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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143079
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】眼鏡用レンズ
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/10 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
G02C7/10
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055572
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】506159699
【氏名又は名称】株式会社ジンズホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】二見 賢吾
【テーマコード(参考)】
2H006
【Fターム(参考)】
2H006BA01
2H006BA04
2H006BE05
(57)【要約】
【課題】裸眼で自然光を浴びるときに近い状態にしたい、かつ、UVB領域の波長をカットしたいという相反するニーズに対し、適切に対応する眼鏡用のレンズを提供する。
【解決手段】眼鏡用レンズは、基材層とコート膜層とを備え、基材層とコート膜層とのトータルのUVA平均透過率が基材層のUVA平均透過率よりも高く、基材層とコート膜層とのトータルのUVB平均透過率が基材層のUVB平均透過率よりも低い。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層とコート膜層とを備え、
前記基材層と前記コート膜層とのトータルのUVA平均透過率が前記基材層のUVA平均透過率よりも高く、
前記基材層と前記コート膜層とのトータルのUVB平均透過率が前記基材層のUVB平均透過率よりも低い、眼鏡用レンズ。
【請求項2】
前記コート膜層は、UVA領域および可視光領域の波長の反射を防止する反射防止膜層を含む、請求項1に記載の眼鏡用レンズ。
【請求項3】
前記基材層は、ラジカル捕捉剤及び/又は紫外線吸収剤を含む、請求項1に記載の眼鏡用レンズ。
【請求項4】
前記基材層は、ラジカル捕捉剤及び/又は紫外線吸収剤を含み、
前記コート膜層は、UVA領域および可視光領域の波長の反射を防止する反射防止膜層を含む、請求項1に記載の眼鏡用レンズ。
【請求項5】
前記眼鏡用レンズの視感透過率に対する太陽紫外線B領域の透過率τSUVBが5%以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載の眼鏡用レンズ。
【請求項6】
前記基材層と前記コート膜層とのトータルのUVB平均反射率が前記基材層のUVB平均反射率よりも高い、請求項1から4のいずれか一項に記載の眼鏡用レンズ。
【請求項7】
前記コート膜層は、280nm以上315nm未満の波長領域において、波長が短くなるにつれて反射率が上昇する特性を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の眼鏡用レンズ。
【請求項8】
前記基材層と前記コート膜層とのトータルのUVA平均透過率とUVB平均透過率との差が、前記基材層のみのUVA平均透過率とUVB平均透過率との差、又は前記基材層と可視光領域における特定の波長の反射を防止する反射防止膜層とのトータルのUVA平均透過率とUVB平均透過率との差よりも大きい、請求項1から4のいずれか一項に記載の眼鏡用レンズ。
【請求項9】
基材層とコート膜層とを備え、
前記基材層と前記コート膜層とのトータルのUVA平均透過率が前記基材層のUVA平均透過率と略同一か又はそれ以上であり、
前記基材層と前記コート膜層とのトータルのUVB平均透過率が前記基材層のUVB平均透過率と略同一か又はそれ以下であり、
前記基材層と前記コート膜層とのトータルのUVA平均透過率とUVB平均透過率との差が、前記基材層のみのUVA平均透過率とUVB平均透過率との差、又は前記基材層と可視光領域における特定の波長の反射を防止する反射防止膜層とのトータルのUVA平均透過率とUVB平均透過率との差よりも大きい、眼鏡用レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡用レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
既存の眼鏡用レンズでは、紫外線をカットする材料(例えば特許文献1参照)が使用され、紫外線を透過させないレンズがほとんどである(例えば特許文献2参照)。他方、特に小児にとって太陽光は、心身の発育に好影響を与えるものであり、十分な太陽光を浴びない場合、小児の近視進行のリスクが高まるという指摘もある(例えば非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-209120号公報
【特許文献2】国際公開第2019/188447号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】日本眼科学会,他5会,“小児のブルーライトカット眼鏡装用に対する慎重意見,” 令和3年4月14日,[令和4年1月27日検索],インターネット<https://www.gankaikai.or.jp/info/20210414_bluelight.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、眼鏡を装着するユーザにとって、紫外線を含む自然光が眼に届くようにするためには、眼鏡を外さなければならず、眼鏡による視力矯正等の眼鏡の効果が得られない。
【0006】
上記問題点を解決するために、紫外線を透過するような化合物を用いて眼鏡用レンズの基材を形成することが考えられるが、眼鏡用レンズとしての耐性要件等を満たすために、コート膜が基材にコーティングされることが一般的である。このような一般的な構成の眼鏡用レンズにおいて、自然光がなるべく眼に届くようにするために、基材とコート膜とのトータルな特性を考慮して、これまでカットしていた紫外線を透過するようにすることが新たに求められている。
【0007】
また、紫外線には、長波長のUVAと短波長のUVBとの2種類の紫外線が含まれる。このUVBに関し、JIS規格には、屈折補正用眼鏡レンズについて、太陽紫外線B領域における透過率の最大値が視感透過率の5%以下となることが規定されている(T 7333:2018 (ISO 8980-3:2013))。よって、JIS規格を満たしたり、又はJIS規格に近づけたりする眼鏡用レンズを構成するために、UVB領域に着目してUVB領域の波長をカットすることも求められる。
【0008】
そこで、本発明は、裸眼で自然光を浴びるときに近い状態にしたい、かつ、UVB領域の波長をカットしたいという相反するニーズに対し、適切に対応する眼鏡用レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様における眼鏡用レンズは、基材層とコート膜層とを備え、前記基材層と前記コート膜層とのトータルのUVA平均透過率が前記基材層のUVA平均透過率よりも高く、前記基材層と前記コート膜層とのトータルのUVB平均透過率が前記基材層のUVB平均透過率よりも低い。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、長波長のUVAの紫外線をなるべく透過し、短波長のUVBの紫外線をなるべく透過しない眼鏡用レンズを提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】従来技術に係る各眼鏡用レンズの光線透過率を示す図である。
図2】基材用樹脂1をベースとする各基材層と各ARコートとのトータルの透過率の一例を示す図である。
図3】試験片11~16の反射率の一例を示す図である。
図4】基材用樹脂2をベースとする各基材層と各ARコートとのトータルの透過率の一例を示す図である。
図5】試験片21~29の反射率の一例を示す図である。
図6】基材用樹脂3をベースとする紫外線吸収剤(LA-46)及び/又はラジカル捕捉剤(LA-52)を添加した各基材層の透過率の一例を示す図である。
図7図6に示す各基材層にUVA可視光ARコートを形成した場合の透過率の一例を示す図である。
図8】各ARコートを形成した試験片31の透過率の比較例を示す図である。
図9】各ARコートを形成した試験片31の反射率の比較例を示す図である。
