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特開2024-142933エラストマー基材をコーティングするためのポリウレタン樹脂組成物、及び積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142933
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】エラストマー基材をコーティングするためのポリウレタン樹脂組成物、及び積層体
(51)【国際特許分類】
   C08L 75/04 20060101AFI20241003BHJP
   C08K 5/29 20060101ALI20241003BHJP
   C08G 18/65 20060101ALI20241003BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L75/04
C08K5/29
C08G18/65
B32B27/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055353
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】戒田 裕行
(72)【発明者】
【氏名】金子 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】森上 敦史
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
4J034
【Fターム(参考)】
4F100AK51
4F100AK51A
4F100AK51B
4F100AL09
4F100AL09A
4F100AN01
4F100AN01A
4F100AN02
4F100AN02A
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA07
4F100EH46
4F100EH46B
4F100EJ42
4F100JA07
4F100JA07B
4F100JB09
4F100JB09B
4F100JK06
4F100JK07
4F100JK12
4J002CK021
4J002ER006
4J002GF00
4J002GH01
4J034BA06
4J034BA08
4J034CA04
4J034CA22
4J034CB03
4J034DA01
4J034DA05
4J034DB04
4J034DB05
4J034DC02
4J034DF02
4J034HA01
4J034HA07
4J034HC03
4J034HC12
4J034HC17
4J034HC22
4J034HC46
4J034HC52
4J034HC61
4J034HC64
4J034HC67
4J034HC71
4J034HC73
4J034JA02
4J034JA14
4J034KA01
4J034KB02
4J034KC17
4J034KD02
4J034KE02
4J034QC05
4J034RA07
4J034RA19
(57)【要約】      (修正有)
【課題】密着性及び耐溶剤性に優れた、エラストマー基をコーティングするためのポリウレタン樹脂組成物を提供する。
【解決手段】エラストマー基材をコーティングするためのポリウレタン樹脂組成物であって、ポリウレタン樹脂組成物は、ポリウレタン樹脂(A)及びカルボジイミド化合物(B)を含み、ポリウレタン樹脂(A)の膜厚60μmのフィルムの弾性率が0MPaを超え100MPa以下であり、エラストマー基材のアスカーC硬度が40~80である、エラストマー基材をコーティングするためのポリウレタン樹脂組成物である。また、水系媒体(C)を含むポリウレタン樹脂組成物は、SDGs(Sustainable Development Goals)に貢献することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマー基材をコーティングするためのポリウレタン樹脂組成物であって、
ポリウレタン樹脂組成物は、ポリウレタン樹脂(A)及びカルボジイミド化合物(B)を含み、
ポリウレタン樹脂(A)の膜厚60μmのフィルムの弾性率が0MPaを超え100MPa以下であり、
エラストマー基材のアスカーC硬度が40~80である、
エラストマー基材をコーティングするためのポリウレタン樹脂組成物。
【請求項2】
ポリウレタン樹脂(A)は、酸性基非含有ポリオール(Aa)由来の構造、及びポリイソシアネート(Ab)由来の構造を有する、請求項1に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項3】
ポリウレタン樹脂組成物は、さらに、水系媒体(C)を含み、
ポリウレタン樹脂(A)は、さらに、酸性基含有ポリオール(Ac)由来の構造を有し、
ポリウレタン樹脂(A)の膜厚60μmのフィルムが、ポリウレタン樹脂(A)及び水系媒体(C)を含む組成物を60℃で2時間、次いで、120℃で2時間加熱して得られるフィルムである、請求項2に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項4】
ポリウレタン樹脂(A)が、さらに、1分子中に酸性基を1つと水酸基を1つ有する化合物(Ad)由来の構造を有する、請求項2又は3に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項5】
1分子中に酸性基を1つと水酸基を1つ有する化合物(Ad)が、ヒドロキシカルボン酸である、請求項4に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項6】
ポリウレタン樹脂(A)が、さらに、鎖延長剤(Ae)由来の構造を有する、請求項2又は3に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項7】
酸性基非含有ポリオール(Aa)が、ポリカーボネートポリオール及び/又はポリエステルポリオールである、請求項2又は3に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項8】
ポリイソシアネート(Ab)が、脂肪族ポリイソシアネート及び/又は脂環式ポリイソシアネートである、請求項2又は3に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項9】
ポリウレタン樹脂組成物は、ポリウレタン樹脂(A)及びカルボジイミド化合物(B)を配合してなり、ポリウレタン樹脂(A)に対する前記カルボジイミド化合物(B)の配合比率(B/A)が、0.005~0.300の範囲である、請求項1又は2に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項10】
エラストマー基材、並びに、前記エラストマー基材上にウレタン樹脂膜(D)を有する積層体であって、
ウレタン樹脂膜(D)は、ポリウレタン樹脂(A)に由来する構造及びカルボジイミド化合物(B)に由来する構造を有し、
ポリウレタン樹脂(A)の膜厚60μmのフィルムの弾性率が0MPaを超え100MPa以下であり、
エラストマー基材のアスカーC硬度が40~80である、積層体。
【請求項11】
エラストマー基材上に、請求項1に記載のポリウレタン樹脂組成物を塗布し、乾燥する工程を含む、請求項10に記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エラストマー基材をコーティングするためのポリウレタン樹脂組成物、及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
エラストマーは耐溶剤性に劣るため、これらの表面に溶剤系ポリウレタン等のコーティング剤を用いて塗膜が設けられる。
【0003】
近年、このような塗膜を形成するための様々な種類のポリウレタン樹脂を用いたコーティング剤が開発されてきた。特許文献1には、切断時伸びが10~400%である光硬化性ポリウレタン樹脂水性分散体が開示されている。特許文献1には、前記水性分散体を用いたコーティング剤が、エラストマー基材への密着性に優れると報告されている。
【0004】
特許文献2には、ポリウレタン樹脂水性分散体、カルボジイミド化合物、減摩剤、シリコーンオイル、フィラーを含む水系塗料が開示されている。特許文献2には、前記水系塗料を塗装し、誘電加熱により乾燥させることで得られるコーティングが、ゴム基材への密着性に優れると報告されている。
【0005】
特許文献3には、固形分基準で5~43重量%の脂環構造の含有割合を有し、かつブロック化剤が結合したイソシアナト基を有するポリウレタン樹脂水性分散体が開示されている。特許文献3には、前記水性分散体を用いたコーティングが、ゴム基材への密着性に優れると報告されている。
【0006】
特許文献4には、1分子中に酸性基を1つと水酸基を1つ有する化合物に由来する構造を有するポリウレタン樹脂水性分散体が開示されている。特許文献4には、前記水性分散体を用いたウレタンフィルムは、弾性率が低いと報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-076532号公報
【特許文献2】特開2007-167704号公報
【特許文献3】国際公開第2014/038565号
【特許文献4】国際公開第2014/103689号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
コーティング用途においては、コーティングする基材により、適した材料が大きく変わることがある。また、コーティング用途として使用するためには、高い密着性や耐溶剤性が求められる。
特許文献1では、コーティングの製造について、特殊な光硬化工程が必要である。そのため、特許文献1のコーティング剤は、汎用性が高くはなかった。また、特許文献1では、柔軟な基材への密着性や耐溶剤性については検討されていなかった。
特許文献2では、特殊な誘電加熱が必須であり、被加熱物の中の電界を一様にしなければならないため、複雑な形のゴム基材への適用が難しいという問題があった。また、特許文献2では、使用するウレタン樹脂分散体の組成が明確ではなかった。
特許文献3では、コーティングの耐溶剤性の更なる向上が求められた。
特許文献4では、ウレタンフィルムの基材への密着性、耐溶剤性の更なる向上が求められた。
【0009】
本発明の課題は、上記の従来技術における問題点を解決し、密着性及び耐溶剤性に優れた、エラストマー基材をコーティングするためのポリウレタン樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記の従来技術の問題点を克服すべく種々の検討を行った結果、ポリウレタン樹脂(A)及びカルボジイミド化合物(B)を含む、エラストマー基材をコーティングするためのポリウレタン樹脂組成物であって、ポリウレタン樹脂(A)の膜厚60μmのフィルムの弾性率が0MPaを超え100MPa以下であり、エラストマー基材のアスカーC硬度が40~80である、エラストマー基材をコーティングするためのポリウレタン樹脂組成物が、エラストマー基材への密着性及び耐溶剤性に優れるとの知見を得て、本発明に至った。
【0011】
本発明は、具体的には以下の[1]~[11]である。
