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特開2024-143065環状酸無水物の混合物、硬化性樹脂組成物、およびこれらの硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143065
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】環状酸無水物の混合物、硬化性樹脂組成物、およびこれらの硬化物
(51)【国際特許分類】
   C07D 307/77 20060101AFI20241003BHJP
   C08G 59/42 20060101ALI20241003BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20241003BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20241003BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C07D307/77
C08G59/42
C08L63/00 Z
C08K7/06
C08K5/09
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055549
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】寺田 究
(72)【発明者】
【氏名】鎗田 正人
(72)【発明者】
【氏名】中西 政隆
【テーマコード(参考)】
4J002
4J036
【Fターム(参考)】
4J002CD001
4J002CD041
4J002CD051
4J002CD061
4J002CD071
4J002DA018
4J002EL136
4J002EU117
4J002EU137
4J002EW017
4J002FA048
4J002FD018
4J002FD146
4J002FD157
4J002GF00
4J002GJ00
4J002GJ01
4J002GJ02
4J002GQ00
4J002GQ05
4J036AA01
4J036AA02
4J036AD01
4J036AD08
4J036DA04
4J036DB21
4J036DC41
4J036DC46
4J036DD07
4J036FA02
4J036JA06
4J036JA07
4J036JA08
4J036JA11
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐熱性、寸法安定性に優れる環状酸無水物の混合物、硬化性樹脂組成物、及び当該環状酸無水物の混合物の製造方法を提供する。
【解決手段】1,3-p-メンタジエンと無水マレイン酸と溶剤とを40~80℃にて反応したのち、溶剤を濃縮することで得られる、ビシクロ[2.2.2]オクタ-5-エン-2,3-ジカルボン酸無水物の混合物であって、80℃で溶解させた後、10℃で静置してから結晶化するまでの時間が0.1~1.5時間である混合物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(A-a)で表される環状酸無水物と、下記式(A-b)で表される環状酸無水物と、下記式(A-c)で表される環状酸無水物とからなる環状酸無水物の混合物であって、
前記環状酸無水物の混合物をガスクロマトグラフィー分析した際の前記式(A-a)~(A-c)で表される環状酸無水物のピーク面積の総和を100%としたとき、前記式(A-a)で表される環状酸無水物のピーク面積が0.1%以上1.0%以下であり、前記式(A-b)で表される環状酸無水物のピーク面積が98.0%以上99.0%以下であり、前記式(A-c)で表される環状酸無水物のピーク面積が0.1%以上1.0%以下である環状酸無水物の混合物。
【化1】
【請求項2】
80℃で溶解させた後、10℃で静置してから結晶化するまでの時間が0.1~1.5時間である請求項1に記載の環状酸無水物の混合物。
【請求項3】
ペレット状、粒状、またはマーブル状である請求項1に記載の環状酸無水物の混合物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の環状酸無水物の混合物とエポキシ樹脂と硬化促進剤とを含む硬化性樹脂組成物
【請求項5】
請求項4に記載の硬化性樹脂組成物を硬化してなる硬化物。
【請求項6】
請求項4に記載の硬化性樹脂組成物を硬化してなる炭素繊維強化複合材料。
【請求項7】
