(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143078
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】複列スラスト玉軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 19/10 20060101AFI20241003BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
F16C19/10
F16C33/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055570
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】早坂 幸治
(72)【発明者】
【氏名】赤山 徳一朗
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA53
3J701AA62
3J701BA53
3J701BA54
3J701BA55
3J701BA63
3J701DA09
3J701EA01
3J701EA31
3J701FA38
3J701GA11
(57)【要約】
【課題】アキシアル荷重が変動する場合においてアキシアル荷重が低いときに一対の軌道盤の間に生じる転がりトルクを低くすることができる複列スラスト玉軸受を提供する。
【解決手段】複列スラスト玉軸受1は、第1軌道溝2a及び第2軌道溝2bを有する第1軌道盤2と、第3軌道溝3a及び第4軌道溝3bを有する第2軌道盤3と、第1軌道溝2aと第3軌道溝3aとの間に配置された複数の第1玉4と、第2軌道溝2bと第4軌道溝3bとの間に配置された複数の第2玉5と、を備える。軸方向における第2軌道溝2bと第4軌道溝3bとの間の距離と各第2玉5の直径との差は、軸方向における第1軌道溝2aと第3軌道溝3aとの間の距離と各第1玉4の直径との差よりも大きい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向から見た場合に同心円状に配置された第1軌道溝及び第2軌道溝を有する第1軌道盤と、
前記軸方向において前記第1軌道溝と向かい合っている第3軌道溝、及び前記軸方向において前記第2軌道溝と向かい合っている第4軌道溝を有する第2軌道盤と、
前記第1軌道溝と前記第3軌道溝との間に配置された複数の第1玉と、
前記第2軌道溝と前記第4軌道溝との間に配置された複数の第2玉と、を備え、
前記軸方向における前記第2軌道溝と前記第4軌道溝との間の距離と前記複数の第2玉のそれぞれの直径との差は、前記軸方向における前記第1軌道溝と前記第3軌道溝との間の距離と前記複数の第1玉のそれぞれの直径との差よりも大きい、複列スラスト玉軸受。
【請求項2】
前記複数の第2玉のそれぞれの前記直径は、前記複数の第1玉のそれぞれの前記直径よりも小さい、請求項1に記載の複列スラスト玉軸受。
【請求項3】
前記軸方向における前記第2軌道溝と前記第4軌道溝との間の前記距離は、前記軸方向における前記第1軌道溝と前記第3軌道溝との間の前記距離よりも大きい、請求項1に記載の複列スラスト玉軸受。
【請求項4】
前記第2軌道溝及び前記第4軌道溝は、径方向において前記第1軌道溝及び前記第3軌道溝よりも外側に位置している、請求項1~3のいずれか一項に記載の複列スラスト玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複列スラスト玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
軸方向から見た場合に同心円状に配列された複列の軌道路を構成する一対の軌道盤と、複列の軌道路のそれぞれに配置された複数の玉と、一対の軌道盤の間において複数の玉を保持する保持器と、を備える複列スラスト玉軸受が知られている(例えば、特許文献1参照)。複列スラスト玉軸受は、スラスト円筒ころ軸受に比べ、相手部品の間(例えば、軸とハウジングとの間)に生じる偏心や傾斜を許容しやすいという利点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、複列スラスト玉軸受に作用するアキシアル荷重は、用途(例えば、遊星歯車の端面の支持等)によっては変動する場合がある。そのような場合においてアキシアル荷重が低いときには、一対の軌道盤の間に生じる転がりトルクも低いことが好ましい。
