(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142992
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】木削薄片板および床材
(51)【国際特許分類】
B27N 3/00 20060101AFI20241003BHJP
B27N 3/06 20060101ALI20241003BHJP
B27N 3/04 20060101ALI20241003BHJP
B27M 3/00 20060101ALI20241003BHJP
B27M 3/04 20060101ALI20241003BHJP
E04F 15/02 20060101ALI20241003BHJP
E04F 15/04 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B27N3/00 C
B27N3/06 A
B27N3/04 C
B27M3/00 B
B27M3/04
E04F15/02 A
E04F15/04 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055428
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】390030340
【氏名又は名称】株式会社ノダ
(74)【代理人】
【識別番号】100085589
【弁理士】
【氏名又は名称】▲桑▼原 史生
(72)【発明者】
【氏名】島村 明
(72)【発明者】
【氏名】石川 広資
(72)【発明者】
【氏名】森角 佳一
【テーマコード(参考)】
2B250
2B260
2E220
【Fターム(参考)】
2B250AA05
2B260BA02
2B260BA03
2B260CB02
2B260CB04
2B260CD03
2B260CD22
2E220AA25
2E220AA60
2E220BA04
2E220BB03
2E220FA01
2E220FA02
2E220GB32Z
2E220GB37Z
2E220GB38Z
2E220GB43X
(57)【要約】
【課題】従来のOSBより優れた表面平滑性を有し、その上に直接化粧材を貼着して化粧板とするための基材として好適に使用可能な木質ボードを提供する。
【解決手段】木削薄片2と接着剤とを混合して集積し、熱圧一体化して得られる木削薄片板1であって、その少なくとも一方の表面が、日本産業規格JIS B 0601:2013で定義される表面粗さを示す最大高さが200μm以下である。木削薄片は、厚さが0.1mm以上0.6mm以下、幅が1.0mm以上50mm以下、長さが15mm以上200mm以上であり、その樹種密度が0.6g/cm
3以下であり、木削薄片板のボード密度が0.5~0.9g/cm
3以下であることが好ましい。この木削薄片板は、その上に直接突板や化粧シートなどの化粧材4を貼着して化粧板5とするための基材として好適に使用可能である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木削薄片と接着剤とを混合して集積し、熱圧一体化して得られる木削薄片板であって、少なくとも一方の表面が、日本産業規格JIS B 0601:2013で定義される表面粗さを示す最大高さが200μm以下であることを特徴とする木削薄片板。
【請求項2】
木削薄片の樹種密度が0.6g/cm3以下であることを特徴とする、請求項1記載の木削薄片板。
【請求項3】
0.5g/cm3以上0.9g/cm3以下のボード密度を有することを特徴とする、請求項1記載の木削薄片板。
【請求項4】
木削薄片が厚さ0.1mm以上0.6mm以下であることを特徴とする、請求項1記載の木削薄片板。
【請求項5】
木削薄片の幅が1.0mm以上50mm以下であり、木削薄片の長さが15mm以上200mm以下であることを特徴とする、請求項4記載の木削薄片板。
【請求項6】
表層、芯層、表層の3層からなることを特徴とする、請求項1記載の木削薄片板。
【請求項7】
