(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142980
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】フォトニック結晶面発光レーザ素子
(51)【国際特許分類】
H01S 5/185 20210101AFI20241003BHJP
H01S 5/11 20210101ALI20241003BHJP
H01S 5/343 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H01S5/185
H01S5/11
H01S5/343 610
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055413
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159628
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 雅比呂
(74)【代理人】
【識別番号】100147728
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 信司
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】野田 進
(72)【発明者】
【氏名】小泉 朋朗
(72)【発明者】
【氏名】江本 渓
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AB53
5F173AB90
5F173AF38
5F173AF58
5F173AH22
5F173AJ13
5F173AK08
5F173AK20
5F173AL07
5F173AL13
5F173AL14
5F173AP05
5F173AP17
5F173AP33
5F173AP37
5F173AP42
5F173AR23
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高い注入効率を有し、低閾値及び高効率で発光するフォトニック結晶面発光レーザ素子を提供する。
【解決手段】下ガイド層と、下ガイド層上に形成され、格子点の各々に2次元的に配置された空孔を有するフォトニック結晶層、及び、フォトニック結晶層上に形成されて空孔を閉塞する埋込層と、を有する第1のガイド層と、埋込層上に形成され、埋込層とは結晶組成の異なる半導体からなるヘテロ半導体層と、ヘテロ半導体層上に形成された活性層と、活性層上に形成された第2のガイド層と、を有し、埋込層にはn形ドーパントが1.0×10
17~1.0×10
20cm
-3の濃度でドーピングされている。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下ガイド層と、
前記下ガイド層上に形成され、格子点の各々に2次元的に配置された空孔を有するフォトニック結晶層と、前記フォトニック結晶層上に形成されて前記空孔を閉塞する埋込層と、を有する第1のガイド層と、
前記埋込層上に形成され、前記埋込層とは結晶組成の異なる半導体からなるヘテロ半導体層と、
前記ヘテロ半導体層上に形成された活性層と、
前記活性層上に形成された第2のガイド層と、を有し、
前記埋込層にはn型ドーパントが1.0×1017~1.0×1020cm-3の濃度でドーピングされている、フォトニック結晶面発光レーザ素子。
【請求項2】
前記埋込層のドーピング濃度は1.0×1018~1.0×1020cm-3での範囲内ある請求項1に記載のフォトニック結晶面発光レーザ素子。
【請求項3】
前記埋込層のドーピング濃度は2.0×1018~2.0×1019cm-3の範囲内である請求項1に記載のフォトニック結晶面発光レーザ素子。
【請求項4】
前記埋込層は、アンドープの第1の埋込層と、前記第1の埋込層上に形成され、n型ドーパントがドーピングされ第2の埋込層と、からなる請求項1に記載のフォトニック結晶面発光レーザ素子。
【請求項5】
前記ヘテロ半導体層はアンドープ層である請求項1に記載のフォトニック結晶面発光レーザ素子。
【請求項6】
前記埋込層はGaNからなり、前記ヘテロ半導体層はInGaNからなる請求項1ないし5のいずれか一項に記載のフォトニック結晶面発光レーザ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトニック結晶層を有するフォトニック結晶面発光レーザ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体発光素子の効率を高めるため種々の構造が提案されている。例えば、特許文献1には、分極ドーピング効果により正孔を生成させて、正孔を効率良く活性層に注入するための組成傾斜層を有する紫外線発光素子について記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、活性層への正孔注入効率を改善するため、自発分極とピエゾ分極の和が負になる側に向かってAl組成値が減少する組成傾斜層を有する窒化物半導体発光素子が記載されている。
【0004】
