(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143007
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】硬化性組成物及び光造形用樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 285/00 20060101AFI20241003BHJP
C08L 51/04 20060101ALI20241003BHJP
C08K 5/00 20060101ALI20241003BHJP
C08F 279/02 20060101ALI20241003BHJP
B29C 64/314 20170101ALI20241003BHJP
B29C 64/124 20170101ALI20241003BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20241003BHJP
【FI】
C08F285/00
C08L51/04
C08K5/00
C08F279/02
B29C64/314
B29C64/124
B33Y70/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055457
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 泰成
【テーマコード(参考)】
4F213
4J002
4J026
【Fターム(参考)】
4F213AA21
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4J026GA07
(57)【要約】
【課題】ビニルモノマー中にゴム重合体粒子を多く含みつつも、低粘度な硬化性組成物を提供すること。
【解決手段】ビニルモノマー(A)と、ラジカル重合性二重結合を2以上有するモノマーを用いて形成される中間層で弾性コア層を被覆し、更にシェル層で前記中間層を被覆したゴム重合体粒子(B)と、を含有し、前記ビニルモノマー(A)100質量部に対する前記ゴム重合体粒子(B)の含有量が30質量部~100質量部であり、かつ、前記ゴム重合体粒子(B)において、前記弾性コア層100質量%に対する前記中間層の含有量が3.0質量%~15.0質量%である硬化性組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルモノマー(A)と、
ラジカル重合性二重結合を2以上有するモノマーを用いて形成される中間層で弾性コア層を被覆し、更にシェル層で前記中間層を被覆したゴム重合体粒子(B)と、
を含有し、
前記ビニルモノマー(A)100質量部に対する前記ゴム重合体粒子(B)の含有量が30質量部~100質量部であり、かつ、
前記ゴム重合体粒子(B)において、前記弾性コア層100質量部に対する前記中間層の含有量が3.0質量部~15.0質量部であることを特徴とする硬化性組成物。
【請求項2】
前記ビニルモノマー(A)のフェダーズ(Fedors)法により求めた溶解度パラメーター(SP)値が7.0(J/cm3)1/2以上11.0(J/cm3)1/2以下である、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
前記ビニルモノマー(A)のフェダーズ(Fedors)法により求めた溶解度パラメーター(SP)値が7.5(J/cm3)1/2以上10.3(J/cm3)1/2以下である、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
前記ビニルモノマー(A)の飽和水分量が、25℃で、0%以上3%以下である、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
前記ラジカル重合性二重結合を2以上有するモノマーが、(メタ)アクリレート系多官能性モノマー、イソシアヌル酸誘導体、芳香族ビニル系多官能性モノマー、及び芳香族多価カルボン酸エステルから選択される少なくとも1種の多官能性モノマーを30質量%~100質量%含有する、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
前記ラジカル重合性二重結合を2以上有するモノマーが、少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有する、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項7】
前記ラジカル重合性二重結合を2以上有するモノマーの分子量(m)に対する、前記ラジカル重合性二重結合を2以上有するモノマーの1分子当たりの官能基数(n)の比[n/m]が0.01以上である、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項8】
前記ビニルモノマー(A)中に前記ゴム重合体粒子(B)が一次粒子で分散してなる、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項9】
更に、重合禁止剤(C)を50ppm~5,000ppm含有する、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項10】
請求項1に記載の硬化性組成物を含有することを特徴とする光造形用樹脂組成物。
【請求項11】
三次元光造物の形成に用いられる、請求項10に記載の光造形用樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物及び光造形用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、N-置換アクリルアミドはインクジェット用インク、コーティング材料、光造形品形成用材料、塗料用樹脂、半導体封止材料、粘着剤などの原料モノマーとして広く使用されるようになった。しかし、汎用のN-置換アクリルアミドは水に可溶の親水性モノマーが多く、その含有量や硬化物の用途によっては、耐水性が不十分となる指摘があった(特許文献1参照)。
【0003】
そこで、硬化物の耐水性を向上させるため、溶解度パラメーター(SP)値が12以下と定義される疎水性の(メタ)アクリレート系モノマー等のビニルモノマーを含有する立体造形物用組成物が提案されている(特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、このような(メタ)アクリレート系モノマー等のビニルモノマーは、硬化の過程で3次元構造を形成しながら重合するので、硬度に優れた硬化物となることが知られている一方、十分な硬さを持たせようとすると、最終硬化物は脆く、靭性は低下する傾向がある。
【0005】
また、ゴム重合体粒子と有機溶媒の混合物を、更にアクリル系モノマーと混合及び脱揮することにより、ゴム重合体粒子がアクリル系モノマーに1次粒子の状態で分散したマスターバッチを作製し、硬化物の物性を改善する技術が提案されている(特許文献3参照)。
【0006】
しかしながら、この提案では、アクリル系モノマー中においてゴム重合体微粒子が膨潤することから、硬化性組成物の粘性が著しく増加して取扱い性を損なうという問題がある。そのため、硬化性組成物の粘性を低く抑えるためには、ゴム重合体粒子の含有量を抑制せざるを得ず、硬化物に付与したいゴム重合体粒子の物性が、該硬化物において十分に得ることができないという問題があった。更にこのような問題は、フェダーズ(Fedors)法により求めた溶解度パラメーター(SP)値が10.3(J/cm3)1/2以下のビニルモノマーにおいて、より顕著であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013-256552号公報
【特許文献2】特開2019-137812号公報
【特許文献3】特開2011-213952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、ビニルモノマー中にゴム重合体粒子を多く含みつつも、低粘度な硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、本発明の硬化性組成物は、ビニルモノマー(A)と、ラジカル重合性二重結合を2以上有するモノマーを用いて形成される中間層で弾性コア層を被覆し、更にシェル層で前記中間層を被覆したゴム重合体粒子(B)と、を含有し、前記ビニルモノマー(A)100質量部に対する前記ゴム重合体粒子(B)の含有量が30質量部~100質量部であり、かつ、前記ゴム重合体粒子(B)において、前記弾性コア層100質量部に対する前記中間層の含有量が3.0質量部~15.0質量部であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、ビニルモノマー中にゴム重合体粒子を多く含みつつも、低粘度な硬化性組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(硬化性組成物)
本発明の硬化性組成物は、ビニルモノマー(A)と、ゴム重合体粒子(B)とを含有し、必要に応じて、更にその他の成分を含有する。
本発明の硬化性組成物は、前記ビニルモノマー(A)100質量部に対する前記ゴム重合体粒子(B)の含有量が30質量部~100質量部であり、かつ、前記ゴム重合体粒子(B)において、前記弾性コア層100質量部に対する前記中間層の含有量が3.0質量部~15.0質量部である。
【0012】
本発明の硬化性組成物は、ビニルモノマー(A)の他に、ゴム重合体粒子(B)を含んで構成される。これにより、この硬化性組成物を硬化して得られる本発明の硬化物にゴム重合体粒子(B)由来の特性(例えば、靭性や耐衝撃性など)を付与することができる。
【0013】
本発明の硬化性組成物は、該硬化性組成物に含有されるゴム重合体粒子(B)が中間層を有するため、該中間層により被覆される弾性コア層の架橋密度が上がる。これにより、前記ゴム重合体粒子(B)が前記ビニルモノマー(A)に対して膨潤し難く、前記硬化性組成物の粘性を低く抑えることができるという利点を有する。その結果、作業性よく、前記硬化性組成物の硬化物を得ることができる。また、前記硬化性組成物の硬化時の作業性の低下(即ち、硬化性組成物の粘性の上昇)を防ぎつつ、前記硬化性組成物中の前記ゴム重合体粒子(B)の含有量を増加させることもできるため、前記硬化性組成物の硬化物の特性がより一層改質し易い。更に、前記ゴム重合体粒子(B)は、前記ビニルモノマー(A)に対して膨潤し難く、前記硬化性組成物の粘性の上昇を低く抑えることができることから、高粘度の樹脂構成成分とも混合して用いることができる。また、膨潤し難い特性を有する前記ゴム重合体粒子(B)は、疎水性のビニルモノマーと混合しても粘性の上昇が抑えられるため、耐水性に優れた硬化物を得ることができる。
【0014】
