特開 2024-142924 主桁に作用する応力を低減する方法及び構造

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】公開特許公報(A)

(11)【公開番号】P2024142924

(43)【公開日】2024-10-11

(54)【発明の名称】主桁に作用する応力を低減する方法及び構造

(51)【国際特許分類】

   E01D 22/00 20060101AFI20241003BHJP

   E01D 21/00 20060101ALI20241003BHJP

   E01D 19/12 20060101ALI20241003BHJP

【ＦＩ】

E01D22/00 A

E01D21/00 B

E01D19/12

【審査請求】未請求

【請求項の数】10

【出願形態】ＯＬ

(21)【出願番号】P 2023055339

(22)【出願日】2023-03-30

(71)【出願人】

【識別番号】000000549

【氏名又は名称】株式会社大林組

(74)【代理人】

【識別番号】110000213

【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所

(74)【代理人】

【識別番号】100171619

【弁理士】

【氏名又は名称】池田 顕雄

(72)【発明者】

【氏名】玉田 和法

(72)【発明者】

【氏名】仲田 宇史

(72)【発明者】

【氏名】梅田 悠輔

【テーマコード（参考）】

2D059

【Ｆターム（参考）】

2D059AA05

2D059AA11

2D059AA17

2D059GG40

2D059GG55

(57)【要約】      （修正有）

【課題】既設合成桁の床版取替工事において仮設床版１２が配設されている期間中に主桁２０に作用する応力をより容易且つ確実に低減する。
【解決手段】合成桁の既設床版１１を撤去し橋軸方向に作用する力に対して剛体とみなすことが可能な強度を有する仮設床版１２を既設床版１１の撤去箇所に配設した状態である仮設状態とした後に仮設床版１２を撤去し仮設床版１２の撤去箇所に新設床版１３を配設する床版取替工法において、仮設状態において橋軸方向ＡＸにおいて仮設床版１２に隣接する他の床版と仮設床版１２との間の空間である隙間Ｇの少なくとも一部に型枠３１を配設し流動性を有する充填材３２を型枠３１の中に打設し充填材３２を硬化させる。
【選択図】図７

【特許請求の範囲】

【請求項1】

合成桁の既設床版を撤去し、橋軸方向に作用する力に対して剛体とみなすことが可能な強度を有する床版である仮設床版を前記既設床版の撤去箇所に配設した状態である仮設状態とした後、前記仮設床版を撤去し、前記仮設床版の撤去箇所に新設床版を配設する床版取替工法において、
前記橋軸方向において前記仮設床版に隣接する他の床版である隣接床版と前記仮設床版との間の空間である隙間の少なくとも一部に型枠を配設し、流動性を有する充填材を前記型枠の中に打設し、前記充填材を硬化させる、
ことを特徴とする、主桁に作用する応力を低減する方法。

【請求項2】

請求項１に記載された主桁に作用する応力を低減する方法であって、
前記充填材が硬化する前は少なくとも前記橋軸方向において伸縮自在であるように前記型枠が構成されている、
ことを特徴とする、主桁に作用する応力を低減する方法。

【請求項3】

請求項２に記載された主桁に作用する応力を低減する方法であって、
柔軟性を有するシート状部材を前記型枠の内側に予め配設しておき、前記シート状部材の内側に前記充填材を打設する、
ことを特徴とする、主桁に作用する応力を低減する方法。

【請求項4】

請求項１乃至請求項３の何れか１項に記載された主桁に作用する応力を低減する方法であって、
隣接する前記仮設床版に対向する前記新設床版の端面の前記軸力伝達部材が配設される領域である仮設間詰領域に継手用鉄筋が突出していない、
ことを特徴とする、主桁に作用する応力を低減する方法。

【請求項5】

請求項４に記載された主桁に作用する応力を低減する方法であって、
隣接する前記仮設床版及び前記軸力伝達部材の撤去後に前記仮設床版の撤去箇所に配設される前記新設床版と接続するための部材である接続部材を取り付けるための部材である連結部材が前記仮設間詰領域に設けられている、
ことを特徴とする、主桁に作用する応力を低減する方法。

【請求項6】

合成桁の既設床版を撤去し、橋軸方向に作用する力に対して剛体とみなすことが可能な強度を有する仮設床版を前記既設床版の撤去箇所に配設した状態である仮設状態とした後、前記仮設床版を撤去し、前記仮設床版の撤去箇所に新設床版を配設する床版取替工法において、
前記橋軸方向において前記仮設床版に隣接する他の床版である隣接床版と前記仮設床版との間の空間である隙間の少なくとも一部に、硬化済みの充填材によって構成された軸力伝達部材が配設されてなる、
ことを特徴とする、主桁に作用する応力を低減する構造。

【請求項7】

請求項６に記載された主桁に作用する応力を低減する構造であって、
型枠及び前記型枠の内部において硬化済みの前記充填材によって前記軸力伝達部材が構成されており、
前記充填材が硬化する前は少なくとも前記橋軸方向において伸縮自在であるように前記型枠が構成されている、
ことを特徴とする、主桁に作用する応力を低減する構造。

【請求項8】

請求項７に記載された主桁に作用する応力を低減する構造であって、
前記充填材に隣接する床版及び前記型枠と前記充填材との間に介装された柔軟性を有するシート状部材を前記軸力伝達部材が更に備える、
ことを特徴とする、主桁に作用する応力を低減する構造。

【請求項9】

請求項６乃至請求項８の何れか１項に記載された主桁に作用する応力を低減する構造であって、
隣接する前記仮設床版に対向する前記新設床版の端面の前記軸力伝達部材が配設される領域である仮設間詰領域から継手用鉄筋が突出しておらず、
前記軸力伝達部材の内部に前記継手用鉄筋が埋設されていない、
ことを特徴とする、主桁に作用する応力を低減する構造。

【請求項10】

請求項９に記載された主桁に作用する応力を低減する構造であって、
隣接する前記仮設床版及び前記軸力伝達部材の撤去後に前記仮設床版の撤去箇所に配設される前記新設床版と接続するための部材である接続部材を取り付けるための部材である連結部材が前記仮設間詰領域に設けられている、
ことを特徴とする、主桁に作用する応力を低減する構造。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本開示は、主桁に作用する応力を低減する方法及び構造に関し、特に、橋梁床版取替工事において撤去された既設床版の代わりに仮設床版が配設されている期間中に主桁に作用する応力の低減に好適な技術に関する。

【背景技術】

【0002】

従来工法による既設合成桁の床版取替工事においては、既設床版の一定区間を撤去し、当該区間に新設床版を配設し、舗装等の養生を施した後に交通を開放する（例えば、特許文献１を参照）。このような従来工法においては、交通量が少ない夜間に限り１車線規制（以降、「夜間１車線規制」とも称する。）を行う場合がある。この場合、連続して工事を行うことが可能な期間である交通遮断期間が夜間のみに限られるため、既設床版の撤去から新設床版の配設を経て舗装等の養生を完了するまでの一連の施工を１つの交通遮断期間内に完了することが困難又は不可能である。

【0003】

そこで、撤去された既設床版の代わりに仮設床版が配設された状態（以降、「仮設状態」とも称する。）を経ることにより交通遮断期間を比較的短い複数の期間に分割して床版を取り替える床版取替工法が採用される。しかしながら、仮設床版は交通遮断期間の間に交通を開放するために配設される暫定的な床版であり、主桁と完全には固定されていない。即ち、仮設状態においては、床版と主桁とが一体化されていない非合成桁となっている。非合成桁においては、施工時における重機等の荷重及び交通が開放された際における輪荷重等の橋面上の荷重を主桁のみによって支えることとなるので、主桁の上部に作用する圧縮応力及び下部に作用する引張応力が合成桁に比べてより大きくなる。