芯層の配向性が木削薄片板の長手方向に対して略直交方向であり、2つの表層の配向性が木削薄片板の長手方向と略平行方向であることを特徴とする、請求項6記載の木削薄片板。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか記載の木削薄片板の表面粗さを示す最大高さが200μm以下である表面に化粧材を積層してなる床材であって、曲げ強さが30~80N/mm2であり、曲げヤング係数が3000~8500N/mm2であることを特徴とする床材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木削薄片板および該木削薄片板を基材とする床材に関する。
【背景技術】
【0002】
木材の小片ないし薄片を接着剤と混合して集積して熱圧一体化して得られる木質ボードとしては、配向性ストランドボード(OSB,JIS A 5908:2022)が知られている。OSBはJASに定められる構造用パネルの一種であるが、近年の木質資源の枯渇化を背景として、OSBを構造用パネル以外の用途、たとえば化粧板の基材として用いることについても検討が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のOSBは、一般に、厚さ0.65~1.20mm程度の木削薄片(ストランド)を乾燥させ、接着剤を塗布し、木削薄片の木理方向を略一定方向に定めて集積し、加圧成形して製造されており、密度0.60~0.70g/cm3、曲げ強さ25~35N/mm2、曲げヤング係数3500~5000N/mm2程度の物性を有するが、接着剤の偏在やプレス荷重の不均一などに起因して一部の木削薄片が捲れ上がった状態で表面に現出することが多く、表面平滑性に劣ることから、OSBの表面に突板や化粧シートなどの化粧材を直接貼着することは実際上困難であった。そのため、OSBを化粧板の基板として用いるに際しては、その表面にMDFなどの表面平滑性に優れた表面材を貼着した上に突板や化粧シートなどの化粧材を貼着して化粧板としているのが現状であり、OSBを単独で化粧板の基材として使用することは従来行われていなかった。
【0005】
化粧板の基材としては、古くから合板が使用され、良質な単板が入手困難になってきた近年ではMDFなどの木質繊維板が広く用いられているが、合板は強度的には優れており、撓みが小さく施工しやすく、施工後も反りなどの変形が少ないことから、化粧板の基材として使用するに適した材料と認識されてきたが、表面平滑性が十分ではなく(表面粗さを示す最大高さが200μm超)、その上に薄い突板などの化粧材を直接貼着すると、合板表面の凹凸が突板の表面に現出して表面性が不良となり、床板として使用したときの歩行感が悪化するなどの問題があった。そのため、合板基材に化粧材を貼着する場合は、合板表面の凹凸をパテで埋めて表面平滑に仕上げる必要があった。一方、MDFは表面平滑性には優れているものの、特に長さ方向の曲げ強度が不十分であった。
【0006】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、MDFと同等程度の表面平滑性を有すると共にMDF以上の曲げ強度を発揮する木質ボードを提供し、その上に直接突板や化粧シートなどの化粧材を貼着して化粧板とするための基材として好適に使用可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題を解決するため、本願の請求項1に係る発明は、木削薄片と接着剤とを混合して集積し、熱圧一体化して得られる木削薄片板であって、少なくとも一方の表面が、日本産業規格JIS B 0601:2013で定義される表面粗さを示す最大高さが200μm以下であることを特徴とする。
【0008】
本願の請求項2に係る発明は、請求項1記載の木削薄片板において、木削薄片の樹種密度が0.6g/cm3以下であることを特徴とする。
【0009】
本願の請求項3に係る発明は、請求項1記載の木削薄片板が、0.5g/cm3以上0.9g/cm3以下のボード密度を有することを特徴とする。
【0010】
本願の請求項4に係る発明は、請求項1記載の木削薄片板において、木削薄片が厚さ0.1mm以上0.6mm以下であることを特徴とする。
【0011】
本願の請求項5に係る発明は、請求項4のいずれか記載の木削薄片板において、木削薄片の幅が1.0mm以上50mm以下であり、木削薄片の長さが15mm以上200mm以下であることを特徴とする。
