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  • 特開-焼き菓子用品質改良剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143014
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】焼き菓子用品質改良剤
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/18 20060101AFI20241003BHJP
   A21D 10/00 20060101ALI20241003BHJP
   A23L 27/30 20160101ALI20241003BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20241003BHJP
   A23L 29/30 20160101ALI20241003BHJP
【FI】
A21D2/18
A21D10/00
A23L27/30 A
A23L27/00 F
A23L29/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055464
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】516089979
【氏名又は名称】株式会社ウエノフードテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】藤原 正幸
(72)【発明者】
【氏名】西村 崇弘
(72)【発明者】
【氏名】古川 陽二郎
【テーマコード(参考)】
4B032
4B041
4B047
【Fターム(参考)】
4B032DB13
4B032DB22
4B032DB35
4B032DB36
4B032DB38
4B032DG02
4B032DG05
4B032DG07
4B032DG08
4B032DK06
4B032DK12
4B032DK15
4B032DK18
4B032DK32
4B032DK33
4B032DP23
4B032DP37
4B032DP40
4B041LC01
4B041LC03
4B041LC10
4B041LD01
4B041LE03
4B041LH02
4B041LK06
4B041LK10
4B041LK11
4B041LK12
4B041LK23
4B041LK24
4B041LK25
4B041LK26
4B041LP01
4B041LP03
4B041LP07
4B041LP16
4B041LP21
4B047LB08
4B047LF09
4B047LG07
4B047LG10
4B047LG22
4B047LG23
4B047LG24
4B047LG25
4B047LG27
4B047LG39
4B047LG40
4B047LG41
4B047LP02
4B047LP06
4B047LP09
(57)【要約】
【課題】 油脂含量が高い場合であっても、焼き菓子生地の成型性が良好で、焼成後の焼き菓子の保形性に優れ、焼き菓子本来の食感や風味が維持される焼き菓子用品質改良剤を提供する。
【解決手段】 BET式一点法による比表面積が1m/g以上、且つ水銀圧入法による細孔容積が0.2mL/g以上のソルビトールを有効成分とする、焼き菓子用品質改良剤および該焼き菓子用品質改良剤と糖類、穀物粉および油脂からなる群から選択される一種以上を含有する、焼き菓子用組成物を提供する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET式一点法による比表面積が1m/g以上、且つ水銀圧入法による細孔容積が0.2mL/g以上のソルビトールを有効成分とする、焼き菓子用品質改良剤。
【請求項2】
請求項1に記載の焼き菓子用品質改良剤と、糖類、穀物粉および油脂からなる群から選択される一種以上を含有する、焼き菓子用組成物。
【請求項3】
焼き菓子用品質改良剤100重量部に対して、糖類10~1000重量部含有する、請求項2に記載の焼き菓子用組成物。
【請求項4】