【0004】

そこで、従来工法においては、例えば主桁のウェブ（上側フランジの近傍）にアングル材をボルトによって取り付けたり、Ｈ型鋼を横方向に渡して隣り合う主桁同士を繋いだりして、主桁を補強する必要があった。このような補強部材の取り付けは既設床版を撤去する前に行われるが、桁下の空間は狭隘であるため補強部材の揚重及び取り付けは困難であった。

【0005】

当該技術分野においては、上記課題を解決しつつ仮設状態において主桁に作用する応力を低減する試みがなされている。例えば、特許文献２に開示された発明に係る床版取替工法においては、仮設床版に隣接する床版（既設床版及び新設床版）と仮設床版との間にジャッキを配設することにより、仮設床版を介して軸力を伝達させる。当該技術によれば、主桁の上方に設置されたストラットとして仮設床版を機能させることができるので、仮設状態においても十分な剛性を確保して主桁に作用する応力を低減することができる。

【0006】

しかしながら、仮設床版に隣接する床版と仮設床版との間（以降、単に「隙間」とも称する）の幅は、例えば橋梁の設計及び／又は施工誤差等に起因して必ずしも一定ではなく、ジャッキが隙間に収まらない場合がある。また、例えば隣接する床版同士が対向する面の凹凸及び／又は傾き等によっては所期の軸力伝達効果が得られないことが懸念される。更に、仮設床版の幅員方向の長さ及び／又は仮設床版を配設する個数によっては、多数のジャッキを用意する必要があるので工費及び／又は労力の増大に繋がる虞もある。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0007】

【特許文献1】特開２００５－２８２２７２号公報

【特許文献2】特開２０２２－６９１３号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0008】

前述したように、当該技術分野においては、既設合成桁の床版取替工事において仮設床版が配設されている期間中に主桁に作用する応力をより容易且つ確実に低減することが可能な技術が要求されている。

【0009】

本開示は、上記課題に鑑みてなされたものであり、既設合成桁の床版取替工事において仮設床版が配設されている期間中に主桁に作用する応力の低減に好適な方法及び構造を提供することを目的とする。

【課題を解決するための手段】

【0010】

本発明者は、鋭意研究の結果、床版取替工事における仮設状態において仮設床版に隣接する他の床版である隣接床版と仮設床版との間の空間の少なくとも一部に型枠を配設し当該型枠に充填材を流し込んで硬化させることにより上記課題を解決することができることを見出した。

【0011】

具体的には、本開示に係る主桁に作用する応力を低減する方法（以降、「本開示方法」とも称する。）は、床版取替工法において主桁に作用する応力を低減する方法である。本開示方法が適用される床版取替工法においては、合成桁の既設床版を撤去し、既設床版の撤去箇所に仮設床版を配設した後、仮設床版を撤去し、仮設床版の撤去箇所に新設床版を配設する。仮設床版は、橋軸方向に作用する力に対して剛体とみなすことが可能な強度を有する床版である。

【0012】

本開示方法は、既設床版の撤去箇所に仮設床版を配設した状態である仮設状態において主桁に作用する応力を低減する。具体的には、本開示方法においては、橋軸方向において仮設床版に隣接する他の床版である隣接床版と仮設床版との間の空間である隙間の少なくとも一部に型枠を配設し、流動性を有する充填材を型枠の中に打設し、充填材を硬化させる。

【0013】

本開示方法の他の態様は、充填材が硬化する前は少なくとも橋軸方向において伸縮自在であるように型枠が構成されていることを特徴とする。

【0014】

本開示方法の他の態様は、柔軟性を有するシート状部材を型枠の内側に予め配設しておき、シート状部材の内側に充填材を打設することを特徴とする。

【0015】

本開示方法の他の態様は、隣接する仮設床版に対向する新設床版の端面の軸力伝達部材が配設される領域である仮設間詰領域に継手用鉄筋が突出していないことを特徴とする。

【0016】

本開示方法の他の態様は、隣接する仮設床版及び軸力伝達部材の撤去後に仮設床版の撤去箇所に配設される新設床版と接続するための部材である接続部材を取り付けるための部材である連結部材が仮設間詰領域に設けられていることを特徴とする。

【0017】

本明細書の冒頭において述べたように、本開示は、主桁に作用する応力を低減する方法のみならず、主桁に作用する応力を低減する構造にも関する。

【0018】

本開示に係る主桁に作用する応力を低減する構造（以降、「本開示構造」とも称する。）は、床版取替工法において主桁に作用する応力を低減する構造である。本開示構造が適用される床版取替工法においては、合成桁の既設床版を撤去し、既設床版の撤去箇所に仮設床版を配設した後、仮設床版を撤去し、仮設床版の撤去箇所に新設床版を配設する。仮設床版は、橋軸方向に作用する力に対して剛体とみなすことが可能な強度を有する床版である。

【0019】

本開示構造は、既設床版の撤去箇所に仮設床版を配設した状態である仮設状態において主桁に作用する応力を低減する。具体的には、本開示構造は、橋軸方向において仮設床版に隣接する他の床版である隣接床版と仮設床版との間の空間である隙間の少なくとも一部に、硬化済みの充填材によって構成された軸力伝達部材が配設されてなる。

【0020】

本開示構造の他の態様は、型枠及び型枠の内部において硬化済みの充填材によって軸力伝達部材が構成されており、充填材が硬化する前は少なくとも橋軸方向において伸縮自在であるように型枠が構成されていることを特徴とする。

【0021】

本開示構造の他の態様は、充填材に隣接する床版及び型枠と充填材との間に介装された柔軟性を有するシート状部材を軸力伝達部材が更に備えることを特徴とする。

【0022】

本開示構造の他の態様は、隣接する仮設床版に対向する新設床版の端面の軸力伝達部材が配設される領域である仮設間詰領域から継手用鉄筋が突出しておらず、軸力伝達部材の内部に継手用鉄筋が埋設されていないことを特徴とする。

【0023】

本開示構造の他の態様は、隣接する仮設床版及び軸力伝達部材の撤去後に仮設床版の撤去箇所に配設される新設床版と接続するための部材である接続部材を取り付けるための部材である連結部材が仮設間詰領域に設けられていることを特徴とする。