物質間の親和性の尺度を表すものとして、溶解度パラメーター(SolubilityParameters,SP値)があり、一般にこの値が近い物質同士は親和性が良好であるとされる。従来のゴム重合体粒子の弾性コア層に用いられるジエン系ゴム、ポリシロキサンゴムなどの成分のSP値としては、通常、7.0(J/cm3)1/2~9.0(J/cm3)1/2程度である。従来、硬化性組成物の樹脂成分として、エポキシ樹脂もよく使用されているが、汎用的に使用されるエポキシ樹脂の多くはSP値が10.4(J/cm3)1/2~15.0(J/cm3)1/2程度と、ゴム重合体粒子の弾性コア層に用いられる成分のSP値と大きく離れているため、両者間の親和性は低く、ゴム重合体粒子の膨潤は生じ難い。一方、通常、光造形品形成用材料として使用されるビニルモノマーにはSP値が7.0(J/cm3)1/2~10.3(J/cm3)1/2程度のものも多く使用されており、汎用的に使用されるエポキシ樹脂と比較してSP値は低く、前記ゴム重合体粒子の弾性コア層に用いられる成分との親和性が高いため、膨潤しやすい。本発明者は、鋭意検討を行い、このような膨潤しやすい物性を有するビニルモノマー(A)に対して、前記ゴム重合体粒子(B)に中間層を設け、前記ビニルモノマー(A)100質量部に対する前記ゴム重合体粒子(B)の含有量が30質量部~100質量部であり、かつ、前記ゴム重合体粒子(B)において、前記弾性コア層100質量部に対する前記中間層の含有量が3.0質量部~15.0質量部とすることで、前記ゴム重合体粒子(B)の膨潤を抑制した低粘度の硬化性組成物及び耐水性に優れた硬化物を得ることができることを知見した。なお、本明細書におけるSP値はFedorsらが提案した方法によって求められる。具体的には、POLYMER ENGINEERING AND SCIENCE, FEBRUARY,1974, Vol.14, No.2, ROBERT F.FEDORS.(147項~154項)を参照して求めることができる。
【0015】
なお、本明細書において「硬化性組成物」とは、活性エネルギー線の照射、加熱、化学反応などにより硬化して硬化物を形成する組成物であり、例えば、活性エネルギー線硬化型組成物、熱硬化型組成物、混合硬化型組成物などが挙げられる。
【0016】
<ビニルモノマー(A)>
前記ビニルモノマー(A)としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、ラジカル重合可能なビニルモノマーであることが好ましく、例えば、炭素-炭素不飽和二重結合を有するビニルモノマーなどが挙げられる。これらの中でも、前記ビニルモノマー(A)としては、飽和水分量が、25℃で、0%以上3%以下である、(メタ)アクリレートモノマーであることが、硬化物に耐水性を付与できる点からより好ましい。
【0017】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートの少なくともいずれかを意味する。
【0018】
前記飽和水分量が、25℃で、0%以上3%以下である(メタ)アクリレートモノマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができ、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ターシャリーブチル(メタ)アクリレート、ターシャリーブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソドデシル(メタ)アクリレート、トリシクロデシル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
前記ビニルモノマー(A)の飽和水分量は、例えば、カールフィッシャー水分計により求めることができる。
【0020】
前記ビニルモノマー(A)は、上述のビニルモノマーのオリゴマー、又はプレポリマーを、前記硬化性組成物の粘度や、前記ビニルモノマー(A)成分中での前記ゴム重合体粒子(B)の分散性を阻害しない範囲で含んでいても構わない。
【0021】
前記ビニルモノマー(A)のフェダーズ(Fedors)法により求めた溶解度パラメーター(SP)値としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、7.0(J/cm3)1/2以上11.0(J/cm3)1/2以下が好ましく、7.5(J/cm3)1/2以上10.3(J/cm3)1/2以下がより好ましい。前記ビニルモノマー(A)のSP値が7.0(J/cm3)1/2未満であると、前記ゴム重合体粒子(B)が凝集する原因となり、硬化物にゴム重合体粒子(B)由来の特性の付与が困難となる場合がある。また、前記ビニルモノマー(A)のSP値が11.0(J/cm3)1/2よりも大きいと、硬化物の親水性が高まり、硬化物の耐水性が低下することがある。
【0022】
前記硬化性組成物における前記ビニルモノマー(A)の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、前記硬化性組成物の全質量に対して、50質量%~80質量%が好ましく、55質量%~75質量%がより好ましい。前記硬化性組成物における前記ビニルモノマー(A)の含有量が80質量%以上であると、前記硬化性組成物を用いて得られる硬化物中のゴム重合体粒子(B)の含有量が少なくなり、目的とする強靭化効果や耐衝撃性改良効果が十分に得られなくなる場合がある。また、前記硬化性組成物における前記ビニルモノマー(A)の含有量が50質量%以下であると、ゴム重合体粒子(B)の十分な分散性が得られない場合がある。
【0023】
<ゴム重合体粒子(B)>
前記ゴム重合体粒子(B)は、ラジカル重合性二重結合を2以上有するモノマーを用いて形成される中間層で弾性コア層を被覆し、更にシェル層で前記中間層を被覆したゴム重合体粒子である。前記ゴム重合体粒子(B)は、前記ラジカル重合性二重結合を2以上有するモノマーを用いて形成される中間層を有するため、前記弾性コア層の架橋密度を上げたり、前記シェル層のグラフト効率を向上させたりすることができる。以下、各層について具体的に説明する。
【0024】
<<弾性コア層>>
前記弾性コア層は、ラジカル重合性二重結合を2以上有するモノマーを用いて形成される中間層で被覆されてなる。したがって、前記弾性コア層は、前記ゴム重合体粒子(B)の最下層(最内部)に存在する。
【0025】
本明細書において「弾性」とは、応力を加えるとひずみが生じるが、除荷すれば元の寸法に戻る性質を意味する。前記弾性コア層の弾性により、前記ゴム重合体粒子(B)は、ゴムのような性質を有する。そのため、前記ゴム重合体粒子(B)の前記弾性コア層は、ゴムとしての性質を有するゴム状重合体からなることが好ましい。これにより、前記硬化性組成物の硬化物に靭性や耐衝撃性を付与することができる。
【0026】
前記ゴム重合体粒子(B)の弾性コア層のガラス転移温度(Tg)としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、0℃未満が好ましく、-20℃以下がより好ましく、-45℃以下が更に好ましい。前記ゴム状重合体のガラス転移温度(Tg)が0℃未満であると、前記硬化性組成物の硬化物に靭性を付与する効果が高まる。
【0027】
前記ゴム重合体粒子(B)の弾性コア層のガラス転移温度(Tg)は、動的粘弾性測定装置(例えば、DVA-200(アイティー計測制御株式会社製)にて、周波数1Hz、歪0.05%、昇温速度4℃/分間で動的粘弾性を測定することで求められる。
【0028】
前記弾性コア層を構成するゴム状重合体としては、例えば、天然ゴム、ポリシロキサンゴム、主となるモノマー(以下、「第1モノマー」と称することがある)として共役ジエン系モノマーを重合することにより得られるジエン系ゴム、第1モノマーとして(メタ)アクリレート系モノマーを重合することにより得られる(メタ)アクリルゴムなどが挙げられる。また、これらの第1モノマーと、芳香族ビニルモノマー、ビニルシアン系モノマー等のビニル系モノマー(以下、「第2モノマー」と称することがある)を重合することにより得られる重合体であってもよい。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、コストの観点から、ジエン系ゴム、(メタ)アクリルゴムが好ましい。
【0029】
-ポリシロキサンゴム-
前記ポリシロキサンゴムとしては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができ、例えば、ジメチルシリルオキシ単位、ジエチルシリルオキシ単位、メチルフェニルシリルオキシ単位、ジフェニルシリルオキシ単位、ジメチルシリルオキシ-ジフェニルシリルオキシ単位などの、アルキル或いはアリール2置換シリルオキシ単位から構成されるポリシロキサン系ポリマーや、側鎖のアルキルの一部が水素原子に置換されたオルガノハイドロジェンシリルオキシ単位などの、アルキル或いはアリール1置換シリルオキシ単位から構成されるポリシロキサン系ポリマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ジメチルシリルオキシ単位、メチルフェニルシリルオキシ単位、ジメチルシリルオキシ-ジフェニルシリルオキシ単位から構成されるポリマーが、前記硬化性組成物の硬化物に耐熱性を付与することができる点で好ましく、ジメチルシリルオキシ単位から構成されるポリマーが容易に入手できて経済的でもあることからより好ましい。
【0030】
-共役ジエン系モノマー-
前記共役ジエン系モノマー(第1モノマー)としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができ、例えば、1,3-ブタジエン、2-クロロ-1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン等のブタジエン、イソプレンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、1,3-ブタジエンが安価に入手でき、得られる重合体のゴムとしての性質が良好であり、重合が容易である点から好ましい。
【0031】
-(メタ)アクリレート系モノマー-
前記(メタ)アクリレート系モノマー(第1モノマー)としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができ、例えば、アルキル(メタ)アクリレート、芳香環含有(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、アリルアルキル(メタ)アクリレート、多官能性(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
前記アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0033】
前記芳香環含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0034】
前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0035】
前記グリシジル(メタ)アクリレートとしては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0036】