1,3-p-メンタジエンと無水マレイン酸と溶剤とを40~80℃にて反応したのち、溶剤を濃縮することで得られる請求項1から3のいずれか一項に記載の環状酸無水物の混合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状酸無水物の混合物、硬化性樹脂組成物、およびこれらの硬化物に関するものであり、半導体封止材、プリント配線板、ビルドアップ積層板などの電気・電子部品、炭素繊維強化プラスチック、ガラス繊維強化プラスチックなどの軽量高強度材料、3Dプリンティング用途、接着剤の分野で好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、機械強度、耐熱性、接着性、及びガスバリア性等に優れることから、様々な分野で広く使用されている。従来、エポキシ樹脂の硬化剤として酸無水物が有効であることはよく知られており、酸無水物は、アミン系硬化剤と比較して毒性や臭気が少ない事、硬化時の発熱や体積収縮が小さい事等の理由から、小型注型、大型注型、含浸成形、紛体塗料等の用途で使用されてきた。
【0003】
エポキシ樹脂や酸無水物などの硬化剤は、その原料としては石油由来のものが多く使用されてきたが、近年、石油資源の枯渇が懸念されてきており、多くの材料で植物等の再生可能資源の利用や硬化物を分解することによる再利用方法が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭55-118920号公報
【特許文献2】特開平01-167326号公報
【特許文献3】特開平07-018059号公報
【特許文献4】特開2014-025036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1から4は植物等の再生可能資源として1,3-p-メンタジエンと無水マレイン酸を付加反応させることで合成した1-イソプロピル-4-メチル-ビシクロ[2.2.2]オクタ-5-エン-2,3-ジカルボン酸無水物について記載している。そこで、本願出願人はこれらの文献に記載の方法で、1-イソプロピル-4-メチル-ビシクロ[2.2.2]オクタ-5-エン-2,3-ジカルボン酸無水物を製造したところ、結晶化速度が遅いことが確認された。
【0006】
結晶化速度が遅い場合、一般には、液状のまま一旦ドラムなどの容器に受けて、時間をかけて結晶化した後、ドラムなどの容器の外からハンマーなどで砕くか、または使用時にオーブンなどで加温・溶解してから使用することになる。そのため、ハンドリング性が非常に悪い。
【0007】
一方、結晶化速度が速い場合は、ペレット状、粒状、またはマーブル状に加工することが可能となり、ハンドリング性が大幅に向上する。また、結晶化速度が速い早い場合は、粒状、またはマーブル状の形状に加工するときに、液滴をコンベアに落としてコンベア輸送中で冷却する製法を可能とする。
【0008】
また、上記酸無水物を有する硬化性樹脂組成物においては硬化物の耐熱性(Tg)が低く、かつ線膨張係数が大きいため、硬化後に金型から取り出して室温に冷やす際に熱収縮が生じてしまうといった課題を有することが明らかとなった。そのため、炭素繊維強化複合材料に用いるためには、熱安定性・寸法安定性を高くする必要があった。
【0009】
本発明は、前記の課題に鑑みてなされたものであり、耐熱性、寸法安定性に優れる環状酸無水物の混合物、硬化性樹脂組成物、及び当該環状酸無水物の混合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、以下の[1]~[7]に示すものである。なお、本発明において「(数値1)~(数値2)」は上下限値を含むことを示す。
[1]
下記式(A-a)で表される環状酸無水物と、下記式(A-b)で表される環状酸無水物と、下記式(A-c)で表される環状酸無水物とからなる環状酸無水物の混合物であって、
前記環状酸無水物の混合物をガスクロマトグラフィー分析した際の前記式(A-a)~(A-c)で表される環状酸無水物のピーク面積の総和を100%としたとき、前記式(A-a)で表される環状酸無水物のピーク面積が0.1%以上1.0%以下であり、前記式(A-b)で表される環状酸無水物のピーク面積が98.0%以上99.0%以下であり、前記式(A-c)で表される環状酸無水物のピーク面積が0.1%以上1.0%以下である環状酸無水物の混合物。
【0011】
【化1】
【0012】
[2]
80℃で溶解させた後、10℃で静置してから結晶化するまでの時間が0.1~1.5時間である前項[1]に記載の環状酸無水物の混合物。
[3]
ペレット状、粒状、またはマーブル状である前項[1]又は[2]に記載の環状酸無水物の混合物。
[4]
前項[1]から[3]のいずれか一項に記載の環状酸無水物の混合物とエポキシ樹脂と硬化促進剤とを含む硬化性樹脂組成物。
[5]
