(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143085
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】プラスチック耐火物、プラスチック耐火物の製造方法、及びプラスチック耐火物の吹付施工方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/66 20060101AFI20241003BHJP
F27D 1/00 20060101ALI20241003BHJP
F27D 1/16 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C04B35/66
F27D1/00 N
F27D1/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055580
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】山田 隆太
(72)【発明者】
【氏名】小松原 清行
【テーマコード(参考)】
4K051
【Fターム(参考)】
4K051AA03
4K051AA06
4K051BE00
4K051LA02
(57)【要約】
【課題】吹付施工を実施するにあたって、粘性を有していても圧縮空気搬送性に優れており、尚且つ吐出ホースの内面に固着し難いプラスチック耐火物を提供すること。
【解決手段】耐火物原料と粘結剤とを含むベース材を有するプラスチック耐火物において、粒度3mm以上の粗粒骨材をさらに有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火物原料と粘結剤とを含むベース材を有するプラスチック耐火物において、
粒度3mm以上の粗粒骨材をさらに有するプラスチック耐火物。
【請求項2】
前記粗粒骨材の粒度が3mm以上8mm以下である請求項1に記載のプラスチック耐火物。
【請求項3】
前記粗粒骨材の粒度が3mm以上5mm以下である請求項2に記載のプラスチック耐火物。
【請求項4】
100重量%の前記ベース材に対して、前記粗粒骨材が15重量%以上30重量%以下である請求項1に記載のプラスチック耐火物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のプラスチック耐火物を製造する方法であって、
少なくとも前記耐火物原料と前記粘結剤とを混練し造粒して前記ベース材を製造する工程と、
前記ベース材に対して、前記粒度3mm以上の粗粒骨材をさらに添加して混練し造粒する工程と、を包含する方法。
【請求項6】
前記粒度3mm以上の粗粒骨材をさらに添加して混練し造粒する工程が、15秒間以上70秒間以下で実施される請求項5に記載の方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載のプラスチック耐火物を吹付施工する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吹付施工用のプラスチック耐火物に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック耐火物とは、一般的に、耐火性骨材に粘土などの可塑性原料を配合し水などを加えて混練した湿潤練り土状の耐火物のことを意味する(非特許文献1参照)。プラスチック耐火物は、スラリー状にして施工するキャスタブル耐火物と違って含水量が少ないため、爆裂のおそれがなく施工完了から短時間での炉の昇温が可能となっている。また、プラスチック耐火物は、同材質のキャスタブル耐火物や耐火れんがに比べて、耐スポーリング性が非常に優れている。
【0003】
プラスチック耐火物は、例えば以下の特許文献1及び2に示されるように、圧縮空気搬送によって吹付施工することが可能であるため、従来のラミング施工よりも施工効率が高く、加熱炉、均熱炉、混銑車などの内張り材、各種工業炉のライニングや補修などに広く使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭57-073388号公報
