質量部を含み、前記扁平ガラス繊維の集束剤および/または表面処理剤を280℃で10分間加熱して得られるガス成分がキシリレンジイソシアネートを含む、樹脂組成物のペレットの製造方法であって、前記樹脂組成物のペレット製造時に、2軸混練押出機を用い、かつ、前記2軸混練押出機のダイ吐出口の樹脂組成物の温度が323~355℃であることを特徴とする。このように、特定の表面処理剤等を含む扁平ガラス繊維を所定量用い、かつ、押出時のダイ吐出口の樹脂組成物の温度を高く設定することで、安定的かつ優れた機械特性を有する成形品を提供することが可能になる。
本実施形態のペレットの製造方法において、ポリアミド樹脂、扁平ガラス繊維、ないし、樹脂組成物については、上述のポリアミド樹脂、扁平ガラス繊維、ないし、樹脂組成物と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0048】
本実施形態において、ダイ吐出口の樹脂組成物の温度は、例えば、押出機のシリンダー温度や回転数を調整することによって達成することができる。
本実施形態においては、ダイ吐出口の樹脂組成物の温度が323℃以上であることが好ましく、325℃以上であることがより好ましく、327℃以上であることがさらに好ましく、330℃以上であることが一層好ましく、335℃以上であることがより一層好ましく、340℃以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、ガラス繊維中のカップリング剤とポリアミド樹脂の反応がより効果的に促進される傾向にある。また、前記ダイ吐出口の樹脂組成物の温度は、355℃以下であることが好ましく、354℃以下であることがより好ましく、353℃以下であることがさらに好ましく、352℃以下であることが一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、ポリアミド樹脂の分解をより効果的に抑制できる傾向にある。
また、本実施形態においては、2軸混練押出機のダイ吐出口の樹脂組成物の温度と、ポリアミド樹脂の融点の差が77℃以上であることが好ましい。前記押出機のダイ吐出口の樹脂組成物の温度(樹脂温度)とポリアミド融点の差を下限値以上とすることにより、ポリアミド樹脂の溶融粘度をより低くできる傾向にある。前記融点差は、77℃以上であることが好ましく、79℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることがさらに好ましく、85℃以上であることが一層好ましく、93℃以上であることがより一層好ましく、95℃以上であることがさらに一層好ましく、100℃以上であることがよりさらに一層好ましい。前記押出機のダイ吐出口の樹脂温度とポリアミド融点の差の上限値としては、140℃以下であることが好ましく、120℃以下であることがより好ましく、108℃以下であることがさらに好まい。前記上限値以下とすることにより、ポリアミド樹脂の分解をより効果的に抑制できる傾向にある。
【0049】
<成形品>
本実施形態の成形品は、本実施形態の樹脂組成物ないしペレットから形成される。
本実施形態の成形品の製造方法は、特に定めるものではない。一例として、射出成形により成形した射出成形品が例示される。
例えば、本実施形態の成形品は、各成分を溶融混練した後、直接に各種成形法で成形してもよいし、各成分を溶融混練してペレット化した後、再度、溶融して、各種成形法で成形してもよい。
【0050】
樹脂組成物ないしペレットから成形品を成形する方法としては、特に制限されず、従来公知の成形法を採用でき、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、異形押出法、トランスファー成形法、中空成形法、ガスアシスト中空成形法、ブロー成形法、押出ブロー成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、回転成形法、多層成形法、2色成形法、インサート成形法、サンドイッチ成形法、発泡成形法、加圧成形法等が挙げられる。
【0051】
本実施形態の成形品の形状としては、特に制限はなく、成形品の用途、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、板状、プレート状、ロッド状、シート状、フィルム状、円筒状、環状、円形状、楕円形状、歯車状、多角形形状、異形品、中空品、枠状、箱状、パネル状のもの等が挙げられる。
【0052】
本実施形態の成形品の利用分野については特に定めるものではなく、自動車等輸送機部品、一般機械部品、精密機械部品、電子・電気機器部品、OA機器部品、建材・住設関連部品、医療装置、レジャースポーツ用品、遊戯具、医療品、食品包装用フィルム等の日用品、防衛および航空宇宙製品等に広く用いられる。
【実施例0053】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0054】
1.原料
以下の原料を用いた。
<ポリアミド>
MXD6:三菱ガス化学社製、#6000、メタキシリレンジアミンとアジピン酸から合成されたポリアミド樹脂、融点243℃、相対粘度(RV)=2.1
PA66:U4800、Invista社、ポリアミド66、融点265℃、RV=2.7
PA6:UBE社製、品番1011FB、RV=2.2
【0055】
<核剤>
タルク:ミクロンホワイトMW5000S、林化成社製、平均粒径5μm
【0056】
<離型剤>
CS8CP:日東化成工業社製、モンタン酸カルシウム
