(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143119
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】印刷物の製造方法、印刷装置、およびファニッシャーロール
(51)【国際特許分類】
B41M 1/10 20060101AFI20241003BHJP
B41M 1/30 20060101ALI20241003BHJP
B41F 31/26 20060101ALI20241003BHJP
B41F 31/10 20060101ALI20241003BHJP
B41F 9/00 20060101ALI20241003BHJP
C09D 11/02 20140101ALI20241003BHJP
【FI】
B41M1/10
B41M1/30 D
B41F31/26
B41F31/10
B41F9/00
C09D11/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055626
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】313004403
【氏名又は名称】株式会社フジシール
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 利彦
(72)【発明者】
【氏名】水谷 直紀
(72)【発明者】
【氏名】大西 直樹
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 彰
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 聡
【テーマコード(参考)】
2C034
2C250
2H113
4J039
【Fターム(参考)】
2C034AA22
2C250DC14
2C250DC24
2C250EA04
2C250EA23
2H113AA01
2H113AA05
2H113BA03
2H113BC01
2H113BC02
2H113DA28
2H113DA47
2H113DA57
2H113EA10
4J039CA06
4J039EA42
4J039GA03
(57)【要約】
【課題】ファニッシャーロールの外周面の状態に起因したスジヌケの発生を抑えることができる印刷物の製造方法を提供する。
【解決手段】印刷物の製造方法は、以下の印刷装置を用いて、版胴3によって画像を被印刷素材に転写する工程を含む。印刷装置は、インキを保持するインキパンと、外周面に軸方向に並ぶ複数の画像領域31,32,33を有する版胴3と、回転することによってインキを版胴3に供給するファニッシャーロール6とを備え、ファニッシャーロール6の外周面は、軸方向に沿って順に隣接して並ぶように第1区間61、第2区間62および第3区間63を有し、第2区間62は、前記複数の画像領域を一括してまたぐ凹部となっており、ファニッシャーロール6は、第1区間61の少なくとも一部および第3区間63の少なくとも一部を版胴3に当接させたとき、第2区間62は版胴3に当接しないような形状である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インキを保持するインキパンと、
外周面に軸方向に並ぶ複数の画像領域を有する版胴と、
前記インキパンに保持された前記インキの液面に部分的に侵入した状態で回転することによって前記インキを前記版胴に供給するファニッシャーロールとを備え、
前記ファニッシャーロールの外周面は、軸方向に沿って順に隣接して並ぶように第1区間、第2区間および第3区間を有し、前記第2区間は、前記複数の画像領域を一括してまたぐ凹部となっており、前記ファニッシャーロールは、前記第1区間の少なくとも一部および前記第3区間の少なくとも一部を前記版胴に当接させたとき、前記第2区間は前記版胴に当接しないような形状である、印刷装置を用いて、
前記版胴および前記ファニッシャーロールをそれぞれ回転させた状態で、前記ファニッシャーロールから前記版胴に前記インキを供給する工程と、
被印刷素材を前記版胴の外表面に送り込む工程と、
前記版胴から前記被印刷素材へと前記インキを転移させることによって、前記複数の画像領域に対応する画像を前記被印刷素材に転写する工程とを含む、印刷物の製造方法。
【請求項2】
前記ファニッシャーロールにおいては、前記第1区間の前記第2区間に最も近い端と、前記第3区間の前記第2区間に最も近い端とのうち少なくとも一方は、面取りされている、請求項1に記載の印刷物の製造方法。
【請求項3】
前記インキは、水性インキである、請求項1または2に記載の印刷物の製造方法。