【0012】
本願の請求項6に係る発明は、請求項1記載の木削薄片板において、表層、芯層、表層の3層からなることを特徴とする。
【0013】
本願の請求項7に係る発明は、請求項6記載の木削薄片板において、芯層の配向性が木削薄片板の長手方向に対して略直交方向であり、2つの表層の配向性が木削薄片板の長手方向と略平行方向であることを特徴とする。
【0014】
本願の請求項8に係る発明は、請求項1ないし7のいずれか記載の木削薄片板の表面粗さを示す最大高さが200μm以下である表面に化粧材を積層してなる床材であって、曲げ強さが30~80N/mm2であり、曲げヤング係数が3000~8500N/mm2であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来のOSBより大幅に表面平滑性が向上し、良好な表面平滑性を有するものとして知られているMDFに匹敵または同等の表面平滑性を有し、諸物性にも優れた木削薄片板が提供される。したがって、その上に直接突板や化粧シートなどの化粧材を貼着して化粧板とするための基材として、従来使用されているMDFなどに代えて、本発明による木削薄片板を好適に使用することができる。
【0016】
本発明の木削薄片板は、木削薄片に一定の配向性を持たさずにランダムに集積した場合であっても、木削薄片の樹種密度やボード密度などを調整することによって、化粧板の基材として用いるに適した曲げ強度などの諸物性を有することができるが、3層の積層構造において、芯層が木削薄片板の長手方向に対して略直交方向であり、2つの表層が木削薄片板の長手方向と略平行方向である配向性を持たせることにより、曲げ強度をより増大させることができると共に、長さ膨張率を低減させて寸法安定性を向上させることができる。
【0017】
この木削薄片板の平滑な表面に突板などの化粧材を積層してなる床材は、密度および曲げヤング係数が良好であり、強度、剛性、耐傷性などに優れた床材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明による木削薄片板を模式的に示す側面図である。
【
図2】本発明による木削薄片板を基材として用いた床材を模式的に示す側面図である。
【
図3】試験例における表面粗さ試験の測点を示す図である。
【
図4】樹種密度が小さく厚さが厚い木削薄片(a)、樹種密度が小さく厚さが薄い木削薄片(b)、樹種密度が大きく厚さが厚い木削薄片(d)および樹種密度が大きく厚さが薄い木削薄片(e)の模式断面図および薄い木削薄片(b、e)を圧縮した状態の模式断面図(c,f)である。
【
図5】樹種密度が小さい木削薄片を集積したマット(a)およびその圧縮状態(b)、並びに、樹種密度が大きい木削薄片を集積したマット(c)およびこれらのマットを圧縮して幅方向両端を垂直にカットした状態(d)を示す模式断面図である。
【
図6】樹種密度が小さい木削薄片同士が重なり合った部分の圧縮前の表面状態(a)およびその圧縮後の表面状態(b)、並びに、樹種密度が大きい木削薄片同士が重なり合った部分の圧縮前の表面状態(c)およびその圧縮後の表面状態(d)をそれぞれ示す模式断面図である。
【
図7】木削薄片として用いる樹種の密度とこれにより得られる木削薄片板の表面粗さを示す最大高さとの相関性を示すグラフである。
【
図8】木削薄片板のボード密度と表面粗さを示す最大高さとの相関性を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、木削薄片と接着剤とを混合して集積し、熱圧一体化して得られる木削薄片板に関する。
図1はこの木削薄片板1を単独で示す断面図であり、符号2は木削薄片を示す。
図2はこの木削薄片板1を基材として用い、その平滑表面上に突板3(化粧材)を積層接着した床材4(化粧板)を示す断面図である。
【0020】
木削薄片は、広葉樹または針葉樹の原木をストランダーで薄く切削して作成する。植林再生可能な広葉樹や針葉樹から木削薄片を得ても良い。
【0021】
本発明の木削薄片板に用いる木削薄片は、厚さ0.1mm以上0.6mm以下、幅2mm以上50mm以下、長さ15mm以上200mm以下である。
【0022】