糖類がショ糖、果糖、ブドウ糖、麦芽糖、乳糖、トレハロース、ソルビトール、マルチトールおよび還元パラチノースからなる群から選択される一種以上である、請求項3に記載の焼き菓子用組成物。
【請求項5】
焼き菓子用品質改良剤100重量部に対して、穀物粉10~1000重量部含有する、請求項2に記載の焼き菓子用組成物。
【請求項6】
穀物粉が小麦粉、ライ麦粉、とうもろこし粉、大豆粉、米粉、アーモンド粉およびタピオカ粉からなる群から選択される一種以上である、請求項5に記載の焼き菓子用組成物。
【請求項7】
焼き菓子用プレミックスである、請求項5に記載の焼き菓子用組成物。
【請求項8】
焼き菓子用品質改良剤100重量部に対して、油脂100~10000重量部含有する、請求項2に記載の焼き菓子用組成物。
【請求項9】
油脂がバター、マーガリン、ショートニング、ファットスプレッドおよび粉末油脂からなる群から選択される一種以上である、請求項8に記載の焼き菓子用組成物。
【請求項10】
シート状に成型されている請求項8に記載の焼き菓子用組成物。
【請求項11】
焼き菓子用品質改良剤100重量部に対して、糖類10~1000重量部、穀物粉10~1000重量部、油脂100~10000重量部を含有する焼き菓子用生地である、請求項2に記載の焼き菓子用組成物。
【請求項12】
冷凍されている、請求項8~11のいずれかに記載の焼き菓子用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼き菓子用品質改良剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ビスケット、クッキー、パイなどの焼き菓子は、小麦粉、油脂、糖類などを原材料とする生地を様々な形状に成型し、これを焼成することにより製造されており、食感や風味の改良などの目的に応じて、原材料の配合割合が調整されている。
【0003】
このような焼き菓子の製造においては、従来から成型した生地の形状が焼成前後で変化する、所謂「だれ」と称される現象が問題となっていた。生地にだれが発生すると焼成後の形状が不均一となるだけでなく、器具などに生地が付着することによって成型そのものがし難くなり、製造効率が悪化する要因のひとつとなっていた。また、焼き菓子に求められるサクサクとした食感や口溶けを改良する手段として、油脂の配合割合を増やす方法が一般的に知られているが、油脂含量の増加に伴い、生地の付着性増大によって成型性が低下する傾向があった。さらに、焼成中に油脂が溶融し、流出することにより、ひび割れ等の型崩れが発生するという問題も有していた。そこで、従来から、このような問題を解決しようとする検討がなされている。
【0004】
特許文献1には、ステアリン酸カルシウム、ジグリセリンモノ脂肪酸エステルおよび食用油脂からなる小麦粉食品用油型練込油脂組成物が提案されている。また、特許文献2には、POP(1,3-dipalmitoyl-2-oleoyl-glycerol)含量及びラウリン酸含量が特定の割合である焼き菓子用油脂組成物が提案されている。さらに、特許文献3には、炭素数6~10の中鎖脂肪酸を含むトリアシルグリセロールを有効成分とする焼き菓子用の品質改変剤が提案されている。しかしながら、これらの油脂組成物や品質改変剤は、焼き菓子の風味に影響を及ぼす成分を含んでいたり、特別な油脂を用意する必要があり、実施が容易とは言えず、必ずしも満足できるものではなかった。
【0005】
したがって、生地の成型性に優れ、焼成後の焼き菓子が型崩れせず、風味が良好で、サクサクとした食感が維持される焼き菓子を容易に製造し得る品質改良剤が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-129755号公報
【特許文献2】特開2010-4806号公報