また、特許文献3には、空孔層(フォトニック結晶層)とは異なる結晶組成の結晶層からなり、光と空孔層との結合効率を調整する光分布調整層を設けたフォトニック結晶面発光レーザ(PCSEL:Photonic-Crystal Surface-Emitting Laser)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-041738号公報
【特許文献2】特許第6192378号公報
【特許文献3】WO2021/186965 A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願の発明者は、フォトニック結晶層と、フォトニック結晶層上に形成され、フォトニック結晶層とは結晶組成の異なる半導体層との間のヘテロ界面においてピエゾ分極による空乏化が生じて電子に対する障壁が形成され、フォトニック結晶面発光レーザ(PCSEL)の高効率動作を妨げているとの知見を得た。
【0007】
本願は、当該知見に基づいてなされたものであり、高い注入効率を有し、低閾値及び高効率で発光するフォトニック結晶面発光レーザ素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1実施態様によるフォトニック結晶面発光レーザ素子は、
n型半導体層と、
前記n型半導体層上に形成され、格子点の各々に2次元的に配置された空孔を有するフォトニック結晶層と、前記フォトニック結晶層上に形成されて前記空孔を閉塞する埋込層と、を有する第1のガイド層と、
前記埋込層上に形成され、前記埋込層とは結晶組成の異なる半導体からなるヘテロ半導体層と、
前記ヘテロ半導体層上に形成された活性層と、
前記活性層上に形成された第2のガイド層と、を有し、
前記埋込層にはn形ドーパントが1.0×1017~1.0×1020cm-3の濃度でドーピングされている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】第1の実施形態のPCSEL素子の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【
図1B】
図1Aに示すフォトニック結晶層中に配列された空孔を模式的に示す拡大断面図である。
【
図2A】PCSEL素子の上面を模式的に示す平面図である。
【
図2B】n側ガイド層に平行な面における断面を模式的に示す断面図である。
【
図2C】PCSEL素子の下面を模式的に示す平面図である。
【
図3】レジストの主開口及び副開口、及び、エッチング後のホールを模式的に示す平面図である。
【
図4】形成されたフォトニック結晶層の中心軸CXに垂直な断面を模式的に示す図である。
【
図5】本実施形態のPCSEL素子のサンプル1~4(EX.1~EX.4)のI-V特性の測定結果を示すグラフである。
【
図6】比較例のPCSEL素子及び面発光素子のサンプル1~5(CX.1~CX.5)のI-V特性の測定結果を示すグラフである。
【
図7】PCSEL素子の深さ方向のSIMSプロファイルを示すグラフである。
【
図8】PCSEL素子の各半導体層のパラメータを示す表である。
【
図9】埋込層のドナー濃度を2.0×10
17cm
-3としたときの、伝導帯のエネルギーバンド、電子及び正孔の濃度のシミュレーション結果を示す図である。
【
図10】埋込層のドナー濃度を2.0×10
18cm
-3としたときの、伝導帯のエネルギーバンド、電子及び正孔の濃度のシミュレーション結果を示す図である。
【
図11】埋込層のドナー濃度を変化させたときのI-V特性のシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下においては、本発明の好適な実施形態について説明するが、これらを適宜改変し、組合せてもよい。また、以下の説明及び添付図面において、実質的に同一又は等価な部分には同一の参照符を付して説明する。
【0011】
[第1の実施形態]
1.フォトニック結晶面発光レーザ素子の構造
フォトニック結晶面発光レーザ素子(PCSEL素子)は、発光素子を構成する半導体発光構造層(n側ガイド層、発光層、p側ガイド層)と平行方向に共振器層を有し、当該共振器層に直交する方向にコヒーレントな光を放射する素子である。
【0012】
すなわち、PCSEL素子では、フォトニック結晶層(空孔層)に平行な面内を伝搬する光波はフォトニック結晶の回折効果により回折され2次元的な共振モードを形成するとともに、当該平行面に垂直な方向にも回折される。すなわち、PCSEL素子では、共振方向(フォトニック結晶層に平行な面内)に対して、光取り出し方向が垂直方向である。
【0013】
図1Aは、本発明の実施形態によるフォトニック結晶面発光レーザ素子(PCSEL素子)10の構造の一例を模式的に示す断面図である。また、
図1Bは、
図1Aのフォトニック結晶層14P及びフォトニック結晶層14P中に配列された空孔(air hole)対14Kを模式的に示す拡大断面図である。
【0014】
また、
図2Aは、PCSEL素子10の上面を模式的に示す平面図である。また、
図2Bは、フォトニック結晶層14Pのn側ガイド層14に平行な面における断面を模式的に示す断面図であり、
図2Cは、PCSEL素子10の下面を模式的に示す平面図である。
図1Aに示すように、半導体構造層11が透光性の素子基板12上に形成されている。なお、半導体構造層11の中心軸CXに垂直に半導体層が積層されている。