図10】各ARコートが形成された試験片32及び試験片35の反射率の比較例を示す図である。
図11】UVA可視光ARコートが形成された各試験片の反射率の比較例を示す図である。
図12A】各基材用樹脂の各波長域での透過率を比較する表を示す図である。
図12B】各基材用樹脂の各波長域での透過率を比較する表を示す図である。
図12C】各基材用樹脂の各波長域での透過率を比較する表を示す図である。
図12D】各基材用樹脂の各波長域での透過率を比較する表を示す図である。
図13A】各基材用樹脂の各波長域での太陽紫外線透過率を比較する表を示す図である。
図13B】各基材用樹脂の各波長域での太陽紫外線透過率を比較する表を示す図である。
図13C】各基材用樹脂の各波長域での太陽紫外線透過率を比較する表を示す図である。
図13D】各基材用樹脂の各波長域での太陽紫外線透過率を比較する表を示す図である。
図14A】各試験片の視感透過率を比較する表を示す図である。
図14B】各試験片の視感透過率を比較する表を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。ただし、以下に説明する実施形態は、あくまでも例示であり、以下に明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。即ち、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、以下の図面の記載において、同一または類似の部分には同一または類似の符号を付して表している。図面は模式的なものであり、必ずしも実際の寸法や比率等とは一致しない。図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることがある。
【0013】
[実施形態]
<既存の眼鏡用レンズ>
図1は、従来技術に係る各眼鏡用レンズ(従来技術に係る眼鏡用レンズを総称して「既存レンズ」とも表現する)の光線透過率を示す図である。図1に示す例では、次の4つのレンズを用いて光線透過率を計測している。
レンズA:PPG社(PPG Industries, Inc.)製のCR-39(登録商標)(アリルジグリコールカーボネート)を基材とするレンズ(屈折率1.50)
レンズB:チオウレタン系のレンズ(屈折率1.60)
レンズC:チオウレタン系のレンズ(屈折率1.67)
レンズD:チオウレタン系のレンズ(屈折率1.74)
【0014】
レンズA~Dは、いずれもハードコート及び反射防止コートが基材の両面に形成されている。また、図1に示すように、レンズA~Dのいずれも380nmより短い波長についてはカットされている。これにより、レンズA~Dのいずれも、基材に紫外線吸収剤が含まれること、ハードコードに紫外線吸収剤が含まれること、及び、反射防止コートに紫外線吸収剤が含まれることのうち、少なくとも1つの対応がレンズになされていることが分かる。
【0015】
したがって、視力矯正用に限らず多くの既存のレンズでは、レンズメーカーや材料の違いで、レンズによる吸収波長は少し異なるが、いずれのレンズも380nmより短い波長はカットしてしまっていた。
【0016】
そこで、発明者らは、近年明らかになった紫外線による眼の効果等に鑑みて、眼鏡用のレンズで紫外線を透過しようという発想に至った。しかしながら、図1に記載のとおり、既存の眼鏡用レンズでは、紫外線をカットするものがほとんどであり、発明者らが所望するレンズは存在しない。
【0017】
<開示技術の眼鏡用レンズにおける基材>
まず、本願発明の実施形態に係る眼鏡用レンズおける基材について説明する。実施形態に係る眼鏡用レンズでは、紫外線を吸収するような材料が主材料となっている基材を用いない。例えば、紫外線を吸収する材料として芳香族化合物や共役構造をもった脂肪族化合物等が知られているため、これらの化合物を主材料とした基材は、実施形態では眼鏡用レンズとして使用されなくてもよい。
【0018】
実施形態に係る眼鏡用レンズでは、例えば、所定%以上の紫外線を吸収する化合物以外の第1化合物を主材料とする基材層を備える。所定%以上の紫外線を吸収する材料は、一例として上述した芳香族化合物を含む。また、基材層は、実施形態に係る目的等を妨げない範囲で芳香族化合物を含んでもよい。
【0019】
これにより、所定%以上の紫外線を吸収する化合物以外の第1化合物を用いて基材層を構成するため、少なくとも眼鏡用レンズの基材層により紫外線の透過が大きく妨げられることを防止することができる。よって、紫外線が眼鏡用レンズを透過し、紫外線を含む自然光に近い光が眼に届くようになる。
【0020】
なお、実施形態において、紫外線とは、例えば280~400nmの波長領域にある波長とする。このうち、320~400nmをUVA(第1波長領域)といい、280~320nmをUVB(第2波長領域)という。UVAとUVBの境界は315nmとし、UVAの上限は380nmとしてもよい。実施形態における眼鏡用レンズでは、UVA領域の波長を透過しつつ、UVB領域の波長をカットするようにレンズが構成される。
【0021】
基材層の形成に使用される第1化合物としては、例えば、芳香族化合物以外の化合物であり、脂肪族ポリカーボネート、脂肪族オレフィンポリマー、脂肪族アクリル樹脂、及び脂肪族ナイロン樹脂の少なくとも1つを含んでもよい。
【0022】
脂肪族ポリカーボネートにより形成される基材は、例えば、市販されているPPG社製のCR-39(登録商標)、及び三菱ケミカル社製のDURABIO(登録商標)等の少なくとも1つを含む。CR-39(登録商標)は、芳香環のない直鎖脂肪族ポリカーボネートであるため、紫外線の吸収機能は小さい。また、DURABIO(登録商標)は、バイオマテリアルであるイソソルバイドを用いた、部分的バイオマテリアルのポリカーボネートである。この化合物は、イソソルバイドと共重合させるジオールも脂環性であり、芳香環を持たないため、紫外線の吸収機能は小さいと考えられる。
【0023】
脂肪族オレフィンポリマーは、例えば、シクロオレフィンポリマー(脂環式オレフィンポリマー)、及び環状構造を持たない脂肪族オレフィンポリマー等の少なくとも1つを含む。シクロオレフィンポリマーを用いて形成される基材は、例えば、市販されている三井化学社製のAPEL(登録商標)(屈折率1.544、アッベ数56)、日本ゼオン社製のZEONEX(登録商標)(屈折率1.509~1.535)、JSR社製のARTON(登録商標)(屈折率1.513~1.516、アッベ数56又は57)のいずかを含んでもよい。
【0024】
環状構造を持たない脂肪族オレフィンポリマーにより形成される基材は、例えば、市販されている三井化学社製のTPX(登録商標)(化合物名はポリメチルテンペン)(屈折率1.46)を含んでもよい。
【0025】
脂肪族アクリル樹脂により形成される基材は、一例として、日本特殊光学樹脂社製の「紫外線透過PMMAレンズ」(屈折率約1.49、アッベ数55)などが採用可能である。PMMAは、ポリメタクリル酸メチルの略称である。紫外線透過PMMAは、紫外線を透過するアクリル樹脂である。
【0026】
<コーティング>
眼鏡用レンズは、基材層の少なくとも一面に、ハードコート膜層(「ハードコート」、「ハードコート膜」、又は「ハードコート層」と表記してもよい。)が形成されてもよい。実施形態における眼鏡用レンズは、基材層の少なくとも一面にコーティングされる、紫外線吸収剤を含まない材料により形成されるハードコート膜層を備えてもよい。ハードコート膜層は、例えば、基材層の表面にハードコート液を均一に施すことで形成され、芳香族化合物を含まない樹脂が用いられるとよい。
【0027】
例えば、眼鏡用レンズは、ハードコート膜層として、好ましくは無機酸化物微粒子を含むオルガノシロキサン系樹脂を用いてもよい。オルガノシロキサン系樹脂は、アルコキシシランを加水分解し縮合させることで得られるものが好ましい。又、オルガノシロキサン系樹脂の具体例として、γ‐グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ‐グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルシリケート、又はこれらの組合せを含む。アルコキシシランの加水分解縮合物は、このアルコキシシラン化合物あるいはそれらの組合せを、塩酸等の酸性水溶液で加水分解することにより製造される。
【0028】
また、無機酸化物微粒子の材質は、例えば、酸化亜鉛、二酸化ケイ素(シリカ微粒子)、酸化アルミニウム、酸化チタン(チタニア微粒子)、酸化ジルコニウム(ジルコニア微粒子)、酸化スズ、酸化ベリリウム、酸化アンチモン、酸化タングステン、酸化セリウムの各ゾルを単独であるいは何れか2種以上を混晶化したものを含む。