【発明の効果】

【0024】

本開示に係る方法及び構造によれば、既設合成桁の床版取替工事において仮設床版が配設されている期間中に主桁に作用する応力をより容易且つ確実に低減することができる。

【図面の簡単な説明】

【0025】

【図1】本開示に係る主桁に作用する応力を低減する方法（本開示方法）が適用される床版取替工法における各施工工程の流れを示すフローチャートである。

【図2】１回目の夜間１車線規制期間における床版取替工事の施工手順を例示する模式図である。

【図3】２回目の夜間１車線規制期間における床版取替工事の施工手順を例示する模式図である。

【図4】従来工法における対面通行規制による床版取替工事と夜間１車線規制による床版取替工事とを比較する模式図である。

【図5】本開示方法において使用される仮設床版の構成の一例を示す模式的な斜視図である。

【図6】合成桁及び非合成桁において主桁に作用する応力の大きさの差異を説明する模式図である。

【図7】隣接床版と仮設床版との隙間に配設された型枠の中に流し込まれた充填材を硬化させることによって軸力伝達部材が形成される様子を例示する模式図である。

【図8】図７に例示したようにして仮設床版と隣接床版との隙間に軸力伝達部材が配設された部分の構成の一例を示す模式図である。

【図9】本開示方法が適用された仮設状態における仮設床版の設置例を示す模式図である。

【図10】仮設状態における隣接床版と仮設床版との隙間における軸力伝達部材の有無による主桁に作用する応力の違いを説明する模式的な断面図である。

【図11】橋軸方向において伸縮自在である型枠の具体例を示す模式的な斜視図である。

【図12】図１１の（ａ）に例示した樹脂製角形Ｕ字溝によって構成された型枠が仮設床版と新設床版との隙間に配設された状態を例示する模式的な斜視図である。

【図13】仮設床版と新設床版との隙間における所定の位置に配設された型枠の内側にシート状部材が予め配設された状態を示す模式図である。

【図14】図１３に例示する本開示技術が適用された仮設状態における仮設床版の設置例を示す模式図である。

【図15】仮設間詰領域から継手用鉄筋が突出していない新設床版と仮設床版の隙間に軸力伝達部材が配設された部分の構成の一例を示す模式図である。

【図16】接続部材を取り付けるための部材である連結部材が仮設間詰領域に設けられている新設床版を使用する本開示技術を説明する模式図である。

【発明を実施するための形態】

【0026】

以下、図面を参照しながら本開示に係る主桁に作用する応力を低減する方法（本開示方法）及び構造（本開示構造）について説明する。

【0027】

〈構成〉
本開示方法及び本開示構造（以下、「本開示の技術」とも称する）は、例えば橋梁等における床版取替工法において、主桁に作用する応力を低減する技術を提供するものである。本開示の技術が適用される床版取替工法においては、合成桁の既設床版を撤去し、既設床版の撤去箇所に仮設床版を配設した後、仮設床版を撤去し、仮設床版の撤去箇所に新設床版を配設する。仮設床版は、橋軸方向に作用する力に対して剛体とみなすことが可能な強度を有する床版である。

【0028】

図１は、本開示の技術が適用される床版取替工法における各施工工程の流れを示すフローチャートである。図１に例示するように、１回目の夜間１車線規制期間Ｒ０１においては、合成桁の既設床版を撤去する第１工程（ステップＳ０１）、既設床版の撤去箇所に仮設床版を配設する第２工程（ステップＳ０２）及び仮設床版の配設箇所に仮舗装を行う第３工程（ステップＳ０３）が実行される。２回目の夜間１車線規制期間Ｒ０２においては、仮設床版を撤去する第４工程（ステップＳ０４）、仮設床版の撤去箇所に新設床版を配設する第５工程（ステップＳ０５）及び新設床版の配設箇所に本舗装を行う第６工程（ステップＳ０６）が実行される。尚、車線規制が許容される期間の長さ及び／又は各施工工程における作業内容等によっては、１回目の夜間１車線規制期間Ｒ０１を複数回に亘って繰り返した後に２回目の夜間１車線規制期間Ｒ０２に移る場合もある。

【0029】

図２は、１回目の夜間１車線規制期間Ｒ０１において実行される第１工程（ステップＳ０１）、第２工程（ステップＳ０２）及び第３工程（ステップＳ０３）を例示する模式図である。また、図３は、２回目の夜間１車線規制期間Ｒ０２において実行される第４工程（ステップＳ０４）、第５工程（ステップＳ０５）及び第６工程（ステップＳ０６）を例示する模式図である。

【0030】

１回目の夜間１車線規制期間Ｒ０１においては、図２に例示するように、（ａ）既設床版１１の撤去から（ｂ）仮設床版１２の配設を経て（ｃ）仮舗装５０を敷設するまでの施工を行い、翌日の日中は交通を開放する。図２の（ｃ）に示すように、後に詳述する本開示の軸力伝達部材３０（図７乃至図９を参照）が（ｂ）の仮設床版１２の配設に適用される。そして、次の２回目の夜間１車線規制期間Ｒ０２においては、図３に例示するように、（ａ）仮設床版１２の撤去から（ｂ）新設床版１３の配設及び新設床版１３間の隙間への間詰コンクリート（図示せず）の打設を経て（ｃ）本舗装６０を敷設するまでの施工を行う。コンクリートが打たれた新設床版１３間の隙間は「間詰部」とも称される。軸力伝達部材３０は、（ａ）の仮設床版１２の撤去時に撤去される。

【0031】

図４は、従来工法における対面通行規制による床版取替工事と夜間１車線規制による床版取替工事とを比較する模式図である。図４の（ａ）に例示するように、既設床版の一定区間を撤去し、当該区間に新設床版を配設し、舗装等の養生を施すという一連の施工を一気に行う従来工法による既設合成桁の床版取替工事においては、昼夜を通して対面通行規制を行う必要があり、例えば交通渋滞の発生等の問題に繋がる虞が高い。

【0032】

一方、本開示の技術が適用される仮設状態を経る床版取替工事においては、夜間に完了することが可能な工程に床版取替工事を分割することが可能である。即ち、図４の（ｂ）に示すように交通量が少ない夜間に限り１車線規制（夜間１車線規制）を行うことにより交通遮断期間を最小限とすることができるので、例えば交通渋滞の発生等の問題を低減することができる。

【0033】

尚、第１工程（ステップＳ０１）において撤去される既設床版１１及び第２工程（ステップＳ０２）において配設される仮設床版１２の数は、１回目の夜間１車線規制期間Ｒ０１内に第１工程乃至第３工程を完了することが可能である限り、特に限定されない。即ち、第１工程において撤去される既設床版１１及び第２工程において配設される仮設床版１２の数は１枚であってもよく、複数枚であってもよい。同様に、第４工程（ステップＳ０４）において撤去される仮設床版１２及び第５工程（ステップＳ０５）において配設される新設床版１３の数は、２回目の夜間１車線規制期間Ｒ０２内に第４工程及び第５工程を完了することが可能である限り、特に限定されない。即ち、第４工程において撤去される仮設床版１２及び第５工程において配設される新設床版１３の数は１枚であってもよく、複数枚であってもよい。

【0034】

図５は、本開示方法において使用される仮設床版１２の構成の一例を示す模式的な斜視図である。仮設床版１２の構成は、橋軸方向に作用する力に対して剛体とみなすことが可能な強度を有し且つ既設床版１１の撤去箇所に仮設床版１２を配設した状態である仮設状態において交通荷重を支えることが可能である限り特に限定されない。例えば、図５に例示する仮設床版１２は、覆工板１２ａと、覆工板１２ａ上に設けられたアスファルトの舗装１２ｂとを備え、新設床版１３の壁高欄の代用として鋼製高欄１２ｃが設けられている。また、仮設床版１２が配設される主桁２０は、一対のフランジ２０ａ及び２０ｂと、ウェブ２０ｃとを有する所謂「Ｈ型鋼」である。尚、図５においては、主桁２０がＨ型鋼であることを示すことを目的として断面形状を破線によって描いてあるが、当該断面は主桁２０の端面を意味するものではない。また、以下の説明においては、仮設床版１２が配設されるフランジ２０ａを「上側フランジ」と称する。