前項[4]に記載の硬化性樹脂組成物を硬化してなる硬化物。
[6]
前項[4]に記載の硬化性樹脂組成物を硬化してなる炭素繊維強化複合材料。
[7]
1,3-p-メンタジエンと無水マレイン酸と溶剤とを40~80℃にて反応したのち、溶剤を濃縮することで得られる前項[1]から[3]のいずれか一項に記載の環状酸無水物の混合物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、耐熱性、寸法安定性に優れる環状酸無水物の混合物、硬化性樹脂組成物を提供することができる。また、当該環状酸無水物の混合物の安価な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態の環状酸無水物の混合物は、下記式(A-a)で表される環状酸無水物と、下記式(A-b)で表される環状酸無水物と、下記式(A-c)で表される環状酸無水物とからなるものであって、ガスクロマトグラフィー分析した際の前記式(A-a)~(A-c)で表される環状酸無水物のピーク面積の総和を100%としたとき、前記式(A-a)で表される環状酸無水物のピーク面積が0.1%以上1.0%以下であり、前記式(A-b)で表される環状酸無水物のピーク面積が98.0%以上99.0%以下であり、前記式(A-c)で表される環状酸無水物のピーク面積が0.1%以上1.0%以下である。上記環状酸無水物の混合物は、結晶化速度が速く、ペレット状、粒状、またはマーブル状で提供することが可能である。また、熱性・寸法安定性の高い炭素繊維強化複合材料に用いることができる。
【0015】
【化2】
【0016】
前記環状酸無水物の混合物をガスクロマトグラフィー分析した際の前記式(A-a)~(A-c)で表される環状酸無水物のピーク面積の総和を100%としたとき、前記式(A-a)で表される環状酸無水物のピーク面積は0.1%以上1.0%以下であることが好ましく、0.1%以上0.8%以下であることが好ましく、は0.1%以上0.5%以下であることが特に好ましい。
【0017】
前記環状酸無水物の混合物をガスクロマトグラフィー分析した際の前記式(A-a)~(A-c)で表される環状酸無水物のピーク面積の総和を100%としたとき、前記式(A-b)で表される環状酸無水物のピーク面積は98.0%以上99.0%以下であることが好ましく、98.5%以上99.0%以下であることが好ましく、は98.8%以上99.0%以下であることが特に好ましい。
【0018】
前記環状酸無水物の混合物をガスクロマトグラフィー分析した際の前記式(A-a)~(A-c)で表される環状酸無水物のピーク面積の総和を100%としたとき、前記式(A-c)で表される環状酸無水物のピーク面積は0.1%以上1.0%以下であることが好ましく、0.1%以上0.8%以下であることが好ましく、は0.1%以上0.5%以下であることが特に好ましい。
【0019】
なお、前記ガスクロマトグラフィー分析は以下の条件で行っている。
・ガスクロマトグラフィー(GC)測定
装置 :8890GC System (Agilent Technologies社製)
カラム :HP-5MS(Agilent Technologies社製)
カラム流量 :1.2 ml/min
オーブン :100 ℃ (2 min)-5 ℃/min - 300 ℃ (3min)
注入口 :300℃,注入量 1.0 μl
検出器 :FID (300 ℃)
【0020】
本実施形態の環状酸無水物の混合物は1,3-p-メンタジエンと無水マレイン酸を付加反応させることで容易に得られる。付加反応条件としては、通常のディールズ・アルダー反応条件に適用される。すなわち、その反応割合は1,3-p-メンタジエンに対して無水マレイン酸がほぼ当モル量又はそれよりやや過剰量が好ましい。
【0021】
反応系には適当な溶媒、例えば芳香族炭化水素及び脂環族炭化水素等(例:n-ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン及びシクロヘキサン等)を用いて反応を行ってもよい。反応温度は40~80℃であることが好ましく、40~70℃であることがさらに好ましく、45~65℃であることが特に好ましい。
【0022】
本実施形態の環状酸無水物の混合物は、固体状態、溶融状態、溶液状態のいずれでもよいが、固体状態であることが好ましく、均一な結晶化と、取り扱いの容易さから、ペレット状、粒状、またはマーブル状であることがさらに好ましい。
【0023】
ペレット状、粒状、またはマーブル状に成形する方法は、特に限定されるものではないが、ペレット製造装置としては、例えば、日本コークス工業社製ベルトドラムフレーカ、日本スチールコンベヤ社製スチールベルトコンベア、三菱マテリアルテクノ社製フレーカー等が挙げられる。ペレット、粒、マーブルの大きさは、特に限定されるものではないが、製造工程におけるハンドリングおよび二次成形の際のハンドリングを考慮すると、0.1mm~10mmが好ましく、1mm~5mmがより好ましい。