[1]エラストマー基材をコーティングするためのポリウレタン樹脂組成物であって、
ポリウレタン樹脂組成物は、ポリウレタン樹脂(A)及びカルボジイミド化合物(B)を含み、
ポリウレタン樹脂(A)の膜厚60μmのフィルムの弾性率が0MPaを超え100MPa以下であり、
エラストマー基材のアスカーC硬度が40~80である、
エラストマー基材をコーティングするためのポリウレタン樹脂組成物。
[2]ポリウレタン樹脂(A)は、酸性基非含有ポリオール(Aa)由来の構造、及びポリイソシアネート(Ab)由来の構造を有する、[1]に記載のポリウレタン樹脂組成物。
[3]ポリウレタン樹脂組成物は、さらに、水系媒体(C)を含み、
ポリウレタン樹脂(A)は、さらに、酸性基含有ポリオール(Ac)由来の構造を有し、
ポリウレタン樹脂(A)の膜厚60μmのフィルムが、ポリウレタン樹脂(A)及び水系媒体(C)を含む組成物を60℃で2時間、次いで、120℃で2時間加熱して得られるフィルムである、[2]に記載のポリウレタン樹脂組成物。
[4]ポリウレタン樹脂(A)が、さらに、1分子中に酸性基を1つと水酸基を1つ有する化合物(Ad)由来の構造を有する、[2]又は[3]に記載のポリウレタン樹脂組成物。
[5]1分子中に酸性基を1つと水酸基を1つ有する化合物(Ad)が、ヒドロキシカルボン酸である、[4]に記載のポリウレタン樹脂組成物。
[6]ポリウレタン樹脂(A)が、さらに、鎖延長剤(Ae)由来の構造を有する、請求項[2]~[5]のいずれか一項に記載のポリウレタン樹脂組成物。
[7]酸性基非含有ポリオール(Aa)が、ポリカーボネートポリオール及び/又はポリエステルポリオールである、[2]~[6]のいずれか一項に記載のポリウレタン樹脂組成物。
[8]ポリイソシアネート(Ab)が、脂肪族ポリイソシアネート及び/又は脂環式ポリイソシアネートである、[2]~[7]のいずれか一項に記載のポリウレタン樹脂組成物。
[9]ポリウレタン樹脂組成物は、ポリウレタン樹脂(A)及びカルボジイミド化合物(B)を配合してなり、ポリウレタン樹脂(A)に対する前記カルボジイミド化合物(B)の配合比率(B/A)が、0.005~0.300の範囲である、[1]~[8]のいずれか一項に記載のポリウレタン樹脂組成物。
[10]エラストマー基材、並びに、前記エラストマー基材上にウレタン樹脂膜(D)を有する積層体であって、
ウレタン樹脂膜(D)は、ポリウレタン樹脂(A)に由来する構造及びカルボジイミド化合物(B)に由来する構造を有し、
ポリウレタン樹脂(A)の膜厚60μmのフィルムの弾性率が0MPaを超え100MPa以下であり、
エラストマー基材のアスカーC硬度が40~80である、積層体。
[11]エラストマー基材上に、[1]~[9]のいずれか一項に記載のポリウレタン樹脂組成物を塗布し、乾燥する工程を含む、[10]に記載の積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、密着性及び耐溶剤性に優れた、エラストマー基材のコーティング剤用のポリウレタン樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。また、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。本明細書において「工程」との語には、独立した工程だけが含まれるのではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれることとする。
【0014】
[ポリウレタン樹脂組成物]
エラストマー基材をコーティングするためのポリウレタン樹脂組成物(本明細書において、単に「ポリウレタン樹脂組成物」ということもある。)は、ポリウレタン樹脂(A)及びカルボジイミド化合物(B)を含み、ポリウレタン樹脂(A)の膜厚60μmのフィルムの弾性率が0MPaを超え100MPa以下であり、エラストマー基材のアスカーC硬度が40~80である。
【0015】
ポリウレタン樹脂組成物は、エラストマー基材に対し高い密着性を示し、且つ耐溶剤性に優れたコーティングを与えることができる。ここで、「密着性」とは、アスカーC硬度が40以上80以下であるエラストマー基材に対する密着性を意味する。また、「耐溶剤性」とは、好ましくはエタノール、アセトン、トルエンに対する耐性を意味し、特に好ましくはエタノールに対する耐性を意味する。
【0016】
また、ポリウレタン樹脂組成物は、ポリウレタン樹脂(A)と後述する水系媒体(C)とを組み合わせたポリウレタン樹脂(A)水性分散体の使用により、コーティング用途での溶剤の使用量を低減することができるため、SDGsのGoal7等の達成にも貢献することができる。
【0017】
<ポリウレタン樹脂(A)>
ポリウレタン樹脂(A)は、ウレタン結合を有する樹脂であれば特に限定されない。
ポリウレタン樹脂(A)に含まれる構造としては、酸性基非含有ポリオール(Aa)由来の構造、ポリイソシアネート(Ab)由来の構造、酸性基含有ポリオール(Ac)由来の構造、1分子中に酸性基を1つと水酸基を1つ有する化合物(Ad)由来の構造、鎖延長剤(Ae)由来の構造、及び、中和剤(Af)由来の構造が挙げられる。
【0018】
(酸性基非含有ポリオール(Aa))
酸性基非含有ポリオール(Aa)としては、公知のものを使用することができる。例えば、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリウレタンポリオール、ポリエステルアミドポリオール、アクリルポリオール等の高分子ポリオール(ただしいずれも末端に水酸基を有する)や、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン等の低分子ポリオールが使用できる。耐溶剤性がより向上する観点から、酸性基非含有ポリオール(Aa)は、ポリカーボネートポリオール及び/又はポリエステルポリオールであることが好ましく、ポリカーボネートポリオールであることが特に好ましい。酸性基非含有ポリオール(Aa)は、単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0019】
ポリカーボネートポリオールは、1種以上のポリオール成分と、炭酸エステル又はホスゲンとを反応させることにより得られる。安全性や試薬の取扱等の観点から製造が容易であること、末端塩素化物の副生成がない点から、1種以上のポリオールモノマーと、炭酸エステルとを反応させて得られるポリカーボネートポリオールが好ましい。
【0020】
ポリカーボネートポリオールを構成するポリオールモノマーとしては、公知のものを使用することができる。例えば、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール等の直鎖状脂肪族ジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,5-ヘキサンジオール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、ネオペンチルグリコール等の分岐状脂肪族ジオールといった脂肪族ポリオール;トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の3官能以上の多価アルコール;1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロペンタンジオール、1,4-シクロヘプタンジオール、2,5-ビス(ヒドロキシメチル)-1,4-ジオキサン、2,7-ノルボルナンジオール、テトラヒドロフランジメタノール、1,4-ビス(ヒドロキシエトキシ)シクロヘキサン等の主鎖に脂環式構造を有するジオールといった脂環式ポリオール;1,4-ベンゼンジメタノール、1,3-ベンゼンジメタノール、1,2-ベンゼンジメタノール、4,4’-ナフタレンジメタノール、3,4’-ナフタレンジメタノール等の芳香族ジオール;6-ヒドロキシカプロン酸とヘキサンジオールとのポリエステルポリオール等のヒドロキシカルボン酸とジオールとのポリエステルポリオール;アジピン酸とヘキサンジオールとのポリエステルポリオール等のジカルボン酸とジオールとのポリエステルポリオール;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオールが挙げられる。中でも、密着性向上の観点から、脂環式ポリオール及び/又は脂肪族ポリオールが好ましく、脂肪族ポリオールがより好ましく、直鎖状脂肪族ジオール及び/又は分岐状脂肪族ジオールがさらに好ましく、直鎖状脂肪族ジオールが特に好ましい。ポリオールモノマーは単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0021】
炭酸エステルとしては、特に制限されないが、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の脂肪族炭酸エステル;ジフェニルカーボネート等の芳香族炭酸エステル;エチレンカーボネート等の環状炭酸エステル等が挙げられる。その他に、ポリカーボネートポリオールを生成することができるホスゲン等も使用できる。中でも、ポリカーボネートポリオールの製造のしやすさから、脂肪族炭酸エステルが好ましく、ジメチルカーボネートがより好ましい。
【0022】
ポリエステルポリオールとしては、公知のものを使用することができる。例えば、低分子量ポリオール(例えば、分子量50以上500以下のポリオール)とポリカルボン酸とをエステル化反応して得られるポリエステルポリオール;ε-カプロラクトン等の環状エステル化合物を開環重合反応して得られるポリエステルポリオール;これらの共重合ポリエステルポリオール等が挙げられる。具体的には、ポリエステルポリオールとしては、例えば、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリエチレンブチレンアジペートジオール、ポリへキサメチレンイソフタレートアジペートジオール、ポリエチレンサクシネートジオール、ポリブチレンサクシネートジオール、ポリエチレンセバケートジオール、ポリブチレンセバケートジオール、ポリ-ε-カプロラクトンジオール、ポリ(3-メチル-1,5-ペンチレンアジペート)ジオール、1,6-へキサンジオールとダイマー酸の重縮合物等のポリエステルジオールが挙げられる。
【0023】
低分子量ポリオールとしては、例えば、前記ポリオールモノマー等を使用することができる。低分子量ポリオールは、単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0024】
ポリカルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等の脂肪族ポリカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ポリカルボン酸;並びに前記脂肪族ポリカルボン酸及び芳香族ポリカルボン酸の無水物等が挙げられる。ポリカルボン酸は単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0025】
