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特開2024-143069スチレン系樹脂発泡粒子、ビーズクッション材の詰め物、発泡粒子成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143069
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】スチレン系樹脂発泡粒子、ビーズクッション材の詰め物、発泡粒子成形体
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/18 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
C08J9/18 CET
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055553
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 準平
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AA32
4F074AB01
4F074BA38
4F074BA39
4F074BA40
4F074CA34
4F074CA38
4F074CA49
4F074CC47Y
4F074DA02
4F074DA08
4F074DA12
4F074DA23
4F074DA24
4F074DA33
(57)【要約】
【課題】優れた復元性と剛性と軽量性とをバランスよく兼ね備えることができるスチレン系樹脂発泡粒子、これを用いたビーズクッション材の詰め物、及び発泡粒子成形体を提供する。
【解決手段】スチレン系樹脂から構成される発泡粒子1である。また、発泡粒子1からなるビーズクッション材の詰め物である。また、発泡粒子1が相互に融着してなる発泡粒子成形体である。発泡粒子1の嵩倍率が30倍以上150倍以下である。スチレン系樹脂の重量平均分子量Mw’は100万以上500万以下である。スチレン系樹脂の数平均分子量Mn’に対するZ平均分子量Mz’の比Mz’/Mn’は5以上である。スチレン系樹脂のスチレン1000単位あたりの分岐度は0.2以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂から構成される発泡粒子であって、
上記発泡粒子の嵩倍率が30倍以上150倍以下であり、
上記スチレン系樹脂の重量平均分子量Mw’が100万以上500万以下であり、
上記スチレン系樹脂の数平均分子量Mn’に対するZ平均分子量Mz’の比Mz’/Mn’が5以上であり(ただし、上記重量平均分子量Mw’、数平均分子量Mn’及びZ平均分子量Mz’は、GPC-MALS法によって求められる)、
上記スチレン系樹脂のスチレン1000単位あたりの分岐度が0.2以上である、スチレン系樹脂発泡粒子。
【請求項2】
上記スチレン系樹脂の数平均分子量Mn’に対するZ平均分子量Mz’の比Mz’/Mn’が7以上である、請求項1に記載のスチレン系樹脂発泡粒子。
【請求項3】
上記スチレン系樹脂の重量平均分子量Mw’が150万以上である、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂発泡粒子。
【請求項4】
上記スチレン系樹脂中のテトラヒドロフラン不溶分の含有量が0.1質量%以下(0を含む)である、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂発泡粒子。
【請求項5】
上記発泡粒子の嵩倍率が80倍以上150倍以下である、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂発泡粒子。
【請求項6】
上記発泡粒子の独立気泡率が85%以上である、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂発泡粒子。
【請求項7】
上記発泡粒子の気泡径の平均値が10μm以上100μm以下であるとともに、上記気泡径の変動係数が20%以下である、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂発泡粒子。
【請求項8】
上記発泡粒子の気泡膜厚みの平均値が1μm以上8μm以下であるとともに、上記気泡膜厚みの変動係数が35%以下である、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂発泡粒子。
【請求項9】
上記発泡粒子の平均粒子径が3~10mmである、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂発泡粒子。
【請求項10】
請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂発泡粒子からなる、ビーズクッション材の詰め物。
【請求項11】
請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂発泡粒子を型内成形してなる、発泡粒子成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系樹脂発泡粒子、これを用いたビーズクッション材の詰め物、及び発泡粒子成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂発泡粒子は、種々の用途に使用される。たとえば、発泡粒子を型内成形して得られる発泡粒子成形体は、重量物等の梱包容器・緩衝材としての用途に好適に使用される。また、発泡粒子はそのままの形態でクッション材の詰め物としての用途に好適に使用される。このような用途では、適度な剛性を有するとともに、復元性に優れ、繰り返し使用が可能であることが求められている。
【0003】
例えば、特許文献1では、発泡倍率が20~50倍であり、粒度分布が狭く、Z平均分子量が高いスチレン系樹脂発泡粒子が提案されている。特許文献1によれば、このようなスチレン系樹脂発泡粒子は、へたり率が低く、繰り返し使用に耐えうるため、ビーズクッション用途に適するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-73653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、上述したような用途に供されるスチレン系樹脂発泡粒子には、剛性や復元性の他にもより高度な軽量性が求められることがある。通常、軽量性を高めるために発泡粒子の発泡倍率を高くすると、発泡粒子の復元性が低下しやすく、荷重が繰り返し加えられた際に元の状態に戻りにくくなる。例えば、特許文献1の発泡粒子において、発泡倍率をより高くした場合には復元性が著しく低下し、繰り返し使用に耐えられるものではなかった。また、発泡倍率を高くすると剛性も不十分となりやすいため、特許文献1の発泡粒子では剛性、復元性、及び軽量性の全てを満足することが困難であった。
【0006】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、優れた復元性と剛性と軽量性とをバランスよく兼ね備えることができるスチレン系樹脂発泡粒子、これを用いたビーズクッション材の詰め物、及び発泡粒子成形体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、以下の[1]~[8]にかかるスチレン系樹脂発泡粒子にある。
[1]スチレン系樹脂から構成される発泡粒子であって、
上記発泡粒子の嵩倍率が30倍以上150倍以下であり、
上記スチレン系樹脂の重量平均分子量Mw’が100万以上500万以下であり、
上記スチレン系樹脂の数平均分子量Mn’に対するZ平均分子量Mz’の比Mz’/Mn’が5以上であり(ただし、上記重量平均分子量Mw’、数平均分子量Mn’及びZ平均分子量Mz’は、GPC-MALS法によって求められる)、
上記スチレン系樹脂のスチレン1000単位あたりの分岐度が0.2以上である、スチレン系樹脂発泡粒子。
【0008】
[2]上記スチレン系樹脂の数平均分子量Mn’に対するZ平均分子量Mz’の比Mz’/Mn’が7以上である、[1]に記載のスチレン系樹脂発泡粒子。
[3]上記スチレン系樹脂の重量平均分子量Mw’が150万以上である、[1]又は[2]に記載のスチレン系樹脂発泡粒子。
【0009】
[4]上記スチレン系樹脂中のテトラヒドロフラン不溶分の含有量が0.1質量%以下(0を含む)である、[1]~[3]のいずれかに記載のスチレン系樹脂発泡粒子。
[5]上記発泡粒子の嵩倍率が80倍以上150倍以下である、[1]~[4]のいずれかに記載のスチレン系樹脂発泡粒子。
[6]上記発泡粒子の独立気泡率が85%以上である、[1]~[5]のいずれか記載のスチレン系樹脂発泡粒子。
【0010】
[7]上記発泡粒子の気泡径の平均値が10μm以上100μm以下であるとともに、上記気泡径の変動係数が20%以下である、[1]~[6]のいずれかに記載のスチレン系樹脂発泡粒子。
[8]上記発泡粒子の気泡膜厚みの平均値が1μm以上8μm以下であるとともに、上記気泡膜厚みの変動係数が35%以下である[1]~[7]のいずれかに記載のスチレン系樹脂発泡粒子。
[9]上記発泡粒子の平均粒子径が3~10mmである、[1]~[8]のいずれかに記載のスチレン系樹脂発泡粒子。
【0011】
本発明の他の態様は、以下の[10]にかかるスチレン系樹脂発泡粒子にある。
[10][1]~[9]のいずれかに記載のスチレン系樹脂発泡粒子からなる、ビーズクッション材の詰め物。
【0012】
本発明のさらに他の態様は、以下の[11]にかかる発泡粒子成形体にある。
[11][1]~[9]のいずれかに記載のスチレン系樹脂発泡粒子を型内成形してなる、発泡粒子成形体。
【発明の効果】
【0013】
上記態様によれば、優れた復元性と剛性と軽量性とをバランスよく兼ね備えることができるスチレン系樹脂発泡粒子、これを用いたビーズクッション材の詰め物、発泡粒子成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施例1の発泡粒子の断面の拡大写真(倍率200倍)である。
図2図2は、実施例1の発泡粒子における気泡膜の拡大写真(倍率2500倍)である。
図3図3は、実施例1の発泡粒子における図2とは異なる部位の気泡膜の拡大写真(倍率2500倍)である。
図4図4は、比較例1の発泡粒子の断面の拡大写真(倍率200倍)である。
図5図5は、比較例1の発泡粒子における気泡膜の拡大写真(倍率2500倍)である。
図6図6は、比較例1の発泡粒子における図5とは異なる部位の気泡膜の拡大写真(倍率2500倍)である。
図7図7は、スチレン系樹脂をGPC-MALS法により測定したときに得られるデバイプロット(Debye Plot)の一例を示す図である。
図8】実施例1におけるシミュレーション結果のグラフを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において、括弧内に付されたアルファベットや数字は、本発明を何ら限定するものではない。また、「発泡性スチレン系樹脂粒子」のことを「発泡性樹脂粒子」と称し、「スチレン系樹脂発泡粒子」のことを「発泡粒子」と称し、「発泡粒子成形体」のことを「成形体」と称することがある。また、本明細書において、数値範囲を表す表現として「~」という記号を用いる場合、その前後に記載される数値を含む意味で用いることとする。
【0016】
[用途]
上記発泡粒子は、例えば、発泡粒子のままビーズクッション材の詰め物として使用したり、発泡粒子成形体の製造に用いられる。この場合には、軽量でありながら、復元性及び剛性に優れたビーズクッション材の詰め物、発泡粒子成形体の提供が可能になる。成形体は、多数の発泡粒子を例えば型内成形することにより製造され、発泡粒子同士が相互に融着してなる成形体が得られる。
【0017】
[スチレン系樹脂]
上記発泡粒子は、スチレン系樹脂から構成されている。スチレン系樹脂は、重量平均分子量Mw’が100万以上500万以下であり、スチレン系樹脂の数平均分子量Mn’に対するZ平均分子量Mz’の比Mz’/Mn’が5以上である。また、スチレン系樹脂のスチレン1000単位あたりの分岐度Bm,1000が0.2以上である。
【0018】
上記発泡粒子は、重量平均分子量Mw’、比Mz’/Mn’及び分岐度がBm,1000が上記所定範囲内である分岐構造を有するスチレン系樹脂から構成されているため、上記のごとく優れた復元性と剛性と軽量性とをバランスよく兼ね備えるものとなる。これは、上記所定の分岐構造を有するスチレン系樹脂から構成される発泡粒子は、嵩倍率が高い場合であっても、気泡膜の強度が高められるとともに、独立気泡率を高めることができ、かつ圧縮後においてもその独立気泡率が高く維持されやすいためであると考えられる。したがって、上記発泡粒子は、嵩倍率が高い場合であっても、復元性及び剛性に優れたものとなる。また、上記発泡粒子が相互に融着してなる発泡粒子成形体は、成形体倍率が高い場合であっても、復元性及び剛性に優れたものとなる。
【0019】
本明細書においては、絶対分子量をプライム記号「’」を付けて表し、相対分子量をプライム記号を付けずに表す。つまり、重量平均分子量Mw’、数平均分子量Mn’、Z平均分子量Mz’は、いずれも絶対分子量であり、重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、Z平均分子量Mzは、いずれも直鎖ポリスチレン換算の相対分子量である。
【0020】
重量平均分子量Mw’、数平均分子量Mn’、Z平均分子量Mz’、分岐度は、GPC-MALS法によって求められる。GPC-MALS法は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(つまり、GPC)と、多角度光散乱検出器(つまりMALS)とを組み合わせた手法である。GPC-MALS法により、スチレン系樹脂の絶対分子量と分子サイズに相当する二乗平均回転半径<Rg>とを測定することができ、その測定結果から、スチレン系樹脂の分岐度を求めることができる。以下に、GPC-MALS法の基本原理について説明する。
【0021】
<GPC-MALS法の基本原理>