【0035】

覆工板１２ａは、例えば、Ｈ型鋼材と鋼板とを溶接により一体化したものであり、少なくとも主桁２０の上側フランジ２０ａ上において、橋軸方向に作用する力に対して剛体とみなすことが可能な強度を備えている。覆工板１２ａとしてプレキャスト版を用いてもよい。

【0036】

尚、図３の（ｂ）に示すように、主桁２０の上側フランジ２０ａに所定のピッチにて設けられたジベル２０ｄを、新設床版１３に形成されたジベル孔１３ａに貫入し、ジベル孔１３ａにモルタル等の充填材を打設することにより、主桁２０と新設床版１３とが固定される。従って、床版取替工事の進捗状況によっては、上側フランジ２０ａにジベル２０ｄが設けられた主桁２０の上に仮設床版１２を配設する場合がある。そこで、主桁２０の上側フランジ２０ａに設けられたジベル２０ｄと干渉しないように覆工板１２ａの下面の形状（例えば、凹穴等）を構成することが好ましい。この場合、床版取替工事の進捗状況に拘わらず、仮設床版１２を主桁２０の上に配設して、交通を開放することができる。

【0037】

しかしながら、前述したように、仮設床版１２は交通遮断期間の間に交通を開放するために配設される暫定的な床版であり、主桁２０と完全には固定されておらず、非合成桁となっている。しかも、仮設床版１２を主桁２０の上に配設しただけの状態においては、仮設床版１２に隣接する床版（他の仮設床版１２、既設床版１１又は新設床版１３）と仮設床版１２との間における軸力の伝達も不十分又は皆無である。

【0038】

図６は、合成桁及び非合成桁において主桁２０に作用する応力の大きさの差異を説明する模式図である。図６においては、（ａ）に示すように主桁２０の支間中央に交通荷重Ｐが作用する場合を想定する。合成桁においては、図６の（ｂ）の左側の支間中央の断面図に示すように、一体化された床版１０と主桁２０との両方によって交通荷重Ｐを支えるので、右側のグラフに示すように主桁２０の上部に作用する圧縮応力は小さい（短い方の黒い矢印を参照）。このため、例えば主桁２０の上側フランジ２０ａの厚さを小さくすることが可能となる等の利点がある。一方、非合成桁においては、図６の（ｃ）の左側の支間中央の断面図に示すように、主桁２０のみによって交通荷重Ｐを支えるので、右側のグラフに示すように主桁２０の上部に作用する圧縮応力が合成桁に比べてより大きい（黒い矢印を参照）。

【0039】

上記のように、非合成桁においては、施工時における重機等の荷重及び交通が開放された際における輪荷重等の橋面上の荷重を主桁２０のみによって支えることとなるので、主桁２０の上部に作用する圧縮応力及び下部に作用する引張応力が合成桁に比べてより大きくなる。

【0040】

そこで、本開示の技術は、図７乃至図９に示すように、軸力伝達部材３０を用いることにより、既設床版１１の撤去箇所に仮設床版１２を配設した状態である仮設状態において主桁２０に作用する応力を低減する。具体的には、本開示の技術においては、橋軸方向ＡＸにおいて仮設床版１２に隣接する他の床版である隣接床版と仮設床版１２との隙間Ｇの少なくとも一部に型枠を配設し、流動性を有する充填材を型枠の中に打設し、充填材を硬化させる。

【0041】

以下、図７乃至図９に基づいて、本開示の軸力伝達部材３０の詳細を説明する。隣接床版と仮設床版１２との隙間Ｇにおいて軸力伝達部材３０を配設する箇所は、隣接床版と仮設床版１２との間において軸力を十分に伝達することが可能である限り、特に限定されない。典型的には、軸力伝達部材３０は、平面視において主桁２０と隙間Ｇとが交差する箇所に配設される。しかしながら、これ以外の箇所に軸力伝達部材３０を配設してもよく、後に図９の（ｃ）に例示するように、平面視において主桁２０と隙間Ｇとが交差する箇所（斜め格子によるハッチングが施された箇所）に加えて他の箇所（例えば、斜線によるハッチングが施された箇所等）にも軸力伝達部材３０を配設してもよい。

【0042】

充填材を打設し硬化させるための型枠の構成は、軸力伝達部材３０を配設しようとする箇所において隣接床版と仮設床版１２との間において軸力を十分に伝達することが可能な軸力伝達部材３０の形状に対応する内部空間を画定し且つ少なくとも打設された充填材が硬化するまでの期間に亘って当該内部空間の形状を維持することが可能である限り、特に限定されない。例えばベニヤ板等の木材を使用して軸力伝達部材３０の形状に対応する型枠を組み立てることができる。

【0043】

軸力伝達部材３０の原材料である充填材は、硬化前には型枠の中に流し込まれて型枠の内部空間を充たして軸力伝達部材３０の所期の形状となることが可能な流動性を有し、硬化後には仮設状態において作用する荷重及び振動等の負荷に耐えることが可能であり且つ隣接床版と仮設床版１２との間において軸力を十分に伝達して仮設状態において主桁２０に作用する応力を低減するという課題を解決することが可能である限り、特に限定されない。典型的には、充填材はコンクリート及び／又はモルタルである。

【0044】

尚、例えば工期を短縮する観点からは、硬化に要する時間が短い速硬性又は超速硬性の充填材を使用することが好ましい。また、仮設状態において隣接床版と仮設床版１２との間において軸力を十分且つ確実に伝達させる観点からは、硬化に伴う収縮量が小さい無収縮性の充填材を使用することが好ましい。

【0045】

上記のように、軸力伝達部材３０は、隣接床版と仮設床版１２との隙間Ｇに配設された型枠３１の中に流し込まれた充填材を硬化させることによって形成される。従って、例えば橋梁の設計及び／又は施工誤差等に起因して隙間Ｇの幅が必ずしも一定ではない場合や隣接する床版同士が対向する面に凹凸及び／又は傾き等がある場合においても、隣接床版と仮設床版１２との隙間Ｇの形状に適合した軸力伝達部材３０を容易且つ確実に形成することができる。更に、例えばコンクリート及び／又はモルタル等、入手が容易であり且つ安価な充填材を軸力伝達部材３０の原材料として採用することができる。加えて、例えばベニヤ等、入手が容易であり且つ安価な部材を本開示方法において使用される型枠３１として採用することができる。従って、例えば前述した特許文献２に開示された発明に係る床版取替工法のようにジャッキを使用する工法に比べて、工費及び／又は労力を低減することができる。

【0046】

図７は、隣接床版と仮設床版１２との隙間Ｇに配設された型枠の中に流し込まれた充填材を硬化させることによって軸力伝達部材３０が形成される様子を例示する模式図である。図７の（ａ）は、隣接床版としての新設床版１３と仮設床版１２との隙間Ｇにおける所定の箇所において木材によって組まれた型枠３１の中に、硬化する前の流動性を有するコンクリートを充填材３２としてバケツから流し込んでいる様子を示している。また、図７の（ｂ）は、上記のようにして打設されたコンクリート（充填材３２）が硬化して軸力伝達部材３０が形成された状態を示している。尚、図７の（ｂ）においては、軸力伝達部材３０を観察し易くすることを目的として型枠３１が撤去された状態が例示されているが、必ずしも軸力伝達部材３０の形成時に型枠３１を撤去する必要は無い。例えば、型枠３１が配設されたまま仮設床版１２の配設箇所に仮舗装を行う第３工程（ステップＳ０３）を実行し、第４工程（ステップＳ０４）において仮設床版１２及び軸力伝達部材３０を撤去する際に型枠３１を一緒に撤去してもよい。