【特許文献2】実開昭61-038498号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】元木英二著、「不定形耐火物と粉体工学(その12)第3章 不定形耐火物のレオロジーと混相流-応用編:プラスチック耐火物-」、耐火物、耐火物技術協会発行、2004年、第56巻、第7号、p.361~366
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
吹付施工用のプラスチック耐火物は、吹付性状を確保するためにある程度の粘性を有している。しかしそのために、施工中、プラスチック耐火物が吐出ホースの内面に徐々に固着して流路が狭まって吐出量が低下してやがて閉塞する、所謂ホース詰まりが発生して、吹付不可能となる場合がある。
【0007】
詰まったプラスチック耐火物を除去して施工を再開するのには多くの時間を要するため、作業効率が大幅に低下する虞がある。
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、吹付施工を実施するにあたって、粘性を有していても圧縮空気搬送性に優れており、尚且つ吐出ホースの内面に固着し難いプラスチック耐火物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るプラスチック耐火物の特徴は、耐火物原料と粘結剤とを含むベース材を有するプラスチック耐火物において、粒度3mm以上の粗粒骨材をさらに有する点にある。
【0010】
本発明に係るプラスチック耐火物においては、前記粗粒骨材の粒度が3mm以上8mm以下であると好適である。
【0011】
本発明に係るプラスチック耐火物においては、前記粗粒骨材の粒度が3mm以上5mm以下であると好適である。
【0012】
本発明に係るプラスチック耐火物においては、100重量%の前記ベース材に対して、前記粗粒骨材が15重量%以上30重量%以下であると好適である。
【0013】
本発明に係るプラスチック耐火物の製造方法の特徴は、少なくとも前記耐火物原料と前記粘結剤とを混練し造粒して前記ベース材を製造する工程と、前記ベース材に対して、前記粒度3mm以上の粗粒骨材をさらに添加して混練し造粒する工程と、を包含する点にある。
【0014】
本発明に係るプラスチック耐火物の製造方法においては、前記粒度3mm以上の粗粒骨材をさらに添加して混練し造粒する工程が、15秒間以上70秒間以下で実施されると好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るプラスチック耐火物は、「固着の原因となる粘り」を有しない粗粒骨材を含有することにより、吐出ホースを用いて吹付施工を実施する際、吐出ホースの内面にプラスチック耐火物が固着し難くなる。そのため、吐出ホースの内面にたとえ一旦は固着したとしても、固着の原因となる粘りを有しない粗粒骨材が、吐出ホースの内面に固着した固着物を削り落とすように作用することによって吐出ホースの閉塞を防止することができる。従って、本発明に係るプラスチック耐火物を使用して吹付施工を実施した場合、粘性を有していても圧縮空気搬送性に優れており、尚且つ吐出ホースの内面に固着し難い。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係るプラスチック耐火物の実施形態について、以下説明をする。
(プラスチック耐火物)
本発明に係るプラスチック耐火物は、耐火物原料と粘結剤とを含むベース材を有しており、粒度3mm以上の粗粒骨材をさらに含む。
【0017】
本発明に適用可能な、ベース材を構成するための耐火物原料としては、例えば、アルミナ系、スピネル系、アルミナ・シリカ系、SiC系、マグネシア系、カーボン系等、既知の耐火物原料が挙げられ、これらのうち1種のみを使用しても良いし、あるいは2種以上組み合わせて使用しても良い。
【0018】
耐火物原料の粒度は、吹付施工時のリバウンドロスを抑えるため3mm未満であることが好ましく、さらにはベース材に添加する粗粒骨材よりも小さいことが好ましい。後述する粗粒骨材と同等または粗粒骨材より大きい粒度では、粗粒骨材の固着防止効果が弱まるため好ましくない。尚、リバウンドロスとは、吹付け装置でプラスチック耐火物を施工面に吹付けたときに、その一部が施工面に付着せずに剥がれ落ちてしまうことをいう。
