(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142962
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ポリエステル系樹脂及びその製造方法、並びに粘着剤、粘着シート及びポリエステル系樹脂フィルム
(51)【国際特許分類】
C08G 63/02 20060101AFI20241003BHJP
C09J 167/00 20060101ALI20241003BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20241003BHJP
【FI】
C08G63/02
C09J167/00
C09J7/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055389
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早坂 遼平
(72)【発明者】
【氏名】樫尾 幹広
(72)【発明者】
【氏名】森岡 孝至
【テーマコード(参考)】
4J004
4J029
4J040
【Fターム(参考)】
4J004AA15
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4J040KA23
4J040LA01
4J040LA02
(57)【要約】
【課題】モノマテリアル化に適したポリエステル系樹脂及びその製造方法、並びに該ポリエステル系樹脂を用いる粘着剤、粘着シート及びポリエステル系樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】多価カルボン酸又はその誘導体(a)に由来する構成単位(A)と、多価ヒドロキシ化合物又はその誘導体(b)に由来する構成単位(B)と、第2級又は第3級炭素に結合するヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸又はその誘導体(c)に由来する構成単位(C)と、を含有する、ポリエステル系樹脂及びその製造方法、並びに該ポリエステル系樹脂を用いる粘着剤、粘着シート及びポリエステル系樹脂フィルムである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価カルボン酸又はその誘導体(a)に由来する構成単位(A)と、
多価ヒドロキシ化合物又はその誘導体(b)に由来する構成単位(B)と、
第2級又は第3級炭素に結合するヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸又はその誘導体(c)に由来する構成単位(C)と、
を含有する、ポリエステル系樹脂。
【請求項2】
前記第2級又は第3級炭素に結合するヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸が、第2級炭素に結合するヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸である、請求項1に記載のポリエステル系樹脂。
【請求項3】
前記第2級炭素に結合するヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸が、下記一般式(1)で表される、請求項2に記載のポリエステル系樹脂。
【化1】
(式中、R
1は、炭素数1~20の1価の炭化水素基であり、R
2は、炭素数5~20の2価の脂肪族炭化水素基である。)
【請求項4】
前記第2級又は第3級炭素に結合するヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸の炭素数が、10~30である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリエステル系樹脂。
【請求項5】
前記第2級又は第3級炭素に結合するヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸又はその誘導体(c)に由来する構成単位(C)の含有量が、前記ポリエステル系樹脂の全構成単位(100モル%)中、1~60モル%である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリエステル系樹脂。
【請求項6】
前記多価カルボン酸又はその誘導体(a)が、脂肪族ジカルボン酸又はその誘導体である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリエステル系樹脂。
【請求項7】
前記多価ヒドロキシ化合物又はその誘導体(b)が、2価のアルコール化合物又はその誘導体である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリエステル系樹脂。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリエステル系樹脂又はその反応物を含有する粘着剤。
【請求項9】
請求項8に記載の粘着剤を含有する粘着剤層を有する粘着シート。
【請求項10】
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリエステル系樹脂又はその反応物を含有するポリエステル系樹脂フィルム。
【請求項11】
基材と粘着剤層とを有する粘着シートであり、
前記基材及び前記粘着剤層が、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリエステル系樹脂又はその反応物を含有する、粘着シート。
【請求項12】
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリエステル系樹脂を製造する方法であって、
前記多価カルボン酸又はその誘導体(a)と、
前記多価ヒドロキシ化合物又はその誘導体(b)と、
前記第2級又は第3級炭素に結合するヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸又はその誘導体(c)と、を反応させる、ポリエステル系樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系樹脂及びその製造方法、並びに粘着剤、粘着シート及びポリエステル系樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは、加工性、機械特性、経済性等に優れる樹脂であり、繊維、容器、フィルム等の各種成形品;コーティング剤、インキ、接着剤、粘着剤等の各種組成物の原料等として幅広い分野で使用されている。
【0003】
ポリエステル等のプラスチック製品は、自然環境下で分解され難く、また、焼却しても有害ガスを発生することがあるため、近年では、プラスチック製品をリサイクルする取り組みが活発化しており、ポリエステルのリサイクル技術についても種々の検討が行われている。
【0004】
