(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143033
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】疼痛治療支援システム及び疼痛治療用の画像生成装置
(51)【国際特許分類】
A61H 99/00 20060101AFI20241003BHJP
A61H 1/02 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A61H99/00
A61H1/02 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055501
(22)【出願日】2023-03-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、チーム型研究(CREST)、「実質空間を起点とした耐侵襲性を有するReality運用およびフィードバック技術の構築」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】514202871
【氏名又は名称】カディンチェ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154634
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 みさ子
(72)【発明者】
【氏名】住谷 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】青木 崇行
(72)【発明者】
【氏名】内田 和隆
【テーマコード(参考)】
4C046
【Fターム(参考)】
4C046AA29
4C046AA45
4C046BB01
4C046BB07
4C046BB10
4C046CC04
4C046DD08
4C046DD12
4C046DD35
4C046DD36
4C046DD39
4C046EE02
4C046EE13
4C046EE23
4C046EE24
4C046EE32
4C046FF09
4C046FF22
(57)【要約】
【課題】高い効果を呈する疼痛治療支援システムを提供する
【解決手段】 本発明の疼痛治療支援システムは、患者の運動量を検出する運動検出装置と、前記運動検出装置から供給される運動量に応じて進行するアバターを含む3次元画像である表示画像を供給する画像供給装置と、前記表示画像を3次元表示する表示装置とを有し、前記表示画像は、前記アバターを左右方向に傾斜させて前記患者の前庭感覚を刺激することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の運動量を検出する運動検出装置と
前記運動検出装置から供給される運動量に応じて進行するアバターを含む3次元画像である表示画像を供給する画像供給装置と
前記表示画像を3次元表示する表示装置とを有し、
前記表示画像は、
前記アバターを左右方向に傾斜させて前記患者の前庭感覚を刺激する
ことを特徴とする疼痛治療支援システム。
【請求項2】
前記表示画像は、
前記アバターを平地から浮かした状態で傾斜させる
ことを特徴とする請求項1に記載の疼痛治療支援システム。
【請求項3】
前記表示画像は、
平地から前記アバターの身長未満だけ浮かした状態で前記アバターを傾斜させる
ことを特徴とする請求項2に記載の疼痛治療支援システム。
【請求項4】
前記表示画像は、
前後及び左右に傾斜を有する傾斜領域と、水平な水平領域とが繰り返される
ことを特徴とする請求項1に記載の疼痛治療支援システム。
【請求項5】
前記表示装置は、
前記患者の頭部の傾きを検出するセンサを有し、
前記表示画像は、
前記患者の頭部の傾きに応じて前記アバターを傾斜させる
ことを特徴とする請求項1に記載の疼痛治療支援システム。
【請求項6】
運動検出装置から供給される運動量に応じて進行するアバターを含み、3次元画像である表示画像を表示装置に供給する画像供給部を有し、
前記表示画像は、
前記アバターを左右方向に傾斜させることにより患者の前庭感覚を刺激する
ことを特徴とする疼痛治療用の画像生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経障害性の疼痛を訴える患者に対して、仮想空間に生成する四肢の画像によって、視覚フィードバックを提供する疼痛治療支援システム及び疼痛治療支援用画像生成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、痛みには、火傷、打撲などの侵害受容性疼痛と、いわゆる幻肢痛、視床痛など、神経の切断・圧迫に起因する神経障害性疼痛がある。後者については、痛みの発生機序が完全に解明されていないものの、脳内の知覚系と運動系の情報交換の異常であると考えられている。
【0003】
