(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143010
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】粉末または顆粒状食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 23/10 20160101AFI20241003BHJP
B01J 2/00 20060101ALI20241003BHJP
B01J 2/16 20060101ALI20241003BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20241003BHJP
【FI】
A23L23/10
B01J2/00 A
B01J2/00 B
B01J2/16
A23L5/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055460
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】523118082
【氏名又は名称】井村屋フーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079050
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 憲秋
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 重元
(72)【発明者】
【氏名】脇坂 亮教
(72)【発明者】
【氏名】松井 祐介
【テーマコード(参考)】
4B035
4B036
4G004
【Fターム(参考)】
4B035LC01
4B035LE01
4B035LG12
4B035LG19
4B035LG21
4B035LG32
4B035LG44
4B035LK01
4B035LP36
4B036LC01
4B036LE01
4B036LF01
4B036LF05
4B036LH10
4B036LH12
4B036LH13
4B036LH30
4B036LH39
4B036LK01
4B036LP15
4G004AA02
4G004BA00
4G004KA01
(57)【要約】
【課題】粉末または顆粒状食品の造粒工程における風味原料等の熱による風味や香味の減退を改善ないし解消し、風味や香味等の品質の確保により商品価値の向上や新たな商品の提供を図ることができ、原料の使用量の低減も可能となる。また、後混合する際に生ずる、造粒品と後混合材料との偏在(不均一)を解消し、成分の均一性を図り味覚等の食品品質や製品の外観性を向上し、微粉末の飛散や粉噛み等のハンドリングの作業性を大幅に改善することができ、流動性を大幅に改善することができる製法を提供する。
【解決手段】流動層造粒法によって第1原料成分を造粒した第1材料に、多孔性でんぷんに油脂分を介して第2原料成分を混合付着した第2材料を後混合する。第2原料成分として、熱によって劣化するおそれのあるもの、あるいは風味原料成分を含むものが選択される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末または顆粒状の複数の原料成分を混合してなる食品を得るに際して、
流動層造粒法によって第1原料成分を造粒した第1材料に、
澱粉分解物に油脂分を吸着させた基材に第2原料成分を付着させ顆粒化した第2材料を後混合することを特徴とする粉末または顆粒状食品の製造方法。
【請求項2】
前記第2原料成分が熱によって劣化するおそれのある原料成分を含む請求項1に記載の粉末または顆粒状食品の製造方法。
【請求項3】
前記第2原料成分が風味原料成分を含む請求項1に記載の粉末または顆粒状食品の製造方法。
【請求項4】
前記粉末または顆粒状食品がスープ食品である請求項1に記載の粉末または顆粒状食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スープ食品などの粉末または顆粒状食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばカレースープやラーメン類の即席食品のスープとして、粉末または顆粒状食品が知られているが、これらは粉体の流動性や溶解性を向上するために原料成分を均一な形状や大きさの粉末または顆粒状に造粒することが行われている。一般的な造粒手段として、造粒室の下部から熱風を送り込み、粉体を流動させているところ(流動層)に、結合剤溶液を噴霧して、原料成分を適宜の大きさに凝集または被覆により粒状物に成長させる流動層造粒法があり、この製法にあっては熱風が乾燥の役割もしており乾燥効率が高く、広く実施されている。