【0047】

図８は図７に例示したようにして仮設床版と隣接床版との隙間Ｇに軸力伝達部材３０が配設された部分の構成の一例を示す模式図であり、（ａ）は幅員方向から観察した場合における仮設状態の模式的な側面図であり、（ｂ）は仮設状態の模式的な上面図（平面視）である。図８においては、新設床版１３の軸力伝達部材３０の内部に埋設されている部分が破線によって描かれている。また、実際には主桁２０又は支持部材３３によって軸力伝達部材３０の底部が下側から支持されるが、図８においては、これらの部材は省略されている。図８に示すように、新設床版１３の隙間Ｇに対向する面が複雑な形状を有する場合においても、新設床版１３と仮設床版１２との隙間Ｇの形状に適合した軸力伝達部材３０を容易且つ確実に形成することができる。

【0048】

上記のように、本開示技術においては、隣接床版と仮設床版１２との間において軸力を十分に伝達するために必要な箇所にのみ型枠３１を組んで充填材３２を打設し硬化させて軸力伝達部材３０を配設する。硬化済みの充填材３２によって構成された軸力伝達部材３０を隣接床版と仮設床版１２との隙間Ｇに配設することにより、隣接床版と仮設床版１２との間において軸力を十分に伝達して仮設状態において主桁２０に作用する応力を低減することができる。従って、従来工法のように主桁２０を補強するための重い部材を桁下の狭隘な空間において取り扱う必要が無く、工費及び／又は労力を節減すると共に床版取替工事の安全性を高めることができる。

【0049】

図９の（ａ）及び（ｂ）は幅員方向から観察した場合における仮設状態の模式的な側面図であり、図９の（ｃ）は仮設状態の模式的な上面図（平面視）である。図９に示す例においては、橋軸方向において仮設床版１２に隣接する床版である隣接床版（既設床版１１、仮設床版１２及び新設床版１３）と仮設床版１２との隙間Ｇと主桁２０とが平面視において交差する箇所（斜め格子によるハッチングが施された箇所）のみならず他の箇所（例えば、斜線によるハッチングが施された箇所等）にも軸力伝達部材３０が配設されている。

【0050】

隙間Ｇと主桁２０とが平面視において交差する箇所においては、図９の（ａ）及び（ｃ）において斜め格子によるハッチングが施された箇所に示すように、隣接床版と仮設床版１２とが橋軸方向ＡＸにおいて対向する面と主桁２０の上側フランジ２０ａの上面と例えばベニヤ板等の部材によって構成される側面３１ｓとによって型枠３１を容易に組み立てることができる。一方、上記以外の箇所においては、図９の（ｂ）及び（ｃ）において斜線によるハッチングが施された箇所に示すように、主桁２０が下部に存在しないので、例えばベニヤ板等の部材によって型枠３１の側面３１ｓ及び底面３１ｂを構成すると共に、例えば隣接床版及び／又は仮設床版１２の下面に固定された支持部材３３により型枠３１を所定の位置に保持する必要がある。この場合、支持部材３３はあくまでも型枠３１を保持するために設けられるものであり、例えば隣接床版と仮設床版１２との間における軸力の伝達及び／又は撓みの防止等に求められる程の大きな機械的強度を有する必要は無い。従って、例えばアングル鋼等、サイズ及び重量が小さい部材を支持部材３３として採用することができる。

【0051】

以上のように、本開示方法によれば、仮設状態において、橋軸方向において仮設床版１２に隣接する他の床版である隣接床版と仮設床版１２との間の空間である隙間Ｇの少なくとも一部に硬化済みの充填材３２によって構成された軸力伝達部材３０が配設されてなる本開示構造が構成される。

【0052】

尚、前述したように、本開示の技術が適用される床版取替工法においては、交通遮断期間の間に交通を開放するため、第３工程（ステップＳ０３）において仮設床版１３の配設箇所に仮舗装を敷設する必要がある。このため、仮舗装の前に、軸力伝達部材３０が配設された箇所をも含む隣接床版と仮設床版１２との隙間Ｇの全体を覆うように、隣接床版及び仮設床版１２の上面に例えば鋼板等の平板状の部材を例えばボルト止め等の手法によって固定しておく。但し、当該平板状の部材は、あくまでも交通が開放された際に仮舗装の重量及び輪荷重を支持することを目的として配設されるものであり、隣接床版と仮設床版１２との間における軸力の伝達及び／又は主桁２０に作用する応力の低減に寄与することが可能な程に大きな機械的強度を備える必要は無い。

【0053】

図１０は、仮設状態における隣接床版と仮設床版１２との隙間Ｇにおける軸力伝達部材３０の有無による主桁２０に作用する応力の違いを説明する模式的な断面図である。図１０の（ａ）は、仮設床版１２が主桁２０の上に配設されているものの隣接床版と仮設床版１２との隙間Ｇに軸力伝達部材３０が配設されていない従来工法における仮設状態を例示する。一方、図１０の（ｂ）は、図７乃至図９に例示したように本開示方法及び本開示構造によって隣接床版と仮設床版１２との隙間Ｇに軸力伝達部材３０が配設されている本開示に係る仮設状態を例示する。

【0054】

図１０の（ａ）に例示するように、隣接床版（既設床版１１、仮設床版１２及び新設床版１３）と仮設床版１２との隙間Ｇに軸力伝達部材３０が配設されていない仮設状態においては、仮設床版１２と主桁２０とが一体化されていない非合成桁となっているのみならず、隣接する床版同士の間において軸力（黒塗りの矢印を参照）が伝達されない。その結果、図６を参照しながら前述したように主桁２０のみによって交通荷重Ｐを支えることとなるので、主桁２０の上部に作用する圧縮応力（斜線によるハッチングが施された矢印を参照）及び下部に作用する引張応力（白抜きの矢印を参照）が大きい。

【0055】

一方、図１０の（ｂ）に例示するように、本開示方法及び本開示構造によって隣接床版と仮設床版１２との隙間Ｇに軸力伝達部材３０が配設されている仮設状態においては、仮設床版１２と主桁２０とが一体化されていない非合成桁となっている点については上記（ａ）と同様であるものの、隣接する床版同士の間において軸力（黒塗りの矢印を参照）が伝達され、主桁２０の上方に設置されたストラットとして仮設床版１２を機能させることができる。その結果、仮設状態においても十分な剛性を確保して主桁２０に作用する応力、即ち主桁２０の上部に作用する圧縮応力（斜線によるハッチングが施された矢印を参照）及び下部に作用する引張応力（白抜きの矢印を参照）を低減することができる。従って、補強工事を行うこと無く交通を開放することができ、交通遮断期間を最小限にすることができる。

【0056】

ところで、前述したように、隣接床版と仮設床版１２との隙間Ｇの幅は、例えば橋梁の設計及び／又は施工誤差等に起因して必ずしも一定ではなく、また、例えば隣接する床版同士が対向する面（対向面）の凹凸及び／又は傾き等が存在する場合がある。従って、図７の（ａ）に例示したように木材等によって型枠３１を組み立てる場合、型枠３１を組み立てる個々の箇所における隙間Ｇの幅や対向面の凹凸及び／又は傾き等に応じて木材を加工した上で型枠３１を組み立てる必要があり、型枠３１の組立作業の効率化が求められる。