【0005】
そこで、本発明は、アキシアル荷重が変動する場合においてアキシアル荷重が低いときに一対の軌道盤の間に生じる転がりトルクを低くすることができる複列スラスト玉軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の複列スラスト玉軸受は、[1]「軸方向から見た場合に同心円状に配置された第1軌道溝及び第2軌道溝を有する第1軌道盤と、前記軸方向において前記第1軌道溝と向かい合っている第3軌道溝、及び前記軸方向において前記第2軌道溝と向かい合っている第4軌道溝を有する第2軌道盤と、前記第1軌道溝と前記第3軌道溝との間に配置された複数の第1玉と、前記第2軌道溝と前記第4軌道溝との間に配置された複数の第2玉と、を備え、前記軸方向における前記第2軌道溝と前記第4軌道溝との間の距離と前記複数の第2玉のそれぞれの直径との差は、前記軸方向における前記第1軌道溝と前記第3軌道溝との間の距離と前記複数の第1玉のそれぞれの直径との差よりも大きい、複列スラスト玉軸受」である。
【0007】
上記[1]に記載の複列スラスト玉軸受では、軸方向における第2軌道溝と第4軌道溝との間の距離と複数の第2玉のそれぞれの直径との差が、軸方向における第1軌道溝と第3軌道溝との間の距離と複数の第1玉のそれぞれの直径との差よりも大きい、これにより、アキシアル荷重が低い場合には、複数の第1玉のみに転動体荷重を発生させ、アキシアル荷重が高い場合には、複数の第1玉及び複数の第2玉に転動体荷重を発生させることができる。よって、上記[1]に記載の複列スラスト玉軸受によれば、アキシアル荷重が変動する場合においてアキシアル荷重が低いときに一対の軌道盤の間に生じる転がりトルクを低くすることができる。
【0008】
本発明の複列スラスト玉軸受は、[2]「前記複数の第2玉のそれぞれの前記直径は、前記複数の第1玉のそれぞれの前記直径よりも小さい、上記[1]に記載の複列スラスト玉軸受」であってもよい。当該[2]に記載の複列スラスト玉軸受によれば、アキシアル荷重が低い場合には、複数の第1玉のみに転動体荷重を発生させ、アキシアル荷重が高い場合には、複数の第1玉及び複数の第2玉に転動体荷重を発生させ得る構成を確実に実現することができる。
【0009】
本発明の複列スラスト玉軸受は、[3]「前記軸方向における前記第2軌道溝と前記第4軌道溝との間の前記距離は、前記軸方向における前記第1軌道溝と前記第3軌道溝との間の前記距離よりも大きい、上記[1]に記載の複列スラスト玉軸受」であってもよい。当該[3]に記載の複列スラスト玉軸受によれば、アキシアル荷重が低い場合には、複数の第1玉のみに転動体荷重を発生させ、アキシアル荷重が高い場合には、複数の第1玉及び複数の第2玉に転動体荷重を発生させ得る構成を確実に実現することができる。
【0010】
本発明の複列スラスト玉軸受は、[4]「前記第2軌道溝及び前記第4軌道溝は、径方向において前記第1軌道溝及び前記第3軌道溝よりも外側に位置している、上記[1]~[3]のいずれか一つに記載の複列スラスト玉軸受」であってもよい。当該[4]に記載の複列スラスト玉軸受によれば、アキシアル荷重が低い場合に転動体荷重が発生する複数の第1玉が、径方向において複数の第2玉よりも内側に位置することになるため、アキシアル荷重が低い場合に一対の軌道盤の間に生じる転がりトルクをより低くすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アキシアル荷重が変動する場合においてアキシアル荷重が低いときに一対の軌道盤の間に生じる転がりトルクを低くすることができる複列スラスト玉軸受を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施形態の複列スラスト玉軸受の分解斜視図である。
【
図2】
図1に示される複列スラスト玉軸受の断面図である。
【
図3】
図1に示される複列スラスト玉軸受の一部分の模式図である。
