(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143103
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】不溶化材
(51)【国際特許分類】
B09C 1/08 20060101AFI20241003BHJP
C01F 5/08 20060101ALI20241003BHJP
C09K 17/02 20060101ALI20241003BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B09C1/08
C01F5/08 ZAB
C09K17/02 H
C09K3/00 S
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055604
(22)【出願日】2023-03-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】000119988
【氏名又は名称】宇部マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西田 直人
(72)【発明者】
【氏名】坂本 裕一
(72)【発明者】
【氏名】久保 寛明
(72)【発明者】
【氏名】小林 龍
【テーマコード(参考)】
4D004
4G076
4H026
【Fターム(参考)】
4D004AA41
4D004AB03
4D004CC11
4D004DA03
4D004DA10
4D004DA20
4G076AA02
4G076AB06
4G076BA38
4G076BA46
4G076BE13
4G076CA02
4G076CA28
4G076DA30
4H026AA06
4H026AB04
(57)【要約】
【課題】土壌等に含まれる重金属を不溶化しつつ、長期的に効果を発現可能な、適度な溶出性を有する不溶化材を提供する。
【解決手段】本発明に係る不溶化材は、重金属を不溶化する不溶化材であって、下記式(1)で表される溶出速度試験値(50%)Xが、0.00150以下である酸化マグネシウム粒子を含有することを特徴とする。
X=(m1/2)/(t1/2) (1)
(上記式(1)中、m1/2は酸化マグネシウム懸濁液のpHを3に維持する溶出試験の酸化マグネシウム粒子による終点における硫酸消費量(硫酸mol/MgOmol)の半量であり、t1/2はm1/2に到達するまでの滴定時間(s)である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属を不溶化する不溶化材であって、
下記式(1)で表される溶出速度試験値(50%)Xが、0.00150以下である酸化マグネシウム粒子を含有することを特徴とする不溶化材。
X=(m1/2)/(t1/2) (1)
(上記式(1)中、m1/2は酸化マグネシウム懸濁液のpHを3に維持する溶出試験の酸化マグネシウム粒子による終点における硫酸消費量(硫酸mol/MgOmol)の半量であり、t1/2はm1/2に到達するまでの滴定時間(s)である。)
【請求項2】
前記酸化マグネシウム粒子は、下記式(2)で表される7d水和重量増加率が20質量%以下である請求項1記載の不溶化材。
7d水和重量増加率(質量%)=(W1-W0)/W0×100 (2)
W0・・・酸化マグネシウム粒子重量(g)
W1・・・7d水和後マグネシウム粒子重量(g)
【請求項3】
前記酸化マグネシウム粒子は、結晶子径が50~300nm、BET比表面積が1.8m2/g以下である請求項1記載の不溶化材。
【請求項4】
前記酸化マグネシウム粒子は、MgO含有率が90質量%以上であり、下記式(3)で表されるS/M比が、0.001~0.040である請求項1記載の不溶化材。
S/M=(SiO2含有率)/(MgO含有率) (3)
(SiO2含有率およびMgO含有率は、それぞれ、蛍光X線測定にて検出されたMg,Ca,Si,Fe,Alの5元素を、それぞれMgO、CaO、SiO2、Fe2O3、Al2O3に変換した際の含有率(質量%)合計を100としたときの値である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不溶化材に関する。
【背景技術】
【0002】
重金属等で汚染された土壌を改良するために、不溶化材を使用して重金属を不溶化処理する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。これにおいては、所定の物性を備える酸化マグネシウムと粉末キレート剤を不溶化剤として用いて、重金属等汚染土壌の不溶化処理が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された技術に用いられる酸化マグネシウムは、高活性であり速やかな反応が可能であるとされている。しかし、酸性土壌と呼ばれる低pH環境での利用においては、高活性な酸化マグネシウムは早期に大部分が溶出し、長期的な効果発現に支障をきたす可能性がある。酸性土壌のような環境に適した不溶化材を実現するには、不溶化を可能とする反応性と、長期間環境に留まるための溶出抑制との両立が必要となる。