【0057】

そこで、１つの好ましい態様に係る本開示技術においては、充填材３２が硬化する前は少なくとも橋軸方向ＡＸにおいて伸縮自在であるように型枠３１が構成されている。斯かる型枠３１の構成は、少なくとも橋軸方向ＡＸにおいて伸縮自在であることに加えて、前述したように軸力伝達部材３０を配設しようとする箇所において隣接床版と仮設床版１２との間において軸力を十分に伝達することが可能な軸力伝達部材３０の形状に対応する内部空間を画定し且つ少なくとも打設された充填材３２が硬化するまでの期間に亘って当該内部空間の形状を維持することが可能である限り、特に限定されない。

【0058】

図１１は、橋軸方向ＡＸにおいて伸縮自在である型枠３１の具体例を示す模式的な斜視図である。斯かる型枠３１は、図１１の（ａ）に例示するような市販の樹脂（例えば、ポリエチレン等）製角形Ｕ字溝４１を利用して作成することができる。図示するように、角形Ｕ字溝４１は蛇腹状の形状を有するので長手方向に伸縮可能である。必要に応じて、角形Ｕ字溝４１の長手方向における両端に平板状又は柔軟なシート状の部材を取り付けて型枠３１の橋軸方向ＡＸにおける両端を塞いでもよい。加えて、上記のような樹脂製角形Ｕ字溝に代えて、図１１の（ｂ）に例示するような樹脂（例えば、ポリエチレン等）製の角形蛇腹ホース４２を軸方向に平行な平面により切断（例えば半割り等）したもの等を利用してもよい。即ち、（ａ）に例示するような市販の角形Ｕ字溝のみならず、（ｂ）に例示するような角形蛇腹ホースを水平方向にスライス加工して波形Ｕ字溝としたものもまた、本開示技術において使用される型枠３１として採用することができる。

【0059】

図１２は、図１１の（ａ）に例示した樹脂製角形Ｕ字溝によって構成された型枠３１が仮設床版１２と新設床版１３との隙間Ｇに配設された状態を例示する模式的な斜視図である。尚、図１２に示す例においては、隙間Ｇの幅員方向における端部に型枠３１が配設されており、型枠３１の下部に主桁２０が存在しないので、隙間Ｇを跨ぐように仮設床版１２の覆工板１２ａ及び新設床版１３の下面に固定された支持部材３３としてのアングル鋼によって型枠３１の底部が支持されている。

【0060】

上述したように、角形Ｕ字溝４１は蛇腹状の形状を有するので長手方向に伸縮可能である。従って、隣接床版と仮設床版１２との隙間Ｇの幅が一定ではない場合においても、隙間Ｇの幅に合わせて容易に長手方向における寸法を変更することができる。また、角形Ｕ字溝４１は、ある程度の柔軟性を有する樹脂によって形成されているので、隣接する床版同士の対向面の凹凸及び／又は傾き等が存在する場合においても、対向面の状態に合わせて型枠３１を容易に構成することができる。更に、角形Ｕ字溝４１は型枠３１として使用可能な溝状の形状を備えているので、軸力伝達部材３０を配設しようとする個々の箇所における隙間Ｇの幅や形状に合わせて型枠３１を組む必要が無く、角形Ｕ字溝４１を当該箇所に配置するだけでよい。従って、型枠３１の組立作業の効率を著しく向上させることができる。

【0061】

ところで、上述したように橋軸方向ＡＸにおいて伸縮自在な型枠３１としての角形Ｕ字溝４１の長手方向における両端に平板状又は柔軟なシート状の部材を取り付けて型枠３１の橋軸方向ＡＸにおける両端を塞いだ場合を除き、型枠３１の長手方向における端部の隣接床版及び仮設床版１２の対向面への密着の程度によっては、既設床版１１、仮設床版１２及び／又は新設床版１３と型枠３１との境界部から未硬化の充填材３２が漏れる虞がある。この場合、例えばウェス等の詰め物を詰めることにより充填材３２の漏れを防ぐことができる。しかしながら、このような作業は施工にかかる労力の増大に繋がるので、未硬化の充填材３２が漏れる虞そのものを低減することが好ましい。また、上述したように橋軸方向ＡＸにおいて伸縮自在な型枠３１としての角形Ｕ字溝４１の長手方向における両端に平板状又は柔軟なシート状の部材を取り付けて型枠３１の橋軸方向ＡＸにおける両端を塞いでいない場合は、型枠３１の中に打設された充填材３２が隣接床版及び仮設床版１２の対向面に接触した状態にて硬化する。従って、仮設床版１２の撤去時に軸力伝達部材３０（即ち、型枠３１及び硬化済みの充填材３２）を撤去する際には、隣接床版及び仮設床版１２と硬化済みの充填材３２とを分離する作業が必要となり、軸力伝達部材３０の撤去作業が困難となる虞がある。

【0062】

未硬化の充填材３２の型枠３１からの漏れを防止し且つ軸力伝達部材３０の撤去作業を容易なものとする観点からは、未硬化の充填材３２の流動性を妨げない限りにおいて、未硬化の充填材３２を柔軟な部材に内包して周囲の部材に直接的には触れないようにすることが好ましい。

【0063】

そこで、もう１つの好ましい態様に係る本開示技術においては、柔軟性を有するシート状部材３４を型枠３１の内側に予め配設しておき、シート状部材３４の内側に充填材３２を打設する。その後、充填材３２は硬化されるので、充填材に隣接する床版及び型枠３１と硬化済みの充填材３２との間に介装されたシート状部材３４を軸力伝達部材３０が更に備えることとなる。尚、シート状部材３４は、未硬化の充填材３２の流動性を妨げず且つ未硬化の充填材３２を内包して周囲の部材に直接触れないようにすることが可能である限り、特に限定されない。典型的には、シート状部材３４は、例えばポリエチレン等の樹脂製のシート又は袋であり、施工時の取り扱いを容易なものとする観点からは樹脂製の袋を採用することが好ましい。

【0064】

図１３は、仮設床版１２と新設床版１３との隙間Ｇにおける所定の位置に配設された型枠３１の内側にシート状部材３４としてのポリエチレン製の袋が予め配設された状態を示す模式図である。本態様においては、このように配設されたポリエチレン製の袋の中に流し込まれた未硬化の充填材３２が硬化することにより、軸力伝達部材３０が形成される。

【0065】

図１４は、本態様に係る本開示技術が適用された仮設状態における仮設床版の設置例を示す模式図である。図１４の（ａ）は、既設床版１１、新設床版１３及び既設床版１１と新設床版１３との間に配設された２枚の仮設床版１２によって構成される仮設状態の模式的な上面図（平面視）である。図１４の（ｂ）は、（ａ）に示す直線Ｌ－Ｌを含み橋軸方向ＡＸに対して垂直な平面による断面を仮設床版１２の側から観察した場合における模式図である。図１４の（ｃ）は、（ｂ）に示す太い破線によって囲まれた領域Ｘの模式的な拡大図である。