【特許文献3】特開2015-116128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、油脂含量が高い場合であっても、焼き菓子生地の成型性が良好で、焼成後の焼き菓子の保形性に優れ、焼き菓子本来の食感や風味が維持される焼き菓子用品質改良剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、BET(ブルナウアー・エメット・テラー)式一点法による比表面積が1m/g以上であり、且つ水銀圧入法による細孔容積が0.2mL/g以上であるソルビトールを焼き菓子に配合することにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、BET式一点法による比表面積が1m/g以上、且つ水銀圧入法による細孔容積が0.2mL/g以上のソルビトールを有効成分とする、焼き菓子用品質改良剤に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の焼き菓子用品質保持剤を用いることで、高油分とした場合においても保形性が良好であり、油脂の風味が増強され且つサクサクとした食感を有する高品質の焼き菓子を製造することができる。また、焼成時に用いる器具への油脂の付着が低減し、製造現場の衛生状態の維持、洗浄時に発生する排水の環境負荷を低減することにも繋がる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例7、8および比較例3、4において、生地を成型した際の掌への材料の付着、および焼成後のクッキーの外観の写真である。
図2】実施例9、10および比較例5~7において、焼成後のパイ生地の断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において「焼き菓子」とは、穀物粉、油脂および糖類を主材料とする生地を焼成して製造されるものをいう。例えば、クッキー(ロータリーモールドクッキー、ワイヤーカットクッキー、絞りクッキー等)、ビスケット、クラッカー、サブレ、パイ、ウエハース、スナック菓子、メロンパンのビス生地等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。その中でも、油脂を多く含む焼き菓子として、クッキー、サブレ、パイなどが好ましい。
【0013】
本発明の焼き菓子用品質改良剤は水溶性のソルビトールからなるものであり、焼成前に水に溶解するとその効果を発揮することができない。従って、本発明の焼き菓子用品質改良剤は、焼成前に水分と接触しない態様にて用いられる。「焼成前に水分と接触しない態様」とは、水分が添加されない生地に添加するか、または水分が添加されない材料に添加して用いられる。
「水分が添加されない」とは、穀物粉、油脂および糖類等の材料に、水あるいは牛乳、果汁、生クリーム、生卵(全卵、卵白、卵黄を含む)等の水分を多く含む材料が添加されないことをいう。穀物粉、油脂、糖類等自体に含有される水分が生地に含まれることを排除するものではない。よって、本発明の「焼き菓子」としては、水分を添加した生地を焼成して製造されるスポンジケーキ、カステラ、ホットケーキ等のいわゆるケーキ類は除かれる。
【0014】
また、「水分が添加されない材料」とは、本発明の焼き菓子用品質改良剤が水分と接触しない態様で用いられればよく、一例としてパイを製造する際に、水分を添加しない油脂に焼き菓子用品質改良剤を添加したものをシート状とし、別途穀物粉に水分その他を添加して得られる生地をシート状として両者を交互に重ねる態様が挙げられる。
【0015】
本発明の「焼き菓子用品質改良剤」は、焼き菓子生地の成型性、および焼成後の焼き菓子の保形性を向上させ、焼き菓子本来の食感や風味を維持することに役立つ。尚、本発明の焼き菓子用品質改良剤は、焼き菓子を高油分とした場合において特に保形性を向上させるが、油分量に関係なく使用することができる。
【0016】
本発明の焼き菓子用品質改良剤は、BET式一点法による比表面積が1m/g以上、且つ水銀圧入法による細孔容積が0.2mL/g以上のソルビトール(本明細書において単に「多孔質ソルビトール」と称することがある)を配合したものである。
【0017】
本発明で用いる多孔質ソルビトールの詳細について以下に述べる。
【0018】