木削薄片の厚さが0.1mm未満であると、木削薄片生産能力が低下し、0.6mmを超えると、得られる木削薄片板の表面平滑性が低下すると共に剛性が不均一になる。木削薄片の厚さが0.1mm以上0.6mm以下の範囲内であれば、表面平滑性に優れ、均一な剛性を有する木削薄片板とすることができる。
【0023】
木削薄片の幅が50mmを超えると、その取扱性や移送性が低下するだけでなく、木削薄片がカールしやすくなるので接着剤の馴染みが不良になりやすくなる。木削薄片の幅が2mm未満であると、得られる木削薄片板の剛性が低下する。木削薄片の幅が2mm以上50mm以下の範囲内であれば、表面平滑性に優れ、均一な剛性を有する木削薄片板とすることができる。
【0024】
木削薄片の長さが200mmを超えると、その取扱性や移送性が低下するだけでなく、木削薄片がカールしやすくなり、熱圧したときに局所的に空洞(コアボイド)ができて強度低下を招き、パンクの原因となる。木削薄片の長さが15mm未満であると、得られる木削薄片板の剛性が低下する。木削薄片の長さが15mm以上200mm以下の範囲内であれば、木削薄片板の生産性に優れ、所要の剛性を得やすくなる。
【0025】
木削薄片の含水率は15重量%以下とすることが好ましく、木削薄片板製造工程に入るまでにこの含水率以下になるまで乾燥する。含水率が15重量%を超えると、木削薄片板の表面に極度に高密度の層ができやすくなり、加圧成型時のプレスに長時間を要すると共に、得られた木削薄片板の剛性が不均一になる。この観点から、木削薄片の含水率は3重量%以下とすることがより好ましい。木削薄片の含水率MCは、日本産業規格JIS A 5905:2022 7.5に準拠して、MC=(m1-m0)x100/m0の式から求めることができる。ここで、m1は乾燥前の木削薄片試料の質量(g)であり、m0は該木削薄片試料を103℃の空気乾燥機に入れて恒量になったときの質量(g)である。
【0026】
木削薄片に塗布する接着剤としては、ユリア樹脂、メラミンユリア樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を単独または適宜混合して用いることができるが、特に、これらにポリイソシアネートを混合したものを用いると、ホルムアルデヒドの放出量が少なくなり、また、曲げ強さなどの物理化学的物性も向上させることができるので、好ましい接着剤となる。ポリイソシアネートとは、一分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物であり、4、4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)などのジイソシアネート化合物、過剰量のジイソシアネート化合物とポリオールとを反応させて得られる化合物などである。ポリイソシアネートの一例を挙げれば、ポリメリックMDI(ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート:モノメリックMDIと高分子量のポリイソシアネートの混合物、クルードMDIとも呼ばれる)があり、水分と反応して硬化し、または発泡する性質を有する。
【0027】
接着剤の使用量は、木削薄片の絶乾重量100重量部に対して、固形分で4~30重量部であることが好ましい。木削薄片の絶乾重量100重量部に対する接着剤固形分量が4重量部未満になると、木削薄片板の曲げ強度が低下し、30重量部を超えると過剰量になって剛性が過度に増大し、経済的に不利になる。接着剤にイソシアネート化合物を用いる場合は、固形分を4~12重量部とし、メラミンユリア樹脂を用いる場合は固形分を10~30重量部とすることが好ましい。
【0028】
次に、本発明による木削薄片板の製造方法について説明する。本発明による木削薄片板は、概して言えば、木削薄片を乾燥させた後、接着剤を塗布し、木削薄片の木理方向を一定に定めずにランダムに集積し、この集積体(マット)を加圧成形することによって製造される。以下、より具体的に説明する。
【0029】
植林再生可能な広葉樹または針葉樹の原木、廃木材、製材廃材、リサイクル材などを準備し、これをストランダー(切削機)で切削して木削薄片を作製する。本発明の木削薄片板に用いる木削薄片は、上述したように、厚さ0.1mm以上0.6mm以下、幅2mm以上50mm以下、長さ15mm以上200mm以下のものであるから、これらの寸法条件を満たすように切削して木削薄片とする。