【0066】

図１３及び図１４に例示するように、本態様においては、型枠３１の内側に予め配設されたシート状部材３４の内側に未硬化の充填材３２が流し込まれるので、型枠３１の橋軸方向ＡＸにおける両端が塞がれていない場合においても既設床版１１、仮設床版１２及び／又は新設床版１３と型枠３１との境界部から充填材３２が漏れることが無い。従って、充填材３２が漏れる箇所にウェス等の詰め物を詰める作業が不要となるので、施工にかかる労力の増大を防止するこができる。また、隣接する仮設床版１２及び新設床版１３の対向面に充填材３２が直接的には接触しないので、仮設床版１２の撤去時に軸力伝達部材３０（即ち、型枠３１及び硬化済みの充填材３２）を撤去する際に仮設床版１２及び新設床版１３と硬化済みの充填材３２とを容易に分離することができる。例えば、新設床版１３の対向面に凹凸があり、軸力伝達部材３０を構成する充填材３２が当該凹凸に嵌合している場合であっても、平坦な対向面を有する仮設床版１２を例えばクレーン等によって持ち上げて撤去した後に、軸力伝達部材３０を新設床版１３の対向面から容易に取り外すことができる。加えて、充填材３２は型枠３１とも直接的には接触しないので、型枠３１と充填材３２との分離も容易であり、型枠３１を再利用に供し易くなる。

【0067】

ところで、合成桁の既設床版を撤去する第１工程（ステップＳ０１）においては、撤去しようとする既設床版１１が隣接する既設床版１１から切り離される。従って、隣接する既設床版１１が撤去された既設床版１１の橋軸方向Ｘにおける端面からは継手用鉄筋１３ｒは突出していないので、第２工程（ステップＳ０２）において当該既設床版１１の隣に配設される仮設床版１２と当該既設床版１１との隙間Ｇには継手用鉄筋１３ｒが突出していない。また、複数枚の既設床版１１が撤去された箇所に複数枚の仮設床版１２が配設される場合、隣接する仮設床版１２同士の隙間Ｇにも継手用鉄筋１３ｒが突出していない。このような隙間Ｇにおける任意の箇所に軸力伝達部材３０を配設しようとする場合は、第２工程（ステップＳ０２）において既設床版の撤去箇所に仮設床版を配設した後に型枠３１を配設する作業及び第４工程（ステップＳ０４）において仮設床版１２及び軸力伝達部材３０を撤去する作業を容易に行うことができる。

【0068】

しかしながら、図７及び図８に例示したように、新設床版１３の橋軸方向ＡＸにおける端面には、隣接する新設床版１３同士を接合するための継手用鉄筋１３ｒが所定の間隔にて突出している。軸力伝達部材３０を形成するための型枠３１が組まれる箇所に継手用鉄筋１３ｒが突出している場合、図８に例示したように、硬化した充填材３２によって構成される軸力伝達部材３０の内部に継手用鉄筋１３ｒが埋設されることとなる。従って、仮設床版１２の撤去時に軸力伝達部材３０を撤去する際には、軸力伝達部材３０の内部に埋設されている継手用鉄筋１３ｒを破損させたり変形させたりしないように注意を払いつつ軸力伝達部材３０を破壊する必要がある。軸力伝達部材３０の撤去作業を容易なものとする観点からは、隣接する仮設床版１２に対向する新設床版１３の端面の軸力伝達部材３０が配設される領域である仮設間詰領域に継手用鉄筋１３ｒが突出していないことが好ましい。

【0069】

また、例えばベニヤ板等の木材によって組み立てられる型枠３１のみならず、前述したような伸縮自在に構成された型枠３１（例えば、角形Ｕ字溝４１等）又は柔軟性を有するシート状部材３４が内側に配設された型枠３１もまた、継手用鉄筋１３ｒが突出している箇所に配設することができる。しかしながら、これらの型枠３１の設置作業を効率化する観点からもまた、隣接する仮設床版１２に対向する新設床版１３の端面の軸力伝達部材３０が配設される領域である仮設間詰領域に継手用鉄筋１３ｒが突出していないことが好ましい。

【0070】

そこで、もう１つの好ましい態様に係る本開示技術においては、隣接する仮設床版１２に対向する新設床版１３の端面の軸力伝達部材３０が配設される領域である仮設間詰領域には継手用鉄筋１３ｒが突出していない。図１５は、先に参照した図８に対応する図面であり、（ａ）は幅員方向から観察した場合における仮設状態の模式的な側面図であり、（ｂ）は仮設状態の模式的な上面図（平面視）である。但し、隣接する仮設床版１２に対向する新設床版１３の端面の軸力伝達部材３０が配設される領域である仮設間詰領域から継手用鉄筋１３ｒが突出しておらず且つ軸力伝達部材３０の内部に継手用鉄筋１３ｒが埋設されていない点において、図８に例示した構成とは異なる。その結果、仮設床版１２の撤去時に軸力伝達部材３０を撤去する際に、軸力伝達部材３０の内部に埋設されている継手用鉄筋１３ｒを破損させたり変形させたりしないように注意を払う必要が無く、軸力伝達部材３０の撤去作業を容易なものとすることができる。また、型枠３１の配設も容易であり、特に例えば角形Ｕ字溝４１等のような伸縮自在に構成された型枠３１を採用する場合は、軸力伝達部材３０を配設しようとする箇所に型枠３１を置くだけでよいので更に効率的である。

【0071】

但し、本態様に係る本開示技術は、新設床版１３の端面の全ての仮設間詰領域において継手用鉄筋１３ｒの突出を排除するものではなく、例えば床版取替後の橋梁に必要とされる強度及び／又は施工上の都合等によっては、新設床版１３の端面の仮設間詰領域において継手用鉄筋１３ｒが突出しているものと継手用鉄筋１３ｒが突出していないものとが混在していてもよい。

【0072】

ところで、床版取替後の橋梁に必要とされる強度によっては、仮設状態において継手用鉄筋１３ｒが仮設間詰端面から突出していない新設床版１３においても、第５工程（ステップＳ０５）において隣に配設される新たな新設床版１３と接続するための鉄筋等の部材が必要とされる場合がある。そこで、もう１つの好ましい態様に係る本開示技術においては、隣接する仮設床版１２及び軸力伝達部材３０の撤去後に仮設床版１２の撤去箇所に配設される新設床版１３と接続するための部材である接続部材を取り付けるための部材である連結部材が仮設間詰領域に設けられている新設床版１３を使用する。

【0073】

図１６は、上記のような連結部材１３ｊが仮設間詰領域に設けられている新設床版１３を使用する本開示技術を説明する模式図である。図１６の（ａ）乃至（ｃ）は幅員方向から観察した場合における模式的な側面図であり、図１６の（ｄ）は模式的な上面図（平面視）である。図１６の（ａ）においては、図１５の（ａ）と同様に、仮設間詰領域から継手用鉄筋１３ｒが突出していない新設床版１３と仮設床版１２との隙間Ｇに軸力伝達部材３０が配設されている。従って、型枠３１を容易に配設することができると共に、軸力伝達部材３０の内部に継手用鉄筋１３ｒが埋設されないので、仮設床版１２を撤去する第４工程（ステップＳ０４）において仮設床版１２及び軸力伝達部材３０を容易に撤去して、図１６の（ｂ）に例示する状態にすることができる。尚、図１６の（ａ）には、型枠３１は描かれていないが、この状態（即ち、仮設状態）において硬化済みの充填材３２の周囲に型枠３１が存在していてもよい。