前記アルコキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-メトキシメチル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシメチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、3-メトキシプロピル(メタ)アクリレート、3-エトキシプロピル(メタ)アクリレート、4-メトキシブチル(メタ)アクリレート、4-エトキシブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0037】
前記アリルアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、アリル(メタ)アクリレート、アリルアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0038】
前記多官能性(メタ)アクリレートとしては、例えば、モノエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0039】
これらの中でも、前記(メタ)アクリレート系モノマーとしては、前記アルキル(メタ)アクリレートが好ましく、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0040】
-ビニル系モノマー-
前記第1モノマーと共重合可能な前記ビニル系モノマー(第2モノマー)としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができ、例えば、ビニルアレーン、ビニルカルボン酸、ビニルシアン、ハロゲン化ビニル、アルケン、多官能性モノマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
前記ビニルアレーンとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレンなどが挙げられる。前記ビニルカルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸などが挙げられる。前記ビニルシアンとしては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。前記ハロゲン化ビニルとしては、例えば、塩化ビニル、臭化ビニル、クロロプレンなどが挙げられる。前記アルケンとしては、例えば、酢酸ビニル;エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレンなどが挙げられる。これらの中でも、前記ビニル系モノマーとしては、前記ビニルアレーンが好ましく、スチレンがより好ましい。
【0042】
前記弾性コア層がゴムとしての性質を好適に有するために、該弾性コア層を構成するゴム状重合体は、架橋構造を有する架橋ゴム重合体であることが好ましい。前記架橋ゴム重合体は、前記ビニルモノマー(A)に溶解しない。また、前記架橋ゴム重合体は、前記ビニルモノマー(A)の良溶剤とされる溶媒に対して膨潤することはあるが、溶解はしない。
【0043】
[弾性コア層の架橋構造]
前記ゴム状重合体に架橋構造を導入する方法としては、特に制限はなく、一般的に用いられる手法の中から適宜選択して採用することができ、例えば、前記モノマーを重合してなるポリマー成分に、後述する多官能性モノマー等の架橋性モノマーを添加し、次いで重合する方法などが挙げられる。
【0044】
前記弾性コア層のゲル含量としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、該弾性コア層がゴムとしての性質を有するために、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく、95質量%以上であることが特に好ましい。
【0045】
なお、本明細書において、「ゲル含量」とは、前記弾性コア層を凝固又は乾燥することにより得られたコアシェル構造を有するゴム重合体粒子(B)0.5gをトルエン100gに浸漬し、23℃で24時間静置した後に不溶分と可溶分を分別したときの、トルエン不溶分とトルエン可溶分との合計量に対するトルエン不溶分の比率を意味する。
【0046】
-多官能性モノマー-
前記多官能性モノマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができ、例えば、アリルアルキル(メタ)アクリレート、多官能性(メタ)アクリレート、芳香族多価カルボン酸エステル、シアヌル酸誘導体、芳香族ビニル系の多官能性モノマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
前記アリルアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、アリル(メタ)アクリレート、アリルアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。前記多官能性(メタ)アクリレートとしては、例えば、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。前記芳香族多価カルボン酸エステルとしては、例えば、ジアリルフタレートなどが挙げられる。前記シアヌル酸誘導体としては、例えば、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどが挙げられる。前記芳香族ビニル系の多官能性モノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。これらの中でも、前記多官能性モノマーとしては、アリル(メタ)アクリレート、トリアリルイソシアヌレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼンが好ましい。
なお、本明細書において、前記ゴム状重合体に架橋構造を導入するための前記多官能性モノマーには、前記共役ジエン系モノマー(第1モノマー)としてのブタジエン、イソプレンなどは含まれない。
【0048】
前記弾性コア層の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、球形であることが好ましい。
【0049】
前記弾性コア層の形状が球形である場合、該弾性コア層の体積平均粒子径(Mv)としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、0.03μm~0.60μmが好ましく、0.05μm~0.50μmがより好ましく、0.10μm~0.30μmが更に好ましい。前記弾性コア層の体積平均粒子径が0.03μm未満のものを安定的に得ることは難しい場合が多い。また、前記弾性コア層の体積平均粒子径が0.60μm以下であると、前記硬化性組成物の硬化物の耐熱性や耐衝撃性が良好である。
【0050】
前記弾性コア層の体積平均粒子径は、粒子径分布測定装置(例えば、マイクロトラック UPA 150、日機装株式会社製)を用いて測定することができる。また、前記弾性コア層は、好ましくは前記ビニルモノマー(A)に不溶であるため、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて前記硬化性組成物を観察することによっても、前記ゴム重合体粒子(B)中に前記弾性コア層の粒子径を確認することができる。
【0051】
前記弾性コア層は、単層構造であってもよく、多層構造であってもよい。前記弾性コア層が多層構造である場合は、該弾性コア層における各層のポリマー組成は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0052】
前記ゴム重合体粒子(B)における前記弾性コア層の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、前記硬化性組成物の硬化物の特性(例えば、靭性など)を向上する点から、前記コア層の含有量と前記シェル層の含有量との合計含有量100質量部に対して、40質量部以上が好ましく、60質量部以上がより好ましい。また、前記ゴム重合体粒子(B)における前記弾性コア層の含有量の上限値としても、特に制限はないが、前記硬化性組成物中での前記ゴム重合体粒子(B)の分散状態を良好にする点から、前記コア層の含有量と前記シェル層の含有量との合計含有量100質量部に対して、95質量部以下が好ましく、88質量部以下がより好ましい。
【0053】
<<中間層>>
前記中間層は、前記弾性コア層と前記シェル層の間に存在する層であり、前記ラジカル重合性二重結合を2以上有するモノマー(以下、「中間層形成用モノマー」と称することがある)を用いて形成されてなる。
【0054】
前記中間層形成用モノマーは、同一分子内にラジカル重合性二重結合を2以上有するモノマーであることが好ましい。
【0055】
前記ラジカル重合性二重結合を2以上有するモノマーを用いて形成される中間層で弾性コア層を被覆することで、前記中間層形成用モノマーの一方のラジカル重合性二重結合を介して、前記中間層形成用モノマーが前記弾性コア層を形成するポリマーにグラフト重合して、実質的に前記中間層と前記シェル層とを化学結合させると共に、前記中間層形成用モノマーの他方のラジカル重合性二重結合を介して、前記弾性コア層表面を架橋する。また、前記弾性コア層に多くのラジカル重合性二重結合が配されることとなるため、前記シェル層のグラフト効率が高められる。その結果、前記シェル層と前記弾性コア層とを、前記中間層を介してより一層強固に結合させることができる。
【0056】
そのため、前記ゴム重合体粒子(B)は、前記中間層を有することで、前記弾性コア層の架橋密度が上がるため、前記ゴム重合体粒子(B)を前記ビニルモノマー(A)と混合しても膨潤し難くなる。その結果、硬化性組成物の粘性の上昇を防ぐことができる。
【0057】
前記中間層形成用モノマーとしては、ラジカル重合性二重結合を2以上有するモノマーであれば、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができ、例えば、(メタ)アクリレート系多官能性モノマー、ジエン、芳香族ビニル系多官能性モノマー、芳香族多価カルボン酸エステル、三級アミン、イソシアヌル酸誘導体、シアヌル酸誘導体、ビフェニル誘導体などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