【0024】
本実施形態の環状酸無水物の混合物の融点は60~80℃であることが好ましく、61.5~80℃であることがさらに好ましい。また、下記条件で測定した結晶化速度は0.1~1.5時間であることが好ましく、0.5~1.5であることがさらに好ましい。
【0025】
本実施形態の結晶加速度の測定は以下の条件で行った。
<結晶化速度測定条件>
環状酸無水物の混合物を80℃のオーブンに1時間静置して溶解させた後、10℃に維持した受け皿に溶解させた環状酸無水物の混合物の溶液0.02gを滴下して静置し、透明な液体が結晶化して完全に白濁化・固化するまでの時間を測定した。
【0026】
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、前記環状酸無水物の混合物とエポキシ樹脂と硬化促進剤とを含む。エポキシ樹脂は特に制限はなく、通常用いられるエポキシ樹脂から適宜選択することができる。中でも、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂であることが好ましい。1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂の例としては、ナフタレン型、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型、フェノールアラルキル型、ビフェニル型、ヒドロキシベンズアルデヒド型、ジシクロペンタジエン型、グリシジルエステル型、グリシジルアミン型、ヒダントイン型、イソシアヌレート型等の各種多官能エポキシ樹脂が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
エポキシ樹脂のエポキシ当量は特に制限されない。硬化物の耐熱性及び吸水性の観点からは、100~350(g/eq)であることが好ましく、150~300(g/eq)であることがより好ましい。
【0028】
エポキシ樹脂は、耐熱性、電気特性及び吸水性の観点からは、ジシクロペンタジエン型、o-クレゾールノボラック型、ナフタレン型、ビフェニル型、フェノールアラルキル型及びトリスフェノールメタン型からなる群より選ばれる少なくとも1種の多官能エポキシ樹脂であって、エポキシ当量が100~350(g/eq)であることが好ましく、ジシクロペンタジエン型、o-クレゾールノボラック型、ナフタレン型及びトリスフェノールメタン型からなる群より選ばれる少なくとも1種の多官能エポキシ樹脂であって、エポキシ当量が150~300(g/eq)であることがより好ましい。
【0029】
硬化性樹脂組成物におけるエポキシ樹脂の含有率は特に制限されないが、成形性及び耐熱性の観点からは、硬化性樹脂組成物の総重量中に10重量%~80重量%であることが好ましく、40重量%~50重量%であることがより好ましい。
【0030】
本実施形態の硬化性樹脂組成物において前記環状酸無水物の混合物の使用量は、エポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して0.7~1.2当量が好ましい。エポキシ基1当量に対して0.7当量に満たない場合、或いは1.2当量を越える場合、いずれも硬化が不完全になり、良好な硬化物性が得られない恐れがある。
【0031】
硬化性樹脂組成物は前記環状酸無水物の混合物に加えて、必要に応じて他の硬化剤を更に含有してもよい。他の硬化剤は、硬化性樹脂組成物に通常用いられる硬化剤から適宜選択することができる。他の硬化剤としては、前記環状酸無水物の混合物以外の酸無水物化合物、フェノール樹脂等を挙げることができる。
【0032】
前記環状酸無水物の混合物以外の酸無水物化合物としては、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、無水ナジック酸、無水グルタル酸、無水ジメチルグルタル酸、無水ジエチルグルタル酸、無水コハク酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸等を挙げることができる。これらの中でも、無水フタル酸、無水トリメリット酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水グルタル酸、無水ジメチルグルタル酸及び無水ジエチルグルタル酸からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。また硬化性樹脂組成物の取扱い作業性の観点からは、常温で固体の酸無水物化合物が好ましい。