【
図4】
図1に示される複列スラスト玉軸受の一部分の模式図である。
【
図5】変形例の複列スラスト玉軸受の一部分の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
図1及び
図2に示されるように、複列スラスト玉軸受1は、第1軌道盤2と、第2軌道盤3と、複数の第1玉4と、複数の第2玉5と、保持器6と、を備えている。以下の説明において、軸方向とは、複列スラスト玉軸受1の中心線に平行な方向であり、径方向とは、複列スラスト玉軸受1の中心線に垂直な方向であり、周方向とは、複列スラスト玉軸受1の中心線に平行な方向から見た場合に複列スラスト玉軸受1の中心線を中心とする円周に沿った方向である。
【0015】
第1軌道盤2は、軸200に取り付けられる軸軌道盤である。第1軌道盤2は、本体部21及び側部22を含んでいる。本体部21は、軸方向を厚さ方向とする円環状の部分である。側部22は、径方向を厚さ方向とする筒状の部分である。側部22は、径方向における本体部21の内縁から軸方向における一方の側(
図2では右側)に延在している。第1軌道盤2は、第1軌道溝2a及び第2軌道溝2bを有している。第1軌道溝2a及び第2軌道溝2bは、軸方向における本体部21の一方の側の表面に形成されている。第1軌道溝2a及び第2軌道溝2bは、軸方向から見た場合に同心円状に配置されている。第2軌道溝2bは、径方向において第1軌道溝2aよりも外側に位置している。第1軌道盤2は、例えば、金属板のプレス加工によって形成されたプレスレースである。
【0016】
第2軌道盤3は、ハウジング300に取り付けられるハウジング軌道盤である。第2軌道盤3は、本体部31及び側部32を含んでいる。本体部31は、軸方向を厚さ方向とする円環状の部分である。側部32は、径方向を厚さ方向とする筒状の部分である。側部32は、径方向における本体部31の外縁から軸方向における他方の側(
図2では左側)に延在している。第2軌道盤3は、第3軌道溝3a及び第4軌道溝3bを有している。第3軌道溝3a及び第4軌道溝3bは、軸方向における本体部31の他方の側の表面に形成されている。第3軌道溝3a及び第4軌道溝3bは、軸方向から見た場合に同心円状に配置されている。第4軌道溝3bは、径方向において第3軌道溝3aよりも外側に位置している。第2軌道盤3は、例えば、金属板のプレス加工によって形成されたプレスレースである。
【0017】
第2軌道盤3の本体部31は、軸方向において第1軌道盤2の本体部21と向かい合っている。第2軌道盤3の側部32は、軸方向において第1軌道盤2の側部22と向かい合っている。第2軌道盤3の第3軌道溝3aは、軸方向において第1軌道盤2の第1軌道溝2aと向かい合っている。第2軌道盤3の第4軌道溝3bは、軸方向において第1軌道盤2の第2軌道溝2bと向かい合っている。
【0018】
複数の第1玉4は、第1軌道溝2aと第3軌道溝3aとの間に配置されている。複数の第2玉5は、第2軌道溝2bと第4軌道溝3bとの間に配置されている。保持器6は、複数の第1玉4及び複数の第2玉5を保持している。保持器6は、複数のポケット6a及び複数のポケット6bを有している。複数のポケット6aは、第1軌道溝2aと第3軌道溝3aとの間において周方向に並んでいる。各ポケット6aには、各第1玉4が配置されている。複数のポケット6bは、第2軌道溝2bと第4軌道溝3bとの間において周方向に並んでいる。各ポケット6bには、各第2玉5が配置されている。複数のポケット6bの配列ピッチは、複数のポケット6aの配列ピッチに対して周方向に半ピッチ分ずれている。保持器6は、例えば、樹脂の一体成型品である。
【0019】
図3に示されるように、軸方向における第2軌道溝2bと第4軌道溝3bとの間の距離D2は、軸方向における第1軌道溝2aと第3軌道溝3aとの間の距離D1に実質的に等しく、各第2玉5の直径A2は、各第1玉4の直径A1よりも小さい。したがって、軸方向における第2軌道溝2bと第4軌道溝3bとの間の距離D2と各第2玉5の直径A2との差は、軸方向における第1軌道溝2aと第3軌道溝3aとの間の距離D1と各第1玉4の直径A1との差(本実施形態では「0」)よりも大きい。これにより、各第1玉4が第1軌道溝2a及び第3軌道溝3aのそれぞれの内面(軌道面)に接触した状態で、各第2玉5は、第2軌道溝2b及び第4軌道溝3bのそれぞれの内面(軌道面)から離間し得る。