前記神経障害性の疼痛緩和の治療方法としては、痛み止めの薬剤投与による薬物療法のほか、外科的な手術による治療法が知られている。しかし、前者の薬剤投与は症状自体の改善の見込みが小さい対処療法であり、副作用等の懸念もある。後者の外科的手術は、侵襲性の高い治療となるため、患者の身体的負担が大きい。そこで、副作用の懸念がなく、非侵襲性の治療方法としてリハビリ治療が注目されている。
【0004】
この種の治療方法として、古くは「ミラーセラピー」という鏡を用いたリハビリ療法が提案され行われていた。「ミラーセラピー」では、当該患者の脳内で、あたかも患肢が健肢同様に動いているという視覚フィードバック情報を伝達することによって、前記情報交換の異常を是正する。
【0005】
従来、このような「ミラーセラピー」の原理を応用して、仮想空間内に健肢と患肢を生成する治療支援装置又は治療支援方法が提案されている。
【0006】
例えば、疼痛治療支援装置では、位置センサによって患者の姿勢等を検出し、これに基づいて所定作業を実行する当該患者の動きに対応する幻肢画像を、仮想空間において提示し、患者は、幻肢画像を高い臨場感で視覚的に認識する一方で、視覚と触覚等とのギャップを学習することにより、患者の脳が「幻肢は存在しない」と結論付けることを誘導させることができる(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
この疼痛治療支援装置では、前記ミラーセラピーのように、健肢と患肢が鏡像対称であるという違和感をなくすことができるため、より自然でかつ多様なリハビリ環境を設定することができ、高い治療効果が期待できる。
【0008】
また、いわゆる前記ミラーセラピーの原理を応用し、拡張現実、仮想現実技術によって、運動遂行にかかわる中枢と末梢の神経回路を再活性化し、上肢切断後に書き換えられた大脳皮質のマップを修正することを試みた実験によれば、評価指標として、Nemerical rating scale(NSR、スコアは0~10)を用いた評価を行ったところ、所定のセッションの終了時、32%の幻肢痛の改善が見られたとの報告がなされている。(例えば、非特許文献1参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Max Ortiz-Catalan et al.「The LANCET Vol.388/Phantom motor execution facilitated by machine learning and augmented reality as treatment for phantom limb pain: a single group, clinical trial in patients with chronic intractable phantom limb pain」December 10,2016,2885-2894
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、当該患者の脳内で、あたかも患肢が健肢同様に動いているという視覚フィードバック情報を伝達し、前記情報交換の異常を是正するという前記ミラーセラピーの原理が、神経障害性の疼痛改善に効果があるとすれば、先行技術のように、臨場感、リアリティがあって、没入感がある仮想空間内でのリハビリは非常に有効な手段と考えられる。
【0012】
上肢を失った患者の場合、単に失った上肢の画像を再現すれば臨場感のある画像を作成することができる。しかしながら、特に下肢を失った患者にとって、下肢を視認しながら行われる運動はハードルが高く、疼痛治療の効果が低いという問題があった。
【0013】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、その目的は、高い効果を呈する疼痛治療支援システム及び疼痛治療用の画像生成装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
かかる課題を解決するため、疼痛治療支援システムでは、患者の運動量を検出する運動検出装置と、
前記運動検出装置から供給される運動量に応じて進行するアバターを含む3次元画像である表示画像を供給する画像供給装置と、
前記表示画像を3次元表示する表示装置とを有し、
前記表示画像は、
前記アバターを左右方向に傾斜させて前記患者の前庭感覚を刺激することを特徴とする。
【0015】
また本発明の疼痛治療用の画像生成装置では、運動検出装置から供給される運動量に応じて進行するアバターを含み、3次元画像である表示画像を表示装置に供給する画像供給部を有し、
前記表示画像は、
前記アバターを左右方向に傾斜させることにより患者の前庭感覚を刺激することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、高い効果を呈する疼痛治療支援システム及び疼痛治療用の画像生成装置疼痛治療支援システム及び疼痛治療用の画像生成装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1の実施の形態における疼痛治療支援システムの構成を示す略線図である。