【0015】
また、半導体構造層11は、六方晶系の窒化物半導体からなる。本実施形態においては、半導体構造層11は、例えば、GaN系半導体からなる。
【0016】
より詳細には、素子基板12上に複数の半導体層からなる半導体構造層11、すなわちn-クラッド層(第1導電型の第1のクラッド層)13、n側に設けられたガイド層であるn側ガイド層(第1のガイド層)14、光分布調整層23、活性層(ACT)15、p側に設けられたガイド層であるp側ガイド層(第2のガイド層)16、電子障壁層(EBL:Electron Blocking Layer)17、p-クラッド層(第2導電型の第2のクラッド層)18、p-コンタクト層19がこの順で形成されている。
【0017】
なお、第1導電型がn型、第1導電型の反対導電型である第2導電型がp型の場合について説明するが、第1導電型及び第2導電型がそれぞれp型、n型であってもよい。
【0018】
素子基板12は、六方晶のGaN単結晶であり、活性層15から放射された光の透過率が高い基板である。より詳細には、素子基板12は、主面(結晶成長面)が、Ga原子が最表面に配列した{0001}面である+c面の六方晶のGaN単結晶基板である。裏面(光出射面)は、N原子が最表面に配列した(000-1)面である-c面である。-c面は酸化等に対して耐性があるので光出射面として適している。
【0019】
素子基板12はこれに限定されないが、いわゆるジャスト基板、又は、例えば、主面がm軸方向に1°程度までオフセットした基板が好ましい。例えば、m軸方向に0.3~0.7°程度までオフセットした基板は、広範な成長条件下にて鏡面成長を得ることができる。
【0020】
主面と対向する光出射領域20L(
図2C)が設けられた基板面(裏面、光出射面)は、N原子が最表面に配列した(000-1)面である「-c」面である。-c面は酸化等に対して耐性があるので光取り出し面として適している。
【0021】
以下に各半導体層の組成、層厚等の構成について説明するが、例示に過ぎず、適宜改変して適用することができる。
【0022】
n-クラッド層13は、例えばAl組成が4%のn-Al0.04Ga0.96N層であり、層厚は2μmである。アルミニウム(Al)組成比は、活性層15側に隣接する層(すなわち、n側ガイド層14)より屈折率が小さくなる組成としている。
【0023】
n側ガイド層14は、下ガイド層14A、空孔層(air-hole layer)であるフォトニック結晶層(PC層)14P及び埋込層14Bからなる。
図1Bに示すように、フォトニック結晶層14Pは層厚d
PCを有し、埋込層14Bは層厚d
EMBを有する。例えば、フォトニック結晶層14Pの層厚d
PCは40~180nmである。
【0024】
なお、本明細書において、フォトニック結晶層14Pは、n側ガイド層14において空孔の上端から下端に至る層部分をいう(
図1Bを参照)。したがって、フォトニック結晶層14Pの層厚d
PCは、空孔の高さに等しい。
【0025】
下ガイド層14Aは、例えば層厚が100~400nmのn-GaNである。フォトニック結晶層14Pは、層厚(又は空孔14Kの深さ)が40~180nmのn-GaNである。
【0026】
埋込層14Bは、n-GaN又はn-InGaNからなる。あるいは、これらの半導体層が積層された層であってもよい。埋込層14Bの層厚dEMBは、例えば50~150nmである。なお、埋込層14Bは、第1の埋込層14B1及び第2の埋込層14B2からなり、例えば、1×1018cm-3濃度のn型ドーパント(Si)がドーピングされている。
なお、埋込層14Bのうち光分布調整層23に接する表面層である第2の埋込層14B2にn型ドーパントがドープされていればよい。
【0027】
埋込層14Bの表面層である第2の埋込層14B2上には、第2の埋込層14B2とは結晶組成が異なり、第2の埋込層14B2とヘテロ構造を形成するヘテロ半導体層(異種半導体層)である光分布調整層23が設けられている。
【0028】
すなわち、当該ヘテロ半導体層(光分布調整層23)と第2の埋込層14B2との間にはヘテロ界面が形成されている。
【0029】
なお、当該ヘテロ半導体層(光分布調整層23)は第2の埋込層14B2とは同一導電型の半導体層であるか、又は少なくとも一方がi層(真性半導体層)であってもよい。
光分布調整層23は、埋込層14Bと活性層15との間に設けられ、フォトニック結晶層14P内を伝搬する光と共振器としてのフォトニック結晶層14Pとの結合効率を調整する機能を有する。
【0030】
本実施形態においては、光分布調整層23は、アンドープのIn0.03Ga0.97N層であり、例えば層厚は50nmである。光分布調整層23の組成又は屈折率、及び層厚は、結合効率の調整に応じて選ばれる。
【0031】
なお、n側ガイド層14及び光分布調整層23を含むn側半導体層を第1の半導体層とも称する。
【0032】
発光層である活性層15は、例えば2つの量子井戸層を有する多重量子井戸(MQW)層である。MQWのバリア層及び量子井戸層は、それぞれGaN(層厚6.0nm)及びInGaN(層厚4.0nm)である。また、活性層15の発光中心波長は440nmである。
【0033】