本発明に用いる多孔質ソルビトールは平均粒子径が特定の範囲になるように調整したものであってよく、その際の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(マスターサイザー(登録商標)3000、マルバーン社製)で測定して、1~600μmが好ましく、20~550μmがより好ましく、30~500μmがさらに好ましい。
【0019】
多孔質ソルビトールは、例えば、溶融したソルビトールとエタノールを混練し、次いで減圧乾燥することにより製造することができる。一つの好ましい態様において、本発明の多孔質ソルビトールの製造方法は、以下の工程:
a)溶融ソルビトールとエタノールを混練装置内に供給する工程、
b)混練装置内の溶融ソルビトールとエタノールとを50~78℃に保持しながら混練する工程、およびc)b)で得られた混練物を25~90℃、100~30000Paで減圧乾燥することによりエタノールを除去する工程を含む。
【0020】
さらに、上記の製造方法をより具体的に説明する。まず、工程a)において、10~70重量部の溶融ソルビトールと30~90重量部のエタノールを混練装置内に供給する。混練装置内への供給量は、好ましくは15~68重量部の溶融ソルビトールと32~85重量部のエタノールであり、より好ましくは20~65重量部の溶融ソルビトールと35~80重量部のエタノールである。
【0021】
工程a)において使用するエタノールに含まれる水分量は、例えば10重量%以下である。エタノールに含まれる水分量は、好ましくは8重量%以下、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは2重量%以下、特に好ましくは0重量%(エタノールのみ)である。エタノールに含まれる水分量が少ない程、製造される「多孔質ソルビトール」の比表面積が向上する傾向がある。
【0022】
次いで、工程b)において、混練装置内の溶融ソルビトールとエタノールとを50~78℃に保持しながら混練する。混練装置内の温度を50~78℃に保持することにより、混練装置内の溶融ソルビトールが急速に固化することなく、かつエタノールの揮散を抑制しながら溶融ソルビトールとエタノールとを混練できる。混練装置内の温度は、好ましくは55~78℃であり、より好ましくは60~75℃である。
【0023】
工程c)において、工程b)で得られた混練物を25~90℃、100~30000Paで減圧乾燥することによりエタノールを除去し、「多孔質ソルビトール」を得る。減圧乾燥は、例えばエバポレーターなどの減圧乾燥機を用いて行う。工程c)において得られる多孔質ソルビトールを、ブレンダー等により粉砕または整粒し、粉末にすることができる。
【0024】
上述した多孔質ソルビトールの製造に用いる装置としては、KRCニーダー、横型ニーダー、竪型ニーダー等の混練機が挙げられ、品質の点でKRCニーダー、横型ニーダーが好ましく、製造効率とのバランスに優れる点でKRCニーダーがより好ましい。
【0025】
本発明に用い得る多孔質ソルビトールの比表面積は、1m/g以上であり、5m/g以上のもの、7~30m/gのもの、および8~15m/gのものが例示される。
【0026】
本発明でいう比表面積は、例えばMONOSORB(ユアサアイオニクス株式会社製)またはこれと同等の比表面積測定装置において、BET式一点法で測定される値を意味する。例えば、比表面積は以下の測定条件で測定し得る。
[測定条件]
方法:BET式一点法
キャリアガス:窒素・ヘリウム混合ガス(N:He=30:70)
測定ガス流量:15cc/分
脱気条件:60℃、20分間
【0027】
本発明に用い得る多孔質ソルビトールの細孔容積は0.2mL/g以上であり、0.3mL/g以上のもの、0.4~2.5mL/gのもの、および0.5~1.5mL/gのものが例示される。
【0028】
本発明でいう細孔容積は、例えばPascal 240(Thermo Fisher Scientific社製)またはこれと同等の細孔容積測定装置において、水銀圧入法で測定される値を意味する。
【0029】
理論による限定を望むものではないが、本発明の多孔質ソルビトールを有効成分とする焼き菓子用品質改良剤は、生地の調製及び成型操作において、液状の低融点油脂が多孔質ソルビトールの粒子内部に吸収されることにより、生地の成型操作が容易となり、生地の器具等への付着を低減することができると考えられる。