特許文献1には、リサイクル性に優れ、含硫アミノ酸を含む内容物の包装に適した包装材を提供することを課題として、基材層、中間層及びシーラント層を備え、中間層が、中間層基材層、並びにカルボン酸系ポリマー及び多価金属化合物を含むバリアコート層を備え、中間層が、バリアコート層が基材層側になるように積層されており、基材層、中間層基材層及びシーラント層が、いずれもポリオレフィン樹脂層又はポリエステル樹脂層である、包装材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術のように、複数の部材を備える製品を単一素材で製造するモノマテリアル化によって、リサイクル時に素材を選別及び分離するためのコスト及びエネルギーを削減することが可能になる。
一方、異なる物性が要求される複数の部材を厳密に単一素材で形成することは困難であり、通常は、部材ごとにある程度の原料組成の変更が必要になるが、リサイクル性を向上させるためには、全ての部材に使用される原料を可能な限り近づけることが望まれる。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであって、モノマテリアル化に適したポリエステル系樹脂及びその製造方法、並びに該ポリエステル系樹脂を用いる粘着剤、粘着シート及びポリエステル系樹脂フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、ポリエステル系樹脂の原料として特定の化合物を使用することで、同一の原料を使用する場合でも製造方法に応じて、得られるポリエステル系樹脂の性状を調整可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下記[1]~[12]に関する。
[1]多価カルボン酸又はその誘導体(a)に由来する構成単位(A)と、
多価ヒドロキシ化合物又はその誘導体(b)に由来する構成単位(B)と、
第2級又は第3級炭素に結合するヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸又はその誘導体(c)に由来する構成単位(C)と、
を含有する、ポリエステル系樹脂。
[2]前記第2級又は第3級炭素に結合するヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸が、第2級炭素に結合するヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸である、上記[1]に記載のポリエステル系樹脂。
[3]前記第2級炭素に結合するヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸が、下記一般式(1)で表される、上記[2]に記載のポリエステル系樹脂。
【化1】
(式中、R
1は、炭素数1~20の1価の炭化水素基であり、R
2は、炭素数5~20の2価の脂肪族炭化水素基である。)
[4]前記第2級又は第3級炭素に結合するヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸の炭素数が、10~30である、上記[1]~[3]のいずれかに記載のポリエステル系樹脂。
[5]前記第2級又は第3級炭素に結合するヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸又はその誘導体(c)に由来する構成単位(C)の含有量が、前記ポリエステル系樹脂の全構成単位(100モル%)中、1~60モル%である、上記[1]~[4]のいずれかに記載のポリエステル系樹脂。
[6]前記多価カルボン酸又はその誘導体(a)が、脂肪族ジカルボン酸又はその誘導体である、上記[1]~[5]のいずれかに記載のポリエステル系樹脂。
[7]前記多価ヒドロキシ化合物又はその誘導体(b)が、2価のアルコール化合物又はその誘導体である、上記[1]~[6]のいずれかに記載のポリエステル系樹脂。
[8]上記[1]~[7]のいずれかに記載のポリエステル系樹脂又はその反応物を含有する粘着剤。
[9]上記[8]に記載の粘着剤を含有する粘着剤層を有する粘着シート。
[10]上記[1]~[7]のいずれかに記載のポリエステル系樹脂又はその反応物を含有するポリエステル系樹脂フィルム。
[11]基材と粘着剤層とを有する粘着シートであり、
前記基材及び前記粘着剤層が、上記[1]~[7]のいずれかに記載のポリエステル系樹脂又はその反応物を含有する、粘着シート。
[12]上記[1]~[7]のいずれかに記載のポリエステル系樹脂を製造する方法であって、
前記多価カルボン酸又はその誘導体(a)と、
前記多価ヒドロキシ化合物又はその誘導体(b)と、
前記第2級又は第3級炭素に結合するヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸又はその誘導体(c)と、を反応させる、ポリエステル系樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、モノマテリアル化に適したポリエステル系樹脂及びその製造方法、並びに該ポリエステル系樹脂を用いる粘着剤、粘着シート及びポリエステル系樹脂フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態の粘着シートの構成の一例を示す模式的断面図である。
【
図2】本実施形態の粘着シートの構成の別の例を示す模式的断面図である。
【
図3】本実施形態の粘着シートの構成の別の例を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、数平均分子量(Mn)及び質量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定される標準ポリスチレン換算の値であり、具体的には実施例に記載の方法に基づいて測定した値である。
【0012】
本明細書において、好ましい数値範囲(例えば、含有量等の範囲)について、段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10~90、より好ましくは30~60」という記載から、「好ましい下限値(10)」と「より好ましい上限値(60)」とを組み合わせて、「10~60」とすることもできる。
【0013】
本明細書中、「バイオマス」とは、再生可能な、生物由来の有機性資源であって、化石資源を除いたものを意味する。
【0014】
本明細書に記載されている作用機序は推測であって、本発明の効果を奏する機序を限定するものではない。
【0015】
[ポリエステル系樹脂]
本実施形態のポリエステル系樹脂は、
多価カルボン酸又はその誘導体(a)に由来する構成単位(A)と、
多価ヒドロキシ化合物又はその誘導体(b)に由来する構成単位(B)と、
第2級又は第3級炭素に結合するヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸又はその誘導体(c)に由来する構成単位(C)と、
を含有する、ポリエステル系樹脂である。
【0016】