スチレン系樹脂を、テトラヒドロフラン(つまり、THF)等の溶媒に溶解してスチレン系樹脂溶液を調製し、これをGPC測定にかけると、分子サイズが大きいポリマーほど先に溶出することから、スチレン系樹脂を分子サイズにより分けられる。引き続き、分けられたスチレン系樹脂溶液をMALS測定にかけることにより、分子サイズにより分けられたスチレン系樹脂の重量平均分子量Mw’及び二乗平均回転半径<Rg2>を算出することができる。
【0022】
具体的には、GPCで分子サイズにより分けられたスチレン系樹脂溶液に、レーザー光を照射し、レイリー散乱によってスチレン系樹脂溶液から生じた散乱光強度を計測する。得られた測定値から、以下の式(1)及び図7に示すデバイプロット(つまり、Debye plot)を用いてMw’及び<Rg2>を算出する。
【0023】
【数1】
【0024】
*:光学パラメータ(4π20 2(dn/dc)2/[λ0 4A])
0:溶媒の屈折率
dn/dc:屈折率の濃度増分
λ0:真空中での入射光の波長
A:アボガドロ数
c:サンプル濃度(g/mL)
R(θ):過剰散乱のレイリー比
Mw’:重量平均分子量(g/mole)
P(θ):干渉因子
P(θ)=(1-2{(4π/λ)sin(θ/2)}2<Rg2>/3!+・・・)
λ:測定系における波長 λ0/n0
<Rg2>:二乗平均回転半径
2:第二ビリアル係数
【0025】
図7は、樹脂濃度の異なるスチレン系樹脂溶液について、GPC-MALS法で測定し、縦軸(Y軸)を「K*c/R(θ)」、横軸(X軸)を「sin2(θ/2)」としてプロットしたデバイプロットの一例である。デバイプロットにより得られる回帰直線と縦軸との切片(Y軸切片)から、GPCで分子サイズにより分けられたスチレン系樹脂の重量平均分子量Mw’、回帰直線の初期勾配から、スチレン系樹脂の二乗平均回転半径<Rg2>が求まる。GPC測定において、各溶出時間における濃度は非常に希薄であるため、第二ビリアル係数A2を0として解析すると、GPCで分子サイズにより分けられたスチレン系樹脂の重量平均分子量Mw’と二乗平均回転半径<Rg2>は、それぞれ、下記式(2)、(3)により求めることができる。
【0026】
【数2】
【0027】
【数3】
【0028】
*c/R0:角度θ=0°におけるK*c/R(θ)
dy/dx:回帰直線の初期勾配
【0029】
GPC-MALS法により求められる数平均分子量Mn’、重量平均分子量Mw’、Z平均分子量Mz’は、スチレン系樹脂の絶対分子量である。
一方、既知の分子量を有する直鎖ポリスチレンを標準物質として、GPC法により求められる数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw、Z平均分子量Mzは、スチレン系樹脂の相対分子量である。
【0030】
また、スチレン系樹脂の収縮因子gは、次のようにして求める値を用いる。スチレン系樹脂の二乗平均回転半径<Rg2Bと直鎖状スチレン系樹脂の二乗平均回転半径<Rg2Lの比を収縮因子gとして、下記式(4)~(8)に基づき、収縮因子gを求めることができる。そして、収縮因子gから、分岐度Bmを求めることができる。分岐度は、スチレン系樹脂が3本鎖分岐の構造であると仮定したときのものである。分岐度は、長鎖分岐度である。
【0031】
収縮因子gw、1分子あたりの分岐度Bm,w、スチレン1000単位あたりの分岐度Bm,1000は、下記式(4)~(8)で求められる。
【0032】
【数4】
【0033】
【数5】
【0034】
【数6】
【0035】
【数7】
【0036】
【数8】
【0037】
上記式において、giは区間iにおける収縮因子、Bm,jは区間iにおける分岐度、ciは区間iにおける濃度である。
【0038】
<重量平均分子量Mw’>
上記スチレン系樹脂の重量平均分子量Mw’は100万以上500万以下である。Mw’が低すぎる場合には、嵩倍率が高い場合において発泡粒子が十分な復元性、剛性を示すことができなくなるおそれがある。復元性、剛性がより向上するという観点から、スチレン系樹脂のMw’は、150万以上であることが好ましく、180万以上であることがより好ましく、200万以上であることがさらに好ましい。一方、Mw’が高すぎる場合には、発泡性が低下して所望の嵩倍率の発泡粒子を得ることができないおそれがある。発泡粒子の嵩倍率をより容易に高めることができるという観点からMw’は、400万以下が好ましく、350万以下がより好ましく、300万以下がさらに好ましい。
【0039】
<数平均分子量Mn’に対するZ平均分子量Mz’の比Mz’/Mn’>
スチレン系樹脂の数平均分子量Mn’に対するZ平均分子量Mz’の比Mz’/Mn’は5以上である。Mz’/Mn’が5未満の場合には、スチレン系樹脂の分子量分布が狭くなる。その結果、嵩倍率が高い場合において、発泡粒子の復元性と剛性とをバランスよく両立できなくなるおそれがある。Mz’/Mn’は7以上が好ましく、8以上がより好ましい。この場合には、分子量分布がより広がりを持つため、後述するひずみ硬化性がより十分に発現されるためか、嵩倍率が高い場合における発泡粒子の復元性と剛性とをよりバランスよく向上させることができる。また、発泡粒子及び成形体の復元性と剛性とをより高いレベルで両立するという観点から、Mz’/Mn’は、25以下が好ましく、20以下がより好ましく、15以下がさらに好ましい。
【0040】
<数平均分子量Mn’>
発泡粒子の復元性、剛性をより確実に高めるという観点から、スチレン系樹脂の数平均分子量Mn’は、30万以上が好ましく、50万以上がより好ましい。また、スチレン系樹脂の発泡性をより確実に高めるという観点から、Mn’は、120万以下が好ましく、100万以下がより好ましい。
【0041】
<Z平均分子量Mz’>
分子量分布をより拡大し、発泡粒子の復元性、剛性をより確実に高めるという観点から、スチレン系樹脂のZ平均分子量Mz’は、350万以上が好ましく、400万以上がより好ましく、500万以上がさらに好ましい。また、スチレン系樹脂の発泡性をより確実に高めるという観点から、Mz’は、1200万以下が好ましく、800万以下がより好ましい。
【0042】
<収縮因子gw
発泡粒子の復元性、剛性をより確実に高めるという観点から、スチレン系樹脂の収縮因子gwは、0.85以下が好ましく、0.8以下がより好ましく、0.75以下であることがさらに好ましい。また、収縮因子gwは、0.5以上が好ましい。
【0043】
<スチレン1000単位あたりの分岐度>
スチレン系樹脂のスチレン1000単位あたりの分岐度は0.2以上である。0.2未満の場合には、スチレン系樹脂の分岐点が少なかったり、分岐点間が離れすぎたりするため、嵩倍率が高い場合において、発泡粒子の復元性と剛性とをバランスよく両立できなくなるおそれがある。復元性と剛性とをよりバランスよく向上させるという観点から、スチレン1000単位あたりの分岐度は0.25以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましい。またスチレン1000単位あたりの分岐度は、2以下が好ましく、1以下がより好ましい。
【0044】
スチレン系樹脂を構成する高分子鎖における多官能性単量体由来の成分の含有量がスチレン系樹脂100質量部中に50質量ppm未満(0を含む)であることが好ましい。この場合には、ジビニルベンゼンなどの多官能性単量体に由来の成分が少なくても、発泡粒子が高嵩倍率で復元性と剛性とを兼ね備えるという効果が顕著になる。この効果をより顕著にするという観点から、多官能性単量体由来の成分の含有量は、30質量ppm以下(0を含む)であることがより好ましく、20質量ppm以下(0を含む)であることがさらに好ましく、実質的に0であることがさらにより好ましい。このようなスチレン系樹脂は、分岐構造を形成するための分岐化剤としてジビニルベンゼン等の多官能性単量体を用いずにスチレン系樹脂を製造することにより得ることができる。具体的には、後述する方法により製造することができる。
【0045】
発泡粒子の嵩倍率が高い場合においても、発泡粒子の復元性と剛性とよりバランスよく両立させるという観点から、スチレン系樹脂のメルトフローレイト(つまり、MFR)は、2g/10分未満であることが好ましく、1g/10分未満であることがより好ましく、0.8以下であることがさらに好ましい。なお、スチレン系樹脂のメルトフローレイトは、JIS K7210-1:2014に基づき、試験温度200℃、荷重5kgの条件で測定される値である。
【0046】
スチレン系樹脂の重量平均分子量Mwに対するZ平均分子量Mzの比Mz/Mwは、2.5未満であることが好ましい。この場合には、発泡粒子の嵩倍率が高い場合においても、発泡粒子の復元性と剛性とバランスよく両立させるという効果が得られる。重量平均分子量Mw、Z平均分子量Mz、数平均分子量Mnは相対分子量であり、直鎖ポリスチレンを標準物質としたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(つまり、GPC)法により測定される。
【0047】
スチレン系樹脂としては、スチレン系単量体の単独重合体、スチレン系単量体と他の単量体との共重合体、これらの2種以上の混合物等が挙げられる。スチレン系樹脂は、本発明の効果を阻害しない範囲において、スチレン系単体以外の他の単量体由来の成分を含有する共重合体であってもよいが、共重合体中のスチレン系単量体に由来の構造単位は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。スチレン系樹脂は、スチレン系単量体の単独重合体であることが好ましい。
【0048】
スチレン系単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-エチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-メトキシスチレン、p-n-ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、2,4,6-トリブロモスチレン、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。上記スチレン系単量体は、単独でも、2種類以上の組み合わせでも良い。スチレン系単量体としてはスチレンが好ましい。
【0049】
スチレン系単量体と共重合可能な上述の他の単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸等の不飽和脂肪酸及びその無水物;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル等のメタクリル酸エステル;ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート等の水酸基を含有するビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基を含有するビニル化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の有機酸ビニル化合物;エチレン、プロピレン、1-ブテン、2-ブテン等のオレフィン化合物;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のジエン化合物;塩化ビニル、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル化合物;塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン化合物;N-フェニルマレイミド、N-メチルマレイミド等のマレイミド化合物などが挙げられる。
【0050】
スチレン系樹脂の具体例としては、ポリスチレン、ゴム変性ポリスチレン(例えば耐衝撃性ポリスチレン)、スチレン-(メタ)アクリロニトリル共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸メチル共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体等が例示される。本明細書では、(メタ)アクリロニトリルは、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルの少なくとも一方を表し、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及びメタクリル酸の少なくとも一方を表す。
【0051】
[発泡性樹脂粒子]
発泡粒子は、発泡性樹脂粒子を発泡させることにより製造される。発泡性樹脂粒子は、スチレン系樹脂と発泡剤とを含有し、例えば上述のスチレン系樹脂から構成された樹脂粒子に発泡剤を含浸させることにより得られる。
【0052】
発泡剤としては、炭化水素等の物理発泡剤を用いることができる。炭化水素としては、例えば、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、ノルマルヘキサン等の鎖式脂肪族炭化水素を使用することができる。発泡剤は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。上記所定の分岐構造を有するスチレン系樹脂をより容易に発泡させる観点から、発泡剤として、ブタンとペンタンとを併用することが好ましい。
発泡性樹脂粒子を発泡させやすく、嵩倍率の高い発泡粒子が得られやすくなるという観点から、発泡性樹脂粒子中の発泡剤の含有量は、スチレン系樹脂100質量部に対して、3質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましい。発泡直後の収縮を抑制し、嵩倍率の高い発泡粒子が得られやすくなるという観点から、10質量部以下であることが好ましく、8質量部以下であることがより好ましい。
【0053】
