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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143031
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】アクリル酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/235 20060101AFI20241003BHJP
   C07C 57/05 20060101ALI20241003BHJP
   C07C 47/22 20060101ALI20241003BHJP
   C07C 45/33 20060101ALI20241003BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
C07C51/235
C07C57/05
C07C47/22 H
C07C45/33
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055497
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】岡村 淳志
(72)【発明者】
【氏名】井形 直央
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AB46
4H006AC12
4H006AC46
4H006BA02
4H006BA05
4H006BA10
4H006BA12
4H006BA13
4H006BA14
4H006BA19
4H006BA20
4H006BA21
4H006BB61
4H006BC31
4H006BE30
4H006BQ10
4H006BS10
4H039CA62
4H039CA65
4H039CC10
4H039CC60
(57)【要約】
【課題】 イソプロピルアルコールの爆発を避けながら高い収率でアクリル酸を製造する方法を提供する。
【解決手段】 イソプロピルアルコールからアクリル酸を製造する方法であって、該製造方法は、7~9容量%のイソプロピルアルコールと、イソプロピルアルコールに対して容量比で1.2~1.7倍の酸素とを含む反応ガスを用いて、イソプロピルアルコールと酸素からアクロレインを製造する第一工程と、該第一工程によって得られるアクロレインを含むガスに対して、第一工程に用いる反応ガスに含まれるイソプロピルアルコールに対して容量比で0.1~1.7倍の酸素を追加供給して、アクロレインと酸素からアクリル酸を製造する第二工程とを含むことを特徴とするアクリル酸の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソプロピルアルコールからアクリル酸を製造する方法であって、
該製造方法は、7~9容量%のイソプロピルアルコールと、イソプロピルアルコールに対して容量比で1.2~1.7倍の酸素とを含む反応ガスを用いて、イソプロピルアルコールと酸素からアクロレインを製造する第一工程と、
該第一工程によって得られるアクロレインを含むガスに対して、第一工程に用いる反応ガスに含まれるイソプロピルアルコールに対して容量比で0.1~1.7倍の酸素を追加供給して、アクロレインと酸素からアクリル酸を製造する第二工程とを含む
ことを特徴とするアクリル酸の製造方法。
【請求項2】
前記第一工程は、アクロレイン製造用触媒にイソプロピルアルコールと酸素とを含む反応ガスを導入して行われることを特徴とする請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項3】
前記第二工程は、アクリル酸製造用触媒に第一工程の生成物であるアクロレインを含む反応ガスと追加供給される酸素とを導入して行われることを特徴とする請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項4】
