(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143118
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】クレーン配置支援システム
(51)【国際特許分類】
E01D 21/00 20060101AFI20241003BHJP
G06T 19/00 20110101ALI20241003BHJP
【FI】
E01D21/00 Z
G06T19/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055625
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】505250410
【氏名又は名称】株式会社横河技術情報
(71)【出願人】
【識別番号】508036743
【氏名又は名称】株式会社横河ブリッジ
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】中川 真介
(72)【発明者】
【氏名】西島 正人
(72)【発明者】
【氏名】西 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】平野 大希
【テーマコード(参考)】
2D059
5B050
【Fターム(参考)】
2D059AA05
2D059AA13
2D059CC01
2D059DD02
5B050BA09
5B050CA07
5B050EA07
5B050EA13
5B050FA05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち従来技術に比して容易かつ適切にクレーン位置を選定することができるクレーン配置支援システムを提供することである。
【解決手段】構造物モデルと、クレーン仕様データと、を用いて、クレーンの配置位置の決定を支援するクレーン配置支援システム100であって、クレーン選出手段と、架設部材指定手段と、クレーン位置選定手段と、を備える。クレーン位置選定手段は、クレーン選出手段によって指定されたクレーンレコードと、架設部材指定手段によって指定された架設部材に係る架設部材モデルに基づいて、クレーンレコードに係るクレーンを配置するクレーン位置と、架設部材を地組みする地組位置と、を選定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の架設部材によって構成される構造物の3次元空間情報を有する構造物モデルと、クレーン仕様データと、を用いて施工領域におけるクレーンの配置位置の決定を支援するシステムであって、
前記構造物モデルは、前記架設部材ごとの架設部材モデルを含み、
前記架設部材モデルは、前記架設部材に係る形状、重量、及び計画架設位置を含んで構成され、
前記クレーン仕様データは、複数のクレーンレコードを含んで構成され、
前記クレーンレコードは、クレーンに係る寸法パラメータと、クレーンに係る能力パラメータと、を含んで構成され、
前記寸法パラメータには、クレーンのブーム長が含まれ、
前記能力パラメータには、クレーンに係る定格荷重が含まれ、
オペレータ操作によって、前記クレーン仕様データのうち所定の前記クレーンレコードを選出するクレーン選出手段と、
オペレータ操作によって、前記架設部材を指定する架設部材指定手段と、
前記クレーン選出手段によって指定された前記クレーンレコードと、前記架設部材指定手段によって指定された前記架設部材に係る前記架設部材モデルと、に基づいて、該クレーンレコードに係るクレーンを配置するクレーン位置と、該架設部材を地組みする地組位置と、を選定するクレーン位置選定手段と、を備え、
前記クレーン位置選定手段は、あらかじめ定めた目標平面配置に基づいて、前記クレーン位置と前記地組位置を選定し、
前記目標平面配置は、前記計画架設位置と、前記クレーン位置と、前記地組位置と、の平面上の配置によって定められる、
ことを特徴とするクレーン配置支援システム。
【請求項2】
前記施工領域のうちクレーンを配置することができるクレーン配置範囲を設定するクレーン配置範囲設定手段と、
前記施工領域のうち前記架設部材を地組みすることができる地組範囲を設定する地組範囲設定手段と、をさらに備え、
前記クレーン位置選定手段は、前記クレーン配置範囲に含まれるように前記クレーン位置を選定するとともに、前記地組範囲に含まれるように前記地組位置を選定する、
ことを特徴とする請求項1記載のクレーン配置支援システム。
【請求項3】
前記架設部材指定手段によって、2以上の前記架設部材の指定が可能であり、
前記クレーン位置選定手段は、前記架設部材指定手段によって指定された2以上の前記架設部材を、同じ位置でクレーンが架設し得ることを条件として、前記クレーン位置を選定する、