【0074】

次に、図１６の（ｃ）に例示するように、隣接する仮設床版１２及び軸力伝達部材３０の撤去後に、既に配設されている新設床版１３に設けられた連結部材１３ｊを介して新設床版１３の仮設間詰領域に接続部材１３ｃを取り付ける。接続部材１３ｃ及び連結部材１３ｊの具体的な構成は、当業者に周知の継手構造によって、新設床版１３に隣接して新たに配設される新設床版１３’の継手用鉄筋１３ｒと接続部材１３ｃとを接続することにより、施工時における重機等の荷重及び交通が開放された際における輪荷重等の橋面上の荷重に耐え得る強度にて新設床版１３と新設床版１３’とを接続することが可能である限り、特に限定されない。典型的には、所謂「機械式継手」と称される機構が採用される。具体的には、例えば、接続部材１３ｃは、基端側（連結部材１３ｊを備える新設床版１３側）の端部にオスねじ加工が施された後付け鉄筋である。一方、連結部材１３ｊは、新設床版１３の内部に予め埋設された鉄筋である先行鉄筋１３ｅの先端側（仮設間詰領域側）の端部に設けられ且つメスねじ加工されたスリーブ（袋カプラー）である。連結部材１３ｊのメスねじ部分に接続部材１３ｃのオスねじ部分を螺合させることにより、連結部材１３ｊと接続部材１３ｃとを十分な強度にて接続することができる。

【0075】

次に、図１６の（ｄ）に例示するように、上記のようにして既に配設されている新設床版１３の仮設間詰領域に連結部材１３ｊを介して取り付けられた接続部材１３ｃと、新設床版１３に隣接して新たに配設される新設床版１３’の継手用鉄筋１３ｒとを当業者に周知の継手構造によって接続することができる。従って、本態様に係る本開示技術によれば、軸力伝達部材３０の配設から撤去までの期間においては新設床版１３の仮設間詰領域から継手用鉄筋１３ｒが突出していないので、型枠３１及び軸力伝達部材３０を配設する作業並びに仮設床版１２の撤去時に軸力伝達部材３０を撤去する作業をより容易なものとすることができる。加えて、軸力伝達部材３０の撤去後には、新設床版１３の仮設間詰領域に連結部材１３ｊを介して接続部材１３ｃを取り付けることができる。従って、既に配設されている新設床版１３の内部に埋設されている先行鉄筋１３ｅと新設床版１３に隣接して新たに配設される新設床版１３’の継手用鉄筋１３ｒとを接続部材１３ｃを介して接続することができる。その結果、既に配設されている新設床版１３と新たに配設される新設床版１３’とを十分な強度にて接続することができる。尚、典型的には、図１６の（ｄ）に例示するように、新設床版１３の接続部材１３ｃと新設床版１３’の継手用鉄筋１３ｒとは平面視において干渉しないように互いの間に入り込むように配置される。一方、図示しないが、側面視においては、新設床版１３の接続部材１３ｃと新設床版１３’の継手用鉄筋１３ｒとが互いに重なる位置関係にあるように配置される。

【0076】

〈効果〉
以上のように、本開示方法及び本開示構造においては、既設床版１１の撤去箇所に仮設床版１２を配設した状態である仮設状態において、隣接床版と仮設床版１２との間の空間である隙間Ｇの少なくとも一部に型枠３１を配設し、流動性を有する充填材３２を型枠３１の中に打設し、充填材３２を硬化させる。従って、硬化した充填材３２によって構成される軸力伝達部材３０を介して隣接する床版同士の間において軸力が伝達されるので、主桁２０の上方に設置されたストラットとして仮設床版１２を機能させることができる。その結果、本開示方法及び本開示構造によれば、仮設状態においても十分な剛性を確保して主桁２０に作用する応力を低減することができる。

【0077】

更に、上述したように、本開示方法及び本開示構造に係る軸力伝達部材３０は、隣接床版と仮設床版１２との間の隙間Ｇに配設された型枠３１の中に流し込まれた充填材３２を硬化させることによって形成される。従って、例えば橋梁の設計及び／又は施工誤差等に起因して隙間Ｇの幅が必ずしも一定ではない場合や隣接する床版同士が対向する面に凹凸及び／又は傾き等がある場合においても、隣接床版と仮設床版１２との隙間Ｇの形状に適合した軸力伝達部材３０を容易且つ確実に形成することができる。

【0078】

加えて、例えばベニヤ等、入手が容易であり且つ安価な部材を本開示方法において使用される型枠３１として採用することができる。従って、例えば前述した特許文献２に開示された発明に係る床版取替工法のようにジャッキを使用する工法に比べて、工費及び／又は労力を低減することができる。

【0079】

更に、少なくとも橋軸方向ＡＸにおいて伸縮自在であるように構成された型枠３１を隙間Ｇにおける継手用鉄筋が突出していない領域に配設することにより、軸力伝達部材３０を配設しようとする個々の箇所における隙間Ｇの幅や形状に合わせて型枠３１を組む必要が無く、当該型枠３１を当該箇所に配置するだけでよい。従って、型枠３１の組立作業の効率を著しく向上させることができる。加えて、柔軟性を有するシート状部材３４を型枠３１の内側に予め配設しておき、シート状部材３４の内側に充填材３２を打設することにより、型枠３１の橋軸方向ＡＸにおける両端が塞がれていない場合においても既設床版１１、仮設床版１２及び／又は新設床版１３と型枠３１との境界部から充填材３２が漏れることを防止することができ、また仮設床版１２の撤去時に軸力伝達部材３０を撤去する際に仮設床版１２及び新設床版１３並びに型枠３１と硬化済みの充填材３２とを容易に分離することができる。

【0080】

また、隣接する仮設床版１２に対向する端面の軸力伝達部材３０が配設される領域である仮設間詰領域に継手用鉄筋１３ｒが突出していない新設床版１３を採用することにより、型枠３１及び軸力伝達部材３０を配設する作業並びに仮設床版１２の撤去時に軸力伝達部材３０を撤去する作業をより容易なものとすることができる。更に、隣接する仮設床版１２及び軸力伝達部材３０の撤去後に仮設床版１２の撤去箇所に配設される新たな新設床版１３と接続するための部材である接続部材１３ｃを取り付けるための連結部材１３ｊ（例えば、機械式継手等）が仮設間詰領域に設けられている新設床版１３を採用することにより、当該新設床版１３に隣接して新たに配設される新設床版１３’と当該新設床版１３とを十分な強度にて接続することができる。

【0081】

即ち、本開示方法及び本開示構造によれば、既設合成桁の床版取替工事において仮設床版１２が配設されている期間中に主桁２０に作用する応力をより容易且つ確実に低減することができる。

【0082】

以上、本開示の内容を説明することを目的として、特定の構成を有する複数の実施形態につき、時に添付図面を参照しながら説明してきたが、本開示の範囲は、これらの例示的な実施形態に限定されると解釈されるべきではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内で、適宜修正を加えることが可能であることは言うまでも無い。

【符号の説明】

【0083】

１０…床版，１１…既設床版，１２…仮設床版、１２ａ…覆工板，１２ｂ…舗装，１２ｃ…鋼製高欄，１３…新設床版，１３’…新設床版，１３ａ…ジベル孔，１３ｒ…継手用鉄筋，１３ｃ…接続部材，１３ｊ…連結部材，１３ｅ…先行鉄筋，２０…主桁，２０ａ…上側フランジ，２０ｂ…（下側）フランジ，２０ｃ…ウェブ，２０ｄ…ジベル，３０…軸力伝達部材，３１…型枠，３１ｓ…（型枠の）側面，３１ｂ…（型枠の）底面，３２…充填材，３３…支持部材，３４…シート状部材，４１…樹脂製角形Ｕ字溝，４２…樹脂製角形蛇腹ホース，５０…仮舗装，６０…本舗装，ＡＸ…橋軸方向，Ｇ…隙間，Ｐ…交通荷重

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】