なお、活性層15は、フォトニック結晶層14Pから180nm以内(すなわち空孔の周期PK以内)に配置されていることが好ましい。この場合、フォトニック結晶層14Pによる高い共振効果が得られる。
【0034】
p側ガイド層16は、アンドープIn0.02Ga0.98N層(層厚70nm)であるp側ガイド層(1)16AとアンドープGaN層(層厚180nm)であるp側ガイド層(2)16Bとからなる。
【0035】
p側ガイド層16は、ドーパント(Mg:マグネシウム等)による光吸収を考慮してアンドープ層としたが、良好な電気伝導性を得るためにドープしても良い。また、発振動作モードの電界分布を調整するため、p側ガイド層(1)16AのIn組成及び層厚は適宜選択することができる。
【0036】
電子障壁層(EBL)17は、マグネシウム(Mg)がドープされたp型のAl0.2Ga0.8N層であり、例えば。層厚15nmを有する。
【0037】
p-クラッド層18は、Mgドープのp-Al0.06Ga0.94N層であり、例えば、層厚600nmを有する。p-クラッド層18のAl組成は、p側ガイド層16よりも屈折率が小であるように選ばれていることが好ましい。p-クラッド層18は、第1のp-クラッド層として機能する。
【0038】
また、p-コンタクト層19は、Mgドープのp-GaN層であり、例えば層厚20nmを有する。p-コンタクト層19のキャリア密度は、その表面に設けた透光性導電体層である透光性電極29とオーミック接合できる濃度としている。p型GaNの代わりに、p型またはアンドープInGaNを用いてもよい。あるいは、GaN層とInGaN層を積層させた層としてもよい。
【0039】
なお、p側ガイド層16、電子障壁層17、p-クラッド層18及びp-コンタクト層19からなる層を第2の半導体層とも称する。
【0040】
なお、本明細書において、「n側」、「p側」は、必ずしもn型、p型を有することを意味するものではない。例えば、n側ガイド層は活性層よりもn側に設けられたガイド層を意味し、アンドープ層(又はi層)であってもよい。
【0041】
また、n-クラッド層13は単一層ではなく複数の層から構成されていてもよく、その場合、全ての層がn層(nドープ層)である必要はなく、アンドープ層(i層)を含んでいてもよい。ガイド層16、p-クラッド層18についても同様である。
【0042】
また、上記した全ての半導体層を設ける必要はなく、第1導電型の第1の半導体層、第2導電型の第2の半導体層及びこれらの層に挟まれた活性層(発光層)を有する構成であればよい。
【0043】
p-コンタクト層19上には、p電極20B(第2の電極)として、透光性電極29(図示せず)、銀(Ag)層、金(Au)層が順に積層された、透光性電極/Ag/Au層が形成されている。すなわち、p電極20Bは光反射層として機能し、透光性電極29とp電極20BのAg層との界面が反射面SRである。なお、反射面SRはフォトニック結晶層14Pと平行に設けられている。
【0044】
p電極20Bは、空孔形成領域14Rの中心軸CXを中心とする直径がRAの円形状を有している。具体的には、透光性電極29は、上面視において(すなわち、半導体構造層11に垂直な方向から見たとき)、例えばRA=300μmの直径を有している。なお、p電極20Bとして、Pd、Al、Al合金等を用いることもできる。また、p電極20B上にパッド電極等を設けてもよい。
【0045】
透光性電極29は、透光性の導電体によって形成され、例えばインジウムスズ酸化物(ITO)で形成されている。なお、透光性電極29は、ITOに限定されず、亜鉛錫酸化物(ZTO)、GZO(ZnO:Ga)、AZO(ZnO:Al)等の透光性導電体を用いることができる。
【0046】
半導体構造層11の側面及び上面、並びにp電極20Bの側面は、SiO2などの絶縁膜21で被覆されている。また、絶縁膜21は、p電極20Bに乗り上げ、p電極20Bの上面の縁部を覆うように形成されている。
【0047】
絶縁膜21は保護膜としても機能し、PCSEL素子10を構成するアルミニウム(Al)を含む結晶層を腐食性ガス等から保護する。また、付着物や実装時におけるはんだの這い上がりによる短絡等を防止し、信頼性、歩留まりの向上に寄与する。絶縁膜21の材料はSiO2に限らず、ZrO2、HfO2、TiO2、Al2O3、SiNx等を選択することができる。
【0048】
素子基板12の裏面には円環状のカソード電極20A(第1の電極)が形成されている(
図2Cを参照)。また、カソード電極20Aの内側には無反射(AR)コート層27が形成されている。
【0049】
カソード電極20Aは、Ti/Auからなり、素子基板12とオーミック接触している。電極材料は、Ti/Au以外に、Ti/Al、Ti/Rh、Ti/Al/Pt/Au、Ti/Pt/Auなどを選択することができる。
【0050】
活性層15からの放射光はフォトニック結晶層(PC層)14Pによって回折される。フォトニック結晶層14Pによって回折され(回折面WS)、フォトニック結晶層14Pから直接放出された光(直接回折光Ld:第1の回折光)と、フォトニック結晶層14Pの回折によって放出され、反射面SRによって反射された光(反射回折光Lr:第2の回折光)とが素子基板12の裏面(出射面)12Rの光出射領域20L(
図2C)から外部に出射される。
【0051】
図2Bに示すように、フォトニック結晶層14Pにおいて空孔14Kは、例えば矩形の空孔形成領域14R内に周期的に配列されて設けられている。