本発明は、土壌等に含まれる重金属を不溶化しつつ、長期的に効果を発現可能な、適度な溶出性を有する不溶化材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る不溶化材は、重金属を不溶化する不溶化材であって、下記式(1)で表される溶出速度試験値(50%)Xが、0.00150以下である酸化マグネシウム粒子を含有することを特徴とする。
X=(m1/2)/(t1/2) (1)
(上記式(1)中、m1/2は酸化マグネシウム懸濁液のpHを3に維持する溶出試験の酸化マグネシウム粒子による終点における硫酸消費量(硫酸mol/MgOmol)の半量であり、t1/2はm1/2に到達するまでの滴定時間(s)である。)
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、土壌等に含まれる重金属を不溶化しつつ、長期的に効果を発現可能な、適度な溶出性を有する不溶化材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明者ら鋭意検討の結果、酸化マグネシウムのアルカリ剤としての作用に着目し、本用途に適した特性を有する酸化マグネシウム粒子を新たに見出して、本発明を完成させるに至った。
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0008】
本発明の不溶化材は、土壌等に含まれる重金属を不溶化するために用いることができる。重金属を含有する処理対象としては、土壌、建設発生土、岩石や砕石くず、焼却灰、汚泥等が挙げられる。重金属としては、具体的には、ヒ素、セレン、鉛等が挙げられる。
本発明の不溶化材には、溶出速度試験値(50%)Xが所定範囲に規定された酸化マグネシウム粒子が含有される。溶出速度試験値(50%)Xは、アルカリ溶出速度の測定に基づく溶出速度試験に準じて求めることができる。
【0009】
アルカリ溶出速度の測定には、50mgの酸化マグネシウム粒子を100mLのイオン交換水に分散させた酸化マグネシウム懸濁液と、0.05mol/Lの硫酸とを用いる。電位差自動滴定装置を用い、硫酸を滴下することでMgO懸濁液のpHを3に維持し、pH維持に要した硫酸消費量を求める。測定結果に対して、下記式(1)で表される手法により溶出速度試験値(50%)Xを求めることができる。
X=(m1/2)/(t1/2) (1)
(上記式(1)中、m1/2は酸化マグネシウム懸濁液のpHを3に維持する溶出試験の酸化マグネシウム粒子による終点における硫酸消費量(硫酸mol/MgOmol)の半量であり、t1/2はm1/2に到達するまでの滴定時間(s)である。)
【0010】
本発明における酸化マグネシウム粒子は、適度な溶出性を確保するために、溶出速度試験値(50%)Xが0.00150以下に規定される。溶出速度試験値(50%)Xは、0.00005~0.00120が好ましく、0.00010~0.00090がより好ましい。
【0011】
また、酸化マグネシウム粒子は、7d水和重量増加率が20質量%以下であることが好ましい。前記の7d水和重量増加率を示す酸化マグネシウム粒子を用いることで、長期間にわたり安定した効果を発揮することができる。7d水和重量増加率は、酸化マグネシウム粒子を7日間水和させた後の重量増加率である。その測定方法については、追って詳細に説明する。酸化マグネシウム粒子の7d水和重量増加率は、16質量%以下であることがより好ましく、12質量%以下であることがさらに好ましい。
【0012】
酸化マグネシウム粒子の7d水和重量増加率は、後述する水和試験の結果から、下記式(2)により算出することができる。
7d水和重量増加率(質量%)=(W1-W0)/W0×100 (2)
W0・・・酸化マグネシウム粒子重量(g)
W1・・・7d水和後マグネシウム粒子重量(g)
【0013】
本発明における酸化マグネシウム粒子の結晶子径は、50~300nmであることが好ましい。これによって、より好ましい溶出性を確保することができる。酸化マグネシウム粒子は、結晶子径が小さいほど、溶出が速くなる傾向にある。酸化マグネシウム粒子の結晶子径は、より好ましくは60~250nmであり、さらに好ましくは70~200nmである。結晶子径は、XRDパターンにおけるMgO(002)面ピークを解析ソフトで処理することにより得られた値である。一般に、一つの粒子は複数の単結晶で構成された多結晶体であり、結晶子径は多結晶体中の単結晶の大きさの平均値を示している。
【0014】