ことを特徴とする請求項1記載のクレーン配置支援システム。
【請求項4】
表示手段にクレーンの吊姿勢を表示させる表示制御手段を、さらに備え、
前記表示制御手段は、前記クレーン位置選定手段が前記クレーン位置と前記地組位置を選定すると、該地組位置におけるクレーンの吊姿勢と前記計画架設位置におけるクレーンの吊姿勢を、前記表示手段に同時に表示させる、
ことを特徴とする請求項1記載のクレーン配置支援システム。
【請求項5】
前記クレーン選出手段は、オペレータ操作によって入力されたクレーン諸元に基づいて、前記クレーン仕様データのなかから前記クレーンレコードを選出し、
前記クレーン諸元には、クレーのブーム長、及び/又は吊荷重が含まれる、
ことを特徴とする請求項1記載のクレーン配置支援システム。
【請求項6】
前記構造物を構成する全ての前記架設部材に係る前記クレーン位置が選定すると、該架設部材ごとの該クレーン位置を施工プランとして記憶する施工プラン記憶手段と、
前記クレーンレコードが異なる2以上の前記施工プランのなかから最適施工プランを選出する最適施工プラン選出手段と、をさらに備え、
前記最適施工プラン選出手段は、前記施工プランに含まれる前記クレーン位置の数とクレーン係るコストとに基づいて前記最適施工プランを選出する、
ことを特徴とする請求項1記載のクレーン配置支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、クレーンによる架設に関する技術であり、より具体的には、架設部材に応じて適切なクレーンの配置を判断することができるクレーン配置支援システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
橋梁は、橋台や橋脚といった下部工と、主桁や床版といった上部工によって主に構成される。この主桁は、下部工の上で直接構築されることもあるし、一旦他の場所で組立てた後に下部工上に架設することもある。このように、構造物を構築するにあたって、例えばヤードや工場などであらかじめ完成品を組立てたうえで正規の場所に設置することもあり、他の場所で完成品を組立てる手法は「地組み」と呼ばれている。
【0003】
例えば主桁を構成する複数の部材(以下、「架設部材」という。)の地組みを行う場合、工場製作された2以上の個別部材や材料を下部工近くのヤードに搬入するとともに、その場で個別部材等を組み立てることで架設部材を構築することがある。そして、ラフテレーンクレーンやオールテレーンクレーン、クローラクレーンといった移動式クレーンなどを利用することで、地組みされた架設部材を橋脚等の上に架設していく。すなわち、移動式クレーンが地組みした場所(以下、単に「地組位置」という。)で架設部材を吊上げるとともに、吊上げた架設部材を旋回しながら計画された位置(以下、「計画架設位置」という。)まで移動し、架設部材を吊降ろして設置するわけである。
【0004】
クレーンは、吊半径が短いほど大きな重量を吊上げることができ、逆に吊半径が長いほど吊上げ可能な重量は小さくなる。そのためクレーンごとに、吊半径と吊荷重の関係を表す「定格荷重表」が設定されている。この定格荷重表を参照することによって、その作業にとって適切な能力のクレーンを選定することができるわけである。
【0005】
またクレーンを選定するにあっては、つまりクレーンの吊能力や形状、寸法など(以下、クレーン規格)を選定するにあたっては、作業時にクレーンを配置する場所(以下、単に「クレーン位置」という。)が極めて重要になる。例えば、吊荷を吊上げる場所から近く、しかも吊降ろす場所からも近い位置にクレーンを配置することができれば(すなわち、吊半径を小さくすることができれば)、クレーン規格が比較的小さいクレーンを選定することができる。一方、同じ重量の吊荷であっても大きな吊半径を強いられるケースでは、クレーン規格が比較的大きいクレーンを選定しなければならない。そして、クレーン規格に応じてその損料が定められているため、クレーン規格の選定は全体工事費に直接的な影響を与えることとなる。
【0006】
通常、橋梁の主桁は相当の延長があり、そのため数多くの架設部材を架設する必要がある。したがって、架設部材ごとに、あるいはある程度まとまった数の架設部材ごとに、クレーン位置を変更する必要があり、いわば「盛替え」を繰り返しながら架設作業を進めていくのが一般的である。また架設部材は、それぞれ形状や寸法、重量が異なるため、架設部材ごとに(あるいはある程度まとまった数の架設部材ごとに)異なるクレーン規格のクレーンを用意することも珍しくない。さらに、架設部材の計画架設位置によってはクレーン位置が制限されることもあり、その制限に伴って作業半径に影響が及ぶケースでは、やはり異なるクレーン規格のクレーンを用意しなければならない。