【請求項4】
前記インキは、溶媒または分散媒として第1液体を含み、前記第1液体は水を主成分とし、前記インキは、有機溶剤成分を含まないか、または、質量比で10%以下の有機溶剤成分を含む、請求項3に記載の印刷物の製造方法。
【請求項5】
前記版胴の接線速度に対する前記ファニッシャーロールの接線速度の割合は、5%以上50%以下である、請求項1または2に記載の印刷物の製造方法。
【請求項6】
インキを保持するインキパンと、
外周面に軸方向に並ぶ複数の画像領域を有する版胴と、
前記インキパンに保持された前記インキの液面に部分的に侵入した状態で回転することによって前記インキを前記版胴に供給するファニッシャーロールとを備え、
前記ファニッシャーロールの外周面は、軸方向に沿って順に隣接して並ぶように第1区間、第2区間および第3区間を有し、前記第2区間は、前記複数の画像領域を一括してまたぐ凹部となっており、前記ファニッシャーロールは、前記第1区間の少なくとも一部および前記第3区間の少なくとも一部を前記版胴に当接させたとき、前記第2区間は前記版胴に当接しないような形状である、印刷装置。
【請求項7】
前記ファニッシャーロールにおいては、前記第1区間の前記第2区間に最も近い端と、前記第3区間の前記第2区間に最も近い端とのうち少なくとも一方は、面取りされている、請求項6に記載の印刷装置。
【請求項8】
インキパンに保持された前記インキの液面に部分的に侵入した状態で回転することによって、前記インキを、外周面に軸方向に並ぶ複数の画像領域を有する版胴に供給するためのファニッシャーロールであって、
前記ファニッシャーロールの外周面は、軸方向に沿って順に隣接して並ぶように第1区間、第2区間および第3区間を有し、前記第2区間は、前記複数の画像領域を一括してまたぐ凹部となっており、前記ファニッシャーロールは、前記第1区間の少なくとも一部および前記第3区間の少なくとも一部を前記版胴に当接させたとき、前記第2区間は前記版胴に当接しないような形状である、ファニッシャーロール。
【請求項9】
前記ファニッシャーロールにおいては、前記第1区間の前記第2区間に最も近い端と、前記第3区間の前記第2区間に最も近い端とのうち少なくとも一方は、面取りされている、請求項8に記載のファニッシャーロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷物の製造方法、印刷装置、およびファニッシャーロールに関するものである。より具体的には、グラビア印刷による印刷物の製造方法に関するものである。さらに、本発明は、この製造方法を実施するのに好適な印刷装置、およびファニッシャーロールにも関する。
【背景技術】
【0002】
ファニッシャーロールを備えるグラビア印刷装置が知られている。このようなグラビア印刷装置は、たとえば特開2002-96448号公報(特許文献1)に記載されている。グラビア印刷装置は、版胴と、圧胴と、ドクターブレードと、ファニッシャーロールと、インキパンとを備える。版胴の外周面には印刷すべき画像に対応する版面が形成されている。ファニッシャーロールの外周面は、版胴の外周面に当接している。版胴と圧胴とは、被印刷物を挟むように配置されている。インキパンにはインキが貯められている。ファニッシャーロールの一部はインキの液面に浸けられている。版胴およびファニッシャーロールがそれぞれ回転することによって、ファニッシャーロールがインキを版胴の外周面に供給する。ドクターブレードは、版胴の外周面に当接するように配置されている。版胴の外周面に付着したインキのうち余分なインキは、ドクターブレードによって掻き落とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
グラビア印刷装置を長く使用していると、ファニッシャーロールの表面が劣化してくる。特に水性インキを用いたグラビア印刷では、インキの濡れ性が低いので、版胴にインキを供給するファニッシャーロールの表面が劣化していると、版胴への当たりが不均一となり、版胴に十分なインキが供給されずに版面の画像の一部からインキが抜けてしまう場合がある。そうなると、版胴から被印刷物へのインキの転写が正しく行われない領域が発生する。被印刷物においては、この領域が筋状に発生するので、この現象は「スジヌケ」と呼ばれる。ファニッシャーロールの版胴に対する押圧力を下げることによって、スジヌケの発生は抑制される傾向にあるが、押圧力の調整にも限界がある。
【0005】
ファニッシャーロールの外周面はゴムで形成されているが、このゴムの自然劣化、偏摩耗、硬化などによって、外周面の硬度がばらつき、版面へのファニッシャーロールの当り方が変化することによっても、スジヌケが発生する場合がある。