後述するように、本発明における酸化マグネシウム粒子は、マグネシウム化合物を焼成してなるマグネシア焼結体から得られ、その際の焼成温度によって結晶子径を制御することができる。マグネシアは、原料となるマグネシウム化合物の熱分解により生じる場合が多く、微細な結晶が発生した後に焼成温度に応じて結晶成長が進行する。酸化マグネシウム粒子の結晶子径は、不純物含有量による調整も可能である。Si等は、結晶成長を促進する傾向があり、特に、MgO含有率99質量%以下のマグネシア焼結体では結晶成長が促進されやすい。さらに、マグネシア焼結体を粉砕して酸化マグネシウム粒子の結晶子径を減少させることも可能である。
【0015】
また、酸化マグネシウム粒子は、BET比表面積が1.8m2/g以下であることが好ましい。これによって、より好ましい溶出性を確保することができる。酸化マグネシウム粒子のBET比表面積は、より好ましくは0.05~1.8m2/g、さらに好ましくは0.1~1.5m2/gである。
【0016】
酸化マグネシウム粒子のBET比表面積は、マグネシア焼結体の焼成温度により制御することができる。焼成温度が高いほど、BET比表面積は小さくなる傾向にある。また、焼成されたマグネシア焼結体を粉砕することで、BET比表面積を増大させることも可能である。加えて、焼成および/または粉砕されたマグネシア焼結体を分級することによって、任意のBET比表面積を有する粒子を主体とする酸化マグネシウム粒子を選別することもできる。
【0017】
本発明における酸化マグネシウム粒子のMgO含有率は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、97質量%以上であることがさらにより好ましい。
酸化マグネシウム粒子は不純物として、例えばCa,Si,Fe,Al等を含有することができる。
【0018】
不純物に関しては、下記式(3)で表されるS/M比で評価することができる。
S/M=(SiO2含有率)/(MgO含有率) (3)
SiO2含有率およびMgO含有率は、それぞれ、蛍光X線測定にて検出されたMg,Ca,Si,Fe,Alの5元素を、それぞれMgO、CaO、SiO2、Fe2O3、Al2O3に換算した際の含有率(質量%)合計を100としたときの値である。
【0019】
(S/M比)が、0.001~0.040の場合には、安定性が向上し、粉砕分級の際に表面に多くの負荷を受けた場合でも、耐湿性を維持する傾向にある。マグネシア焼結体の焼成時に形成される異相(Si-Mg化合物)が、吸湿等による変質の内部浸透を遅らせるものと推測される。(S/M比)は、0.002~0.035が好ましく、0.002~0.030がより好ましい。
【0020】
本発明における酸化マグネシウム粒子は、マグネシア焼結体を粉砕し、必要に応じて分級することで得ることができる。
マグネシア焼結体は、例えば、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム等のマグネシウム化合物を焼成して得ることができる。水酸化マグネシウムとしては、海水中のマグネシウム塩と水酸化カルシウムとの反応で沈殿したものなどを使用することができる。炭酸マグネシウムとしては、マグネサイト鉱石などを使用することができる。
【0021】
マグネシウム化合物の焼成は、大気中、1300~2800℃で行うことが好ましい。1300℃未満の場合には、結晶子径は所定範囲より小さく、BET比表面積は所定範囲より大きくなる傾向にあり、過度な溶出速度を有する材料となりやすい。一方、2800℃を超えると、結晶子径が所定範囲より大きく、BET比表面積が所定範囲より小さくなる傾向にあり、不溶化材としての機能が不十分な材料となりやすい。焼成温度は、1400~2400℃がより好ましい。焼成時間は、10分間~10時間とすることが好ましい。
【0022】
MgO含有率を含む酸化マグネシウム粒子中の成分含有量は、マグネシア焼結体を焼成する際に調整することができる。具体的には、焼成原料となるマグネシウム化合物の選択、および、Si等の不純物に対応する添加物の使用により制御することができる。製造効率を考慮すると、原料となるマグネシウム化合物中の不純物量を参照し、マグネシウム化合物の選択と組み合わせにより調整することが好ましい。
【0023】
SiO2含有率は、任意の添加剤により調整することができる。添加剤は特に限定されないが、例えば、シリカフューム、珪砂、ケイ酸ナトリウム等が挙げられる。マグネシウム化合物としては、流通品を用いることも可能だが、公知の手段を用いて成分調整したマグネシウム化合物を作製してもよい。なお、所定の条件を満たすマグネシア焼結体を入手可能な場合には、それを用いてもよい。
【0024】
マグネシア焼結体が粗大粒を多く含む場合には、粉砕により扱いやすい粒径とすることができる。粉砕装置としては、例えば、ハンマークラッシャー、ロールクラッシャー、ジョークラッシャー、衝撃式破砕機などの破砕装置、ディスクミル、転動ボールミル、振動ボールミル、ピンミル、ビーズミル、ジェットミル、サイクロンミルなどの粉砕装置等が挙げられる。こうした装置は、単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