【0029】
無機酸化物微粒子の直径は、ハードコート膜層の透明性確保の観点から、1nm以上100nm以下であることが好ましく、1nm以上50nm以下であるとより好ましい。又、無機酸化物微粒子の配合量(濃度)は、ハードコート膜層における硬度や強靱性の適切な度合での確保という観点から、ハードコート膜層の全成分中の40重量%(重量パーセント)以上60重量%以下を占めることが好ましい。
【0030】
また、ハードコート液は、硬化触媒としてアセチルアセトン金属塩、及びエチレンジアミン四酢酸金属塩の少なくとも一方等を付加し、更に基材に対する密着性確保や形成の容易化、所望の(半)透明色の付与等の必要に応じて界面活性剤、着色剤、溶媒等を添加する。
【0031】
無機酸化物微粒子における無機酸化物(金属酸化物)は、可視域でなるべく吸収を行わないものを選択する。これは、可視域全域に亘る高い透過率を確保し、裸眼時視認色に対するレンズ装用時視認色の差の極めて少ない状態を確保する観点からである。この観点において、無機酸化物は、Ti(チタン),Ce(セリウム)を除く1種以上の金属の酸化物であることが好ましい。Ti(チタン)の酸化物やCe(セリウム)の酸化物は、可視域(特に短波長側)で吸収を行うことから、これらは好ましい金属酸化物から除外される。
【0032】
好ましい金属酸化物の例として、Sb(アンチモン),Sn(スズ),Si(ケイ素),Al(アルミニウム),Ta(タンタル),La(ランタン),Fe(鉄),Zn(亜鉛),W(タングステン),Zr(ジルコニウム),In(インジウム)の酸化物のうちの何れか、あるいはこれらの組合せが挙げられる。
【0033】
ハードコート膜層の物理膜厚は、0.5μm(マイクロメートル)以上4.0μm以下とすると好ましい。この膜厚範囲の下限については、これより薄いと充分な硬度を得難いことから定まる。一方、上限については、これより厚くするとクラックや脆さの発生等、物性に関する問題の生ずる可能性が飛躍的に高まり、又無機酸化物微粒子による可視域への吸収(透過率減少)の影響が高まることから定まる。なお、ハードコート膜層に用いられるハードコート剤は、これら熱硬化系コート剤のほか、公知の光硬化系コート剤を使用してもよい。
【0034】
また、実施形態における眼鏡用レンズは、基材層の少なくとも一面にコーティングされる、UVA領域の波長を透過し、UVB領域の波長を反射するように形成されている反射防止膜層(「反射防止膜」、又は「反射防止層」と表記してもよい。)を備えてもよい。反射防止膜層は、基材層に対して形成されてもよいが、好ましくはハードコート膜層の上に形成されてもよい。また、反射防止膜層は、光学多層膜により形成されるとよい。
【0035】
光学多層膜は、反射防止機能を確保する観点から、好ましくはUVA領域と可視光との全域に亘りほぼ平坦で高い透過率分布を有するように形成されるとよい。高い透過率とは、例えば90%以上などである。
【0036】
光学多層膜は、低屈折率層と高屈折率層を交互に積層して形成され、又好ましくは全体として奇数層(全5層,全7層等)を有する構造であるとよい。更に好ましくは、最も基材側の層(基材に最も近い層)を1層目とすると、奇数層目が低屈折率層であり、偶数層目が高屈折率層であるとよい。低屈折率層や高屈折率層は、真空蒸着法やイオンアシスト蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタ法等により形成される。
【0037】
<眼鏡用レンズ>
実施形態に係る眼鏡用レンズについて、本開示技術の眼鏡用レンズの基材層の候補となる様々な基材用樹脂の例を以下に列挙する。
基材用樹脂1:アクリペット(登録商標)VH000
基材用樹脂2:ZEONEX(登録商標)K22R
基材用樹脂3:ARTON(登録商標) F3500
基材用樹脂4:アクリライト(登録商標)L000
基材用樹脂5:ZEONEX(登録商標)K26R
基材用樹脂6:TPX(登録商標) RT18
基材用樹脂7:APEL(登録商標)5014XH
基材用樹脂8:CR-39(登録商標)
基材用樹脂9:MR-8(登録商標)
基材用樹脂10:MR-10(登録商標)
【0038】
上述した基材用樹脂の例は、いずれも基材層の候補となるものであるが、以下では、これらの樹脂の中でも、UVA領域の波長を透過しつつUVB領域の波長をカットする樹脂として、基材用樹脂1乃至3を例にして説明する。また、発明者らは、実施形態に係る眼鏡用レンズとして、各基材用樹脂に対して、反射防止膜層(「AR(Anti Reflection)コート」とも称する。)の種類を変えて、樹脂(基材層)及びARコートのトータルでの透過率を実験して調査した。
【0039】
実験で用いられたARコートは、可視光を反射防止する(又は透過させる)可視光ARコート、UVA領域と可視光領域とを反射防止するUVA可視光ARコートを含む。また、実験で用いられた基材層は、基材用樹脂のみと、ラジカル捕捉剤及び/又は紫外線吸収剤を添加した基材用樹脂とを含み、2mm厚の試験片である。ラジカル捕捉剤又は紫外線吸収剤は、ADEKA社のアデカスタブ(登録商標)(LA-63P、LA-52、LA-57又はLA-46)を用い、0.2wt%、0.003wt%、又は0.005wt%が各基材層に添加される。ラジカル捕捉剤は、レンズの劣化を防止するため、レンズの耐久性を向上させることが可能になる。
【0040】
図2は、基材用樹脂1をベースとする各基材層と各ARコートとのトータルの透過率の一例を示す図である。図2に示すグラフは、縦軸が透過率、横軸が波長を表し、以下の基材用樹脂及びARコートの組み合わせパターンの各透過率が示される。以下、「透過率」は、所定波長又は所定領域内の任意の波長の透過率を示し、「平均透過率」は、所定領域内の各波長における透過率の平均透過率を示す。
試験片11:ARコート無しの基材用樹脂1
試験片12:可視光ARコートが両面に形成された基材用樹脂1
試験片13:UVA可視光ARコートが両面に形成された基材用樹脂1
試験片14:ARコート無し、LA-63P(0.2wt%)が添加された基材用樹脂1
試験片15:可視光ARコートが両面に形成され、LA-63P(0.2wt%)が添加された基材用樹脂1
試験片16:UVA可視光ARコートが両面に形成され、LA-63P(0.2wt%)が添加された基材用樹脂1
【0041】
試験片11について、330nm以上の領域では透過率は約90%であり、330nm以下の領域において波長が短くなるにつれて透過率が減少し、280nmの透過率は65%弱である。
【0042】
試験片12について、可視光の反射が防止されるため、380nm超の領域では透過率は90%以上であるが、可視光以外は特に考慮されていないため、約400nm以下の領域において波長が短くなるにつれて透過率が減少し、280nmでは透過率は約60%である。
【0043】
試験片13について、UVA領域と可視光の反射が防止されるため、330nm超の領域では透過率は約90%以上であるが、UVB領域は特に考慮されていないため、約315nm以下の領域において波長が短くなるにつれて透過率の減少幅が大きくなり、280nmでは透過率は40%以下である。
【0044】
試験片14について、380nm以上の領域では透過率は約90%であり、315nm以上380nm以下の領域において波長が短くなるにつれて透過率が減少するが、その透過率は80%以上であり、315nm以下ではさらに透過率が減少し、280nmの透過率は65%弱である。この結果によれば、ラジカル捕捉剤が基材層に添加されることで、可視光以下の波長において透過率を下げることが可能になる。
【0045】
試験片15について、可視光の反射が防止されるため、基本的には試験片12と同様の透過率である。しかし、試験片15は、ラジカル捕捉剤の影響により、330nm以下の波長において試験片12よりもさらに透過率が減少し、280nmでは透過率は50%以下である。
【0046】
試験片16について、380nm以上の領域では、試験片13とほぼ同じ透過率である。しかし、試験片16は、ラジカル捕捉剤の影響により、380nm以下の領域においては、試験片13の透過率よりも試験片16の透過率は約数%だけ減少する。
【0047】
図2に示す例によれば、基材用樹脂1について、UVB領域の透過率が、UVA領域や可視光領域の透過率よりも比較的低いため、本開示の技術に適している(例えば試験片11参照)。また、基材用樹脂1のみの場合や可視光ARコート膜層を形成した試験片に比べ、UVA可視光ARコートをコーティングすることにより、UVA領域の透過率を向上させ、且つUVB領域の透過率を下げることが可能になる(例えば、試験片11、12及び13参照)。さらに、ラジカル捕捉剤(LA-63P)が基材用樹脂1に添加されることにより、特にUVB領域の透過率を下げることが可能になる(例えば、試験片13及び16参照)。