【0030】
でんぷんを多く含む焼き菓子用生地を焼成した場合、約80度に達する過程でんぷんの糊化が完成し、生地の流動性がほぼ無くなる。一方、ソルビトールの融点は約90度である。多孔質ソルビトールを有効成分とする本発明の焼き菓子用品質改良剤は、焼成中の温度上昇による生地の軟化を抑制し、でんぷんの糊化完成後に多孔質ソルビトールが融解し、その内部に保持されていた油脂成分が生地へと放出される。このため、焼き菓子の生地の成型性、焼成時の保形性が改善されるだけではなく、配合された油脂が焼成後も生地に保持されるため、油脂の風味が増強され、サクサクとした食感を付与することが可能となる。また、製造中に使用する機器への油脂等の付着が低減され、製造現場の衛生状態が維持されるだけではなく、機器の洗浄で生じる排水の環境への負荷を低減することに繋がる。
【0031】
本発明の一態様として、多孔質ソルビトールを有効成分とする焼き菓子用品質改良剤と、焼き菓子の材料である糖類、穀物粉および油脂からなる群から選択される一種以上を含有する、焼き菓子用組成物を提供する。
【0032】
本発明の焼き菓子用組成物の好ましい態様の一つとして、焼き菓子用品質改良剤100重量部に対して、糖類10~1000重量部含有する。より好ましくは焼き菓子用品質改良剤100重量部に対して、糖類15~500重量部、さらに好ましくは糖類20~200重量部含有する。
【0033】
本発明に用いられる糖類としては、例えば、ショ糖、果糖、ブドウ糖、麦芽糖、乳糖、トレハロース、ソルビトール、マルチトール、還元パラチノースからなる群から選択される一種以上が挙げられる。中でも、ショ糖(粉砕ショ糖)が一般的であるが、焼き菓子の食感調整やカロリー調整、ショ糖不使用を目的に、ショ糖の一部或いは全量を置き換えてもよいし、2種以上を組みあわせて使用することも可能である。
【0034】
本発明の焼き菓子用組成物の好ましい態様の一つとして焼き菓子用品質改良剤100重量部に対して、穀物粉10~1000重量部含有する。より好ましくは焼き菓子用品質改良剤100重量部に対して、穀物粉100~500重量部、さらに好ましくは穀物粉200~300重量部含有する。
【0035】
本発明に用いられる穀物粉としては、例えば、小麦粉(強力粉、中力粉、薄力粉および全粒粉)、ライ麦粉、とうもろこし粉、大豆粉(全脂大豆粉および脱脂大豆粉)、米粉(上新粉、白玉粉、寒梅粉、らくがん粉、みじん粉、道明寺粉および玄米粉)、アーモンド粉およびタピオカ粉からなる群から選択される一種以上が挙げられる。
【0036】
本発明の焼き菓子用品質改良剤と、糖類、穀物粉等との混合は、一般的な装置を用いることが可能であり、例えば、パドルミキサーやV型混合装置などが挙げられる。
【0037】
本発明の焼き菓子用組成物の好ましい態様の一つとして焼き菓子用品質改良剤100重量部に対して、穀物粉10~1000重量部含有する焼き菓子用プレミックスが挙げられる。焼き菓子用プレミックスは、更に糖類を10~1000重量部含有してもよい。
【0038】
本発明の焼き菓子用組成物の好ましい態様の一つとして、焼き菓子用品質改良剤100重量部に対して、油脂100~10000重量部含有する。より好ましくは焼き菓子用品質改良剤100重量部に対して、油脂200~5000重量部、さらに好ましくは油脂300~2500重量部、特に好ましくは油脂400~1250重量部含有する。焼き菓子用品質改良剤100重量部に対して油脂が100重量部未満であると、生地が固くなり成型が困難となるだけでなく、焼き菓子のソルビトール含量が高くなり焼き菓子の吸湿性が増大する傾向があり、10000重量部超では品質保持効果が低くなる傾向がある。
【0039】
本発明に用いられる油脂としては、食用油脂であれば特に限定はなく、動物性のバター、ラードの他、植物性のマーガリン、ショートニング、ファットスプレッドおよび粉末油脂からなる群から選択される1種以上が挙げられる。これらは、焼き菓子の種類によって、シート状或いはチップ状に成型されたものを使用してもよい。
【0040】