粉砕後、分級を行うことにより、粗粉および/または微粉を取り除いて、好ましい粒度分布とすることができる。分級方法は特に限定されず、振動篩、風力分級機、サイクロン式分級機などを単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
マグネシア焼結体に対し、必要に応じて、上述したような粉砕および/または分級の処理を施して、所定の粒径に調整することができる。粉砕工程と分級工程は、マグネシア焼結体に応じて適宜組み合わせることができ、順番および回数は特に制限されない。分級工程と粉砕工程とは、いずれを先に実施してもよく、粉砕工程を経たマグネシア焼結体に分級工程を実施した後、さらに粉砕工程を実施することもできる。
【0027】
上述した要件を備えた酸化マグネシウム粒子は、土壌中の重金属を不溶化する不溶化材として好適に用いることができる。本発明の不溶化材を用いて、例えば、不溶化対象との混合、吸着層工法での利用、不溶化対象に接触するシート状等の構造物への配合、等により周辺環境への重金属の溶出を抑制することができる。
【実施例0028】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、これらは本発明の目的を限定するものではなく、また、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0029】
<酸化マグネシウム粒子の製造>
原料のマグネシウム化合物としては、海水と消石灰の反応により得られた水酸化マグネシウムを用意した。水酸化マグネシウムにおける成分含有量は、消石灰からの不純物、不純物除去工程の有無、および添加剤により決定される。
水酸化マグネシウムを焼成してマグネシア焼結体を作製し、粉砕および分級を組み合わせて実施例および比較例となる酸化マグネシウム粒子を製造した。酸化マグネシウム粒子の製造に当たっては、酸化マグネシウム粒子の結晶子径およびBET比表面積が表1の値となるように、焼成温度、および粉砕・分級を制御した。焼成温度、および粉砕・分級の有無は表1に示す通りである。粉砕では衝撃式破砕機およびサイクロンミル、分級は篩別および風力選別を用いた。
【0030】
実施例および比較例の酸化マグネシウム粒子について、BET比表面積、結晶子径、および含有成分を求めた。それぞれの評価方法は、以下のとおりである。
【0031】
<BET比表面積>
全自動BET比表面積測定装置(株式会社マウンテック製、MacsorbModel-1210)を用いて、前処理として180℃で10分間脱気後、BET1点法にて測定した。
【0032】
<結晶子径>
まず、X線回折装置(ブルカー・エイエックスエス社製 NEW D8 ADVANCE)を用い、以下の条件にてXRDパターンを求めた。
X線源:CuKα(Niフィルター)
管電圧:40kV
管電流:40mA
検出器:1次元半導体高速検出器 LynxEye
発散スリット:0.30度
ステップサイズ:0.020度
計数時間:0.50秒/ステップ
得られたXRDパターンについて、解析ソフト(ブルカー・エイエックスエス社製 DIFFRAC.EVA V.3.2)を用いて、結晶子径を算出した。XRDパターン中のMgO(002)面ピークを指定し、半値幅に基づく結晶子径として計算された値を用いた。
【0033】
<含有成分の測定>
酸化マグネシウム粒子の含有成分は、四ホウ酸リチウムを融材としたガラスビード法を用いて、蛍光X線分析装置(リガク製Supermini 200)により測定した。検出された特性X線の定量分析には、耐火物協会標準物質蛍光X線分析用マグネシア質耐火物(JRRM401-410)から作成した検量線を用いた。
【0034】
蛍光X線測定にて検出されたMg,Ca,Si,Fe,Alの5元素を、それぞれMgO、CaO、SiO2、Fe2O3、Al2O3に変換した際の含有率(質量%)合計を100としたときのSiO2含有率およびMgO含有率を用いて、下記式(3)によりS/M比を求めた。
S/M=(SiO2含有率)/(MgO含有率) (3)
得られた結果を、製造条件とともに下記表1にまとめる。
【0035】
【0036】
実施例および比較例の酸化マグネシウム粒子について、溶出性、水和重量増加率、およびAs不溶化能を評価した。それらの方法を以下に示す。
【0037】
<溶出速度試験>
まず、50mgの酸化マグネシウム粒子を100mLのイオン交換水に分散して、酸化マグネシウム懸濁液を調製した。電位差自動滴定装置(京都電子工業製、AT-510型)を用い、酸化マグネシウム懸濁液を撹拌しつつ0.05mol/Lの硫酸を滴下することで酸化マグネシウム懸濁液のpHを3に保持し、pH維持に要した硫酸消費量(CS(1))(硫酸mol/MgO mol)を求めた。測定の終点は、測定開始から1時間経過、もしくは硫酸消費量から酸化マグネシウム懸濁液中のMgO全量を消費したと判定される時点とし、測定開始~終点までの時間を滴定時間(s)とした。