【0019】
本発明に適用可能な、ベース材を構成するための粘結剤としては、例えば、珪酸ナトリウム、燐酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、セメント、粘土等が挙げられ、これらのうち1種のみを使用しても良いし、あるいは2種以上組み合わせて使用しても良い。
【0020】
本発明に適用可能な粗粒骨材としては、例えばアルミナ系、スピネル系、アルミナ・シリカ系、SiC系、マグネシア系、カーボン系等の粒度3mm以上の粗い耐火骨材が挙げられる。
【0021】
本発明に適用可能な粗粒骨材の粒度は、3mm以上であるが、好ましくは3mm以上8mm以下であり、より好ましくは3mm以上5mm以下である。粗粒骨材の粒度が5mm以下では、吹付施工時のリバウンドロスが少なくなり、付着率を高めることができるため好ましい。また、粗粒骨材の粒度が3mm未満では、吐出ホースの内面への固着防止効果が弱いため好ましくない。
【0022】
本発明における粗粒骨材の粒度は、本発明の技術分野にて一般的に使用される篩を用いて測定することができる。例えば、8mm、5mm、3mm、1mmのそれぞれの目開きを有する篩を目開きの広い順に重ねて、一番上の篩に粗粒骨材を入れて振動させながら測定する。8mmの篩を通過して5mmの篩に捕捉された粗粒骨材の粒度を5~8mmとし、5mmの篩を通過して3mmの篩に捕捉された粗粒骨材の粒度を3~5mmとする。
【0023】
また、プラスチック耐火物中の粗粒骨材の含有量は、100重量%のベース材に対して、15重量%以上30重量%以下であることが望ましく、より好ましくは20重量%以上30重量%以下である。
【0024】
粗粒骨材の添加量が15重量%以上では吐出ホースの内面への固着防止効果が向上するため好ましい。また、粗粒骨材の添加量が30重量%以下では吹付施工時のリバウンドロスが少なくなり付着率が向上するため好ましい。
【0025】
粗粒骨材の材質については、各種加熱炉の稼働中の熱による化学反応を避けるためベース材の耐火物原料と同じ系統のものが好ましい。
【0026】
粗粒骨材の形状は、角張った個所を1か所以上有するものであることが好ましく、クリンカーや原石を砕いたままの研磨していない破砕粒などが好ましい。角張った個所を有する形状であれば、固着物を削り落とし易くなり固着防止効果が向上するため好ましい。
【0027】
(プラスチック耐火物を製造する方法)
本発明に係るプラスチック耐火物を製造する方法は、上述の耐火物原料と粘結剤とを混練し造粒してベース材を製造する工程と、当該ベース材に対して、粒度3mm以上の上述の粗粒骨材をさらに添加して混練し造粒する工程と、を包含する。
【0028】
少なくとも耐火物原料と粘結剤とを混練し造粒して構成されるベース材に対して、更に粗粒骨材を添加することによって、粘性の高いプラスチック耐火物においても圧縮空気搬送性に優れており、吐出ホースの内面への固着を防止して、吹付施工性を大幅に改善することができる。
【0029】
ベース材には、耐火物原料と粘結剤に加え、強度向上のための補強材や爆裂防止剤などの他の既知の添加剤を適宜添加することも可能である。これらの添加剤が本発明の効果を阻害することはない。ベース材の混練・造粒時にこれらの添加剤も一緒に混練し造粒することが好ましい。
【0030】
粗粒骨材は、ベース材となる少なくとも1種または2種以上の耐火物原料と粘結剤とを混練し造粒した後に添加することが望ましい。耐火物原料と粘結剤とを混練し造粒した後に粗粒骨材を添加すれば、耐火物原料の微粉や粘結剤が粗粒骨材の表面に付着し難くなり、その結果、十分な固着防止効果が発揮され易くなる。
【0031】
即ち、耐火物原料の微粉が粘結剤によって造粒された状態でこそ、プラスチック耐火物として求められる粘性を発揮できる。吹付時の衝撃で変形した造粒体が、その粘性により壁面や他の造粒体と一体化してライニングを形成するからである。しかしながら、耐火物原料の微粉や粘結剤が粗粒骨材の表面に付着した状態では、吹付施工時の衝撃で変形することなく跳ね返ってしまい前記リバウンドロスが発生し易く、ライニングを形成し難くなる。
【0032】
