(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143017
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】シリコン部材、および、シリコン部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20241003BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H01L21/302 101G
H01L21/31 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055468
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】西村 和泰
(72)【発明者】
【氏名】角野 知之
【テーマコード(参考)】
5F004
5F045
【Fターム(参考)】
5F004BA06
5F004BB28
5F004BB29
5F045AA08
5F045EF05
5F045EF11
5F045EH05
(57)【要約】
【課題】割れの発生を抑制でき、安定して使用可能なシリコン部材、および、このシリコン部材の製造方法を提供する。
【解決手段】プラズマ処理装置に用いられるシリコン部材であって、複数の単結晶シリコン部材が接合された構造とされており、接合面を介して積層される一組の前記単結晶シリコン部材は、互いの接合面における劈開方向がずれるように配置されている。前記単結晶シリコン部材の接合面の結晶面方位を確認する結晶面方位確認工程と、一組の前記単結晶シリコン部材を、互いの接合面における劈開方向がずれるように配置して積層する単結晶シリコン部材積層工程と、積層した一組の前記単結晶シリコン部材を接合する接合工程と、を有している。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ処理装置に用いられるシリコン部材であって、
複数の単結晶シリコン部材が接合された構造とされており、接合面を介して積層される一組の前記単結晶シリコン部材は、互いの接合面における劈開方向がずれるように配置されていることを特徴とするシリコン部材。
【請求項2】
接合面を介して積層される一組の前記単結晶シリコン部材は、互いの接合面が同一の結晶面方位を有していることを特徴とする請求項1に記載のシリコン部材。
【請求項3】
接合面を介して積層される一組の前記単結晶シリコン部材は、互いの接合面が異なる結晶面方位を有していることを特徴とする請求項1に記載のシリコン部材。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のシリコン部材を製造するシリコン部材の製造方法であって、
前記単結晶シリコン部材の接合面の結晶面方位を確認する結晶面方位確認工程と、
一組の前記単結晶シリコン部材を、互いの接合面における劈開方向が5°以上ずれるように配置して積層する単結晶シリコン部材積層工程と、
積層した一組の前記単結晶シリコン部材を接合する接合工程と、
を有していることを特徴とするシリコン部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置に用いられるシリコン部材、および、シリコン部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば半導体デバイス製造プロセスに使用されるプラズマエッチング装置やプラズマCVD装置等のプラズマ処理装置においては、各種装置のチャンバー内に、高周波電源に接続される電極板と架台とを例えば上下に対向配置し、架台の上にシリコンウエハを載置した状態として、電極板に形成した貫通孔(通気孔)からガスをシリコンウエハに向かって流通させながら高周波電圧を印加することによりプラズマを発生させ、シリコンウエハにエッチング等の処理を行う構成とされている。
【0003】
上述のプラズマ処理装置等においては、チャンバー内の金属汚染を抑制するために、シリコン部材が広く使用されている。