酸性基非含有ポリオール(Aa)の数平均分子量(Mn)は、400~5,000であることが好ましい。酸性基非含有ポリオール(Aa)の数平均分子量が400以上であると、ソフトセグメントとしての性能が良好で、密着性向上の観点から好ましい。酸性基非含有ポリオール(Aa)の数平均分子量が5,000以下であると、酸性基非含有ポリオール(Aa)とポリイソシアネート(Ab)との反応性が低下することなく、ポリウレタン樹脂(A)の製造において、合成中間体であるウレタンプレポリマーの製造工程に時間がかかったり、反応が充分に進行しなかったりするという問題や、酸性基非含有ポリオール(Aa)の粘度が高くなり、取り扱いが困難になるという問題が生じない。なお、本明細書において、Mnは、水酸基価及びH-NMRにより算出した値又はアルカリ加水分解後のガスクロマトグラフィーによるポリオールの定量値から算出した値である。
【0026】
酸性基非含有ポリオール(Aa)の水酸基価は、20~500mgKOH/gであることが好ましく、30~300mgKOH/gであることがより好ましい。水酸基価が上記範囲にあると密着性がより向上する。なお、本明細書において、水酸基価は、試料1g中の水酸基と当量の水酸化カリウムのミリグラム(mg)数であり、JIS K 1557のA法によって測定することができる。
【0027】
(ポリイソシアネート(Ab))
ポリイソシアネート(Ab)としては、公知のものを使用することができる。例えば、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート(TDI)、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、等の芳香族ポリイソシアネート化合物;エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート(PDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、等の脂肪族ポリイソシアネート化合物;イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート(水素添加TDI)、ビス(2-イソシアナトエチル)-4-ジクロヘキセン-1,2-ジカルボキシレート、2,5-ノルボルナンジイソシアネート、2,6-ノルボルナンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネート化合物が挙げられる。ポリイソシアネート(b)は、その構造の一部又は全部がイソシアヌレート化、カルボジイミド化、又はビウレット化等誘導化されていてもよい。
【0028】
反応性の制御等の観点から、ポリイソシアネート(Ab)は、脂肪族ポリイソシアネート化合物及び/又は脂環式ポリイソシアネート化合物であることが好ましく、耐溶剤性がより向上する観点から、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)及び4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI)であることが特に好ましい。ポリイソシアネート(Ab)は、単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0029】
ポリウレタン樹脂(A)の膜厚60μmのフィルムの弾性率を、効率的に0MPaを超え100MPa以下にすることができる観点から、ポリイソシアネート(Ab)は、以下のいずれかが特に好ましい。
1.ポリウレタン樹脂(A)が、1分子中に酸性基を1つと水酸基を1つ有する化合物(Ad)由来の構造を含む場合、ポリイソシアネート(Ab)は、脂環式ポリイソシアネート化合物が好ましく、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI)が特に好ましい。
2.ポリウレタン樹脂(A)が、1分子中に酸性基を1つと水酸基を1つ有する化合物(Ad)由来の構造を含まない場合、ポリイソシアネート(Ab)は、イソホロンジイソシアネート(IPDI)を含むことが特に好ましい。
3.ポリウレタン樹脂(A)が、1分子中に酸性基を1つと水酸基を1つ有する化合物(Ad)由来の構造を含まない場合、ポリウレタン樹脂(A)中の脂環構造の含有量を5.0~15.0質量%とすることが特に好ましい。本明細書において、ポリウレタン樹脂(A)中の脂環構造の含有量は、H-NMRによって測定することができる。
【0030】
(ブロックイソシアネート構造)
ポリウレタン樹脂(A)が、ポリイソシアネート(Ab)由来の構造を有する場合、ポリウレタン樹脂(A)はブロックイソシアネート構造を有していてもよい。ブロックイソシアネート構造とは、イソシアネート基にブロック化剤を付加した構造をいう。ポリウレタン樹脂におけるブロックイソシアネート構造は、一部のポリイソシアネート(Ab)由来の構造のイソシアネート基にブロック化剤が付加したものであり、通常は、ポリウレタン樹脂(A)の末端に存在する。
【0031】
ブロック化剤は、イソシアネート基と反応してイソシアネート基を別の基に変換可能な化合物であって、熱処理により別の基をイソシアネート基に可逆的に変換可能な化合物を意味する。熱処理温度としては、特に制限されないが、80~180℃が好ましい。
【0032】
ブロック化剤としては、フェノール等のフェノール系;メタノール等の脂肪族アルコール系;マロン酸ジメチル等の活性メチレン系;ブチルメルカプタン等のメルカプタン系;アセトアニリド等の酸アミド系;ε-カプロラクタム等のラクタム系;コハク酸イミド等の酸イミド系;アセトアルドオキシム、アセトンオキシム、メチルエチルケトオキシム等のオキシム系;ジフェニルアニリン、アニリン、エチレンイミン、ジメチルピラゾール等のアミン系等のブロック化剤が挙げられる。ブロック化剤は、単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。ブロックイソシアネート構造は、単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0033】
(酸性基含有ポリオール(Ac))
酸性基含有ポリオール(Ac)とは、1分子中に2個以上の水酸基と、1個以上の酸性基を含有するものである。酸性基としては、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、フェノール性水酸基が挙げられ、カルボキシ基が好ましい。酸性基含有ポリオール(Ac)は、単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0034】
酸性基含有ポリオール(Ac)としては、公知のものを使用することができる。例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸等のジメチロールアルカン酸;N,N-ビスヒドロキシエチルグリシン、N,N-ビスヒドロキシエチルアラニン、3,4-ジヒドロキシブタンスルホン酸、3,6-ジヒドロキシ-2-トルエンスルホン酸等が挙げられる。中でも入手の容易さの観点から、2個のメチロール基を含む炭素数4~12のジメチルロールアルカン酸が好ましく、ジメチロールアルカン酸の中でも、2,2-ジメチロールプロピオン酸が特に好ましい。
【0035】
(1分子中に酸性基を1つと水酸基を1つ有する化合物(Ad))
1分子中に酸性基を1つと水酸基を1つ有する化合物(Ad)とは、酸性基と水酸基を1分子中にそれぞれ1つずつ有する化合物である。酸性基としては、酸性基含有ポリオール(Ac)で前記したとおりである。1分子中に酸性基を1つと水酸基を1つ有する化合物(Ad)は、単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0036】
1分子中に酸性基を1つと水酸基を1つ有する化合物(Ad)としては、公知のものを使用することができる。例えば、グリコール酸、ヒドロキシピバル酸、乳酸、3-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ酪酸、10-ヒドロキシデカン酸、12-ヒドロキシドデカン酸、16-ヒドロキシヘキサデカン酸、トリクロロ乳酸、サリチル酸、ヒドロキシ安息香酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、2-ヒドロキシオクタン酸、3―ヒドロキシウンデカン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、12-ヒドロキシオレイン酸等のヒドロキシカルボン酸、ヒドロキシスルホン酸等が挙げられる。中でも、密着性がより向上する観点からヒドロキシカルボン酸が好ましく、12-ヒドロキシステアリン酸が特に好ましい。
【0037】
ポリウレタン樹脂(A)において、酸性基非含有ポリオール(Aa)、酸性基含有ポリオール(Ac)及び1分子中に酸性基を1つと水酸基を1つ有する化合物(Ad)との合計の水酸基当量数は、50~4,000であることが好ましい。水酸基当量数がこの範囲であれば、水系媒体(C)を含むポリウレタン樹脂組成物の製造が容易である。ポリウレタン樹脂組成物の貯蔵安定性の観点から、水酸基当量数は、100~3,500であることが好ましく、120~3,000であることがより好ましく、130~2,500であることがさらに好ましい。
【0038】
水酸基当量数は、以下の式(1)及び(2)で算出することができる。
各ポリオール成分の水酸基当量数=各ポリオール成分の分子量/各ポリオール成分の水酸基の数・・・(1)
ポリオール成分の合計の水酸基当量数=M/ポリオール成分の合計モル数・・(2)
式(2)において、Mは、[〔酸性基非含有ポリオール(Aa)の水酸基当量数×酸性基非含有ポリオール(Aa)のモル数〕+〔酸性基含有ポリオール(Ac)の水酸基当量数×酸性基含有ポリオール(Ac)のモル数〕+〔1分子中に酸性基を1つと水酸基を1つ有する化合物(Ad)の水酸基当量数×1分子中に酸性基を1つと水酸基を1つ有する化合物(Ad)のモル数〕]を示す。
【0039】
(鎖延長剤(Ae))
鎖延長剤(Ae)は、ポリウレタン樹脂(A)は、分子量を増加させる成分である。鎖延長剤(Ae)は、酸性基非含有ポリオール(Aa)、酸性基含有ポリオール(Ac)及び1分子中に酸性基を1つと水酸基を1つ有する化合物(Ad)以外の化合物であって、ポリウレタン樹脂(A)の製造において、合成中間体であるポリウレタンプレポリマーのイソシアナト基と反応性を有する化合物である。
【0040】
鎖延長剤(Ae)は、公知のものを使用することができる。鎖延長剤(Ae)は、単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。鎖延長剤(Ae)として例えば、エチレンジアミン、1,4-テトラメチレンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,4-ヘキサメチレンジアミン、3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、キシリレンジアミン、ピペラジン、ヒドラジン、アジポジヒドラジド、2,5-ジメチルピペラジン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエーテルアミン等のアミン化合物、水等が挙げられ、アミン化合物が好ましく、1分子内の官能基数が2以上のポリアミン化合物が特に好ましい。ここで、ポリアミン化合物における官能基とは、第1級アミノ基又は第2級アミノ基を意味する。