【0007】
このようにクレーン規格は、単に定格荷重表のみを参考にするだけでは適切に選定することができず、施工ヤードや周辺環境なども勘案しつつ、しかも工事全体を通じた状況を考慮したうえで選定しなければならない。特に、クレーン規格の選定にとって重要なクレーン位置の選定には、十分な経験や知識が求められる。そのため、このように十分な経験や知識を有する技術者等が、工事全体の施工計画を十分把握したうえでクレーン位置を選定するとともに、クレーン規格を選定しているのが現状である。
【0008】
他方、建設業界における近年の人手不足を考えると、適切な能力を有する技術者を確保することが難しくなることも予想され、そのような技術者に頼ることなく容易かつ適切にクレーン位置を選定する技術が求められていた。そして近年の情報技術の進歩に伴い、いわゆる3次元モデルを利用してクレーンを仮想的に配置する取り組みが行われている。例えば特許文献1では、クレーンが旋回する際、周辺環境に干渉するか否かを判別する技術について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に開示される技術は、あくまで干渉の有無を判別する技術であって、クレーン規格を選定するものでも、ましてやクレーン規格の選定にとって重要なクレーン位置の決定を支援するものでもない。上記したとおり、クレーン規格の選定は工事費に影響を及ぼすものであり、それ故、適切な能力を有する技術者に頼ることなく容易かつ適切にクレーン位置を選定するための技術が求められていた。
【0011】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち従来技術に比して容易かつ適切にクレーン位置を選定することができるクレーン配置支援システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明は、架設部材の計画架設位置とクレーン位置、地組位置の配置関係に基づいて適切なクレーン位置を選定する、という点に着目して開発されたものであり従来にはない発想に基づいて行われたものである。
【0013】
本願発明のクレーン配置支援システムは、構造物モデルとクレーン仕様データを用いて施工領域におけるクレーンの配置位置の決定を支援するシステムであって、クレーン選出手段と架設部材指定手段、クレーン位置選定手段を備えたものである。この構造物モデルは、複数の架設部材によって構成される構造物の3次元空間情報を有するモデルであり、架設部材ごとの架設部材モデルを含むものである。また架設部材モデルは、架設部材に係る形状と重量、計画架設位置を含んで構成される。クレーン仕様データは、複数のクレーンレコードを含んで構成され、このクレーンレコードはクレーンに係る寸法パラメータと能力パラメータを含んで構成され、寸法パラメータにはクレーンのブーム長が含まれ、能力パラメータにはクレーンに係る定格荷重が含まれる。本願発明のクレーン配置支援システムを構成するクレーン選出手段は、オペレータ操作によってクレーン仕様データのうち所定のクレーンレコードを選出する手段であり、架設部材指定手段は、オペレータ操作によって架設部材を指定する手段である。またクレーン位置選定手段は、クレーン選出手段によって指定されたクレーンレコードと、架設部材指定手段によって指定された架設部材に係る架設部材モデルに基づいて、クレーンレコードに係るクレーンを配置するクレーン位置と、架設部材を地組みする地組位置を選定する手段である。なおクレーン位置選定手段は、あらかじめ定めた目標平面配置に基づいてクレーン位置と地組位置を選定し、この目標平面配置は、計画架設位置とクレーン位置、地組位置の平面上の配置によってあらかじめ定められる。
【0014】
本願発明のクレーン配置支援システムは、クレーン配置範囲設定手段と地組範囲設定手段をさらに備えたものとすることもできる。このクレーン配置範囲設定手段は、施工領域のうちクレーンを配置することができるクレーン配置範囲を設定する手段であり、地組範囲設定手段は、施工領域のうち架設部材を地組みすることができる地組範囲を設定する手段である。この場合、クレーン位置選定手段は、クレーン配置範囲に含まれるようにクレーン位置を選定するとともに、地組範囲に含まれるように地組位置を選定する。
【0015】
本願発明のクレーン配置支援システムは、架設部材指定手段によって2以上の架設部材を指定し得るものとすることもできる。この場合、クレーン位置選定手段は、架設部材指定手段によって指定された2以上の架設部材を、同じ位置でクレーンが架設し得ることを条件としてクレーン位置を選定する。
【0016】