例えば、プラズマ処理装置に用いられる電極板としては、シリコン板材に複数の通気孔が形成された構造のシリコン部材が使用されている。
【0004】
ここで、プラズマ処理装置等のチャンバー内に配設されたシリコン部材においては、例えば特許文献1に示すように、コンタミネーションやパーティクルの発生を抑制するために、加工するウェーハと同種材料である単結晶シリコンで構成されたものが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、上述のプラズマ処理装置においては、ウェーハの加工速度や加工精度を向上するために、印加する高周波の出力が飛躍的に増加している。それに伴い、シリコン部材へのプラズマからの入熱が増加している。これにより、シリコン部材の冷却が十分になされず、シリコン部材の熱膨張や熱分布による反り、瞬間的な熱衝撃により、シリコン部材に割れが生じるおそれがある。
【0007】
特に、単結晶シリコンは劈開面に沿って割れやすい傾向にあるため、劈開方向に沿って荷重をかけたような曲げ応力が作用すると、シリコン部材に割れが生じやすくなる。
また、プラズマ処理装置等のチャンバー内に配設されたシリコン部材においては、比較的大型であるとともに、貫通孔等を形成するために加工する必要があり、この加工時にも割れが発生しやすいおそれがあった。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、割れの発生を抑制でき、安定して使用可能なシリコン部材、および、このシリコン部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の態様1のシリコン部材は、プラズマ処理装置に用いられるシリコン部材であって、複数の単結晶シリコン部材が接合された構造とされており、接合面を介して積層される一組の前記単結晶シリコン部材は、互いの接合面における劈開方向が5°以上ずれるように配置されていることを特徴としている。
【0010】
本発明の態様1のシリコン部材によれば、複数の単結晶シリコン部材が接合された構造とされており、接合面を介して積層される一組の前記単結晶シリコン部材が、互いの接合面における劈開方向がずれるように配置されているので、積層された前記単結晶シリコン部材の劈開方向が互いに異なることから、互いの前記単結晶シリコン同士が補強し合うことになり、曲げ応力が作用した場合であっても、シリコン部材における割れの発生を抑制することが可能となる。
【0011】
本発明の態様2のシリコン部材は、態様1のシリコン部材において、接合面を介して積層される一組の前記単結晶シリコン部材は、互いの接合面が同一の結晶面方位を有していることを特徴としている。
本発明の態様2のシリコン部材によれば、接合面を介して積層される一組の前記単結晶シリコン部材の互いの接合面が同一の結晶面方位とされていることから、面内方向で回転させることで、接合面における劈開方向がずれるように、一組の前記単結晶シリコン部材を積層することができる。
【0012】
本発明の態様3のシリコン部材は、態様1のシリコン部材において、接合面を介して積層される一組の前記単結晶シリコン部材は、互いの接合面が異なる結晶面方位を有していることを特徴としている。
本発明の態様3のシリコン部材によれば、接合面を介して積層される一組の前記単結晶シリコン部材の互いの接合面が異なる結晶面方位とされていることから、接合面における劈開方向が互いに異なることになり、接合面における劈開方向がずれるように、一組の前記単結晶シリコン部材を積層することができる。
【0013】
本発明の態様4のシリコン部材の製造方法は、態様1から態様3のいずれか一つのシリコン部材を製造するシリコン部材の製造方法であって、前記単結晶シリコン部材の接合面の結晶方位を確認する結晶方位確認工程と、一組の前記単結晶シリコン部材を、互いの接合面における劈開方向がずれるように配置して積層する単結晶シリコン部材積層工程と、積層した一組の前記単結晶シリコン部材を接合する接合工程と、を有していることを特徴としている。
【0014】