前記第一工程に用いる反応ガスに含まれる酸素と第二工程で追加供給される酸素との合計量が、第一工程に用いる反応ガスに含まれるイソプロピルアルコールに対して容量比で1.8~2.9倍となる量であることを特徴とする請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項5】
前記第一工程の反応ガスは、バイオマス由来のイソプロピルアルコールを含むことを特徴とする請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル酸の製造方法に関する。より詳しくは、各種工業製品の原料等として好適に使用できるアクリル酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル酸はアクリル樹脂や親水性樹脂の原料として工業的に広く利用されている。アクリル酸の製造方法としては、固定床多管式連続反応器を用い酸化物触媒の存在下、化石資源由来の原料であるプロピレンやイソプロパノールを接触気相酸化によりアクロレインとし、これを更に接触気相酸化する二段酸化方法が一般的である。アクリル酸の製造方法については、特定の触媒を分割して設置した固定床多管型反応器を用い、アクロレインまたはアクロレイン含有ガスを分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化してアクリル酸を製造する方法(特許文献1参照)や、発酵法によりイソプロピルアルコールを得る工程と、得られたイソプロピルアルコールを、加熱し酸素存在下かつ部分酸化触媒を用いて部分酸化することでアクリル酸又はアクロレインを得る工程とを含むアクリル酸の製造方法(特許文献2参照)等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-089671号公報
【特許文献2】特開2015-160807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
イソプロピルアルコールは爆発範囲が広いため、気相接触酸化反応でイソプロピルアルコールからアクリル酸を製造する場合、爆発範囲を避けるためには入口ガス中のイソプロピルアルコール濃度を7%未満にするか、あるいは酸素濃度を下げる必要がある。イソプロピルアルコール濃度や酸素濃度を下げると、アクリル酸の製造量が低下するため、イソプロピルアルコールの爆発を避けながら高い収率でアクリル酸を製造することができる方法が求められている。
【0005】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、イソプロピルアルコールの爆発を避けながら高い収率でアクリル酸を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、イソプロピルアルコールの爆発を避けながら高い収率でアクリル酸を製造する方法について検討し、イソプロピルアルコールと、イソプロピルアルコールに対して容量比で1.2~1.7倍の酸素とを含む反応ガスを用いてイソプロピルアルコールと酸素からアクロレインを製造する工程を行った後、得られたアクロレインを含むガスに対して所定の割合の酸素を追加供給してアクロレインと酸素からアクリル酸を製造する工程を行うようにすると、原料として7容量%以上の濃度のイソプロピルアルコールを含む反応ガスを用いてもイソプロピルアルコールの爆発を避けながらアクリル酸を製造でき、高い収率でアクリル酸を得ることができることを見出し、本発明に到達したものである。
【0007】
すなわち本発明は、以下のとおりである。
[1]イソプロピルアルコールからアクリル酸を製造する方法であって、
該製造方法は、7~9容量%のイソプロピルアルコールと、イソプロピルアルコールに対して容量比で1.2~1.7倍の酸素とを含む反応ガスを用いて、イソプロピルアルコールと酸素からアクロレインを製造する第一工程と、
該第一工程によって得られるアクロレインを含むガスに対して、第一工程に用いる反応ガスに含まれるイソプロピルアルコールに対して容量比で0.1~1.7倍の酸素を追加供給して、アクロレインと酸素からアクリル酸を製造する第二工程とを含む
ことを特徴とするアクリル酸の製造方法。
【0008】
[2]前記第一工程は、アクロレイン製造用触媒にイソプロピルアルコールと酸素とを含む反応ガスを導入して行われることを特徴とする[1]に記載のアクリル酸の製造方法。