本実施形態のポリエステル系樹脂は、同一の原料を使用する場合でも製造方法に応じて、室温(23℃)で固体状のものから液体状のものまで、幅広い性状を有し得る。そのため、本実施形態のポリエステル系樹脂は、複数の構成部材を含み、構成部材ごとに異なる物性が要求される製品のモノマテリアル化に適している。
【0017】
以下、本実施形態のポリエステル系樹脂を構成する各構成単位及びその原料について説明する。
【0018】
<多価カルボン酸又はその誘導体(a)に由来する構成単位(A)>
構成単位(A)は、多価カルボン酸又はその誘導体(a)に由来する構成単位である。
構成単位(A)は、1種単独であってもよく、2種以上であってもよい。
【0019】
(多価カルボン酸又はその誘導体(a))
(a)成分は、多価カルボン酸又はその誘導体である。
以下、(a)成分としての多価カルボン酸を、多価カルボン酸(a-1)と称する。
【0020】
≪多価カルボン酸(a-1)≫
多価カルボン酸(a-1)としては、例えば、芳香族多価カルボン酸、脂肪族多価カルボン酸等が挙げられる。
【0021】
芳香族多価カルボン酸としては、例えば、芳香族ジカルボン酸、3価以上の芳香族多価カルボン酸等が挙げられる。
芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸等が挙げられる。
3価以上の芳香族多価カルボン酸としては、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレントリカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸、ピレントリカルボン酸、ピレンテトラカルボン酸等が挙げられる。
【0022】
脂肪族多価カルボン酸の炭素数は、特に限定されないが、好ましくは2~10、より好ましくは3~8、さらに好ましくは3~5である。
脂肪族多価カルボン酸としては、例えば、脂肪族ジカルボン酸、3価以上の脂肪族多価カルボン酸が挙げられる。
脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、トリデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、ペンタデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸、エイコサンジカルボン酸等の鎖状の脂肪族ジカルボン酸;1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、ジシクロヘキサンメタン-4,4’-ジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;等が挙げられる。これらの中でも、製造方法に応じて異なる性状を有するポリエステル系樹脂を合成し易くする観点から、コハク酸が好ましい。
3価以上の脂肪族多価カルボン酸としては、例えば、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸、1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸等が挙げられる。
【0023】
以上の選択肢の中でも、多価カルボン酸(a-1)としては、製造方法に応じて異なる性状を有するポリエステル系樹脂を合成し易くする観点から、脂肪族多価カルボン酸が好ましく、脂肪族ジカルボン酸がより好ましい。すなわち、(a)成分は、脂肪族ジカルボン酸又はその誘導体であることが好ましい。
【0024】
≪多価カルボン酸(a-1)の誘導体≫
多価カルボン酸(a-1)の誘導体としては、例えば、(a-1)成分の酸無水物、(a-1)成分のハロゲン化物、(a-1)成分の金属塩、(a-1)成分のカルボキシ基をエステル化した化合物等が挙げられる。これらの中でも、(a-1)成分の酸無水物が好ましく、コハク酸無水物がより好ましい。
【0025】
(構成単位(A)の含有量)
本実施形態のポリエステル系樹脂中における構成単位(A)の含有量は、特に限定されないが、製造方法に応じて異なる性状を有するポリエステル系樹脂を合成し易くする観点から、本実施形態のポリエステル系樹脂の全構成単位(100モル%)中、好ましくは10~47モル%、より好ましくは20~43モル%、さらに好ましくは25~40モル%である。
ポリエステル系樹脂中における各構成単位の含有量は、1H-NMRによって測定することができ、具体的には、実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0026】
<多価ヒドロキシ化合物又はその誘導体(b)に由来する構成単位(B)>
構成単位(B)は、多価ヒドロキシ化合物又はその誘導体(b)に由来する構成単位である。
構成単位(B)は、1種単独であってもよく、2種以上であってもよい。
【0027】
(多価ヒドロキシ化合物又はその誘導体(b))
(b)成分は、多価ヒドロキシ化合物又はその誘導体である。
以下、(b)成分としての多価ヒドロキシ化合物を、多価ヒドロキシ化合物(b-1)と称する。
【0028】
〔多価ヒドロキシ化合物(b-1)〕
多価ヒドロキシ化合物(b-1)としては、例えば、多価フェノール化合物、多価アルコール化合物等が挙げられる。
なお、本明細書において、「多価フェノール化合物」は、芳香環に直接結合するヒドロキシ基を2個以上有する化合物を意味し、脂肪族炭化水素基を有していてもよい。
また、本明細書において、「多価アルコール化合物」は、脂肪族炭化水素基に直接結合するヒドロキシ基を2個以上有する化合物を意味し、芳香族炭化水素基を有していてもよい。
また、本明細書において、芳香環に直接結合する1個以上のヒドロキシ基と、脂肪族炭化水素基に直接結合する1個以上のヒドロキシ基と、を有する化合物は、多価フェノール化合物及び多価アルコール化合物の両方に該当するものとする。
【0029】
多価フェノール化合物としては、例えば、2価のフェノール化合物、3価以上のフェノール化合物等が挙げられる。
2価のフェノール化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF等が挙げられる。
3価以上のフェノール化合物としては、例えば、ピロガロール等が挙げられる。
【0030】
多価アルコール化合物の炭素数は、特に限定されないが、好ましくは2~10、より好ましくは3~8、さらに好ましくは3~5である。
多価アルコール化合物としては、例えば、2価のアルコール化合物、3価以上のアルコール化合物等が挙げられる。
2価のアルコール化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,13-トリデカンジオール等の鎖状の脂肪族ジオール;パラキシレングリコール、メタキシレングリコール、オルトキシレングリコール等の芳香環を含む2価のアルコール化合物;1,4-シクロヘキサンジオ-ル、1,4-シクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノールA等の脂肪族環を含む2価のアルコール化合物;等が挙げられる。これらの中でも、製造方法に応じて異なる性状を有するポリエステル系樹脂を合成し易くする観点から、1,4-ブタンジオールが好ましい。