【0006】
そこで、本発明は、ファニッシャーロールの外周面の状態に起因したスジヌケの発生を抑えることができる印刷物の製造方法、印刷装置、およびファニッシャーロールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に基づく印刷物の製造方法は、以下のような印刷装置を用いて行なわれる。この印刷装置は、インキを保持するインキパンと、外周面に軸方向に並ぶ複数の画像領域を有する版胴と、上記インキパンに保持された上記インキの液面に部分的に侵入した状態で回転することによって上記インキを上記版胴に供給するファニッシャーロールとを備える。この印刷装置においては、上記ファニッシャーロールの外周面は、軸方向に沿って順に隣接して並ぶように第1区間、第2区間および第3区間を有し、上記第2区間は、上記複数の画像領域を一括してまたぐ凹部となっており、上記ファニッシャーロールは、上記第1区間の少なくとも一部および上記第3区間の少なくとも一部を上記版胴に当接させたとき、上記第2区間は上記版胴に当接しないような形状である。この印刷物の製造方法は、上記版胴および上記ファニッシャーロールをそれぞれ回転させた状態で、上記ファニッシャーロールから上記版胴に前記インキを供給する工程と、被印刷素材を上記版胴の外表面に送り込む工程と、上記版胴から上記被印刷素材へと上記インキを転移させることによって、上記複数の画像領域に対応する画像を上記被印刷素材に転写する工程とを含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、製造方法に用いられる印刷装置に備わるファニッシャーロールは、第1区間の少なくとも一部および第3区間の少なくとも一部を版胴に当接させたとき、第2区間は版胴に当接しないような形状であって、ファニッシャーロールの外表面の劣化を抑えることができるので、ファニッシャーロールの外周面の状態に起因したスジヌケの発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に基づく実施の形態1における印刷物の製造方法に用いられる印刷装置の概念図である。
【
図2】
図1に示された印刷装置に備わるファニッシャーロールなどの側面図である。
【
図3】本発明に基づく実施の形態1における印刷物の製造方法のフローチャートである。
【
図4】本発明に基づく実施の形態1における印刷物の製造方法に用いられる印刷装置に備わるファニッシャーロールの第1の変形例の側面図である。
【
図5】本発明に基づく実施の形態1における印刷物の製造方法に用いられる印刷装置に備わるファニッシャーロールの第2の変形例の側面図である。
【
図6】本発明に基づく実施の形態2における印刷物の製造方法に用いられる印刷装置の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施の形態1)
(製造方法)
図1~
図3を参照して、本発明に基づく実施の形態1における印刷物の製造方法について説明する。まず、この製造方法に用いる印刷装置について説明する。
【0011】
図1に示すように、印刷装置101は、インキパン2と、版胴3と、圧胴4と、ファニッシャーロール6と、ドクターブレード7とを備える。インキパン2は、インキ1を保持する。インキ1は、液体である。版胴3と圧胴4とは、被印刷素材5を挟み込むように配置されている。被印刷素材5は、版胴3と圧胴4との間を通過するように走行する。被印刷素材5は、
図1に示すように長尺状であってよい。被印刷素材5は、熱可塑性樹脂で形成されていてもよい。被印刷素材5は、たとえば樹脂フィルムであってよい。被印刷素材5の材質は、たとえばポリエチレンテレフタレート(PET)系樹脂、ポリ乳酸などのポリエステル系樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体などのポリスチレン(PS)系樹脂、ポリプロピレン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂などであってよい。被印刷素材5は、複層フィルムであってもよい。ここでいう「複層フィルム」としては、たとえば表面層にポリエチレンテレフタレート系樹脂、中心層にポリスチレン系樹脂が用いられた積層フィルムであってもよい。
【0012】
版胴3は矢印91の向きに回転する。ファニッシャーロール6は、版胴3がインキ1の液面に最も接近している箇所に比べて、版胴3の回転の上流側に配置されている。