【0009】
[3]前記第二工程は、アクリル酸製造用触媒に第一工程の生成物であるアクロレインを含む反応ガスと追加供給される酸素とを導入して行われることを特徴とする[1]又は[2]に記載のアクリル酸の製造方法。
【0010】
[4]前記第一工程に用いる反応ガスに含まれる酸素と第二工程で追加供給される酸素との合計量が、第一工程に用いる反応ガスに含まれるイソプロピルアルコールに対して容量比で1.8~2.9倍となる量であることを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載のアクリル酸の製造方法。
【0011】
[5]前記第一工程の反応ガスは、バイオマス由来のイソプロピルアルコールを含むことを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載のアクリル酸の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアクリル酸の製造方法は、イソプロピルアルコールの爆発を避けながら、従来の製造方法よりも高い収率でアクリル酸を製造することができる方法であるため、各種工業製品の原料として使用されるアクリル酸の製造に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0014】
本発明のアクリル酸の製造方法は、7~9容量%のイソプロピルアルコールと、イソプロピルアルコールに対して容量比で1.2~1.7倍の酸素とを含む反応ガスを用いて、イソプロピルアルコールと酸素からアクロレインを製造する第一工程と、該第一工程によって得られるアクロレインを含むガスに対して、第一工程に用いる反応ガスに含まれるイソプロピルアルコールに対して容量比で0.1~1.7倍の酸素を追加供給して、アクロレインと酸素からアクリル酸を製造する第二工程とを含むことを特徴とする。
上記のとおりイソプロピルアルコールの爆発範囲を避けるためには原料ガス中のイソプロピルアルコール濃度を7容量%未満にするか、あるいは酸素濃度を下げる必要がある。ここでCO等の副生も考慮すると、第一工程の反応ではイソプロピルアルコールに対して容量比で1.2倍の酸素が必要となり、第二工程の反応では第一工程の原料イソプロピルアルコールに対して0.6倍の酸素が必要となる。第一工程で用いる反応ガスにイソプロピルアルコールに対して容量比で1.2~1.7倍の酸素を含むようにすると、第一工程での必要量を満たしながらイソプロピルアルコール濃度を7~9容量%の高濃度にしても爆発範囲を避けることができる。一方、第一工程で反応ガスに含まれる酸素が消費されるため、この酸素量では第二工程の反応の必要量を満たさない。これに対し、第二工程で酸素を追加供給することで第二工程の反応を十分に進めることができる。このような方法でアクリル酸を製造することにより高濃度のイソプロピルアルコールを含むガスを用いながら爆発を避けつつ、高い収率でアクリル酸を製造することができる。
【0015】
上記第一工程では、7~9容量%のイソプロピルアルコールと、イソプロピルアルコールに対して容量比で1.2~1.7倍の酸素とを含む反応ガスを用いるが、反応ガス中のイソプロピルアルコールの濃度は、6.6~9.0容量%であることが好ましい。より好ましくは、7.5~8.8容量%であり、更に好ましくは、8.0~8.5容量%である。
また、反応ガスに含まれる酸素は、イソプロピルアルコールに対して容量比で1.2~1.7倍であればよいが、1.2~1.6倍であることが好ましい。より好ましくは、1.2~1.5倍であり、更に好ましくは、1.2~1.4倍である。
【0016】
上記第一工程に用いる反応ガスは、7~9容量%のイソプロピルアルコールと、イソプロピルアルコールに対して容量比で1.2~1.7倍の酸素とを含み、それ以外はヘリウム、窒素、アルゴン、水蒸気、メタン、二酸化炭素等の不活性ガスからなるものであることが好ましい。
【0017】
上記第一工程の反応を行う温度は、反応が進行する限り特に制限されないが、200℃~420℃であることが好ましく、更に好ましくは、250℃~400℃である。
【0018】
