(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142978
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】管内面防食管及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16L 9/02 20060101AFI20241003BHJP
B28B 21/30 20060101ALI20241003BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20241003BHJP
B05D 3/12 20060101ALI20241003BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20241003BHJP
B05D 1/38 20060101ALI20241003BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20241003BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20241003BHJP
B05D 7/22 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
F16L9/02
B28B21/30
B05D7/14 E
B05D7/14 K
B05D3/12 B
B05D3/02 Z
B05D1/38
B05D5/00 Z
B05D3/00 C
B05D7/22 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055410
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100161746
【弁理士】
【氏名又は名称】地代 信幸
(72)【発明者】
【氏名】冨田 直岐
(72)【発明者】
【氏名】明渡 健吾
(72)【発明者】
【氏名】柳谷 仁志
(72)【発明者】
【氏名】安東 尚紀
(72)【発明者】
【氏名】東 祐樹
【テーマコード(参考)】
3H111
4D075
【Fターム(参考)】
3H111AA01
3H111BA02
3H111CB04
3H111CB14
3H111CB22
3H111DA08
3H111EA12
4D075AC06
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4D075AC88
4D075AE03
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4D075EA02
4D075EA05
4D075EB03
4D075EB33
(57)【要約】
【課題】鋳鉄管の内面防食にあたり、加熱によるモルタルライニングの強度低下やクラックの発生を防ぎながら、かかる手間の増加を抑制しつつ、十分に内面の防食効果を発揮できるようにする。
【解決手段】鋳鉄管1の内面側にモルタルライニング由来のモルタル層23と粉体塗料が溶融した粉体塗膜層22とを有する内面防食鋳鉄管であって、モルタルライニング由来のペースト層24とレイタンス層25とを研磨除去してあり、粉体塗膜層22は、モルタル層23の内面側に接する構成とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳鉄管の内面側にモルタルライニング由来のモルタル層と粉体塗料が溶融した粉体塗膜層とを有し、
前記粉体塗膜層は、前記モルタル層の内面側に接している内面防食鋳鉄管。
【請求項2】
前記粉体塗料が熱硬化性塗料である、請求項1に記載の内面防食鋳鉄管。
【請求項3】
鋳鉄管を回転させながら管内面にセメントモルタルを供給してセメントモルタル層を形成するステップ、
前記セメントモルタル層の硬化後に前記セメントモルタル層の表層側に存在するレイタンス層とペースト層とを研磨除去し、モルタル層のみ残存させるステップ、
前記モルタル層が残存した鋳鉄管全体を加熱するステップ、
加熱後に前記モルタル層の表面に粉体塗料を塗布するステップ、
を実行する内面防食鋳鉄管の製造方法。