【0052】
図2Cに示すように、アノード領域RAは、空孔形成領域14R内に包含されるように形成されている。
【0053】
また、カソード電極20Aは、フォトニック結晶層14Pに対して垂直方向から見たときにp電極20Bに重ならないようにp電極20Bの外側に環状の電極として設けられている。
【0054】
カソード電極20Aの内側の領域が光出射領域20Lである。また、カソード電極20に電気的に接続され、外部からの給電用のワイヤを接続するボンディングパッド20Cが設けられている。
【0055】
2.フォトニック結晶層の製法及び再結晶成長
以下に、フォトニック結晶層の作製工程及び再結晶成長について説明する。結晶成長方法としてMOVPE(Metalorganic Vapor Phase Epitaxy)法を用いた。なお、以下においては、フォトニック結晶層14Pが二重格子フォトニック結晶層である場合を例にその形成方法について説明するが、単一格子フォトニック結晶層及び多重格子フォトニック結晶層も同様にして形成することができる。
【0056】
(a)ホールの形成
まず、基板12上にn-クラッド層13としてAl組成が4%のn型Al0.04Ga0.96N層を成長した。続いて、n-クラッド層13上にn型GaN層を成長した。この成長層は、下ガイド層14Aと、フォトニック結晶層14Pを形成するための準備層である。
【0057】
上記準備層を形成後、基板をMOVPE装置のチャンバより取り出し、成長層表面に微細な凹部(ホール)を形成した。洗浄により清浄表面を得た後、プラズマCVDを用いてシリコン窒化膜(SiNx)を成膜した。この上に電子線描画用レジストを塗布し、電子線描画装置に入れて2次元周期構造のパターニングを行った。
【0058】
図3は、レジストの主開口K1及び副開口K2、及び、エッチング後のホール14H1,14H2を模式的に示す平面図である。
図3に示すように、長円形状の主開口K1及び主開口K1よりも小なる副開口K2からなる開口対を周期PKで正方格子状にレジストの面内で2次元配列したパターニングを行った。なお、図面の明確さのため、開口部にハッチングを施して示している。
【0059】
より詳細には、主開口K1は、その重心CD1が互いに直交する2方向(x方向及びy方向)に周期PKの正方格子の格子点上に2次元的に配列されている。副開口K2も同様に、その重心CD2がx方向及びy方向に周期PKの正方格子の格子点上に2次元的に配列されている。
【0060】
主開口K1及び副開口K2の長軸は結晶方位の<11-20>方向に平行であり、主開口K1及び副開口K2の短軸は<1-100>方向に平行である。
【0061】
また、副開口K2の重心CD2は、主開口K1の重心CD1に対してΔx及びΔyだけ離間している。ここでは、Δx=Δyとした。すなわち、副開口K2の重心CD2は、主開口K1の重心CD1から<1-100>方向に離間している。
【0062】
また、主開口K1及び副開口K2の重心間距離Δx、Δyを、Δx=Δy=0.46PKとした。パターニングしたレジストを現像後、ICP-RIE(Inductive Coupled Plasma - Reactive Ion Etching)装置によってSiNx膜を選択的にドライエッチングした。これにより周期PKの正方格子の格子点上に2次元的に配列された主開口K1及び副開口K2がSiNx膜を貫通するように形成された。
【0063】
なお、周期(空孔間隔)PKは、発振波長(λ)を438nmとするため、PK=177.5nmとした。
【0064】
続いて、レジストを除去し、パターニングしたSiNx膜をハードマスクとしてGaN表面部に凹部(ホール)を形成した。ICP-RIE装置にて塩素系ガス及びアルゴンガスを用いてGaNを深さ方向にドライエッチングすることにより、GaN表面に垂直に掘られた長円柱状の主ホール14H1及び副ホール14H2を形成した。
【0065】
なお、上記エッチングによりGaN表面部に掘られた凹部(ホール)をフォトニック結晶層14Pにおける空孔(air-hole)と区別するため、単に主ホール及び副ホールと称する。また、主ホール14H1,副ホール14H2を特に区別しない場合には、これらを合わせてホール14Hと称する場合がある。
なお、ホール14Hの形状は長円柱状に限らず、円柱状、多角形状などであってもよい。
【0066】
(b)埋込層の形成(再結晶成長)
ホール14Hを形成した基板を洗浄した後、再度MOVPE装置のリアクタ内に導入し、再成長を行った。具体的には、アンモニア(NH3)及びトリメチルガリウム(TMG)を供給して第1の埋込層14B1を形成し、ホール14Hの開口を閉塞した。
【0067】
また、同時に、n型ドーパントとしてシラン(SiH4)を供給して、第1の埋込層14B1に1×1018cm-3のSiをドープした。なお、n型ドーパントはSi以外にGeであっても良く、n型ドーパントの供給原料としてはジシラン(Si2H6)やゲルマン(GeH4)を用いることができる。
【0068】
すなわち、マストランスポートによってホール14Hの形状が熱的に安定な面で構成される形状へと変形する第1の温度(920℃)で第1の埋込層14B1を形成した。
【0069】