上記第一工程は、アクロレイン製造用触媒を用いて行ってもよい。使用するアクロレイン製造用触媒には特に制限はなく、アクロレインおよびアクリル酸収率が高いものが好ましい。本発明のアクリル酸の製造方法に用いるアクロレイン製造用触媒は、特に限定されず、各種金属元素を有するものであればよく、例えば、Mо、Bi、Fe、Co、Ni、Si、Al、Ti、アルカリ金属等の金属元素を有するものが挙げられる。より好ましくは、Mo、Bi、Fe、Co、Ni、Ti、Kを有するものである。
【0019】
上記第一工程の反応を行う方法は特に制限されないが、アクロレイン製造用触媒にイソプロピルアルコールと酸素とを含む反応ガスを導入して行われることが好ましい。このような流通式反応で行われることで、効率的にアクロレインを製造することができる。
【0020】
上記第一工程の反応を流通式反応で行う場合、反応ガスを導入する際の空間速度は、300/hr~50000/hrであることが好ましく、より好ましくは500/hr~4000/hrである。このような空間速度で反応ガスを導入することで、より効率的にアクロレインを製造することができる。
【0021】
本発明のアクリル酸の製造方法の第二工程は、第一工程によって得られるアクロレインを含むガスに対して、第一工程に用いる反応ガスに含まれるイソプロピルアルコールに対して容量比で0.1~1.7倍の酸素を追加供給して、アクロレインと酸素からアクリル酸を製造する工程である。
上述のとおり、第一工程の反応ガスに含まれる酸素量では第二工程の反応の必要量を満たさないため、第二工程で酸素を追加供給することで第二工程の反応を十分に進めることができ、アクリル酸を高い収率で得ることができる。
第二工程で追加供給する酸素の量は、第一工程に用いる反応ガスに含まれるイソプロピルアルコールに対して容量比で0.1~1.7倍であればよいが、0.2~1.6倍であることが好ましい。より好ましくは、0.4~1.4倍であり、更に好ましくは、0.6~1.2倍である。
【0022】
上記第二工程の反応を行う温度は、反応が進行する限り特に制限されないが、200℃~300℃であることが好ましく、より好ましくは、250~285℃である。
【0023】
上記第二工程は、アクリル酸製造用触媒を用いて行ってもよい。使用するアクリル製造用触媒には特に制限はないが、アクリル酸収率が高いものが好ましい。本発明のアクリル酸の製造方法に用いるアクリル酸製造用触媒は、特に限定されず、各種金属元素を有するものであればよく、例えば、Mо、V、Nb、W、Cu、Fe、Sb、Kを有するものが挙げられる。より好ましくは、Mo、V、Cu、W、Sbを有するものである。
【0024】
上記第二工程の反応を行う方法は特に制限されないが、アクリル酸製造用触媒に第一工程の生成物であるアクロレインを含む反応ガスと追加供給される酸素とを導入して行われることが好ましい。このような流通式反応で行われることで、効率的にアクロレインからアクリル酸を製造することができる。
第一工程、第二工程の反応を流通式反応で行う場合、第一工程の反応を行う反応器の生成ガス出口と第二工程の反応を行う反応器とを接続し、第一工程の反応で生成する生成ガスの全量が第二工程の反応器に導入されるようにして行うことが好ましい。
【0025】
本発明のアクリル酸の製造方法は、第一工程に用いる反応ガスに含まれる酸素と第二工程で追加供給される酸素との合計量が、第一工程に用いる反応ガスに含まれるイソプロピルアルコールに対して容量比で1.8~2.9倍となる量であることが好ましい。
上述したとおり、第一工程の反応ではイソプロピルアルコールに対して容量比で1.2倍の酸素が必要であり、第二工程の反応では第一工程の原料イソプロピルアルコールに対して0.6倍の酸素が必要である。このため、イソプロピルアルコールに対して容量比で1.8倍の酸素があれば必要量を満たすことができるが、酸素量が多いと触媒の耐久性が向上する傾向がある。反応で酸素が消費されることを考慮して爆発を防ぎつつ、触媒の耐久性も向上させて反応を行うことを考えると、第一工程に用いる反応ガスに含まれる酸素と第二工程で追加供給される酸素との合計量が第一工程に用いる反応ガスに含まれるイソプロピルアルコールに対して容量比で1.8~2.9倍となるようにして反応を行うことが好ましい。第一工程に用いる反応ガスに含まれる酸素と第二工程で追加供給される酸素との合計量は、より好ましくは、第一工程に用いる反応ガスに含まれるイソプロピルアルコールに対して容量比で1.8~2.5倍となる量であり、更に好ましくは、1.8~2.0倍となる量である。