一方、耐火物原料の微粉を造粒した後に粗粒骨材を添加・混練する方法であれば、造粒体がクッションとなりライニング内に粗粒骨材を取り込むことができる。そして、ライニング内に取り込まれた粗粒骨材には亀裂の進展防止や耐摩耗性向上への寄与が期待できるため、ライニングの寿命延長が図れる。
【0033】
また、造粒済みのベース材に粗粒骨材を添加した後の混練時間は、固着防止効果や粘性に影響を与える。ベース材に粗粒骨材を添加後の混練時間は15秒間以上70秒間以下が好ましく、より好ましくは20秒間以上50秒間以下である。15秒間以上混練すると、ベース材中に粗粒骨材が均等に分散して固着防止効果が発揮され易くなる。また、混練時間を70秒間以下とすれば、造粒した微粉が粗粒骨材によってバラバラにされ難くなり、プラスチック耐火物として求められる粘性を発揮し易くなる。
【0034】
粗粒骨材は、例えば耐火物工場のみならず製鉄所などで添加しても良い。ベース材のみを耐火物工場から製鉄所の施工現場に搬入し、製鉄所内で発生した使用後耐火物を破砕したものを粒度調整・選別した後に、これを粗粒骨材として使用して、施工現場でベース材に添加してもよい。
【0035】
粗粒骨材の添加量は、ベース材100重量%に対して外掛けで15重量%以上30重量%以下であることが好ましく、より好ましくは20重量%以上30重量%以下である。また、添加する粗粒骨材の粒度は、3mm以上であるが、好ましくは3mm以上8mm以下であり、より好ましくは3mm以上5mm以下である。
【0036】
(プラスチック耐火物を吹付施工する方法)
本発明に係るプラスチック耐火物は、公知の吹き付け装置を使用して吹付施工を実施することができる。当該吹き付け装置は、例えば、材料切り出し装置、材料搬送装置、吹付機、圧縮空気を吹付機に送るエアホース、プラスチック耐火物を吹付ノズルに送る吐出ホース、吹付ノズル、などを備えて構成される。
【0037】
材料切り出し装置から切り出されたプラスチック耐火物は、材料搬送装置を経て吹付機内に供給された後、エアホースからの圧縮空気によって、吹付機から吐出ホースそして吹付ノズルへと搬送されて、目的とする吹付け面に吹付けられて、施工体(例えば、各種加熱炉や混銑車などの内張り材など)が形成される。
【実施例0038】
耐火物原料のアルミナ・シリカ質の耐火骨材と、粘結剤の粘土とを、1.5tバッチのバッチ式混練器を用いて混練しながら水を添加して湿らせ、10分間混練してベース材を作成した。
【0039】
粒度1~3mm、粒度3~5mm、粒度5~8mmの骨材をそれぞれ用意し、以下の表1における実施例1~6、及び比較例1~4に示される重量比率で上記ベース材に添加して30秒間混練して造粒した。尚、粒度3~5mmと粒度5~8mmの骨材が、本発明における粗粒骨材である。
【0040】
作成した実施例1~6及び比較例1~4のプラスチック耐火物について、ホース内固着程度とリバウンドロスを評価した。
【0041】
ホース内固着程度は、500kgの吹付実験を実施した後にホース内部を確認して、付着のないものはA(優)、断面積に対して固着面積が10%以下はB(良)、11~20%はC(可)、21~30%はD、31%以上はEと評価した。結果を以下の表1に示す。
【0042】
リバウンドロスは、500kgを壁面に吹き付けた後、床に落ちている耐火物を回収して重量を測定して算出した。例えば、吹付量500kgで、床に落ちた耐火物が150kgの場合、リバウンドロスは30%となる。リバウンドロスが20%以下はA(優)、21~30%はB(良)、31~40%はC(可)、41~50%はD、51%以上はEと評価した。結果を以下の表1に示す。
【表1】
【0043】
表1に示すとおり、本発明の実施例1~6はいずれもホース内に固着する程度が低く、良好な結果が得られた。
【0044】
また、上記実施例2のプラスチック耐火物について、上記ベース材に粗粒骨材を添加した後の混練時間を種々に変更したものを7種類(2-1~7)用意して、ホース内固着程度とリバウンドロスを評価した。結果を以下の表2に示す。
【表2】
【0045】
表2に示すように、混練時間を15~70秒間に設定した場合、ホース内に固着する程度が低く、良好な結果が得られた。また特に、混練時間を15~50秒間とした場合、リバウンドロスがより低く抑えられた。