【0033】
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、硬化促進剤を使用することによりゲル化時間を調整することもできる。使用できる硬化促進剤の例としては2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾールなどのイミダゾール類、2-(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8-ジアザ-ビシクロ[5,4,0]ウンデセン-7等の第3級アミン類、トリフェニルホスフィンなどのホスフィン類、オクチル酸スズ等の金属化合物が挙げられる。硬化促進剤はエポキシ樹脂100重量部に対して0.01~5.0重量部が必要に応じ用いられる。
【0034】
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、さらに以下に例示する各種添加剤を必要に応じて含有することができる。ただし、本実施形態の硬化性樹脂組成物は、以下の添加剤に限定されることなく、必要に応じて当該技術分野で周知の各種添加剤を含有してもよい。
【0035】
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、難燃性を付与することを目的に、必要に応じて難燃剤を更に含有することができる。難燃剤としては特に制限はなく、フェノール樹脂等の熱硬化樹脂等で被覆された赤リン、リン酸エステル、酸化トリフェニルホスフィン等のリン化合物;メラミン、メラミン誘導体、メラミン変性フェノール樹脂、トリアジン環を有する化合物、シアヌル酸誘導体、イソシアヌル酸誘導体等の窒素含有化合物;シクロホスファゼン等のリン及び窒素含有化合物;ジシクロペンタジエニル鉄等の金属錯体化合物;酸化亜鉛、錫酸亜鉛、硼酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛等の亜鉛化合物;酸化鉄、酸化モリブデン等の金属酸化物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物などが挙げられる。更にハロゲン原子、アンチモン原子、窒素原子又はリン原子を含む公知の有機若しくは無機の化合物、金属水酸化物が挙げられる。
【0036】
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、無機充填剤を必要に応じて更に含有することができる。無機充填剤の具体例として、溶融シリカ、結晶シリカ、ガラス、アルミナ、炭酸カルシウム、ケイ酸ジルコニウム、ケイ酸カルシウム、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、ベリリア、ジルコニア、ジルコン、フォステライト、ステアタイト、スピネル、ムライト、チタニア、タルク、クレー、マイカ等の微粉末、又はこれらを球形化したビーズ等が挙げられる。
【0037】
無機充填剤として難燃効果を有するものを用いてもよい。難燃効果を有する無機充填剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、マグネシウムと亜鉛の複合水酸化物等の複合金属水酸化物、硼酸亜鉛などが挙げられる。
【0038】
硬化性樹脂組成物が無機充填剤を含む場合、その含有率は、本実施形態の効果が得られれば特に制限はない。無機充填剤の含有率は、硬化性樹脂組成物の総重量中に50重量%以上が好ましく、難燃性の観点からは60重量%~95重量%がより好ましく、70重量%~90重量%が更に好ましい。無機充填剤を含むことで、硬化物の熱膨張係数、熱伝導率、弾性率等を所望の特性に改良することができる。無機充填剤の含有率が50重量%以上であると、これらの特性の改良効果がより効果的に得られる。また95重量%以下であると、硬化性樹脂組成物の粘度上昇をより抑制し、充分な流動性が得られやすく、成形性がより向上する。
【0039】
本実施形態の硬化性樹脂組成物は酸化防止剤を必要に応じて更に含有することができる。これにより硬化性樹脂組成物の硬化物の酸化を防ぐことができ、高温環境下に放置された場合にも、硬化物の重量低下を抑制できる。電気特性がより向上する。
【0040】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤等が挙げられる。これらの酸化防止剤は単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
