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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143049
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】光学粘着シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/38 20180101AFI20241003BHJP
   B23K 26/38 20140101ALI20241003BHJP
   C09J 175/14 20060101ALI20241003BHJP
   C09J 133/14 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C09J7/38
B23K26/38 Z
C09J175/14
C09J133/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055526
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003812
【氏名又は名称】弁理士法人いくみ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 真也
(72)【発明者】
【氏名】道下 そら
(72)【発明者】
【氏名】堤 清貴
【テーマコード(参考)】
4E168
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
4E168AD07
4E168AD18
4E168DA02
4E168DA03
4E168DA23
4E168DA24
4E168DA25
4E168DA32
4E168DA46
4E168DA47
4E168JA17
4J004AA10
4J004AA14
4J004AB01
4J004BA02
4J004DB02
4J004FA08
4J040EF181
4J040EF281
4J040JA09
4J040JB09
4J040KA16
4J040LA10
4J040MB05
4J040MB09
(57)【要約】
【課題】端部の意図しない変形を抑制するのに適した軟質の光学粘着シートおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の粘着シート10は、25℃において170kPa以下のせん断貯蔵弾性率を有する光学粘着シートであり、硬質端面11を有する。硬質端面11は、ナノインデンテーション法により測定される25℃での表面硬さとして硬さH1を有する。粘着シート10における、硬質端面11から粘着シート10の面方向内側に20μm離れた部位は、ナノインデンテーション法により測定される25℃での表面硬さとして硬さH2を有する。硬さH2に対する硬さH1の比率は、1.15以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質端面を有する光学粘着シートであって、
前記光学粘着シートが、25℃において170kPa以下のせん断貯蔵弾性率を有し、
前記硬質端面が、ナノインデンテーション法により測定される25℃での表面硬さとして硬さH1を有し、
前記光学粘着シートにおける、前記硬質端面から当該光学粘着シートの面方向内側に20μm離れた部位が、ナノインデンテーション法により測定される25℃での表面硬さとして硬さH2を有し、
硬さH2に対する硬さH1の比率が1.15以上である、光学粘着シート。
【請求項2】
前記比率が10以下である、請求項1に記載の光学粘着シート。
【請求項3】
光開始剤を含有する、請求項1または2に記載の光学粘着シート。
【請求項4】
請求項1に記載の光学粘着シートを製造する方法であって、
光開始剤を含有する光学粘着シート原材を用意する用意工程と、
前記光学粘着シート原材に対してパルスレーザー光を照射および走査し、前記光学粘着シート原材における前記パルスレーザー光の多光子吸収によって前記光学粘着シート原材を切断して前記光学粘着シートを形成する、外形加工工程とを含む、光学粘着シートの製造方法。
【請求項5】
前記パルスレーザー光が、ピコ秒パルスレーザー光またはフェムト秒パルスレーザー光である、請求項4に記載の光学粘着シートの製造方法。
【請求項6】
前記パルスレーザー光が、500nm以上2500nm以下の波長を有する、請求項4または5に光学粘着シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイパネルは、例えば、画素パネル、偏光フィルム、タッチパネルおよびカバーフィルムなどの要素を含む積層構造を有する。そのようなディスプレイパネルの製造過程では、積層構造に含まれる要素どうしの接合のために、例えば、光学的に透明な粘着シート(光学粘着シート)が用いられる。
【0003】
一方、例えばスマートフォン用およびタブレット端末用に、繰り返し折り曲げ可能(フォルダブル)なディスプレイパネルの開発が進んでいる。フォルダブルディスプレイパネルは、具体的には、屈曲形状とフラットな非屈曲形状との間で、繰り返し変形可能である。このようなフォルダブルディスプレイパネルでは、積層構造中の各要素が、繰り返し折り曲げ可能に作製されており、そのような要素間の接合に薄い光学粘着シートが用いられている。フォルダブルディスプレイパネルなどフレキシブルデバイス用の光学粘着シートについては、例えば下記の特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-111754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フレキシブルデバイス用の光学粘着シートには、デバイス屈曲時の被着体への充分な追従性と、優れた応力緩和性とを有するように、高度に軟質であることが求められる。しかしながら、光学粘着シートが柔らかいほど、当該光学粘着シートの端部には、意図しない変形が生じやすい。光学粘着シートの端部の意図しない変形は、当該光学粘着シートの取り扱い性を低下させる。
【0006】
本発明は、端部の意図しない変形を抑制するのに適した軟質の光学粘着シート、およびその製造方法を、提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明[1]は、硬質端面を有する光学粘着シートであって、前記光学粘着シートが、25℃において170kPa以下のせん断貯蔵弾性率を有し、前記硬質端面が、ナノインデンテーション法により測定される25℃での表面硬さとして硬さH1を有し、前記光学粘着シートにおける、前記硬質端面から当該光学粘着シートの面方向内側に20μm離れた部位が、ナノインデンテーション法により測定される25℃での表面硬さとして硬さH2を有し、硬さH2に対する硬さH1の比率が1.15以上である、光学粘着シートを含む。
【0008】
本発明[2]は、前記比率が10以下である、上記[1]に記載の光学粘着シートを含む。
【0009】
本発明[3]は、光開始剤を含有する、上記[1]または[2]に記載の光学粘着シートを含む。
【0010】