3価以上のアルコール化合物としては、例えば、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、1,2,4-ブタントリオール、1,2,5-ペンタントリオール、1,3,6-ヘキサントリオール、ソルビトール、1,3,5-トリス(ヒドロキシメチル)ベンゼン等が挙げられる。
【0031】
以上の選択肢の中でも、多価ヒドロキシ化合物(b-1)としては、製造方法に応じて異なる性状を有するポリエステル系樹脂を合成し易くする観点から、多価アルコール化合物が好ましく、2価のアルコール化合物がより好ましい。すなわち、(b)成分は、2価のアルコール化合物又はその誘導体であることが好ましい。
【0032】
〔多価ヒドロキシ化合物(b-1)の誘導体〕
(b-1)成分の誘導体としては、例えば、(b-1)成分のアルキレンオキサイド付加物、(b-1)成分のエステル化合物等が挙げられる。
【0033】
(構成単位(B)の含有量)
本実施形態のポリエステル系樹脂中における構成単位(B)の含有量は、特に限定されないが、製造方法に応じて異なる性状を有するポリエステル系樹脂を合成し易くする観点から、本実施形態のポリエステル系樹脂の全構成単位(100モル%)中、好ましくは15~48モル%、より好ましくは25~45モル%、さらに好ましくは28~42モル%である。
【0034】
<第2級又は第3級炭素に結合するヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸又はその誘導体(c)に由来する構成単位(C)>
構成単位(C)は、第2級又は第3級炭素に結合するヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸又はその誘導体(c)に由来する構成単位である。
構成単位(C)は、1種単独であってもよく、2種以上であってもよい。
【0035】
(第2級又は第3級炭素に結合するヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸(c))
(c)成分は、ヒドロキシカルボン酸又はその誘導体である。
以下、(c)成分としての第2級又は第3級炭素に結合するヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸を、ヒドロキシカルボン酸(c-1)と称する。
【0036】
〔ヒドロキシカルボン酸(c-1)〕
ヒドロキシカルボン酸(c-1)の炭素数は、特に限定されないが、製造方法に応じて異なる性状を有するポリエステル系樹脂を合成し易くする観点から、好ましくは10~30、より好ましくは12~25、さらに好ましくは14~20である。
【0037】
ヒドロキシカルボン酸(c-1)が有するヒドロキシ基の数は1個以上であればよいが、ポリエステル系樹脂の製造時におけるゲル化抑制の観点から、好ましくは1個又は2個、より好ましくは1個である。
ヒドロキシカルボン酸(c-1)が有するカルボキシ基の数は1個以上であればよいが、ポリエステル系樹脂の製造時におけるゲル化抑制の観点から、好ましくは1個又は2個、より好ましくは1個である。
【0038】
ヒドロキシカルボン酸(c-1)は、製造方法に応じて異なる性状を有するポリエステル系樹脂を合成し易くする観点から、第2級炭素に結合するヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸であることが好ましく、下記一般式(1)で表される化合物であることがより好ましい。
【0039】
【化2】
(式中、R
1は、炭素数1~20の1価の炭化水素基であり、R
2は、炭素数5~20の2価の脂肪族炭化水素基である。)
【0040】
上記一般式(1)中のR1が示す炭素数1~20の1価の炭化水素基の炭素数は、好ましくは2~15、より好ましくは3~12、さらに好ましくは4~10である。
炭素数1~20の1価の炭化水素基としては、例えば、炭素数1~20の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数6~20の1価の芳香族炭化水素基等が挙げられる。これらの炭化水素基は置換基を有していてもよく、有していなくてもよい。置換基を有する場合、置換基の炭素数も、炭素数1~20の1価の炭化水素基の炭素数に含まれるものとする。これらの中でも、炭素数1~20の1価の脂肪族炭化水素基が好ましい。
【0041】
炭素数1~20の1価の脂肪族炭化水素基の炭素数が3以上である場合、該脂肪族炭化水素基は直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。
炭素数1~20の1価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられ、これらの中でも、アルキル基が好ましい。
炭素数1~20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基等が挙げられる。これらの中でも、n-ヘキシル基がより好ましい。
【0042】
上記一般式(1)中のR2が示す炭素数5~20の2価の脂肪族炭化水素基の炭素数は、好ましくは6~17、より好ましくは7~15、さらに好ましくは8~12である。
炭素数5~20の2価の脂肪族炭化水素基は、分岐鎖を有していてもよく、分岐鎖を有していなくてもよい。
炭素数5~20の2価の脂肪族炭化水素基は、炭素数5~20の2価の飽和脂肪族炭化水素基であってもよく、炭素数5~20の2価の不飽和脂肪族炭化水素基であってもよい。
炭素数5~20の2価の不飽和脂肪族炭化水素基が含む脂肪族不飽和結合の数は、特に限定されないが、好ましくは1~3個、より好ましくは1個又は2個、さらに好ましくは1個である。
炭素数5~20の2価の不飽和脂肪族炭化水素基としては、例えば、n-ヘキセニレン基、n-オクテニレン基、n-デセニレン基、n-ドデセニレン基、n-テトラデセニレン基、n-ヘキサデセニレン基、n-オクタデセニレン基等のアルケニレン基等が挙げられる。これらの中でも、n-デセニレン基が好ましい。
【0043】
ヒドロキシカルボン酸(c-1)としては、例えば、乳酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシ-3-メチル酪酸、2-ヒドロキシ-3,3-ジメチル酪酸、2-ヒドロキシカプロン酸、3-ヒドロキシカプロン酸、4-ヒドロキシカプロン酸、5-ヒドロキシカプロン酸、2-ヒドロキシイソカプロン酸、4-ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸、マンデル酸、リシノール酸等が挙げられる。
これらの中でも、ヒドロキシカルボン酸(c-1)は、環境負荷低減の観点から、バイオマス由来の化合物であることが好ましく、リシノール酸であることがより好ましい。リシノール酸は、下記式(2)で表される化合物であり、例えば、ひまし油等から抽出することが可能な化合物である。
【0044】