【0030】
次に、木削薄片を乾燥機で乾燥させて15%以下、好ましくは3%以下の含水率に調整した後、その表面に接着剤を塗布する。接着剤の塗布は、一例としてスプレー方式で行うことができ、たとえば、低速(約30rpm)で回転する回転ドラム内に木削薄片を投入し、回転ドラム内で木削薄片が自然落下する際に接着剤をスプレーで塗布する方法を好適に採用することができる。
【0031】
次いで、接着剤が塗布された木削薄片を集積してマット状に成形し、これをプレス機で熱圧成形する。熱圧成形時の熱で接着剤の熱硬化性樹脂が硬化し、木削薄片同士が強固に結合して、木削薄片板が製造される。熱圧成形温度は、用いる接着剤の種類にもよるが、概して190~220℃である。
【0032】
木削薄片を集積してマット状に成形するに当たっては、単一のマットに成形しても良いが、木削薄片を複数、たとえば3つのグループに分けてそれぞれをマット状に成形し、これらを積層して熱圧成形することにより、表層、芯層、表層の3層からなる木削薄片板を製造しても良い。単層マットを熱圧成形して製造される木削薄片板は木削薄片の偏りが発生する可能性があるが、複数層とすることにより木削薄片の偏りを分散または解消させて、強度や剛性が均一化される利点がある。
【0033】
このようにして製造される木削薄片板は、密度が0.5~0.9g/cm3であることが好ましい。密度が0.5g/cm3未満であると、木削薄片板の強度が不十分となり、一方、密度が0.9g/cm3より大きくなると、木削薄片板全体の重量が増大して取扱性が悪くなる。密度が0.5~0.9g/cm3の範囲内であれば、床材その他の屋内用内装材として適切な諸性能を得ることができる。
【0034】
なお、木削薄片板の密度分布に関しては、含水率が15重量%以下、より好ましくは3重量%以下である木削薄片を用いることによって木削薄片板の表面に高密度層が形成されることを効果的に防止しつつ、さらに、熱圧プレスの際に熱盤を木削薄片マットに接触させるタイミングおよび圧力を調整することによって、密度分布を0.5~0.9g/cm3の範囲内とすることができ、均等な密度分布を有する木削薄片板を製造することができる。厚み方向の密度分布(デンシティプロファイル)は、密度分布測定器(独グレコン社製、DAX5000)を用いて測定することができる。
【0035】
また、木削薄片板は、曲げ強さが25~90N/mm2、曲げヤング係数が3000~8500N/mm2であることが好ましい。曲げ強さが25N/mm2未満および/または曲げヤング係数が3000N/mm2未満であると、特に木削薄片板を床材の基材として用いたときにたわみ量がJAS木質フローリング規格で定めるたわみ基準(3.5mm以下。詳しくは後述。)よりも大きくなり、床材としての適性に欠けるものとなる。一方、曲げ強さが90N/mm2超および/または曲げヤング係数が8500N/mm2超になると、床材に使用したときに歩行時に必要とされる弾性が不足し、歩行感に劣るものとなる。曲げ強さが25~90N/mm2の範囲内であり、曲げヤング係数が3000~8500N/mm2の範囲内であれば、床材の基材として使用するに適した木削薄片板とすることができる。
【0036】
さらに、上記のようにして製造された木削薄片板を基材とし、その表面に、日本産業規格JIS A 5536:2015「床仕上げ材用接着剤」の表3のF☆☆☆☆等級の接着剤を用いて、0.1~0.2mm程度の厚さの突板、化粧シート、化粧紙などの化粧材を積層接着して、床材を製造することができる。化粧材の表面に、さらに、厚さ20~80μm程度のウレタン塗装などの塗膜層を形成しても良い。木削薄片板の表面が平滑に得られるので、その平滑表面上に化粧材を積層接着して得られる床材も表面平滑であり、適度な強度、弾性、たわみなどの物性を有するので、好適な床材となる。
【0037】