【0041】
鎖延長剤(Ae)のうち、数平均分子量(Mn)が600以下のポリアミンが好ましい。鎖延長剤(Ae)の数平均分子量が600以下であることは、水系媒体(C)を含むポリウレタン樹脂組成物において、ポリウレタン樹脂(A)の凝集力を高くすることができる。また、また、延長剤(Ae)がポリアミン化合物である場合、ポリウレタン樹脂(A)の重量平均分子量を高くすることができ、また、耐溶剤性をより向上させることができる。
【0042】
(中和剤(Af))
ポリウレタン樹脂(A)が、酸性基含有ポリオール(Ac)由来の構造、及び/又は、1分子中に酸性基を1つと水酸基を1つ有する化合物(Ad)由来の構造を有する場合、ポリウレタン樹脂(A)は酸性基を有する。この場合、ポリウレタン樹脂は、さらに、前記酸性基を中和させるために中和剤(Af)由来の構造を有していてもよい。中和剤(Af)は、単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0043】
中和剤(Af)としては、公知のものを使用することができる。例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-フェニルジエタノールアミン、2-ジメチルアミノエタノール、2-(ジメチルアミノ)-2-メチル-1-プロパノール、ジエチルエタノールアミン、N-メチルモルホリン、ピリジン等の有機アミン類;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機アルカリ、アンモニア等を用いることができる。
【0044】
中和剤(Af)としては、水系媒体(C)を含むポリウレタン樹脂組成物から樹脂膜を形成する際に、当該ポリウレタン樹脂組成物を乾燥する際の温度(通常は40℃~200℃)で揮発して、ポリウレタン樹脂膜から消失し、より一層優れた密着性が得られる点から、その沸点が200℃以下であることが好ましく、-50℃~180℃の範囲であることが特に好ましい。100℃以下の低温下で数秒間~1時間の短時間に乾燥塗膜を得る際には、その沸点が130℃以下であることが好ましく、100℃以下であることが特に好ましい。
【0045】
《ポリウレタン樹脂(A)の好ましい構造》
ポリウレタン樹脂(A)は、酸性基非含有ポリオール(Aa)由来の構造及びポリイソシアネート(Ab)由来の構造を有することが好ましい。
ポリウレタン樹脂(A)は、さらに、酸性基含有ポリオール(Ac)由来の構造を有することが好ましい。ポリウレタン樹脂(A)が酸性基含有ポリオール(Ac)由来の構造を有する場合、後述する水系媒体(C)への分散性を向上させることができる。
ポリウレタン樹脂(A)は、さらに、1分子中に酸性基を1つと水酸基を1つ有する化合物(Ad)由来の構造を有することが好ましい。ポリウレタン樹脂(A)が分子中に酸性基を1つと水酸基を1つ有する化合物(Ad)由来の構造を有する場合、耐溶剤性がより向上する傾向がある。ここで、1分子中に酸性基を1つと水酸基を1つ有する化合物(Ad)は、ヒドロキシカルボン酸であることが特に好ましい。
ポリウレタン樹脂(A)が、さらに、鎖延長剤(Ae)由来の構造を有することが好ましい。ポリウレタン樹脂(A)が鎖延長剤(Ae)由来の構造を有する場合、ポリウレタン樹脂(A)の分子量を所望の高分子量に調整しやすくすることができる。
【0046】
《ポリウレタン樹脂(A)の特性》
ポリウレタン樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は、10,000~10,000,000であることが好ましく、15,000~5,000,000であることがより好ましく、20,000~2,000,000であることがさらに好ましい。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したものであり、予め作成した標準ポリスチレンの検量線から求めた換算値を使用することができる。ポリウレタン樹脂(A)の重量平均分子量を10,000以上とすることで、良好な塗膜を得ることができる傾向がある。ポリウレタン樹脂(A)の重量平均分子量を10,000,000以下とすることで、水性分散体の乾燥性をより高くすることができる傾向がある。
【0047】
ポリウレタン樹脂(A)の酸価は、固形分基準で5~40mgKOH/gであることが好ましく、8~35mgKOH/gであることがより好ましく、10~30mgKOH/gであることが特に好ましい。ポリウレタン樹脂(A)の酸価を固形分基準で5~40mgKOH/gの範囲とすることで、貯蔵安定性が向上する傾向がある。ポリウレタン樹脂(A)の酸価は、JIS K 1557の指示薬滴定法に準拠して測定することができる。ポリウレタン樹脂(A)が中和剤(Af)由来の構造を含む場合、ポリウレタン樹脂(A)の酸価の測定においては、中和剤(Af)を取り除いて測定する。例えば、有機アミン類を中和剤(Af)として用いた場合には、例えば、後述するポリウレタン樹脂(A)水性分散体をガラス板上に塗布し、温度60℃、20mmHgの減圧下で24時間乾燥して得られた塗膜をN-メチルピロリドン(NMP)に溶解させて、JIS K 1557の指示薬滴定法に準拠して酸価を測定することができる。
ポリウレタン樹脂(A)の酸価は、酸性基含有ポリオール(Ac)、1分子中に酸性基を1つと水酸基を1つ有する化合物鎖延長剤(Ad)の含有量によって制御することができる。
【0048】
《ポリウレタン樹脂(A)の組成》
ポリウレタン樹脂中の各構造の含有量は、以下の通りであることが好ましい。本明細書において、ポリウレタン樹脂(A)中の各構造の含有量は、配合量(仕込み量)により計算した値である。また、配合量とは、ポリウレタン樹脂(A)を製造する際に使用する、各構造の原料となる成分の使用量を示す。ポリウレタン樹脂(A)の製造において、各成分は概ね全部反応するため、各成分の配合量をポリウレタン樹脂(A)中の各構造の含有量とする。
【0049】
酸性基非含有ポリオール(Aa)由来の構造は、ポリウレタン樹脂(A)中に、30~85質量%含まれることが好ましく、40~80質量%含まれることが特に好ましい。
【0050】
ポリイソシアネート(Ab)由来の構造は、ポリウレタン樹脂(A)中に、10~50質量%含まれることが好ましく、15~40質量%含まれることが特に好ましい。なお、ポリウレタン樹脂(A)が、ブロックイソシアネート構造を有している場合、ポリイソシアネート(Ab)由来の構造の含有量は、ブロックイソシアネート構造の含有量を含むものとする。
【0051】
酸性基含有ポリオール(Ac)由来の構造は、ポリウレタン樹脂(A)中に、0.5~20質量%含まれることが好ましく、1.0~15質量%含まれることが特に好ましい。
【0052】
1分子中に酸性基を1つと水酸基を1つ有する化合物(Ad)由来の構造、鎖延長剤(Ae)由来の構造、及び、中和剤(Af)由来の構造の合計は、ポリウレタン樹脂(A)中に、0~59.5質量%含まれることが好ましく、5.0~30.0質量%含まれることが特に好ましい。また、1分子中に酸性基を1つと水酸基を1つ有する化合物(Ad)由来の構造、鎖延長剤(Ae)由来の構造、及び、中和剤(Af)由来の構造のそれぞれの含有量は、以下の通りであることがより好ましい。
【0053】
1分子中に酸性基を1つと水酸基を1つ有する化合物(Ad)由来の構造は、ポリウレタン樹脂(A)中に、0~30.0質量%含まれることが好ましく、3.0~15.0質量%含まれることが特に好ましい。
【0054】
鎖延長剤(Ae)由来の構造は、ポリウレタン樹脂(A)中に、0~15.5質量%含まれることが好ましく、1.0~8.0質量%含まれることが特に好ましい。
また、鎖延長剤(Ae)の使用量は、ポリウレタン樹脂(A)の合成中間体であるポリウレタンプレポリマー中の鎖延長起点となるイソシアナト基の当量以下であることが好ましく、ポリウレタンプレポリマー中のイソシアナト基の0.70~0.99当量であることがより好ましい。ポリウレタンプレポリマー中のイソシアナト基の当量以下の量で鎖延長剤(Ae)を添加することで、鎖延長されたポリウレタン樹脂(A)の分子量を低下させず、耐溶剤性を向上させることができる傾向がある。
【0055】
また、中和剤(Af)を用いる場合の使用量としては、ポリウレタン樹脂(A)に含まれる酸性基のモル数に対して0.8~1.2倍の範囲であることが好ましい。中和剤(Af)の使用量が酸性基のモル数に対して0.8倍以上であると、得られる分散体の安定性が高く、1.2倍以下であると、100℃以下の低温乾燥下で数秒間~1時間の短時間で密着性がより高い塗膜を得ることができる。
【0056】
ポリウレタン樹脂(A)において、ウレタン結合の含有割合は、固形分基準で4.0~12.0質量%であることが好ましく、5.0~10.0質量%であることがより好ましく、6.0~9.0質量%であることがさらに好ましい。
【0057】
ウレタン結合の含有割合を上記範囲とすることで、ポリウレタン樹脂組成物の粘度を低減できる。
【0058】
ポリウレタン樹脂(A)において、ウレア結合の含有割合は、固形分基準で0.8~5.0質量%であることが好ましく、1.0~4.5質量%であることがより好ましく、2.0~4.0質量%であることがさらに好ましい。
【0059】
ウレア結合の含有割合を上記範囲とすることで、ポリウレタン樹脂組成物の粘度を低減できる。
【0060】
ポリウレタン樹脂(A)において、ウレタン結合及びウレア結合の合計の含有割合の下限値は、固形分基準で6.0質量%以上であることが好ましく、7.0質量%以上であることがより好ましく、8.0質量%以上であることがさらに好ましい。また、ウレタン結合及びウレア結合の合計の含有割合の上限値は、固形分基準で20.0質量%以下であることが好ましく、14.0質量%以下であることがより好ましく、12.0質量%以下であることがさらに好ましく、11.0質量%以下であることが特に好ましい。具体的には、6.0~20.0質量%であることが好ましく、7.0~14.0質量%であることが好ましく、8.0~12.0質量%であることがより好ましい。
【0061】
前記ウレタン結合及びウレア結合の合計の含有割合を7.0質量%以上とすることで、塗膜表面のベタツキを低減できる場合がある。また、前記ウレタン結合及びウレア結合の含有割合を25.0質量%以下とすることで、塗膜の基材への密着性がより高くなる場合がある。
【0062】
ポリウレタン樹脂中(A)のウレタン結合の含有割合及びウレア結合の含有割合は、酸性基非含有ポリオール(Aa)、ポリイソシアネート(Ab)、酸性基含有ポリオール(Ac)、1分子中に酸性基を1つと水酸基を1つ有する化合物鎖延長剤(Ad)、鎖延長剤(Ae)の、それぞれの分子量、1分子中における水酸基、イソシアナト基及びアミノ基の数並びにポリウレタン樹脂(A)を製造する際における固形分基準での各原料の使用割合によって制御することができる。
【0063】
ポリウレタン樹脂(A)中のウレタン結合、ウレア結合等の含有量は、配合量、各原料の分子量及び各構造に相当する部分の分子量又はモル数により、凡そ計算することができる。
【0064】
(ポリウレタン樹脂(A)の製造方法)