硬化性樹脂組成物が酸化防止剤を含む場合、その含有量は、重量減少抑制効果が達成されれば特に制限はない。酸化防止剤の含有量は、硬化性樹脂組成物の耐熱性(高Tg)の観点からは、エポキシ樹脂の総量100重量部に対し、酸化防止剤を総量で0.5重量部~20重量部含有することが好ましく、1重量部~10重量部含有することがより好ましい。前記酸化防止剤の含有量を0.5重量部以上とすることで、硬化物の重量減少抑制効果を充分に得ることができ、また、酸化防止剤の含有量を20重量部以下とすることで、硬化物の耐熱性(高Tg)が低下することが抑制される。
【0042】
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、必要に応じてカップリング剤を更に含有することができる。これにより樹脂成分と無機充填剤との接着性がより向上し、電気特性がより向上する。カップリング剤は通常用いられる化合物から適宜選択することができる。カップリング剤としては、エポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、ビニルシラン、スチリルシラン、メタクリルシラン、アクリルシラン、スルフィドシラン等の各種シラン系化合物、チタン系化合物、アルミニウムキレート化合物、アルミニウム/ジルコニウム系化合物などの公知のカップリング剤を挙げることができる。これらの中でもシラン系化合物が好ましい。これらカップリング剤は単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
硬化性樹脂組成物がカップリング剤を含む場合、その含有量は、無機充填剤の総量100重量部に対し、カップリング剤の総量で0.05重量部~5.0重量部であることが好ましく、0.1重量部~4.5重量部であることがより好ましい。前記含有量が0.05重量部以上とすることでフレーム等との接着性をより向上する
【0044】
本実施形態の硬化性樹脂組成物の調製方法は特に限定されないが、各成分を均一に混合するだけでも、あるいはプレポリマー化してもよい。例えば本実施形態の化合物を配合した混合物に対し硬化促進剤や重合開始剤の存在下または非存在下、溶剤の存在下または非存在下において加熱することによりプレポリマー化する。同様に、アミン化合物、エチレン性不飽和結合を有する化合物、マレイミド化合物、シアネートエステル化合物、ポリブタジエンおよびこの変性物、ポリスチレンおよびこの変性物などの化合物、無機充填剤、及びその他添加剤を追加してプレポリマー化してもよい。各成分の混合またはプレポリマー化は溶剤の非存在下では例えば押出機、ニーダ、ロールなどを用い、溶剤の存在下では攪拌装置つきの反応釜などを使用する。
【0045】
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、上記各成分を均一に混合することにより得られる。本実施形態の硬化性樹脂組成物の製造方法は特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂に、硬化剤、硬化促進剤、無機充填剤、離型剤、シランカップリング剤、添加剤などを押出機、ニーダ、ロール、プラネタリーミキサー等を用いて均一になるまで充分に混合することより得ることができる。
【0046】
得られた硬化性樹脂組成物はその成型方法により、樹脂シート、プリプレグなど各種形態を取ることができる。プリプレグの形態は、例えば、本実施形態の硬化性樹脂組成物および/または樹脂シートを加熱溶融して低粘度化して繊維基材に含浸させることにより得ることができる。
【0047】
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、必要に応じてトルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等の溶剤に溶解させてワニス状の組成物(以下、単にワニスともいう。)とし、ガラス繊維、カーボン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アルミナ繊維、紙などの基材に含浸させて加熱乾燥してプリプレグを作成することもできる。この際の溶剤は、本実施形態の硬化性樹脂組成物と該溶剤の混合物中で10~70重量%、好ましくは15~70重量%を占める量を用いる。
【0048】
上記のプリプレグを所望の形に裁断、積層後、積層物にプレス成形法やオートクレーブ成形法、シートワインディング成形法などで圧力をかけながらエポキシ樹脂組成物を加熱硬化させることにより炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を得ることができる。また、プリプレグの積層時に銅箔や有機フィルムを積層することもできる。
【0049】