【0048】
図3は、試験片11~16の反射率の一例を示す図である。図3に示すグラフは、縦軸が反射率、横軸が波長を表し、各試験片の反射率を示す。試験片11及び試験片14の反射率は、いずれもARコート無しであるため、280nm~780nmの範囲でほぼ平坦な反射率(<10%)となっている。以下、「反射率」は、所定波長又は所定領域内の任意の波長の反射率を示し、「平均反射率」は、所定領域内の各波長における反射率の平均反射率を示す。
【0049】
試験片12及び試験片15の反射率は、可視光領域(380~780nm)において平均反射率は5%以下であり、特に400~630nmの領域では、平均反射率が3%以下である。他方、可視光ARコートでは、380nm以下の領域においては特に考慮されていないため、反射率は、380nm以下の領域において、約300nmに約27%の最大値を有する略正規分布のような特性を有する。
【0050】
試験片13及び試験片16について、UVA可視光ARコートが両面にコーティングされているため、330nm以上の領域において反射率は10%以下である。他方、330nm未満の特にUVB領域においては、UVA可視光ARコートは反射率に対して特に考慮されていないため、波長が短くなるにつれ、反射率が上昇し、約280nmでは反射率は約30%以上となる。
【0051】
図3に示すように、UVA可視光ARコートは、UVA領域及び可視光領域の波長の反射を防止するが、UVB領域は特に考慮されていないため、波長が短くなるにつれ反射率が上昇する。したがって、UVA領域及び可視光領域はなるべく透過し、UVB領域はなるべく透過させないようにする眼鏡用レンズを設計する場合、UVA可視光ARコートを少なくとも1面にコーティングすることは好適である。また、UVB領域に対し、試験片13及び16のようにコート膜層及び基材用樹脂1のトータルの平均反射率が、試験片11(基材用樹脂1のみ)の平均反射率よりも高ければよい。例えば、UVB領域に極大値を有するような反射率特性のコート膜層が形成されてもよい。これにより、UVB領域の波長に対する平均反射率が他の領域の波長に対する平均反射率よりも高いコート膜層を選択して基材層に形成することにより、UVB領域の光を積極的にカットすることができるようになる。
【0052】
図4は、基材用樹脂2をベースとする各基材層と各ARコートとのトータルの透過率の一例を示す図である。図4に示すグラフは、縦軸が透過率、横軸が波長を表し、以下の基材用樹脂及びARコートの組み合わせパターンの各透過率が示される。
試験片21:ARコート無しの基材用樹脂2
試験片22:可視光ARコートが両面に形成された基材用樹脂2
試験片23:UVA可視光ARコートが両面に形成された基材用樹脂2
試験片24:ARコート無し、LA-52(0.2wt%)が添加された基材用樹脂2
試験片25:可視光ARコートが両面に形成され、LA-52(0.2wt%)が添加された基材用樹脂2
試験片26:UVA可視光ARコートが両面に形成され、LA-52(0.2wt%)が添加された基材用樹脂2
試験片27:ARコート無し、LA-57(0.2wt%)が添加された基材用樹脂2
試験片28:可視光ARコートが両面に形成され、LA-57(0.2wt%)が添加された基材用樹脂2
試験片29:UVA可視光ARコートが両面に形成され、LA-57(0.2wt%)が添加された基材用樹脂2
【0053】
試験片21について、透過率は、約360nm以上の領域では、約90%で一定である。試験片21の透過率は、約320nm~約360nmの領域において波長が短くになるにつれて約60%まで急に減少する。また、試験片21の透過率は、約300nm~320nmの領域において波長が短くなるにつれて緩やかに減少した後、約280nm~300nmの領域において波長が短くなるにつれて約0%まで急に減少する。
【0054】
試験片22について、可視光の反射が防止されるため、380nm超の領域では透過率は90%以上であるが、可視光以外は特に考慮されていないため、約400nm~約315nmの領域において波長が短くなるにつれて透過率が約45%まで急に減少し、その後、280nmでは透過率は約0%にまで急に減少でする。
【0055】
試験片23について、UVA領域と可視光の反射が防止されるため、約350nm以上の領域では透過率は約90%以上である。UVA可視光ARコートについて、反射に関してUVB領域は特に考慮されていないため、樹脂23の透過率は、約350nm以下の領域において波長が短くなるにつれて透過率が減少し、280nmでは透過率はほぼ0%となる。
【0056】
試験片24について、約430nm以上の領域では透過率は約90%であり、約350nm~約430nmの領域において波長が短くなるにつれ透過率は約80%まで減少し、その後に約320nm~約350nmの領域において波長が短くなるにつれ透過率は約20%にまで急に減少する。試験片24の透過率は、300nm~320nmの領域において波長は約20%で一定であり、280nm~300nmの領域において波長が短くなるにつれ透過率は0%まで減少する。この結果によれば、ラジカル捕捉剤(LA-52)が基材層に添加されることで、可視光以下の波長において、特に300nm~約380nmの領域において透過率を下げることが可能になる。
【0057】
試験片25について、可視光の反射が防止されるため、約370nm以上の領域においては、基本的に試験片22と同様の透過率である。しかし、試験片25は、ラジカル捕捉剤の影響により、約370nm以下の波長において試験片22及び試験片24よりもさらに透過率が減少する。
【0058】
試験片26について、基本的に試験片25と同様の透過率を示すが、約300nm~約370nmの領域において、UVA可視光ARコートを形成した試験片26の方が、試験片25よりも透過率が高い。
【0059】
試験片27について、試験片27の透過率は、約380nm以上の領域においては試験片24の透過率とほぼ同じであるが、約300nm~約380nmの領域においては、試験片27の透過率の方が、試験片24の透過率よりも低く、最大で約10%低くなっている。これは、添加するラジカル捕捉剤の種類によって、試験片の透過率に変化が生じることを示している。さらに、LA-57のラジカル捕捉剤が添加されることで、UVB領域において、顕著に透過率が下がり、開示の技術に好適であることが示された。
【0060】
試験片28及び試験片29について、両試験片とも同様の透過率を示すが、約300nm~約370nmの領域において、UVA可視光ARコートを形成した試験片29の方が、試験片28よりも透過率が高い。
【0061】
図4に示す例によれば、基材用樹脂2について、UVB領域の透過率が、UVA領域や可視光領域の透過率よりも比較的低いため、本開示の技術に適している(例えば試験片21参照)。また、基材用樹脂2について、UVB領域の透過率が、基材用樹脂1の透過率よりも低いため、本開示の技術に対し、より好適である(例えば図4の試験片21及び図2の試験片11参照)。また、可視光ARコートを基材用樹脂2にコーティングすることにより、UVB領域において、基材用樹脂2のみよりも透過率を下げることが可能になる(例えば、試験片24及び試験片25参照)。さらに基材用樹脂2のみの場合や可視光ARコート膜層を形成した試験片に比べ、UVA可視光ARコートをコーティングすることにより、UVA領域の透過率を向上させ、且つUVB領域の透過率を下げることが可能になる(例えば、試験片21、22及び23参照)。また、ラジカル捕捉剤(LA-57又はLA-52)を基材用樹脂2に添加することにより、UVB領域の透過率を減少させることが可能になる(例えば、試験片21~23及び試験片24~29を参照)。さらに、添加されるラジカル捕捉剤について、LA-57の方がLA-52よりも透過率を下げることが可能になる(例えば、試験片24~26及び試験片27~29参照)。
【0062】
図5は、試験片21~29の反射率の一例を示す図である。図5に示すグラフは、縦軸が反射率、横軸が波長を表し、各試験片の反射率を示す。試験片21、試験片24、試験片27の反射率は、いずれもARコート無しであるため、約350nm~780nmの範囲でほぼ平坦な反射率(<10%)となっており、280nm~約350nmの範囲では反射率はさらに減少する。
【0063】