ポリウレタン樹脂(A)は、所望のポリウレタン樹脂(A)が得られる範囲で任意の方法を用いて得ることができる。例えば、ポリウレタン樹脂(A)は、酸性基非含有ポリオール(Aa)及びポリイソシアネート(Ab)を反応させる工程を含む製造方法によって得られる。また、ポリウレタン樹脂(A)は、以下のポリウレタン樹脂(A)水性分散体の製造方法により得られるポリウレタン樹脂(A)であることが好ましい。
【0065】
《ポリウレタン樹脂(A)水性分散体》
ポリウレタン樹脂(A)水性分散体とは、ポリウレタン樹脂(A)が水系媒体中に分散されているものである。ポリウレタン樹脂(A)水性分散体中におけるポリウレタン樹脂(A)の割合(固形分)は、5~60質量%であることが好ましく、20~50質量%であることが特に好ましい。
【0066】
《ポリウレタン樹脂(A)水性分散体の製造方法》
ポリウレタン樹脂(A)水性分散体の製造方法は、下記工程を含むことが好ましい。
(I)酸性基非含有ポリオール(Aa)、ポリイソシアネート(Ab)、酸性基含有ポリオール(Ac)、1分子中に酸性基を1つと水酸基を1つ有する化合物(Ad)を有機溶媒の存在下で反応させてポリウレタンプレポリマーを得る工程、
(II)前記ポリウレタンプレポリマーを水系媒体と混合する工程、並びに
(III)前記ポリウレタンプレポリマーを鎖延長剤(Ae)で高分子量化する工程。
さらに、中和剤(Af)を使用する場合、工程(I)の後に、前記ポリウレタンプレポリマーの酸性基を中和剤(Af)にて中和する工程が含まれていてもよい。加えて、工程(IV)として、工程(I)で用いた有機溶媒を除去する工程が含まれてもよい。
なお、ポリウレタン樹脂(A)が鎖延長剤(Ae)由来の構造を含まない場合は、工程(I)又は工程(II)で得られるポリウレタンプレポリマーをポリウレタン樹脂(A)とすることができる。
この他に、ポリウレタン樹脂(A)水性分散体は、国際公開第2016/039396号、国際公開第2016/163394号等に記載された公知の方法により製造することができる。
【0067】
・工程(I)
工程(I)において、ポリウレタンプレポリマーは、酸性基非含有ポリオール(Aa)、ポリイソシアネート(Ab)、酸性基含有ポリオール(Ac)、前記1分子中に酸性基を1つと水酸基を1つ有する化合物(Ad)を有機溶媒の存在下で反応させて得られる。有機溶媒としては、後述の親水性有機溶媒や造膜助剤と同じ溶媒が挙げられる。したがって、ポリウレタンプレポリマーは、酸性基非含有ポリオール(Aa)由来の構造、ポリイソシアネート(Ab)由来の構造、酸性基含有ポリオール(Ac)由来の構造、1分子中に酸性基を1つと水酸基を1つ有する化合物(Ad)由来の構造を有する。
【0068】
ポリウレタンプレポリマーは、ポリウレタンプレポリマーの固形分基準で、遊離イソシアナト基の含有割合が0.5~5.0質量%となる範囲内で選択されると、水系媒体に対する分散性が良好となる点で好ましい。
【0069】
ポリウレタンプレポリマーの酸価(AV)は、4~40mgKOH/gが好ましく、6~32mgKOH/gがより好ましく、8~29mgKOH/gが特に好ましい。ポリウレタンプレポリマーの酸価を4mgKOH/g以上とすることで、水系媒体への分散性、貯蔵安定性を良くすることができる傾向がある。また、ポリウレタンプレポリマーの酸価を40mgKOH/g以下とすることで、塗膜の柔軟性を高くすることができる傾向がある。
【0070】
なお、「ポリウレタンプレポリマーの酸価」とは、ポリウレタンプレポリマーを製造するにあたって用いられる溶媒及びポリウレタンプレポリマーを水系媒体中に分散させるための中和剤を除く、いわゆる固形分の酸価である。
【0071】
具体的には、ポリウレタンプレポリマーの酸価は、下記式(3)によって導き出すことができる。
【0072】
〔ポリウレタンプレポリマーの酸価〕=〔(酸性基含有ポリオール(Ac)のミリモル数)×(酸性基含有ポリオール(Ac)1分子中の酸性基の数)+(1分子中に酸性基を1つと水酸基を1つ有する化合物(Ad)のミリモル数)×(1分子中に酸性基を1つと水酸基を1つ有する化合物(Ad)の酸性基の数)〕×56.1/〔ポリイソシアネート(Ab)、酸性基含有ポリオール(Ac)、ブロック化剤、酸性基非含有ポリオール(Aa)、1分子中に酸性基を1つと水酸基を1つ有する化合物(Ad)の合計の質量〕・・・(3)
【0073】
このように、ポリウレタンプレポリマーの酸価は、酸性基含有ポリオール(Ac)、1分子中に酸性基を1つと水酸基を1つ有する化合物(Ad)の含有量により調整される。
【0074】
・工程(II)
工程(II)において、ポリウレタンプレポリマーと水系媒体とを混合する。水系媒体は、(C)成分として後述する成分が挙げられる。ポリウレタンプレポリマーと水系媒体との混合方法としては、特に制限されないが、例えば、ホモミキサーやホモジナイザー等によって撹拌されている水系媒体中に、ポリウレタンプレポリマーを添加する方法、ホモミキサーやホモジナイザー等によって撹拌されているポリウレタンプレポリマーに水系媒体を添加する方法等が挙げられる。工程(II)によって、ポリウレタンプレポリマーと水系媒体との混合物が得られる。ポリウレタンプレポリマーと水系媒体との混合物は、水系媒体にポリウレタンプレポリマーが分散された分散体であることが好ましい。
【0075】
・工程(III)
工程(III)において、ポリウレタンプレポリマーと、前記鎖延長剤(Ae)とを反応させる。工程(III)は、ポリウレタンプレポリマー同士を結合し、ポリウレタン樹脂(A)の分子量を目的の範囲に調整する工程である。
【0076】
工程(III)は冷却下でゆっくりと行ってもよく、また場合によっては90℃以下の加熱条件下で反応を促進して行ってもよい。冷却下における反応時間は、例えば0.5~24時間とすることができ、90℃以下の加熱条件下における反応時間は、例えば0.1~6時間とすることができる。
【0077】
各成分の使用量は、ポリウレタン樹脂(A)で前記した各成分の含有量となる量が挙げられる。
【0078】
<ポリウレタン樹脂(A)の膜厚60μmのフィルムの弾性率>
ポリウレタン樹脂(A)の膜厚60μmのフィルム(以下、「ポリウレタン樹脂(A)のフィルム」ともいう。)の弾性率(以下、「ポリウレタン樹脂(A)の弾性率」ともいう。)は0MPaを超え100MPa以下である。密着性がより向上する観点から、ポリウレタン樹脂(A)の弾性率の下限値は2MPa以上が好ましく、3MPa以上がより好ましい。ポリウレタン樹脂(A)の弾性率の上限値は80MPa以下であることが好ましく、40MPa以下であることがより好ましく、15MPa以下であることがさらに好ましく、10MPa以下であることが好ましい。具体的には、ポリウレタン樹脂(A)の弾性率は2~80MPaであることが好ましく、2~40MPaであることより好ましい。本明細書において、ポリウレタン樹脂(A)の弾性率は、JIS K7311に規定されている引張試験により測定される。ポリウレタン樹脂(A)の弾性率は、ポリウレタン樹脂(A)中の1分子中に酸性基を1つと水酸基を1つ有する化合物(Ad)の含有量の低減、脂環構造の含有量を前述の範囲にすること、ウレタン結合及びウレア結合の合計の含有割合を前述の範囲にすること等により上昇させることができる。
【0079】
ポリウレタン樹脂(A)のフィルムは、ポリウレタン樹脂(A)のみからなるフィルムであるか、ポリウレタン樹脂(A)と、任意成分として、濡れ剤、造膜助剤及び重合開始剤からなる群より選択される1種以上の成分のみを含むフィルムである。ここで濡れ剤、造膜助剤及び重合開始剤については、その他の添加剤として後述するとおりである。
【0080】
ポリウレタン樹脂(A)のフィルムの製造方法は、特に限定されない。ポリウレタン樹脂(A)のフィルムの製造方法としては、ポリウレタン樹脂(A)又はポリウレタン樹脂(A)を含む組成物を、基材に塗布して、ポリウレタン樹脂(A)又はポリウレタン樹脂(A)を含む組成物が塗布された基材を得る工程、ポリウレタン樹脂(A)又はポリウレタン樹脂(A)を含む組成物が塗布された基材を乾燥して、ポリウレタン樹脂(A)の塗膜を得る工程、ポリウレタン樹脂(A)の塗膜を基材から分離して、ポリウレタン樹脂(A)のフィルムを得る工程が挙げられる。
【0081】
ポリウレタン樹脂(A)を含む組成物は、水系媒体(C)、濡れ剤、造膜助剤及び重合開始剤からなる群より選択される1種以上の成分のみを含むことができる。ここで、水系媒体(C)、濡れ剤、造膜助剤及び重合開始剤については、その他の添加剤として後述するとおりである。なお、ポリウレタン樹脂(A)を含む組成物が、水及び造膜助剤を含む場合、親水性有機溶媒としても機能する造膜助剤に該当する成分は、水系媒体(C)含まれる親水性有機溶媒となる。また、ポリウレタン樹脂(A)を含む組成物における各成分の含有量については、ポリウレタン樹脂組成物の組成において、水系媒体(C)及びその他の添加剤の含有量として後述するとおりである。
【0082】
ポリウレタン樹脂(A)又はポリウレタン樹脂(A)を含む組成物の塗布方法としては、例えば、ディッピング法、ロールコーティング法、リバースロールコーティング法、グラビアロールコーティング法、スクリーンコーティング法、スプレーコーティング法、ナイフコーティング法、エアーナイフコーティング法、バーコーティング法、スピンコーティング法等が挙げられる。
【0083】
ポリウレタン樹脂(A)のフィルムの製造方法において、基材は特に限定されない。基材としては、ガラス等の無機基材であってもよく、エラストマー基材であってもよい。
【0084】
ポリウレタン樹脂(A)又はポリウレタン樹脂(A)を含む組成物が塗布された基材を乾燥する方法としては、特に制限されないが、加熱による方法が挙げられる。前記加熱による方法としては、自己の反応熱による加熱方法と、ポリウレタン樹脂(A)又はポリウレタン樹脂(A)を含む組成物が塗布された基材を積極加熱する加熱方法等が挙げられる。積極加熱はポリウレタン樹脂(A)又はポリウレタン樹脂(A)を含む組成物が塗布された基材を熱風オーブンや電気炉、赤外線誘導加熱炉に入れて加熱する方法が挙げられる。加熱温度としては、40~200℃が挙げられる。
【0085】
ポリウレタン樹脂組成物が水系媒体(C)を含む場合、ポリウレタン樹脂(A)のフィルムは、ポリウレタン樹脂(A)及び水系媒体(C)を含む組成物を60℃で2時間、次いで、120℃で2時間加熱して得られるフィルムである。ここで、前記ポリウレタン樹脂(A)水性分散体は、ポリウレタン樹脂(A)及び水系媒体(C)のみを含むか、さらに濡れ剤、造膜助剤及び重合開始剤からなる群より選択される1種以上の成分のみを含む。濡れ剤、造膜助剤及び重合開始剤は、その他の添加剤として後述する成分が挙げられる。また、水系媒体(C)が親水性有機溶媒を含む場合、前記ポリウレタン樹脂(A)水性分散体から得られる測定するためのフィルムは、前記親水性有機溶媒を造膜助剤として含んでいてもよい。
【0086】
<カルボジイミド化合物(B)>
カルボジイミド化合物(B)としては、公知のものを使用することができる。
【0087】