本願発明のクレーン配置支援システムは、表示制御手段をさらに備えたものとすることもできる。この表示制御手段は、表示手段にクレーンの吊姿勢を表示させる手段であり、クレーン位置選定手段がクレーン位置と地組位置を選定すると、地組位置におけるクレーンの吊姿勢と計画架設位置におけるクレーンの吊姿勢を表示手段に同時に表示させる。
【0017】
本願発明のクレーン配置支援システムは、オペレータ操作によって入力されたクレーン諸元に基づいてクレーン仕様データのなかからクレーンレコードを選出するものとすることもできる。このクレーン諸元には、クレーンのブーム長や吊荷重が含まれる。
【0018】
本願発明のクレーン配置支援システムは、施工プラン記憶手段と最適施工プラン選出手段をさらに備えたものとすることもできる。この施工プラン記憶手段は、構造物を構成する全ての架設部材に係るクレーン位置が選定されると、架設部材ごとのクレーン位置を施工プランとして記憶する手段である。また最適施工プラン選出手段は、クレーンレコードが異なる2以上の施工プランのなかから最適施工プランを選出する手段であり、施工プランに含まれるクレーン位置の数とクレーンに係るコストとに基づいて最適施工プランを選出する。
【発明の効果】
【0019】
本願発明のクレーン配置支援システムには、次のような効果がある。
(1)適切な能力を有する技術者に頼ることなく容易かつ適切にクレーン位置を選定することができる。適切にクレーン位置を選定する結果、適正に工事費を抑えることができる。
(2)表示制御手段を備えることによって、地組位置におけるクレーンの吊姿勢と計画架設位置におけるクレーンの吊姿勢を、1の画像として同時に確認することができる。
(3)最適施工プラン選出手段を備えることによって、工事全体を通じて適切なクレーン位置で架設作業を行うことができ、さらに適正に工事費を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本願発明のクレーン配置支援システムの主な構成を示すブロック図。
【
図3】起点線分と終点線分の長さをそれぞれ吊半径とし、目標挟角を180°とした「目標平面配置」を説明するモデル図。
【
図4】(a)はクレーン位置に配置されたクレーンを上方から見た状況が表示された画面図、(b)はクレーン位置に配置されたクレーンを斜方向から見た状況が表示された画面図。
【
図5】地組位置におけるクレーンの吊姿勢と、計画架設位置におけるクレーンの吊姿勢を表示した画像図。
【
図6】本願発明のクレーン配置支援システムの主な処理の流れを示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本願発明のクレーン配置支援システムの実施形態の一例を図に基づいて説明する。なお本願発明は、複数の架設部材からなる様々な構造物を対象として利用することができるが、便宜上ここでは、橋梁(特に、上部工)を対象とする例で説明する。
【0022】
1.定義
本願発明の実施形態の例を説明するにあたって、はじめにここで用いる用語の定義を示しておく。
【0023】
(施工領域)
橋梁を構築するにあたって設定された領域、つまり施工ヤードのことをここでは「施工領域」ということとする。また、この施工領域のうち、クレーンを配置することが可能な範囲のことを「クレーン配置範囲」と、架設部材の地組みを行うことができる範囲のことを「地組範囲」ということとする。さらに、施工領域のうち実際にクレーンを配置する位置のことを「クレーン位置」ということとする。
【0024】
(構造物モデル)
本願発明のクレーン配置支援システムでは、対象とする構造物(ここでは、橋梁)に係る3次元空間情報を有するモデル(いわゆる、3Dモデル)を利用する。この構造物のモデルのことを、ここでは「構造物モデル」ということとする。また、対象とする構造物は複数の架設部材からなるものであり、したがって構造物モデルにはそれぞれの架設部材に関するモデル(以下、「架設部材モデル」という。)が含まれる。なお架設部材モデルは、構造物モデルの一部である計画架設位置(架設すべき計画位置)のほか、架設部材に係る形状や寸法、重量、重心などを含んで構成される。
【0025】
(クレーン仕様データ)
本願発明のクレーン配置支援システムでは、複数種類のクレーンの情報を含むテーブルを利用する。このクレーンに関するテーブルのことを、ここでは「クレーン仕様データ」ということとし、クレーン仕様データを構成するレコードのことを「クレーンレコード」ということとする。もちろんクレーン仕様データは、複数のクレーンレコードによって構成される。クレーンレコードは、そのクレーンの寸法を表すパラメータ(以下、「寸法パラメータ」という。)と、そのクレーンの能力に関するパラメータ(以下、「能力パラメータ」という。)を含んで構成され、さらにそのレコードを特定する識別子(以下、「クレーン識別子」という。)や、クレーンの名称などを含んで構成することもできる。また寸法パラメータには少なくともクレーンのブーム長が含まれ、さらに車長や車幅、車高、張出したときのアウトリガー幅などを含むこともできる。能力パラメータには少なくともクレーンに係る定格荷重が含まれ、さらに最大吊荷重などを含むこともできる。なおこの定格荷重は、「吊半径(作業半径ともいう。)」とその吊半径で吊上げることができる「半径別最大荷重」との組み合わせを構成単位とし、すなわち能力パラメータには複数の「吊半径-半径別最大荷重」の組み合わせが含まれる。