【
図2】第1の実施の形態におけるヘッドセットの構成を示す電気的ブロック図である。
【
図3】運動検出装置の構成を示す電気的ブロック図である。
【
図4】表示画面(1)の説明に供する略線図である。
【
図5】第1の実施の形態における傾斜の説明に供する略線図である。
【
図6】表示画面(2)の説明に供する略線図である。
【
図7】第2の実施の形態における疼痛治療支援システムの構成を示す略線図である。
【
図8】画像供給装置の構成を示す電気的ブロック図である。
【
図9】第2の実施の形態におけるヘッドセットの構成を示す電気的ブロック図である。
【
図10】表示画面と参考画面(1)の説明に供する略線図である。
【
図11】表示画面と参考画面(2)の説明に供する略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<第1の実施の形態>
図1に示す1は、全体として疼痛治療支援システムを示している。疼痛治療支援システム1では、ヘッドセット3と運動検出装置4とが、無線又は有線によるインターネットなどの電気通信回路を介して接続されている。
【0019】
疼痛治療支援システム1では、患者PTは、椅子9に座っており、3次元の動画像を表示可能なヘッドセット3を装着している。患者PTの足元には、運動検出装置4が設置されいる。足の欠損した患者さん(または脊髄の損傷等の神経障害により足が麻痺した患者さん)を想定しているため、椅子9に制限はないが、車輪のない固定タイプのものが好適に使用される。また、車輪があっても車輪止めなどにより椅子が固定できるなど、椅子が移動することなく患者PTの安全性が担保できることが好ましい。
【0020】
図2に示すように、ヘッドセット3は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)から構成される制御部31がヘッドセット3の全体を統括的に制御し、予めROMに記憶された疼痛治療支援プログラムに従って疼痛治療支援処理を実行するようになされている。
【0021】
図3に示すように、運動検出装置4は、CPU、ROM及びRAMから構成される制御部41が運動検出装置4の全体を統括的に制御し、予めROMに記憶された疼痛治療支援プログラムに従って運動検出処理を実行するようになされている。
【0022】
ヘッドセット3の制御部31は、操作入力部36が操作されたことにより、電源がONされたことを認識すると、記憶部35から初期画面情報を読み出し、表示部34に供給する。この結果、表示部34には、患者PTのアバターが表示された初期画面(図示しない)が表示される。
【0023】
制御部31は、患者PTの操作入力部36に対する操作により、初期画面において表示された再生条件の入力がなされたことを認識すると、制御部31は、表示部34に対する疼痛治療支援画像の表示を開始し、運動検出装置4による運動を促す。
【0024】
運動検出装置4の運動部47は、患者PTの動作に応じて回転する回転ペダル47A及び回転軸47B(
図1参照)を有している。制御部41は、運動部47における回転数を逐次監視し、所定時間毎(例えば0.1~1秒)に、外部インターフェース43を介して現在の回転数を表す回転数情報をヘッドセット3に送信する。
【0025】
ヘッドセット3の記憶部35には、3次元空間が記憶されており、スタートからゴールまでのルートが定められている。なお、分岐や合流により複数のルートを有していても良い。
【0026】
図4に示すように、表示部34には、現在の患者PTのアバターAVの位置からのアバターAVの視点を画面の中心に据えて3次元空間を表す表示画面FPが表示されている。この表示画面FPには、アバターAVから見た3次元空間と共に、左上部分に画面の面積に対して約1/4~1/20、より好ましくは1/5~1/10の面積を有するアバター表示枠ARが表示されている。
【0027】
このアバター表示枠ARには、アバターAVの全身及び周囲の背景が表示されており、正面から見た状態のアバターAVが表示されている。アバター表示枠AR内に表示されたアバターAVは、患者PTにはない下肢が存在し健常な状態として表示される。
【0028】
ヘッドセット3の制御部31は、外部インターフェース33を介して回転数情報が供給されると、ルート上のアバターAVを回転数に応じた速度で進行させる。このとき制御部31は、アバターAVが歩いている動作を表示する。すなわち、患者PTの行った運動部47に対する運動に連動してアバターAVを進行させる。
【0029】
これにより、ヘッドセット3では、患者PTに対してあたかも自分が歩いているかのような錯覚を生じさせることができると共に、自信のアバターAVが健常であるため、自信の下肢が存在するかのような錯覚を生じさせることができる。