【0045】
〔ヒドロキシカルボン酸(c-1)の誘導体〕
(c-1)成分の誘導体としては、例えば、(c-1)成分のハロゲン化物、(c-1)成分の金属塩、(c-1)成分のカルボキシ基をエステル化した化合物、(c-1)成分が分子内脱水縮合した化合物、(c-1)成分が2分子間又は3分子間以上で脱水縮合した化合物、不飽和脂肪族炭化水素基を有するヒドロキシカルボン酸の不飽和結合をエポキシ化又は水素化した化合物等が挙げられる。
【0046】
(構成単位(C)の含有量)
本実施形態のポリエステル系樹脂中における構成単位(C)の含有量は、特に限定されないが、製造方法に応じて異なる性状を有するポリエステル系樹脂を合成し易くする観点から、本実施形態のポリエステル系樹脂の全構成単位(100モル%)中、好ましくは10~45モル%、より好ましくは20~40モル%、さらに好ましくは25~36モル%である。
【0047】
<構成単位(A)~(C)の含有量>
本実施形態のポリエステル系樹脂中における、構成単位(A)~(C)の合計含有量は、特に限定されないが、製造方法に応じて異なる性状を有するポリエステル系樹脂を合成し易くする観点から、本実施形態のポリエステル系樹脂の全構成単位(100モル%)中、好ましくは80~100モル%、より好ましくは90~100モル%、さらに好ましくは95~100モル%、特に好ましくは99~100モル%である。
【0048】
<ポリエステル系樹脂の数平均分子量(Mn)>
本実施形態のポリエステル系樹脂の数平均分子量(Mn)は、特に限定されないが、製造方法に応じて異なる性状を有するポリエステル系樹脂を合成し易くする観点から、好ましくは1,000~100,000、より好ましくは1,200~50,000、さらに好ましくは1,500~25,000、特に好ましくは2,000~15,000である。
【0049】
[ポリエステル系樹脂の製造方法]
本実施形態のポリエステル系樹脂の製造方法は、
前記多価カルボン酸又はその誘導体(a)と、
前記多価ヒドロキシ化合物又はその誘導体(b)と、
前記第2級又は第3級炭素に結合するヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸又はその誘導体(c)と、を反応させる、ポリエステル系樹脂の製造方法である。
本実施形態のポリエステル系樹脂の製造方法における各成分の反応は、原料の種類に応じて、重縮合反応であってもよく、エステル交換反応であってもよい。以下、これらを総じて「ポリエステル化反応」と称する。
【0050】
ポリエステル化反応は、各成分を撹拌下で反応させることが好ましく、副生成物である水等を適宜留去しながら反応を進行させることが好ましい。
ポリエステル化反応は、溶媒中で行ってもよく、溶媒を使用せずに行ってもよいが、生産性の観点からは、溶媒を使用せずに行うことが好ましい。
ポリエステル化反応は、例えば、窒素等の不活性雰囲気下で行ってもよく、減圧下で行ってもよいが、生産性の観点からは、減圧下で行うことが好ましい。
減圧下で反応を行う場合における反応容器内の圧力は、好ましくは100Pa以下、より好ましくは30Pa以下、さらに好ましくは15Pa以下である。
【0051】
ポリエステル化反応に供する(a)成分及び(c)成分が有するカルボキシ基(COOH基)と、(b)成分及び(c)成分が有するヒドロキシ基(OH基)と、の当量比(COOH基/OH基)は、所望する物性に応じて調整すればよいが、例えば、0.3~2.0であってもよく、0.5~1.5であってもよく、0.6~1.3であってもよく、0.7~1.2であってもよい。
【0052】
ポリエステル化反応における反応温度は、所望するポリエステル系樹脂の性状に応じて決定すればよいが、例えば、100~240℃であってもよく、120~220℃であってもよく、140~200℃であってもよい。
ポリエステル化反応における反応時間は、所望するポリエステル系樹脂の性状に応じて決定すればよいが、例えば、1~20時間であってもよく、5~15時間であってもよく、8~12時間であってもよい。
【0053】
ポリエステル化反応においては、必要に応じて、エステル化触媒を使用してもよい。
エステル化触媒としては、例えば、チタン酸テトライソプロポキシド、チタン酸テトラブトキシド等のチタン系触媒;三酸化アンチモン等のアンチモン系触媒;二酸化ゲルマニウム等のゲルマニウム系触媒;酢酸亜鉛、酢酸マンガン、ジブチル錫オキサイド等が挙げられる。エステル化触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
エステル化触媒の使用量は、特に限定されないが、モノマー成分の総量(100質量部)に対して、好ましくは0.01~2質量部、より好ましくは0.1~1質量部、さらに好ましくは0.2~0.5質量部である。
【0054】
ポリエステル化反応によって得られたポリエステル系樹脂は、必要に応じて、蒸留、再沈殿、遠心分離、洗浄、乾燥等の公知の方法によって単離及び精製してもよい。
【0055】
本実施形態のポリエステル系樹脂の製造方法は、下記の工程1及び工程2をこの順で含むことが好ましい。
工程1:(a)成分と、(b)成分及び(c)成分からなる群から選択される1種以上と、を反応させて、これらの反応物である中間重合体を得る工程
工程2:上記中間重合体と、(b)成分及び(c)成分からなる群から選択される1種以上と、を反応させてポリエステル系樹脂を得る工程
本実施形態のポリエステル系樹脂の製造方法は、上記工程1及び工程2を有することによって、得られるポリエステル系樹脂中における構成単位(A)、構成単位(B)及び構成単位(C)の配列を調整し易くなり、これによって、所望の性状を有するポリエステル系樹脂を製造することが容易になる。
【0056】
<工程1>
工程1は、(a)成分と、(b)成分及び(c)成分からなる群から選択される1種以上と、を反応させて、中間重合体を得る工程である。
工程1では、(a)成分と反応させる成分を、(b)成分及び(c)成分からなる群から選択される1種以上から適宜選択することによって、得られるポリエステル系樹脂中における構成単位(A)が連結する構成単位の種類を調整することができる。
例えば、工程1において(a)成分と反応させる成分として、(b)成分を多くすることによって、構成単位(A)と構成単位(B)とが連結する鎖の存在確率を高めることができる。一方、工程1において、(a)成分と反応させる成分として、(c)成分を多くすることによって、構成単位(A)と構成単位(C)とが連結する鎖の存在確率を高めることができる。
【0057】
工程1で使用する(b)成分のモル量をMb1、工程2で使用する(b)成分のモル量をMb2とする場合、本実施形態のポリエステル系樹脂の製造に使用する全(b)成分(Mb1+Mb2)に対するMb1の比率が高い方が、得られるポリエステル系樹脂の23℃における性状は固体状に近づく傾向にある。これは、Mb1の比率が高いほど、本実施形態のポリエステル系樹脂中において、構成単位(A)と構成単位(B)とが交互に連結する鎖の存在確率が高くなり、当該鎖がポリエステル系樹脂の結晶性を高めるためと考えられる。