上記所定の分岐構造を有するスチレン系樹脂から構成される発泡性樹脂粒子をより容易に発泡させやすくなるという観点や、成形圧力の低い条件での発泡粒子の型内成形性を高めるという観点から、発泡性樹脂粒子は可塑剤を含有することが好ましい。可塑剤としては、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;流動パラフィン、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル等のカルボン酸エステル、ステアリン酸ブチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;グリセリントリステアレート等の高級脂肪酸エステル等を用いることができる。発泡性樹脂粒子をより容易に発泡させて嵩倍率の高い発泡粒子が得られ易くなるという観点から、発泡性樹脂粒子は、可塑剤としてシクロヘキサン等の脂環式炭化水素を含有することがより好ましい。嵩倍率の高い発泡粒子が得られ易くなるという観点から、発泡性樹脂粒子中の可塑剤の含有量は、スチレン系樹脂100質量部に対して、0.2質量部以上3質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上2質量部以下であることがより好ましい。
【0054】
発泡性樹脂粒子には、本発明の所期の目的を達成できる範囲において、気泡調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の添加剤が含まれていてもよい。
【0055】
気泡調整剤としては、ポリエチレンワックス、メタクリル酸メチル系共重合体、タルク、シリカ、エチレンビスステアリルアミド等を使用することができる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等を用いることができる。
【0056】
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤等を用いることができる。
光安定剤としては、ヒンダードアミン系化合物等を用いることができる。
【0057】
発泡性樹脂粒子の平均粒子径は、例えば0.5mm~2mmである。発泡性樹脂粒子の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値63%での粒径を意味する。平均粒子径は、例えば、日機装株式会社の粒度分布測定装置「ミリトラック JPA」により測定される。
【0058】
[発泡粒子]
上記発泡粒子は、嵩倍率が高い場合であっても、復元性や剛性に優れたものとなる。これは、発泡粒子が上記所定の分岐構造を有するスチレン系樹脂から構成されるため、嵩倍率が高い場合であっても、気泡膜の強度が高められるとともに、独立気泡率を高めることができ、かつ圧縮後においてもその独立気泡率が高く維持されやすいためであると考えられる。発泡粒子が、このような作用を奏する理由は、明らかではないが、以下のように考えられる。上記発泡粒子は、重量平均分子量Mw’、Z平均分子量と数平均分子量との比Mz’/Mn’、及び分岐度が上記範囲にあるスチレン系樹脂から構成される。このような分岐構造を有するスチレン系樹脂は、その高分子鎖を構成する分岐点の数が多く(つまり、高分岐度)、分岐点間が適度に離れた構造を有することとなると考えられ、さらに、分子量が大きく、かつ分子量分布が広いものである。そのため、発泡粒子の気泡膜の強度が高められると考えられる。さらに、ひずみ硬化性が発現され、発泡時に気泡膜を構成するスチレン系樹脂が延伸されて破断したり、薄肉化した部分が形成したりすることが抑制されると考えられる。その結果、発泡粒子の気泡膜の厚さが均一なものとなりやすい。また、発泡粒子の気泡径も同様に均一なものとなりやすい。これらのことから、上記発泡粒子は、気泡膜の強度が高められるとともに、独立気泡率を高めることができ、かつ圧縮後においてもその独立気泡率が高く維持されやすく、嵩倍率が高い場合であっても、復元性及び剛性に優れたものとなると考えられる。
【0059】
発泡粒子の嵩倍率は、30倍以上150倍以下である。上記スチレン系樹脂から構成される発泡粒子は、30倍以上150倍以下という高い嵩倍率であっても、復元性及び剛性に優れたものとなる。発泡粒子の嵩倍率が低すぎる場合には、発泡粒子の軽量性が損なわれるおそれがある。発泡粒子の嵩倍率は50倍以上であることが好ましく、80倍以上であることがより好ましい。この場合には、発泡粒子の嵩倍率がより高いため、軽量性がより向上すると共に、高嵩倍率であっても復元性及び剛性がバランスよく優れたものになるという効果が顕著になる。一方、発泡粒子の嵩倍率が高すぎる場合には、復元性、剛性を高く維持することが困難になるおそれがある。かかる観点から、発泡粒子の嵩倍率は120倍以下であることが好ましい。発泡粒子の嵩倍率の測定方法は、実施例にて説明する。
【0060】
発泡粒子の独立気泡率は85%以上であることが好ましい。この場合には、高嵩倍率であっても復元性及び剛性がバランスよく優れたものになるという効果が顕著になる。この効果がさらに顕著になる観点から、発泡粒子の独立気泡率は86%以上であることがより好ましく、88%以上であることがさらに好ましい。特に、嵩倍率が30倍以上150倍以下の場合や80倍以上150倍以下の場合であって、独立気泡率が上記範囲の場合には、上記効果がさらに一層顕著になる。発泡粒子の独立気泡率の測定方法は、実施例にて説明する。
【0061】
発泡粒子の復元性は、へたり試験により測定される、へたり率によって評価される。通常、発泡粒子の嵩倍率が高いほど復元性が低下しやすく、へたり率は大きくなる。発泡粒子の嵩倍率が同程度である場合、へたり率がより小さい発泡粒子の方が復元性に優れていると判断される。上記発泡粒子のへたり率は、15%以下であることが好ましく、12%以下であることがより好ましい。上記発泡粒子は、嵩倍率が高い場合であっても復元性に優れており、へたり率を上記範囲内とすることができる。へたり率は、発泡粒子を繰り返し圧縮し、圧縮後の発泡粒子を所定時間静置後、どの程度体積が復元したかを評価することにより測定される。へたり率の具体的な測定方法は、実施例にて説明する。
【0062】
上記発泡粒子は、圧縮による荷重が付加された後でも高い独立気泡率を示しやすい。具体的には、後述のへたり試験後の発泡粒子において、元の独立気泡率が概ね維持されやすい。これにより、上記発泡粒子は、嵩倍率が高い場合であっても、へたり率が小さく、復元性に優れやすいと考えられる。発泡粒子の復元性をより高める観点からは、へたり試験後の発泡粒子の独立気泡率は85%以上であることが好ましく、86%以上であることがより好ましく、88%以上であることがさらに好ましい。へたり試験後の発泡粒子の独立気泡率の測定方法は、実施例にて説明する。
【0063】
へたり試験前の発泡粒子の独立気泡率c(つまり、発泡粒子の独立気泡率)に対するへたり試験後の発泡粒子の独立気泡率cの比[c/c]は、0.95以上であることが好ましく、0.98以上であることがより好ましい。上記比[c/c]の上限は、1である。同様に、へたり試験前の発泡粒子の独立気泡率cとへたり試験後の発泡粒子の独立気泡率cとの差[c-c]は、3%以下であることが好ましく、2%以下であることがより好ましい。上記差[c-c]の下限は、0である。これらの場合には、高嵩倍率であっても復元性及び剛性がバランスよく優れたものになるという効果が顕著になる。
【0064】
上記発泡粒子の気泡径の平均値は10μm以上100μm以下であるとともに、気泡径の変動係数が20%以下であることが好ましい。このことは、発泡粒子の気泡が比較的均一に形成されていることを意味している。この場合には、圧縮後においてもその独立気泡率が高く維持されやすいと考えられ、結果として、高嵩倍率であっても復元性及び剛性がバランスよく優れたものになるという効果が顕著になる。このような発泡粒子は、例えば、上述のひずみ硬化性を発現するようなスチレン系樹脂を基材樹脂とすることにより得ることができる。高嵩倍率であっても復元性及び剛性がバランスよく優れたものになるという効果がさらに顕著になる観点から、気泡径の平均値は、30μm以上80μm以下であることがより好ましい。同様の観点から、気泡径の変動係数は、15%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。発泡粒子の気泡径の平均値及びその変動係数の測定方法は、実施例にて説明する。
【0065】
上記発泡粒子の気泡膜厚みの平均値は1μm以上8μm以下であるとともに、気泡膜厚みの変動係数が35%以下であることが好ましい。このことは、発泡粒子の気泡膜の厚みが比較的均一であることを意味している。この場合には、圧縮後においてもその独立気泡率が高く維持されやすいと考えられ、結果として、高嵩倍率であっても復元性及び剛性がバランスよく優れたものになるという効果が顕著になる。このような発泡粒子は、例えば、上述のひずみ硬化性を発現するようなスチレン系樹脂を基材樹脂とすることにより得ることができる。高嵩倍率であっても復元性及び剛性がバランスよく優れたものになるという効果がさらに顕著になる観点から、発泡粒子の気泡膜厚みの平均値は、2μm以上5μm以下であることがより好ましい。同様の観点から、気泡膜厚みの変動係数は、30%以下であることがより好ましく、28%以下であることがさらに好ましい。
【0066】
発泡粒子の平均粒子径は、3~10mmであることが好ましい。この場合には、ビーズクッション材の詰め物の用途では、使用時の感触が良好であるという効果が得られ、成形体の用途では、型内成形時における金型への充填性が向上する。同様の観点から、発泡粒子の平均粒子径は、3~6mmであることがより好ましい。発泡粒子の平均粒子径は、上記発泡性樹脂粒子の平均粒子径と同様の方法で求めることができる。
【0067】
<THF不溶分>
発泡粒子のテトラヒドロフラン(つまり、THF)不溶分は、0.1質量%以下(0を含む)であることが好ましい。このような発泡粒子は、例えば、スチレン系樹脂の高分子鎖中に多官能性単量体に由来する成分を含んでいないことによりに実現される。つまり、スチレン系樹脂が高い分子量を有し、かつ多くの長鎖分岐を有しているにも関わらず、高分子鎖中に多官能性単量体に由来する成分を含んでいないことにより、THF不溶分を0.1質量%以下(0を含む)にすることができる。スチレン系樹脂が多くの分岐鎖を有しながらも、THF不溶分が0.1質量%以下(0を含む)であることにより、スチレン系樹脂は、ひずみ硬化性が発現しやすくなる。また、発泡性がより高められると考えられる。同様な観点から、スチレン系樹脂中のTHF不溶分の割合は0.05質量%以下(0を含む)であることが好ましく、0.01質量%以下(0を含む)であることがより好ましい。THF不溶分の測定方法については実施例にて記載する。
【0068】
成形圧力の低い条件での発泡粒子の型内成形性を高めるという観点から、発泡粒子は可塑剤を含有することが好ましい。使用可能な可塑剤は上述の通りである。型内成形性がより向上する観点から、発泡粒子は可塑剤としてシクロヘキサン等の脂環式炭化水素を含有することがより好ましい。型内成形性がより向上する観点から、発泡粒子中の可塑剤の含有量は、スチレン系樹脂100質量部に対して、0.2質量部以上3質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上2質量部以下であることがより好ましい。
【0069】
従来、たとえば重量平均分子量Mw’が上記範囲内にあるような、分子量の大きいスチレン系樹脂は、発泡性が低く、所望の発泡倍率の発泡粒子を得ることが難しいと考えられてきた。一方、上記発泡粒子は、分子量の大きなスチレン系樹脂を基材樹脂としながらも、嵩倍率の高い発泡粒子となる。これは、スチレン系樹脂の数平均分子量Mn’に対するZ平均分子量Mz’の比Mz’/Mn’が所定以上であるとともに、スチレン1000単位あたりの分岐度が所定以上であることにより、分子量分布が広いとともに、分岐点の数が多く、分岐点間が適度に離れた構造を有するためであると考えられ、結果として上記のような高分子量であっても発泡性が高められる。また、発泡粒子のテトラヒドロフラン(つまり、THF)不溶分が少ないことも理由として考えられる。
【0070】
[発泡粒子成形体]
発泡粒子成形体は、スチレン系樹脂発泡粒子を型内成形してなる。成形体は、多数の発泡粒子が相互に融着して構成されている。成形体は、上記発泡粒子の型内成形により得られる。上記成形体は、成形体を構成する発泡粒子として上記所定の分岐構造を有するスチレン系樹脂から構成される発泡粒子を用いており、成形体倍率が高い場合であっても、復元性や剛性に優れたものとなる。また、上記成形体は、成形体倍率が高い場合であっても、独立気泡率を高めることができ、かつ圧縮後においてもその独立気泡率が高く維持されやすく、高度な復元性を有している。
【0071】
発泡粒子成形体の成形体倍率は、30倍以上150倍以下であることが好ましい。上記スチレン系樹脂から構成される発泡粒子成形体は、30倍以上150倍以下という高い嵩倍率であっても、復元性及び剛性に優れたものとなる。この効果が顕著となる観点から、成形体倍率は50倍以上であることが好ましく、80倍以上であることがより好ましい。成形体の復元性、剛性をより確実に発揮する観点から、成形体倍率は120倍以下であることが好ましい。成形体倍率の測定方法は、実施例にて説明する。
【0072】
成形体の独立気泡率は、85%以上であることが好ましい。この場合には、高嵩倍率であっても復元性及び剛性がバランスよく優れたものになるという効果が顕著になる。この効果がさらに顕著になる観点から、成形体の独立気泡率は86%以上であることがより好ましく、88%以上であることがさらに好ましい。特に、嵩倍率が30倍以上150倍以下の場合や80倍以上150倍以下の場合であって、独立気泡率が上記範囲の場合には、上記効果がさらに一層顕著になる。成形体の独立気泡率の測定方法は、実施例にて説明する。
【0073】
成形体の復元性は、圧縮永久ひずみによって評価される。通常、成形体倍率が高いほど復元性が低下しやすく、圧縮永久ひずみは大きくなる。成形体倍率が同程度である場合、圧縮永久ひずみがより小さい成形体の方が復元性に優れていると判断される。上記成形体の圧縮永久ひずみは、15%以下であることが好ましく、12%以下であることがより好ましい。上記成形体は、成形体倍率が高い場合であっても復元性に優れており、圧縮永久ひずみを上記範囲内とすることができる。圧縮永久ひずみは、JIS K7220:2006に準拠し、圧縮試験により25%ひずみを与えることにより測定される。圧縮永久ひずみの具体的な測定方法は、実施例にて説明する。
【0074】