本発明[4]は、上記[1]から[3]のいずれか一つに記載の光学粘着シートを製造する方法であって、光開始剤を含有する光学粘着シート原材を用意する用意工程と、前記光学粘着シート原材に対してパルスレーザー光を照射および走査し、前記光学粘着シート原材における前記パルスレーザー光の多光子吸収によって前記光学粘着シート原材を切断して光学粘着シートを形成する、外形加工工程とを含む、光学粘着シートの製造方法を含む。
【0011】
本発明[5]は、前記パルスレーザー光が、ピコ秒パルスレーザー光またはフェムト秒パルスレーザー光である、上記[4]に記載の光学粘着シートの製造方法を含む。
【0012】
本発明[6]は、前記パルスレーザー光が、500nm以上2500nm以下の波長を有する、上記[4]または[5]に光学粘着シートの製造方法を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明の光学粘着シートは、上記のように、25℃において170kPa以下のせん断貯蔵弾性率を有し、軟質である。また、光学粘着シートは、上記のように、硬質端面を有し、硬質端面から同シートの面方向内側に20μm離れた部位の硬さH2に対する、硬質端面の硬さH1の比率(H1/H2)が、1.15以上である。このような、端面が局所的に硬い光学粘着シートは、端部の意図しない変形を抑制するのに適する。
【0014】
本発明の光学粘着シートの製造方法は、上記のように、光開始剤を含有する光学粘着シート原材におけるパルスレーザー光の多光子吸収により、当該光学粘着シート原材を切断する外形加工工程を含む。光学粘着シート原材に対するパルスレーザー光の照射箇所では、パルスレーザー光の多光子吸収により、光学粘着シート原材中のポリマー鎖が切断され、切断端面が形成される。切断端面が形成される時、当該切断端面においては、パルスレーザー光の多光子吸収によって光開始剤が活性化され、樹脂分間の反応(架橋反応等)が進行する。これにより、切断端面が硬化する。また、パルスレーザー光の多光子吸収による切断は、切断対象物の昇温を抑制しつつ当該対象物を切断できる切断方法である。そのため、外形加工工程は、光学粘着シート原材における切断箇所およびその近傍領域の昇温を、抑制するのに適する。このことは、外形加工工程によって形成される光学粘着シートの端部(切断端面とその近傍)において、切断端面からの硬化領域の長さを、抑制するのに適する。したがって、本製造方法は、本発明の上述の光学粘着シートを製造するのに適する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の光学粘着シートの一実施形態の断面模式図である。
図2】本発明の光学粘着シートの製造方法の一実施形態を表す。図2Aは用意工程を表し、図2Bは外形加工工程を表し、図2Cは除去工程を表し、図2Dは切断工程を表す。
図3】ワークフィルムにおける外形加工工程(図2B)後の領域の一例の模式的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の光学粘着シートの一実施形態としての粘着シート10は、図1に示すように、所定の厚さのシート形状を有し、厚さ方向Hと直交する方向(面方向D)に広がる。粘着シート10は、第1面10aと、当該第1面10aとは反対側の第2面10bとを有する。図1は、粘着シート10の両面にはく離ライナー20,30が貼り合わされている状態を例示的に示す。はく離ライナー20は、粘着シート10の第1面10aに剥離可能に接する。はく離ライナー30は、第2面10bに剥離可能に接する。粘着シート10およびはく離ライナー20,30により、はく離ライナー付き粘着シートXが形成される。はく離ライナー付き粘着シートXは、具体的には、はく離ライナー20と、粘着シート10と、はく離ライナー30とを、厚さ方向Hにこの順で備える。
【0017】
粘着シート10は、フレキシブルデバイスにおける光通過箇所に配置される光学的に透明な粘着シート(光学粘着シート)である。フレキシブルデバイスとしては、例えば、フレキシブルディスプレイパネルが挙げられる。フレキシブルディスプレイパネルは、例えば、画素パネル、偏光フィルム、位相差フィルム、タッチパネルおよびカバーフィルムなどの要素を含む積層構造を有する。粘着シート10は、例えば、フレキシブルディスプレイパネルの製造過程において、積層構造に含まれる要素どうしの接合に、用いられる。はく離ライナー20,30は、それぞれ、粘着シート10の使用時に所定のタイミングで剥離される。
【0018】
粘着シート10の25℃でのせん断貯蔵弾性率は、フレキシブルデバイス用途の光学粘着シートに求められる柔らかさを粘着シート10において実現する観点から、170kPa以下であり、好ましくは150kPa以下、より好ましくは100kPa以下、更に好ましくは80kPa以下、一層好ましくは70kPa以下、より一層好ましくは60kPa以下、特に好ましくは50kPa以下である。粘着シート10の25℃でのせん断貯蔵弾性率は、粘着シート10の凝集力を確保する観点から、好ましくは10kPa以上、より好ましくは15kPa以上、更に好ましくは20kPa以上、特に好ましくは25kPa以上である。せん断貯蔵弾性率の調整方法としては、例えば、粘着シート10におけるベースポリマーの種類の選択、分子量の調整、配合量の調整、ガラス転移温度の調整、および架橋度の調整が挙げられる。せん断貯蔵弾性率の調整方法としては、粘着シート10におけるベースポリマー以外の成分の選択および配合量の調整も挙げられる。粘着剤層のせん断貯蔵弾性率は、動的粘弾性測定によって求められる。同測定は、Rheometric Scientific社製の動的粘弾性測定装置「Advanced Rheometric Expansion System (ARES)」によって実施できる。同測定では、測定モードをせん断モードとし、測定温度範囲を-40℃~100℃とし、昇温速度を5℃/分とし、周波数を1Hzとする。せん断貯蔵弾性率の測定のための粘着シート(本実施形態では粘着シート10)の試料は、粘着シートにおける、当該粘着シートの端面から面方向内側に1mm以上離れた領域から、採取するものとする。
【0019】
粘着シート10は、硬質端面11を有する。硬質端面11は、粘着シート10の平面視において、粘着シート10の外郭の少なくとも一部を規定し、好ましくは、粘着シート10の外郭の全体(周端面の全周)を規定する。硬質端面11は、ナノインデンテーション法により測定される25℃での表面硬さとして、硬さH1を有する。また、粘着シート10における、硬質端面11から粘着シート10の面方向D内側に20μm離れた部位(第1部位)は、ナノインデンテーション法により測定される25℃での表面硬さとして、硬さH2を有する。そして、硬さH2に対する硬さH1の比率(H1/H2)が、1.15以上である。図1では、粘着シート10における、硬質端面11から面方向D内側に距離d離れた部位を、太線矢印で指し示す。硬さH2は、距離dが20μmである第1部位の表面硬さである。
【0020】