カルボジイミド化合物(B)としては、例えばN,N’-ジ-o-トルイルカルボジイミド、N,N’-ジフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、N,N’-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、N,N’-ジオクチルデシルカルボジイミド、N-トリイル-N’-シクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ジ-2,2-ジ-tert-ブチルフェニルカルボジイミド、N-トリイル-N’-フェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-p-ニトロフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-p-アミノフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-p-ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ジ-p-トルイルカルボジイミド等が挙げられる。このようなカルボジイミドとしては日清紡ケミカル株式会社製のカルボジライトシリーズが挙げられるが、かかる例示にのみ限定されるものではない。
カルボジイミド化合物(B)は、単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0088】
<その他の成分>
ポリウレタン樹脂組成物は、さらに、水系媒体(C)及びその他の添加剤からなる群より選択される1種以上の成分を含んでいてもよい。
【0089】
《水系媒体(C)》
水系媒体(C)とは、水又は水と親水性有機溶媒との混合媒体である。
水としては、例えば、上水、イオン交換水、蒸留水、超純水等が挙げられる。
親水性有機溶媒としては、例えば、アセトン、エチルメチルケトン等のケトン類;N-メチルピロリドン(N-メチル-2-ピロリドン(NMP))、N-エチルピロリドン、N-プロピルピロリドン、N-イソプロピルピロリドン、N-ブチルピロリドン、N-シクロヘキシルピロリドン、N-オクチルピロリドン、N-フェニルピロリドン、ビニルピロリドン等のピロリドン類;ジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、n-ヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のアルコール類;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類;KJケミカル社製「KJCMPA(R)-100」に代表されるβ-アルコキシプロピオンアミド等のアミド類;2-(ジメチルアミノ)-2-メチル-1-プロパノール(DMAP)等の水酸基含有三級アミンが挙げられる。
水系媒体(C)は、単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0090】
《その他の添加剤》
その他の添加剤は、水系媒体(C)以外のその他の成分である。その他の添加剤としては、例えば、その他の樹脂、表面調整剤、界面活性剤、乳化剤、増粘剤、ウレタン化触媒、充填剤、発泡剤、撥油剤、顔料、染料、濡れ剤、造膜助剤、重合開始剤、中空発泡体、難燃剤、消泡剤、レベリング剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、沈降防止剤、重合禁止剤、分散剤、浸透促進剤、保湿剤、定着剤、防腐剤、酸化防止剤、防黴剤、キレート剤、増感剤、pH調整剤等を用いることができる。その他の添加剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0091】
造膜助剤は、一般に成膜を促進する作用を有する親水性化合物である。造膜助剤としては例えば、親水性有機溶媒として前記した成分が挙げられる。なお、造膜助剤は、水系媒体(C)における親水性有機溶媒を兼ねることもできる。即ち、ポリウレタン樹脂組成物は、水を含まず、造膜助剤として親水性有機溶媒を含むものであってもよい。
濡れ剤としては、高級アルコールの硫酸エステル、高級アルコールの硫酸エステルの塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルスルホン酸塩等のアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、オキシエチレン-オキシプロピレンブロックポリマー等のノニオン性界面活性剤;シリコーン系界面活性剤等が挙げられる。
重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩;2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物;過酸化水素、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウオイルパーオキサイド等の過酸化物等が挙げられる。
【0092】
<ポリウレタン樹脂組成物の好ましい態様>
ポリウレタン樹脂組成物は、さらに、水系媒体(C)を含むことが好ましい。ポリウレタン樹脂組成物が、さらに、水系媒体(C)を含む場合、ポリウレタン樹脂(A)及び水系媒体(C)の組合せは、ポリウレタン樹脂(A)水性分散体を構成していてもよい。また、ポリウレタン樹脂組成物が、水系媒体(C)と更なる添加剤との組合せを含む場合、ポリウレタン樹脂(A)、水系媒体(C)及び更なる添加剤の組合せは、ポリウレタン樹脂(A)水性分散体を構成していてもよい。よって、ポリウレタン樹脂組成物が、さらに、水系媒体(C)又は水系媒体(C)及び更なる添加剤を含む場合、ポリウレタン樹脂組成物は、ポリウレタン樹脂(A)水性分散体及びカルボジイミド化合物(B)を含むものであってもよい。
【0093】
また、ポリウレタン樹脂組成物は、ポリウレタン樹脂(A)、カルボジイミド化合物(B)が配合されてなることが好ましく、ポリウレタン樹脂(A)、カルボジイミド化合物(B)が配合されており、水系媒体(C)をさらに含むことが特に好ましい。
【0094】
本発明において、ポリウレタン樹脂(A)及びカルボジイミド化合物(B)は部分的に反応しうる。よって、ポリウレタン樹脂(A)及びカルボジイミド化合物(B)を含むポリウレタン樹脂組成物、並びに、ポリウレタン樹脂(A)、カルボジイミド化合物(B)が配合されてなるポリウレタン樹脂組成物は、一部のポリウレタン樹脂(A)と一部のカルボジイミド化合物(B)とが反応したもの(部分反応物)を含んでいてもよい。
【0095】
<ポリウレタン樹脂組成物の組成>
ポリウレタン樹脂(A)に対するカルボジイミド化合物(B)の配合比率(B/A)は、耐溶剤性及び密着性向上の観点から0.005~0.300であることが好ましく、0.008~0.250であることが特に好ましい。前記配合比率は、ポリウレタン樹脂(A)及びカルボジイミド化合物(B)の固形分重量に基づく。
水系媒体(C)は、ポリウレタン樹脂組成物中に0~80質量%含まれることが好ましく、30~75質量%含まれることがより好ましく、60~70質量%含まれることが特に好ましい。ここで、水系媒体(C)中の親水性有機溶媒の量は、0~20質量%であることが好ましい。なお、造膜助剤としても機能する親水性有機溶媒の含有量は、水系媒体(C)中の親水性有機溶媒の量とする。
水系媒体(C)を含むポリウレタン樹脂組成物のpHは、5.0~10.0であることが好ましい。
その他の添加剤は、ポリウレタン樹脂組成物中に0~15質量%含まれることが好ましく、1.0~10質量%含まれることが特に好ましい。
【0096】
<ポリウレタン樹脂組成物の製造方法>
ポリウレタン樹脂組成物は、ポリウレタン樹脂(A)及びカルボジイミド化合物(B)を配合する方法により製造することができる。
【0097】
ポリウレタン樹脂組成物が、さらに、その他の成分(即ち、水系媒体(C)及び/又はその他の添加剤)を含む場合、その他の成分の配合は、任意の段階で行うことができる。例えば、ポリウレタン樹脂組成物は、ポリウレタン樹脂(A)水性分散体とその他の添加剤とを予め混合した後に、カルボジイミド化合物(B)を配合する方法により製造してもよい。
【0098】
ポリウレタン樹脂組成物が、さらに、水系媒体(C)又は水系媒体(C)と更なる添加剤との組合せを含む場合、ポリウレタン樹脂組成物は、ポリウレタン樹脂(A)水性分散体及びカルボジイミド化合物(B)を配合する方法により製造することができる。ここで、ポリウレタン樹脂(A)水性分散体は、前記した通りである。
【0099】
<エラストマー基材>
本明細書において、「エラストマー」とは、ゴム及び熱可塑性エラストマーを含む意味である。
【0100】
エラストマー基材のアスカーC硬度は、40~80である。エラストマー基材のアスカーC硬度が40未満である場合、ポリウレタン樹脂組成物の密着性が劣る。エラストマー基材のアスカーC硬度が80を超える場合、ポリウレタン樹脂組成物の密着性が劣る。また、エラストマー基材のアスカーC硬度は、50~80であってもよく、60~80であってもよく、70~80であってもよい。アスカーC硬度は、JIS K7312の「7.硬さ試験」の附属書2に記載のスプリング硬さ試験タイプC試験方法に準拠して測定される。また、エラストマー基材のアスカーC硬度は、可塑剤の使用によって減少させることができ、架橋(加硫)によって増加させることができる。またエラストマー基材のアスカーC硬度は、使用する単量体の選択により変化させることができる。
【0101】
エラストマー基材は、前記アスカーC硬度を有する限り特に限定されない。エラストマー基材の材質としては、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、熱可塑性ポリウレタン、ゲル等が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0102】
エラストマー基材の形状は、任意であり、種々の形状であってよい。エラストマー基材の形状の具体例としては、押出成形やプレス成形、射出成形等で成形されたシート状基材、棒状基材等が挙げられる。このような形状を有するエラストマー基材としては、自動車のウェザーストリップやワイパーブレード、靴、サンダル、長靴、機械や建築物の防振部材等が挙げられる。
【0103】
また、エラストマー基材は、フィラーや老化防止剤、加硫促進剤、紫外線吸収剤、滑
剤等の種々の添加剤を含んでいてもよい。
【0104】
(ポリウレタン樹脂組成物の使用方法)
ポリウレタン樹脂組成物は、エラストマー基材用のコーティング剤として使用される。
ポリウレタン樹脂組成物を用いたエラストマー基材上にコーティングを製造する方法しては、特に限定されない。例えば、ポリウレタン樹脂組成物をエラストマー基材に塗布した後、乾燥することにより、樹脂膜(コーティング)を得ることができる。
【0105】
基材に塗布され、乾燥して得られる樹脂膜を塗膜ともいい、基材から分離された樹脂膜をフィルムともいう。よって、樹脂膜とは、塗膜及びフィルムを含む概念である。樹脂膜はポリウレタン樹脂(A)を含む樹脂膜である。
【0106】
ここで、ポリウレタン樹脂組成物の塗布方法、並びに、ポリウレタン樹脂組成物が塗布された基材の乾燥方法及び乾燥方法については、ポリウレタン樹脂(A)のフィルムにおいて前記した通りである。
【0107】
樹脂膜の厚さは、特に制限されないが、0.1~200μmに調整することが好ましく、1~100μmに調整することがより好ましく、5~80μmに調整することが特に好ましい。
【0108】