【0057】
<着色剤>
#45:三菱カーボンブラック#45、三菱ケミカル社製、カーボンブラック
【0058】
<ガラス繊維>
下記表1に示すガラス繊維を用いた。
【表1】
【0059】
上記表1において、GFはガラス繊維を意味する。
GF-AおよびGF-Bは、CSG 3PA-810Sで用いられるウレタン系集束剤で表面処理されたガラス繊維において、イソホロンジイソシアネートをm-キシリレンジイソシアネートに変更し、かつ、m-キシリレンジイソシアネートとジメチルアルキルアミンの含有量を上記表1に示すガス成分量となるように調整して、製造した。
【0060】
<<ガラス繊維の加熱発生ガス分析>>
各ガラス繊維について、サンプル5gを600℃で2時間の加熱処理し、質量減少率(単位質量%)を確認した。
また、各ガラス繊維1gを280℃で10分加熱して発生したガスについて、TD GC/MS分析した。
発生ガス量総量を100質量%としたときの、イソホロンジイソシアネート、m-キシリレンジイソシアネートおよびジメチルアルキルアミンの割合(質量%)を測定した。
【0061】
2.実施例1~9、比較例1~14
<コンパウンド>
表2~表5に示す通り、それぞれ秤量し(各成分の単位は、質量部である)、ガラス繊維以外の成分をタンブラーにてブレンドし、2軸混練押出機(芝浦機械社製、TEM26SS)の根元から投入し、溶融した。その後、ガラス繊維をサイドフィードしてポリアミド樹脂のペレットを作製した。2軸混練押出機バレル設定温度は、表2~5に記載した。
【0062】
<押出機のダイ吐出口樹脂温度>
押出機のダイ出口の樹脂組成物の温度は、以下の方法により測定した。
具体的には、携帯用温度計(DP-350、理化工業株式会社製)を使用し、ダイ出口から吐出された樹脂を表示温度が安定するまでセンサー部に接触させ、安定した際の表示温度を押出機のダイ出口の樹脂組成物の温度(押出機のダイ吐出口樹脂温度、単位:℃)とした。
【0063】
<曲げ特性>
上記の製造方法で得られたペレットを120℃で4時間乾燥させた後、射出成形機(日精樹脂工業社製、「NEX140III」)にて、シリンダー温度290℃、金型温度130℃、成形サイクル50秒の条件で、ISO多目的試験片(4mm厚)を射出成形した。
ISO178に準拠して、23℃の温度で曲げ弾性率(単位:GPa)および曲げ強さ(単位:MPa)を測定した。
【0064】
<引張強さ>
上記の製造方法で得られたペレットを120℃で4時間乾燥させた後、射出成形機(日精樹脂工業社製、「NEX140III」)にて、シリンダー温度290℃、金型温度130℃、成形サイクル50秒の条件で、ISO引張試験片タイプA1(4mm厚)を射出成形した。
得られたISO引張試験片(4mm厚)について、ISO527-1、2に準拠して、温度23℃、湿度50%の環境下で、標線間距離50mmにて、引張強さ(単位:MPa)を測定した。
【0065】
<引張強さと曲げ強さの和>
引張強さと曲げ強さの和(MPa)を算出した。
【0066】
<ポリアミド樹脂の相対粘度(RV)>
各実施例・比較例に記載の樹脂組成物で用いたポリアミド樹脂(2種以上のポリアミド樹脂を含む場合は混合物)を0.2g精秤し、96質量%硫酸20mLに25℃で撹拌溶解した。完全に溶解した後、速やかにキャノン・フェンスケ型粘度計に溶液5mLを取り、25℃の恒温槽中で10分間放置後、溶液の落下時間(t)を測定した。また同様の条件で96質量%硫酸そのものの落下時間(t0)を測定した。tおよびt0から下記式により相対粘度を算出した。
相対粘度=t/t0
【0067】
<押出機のダイ吐出口樹脂温度とポリアミド融点の差>
押出機のダイ吐出口の樹脂組成物の温度とポリアミド樹脂の融点の差を算出した。
【0068】
<機械物性評価>
機械物性について、以下の通り、総合的に評価した。
A:引張強さと曲げ強さの和が750MPa以上
B:引張強さと曲げ強さの和が700MPa以上750MPa未満
C:引張強さと曲げ強さの和が650MPa以上700MPa未満
D:引張強さと曲げ強さの和が650MPa未満
【0069】
<押出性評価>
押出性について、以下の通り総合的に評価した。評価に際し、5人の専門家が行い多数決で判断した。
A:ストランド切れがなく押出性は良好だった
B:稀にストランド切れが発生するが押出性は良好だった
C:ストランド切れの頻度が高く押出性が悪かった
D:樹脂の分解、発泡により押出自体が不可となった
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【0072】
【表4】
【0073】
【表5】
【0074】
上記結果から明らかなとおり、本実施形態の樹脂組成物から得られた成形品は、機械的強度に優れていた(実施例1~9)。さらに、2軸混練押出機のダイ吐出口の樹脂組成物の温度を所定の範囲とし、かつ、扁平ガラス繊維の含有量を調整することにより、押出性に優れた、すなわち、生産安定性に優れた樹脂組成物のペレットを提供できた。特に、ポリアミド樹脂としてキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を用いることにより、より優れた機械的強度を有する成形品が得られた(実施例1~8)。
これに対し、所定の集束剤等を用いていない場合、得られる成形品の機械的強度が大きく劣っていた(比較例3~8)。
また、ガラス繊維として円形断面を有するものを用いた場合、所定の集束剤等を用いるか否かに関わらず、得られる成形品の機械的強度が大きく劣っていた(比較例9~14)。