ナノインデンテーション法とは、試料の諸物性をナノメートルスケールで測る技術である。本実施形態において、ナノインデンテーション法は、ISO14577に準拠して実施される。ナノインデンテーション法では、ステージ上にセットされた試料に圧子を押し込む過程(荷重印加過程)と、それより後に試料から圧子を引き抜く過程(除荷過程)とが実施されて、一連の過程中、圧子-試料間に作用する荷重と、試料に対する圧子の相対変位とが測定される(荷重-変位測定)。これにより、荷重-変位曲線を得ることが可能である。この荷重-変位曲線から、測定試料の表面について、ナノメートルスケール測定に基づく諸物性(硬さおよび弾性率など)を求めることが可能である。ナノインデンテーション法による荷重-変位測定には、例えば、ナノインデンター(品名「Triboindenter」,Hysitron社製)を使用できる。この測定において、測定モードは単一押込み測定とし、測定温度は25℃とし、使用圧子はBerkovich(三角錐)型のダイヤモンド圧子(直径20μm)とし、荷重印加過程での測定試料に対する圧子の最大押込み深さ(最大変位hmax)は4μmとし、その圧子の押込み速度は1000nm/秒とし、除荷過程での測定試料からの圧子の引抜き速度は1000nm/秒とする。そして、得られた測定データを「TI950 Triboindenter」の専用解析ソフト(Ver. 9.4.0.1)によって処理する。具体的には、得られた荷重(F)-変位(h)曲線に基づき、最大荷重Fmax(最大変位hmaxにて圧子に作用する荷重)と、接触投影面積Ap(最大荷重時における圧子と試料との間の接触領域の投影面積)と、測定試料の表面硬さ(=Fmax/Ap)を算出する。ナノインデンテーション法による表面硬さの測定方法は、より具体的には、実施例に関して後述するとおりである。
【0021】
粘着シート10は、上述のように、25℃において170kPa以下のせん断貯蔵弾性率を有し、軟質である。また、粘着シート10は、上述のように、硬質端面11を有し、硬質端面11から粘着シート10の面方向D内側に20μm離れた部位の硬さH2に対する、硬質端面11の硬さH1の比率(H1/H2)が、1.15以上である。このような、端面(硬質端面11)が局所的に硬い粘着シート10は、端部の意図しない変形を抑制するのに適する。
【0022】
比率(H1/H2)は、端部の意図しない変形を抑制する観点から、好ましくは1.50以上、より好ましくは2.00以上、更に好ましくは2.50以上、一層好ましくは2.70以上である。比率(H1/H2)は、硬質端面11の割れを抑制する観点から、好ましくは10.0以下、より好ましくは7.00以下、更に好ましくは5.00以下、一層好ましくは3.50以下である。
【0023】
粘着シート10における、硬質端面11から粘着シート10の面方向D内側に200μm離れた部位(第2部位)は、ナノインデンテーション法により測定される25℃での表面硬さとして、硬さH3を有する。硬さH3に対する硬さH1の比率(H1/H3)は、端部の意図しない変形を抑制する観点から、好ましくは1.15以上、より好ましくは1.50以上、更に好ましくは2.00以上、一層好ましくは2.50以上、より一層好ましくは2.70以上である。比率(H1/H3)は、硬質端面11の割れを抑制する観点から、好ましくは10.0以下、より好ましくは7.00以下、更に好ましくは5.00以下、一層好ましくは3.50以下である。
【0024】
第2部位の硬さH3に対する第1部位の硬さH2の比率(H2/H3)は、第1部位の軟質性の確保の観点から、好ましくは1.05以下、より好ましくは1.01以下、更に好ましくは1.00以下である。比率(H2/H3)は、粘着シート10の柔らかさの均一性の確保の観点から、好ましくは0.90以上、より好ましくは0.93以上、更に好ましくは0.95以上である。
【0025】
粘着シート10は、粘着剤組成物から形成されている。粘着剤組成物は、ベースポリマーを含む。ベースポリマーは、粘着性を発現させる粘着成分である。ベースポリマーとしては、例えば、アクリルポリマー、ポリウレタンポリマー、ポリアミドポリマー、およびポリビニルエーテルポリマーが挙げられる。ベースポリマーは、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。粘着シート10における良好な透明性および粘着性を確保する観点から、ベースポリマーとしては、好ましくはアクリルポリマーが用いられる。
【0026】
アクリルポリマーは、(メタ)アクリル酸エステルを50質量%以上の割合で含むモノマー成分の共重合体である。「(メタ)アクリル」は、アクリルおよび/またはメタクリルを意味する。(メタ)アクリル酸エステルとしては、好ましくは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが用いられ、より好ましくは、アルキル基の炭素数が1~20である(メタ)アクリル酸アルキルエステルが用いられる。
【0027】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル(即ちラウリル(メタ)アクリレート)、(メタ)アクリル酸イソトリデシル、および(メタ)アクリル酸テトラデシルが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、好ましくは、アクリル酸2-エチルヘキシル(2EHA)と、ラウリルアクリレート(LA)と、アクリル酸n-ブチルとからなる群より選択される少なくとも一つである。モノマー成分における(メタ)アクリル酸アルキルエステルの割合は、粘着シート10において粘着性等の基本特性を適切に発現させる観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、また、例えば99質量%以下である。
【0028】
モノマー成分は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合可能な共重合性モノマーを含んでもよい。共重合性モノマーとしては、例えば、極性基を有するモノマーが挙げられる。極性基含有モノマーとしては、例えば、ヒドロキシ基含有モノマー、カルボキシ基含有モノマー、および窒素原子含有環を有するモノマーが挙げられる。極性基含有モノマーは、アクリルポリマーへの架橋点の導入、アクリルポリマーの凝集力の確保など、アクリルポリマーの改質に役立つ。
【0029】
ヒドロキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、および(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチルが挙げられる。ヒドロキシ基含有モノマーとしては、好ましくは、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルおよび(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチルからなる群より選択される少なくとも一つが用いられる。モノマー成分におけるヒドロキシ基含有モノマーの割合は、アクリルポリマーへの架橋構造の導入、および、粘着シート10における凝集力の確保の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上である。同割合は、アクリルポリマーの極性(粘着シート10における各種添加剤成分とアクリルポリマーとの相溶性に関わる)の調整の観点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下である。