[積層体]
本発明に係る積層体は、エラストマー基材、並びに、前記エラストマー基材上にウレタン樹脂膜(D)を有する。ここで、ウレタン樹脂膜(D)は、ポリウレタン樹脂(A)に由来する構造及びカルボジイミド化合物(B)に由来する構造を有する。ポリウレタン樹脂(A)の膜厚60μmのフィルムの弾性率が0MPaを超え100MPa以下である。エラストマー基材のアスカーC硬度が40~80である。
【0109】
積層体において、エラストマー基材、ポリウレタン樹脂(A)、カルボジイミド化合物(B)、ポリウレタン樹脂(A)の膜厚60μmのフィルムの弾性率、エラストマー基材のアスカーC硬度については、好ましい態様を含め、前記した通りである。
【0110】
ウレタン樹脂膜(D)は、ポリウレタン樹脂(A)に由来する構造及びカルボジイミド化合物(B)に由来する構造を有する。ポリウレタン樹脂(A)及びカルボジイミド化合物(B)は、好ましい態様を含め、前記した通りである。また、ウレタン樹脂膜(D)は、好ましい態様を含め、ポリウレタン樹脂組成物のコーティングである樹脂膜として前記したとおりである。よって、ウレタン樹脂膜(D)は、ポリウレタン樹脂(A)に由来する構造及びカルボジイミド化合物(B)に由来する構造に加えて、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分は、ポリウレタン樹脂組成物において、前記したとおりである。
【0111】
[積層体の製造方法]
本発明に係る積層体の製造方法は、エラストマー基材上に、ポリウレタン樹脂組成物を塗布し、乾燥する工程を含むことが好ましい。
【0112】
積層体の製造方法において、エラストマー基材、ポリウレタン樹脂組成物については、好ましい態様を含め、前記した通りである。また、積層体の製造方法において、ポリウレタン樹脂組成物の塗布及び乾燥の条件については、好ましい態様を含め、前記した通りである。
ポリウレタン樹脂(A)が中和剤(Af)由来の構造を含む場合であっても、水系媒体(C)を含むポリウレタン樹脂組成物から樹脂膜を形成する際に、中和剤(Af)が揮発してポリウレタン樹脂膜から消失することがあるため、ウレタン樹脂膜(D)には中和剤(Af)由来の構造が含まれないことがある。
【実施例0113】
次に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0114】
[製造例1]
ポリウレタン樹脂(A)水性分散体(U1)
ポリカーボネートポリオール(製品名「UH200」UBE株式会社製;数平均分子量2,000;水酸基価57mgKOH/g;1,6-ヘキサンジオールと炭酸ジメチルの反応生成物、370g)と、2,2-ジメチロールプロピオン酸(DMPA、11.1g)と、12-ヒドロキシステアリン酸(HSA、49.4g)と、イソホロンジイソシアネート(IPDI、104g)とを、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DMM、213g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.3g)存在下、窒素雰囲気下で、80~95℃で5時間加熱した。反応混合物を80℃まで冷却し、これにトリエチルアミン(25.8g)を添加・混合したもののうち、658gを、強撹拌のもと水(861g)の中に加えた。ついで、35質量%のジエチレントリアミン水溶液(DETA、18.1g)を加えることでポリウレタン樹脂(A)水性分散体(U1)を得た。固形分は30質量%であった。
【0115】
[製造例2]
ポリウレタン樹脂(A)水性分散体(U2)
ポリカーボネートポリオール(製品名「UH200」UBE株式会社製、303g)と、2,2-ジメチロールプロピオン酸(DMPA、16.2g)と、イソホロンジイソシアネート(IPDI、84.5g)とを、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DMM、134g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.3g)存在下、窒素雰囲気下で、80~95℃で5時間加熱した。反応混合物を80℃まで冷却し、これにトリエチルアミン(12.3g)を添加・混合したもののうち、394gを、強撹拌のもと水(583g)の中に加えた。ついで、35質量%の2-メチル-1,5-ペンタンジアミン水溶液(MPMD、23.1g)を加えることでポリウレタン樹脂(A)水性分散体(U2)を得た。固形分は30質量%であった。
【0116】
[製造例3]
ポリウレタン樹脂(A)水性分散体(U3)
ポリカーボネートポリオール(製品名「UH200」UBE株式会社製、440g)と、2,2-ジメチロールプロピオン酸(DMPA、23.1g)と、イソホロンジイソシアネート(IPDI、124g)とを、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DMM、193g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.3g)存在下、窒素雰囲気下で、80~95℃で5時間加熱した。反応混合物を80℃まで冷却し、これにトリエチルアミン(17.5g)を添加・混合したもののうち、320gを、強撹拌のもと水(478g)の中に加えた。ついで、35質量%の2-メチル-1,5-ペンタンジアミン水溶液(MPMD、10.3g)と、アジポジヒドラジド(ADH、4.64g)を加えることでポリウレタン樹脂(A)水性分散体(U3)を得た。固形分は30質量%であった。
【0117】
[製造例4]
ポリウレタン樹脂(A)水性分散体(U4)
ポリエステルポリオール(製品名「プラクセル220N」株式会社ダイセル製;数平均分子量2,000;水酸基価57mgKOH/g;ポリカプロラクトンジオール、370g)と、2,2-ジメチロールプロピオン酸(DMPA、11.1g)と、12-ヒドロキシステアリン酸(HSA、49.4g)と、イソホロンジイソシアネート(IPDI、104g)とを、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DMM、213g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.3g)存在下、窒素雰囲気下で、80~95℃で5時間加熱した。反応混合物を80℃まで冷却し、これにトリエチルアミン(25.8g)を添加・混合したもののうち、658gを、強撹拌のもと水(861g)の中に加えた。ついで、35質量%のジエチレントリアミン水溶液(DETA 、18.1g)を加えることでポリウレタン樹脂(A)水性分散体(U4)を得た。固形分は30質量%であった。
【0118】
[製造例5]
ポリウレタン樹脂(A)水性分散体(U5)
ポリカーボネートポリオール(製品名「UH200」UBE株式会社製、280g)と、2,2-ジメチロールプロピオン酸(DMPA、8.20g)と、12-ヒドロキシステアリン酸(HSA、37.3g)と、イソホロンジイソシアネート(IPDI、78.0g)とを、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DMM、162g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.3g)存在下、窒素雰囲気下で、80~95℃で5時間加熱した。反応混合物を80℃まで冷却し、これにトリエチルアミン(19.3g)を添加・混合したもののうち、430gを、強撹拌のもと水(564g)の中に加えた。ついで、35質量%のジエチレントリアミン水溶液(DETA 、9.20g)と、35質量%のポリエーテルアミン水溶液(製品名「JEFFAMINE(登録商標) D-400」HUNTSMAN Corporation製、16.9g)を加えることでポリウレタン樹脂(A)水性分散体(U5)を得た。固形分は30質量%であった。
【0119】
[製造例6]
ポリウレタン樹脂(A)水性分散体(U6)
ポリカーボネートポリオール(製品名「UH200」UBE株式会社製、276g)と、2,2-ジメチロールプロピオン酸(DMPA、18.2g)と、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI、108g)とを、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DMM、134g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.3g)存在下、窒素雰囲気下で、80~95℃で5時間加熱した。反応混合物を80℃まで冷却し、これにトリエチルアミン(13.7g)を添加・混合したもののうち、395gを、強撹拌のもと水(574g)の中に加えた。ついで、35質量%の2-メチル-1,5-ペンタンジアミン水溶液(MPMD、31.0g)を加えることでポリウレタン樹脂(A)水性分散体(U6)を得た。固形分は30質量%であった。
【0120】
[製造例7]
ポリウレタン樹脂(A)水性分散体(U7)
ポリカーボネートポリオール(製品名「UH200」UBE株式会社製、266g)と、2,2-ジメチロールプロピオン酸(DMPA、18.6g)と、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI、117g)とを、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DMM、134g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.3g)存在下、窒素雰囲気下で、80~95℃で5時間加熱した。反応混合物を80℃まで冷却し、これにトリエチルアミン(14.0g)を添加・混合したもののうち、392gを、強撹拌のもと水(569g)の中に加えた。ついで、35質量%の2-メチル-1,5-ペンタンジアミン水溶液(MPMD、39.6g)を加えることでポリウレタン樹脂(A)水性分散体(U7)を得た。固形分は30質量%であった。
【0121】
[製造例8]
ポリウレタン樹脂(A)水性分散体(U8)
ポリカーボネートポリオール(製品名「UH200」UBE株式会社製、286g)と、2,2-ジメチロールプロピオン酸(DMPA、19.9g)と、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI、126g)とを、N-メチル-2-ピロリドン(NMP、144g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.3g)存在下、窒素雰囲気下で、80~95℃で5時間加熱した。その後3,5-ジメチルピラゾール(DMPZ、8.70g)を加え、同温度で1.5時間撹拌を続けた。反応混合物を80℃まで冷却し、これにトリエチルアミン(15.0g)を添加・混合したもののうち、402gを、強撹拌のもと水(567g)の中に加えた。ついで、35質量%の2-メチル-1,5-ペンタンジアミン水溶液(MPMD、30.5g)を加えることでポリウレタン樹脂(A)水性分散体(U8)を得た。固形分は30質量%であった。
【0122】
ポリカーボネートポリオール及びポリエステルポリオールの数平均分子量及び水酸基価は、カタログ値である。