【請求項4】
前記粉体塗料が熱硬化性塗料である、請求項3に記載の内面防食鋳鉄管の製造方法。
【請求項5】
前記粉体塗料を塗布するステップにおける鋳鉄管の温度が240℃以上330℃以下である、請求項3又は4に記載の内面防食鋳鉄管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鋳鉄管の防食に関する。
【背景技術】
【0002】
ダクタイル鉄管は樹脂管よりも高い強度を有し、幹線水道管を含めた水道管に広く使われている。ただしダクタイル鉄管でも、鋳鉄製である以上鋳造したそのままの状態では腐食するので、外面及び内面ともに、継手部分も含めて十分に防食処理を行った上で使用する。さらに上水道に用いる場合には水質衛生性も求められ、下水道に用いる場合には耐酸性等も求められる。このような需要からモルタルライニングやエポキシ樹脂粉体塗装などを鋳鉄管の内面に施すことが行われている。特にエポキシ樹脂粉体塗装はモルタルライニングよりも耐酸性等に優れており、下水道用の鋳鉄管の内面塗装にも用いられることが多い。
【0003】
また、直管は主に製造のし易さから遠心鋳造で製造することが多い。ただし、外面とは異なり内面は金型や砂型に接しないで鋳造されるため、表面に細かい凹凸が生じやすい。この凹凸がモルタルライニングやエポキシ樹脂粉体塗装の表面の平滑性に影響を及ぼすと、内面を通過する水に対して抵抗を生じて水流を減速させてしまうため、できるだけ内面を平滑にすることが望ましい。このために内面を研磨したりして平滑性を上げることが行われる。しかし、鋳鉄管自体の表面を削る内面研磨工程は手間がかかる。
【0004】
特許文献1では、鋳造後の研磨処理を省略して一旦モルタルライニングを施工し、その後でレータンス層(不純物層)を研磨除去した後に、エポキシ樹脂粉体塗装を施して平滑性を確保する手順が記載されている。レータンス層はモルタルライニングの際に表面に生じる層であり、骨材(砂)を十分に有するモルタル層、モルタル層より表面側に生じる骨材の少ないペースト層よりもさらに内側に集まった軽量の不純物による層である。このレータンス層(レイタンス層)の研磨による除去であれば、鋳鉄管自体の表面を削る研磨工程よりも大きく手間を省くことができる。
【0005】
ただし、エポキシ樹脂粉体塗装にあたっては、粉体塗料が融けやすいようにセメントモルタル層を加熱しておく必要がある。この加熱によってモルタルライニングが強度低下を起こしたり、クラックを発生したりするおそれがある。これを回避する手段として、特許文献2に、モルタルライニングの表面上からレータンス層を除去した後、加熱せずに粉体塗料を管内面に供給して遠心力により均一化させ、次いで管内部に赤外線ヒータを挿入して粉体塗料層のみを加熱溶融させて表面塗装層を形成させる手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9-158113号公報
【特許文献2】特開平9-276794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、水道用に用いる鋳鉄管の管長は4~6m程度あり、管外から管内面に赤外線ヒータを挿入して的確に加熱しようとしても扱いにくい。また、熱硬化性の粉体塗料を用いる場合には、赤外線ヒータで塗布した上から表層を加熱するだけでは十分な硬化反応が得られないこともあった。
【0008】
そこでこの発明は、鋳鉄管の粉体塗装による内面防食にあたり、加熱によるモルタルライニングの強度低下やクラックの発生を防ぎながら、かかる手間の増加を抑制しつつ、十分に内面の防食効果を発揮できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、
鋳鉄管の内面側にモルタルライニング由来のモルタル層と粉体塗料が溶融した粉体塗膜層とを有し、
前記粉体塗膜層は、前記モルタル層の内面側に接している内面防食鋳鉄管により、上記の課題を解決したのである。
【0010】