試験片22、試験片25、及び試験片28の反射率は、可視光領域(380nm~780nm)においてほぼ同じ傾向の反射率を有し、平均反射率は5%以下であり、特に約400nm~約630nmの領域では、平均反射率が3%以下である。他方、可視光ARコートでは、380nm以下の領域においては特に考慮されていないため、反射率は高くなる。また、これらの反射率は、380nm以下の領域において、略正規分布のような特性を有し、試験片22は、約310nmに約20%の最大値を有し、試験片25及び試験片28は、約290nmに約21~23%の最大値を有し、試験片22と試験片25及び試験片28とにおいてピークの波長及び最大値が少し異なる。
【0064】
試験片23、試験片26、及び試験片29について、280nm~780nmの領域において、ほぼ同じ反射率となる。また、これらの反射率は、UVA可視光ARコートが両面にコーティングされているため、280nmでは25%前後であり、約330nm~780nmの領域においては5%以下の平均反射率となる。さらに、約350nm以下の領域においては、ラジカル捕捉剤の影響だと考えられるが、試験片26及び試験片29の反射率が、試験片23の反射率よりも若干低下する。
【0065】
図5に示す例では、図3に示す例と同様に、UVA可視光ARコートは、UVA領域及び可視光領域の波長の反射を防止するが、UVB領域は特に考慮されていないため、波長が短くなるにつれ反射率が上昇する。また、図5に示す反射率は、全体として、図3に示す反射率よりも低い傾向にある。これは、基材用樹脂2が、基材用樹脂1よりも光を吸収する特性があるからだと考えられる。なお、UVB領域に対し、試験片23、26及び29のようにコート膜層及び基材用樹脂2のトータルの平均反射率が、試験片21(基材用樹脂2のみ)の平均反射率よりも高ければよい。例えば、UVB領域に極大値を有するような反射率特性のコート膜層が形成されてもよい。これにより、UVB領域の波長に対する平均反射率が他の領域の波長に対する平均反射率よりも高いコート膜層を選択して基材層に形成することにより、UVB領域の光を積極的にカットすることができるようになる。
【0066】
図6は、基材用樹脂3をベースとする紫外線吸収剤(LA-46)及び/又はラジカル捕捉剤(LA-52)を添加した各基材層の透過率の一例を示す図である。図6に示すグラフは、縦軸が透過率、横軸が波長を表し、以下に記載する各基材用樹脂の各透過率が示される。いずれの試験片もARコートは形成されていない。
試験片31:基材用樹脂3のみ
試験片32:LA-52(0.2wt%)が添加された基材用樹脂3
試験片33:LA-52(0.2wt%)及びLA-46(0.001wt%)が添加された基材用樹脂3
試験片34:LA-46(0.003wt%)が添加された基材用樹脂3
試験片35:LA-46(0.005wt%)が添加された基材用樹脂3
【0067】
基材用樹脂3に対し、紫外線吸収剤(LA-46)及び/又はラジカル捕捉剤(LA-52)を添加することにより、ARコートなしでも、UVA領域をなるべく透過させつつ、UVB領域を透過させないようにすることが可能である。例えば、UVB領域において、添加剤無しの試験片31の透過率が約295nm超で10%を超えているのに対し、試験片32乃至35の透過率は、いずれも5%以下となり、UVB領域の光の透過を防ぐことができている。
【0068】
添加剤に関して、ラジカル捕捉剤よりも紫外線吸収剤の方が、より透過率を減少させることができる(例えば、試験片32と試験片34~35を参照)。紫外線吸収剤の添加量に関して、試験片34~35では、UVB領域においては透過率に差はないが、UVA領域においては0.005wt%の方が0.003wt%よりも透過率は若干低い。よって、紫外線吸収剤は、添加する量を増やすとUVA領域の透過率が下がってしまうため、目的に応じて0.003wt%程度ないしそれ以下(例えば、試験片33を参照)の添加量が好ましい場合がある。
【0069】
図7は、図6に示す各樹脂にUVA可視光ARコートを形成した場合の透過率の一例を示す図である。図7に示すグラフは、縦軸が透過率、横軸が波長を表し、以下に記載する各樹脂の各透過率が示される。
試験片31U:UVA可視光ARコートが両面に形成された試験片31
試験片32U:UVA可視光ARコートが両面に形成された試験片32
試験片33U:UVA可視光ARコートが両面に形成された試験片33
試験片34U:UVA可視光ARコートが両面に形成された試験片34
試験片35U:UVA可視光ARコートが両面に形成された試験片35
【0070】
図7に示すとおり、UVA可視光ARコートを試験片31~35にコーティングしても、透過率の傾向に基本的な変化はないが、可視光領域において透過率が上昇し、いずれも平均透過率が95%以上となる。
【0071】
図6及び図7によれば、基材用樹脂3に対し、ラジカル捕捉剤及び/又は紫外線吸収剤を添加し、UVA可視光ARコートを両面にコーティングすることにより、UVB領域は透過させず、UVA領域はなるべく透過させ、さらに可視光領域はほぼ透過させることが可能になる。なお、基材用樹脂3自体でも、UVB領域の波長を約15%以下の透過率に抑えることができるため、本開示の技術に好適であることが分かる。
【0072】
図8は、基材用樹脂3に各ARコートを形成した場合の透過率の一例を示す図である。図8に示すグラフは、縦軸が透過率、横軸が波長を表し、以下に記載する各樹脂の各透過率が示される。
試験片31:ARコートなしの試験片31
試験片31A:可視光ARコートが両面に形成された試験片31
試験片31U:UVA可視光ARコートが両面に形成された試験片31
【0073】
図8に示す試験片31の透過率は、図6に示す試験片31の透過率と同じである。試験片31Aについて、可視光ARコートが両面に形成されているため、可視光領域の約380nm~780nmにおける透過率は、試験片31の透過率以上である。他方、約380nm以下の領域については特に考慮されていないため、約330nm~約380nmの領域における平均透過率は、試験片31の平均透過率よりも小さくなっている。
【0074】
試験片31Uについて、UVA可視光ARコートが両面に形成されているため、可視光領域(380nm~780nm)における透過率は、試験片31の透過率以上である。また、UVA領域の波長の反射を防止しているため、試験片31UのUVA領域の平均透過率は、可視光ARコートが両面に形成されている試験片31Aの透過率以上となっている。なお、図8に示すいずれの試験片も、UVB領域における波長を約15%以下の透過率に抑えることができるため、本開示の技術に好適であることが分かる。
【0075】
図9は、各ARコートを形成した試験片31の反射率の比較例を示す図である。図9に示すグラフは、縦軸が反射率、横軸が波長を表し、各試験片の反射率を示す。図9において比較される各試験片は、図8に示す各試験片と同じである。
【0076】
試験片31は、ARコートが形成されていないため、約350nm~780nmの範囲でほぼ平坦な反射率(<10%)となっており、280nm~330nmの範囲では反射率は約5%である。
【0077】
試験片31Aについて、可視光領域(380nm~780nm)における平均反射率は5%以下であり、特に約400nm~約630nmの領域では、平均反射率が2%以下である。他方、可視光ARコートでは、380nm以下の領域においては特に考慮されていないため、反射率は高くなる。例えば、最大の反射率は、約300nmで17%超である。
【0078】
試験片31Uについて、約300nm以下の領域においては、平均反射率が約5%である。図3及び図5に示す例と同様に、UVA可視光ARコートは、UVA領域及び可視光領域の波長の反射を防止するが、UVB領域は特に考慮されていないため、280nm~約330nmの領域において波長が短くなるにつれ、反射率は上昇し、280nmにおいて約8%まで上昇する。
【0079】
図9によれば、基材用樹脂3の反射率は、図5に示す基材用樹脂2の反射率よりも全体的に低い。これは、基材用樹脂3自体が、基材用樹脂2よりも光(特に紫外線領域の光)を吸収する特性を有するからであると考えられる。なお、UVB領域に対し、コート膜層及び基材用樹脂3のトータルの平均反射率が、試験片31(基材用樹脂3のみ)の平均反射率よりも高ければよい。例えば、UVB領域に極大値を有するような反射率特性のコート膜層が形成されてもよい。これにより、UVB領域の波長に対する平均反射率が他の領域の波長に対する平均反射率よりも高いコート膜層を選択して基材層に形成することにより、UVB領域の光を積極的にカットすることができるようになる。
【0080】