前記(メタ)アクリレート系多官能性モノマーとしては、例えば、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。前記ジエンとしては、例えば、ブタジエン、イソプレンなどが挙げられる。前記芳香族ビニル系の多官能性モノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルアントラセンなどが挙げられる。前記芳香族多価カルボン酸エステルとしては、例えば、トリアリルベンゼントリカルボキシレート、ジアリルフタレートなどが挙げられる。前記三級アミンとしては、例えば、トリアリルアミンなどが挙げられる。前記イソシアヌル酸誘導体としては、例えば、ジアリルイソシアヌレート、ジアリル-n-プロピルイソシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレート、トリス((メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレートなどが挙げられる。前記シアヌル酸誘導体としては、例えば、トリアリルシアヌレートなどが挙げられる。前記ビフェニル誘導体としては、例えば、トリ(メタ)アクリロイルヘキサハイドロトリアジン;2,2'-ジビニルビフェニル、2,4'-ジビニルビフェニル、3,3'-ジビニルビフェニル、4,4'-ジビニルビフェニル、2,4'-ジ(2-プロペニル)ビフェニル、4,4'-ジ(2-プロペニル)ビフェニル、2,2'-ジビニル-4-エチル-4'-プロピルビフェニル、3,5,4'-トリビニルビフェニルなどが挙げられる。これらの中でも、前記(メタ)アクリレート系多官能性モノマーとしては、前記弾性コア層の架橋密度を上げたり、前記シェル層のグラフト効率を高めたりする点から、(メタ)アクリレート系多官能性モノマー、イソシアヌル酸誘導体、芳香族ビニル系多官能性モノマー、及び芳香族多価カルボン酸エステルから選択される少なくとも1種の多官能性モノマーが好ましく、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリアリルイソシアヌレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼンがより好ましく、前記ビニルモノマー(A)に対する前記ゴム重合体粒子(B)膨潤を抑制する点から、少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有すること更に好ましく、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジメタクリレートが更に好ましい。
【0059】
前記中間層形成用モノマーが、(メタ)アクリレート系多官能性モノマー、イソシアヌル酸誘導体、芳香族ビニル系多官能性モノマー、及び芳香族多価カルボン酸エステルから選択される少なくとも1種の多官能性モノマーである場合、前記中間層形成用モノマーの全質量に対する、(メタ)アクリレート系多官能性モノマー、イソシアヌル酸誘導体、芳香族ビニル系多官能性モノマー、及び芳香族多価カルボン酸エステルから選択される少なくとも1種の多官能性モノマーの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、30質量%~100質量%であることが好ましく、50質量%~100質量%であることがより好ましい。(メタ)アクリレート系多官能性モノマー、イソシアヌル酸誘導体、芳香族ビニル系多官能性モノマー、及び芳香族多価カルボン酸エステルから選択される少なくとも1種の多官能性モノマーの含有量が30質量%未満であると、前記ビニルモノマー(A)と混合した際、前記ゴム重合体粒子(B)の膨潤が十分に抑制できず、硬化性組成物の粘性が上昇してしまうことがある。
【0060】
前記ラジカル重合性二重結合を2以上有するモノマーの分子量(m)に対する、前記ラジカル重合性二重結合を2以上有するモノマーの1分子あたりの官能基数(n)の比[n/m]としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、0.01以上0.1以下であることが好ましく、0.015以上0.09以下であることがより好ましい。前記比[n/m]が0.01以上であることで、重合により形成される網目構造を高密度化することができ、前記ビニルモノマー(A)に対する前記ゴム重合体粒子(B)の膨潤の抑制効果が向上する。また、前記比[n/m]が0.1より大きいと弾性コア層の架橋密度が過度に高くなるため、前記ゴム重合体粒子(B)の弾性体としての能力が低下し、前記ゴム重合体粒子(B)に由来する強靭性化や耐衝撃性改良効果を十分に示さないことがある。なお、本明細書において単に「分子量」と記載した場合、原子量基準で計算した値を指す。
【0061】
前記ゴム重合体粒子(B)において、前記弾性コア層100質量部に対する前記中間層の含有量は、3.0質量部~15.0質量部であり、3.5質量部~13質量部が好ましく、4.0質量部~8.0質量部がより好ましい。前記ゴム重合体粒子(B)において、前記弾性コア層100質量部に対する前記中間層の含有量が3.0質量部未満であると、前記弾性コア層の表面にラジカル重合性二重結合が十分に配されず、前記ビニルモノマー(A)に対する前記ゴム重合体粒子(B)の膨潤を抑制できず、前記硬化性組成物の粘度が高くなる。また、前記ゴム重合体粒子(B)において、前記弾性コア層100質量部に対する前記中間層の含有量が15.0質量部を超えると、前記弾性コア層の架橋密度が高くなることで、前記ゴム重合体粒子(B)の弾性体としての能力が低下し、前記ゴム重合体粒子(B)に由来する強靭性化や耐衝撃性改良効果を前記硬化性組成物の硬化物に十分に付与することができない。
なお、本明細書において、前記中間層を構成する前記中間層形成用モノマーの総質量を、前記中間層の質量(含有量)として取り扱う。
【0062】
<<シェル層>>
前記シェル層は、前記ゴム重合体粒子(B)と前記ビニルモノマー(A)との相溶性を向上させ、前記硬化性組成物又はその硬化物中において前記ゴム重合体粒子(B)が好適に分散することを可能にする役割を担うシェル重合体からなる。
【0063】
シェル層の形成に用いるモノマー(以下、「シェル層形成用モノマー」と称する場合がある。)が、前記中間層を形成するポリマーに重合、好ましくはグラフト重合して、実質的にシェル層と中間層とが化学結合して中間層を被覆するものである。したがって、前記シェル層は、前記ゴム重合体粒子(B)の最表面に存在する。
【0064】
即ち、好ましくは、前記シェル重合体は、前記中間層で被覆された前記弾性コア層の存在下で、前記シェル重合体の構成成分であるモノマーをグラフト重合させることで形成され、このようにすることで、前記シェル重合体が、前記中間層で被覆された前記弾性コア層にグラフト重合される。
【0065】
前記中間層で被覆された前記弾性コア層は、前記シェル層によって、全部が被覆されていてもよく、一部が被覆されていてもよい。前記シェル層による、前記中間層で被覆された前記弾性コア層の被覆は、以下のグラフト率により確認することができる。
【0066】
前記ゴム重合体粒子(B)における前記シェル層のグラフト率としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましい。前記シェル層のグラフト率が70%以上であると、前記硬化性組成物の粘度が低下しやすい。
【0067】
本明細書において、前記ゴム重合体粒子(B)における前記シェル層のグラフト率は、以下のようにして算出する。
前記ゴム重合体粒子(B)を含有する水性ラテックスを凝固及び脱水し、最後に乾燥してゴム重合体粒子(B)のパウダーを得る。次いで、ゴム重合体粒子(B)のパウダー2gをメチルエチルケトン(MEK)100gに23℃で24時間浸漬した後に、MEK可溶分をMEK不溶分と分離し、更にMEK可溶分からメタノール不溶分を分離する。そして、MEK不溶分とメタノール不溶分との合計量に対するMEK不溶分の比率を求めることによって算出する。
【0068】
前記シェル層形成用モノマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、該シェル層形成用モノマーが重合した前記シェル重合体が、前記ビニルモノマー(A)との相溶性を有するものであることが好ましい。
【0069】
このような前記シェル層形成用モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0070】
前記(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレートや、2-アミノエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。前記アルコキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、4-メトキシブチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。前記グリシジル(メタ)アクリレートとしては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの中でも、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレートが、前記ビニルモノマー(A)中で一次粒子分散するために、ビニルモノマー(A)に対するシェルポリマーとの相溶性の観点で好ましい。
【0071】
また、前記シェル層形成用モノマーとしては、上記モノマー以外のその他モノマーを併用してもよい。前記その他のモノマーとしては、例えば、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、スチレン、α-メチルスチレン、(メタ)アクリロニトリル、多官能性ビニルモノマー、ビニルモノマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0072】
前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチルなどが挙げられる。前記アルキル(メタ)アクリレートとしては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、炭素数2~10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、例えば、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸第三ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどが挙げられる。前記多官能性ビニルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アリル、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、フタル酸ジアリル、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン(トリ)アクリレート、トリアリルイソシアヌレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレートなどが挙げられる。前記ビニルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド系モノマー;アリルエステル系モノマーとしては、フタル酸ジアリル等のアリルエステル系モノマー;N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム等のN-ビニルアミド系モノマーなどが挙げられる。
【0073】