【0030】
かかる構成に加えて、本発明の疼痛治療支援システムでは、患者PTの前庭感覚(平衡感覚)を刺激する疼痛治療支援画像を表示画面FPとして表示させるようにした。
【0031】
ルートの距離に応じた高さの関係を簡易的に表した
図5に示すように、アバターAVが進行可能なルートRTは傾斜を有する傾斜領域SLと、傾斜のないフラットな水平領域HRとが交互に繰り返して設けられている。
【0032】
傾斜領域SLでは、前後及び左右方向に傾斜を有しており、その傾斜角度は時折変化する。例えばスタートから最初の傾斜領域SL1では、傾斜10度で上がり、右に15度で下がった後、傾斜40度で下がり、右に5度で下がるように傾斜が変化している。
【0033】
その後、続く水平領域HR1の後、傾斜領域SL2、水平領域HR2、傾斜領域SL3となる。すなわち、
図4に示したように、前後左右に傾斜を有する傾斜領域SLにおいて傾斜を変化させて前庭感覚を刺激し、時折、
図6に示すように水平領域HRによって前庭感覚をリセットし、また傾斜領域SLで前庭感覚を刺激するという過程を反復して繰りかえす。
【0034】
人間は、前後方向の傾斜には慣れているが、左右方向の傾斜には慣れていない。患者PTが確実に認識できるように、左右方向の傾斜は10度以上、好ましくは15度以上あることが好ましい。このため、左右方向に傾斜をつけた画像上をアバターAVに進行させることにより、前庭感覚を刺激することができ、画像視認に対する集中力を高めることができる。
【0035】
また、人間は、前段との関係によって視覚的な錯覚を生じやすい。前段の傾斜との角度差が30度、好ましくは35度以上の下り傾斜に対して、まるで崖のように感じさせることができる。例えば、傾斜領域SL1の前上傾斜10度と前下傾斜40度との角度差は50度であり、傾斜領域SL2の前下傾斜8度と前下傾斜50度との角度差は42度である。このように、30度以上の角度差を設けることにより、患者PTに対して危機感を覚えさせ、画像視認に対する集中力を高めることができる。
【0036】
このように、患者PTの運動に応じて進行するアバターAVが進行するルートRTの前後左右に傾斜を設けることにより、前庭感覚を刺激して脳が自分の下肢を使って進行しているという錯覚を強めることができ、疼痛治療の効果を高めることができる。
【0037】
<第2の実施の形態>
次に、第2の実施の形態について説明する。
図7-11を用いて説明する第2の実施の形態においては、ヘッドセット103のセンサによって検出された傾きに応じてアバターAVを回転させる点が第1の実施の形態と相違している。なお、第2の実施の形態においては、第1の実施の形態と同一箇所に同一符号を、対応する箇所に100を付した符号を附し、同一箇所についての説明を省略する。
【0038】
図1に示す101は、全体として疼痛治療支援システムを示している。疼痛治療支援システム101では、画像供給装置102とヘッドセット103と運動検出装置4とが、無線又は有線によるインターネットなどの電気通信回路を介して接続されている。
【0039】
第2の実施の形態においては、画像供給装置102によって生成された画像がヘッドセット103に供給される。
【0040】
具体的に、
図8に示すように、画像供給装置102は、CPU、ROM及びRAMから構成される制御部121が画像供給装置102の全体を統括的に制御し、予めROMに記憶された疼痛治療支援プログラムに従って疼痛治療支援処理を実行するようになされている。
【0041】
図9に示すように、ヘッドセット103は、センサ137と、音声入出力部138とを有している。センサ37は角速度センサであり、患者PTの頭部の傾きを検出可能である。音声入出力部138は、マイクとスピーカであり、マイクの集音による音声入力によってヘッドセット103の操作を実行したり、スピーカ出力によって音楽をかけたり、患者PTに対する指示を行ったりすることができる。
【0042】
例えば、患者PTがヘッドセット103の操作入力部36を操作し、電源をONにすると、「ヘッドセットを装着してください。装着を完了したらスタートと言ってください。」というようなアナウンスが音声入出力部138から出力される。
【0043】
ヘッドセット103の制御部131は、音声入出力部138から供給される音声信号から患者PTが「スタート」と言ったことを認識すると、患者PTの好みの音楽や好みの疼痛治療支援画像を選択させ、選択が完了すると疼痛治療支援画像の表示を開始する。
【0044】
具体的に、患者PTの選択は、選択信号として画像供給装置102に送信される。また、画像供給装置102は、外部インターフェース123を介して運動検出装置4から供給される回転数情報を受信する。画像供給装置102の制御部121は、回転数情報及び選択信号に応じた疼痛治療支援画像を生成し、音楽と共にヘッドセット103に供給する。
【0045】