【0030】
窒素原子含有環を有するモノマーとしては、例えば、N-ビニル-2-ピロリドン、アクリロイルモルフォリン(ACMO)、N-メチルビニルピロリドン、N-ビニルピリジン、N-ビニルピペリドン、N-ビニルピリミジン、N-ビニルピペラジン、N-ビニルピロール、N-ビニルイミダゾール、およびN-(メタ)アクリロイル-2-ピロリドンが挙げられる。窒素原子含有環を有するモノマーとしては、好ましくは、N-ビニル-2-ピロリドンおよび/またはACMOが用いられる。モノマー成分における、窒素原子含有環を有するモノマーの割合は、粘着シート10における凝集力の確保、および、粘着シート10における対被着体密着力の確保の観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上である。同割合は、アクリルポリマーのガラス転移温度の調整、および、アクリルポリマーの極性(粘着シート10における各種添加剤成分とアクリルポリマーとの相溶性に関わる)の調整の観点から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0031】
ベースポリマーは、好ましくは、架橋構造を有する。ベースポリマーへの架橋構造の導入方法としては、例えば、次の第1の方法および第2の方法が挙げられる。第1の方法では、架橋剤と反応可能な官能基を有するベースポリマーと架橋剤とを粘着剤組成物に配合し、ベースポリマーと架橋剤とを粘着シート中で反応させる。第2の方法では、ベースポリマーを形成するモノマー成分に、架橋剤としての多官能モノマーを含め、当該モノマー成分の重合により、ポリマー鎖に分枝構造(架橋構造)が導入されたベースポリマーを形成する。これらの方法は、併用されてもよい。
【0032】
上記第1の方法で用いられる架橋剤としては、例えば、ベースポリマーに含まれる官能基(ヒドロキシ基およびカルボキシ基など)と反応する化合物が挙げられる。そのような架橋剤としては、例えば、イソシアネート架橋剤、過酸化物架橋剤、およびエポキシ架橋剤が挙げられる。架橋剤は、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。
【0033】
上記第2の方法では、モノマー成分(架橋構造を導入するための多官能モノマーと他のモノマーとを含む)は、一度で重合させてもよいし、多段階で重合させてもよい。多段階重合の方法では、まず、ベースポリマーを形成するための単官能モノマーを重合させ(予備重合)、これによって部分重合物(低重合度の重合物と未反応のモノマーとの混合物)を含有するプレポリマー組成物を調製する。次に、プレポリマー組成物に架橋剤としての多官能モノマーを添加した後、部分重合物と多官能モノマーとを重合させる(本重合)。多官能モノマーとしては、例えば、エチレン性不飽和二重結合を1分子中に2個以上含有する多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。多官能モノマーとしては、活性エネルギー線重合(光重合)によって架橋構造を導入可能な観点から、多官能アクリレートが好ましい。多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、および、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが挙げられる。多官能(メタ)アクリレートとしては、好ましくは、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)が用いられる。
【0034】
アクリルポリマーは、上述のモノマー成分を重合させることによって形成できる。重合方法としては、例えば、溶液重合、無溶剤での光重合(例えばUV重合)、塊状重合、および乳化重合が挙げられる。溶液重合の溶媒としては、例えば、酢酸エチルおよびトルエンが用いられる。また、重合の開始剤としては、例えば、熱開始剤(熱重合開始剤)および光開始剤(光重合開始剤)が用いられる。
【0035】
光開始剤としては、例えば、ラジカル系光開始剤、カチオン系光開始剤、およびアニオン系光開始剤が挙げられる。
【0036】
ラジカル系光開始剤としては、例えば、アシルホスフィンオキサイド系光開始剤、ベンゾインエーテル系光開始剤、およびアセトフェノン系光開始剤が挙げられる。
【0037】
アシルホスフィンオキサイド系光開始剤としては、例えば、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-2,4-ジ-n-ブトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、および、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキサイドが含まれる。ベンゾインエーテル系光開始剤としては、例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、および2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オンが挙げられる。アセトフェノン系光開始剤としては、例えば、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、4-フェノキシジクロロアセトフェノン、および4-(t-ブチル)ジクロロアセトフェノンが挙げられる。
【0038】
ベースポリマーの重量平均分子量は、粘着シート10における凝集力の確保の観点から、好ましくは10万以上、より好ましくは30万以上、更に好ましくは50万以上である。同重量平均分子量は、好ましくは500万以下、より好ましくは300万以下、更に好ましくは200万以下である。ベースポリマーの重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC)によって測定してポリスチレン換算により算出される。
【0039】
ベースポリマーのガラス転移温度(Tg)については、下記のFoxの式に基づき求められるガラス転移温度(理論値)を用いることができる。Foxの式は、ポリマーのガラス転移温度Tgと、当該ポリマーを構成するモノマーのホモポリマーのガラス転移温度Tgiとの関係式である。下記のFoxの式において、Tgはポリマーのガラス転移温度(℃)を表し、Wiは当該ポリマーを構成するモノマーiの重量分率を表し、Tgiは、モノマーiから形成されるホモポリマーのガラス転移温度(℃)を示す。ホモポリマーのガラス転移温度については文献値を用いることができる。例えば、「Polymer Handbook」(第4版,John Wiley & Sons, Inc., 1999年)には、各種のホモポリマーのガラス転移温度が挙げられている。一方、モノマーのホモポリマーのガラス転移温度については、特開2007-51271号公報に具体的に記載されている方法によって求めることも可能である。
【0040】