そのため、ポリエステル系樹脂の23℃における性状を固体状に近づけるという観点からは、Mb1の比率[Mb1×100/(Mb1+Mb2)]は、好ましくは10モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、特に好ましくは100モル%である。
一方、ポリエステル系樹脂の23℃における性状を液体状に近づけるという観点からは、Mb1の比率[Mb1×100/(Mb1+Mb2)]は、好ましくは90モル%以下、より好ましくは50モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下、特に好ましくは0モル%である。
【0058】
一方、工程1で使用する(c)成分のモル量をMc1、工程2で使用する(c)成分のモル量をMc2とする場合、本実施形態のポリエステル系樹脂の製造に使用する全(c)成分(Mc1+Mc2)に対するMc1の比率が高い方が、得られるポリエステル系樹脂の23℃における性状は液体状に近づく傾向にある。これは、Mc1の比率が高いほど、本実施形態のポリエステル系樹脂中において、構成単位(A)と構成単位(C)とが連結する鎖の存在確率が高くなり、当該鎖がポリエステル系樹脂の結晶性を低くしているためであると考えられる。
そのため、ポリエステル系樹脂の23℃における性状を液体状に近づけるという観点からは、Mc1の比率[Mc1×100/(Mc1+Mc2)]は、好ましくは10モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、特に好ましくは100モル%である。
また、ポリエステル系樹脂の23℃における性状を固体状に近づけるという観点からは、Mc1の比率[Mc1×100/(Mc1+Mc2)]は、好ましくは90モル%以下、より好ましくは50モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下、特に好ましくは0モル%である。
【0059】
工程1における反応温度は、特に限定されないが、例えば、100~230℃であってもよく、120~200℃であってもよく、140~180℃であってもよい。
工程1における反応時間は、特に限定されないが、例えば、0.5~10時間であってもよく、1~7時間であってもよく、2~5時間であってもよい。
工程1は、窒素雰囲気等の不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0060】
工程1における(a)成分の使用量は、本実施形態のポリエステル系樹脂の製造に使用する全(a)成分(100モル%)のうち、好ましくは90~100モル%、より好ましくは95~100モル%、さらに好ましくは98~100モル%、特に好ましくは100モル%である。
【0061】
工程1において使用する(a)成分のモル量Ma1と、工程1において使用する(b)成分のモル量Mb1及び(c)成分のモル量Mc1の合計と、の比[(Mb1+Mc1)/Ma1]は、特に限定されないが、好ましくは0.90~1.25、より好ましくは0.95~1.20、さらに好ましくは1.00~1.15である。
【0062】
工程1では、エステル化触媒を使用することが好ましい。工程1におけるエステル化触媒の使用量は、特に限定されないが、モノマー成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.01~2質量部、より好ましくは0.1~1.5質量部、さらに好ましくは0.3~1質量部である。
【0063】
<工程2>
工程2は、工程1で得られた中間重合体と、(b)成分及び(c)成分からなる群から選択される1種以上と、を反応させてポリエステル系樹脂を得る工程である。
本実施形態のポリエステル系樹脂の製造方法においては、工程2を行うことによって、得られるポリエステル系樹脂の分子量を調整することができる。また、上記の通り、工程1において(a)成分と反応させる成分は所望するポリエステル系樹脂の性状に応じて変動するため、工程2で使用する原料組成を調整することで、性状が異なる複数種のポリエステル系樹脂を製造する場合においても、全体としての原料組成を近づけることができる。
【0064】
工程2における反応温度は、特に限定されないが、例えば、120~250℃であってもよく、150~230℃であってもよく、170~200℃であってもよい。
工程2における反応時間は、特に限定されないが、例えば、1~15時間であってもよく、3~12時間であってもよく、5~10時間であってもよい。
工程2は、減圧下で行うことが好ましい。減圧下で反応を行う場合における反応容器内の好適な圧力の範囲は上記した通りである。
【0065】
工程2では、エステル化触媒を使用することが好ましい。
工程1終了後、工程2において添加するエステル化触媒の量は、特に限定されないが、中間重合体及びモノマー成分の総量(100質量部)に対して、好ましくは0.01~1質量部、より好ましくは0.1~0.7質量部、さらに好ましくは0.15~0.3質量部である。
【0066】
[粘着剤]
本実施形態の粘着剤は、本実施形態のポリエステル系樹脂又はその反応物を含有する粘着剤である。
本実施形態の粘着剤は、本実施形態のポリエステル系樹脂又はその反応物のみを含有するものであってもよく、本実施形態のポリエステル系樹脂又はその反応物と、本実施形態のポリエステル系樹脂又はその反応物以外の成分と、を含有するものであってもよい。
【0067】
本実施形態の粘着剤中における本実施形態のポリエステル系樹脂又は本実施形態のポリエステル系樹脂に由来する構造の含有量は、粘着剤の全量(100質量%)中、好ましくは30~100質量%、より好ましくは50~99.95質量%、さらに好ましくは70~99.90質量%、特に好ましくは90~99.80質量%である。
【0068】
本実施形態の粘着剤が含有する本実施形態のポリエステル系樹脂又はその反応物は、それ自体が粘着性を有していてもよいし、粘着性を有していなくてもよい。
本実施形態のポリエステル系樹脂又はその反応物が粘着性を有しない場合には、粘着剤に粘着付与剤を配合してもよい。
粘着付与剤としては、例えば、重合ロジン、重合ロジンエステル、ロジン誘導体等のロジン系樹脂;ポリテルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂及びその水素化物、テルペンフェノール樹脂等のテルペン系樹脂;クマロン・インデン樹脂;脂肪族石油系樹脂、芳香族系石油樹脂及びその水素化物、脂肪族/芳香族共重合体石油樹脂等の石油樹脂;スチレン又は置換スチレン重合体;α-メチルスチレン単一重合系樹脂、α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体、スチレン系モノマーと脂肪族系モノマーとの共重合体、スチレン系モノマーとα-メチルスチレンと脂肪族系モノマーとの共重合体、スチレン系モノマーからなる単独重合体、スチレン系モノマーと芳香族系モノマーとの共重合体等のスチレン系樹脂;等が挙げられる。