すなわち、鋳鉄管の内面にモルタルライニングを行うと、形成されるセメントモルタル層は、鋳鉄管の内面から順に、重い骨材が外周方向に偏るために、骨材を十分に有するモルタル層、モルタル層より表面側に生じる骨材の少ないペースト層、ペースト層よりもさらに内側に集まった軽量の不純物によるレイタンス層が形成される。従来は研磨によりレイタンス層を除去した上でその上から液状の塗料を薄く塗装することが行われていたが、この発明ではレイタンス層だけではなく、強度が低いペースト層も除去してモルタル層まで露出させた上で粉体塗装を行う点を特徴とする。これは、セメントモルタル層を加熱したときに強度低下やクラックを起こしやすいのは、セメントモルタル層全体ではなく、主に骨材が少なく強度の低いペースト層であることを見出したことによる。ペースト層を除去したモルタル層の上に粉体塗膜層が形成される構成とすることで、ペースト層を除去すると層は薄くなるものの、残るモルタル層は強度が高い部分のみ残るので、加熱時の安定性が増し、全体を加熱して十分に硬化させられる粉体塗装を行うことができ、得られた粉体塗膜層を安定させることができる。特に、粉体塗料が熱硬化性塗料であっても十分に硬化させることができる。
【0011】
この発明にかかる内面防食鋳鉄管の製造方法としては、
鋳鉄管を回転させながら管内面にセメントモルタルを供給してセメントモルタル層を形成するステップ、
前記セメントモルタル層の硬化後に前記セメントモルタル層の表層側に存在するレイタンス層とペースト層とを研磨除去し、モルタル層のみ残存させるステップ、
前記モルタル層が残存した鋳鉄管全体を加熱するステップ、
加熱後に前記モルタル層の表面に粉体塗料を塗布するステップ、
を実行する方法が採用できる。
【0012】
また、この発明にかかる内面防食鋳鉄管の製造方法は、
前記加熱直後の前記粉体塗料を塗布するステップにおける鋳鉄管の温度が240℃以上330℃以下である形態を採用できる。これにより、塗料に用いる樹脂が熱硬化性樹脂である場合でも、十分に粉体塗料を硬化させることができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明にかかる内面防食鋳鉄管の製造方法では、セメントモルタル層のうちペースト層が除去されて骨材を十分に含むモルタル層のみが残っているので、管全体を加熱してもモルタル層の強度低下やクラックの発生を抑制できる。これにより、管全体の加熱による粉体塗料での塗装が安定して行える。また、粉体塗装の膜厚を厚くしたい用途であっても、十分に加熱して硬化させることができる。そうして得られた、モルタル層と粉体塗膜層とが接している、すなわちペースト層がこれらの二層間に介在していない内面防食鋳鉄管は、クラックも少なく、粉体塗膜層も安定したものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】(a)この発明にかかる内面防食鋳鉄管の概要を示す断面図、(b)(a)の直管部分の断面拡大図
【
図2】(a)この発明にかかる内面防食鋳鉄管の製造にあたり、セメントモルタル層を形成させる段階の断面図、(b)セメントモルタル層が硬化して分層した段階の断面図、(c)ペースト層及びレイタンス層を除去した段階の断面図、(d)モルタル層の上に粉体塗膜層を形成させた段階の断面図
【
図3】(a)セメントモルタル層を形成させる際の形態例の断面図、(b)(a)の側面図、(c)別の形態例の側面図
【
図5】(a)セメントモルタル層を研磨する際の形態例の断面図、(b)(a)の側面図、(c)別の形態例の側面図
【
図6】(a)粉体塗膜層を形成させる際の形態例の断面図、(b)(a)の側面図、(c)別の形態例の側面図
【
図7】実施例において鋳鉄管の表面に形成させたセメントモルタル層の分層状況を示す写真
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の実施形態について具体的に説明する。
この発明は、
図1(a)に示すような直管型の鋳鉄管1における、挿し口11と受け口12との間に形成された直部13の内面に、防食層20を設けた内面防食鋳鉄管である。この発明における防食層20は、
図1(b)の拡大断面図に示すように、モルタル層23と粉体塗膜層22とを有しており、なおかつこの二層が接している。モルタル層23は砂などの骨材を豊富に含有するモルタルからなり、粉体塗膜層22は樹脂である粉体塗料が硬化したものである。
【0016】
この防食層20を有する内面防食鋳鉄管の製造手順の概略を、