上記成形体は、圧縮による荷重が付加された後でも高い独立気泡率を示しやすい。具体的には、後述の50%変形圧縮応力の測定における圧縮試験後の成形体において、元の独立気泡率が概ね維持されやすい。これにより、上記成形体は、高倍率であっても圧縮永久ひずみが小さく、復元性に優れやすいと考えられる。成形体の復元性をより高める観点から、圧縮試験後の成形体の独立気泡率は80%以上であることが好ましく、82%以上であることがより好ましく、84%以上であることがさらに好ましい。圧縮試験後の成形体の独立気泡率の測定方法は、実施例にて説明する。
【0075】
圧縮試験前の成形体の独立気泡率に対するC0(つまり、成形体の独立気泡率)に対する圧縮試験後の成形体の独立気泡率C1の比[C1/C0]は、0.90以上であることが好ましく、0.92以上であることがより好ましく、0.94以上であることがさらに好ましい。上記比[C1/C0]の上限は、1である。同様に、圧縮試験前の成形体の独立気泡率Cとへたり試験後の成形体の独立気泡率Cとの差[C-C]は、8%以下であることが好ましく、6%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。上記差[C-C]の下限は、0である。これらの場合には、高倍率であっても復元性及び剛性がバランスよく優れたものになるという効果が顕著になる。
【0076】
成形体の融着率は、60%以上であることが好ましい。この場合には、成形体を構成する発泡粒子同士が十分に融着しており、所望の機械的特性を発揮することができる。かかる観点から、成形体の融着率は80%以上であることがより好ましく、85%以上であることがさらに好ましい。上記発泡粒子を用いて型内成形することにより、成形体倍率が高い場合であってもその融着率を上記範囲内とすることができる。成形体の融着率の測定方法は、実施例にて説明する。
【0077】
[スチレン系樹脂の製造方法]
発泡粒子を構成するスチレン系樹脂は、例えば分散工程と、含浸工程と、重合開始工程と、追加含浸重合工程とを行うことより製造される。
【0078】
〔分散工程〕
分散工程においては、スチレン系樹脂核粒子を水性媒体中に分散させる。スチレン系樹脂核粒子のことを、以下適宜「核粒子」という。核粒子の水性媒体への分散方法は、特に限定されず、例えば、核粒子と共に水性媒体に、懸濁剤、界面活性剤を添加して混合することができる。分散工程は、例えば、オートクレーブ等の密閉容器内において実施することができる。
【0079】
(核粒子)
核粒子は、スチレン系樹脂を含有する。核粒子中のスチレン系樹脂は、通常、直鎖状のポリマー鎖を有するものを用いることができるが、分岐鎖を含んでいてもよい。核粒子は、スチレン系樹脂以外の樹脂を含んでもよいが、核粒子中のスチレン系樹脂の含有量は、70質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、実質的な樹脂成分がスチレン系樹脂であることが特に好ましい。
【0080】
核粒子の平均粒子径は、0.3~1.2mmであることが好ましい。核粒子の平均粒子径が0.3mm以上であることにより、多分岐型スチレン系樹脂中の細粒の発生量を低減できる。核粒子の平均粒子径が1.2mm以下であることにより、核粒子の比表面積が増大し、核粒子へのスチレン系単量体の含浸性が向上する。核粒子の平均粒子径は、0.3~1.0mmであることがより好ましく、0.3~0.5mmであることがさらに好ましい。
【0081】
(水性媒体)
水性媒体としては、通常、脱イオン水等の水を用いることができる。核粒子が溶解しない限り、水性媒体はアルコールなどの水溶性有機溶剤を含んでいてもよい。
【0082】
(界面活性剤)
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤が挙げられる。これらの中でも、界面活性剤は、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、及びノニオン性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1つを有することが好ましい。具体的には、アルキルスルホン酸塩(例えば、ドデシルスルホン酸ナトリウム)、アルキルベンゼンスルホン酸塩(例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)、ポリオキシアルキルエーテルリン酸エステル、アルキルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート、高級アルコール、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸塩等が挙げられる。界面活性剤は1種類を用いてもよいし、2種類以上を用いてもよい。
【0083】
(電解質)
分散工程においては、界面活性剤と共に電解質を水性媒体中に添加することができる。電解質としては、塩化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム等を用いることができる。
【0084】
(懸濁剤)
懸濁剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の親水性高分子;第三リン酸カルシウム、硝酸マグネシウム、ピロリン酸マグネシウム、ヒドロキシアパタイト、酸化アルミニウム、タルク、カオリン、ベントナイト等の難水溶性無機塩が挙げられる。懸濁剤は、1種類を用いてもよいし、2種類以上を用いてもよい。親水性高分子及び難水溶性無機塩のうち、いずれか一方を用いてもよいし、両方を用いてもよい。懸濁剤として難水溶性無機塩を使用する場合には、アルキルスルホン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤を併用することが好ましい。
【0085】
懸濁剤の使用量は、核粒子とスチレン系単量体の総添加量の合計100質量部に対して、0.01~5質量部であることが好ましい。難水溶性無機塩からなる懸濁剤とアニオン性界面活性剤とを併用する場合には、核粒子とスチレン系単量体の総添加量の合計100質量部に対して、懸濁剤を0.05~3質量部、アニオン性界面活性剤を0.0001~0.5質量部用いることが好ましい。
【0086】
〔含浸工程〕
含浸工程においては、分散工程後の水性媒体中に、スチレン系単量体及び重合開始剤を添加し、実質的にスチレン系単量体の重合が進行しない温度で、核粒子にスチレン系単量体及び重合開始剤を含浸させる。重合開始剤をスチレン系単量体と共に核粒子に含浸させることにより、核粒子中に重合開始剤を十分に含浸させることができる。分散工程後の水性媒体中には、核粒子の他に、必要に応じて添加される懸濁剤や界面活性剤などが含まれる。重合開始剤は、例えば有機過酸化物であり、少なくとも有機過酸化物を含むことが好ましい。実質的にスチレン系単量体の重合が進行しない温度とは、重合開始剤(具体的には、有機過酸化物)が実質的に分解しない温度である。
【0087】
重合開始剤の分解を抑制するという観点から、含浸工程における水性媒体の温度を(T1/2-15)℃以下とすることが好ましく、(T1/2-18)℃以下とすることがより好ましい。T1/2は重合開始剤の10時間半減期温度(単位:℃)である。一方、核粒子へのスチレン系単量体の含浸性の低下を防止するという観点から、含浸工程における水性媒体の温度を70℃以上とすることが好ましく、75℃以上とすることがより好ましい。含浸工程における水性媒体の温度は一定でもよく、徐々に上昇させるなど変化させてもよいが、上記範囲内であることが好ましい。
【0088】
含浸工程の時間は、スチレン系単量体と重合開始剤とを核粒子中に十分に含浸させるという観点から、0.5~2.0時間とすることが好ましく、1.0~2.0時間とすることがより好ましい。
【0089】
スチレン系単量体の添加量が少なすぎる場合には、核粒子を十分に可塑化させることができず、重合開始剤を核粒子に十分に含浸させることができなくなるおそれがある。一方、スチレン系単量体の添加量が多すぎる場合には、核粒子外でスチレン系単量体が重合し細粒が発生し易くなるおそれがある。したがって、含浸工程におけるスチレン系単量体の添加量は、核粒子100質量部に対して10~200質量部であることが好ましい。含浸性をより高めるという観点からは、スチレン系単量体の添加量は、核粒子100質量部に対して、20質量部以上であることがより好ましく、30質量部以上であることがさらに好ましい。細粒の発生をより防止するという観点からは、スチレン系単量体の添加量は、核粒子100質量部に対して、100質量部以下であることがより好ましく、60質量部以下であることがさらに好ましい。
【0090】
(重合開始剤)
重合開始剤としては、通常、少なくとも有機過酸化物が用いられる。有機過酸化物以外の重合開始剤を併用してもよい。
【0091】
有機過酸化物としては、例えば過酸化ベンゾイル、ジラウロイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-へキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエー卜、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、2,5-ジメチル-2,5-ビス-(2-エチルヘキサノイルパオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-アミルパーオキシイソプロピルカーボネ-ト、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキシルカーボネート、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-2-メチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロドデカン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン等が挙げられる。これらの有機過酸化物は、1種類を用いてもよいし、2種類以上を用いてもよい。
【0092】
重合開始剤の10時間半減期温度T1/2は、85~120℃であることが好ましく、90~110℃であることがより好ましい。なお、2種類以上の有機過酸化物を重合開始剤として用いる場合には、10時間半減期温度の最も低い有機過酸化物の10時間半減期温度をT1/2とする。有機過酸化物としては、10時間半減期温度が上記範囲を満足し、かつ水素引抜能の高いものが好ましい。このような有機過酸化物としては、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシベンゾエートなどのt-ブトキシラジカルを生成する有機過酸化物;ジクミルパーオキサイドなどのクミルオキシラジカルを生成する有機過酸化物が挙げられる。
【0093】
重合開始剤は、有機過酸化物以外の重合開始剤を含んでいてもよいが、水素引抜反応を起こしやすくする観点から、重合開始剤は、有機過酸化物を70質量%以上含むことが好ましく、85質量%以上含むことが好ましく、有機過酸化物からなることが更に好ましい。
【0094】
重合開始剤の添加量は、核粒子とスチレン系単量体の総添加量の合計100質量部に対して0.1~2.0質量部であることが好ましい。この範囲であることで生産性を過度に低下させることなく、水素引抜反応を起こし易くなる。この効果をより高める観点から、重合開始剤の添加量は、核粒子とスチレン系単量体の総添加量の合計100質量部に対して、0.2~1.5質量部であることがより好ましい。
【0095】
(水性媒体中の酸素濃度)
水性媒体の温度30℃における酸素濃度は4mg/L以上であることが好ましい。水性媒体中の酸素は、水性媒体中での重合禁止剤として機能しており、細粒の発生を阻害する。したがって、水性媒体中の酸素濃度が高いほど、スチレン系樹脂の収率が向上する。細粒の発生をより抑制する観点から、温度30℃における酸素濃度は5mg/L以上であることがより好ましい。また、水性媒体に、例えば亜硝酸ナトリウムのような水溶性の重合禁止剤を30~200質量ppm添加することによっても、細粒の発生を抑制することができる。
【0096】
〔重合開始工程〕
重合開始工程では、含浸工程後の水性媒体を昇温して、スチレン系樹脂核粒子中でスチレン系単量体の重合を開始させる。含浸工程後の水性媒体には、重合開始剤とスチレン系単量体が含浸された核粒子が分散されている。重合開始工程における水性媒体の温度の昇温により、スチレン系単量体の重合が開始される。
【0097】
具体的には、昇温により、重合開始剤(具体的には、有機過酸化物)が実質的に分解する温度とすることにより、スチレン系単量体の重合を開始させることが好ましい。生産性の観点から、水性媒体の温度を(T1/2-10)℃以上の温度とすることが好ましく、(T1/2-5)℃以上の温度とすることがより好ましい。上記温度(つまり、重合開始温度)までの昇温時間は特に限定されるものではないが、昇温中に核粒子中のスチレン系単量体の重合を進め、後述する追加含浸重合工程において核粒子中のスチレン系単量体の含有量を10質量%以下に制御しやすくなるという観点から、3時間以上とすることが好ましく、5時間以上とすることがより好ましい。一方、生産性の観点からは10時間以内とすることが好ましい。
【0098】
〔追加含浸重合工程〕
追加含浸重合工程においては、重合開始工程後の水性媒体にスチレン系単量体を追加添加する。そして、核粒子にスチレン系単量体を含浸させつつ、核粒子中のスチレン系単量体をスチレン系樹脂のポリマー鎖にグラフト重合させる。つまり追加含浸重合工程では、重合開始工程を経て、内部でスチレン系単量体の重合が始まっている核粒子を含む水性媒体中に、スチレン系単量体を追加して添加し、核粒子にスチレン系単量体を含浸させて重合させる。
【0099】
追加含浸重合工程においてスチレン系単量体の添加量が少なすぎる場合には、分岐鎖を十分に生成させることができなくなるおそれがある。一方、多すぎる場合には、核粒子外でのスチレン系単量体同士の重合が起こりやすくなり、スチレン系樹脂の収率が低下するおそれがある。したがって、追加含浸重合工程におけるスチレン系単量体の添加量は、核粒子100質量部に対して50~700質量部であることが好ましい。分岐鎖をより十分に生成させるという観点から、核粒子100質量部に対するスチレン系単量体の添加量は、100質量部以上であることがより好ましく、200質量部以上であることがさらに好ましい。スチレン系樹脂の収率をより高めるという観点から、核粒子100質量部に対するスチレン系単量体の添加量は、600質量部以下であることがより好ましく、550質量部以下であることがさらに好ましい。
