(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143019
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】シリコン部材、および、シリコン部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20241003BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H01L21/302 101G
H01L21/31 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055470
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】西村 和泰
【テーマコード(参考)】
5F004
5F045
【Fターム(参考)】
5F004BA06
5F004BB28
5F004BB29
5F045AA08
5F045EF05
5F045EF11
5F045EH05
(57)【要約】
【課題】複数の板状部材が確実に接合され、耐熱性に優れるとともにコンタミの発生を抑制可能なシリコン部材、および、このシリコン部材の製造方法を提供する。
【解決手段】プラズマ処理装置に用いられるシリコン部材であって、Si含有材料からなる複数の板状部材が厚さ方向に接合された構造とされており、前記板状部材同士の接合部におけるSiの含有量が90mass%以上であり、Si以外の金属元素の合計含有量が5mass%以下であり、前記板状部材同士の接合強度が5MPa以上であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ処理装置に用いられるシリコン部材であって、
Si含有材料からなる複数の板状部材が厚さ方向に接合された構造とされており、前記板状部材同士の接合部におけるSiの含有量が90mass%以上であり、Si以外の金属元素の合計含有量が5mass%以下であり、
前記板状部材同士の接合強度が5MPa以上であることを特徴とするシリコン部材。
【請求項2】
前記接合部におけるSi以外の金属元素としてAl,Ti,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,In,Sn,Zn,Y,Mo,Hf,Ta,W,Pbの合計含有量が5mass%以下であることを特徴とする請求項1に記載のシリコン部材。
【請求項3】
前記接合部において前記板状部材同士が酸素を介して接合されていることを特徴とする請求項1に記載のシリコン部材。
【請求項4】
前記接合部におけるボイド率が20%以下であることを特徴とする請求項1に記載のシリコン部材。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のシリコン部材を製造するシリコン部材の製造方法であって、
複数の前記板状部材を直接積層する積層工程と、積層した前記板状部材同士を積層方向に加圧した状態で加熱し、前記板状部材同士を接合する接合工程と、を有し、
前記接合工程においては、加圧荷重を3MPa以上12MPa以下の範囲内、加熱温度を600℃以上1300℃以下の範囲内、加熱温度での保持時間を2時間以上15時間以下の範囲内とすることを特徴とするシリコン部材の製造方法。
【請求項6】
前記積層工程の前に、前記板状部材の接合面にOH基を導入するOH基導入処理工程を有していることを特徴とする請求項5の記載のシリコン部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置に用いられるシリコン部材、および、シリコン部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば半導体デバイス製造プロセスに使用されるプラズマエッチング装置やプラズマCVD装置等のプラズマ処理装置においては、各種装置のチャンバー内に、高周波電源に接続される電極板と架台とを例えば上下に対向配置し、架台の上にシリコンウエハを載置した状態として、電極板に形成した貫通孔からガスをシリコンウエハに向かって流通させながら高周波電圧を印加することによりプラズマを発生させ、シリコンウエハにエッチング等の処理を行う構成とされている。
【0003】
上述のプラズマ処理装置等においては、チャンバー内の金属汚染を抑制するために、シリコン部材が広く使用されている。
例えば、プラズマ処理装置に用いられる電極板としては、板状部材に複数の通気孔が形成された構造のシリコン部材が使用されている。
【0004】
プラズマ処理装置等のチャンバー内に配設されたシリコン部材においては、使用によって徐々に損耗することになる。
そのため、損耗したシリコン部材に他のシリコン部材を接合し、得られたシリコン接合体をシリコン部材として再利用することが求められている。
【0005】