Foxの式 1/(273+Tg)=Σ[Wi/(273+Tgi)]
【0041】
ベースポリマーのガラス転移温度(Tg)は、粘着シート10の柔らかさを確保する観点から、好ましくは0℃以下、より好ましくは-10℃以下、更に好ましくは-20℃以下である。同ガラス転移温度は、例えば-80℃以上である。
【0042】
粘着剤組成物は、好ましくは光開始剤を含有する。すなわち、粘着シート10は、好ましくは光開始剤を含有する。光開始剤としては、例えば、次の第1の光開始剤および第2の光開始剤が挙げられる。第1の光開始剤は、ベースポリマーの重合開始剤として反応液に配合された光開始剤のうち、重合反応後に残存している光開始剤(残存光開始剤)である。第2の光開始剤は、ベースポリマーを含む粘着剤組成物に新たに配合された光開始剤である。光開始剤としては、例えば、光重合開始剤として上記した光開始剤が挙げられる。粘着剤組成物が光開始剤を含有することは、後述の製造方法によって粘着シート10を製造する場合に、硬質端面11を形成するのに適する。粘着シート10における光開始剤の含有量(残存量)は、ベースポリマー100質量部あたり、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.10質量部以上であり、また、好ましくは2.00質量部以下、より好ましくは1.00質量部以下である。
【0043】
粘着剤組成物は、必要に応じて他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えば、溶剤、シランカップリング剤、紫外線吸収剤、粘着付与剤、軟化剤、および酸化防止剤が挙げられる。溶剤としては、例えば、ベースポリマーの重合時に必要に応じて用いられる重合溶媒、および、重合後に重合反応溶液に添加される溶剤が、挙げられる。当該溶剤としては、例えば、酢酸エチルおよびトルエンが用いられる。
【0044】
粘着シート10のヘイズは、好ましくは3%以下、より好ましくは2%以下、更に好ましくは1%以下である。粘着シート10のヘイズは、JIS K7136(2000年)に準拠して、ヘイズメーターを使用して測定できる。ヘイズメーターとしては、例えば、日本電色工業社製の「NDH2000」、および、村上色彩技術研究所社製の「HM-150型」が挙げられる。
【0045】
はく離ライナー20の材料としては、例えば、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリカーボネート、およびポリイミドが挙げられる。ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、およびポリブチレンテレフタレートが挙げられる。ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびシクロオレフィンポリマー(COP)が挙げられる。はく離ライナー20の厚さは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上であり、また、好ましくは200μm以下、より好ましくは150μm以下である。はく離ライナー20の剥離面21(粘着シート10側の表面)は、好ましくは剥離処理されている。剥離処理としては、例えば、シリコーン剥離処理およびフッ素剥離処理が挙げられる(後記の剥離処理についても同様である)。
【0046】
はく離ライナー20は、本実施形態では、延出端部20Aを有する。延出端部20Aは、面方向Dにおいて粘着シート10よりも外方に延出する。面方向Dにおける延出端部20Aの延出長さは、例えば0mm超であり、また、例えば50mm以下である。
【0047】
はく離ライナー30の材料としては、例えば、はく離ライナー20に関して上記した材料が挙げられる。はく離ライナー30の厚さは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上であり、また、好ましくは200μm以下、より好ましくは150μm以下である。はく離ライナー30の剥離面31(粘着シート10側の表面)は、好ましくは剥離処理されている。
【0048】
図2Aから図2Dは、本発明の光学粘着シートの製造方法の一実施形態としての、粘着シート10の製造方法を表す。この製造方法は、用意工程(図2A)と、外形加工工程(図2B)と、除去工程(図2C)と、切断工程(図2D)とを含む。この製造方法は、本実施形態では、はく離ライナー付き粘着シートX(図1)のロールトゥロール方式での製造方法である。
【0049】
用意工程では、図2Aに示すように、長尺のワークフィルムWを用意する。ワークフィルムWは、積層シートYと、キャリアフィルム104とを含む。積層シートYは、はく離ライナー付き粘着シートXの長尺の原反シートである。キャリアフィルム104は、積層シートYを支持する。
【0050】
積層シートYは、長尺のはく離ライナー102と、粘着剤層101と、長尺のはく離ライナー103とを、厚さ方向Hにこの順で備える。粘着剤層101は、粘着シート10の原材であり、長尺の光学粘着シート原材である。すなわち、本工程では、光学粘着シート原材が用意される。はく離ライナー102は、粘着剤層101の厚さ方向Hの一方面に剥離可能に接している。はく離ライナー103は、粘着剤層101の厚さ方向Hの他方面に剥離可能に接している。積層シートYは、厚さ方向Hと直交する面方向に広がる。積層シートYは、例えば次のようにして作製できる。
【0051】
まず、上述の粘着剤組成物をはく離ライナー102上に塗布して塗膜を形成する。本製造方法に用いられる粘着剤組成物は、光開始剤を含有する。粘着剤組成物における光開始剤の含有量は、ベースポリマー100質量部あたり、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.10質量部以上であり、また、好ましくは2.00質量部以下、より好ましくは1.00質量部以下である。粘着剤組成物の塗布方法としては、例えば、ロールコート、キスロールコート、グラビアコート、リバースコート、ロールブラッシュ、スプレーコート、ディップロールコート、バーコート、ナイフコート、エアーナイフコート、カーテンコート、リップコート、およびダイコートが挙げられる。
【0052】
次に、はく離ライナー102上の塗膜の上にはく離ライナー103を貼り合わせる。次に、当該塗膜を必要に応じて乾燥させ、また、必要に応じて塗膜に対して紫外線を照射する。これにより、光開始剤を含有する粘着剤層101(光学粘着シート原材)を形成する。塗膜の乾燥温度は、例えば50℃~200℃である。乾燥時間は、例えば5秒~20分である。紫外線照射用の光源としては、例えば、紫外線LEDライト、ブラックライト、高圧水銀ランプ、およびメタルハライドランプが挙げられる。また、紫外線照射における照射強度は例えば2~200mW/cmである。本工程において紫外線照射する場合、粘着剤組成物中の光開始剤の少なくとも一部が残存するように、紫外線照射する。以上のようにして形成された粘着剤層101における光開始剤の含有量は、ベースポリマー100質量部あたり、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.10質量部以上であり、また、好ましくは2.00質量部以下、より好ましくは1.00質量部以下である。