図10は、各ARコートが形成された試験片32及び試験片35の反射率の比較例を示す図である。図10に示すグラフは、縦軸が反射率、横軸が波長を表し、各試験片の反射率を示す。試験片32及び試験片35のみの反射率は、いずれもARコート無しであるため、380nm~780nmの範囲でほぼ平坦な反射率(<10%)となっており、280nm~380nmの範囲では反射率はさらに減少し、280nm~330nmにおいては約5%になる。
【0081】
可視光ARコートが両面にコーティングされた試験片32A及び試験片35Aは、可視光領域においてほぼ同じ傾向の反射率を有するが、UVBを含む280nm~約320nmの波長領域において、紫外線吸収剤を含まない試験片32Aの方が、反射率が高い。
【0082】
また、上述したとおり、可視光ARコートでは、380nm以下の領域においては特に考慮されていないため、反射率は高くなる。また、これらの反射率は、380nm以下の領域において、略正規分布のような特性を有し、試験片32Aは、約290nmに約22%の最大値を有し、試験片35Aは、約330nmに約15%の最大値を有し、それぞれのピークの波長及び最大値が少し異なる。
【0083】
UVA可視光ARコートが両面にコーティングされた試験片32U及び試験片35Uは、約350nm~780nmの領域において、ほぼ同じ反射率となる。また、これらの反射率は、UVA可視光ARコートが両面にコーティングされているため、5%以下の平均反射率となる。さらに、試験片32Uについては約330nm以下、試験片35Uについては約350nm以下の領域において波長が短くなるにつれ、両方とも反射率は上昇する。
【0084】
図10に示す例では、図3及び図5に示す例と同様に、UVA可視光ARコートは、UVA領域及び可視光領域の波長の反射を防止するが、UVB領域は特に考慮されていないため、波長が短くなるにつれ反射率が上昇する。
【0085】
図11は、UVA可視光ARコートが形成された各試験片の反射率の比較例を示す図である。図11に示すグラフは、縦軸が反射率、横軸が波長を表し、各試験片の反射率を示す。
【0086】
図11に示す例では、いずれもUVA可視光ARコートが両面に形成されているため、反射率の傾向に大きな差はない。したがって、UVA可視光ARコートが両面にコーティングされることにより、UVB領域の波長はできるだけ透過させずに、UVA領域及び可視光領域の波長はできるだけ透過させることが可能になる。また、図11に示す実験で用いられたUVA可視光ARコートは、UVB領域は特に考慮されていないため、反射率はUVB領域において高くなっている。すなわち、UVB領域について、特に考慮せずとも反射率が上がるため、反射率をさらに上げるように設計されたUVA可視光ARコートが基材層に形成された場合には、UVB領域の波長をさらにカットすることが可能になる。
【0087】
図12は、各基材用樹脂の各波長域での透過率を比較する表を示す図である。図12Aに示す表では、試験片11乃至16について、紫外線領域の280~315nm(UVB領域)、315~380nm(UVA領域)における透過率を比較する。
【0088】
図12Aに示す結果において、試験片11(基材用樹脂1のみ)では、UVA領域の平均透過率が90.4%、UVB領域の平均透過率が78.9%である。試験片12(可視光ARコートが形成された基材用樹脂1)では、UVA領域の平均透過率が79.3%、UVB領域の平均透過率が63.1%である。試験片13(UVA可視光ARコートが形成された基材用樹脂1)では、UVA領域の平均透過率が91.2%、UVB領域の平均透過率が64.2%である。
【0089】
また、試験片14(LA-63P(0.2wt%)が添加された基材用樹脂1)では、UVA領域の平均透過率が86.5%、UVB領域の平均透過率が74.6%である。試験片15(可視光ARコートが両面に形成され、LA-63P(0.2wt%)が添加された基材用樹脂1)では、UVA領域の平均透過率が77.4%、UVB領域の平均透過率が55.4%である。試験片16(UVA可視光ARコートが両面に形成され、LA-63P(0.2wt%)が添加された基材用樹脂1)では、UVA領域の平均透過率が87.0%、UVB領域の平均透過率が57.6%である。
【0090】
図12Bに示す結果において、試験片21(基材用樹脂2のみ)では、UVA領域の平均透過率が81.4%、UVB領域の平均透過率が36.2%である。試験片22(可視光ARコートが形成された基材用樹脂2)では、UVA領域の平均透過率が74.3%、UVB領域の平均透過率が28.9%である。試験片23(UVA可視光ARコートが形成された基材用樹脂2)では、UVA領域の平均透過率が82.4%、UVB領域の平均透過率が32.2%である。
【0091】
また、試験片24(LA-52(0.2wt%)が添加された基材用樹脂2)では、UVA領域の平均透過率が63.9%、UVB領域の平均透過率が13.1%である。試験片25(可視光ARコートが両面に形成され、LA-52(0.2wt%)が添加された基材用樹脂2)では、UVA領域の平均透過率が61.0%、UVB領域の平均透過率が10.1%である。試験片26(UVA可視光ARコートが両面に形成され、LA-52(0.2wt%)が添加された基材用樹脂2)では、UVA領域の平均透過率が65.7%、UVB領域の平均透過率が13.0%である。
【0092】
また、試験片27(LA-57(0.2wt%)が添加された基材用樹脂2)では、UVA領域の平均透過率が57.7%、UVB領域の平均透過率が6.7%である。試験片28(可視光ARコートが両面に形成され、LA-57(0.2wt%)が添加された基材用樹脂2)では、UVA領域の平均透過率が55.4%、UVB領域の平均透過率が5.5%である。試験片29(UVA可視光ARコートが両面に形成され、LA-57(0.2wt%)が添加された基材用樹脂2)では、UVA領域の平均透過率が59.1%、UVB領域の平均透過率が6.7%である。
【0093】
図12Bに示す結果によれば、例えばラジカル捕捉剤を基材用樹脂2に添加し、UVA可視光ARコートを両面に形成することにより、UVA領域の透過率が約60%以上になり、UVB領域の透過率が約13%以下になることを可能にする。特に、ラジカル捕捉剤としてLA-57が添加されれば、LA-52よりもUVB領域の透過率を低くでき、7%以下にすることが可能になる。
【0094】
図12Cに示す結果において、試験片31(基材用樹脂3のみ)では、UVA領域の平均透過率が57.4%、UVB領域の平均透過率が7.6%である。試験片31A(可視光ARコートが形成された基材用樹脂3)では、UVA領域の平均透過率が53.0%、UVB領域の平均透過率が6.9%である。試験片31U(UVA可視光ARコートが形成された基材用樹脂3)では、UVA領域の平均透過率が58.4%、UVB領域の平均透過率が7.2%である。
【0095】
また、試験片32(LA-52(0.2wt%)が添加された基材用樹脂3)では、UVA領域の平均透過率が47.4%、UVB領域の平均透過率が2.9%である。試験片32A(可視光ARコートが両面に形成され、LA-52(0.2wt%)が添加された基材用樹脂3)では、UVA領域の平均透過率が44.8%、UVB領域の平均透過率が2.0%である。試験片32U(UVA可視光ARコートが両面に形成され、LA-52(0.2wt%)が添加された基材用樹脂3)では、UVA領域の平均透過率が48.6%、UVB領域の平均透過率が2.9%である。
【0096】
また、試験片33(LA-52(0.2wt%)及びLA-46(0.001wt%)が添加された基材用樹脂3)では、UVA領域の平均透過率が42.0%、UVB領域の平均透過率が2.1%である。試験片33A(可視光ARコートが両面に形成され、LA-52(0.2wt%)及びLA-46(0.001wt%)が添加された基材用樹脂3)では、UVA領域の平均透過率が40.5%、UVB領域の平均透過率が1.6%である。試験片33U(UVA可視光ARコートが両面に形成され、LA-52(0.2wt%)及びLA-46(0.001wt%)が添加された基材用樹脂3)では、UVA領域の平均透過率が43.4%、UVB領域の平均透過率が2.2%である。
【0097】
図12Dに示す結果において、試験片34(LA-46(0.003wt%)が添加された基材用樹脂3)では、UVA領域の平均透過率が31.8%、UVB領域の平均透過率が0.7%である。試験片34A(可視光ARコートが両面に形成され、LA-46(0.003wt%)が添加された基材用樹脂3)では、UVA領域の平均透過率が29.3%、UVB領域の平均透過率が0.7%である。試験片34U(UVA可視光ARコートが両面に形成され、LA-46(0.003wt%)が添加された基材用樹脂3)では、UVA領域の平均透過率が32.5%、UVB領域の平均透過率が0.7%である。