ヘッドセット103は、供給された画像を表示部34に、音楽を音声入出力部138から出力する。
【0046】
第2の実施の形態では、前庭感覚を刺激する疼痛治療支援画像として、平地上を歩くアバターAV自体を傾斜させて表示するようになされている。
【0047】
図10(A)及び
図11(A)は、水平面とアバターAVの長手方向、頭部頂点から足間中心を通るアバター中心軸との起立角度を、アバターAVを囲む直方体枠FMで分かりやすく表示すると共に、アバターAVの現在位置を表す参考画面RPである。
【0048】
アバターAVの左上にアバター表示枠ARが位置しており、アバター表示枠ARとアバターAVとの位置関係も表示されている。参考画面RPは、表示部34には表示されないが、患者PTの要求に応じて表示画面FPと切り替えられ、一時的に表示されるようにすることもできる。
【0049】
ヘッドセット103は、センサ137を有している。センサ137は、前後上下左右を検出可能な3方向の角速度センサであり、患者PTの頭部の傾斜角度を検出することができる。例えば患者PTが自信の身体を見るように前下方向に視点を移すと、表示画面FPにおいて患者PTがアバターAVの身体を視認することができる(図示せず)。このとき、アバターAVには下肢があるため、あたかも自信の身体に下肢があるように患者PTに認識させることができる。
【0050】
また、アバターAVの影が表示されるようにもできる(図示せず)。アバターAVに対して前方向に映るように、すなわち光源がアバターAVの後ろ方向斜め上から照射されるように表示画面FP内に影を表示することで、患者PTが下肢のある影を視認しながら進行することができる。
【0051】
図10(B)及び
図11(B)は、ヘッドセット103の表示部34に表示される疼痛治療支援画像の表示画面FPである。表示画面FPにおいて、アバターAVを表示するアバター表示枠ARには、後ろ方向から見たアバターAVが表示されている。
【0052】
図10に示すように、この疼痛治療支援画像では、アバターAVが進行するのは平地である。第2の実施の形態の疼痛治療支援システムでは、患者PTの頭部の傾きに応じてアバターAVの中心軸を傾斜させることにより、前庭感覚を刺激する。
【0053】
具体的に、画像供給装置102の制御部121は、患者PTが運動を開始し、アバターAVが所定の位置まで進行したことを認識すると、直方体枠FMを傾斜させた状態の表示画面FPをヘッドセット103の表示部34に表示させる。
【0054】
このとき、画像供給装置102の制御部121は、アバターAVが平地に潜らないように、直方体枠FMの傾斜下方向の角部を支点にして、直方体枠FMを傾斜させ、直方体枠FMの内部に位置するアバターAVの傾斜及び位置を確定し、表示画面FPを生成する。
【0055】
すなわち、アバターAVは平地から少し(アバターAVの身長未満、好ましくは身長の1/2未満)浮いたところで傾斜したような表示画面FPがヘッドセット103の表示部34に表示される。
【0056】
このように、表示画面FPとしてアバターAVの視点が傾斜した状態の画像を表示させることにより、患者PT自身も傾斜しているかのように錯覚することができ、疼痛治療支援画像に対する集中力を高め、疼痛治療の効果を高めることができる。
【実施例0057】
第2の実施の形態における疼痛治療支援システム101を使用して、被験者に対して疼痛治療を行った。
【0058】
被験者は、40歳代の男性であり、左下肢切断後義足となり、切断直後から幻肢痛(疼痛)に悩んでいた。すでに切断から10年以上が経過しているものの、幻肢痛は継続している。薬物療法と鏡療法を行ったものの、効果がなかった。
【0059】
痛みは10段階で評価し、初期の痛みを「8」とした。最初の2周間は、従来の治療法(薬物療法及び鏡療法)を行ったが、2週間後である第14日の痛みは「7」であり、ほとんど変化は見られなかった。
【0060】
この第14日の次の日から毎日10~15分間、疼痛治療支援システム101による治療を行った。治療の結果、新治療開始から2・4週間後である第28日、第42日には痛みが「6」に、新治療開始から8週間後である第56日には「5」に、10・12週間後である第70日、第84日には「4」にまで減少し、明らかな幻肢痛の低減効果が得られた。
【0061】
傾斜した画像を見せたときには、被験者の頭部が傾いていることが確認された。この頭部(頸部)の傾斜は、前庭神経が刺激されていることを表しているものであり、傾斜した画像を見せたとき、100%の確率で被験者の頭部が傾斜することが確認できた。
【0062】
また、治療を休止して2週間経過後にも、幻肢痛は「4」のままであり、治療の効果は持続していることが確認された。
【0063】
<動作及び効果>