また、電極板のプラズマ面側で発生したプラズマが、通気孔を通じてプラズマ面の反対側の面に入り込み、電極板の周囲部材を損傷させるおそれがある。これを抑制するために、通気孔を屈曲した複雑な形状とすることが考えられる。このような複雑な形状の通気孔を形成するためには、それぞれに貫通孔を形成した複数の板状部材を厚さ方向に接合し、シリコン板同士の接合面に貫通孔同士を連通する溝を形成することが考えられる。
【0006】
ここで、例えば、特許文献1においては、シリコン製の複数の板状電極部材を厚さ方向に接合したシリコン電極板が開示されている。
この特許文献1においては、板状電極部材の間にAl,In,Sn等の共晶形成元素を配設して加熱処理することにより、Siと共晶形成元素からなる接合部を形成し、板状電極部材同士を接合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に記載されたシリコン電極板においては、接合部がシリコンとの共晶合金(例えば、Al-Si共晶合金等)で構成されているため、接合部にクラックが生じるおそれがあり、耐熱性が不十分であった。また、接合部にボイドや引け巣が生じ、接合強度が低くなるおそれがあった。
【0009】
さらに、接合部にAl,In,Sn等の共晶形成元素が存在しており、エッチングガスとして腐食性ガスを用いた際に接合部が劣化するおそれがあるため、使用するエッチングガスが制限されるといった問題があった。
また、使用によって電極板が損耗して通気孔が拡大した際に、接合部に含まれるAl,In,Sn等の共晶形成元素がコンタミの原因となるおそれがあった。
【0010】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、複数の板状部材が確実に接合され、耐熱性に優れるとともにコンタミの発生を抑制可能なシリコン部材、および、このシリコン部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の態様1のシリコン部材は、プラズマ処理装置に用いられるシリコン部材であって、Si含有材料からなる複数の板状部材が厚さ方向に接合された構造とされており、前記板状部材同士の接合部におけるSiの含有量が90mass%以上であり、Si以外の金属元素の合計含有量が5mass%以下であり、前記板状部材同士の接合強度が5MPa以上であることを特徴としている。
【0012】
本発明の態様1のシリコン部材によれば、前記板状部材同士の接合部におけるSiの含有量が90mass%以上であり、Si以外の金属元素の合計含有量が5mass%以下に制限されているので、プラズマ処理装置内におけるコンタミの発生を抑制することができる。また、腐食性のエッチングガスを使用可能となり、エッチングガスを広く選択することが可能となる。また、接合部が共晶合金で構成されていないことから、耐熱性に優れている。
そして、前記板状部材同士の接合強度が5MPa以上とされており、板状部材同士が十分な強度で確実に接合されている。
よって、プラズマ処理装置用シリコン部材として、安定して使用することができる。
【0013】
本発明の態様2のシリコン部材は、態様1のシリコン部材において、前記接合部におけるSi以外の金属元素としてAl,Ti,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,In,Sn,Zn,Y,Mo,Hf,Ta,W,Pbの合計含有量が5mass%以下であることを特徴としている。
本発明の態様2のシリコン部材によれば、前記接合部におけるSi以外の金属元素としてAl,Ti,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,In,Sn,Zn,Y,Mo,Hf,Ta,W,Pbの合計含有量が5mass%以下とされていることから、コンタミの発生を抑制することができるとともに、エッチングガスをさらに広く選択することが可能となる。
【0014】
本発明の態様3のシリコン部材は、態様1または態様2のシリコン部材において、前記接合部において前記板状部材同士が酸素を介して接合されていることを特徴としている。
本発明の態様3のシリコン部材によれば、前記接合部において前記板状部材同士が酸素を介して接合されており、シリコン部材同士を強固に接合することができる。
【0015】
本発明の態様4のシリコン部材は、態様1から態様3のいずれかひとつのシリコン部材において、前記接合部におけるボイド率が20%以下であることを特徴としている。
本発明の態様4のシリコン部材によれば、前記接合部におけるボイド率が20%以下とされていることから、シリコン部材同士が強固に接合されており、接合強度を十分に向上させることができる。
【0016】
本発明の態様5のシリコン部材の製造方法は、態様1から態様4のいずれか一つのシリコン部材を製造するシリコン部材の製造方法であって、複数の前記板状部材を直接積層する積層工程と、と、積層した前記板状部材同士を積層方向に加圧した状態で加熱し、前記板状部材同士を接合する接合工程と、を有し、前記接合工程においては、加圧荷重を3MPa以上12MPa以下の範囲内、加熱温度を600℃以上1300℃以下の範囲内、加熱温度での保持時間を2時間以上10時間以下の範囲内とすることを特徴としている。
【0017】