【0053】
キャリアフィルム104は、厚さ方向Hの一方側に粘着面を有する片面粘着フィルムである。ワークフィルムWにおいて、キャリアフィルム104の粘着面が、積層シートYのはく離ライナー102側に貼り合わせられている。すなわち、ワークフィルムWは、具体的には、キャリアフィルム104と、はく離ライナー102と、粘着剤層101と、はく離ライナー103とを、厚さ方向Hにこの順で備える。
【0054】
また、キャリアフィルム104は、本実施形態では、ワークフィルムWの流れ方向D1と直交する幅方向D2(図3)において、積層シートYよりも幅広である。積層シートYは、例えば、キャリアフィルム104上において幅方向D2の中央位置に配置される。積層シートYの幅(幅方向D2の長さ)は、例えば200mm以上、好ましくは280mm以上、より好ましくは400mm以上であり、また、例えば2000mm以下、好ましくは1800mm以下、より好ましくは1600mm以下である。このようなワークフィルムWが、製造ラインを流される。
【0055】
次に、外形加工工程では、図2Bに示すように、はく離ライナー102上の粘着剤層101に対するレーザー加工により、所定の平面視形状の粘着シート10を形成する。具体的には、粘着剤層101(光学粘着シート原材)に対してはく離ライナー103側からパルスレーザー光Lを照射および走査して、はく離ライナー102上の粘着剤層101およびはく離ライナー103におけるパルスレーザー光Lの多光子吸収によって粘着剤層101およびはく離ライナー103を切断する。これにより、厚さ方向Hに深さを有するカット溝Gを形成する。カット溝Gは、ワークフィルムWにおける所定の加工予定ライン(設計上の切断ライン)をたどるように形成される。本工程では、粘着剤層101において、個片化された粘着シート10が形成され、且つ、粘着シート10まわりに周囲部101a(第1周囲部)が形成される。また、はく離ライナー103において、個片化されたはく離ライナー30が形成され、且つ、はく離ライナー30まわりに周囲部103a(第2周囲部)が形成される。図3は、ワークフィルムWにおける外形加工工程後の領域の一例を模式的に表す平面図である。図3では、カット溝Gを、ハッチングを付して示す。図2Bに示される部分断面図は、図3に示すワークフィルムWにおけるI-I線に沿った部分断面図に相当する。
【0056】
パルスレーザー光Lは、粘着剤層101において多光子吸収を適切に生じさせる観点から、好ましくは、ピコ秒パルスレーザー光またはフェムト秒パルスレーザー光であり、レーザー加工箇所の熱変性を抑制する観点から、より好ましくはフェムト秒パルスレーザー光である。パルスレーザー光Lのパルス幅は、粘着剤層101において多光子吸収を適切に生じさせる観点から、好ましくは100fs(フェムト秒)以上であり、また、好ましくは60ps(ピコ秒)以下である。
【0057】
パルスレーザー光Lの波長は、好ましくは500nm以上、より好ましくは800nm以上、更に好ましくは1000nm以上であり、また、好ましくは2500nm以下、より好ましくは1800nm以下、更に好ましくは1200nm以下である。このような構成は、粘着剤層101において多光子吸収を適切に生じさせるのに好ましく、また、切断端面のきれいさ(品位)を確保するのに好ましい。
【0058】
パルスレーザー光Lのパルスエネルギーは、好ましくは30μJ以上、より好ましくは40μJ以上であり、また、好ましくは300μJ以下、より好ましくは280μJ以下である。このような構成は、粘着剤層101におけるレーザー加工箇所の昇温を抑制して熱変性を抑制するのに好ましく、また、粘着剤層101において多光子吸収を適切に生じさせるのに好ましい。
【0059】
パルスレーザー光Lのパルスの繰り返し周波数は、粘着剤層101において多光子吸収を適切に生じさせる観点と製造効率の観点とから、好ましく100kHz以上、より好ましくは200kHz以上であり、また、好ましくは10MHz以下、より好ましくは5MHz以下である。
【0060】
パルスレーザー光Lの照射スポット径は、レーザー加工箇所の品位と製造効率との両立の観点から、好ましくは20μm以上、より好ましくは25μm以上であり、また、好ましくは90μm以下、より好ましくは80μm以下である。
【0061】
多光子吸収によるレーザー加工用のパルスレーザー光Lとしては、例えば、気体レーザー、固体レーザー、および半導体レーザーが挙げられる。気体レーザーとしては、例えば、エキシマレーザーおよびCOレーザーが挙げられる。エキシマレーザーとしては、例えば、Fエキシマレーザー、ArFエキシマレーザー、KrFエキシマレーザー、およびXeClエキシマレーザーが挙げられる(括弧内の数値はレーザー波長を表す。レーザーに関して以下同じ)。固体レーザーとしては、例えば、Yb:YAGレーザー(波長1030nm)、Yb:YAGレーザーの二次高調波(波長515nm)、Nd:YAGレーザー(1064nm)、Nd:YAGレーザーの二次高調波(532nm)、Nd:YAGレーザーの三次高調波(355nm)、およびNd:YAGレーザーの四次高調波(266nm)が挙げられる。パルスレーザー光Lとしては、好ましくは、Yb:YAGレーザー(波長1030nm)、Yb:YAGレーザーの二次高調波(波長515nm)、Nd:YAGレーザー(1064nm)、およびNd:YAGレーザーの二次高調波(532nm)からなる群より選択される。
【0062】
本製造方法においては、次に、図2Cに示すように、はく離ライナー102上から周囲部101a,103aを除去する(除去工程)。
【0063】
次に、図2Dに示すように、長尺のはく離ライナー102を、枚葉状のはく離ライナー20に切断する(切断工程)。切断方法としては、例えば、レーザー光の照射による切断、および、打抜き加工による切断が挙げられる。
【0064】
以上のようにして、はく離ライナー20,30付きの粘着シート10(光学粘着シート)を製造できる。
【0065】
本製造方法は、上述のように、光開始剤を含有する粘着剤層101(光学粘着シート原材)におけるパルスレーザー光Lの多光子吸収により、粘着剤層101を切断する外形加工工程を含む。粘着剤層101に対するパルスレーザー光Lの照射箇所では、パルスレーザー光Lの多光子吸収により、粘着剤層101中のポリマー鎖が切断され、切断端面が形成される。切断端面が形成される時、当該切断端面においては、パルスレーザー光Lの多光子吸収によって光開始剤が活性化され、樹脂分間の反応(架橋反応等)が進行する。これにより、切断端面が硬化して、粘着シート10の硬質端面11(図2B)が形成される。また、パルスレーザー光Lの多光子吸収による切断は、切断対象物の昇温を抑制しつつ当該対象物を切断できる切断方法である。そのため、外形加工工程は、粘着剤層101における切断箇所およびその近傍領域の昇温を、抑制するのに適する。このことは、外形加工工程によって形成される粘着シート10の硬質端面11(切断端面)とその近傍において、硬質端面11からの硬化領域の長さを、抑制するのに適する。具体的には、粘着シート10において、硬質端面11から粘着シート10の面方向D内側に20μm離れた第1部位を硬化させずに、硬質端面11を形成できる。以上のような本製造方法によると、上述の粘着シート10を適切に製造できる。