【0003】
しかるに、食品分野では飲食物の香りや味わいのため、いわゆる風味原料が多用されるのであるが、風味原料の多くは香辛料系商材であり、熱によって劣化するおそれがある成分を含み、熱風によって風味や香味を減退するおそれなしとしない。また、風味原料や香辛料系原料にあっては粉砕による微粉が多いために、これらの原料成分を他の原料の造粒後に後添加すると造粒品と後添加原料との偏在(不均一)の問題が生ずる。
【0004】
粉末または顆粒状食品において、微粉等を含む原料の偏在(不均一)があると、食品の味覚等の品質の不均一を招くばかりでなく、微粉末の飛散や粉噛み等のハンドリング上の問題や、外観性等の多くの問題を生ずるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-65478号公報
【特許文献2】特開2012-65593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする問題点は、前記したような、粉末または顆粒状食品の造粒工程における風味原料等の熱による風味や香味の減退を改善ないし解消することである。これによって、風味や香味等の品質の確保により商品価値の向上や新たな商品の提供を図ることができ、原料の使用量の低減も可能となる。また、後混合する際に生ずる、造粒品と後混合材料との偏在(不均一)を解消することである。本発明は、製造工程を大幅に改良することによって、成分の均一性を図り味覚等の食品品質や製品の外観性を向上し、微粉末の飛散や粉噛み等のハンドリングの作業性を大幅に改善することができ、さらに、流動性の悪い原料成分についても、流動性を大幅に改善(もたつき軽減)することができる製法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上の課題を解決するために、請求項1の発明は、粉末または顆粒状の複数の原料成分を混合してなる食品を得るに際して、流動層造粒法によって第1原料成分を造粒した第1材料に、多孔性でんぷんに油脂分を介して第2原料成分を混合付着した第2材料を後混合することを特徴とする粉末または顆粒状食品の製造方法に係る。
【0008】
また、請求項2の発明は、前記第2原料成分が熱によって劣化するおそれのある原料成分を含む請求項1に記載の粉末または顆粒状食品の製造方法に係る。
【0009】
請求項3の発明は、前記第2原料成分が風味原料成分を含む請求項1に記載の粉末または顆粒状食品の製造方法に係る。
【0010】
さらに、請求項4の発明は、前記粉末または顆粒状食品がスープ食品である請求項1に記載の粉末または顆粒状食品の製造方法に係る。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、粉末または顆粒状の複数の原料成分を混合してなる食品を得るに際して、流動層造粒法によって第1原料成分を造粒した第1材料に、多孔性でんぷんに油脂分を介して第2原料成分を混合付着した第2材料を後混合することを特徴とするものであるから、後添加で混合する際に生ずる、造粒品と後添加原料での偏在(不均一)を解消することができる。とりわけ、この発明によれば、多孔性でんぷんに油脂分を介して第2原料成分を混合付着した第2材料を後混合するものであるから、第2原料成分の製造工程を大幅に改良することによって、成分の均一性を図り味覚等の食品品質や製品の外観性を向上し、微粉末の飛散や粉噛み等のハンドリング等の作業性を大幅に改善することができる。さらに、流動性の悪い原料成分についても、流動性改善(もたつき軽減)を大幅に改善することができる。
【0012】
また、請求項2の発明によれば、熱によって劣化するおそれのある原料成分について第2原料成分として後混合することができ、原料成分の選択肢を大幅に拡大することができる。
【0013】
さらに、請求項3の発明によれば、風味原料成分について熱の影響を受けることなく第2原料成分として後混合することができ、原料成分の選択肢を大幅に拡大することができ、かつ風味成分の味覚等の品質を向上することが可能となる。
【0014】
この発明は、したがって、請求項4の発明のように、前記粉末または顆粒状食品がスープ食品について特に有利な製法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】この発明の実施例を説明する概略工程図である。
【
図2】この発明の第一実施例であるカレースープの配合例の説明図である。
【