【0100】
追加含浸重合工程においては、核粒子中のスチレン系単量体の含有量(具体的には、濃度)を10質量%以下に維持させることが好ましい。換言すれば、重合率を90%以上に維持することが好ましい。スチレン系単量体は、断続的に又は連続的に添加することができる。重合開始工程を経ることにより、スチレン系単量体の重合は核粒子内を反応場として開始されている。そして、追加含浸重合工程においては、核粒子中のスチレン系単量体の含有量を10質量%以下に維持させることにより、スチレン系単量体同士での重合だけではなく、水素引抜反応が起こりやすく、スチレン系樹脂(つまり、ポリマー)にスチレン系単量体のグラフト重合が生じやすくなり、分岐鎖が生成しやすくなる。長鎖分岐度をより高めるという観点から、追加含浸重合工程における核粒子中のスチレン単量休の含有量は8質量%以下であることがより好ましく、6質量%以下であることがさらに好ましい。
【0101】
追加含浸重合工程においては、上記のように核粒子中のスチレン系単量体の含有量を10質量%以下に維持させることが好ましいが、上記スチレン系樹脂が得られる範囲において、核粒子中のスチレン系単量体の含有量は10質量%を超えることができる。核粒子中のスチレン系単量体の含有量が10質量%を超える時間は、追加含浸重合工程の全時間のうち2割以下であることが好ましく、1割以下であることがより好ましい。追加含浸重合工程全てにおいて核粒子中のスチレン系単量体の含有量を10質量%以下とすることが最も好ましい。分岐鎖を十分に生長させるという観点から、追加含浸重合工程の時間は、150分以上とすることが好ましく、180分以上であることがより好ましい。生産効率の観点から、追加含浸重合工程の時間の上限は600分程度とすることが好ましい。
【0102】
なお、追加含浸重合工程における核粒子中のスチレン系単量体の含有量は、重合に用いる重合開始剤の化学的特性、重合温度から求めたスチレンの重合速度等をもとに計算することが可能であり、その計算値をもとに所望の含有量となるようにスチレン系単量体の追加添加のタイミング及び添加速度(添加割合)を調整することにより、追加含浸重合工程における核粒子中のスチレン系単量体の含有量を調整することができる。また、実際の核粒子中のスチレン系単量体の含有量は、重合中の核粒子を反応系から抜き出し、後述する方法により求めることができる。
【0103】
核粒子中のスチレン系単量体の含有量が低い条件ほど、重合開始反応だけではなく水素引抜反応を起こしやすくなり、分岐度が向上すると考えられる。さらに、既述のように、核粒子の平均粒子径を1.2mm以下とすることにより、比表面積が大きくなり、スチレン系単量体の含浸性が向上し、分岐を生成しやすくなるものと考えられる。
【0104】
(連鎖移動剤)
追加含浸重合工程においては、連鎖移動剤の存在下でスチレン系単量体を重合させることが好ましい。この場合には、重量平均分子量Mw’が100万以上500万以下、数平均分子量Mn’に対するZ平均分子量Mz’の比Mz’/Mn’が5以上、スチレン1000単位あたりの分岐度が0.2以上であるスチレン系樹脂が得られ易くなり、特に、重量平均分子量Mw’が100万以上500万以下、数平均分子量Mn’に対するZ平均分子量Mz’の比Mz’/Mn’が7以上、スチレン1000単位あたりの分岐度が0.2以上であるスチレン系樹脂がより得られ易くなる。連鎖移動剤は、重合時の反応場において、ポリマー鎖の生長末端ラジカル、ポリマー鎖上のラジカル、スチレン系単量体ラジカル、開始剤ラジカル等のラジカル反応性分子の連鎖移動反応を引き起こす分子である。連鎖移動剤としては、例えばα-メチルスチレンダイマー(以下、適宜「αMSD」と記す)、n-オクチルメルカプタン、t-ノニルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、フェニルチオール、シクロヘキサンチオール、4,4‘-チオビスベンゼンチオール、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオナート)、ペンタエリトリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオナート)、4-メチルベンゼンチオール、3-メルカプトプロピオン酸イソオクチル、1,8-ジメルカプト-3,6-ジオキサオクタン、ブロモトリクロロメタン、四塩化炭素、1,4-ナフトキノン、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、ペンタフェニルエタン等を用いることができる。臭気が少なく、着色のないスチレン系樹脂を得ることができるため、α-メチルスチレンダイマーを用いることが好ましい。
【0105】
連鎖移動剤を添加する場合には、連鎖移動剤は、追加含浸重合工程においてスチレン系単量体と共に存在していればよい。重合開始剤の総添加量Miに対する連鎖移動剤の総添加量Mtの比(つまり、Mt/Mi)が小さくなりすぎると、分子量分布が小さくなるおそれがある。一方、Mt/Miが大きくなりすぎると、重量平均分子量Mw’が小さくなるおそれや、分岐度が小さくなるおそれがあり、その結果、ひずみ硬化性が発現しにくくなるおそれがある。したがって、Mt/Miは0.1~0.6に調整することが好ましい。スチレン系樹脂のひずみ硬化性をより高めるという観点から、Mt/Miは0.12以上であることがより好ましく、0.15以上であることがさらに好ましい。一方、Mt/Miは0.5以下であることが好ましく、0.4以下であることがより好ましい。
【0106】
連鎖移動剤の添加方法は、例えば下記の(I)~(IV)が挙げられる。(I)~(IV)の方法は、いずれか1つの方法でも、複数の方法を組み合わせてもよい。つまり、連鎖移動剤は、(I)~(IV)のうちの少なくとも1つの方法により添加することができる。
(I)分散工程前に核粒子に連鎖移動剤を含有させておく方法。
(II)含浸工程において、核粒子に連鎖移動剤を含浸させる方法。
(III)重合開始工程において核粒子に連鎖移動剤を含浸させる方法。
(IV)追加含浸重合工程において核粒子に連鎖移動剤を含浸させる方法。
【0107】
(I)の場合においては、水性媒体に添加する前に核粒子中に連鎖移動剤を含有させることができる。具体的には、スチレン系樹脂と連鎖移動剤とを配合し、造粒により核粒子を製造する。これにより、連鎖移動剤を含有するスチレン系樹脂核粒子が得られる。
【0108】
(II)の場合においては、含浸工程において核粒子に連鎖移動剤を含浸させることができる。連鎖移動剤は、含浸工程において、水性媒体中に添加することにより、核粒子に含浸させることができる。連鎖移動剤は、スチレン系単量体や重合開始剤と同じタイミングで水性媒体中に添加してもよいし、異なるタイミングで添加してもよい。連鎖移動剤は、スチレン系単量体、重合開始剤と共に、水性媒体中に添加することが好ましい。この場合には、含浸工程において、連鎖移動剤が、スチレン系単量体や重合開始剤と共に、核粒子中に十分に分散される。したがって、重合開始工程や追加含浸重合工程において、ポリマー鎖の開裂反応などの副反応抑制とポリマー鎖の水素引抜反応を両立させることができ、スチレン系樹脂の長鎖分岐度を十分に高めることができる。
【0109】
(III)の場合においては、重合開始工程において核粒子に連鎖移動剤を含浸させることができる。連鎖移動剤の添加は、昇温中でも昇温後であってもよい。
【0110】
(IV)の場合においては、追加含浸重合工程において核粒子に連鎖移動剤を含浸させることができる。具体的には、重合開始工程後に、水性媒体中にスチレン系単量体を追加添加しつつ、核粒子中のスチレン系単量体の含有量を10質量%以下にしながら、核粒子に連鎖移動剤を含浸させることができる。連鎖移動剤を添加するタイミングは、追加含浸重合工程の初期に連鎖移動剤をまとめて添加してもよいし、例えば所定の添加速度で添加してもよい。また、添加速度は、徐々に低下させるなどのように変化させてもよい。追加含浸重合工程において、連鎖移動剤を添加する場合には、例えばスチレン系単量体と連鎖移動剤とを混合して添加させることが好ましい。
【0111】
連鎖移動剤を使用する場合、(I)~(IV)の中でも(II)のように含浸工程において核粒子に連鎖移動剤を含浸させることが好ましい。この場合には、重合開始工程前に、核粒子中において重合開始剤の近くに連鎖移動剤を存在させることができるため、重合開始工程あるいは追加含浸重合工程において発生する反応性の高いラジカルの一部を、ポリマー鎖の開裂反応などの副反応を起こす前に、連鎖移動反応により反応性の適度に低いラジカルに置き換えることができる。その結果、より分子量分布が広く、より分岐度の高い、溶融張力と高い流動性とを高い次元で兼ね備えた、分岐鎖を有するスチレン系樹脂を得ることができる。これにより、スチレン系樹脂がひずみ硬化性をより十分に発現し、発泡粒子が高嵩倍率で復元性と剛性とを兼ね備えるという効果が顕著になる。
【0112】
(温度条件)
追加含浸重合工程の温度条件は特に制限されないが、水素引抜反応を生じ易くする観点から、追加含浸重合工程における水性媒体の温度は、(T1/2-10)℃~(T1/2+20)℃であることが好ましく、(T1/2-5)℃~(T1/2+10)℃であることがより好ましい。追加含浸重合工程における水性媒体の温度は、上記範囲内であれば一定でもよく、徐々に上昇させるなど変化させてもよい。
【0113】
また、重合開始剤の10時間半減期温度T1/2が85~120℃であり、かつ、含浸工程における水性媒体の温度が70℃以上(T1/2-15)℃以下であり、かつ、追加含浸重合工程における上記水性媒体の温度が(T1/2-10)℃以上(T1/2+20)℃以下であることが好ましい。この場合には、実質的に重合を開始させる前に、含浸工程において核粒子にスチレン系単量体、開始剤、連鎖移動剤を十分に含浸させることができ、追加含浸重合工程において重合開始反応と水素引抜反応を起こすことができる。
【0114】
上記追加含浸重合工程においては、重合の反応場となる核粒子内におけるスチレン系単量体の濃度を特定の範囲に保ち、連鎖移動剤の存在下でスチレン系単量体を重合させることが好ましい。さらに、重合開始剤の総添加量に対する連鎖移動剤の総添加量の比を所定の範囲内に調整することが好ましい。これにより、スチレン系樹脂の分岐点の数を大きくして分岐度を高め、スチレン系樹脂を高分子量化することができ、また、分岐点間距離を広げて長鎖分岐度を高めることによりゲル化を回避することができ、さらに、流動性を高めることができ、ひずみ硬化性が発現しやすくなると考えられる。
【0115】
通常、スチレン系単量体の重合時の反応場には、重合開始剤と多くのスチレン系単量体とが存在し、重合開始剤から生成した開始剤ラジカルやポリマー鎖の生長末端ラジカルは、スチレン系単量体のビニル基と優先的に反応するため、直鎖状のスチレン系樹脂が形成され易いと考えられる。一方、上記追加含浸重合工程のように反応場のスチレン系単量体の濃度が低い場合、相対的にポリマー鎖が多くなることになるため、開始剤ラジカルやポリマー鎖の生長末端ラジカルは、スチレン系単量体との重合反応だけではなく、ポリマー鎖の水素引抜反応を生じやすくなると考えられる。その結果、水素引抜反応によりポリマー鎖上にラジカルが発生し、このポリマー鎖上のラジカルにスチレン系単量体がグラフト重合したり、あるいは、ポリマー鎖の生長末端ラジカルが再結合したりすることで、ポリマー鎖に分岐鎖が生成すると考えられる。
【0116】
ポリマー鎖に分岐鎖が生成した位置は、立体的に混み合った状況にあることから、生成した分岐点の近くには更なる分岐鎖は生じにくいと考えられる。つまり、立体障害が生じない程度に、分岐点から離れたポリマー鎖上で、再び水素引抜反応が生じ、分岐鎖が生成すると考えられる。したがって、分岐点間が適度に離れながら、分岐鎖が生成するため、ゲル化が生じることなく、多くの分岐鎖を有するスチレン系樹脂が得られるものと考えられる。
【0117】
多くの分岐鎖を生成させるためには、追加含浸重合工程中の重合系内のラジカル濃度を高めて、ポリマー鎖上で水素引抜反応の頻度を増やす必要がある。しかし、開始剤添加量を増やしたり、追加含浸重合工程の温度を高めて開始剤の分解を促進させる等により、反応性の高い開始剤ラジカル濃度を高めてしまうと、ポリマー鎖の開裂反応等の望ましくない副反応が起きやすくなり、所望の分岐構造を有するスチレン系樹脂を得ることができない。
【0118】
一方、ラジカル重合において、連鎖移動剤は、ポリマー鎖の分子量を低く調整するために用いられ、通常、高分子量のポリマー鎖を合成するために添加することはない。しかし、重合開始剤の総添加量に対する連鎖移動剤の総添加量の比を所定の範囲内に調整することで、分子量低下を起こさず、逆に分岐度が高く、高分子量のスチレン系樹脂が生成される。本発明者は、このようにして得られたスチレン系樹脂は、重量平均分子量がMw’100万以上500万以下、数平均分子量Mn’に対するZ平均分子量Mz’の比Mz’/Mn’が5以上、スチレン1000単位あたりの分岐度が0.2以上であるという条件、より好ましくは重量平均分子量Mw’が100万以上500万以下、数平均分子量Mn’に対するZ平均分子量Mz’の比Mz’/Mn’が7以上、スチレン1000単位あたりの分岐度が0.2以上であるという条件を満足しやすくなり、この条件を満足するスチレン系樹脂から構成される発泡粒子は、発泡時にひずみ硬化性を発現し、高嵩倍率であっても復元性と剛性とを兼ね備えることを見出した。
【0119】
重合開始剤の総添加量に対する連鎖移動剤の総添加量の比を所定の範囲内に調整することで、分子量低下を起こさず、逆に分岐度が高く、高分子量のスチレン系樹脂が生成される理由は、核粒子中のスチレン系単量体の濃度が特定の範囲内において、開始剤ラジカルのような反応性の高いラジカルの一部が、連鎖移動反応により反応性が適度に低いラジカルに置き換わることで、ポリマー鎖の開裂反応などの副反応を抑制しつつ、ポリマー鎖の水素引抜反応により、分岐度が高く、高分子量のスチレン系樹脂が生成されるためと考えられる。重合開始剤の総添加量に対する連鎖移動剤の総添加量が少なすぎる場合は、ポリマー鎖の開裂反応などの副反応を抑制できなくなると考えられ、逆に重合開始剤の総添加量に対する連鎖移動剤の総添加量が多すぎる場合は、水素引抜反応が起きにくくなると考えられ、いずれの場合も、分岐度が高く、高分子量のスチレン系樹脂を得ることが困難となる。