本発明の態様4のシリコン部材の製造方法によれば、複数の単結晶シリコン部材が接合された構造とされており、接合面を介して積層される一組の前記単結晶シリコン部材は、互いの接合面における劈開方向がずれるように配置された構造のシリコン部材を安定して製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、割れの発生を抑制でき、安定して使用可能なシリコン部材、および、このシリコン部材の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係るシリコン部材の一例を示す説明図である。(a)が斜視図、(b)が接合部の拡大説明図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るシリコン部材を構成する単結晶シリコン部材の説明図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るシリコン部材の製造方法を示すフロー図である。
【
図4】
図3に示すシリコン部材の製造方法における積層工程の説明図である。(a)が切欠部を用いて位置合わせをしたもの、(b)がピンを用いて位置合わせをしたものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態であるシリコン部材、および、シリコン部材の製造方法について説明する。
本実施形態であるシリコン部材においては、例えば、例えば半導体デバイス製造プロセスに使用されるプラズマエッチング装置やプラズマCVD装置等のプラズマ処理装置において、チャンバー内に配設されるシリコン部材であり、本実施形態では、シリコン板材に複数の通気孔が形成された構造のシリコン電極板とされている。
【0018】
本実施形態であるシリコン部材10は、
図1(a)に示すように、厚さ方向に貫通する複数の通気孔10Aと、第1単結晶シリコン部材11と、第2単結晶シリコン部材12とを備えている。
そして、本実施形態であるシリコン部材10は、
図1(a),(b)に示すように、第1単結晶シリコン部材11と第2単結晶シリコン部材12とが厚さ方向に接合された構造とされており、第1単結晶シリコン部材11と第2単結晶シリコン部材12とが、接合層15を介して積層した構造とされている。
【0019】
なお、本実施形態においては、上述の接合層15は、シリコン酸化物で構成されており、第1単結晶シリコン部材11と第2単結晶シリコン部材12とが、接合層15を構成するシリコン酸化物を介して接合されている。なお、本実施形態においては、接合層15を構成するシリコン酸化物はSiO2とされている。
【0020】
本実施形態においては、第1単結晶シリコン部材11の接合面と第2単結晶シリコン部材12の接合面が同一の結晶面方位を有しており、本実施形態では、第1単結晶シリコン部材11の接合面と第2単結晶シリコン部材12の接合面がそれぞれ(100)面とされている。
ここで、単結晶シリコンの(100)面においては、
図2に示すように、劈開方向が、互いに直交する2方向(X方向およびY方向)とされている。
【0021】
そして、本実施形態においては、第1単結晶シリコン部材11の接合面における劈開方向(X1方向、Y1方向)と、第2単結晶シリコン部材12の接合面における劈開方向(X2方向、Y2方向)とがずれるように(すなわち、劈開方向(X1方向、Y1方向)と劈開方向(X2方向、Y2方向)とが一致しないように)、配置されている。
なお、「接合面における劈開方向」は、単結晶シリコン部材の劈開方向を接合面に投影した方向である。
【0022】
ここで、本実施形態においては、
図2(b)に示すように、シリコン部材10を厚さ方向(積層方向)から見た際に、第1単結晶シリコン部材11の接合面における劈開方向(X1方向、Y1方向)と、第2単結晶シリコン部材12の接合面における劈開方向(X2方向、Y2方向)とがなす角度(最小角度)θが5°以上となるように、第1単結晶シリコン部材11と第2単結晶シリコン部材12が積層配置されていることが好ましい。