以下に試験例を挙げて本発明の実施例および比較例について説明する。この試験例では、それぞれヒノキ原木からストランダー(切削機)で薄く切削して、厚さ0.1mm~0.6mm、長さ15mm~200mm、幅2mm~50mmの木削薄片試料を多数準備し、これらを、所定の重量比になるように計量して3つのグループ(上層用試料a、芯層用試料b、下層用試料c)に分けた。実施例1では、木削薄片の絶乾重量比で上層用試料aが30%、芯層用試料が40%、下層用試料が30%になるように配分し、実施例2では、木削薄片の絶乾重量比で上層用試料が25%、芯層用試料が50%、下層用試料が25%になるように配分した。
【0038】
上層用試料a、芯層用試料b、下層用試料cの各々の木削薄片の表面に、ポリイソシアネートを含む樹脂接着剤(住化コベストロウレタン株式会社製品「スミジュール44(登録商標)V20」)を塗布した。塗布はスプレー方式を採用し、低速(約30rpm)で回転する回転ドラム内に試料aの木削薄片を投入し、回転ドラム内で木削薄片が自然落下する際にポリイソシアネートを含む樹脂接着剤をスプレー塗布した。試料b、試料cについても同様にして接着剤をスプレー塗布した。
【0039】
上層用試料a、芯層用試料b、下層用試料cの各々をマット状に集積して、上層用マットA、芯層用マットB、下層用マットCを形成し、これらを順次に積層し、面圧3~10N/mm2、温度190~220℃の熱圧条件で2~4分間熱圧整形して、縦300mmx横300mmx厚さ12mmの木削薄片板試験体(実施例1,2)を得た。
【0040】
また、比較のために、従来から床材の基材として汎用されている合板と、市販されているOSB(厚さ0.65~1.20mmの木削薄片を原料とするもの)を、それぞれ比較例とした。これら比較例の寸法も、実施例1,2と同様に、300mmx300mmx厚さ12mmとした。
【0041】
これらの実施例および比較例(以下、これらを総称して「試験体」と言う。)の各々について、密度、長手方向曲げ強さ、長手方向曲げヤング係数、および、表面粗さ測定器(JIS B 0651:2001、サーフテストSJ-310、株式会社ミツトヨ製)で測定した最大高さを測定した。これらの測定結果を表1に示した。なお、表面粗さを示す最大高さの測点は、
図3に示すように、平面寸法300mmx300mmの試験体を100mmx100mmの9個の領域に区切り、各領域の中心を測点1~9とした。具体的には、各試験体の表面に測定器を載置すると共に、各測点にセットした触針が長さ15mmの直線上の範囲を移動する際に0.01mmピッチで凹凸形状を自動計測することによって行った。凹凸形状の計測は、この測定範囲内における最大高さ(JIS B 0601:2013、最も深い凹部の底から最も高い凸部の頂点までの距離Rz=Rv+Rq)を算出した上で、各測点で測定された最大高さの平均値を表1に示した。
【0042】
【0043】
また、これら試験体の各々を基材として、その表面に0.2mm厚さの突板を積層接着して床材を得たときの表面状態を目視評価した結果を併せて表1の最右欄に示した。この目視評価において、〇印は突板表面に基材表面の凹凸が表出しておらず良好な表面状態が観察されたもの、△印は突板表面に基材表面の凹凸がごくわずかに表出していてやや不良な表面状態が観察されたもの、X印は突板表面に基材表面の凹凸が多数表出して不良な表面状態が観察されたものを示す。
【0044】
表1に示す結果から分かるように、本発明実施例1,2の木削薄片板は、表面粗さを示す最大高さが114μm、118μmであり、比較例の合板およびOSBより格段に優れた表面平滑性を有しており、したがって、これを基材としてその表面に薄い突板を貼着して床材とした場合であっても、突板表面に凹凸が表出することなく、良好な表面状態が得られることが確認された。
【0045】
また、本発明実施例1,2の木削薄片板は、密度、曲げ強度、曲げヤング係数などの物性にも優れており、表には示していないが、JAS木質フローリング規格の曲げたわみ基準(幅300mmx長さ1800mmx厚さ12mmの床材試料をスパン700mmで支持し、スパン中央に置いた荷重棒の上に21kgの荷重をかけたときの変位量Aと、同様に9kgの荷重をかけたときの変位量Bを測定し、その変位量の差A-Bが3.5mm以下であること)を試験したところA-B=1.9mmであって基準をクリアした。以上の結果から、本発明実施例1,2の木削薄片板は、床材の基材として用いるに適した諸物性を有することが確認された。
【0046】