【0020】
以上のように構成された複列スラスト玉軸受1では、
図4の(a)に示されるように、所定のアキシアル荷重よりも低い第1アキシアル荷重が作用した場合には、複数の第1玉4に転動体荷重が発生し、複数の第2玉5に転動体荷重が発生しない。
図4の(b)に示されるように、所定のアキシアル荷重よりも高い第2アキシアル荷重が作用した場合には、複数の第1玉4及び複数の第2玉5に転動体荷重が発生する。本実施形態では、所定のアキシアル荷重は、無負荷の状態からアキシアル荷重を増加させた場合に、軸方向における第2軌道溝2bと第4軌道溝3bとの間の距離D2と各第2玉5の直径A2との差が0になったときのアキシアル荷重である。
【0021】
以上説明したように、複列スラスト玉軸受1では、軸方向における第2軌道溝2bと第4軌道溝3bとの間の距離D2と各第2玉5の直径A2との差が、軸方向における第1軌道溝2aと第3軌道溝3aとの間の距離D1と各第1玉4の直径A1との差よりも大きい。これにより、アキシアル荷重が低い場合には、複数の第1玉4のみに転動体荷重を発生させ、アキシアル荷重が高い場合には、複数の第1玉4及び複数の第2玉5に転動体荷重を発生させることができる。よって、複列スラスト玉軸受1によれば、アキシアル荷重が変動する場合においてアキシアル荷重が低いときに第1軌道盤2及び第2軌道盤3の間に生じる転がりトルクを低くすることができる。
【0022】
複列スラスト玉軸受1では、各第2玉5の直径A2が、各第1玉4の直径A1よりも小さい。これにより、アキシアル荷重が低い場合には、複数の第1玉4のみに転動体荷重を発生させ、アキシアル荷重が高い場合には、複数の第1玉4及び複数の第2玉5に転動体荷重を発生させ得る構成を確実に実現することができる。
【0023】
複列スラスト玉軸受1では、第2軌道溝2b及び第4軌道溝3bが、径方向において第1軌道溝2a及び第3軌道溝3aよりも外側に位置している。これにより、アキシアル荷重が低い場合に転動体荷重が発生する複数の第1玉4が、径方向において複数の第2玉5よりも内側に位置することになる。そのため、玉との軌道盤との間で摩擦力が発生する場所が軸受中心に近い位置になるので、アキシアル荷重が低い場合に第1軌道盤2及び第2軌道盤3の間に生じる転がりトルクをより低くすることができる。
【0024】
本発明は、上記実施形態に限定されない。例えば、複列スラスト玉軸受1では、
図5の(a)及び(b)に示されるように、各第2玉5の直径A2が、各第1玉4の直径A1に実質的に等しく、軸方向における第2軌道溝2bと第4軌道溝3bとの間の距離D2が、軸方向における第1軌道溝2aと第3軌道溝3aとの間の距離D1よりも大きくてもよい。この場合にも、アキシアル荷重が低い場合には、複数の第1玉4のみに転動体荷重を発生させ、アキシアル荷重が高い場合には、複数の第1玉4及び複数の第2玉5に転動体荷重を発生させ得る構成を確実に実現することができる。なお、
図5の(a)に示される例では、第2軌道溝2b及び第4軌道溝3bのそれぞれの深さが、第1軌道溝2a及び第3軌道溝3aのそれぞれの深さよりも大きくされている。
図5の(b)に示される例では、第1軌道盤2及び第2軌道盤3が、第1軌道溝2a及び第3軌道溝3a側よりも第2軌道溝2b及び第4軌道溝3b側において離れるように、テーパ状とされている。
【0025】
複列スラスト玉軸受1では、第2軌道溝2b及び第4軌道溝3bが、径方向において第1軌道溝2a及び第3軌道溝3aよりも内側に位置していてもよい。複列スラスト玉軸受1では、第1軌道盤2及び第2軌道盤3のそれぞれが三列以上の軌道溝を有していてもよい。複列スラスト玉軸受1では、第1軌道盤2が、軸200以外の相手部品に取り付けられるものであってもよく、第2軌道盤3が、ハウジング300以外の相手部品に取り付けられるものであってもよい。
【符号の説明】
【0026】
1…複列スラスト玉軸受、2…第1軌道盤、2a…第1軌道溝、2b…第2軌道溝、3…第2軌道盤、3a…第3軌道溝、3b…第4軌道溝、4…第1玉、5…第2玉。