【0120】
また、本来、連鎖移動剤は、低分子量ポリマーを生成させるので、分岐鎖の生成に関与しなかった一部の連鎖移動剤により、分子量の小さいスチレン系樹脂も生成すると考えられる。その結果、水素引抜反応により生成した分岐度が高く高分子量のスチレン系樹脂と連鎖移動反応により生成した低分子量のスチレン系樹脂が同時に生成されるため、得られるスチレン系樹脂の分子量分布が広がると考えられる。このようなスチレン系樹脂は、多くの分岐鎖を有しており、分岐鎖も長いと考えられる。なお、連鎖移動剤の使用により、重量平均分子量がMw’100万以上500万以下、数平均分子量Mn’に対するZ平均分子量Mz’の比Mz’/Mn’が5以上、スチレン1000単位あたりの分岐度が0.2以上であるという条件を満足するスチレン系樹脂が得られ易くなるが、連鎖移動剤を使用しなくとも、例えば、上述のように追加含浸重合工程における核粒子中のスチレン系単量体の含有量(具体的には、濃度)を10質量%以下に維持させることにより、上記条件を満足するスチレン系樹脂を得ることは可能である。
【0121】
スチレン系樹脂の製造方法においては、必ずしも多官能性単量体(つまり、分岐化剤)を用いることなく、スチレン系樹脂を製造することができる。つまり、多官能性単量体を用いても、多官能性単量体の使用量を例えば実質的に0近くにまで減らしても、多官能性単量体を用いなくても、上記スチレン系樹脂の製造が可能になる。多官能性単量体の使用量を減らしたり、多官能性単量体を使用しないことは、ゲル化の更なる防止や流動性の更なる向上につながる。ただし、重合時のゲル化が生じない限り、多官能性単量体を添加することも可能である。
【0122】
水性媒体中の多官能性単量体の添加量は、核粒子100質量部に対して0.2質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以下であることがより好ましく、0であることがさらに好ましい。多官能性単量体を添加する場合には、いずれの工程において添加することができるが、例えば含浸工程、重合開始工程、追加含浸重合工程などにおいて添加が可能である。
【0123】
多官能性単量体は、例えばラジカル重合性の二重結合を2つ以上有する単量体である。多官能性単量体としては、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルナフタレン、トリメチロールプロパントリアクリラート、エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、1,3-ブチレンジオールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、シクロヘキサンジオールジアクリレート等が挙げられる。
【0124】
〔残留モノマー重合工程〕
追加含浸重合工程後には、スチレン系樹脂中に残存するスチレン系単量体を重合させる残留モノマー重合工程を行うことができる。残留モノマー重合工程は、選択的に行われる工程である。
【0125】
〔他の工程〕
追加含浸重合工程後又は残留モノマー重合工程後、密閉容器内を冷却し、スチレン系樹脂を密閉容器から取り出すと、例えば粒子状のスチレン系樹脂が得られる。粒子状とは、具体的には球状、楕円体状等の形状が例示されるが、外観上、これらに近い形状も含まれる。また、スチレン系樹脂に付着した懸濁剤、界面活性剤等を水で洗浄する洗浄工程を行うことができる。また、スチレン系樹脂の表面に、例えば帯電防止剤のような機能性成分を被覆する被覆工程を行うことができる。洗浄工程及び被覆工程は、選択的に行われる工程である。
【0126】
[発泡性樹脂粒子の製造]
発泡性樹脂粒子は、上述のようにして得られた粒子状のスチレン系樹脂に発泡剤を含浸させることにより製造される。具体的には、たとえば、粒子状のスチレン系樹脂を水性媒体及び必要に応じて添加される懸濁剤等とともに密閉容器内に供給して水性媒体中に分散させ、密閉容器を加熱するとともに発泡剤を圧入することによりスチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させることができる。発泡剤の含浸時には、発泡剤と共に、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素からなる可塑剤を含浸させてもよい。スチレン系樹脂粒子中に含浸する発泡剤や可塑剤の種類及び量は、上述した通りである。
なお、上記追加含浸重合工程後又は残留モノマー重合工程後のスチレン系樹脂を密閉容器から取り出さずにそのまま発泡剤を含浸させてもよい。
【0127】
得られた発泡性樹脂粒子に付着した懸濁剤、界面活性剤等を水で洗浄する洗浄工程を行うことができる。また、発泡性樹脂粒子の表面に、例えば帯電防止剤のような機能性成分を被覆する被覆工程を行うことができる。洗浄工程及び被覆工程は、選択的に行われる工程である。
【0128】
[発泡粒子の製造]
発泡粒子は、発泡性樹脂粒子を加熱媒体により加熱して発泡させることにより製造される。具体的には、例えば、発泡性樹脂粒子を供給した予備発泡機にスチーム等の加熱媒体を導入することにより、発泡性樹脂粒子を発泡させることができる。
【0129】
[発泡粒子成形体の製造]
発泡粒子成形体は、発泡粒子を型内成形することにより製造される。具体的には、金型等の成形型内に発泡粒子を充填し、スチーム等の加熱媒体を供給して発泡粒子同士を相互に融着させて所望の形状の発泡粒子成形体を得ることができる。
【実施例0130】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではなく、本発明の要旨を超えない限り、種々の変更が可能である。「部」及び「%」は、特に記載しない限り質量基準である。オートクレーブ内の温度は、水性媒体の温度を意味する。
【0131】
[核粒子の製造]
(製造例1)
撹拌装置を備えた内容積が1m3のオートクレーブに、脱イオン水350kg、懸濁剤として第三リン酸カルシウム(太平化学産業社製、20.5%スラリー)2.1kg、界面活性剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(10%水溶液)0.158kg、ドデシルジフェニルエーテルスルホン酸二ナトリウム(花王社製、ペレックスSSH 10%水溶液)0.053kg、電解質として酢酸ナトリウム0.535kgを投入した。
【0132】
ついで、重合開始剤としてt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.975kg(日油社製、パーブチルO)及びt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート0.284kg(日油社製、パーブチルE)、重合禁止剤として4-tert-ブチルカテコール15.4gを、スチレン390kgに溶解させ、110rpmで撹拌しながら、これをオートクレーブ内に供給し、オートクレーブ内の気相部を窒素置換した後、昇温を開始し、1時間15分かけて90℃まで昇温した。
【0133】
90℃到達後、100℃まで5時間かけて昇温した。100℃到達後、撹拌回転数を90rpmに変更し、1時間30分かけて115℃まで昇温した。115℃で2時間40分保持し、その後40℃まで2時間かけて冷却した。90℃までの昇温中、60℃到達の時点で、懸濁助剤として過硫酸カリウム1.95gをオートクレーブ内に投入した。
【0134】
冷却後、内容物を取り出し、スチレン系樹脂粒子の表面に付着した第三リン酸カルシウムを硝酸により溶解させた後、遠心分離機で脱水、洗浄し、さらに気流乾燥装置で粒子の表面に付着した水分を除去して、スチレン系樹脂粒子を得た。
【0135】
得られたスチレン系樹脂粒子を篩にかけて、直径が0.5~1.3mmの粒子(平均粒子径0.8mm)を取り出した。これを核粒子とした。なお、スチレン系樹脂粒子の平均粒子径d63は、日機装株式会社の粒度分布測定装置「ミリトラック JPA」により測定した。
【0136】
(実施例1)
[スチレン系樹脂粒子の製造]
<分散工程>
撹拌装置を備えた内容積が1.5m3のオートクレーブに、脱イオン水450kg、ピロリン酸ナトリウム2.80kg、硝酸マグネシウム7.00kgを供給し、塩交換によりオートクレーブ内で懸濁剤としてのピロリン酸マグネシウムを合成した。界面活性剤としてアルキルスルホン酸ナトリウム(花王社製、ラテムルPS、40%水溶液)0.140kg、核粒子として製造例1で得られたスチレン系樹脂粒子(核粒子)70.0kgをオートクレーブに供給した後、オートクレーブ内の気相部を窒素置換した。具体的には窒素によりオートクレーブ内を0.3MPa(G)まで加圧し、その後オートクレーブ内の圧力が大気圧になるまでオートクレーブ内の気体を放出した。
【0137】
<含浸工程>
次いで、50rpmで撹拌しながら、80℃まで昇温した。80℃に到達後、撹拌回転数を100rpmに変更し、脱イオン水100kg、アルキルスルホン酸ナトリウム(花王社製、ラテムルPS、40%水溶液)0.180kg、スチレン(スチレン系単量体)24.7kg、重合開始剤としてt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート(日油社製、パーブチルE;BE、10時間半減期温度T1/299.0℃)1.38kg、連鎖移動剤としてα-メチルスチレンダイマー(日油株式会社製、ノフマーMSD)0.20kgの混合物をホモジナイザーにより乳化液に調製し、乳化液をオートクレーブ内に供給した。その後、オートクレーブ内を0.1MPa(G)になるまで窒素で加圧し、80℃で15分保持した。
【0138】
<重合開始工程>
その後、内容物を100rpmで撹拌しながら、1時間かけて105℃まで昇温した。
【0139】
<追加含浸重合工程>
105℃到達後、内容物を100rpmで撹拌しながら、7時間30分保持した。オートクレーブ内の温度が105℃に到達時から7時間30分かけて、スチレン(スチレン系単量体)316.6kgを0.77kg/分の割合でオートクレーブ内に連続的に添加した。なお、スチレンの添加に当たっては、上記添加条件、重合に用いた重合開始剤の化学的特性、及び重合温度から計算したスチレンの重合速度をもとに、シミュレーションを行い、スチレン添加中の核粒子中のスチレン含有量が10質量%以下となるようにスチレンを追加添加した。
【0140】
シミュレーション結果の代表例として、図8に、実施例1におけるシミュレーション結果のグラフを示した。グラフは、横軸に経過時間(hr)、左側の縦軸に追加含浸重合工程における核粒子中のスチレン系単量体の含有量(質量%)、右側の縦軸に重合温度(℃)をとった。グラフ中、経過時間に対する核粒子中のスチレン含有量変化を実線で示し、経過時間に対する重合温度変化を破線で示した。図8に例示されるように、重合条件から計算される重合速度に基づいたシミュレーションから、経過時間と核粒子中のスチレン系単量体と重合温度との関係が導き出せる。この関係に基づいて、核粒子中のスチレン系単量体の含有量が10質量%以下となるように、スチレン系単量体(具体的にはスチレン)の添加を調整することができる。
【0141】
<残留モノマー重合工程>
追加含浸重合工程後、内容物を100rpmで撹拌しながら、水性媒体を120℃まで2時間かけて昇温し、120℃で3時間保持することで未反応のスチレン系単量体を重合させた。
【0142】
<冷却工程>
残留モノマー重合工程後、内容物を100rpmで撹拌しながら、6時間かけて水性媒体を35℃まで冷却した。
オートクレーブ内を冷却後、オートクレーブから取り出したスチレン系樹脂粒子を希硝酸で洗浄して樹脂粒子表面に付着した懸濁剤を溶解除去した後、水洗を行い、さらに遠心分離機で脱水した。帯電防止剤としてのポリオキシエチレンラウリルエーテル0.01質量部(スチレン系樹脂100質量部に対する値)で被覆後、気流乾燥機により樹脂粒子表面の水分を除去した。このようにして、スチレン系樹脂粒子を製造した。
【0143】
[発泡性樹脂粒子の製造]
撹拌装置を備えた内容積が0.05m3のオートクレーブに、脱イオン水18.33kg、ピロリン酸ナトリウム92kg、硝酸マグネシウム229kgを供給し、塩交換によりオートクレーブ内で懸濁剤としてのピロリン酸マグネシウムを合成した。界面活性剤としてのアルキルスルホン酸ナトリウム(花王社製、ラムテルPS、40%水溶液)4.6g、上記スチレン系樹脂粒子16.67kgをオートクレーブに供給した後、オートクレーブ内の気相部を窒素置換した。具体的には、窒素によりオートクレーブ内を0.3MPa(G)まで加圧し、その後オートクレーブ内の圧力が大気圧になるまでオートクレーブ内の気体を放出した。
【0144】
次いで、180rpmで撹拌しながら、100℃まで昇温した。100℃に到達後、内容物を180rpmで撹拌しながら3時間保持した後、1時間かけて120℃まで昇温した。120℃で6時間保持した後、4時間かけて35℃まで冷却した。オートクレーブ内の温度が100℃に到達時から45分かけてシクロヘキサン330g、ペンタン300g、イソブタン1550gをオートクレーブ内に連続的に添加した。
【0145】
オートクレーブ内を冷却後、オートクレーブから取り出したスチレン系樹脂粒子(具体的には、発泡性スチレン系樹脂粒子)を希硝酸で洗浄して樹脂粒子表面に付着した懸濁剤を溶解除去した後、水洗を行い、さらに遠心分離機で脱水した。さらに、気流乾燥機により樹脂粒子表面の水分を除去した。
【0146】
次いで、発泡性樹脂粒子100質量部に対して、ステアリン酸亜鉛0.14質量部と、グリセリンモノステアレート0.05質量部と、グリセリントリステアレート0.05質量部の混合物を添加し、混合した。このようにして、各種添加剤で発泡性樹脂粒子を被覆した。このようにして得られた発泡性樹脂粒子の物性等を後述の方法に測定した。その結果を表1に示す。
【0147】
[発泡粒子の製造]
次に、発泡性樹脂粒子を発泡させて発泡粒子を作製した。具体的には、予備発泡装置(DAISEN製「DYHL-500U」)に発泡性樹脂粒子を入れ、0.02MPa(G)のスチームを供給して発泡性樹脂粒子を加熱した。加熱により、表2に示す嵩密度(具体的には10kg/m)に到達するまで発泡性樹脂粒子を発泡させた。発泡粒子の物性等を後述の方法により測定した。その結果を表2に示す。