【実施例0066】
本発明について、以下に実施例を示して具体的に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。また、以下に記載されている配合量(含有量)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上述の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合量(含有量)、物性値、パラメータなどの上限(「以下」または「未満」として定義されている数値)または下限(「以上」または「超える」として定義されている数値)に代替できる。
【0067】
〔実施例1〕
〈粘着剤組成物C1の調製〉
まず、アクリル酸ブチル(BA)71質量部と、N-ビニル-2-ピロリドン(NVP)13質量部と、アクリル酸4-ヒドロキシブチル(4HBA)13質量部と、アクリロイルモルフォリン(ACMO)3質量部と、第1の光重合開始剤(品名「イルガキュア184」,1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン,BASF製)0.031質量部と、第2の光重合開始剤(品名「イルガキュア651」,2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン,BASF製)0.031質量部とを含む混合物に対して紫外線を照射し(重合反応)、プレポリマー組成物(重合率は約10%)を得た(プレポリマー組成物は、重合反応を経ていないモノマー成分を含有する)。次に、プレポリマー組成物100質量部と、光重合性多官能化合物としてのウレタンアクリレートオリゴマー(品名「UN-350」,根上工業社製)0.6質量部と、光重合開始剤(品名「イルガキュア819」,ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド,BASF製)0.4質量部と、シランカップリング剤(品名「KBM-403」,3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,信越化学工業社製)0.3質量部とを混合し、粘着剤組成物C1を得た。
【0068】
〈積層シートの作製〉
まず、第1はく離ライナーとしてのはく離ライナーR1の剥離処理面上に、粘着剤組成物C1を塗布して塗膜を形成した。はく離ライナーR1は、片面がシリコーン剥離処理されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(品名「ダイアホイル MRF75」,厚さ75μm,三菱ケミカル社製)である。次に、はく離ライナーR1上の塗膜に、第2はく離ライナーとしてのはく離ライナーR2の剥離処理面を貼り合わせた。はく離ライナーR2は、片面がシリコーン剥離処理されたPETフィルム(品名「ダイアホイル MRE75」,厚さ75μm,三菱ケミカル社製)である。次に、塗膜に対してはく離ライナーR2越しに紫外線を照射して塗膜を紫外線硬化させ、厚さ100μmの第1粘着剤層を形成した。紫外線照射においては、光源としてブラックライト(東芝製)を使用し、照射強度を6.5mW/cmとし、照射積算光量を1500mJ/cmとした。紫外線照工程では、塗膜において、上述の残存モノマーと光重合性多官能化合物(ウレタンアクリレートオリゴマー)とを含む系での光重合反応が進行し、光架橋構造を有する光重合ポリマーが形成される。これにより、はく離ライナー付き光学粘着シートの原材シートとしての積層シート(はく離ライナーR1/第1粘着剤層/第2はく離ライナーR2)を得た。
【0069】
〈外形加工工程〉
次に、積層シートの第1粘着剤層を外形加工した。具体的には、積層シートの第1切断予定ラインに沿って、積層シートに対してはく離ライナーR2側から厚さ方向にパルスレーザー光を照射することにより、はく離ライナーR1上の第1粘着剤層およびはく離ライナーR2を厚さ方向に切断した(レーザー加工)。このレーザー加工では、積層シートにおけるパルスレーザー光の多光子吸収により、はく離ライナーR1上で第1粘着剤層(光学粘着シート原材)およびはく離ライナーR2を切断した。レーザー光照射では、所定のレーザー加工装置を使用し、レーザー光源(レーザー媒質)としてYb:YAGレーザーを用い、レーザー光の波長を1030nmとし、パルスエネルギーを50μJとし、パルスの繰り返し周波数を200kHzとし、パルス幅を300fs(フェムト秒)とし、照射スポット径を33μmとし、走査速度を60mm/sとした。本工程では、大判の光学粘着シートにおいて、所定の平面視形状の光学粘着シートとその周りの第1周囲部が生じ、はく離ライナーR2において、第1周囲部上に第2周囲部が生じた。
【0070】
〈周囲部の除去,切断〉
外形加工工程の後、はく離ライナーR1上から第1・第2周囲部を除去した。その後、はく離ライナーR1を切断した。具体的には、はく離ライナーR1の第2切断予定ラインに沿って、はく離ライナーR1に対して厚さ方向にCOレーザーを照射することにより、はく離ライナーR1を所定の平面視形状に切断した。第2切断予定ラインは、上述の第1切断予定ラインよりも面方向外側に3mm離れている。また、本工程のレーザー照射では、レーザー加工装置(品名「LC500」,武井電機工業製)を使用し、照射レーザーのパルス幅を3.3μ秒とし、パルスの繰り返し周波数を15kHzとし、レーザー出力を40Wとした。
【0071】
以上のようにして、実施例1の光学粘着シートを両面はく離ライナー付き粘着シート(第1はく離ライナー/光学粘着シート(粘着剤組成物C1から形成,厚さ100μm)/第2はく離ライナー)として作製した。
【0072】
〔実施例2〕
次のこと以外は実施例1の光学粘着シートと同様にして、実施例2の光学粘着シートを作製した。積層シートの作製工程において、粘着剤組成物C1の代わりに粘着剤組成物C2を用い、はく離ライナー間の塗膜に照射される紫外線の照射強度を5mW/cmとし、はく離ライナーR1,R2間に厚さ100μmの第2粘着剤層を形成した。
【0073】
粘着剤組成物C2の調製においては、まず、アクリル酸2-エチルヘキシル(2EHA)45質量部と、ラウリルアクリレート(LA)42質量部と、アクリル酸n-ブチル(BA)2質量部と、アクリル酸4-ヒドロキシブチル(4HBA)4質量部と、N-ビニル-2-ピロリドン(NVP)7質量部と、光重合開始剤(イルガキュア184)0.015質量部とを含む混合物に対して紫外線を照射し(重合反応)、プレポリマー組成物(重合率は約10%)を得た。次に、プレポリマー組成物100質量部と、多官能アクリレートモノマーとしてのジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)0.08質量部と、シランカップリング剤(KBM-403)0.3質量部とを混合した。以上のようにして、粘着剤組成物C2を得た。
【0074】
〔比較例1〕
〈粘着剤組成物C3の調製〉