本発明の態様5のシリコン部材の製造方法によれば、積層した前記板状部材同士を積層方向に加圧した状態で加熱して前記板状部材同士を接合する接合工程を有しているので、接合材等を用いておらず、接合部にシリコン以外の金属元素が含まれることを抑制することが可能となる。
そして、前記接合工程においては、加圧荷重を3MPa以上12MPa以下の範囲内、加熱温度を600℃以上1300℃以下の範囲内、加熱温度での保持時間を2時間以上15時間以下の範囲内としているので、板状部材の接合面に存在するOH基同士が結合するとともに脱水縮合反応し、板状部材同士を強固に接合することが可能となる。
【0018】
本発明の態様6のシリコン部材の製造方法は、態様5のシリコン部材の製造方法において、前記積層工程の前に、前記板状部材の接合面にOH基を導入するOH基導入処理工程を有していることを特徴としている。
本発明の態様6のシリコン部材の製造方法によれば、前記板状部材の接合面にOH基を導入するOH基導入処理工程を有しているので、板状部材の接合面に十分な量のOH基を配設することができ、板状部材同士を脱水縮合反応によって強固に接合することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、複数の板状部材が確実に接合され、耐熱性に優れるとともにコンタミの発生を抑制可能なシリコン部材、および、このシリコン部材の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係るシリコン部材の一例を示す説明図である。(a)が斜視図、(b)が接合部のX-X断面の拡大説明図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るシリコン部材同士の接合状態を示す説明図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るシリコン部材の製造方法を示すフロー図である。
【
図4】実施例における引張試験の概略説明図である。(a)が試験片,(b)が試験片および引張試験治具、(c)が引張試験機である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施形態であるシリコン部材、および、シリコン部材の製造方法について説明する。
本実施形態であるシリコン部材においては、例えば、例えば半導体デバイス製造プロセスに使用されるプラズマエッチング装置やプラズマCVD装置等のプラズマ処理装置において、チャンバー内に配設されるシリコン部材であり、本実施形態では、板状部材に複数の通気孔が形成された構造のシリコン電極板とされている。
なお、本実施形態のシリコン部材においては、使用によって損耗した複数のシリコン電極板を貼り合わせて、複数のシリコン電極板が厚さ方向に接合された構造を有する再生シリコン電極板として利用するものである。
【0022】
本実施形態であるシリコン部材10は、
図1(a)に示すように、厚さ方向に貫通する複数の通気孔10Aと、を備えている。
本実施形態であるシリコン部材10は、
図1(a),(b)に示すように、第1板状部材11と第2板状部材12とが厚さ方向に接合された構造とされており、第1板状部材11と第2板状部材12とは直接接合されている。なお、第1板状部材11および第2板状部材12は、例えば、シリコン、窒化ケイ素、炭化ケイ素等のSi含有材料で構成されている。また、第1板状部材11および第2板状部材12は、単結晶シリコン板、多結晶シリコン板、又は柱状晶シリコン板で構成されてもよい。単結晶シリコン板は、全体が単一の結晶からなり、原子の配列が同一とされており、多結晶シリコン板は、複数の結晶で構成されたものとされている。柱状晶シリコン板は、一方向に結晶成長させたインゴットを、結晶成長方向に直交する方向にスライスすることで製造される。
【0023】
そして、本実施形態においては、第1板状部材11と第2板状部材12の接合部におけるSi以外の金属元素の合計含有量が5mass%以下とされている。
なお、第1板状部材11と第2板状部材12の接合部におけるSi以外の金属元素の合計含有量が1mass%以下であることが好ましく、0.5mass%以下であることがより好ましい。なお、接合部におけるSi以外の金属元素の合計含有量の下限値は特に限定されないが0mass%であってもよい。
また、本実施形態においては、接合部におけるSi以外の金属元素としてAl,Ti,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,In,Sn,Zn,Y,Mo,Hf,Ta,W,Pbの合計含有量が5mass%以下とされていることが好ましい。なお、接合部におけるSi以外の金属元素としてAl,Ti,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,In,Sn,Zn,Y,Mo,Hf,Ta,W,Pbの合計含有量が1mass%以下であることが好ましく、0.5mass%以下であることがより好ましい。また、本実施形態において、接合部におけるSi以外の金属元素は、Al,Ti,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,In,Sn,Zn,Y,Mo,Hf,Ta,W,Pbの1種又は2種以上であることが好ましい。なお、接合部におけるSi以外の金属元素としてAl,Ti,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,In,Sn,Zn,Y,Mo,Hf,Ta,W,Pbの合計含有量の下限値は特に限定されないが0mass%であってもよい。