【0148】
[発泡粒子成形体の製造]
発泡粒子を室温で1日間静置して熟成させた後、型物成形機(DABO社製のDSM-0705VS)の金型のキャビティ内に充填した。金型のキャビティは、長さ350mm×幅65mm×厚さ25mmの直方体形状である。キャビティ内に0.08MPa(G)の圧力のスチームを供給して発泡粒子を10秒間加熱した後、所定時間冷却した。その後、金型から発泡粒子成形体を取り出した。このようにして、発泡粒子成形体を得た。得られた発泡粒子成形体を温度40℃で1日間乾燥させた後、各種評価に使用した。その結果を表2に示す。
【0149】
(実施例2)
発泡粒子の製造時におけるスチーム圧を0.01MPa(G)に変更して嵩密度23kg/mの発泡粒子を作製した点を除き、実施例1と同様である。
【0150】
(実施例3)
αMSDを使用せず、重合開始剤としてのt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネートの添加量を1.45kgに変更して発泡性樹脂粒子を作製し、嵩密度12kg/mの発泡粒子を作製した点を除き、実施例1と同様である。
【0151】
(実施例4)
発泡粒子の製造時におけるスチーム圧を0.01MPa(G)に変更して嵩密度18kg/mの発泡粒子を作製した点を除き、実施例3と同様である。
【0152】
(実施例5)
スチレン系樹脂粒子の製造後に、スチレン系樹脂粒子をテクノベル社製二軸小型押出機で50rpm、樹脂温度200℃の条件において溶融混練し、長径1.4mmのミニペレットを作製する工程を追加し、スチレン系樹脂粒子として該ミニペレットを用いた。この点を除き、実施例1と同様の方法により嵩密度11kg/mの発泡粒子を作製した。
【0153】
(実施例6)
スチレン系樹脂粒子の製造時における重合開始剤をt-ブチルパーオキシベンゾエート1.44kgに変更した点を除き、実施例1と同様の方法により方法により嵩密度10kg/mの発泡粒子を作製した。
【0154】
(実施例7)
発泡粒子の製造時におけるスチーム圧を0.025MPa(G)に変更した点を除き、実施例1と同様の方法により方法により嵩密度10kg/mの発泡粒子を作製した。
【0155】
(比較例1)
比較例1は、直鎖ポリスチレンから構成された発泡粒子の例である。
本例では、以下のようにして発泡性樹脂粒子を製造した。まず、撹拌装置の付いた内容積が1.5m3のオートクレーブ内に、脱イオン水370kg、第三リン酸カルシウム(20.5%スラリー)1.53kg、α―オレフィンスルホン酸ナトリウム(10%水溶液)0.13kg、アルキルビフェニルジスルホン酸ジナトリウム(10%水溶液)0.04kg、及び酢酸ナトリウム(電解質)0.56kgを投入した。次いで、ベンゾイルパーオキサイド1.38kg、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート(日油(株)製の「パーブチルE」)0.396kg、ジクミルパーオキサイド(日油(株)製の「パークミルD」)0.396kg、流動パラフィン2.96kg、及びポリエチレンワックスパウダー(東洋アドレ(株)製の「ポリエチレンワックス1000」)0.39kg、4-t-ブチルカテコール(DIC社製の「DIC-TBC」、重合禁止剤)7.4gをスチレン370kgに混合し、混合物を回転数110rpmで撹拌しながらオートクレーブ内に投入した。
次いで、オートクレーブ内の空気を窒素により置換した後、1時間半かけて温度90℃まで昇温させ、その温度90℃への到達後、さらに温度100℃まで5時間かけてオートクレーブ内を昇温させた。その後、温度112℃まで1時間30分かけてオートクレーブ内をさらに昇温させ、その温度112で50分間オートクレーブ内を保持した。その後、温度35℃まで約6時間かけて冷却した。上述の温度90℃から温度100℃への昇温途中であって、90℃に到達してから4時間経過時に、発泡剤として、ペンタン(n-ペンタン80%とイソペンタン20%の混合物)11.5kgと、イソブタン20.7kgとを60分間かけてオートクレーブ内に圧入した。冷却後、オートクレーブから内容物(発泡性粒子)を取り出し、発泡性粒子の表面に付着した第三リン酸カルシウムを除去するため、発泡性粒子に硝酸を添加した後、遠心分離機で脱水し、流動乾燥装置で表面に付着した水分を除去した。このようにして、平均粒子径が約1.0mmの発泡性粒子を得た。
次いで、発泡性粒子を篩いにかけて0.5~1.4mmの粒子を選別して取り出した。その後、発泡性粒子100質量部に対して、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アルキルアミン(帯電防止剤)0.005質量部を添加することにより、発泡性粒子を帯電防止剤で被覆した。さらに、発泡性粒子100質量部に対して、ステアリン酸亜鉛0.1質量部と、グリセリントリステアレート0.002質量部と、グリセリンジステアレート0.017質量部と、グリセリンモノステアレート0.05質量部とを添加し、これらの混合物で発泡性粒子を被覆した。
これらの点を除き、実施例1と同様の方法により嵩密度10kg/mの発泡粒子を作製した。
【0156】
(比較例2)
発泡粒子の製造時におけるスチーム圧を0.01MPa(G)に変更して嵩密度17kg/mの発泡粒子を作製した点を除き、比較例1と同様である。
【0157】
(比較例3)
発泡性樹脂粒子の製造時におけるペンタン、イソブタンの添加量をそれぞれ150g、780gに変更して発泡性樹脂粒子を作製した点を除き、実施例1と同様である。
【0158】
(比較例4)
発泡性樹脂粒子の製造時におけるペンタン、イソブタンの添加量をそれぞれ300g、3100gに変更して発泡性樹脂粒子を作製した点を除き、実施例1と同様である。
【0159】
(比較例5)
DIC社製の多分岐ポリスチレン「HP-555」を使用してスチレン系樹脂粒子を作製した。具体的には、テクノベル社製二軸小型押出機で50rpm、樹脂温度200℃の条件において溶融混練し、長径1.4mmのミニペレットを作製した。このようにしてスチレン系樹脂粒子を得た。次いで、このスチレン系樹脂粒子を使用して発泡性樹脂粒子を作製し、これを用いて実施例1と同様の方法により方法により嵩密度13kg/mの発泡粒子を作製した。
【0160】
(比較例6)
発泡粒子の製造時におけるスチーム圧を0.01MPa(G)に変更して嵩密度20kg/mの発泡粒子を作製した点を除き、比較例5と同様である。
【0161】
下記方法にて各実施例、比較例の評価を行った。その結果を表1~4に示す。なお、発泡粒子の評価は、発泡粒子を相対湿度50%、温度23℃、1atmの条件にて24時間静置して状態調節した後に行い、発泡粒子成形体の評価は、成形体を温度23℃で12時間静置して状態調節した後に行った。
【0162】
[発泡性樹脂粒子の評価]
〔絶対分子量(GPC-MALS)〕
発泡性樹脂粒子の作製に使用したスチレン系樹脂粒子について絶対分子量の測定を行った。絶対分子量の測定は、GPC-MALS法により、スチレン系樹脂の数平均分子量Mn’、重量平均分子量Mw’、Z平均分子量Mz’を測定することにより行った。具体的には、島津製作所社製Prominence LC-20AD(2HGE)/WSシステム、Wyatt Technology社製の多角度光散乱検出器 DAWN HELEOS IIを用いて、溶離液:テトラヒドロフラン(THF)、流量:1.0ml/minという条件で測定した。カラムとしては、東ソー社製TSKgel HHR-H×1本、TSKgel GMHHR×2本、を直列に接続して用いた。測定の解析は、Wyatt社の解析ソフト ASTRAにより行い、スチレン系樹脂の数平均分子量Mn’、重量平均分子量Mw’、Z平均分子量Mz’を求めた。屈折率の濃度増分dn/dcには0.185ml/gの値を用いて解析を行った。
【0163】
〔ポリスチレン換算分子量(GPC)〕
発泡性樹脂粒子の作製に使用したスチレン系樹脂粒子について相対分子量の測定を行った。相対分子量の測定は、直鎖ポリスチレンを標準物質としたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法により、スチレン系樹脂の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)を測定することにより行った。具体的には、東ソー社製のHLC-8320GPC EcoSECを用いて、溶離液:テトラヒドロフラン(THF)、流量:0.6ml/分、試料濃度:0.1wt%という条件で測定した。カラムとしては、TSKguardcolumn SuperH-H×1本、TSK-GEL SuperHM-H×2本を直列に接続して用いた。すなわち、スチレン系樹脂をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させ、GPCで分子量を測定した。そして、測定値を標準ポリスチレン(直鎖)で校正して、スチレン系樹脂の数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw、Z平均分子量Mzをそれぞれ求めた。
【0164】
〔収縮因子、分岐度〕
発泡性樹脂粒子の作製に使用したスチレン系樹脂粒子について収縮因子、分岐度の測定を行った。スチレン系樹脂の回転半径(Rb)の二乗と直鎖状スチレン系樹脂の回転半径(Rl)の二乗の比を収縮因子gとして、分岐度Bm,w、分岐度Bm,1000を求めた。本解析ではスチレン系樹脂を3本鎖分岐と仮定して分岐度を求めた。直鎖ポリスチレンとしては、核粒子として使用した製造例で得られたスチレン系樹脂のデータを用いた。
【0165】
各実施例、比較例と同条件で、スチレン系樹脂の製造を開始し、追加含浸重合工程開始時、追加含浸重合工程開始から3時間目、追加含浸重合工程終了時のそれぞれの系において、反応器の温度を10分以内に30℃まで冷却し、重合中のスチレン系樹脂粒子を取り出した。次いで、スチレン系樹脂粒子をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させた。溶解物についてのガスクロマトグラフィー(GC)により、スチレン系樹脂粒子中の残存スチレンを定量して、追加含浸重合工程開始時、追加含浸重合工程開始時から3時間目、及び追加含浸重合工程終了時の核粒子中のスチレン系単量体の含有量を確認した。定量は、検量線で校正することにより行った。その結果、シミュレーションによる核粒子中のスチレン系単量体の含有量と、実測した核粒子中のスチレン系単量体の含有量とが一致していることを確認した。また、追加含浸重合工程開始時、追加含浸重合工程開始時から3時間目、及び追加含浸重合工程終了時の核粒子中のスチレン系単量体の含有量の算術平均値を求めた。
【0166】
ガスクロマトグラフィーの測定条件は次の通りである。
使用機器:島津製作所社製のガスクロマトグラフGC-2014s
カラム充填剤:
〔液相名〕DOP-B
〔液相含浸率〕30質量%
〔担体粒度〕60/80メッシュ
〔担体処理方法〕AW-DMCS(水洗、焼成、酸処理、シラン処理)
カラム材質:内径3mm、長さ4000mmのガラスカラム
キャリアガス:N
検出器:FID(水素炎イオン化検出器)
定量:内部標準法
【0167】
〔発泡性樹脂粒子中の物理発泡剤及び可塑剤含有量〕
発泡剤として使用したブタン、ペンタンの含有量、可塑剤として使用したシクロヘキサンの含有量をそれぞれ以下の方法により測定した。精秤した発泡性樹脂粒子1gをN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)25mlに溶解させて試料溶液を作製した。この試料溶液を用いてガスクロマトグラフィー(つまり、GC)による測定を行い、発泡性樹脂粒子中のブタン、ペンタン、シクロヘキサンの含有量をそれぞれ定量した。発泡性樹脂粒子中の、樹脂成分100質量部に対する発泡剤(具体的にはブタン、ペンタン)及び可塑剤(具体的にはシクロヘキサン)の含有量は、表1、表3に示す通りであった。
なお、ガスクロマトグラフィーの測定条件は次の通りである。
測定装置:株式会社島津製作所製ガスクロマトグラフGC-2014s
カラム材質:内径3mm、長さ4000mmのガラスカラム
カラム充填剤:
〔液相名〕DOP-B
〔液相含浸率〕30質量%
〔担体粒度〕60/80メッシュ
〔担体処理方法〕AW-DMCS(水洗、焼成、酸処理、シラン処理)
キャリアガス:N2
検出器:FID(水素炎イオン化検出器)
定量方法:内部標準法
【0168】
[発泡粒子の評価]
〔発泡粒子中の物理発泡剤及び可塑剤含有量〕
測定試料として発泡性樹脂粒子に替えて発泡粒子を用いたこと以外は上記発泡性樹脂粒子中の物理発泡剤及び可塑剤含有量と同様の方法により測定した。
発泡粒子中の発泡剤及び可塑剤の含有量は、スチレン系樹脂100質量部に対する量で表される。
【0169】
〔テトラヒドロフランの不溶分(THF不溶分)〕
発泡粒子から1gの試料を精秤して採取し、この試料にテトラヒドロフラン30mlを加え、温度23℃で24時間浸漬後、5時間振とうし、静置した。次いで上澄みをデカンテーションにより取り除き、再度テトラヒドロフラン10mlを加えて静置し、上澄みをデカンテーションにより取り除いた後、温度23℃で24時間乾燥させた。乾燥後の重量を求め、次式(9)によりTHF不溶分を求めた。
THF不溶分(%)=[乾燥後の不溶分重量/試料の重量]×100 ・・・(9)
【0170】
〔発泡粒子の独立気泡率c0
発泡粒子の独立気泡率は、ASTM-D2856-70に記載されている手順Cに基づき空気比較式比重計を用いて測定した。具体的には、まず、状態調節後の嵩体積約20cm3の発泡粒子を測定用サンプルとし、下記の通りエタノール没法により測定用サンプルの見掛けの体積Vaを正確に測定した。見掛けの体積測定後の測定用サンプルを十分に乾燥させた後、ASTM-D2856-70に記載されている手順Cに準じ、空気比較式比重計930(東芝・ベックマン株式会社製)により測定用サンプルの真の体積Vxを測定した。
【0171】
このようにして得られた測定用サンプルの見掛けの体積Va及び真の体積Vxを用い、下記式(10)に基づいて測定用サンプルの独立気泡率(単位:%)を計算した。以上の操作を5つの測定用サンプルのそれぞれについて行い、5つの測定用サンプルにおける独立気泡率の算術平均値を発泡粒子の独立気泡率とした。