【0026】
2.クレーン配置支援システム
次に、本願発明のクレーン配置支援システムについて説明する。
図1は、本願発明のクレーン配置支援システム100の主な構成を示すブロック図である。この図に示すように本願発明のクレーン配置支援システム100は、クレーン選出手段101と架設部材指定手段102、クレーン位置選定手段103を含んで構成され、さらにクレーン配置範囲設定手段104や地組範囲設定手段105、表示制御手段106、最適施工プラン選出手段107、表示手段108、クレーン仕様データ記憶手段109、構造物モデル記憶手段110、施工プラン記憶手段111などを含んで構成することもできる。
【0027】
クレーン配置支援システム100を構成するクレーン選出手段101と架設部材指定手段102、クレーン位置選定手段103、クレーン配置範囲設定手段104、地組範囲設定手段105、表示制御手段106、最適施工プラン選出手段107は、専用のものとして製造することもできるし、汎用的なコンピュータ装置を利用することもできる。すなわち、所定のプログラムによってコンピュータ装置に演算処理を実行させることで、それぞれの手段特有の処理を行うわけである。このコンピュータ装置は、CPU等のプロセッサ、ROMやRAMといったメモリを具備しており、さらにマウスやキーボード等の入力手段やディスプレイを含むものもあり、例えばパーソナルコンピュータ(PC)やサーバなどによって構成することができる。コンピュータ装置がディスプレイを含む場合、このディスプレイを表示手段108として利用することもできる。
【0028】
また、クレーン仕様データを記憶するクレーン仕様データ記憶手段109と、構造物モデルを記憶する構造物モデル記憶手段110、後述する施工プランを記憶する施工プラン記憶手段111は、汎用的コンピュータ(例えば、パーソナルコンピュータ)の記憶装置を利用することもできるし、データベースサーバに構築することもできる。データベースサーバに構築する場合、ローカルなネットワーク(LAN:Local Area Network)に置くこともできるし、インターネット経由(つまり無線通信)で保存するクラウドサーバとすることもできる。
【0029】
以下、本願発明のクレーン配置支援システム100を構成する主な要素ごとに詳しく説明する。
【0030】
(クレーン選出手段)
クレーン選出手段101は、所望のクレーンを選出する手段であり、より詳しくは、クレーン仕様データから所望のクレーンレコードを選出する手段である。例えば、表示手段108にクレーン仕様データを表示したうえで、それを目視しながらオペレータがポインティングデバイス(マウスやタッチパネル、ペンタブレット、タッチパッド、トラックパッド、トラックボールなど)やキーボード等を操作してクレーンレコードを指定すると、クレーン選出手段101が該当するクレーンレコードをクレーン仕様データ記憶手段109から読み出す仕様とすることができる。あるいは、オペレータがキーボード等を操作して「クレーン諸元」を入力すると、そのクレーン諸元に近似する(あるいは、一致する)クレーンレコードをクレーン仕様データ記憶手段109から読み出す仕様とすることもできる。ここでクレーン諸元とは、クレーンに関する種々の属性情報のことであり、クレーのブーム長や車長、車幅、車高、張出したときのアウトリガー幅、最大吊荷重などを挙げることができる。
【0031】
(架設部材指定手段)
架設部材指定手段102は、所望の架設部材を選出する手段であり、より詳しくは、構造物モデルに含まれる架設部材モデルから所望の架設部材モデルを選出する手段である。例えば、表示手段108に構造物モデルを表示したうえで、それを目視しながらオペレータがポインティングデバイスやキーボード等を操作して架設部材モデルを指定すると、架設部材指定手段102が該当する架設部材モデルを構造物モデル記憶手段110から読み出す仕様とすることができる。なお架設部材指定手段102は、1つの架設部材を選出することもできるし、同時に2以上の架設部材を選出することもできる。
【0032】
(クレーン配置範囲設定手段と地組範囲設定手段)