【0123】
[ポリウレタン樹脂(A)のフィルムの弾性率評価]
製造例1~8で得られたポリウレタン樹脂(A)水性分散体をガラス板上に塗布し、60℃で2時間、120℃で2時間加熱することで膜厚60μmのポリウレタン樹脂(A)のフィルムを得た。得られたポリウレタン樹脂(A)のフィルムを(株)ダンベルのスーパーダンベル(登録商標)カッター(SDK-300)を用いて、打ち抜き試験片を作成した。得られた試験片を、Instron社の万能試験機5982を用いて、JIS K 7311に準拠する方法で引張り試験を行った。なお、測定条件は23℃、50%の環境下にて、500Nのロードセルを用い、引張速度100mm/分である。
【0124】
[カルボジイミド化合物(B)又はイソシアネート硬化剤]
カルボジイミド化合物(B)又はイソシアネート硬化剤としては、以下のものを用いた。表1及び表2中の略称は以下の通りである。
B1:日清紡ケミカル株式会社製 カルボジライト V-02-L2(カルボジイミド化合物、固形分40質量%)
B2:日清紡ケミカル株式会社製 カルボジライト V-10(カルボジイミド化合物、固形分40質量%)
B1’:Vencorex社製 EASAQUA XD870(脂環式イソシアネート硬化剤、固形分70質量%)
B2’:Vencorex社製 EASAQUA L600(直鎖脂肪族イソシアネート硬化剤、固形分97質量%)
【0125】
[エラストマー基材]
エラストマー基材としては、以下のものを用いた。表1及び表2中の略称は以下の通りである。
S1:クロロプレンゴム(70mm×150mm、厚さ2.0mm、株式会社エンジニアリングテストサービス製)
S2:ポリウレタン系熱可塑性エラストマーフィルム ESMER URS(70mm×150mm、厚さ2.0mm、日本マタイ株式会社製)
S3:ウレタンゲル ハイパーゲルシートアスカーC50(70mm×150mm、厚さ3.0mm、株式会社エクシール製)
S4:エチレンプロピレンジエンゴム(70mm×150mm、厚さ2.0mm、株式会社エンジニアリングテストサービス製)
S5:天然ゴム(70mm×150mm、厚さ2.0mm、株式会社エンジニアリングテストサービス製)
S6:ウレタンゲル ハイパーゲルシートアスカーC30(70mm×150mm、厚さ3.0mm、株式会社エクシール製)
【0126】
[エラストマー基材のアスカーC硬度評価]
エラストマー基材S1~S6について、基材を重ねて厚さ12mmとし、JIS K7312の「7.硬さ試験」の附属書2に記載のスプリング硬さ試験タイプC試験方法に準拠してアスカーC硬度を評価した。硬度計は高分子計器株式会社製アスカーゴム硬度計C1L型を使用した。
【0127】
[試験サンプルの製造方法]
後述する評価試験のために、以下に示される方法で試験片を作成した。後述の実施例1~10及び比較例1~9の各ポリウレタン樹脂(A)水性分散体組成物を、亜鉛引き鉄板(70mm×150mm、厚さ0.8mm、TP技研株式会社製)上に両面テープ(ナイスタックTM NW-K25、ニチバン株式会社製)で貼り付けたエラストマー基材S1~S6に#50バーコーターでそれぞれ塗布した。エラストマー基材S1、S2、S4、S5を使用した場合は150℃で30分間、エラストマー基材S3、S6を使用した場合は100℃で60分間の加熱を行い、23℃で24時間静置することにより試験サンプルを得た。尚、エラストマー基材S1~S6は、アセトンを含浸したウエハースで予め脱脂したものを使用した。
【0128】
[実施例1]
ポリウレタン樹脂(A)水性分散体U1の100質量部に対し、カルボジイミド化合物B1を4.0質量部、赤色顔料(トーヨーカラー株式会社製;EMFピンク2B―1)を4.5質量部、表面調整剤(BYK―Chemie製;BYK―345)を0.6質量部配合し、ポリウレタン樹脂(A)水性分散体組成物を製造した。エラストマー基材S1を使用し、前述の方法にて試験サンプルを製造した。
【0129】
[実施例2]
ポリウレタン樹脂(A)水性分散体U1の代わりにポリウレタン樹脂(A)水性分散体U2を用いた以外、実施例1と同様にして試験サンプルを製造した。
【0130】
[実施例3]
ポリウレタン樹脂(A)水性分散体U1の代わりにポリウレタン樹脂(A)水性分散体U3を用いた以外、実施例1と同様にして試験サンプルを製造した。
【0131】
[実施例4]
ポリウレタン樹脂(A)水性分散体U1の代わりにポリウレタン樹脂(A)水性分散体U4を用いた以外、実施例1と同様にして試験サンプルを製造した。
【0132】
[実施例5]
ポリウレタン樹脂(A)水性分散体U1の代わりにポリウレタン樹脂(A)水性分散体U5を用いた以外、実施例1と同様にして試験サンプルを製造した。
【0133】
[実施例6]
カルボジイミド化合物B1の代わりにカルボジイミド化合物B2を用いた以外、実施例1と同様にして試験サンプルを製造した。
【0134】
[実施例7]
ポリウレタン樹脂(A)水性分散体U1の100質量部に対し、カルボジイミド化合物B1を20質量部用いた以外、実施例1と同様にして試験サンプルを製造した。
【0135】
[実施例8]
ポリウレタン樹脂(A)水性分散体U1の100質量部に対し、カルボジイミド化合物B1を0.5質量部用いた以外、実施例1と同様にして試験サンプルを製造した。
【0136】
[実施例9]
エラストマー基材S1の代わりにエラストマー基材S2を用いた以外、実施例1と同様にして試験サンプルを製造した。
【0137】
[実施例10]
エラストマー基材S1の代わりにエラストマー基材S3を用いた以外、実施例1と同様にして試験サンプルを製造した。
【0138】
[比較例1]
ポリウレタン樹脂(A)水性分散体U1の100質量部に対し、赤色顔料(トーヨーカラー株式会社製;EMFピンク2B―1)を4.5質量部、表面調整剤(BYK―Chemie製;BYK―345)を0.6質量部配合し、ポリウレタン樹脂(A)水性分散体組成物を製造した。エラストマー層S1を使用し、前述の方法にて試験サンプルを製造した。
【0139】
[比較例2]
カルボジイミド化合物B1の代わりにイソシアネート硬化剤B1’を用いた以外、実施例1と同様にして試験サンプルを製造した。
【0140】
[比較例3]
カルボジイミド化合物B1の代わりにイソシアネート硬化剤B2’を用いた以外、実施例1と同様にして試験サンプルを製造した。
【0141】
[比較例4]
エラストマー基材S1の代わりにエラストマー基材S4を用いた以外、実施例1と同様にして試験サンプルを製造した。
【0142】
[比較例5]
エラストマー基材S1の代わりにエラストマー基材S5を用いた以外、実施例1と同様にして試験サンプルを製造した。
【0143】
[比較例6]
エラストマー基材S1の代わりにエラストマー基材S6を用いた以外、実施例1と同様にして試験サンプルを製造した。
【0144】
[比較例7]
ポリウレタン樹脂(A)水性分散体U1の代わりにポリウレタン樹脂(A)水性分散体U6を用いた以外、実施例1と同様にして試験サンプルを製造した。
【0145】
[比較例8]
ポリウレタン樹脂(A)水性分散体U1の代わりにポリウレタン樹脂(A)水性分散体U7を用いた以外、実施例1と同様にして試験サンプルを製造した。
【0146】
[比較例9]
ポリウレタン樹脂(A)水性分散体U1の代わりにポリウレタン樹脂(A)水性分散体U8を用いた以外、比較例1と同様にして試験サンプルを製造した。
【0147】
[密着性評価]
得られた試験サンプルを用いて碁盤目剥離試験を行い、密着性を評価した。碁盤目剥離試験は、塗膜に20mm×20mmの面積に縦横2mm間隔で切り目を入れ、粘着テープを貼った後、粘着テープを基材に対し直角上方へ引き剥がした時の、剥離しなかった塗膜の割合を評価した。例えば、碁盤目剥離試験で100個中10個が残っていた場合を10/100と記載した。数値が大きいほど密着性が高いことを意味する。実施例のサンプルはいずれも80/100以上であることから、密着性が良好であると言える。
【0148】
[耐溶剤性評価]
得られた試験サンプルを用いて溶剤ラビング試験を行い、耐溶剤性を評価した。溶剤ラビング試験は、80質量%エタノールを含浸したウエハースに900gの荷重をかけて各試験サンプルの表面を往復擦過し、塗膜に傷が確認された時点での往復回数を測定することにより行った。往復回数は、数値が大きいほど耐溶剤性が高いことを意味する。実施例のサンプルはいずれも25往復以上であることから、耐溶剤性が良好であると言える。
【0149】
【表1】
【0150】
【表2】
【0151】
表1及び表2中に記載されている略称は以下の通りである。
UH200:製品名「UH200」UBE株式会社製;数平均分子量2,000;水酸基価57mgKOH/g;1,6-ヘキサンジオールと炭酸ジメチルとを反応させて得られたポリカーボネートポリオール
220N:製品名「プラクセル220N」株式会社ダイセル製;数平均分子量2,000;水酸基価57mgKOH/g;ポリカプロラクトンジオール
IPDI:イソホロンジイソシアネート
H12MDI:4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート
HSA:12-ヒドロキシステアリン酸
DETA:ジエチレントリアミン
MPMD:2-メチル-1,5-ペンタンジアミン
ADH:アジポジヒドラジド
D-400:製品名「JEFFAMINE(登録商標) D-400」HUNTSMAN Corporation製;ポリエーテルアミン
また、表中の「重量比率(B/A)」の分子は、比較例2及び3については、イソシアネート硬化剤の重量である。
【0152】
表1の結果から、全ての実施例について、良好な密着性及び耐溶剤性を両立することが分かる。すなわち、全ての実施例について、密着性においては、75/100以上となり、且つ、耐溶剤性については、21以上となり、さらに両者が向上することが分かる。具体的には、実施例1~5から、ポリウレタン樹脂(A)の弾性率が100MPa以下の場合、良好な密着性及び耐溶剤性を示すことが分かる。加えて、実施例4にあるように、酸性基非含有ポリオール(Aa)がポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオールのいずれであっても良好な密着性及び耐溶剤性を示した。また、実施例6にあるように、カルボジイミド化合物(B)の種類を変更しても良好な密着性及び耐溶剤性を示した。更に、カルボジイミド化合物(B)の量を実施例1、7、8の範囲で変更しても良好な密着性及び耐溶剤性を示した。加えて、実施例1、9、10から、エラストマー基材のアスカーC硬度が40~80である場合、良好な密着性及び耐溶剤性を示した。
一方、表2の結果から、以下のことが分かる。比較例1から、カルボジイミド化合物(B)が含まれない場合、耐溶剤性が低下することが分かる。また、比較例2、3から、カルボジイミド化合物(B)の代わりにイソシアネート硬化剤を使用した場合、密着性が低下することが分かる。更に、比較例4、5、6から、エラストマー基材のアスカーC硬度が40~80でない場合、密着性及び耐溶剤性は低下した。加えて、比較例7、8から、ポリウレタン樹脂(A)の弾性率が100MPaを超える場合、密着性が低下することが分かる。また、比較例9から、国際公開第2014/038565号に記載されているゴム積層体に比べ、耐溶剤性が向上したことが分かる。