【0026】
本発明のアクリル酸の製造方法の原料となるイソプロピルアルコールは特に制限されず、化石資源由来のものであってもよく、バイオマス由来のものであってもよいが、バイオマス由来のものを用いることで環境への負担を軽減することができる。したがって、第一工程の反応ガスが、バイオマス由来のイソプロピルアルコールを含むことは、本発明のアクリル酸の製造方法の好適な実施形態の1つである。
第一工程の反応ガスが、バイオマス由来のイソプロピルアルコールを含む場合、反応ガスに含まれるイソプロピルアルコール全体のうち、バイオマス由来のイソプロピルアルコールの割合は50容量%以上であることが好ましい。より好ましくは、75容量%以上であり、最も好ましくは、反応ガスに含まれるイソプロピルアルコールが全てバイオマス由来のものであることである。
【0027】
本発明のアクリル酸の製造方法は、上記第一工程と第二工程とを含む限り、その他の工程を含んでいてもよい。その他の工程としては、得られたアクリル酸を精製する工程、エタノールからイソプロピルアルコールを製造する工程、アセトンからイソプロピルアルコールを製造する工程、酢酸からイソプロピルアルコールを製造する工程、プロピレンからイソプロピルアルコールを製造する工程、バイオマスの発酵によりイソプロピルアルコールを製造する工程、合成ガス発酵によりイソプロピルアルコールを製造する工程、二酸化炭素と水素から成るガス発酵によりイソプロピルアルコールを製造する工程等が挙げられる。
また本発明のアクリル酸の製造方法により得られたアクリル酸を用いて下記のような各種工程を行うことで、種々の化合物を製造することができる。
得られたアクリル酸を重合させてポリアクリル酸を製造する工程、得られたアクリル酸をアルコール化合物類と反応させてアクリル酸エステル化合物を製造する工程、該アクリル酸エステル化合物を重合させる工程。
【実施例0028】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0029】
製造例1(アクロレイン製造用触媒の製造)
純水400gに硝酸コバルト(II)六水和物340gおよび硝酸ニッケル(II)六水和物82gを溶解し、CoおよびNi水溶液を調製した。次に、硝酸第二鉄(硝酸鉄(III)九水和物)99gおよび硝酸ビスマス(III)五水和物119gを、65質量%の硝酸65gと純水300gとからなる硝酸水溶液に溶解し、FeおよびBi水溶液を調製した。純水1500gにパラモリブデン(VI)酸アンモニウム四水和物400gを添加し、攪拌しながら溶解し、Mo水溶液を調製した。CoおよびNi水溶液に上記別途調製したFeおよびBi水溶液とMo水溶液とを滴下、混合し、次いで酸化チタン3gを混合し、次いで硝酸カリウム1.9gを純水30gに溶解した水溶液を添加し、懸濁液(原料混合物)を得た。
得られた懸濁液を加熱、ケーキ状になるまで攪拌した後、自然冷却し、塊状の固形物を得た。塊状の固形物をトンネル型乾燥機に搬入し、170℃で14時間乾燥後に、500μm以下に粉砕し、アクロレイン製造用触媒前駆体の粉体を得た。転動造粒機に平均粒径5.0mmのアルミナ球状担体300gを投入し、次いで結合剤として20質量%の硝酸アンモニウム水溶液とともに触媒前駆体の粉体を徐々に投入して、アクロレイン製造用触媒前駆体を担体に担持させた後、空気雰囲気下470℃で6時間焼成してアクロレイン製造用触媒を得た。得られたアクロレイン製造用触媒は、Mo/Bi/Co/Ni/Fe/Ti/K=12/1.3/6.1/1.5/1.3/0.2/0.1(モル比)の組成を有するものであった。
【0030】
製造例2(アクリル酸製造用触媒の製造)