【0098】
また、試験片35(LA-46(0.005wt%)が添加された基材用樹脂3)では、UVA領域の平均透過率が26.5%、UVB領域の平均透過率が0.6%である。試験片35A(可視光ARコートが両面に形成され、LA-46(0.005wt%)が添加された基材用樹脂3)では、UVA領域の平均透過率が24.2%、UVB領域の平均透過率が0.5%である。試験片35U(UVA可視光ARコートが両面に形成され、LA-46(0.005wt%)が添加された基材用樹脂3)では、UVA領域の平均透過率が26.8%、UVB領域の平均透過率が0.5%である。
【0099】
図12C及びDに示す結果によれば、ラジカル捕捉剤及び/又は紫外線吸収剤が基材用樹脂3に添加されることにより、UVA領域の透過率は25%以上となり、UVB領域の透過率は3%以下とすることが可能になる。UVB領域の透過率を下げることに着目する場合は、基材用樹脂3に紫外線吸収剤を添加することにより、UVB領域の透過率を1%以下にすることが可能になる(例えば、図12Dの試験片34及び35参照)。また、UVB領域の透過率をなるべく下げつつ、UVA領域の透過率を上げたい場合は、試験片32及び33を用いることにより、UVA領域の透過率を40%以上にし、UVB領域の透過率を3%以下にすることが可能になる。さらに、両面にUVA可視光ARコートを形成した場合、基材用樹脂3にラジカル捕捉剤及び/又は紫外線吸収剤を添加しただけの場合に比べ、UVB領域の透過率を約3%以下の同程度に抑えつつ、UVA領域の透過率を向上させることができる。
【0100】
図12に示す例によれば、眼鏡用レンズの基材層を構成する各基材用樹脂とコート膜層とのトータルのUVA平均透過率が、基材層のUVA平均透過率よりも高く、基材層とコート膜層とのトータルのUVB平均透過率が、基材層のUVB平均透過率よりも低い眼鏡用レンズを形成することができる(例えば図12A乃至D参照)。これにより、UVB領域はなるべく透過させずに、UVA領域をなるべく透過させる眼鏡用レンズを構成することが可能になる。なお、UVA平均透過率は、UVA領域の平均透過率を示し、UVB平均透過率は、UVB領域の平均透過率を示す。
【0101】
また、眼鏡用レンズのコート膜層は、UVA領域および可視光領域の波長の反射を防止する反射防止膜層を含んでもよい。この反射防止膜層は、上記では、UVA可視光ARコートと称される。UVA可視光ARコートによれば、UVB領域の波長がなるべく反射されていることにより、UVB領域の波長が眼鏡用レンズを透過しないようにすることができる(例えば図11参照)。
【0102】
また、コート膜層は、280nm以上315nm未満の波長領域において、波長が短くなるにつれて反射率が上昇する特性を有してもよい。図3、5、9乃至11に示すように、UVA可視光ARコートは、280nm~315nmの領域において波長が短くなるにつれて反射率が上昇することにより、UVB領域の波長をよりカットすることが可能になる。
【0103】
基材層は、ラジカル捕捉剤及び/又は紫外線吸収剤を含んでもよい。例えば、樹脂2については、ラジカル捕捉剤又は紫外線吸収剤を添加することにより、UVB領域の波長はなるべく透過させずに、UVA領域の波長はなるべく透過させることが顕著に表れている。さらに、基材層は、ラジカル捕捉剤及び/又は紫外線吸収剤を含み、かつ、コート膜層は、UVA領域および可視光領域の波長の反射を防止する反射防止膜層を含んでもよい。
【0104】
また、基材層とコート膜層とのトータルのUVA平均透過率とUVB平均透過率との差が、基材層のみのUVA平均透過率とUVB平均透過率との差、又は基材層と可視光領域における特定の波長の反射を防止する反射防止膜層とのトータルのUVA平均透過率とUVB平均透過率との差よりも大きくてもよい(例えば図12A乃至D参照)。これにより、例えば、既存の可視光ARコートが形成されたレンズよりも、なるべくUVB領域の波長を透過させずに、UVA領域の波長をなるべく透過させることが可能になる。
【0105】
また、基材層とコート膜層とを備える眼鏡用レンズであって、基材層とコート膜層とのトータルのUVA平均透過率が基材層のUVA平均透過率と略同一か又はそれ以上であり、基材層とコート膜層とのトータルのUVB平均透過率が基材層のUVB平均透過率と略同一か又はそれ以下であってもよい。さらに、この眼鏡用レンズは、基材層とコート膜層とのトータルのUVA平均透過率とUVB平均透過率との差が、基材層のみのUVA平均透過率とUVB平均透過率との差、又は基材層と可視光領域における特定の波長の反射を防止する反射防止膜層とのトータルのUVA平均透過率とUVB平均透過率との差よりも大きければよい。これにより、基材用樹脂の種類、ラジカル捕捉剤/紫外線吸収剤の有無、及びUVA可視光ARコートの組み合わせにより、UVB領域の平均透過率が基材用樹脂のみの平均透過率と同程度又はそれより若干上がったとしても、全体として、UVB領域の波長をなるべくカットし、UVA領域の波長をなるべく透過させる眼鏡用レンズを構成することが可能である。
【0106】
図13は、各基材用樹脂の各波長域(対応波長)での太陽紫外線透過率を比較する表を示す図である。太陽紫外線透過率は、JIS T7333:2018(ISO8980-3:2013)に定義されている太陽紫外線A領域の透過率τSUVAと(数式1)、太陽紫外線B領域の透過率τSUVBと(数式2)を含む。
【数1】
【数2】
S(λ):太陽放射分布
S(λ):UV放射に対する相対分光有効関数
【0107】
図13Aに示す表では、試験片11乃至16について、太陽紫外線A領域における透過率τSUVAと(数式1)、太陽紫外線B領域における透過率τSUVBとを比較する。
【0108】
図13Aに示す結果において、試験片11(基材用樹脂1のみ)では、透過率τSUVBが85.7%、透過率τSUVAが89.8%である。試験片12(可視光ARコートが形成された基材用樹脂1)では、透過率τSUVBが65.0%、透過率τSUVAが76.4%である。試験片13(UVA可視光ARコートが形成された基材用樹脂1)では、透過率τSUVB が78.7%、透過率τSUVAが89.7%である。
【0109】
また、試験片14(LA-63P(0.2wt%)が添加された基材用樹脂1)では、透過率τSUVBが80.9%、透過率τSUVAが85.7%である。試験片15(可視光ARコートが両面に形成され、LA-63P(0.2wt%)が添加された基材用樹脂1)では、透過率τSUVBが59.5%、透過率τSUVAが74.0%である。試験片16(UVA可視光ARコートが両面に形成され、LA-63P(0.2wt%)が添加された基材用樹脂1)では、透過率τSUVBが72.3%、透過率τSUVAが85.2%である。
【0110】
図13Bに示す結果において、試験片21(基材用樹脂2のみ)では、透過率τSUVBが58.9%、透過率τSUVAが77.2%である。試験片22(可視光ARコートが形成された基材用樹脂2)では、透過率τSUVBが46.6%、透過率τSUVAが68.7%である。試験片23(UVA可視光ARコートが形成された基材用樹脂2)では、透過率τSUVBが55.0%、透過率τSUVAが77.9%である。
【0111】
また、試験片24(LA-52(0.2wt%)が添加された基材用樹脂2)では、透過率τSUVBが20.7%、透過率τSUVAが55.2%である。試験片25(可視光ARコートが両面に形成され、LA-52(0.2wt%)が添加された基材用樹脂2)では、透過率τSUVBが16.4%、透過率τSUVAが51.7%である。試験片26(UVA可視光ARコートが両面に形成され、LA-52(0.2wt%)が添加された基材用樹脂2)では、透過率τSUVBが21.7%、透過率τSUVAが56.9%である。
【0112】
また、試験片27(LA-57(0.2wt%)が添加された基材用樹脂2)では、透過率τSUVBが10.1%、透過率τSUVAが47.7%である。試験片28(可視光ARコートが両面に形成され、LA-57(0.2wt%)が添加された基材用樹脂2)では、透過率τSUVBが8.4%、透過率τSUVAが45.2%である。試験片29(UVA可視光ARコートが両面に形成され、LA-57(0.2wt%)が添加された基材用樹脂2)では、透過率τSUVBが10.8%、透過率τSUVAが48.9%である。
【0113】
図13Cに示す結果において、試験片31(基材用樹脂3のみ)では、透過率τSUVBが11.8%、透過率τSUVAが47.3%である。試験片31A(可視光ARコートが形成された基材用樹脂3)では、透過率τSUVBが10.6%、透過率τSUVAが43.4%である。試験片31U(UVA可視光ARコートが形成された基材用樹脂3)では、透過率τSUVBが11.2%、透過率τSUVAが47.9%である。