本実施形態では、上述のように、第1単結晶シリコン部材11および第2単結晶シリコン部材12の接合面が(100)面とされ、その接合面における劈開方向が、互いに直交する2方向(X方向およびY方向)とされているので、90°回転することで劈開方向が一致することになるため、第1単結晶シリコン部材11の接合面における劈開方向(X1方向、Y1方向)と、第2単結晶シリコン部材12の接合面における劈開方向(X2方向、Y2方向)とがなす角度(最小角度)θは5°以上45°以下の範囲内とされている。なお、第1単結晶シリコン部材11の接合面における劈開方向(X1方向、Y1方向)と、第2単結晶シリコン部材12の接合面における劈開方向(X2方向、Y2方向)とがなす角度(最小角度)θは10°以上45°以下の範囲内としてもよい。
【0023】
次に、本実施形態であるシリコン部材10の製造方法について、
図3および
図4を参照して説明する。
【0024】
本実施形態であるシリコン部材10の製造方法においては、
図3に示すように、第1単結晶シリコン部材11の接合面および第2単結晶シリコン部材12の接合面の結晶面方位を確認する結晶面方位確認工程S01と、第1単結晶シリコン部材11および第2単結晶シリコン部材12を、互いの接合面における劈開方向がずれるように配置して積層する単結晶シリコン部材積層工程S02と、積層した第1単結晶シリコン部材11および第2単結晶シリコン部材12を接合する接合工程S03と、第1単結晶シリコン部材11および第2単結晶シリコン部材12の接合体に対して加工を行う加工工程S04と、を備えている。
【0025】
以下に、本実施形態であるシリコン部材10の製造方法の各工程について詳しく説明する。
【0026】
(結晶面方位確認工程S01)
第1単結晶シリコン部材11の接合面、および、第2単結晶シリコン部材12の接合面の結晶面方位を確認する。なお、結晶面方位は、X線結晶方位測定法で測定することができる。
【0027】
(単結晶シリコン部材積層工程S02)
次に、第1単結晶シリコン部材11の接合面における劈開方向(X1方向、Y1方向)と、第2単結晶シリコン部材12の接合面における劈開方向(X2方向、Y2方向)とがずれるように(すなわち、劈開方向(X1方向、Y1方向)と劈開方向(X2方向、Y2方向)とが一致しないように)、相対的に面方向に回転させて積層する。
【0028】
ここで、本実施形態では、
図4(a)に示すように、第1単結晶シリコン部材11および第2単結晶シリコン部材12に切欠部16を設けて、第1単結晶シリコン部材11の接合面における劈開方向(X1方向、Y1方向)と、第2単結晶シリコン部材12の接合面における劈開方向(X2方向、Y2方向)とがずれるように、位置合わせして積層を行ってもよい。
あるいは、
図4(b)に示すように、第1単結晶シリコン部材11および第2単結晶シリコン部材12にピン孔17を設けて、ピン孔17とピンによって位置合わせして積層を行ってもよい。
【0029】
なお、本実施形態においては、第1単結晶シリコン部材11と第2単結晶シリコン部材12のうち少なくとも一方の接合面に、有機シリコン化合物と溶媒とを含むシリコン含有組成物を塗布し、シリコン含有組成物を介して第1単結晶シリコン部材11と第2単結晶シリコン部材12を積層している。
【0030】
ここで、シリコン含有組成物に含まれる有機シリコン化合物としては、シリケート類、シロキサン類、シラザン類、シラノール類、カルボン酸シリルエステル類から選択される一種または二種以上であることが好ましい。特に、有機シリコン化合物として、テトラエトキシシラン(TEOS)を用いることが好ましい。
また、シリコン含有組成物に含まれる溶媒としては、水、アルコール類、エーテル類、エステル類から選択される一種または二種以上であることが好ましい。
【0031】
さらに、シリコン含有組成物は、反応を促進するために、酸触媒を含有することが好ましい。なお、酸触媒としては、例えば、塩酸、硝酸、過酸化水素から選択される一種または二種以上を用いることが好ましい。
また、シリコン含有組成物は、シリコン含有組成物に含まれる有機シリコン化合物の状態を安定化させるために、安定化剤を含有することが好ましい。なお、安定化剤としては、二座配位子であるアセチルアセトン、コハク酸ジメチルから選択される一種または二種であることが好ましい。
【0032】