【0024】
また、本実施形態においては、第1板状部材11と第2板状部材12との接合強度が5MPa以上とされている。
なお、第1板状部材11と第2板状部材12との接合強度は、8MPa以上であることが好ましく、10MPa以上であることがより好ましい。
【0025】
また、本実施形態においては、第1板状部材11と第2板状部材12との接合部におけるボイド率が20%以下であることが好ましい。
なお、第1板状部材11と第2板状部材12と接合部におけるボイド率は10%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましい。ボイド率の下限に特に制限はされないが0%であってもよい。
【0026】
ここで、本実施形態であるシリコン部材10においては、
図2に示すように、第1板状部材11と第2板状部材12とが、酸素(O)を介して接合されていることが好ましい。
詳述すると、第1板状部材11の接合面および第2板状部材12の接合面には、OH基が存在しており、これらのOH基同士が結合して水が生成され、生成した水が蒸発する脱水縮合により、第1板状部材11の接合面のSiと第2板状部材12の接合面のSiとが酸素(O)を介して結合することになる。これにより、第1板状部材11と第2板状部材12とが強固に接合されているのである。
【0027】
次に、本実施形態であるシリコン部材10の製造方法について、
図3を参照して説明する。
【0028】
本実施形態であるシリコン部材10の製造方法においては、
図3に示すように、第1板状部材11および第2板状部材12の表面を研削する表面研削工程S01と、第1板状部材11および第2板状部材12の接合面にOH基を導入するOH基導入処理工程S02と、第1板状部材11と第2板状部材12との積層体を形成する積層工程S03と、積層体を積層方向に加圧した状態で加熱し、第1板状部材11と第2板状部材12とを接合する接合工程S04と、加工工程S05と、仕上げ工程S06と、を備えている。
【0029】
以下に、本実施形態であるシリコン部材10の製造方法の各工程について詳しく説明する。
【0030】
(表面研削工程S01)
第1板状部材11および第2板状部材12の表面を研削盤によって研削する。
なお、本実施形態では、使用済のシリコン電極板を2枚準備し、これら使用済みのシリコン電極板の表面(プラズマ面)を研削盤によって研削することにより、第1板状部材11および第2板状部材12とした。なお、プラズマ面を研削することにより、使用による損耗によって拡径した通気孔のプラズマ面側の部分が除去されることになる。
そして、コロイダルシリカやダイヤモンド砥粒等の研磨剤を含有したスラリーを用いて第1板状部材11および第2板状部材12の表面研磨を行う。
【0031】
(OH基導入処理工程S02)
次に、第1板状部材11および第2板状部材12の接合面にOH基を導入する。OH基の導入手段としては、例えば、酸素プラズマ、H2O2+H2SO4などの酸化剤、水の塗布、といった既存の手法を適宜選択して適用することができる。
なお、表面研削工程S01後の状態で、第1板状部材11および第2板状部材12の接合面にOH基が十分に存在している場合には、OH基導入処理工程S02を省略してもよい。
【0032】
(積層工程S03)
次に、第1板状部材11の接合面と第2板状部材12の接合面とが相対するように積層して積層体を形成する。なお、第1板状部材11の接合面および第2板状部材12の接合面には、それぞれOH基が存在している。
【0033】
(接合工程S04)
次に、積層体を積層方向に加圧した状態で加熱し、第1板状部材11および第2板状部材12を直接接合する。
ここで、接合工程S04においては、加圧荷重を3MPa以上12MPa以下の範囲内、加熱温度を600℃以上1300℃以下の範囲内、加熱温度での保持時間を2時間以上15時間以下の範囲内とする。
【0034】
互いの接合面にOH基が存在する第1板状部材11と第2板状部材12とを積層した状態で加圧して加熱することにより、
図2に示すように、OH基同士が結合するとともに、脱水縮合反応が進行し、第1板状部材11の接合面のSiと第2板状部材12の接合面のSiとが酸素(O)を介して結合することになる。
【0035】
接合工程S04における加圧荷重を3MPa以上とすることにより、接合面同士を十分に密着させることができ、第1板状部材11と第2板状部材12とを酸素を介して接合することが可能となる。また、加圧荷重を3MPa以上とすることにより、第1板状部材11と第2板状部材12に割れが生じることを抑制できる。