CFRPの成形方法は、上記の方法のほかに、公知の方法にて成形して得ることもできる。例えば、炭素繊維基材(通常、炭素繊維織物を使用)を裁断、積層、賦形してプリフォーム(樹脂を含浸する前の予備成形体)を作製、プリフォームを成形型内に配置して型を閉じ、樹脂を注入してプリフォームに含浸、硬化させた後、型を開いて成形品を取り出すレジントランスファー成形技術(RTM法)を用いることもできる。また、RTM法の一種である、例えば、VaRTM法、SCRIMP(Seeman’s Composite Resin Infusion Molding Process)法、特表2005-527410記載の樹脂供給タンクを大気圧よりも低い圧力まで排気し、循環圧縮を用い、かつ正味の成形圧力を制御することにとよって、樹脂注入プロセス、特にVaRTM法をより適切に制御するCAPRI(Controlled Atmospheric Pressure Resin Infusion)法なども用いることができる。さらに、繊維基材を樹脂シート(フィルム)で挟み込むフィルムスタッキング法や、含浸向上のため強化繊維基材にパウダー状の樹脂を付着させる方法、繊維基材に樹脂を混ぜる過程において流動層あるいは流体スラリー法を用いる成形方法(Powder Impregnated Yarn)、繊維基材に樹脂繊維を混繊させる方法も用いることができる。
【0050】
炭素繊維としては、アクリル系、ピッチ系、レーヨン系などの炭素繊維が挙げられ、なかでも引張強度の高いアクリル系の炭素繊維が好ましく用いられる。炭素繊維の形態としては、有撚糸、解撚糸および無撚糸等を使用することができるが、繊維強化複合材料の成形性と強度特性のバランスが良いため、解撚糸または無撚糸が好ましく用いられる。
【0051】
本実施形態の硬化性樹脂組成物の硬化物は上述のCFRPなどの用途以外にも各種用途に使用でき、例えば、接着剤、塗料、コーティング剤、成形材料(シート、フィルム、CFRP等も含む)、半導体素子用封止材、液晶表示素子用封止材、有機EL素子用封止材、プリント配線板(BGA用基板、ビルドアップ基板など)等の電気・電子部品や3Dプリンティング等の他、他樹脂等への添加剤等が挙げられる。
【0052】
前記接着剤としては、土木用、建築用、自動車用、一般事務用、医療用の接着剤の他、電子材料用の接着剤が挙げられる。これらのうち電子材料用の接着剤としては、ビルドアップ基板等の多層基板の層間接着剤、ダイボンディング剤、アンダーフィル等の半導体用接着剤、BGA補強用アンダーフィル、異方性導電性フィルム(ACF)、異方性導電性ペースト(ACP)等の実装用接着剤等が挙げられ、様々な用途に適用可能である。
【0053】
本実施形態の硬化性樹脂組成物を半導体素子用封止材へ適用する場合、本実施形態の硬化性樹脂組成物を半導体素子が具備されたリードフレーム、半導体パッケージ基板を金型に設置し、溶融注型法あるいはトランスファー成型法やインジェクション成型法、圧縮成型法などによって成型し、更に80~200℃で2~10時間に加熱することにより硬化物を得ることができる。本封止材を用いて製造される半導体装置としては、コンデンサ、トランジスタ、ダイオード、発光ダイオード、IC、LSI用などのポッティング、ディッピング、トランスファーモールド封止、IC、LSI類のCOB、COF、TABなど用のといったポッティング封止、フリップチップ用のアンダーフィル、QFP、BGA、CSPなどのICパケージ類実装時の封止(補強用アンダーフィルを含む)などを挙げることができる。
【0054】
本実施形態の硬化性樹脂組成物をプリント配線板用途へ適用する場合、加熱溶融し、低粘度化してガラス繊維、ポリアミド繊維などの強化繊維に含浸させることによりプリプレグを得ることもできる。その具体例としては、例えば、Eガラスクロス、Dガラスクロス、Sガラスクロス、Qガラスクロス、球状ガラスクロス、NEガラスクロス、及びTガラスクロス等のガラス繊維などおよび/または有機繊維が挙げられるが、これらに特に限定されない。基材の形状としては、特に限定されないが、例えば、織布、不織布、ロービング、チョップドストランドマットなどが挙げられる。また、織布の織り方としては、平織り、ななこ織り、綾織り等が知られており、これら公知のものから目的とする用途や性能により適宜選択して使用することができる。また、織布を開繊処理したものやシランカップリング剤などで表面処理したガラス織布が好適に使用される。基材の厚さは、特に限定されないが、好ましくは0.01~0.4mm程度である。また、前記ワニスを、強化繊維に含浸させて加熱乾燥させることによりプリプレグを得ることもでき、これを元に銅張積層板(CCL:Cupper Clad Laminate)の作成ができる。得られたプリプレグとCCLを熱プレス成形することにより、本実施形態の硬化性樹脂組成物を用いた積層板を作成することもできる。積層板はプリプレグを1枚以上備えるものであれば特に限定されず、他のいかなる層を有していてもよい。また、剥離フィルム上に前記ワニスを塗布し加熱下で溶剤を除去、Bステージ化を行うことによりシート状の接着剤を得ることができる。このシート状接着剤は多層基板などにおける層間絶縁層あるいは半導体を実装する際の接着シートとして使用することができる。また本実施形態の硬化性樹脂組成物は、パッケージ基板(サブストレート)やHDI(high density interconnect)などの特殊な基板材料にも好適に用いることができる。