粘着付与剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
本実施形態のポリエステル系樹脂の反応物としては、例えば、本実施形態のポリエステル系樹脂を架橋剤と反応させてなる反応物が挙げられる。ポリエステル系樹脂を架橋させることによって、凝集力に優れる粘着剤を形成できる傾向にある。
架橋剤としては、例えば、ポリイソシアネート化合物、ポリエポキシ化合物等のポリエステル系樹脂に含まれるヒドロキシ基又はカルボキシ基と反応する官能基を有する化合物が挙げられる。これらの中でも、粘着性、機械的強度、耐熱性等の観点から、ポリイソシアネート化合物が好ましい。
架橋剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0070】
本実施形態の粘着剤は、本発明の効果を損なわない範囲において、粘着剤用添加剤を含有していてもよい。
粘着剤用添加剤としては、例えば、酸化防止剤、軟化剤(可塑剤)、防錆剤、顔料、染料、遅延剤、反応促進剤(触媒)、紫外線吸収剤、加水分解抑制剤、帯電防止剤、充填材等が挙げられる。
粘着剤用添加剤は、各々について、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0071】
本実施形態の粘着剤は、例えば、本実施形態のポリエステル系樹脂及び必要に応じて使用される各成分を混合する方法によって製造することができる。
各成分を混合する方法は、各成分を溶融混練する方法であってもよく、各成分を溶媒中で混合する方法であってもよい。
溶融混練は、例えば、単軸押出機、二軸押出機、ロールミル、プラストミル、バンバリーミキサー、インターミックス、加圧ニーダー等の加熱装置を備えた混合装置を用いて、各成分が溶融状態で十分に混合される温度条件を適宜選択して行えばよい。
溶媒中で混合する場合は、各成分を溶媒に溶解及び分散させた状態で適宜撹拌して混合すればよく、溶媒中で混合されて得られた組成物は、その後、例えば、基材上に塗布された後、乾燥させることによって粘着シートの製造に供してもよく、所望に応じて、塗布工程を経ず、各種容器等に充填してもよい。
【0072】
[ポリエステル系樹脂フィルム]
本実施形態のポリエステル系樹脂フィルムは、本実施形態のポリエステル系樹脂又はその反応物を含有するポリエステル系樹脂フィルムである。
【0073】
本実施形態のポリエステル系樹脂フィルムは、例えば、本実施形態のポリエステル系樹脂を含有するポリエステル系樹脂組成物をフィルム状に成形する方法によって製造することができる。
ポリエステル系樹脂組成物は、必要に応じて、添加剤を含有していてもよい。
添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、加水分解抑制剤、光安定剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、着色剤、充填材等が挙げられる。
これらの添加剤は、各々について、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0074】
ポリエステル系樹脂組成物をフィルム状に成形する方法は、特に限定されないが、例えば、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法、ブロー成形法、射出圧縮成形法等の公知の成形法を適用することができる。成形して得られたポリエステル系樹脂フィルムには、必要に応じて、延伸処理等を施してもよい。
【0075】
ポリエステル系樹脂フィルムは、密着性を向上させる観点から、酸化法、凹凸化法等による表面処理、易接着処理、あるいはプライマー処理等を施されていてもよい。酸化法としては、例えば、コロナ放電処理、プラズマ放電処理、クロム酸処理(湿式)、熱風処理、オゾン、紫外線照射処理等が挙げられ、凹凸化法としては、例えば、サンドブラスト法、溶剤処理法等が挙げられる。
【0076】
ポリエステル系樹脂フィルムの厚さは、特に限定されないが、経済性及び取り扱い性の観点から、5~1,000μmであってもよく、10~500μmであってもよく、20~200μmであってもよく、30~100μmであってもよい。
【0077】
[粘着シート]
本実施形態の粘着シートは、本実施形態の粘着剤を含有する粘着剤層を有する粘着シートである。
本実施形態の粘着シートの一実施形態としては、基材と本実施形態の粘着剤層とを有する粘着シートが挙げられる。当該実施形態の粘着シートは、基材及び粘着剤層以外の層を有していてもよく、有していなくてもよい。基材及び粘着剤層以外の層としては、例えば、粘着剤層の基材とは反対側の面に設けられる剥離材が挙げられる。
また、本実施形態の粘着シートの別の実施形態としては、例えば、本実施形態の粘着剤層の両面に剥離材を有する基材レスの粘着シートが挙げられる。
【0078】
図1には、本実施形態の粘着シートの一例として、粘着剤層1の一方の面側に基材2を有し、他方の面側に剥離材3を有する粘着シート10が示されている。
図2には、本実施形態の粘着シートの別の例として、基材2の両面に粘着剤層1を有し、一方の粘着剤層1の基材2とは反対側の面に剥離材3aを有し、他方の粘着剤層1の基材2とは反対側の面に剥離材3bを有する両面粘着シート20が示されている。
図3には、本実施形態の粘着シートの更に別の例として、粘着剤層1の一方の面に剥離材3a、他方の面に3bを有する基材レスの粘着シート30が示されている。
以下、本実施形態の粘着シートが有し得る各部材について説明する。
【0079】
<粘着剤層>
粘着剤層が含有する本実施形態の粘着剤についての説明は上記の通りである。
粘着剤層は、例えば、上記した本実施形態の粘着剤の各原料及び希釈溶媒を配合して粘着剤組成物を調製し、該粘着剤組成物を剥離材又は基材上に塗布した後、乾燥することによって形成することができる。
粘着剤組成物の塗布方法としては、例えば、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等が挙げられる。
粘着剤組成物を塗布した後の乾燥条件は、特に限定されず、原料、希釈溶媒等の種類に応じて適宜調整すればよい。
【0080】
粘着剤層の厚さは、特に限定されず、所望する性能に応じて、1~1,000μmであってもよく、10~500μmであってもよく、15~200μmであってもよく、20~100μmであってもよい。
【0081】
<基材>
基材としては、例えば、樹脂、金属、紙材等が挙げられる。
樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体等のビニル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリスチレン;アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体;三酢酸セルロース;ポリカーボネート;ポリウレタン、アクリル変性ポリウレタン等のウレタン樹脂;ポリメチルペンテン;ポリスルホン;ポリエーテルエーテルケトン;ポリエーテルスルホン;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルイミド、ポリイミド等のポリイミド系樹脂;ポリアミド系樹脂;アクリル樹脂;フッ素系樹脂等が挙げられる。