クレーン配置範囲設定手段104は施工領域内でクレーン配置範囲を設定する手段であり、地組範囲設定手段105は施工領域内で地組範囲を設定する手段である。例えば、3Dモデル(3次元空間情報を有するモデル)化された施工領域を表示手段108に表示したうえで、それを目視しながらオペレータがポインティングデバイスやキーボード等を操作して所定の範囲を指定すると、クレーン配置範囲設定手段104がクレーン配置範囲を設定し、地組範囲設定手段105が地組範囲を設定する仕様とすることができる。
【0033】
(クレーン位置選定手段)
クレーン位置選定手段103は、クレーン選出手段101によって指定されたクレーンレコードと、架設部材指定手段102によって指定された架設部材モデルに基づいて、クレーンレコードに係るクレーンのクレーン位置と地組位置を選定する手段である。ただし、クレーン配置範囲が設定されているときはそのクレーン配置範囲に含まれることを条件としてクレーン位置を選定し、地組範囲が設定されているときはその地組範囲に含まれることを条件として地組位置を選定する。なお、クレーン位置選定手段103は、指定された条件(クレーンレコードと架設部材モデル)を満たすクレーン位置と地組位置の組み合わせを選定するものであり、したがって条件によっては1種類のクレーン位置と地組位置を選定することもあるし、2種類以上のクレーン位置と地組位置を選定することもある。2種類以上のクレーン位置と地組位置が選定された場合、換言すれば候補として2種類以上のクレーン位置と地組位置が選定された場合、オペレータ操作によって1のクレーン位置と地組位置を指定する仕様にするとよい。
【0034】
クレーン位置選定手段103がクレーン位置を選定するにあたっては、クレーンレコードの定格荷重が参照される。例えば、架設部材モデルの重量を半径別最大荷重としたうえで、その半径別最大荷重に対応する吊半径を抽出し、架設部材モデルの計画架設位置が中心で半径がその吊半径となる円(以下、「吊限界線」という。)を設定し、その吊限界線の上をクレーン位置の候補として選定することができる。さらに、橋梁の橋軸方向に対して垂直となる方向など、あらかじめ定めた方向(以下、「特定方向」という。)と吊限界線の交点をクレーン位置として選定することもできる。この特定方向は、橋軸方向に対して90°のように「線」で設定することもできるし、80~100°のように放射状の幅をもって設定することもできる。もちろん、クレーン配置範囲が設定されているときは、そのクレーン配置範囲に含まれることを条件としてクレーン位置を選定する。この場合、特定方向と吊限界線が交差する部分が、クレーン位置(あるいはその候補)とされる。
【0035】
クレーン位置選定手段103が地組位置を選定するにあたっては、
図2に示す「目標平面配置」が参照される。
図2は、目標平面配置を模式的に示すモデル図である。この図に示すように目標平面配置は、計画架設位置とクレーン位置、地組位置の平面上の配置によってあらかじめ定められる指標である。この目標平面配置は、地組位置Fとクレーン位置Cを結ぶ線分(以下、「起点線分」という。)の長さと、計画架設位置Tとクレーン位置Cを結ぶ線分(以下、「終点線分」という。)の長さ、そして起点線分と終点線分からなる挟角(以下、「目標挟角」という。)に基づいて目標平面配置を設定することができる。例えば
図3に示すように、計画架設位置とクレーン位置、地組位置が概ね直線状に並ぶことを目指す場合、架設部材モデルの重量を半径別最大荷重としたうえで吊半径を抽出し、起点線分と終点線分の長さをそれぞれ吊半径とするとともに、目標挟角を180°とすることによって目標平面配置を設定することができる。特定方向と同様、この目標挟角も170~190°のように幅をもって設定することもできる。もちろん、地組配置範囲が設定されているときは、そのクレーン配置範囲に含まれることを条件としてクレーン位置を選定する。これによりクレーン位置選定手段103は、クレーン位置が定まると地組位置(あるいはその候補)を選定することができるわけである。
【0036】
上記したとおり架設部材指定手段102は、同時に2以上の架設部材を選出することもできる。この場合、クレーン位置選定手段103は、クレーンレコードと、2以上の架設部材モデルに基づいて、クレーン位置と地組位置を選定することとなる。例えば、橋軸方向に隣接する架設部材Aと架設部材Bが選出された場合、クレーンが同じクレーン位置で架設部材Aと架設部材Bを架設し得ることを条件として、クレーン位置を選定する。つまり、架設部材Aの計画架設位置とクレーンレコードの定格荷重、特定方向に基づいて、架設部材Aを設置するためのクレーン位置の候補を選定するとともに、架設部材Bの計画架設位置とクレーンレコードの定格荷重、特定方向に基づいて、架設部材Bを設置するためのクレーン位置の候補を選定し、それぞれの候補に共通するものをクレーン位置として選定するわけである。同様に、架設部材Aの計画架設位置とクレーン位置、目標平面配置に基づいて、架設部材Aを地組みするための地組位置の候補を選定するとともに、架設部材Bの計画架設位置とクレーン位置、目標平面配置に基づいて、架設部材Bを地組みするための地組位置の候補を選定し、それぞれの候補に共通するものを地組位置として選定する。