【実施例0055】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例に何ら限定されるものではない。以下、特に断わりのない限り、部は重量部である。
【0056】
各種分析方法について以下の条件で行った。
・GC/MS測定(EI,CI)
装置 :GC-2020Plus / GCMS-QP2020 (SHIMADZU社製)
カラム :HP-5MS(Agilent Technologies社製)
カラム流量 :1.2 ml/min
オーブン :50 ℃ (2min)-10 ℃/min-300 ℃ (18min)
マス範囲 :m/z 35~800
イオン源 :230 ℃
注入口 :320 ℃,注入量 1.0 μl
【0057】
・GC測定
装置 :8890GC System (Agilent Technologies社製)
カラム :HP-5MS(Agilent Technologies社製)
カラム流量 :1.2 ml/min
オーブン :100 ℃ (2 min)- 5 ℃/min - 300 ℃ (3min)
注入口 :300℃,注入量 1.0μl
検出器 :FID (300 ℃)
【0058】
[合成例1]
四つ口フラスコにトルエン49.1部、α-テルピネン(1,3-p-メンタジエン、广西杰新香料有限公司製)25.8部を入れ、45℃に加熱して攪拌した。この溶液に純正化学製無水マレイン酸16.7部を4分割して1時間かけて添加した。添加終了後、45℃にて1時間攪拌した。反応終了後、185℃にて減圧濃縮することにより環状酸無水物の混合物(A-1)を37部得た。
【0059】
[合成例2]
反応温度を65℃に変更したこと以外は合成例1と同様にして、環状酸無水物の混合物(A-2)を35部得た。
【0060】
[合成例3]
反応温度を85℃に変更し、トルエンを用いなかったこと以外は合成例1と同様にして、環状酸無水物の混合物(A-3)を37部得た。
【0061】
[合成例4]
反応温度を185℃に変更し、トルエンを用いなかったこと以外は合成例1と同様にして、環状酸無水物の混合物(A-4)を34部得た。
【0062】
合成例1~4で得られた環状酸無水物の混合物の構造をGC/MS測定により同定し、GC測定による式(A-a)~(A-c)で表される環状酸無水物のピーク面積の総和を100%したときの面積百分率の結果を表1に記す。
【0063】
融点と結晶加速度の測定は以下の条件で行った。
<融点測定条件>
示差走査熱量分析装置:リンザイス社製CHIP DSC
ガス流量:Nガス 50ml/分
昇温速度:20℃/分
測定温度領域:30℃-270℃
【0064】
<結晶化速度測定条件>
合成例1~4で得られた環状酸無水物の混合物を80℃のオーブンに1時間静置して溶解させた。10℃に維持した受け皿に環状酸無水物の混合物を溶解させた溶液0.02gを滴下して静置した。透明な液体が結晶化して完全に白濁化・固化するまでの時間を測定した。
【0065】
【表1】
【0066】
[実施例1、比較例1、2]
合成例1~4で得られた環状酸無水物の混合物、エポキシ樹脂、硬化促進剤を表2の配合組成に示す重量比で混合し、120℃2時間、その後160℃6時間の硬化条件で硬化させ、硬化物を作製した。物性評価は以下の条件で行った。
【0067】
<耐熱性(Tg)、線膨張率測定条件>
熱機械分析装置:TMA Q400(TA Instruments)
測定温度範囲:30~350℃
昇温速度:2℃/分
Tg:線膨張率の変化点
線膨張率(CTE):50-90℃、260-290℃の各領域での単位寸法変化
規格:JIS K-7244に準拠
【0068】
【表2】
【0069】
RE-310S:製ビスフェノールA型エポキシ樹脂(日本化薬社製)
2E4MZ:2-エチル-4-メチルイミダゾール(四国化成社製)
【0070】
表1、2に示されたように、本発明の酸無水物の混合物は結晶化速度が速く、その硬化性樹脂組成物は耐熱性、低線膨張率(寸法安定性)に優れるため炭素繊維強化複合材料に好適に用いることができる。