図2(a)~(d)を用いて説明する。まず、鋳鉄管1の内面に、セメントモルタルによってライニングしたセメントモルタル層21を塗工する(
図2(a))。塗工時及び塗工後にかかる遠心力によって、セメントモルタル層21は含有する骨材(砂)の分布が偏り、鋳鉄管1側(外周側)ほど骨材の含有量が多くなる。この骨材が多い外周側(図中下側)の領域をモルタル層23、骨材が少ない内周側(図中上側)の領域をペースト層24と呼ぶ。さらにペースト層24の上には、セメントモルタルに含まれていた軽量の不純物が集まり、レイタンス層25を形成する。このようなセメントモルタル層21が分層した状況を
図2(b)に示す。
【0017】
なお、モルタル層23とペースト層24との間は明確な境界線が生じるわけではないが、実際には粒径の大きな骨材の有無の違いとして当業者であれば視覚で明確に判別できるほどに状態が異なっている。ペースト層24には粒径の大きな骨材はほとんど含まれず、含まれるとしても粒径の細かい砂が一部混ざる程度となる。
【0018】
こうして分かれたセメントモルタル層21のうち、表面側のレイタンス層25とペースト層24とを削ってモルタル層23を露出させる(
図2(c))。ペースト層24だけでなくモルタル層23が多少削れていてもよい。上記の通り、ペースト層24にはほとんど骨材が含まれていないため、削っていった表面に骨材がはっきりと確認できるようになったらモルタル層23まで到達していることがわかる。露出させたモルタル層23の内面に、粉体塗料による粉体塗膜層22を形成させる(
図2(d))。こうして、モルタル層23と粉体塗膜層22とが接した防食層20が形成される。
【0019】
この発明で用いる鋳鉄管1としては、遠心鋳造による鋳鉄管を好適に用いることができる。鋳鉄管の種類としては特に限定されるものではなく、一般的なダクタイル鉄管を用いることができる。
【0020】
この発明で用いるセメントモルタルとしては、骨材を含んだセメントからなる一般的なモルタルMを用いることができる。モルタルMのセメントと骨材の比率は質量比でセメント1に対して骨材1.6から2.4程度とすることができる。
【0021】
この発明で用いる粉体塗料としては、エポキシ樹脂粉体塗料やアクリル樹脂粉体塗料などが挙げられる。特に、管全体を十分に加熱した上で利用できるので、エポキシ樹脂粉体塗料のような、熱硬化型樹脂であっても好適に利用できる。
【0022】
モルタルMによるモルタルライニングを行う手順の例を、
図3(a)の断面図及び
図3(b)の側面図とともに説明する。モルタルライニングを行う施工装置は、回転ローラ31と、注入台車32とからなる。注入台車32には、モルタルMを蓄えるタンク33と、このモルタルMを鋳鉄管1(表記上、挿し口11と受け口12を省略している。以下の図も同じ。)の内面へ輸送注入するための注入ランス34とが備えられている。注入ランス34の内部にはモルタルMを輸送するためのコンベアが設けられ、コンベアにより送り込まれたモルタルMは注入ランス34の先端にある噴出口36から鋳鉄管1の内面へ投入される。
【0023】
鋳鉄管1は、高さを合わせて並列する対の回転ローラ31,31の間に載せられる。対の回転ローラ31、31は鋳鉄管1の軸方向両端にそれぞれ配置されている。いずれかの回転ローラ31を駆動装置(図示せず)により回転させ、その回転を鋳鉄管1に伝達させることで鋳鉄管1を管軸周りに回転させる。噴出口36から下方向へ投入されたモルタルMは、この回転にともない、遠心力によって広がりながら、全周にわたって導入される。
【0024】
また、注入台車32は鋳鉄管1の管軸方向に走行可能な走行装置38を有する。管軸方向に注入台車32を動かしながら、かつ上記回転ローラ31により周方向に鋳鉄管1を回転させながら、モルタルMを導入することで、鋳鉄管1の内周全体に均一なセメントモルタル層21を形成することが出来る。このセメントモルタル層21の厚みは5~16mm程度となると好ましい。
【0025】
なお、実施形態としては上記とは逆に、回転ローラ31及び鋳鉄管1を、軸方向に移動可能な台車39に載せ、タンク33及び注入ランス34を台上に固定してもよい。この実施形態を
図3(c)に示す。
【0026】