この第1の温度領域では、成長基板の最表面にはN原子が付着しているため、N極性面が選択的に成長される。したがって、表面には{1-101}ファセットが選択的に成長される。対向する{1-101}ファセットがそれぞれぶつかることで、ホール14Hは閉塞され埋め込まれる。これにより第1の埋込層14B1が形成される。
【0070】
続いて、主ホール14H1及び副ホール14H2を閉塞した後、厚さが50nmの第2の埋込層14B2を成長した。第2の埋込層14B2の成長は、基板温度(成長温度)を1050℃(第2の埋込温度)まで昇温後、トリメチルガリウム(TMG)、NH3及びシラン(SiH4)を供給することで行った。なお、第2の埋込温度は、第1の埋込温度よりも高温であった。ただし、第2の埋込層14B2の成長表面が(0001)面となるように成長することができれば、第2の埋め込み温度と第1の埋め込み温度との温度関係は逆転しても良い。また、第2の埋込層14B2に1×1018cm-3の濃度でSiをドープした。
【0071】
また、本実施例における第2の埋込層14B2は、光とフォトニック結晶層14Pとの結合効率(光フィールド)を調整するための光分布調整層としても機能する。
【0072】
すなわち、本実施形態における第1の埋込層14B1及び第2の埋込層14B2はSiをドープしたGaN層である。しかし、第1の埋込層14B1及び第2の埋込層14B2は、GaNに限らず、n-GaN、n-InGaNあるいは、これらの半導体層が積層された層を用いることができる。
【0073】
以上の埋込工程により、主空孔14K1及び副空孔14K2からなる空孔対14Kが正方格子点の各々に2次元的に配置された二重格子構造のフォトニック結晶層14Pが形成された。ここで、副空孔14K2は主空孔14K1よりも空孔径及び高さが小さい。
【0074】
なお、主空孔14K1及び副空孔14K2を特に区別しない場合には、これらを合わせて空孔14Kと称する場合がある。
【0075】
図4は、形成されたフォトニック結晶層14Pの、中心軸CXに垂直な断面を模式的に示す図である。III族窒化物においてホールを埋め込む際には、マストランスポートによってホール14Hの形状が熱的に安定な面で構成される形状へと変形し空孔14Kが形成される。
【0076】
すなわち、+c面基板においては、ホール14Hの内側面は(1-100)面(すなわち、m面)へと形状変化する。すなわち、長円柱状の形状から側面がm面で構成される長六角柱状の空孔14Kへと形状変化する。
【0077】
形成された主空孔14K1は、長径が72.5nm及び短径が43.5nmであり、長径/短径比は1.67である長六角柱形状を有していた。また、副空孔14K2は長径が44.6nm及び短径が38.3nmであり、長径/短径比は1.16であり、主空孔14K1よりも正六角柱に近い長六角柱形状を有していた。
【0078】
また、主空孔14K1及び副空孔14K2の重心間距離Δx及びΔyは、81.6nm(Δx=Δy=0.46PK)であり、埋め込み前から変化していないことが確認された。また、主空孔14K1及び副空孔14K2の長軸は<11-20>軸(すなわち、a軸)に平行であることが確認された。
【0079】
また、主空孔14K1及び副空孔14K2の空孔充填率(フィリングファクタ)FF1,FF2を算出したところ、FF1=8.8%、FF2=4.2%であった。ここで空孔充填率とは、2次元的な規則配列において、単位面積あたりの各空孔が占める面積の割合である。具体的には、フォトニック結晶層14Pにおける主空孔14K1及び副空孔14K2の面積をそれぞれS1、S2としたとき、主空孔14K1及び副空孔14K2の空孔充填率FF1,FF2は次の式で与えられる。
【0080】
FF1=S1/PK2, FF2=S2/PK2
以上の工程により、空孔層であるフォトニック結晶層14Pを含むn側ガイド層14の形成が完了した。
【0081】
(c)光分布調整層、活性層及びp半導体層の成長
埋込層14Bの成長に続いて、MO原料の供給を切り替えて、光分布調整層23を順次成長した。
【0082】
本実施形態においては、光分布調整層23は、埋込層14Bとは結晶組成の異なる半導体からなる。具体的には、光分布調整層23はアンドープのIn
0.03Ga
0.97N層であり、埋込層14B(GaN層)とヘテロ構造を形成するヘテロ半導体層(異種半導体層)である。なお、埋込層14Bを構成する半導体層は光分布調整層23を構成する半導体層に比べて、a軸方向の格子定数が小さくなる。つまり、ガイド層14を構成する、下ガイド層14A、フォトニック結晶層14P及び埋込層14Bは、同じ格子定数で構成される。しかしながら、光分布調整層23は、n側ガイド層14上からエピタキシャル成長している。従って、a軸は圧縮されて、c軸は伸長して分極が大きくなる。よって、後述する
図9に示すようなバンド障壁(BB)が生じる。このバンド障壁(BB)は、例えばGaN上にAlGaNを成長させた場合のような、格子定数差の小さい半導体成長過程では起きない。
【0083】
続いて、光分布調整層23上に、活性層15、p側ガイド層(第2のガイド層)16、電子障壁層(EBL)17、p-クラッド層18、p-コンタクト層19を順次成長した。以上により、PCSEL素子10が作製された。
【0084】
3.PCSEL素子の特性
(a)本実施形態のPCSEL素子の特性