また、前記ゴム重合体粒子(B)における前記シェル層の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、前記コア層の含有量と前記シェル層の含有量との合計含有量100質量部に対して、10質量部以上が好ましく、15質量部以上がより好ましい。また、前記ゴム重合体粒子(B)における前記シェル層の含有量の上限値としても、特に制限はないが、前記コア層の含有量と前記シェル層の含有量との合計含有量100質量部に対して、40質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましい。前記コア層の含有量と前記シェル層の含有量との合計含有量100質量部に対する前記シェル層の含有量が、10質量部以上であると、前記ゴム重合体粒子(B)が凝集し難く、ハンドリング性が良好であり、40質量部以下であると、前記ゴム重合体粒子(B)における前記弾性コア層の含有量が低下しすぎず、前期硬化性組成物の硬化物の靱性向上効果が好適に得られる。
【0074】
前記ゴム重合体粒子(B)は、前記ビニルモノマー(A)中に一次粒子で分散してなることが、前記硬化性組成物の硬化物の靭性を向上できる点で好ましい。
【0075】
前記ビニルモノマー(A)中における前記ゴム重合体粒子(B)の体積平均粒子径(Mv)としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、工業的生産性を考慮すると、0.03μm~1.0μmであることが好ましく、0.05μm~0.5μmがより好ましく、0.1μm0~0.40μmが更に好ましい。
【0076】
前記ビニルモノマー(A)中における前記ゴム重合体粒子(B)の体積平均粒子径(Mv)は、粒子径分布測定装置(例えば、マイクロトラック UPA 150、日機装株式会社製)を用いて測定することができる。
【0077】
前記ビニルモノマー(A)100質量部に対する前記ゴム重合体粒子(B)の含有量は、30質量部~100質量部であり、50質量部~70質量部が好ましい。前記ビニルモノマー(A)100質量部に対する前記ゴム重合体粒子(B)の含有量が30質量部未満であると、前記硬化性組成物の硬化物において、耐衝撃性や強靭が十分に得られず、100質量部を超えると、前記ゴム重合体粒子(B)の十分な分散性が得られない。
【0078】
<<ゴム重合体粒子(B)の製造方法>>
前記ゴム重合体粒子(B)の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、以下に製造方法の一実施形態について説明する。前記ゴム重合体粒子(B)の製造方法の一実施形態は、弾性コア層形成工程、中間層形成工程、シェル層形成工程を含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
【0079】
-コア層形成工程-
前記ゴム重合体粒子(B)を構成する前記弾性コア層を形成するポリマーが、ジエン系モノマー(共役ジエン系モノマー)及び(メタ)アクリレート系モノマーから選ばれる少なくとも1種のモノマー(第1モノマー)を重合して形成される場合には、前記弾性コア層の形成方法としては、例えば、乳化重合、懸濁重合、マイクロサスペンジョン重合などによって行うことができる。具体例としては、国際公開第2005/028546号明細書に記載の方法を用いることができる。
【0080】
また、前記弾性コア層を形成するポリマーがポリシロキサン系ポリマーを含んで構成される場合には、弾性コア層の形成は、例えば、乳化重合、懸濁重合、マイクロサスペンジョン重合などによって行うことができる。具体例としては、国際公開第2006/070664号明細書に記載の方法を用いることができる。
【0081】
-中間層の形成工程-
前記中間層は、前記弾性コア層(粒子)の存在下、前記中間層形成用モノマーを公知のラジカル重合により重合することによって形成することができる。前記弾性コア層を構成するゴム弾性体をエマルジョンとして得た場合には、前記中間層形成用モノマーの重合は乳化重合法により行うことが好ましい。
【0082】
前記乳化重合において用いることができる乳化剤(分散剤)としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができ、例えば、ジオクチルスルホコハク酸やドデシルベンゼンスルホン酸等に代表されるアルキル又はアリールスルホン酸;アルキル又はアリールエーテルスルホン酸、ドデシル硫酸に代表されるアルキル又はアリール硫酸;アルキル又はアリールエーテル硫酸、アルキル又はアリール置換燐酸、アルキル又はアリールエーテル置換燐酸、ドデシルザルコシン酸等に代表されるN-アルキル又はアリールザルコシン酸;オレイン酸やステアリン酸等に代表されるアルキル又はアリールカルボン酸;アルキル又はアリールエーテルカルボン酸等の各種の酸類;これら酸類のアルカリ金属塩又はアンモニウム塩等のアニオン性乳化剤(分散剤);アルキル又はアリール置換ポリエチレングリコール等の非イオン性乳化剤(分散剤);ポリビニルアルコール、アルキル置換セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸誘導体等の分散剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0083】
前記ゴム重合体粒子(B)の水性ラテックスの分散安定性に支障を来さない限り、前記乳化剤(分散剤)の使用量は少なくすることが好ましい。また、前記乳化剤(分散剤)は、その水溶性が高いほど好ましい。水溶性が高いと、乳化剤(分散剤)の水洗除去が容易になり、最終的に得られる硬化物への悪影響を容易に防止できる。
【0084】
前記乳化重合法を採用する場合には、公知の開始剤、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどを熱分解型開始剤として用いることができる。
【0085】
また、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、パラメンタンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ヘキシルパーオキサイド等の有機過酸化物;過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物といった過酸化物と、必要に応じてナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、グルコース等の還元剤、及び必要に応じて硫酸鉄(II)等の遷移金属塩、更に必要に応じてエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム等のキレート剤、更に必要に応じてピロリン酸ナトリウム等のリン含有化合物などを併用したレドックス型開始剤を使用することもできる。
【0086】
前記レドックス型開始剤系を用いた場合には、前記過酸化物が実質的に熱分解しない低い温度でも重合を行うことができ、重合温度を広い範囲で設定できるようになり好ましい。これらの中でも、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物をレドックス型開始剤として用いることが好ましい。前記開始剤の使用量や、レドックス型開始剤を用いる場合には前記還元剤や遷移金属塩やキレート剤などの使用量は公知の範囲で用いることができる。また、前記ラジカル重合性二重結合を2以上有するモノマーを重合するに際しては、公知の連鎖移動剤を公知の使用範囲内で用いることができる。また、追加的に、公知の界面活性剤を公知の使用範囲内で用いることができる。
【0087】
重合に際しての重合温度、圧力、脱酸素などの条件は、公知の範囲のものが適用できる。また、前記中間層形成用モノマーの重合は1段で行ってもよく、2段以上で行ってもよい。例えば、前記弾性コア層を構成するゴム弾性体のエマルジョンに前記中間層形成用モノマーを一度に添加する方法や、連続追加する方法の他、予め前記中間層形成用モノマーが仕込まれた反応器に前記弾性コア層を構成するゴム弾性体のエマルジョンを加えてから重合を実施する方法などを採用することができる。
【0088】
-シェル層の形成方法-
前記シェル層は、前記中間層で被覆した前記弾性コア層(粒子)の存在下、前記シェル層形成用モノマーを、公知のラジカル重合により重合することによって形成することができる。前記中間層で被覆した前記弾性コア層(粒子)をエマルジョンとして得た場合には、前記シェル層形成用モノマーの重合は乳化重合法により行うことが好ましい。具体例としては、国際公開第2005/028546号明細書に記載の方法に従って製造することができる。
【0089】
<その他の成分>
前記硬化性組成物における前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができ、例えば、重合禁止剤、重合開始剤、光増感剤、助触媒、硬化促進剤(プロモーター)、連鎖移動剤、還元剤、可塑剤、充填剤、染料、顔料、安定剤、紫外線吸収剤、希釈剤(反応性/非反応性)、有機溶剤などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0090】
<<重合禁止剤(C)>>
前記硬化性組成物は、前記ビニルモノマー(A)の望ましくない自発重合や品質劣化を防止するため、重合禁止剤(C)を含有していてもよい。
【0091】
前記重合性禁止剤(C)としては、特に制限はなく、一般的に重合禁止剤として市販のラジカル重合性モノマーに添加されているものは使用可能である。好気性(Aerobic)、嫌気性(Anaerobic)のどちらの禁止剤も使用可能であり、フェノール系化合物、芳香族アミン系化合物、ニトロキシ系化合物、ニトロソ化合物、キノン系化合物等が例示される。具体的には、ヒドロキノン、MEHQ(ヒドロキノンモノメチルエーテル)、カテコール、t-ブチルカテコール、ジーt-ブチルフェノール、ベンゾキノン、フェノチアジン、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)、OH-TEMPO(4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)、ビタミンC、ビタミンE、フェニレンジアミン、Naugard(Chemtura社製)、スミライザー(住友化学株式会社製)、p-ニトロソフェノール、キノン類(例えば、ベンゾキノン、ナフトキノン等)、フェノール類(例えば、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、t-ブチルヒドロキノン、t-ブチルカテコール等)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0092】
前記硬化性組成物における前記重合性禁止剤(C)の含有量としては、特に制限はなく、使用する重合性禁止剤(C)の種類などに応じて適宜選択することができるが、50ppm~5,000ppmが好ましい。前記重合性禁止剤(C)の含有量が50ppm以上であると、前記ビニルモノマー(A)の望ましくない自発重合や品質劣化を好適に防止することができ、5,000ppm以下であれば、十分にその効果を得ることができる。
【0093】
<<重合開始剤>>
前記重合開始剤としては、特に制限はなく、例えば、ラジカル重合開始剤、光重合開始剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0094】
-ラジカル重合開始剤-