セメントモルタル層21を形成させた後、養生してセメントを硬化させる前に、セメントモルタル層21を緻密に締め固めるために、鋳鉄管1aを高速で回転させるとともに適度な微振動を与える加振工程を行うと好ましい。これにより、セメントモルタル層21がモルタル層23、ペースト層24、レイタンス層25への分層が進む。この工程の例を
図4の断面図とともに説明する。セメントモルタル層21を形成した鋳鉄管1aは、上記の回転ローラ31と同様の回転ローラ41によって支えられている。また、鋳鉄管1aの上部に、その外周面に当接する鉄製の加振ローラ42が取り付けられている。回転ローラ41が回転すると、鋳鉄管1aの回転力が伝達されて、加振ローラ42も回転する。加振ローラ42の上方には周知のバイブレータなどからなる振動機43が接続される。この振動機43により加振ローラ42は回転しながら微振動を続け、その振動が鋳鉄管1aに伝達される。この微振動の伝達により、セメントモルタル層21は締め固められて、モルタル内に残る空隙を押し出して、残存する空隙の発生を防止することができる。
【0027】
分層させたモルタル層23、ペースト層24、レイタンス層25について、養生させてセメントの硬化反応を進め、強固なセメントによる層となる。養生させる手段としては、蒸気養生を行うと速やかに養生を進めることができるので好ましい。
【0028】
養生工程の後、次の粉体塗膜層22を形成させる前に、セメントモルタル層21の表面側からレイタンス層25及びペースト層24を研磨除去する。この研磨工程の例を
図5(a)の断面図、
図5(b)の側面図とともに説明する。研磨を行う研磨装置は、上記と同じ回転ローラ51と、研磨台車52とからなる。研磨台車52には、リフター式の回転軸昇降装置53と、回転軸54とが備えられ、回転軸54の先端には研磨ホイル55が取り付けられている。研磨ホイル55としては、サンドペーパーを放射状に多数束ねたものなどを用いることができる。研磨台車52は鋳鉄管1aの管軸方向に走行可能な走行装置56を備えている。この走行装置56により、鋳鉄管1aの管軸方向において任意の位置に研磨ホイル55をセットすることができる。
【0029】
回転ローラ51により回転している鋳鉄管1a内に研磨ホイル55を挿入するよう研磨台車52を前進させ、回転軸54を回転させながら回転軸昇降装置53により研磨ホイル55を下げて、先に形成されたセメントモルタル層21の表面に研磨ホイル55を押し付ける。この研磨ホイル55の回転により、回転している鋳鉄管1aのセメントモルタル層21の表面を研磨する。このとき、ペースト層24を十分に除去して平滑度を確保するために、モルタル層23の表面側の一部を削ってしまってもよい。ペースト層24とモルタル層23との境界は均一ではなく、ある程度モルタル層23を削った方がペースト層24を完全に除去しやすいためである。研磨台車52を軸方向に動かしていくことで、回転している鋳鉄管1aの内周全体を研磨して、さらに平滑度を高めていくことができる。
【0030】
この工程も、
図5(b)とは逆に、鋳鉄管1a側を走行装置57により軸方向に動かし、回転軸昇降装置53側を固定する
図5(c)のような形態で実施してもよい。
【0031】
ここで研磨後も残存するモルタル層23の厚さは、4mm以上であることが望ましい。4mm未満となると、鋳造時の管内面のしわなどを十分に隠蔽することができず、内面平滑性にも問題が生じやすくなってしまう。一方で、15mm以下であると好ましい。15mmを超えると、通水面積の減少量が大きくなりすぎて、通水量によってはより大きな呼び径の管が必要となってしまい、無駄が多くなり過ぎてしまう。なお、例えば呼び径1650の鋳鉄管に対して従来のレイタンス層25のみを除去する方式ではペースト層24とモルタル層23を合わせて15mm以上の厚みを確保することが多いが、本発明ではペースト層24を除去して上記の範囲の厚みとする。
【0032】
次に、上記のいずれかの手順を採用するに拘わらず、露出させたモルタル層23の表面に、粉体塗料を塗工して粉体塗膜層22を形成させて、モルタル層23の内周面側全体を被覆する。粉体塗料をモルタル層23の表面に塗工する手法は、モルタル層23ごと鋳鉄管1,1aを十分に加熱した上で、粉体塗料を表面に塗工して硬化させる手法が採用できる。上記の工程で、ペースト層24を除去しているため、この加熱によって強度低下やクラックの発生などが起きるおそれがほぼなくなっている。