図3】この発明の第二実施例のチーズポタージュスープの配合例の説明図である。
【
図4】この発明の第三実施例の醤油ラーメンスープの配合例の説明図である。
【
図5】この発明の第四実施例の味噌ラーメンスープの配合例の説明図である。
【
図6】この発明の第一実施例のカレースープの製品粒度分布図である。
【
図7】この発明の第二実施例のチーズポタージュスープの製品粒度分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下実施例とともに、この発明を説明すると、この発明は、
図1の概略工程図に図示したように、粉末または顆粒状の複数の原料成分を混合してなる食品を得るに際して、流動層造粒法によって第1原料成分を造粒した第1材料に、多孔性でんぷんに油脂分を介して第2原料成分を混合付着した第2材料を後混合することを特徴とするものである。
【0017】
前記したように、カレースープやラーメン類のスープの粉末または顆粒状食品にあっては、従来から、粉体を熱風で流動させているところ(流動層)に、結合剤溶液を噴霧して、凝集または被覆により粒状物に成長させる流動層造粒法が多用されている。しかしながら、食品分野では、飲食物の香りや味わいのための、いわゆる風味材料や香辛料等の材料が多用され、これらは粉砕物でまた熱によって劣化するおそれがあるので、流動層造粒後に後添加で投入して製品化していたのであるが、微粉が多いため、造粒品と後添加原料との偏在(不均一)の問題があった。
【0018】
そこで、本発明は、原料成分のうち第1原料成分を流動層造粒法によって第1材料に造粒する工程と、原料成分のうちの第2原料成分を多孔性でんぷんに油脂分を介して混合付着した第2材料として得る工程に分離し、後に両者を混合するものである。第2原料成分は、熱によって劣化するおそれのあるもの、あるいは熱の影響を受けやすい風味原料成分、さらには微粉、細粉などの性状上の特性等によって選別することができる。原料成分については、第2原料成分として後混合することができ、原料成分の選択肢を大幅に拡大することができる。
【0019】
第1原料成分を流動層造粒法によって第1材料に造粒する工程は、従来公知の手法によって行うことができる。
【0020】
第2原料成分の混合付着工程は、多孔性でんぷんに油脂分を介して行われる。多孔性でんぷんとしては、例えば、粉末化基材として用いられている澱粉分解物「パインフロー」(商品名:松谷化学工業)が一般的であり、油脂分としては、食用こめ油、牛脂などを用いることができる。上述したように、混合付着工程を経ることによって、第2原料成分の選択肢を大幅に拡大することができる。また、第2原料成分の分量の幅も任意に選択できるようになる。混合装置は原料成分及び分量等に応じ適宜のものを選択できる。
【0021】
図2は、本発明の実施例1のカレースープの配合比率表である。以下の例では第2原料成分を風味原料として選定されたものを例示した。なお、第1原料及び第2原料のほかに、別添原料として香辛料や香料等がある。配合表の右に対比例1として、従来製法の流動層造粒法の配合例を示した。
【0022】
図3は本発明の第2実施例のチーズポタージュ(スープ)の配合比率表、
図4は本発明の第3実施例の醤油ラーメンスープの配合比率表、
図5は本発明の第4実施例の味噌ラーメンスープの配合比率表であり、いずれも各配合表の右に対比例2、対比例3、及び対比例4として、従来の流動層造粒法の配合例を示した。
【0023】
図2~5は各配合比率表から理解されるように、本発明の実施例の第2原料(風味原料)の付着用基材を除く配合比率は、従来品に比し大幅に減少していることが分かる。このことは、第2原料(風味原料)の減量化が可能であることを表し、ここでは風味(味覚)の効率化及び向上、ならびにコストダウンの可能性を示唆する。
【0024】
スープ製品の粒度分布について、
図6はカレースープの粒度分布図、
図7はチーズポタージュの粒度分布図である。図示したように、原料成分のうちの第2原料成分を多孔性でんぷんに油脂分を介して混合付着した本発明の実施例1,2にあっては、混合付着品を使用しない従来品の対比例1,2と比較して、微粉(実施例1では約150μm以下、実施例2では約300μm以下)が大幅に減少していることが分かる。微粉の抑制、減少により、製品の外観性を向上し、マス充填や個包装時の粉舞抑制や粉噛みによるシール不良発生やハンドリング等の作業性の改善、流動性改善(もたつき軽減)を大幅に改善することができる。
【0025】
さらに、本発明の吸着造粒法を利用すると本来使用したかった原料(微粉を多く含む原料)でも使用可能となり、原料の選択肢が増えることで付加価値提供が可能である。