純水10000gを80℃に加熱攪拌しながらパラモリブデン酸アンモニウム四水和物1000g、メタバナジン酸アンモニウム303g、パラタングステン酸アンモニウム四水和物153gを溶解させた。別に純水400gを40℃に加熱混合しながら硝酸銅三水和物171gを溶解させた。得られた2つの水溶液を混合し、さらに三酸化アンチモン35gを添加し、出発原料混合液を得た。
得られた出発原料混合液をスプレードライヤーで乾燥した後、得られた乾燥物を粉砕して100μm以下に篩分けし、アクリル酸製造用触媒前駆体を得た。皿型転動造粒機に平均直径が5mmの球状シリカアルミナ担体3960gを投入し、次いで回転皿を回転させた状態で、バインダーとしての純水を噴霧しながら上記アクリル酸製造用触媒前駆体を徐々に投入して担体に担持させた後、約90℃の熱風で乾燥してアクリル酸製造用触媒前駆体を担持した担持物を得た。得られた担持物を空気雰囲気下に400℃で6時間焼成してアクリル酸製造用触媒を得た。 得られたアクリル酸製造用触媒は、Mo/Cu/V/W/Sb=12/1.5/5.5/1.2/0.5(モル比)の組成を有するものであった。
【0031】
実施例1
全長3000mm、内径25mmのステンレス製反応管およびこれを覆う熱媒体を流すためのシェルからなる反応器を鉛直方向に用意し、反応管の上部から製造例1で製造したアクロレイン製造用触媒を落下させ、層長が2500mmとなるように充填した。
アクロレイン製造用触媒を充填した反応器とは別に、全長3000mm、内径25mmのステンレス製反応管およびこれを覆う熱媒体を流すためのシェルからなる反応器を鉛直方向に用意し、反応管の上部から製造例2で製造したアクリル酸製造用触媒を落下させ、層長が2200mmとなるように充填した。
アクロレイン製造用触媒を充填した反応器の熱媒体温度を310℃、アクリル酸製造用触媒を充填した反応器の熱媒体温度を265℃にし、アクロレイン製造用触媒を充填した反応器下部より、イソプロピルアルコール9容量%、酸素11容量%、残部が窒素からなる混合ガスを空間速度1600/hr(標準状態)で導入し、アクロレイン合成反応を行った。
アクロレイン製造用触媒を充填した反応器から出てきたガスに8L/minで空気を混合した後、アクリル酸製造用触媒を充填した反応器下部より導入し、アクリル酸合成反応を行った。
以下の方法により、イソプロピルアルコール転化率及びアクリル酸収率測定、並びに、爆発性の確認を行った。結果を表1に記した。
<イソプロピルアルコール転化率及びアクリル酸収率測定>
反応開始12時間後の反応器出口ガスを氷水浴に配置した純水入りの吸収瓶に導入して水により捕集された成分をガスクロマトグラフで定量した。また純水入りの吸収瓶で捕集されなかった成分については、吸収瓶出口ガスをガスクロマトグラフに導入して定量した。これら分析値から反応開始12時間後の反応器出口ガスに含まれる各成分の流速を算出し、下記式(1)、(2)によりイソプロピルアルコール転化率及びアクリル酸収率を求めた。
イソプロピルアルコール転化率
=100-100×反応器出口のイソプロピルアルコール流速 (1)
/反応器入口のイソプロピルアルコール流速
アクリル酸収率
=100×反応器出口のアクリル酸流速 (2)
/反応器入口のイソプロピルアルコール流速
<爆発確認試験>
アクロレイン製造用触媒反応器への入口ガスと同じ組成のガスを多摩精器工業株式会社製の1L球形ガス爆発試験装置に導入し、150℃、0.10MPa条件下、爆発確認試験を実施した。ガスへの着火は直径0.1mm×長さ10mmのステンレス製溶断線に1Jの電流を流してステンレス線を溶断して行なった。3回試験を行い、そのうち一度でも着火後の装置内圧力が0.11MPa以上となった場合は爆発性あり、3回の試験全てにおいて着火後の装置内圧力が0.11MPa未満となった場合は爆発性なし、と判断した。イソプロピルアルコール9容量%、酸素11容量%、残部が窒素からなる混合ガスについて、爆発確認試験を実施したところ、爆発性なしだった。
【0032】
比較例1
アクロレイン製造用触媒を充填した反応器へ導入するガスの組成が、イソプロピルアルコール9容量%、酸素16容量%であり、アクロレイン製造用触媒を充填した反応器から出てきたガスに空気を混合しないこと以外は実施例1と同様にしてアクリル酸合成反応を行い、反応開始12時間後のイソプロピルアルコール転化率、アクリル酸収率を測定した。実験結果を下記の表1に記した。アクロレイン製造用触媒反応器への入口ガスと同じ組成のガスを実施例1と同様の方法で爆発確認試験したところ、爆発性ありだった。