本発明の焼き菓子用品質改良剤と油脂を混合する際の条件や装置は特に限定されないが、20~30℃に加温した油脂に多孔質ソルビトールを混合後、トレーなどに取り出し、10℃以下に冷蔵固化することで調製できる。また、焼き菓子の種類に合わせて、シート状或いはチップ状に成型しても良い。
【0041】
油脂成分に焼き菓子用品質改良剤を混合して得られる本発明の焼き菓子用組成物をシート状生地に成型し、同じくシート状に成型された別の生地と交互に重ね合わせたものを焼成することで、かさ高いパイ生地を製造することができる。
【0042】
本発明の焼き菓子用組成物の好ましい態様の一つとして、焼き菓子用品質改良剤100重量部に対して、糖類10~1000重量部、穀物粉10~1000重量部、および油脂100~10000重量部含有する焼き菓子用生地が提供される。
【0043】
本発明の焼き菓子用生地をシート状とし、これを型抜きして使用する場合、焼き菓子用品質改良剤を添加しない場合は油脂の液状化による形状の崩れを防ぐため10~15℃で速やかに型抜きを行う必要があるが、本発明の焼き菓子用生地は保形性が良好なため、より高い温度でも作業可能である。
【0044】
また、本発明の焼き菓子用生地は冷凍された状態で提供されてもよい。通常の生地と比較して、硬く欠けにくいため、ロスを低減することができる。冷凍された焼き菓子用生地としては、そのまま焼成できるように成型されても、最終的に成型される前のシート状や棒状等の形状で提供されてもよい。
【0045】
本発明の焼き菓子用組成物は、他の材料と組み合わせた焼成前の製品として提供されてもよい。例えば油脂成分に焼き菓子用品質改良剤を混合して得られる本発明の焼き菓子用組成物をシート状生地に成型し、同じくシート状に成型された別の生地と交互に重ね合わせて得られるパイシートを冷凍したもの、あるいは該パイシートを用いてフィリング類を包んで成型したものが挙げられる。
【0046】
本発明の焼き菓子用品質改良剤が配合された焼き菓子用組成物並びに本発明の焼き菓子用品質改良剤が配合された生地を焼成して得られる焼き菓子には、上述の成分以外に、その他の成分を含んでも良い。
【0047】
その他の成分としては、例えば、ココアパウダー、チョコレート、チョコチップ、キャラメル、チーズ、ナッツ類、及びはちみつ並びにこれらの加工品、コーン澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、米澱粉及び各種加工澱粉、増粘多糖類、デキストリン、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、モノグリセリド及び有機酸モノグリセリド等の乳化剤、ビタミンA、ビタミンB、ビタミンE及びビタミンC等のビタミン類、全脂粉乳、脱脂粉乳、乳パウダー、クリーミングパウダーなどの乳加工品、オリザノール、鉄分、カルシウム、レシチン、コエンザイムQ、酵母エキス、アミノ酸、卵殻パウダー、砂糖洋酒漬け果実、乾燥果実、乾燥野菜、フライ果実、フライ野菜、食塩やシーズニング、高甘未度甘味料、食用色素、香料などが挙げられる。これらは焼き菓子の色や風味の付与や食感の調整、栄養強化などの目的で用いられる。
【0048】
本発明の焼き菓子用品質改良剤を含有する焼き菓子用組成物を用いた焼き菓子の製造方法は、特に制限されず、例えばオーブン等による焼成調理、電子レンジ等によるマイクロ波調理、過熱水蒸気調理等の一般的な方法により製造することができる。
【0049】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【試験例】
【0050】
多孔質ソルビトール(1)の調製
粉末ソルビトールを加熱し、90℃の溶融ソルビトールを調製した。溶融ソルビトールとエタノール(25℃)を重量比で6:4となるようにし、連続式ニーダー(ジャケット温度70℃)に20kg/Hrの速度で供給した。排出されたフレーク状品を回収し、乾燥装置を用いて減圧乾燥(1,300Pa、ジャケット温度60℃、180分間)を行った。乾燥品を粉砕装置で粉砕(15,700rpm、30秒間)することで多孔質ソルビトール(1)を得た。用いた各材料を下記に示す。
【0051】
<材料>