なお、接合工程S04における加圧荷重の下限は3MPa以上とすることが好ましく、6MPa以上とすることがより好ましい。また、加圧荷重の上限は15MPa以下とすることが好ましく、12MPa以下とすることがより好ましい。
【0036】
接合工程S04における加熱温度を600℃以上とすることにより、脱水縮合反応を十分に進行させることができ、第1板状部材11と第2板状部材12とを酸素を介して接合することが可能となる。また、加熱温度を1300℃以下とすることにより、第1板状部材11と第2板状部材12が変形および熱劣化することを抑制できる。
接合工程S04における加熱温度の下限は600℃以上とすることが好ましく、1000℃以上とすることがより好ましい。また、加熱温度の上限は1300℃以下とすることが好ましく、1200℃以下とすることがより好ましい。
【0037】
接合工程S04における加熱温度での保持時間を600時間以上とすることにより、脱水縮合反応を十分に進行させることができ、第1板状部材11と第2板状部材12とを酸素を介して接合することが可能となる。また、加熱温度での保持時間を15時間以下とすることにより、第1板状部材11と第2板状部材12が変形および熱劣化することを抑制できる。
接合工程S04における加熱温度での保持時間の下限は2時間以上とすることが好ましく、5時間以上とすることがより好ましい。また、加熱温度での保持時間の上限は15時間以下とすることが好ましく、10時間以下とすることがより好ましい。
【0038】
(加工工程S05)
次に、第1板状部材11と第2板状部材12の接合体に、ドリル加工やレーザ加工により通気孔10Aを形成する。また、切削加工により外形加工を行う。
【0039】
(仕上げ工程S06)
コロイダルシリカやダイヤモンド砥粒等の研磨剤を含有したスラリーを用いて第1板状部材11と第2板状部材12の接合体の表面研磨を行う。研磨後に流水洗浄する。なお、超音波洗浄、脱脂洗浄、酸洗浄を実施してもよい。また、研磨前に酸エッチングしてもよい。
【0040】
上述の各種工程により、本実施形態であるシリコン部材10が製造されることになる。
【0041】
以上のような構成とされた本実施形態であるシリコン部材10によれば、第1板状部材11と第2板状部材12との接合部におけるSi以外の金属元素の合計含有量が5mass%以下に制限されているので、プラズマ処理装置内におけるコンタミの発生を抑制することができる。また、腐食性のエッチングガスを使用可能となり、エッチングガスを広く選択することが可能となる。さらに、接合部が共晶合金で構成されていないことから、耐熱性に優れている。
そして、第1板状部材11と第2板状部材12との接合強度が10MPa以上とされていることから、第1板状部材11と第2板状部材12とが十分な強度で確実に接合されており、電極板として良好に使用することができる。
【0042】
本実施形態であるシリコン部材10において、接合部におけるSi以外の金属元素としてAl,Ti,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,In,Sn,Zn,Y,Mo,Hf,Ta,W,Pbの合計含有量が5mass%以下である場合には、プラズマ処理装置内におけるコンタミの発生を十分に抑制することができるとともに、エッチングガスをさらに広く選択することが可能となる。
【0043】
本実施形態であるシリコン部材10において、
図2に示すように、第1板状部材11と第2板状部材12とが酸素を介して接合されている場合には、板状部材同士を強固に接合することができる。
【0044】
本実施形態であるシリコン部材10において、第1板状部材11と第2板状部材12との接合部におけるボイド率が20%以下とされている場合には、第1板状部材11と第2板状部材12が強固に接合されており、接合強度を十分に向上させることができる。
【0045】
本実施形態であるシリコン部材10の製造方法においては、第1板状部材11と第2板状部材12とを直接積層する積層工程S03と、積層した第1板状部材11と第2板状部材12とを積層方向に加圧した状態で加熱し、第1板状部材11と第2板状部材12とを接合する接合工程S04と、を有しており、接合工程S04において、加圧荷重を3MPa以上12MPa以下の範囲内、加熱温度を600℃以上1250℃以下の範囲内、加熱温度での保持時間を2時間以上15時間以下の範囲内としているので、第1板状部材11および第2板状部材12の接合面に存在するOH基同士が結合するとともに脱水縮合反応し、第1板状部材11と第2板状部材12とを強固に接合することが可能となる。
また、板状部材同士の接合において接合材等を用いていないことから、接合部にシリコン以外の金属元素が含まれることを抑制できる。
【0046】
本実施形態であるシリコン部材10の製造方法において、積層工程S03の前に、第1板状部材11および第2板状部材12の接合面にOH基を導入するOH基導入処理工程S02を有している場合には、第1板状部材11および第2板状部材12の接合面に十分な量のOH基を配設することができ、板状部材同士を脱水縮合反応によって強固に接合することが可能となる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、シリコン部材は、使用済の2枚のシリコン電極板を接合することで形成された再生シリコン電極板としたものとして説明したが、これに限定されることはなく、シリコン部材は、Si含有材料からなる板状部材同士が接合されたものであればよく、3つ以上の板状部材が接合されたものであってもよい。