複数のPCSEL素子10のサンプルを作製し、それらの電流-電圧特性(I-V特性)を評価した。
図5は、サンプル1~4(EX.1~EX.4)のI-V特性の測定結果を示すグラフである。
【0085】
ここで、実施例のサンプル1~3(EX.1~EX.3)は、上記で説明した構造を有するPCSEL素子10である。また、サンプル4(EX.4)は、サンプル1~3の特性評価の参照基準とするリファレンス・サンプルである。具体的には、サンプル4(EX.4)は、フォトニック結晶層14Pを有しない点においてPCSEL素子10と異なり、その他はPCSEL素子10と同一の構造を有する面発光素子である。
【0086】
より詳細には、リファレンス・サンプル4(EX.4)の面発光素子は次のように作製した。まず、基板12上にn-クラッド層13を成長し、続いて、n-クラッド層13上にn型GaN層を成長した。続いて、基板を一度MOPVE装置のリアクタから取り出し、基板を洗浄した後、再度MOVPE装置のリアクタ内に導入し、再成長を行った。
【0087】
図5に示すように、本実施形態の各PCSEL素子(EX.1~EX.3)は、ほぼ同一の閾値及び効率を示し、良好なI-V特性を有していることが確認された。
【0088】
また、サンプル1~3(EX.1~EX.3)の各PCSEL素子は、フォトニック結晶層14P(PC層)を有しないリファレンス・サンプル4(EX.4)の面発光素子と比較しても遜色の無い良好なI-V特性を有していることが確認された。
【0089】
(b)比較例のPCSEL素子の特性
本実施形態のPCSEL素子10の比較例として複数のPCSEL素子及び面発光素子を作製し、それらの電流-電圧特性(I-V特性)を評価した。
図6は、サンプル1~5(CX.1~CX.5)のI-V特性の測定結果を示すグラフである。
【0090】
具体的には、比較例のサンプル1~5(CX.1~CX.5)の面発光素子においては、埋込層14B(第1の埋込層14B1及び第2の埋込層14B2)は、ドーパントをドープしていないアンドープ層であり、この点において、実施例のサンプル1~4(EX.1~EX.4)のPCSEL素子10とは異なっている。
【0091】
より詳細には、比較例1~3(CX.1~CX.3)のPCSEL素子は、埋込層14Bがアンドープ層である点のみにおいて、実施例のサンプル1~3(EX.1~EX.3)のPCSEL素子10とは異なっている。
【0092】
また、比較例のサンプル4(CX.4)の面発光素子は、フォトニック結晶層14Pを有しない点において比較例のサンプル1~3(CX.1~CX.3)のPCSEL素子と異なる。なお、再成長を行った点においては実施例のリファレンス・サンプル4(EX.4)の面発光素子と同じである。
【0093】
比較例のサンプル5(CX.5)の面発光素子は、フォトニック結晶層14Pを有さず、n-クラッド層13上にn型GaN層成長した後に、n型GaN層上にアンドープGaNを連続成長した素子である。すなわち、凹部(ホール)を形成するプロセスを行わず、結晶成長装置(MOCVD装置)内でn-クラッド層13上に続いてn型GaN層およびアンドープGaN層を連続成長した素子である。その他はPCSEL素子10と同一の構造を有する面発光素子である。比較例のサンプル4とサンプル5との違いは、成長の途中でMOVPE装置から取り出して再成長を行うか、MOVPE装置から取り出さずに連続成長するかの点においてのみ製造方法が異なり、積層構造については同一の面発光素子である。
【0094】
図6に示すように、比較例のサンプル1~3(CX.1~CX.3)のPCSEL素子及びサンプル4(CX.4)の面発光素子では、フォトニック結晶層14Pを有さず、連続成長によって形成したサンプル5(CX.5)の面発光素子と比較して、駆動電圧が上昇し、微分抵抗が極めて大きくなる。
【0095】
(c)比較例のPCSEL素子における駆動電圧上昇の原因
図7は、再成長によって形成されるPCSEL素子の深さ方向のSIMS(二次イオン質量分析)の測定結果(SIMSプロファイル)を示している。なお、図の明確さのため、各半導体層については、それらの参照符号で示している。例えば、「14B」は埋込層14Bを、「23」は光分布調整層(ヘテロ半導体層)23を示している。
【0096】
図7に示すように、埋込層14Bは再成長界面に近いため、MOCVD成長中のメモリ効果によりMgなどの意図しない元素の取り込みが発生しドナー濃度が低くなる。なお、この現象は、空孔の有無にかかわらず発生する。
【0097】
また、空孔を埋め込む場合、{1-101}ファセットを選択成長させることで空孔を閉塞し、GaN層中に空孔を埋め込む。このとき、(0001)面成長に比べて雰囲気中に存在する不純物の取り込みが多くなるため、ドナーが補償され、さらに駆動電圧が上昇すると考えられる。
【0098】
(d)本実施形態のPCSEL素子の特性改善
上記したように、本実施形態のPCSEL素子10においては、埋込層14B(すなわち第1の埋込層14B1及び第2の埋込層14B2にn型ドーパントをドープしている。
【0099】
埋込層14Bのドナー濃度を変化させた時のI-V特性を、デバイスシミュレータAtlasを用いてシミュレーションを行った。
【0100】
図8は、シミュレーションに用いたPCSEL素子の各半導体層のパラメータを示す表である。層構成(layer config.)中の「x.comp」は、各半導体層(Material)の組成x(In