・粉末ソルビトール「ウエノ」20M(株式会社ウエノフードテクノ製、ソルビトール純度92%)
・エタノール:発酵エタノール(第一アルコール株式会社製、95度エタノール(92.3重量%))
<装置>
・連続式ニーダー:KRCニーダー(S2型、株式会社栗本鐵工所製)
・粉砕装置:ブレンダー(16Speed Blender、Oster製)
・乾燥装置:ロータリーエバポレーター(N-1型、東京理化器械株式会社製 EYELA)
【0052】
調製した多孔質ソルビトール(1)および下記市販品について、下記評価方法で比表面積および細孔容積の測定を行った。測定結果を表1に示す。
・多孔質ソルビトール(2):パーテック(登録商標)SI 150(メルク社製、ソルビトール純度98.4%)
・粉末ソルビトール:粉末ソルビトール「ウエノ」20M(株式会社ウエノフードテクノ製、ソルビトール純度92%)
【0053】
<評価方法>
・比表面積
BET型比表面積計(MONOSORB、ユアサアイオニクス株式会社製)の測定セル(容積:1.7cm)に試料を1/2容量程度となるように入れ、以下の条件で測定した。
[測定条件]
方法:BET式一点法
キャリアガス:窒素・ヘリウム混合ガス(N:He=30:70)
測定ガス流量:15cc/分
脱気条件:120℃、20分間
【0054】
・細孔容積
水銀ポロシメーター(Pascal 240、Thermo Fisher Scientific社製)を用いて測定した。
【0055】
【表1】
【0056】
実施例1~6および比較例1~2
型抜きクッキー
<材料>
「油脂類」
・無塩バター(明治乳業株式会社)
「穀物粉」
・薄力粉(株式会社日清製粉ウェルナ)
「糖類」
・粉糖(株式会社徳倉)
「その他」
・ココアパウダー(大東カカオ株式会社)
【0057】
<焼き菓子用組成物の調製>
「糖類」+「多孔質ソルビトール」
予め各種ソルビトールと粉糖(粉砕グラニュ糖)を表2の重量比で混合したものを焼き菓子用組成物として用いた。
【表2】
【0058】
<生地の調製および成型>
室温で温度調整した無塩バター160gをボウルに入れゴムベラでクリーム状となるまで練った後、調製した焼き菓子用組成物を60g加えて混和した。そこへ予め薄力粉150gとココアパウダー50gを混合し調理用篩を通したものを混ぜ合わせ、25℃で30分間静置し生地を調製した。生地をクッキングペーパー上で厚さ10mmのシート状に伸ばし、4℃で30分間静置した後、径50mmの円形型で型抜きした。型抜きされた生地の寸法を実測したところ、いずれも厚さ10±1mm、径47±1mmの範囲であった。
【0059】
<生地の焼成>
型抜きした生地を25℃で10分間静置した後、オーブンを用いて180℃で15分間焼成した。焼成終了後、オーブンより取り出し、25℃で30分間冷却しクッキーサンプルを調製した。
【0060】
<評価方法>
焼成後の形状安定性評価
クッキーサンプル5個について以下の計測並びに観察を行った。
・厚さ(mm):ノギスを用いてクッキーサンプル中央部の厚さを測定した。
・上面径(mm)および底面径(mm):ノギスを用いてクッキーサンプルの最大径と最小径を測定し平均値を求めた。
・ヒビの程度:クッキーサンプルの内部にまで届くヒビの有無を観察した。
【0061】
<結果>
評価結果及び判定を表3に示した。
実施例1~6では、焼成後の厚みを維持しながら、上面径と底面径の広がりが抑制され、ヒビもほぼなく、形状が維持されていた。一方、比較例1、2では、焼成後の厚みが低下し、上面径と底面径共に大きく広がっており、ヒビも発生し、形状維持が十分であった。
【0062】
【表3】
【0063】
実施例7~8および比較例3~4
手動成型クッキー
<材料>
「油脂類」
・無塩バター(明治乳業株式会社)
「穀物分」
・薄力粉(株式会社日清製粉ウェルナ)
「糖類」
・粉糖(株式会社徳倉)
「その他」
・ココアパウダー(大東カカオ株式会社)
【0064】
<焼き菓子用組成物の調製>
「穀物粉」+「多孔質ソルビトール」
予め各種ソルビトールと薄力粉を表4の重量比で混合したものを焼き菓子用組成物として用いた。
【表4】
【0065】
<生地の調製および成型>