ここで、本実施形態においては、シリコン含有組成物は液組成物であり、その組成は、有機シリコン化合物を1mass%以上30mass%以下の範囲内、酸触媒を0.01mass%以上0.5mass%以下の範囲内、安定化剤を1mass%以上40mass%以下の範囲内、で含有し、残部が溶媒および不可避不純物、とされていることが好ましい。
【0033】
なお、シリコン含有組成物の塗布方法に特に制限はなく、スピンコートやディップコート、スプレーコート等、既存の各種方法 を適宜選択することができる。また、シリコン含有組成物の塗布厚さに特に制限はないが、本実施形態においては、シリコン含有組成物の塗布厚さを0.02μm以上50μm以下の範囲内としている。さらに、シリコン含有組成物を塗布後に乾燥工程を設けることが好ましい。乾燥工程は乾燥温度60℃以上200℃以下、乾燥時間1分以上60分以下で行うことが好ましい。
【0034】
(接合工程S03)
次に、上述のように積層した第1単結晶シリコン部材11および第2単結晶シリコン部材12を、積層方向に加圧した状態で加熱し、第1単結晶シリコン部材11と第2単結晶シリコン部材12とを接合層15を介して接合する。
加熱することにより、塗布したシリコン含有組成物の焼成が進行し、シリコン含有組成物がシリコン酸化物となるとともに、第1単結晶シリコン部材11と第2単結晶シリコン部材12とがシリコン酸化物からなる接合層15を介して接合されることになる。
【0035】
ここで、接合工程S03における加熱温度は200℃以上800℃以下の範囲内とすることが好ましい。
また、接合工程S03における加熱温度での保持時間は0.1時間以上2時間以下の範囲内とすることが好ましい。
さらに、接合工程S03における加圧荷重は0MPa以上100MPa以下、好ましくは5MPa以下とすることが好ましい。
【0036】
なお、接合工程S03の後に、接合された第1単結晶シリコン部材11と第2単結晶シリコン部材12を、フッ酸を含むエッチング液を用いてエッチング処理を行い、接合面からはみ出したシリコン酸化物を除去することが好ましい。ここで、フッ酸を含むエッチング液としては、例えば、希釈したフッ酸やフッ酸と硝酸の混合物、フッ酸、硝酸、酢酸の混合物等を用いることができる。
【0037】
(加工工程S04)
次に、第1単結晶シリコン部材11と第2単結晶シリコン部材12の接合体に対して、所定の形状となるように加工を行う。本実施形態では、該接合体に穴あけ加工を行い、通気孔(貫通孔)10Aを形成する。また、該接合体に対して表面研磨を実施する。
【0038】
上述の各種工程により、本実施形態であるシリコン部材10が製造されることになる。
【0039】
以上のような構成とされた本実施形態であるシリコン部材10によれば、第1単結晶シリコン部材11と第2単結晶シリコン部材12が厚さ方向に積層されて接合された構造とされており、第1単結晶シリコン部材11の接合面における劈開方向(X1方向、Y1方向)と第2単結晶シリコン部材12の接合面における劈開方向(X2方向、Y2方向)とがずれるように配置されているので、第1単結晶シリコン部材11または第2単結晶シリコン部材12のうちどちらか一方の劈開方向に負荷がかかった際に、もう一方は劈開方向がずれている状態であり、割れにくくなる。以上より、シリコン部材10に曲げ応力が作用した場合であっても、シリコン部材10における割れの発生を抑制することが可能となる。
【0040】
本実施形態であるシリコン部材10においては、第1単結晶シリコン部材11の接合面と第2単結晶シリコン部材12の接合面が同一の結晶面方位とされており、具体的には(100)面とされていることから、第1単結晶シリコン部材11および第2単結晶シリコン部材12を面内方向で相対的に回転させて積層することで、接合面における劈開方向がずれるように、第1単結晶シリコン部材11と第2単結晶シリコン部材12を積層することができる。
【0041】
さらに、本実施形態であるシリコン部材10においては、シリコン酸化物からなる接合層15を介して第1単結晶シリコン部材11と第2単結晶シリコン部材12とが確実に接合されている。ここで、接合層15を構成するシリコン酸化物のSi,Oは半導体プロセスにおいて汚染源とはならないため、このシリコン部材10をプラズマ処理装置等のチャンバー内に配設しても、プラズマ処理を安定して行うことができる。
【0042】