前記ラジカル重合開始剤としては、有機過酸化物、或いは光線や電子線、熱によりフリーラジカルを発生可能な化合物を用いることができる、例えば、過酸化ベンゾイル、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキシド等の有機過酸化物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、クメンハイドロパーオキシド、t-ブチルハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキシドが好ましい。
【0095】
-光重合開始剤-
前記光重合開始剤としては、特に制限はなく、紫外線、電子線、可視光線の照射を受けて、ビニルモノマー(A)をラジカル重合させるものの中から適宜選択することができ、例えば、ベンゾフェノン、4,4-ビス(N,N’-ジメチルアミノ)ベンゾフェノン等のベンゾフェノン類;ベンゾインやベンゾインアルキルエーテル(アルキル=メチル、エチル、イソプロピル)等のベンゾイン類;2,2-ジメトキシアセトフェノン、1,1-ジクロロアセトフェノン等のアセトフェノン類;ベンジルジメチルケタール(例えば、Irgacure651、チバスペシャルティケミカル製)等のベンジルケタール類;2-メチルアントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-アミルアントラキノン等のアントラキノン類;フェニルジ(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(例えば、Irgacure819、チバスペシャルティケミカル製)等のビスアシルホスフィンオキシド類;2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキシド等のベンゾイルホスフィンオキシド類;トリフェニルホスフィンの他、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(例えば、Irgacure184、チバスペシャルティケミカル製など)、2-ヒドロキシイソプロピルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-1-プロパノン等のα-ヒドロキシフェニルケトン類;チオキサントンや2-クロロチオキサントン等のチオキサントン類;カンファーキノン等が例示できる他、アクリジン誘導体、フェナジン誘導体、キノキサリン誘導体なども使用可能である。
【0096】
このような光重合開始剤は、電子線で前記硬化性組成物を硬化させる際には必ずしも必要でない一方、紫外線や可視光線で硬化させる場合には必要である。
【0097】
前記硬化性組成物における前記重合開始剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、前記ビニルモノマー(A)100質量部に対して、0.1質量部~12質量部が好ましい。
【0098】
<<光増感剤>>
前記光増感剤とは、それ自身単独では紫外線等の照射によって活性化しないが、光開始剤と一緒に使用すると、光開始剤単独の場合よりも、ラジカル重合を進行しやすくさせる機能を有する化合物である。前記光増感剤は、前記光重合開始剤に含まれていてもよい。
【0099】
前記光増感剤としては、例えば、n-ブチルアミン、トリエチルアミン、N-メチルジエタノールアミン、ピペリジン、N,N-ジメチルアニリン、トリエチレンテトラミン、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミン類;O-トリルチオウレアのような尿素系化合物、s-ベンジル-イソチウロニウム-p-トルエンスルフィネート等の硫黄化合物、N,N-ジメチル-p-アミノベンゾニトリル等のニトリル類;ナトリウムジエチルチオフォスフェート等のリン化合物などが挙げられる。
【0100】
前記硬化性組成物における前記光増感剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、0質量部~6質量部が好ましい。
【0101】
<<助触媒>>
前記助触媒は、前記ラジカル重合開始剤と共に好適に使用される。前記助触媒は、前記ラジカル重合開始剤に作用してラジカルを発生させ、所定の時間で本発明の接着剤を硬化せしめるための添加剤であり、例えば、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジメチルトルイジン、N,N-ジエチルトルイジン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、更には、ブチルアルデヒド-アニリン、ブチルアルデヒド-ブチルアミンのような、アルデヒドとアミンの反応生成物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0102】
ブチルアルデヒド-アニリンの反応生成物は工業的に生産され入手可能であり、好ましくは、ノクセラー8(登録商標)(大内新興化学製)、VANAX808(登録商標)(R.T. Vanderbilt社製)、Reilly PDHP(登録商標)(Vertellus Specialty Chemicals社製)などが例示できる。
【0103】
前記硬化性組成物における前記助触媒の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、前記ビニルモノマー(A)100質量部に対して、0.01質量部~10質量部が好ましい。
【0104】
<<硬化促進剤(プロモーター)>>
前記硬化促進剤(プロモーター)は、前記ラジカル重合開始剤と共に好適に使用される。前記硬化促進剤は、前記ラジカル重合開始剤の分解反応の触媒として作用する添加剤であり、例えば、ナフテン酸コバルトやナフテン酸鉄、オクタン酸銅、ヘキサン酸鉄、銅アセチルアセトン等のコバルトや鉄、銅、錫、鉛等の金属塩などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0105】
前記硬化性組成物における前記硬化促進剤(プロモーター)の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、前記ビニルモノマー(A)100質量部に対して、0.00001質量部~1質量部が好ましい。
【0106】
<硬化性組成物の製造方法>
前記硬化性組成物の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することできるが、一実施形態として、以下の第1の工程、第2の工程、及び第3の工程により製造することができる。
【0107】
<<第1の工程>>
前記第1の工程は、前記ゴム重合体粒子(B)を含有する水性ラテックス(詳細には、乳化重合によってゴム重合体粒子(B)を製造した後の反応混合物)を、20℃における水に対する溶解度が5質量%以上40質量%以下の有機溶媒と混合した後、更に過剰の水と混合して、ゴム重合体粒子(B)を凝集させる工程である。
【0108】
前記20℃における水に対する溶解度が5質量%以上40質量%以下の有機溶媒を用いることによって、上記混合操作の後、更に水を添加すると、相分離することとなって、再分散が可能な程度の緩やかな状態で界面にゴム重合体粒子(B)を凝集させることができる。有機溶媒の溶解度が5質量%以上であると、前記有機溶媒と前記ゴム重合体粒子(B)を含有する水性ラテックスとの混合が容易である。また、前記有機溶媒の溶解度が40質量%以下であると、前記第2の工程において、前記ゴム重合体粒子(B)を液相(主として水相)から分離及び回収することが容易である。
【0109】
前記20℃における水に対する溶解度が5質量%以上40質量%以下の有機溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン等のケトン類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;ジエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロピラン等のエーテル類;メチラール等のアセタール類;イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール等のアルコール類などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0110】
前記第1の工程で用いる有機溶媒は、混合有機溶媒であってもよい。例えば、メチルプロピルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン等のケトン類;ジエチルカーボネート、ギ酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類;ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類などの低水溶性の有機溶媒と、アセトン、シクロヘキサノン等のケトン類;γ-バレロラクトン、酢酸エチレングリコールモノメチルエーテル等のエステル類;ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類;エタノール、イソプロピルアルコール、t-ブチルアルコール等のアルコール類;テトラヒドロフランなどの高水溶性の有機溶媒と、を2種以上適宜組み合わせた混合有機溶媒などが挙げられる。
【0111】
また、前記第1の工程で用いる有機溶媒は、後述する第2の工程における液相(主として水相)の除去を容易にする観点から、比重が水よりも軽いものであることが好ましい。
前記水性ラテックスと混合する前記有機溶媒の混合量としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、前記水性ラテックス100質量部に対して50質量部~250質量部が好ましく、60質量部~150質量部がより好ましい。前記有機溶媒の混合量が50質量部以上であると、前記水性ラテックスに含有される前記ゴム重合体粒子(B)の凝集体が生成しやすくなる。また、前記有機溶媒の混合量が250質量部以下であると、その後前記ゴム重合体粒子(B)を凝集させるために要する水量が増大して、製造効率が低下することを防ぐことができる。
【0112】
前記水性ラテックスと有機溶媒との混合操作には、公知のものが使用可能である。例えば、撹拌翼付きの撹拌槽などの一般的装置を使用してもよく、スタティックミキサ(静止混合器)やラインミキサ(配管の一部に撹拌装置を組み込む方式)などを使用してもよい。
【0113】
前記第1の工程は、上記水性ラテックスと有機溶媒とを混合する操作の後、更に過剰の水を添加して混合する操作を含む。これにより、相分離することとなって、緩やかな状態でゴム重合体粒子(B)を凝集させることができる。また、併せて、水性ラテックスの調製に際して使用した水溶性の乳化剤若しくは分散剤、水溶性を有する重合開始剤、あるいは還元剤などの電解質の大半を水相に溶出させることができる。
【0114】