無塩バター160gをボウルに入れゴムベラでクリーム状となるまで練った後、上記品質改良剤を210gとココアパウダー50gを混ぜ合わせ、25℃で30分間静置し、更に4℃で30分間静置し生地を調製した。生地10gを量り取り手で球形に成型し、クッキングペーパー上並べた。焼成前の直径は凡そ4.7~4.8mmであった。
【0066】
<生地の焼成>
25℃で10分間静置した後、オーブンを用いて180℃で12分間焼成した。焼成終了後、オーブンより取り出し、25℃で30分間冷却しクッキーサンプルを調製した。
【0067】
<評価方法>
生地の成型性および付着性評価
成型後の形状および成型する際の材料の掌への付着性を観察した。
焼成後の形状安定性評価
クッキーサンプルの形状を肉眼で観察した。
【0068】
<結果>
成型後の形状並びに掌への付着性、焼成後の写真並びに評価結果を図1に示した。
成型時(焼成前)について、実施例7~8では、成型時に付着性が抑制され、成型性も良好であった。比較例3では成型性は許容できたが、付着性が高かった。比較例4では、付着性が高く、成型も困難であった。
焼成後について、実施例7~8では球~楕円状であり、ある程度形状が維持できていたが、比較例3,4では大きく変形し、元の形状を維持できなかった。
【0069】
実施例9~10および比較例5~7
パイ生地
<材料>
「油脂類」
・無塩バター(明治乳業株式会社)
・ショートニング(日清オイリオグループ株式会社)
「穀物粉」
・強力粉(株式会社日清製粉ウェルナ)
・薄力粉(株式会社日清製粉ウェルナ)
「糖類」
・粉糖(株式会社徳倉)
「その他」
・脱脂粉乳(よつ葉乳業株式会社)
・食塩(株式会社日本海水)
【0070】
<焼き菓子用組成物の調製>
「油脂類」+「多孔質ソルビトール」
予め各種ソルビトールまたは粉糖、および無塩バターを表5の重量比で混合したものを材料として用いた。まず、無塩バターをボウルに入れ湯煎により25℃まで加温し、ゴムベラでクリーム状となるまで練った後、そこに各種ソルビトールまたは粉糖を投入し、更にゴムベラで均一になるまで混合した後、厚さが凡そ3mmとなるようにトレーに流し込み、一晩12~15℃保管し、シート状の焼き菓子用組成物を調製した。
【0071】
【表5】
【0072】
<生地の調製および成型>
パイ生地の各材料(強力粉75重量%、薄力粉25重量%、ショートニング5重量%、脱脂粉乳4重量%、食塩1.5重量%、水52重量%)を混合し生地を調製し、4℃で一晩エージングした。エージング後の生地を4等分し、生地とシート状の保形性向上組成物を交互に重ね合わせ、3回折りたたんだ。最終的に厚さ10mmのシート状に伸ばし、4℃で30分間静置した。冷蔵庫から生地を取り出し、径50mmの円形型で型抜きした。尚、型抜きされた生地の寸法を実測したところ、いずれも厚さ10±1mm、径47±1mmの範囲であった。
【0073】
<生地の焼成>
型抜きした生地を25℃で10分間静置した後、オーブンを用いて220℃で18分間焼成した。焼成終了後、オーブンより取り出し、25℃で30分間冷却しパイ生地サンプルを調製した。
【0074】
<評価方法>
パイ生地サンプル5個について以下の計測並びに観察を行った。
・高さ(mm):ノギスを用いて焼成前後のパイ生地サンプル中央部の高さを測定し平均値を求めた。
・重量(g):焼成前後のパイ生地の重量を測定し平均値を求めた。
・層形成:焼成後のパイ生地をパン切り包丁で切り、その断面を観察した。
・食味:実際に食し、バターの風味増強効果と、食感改良効果(サクサクとした食感の付与効果)を判定した。
【0075】
<結果>
焼成後の断面の写真及び層形成評価結果を図2に、焼成前後の平均高さ及び評価結果を表6に、平均重量及び評価結果を表7に、食味評価結果と総合判定を表8に示した。
【0076】
実施例9~10では、焼成後のパイ生地の層形成が促進され、かさ高く、豊かなバター風味があり、軽い食感の仕上がりとなった。一方、比較例5~7では、焼成後のパイ生地の層形成が不十分であり、かさが低く、バター風味が少なく、軽い食感の仕上がりではなかった。
【0077】
【表6】
【0078】
【表7】
【0079】
【表8】
図1
図2