本発明実施例1、2の木削薄片板において良好な表面平滑性が得られたことについては、用いた木削薄片の厚さが比較的薄く、ヒノキの樹種密度が小さいので圧縮されやすいこと、十分に圧縮して製造された木削薄片板であること、などが要因であると推測した。
【0047】
より詳しく言えば、まず、木削薄片の圧縮変形について、
図4を参照して説明する。
図4(a)~(c)に示すように、樹種密度が小さいと、相対的に木削薄片内で占める木質部2aの割合が小さく、空隙部2bが占める割合が大きくなるので、圧縮されやすいものとなる。薄く切削した場合(
図4(b))、空隙部の存在によって表面に凹凸が生じやすいが、圧縮によって空隙部が押し潰されるので、表面の凹凸が小さくなる(
図4(c))。一方、
図4(d)~(f)に示すように、樹種密度が大きくなると、木削薄片内で空隙部2bが占める割合が小さくなり、木質部2aが大部分を占めることになって強度が大きくなるので、木削薄片が薄い場合(
図4(e))でも圧縮されにくい(
図4(f))。
【0048】
次に、木削薄片板の表面の変形について、
図5を参照して説明する。同じボード密度の木削薄片板を作成するためには、樹種密度が小さい木削薄片2cを用いた場合は該木削薄片2cを多数集積させてマット体積を大きくする必要がある(
図5(a))が、樹種密度が小さい木削薄片2cを集積したマットは圧縮されやすいので、これを熱圧したときにその表面が平滑なプレス面に追従して、表面平滑な木削薄片板が得られる(
図5(b))。一方、樹種密度が大きい木削薄片2dを用いて同じボード密度の木削薄片板を作成するには、該木削薄片2dの使用量を少なくしてマット体積を小さくする必要がある(
図5(c))が、樹種密度が大きい木削薄片2dを集積したマットは圧縮されにくいので、これを熱圧したときにその表面が平滑なプレス面に圧接しても追従性が低く、凹凸が大きく表面平滑性に劣る木削薄片板になりやすい(
図5(d))。
【0049】
なお、木削薄片板の表面において木削薄片同士が重なる部分では凹凸が大きくなる傾向が生ずることは避けられないものの、
図6(a),(b)に示すように、樹種密度が小さい木削薄片2cは強度が弱く圧縮されやすいので、重なり合った木削薄片2c,2cの両方または少なくともいずれか一方が変形ないし圧縮して、これらが略面一になり、大きな凹凸を生ずることなく、表面平滑性が維持されるものと推測した。これを良好に実現するために、木削薄片として厚さ0.1~0.6mmの比較的薄いものを用いると共に、この木削薄片を集積したマットを熱圧成形する際に、重なり合った木削薄片同士を略面一にすることができる程度の圧縮力で圧縮し、0.6~0.8g/cm
3 程度のボード密度を有する木削薄片板に成形することが好ましい。このようにすることにより、圧縮後に得られる木削薄片板の表面において木削薄片2c,2c同士が重なり合った部分に形成される段差5の高さが0.2mm以下となって、表面粗さを示す最大高さが200μm以下である木削薄片板を得ることが容易になる。一方、樹種密度が大きい木削薄片2d同士が重なると、
図6(c),(d)に示すように、重なり合った木削薄片2d,2dがほとんど変形せずにそのまま重なり合って段差が残った状態となり、段差5の高さが0.2mmより大きくなって、表面粗さを示す最大高さが200μm以下である木削薄片板を得ることが困難になる。
【0050】
これらの推測に基づいて、木削薄片板の表面平滑性は、原料として用いる木削薄片の厚さと樹種密度およびボード密度と大きな相関性を有するものと考えた。ここで、比較的薄い木削薄片同士を重ねることにより、重なり合った部分による凹凸が小さくなる(表面平滑性が良好になる)ことは一般に知られ、または容易に想到し得ることであるので、本発明者らは、樹種密度およびボード密度が表面粗さに与える影響ないし相関性について検討した。
【0051】
まず、木削薄片の樹種密度が表面粗さに与える影響を確認するために、次の試験を行った。すなわち、木削薄片として、クヌギ、ケヤキ、マテバシイ、テーダマツ、ヒノキ、スギの6種類の樹種の木削薄片を各々単独で用いて、実施例1と同様にして、樹種の異なる6種類の木削薄片板試験体を作成した。上記したように、表面粗さはボード密度にも関連すると推測されたので、ボード密度が略一定(約0.7g/cm