前記水の混合量としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、前記水性ラテックスと混合させる際に使用した上記有機溶媒100質量部に対して、40質量部~330質量部が好ましく、60質量部~250質量部がより好ましい。前記水の混合量が40質量部以上であると、前記ゴム重合体粒子(B)を凝集させることが容易である。また、前記水の混合量が300質量部以下であると、凝集したゴム重合体粒子(B)中の有機溶媒濃度が低くならず、第2の工程において凝集したゴム重合体粒子(B)を再分散させるのに要する時間が短くなるなど、前記ゴム重合体粒子(B)の分散性が向上する。
【0115】
前記水の混合は、前記ゴム重合体粒子(B)が部分的に未凝集となることを防ぐ観点から、撹拌下あるいは撹拌と同等の流動性を付与することができる流動条件下で実施することが望ましい。具体的には、撹拌機を備えた撹拌槽での回分操作あるいは連続操作が挙げられる。また、水の添加方法は、連続的に添加する方法や一括して添加する方法などが挙げられる。
【0116】
<<第2の工程>>
前記第2の工程は、前記第1の工程で得られた凝集したゴム重合体粒子(B)を液相から分離して回収した後、再度有機溶媒と混合して、ゴム重合体粒子(B)の有機溶媒溶液を得る工程である。前記第2の工程によって、前記ゴム重合体粒子(B)から乳化剤などの水溶性の夾雑物を分離及び除去することができる。
【0117】
凝集したゴム重合体粒子(B)を液相から分離して回収する方法としては、例えば、凝集したゴム重合体粒子(B)は液相に対し一般に浮上性があるため、前記第1の工程で撹拌槽を用いた場合には、撹拌槽の底部から液相(主として水相)を排出したり、濾紙、濾布や比較的開き目の粗い金属製スクリーンを使って濾過したりする方法などが挙げられる。
【0118】
前記ゴム重合体粒子(B)の凝集体に含まれる有機溶媒の量としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、前記ゴム重合体粒子(B)の全質量に対して30質量%~75質量%が好ましく、35質量%~70質量%がより好ましい。前記有機溶媒の含有量が30質量%以上であると、後の工程で前記ゴム重合体粒子(B)の凝集体を有機溶媒へ再度分散させる段階で要する時間が長期化したり、凝集体が残存し易くなったりするなどの不都合を防止することができる。また、前記有機溶媒の含有量が75質量%以下であると、有機溶媒に水が多量に溶解及び残存せず、前記第3の工程においてゴム重合体粒子(B)が凝集し難い。
【0119】
なお、本明細書において、前記ゴム重合体粒子(B)の凝集体に含まれる前記有機溶媒量は、前記ゴム重合体粒子(B)の凝集体を精秤後120℃で15分間乾燥させ、乾燥減量を測定することによって求めた値である。
【0120】
前記第2の工程は、前記ゴム重合体粒子(B)の凝集体を有機溶媒と混合する操作を含む。前記ゴム重合体粒子(B)は緩やかな状態で凝集していることから、上記有機溶媒と混合することによって、ゴム重合体粒子(B)を有機溶媒中に1次粒子の状態で容易に再分散させることができる。
【0121】
前記第2の工程で用いる有機溶媒としては、前記第1の工程で例示した有機溶媒を挙げることができる。かかる有機溶媒を用いることにより、後述する第3の工程において有機溶媒を留去する際に水と共沸して、前記ゴム重合体粒子(B)に含まれる水分を除去することができる。また、前記第2の工程で用いる有機溶媒は、前記第1の工程で用いた有機溶媒と異なっていてもよいが、前記第2の工程において、凝集体の再分散をより確実にするという観点から、前記第1の工程で用いた有機溶媒と同一種であることが好ましい。
【0122】
前記第2の工程で用いる有機溶媒の混合量としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、前記ゴム重合体粒子(B)の凝集体100質量部に対して、40質量部~1,400質量部が好ましく、200質量部~1,000質量部がより好ましい。前記有機溶媒の混合量が40質量部以上であると、前記有機溶媒中に前記ゴム重合体粒子(B)が均一に分散しやすく、凝集したゴム重合体粒子(B)が塊として残ったり、粘度が上昇して取り扱いが難しくなったりする不具合を防止することできる。また、前記有機溶媒の混合量が1,400質量部以下であると、後述する第3の工程において有機溶媒を蒸発留去するに際して多量のエネルギー及び大規模な装置を必要として不経済となることを防ぐことができる。
【0123】
前記第1の工程と前記第2の工程との間に、凝集したゴム重合体粒子(B)を液相から分離して回収し、再度20℃における水に対する溶解度が5質量%以上40質量%以下の有機溶媒と混合した後、更に過剰の水と混合してゴム重合体粒子(B)を凝集させる操作を1回以上行うことが好ましい。これにより、ゴム重合体粒子(B)ドープ中に含まれる乳化剤などの水溶性の夾雑物の残存量をより低くすることができる。
【0124】
<<第3の工程>>
前記第3の工程は、前記第2の工程の後、更にビニルモノマー(A)と混合した後、前記有機溶媒を留去する工程である。前記第3の工程によって、前記ゴム重合体粒子(B)が均一に分散し、かつ乳化剤などの夾雑物残存量の少ない硬化性組成物を得ることができる。また、前記ゴム重合体粒子(B)に残存する水分を共沸留去することができる。
【0125】
前記第3の工程で用いるビニルモノマー(A)の混合量としては、特に制限はなく、最終的に望む硬化性組成物中のゴム重合体粒子(B)濃度に応じて適宜調整すればよい。
【0126】
前記有機溶媒を液状のビニルモノマー(A)に置換する方法としては、公知の方法が適用できる。例えば、槽内に有機溶媒溶液とビニルモノマー(A)との混合物を仕込み、加熱減圧留去する方法、槽内で乾燥ガスと上記混合物を向流接触させる方法、薄膜式蒸発機を用いるような連続式の方法、脱揮機構を備えた押出機あるいは連続式撹拌槽を用いる方法などが挙げられる。有機溶媒を留去する際の温度や所要時間などの条件は、得られる硬化性組成物の品質を損なわない範囲で適宜選択することができる。また、硬化性組成物に残存する揮発分の量は、硬化性組成物の使用目的に応じて問題のない範囲で適宜選択できる。
【0127】
[用途]
前記硬化性組成物の用途としては、特に制限はなく、例えば、熱硬化性組成物又はそのマスターバッチ、あるいは、熱可塑性樹脂原料として、接着剤、歯科用樹脂、樹脂シラップ、コーティング材料、オーバプリントワニス、ソルダーマスク、紫外線/電子線による硬化材料、光造形材料、注型用材料、プラスチゾル、レジンコンクリートやレジンモルタル、キャスト材料、絶縁用樹脂、嫌気硬化性樹脂、ねじ止め剤、ボンディングペースト、シーリング剤、ガスケット、パッキン、立体造形物形成用材料(例えば、立体造形物(付加構造物)製造用プリンターに用いられるインク等)などに好適に使用できる。
【0128】
(光造形用樹脂組成物)
本発明の光造形用樹脂組成物は、本発明の硬化性組成物を含有し、必要に応じて、更にその他の成分を含有する。
【0129】
<硬化性組成物>
前記光造形用組成物における前記硬化性組成物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができる。前記光造形用組成物は、前記硬化性組成物そのもの(即ち、硬化性組成物の含有量が100質量%)であってもよい。
【0130】
<その他の成分>
前記光造形用樹脂組成物における前記その他の成分としては、特に制限はなく、前記(硬化性組成物)の<その他の成分>の項目に記載のものなどが挙げられる。
前記光造形用組成物における前記その他の成分の含有量としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0131】
(硬化物及び光造形物)
本発明の硬化物は、本発明の硬化性組成物を硬化させてなる。
また、本発明の光造形物は、本発明の光造形用樹脂組成物を硬化させてなる。
前記硬化性組成物又は前記光造形用樹脂組成物を硬化することによって、前記ゴム重合体粒子(B)が膨潤し難く、前記硬化性組成物又は前記光造形用樹脂組成物の粘性が低いことから、硬化物又は光造形物を作業性よく得ることができる。また、前記ゴム重合体粒子(B)が均一に分散した硬化物又は光造形物を容易に得ることができる。
【0132】
前記硬化性組成物又は前記光造形用樹脂組成物を硬化する方法としては、前記硬化性組成物又は前記光造形用樹脂組成物の態様によって適宜選択すればよく、例えば、硬化剤や触媒、あるいは熱や光(紫外線など)や放射線(電子線など)の作用、及びこれらの組み合わせなど、公知の硬化方法によって行うことができる。
【0133】
また、例えば、前記硬化性組成物又は前記光造形用樹脂組成物から、トランスファー成型法、インジェクション成型法、圧縮成型法、注型法、塗布焼付やステレオリソグラフィー法などの従来公知の成型法によって硬化物を得ることもできる。
【実施例0134】
以下に製造例、実施例、及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの製造例及び実施例に何ら限定されるものではない。なお、製造例、実施例、及び比較例において、別段の断りない限り、「%」は「質量%」を示し、「部」は「質量部」を示す。
【0135】
(製造例1-1:ポリブタジエンゴムラテックス(R-1)の製造)
100L耐圧重合機中に、脱イオン水200部、リン酸三カリウム0.03部、リン酸二水素カリウム0.25部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)0.002部、硫酸第一鉄・7水和塩(以下、「Fe」と略記することがある)0.001部、及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDS)1.5部を投入し、撹拌しつつ十分に窒素置換を行って酸素を除いた後、ブタジエン(BD)100部を系中に投入し、45℃に昇温した。パラメンタンハイドロパーオキサイド(PHP)0.015部、続いてナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(SFS)0.04部を投入し、重合を開始した。重合開始から4時間後に、PHP0.01部、EDTA0.0015部、及びFe0.001部を投入した。重合10時間後に減圧下残存モノマーを脱揮除去して重合を終了し、ポリブタジエンゴム粒子を含むラテックス(R-1)を得た。得られたラテックスに含まれるポリブタジエンゴム粒子の体積平均粒子径は0.19μmであった。
【0136】
(製造例2-1:ゴム重合体粒子(B-1)の製造)
8Lガラス容器に、脱イオン水210部及び製造例1-1で得たポリブタジエンゴムラテックス(R-1)を固形分相当で73部仕込み、窒素置換を行いながら60℃で30分間撹拌した。EDTA0.004部、Fe0.001部、及びSFS0.03部を加えた後、アリルメタクリレート(ALMA)5部を一括添加した。続いてクメンハイドロパーオキサイド(CHP)0.021部を投入し重合を開始した。1時間撹拌を続けた後、SFS0.17部、メチルアクリレート(MA)16.2部、及びブチルアクリレート(BA)10.8部の混合物を2時間かけて連続的に添加しグラフト重合した。添加終了後、更に2時間撹拌して反応を終了させ、コア層、中間層、及びシェル層を有するゴム重合体粒子(B-1)を得た。
【0137】
(製造例2-2及び2-3:ゴム重合体粒子(B-2)及び(B-3)の製造)