まず、撹拌機、温度計、還流冷却器、および窒素ガス導入管を備える反応容器内で、アクリル酸2-エチルヘキシル(2EHA)70質量部と、アクリル酸n-ブチル(BA)20質量部と、ラウリルアクリレート(LA)8質量部と、アクリル酸4-ヒドロキシブチル(4HBA)1質量部と、N-ビニル-2-ピロリドン(NVP)0.6質量部と、熱重合開始剤としての2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.1質量部と、溶媒としての酢酸エチルとを含む混合物(固形分濃度47質量%)を、56℃で6時間、窒素雰囲気下で撹拌した(重合反応)。これにより、アクリルベースポリマーを含有するポリマー溶液を得た。このポリマー溶液中のアクリルベースポリマーの重量平均分子量は約200万であった。次に、当該ポリマー溶液に、ポリマー溶液の固形分100質量部あたり、第1架橋剤(品名「ナイパーBMT-40SV」,ジベンゾイルパーオキシド,日本油脂製)0.26質量部と、第2架橋剤(品名「コロネートL」,トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート3量体付加物,東ソー製)0.02質量部と、シランカップリング剤(KBM-403)0.3質量部とを加えて混合し、粘着剤組成物C3を調製した。粘着剤組成物C3は光開始剤を含有しない。
【0075】
〈積層シートの作製〉
まず、第1はく離ライナーとしての上記はく離ライナーR1の剥離処理面上に、粘着剤組成物C3を塗布して塗膜を形成した。次に、はく離ライナーR1上の塗膜に、第2はく離ライナーとしての上記はく離ライナーR2の剥離処理面を貼り合わせた。はく離ライナーR2は、片面がシリコーン剥離処理されたPETフィルム(品名「ダイアホイル MRE75」,厚さ75μm,三菱ケミカル社製)である。次に、はく離ライナーR1,R2間の塗膜を、100℃で1分間の加熱とその後の150℃で3分間の加熱とによって乾燥し、厚さ100μmの第3粘着剤層を形成した。これにより、はく離ライナー付き光学粘着シートの原材シートとしての積層シート(はく離ライナーR1/第3粘着剤層/第2はく離ライナーR2)を得た。
【0076】
〈せん断貯蔵弾性率〉
実施例1,2および比較例1の各光学粘着シートについて、動的粘弾性を測定した。
【0077】
まず、光学粘着シートから切り出した複数の粘着シート片を貼り合わせて、約1.5mmの厚さのサンプルシートを作製した。各粘着シート片は、光学粘着シートにおける、同シートの端面から面方向内側に300μm以上離れた領域から、採取した。次に、このシートを打抜いて、測定用サンプルである円柱状のペレット(直径7.9mm)を得た。
【0078】
そして、測定用サンプルについて、動的粘弾性測定装置(品名「Advanced Rheometric Expansion System (ARES)」,Rheometric Scientific社製)を使用して、直径7.9mmのパラレルプレートの治具に固定した後に動的粘弾性測定を行った。本測定において、測定モードをせん断モードとし、測定温度範囲を-40℃~100℃とし、昇温速度を5℃/分とし、周波数を1Hzとした。測定結果から、25℃におけるせん断貯蔵弾性率を読み取った。その値を表1に示す。
【0079】
〈ナノインデンテーション法による硬さ測定〉
実施例1,2および比較例1の各光学粘着シートの端面(図1での端面11)について、ナノインデンテーション法による荷重-変位測定を行った(第1の測定)。
【0080】
具体的には、ナノインデンター(品名「Triboindenter」,Hysitron社製)を使用して、ISO14577に準拠した荷重-変位測定を行い、荷重-変位曲線を得た。本測定において、測定モードは単一押込み測定とし、測定温度は25℃とし、使用圧子はBerkovich(三角錐)型のダイヤモンド圧子(直径20μm)とし、荷重印加過程での測定試料に対する圧子の最大押込み深さ(最大変位hmax)は4μmとし、その圧子の押込み速度は1000nm/秒とし、除荷過程での測定試料からの圧子の引抜き速度は1000nm/秒とした。そして、得られた測定データを「TI950 Triboindenter」の専用解析ソフト(Ver. 9.4.0.1)によって処理した。具体的には、得られた荷重(F)-変位(h)曲線に基づき、最大荷重Fmax(最大変位hmaxにて圧子に作用する荷重)、および接触投影面積Ap(最大荷重時における圧子と試料との間の接触領域の投影面積)を得た。そして、最大荷重Fmaxと接触投影面積Apとから、光学粘着シートの端面の表面硬さ(=Fmax/Ap)を算出した。算出された表面硬さを、硬さH1(kPa)として表1に示す。
【0081】
一方、実施例1,2および比較例1の各光学粘着シートについて、ナノインデンテーション法による荷重-変位測定を行った(第2の測定)。
【0082】
まず、両面はく離ライナー付き光学粘着シートから第1はく離ライナーを剥離した。次に、当該剥離によって露出した光学粘着シートの露出面について、ナノインデンター(品名「Triboindenter」,Hysitron社製)によって荷重-変位測定を行い、荷重-変位曲線を得た。第2の測定における測定部位は、光学粘着シートの端面から同シートの面方向内側に20μm離れた部位である。第2の測定での測定条件は、第1の測定での測定条件と同じである。そして、得られた測定データを「TI950 Triboindenter」の専用解析ソフト(Ver. 9.4.0.1)によって処理し、光学粘着シートの端面から20μm離れた部位の表面硬さ(=Fmax/Ap)を算出した。算出された表面硬さを、硬さH2(kPa)として表1に示す。硬さH2に対する上記硬さH1の比率(H1/H2)も表1に示す。
【0083】
また、実施例1,2および比較例1の各光学粘着シートについて、測定部位以外は第2の測定と同様にして、ナノインデンテーション法による荷重-変位測定を行った(第3の測定)。第3の測定における測定部位は、光学粘着シートの端面から同シートの面方向内側に200μm離れた部位である。そして、得られた測定データを「TI950 Triboindenter」の専用解析ソフト(Ver. 9.4.0.1)によって処理し、光学粘着シートの端面から200μm離れた部位の表面硬さ(=Fmax/Ap)を算出した。算出された表面硬さを、硬さH3(kPa)として表1に示す。硬さH3に対する上記硬さH1の比率(H1/H3)も表1に示す。
【0084】
実施例1,2および比較例1の各光学粘着シートは、いずれも、25℃でのせん断貯蔵弾性率が170kPa以下であり、軟質である。そして、比較例1の光学粘着シートは、比率(H1/H2)および比率(H1/H3)が1.15を下回り、1.00以下である。このような光学粘着シートでは、端面も、内部領域と同じように柔らかい。これに対し、実施例1,2の各光学粘着シートは、比率(H1/H2)および比率(H1/H3)が1.15以上であり、硬質端面を有する。このような、端面が局所的に硬い光学粘着シートは、端部の意図しない変形を抑制するのに適する。
【0085】
【表1】
【符号の説明】
【0086】
X はく離ライナー付き粘着シート
10 粘着シート(光学粘着シート)
11 硬質端面
20,30 はく離ライナー
H 厚さ方向
Y 積層シート
C キャリアフィルム
101 粘着剤層(光学粘着シート原材)
図1
図2
図3