また、本実施形態であるシリコン部材10の製造方法によれば、第1単結晶シリコン部材11の接合面および第2単結晶シリコン部材12の接合面の結晶面方位を確認する結晶面方位確認工程S01と、第1単結晶シリコン部材11の接合面における劈開方向(X1方向、Y1方向)と第2単結晶シリコン部材12の接合面における劈開方向(X2方向、Y2方向)とがずれるように配置して積層する単結晶シリコン部材積層工程S02と、積層した第1単結晶シリコン部材11と第2単結晶シリコン部材12とを接合する接合工程S03と、を備えているので、本実施形態であるシリコン部材10を安定して製造することが可能となる。
【0043】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
本実施形態では、第1単結晶シリコン部材11の接合面と第2単結晶シリコン部材12の接合面が同一の結晶面方位とされており、第1単結晶シリコン部材11の接合面と第2単結晶シリコン部材12を面内で相対的に回転させて積層したものとして説明したが、これに限定されることはない。
【0044】
例えば、第1単結晶シリコン部材11の接合面と第2単結晶シリコン部材12の接合面が互いに異なる結晶面方位とし、これら第1単結晶シリコン部材11と第2単結晶シリコン部材12とを積層し、互いの接合面における劈開方向がずれるように配置してもよい。
【0045】
シリコン部材12の接合面の結晶面方位を(100)面とし、これら第1単結晶シリコン部材11と第2単結晶シリコン部材12とを積層し、互いの接合面における劈開方向がずれるように配置してもよい。
【0046】
第1単結晶シリコン部材11の接合面の結晶面方位を(111)面、および第2単結晶シリコン部材12の接合面の結晶面方位を(110)面とし、これら第1単結晶シリコン部材11と第2単結晶シリコン部材12とを積層し、互いの接合面における劈開方向がずれるように配置してもよい。
【0047】
第1単結晶シリコン部材11の接合面の結晶面方位を(100)面、および第2単結晶シリコン部材12の接合面の結晶面方位を(111)面とし、これら第1単結晶シリコン部材11と第2単結晶シリコン部材12とを積層し、互いの接合面における劈開方向がずれるように配置してもよい。
【0048】
第1単結晶シリコン部材11の接合面の結晶面方位を(100)面、および第2単結晶シリコン部材12の接合面の結晶面方位を(110)面とし、これら第1単結晶シリコン部材11と第2単結晶シリコン部材12とを積層し、互いの接合面における劈開方向がずれるように配置してもよい。
【0049】
第1単結晶シリコン部材11の接合面の結晶面方位を(110)面、および第2単結晶シリコン部材12の接合面の結晶面方位を(100)面とし、これら第1単結晶シリコン部材11と第2単結晶シリコン部材12とを積層し、互いの接合面における劈開方向がずれるように配置してもよい。
【0050】
第1単結晶シリコン部材11の接合面の結晶面方位を(110)面、および第2単結晶シリコン部材12の接合面の結晶面方位を(111)面とし、これら第1単結晶シリコン部材11と第2単結晶シリコン部材12とを積層し、互いの接合面における劈開方向がずれるように配置してもよい。
【0051】
また、本実施形態では、シリコン含有組成物を加熱してシリコン酸化物からなる接合層15を形成し、このシリコン酸化物からなる接合層15を介して第1単結晶シリコン部材11と第2単結晶シリコン部材12とを接合したものとして説明したが、接合方法に特に限定はない。
【0052】
例えば、第1単結晶シリコン部材11と第2単結晶シリコン部材12との間に、接合層になる接合材としてSiの含有量が0.5mass%以上12.6mass%以下の範囲内のAl-Si合金を配設し、この接合材を介して積層した第1単結晶シリコン部材11と第2単結晶シリコン部材12を積層方向に加圧した状態で加熱し、第1単結晶シリコン部材11と第2単結晶シリコン部材12を接合してもよい。
このとき、第1単結晶シリコン部材11の接合面および第2単結晶シリコン部材12の接合面にAl層を形成して接合する、もしくは対面するAl層同士の間に接合材を配設してもよい。また、本実施形態では、第1単結晶シリコン部材11と第2単結晶シリコン部材12とを直接接合してもよい。