【0038】
イオン交換水100mLについて同様に測定し、ブランクの硫酸消費量(CS(0))(硫酸mol/MgOmol)を求めた。酸化マグネシウム懸濁液の終点における硫酸消費量(CS(1))(硫酸mol/MgO mol)から、ブランクでの終点における硫酸消費量(CS(0))(硫酸mol/MgOmol)を差し引き、酸化マグネシウム粒子による終点における硫酸消費量(硫酸mol/MgO mol)を求めた。
【0039】
こうして得られた酸化マグネシウム粒子による終点における硫酸消費量(硫酸mol/MgOmol)に対して、m1/2は酸化マグネシウム粒子による終点における硫酸消費量(硫酸mol/MgO mol)の半量であり、t1/2はm1/2に到達するまでの滴定時間(s)である。溶出速度試験値(50%)Xは、溶出試験傾き(50%)に相当する。下記式(1)により表される溶出速度試験値(50%)Xが0.00150以下であれば、適度な溶出速度を備えている。
X=(m1/2)/(t1/2) (1)
【0040】
<水和試験>
10gの酸化マグネシウム粒子を、500mLのイオン交換水と混合し、室温で7日間静置した。静置後の分散液を吸引濾過(5C濾紙)により固液分離し、固形分を室温で真空乾燥して、水和後マグネシウム粒子を得た。水和後マグネシウム粒子の重量を測定して、下記式(2)から7d水和重量増加率(質量%)を求めた。
7d水和重量増加率(質量%)=(W1-W0)/W0×100 (2)
W0・・・酸化マグネシウム粒子重量(g)
W1・・・7d水和後マグネシウム粒子重量(g)
7d水和重量増加率が小さいほど、使用環境下に長期間留まり効果を発揮することが期待できる。一方、7d水和重量増加率が大きいほど、使用環境下で消化・溶出を経て系外へ流出する速度が速まる可能性が高い。
【0041】
<As不溶化試験>
As不溶化能は、As不溶化試験により評価することができる。
まず、As標準溶液(100ppm、市販品)をイオン交換水で希釈し、硫酸を用いてpHを3に調整して、調整As溶液(1ppm)を作製した。得られた調整As溶液250mlを、1.0gのMgO粒子とともにポリ容器に収容し、振とう機を用いて振とうした。具体的には、水平方向に毎分200回、振幅4~5cmで24時間振とうした。振とう後の分散液を、45μmフィルターを用いて吸引ろ過により固液分離した。分離した液体中のAs濃度をICP-MSにより測定し、下記式(4)によりAs不溶化率を算出した。
As不溶化率=(C0-C)/C0×100 (4)
C0・・・調整As溶液濃度(ppm)
C ・・・試験後As溶液濃度(ppm)
【0042】
得られた結果を、下記表2にまとめる。
【0043】
【0044】
実施例の酸化マグネシウム粒子は、いずれも溶出速度試験値(50%)Xが0.00150以下であり、適度な溶出性を有している。しかも、実施例の酸化マグネシウム粒子は、7d水和重量増加率が20質量%以下である。これに対し、比較例の酸化マグネシウム粒子は、溶出速度試験値(50%)Xが0.00150を超えており、溶出が過剰に早いことが示された。
【0045】
溶出速度が速い比較例の酸化マグネシウム粒子では、水和重量増加率が23%以上と大きく、溶出速度が遅い実施例1~3の酸化マグネシウム粒子では重量増加が極めて小さい。水和試験における重量増加は、酸化マグネシウムと水の反応による水酸化マグネシウムの生成量を示している。
水酸化マグネシウムは水溶性であるので、比較例のように反応性が高い酸化マグネシウムを不溶化材として配合した系内を雨水等が通過した際には、Mgが水酸化マグネシウムとして系外に溶出する可能性が高まる。一方で、実施例のような酸化マグネシウムを用いることで、雨水等が系内を通過する環境においても、不溶化材として長期的に系内に留まり、効果を発揮することが期待できる。
【0046】
また、As除去試験の結果から、酸性土壌環境における短期間での重金属不溶化を想定した試験において、実施例1~3の酸化マグネシウム粒子は、軽焼品である比較例1,2と同程度の不溶化能を示した。従来、焼成温度が高い重焼品は、反応性が低く不溶化能に劣るとされてきたが、実施例のような酸化マグネシウム粒子であれば、短期間での不溶化においても良好な結果を得ることができる。
【0047】
比較例の酸化マグネシウム粒子は、BET比表面積が1.8m2/gを超えているのに対し、実施例の酸化マグネシウム粒子は、いずれもBET比表面積が1.8m2/g以下であり、さらに結晶子径が50~300nmの範囲内であるこうした物性もまた、実施例の酸化マグネシウム粒子の適度な溶出性に寄与しているものと推測される。