【0033】
また、粉体塗料には粉体塗膜層22表面の平滑性や被覆性を確保できる範囲で、充填剤などの樹脂以外の成分が含まれていてもよい。例えば珪砂が挙げられる。
【0034】
この粉体塗料の塗工をする前に、鋳鉄管1,1a及びモルタル層23を十分に加熱しておくことが望ましい。加熱による到達温度は240℃以上であると、エポキシ樹脂粉体塗料などの熱硬化性塗料であっても、十分に硬化反応を進めることができるので好ましい。一方で、330℃以下であると好ましい。高温すぎるとペースト層24を除去してあってもモルタル層23に多少の劣化が現れるおそれがあるためである。
【0035】
加熱する方法としては、鋳鉄管1,1a全体を雰囲気温度300℃以上のガス炉に入れて加熱する手法が挙げられる。できるだけ温度むらを無くすため、30分~60分程度加熱するのが好ましい。
【0036】
粉体塗膜層22を形成させる手順の例を、
図6(a)の断面図、
図6(b)の側面図とともに説明する。ここでは粉体塗料としてエポキシ樹脂塗料を用いる実施形態を例に示す。モルタル層23を有する鋳鉄管1aは、上記と同様の回転ローラ61上に乗せられ回転する。一方、軸方向に動く走行装置68を有する配管台車62に、エポキシ樹脂粉体塗料を貯蔵および供給する塗料貯蔵供給タンク63、エポキシ樹脂粉体塗料66を吐出する塗料吐出部64、および上記塗料貯蔵供給タンク63から上記塗料吐出部64まで塗料を搬送する配管65を配置し、回転ローラ61の回転とともに、走行装置68を作動させて軸方向に進めながら、エポキシ樹脂粉体塗料66を塗料吐出部64から管内に吐出することでエポキシ樹脂粉体塗料がモルタル層23の表面を覆い、モルタル層23の全体を覆う粉体塗膜層22を形成していく。
【0037】
この工程も、
図6(b)とは逆に、鋳鉄管1a側を走行装置75により軸方向に動かし、配管側を固定する
図6(c)のような形態で実施してもよい。
【0038】
上記のエポキシ樹脂粉体塗料を塗工した粉体塗膜層22の厚みは300μm以上であると、十分に鋳鉄管を防食できる。
【0039】
上記のエポキシ樹脂粉体塗料は特に限定されるものではないが、JWWA G 112(水道用ダクタイル鋳鉄管内面エポキシ粉体塗装)に規定される塗料を用いることができる。少なくとも主剤であるエポキシ樹脂と、硬化剤とを含む。また、顔料その他の添加物を含んでいてもよい。
【実施例0040】
以下、この発明にかかる内面防食鋳鉄管を実際に製造した実施例をあげてこの発明を具体的に示す。
鋳鉄管として株式会社栗本鐵工所製、呼び径1650のS形ダクタイル鉄管を使用した。この管内にセメントモルタルを流し込んで遠心力により均一の厚さとなるように施工して、セメントモルタル層を分層させつつ形成させた。施工後、1日間蒸気養生をしてセメントモルタル層をレイタンス層、ペースト層、モルタル層とに分層させたまま硬化させた。セメントモルタル層の厚さは平均16mmとなった。
【0041】
管内に研磨ホイルを導入してレイタンス層及びペースト層となっていた表面部分を除去し、残存するモルタル層の厚みを平均10mmとなるように残した。
【0042】
モルタル層のみを残した鋳鉄管を、雰囲気温度350℃としたガス炉に入れて60分かけて加熱した。取り出した段階で管の温度は300℃であった。この段階で内部のモルタル層表面には、クラックの発生などの表面異常は見られなかった。
【0043】
炉から取り出した管を
図6に示す装置に導入し、回転させながら、モルタル層の表面にエポキシ樹脂粉体塗料を、粉体塗膜層の平均厚みが400μmとなるように塗布し、自然冷却にて硬化、放冷して、内面防食鋳鉄管を得た。
【0044】
<参考用断面写真>
上記実施例において、分層させたセメントモルタル層21を形成させて硬化した後に、鋳鉄管をセメントモルタル層21ごと切断した。その切断面の写真を
図7に示す。表面側(上側)から表面にあるレイタンス層25は切断時に剥離してしまうためこの写真からは確認できない。続く骨材が見られず均一に見える部分がペースト層24であり、その下に砂利の断面が明らかなモルタル層23が形成されており、ペースト層24とモルタル層23とが目視で用意に区別できることが確認できた。