xGa
1-xN,Al
xGa
1-xN)を、「Thick(nm)」は層厚を示している。また、「Doping profiles」は各半導体層(Material)の導電型及びドーピング濃度(Conc(cm
-3))を示している。なお、III族窒化物半導体において、アンドープ層はわずかにn型伝導性を示すため、導電型はn型として表記し、ドーピング濃度は5.0×10
16cm
-3とした。
【0101】
本シミュレーションでは、埋込層14Bのn濃度を1.0×1017~2.0×1018cm-3の範囲で変化させて計算を行った。
【0102】
図9及び
図10は、それぞれ埋込層14Bのドナー濃度(Nd)を2.0×10
17cm
-3、2.0×10
18cm
-3としたときの、伝導帯のエネルギーバンド、及び、電子及び正孔の濃度のシミュレーション結果を示す図である。
【0103】
図9に示すように、ドナー濃度(Nd)が2.0×10
17cm
-3のとき、光分布調整層(ヘテロ半導体層)23(InGaN)と埋込層14B(GaN)との界面はピエゾ分極により空乏化され、埋込層14Bから注入される電子に対するバンド障壁(BB、破線で囲んで示している)が形成されていることが分かる。
【0104】
バンド障壁(BB)が高いとき、界面の障壁高さが低くなるまで電圧が印加されないと電流が流れず、埋込層14Bのドナー濃度が低すぎる場合には駆動電圧が上昇してしまう。
【0105】
図10に示すように、ドナー濃度(Nd)を2.0×10
18cm
-3に増加させると、光分布調整層(ヘテロ半導体層)23と埋込層14Bとの界面のバンド障壁が低下することが分かる(
図9を参照)。また、ドナー濃度(Nd)が2.0×10
18cm
-3以上であれば、バンド障壁が極めて大きく改善されることが分かる。
【0106】
PCSEL素子においては、埋め込み成長(再成長)時において不純物(Mg,Cなど)が入り込み易く、ドナーが補償される。また、ファセット成長時の欠陥導入によって意図しないアクセプタが導入される。したがって、PCSEL素子においては、当該補償効果によって生じるヘテロ半導体層と埋込層との界面におけるバンド障壁が素子特性を大きく損なうものと解される。
【0107】
図11は、埋込層14Bのドナー濃度(Nd)を変化させたときのI-V特性のシミュレーション結果を示すグラフである。この結果、ドナー濃度(Nd)が高くなるほどI-V特性は良好となり、ドナー濃度を1.0×10
18cm
-3まで増加させることによって特性を大きく改善できることが分かった。また、ドナー濃度が2.0×10
18cm
-3以上で特性改善は飽和することが分かった。なお、図中、矢印はドナー濃度Ndの増加方向を示している。
【0108】
一方、I-V特性のシミュレーションにおいて、埋込層14Bのn濃度が1.0×1017cm-3以下では、計算値が発散した。すなわち、光分布調整層(ヘテロ半導体層)23(InGaN)と埋込層14B(GaN)との界面の障壁が高く、電流が流れないことが分かった。
【0109】
すなわち、埋込層14Bへのドーピング濃度は、2.0×1017cm-3以上であることが好ましく、再成長におけるメモリ効果のオートドープ(5.0×1016cm-3程度)及びドナーの取り込みを考慮すると1.5×1017cm-3以上がさらに好ましい。また、I-V特性の改善効果の点で、1.0×1018cm-3以上であることが好ましく、2.0×1018cm-3以上であることがさらに好ましい。
【0110】
また、一般的なドーパントとして用いられるSiは1.0×1020cm-3程度までドーピングすると、極性反転が発生し表面モフォロジが悪化するため、埋込層14Bのドーピング濃度は1.0×1020cm-3以下であることが好ましい。
【0111】
また、埋込層14Bの成長面の表面粗さによる再成長層への影響を考慮すると、埋込層14Bのドーピング濃度は2.0×1019cm-3以下であることがさらに好ましい。
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、高い注入効率を有し、低閾値及び高効率で発光するフォトニック結晶面発光レーザ素子を提供することができる。
【0112】
なお、上記した実施形態における数値等は、特に示した場合を除き、例示に過ぎず適宜改変して適用することができる。また、二重格子構造のPCSEL素子について例示したが、単一格子構造のPCSEL素子、及び一般に多重格子構造のPCSEL素子について適用することができる。
【0113】
また、本発明は、空孔が六角柱形状を有するフォトニック結晶層について例示したが、フォトニック結晶層の空孔が円柱状、矩形状、多角形状、またティアドロップ形状などの不定柱形状を有する場合についても適用することができる。
【符号の説明】
【0114】
10:PCSEL素子
12:素子基板
13:第1のクラッド層
14:第1のガイド層
14A:下ガイド層
14B:埋込層
14B1:第1の埋込層
14B2:第2の埋込層
14K:空孔/空孔対
14K1/14K2:主/副空孔
14P:フォトニック結晶層(空孔層)
15:活性層
16:第2のガイド層
17;電子障壁層
18:第2のクラッド層
19:コンタクト層
23:光分布調整層(ヘテロ半導体層)