【実施例0053】
以下に、本発明の有効性を確認するために行った確認実験の結果について説明する。
【0054】
本発明例および比較例として、2枚の単結晶シリコン板(直径200mm×厚さ6.5mm)を準備し、これらの接合面の結晶面方位を確認し、互いの接合面における劈開方向の交差角θを表1に示す数値となるように位置合わせを行い、第1単結晶シリコン板と第2単結晶シリコン板とを積層した。
そして、表1に示す方法により、第1単結晶シリコン板と第2単結晶シリコン板とを接合した。
【0055】
ここで、表1の「Al接合」においては、第1単結晶シリコン板と第2単結晶シリコン板の接合面に、Alスパッタリングターゲットを用いてAl膜(膜厚1μm)をスパッタ成膜した。このAl膜同士が向き合うように第1単結晶シリコン板と第2単結晶シリコン板を重ね合わせて、積層方向に加圧(3MPa)し、温度600℃で2時間保持の条件で加圧熱処理を行い、第1単結晶シリコン板と第2単結晶シリコン板とを接合した。
【0056】
また、表1の「直接接合」においては、第1単結晶シリコン板と第2単結晶シリコン板の接合面を鏡面仕上げし、その後酸素プラズマを照射して親水化処理した。この親水化処理した接合面同士が向き合うように第1単結晶シリコン板と第2単結晶シリコン板を重ね合わせて、積層方向に加圧(6MPa)し、温度1000℃で5時間保持の条件で加圧熱処理を行い、第1単結晶シリコン板と第2単結晶シリコン板とを接合した。
【0057】
また、従来例として、単結晶シリコンで構成された1枚のシリコン板を準備した。
上述の本発明例、比較例、従来例のシリコン部材から、曲げ試験片(幅4mm,厚さ3mm、長さ40mm)をそれぞれ5個採取し、室温にて島津製オートグラフAG-Xを用いて3点曲げ試験を実施し、5個の平均値を算出した。
そして、従来例の曲げ強度を100とし、本発明例及び比較例の曲げ強度を相対評価した。評価結果を表1に示す。
【0058】
【0059】
比較例1,2においては、第1単結晶シリコン板の接合面および第2単結晶シリコン板の接合面の結晶面方位が(100)面で同一であり、その劈開方向が一致するように配置されていることから、従来例に比べて、曲げ強度がほとんど向上しなかった。
表1に示すように、比較例1においては、従来例に比べて曲げ強度が2%の向上であり、比較例2においては、従来例に比べて曲げ強度に変化は見られなかった。このように、比較例1,2においては、従来例に比べて、曲げ強度が5%未満の向上であった。
【0060】
これに対して、本発明例1~4においては、第1単結晶シリコン板の接合面および第2単結晶シリコン板の接合面の結晶面方位が(100)面で同一であるが、その劈開方向がずれるように配置されていることから、従来例に比べて、曲げ強度が大きく向上した。
表1に示すように、本発明例1においては、劈開方向の角度差が5°であり従来例に比べて曲げ強度が6%の向上であり、本発明例2においては、劈開方向の角度差が10°であり従来例に比べて曲げ強度が8%の向上であった。さらに、本発明例3においては、劈開方向の角度差が45°であり従来例に比べて曲げ強度が13%の向上であり、本発明例4においては、劈開方向の角度差が45°であり従来例に比べて曲げ強度が9%の向上であった。
【0061】
また、本発明例5においては、第1単結晶シリコン板の接合面の結晶面方位が(110) 面とされ、第2単結晶シリコン板接合面の結晶面方位が(100)面とされていることから、その劈開方向がずれるように配置されることになり、従来例に比べて、曲げ強度が大きく向上した。なお、(110)面と(100)面では劈開方向が異なるため、接合面における劈開方向の角度差が最小となる数値を劈開方向の角度差として表1に記載した。表1に示すように、本発明例5においては、劈開方向の角度差が5°であり従来例に比べて曲げ強度が6%の向上であった。
このように、本発明例1~5においては、従来例に比べて曲げ強度が5%以上の向上であった。
【0062】
以上の結果、本発明例によれば、割れの発生を抑制でき、安定して使用可能なシリコン部材、および、このシリコン部材の製造方法を提供可能であることが確認された。