製造例2-1において、各成分の配合量を、下記表1に示す配合量に変更したこと以外は、製造例2-1と同様の方法で、コア層、中間層、及びシェル層を有するゴム重合体粒子(B-2)及び(B-3)を得た。
【0138】
(製造例2-4:ゴム重合体粒子(B-4)の製造)
8Lガラス容器に、脱イオン水210部及び製造例1-1で得たポリブタジエンゴムラテックス(R-1)を固形分相当で70部仕込み、窒素置換を行いながら60℃で30分間撹拌した。EDTA0.004部、Fe0.001部、及びSFS0.03部を加えた後、ALMA3.3部を一括添加した。続いてクメンハイドロパーオキサイド(CHP)0.021部を投入し重合を開始した。1時間撹拌を続けた後、SFS0.17部、ブチルアクリレート(BA)15部、メチルメタクリレート(MMA)6部、及び2-メトキシエチルアクリレート(2-MEA)9部の混合物を2時間かけて連続的に添加しグラフト重合した。添加終了後、更に2時間撹拌して反応を終了させ、コア層、中間層、及びシェル層を有するゴム重合体粒子(B-4)を得た。
【0139】
(製造例2-5:ゴム重合体粒子(B-5)の製造)
製造例2-4において、ALMAをエチレングリコールジメタクリレート(EGDM)に変更したこと以外は、製造例2-4と同様の方法で、コア層、中間層、及びシェル層を有するゴム重合体粒子(B-5)を得た。
【0140】
(製造例2-6:ゴム重合体粒子(B-6)の製造)
製造例2-4において、ALMAをトリアリルイソシアヌレート(TAIC)に変更したこと以外は、製造例2-4と同様の方法で、コア層、中間層、及びシェル層を有するゴム重合体粒子(B-6)を得た。
【0141】
(製造例2-7:ゴム重合体粒子(B-7)の製造)
製造例2-4において、ALMAを1,3-ブタジエンジオールジメタクリレート(BDMA)に変更したこと以外は、製造例2-4と同様の方法で、コア層、中間層、及びシェル層を有するゴム重合体粒子(B-7)を得た。
【0142】
(製造例2-8:ゴム重合体粒子(B-8)の製造)
製造例2-4において、ALMAをジビニルベンゼン(DVB)に変更したこと以外は、製造例2-4と同様の方法で、コア層、中間層、及びシェル層を有するゴム重合体粒子(B-8)を得た。
【0143】
(製造例2-9:ゴム重合体粒子(B-9)の製造)
製造例2-1において、重合開始前にEDTA0.004部、Fe0.001部、SFS0.03部、及びALMA5部を添加しなかったこと以外は、製造例2-1と同様の方法で、コア層、中間層、及びシェル層を有するゴム重合体粒子(B-9)を得た。
【0144】
(製造例2-10:ゴム重合体粒子(B-10)の製造)
製造例2-4において、ALMAの配合量を3,3部から1.8部に変更したこと以外は、製造例2-4と同様の方法で、コア層、中間層、及びシェル層を有するゴム重合体粒子(B-10)を得た。
【0145】
(製造例2-11:ゴム重合体粒子(B-11)の製造)
製造例2-10において、ALMAをTAICに変更したこと以外は、製造例2-10と同様の方法で、コア層、中間層、及びシェル層を有するゴム重合体粒子(B-11)を得た。
【0146】
(製造例2-12:ゴム重合体粒子(B-12)の製造)
製造例2-10において、ALMAをBDMAに変更したこと以外は、製造例2-10と同様の方法で、コア層、中間層、及びシェル層を有するゴム重合体粒子(B-12)を得た。
【0147】
(製造例2-13:ゴム重合体粒子(B-13)の製造)
製造例2-10において、ALMAをDVBに変更したこと以外は、製造例2-10と同様の方法で、コア層、中間層、及びシェル層を有するゴム重合体粒子(B-13)を得た。
【0148】
(実施例1:硬化性組成物(D-1)の調製)
25℃の1L混合槽にメチルエチルケトン(MEK)126gを導入し、撹拌しながら、製造例2-1で得られたゴム重合体粒子(B-1)を126g投入した。均一に混合後、水200gを80g/分間の供給速度で投入した。供給終了後、速やかに撹拌を停止したところ、浮上性の凝集体及び有機溶媒を一部含む水相からなるスラリー液を得た。次に、一部の水相を含む凝集体を残し、水相350gを槽下部の払い出し口より排出させた。得られた凝集体にMEK90gを追加して均一に混合し、ゴム重合体粒子(B-1)を均一に分散した分散体を得た。ゴム重合体粒子(B-1)40部に対してイソボルニルアクリレート(IBOA)60部(固形分相当量)、重合禁止剤としての2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール(BHT)0.24部を混合後、MEKを減圧留去し、ゴム重合体粒子(B-1)を含む硬化性組成物(D-1)を得た。
【0149】
(実施例2~12及び比較例1~6)
実施例1において、ビニルモノマー(A)の種類及び配合量、並びに、ゴム重合体粒子(B)の種類及び配合量を、それぞれ下記表3~表5に示す種類及び配合量に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2~12及び比較例1~6の硬化性組成物(D-2)~(D-18)を得た。
【0150】
なお、製造例、実施例、及び比較例に使用した各成分の情報は以下の通りである。
-中間層形成用モノマー-
・ アリルメタクリレート(ALMA):アクリエステル(登録商標)A(三菱ケミカル株式会社製)
・ エチレングリコールジメタクリレート(EGDM):ライトエステルEG(共栄社化学株式会社製)
・ トリアリルイソシアヌレート(TAIC):TAIC(株式会社新菱製)
・ 1,3-ブタジエンジオールジメタクリレート(BDMA):アクリエステル(登録商標)B(三菱ケミカル株式会社製)
・ ジビニルベンゼン(DVB):日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製
【0151】
-シェル層形成用モノマー-
・ メチルアクリレート(MA):株式会社日本触媒製
・ ブチルアクリレート(BA):株式会社日本触媒製
・ メチルメタクリレート(MMA):アクリエステル(登録商標)M(三菱ケミカル株式会社製)
・ 2-メトキシエチルアクリレート(2-MEA):株式会社日本触媒製
【0152】
-ビニルモノマー(A)-
・ イソボルニルアクリレート(IBOA):ライトアクリレートIB-XA(共栄社化学株式会社製)
・ シクロヘキシルメタクリレート(CHMA):ライトエステルCH(共栄社化学株式会社製)
・ イソボルニルメタクリレート(IBOMA):ライトエステルIB-X(共栄社化学株式会社製)
・ フェノキシエチルアクリレート(PEA):ライトアクリレートPO-A(共栄社化学株式会社製)
【0153】
<SP値の測定>
実施例1~12及び比較例1~6の硬化性組成物の製造に使用したビニルモノマー(A)のSP値は、Fedorsらが提案した方法によって求めた。
具体的には、POLYMER ENGINEERING AND SCIENCE, FEBRUARY, 1974, Vol.14, No.2, ROBERT F.FEDORS.(147項~154項)を参照して求めた。結果は下記表3~表5に示した。
【0154】
<飽和水分量の測定>
実施例1~12及び比較例1~6の硬化性組成物の製造に使用したビニルモノマー(A)の飽和水分量は、ビニルモノマー(A)に0.20%ずつ純水を加え、25℃にて、カールフィッシャー水分計 CA-100(日東精工アナリテック株式会社製)により水分量を求め、純水を添加後も水分量が変化しなくなった際の水分量を飽和水分量とした。結果は下記表3~表5に示した。
【0155】
<粘度の測定>
実施例1~12及び比較例1~6の硬化性組成物の粘度は、デジタル粘度計(DV-II+Pro プログラマブル粘度計、Brookfield社製)を用いて測定した。粘度領域によって、コーンスピンドルを型式CPE-41又は型式CPE-52で使い分け、測定温度25℃、ずり速度(Shear Rate)10(1/s)における粘度を測定した。結果は下記表3~表5に示した。
【0156】
【0157】
【0158】
【0159】
【0160】
【0161】
比較例1及び2は、ゴム重合体粒子が中間層を有しないため、硬化性組成物の粘度が非常に高かった。比較例3~6は、ゴム重合体粒子が中間層を有するが、該ゴム重合体粒子の弾性コア層100質量部に対する中間層の含有量が3.0質量部未満であるため、硬化性組成物の粘度が非常に高かった。これに対し、実施例1~12の硬化性組成物は、いずれも粘度が低いものであった。
【0162】
本発明の態様としては、例えば、以下のものなどが挙げられる。
<1> ビニルモノマー(A)と、
ラジカル重合性二重結合を2以上有するモノマーを用いて形成される中間層で弾性コア層を被覆し、更にシェル層で前記中間層を被覆したゴム重合体粒子(B)と、
を含有し、
前記ビニルモノマー(A)100質量部に対する前記ゴム重合体粒子(B)の含有量が30質量部~100質量部であり、かつ、
前記ゴム重合体粒子(B)において、前記弾性コア層100質量部に対する前記中間層の含有量が3.0質量部~15.0質量部であることを特徴とする硬化性組成物である。
<2> 前記ビニルモノマー(A)のフェダーズ(Fedors)法により求めた溶解度パラメーター(SP)値が7.0(J/cm3)1/2以上11.0(J/cm3)1/2以下である、前記<1>に記載の硬化性組成物である。
<3> 前記ビニルモノマー(A)のフェダーズ(Fedors)法により求めた溶解度パラメーター(SP)値が7.5(J/cm3)1/2以上10.3(J/cm3)1/2以下である、前記<1>又は<2>に記載の硬化性組成物である。
<4> 前記ビニルモノマー(A)の飽和水分量が、25℃で、0%以上3%以下である、前記<1>から<3>のいずれかに記載の硬化性組成物である。
<5> 前記ラジカル重合性二重結合を2以上有するモノマーが、(メタ)アクリレート系多官能性モノマー、イソシアヌル酸誘導体、芳香族ビニル系多官能性モノマー、及び芳香族多価カルボン酸エステルから選択される少なくとも1種の多官能性モノマーを30質量%~100質量%含有する、前記<1>から<4>のいずれかに記載の硬化性組成物である。
<6> 前記ラジカル重合性二重結合を2以上有するモノマーが、少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有する、前記<1>から<5>のいずれかに記載の硬化性組成物である。
<7> 前記ラジカル重合性二重結合を2以上有するモノマーの分子量(m)に対する、前記ラジカル重合性二重結合を2以上有するモノマーの1分子当たりの官能基数(n)の比[n/m]が0.01以上である、前記<1>から<6>のいずれかに記載の硬化性組成物である。
<8> 前記ビニルモノマー(A)中に前記ゴム重合体粒子(B)が一次粒子で分散してなる、前記<1>から<7>のいずれかに記載の硬化性組成物である。
<9> 更に、重合禁止剤(C)を50ppm~5,000ppm含有する、前記<1>から<8>のいずれかに記載の硬化性組成物である。
<10> 前記<1>から<9>のいずれかに記載の硬化性組成物を含有することを特徴とする光造形用樹脂組成物である。
<11> 三次元光造物の形成に用いられる、前記<10>に記載の光造形用樹脂組成物である。