【0037】
実際には、クレーンが地組位置から吊上げた架設部材を旋回することによって計画架設位置まで移動するが、その際に周辺にある送電線や建屋など(以下、「周辺環境物」という。)に架設部材が干渉することもある。そこでクレーン位置選定手段103は、クレーンが旋回している間、架設部材が周辺環境物に干渉しないことを条件としてクレーン位置と地組位置を選定する仕様にするとよい。この場合、3Dモデル(3次元空間情報を有するモデル)化された周辺環境物を利用し、クレーンレコードの寸法パラメータと架設部材モデルの形状に基づいて、架設部材と周辺環境物との干渉を判断するとよい。
【0038】
(表示制御手段)
表示制御手段106は、クレーン選出手段101によって指定されたクレーン(クレーンレコード)を、クレーン位置選定手段103によって選定されたクレーン位置に配置した状態を、表示手段108に表示させる手段である。例えば、
図4(a)ではクレーン位置に配置されたクレーンを上方から見た状況をディスプレイなどの表示手段108に表示しており、
図4(b)ではクレーン位置に配置されたクレーンを斜方向から見た状況を表示手段108に表示している。
【0039】
また表示制御手段106は、クレーン位置選定手段103がクレーン位置と地組位置を選定すると、
図5に示すように、地組位置におけるクレーンの吊姿勢(以下、「地組側吊姿勢」という。)と計画架設位置におけるクレーンの吊姿勢(以下、「架設側吊姿勢」という。)を、表示手段108に同時に表示させる。このとき、クレーン位置選定手段103がクレーン位置と地組位置を選定した後にオペレータ操作に応じて表示制御手段106が地組側吊姿勢と架設側吊姿勢を表示させる仕様とすることもできるし、クレーン位置選定手段103がクレーン位置と地組位置を選定したことをトリガーとして表示制御手段106が地組側吊姿勢と架設側吊姿勢を表示させる仕様とすることもできる。
【0040】
(最適施工プラン選出手段)
通常、橋梁の上部工は複数の架設部材によって構成される。つまり、施工全体を計画するにあたっては、すべての架設部材に対してクレーン位置や地組位置を選定することになる。なお便宜上ここでは、すべての架設部材に対して選定されたクレーン位置や地組位置の組み合わせのことを「施工プラン」ということとする。そして、クレーンの種別(つまり、クレーンレコード)を変えながら、あるいはクレーンの種別は変えることなくクレーン位置や地組位置を変えながら、複数パターンの施工プランを作成し、そのうち最も適切な施工プラン(以下、「最適施工プラン」という。)で実際に施工を行うことが望ましい。
【0041】
最適施工プラン選出手段107は、施工プラン記憶手段111に記憶された複数パターンの施工プランのなかから最適施工プランを選出する手段である。最適施工プラン選出手段107が最適施工プランを選出するにあたっては、施工プランに含まれるクレーン位置の数が少ないことを条件とすることができる。つまり、クレーンの盛替えが少ない施工プランを選出するわけである。一方、クレーンの盛替えが少ないケースでは吊能力が高い(つまり、最大吊荷重が大きい)クレーンが選定される傾向となるが、一般的には吊能力の高いクレーンほどコストが掛かる。そこで、施工プランごとに使用するすべてのクレーンにかかるコスト(以下、「クレーン賃料」という。)を算出し、「クレーン位置の数」と「クレーン賃料」に基づいて最適施工プランを選定するとよい。具体的には、「クレーン賃料」があらかじめ定められた上限額を超えない条件の下、「クレーン位置の数」が最小となる施工プランを最適施工プランとして選出したり、「クレーン位置の数」があらかじめ定められた上限数(上部工を構成する架設部材の数よりもn(自然数)だけ少ない数など)を超えない条件の下、「クレーン賃料」が最小となる施工プランを最適施工プランとして選出したりすることができる。あるいは、「クレーン位置の数」と「クレーン賃料」の積(「クレーン位置の数」×「クレーン賃料」)が最小となるなど、「クレーン位置の数」と「クレーン賃料」に基づいて得られる数値が最小(場合によっては最大)となることを条件として最適施工プランを選出することもできる。
【0042】