3)になるように各試験体を作成した。そして、各試験体について、前記と同様にして、表面粗さを測定した結果、および、各試験体の表面に0.2mm厚さの突板を積層接着した床材の表面状態を目視評価した結果を表2に示した。また、樹種密度と表面粗さ最大高さとの相関関係をグラフにして
図7に示した。
【0052】
【0053】
表2および
図7に示す結果から、木削薄片として用いる樹種の密度と、これを用いて作成される木削薄片板の表面粗さを示す最大高さとの間には一定の相関性が認められ、樹種密度が小さいほど表面粗さを示す最大高さが小さくなり(表面平滑性が良好になり)、反対に、樹種密度が大きいほど表面粗さを示す最大高さが大きくなる(表面平滑性が低下する)傾向が見られた。
【0054】
より具体的には、密度が0.6g/cm3超である樹種(クヌギ,ケヤキ,マテバシイ)の木削薄片から作成した木削薄片板は、表面粗さを示す最大高さが200μmを超えてしまい、合板と同様に表面平滑性が劣るものであったため、その表面に突板を積層接着して得た床材の表面状態も不良(x)またはやや不良(△)であった。
【0055】
これに対して、密度が0.6g/cm3以下である樹種(テーダマツ,ヒノキ,スギ)の木削薄片から作成した木削薄片板は、表面粗さを示す最大高さが200μm以下であって、合板より良好な表面平滑性を有するものであり、その表面に突板を積層接着して得た床材の表面状態も良好(〇)であった。さらに、密度が0.45g/cm3以下である樹種(ヒノキ,スギ)の木削薄片から作成した木削薄片板は、表面粗さを示す最大高さが100μm以下であり、きわめて良好な表面平滑性を有するものであった。
【0056】
次に、ボード密度が表面粗さに与える影響を確認するために、次の試験を行った。上記により、表面粗さが木削薄片の樹種密度に関連することが確認されたので、この試験では、樹種密度が小さく、したがって柔らかく圧縮されやすい性質を有するスギの木削薄片を使用し、マットに対する熱圧条件を変えて各種のボード密度を有するようにしたこと以外は実施例1と同様にして、ボード密度が異なる9種類の試験体を作成した。そして、各試験体について、前記と同様にして、表面粗さを測定した結果、および、各試験体の表面に0.2mm厚さの突板を積層接着した床材の表面状態を目視評価した結果を表3に示した。また、ボード密度と表面粗さ最大高さとの相関関係をグラフにして
図8に示した。
【0057】
【0058】
表3および
図8に示す結果から、木削薄片板のボード密度と表面粗さを示す最大高さとの間には一定の相関性が認められ、ボード密度が大きいほど表面粗さを示す最大高さが小さくなり(表面平滑性が良好になり)、反対に、ボード密度が小さいほど表面粗さを示す最大高さが大きくなる(表面平滑性が低下する)傾向が見られた。
【0059】
より具体的には、ボード密度が0.5g/cm3より小さい試験体(スギ8,9)は、表面粗さを示す最大高さが200μmを超えてしまい、合板と同様に表面平滑性が劣るものであったため、その表面に突板を積層接着して得た床材の表面状態も不良(x)であった。
【0060】
これに対して、ボード密度が0.5g/cm3以下である試験体(スギ1~7)は、表面粗さを示す最大高さが200μm以下であって、合板より良好な表面平滑性を有するものであり、その表面に突板を積層接着して得た床材の表面状態も良好(〇)であった。なお、この試験では、試験体のボード密度の上限を0.86g/cm3(スギ1)としたが、ボード密度が0.9g/cm3を超えるようになると、重量増により取扱性が悪くなり、床材としたときの歩行感にも悪影響を与えるので、ボード密度は0.9g/cm3を上限とすることが好ましい。
【0061】
以上に本発明について試験例を挙げて詳述したが、本発明は特許請求の範囲の記載によって定められる発明の範囲内において多種多様に変形ないし変更して実施可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 木削薄片板(基材)
2 木削薄片
2a 木質部
2b 空隙部
2c 樹種密度が小さい木削薄片
2d 樹種密度が大きい木削薄片
3 突板(化粧材)
4 床材(化粧板)
5 木削薄片同士が重なった部分に形成される木削薄片板表面の段差