【0033】
比較例2
アクロレイン製造用触媒を充填した反応器から出てきたガスに空気を混合しないこと以外は実施例1と同様にしてアクリル酸合成反応を行い、反応開始12時間後のイソプロピルアルコール転化率、アクリル酸収率を測定した。実験結果を下記の表1に記した。
【0034】
実施例2
アクロレイン製造用触媒を充填した反応器へ導入するガスの組成が、イソプロピルアルコール7容量%、酸素9容量%であり、アクロレイン製造用触媒を充填した反応器から出てきたガスに空気を6L/min混合したこと以外は実施例1と同様にしてアクリル酸合成反応を行い、反応開始12時間後のイソプロピルアルコール転化率、アクリル酸収率を測定した。実験結果を下記の表1に記した。アクロレイン製造用触媒反応器への入口ガスと同じ組成のガスを実施例1と同様の方法で爆発確認試験したところ、爆発性なしだった。
【0035】
比較例3
アクロレイン製造用触媒を充填した反応器へ導入するガスの組成が、イソプロピルアルコール7容量%、酸素13容量%であり、アクロレイン製造用触媒を充填した反応器から出てきたガスに空気を混合しないこと以外は実施例1と同様にしてアクリル酸合成反応を行い、反応開始12時間後のイソプロピルアルコール転化率、アクリル酸収率を測定した。実験結果を下記の表1に記した。アクロレイン製造用触媒反応器への入口ガスと同じ組成のガスを実施例1と同様の方法で爆発確認試験したところ、爆発性ありだった。
【0036】
比較例4
アクロレイン製造用触媒を充填した反応器へ導入するガスの組成が、イソプロピルアルコール10容量%、酸素12容量%であり、アクロレイン製造用触媒を充填した反応器から出てきたガスに空気を混合しないこと以外は実施例1と同様にしてアクリル酸合成反応を行い、反応開始12時間後のイソプロピルアルコール転化率、アクリル酸収率を測定した。実験結果を下記の表1に記した。アクロレイン製造用触媒反応器への入口ガスと同じ組成のガスを実施例1と同様の方法で爆発確認試験したところ、爆発性ありだった。
【0037】
実施例3
アクロレイン製造用触媒を充填した反応器から出てきたガスに空気を16L/min混合したこと以外は実施例1と同様にしてアクリル酸合成反応を行い、反応開始12時間後のイソプロピルアルコール転化率、アクリル酸収率を測定した。実験結果を下記の表1に記した。
【0038】
実施例4
アクロレイン製造用触媒を充填した反応器から出てきたガスに空気を23L/min混合したこと以外は実施例1と同様にしてアクリル酸合成反応を行い、反応開始12時間後のイソプロピルアルコール転化率、アクリル酸収率を測定した。実験結果を下記の表1に記した。
【0039】
実施例5
アクロレイン製造用触媒を充填した反応器へ導入するガスの組成が、イソプロピルアルコール7容量%、酸素12容量%であり、アクロレイン製造用触媒を充填した反応器から出てきたガスに空気を1L/min混合したこと以外は実施例1と同様にしてアクリル酸合成反応を行い、反応開始12時間後のイソプロピルアルコール転化率、アクリル酸収率を測定した。実験結果を下記の表1に記した。アクロレイン製造用触媒反応器への入口ガスと同じ組成のガスを実施例1と同様の方法で爆発確認試験したところ、爆発性なしだった。
【0040】
【表1】
【0041】
表1からわかるように、全反応入口部(イソプロピルアルコール反応装置入口部)に導入される反応ガス中のイソプロピルアルコール濃度が7容量%~9容量%であっても、該アクロレイン製造用触媒層に導入する反応ガスに含まれる酸素の流量を(該アクロレイン製造用触媒層に導入する反応ガスに含まれる酸素の流量/該反応ガスに含まれるイソプロピルアルコールの流量)の値が1.2~1.7となるようにし、かつ、前段のイソプロピルアルコール触媒層と後段のアクリル酸製造用触媒層との間に、反応ガスに含まれるイソプロピルアルコールの流量に対して容量比で0.1~1.7倍の酸素を含有するガスを追加で導入することによって、反応ガスの爆発性を低く保持したまま高いアクリル酸収率で反応を行うことが可能であることが確認された。