【0048】
例えば、本実施形態では、接合工程S04の後に、通気孔10Aを形成する加工工程S05を有するものとして説明したが、これに限定されることはなく、第1板状部材および第2板状部材に通気孔10Aとなる孔加工を実施しておき、これらを積層して接合する構成としてもよい。第1板状部材および第2板状部材に、貫通孔や溝を形成しておくことにより、屈曲した複雑形状の通気孔10Aを形成することが可能となる。
【実施例0049】
以下に、本発明の有効性を確認するために行った確認実験の結果について説明する。
【0050】
シリコン製の板状部材(φ350mm×5mmt)を準備した。そして、表1に示す条件で、2つの板状部材を接合した。
なお、本発明例1~7および比較例1~3は、接合材を用いずに直接接合した。また、比較例4では、接合材としてAl箔を用いて接合した。比較例5では、シリコーンと導電性フィラーを含むエラストマー材を接合材として用いて接合した。
得られたシリコン部材について、以下のように評価した。評価結果を表2に示す。
【0051】
(接合部のSi、および、Si以外の金属元素の含有量)
シリコン部材の積層方向に沿った断面を走査型電子顕微鏡(日本電子製JSM-IT500HR)で観察し、その断面における接合層を5000倍の視野で元素の線分析を行った。装置付随ソフト(エネルギー分散型X線分析)の定量機能を用い、接合部におけるSiと検出された元素での半定量分析を行った。なお、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)等が環境要因で容易に検出されやすいため、観察はイオンミリング直後に実施した。また、測定原理上、軽元素はバックグラウンド補正の精度が悪いため、本発明例である直接接合はSi以外の金属元素の比率が5mass%以下、Siの比率が90mass%以上とした。
また、線分析により、Al,Ti,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,In,Sn,Zn,Y,Mo,Hf,Ta,W,Pbの合計含有量の評価を行った。
【0052】
(接合強度)
図4に示すように、得られたシリコン部材を10mm角に切り出し、板状部材の接合面とは反対側の面をそれぞれ引張試験治具に接着剤を用いて接合した。そして、万能引張試験機にセットし、0.1mm/minの速度で引張試験を実施した。なお、接着剤による板状部材と引張試験治具との接合強度である10MPaを超える場合は「10MPa以上」と表記した。
【0053】
(ボイド率)
超音波探傷装置により、厚み方向に超音波を照射し、接合位置で反射波がある箇所をボイドとした。得られた超音波探傷像を2値化した画像から、接合部の全接合面積に対するボイド面積の割合をボイド率とした。
【0054】
(外観)
得られたシリコン部材の外観を目視観察し、割れ・欠けの有無を評価した。割れ・欠けが確認されたものを「×」、割れ・欠けが確認されなかったものを「〇」と表記した。
【0055】
(耐熱試験)
得られたシリコン部材を700℃で24時間保持し、700℃加熱前後の超音波探傷検査を実施した。確認した結果、割れや剥がれが確認されたものを「×」、超音波探傷像の変化(接合率の変化)の無かったものを「◎」と表記した。
【0056】
【0057】
【0058】
比較例1においては、接合時における加圧荷重が20MPaと大きく、シリコン部材に割れが生じた。なお、接合強度の評価は実施しなかった。
比較例2においては、接合時における加圧荷重が1MPaと小さく、板状部材同士を十分に接合できず、接合強度が3MPaと低くなった。
比較例3においては、接合時における加熱温度が200℃と低く、板状部材同士を十分に接合できず、接合強度が2MPaと低くなった。
比較例4においては、Alを接合材として用いたことから、接合部におけるSi以外の金属元素の合計含有量が100mass%となり、コンタミのおそれがあるとともに耐熱性が不十分であった。
比較例5においては、シリコーンと導電性フィラーを含むエラストマー材を接合材として用いたことから、接合部におけるSiの含有量が30mass%となり、Si以外の金属元素の合計含有量が40mass%となり、コンタミの恐れがあるとともに耐熱性が不十分であった。
【0059】
これに対して、本発明例1~7においては、シリコン製の板状部材同士を、接合材を用いずに直接接合していることから、接合部におけるSi以外の金属元素の合計含有量が5mass%以下となり、コンタミのおそれがないとともに耐熱性に優れていた。また、接合強度が5MPa以上であり、板状部材同士を強固に接合できた。
【0060】
以上の結果、本発明例によれば、複数の板状部材が確実に接合され、耐熱性に優れるとともにコンタミの発生を抑制可能なシリコン部材、および、このシリコン部材の製造方法を提供可能であることが確認された。