独立気泡率=(Vx-W/ρ)×100/(Va-W/ρ) ・・・(10)
【0172】
なお、式(10)における記号の意味は以下の通りである。
Vx:上述の方法で測定される測定用サンプルの真の体積、即ち、発泡粒子を構成する樹脂の容積と、発泡粒子内の独立気泡部分の気泡全容積との和(単位:cm
Va:測定用サンプルを、エタノールの入ったメスシリンダーに沈めた際の水位上昇分から測定される測定用サンプルの見掛けの体積(単位:cm
W:測定用サンプルの質量(単位:g)
ρ:発泡粒子を構成する樹脂の密度(単位:g/cm
【0173】
〔発泡粒子の嵩密度〕
状態調節後の発泡粒子をメスシリンダー内に自然に堆積するようにして入れ、メスシリンダーの目盛から発泡粒子群の嵩体積(単位:L)を読み取った。なお、本例においては、メスシリンダー内の発泡粒子の嵩体積は1Lとした。その後、メスシリンダー内の発泡粒子群の質量(単位:g)を上述した嵩体積で除し、さらに単位換算することにより、発泡粒子の嵩密度(単位:kg/m)を算出した。
【0174】
〔嵩倍率〕
発泡粒子の嵩倍率(単位:倍)は、発泡粒子を構成するスチレン系樹脂の密度(具体的には、1000kg/m)を嵩密度で除することにより算出した。
【0175】
〔へたり率〕
へたり率は、発泡粒子の復元性の指標である。発泡粒子の嵩倍率が同程度である場合、へたり率がより小さい発泡粒子の方が復元性に優れていると判断される。へたり率は、以下のへたり試験により測定した。
具体的には、まず、所定容積の容器(例えば、直径78mmのもの)内に、所定位置(例えば体積330mLの位置)まで発泡粒子を充填した。このときの発泡粒子の充填体積をV(本例では、例えばV=330mL)した。容器上部に設置した治具を下降させ容器内の発泡粒子を10mm/分の速度で押し込み、容器内の発泡粒子に650Nの荷重が負荷された時点で治具による負荷を取り除き、容器内で圧縮された発泡粒子を復元させた。荷重の負荷と圧縮状態からの発泡粒子の復元を100回繰り返した(へたり試験)。
へたり試験後、容器内で発泡粒子を1日間静置した後、容器内を占める発泡粒子の体積V[単位:mL]を測定した。下記式(11)により、へたり率Rを算出した。
R=(V-V)/V ・・・(11)
【0176】
〔へたり試験後の独立気泡率c1
発泡粒子のへたり試験を実施し、その後、独立気泡率を測定した。へたり試験、独立気泡率の測定方法は、上述の通りである。また、へたり試験前の発泡粒子の独立気泡率c0に対する比[c1/c0]及びへたり試験前の発泡粒子の独立気泡率c0との差[c0-c1]を算出した。
【0177】
〔粒子径〕
発泡粒子の粒子径(具体的には、平均粒子径)は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値63%での粒径を意味する。具体的には、日機装株式会社の粒度分布測定装置「ミリトラック JPA」により平均粒子径を測定した。
【0178】
〔平均気泡径、変動係数〕
発泡粒子の気泡径の平均値及び気泡径の変動係数を次のようにして測定した。
まず、発泡粒子の中心部を通るように発泡粒子を約二分割し、一方の切断面がすべて写るように走査型電子顕微鏡にて写真を撮影した。次いで、得られた断面写真において、発泡粒子の切断面の略中心から発泡粒子表面まで伸びると共に、45°ずつ角度を変更しつつ切断面を8つに分割する線分(具体的には、発泡粒子の切断面の略中心から粒子表面まで伸びる8本の線分)を引き、これらの線分と交わる気泡の数を全てカウントした。各線分の合計長さを、カウントされた気泡数で除して得られた値を発泡粒子の気泡径とした。この操作を20個の発泡粒子について同様に行い、各発泡粒子の気泡径の算術平均値を発泡粒子の気泡径の平均値とした。発泡粒子の各気泡の気泡径の標準偏差を、発泡粒子の気泡径の平均値で除すことにより、気泡径の変動係数を求めた。なお、不偏分散の平方根により与えられる値を標準偏差とした。
【0179】
〔気泡膜厚み、変動係数〕
気泡膜厚みの平均値及び気泡膜厚みの変動係数を次のようにして測定した。
上記気泡径の平均値の測定において、発泡粒子の切断面写真上に引かれた8本の線分と交わる気泡膜を気泡膜厚みの測定対象とした。測定対象とした気泡膜の概ね中央位置の厚みをそれぞれ計測し、算術平均して得られた値を発泡粒子の気泡膜厚みとした。この操作を20個の発泡粒子について同様に行い、各発泡粒子の気泡膜厚みの算術平均値を発泡粒子の気泡膜厚みの平均値とした。発泡粒子の各気泡膜厚みの標準偏差を、発泡粒子の気泡膜厚みの平均値で除すことにより、気泡径の変動係数を求めた。なお、不偏分散の平方根により与えられる値を標準偏差とした。
【0180】
[発泡粒子成形体の評価]
〔成形体倍率〕
成形体倍率(単位:倍)は、発泡粒子を構成するスチレン系樹脂の密度(具体的には、1000kg/m)を発泡粒子成形体の密度(単位:kg/m)で除すことにより算出した。なお、発泡粒子成形体の密度は、成形体の質量(単位:kg)をその外形寸法に基づいて算出される成形体の体積(単位:m)で除すことにより算出した。
【0181】
〔成形体の融着率〕
成形体を長手方向に略等分となるように折り曲げて破断させた。これにより露出した破断面を目視観察し、発泡粒子同士の界面が剥離している発泡粒子の数と、内部で破断した発泡粒子の数とを数えた。そして、破断面に露出している発泡粒子の総数、つまり、発泡粒子同士の界面が剥離している発泡粒子の数と内部で破断した発泡粒子の数との合計に対する、発泡粒子の内部で破断した発泡粒子の数の割合を算出した。この割合を百分率(%)で表した値を融着率とした。
【0182】
〔成形体の独立気泡率C0
成形体の独立気泡率は、ASTM-D2856-70に記載されている手順Cに基づき空気比較式比重計を用いて測定した。具体的には、まず、成形体の中心部から縦2.5cm×横2.5cm×高さ2.5cmの測定用サンプルを切り出し、その幾何学的体積Va(単位:cm)を求めた。Vaは具体的には、測定用サンプルの縦寸法(単位:cm)と横寸法(単位:cm)と高さ寸法(単位:cm]との積である。次に、ASTM-D2856-70に記載されている手順Cに準じ、空気比較式比重計930(東芝・ベックマン株式会社製)により、測定用サンプルの真の体積Vxを測定した。
【0183】
このようにして得られた測定用サンプルの幾何学的体積Va及び真の体積Vxを用い、下記式(12)に基づいて測定用サンプルの独立気泡率(単位:%)を算出した。以上の操作を5つの測定用サンプルのそれぞれについて行い、5つの測定用サンプルにおける独立気泡率の算術平均値を成形体の独立気泡率とした。
独立気泡率=(Vx-W/ρ)×100/(Va-W/ρ) ・・・(12)
【0184】
なお、式(12)における記号の意味は以下の通りである。
Vx:上述の方法で測定される測定用サンプルの真の体積、即ち、成形体を構成する樹脂の容積と、成形体内の独立気泡部分の気泡全容積との和(単位:cm
Va:測定用サンプルの幾何学的体積(単位:cm
W:測定用サンプルの質量(単位:g)
ρ:成形体を構成する樹脂の密度(単位:g/cm
【0185】
〔50%変形圧縮応力〕
50%変形圧縮応力は、成形体の剛性の指標である。成形体倍率が同程度である場合、50%変形圧縮応力がより大きい成形体の方が剛性に優れていると判断される。また、成形条件が同様である場合、成形体の50%変形圧縮応力はもとの発泡粒子の剛性を反映するため、50%変形圧縮応力は、当該成形体を構成する発泡粒子の剛性の指標でもある。換言すれば、剛性に優れる発泡粒子とは、剛性に優れる成形体を成形可能な発泡粒子である。成形体の表面にあるスキン面、つまり、型内成形時に成形型の内表面と接触していた面を含まないようにして、成形体の中心部から縦50mm×横50mm×厚み25mmの直方体形状の試験片を切り出した。この試験片を使用し、JIS K6767:1999に基づき圧縮速度10mm/分にてひずみ量80%まで圧縮する圧縮試験を行い、応力-ひずみ曲線を得、50%ひずみ時の圧縮応力を50%変形圧縮応力として求めた。
【0186】
〔圧縮試験後の独立気泡率C1
上記50%変形圧縮応力測定における圧縮試験後の成形体の独立気泡率を測定した。具体的には、上記圧縮試験後の成形体を23℃にて24時間静置し、独立気泡率を測定した。なお、独立気泡率の測定方法は、上述の通りである。また、圧縮試験前の成形体の独立気泡率C0に対する比[C1/C0]及び圧縮試験前の成形体の独立気泡率C0との差[C0-C1]を算出した。
【0187】
〔圧縮永久ひずみ〕
圧縮永久ひずみは、成形体の復元性の指標である。成形体倍率が同程度である場合、圧縮永久ひずみがより小さい成形体の方が復元性に優れていると判断される。成形体の表面にあるスキン面、つまり、型内成形時に成形型の内表面と接触していた面を含まないようにして、成形体の中心部から縦50mm×横50mm×厚み25mmの直方体形状の試験片を切り出した。この試験片を使用し、JIS K 6767:1999に準じて圧縮永久ひずみの測定を行った。圧縮速度は、10mm/分、ひずみ量は25%である。
【0188】
【表1】
【0189】
【表2】
【0190】
【表3】
【0191】
【表4】
【0192】
表1及び表2より理解されるように、実施例の発泡粒子は、30倍以上150倍以下という高い嵩倍率でありながら、へたり率が低く復元性が高い。また、実施例の発泡粒子を型内成形してなる成形体は、高倍率でありながら、圧縮永久ひずみが小さく復元性が高いとともに、圧縮応力が高く剛性にも優れている。このような効果は、実施例の発泡粒子が所定のスチレン系樹脂から構成されていることに加え、圧縮後でも独立気泡率が高く維持されていること、気泡が均一に形成されていること、スチレン系樹脂から構成される気泡膜が十分な厚みを有すると共にその厚みが均一であることにより、より一層発揮されると考えられる。なお、実施例の発泡粒子1の気泡11の径の均一性及び気泡膜12の厚みの均一性は、図1図3からも理解される。また、実施例の成形体は、成形体倍率が高い場合であっても高い融着率を有していた。これは、発泡粒子は、嵩倍率が高い場合であっても独立気泡率が高いことや、気泡膜の厚みが均一であることから、成形時に気泡が破泡することが抑制されやすいためであると考えられる。
【0193】
このような実施例の発泡粒子は、重量平均分子量Mw’100万以上500万以下、数平均分子量Mn’に対するZ平均分子量Mz’の比Mz’/Mn’5以上、スチレン1000単位あたりの分岐度0.2以上のスチレン系樹脂から構成されることにより得ることができる。また、実施例の発泡粒子が相互に融着した発泡粒子成形体は、上記発泡粒子を型内成形することにより得ることできる。
【0194】
また、例えば実施例1と実施例3との対比により、特に数平均分子量Mn’に対するZ平均分子量Mz’の比Mz’/Mn’7以上であるスチレン系樹脂から構成される発泡粒子及びその成形体は、復元性及び剛性により優れていることがわかる。また、たとえば実施例1と実施例7との対比により、同様のスチレン系樹脂を基材樹脂とする場合であっても、発泡性樹脂粒子を発泡させる条件によっては得られる発泡粒子の気泡径及び気泡膜厚みの均一性が異なることがあり、これらの均一性がより高い発泡粒子及びその成形体は、復元性及び剛性により優れていることがわかる。
【0195】
一方、表3及び4より理解されるように、比較例1及び2では、発泡粒子が分岐度0の分岐構造を有さない直鎖状のスチレン系樹脂から構成されており、さらにスチレン系樹脂の重量平均分子量Mw’も低い。そのため、同程度の嵩倍率の実施例と比較して、へたり率が高く、復元性が不十分である。また、その発泡粒子を型内成形してなる成形体は、同程度の倍率の実施例の成形体と比較して、圧縮永久ひずみが大きく復元性が不十分であるとともに、圧縮応力が低く剛性も不十分である。また、比較例1及び2の発泡粒子は、気泡径の変動係数が大きく気泡の均一性が低く、また、気泡膜厚みの変動係数が大きく気泡膜厚みの均一性が低かった。なお、比較例1の発泡粒子9の気泡91の径の均一性及び気泡膜92の厚みの均一性が低いことは、図4図6からも理解され、気泡膜92には周囲よりも厚みが小さい薄肉部925が形成されていた。図示を省略するが、比較例2の発泡粒子にも薄肉部が形成されていた。ただし、比較例1の発泡粒子は嵩倍率がより高いため、比較例2と比べて薄肉部がより多く形成されており、気泡膜厚みの変動係数がより高い値となっていた。
【0196】
比較例3及び4では、発泡粒子の嵩倍率が不十分である。比較例3では、発泡性樹脂粒子の発泡剤の含有量が少なすぎたため発泡性樹脂粒子を十分に発泡させることができなかったためであると考えられる。また、比較例4では、発泡性樹脂粒子の発泡剤の含有量が多すぎたため発泡直後に発泡粒子が著しく収縮してしまったためであると考えられる。比較例3及び4では、上記のように所望の倍率まで発泡させることができず、嵩倍率が不十分であったため、その他の評価を省略した。
【0197】
比較例5及び6の発泡粒子は、分岐構造を有するもののMw’及びMz’/Mn’が小さいスチレン系樹脂から構成されている。そのため、同程度の嵩倍率の実施例と比較して、へたり率が高く、復元性がやや不十分である。また、その発泡粒子を型内成形してなる成形体は、同程度の倍率の実施例の成形体と比較して、圧縮永久ひずみが大きく復元性がやや不十分であるとともに、圧縮応力が低く剛性もやや不十分である。また、比較例5及び6の発泡粒子は、気泡径の変動係数が大きく気泡の均一性が低く、また、気泡膜厚みの変動係数が大きく気泡膜厚みの均一性が低かった。
【0198】
実施例の発泡粒子は、軽量でありながら、復元性及び剛性に優れるため、発泡粒子成形体として重量物等の梱包容器や緩衝材に用いることができるほか、発泡粒子自体の特性をいかして、ビーズクッション材の詰め物にも好適である。詰め物の用途としては、例えば多数の発泡粒子を袋体に充填したものが使用される。
【0199】
以上、本発明に係るスチレン系樹脂発泡粒子、発泡粒子成形体、ビーズクッション材の詰め物の態様を実施例に基づいて説明したが、本発明の具体的な態様は実施例の態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。
【符号の説明】
【0200】
1 スチレン系樹脂発泡粒子
11 気泡
12 気泡膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8