また最適施工プラン選出手段107は、施工プランに含まれる「クレーン位置の数」と「クレーン賃料」に基づいて最適施工プランを選出する仕様に加え(あるいは、代えて)、施工プランに含まれる「地組位置の数」に基づいて最適施工プランを選出する仕様とすることもできる。つまり、同じ地組位置で数多くの架設部材を地組みすることができるという条件も考慮したうえで選出するわけである。なお、クレーンの種別(つまり、クレーンレコード)を変えることなく、クレーン位置や地組位置を変えながら複数パターンの施工プランを作成するケースでは、単に施工プランに含まれるクレーン位置の数が最少となることを条件としたり、施工プランに含まれる地組位置の数が最少であるということを条件としたりすることによって、最適施工プランを選出することができる。
【0043】
(処理の流れ)
以下、
図6を参照しながらクレーン配置支援システム100の主な処理について詳しく説明する。
図6は、本願発明のクレーン配置支援システム100の主な処理の流れを示すフロー図である。なおこのフロー図では、中央の列に実施する行為を示し、左列にはその行為に必要なものを、右列にはその行為から生ずるものを示している。
【0044】
図6に示すように、まずクレーン選出手段101を用いてクレーンレコード(つまり、クレーン)を選出するとともに(
図6のStep201)、架設部材指定手段102を用いて架設部材モデル(つまり、架設部材)を指定する(
図6のStep202)。クレーンレコードが選出され、架設部材モデルが指定されると、クレーン位置選定手段103がクレーン位置を選定する(
図6のStep203)。なお、クレーンレコードと架設部材モデルの組み合わせによっては、その架設部材モデルを吊上げることができないなどの理由から、クレーン位置を選定することができない、つまり「配置不可」と判断される(
図6のStep204のNo)こともある。この場合、改めて他のクレーンレコードを選出する(
図6のStep201)。一方、クレーン位置を選定することができる場合(
図6のStep204のYes)、後続の処理に進む。
【0045】
クレーン位置が選定されると、クレーン位置選定手段103が地組位置を選定する(
図6のStep205)。なお、クレーンレコードと架設部材モデルの組み合わせによっては、地組範囲に地組位置を選定することができないなどの理由から、地組位置を選定することができない、つまり「配置不可」と判断される(
図6のStep206のNo)こともある。この場合、改めて他のクレーンレコードを選出する(
図6のStep201)。一方、クレーン位置と地組位置を選定することができる場合(
図6のStep206のYes)、後続の処理に進む。
【0046】
クレーン位置を選定することができ(
図6のStep204のYes)、地組位置を選定することができる(
図6のStep206のYes)と、クレーン位置と地組位置をひとまず決定し(
図6のStep207)、表示制御手段106がクレーンの地組側吊姿勢と架設側吊姿勢を表示手段108に同時に表示させる(
図6のStep208)。
【0047】
橋梁の上部工を構成するすべての架設部材に対してクレーン位置や地組位置が選定され、つまり施工プランが作成されると、その施工プランは施工プラン記憶手段111に記憶される。そして、クレーンの種別(つまり、クレーンレコード)を変えながら、複数パターンの施工プランを作成していく(
図6のStep209)。そして、想定されるパターンの施工プランが作成されると、最適施工プラン選出手段107が施工プラン記憶手段111から最適施工プランを選出する(
図6のStep210)。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本願発明のクレーン配置支援システムは、橋梁をはじめとする土木構造物のほか、建築構造物などを構築するため架設部材を設置する際に利用することができるとともに、架設部材を撤去する際にも利用することができる。本願発明が、適切なクレーン位置の選定を支援する結果、適正に工事費を抑制し、ひいては建設インフラストラクチャーにかかる費用の低減化を図ることができることを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明である。
【符号の説明】
【0049】
100 本願発明のクレーン配置支援システム
101 (クレーン配置支援システムの)クレーン選出手段
102 (クレーン配置支援システムの)架設部材指定手段
103 (クレーン配置支援システムの)クレーン位置選定手段
104 (クレーン配置支援システムの)クレーン配置範囲設定手段
105 (クレーン配置支援システムの)地組範囲設定手段
106 (クレーン配置支援システムの)表示制御手段
107 (クレーン配置支援システムの)最適施工プラン選出手段
108 (クレーン配置支援システムの)表示手段
109 (クレーン配置支援システムの)クレーン仕様データ記憶手段
110 (クレーン配置支援システムの)構造物モデル記憶手段
111 (クレーン配置支援システムの)施工プラン記憶手段