【0114】
また、試験片32(LA-52(0.2wt%)が添加された基材用樹脂3)では、透過率τSUVBが4.3%、透過率τSUVAが37.5%である。試験片32A(可視光ARコートが両面に形成され、LA-52(0.2wt%)が添加された基材用樹脂3)では、透過率τSUVBが3.1%、透過率τSUVAが34.9%である。試験片32U(UVA可視光ARコートが両面に形成され、LA-52(0.2wt%)が添加された基材用樹脂3)では、透過率τSUVBが4.5%、透過率τSUVAが38.4%である。
【0115】
また、試験片33(LA-52(0.2wt%)及びLA-46(0.001wt%)が添加された基材用樹脂3)では、透過率τSUVBが3.2%、透過率τSUVAが32.8%である。試験片33A(可視光ARコートが両面に形成され、LA-52(0.2wt%)及びLA-46(0.001wt%)が添加された基材用樹脂3)では、透過率τSUVBが2.5%、透過率τSUVAが31.3%である。試験片33U(UVA可視光ARコートが両面に形成され、LA-52(0.2wt%)及びLA-46(0.001wt%)が添加された基材用樹脂3)では、透過率τSUVBが3.5%、透過率τSUVAが33.9%である。
【0116】
図13Dに示す結果において、試験片34(LA-46(0.003wt%)が添加された基材用樹脂3)では、透過率τSUVBが1.1%、透過率τSUVAが23.9%である。試験片34A(可視光ARコートが両面に形成され、LA-46(0.003wt%)が添加された基材用樹脂3)では、透過率τSUVBが1.0%、透過率τSUVAが21.9%である。試験片34U(UVA可視光ARコートが両面に形成され、LA-46(0.003wt%)が添加された基材用樹脂3)では、透過率τSUVBが1.1%、透過率τSUVAが24.5%である。
【0117】
また、試験片35(LA-46(0.005wt%)が添加された基材用樹脂3)では、透過率τSUVBが1.0%、透過率τSUVAが19.7%である。試験片35A(可視光ARコートが両面に形成され、LA-46(0.005wt%)が添加された基材用樹脂3)では、透過率τSUVBが0.9%、透過率τSUVAが17.9%である。試験片35U(UVA可視光ARコートが両面に形成され、LA-46(0.005wt%)が添加された基材用樹脂3)では、透過率τSUVBが0.9%、透過率τSUVAが19.9%である。
【0118】
図14は、各試験片の視感透過率を比較する表を示す図である。視感透過率は、JIS T7333:2018(ISO8980-3:2013)に定義されている数式3で求められる。
【数3】
【0119】
図14Aに示す結果において、試験片11(基材用樹脂1のみ)では、視感透過率が92.5%であり、試験片12(可視光ARコートが形成された基材用樹脂1)では、視感透過率が98.9%であり、試験片13(UVA可視光ARコートが形成された基材用樹脂1)では、視感透過率が97.4%である。
【0120】
また、試験片14(LA-63P(0.2wt%)が添加された基材用樹脂1)では、視感透過率が92.0%であり、試験片15(可視光ARコートが両面に形成され、LA-63P(0.2wt%)が添加された基材用樹脂1)では、視感透過率が98.4%であり、試験片16(UVA可視光ARコートが両面に形成され、LA-63P(0.2wt%)が添加された基材用樹脂1)では、視感透過率が97.0%ある。
【0121】
また、試験片21(基材用樹脂2のみ)では、視感透過率が91.4%であり、試験片22(可視光ARコートが形成された基材用樹脂2)では、視感透過率が98.9%であり、試験片23(UVA可視光ARコートが形成された基材用樹脂2)では、視感透過率が97.0%である。
【0122】
また、試験片24(LA-52(0.2wt%)が添加された基材用樹脂2)では、視感透過率が91.0%であり、試験片25(可視光ARコートが両面に形成され、LA-52(0.2wt%)が添加された基材用樹脂2)では、視感透過率が98.5%であり、試験片26(UVA可視光ARコートが両面に形成され、LA-52(0.2wt%)が添加された基材用樹脂2)では、視感透過率が96.7%である。
【0123】
また、試験片27(LA-57(0.2wt%)が添加された基材用樹脂2)では、視感透過率が90.9%であり、試験片28(可視光ARコートが両面に形成され、LA-57(0.2wt%)が添加された基材用樹脂2)では、視感透過率が98.4%であり、試験片29(UVA可視光ARコートが両面に形成され、LA-57(0.2wt%)が添加された基材用樹脂2)では、視感透過率が96.6%である。
【0124】
図14Bに示す結果において、試験片31(基材用樹脂3のみ)では、視感透過率が91.9%であり、試験片31A(可視光ARコートが形成された基材用樹脂3)では、視感透過率が98.4%であり、試験片31U(UVA可視光ARコートが形成された基材用樹脂3)では、視感透過率が97.4%である。
【0125】
また、試験片32(LA-52(0.2wt%)が添加された基材用樹脂3)では、視感透過率が91.3%であり、試験片32A(可視光ARコートが両面に形成され、LA-52(0.2wt%)が添加された基材用樹脂3)では、視感透過率が98.1%であり、試験片32U(UVA可視光ARコートが両面に形成され、LA-52(0.2wt%)が添加された基材用樹脂3)では、視感透過率が96.6%である。
【0126】
また、試験片33(LA-52(0.2wt%)及びLA-46(0.001wt%)が添加された基材用樹脂3)では、視感透過率が91.3%であり、試験片33A(可視光ARコートが両面に形成され、LA-52(0.2wt%)及びLA-46(0.001wt%)が添加された基材用樹脂3)では、視感透過率が98.3%であり、試験片33U(UVA可視光ARコートが両面に形成され、LA-52(0.2wt%)及びLA-46(0.001wt%)が添加された基材用樹脂3)では、視感透過率が96.9%である。
【0127】
また、試験片34(LA-46(0.003wt%)が添加された基材用樹脂3)では、視感透過率が91.3%であり、試験片34A(可視光ARコートが両面に形成され、LA-46(0.003wt%)が添加された基材用樹脂3)では、視感透過率が97.6%であり、試験片34U(UVA可視光ARコートが両面に形成され、LA-46(0.003wt%)が添加された基材用樹脂3)では、視感透過率が96.5%である。
【0128】
また、試験片35(LA-46(0.005wt%)が添加された基材用樹脂3)では、視感透過率が91.6%であり、試験片35A(可視光ARコートが両面に形成され、LA-46(0.005wt%)が添加された基材用樹脂3)では、視感透過率が98.0%であり、試験片35U(UVA可視光ARコートが両面に形成され、LA-46(0.005wt%)が添加された基材用樹脂3)では、視感透過率が96.7%である。
【0129】
以上、図13及び図14によれば、視感透過率に対する太陽紫外線B領域の透過率τSUVBが5%以下である眼鏡用レンズを構成することが可能である。この条件は、JIS T7333:2018(ISO8980-3:2013)において、屈折補正用眼鏡レンズの条件として定義されている。例えば、UVA可視光ARコートが両面に形成された試験片32乃至35は、JISの条件を満たすことが可能であり、これらの試験片と同様に加工した眼鏡用レンズを製造することにより、なるべく裸眼の状態に近づけつつJIS規格を満たす屈折補正用眼鏡レンズを構成することが可能になる。
【0130】
また、実施形態における基材層又はコート膜層において、上述した素材、材料など本開示技術に適用可能なものは適宜適用すればよい。また、例えば、透過率の高いフッ素化合物の樹脂、具体例として、ダイキン工業社のHMX10なども基材として用いることができる。
【0131】
また、本開示技術における眼鏡用レンズは、一例として、非視力矯正レンズとしての実用化も可能である。例えば、花粉症を有する視力矯正が不要な正視のユーザに対する花粉カット機能を備えたアイウエアや、ドライアイの正視のユーザに対するモイスチャー機能を備えたアイウエアのレンズとして利用することなどが考えられる。
【0132】
以上、本発明について各実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図12C
図12D
図13A
図13B
図13C
図13D
図14A
図14B