金属としては、例えば、アルミニウム、スズ、クロム、チタン等が挙げられる。
紙材としては、例えば、薄葉紙、中質紙、上質紙、含浸紙、コート紙、アート紙、硫酸紙、グラシン紙等が挙げられる。
基材の形成材料は、1種単独で構成されていてもよく、2種以上を組み合わせて構成されていてもよい。
【0082】
これらの中でも、モノマテリアル化の観点からは、基材は、本実施形態のポリエステル系樹脂又はその反応物を含有することが好ましく、本実施形態のポリエステル系樹脂フィルムであることがより好ましい。
【0083】
基材は、上記ポリエステル系樹脂フィルムの項において説明した表面処理、易接着処理、あるいはプライマー処理等を施されていてもよい。
また、基材は、必要に応じて、上記ポリエステル系樹脂フィルムの項において説明した添加剤を含有していてもよい。
【0084】
基材の厚さは、特に限定されないが、経済性及び取り扱い性の観点から、5~1,000μmであってもよく、10~500μmであってもよく、20~200μmであってもよく、30~100μmであってもよい。
【0085】
<剥離材>
剥離材としては、両面剥離処理をされた剥離シート;片面剥離処理をされた剥離シート;等が用いられ、剥離材用基材上に剥離剤を塗布したもの等が挙げられる。
剥離材用基材としては、本実施形態の粘着シートが有し得る基材として挙げられたものと同じものが挙げられ、好適なものも同じである。
剥離剤としては、例えば、シリコーン系樹脂、オレフィン系樹脂、イソプレン系樹脂、ブタジエン系樹脂等のゴム系エラストマー;長鎖アルキル系樹脂、アルキド系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。
剥離材の厚さは、特に限定されないが、好ましくは10~200μm、より好ましくは20~180μm、さらに好ましくは30~150μmである。
【0086】
[ポリエステル系樹脂、粘着剤及び粘着シートの用途]
本実施形態のポリエステル系樹脂、粘着剤及び粘着シートは、種々の用途に使用することができる。
具体的には、例えば、ラベル用途、光学材料用途、表面保護用途、マスキング用途、装飾・表示用途、接合用途、シーリング材用途、医療衛生用途、電気絶縁用途、電子機器保持固定用途、半導体製造用途等が挙げられる。これらの中でも、半導体製造用として好適であり、具体的には、半導体装置の各種製造工程で用いられる仮固定用シート又はその原料として好適である。
【実施例0087】
本発明について、以下の実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0088】
[数平均分子量(Mn)、質量平均分子量(Mw)]
ポリエステル系樹脂の数平均分子量(Mn)及び質量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフ装置(東ソー株式会社製、製品名「HLC-8020」)を用いて、下記の条件下で測定し、標準ポリスチレン換算にて測定した。
(測定条件)
・カラム:「TSK guard column SuperH-H」「TSK gel SuperHM-H」「TSK gel SuperHM-H」「TSK gel SuperH2000」(いずれも東ソー株式会社製)を順次連結したもの
・カラム温度:40℃
・展開溶媒:クロロホルム
・注入量:20μl
・流速:1.0mL/min
・検出器:示差屈折計
【0089】
[1H-NMR測定]
ポリエステル系樹脂の組成分析は、下記条件の1H-NMR測定によって行った。
装置:ブルカー・バイオスピン社製、商品名「AV-500」
1H-NMR共鳴周波数:500MHz
プローブ:5mmφ溶液プローブ
重溶媒:重クロロホルム
内部標準物質:TMS(テトラメチルシラン)
サンプル量:20~50mg
測定温度:25℃
積算回数:16回
〈1H-NMR測定試料作製方法〉
測定サンプルを、測定サンプル濃度が3質量%となるように、内部標準としてTMSを含む重クロロホルムに溶解させたものを1H-NMR測定試料とした。
【0090】
[示差走査熱量(DSC)測定]
測定試料をアルミニウム製パンに計量し、示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製、製品名「DSC Q2000」)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度10.0℃/minで、-70℃から150℃まで1回目の昇温を行い、該1回目の昇温のDSC曲線から、JIS K 7121:2012に準拠して、ガラス転移温度(Tg)及び融解温度(Tm)を求めた。その後、150℃で5分間保持させた。次に、降温速度10.0℃/minで150℃から-70℃まで降温を行い、該降温におけるDSC曲線から、JIS K 7121:2012に準拠して、結晶化エンタルピーを求めた。
なお、表1に示すガラス転移温度(Tg)における「-」は測定温度範囲にガラス転移温度(Tg)が検出されなかったことを意味し、融解温度(Tm)における「-」は測定温度範囲に融解温度(Tm)が検出されなかったことを意味する。また、温度範囲で記載された融解温度(Tm)は、融解温度(Tm)を特定できなかったが、融解による吸熱ピークが見られた温度範囲を意味する。
また、表1に記載の結晶化エンタルピーにおける「算出不可」は、結晶化による発熱ピークは見られたがブロードなため結晶化エンタルピーを算出できなかったことを意味し、「-」は測定温度範囲に結晶化による発熱ピークが検出されなかったことを意味する。
【0091】
[ポリエステル系樹脂の製造]
実施例1~7、比較例1
(工程1)
200mLの二口ナスフラスコに、表1の工程1に示した組成の原料を投入し、窒素雰囲気下、160℃で3時間撹拌して反応を行い、中間重合体を含む反応液を得た。
(工程2)
次いで、得られた反応液に、表1の工程2に示した組成の原料を投入し、10Pa以下に減圧し、180℃で7時間撹拌して反応を行った。
反応終了後、生成物を100mlのクロロホルムに溶解させてから、ろ紙を使用してろ過し、ろ液を700mlのメタノールに注いで再沈殿を行った。沈殿物をデカンテーション又は吸引ろ過により回収し、減圧乾燥することによってポリエステル系樹脂を得た。
なお、表1に示す原料の略称の意味は以下の通りである。
SAh:無水コハク酸
BD:1,4-ブタンジオール
RA:リシノール酸
cat.:チタン酸テトライソプロポキシド
【0092】
各例で得られたポリエステル系樹脂の物性を表1に示す。
【0093】
【0094】
表1に示す通り、本実施形態の実施例1~7のポリエステル系樹脂は、原料が同一であるにも関わらず、23℃において、固体状のものから粘稠液体状のものまで存在していた。このことから、本実施形態のポリエステル系樹脂は、複数の構成部材を含み、構成部材ごとに異なる物性が要求される製品のモノマテリアル化に適していることが分かる。