以下、上記した実施形態から抽出される発明群の特徴について、必要に応じて効果等を示しつつ説明する。なお以下においては、理解の容易のため、上記各実施形態において対応する構成を括弧書き等で適宜示すが、この括弧書き等で示した具体的構成に限定されるものではない。また、各特徴に記載した用語の意味や例示等は、同一の文言にて記載した他の特徴に記載した用語の意味や例示として適用しても良い。
【0064】
かかる構成によれば、本発明の疼痛治療支援システム(疼痛治療支援システム1、101)では、患者(患者PT)の運動量を検出する運動検出装置(運動検出装置4)と
前記運動検出装置から供給される運動量に応じて進行するアバター(アバターAV)を含む3次元画像である表示画像を供給する画像供給装置(制御部31、画像供給装置102)と
前記表示画像を3次元表示する表示装置(ヘッドセット3、103)とを有し、
前記表示画像は、
前記アバターを左右方向に傾斜させて前記患者の前庭感覚を刺激することを特徴とする。
【0065】
これにより、疼痛治療支援システムでは、義足を装着した状態では困難な左右方向の傾斜をアバターによって体感させることができ、疼痛治療の効果を高めることができる。
【0066】
本発明の疼痛治療支援システムにおいて、前記表示画像は、
前記アバターを平地から浮かした状態で傾斜させることを特徴とする。
【0067】
これにより、疼痛治療支援システムでは、現実ではできない動きをアバターによって体感させることができる。
【0068】
本発明の疼痛治療支援システムにおいて、前記表示画像は、
平地から前記アバターの身長未満だけ浮かした状態で前記アバターを傾斜させることを特徴とする。
【0069】
これにより、平地とアバターの位置が近いため、平地を基準に傾斜を認識しやすく、また平地から大きく離れた場合と比較して高いところに位置しているといった危険を感じさせずに済む。
【0070】
本発明の疼痛治療支援システムにおいて、前記表示画像は、
前後及び左右に傾斜を有する傾斜領域と、水平な水平領域とが繰り返されることを特徴とする。
【0071】
これにより、疼痛治療支援システムでは、左右の傾斜だけでなく、前後方向の傾斜を併せて体感させて前庭感覚を刺激した後、水平領域で前庭感覚をリセットでき、反復した前庭感覚の刺激が可能となる。
【0072】
本発明の疼痛治療支援システムにおいて、前記表示装置は、
前記患者の頭部の傾きを検出するセンサを有し、
前記表示画像は、前記患者の頭部の傾きに応じて前記アバターを傾斜させることを特徴とする。
【0073】
これにより、疼痛治療支援システムでは、前庭感覚の刺激に加えて、患者の3次元画像に対する没入感を増大させると共に、頭部を傾斜させるだけでアバターの全身が動作する楽しみを与えることができる。
【0074】
以上の構成において、本発明の画像生成装置では、
運動検出装置から供給される運動量に応じて進行するアバターを含み、3次元画像である表示画像を表示装置に供給する画像供給部を有し、前記表示画像は、
前記アバターを左右方向に傾斜させることにより前記患者の前庭感覚を刺激することを特徴とする。
【0075】
これにより、義足や麻痺下肢では安全性の担保できない動作をアバターに行わせることができ、自身の下肢が存在するかのような錯覚を患者の脳に与えて効果的な疼痛治療を行うことができる。
【0076】
<他の実施の形態>
なお上述実施形態では述べていないが、患者の頭部の傾斜に応じてアバターを動作させることも可能である。すなわち、頭部の傾斜をセンサ137によって検出し、検出された傾斜に応じてアバターを動作させる。例えば、頭部の左右傾斜に応じて第2の実施の形態のようにアバターを左右に傾斜させたり、患者PTが頭部を上下方向に大きく振ると、アバターがジャンプしながら進行したりといった動作を実行できる。これにより、義足使用により困難な動作を自由にアバターに実行させることができるため、患者が楽しく治療を行うことができる。また、アバターの動作に応じて前庭感覚の刺激効果も期待できる。
【0077】
上述実施形態では、回転動作を行う運動検出装置を使用したが、本発明はこれに限られない。例えば、ステッパーのように、身体の中心軸に平行に足を動かす動作に応じた運動量を検出しても良い。この場合であっても、患者の安全性の担保のため、椅子9に座って動作を行うことが好ましい。ステッパーは、回転動作と比較して歩く動作に近いため、よりリアリティの高い疼痛治療支援システムが可能となる。
【0078】
上述実施形態では、アバターAVが歩くことにより進行したが、本発明はこれに限られない。例えばセグウェイ(登録商標)やスケートボードのように滑走する乗り物や、自転車などに乗車していても良い。特に、前方向にペダルがある車輪型の乗り物であれば、現実の状態に近くなると共に、自身の足が常に視認できるため好ましい。
【0079】
上述実施形態では述べていないが、ガルバニック前庭刺激(Galvanic Vestibular Stimulation)を併用しても良い。ガルバニック前庭刺激により電気刺激で前庭神経を刺激しながら画像を見せることにより、前庭感覚をより強く刺激でき、疼痛治療の効果を高めることができる。