図1に示すように、ファニッシャーロール6は、インキパン2に保持されたインキ1の液面に部分的に侵入した状態で回転することによってインキ1を版胴3に供給するものである。ファニッシャーロール6の外周面は、たとえばゴム製であってよい。ファニッシャーロール6は矢印92の向きに回転する。ドクターブレード7の先端は、版胴3の外周面に当接している。ドクターブレード7は、版胴3の外周面に付着した余分なインキ1を掻き落とす役割を果たす。
【0013】
版胴3と、圧胴4と、ファニッシャーロール6との組合せを、異なる向きから見たところを
図2に示す。この例では、版胴3は、外周面に複数の画像領域31,32,33を有する。複数の画像領域31,32,33は、版胴3の軸方向に並んでいる。ここでは、一例として3つの画像領域が軸方向に並んでいる例を示しているが、これはあくまで一例であって、軸方向に並ぶ画像領域の数は3以外であってもよい。
【0014】
版胴3の画像領域は、「セル」と呼ばれる凹部と、凹部以外の面とを含む。凹部以外の面は、「セル」と区別して「土手」とも呼ばれる。版胴3の画像領域は、複数のセルが土手を介して規則的に形成されている領域と、セルが形成されていない領域とを含む。インキが付着しているファニッシャーロール6によってインキが画像領域の全体に付着させられる。インキの一部はセルに入り込む。ドクターブレード7によってセル内に入り込んだインキ以外のインキは掻き取られる。その後、圧胴4によって画像領域が被印刷素材5に押し付けられることによって、セル内のインキのみが被印刷素材5に転移させられる。たとえば、1つの画像領域は、1つのラベルの印刷デザインに対応する領域であってもよい。
図2に示された例の場合、幅方向に3列、長手方向に複数のラベルが並んで印刷された長尺状の印刷物を得ることができる。版胴3は、グラビア版である。
【0015】
図2に示すように、ファニッシャーロール6の外周面は、軸方向に沿って順に隣接して並ぶように第1区間61、第2区間62および第3区間63を有する。第2区間62は、複数の画像領域31,32,33を一括してまたぐ凹部となっている。ファニッシャーロール6は、第1区間61の少なくとも一部および第3区間63の少なくとも一部を版胴3に当接させたとき、第2区間62は版胴3に当接しないような形状である。
【0016】
第2区間62の幅は、たとえば500mm以上1300mm以下であってよい。第1区間61および第3区間63に対して第2区間62の表面が凹む深さDは、たとえば0.5mmであってよい。深さDは、たとえば0.3mmであってもよい。深さDは、ファニッシャーロール6の第2区間62における表面と版胴3の表面との間の隙間の大きさに相当する。深さDは、0.1mm以上1.0mm以下であることが好ましく、0.2mm以上0.8mm以下であることがより好ましい。
【0017】
本実施の形態における印刷物の製造方法は、上述のような印刷装置101を用いて行うものである。この印刷物の製造方法のフローチャートを
図3に示す。
【0018】
本実施の形態における印刷物の製造方法は、版胴3およびファニッシャーロール6をそれぞれ回転させた状態で、ファニッシャーロール6から版胴3にインキを供給する工程S1と、被印刷素材5を版胴3の外表面に送り込む工程S2と、版胴3から被印刷素材5へとインキを転移させることによって、複数の画像領域31,32,33に対応する画像を被印刷素材5に転写する工程S3とを含む。工程S1においては、版胴3およびファニッシャーロール6は、たとえばそれぞれ何らかの駆動源によって回転させられる。ここでいう駆動源とは、たとえばモータである。駆動源は、モータの代わりにたとえば空気圧であってもよい。すなわち、版胴3およびファニッシャーロール6の一方または両方は、風力駆動であってもよい。
【0019】
第2区間62におけるファニッシャーロール6の表面は版胴3に対して非接触であるとしても、インキがファニッシャーロール6から版胴3に転移可能な程度に、第2区間62にはインキが付着する。ファニッシャーロール6の表面において第2区間62は第1区間61および第3区間63に比べて凹部であるともいえるが、この凹部にインキが充填された状態となるので、第2区間62に充填されたインキは、ファニッシャーロール6から版胴3に転移することができる。
【0020】
版胴3の画像領域に形成されたセルは、ファニッシャーロール6に対して非接触である。
【0021】
工程S1,S2の両方が行なわれた後に、工程S3が行なわれる。
【0022】
版胴3およびファニッシャーロール6は、双方がそれぞれ能動的に回転している構成には限られず、一方が他方の回転によって受動的に回転している構成であってもよい。すなわち、たとえば版胴3が駆動源によって回転させられており、ファニッシャーロール6には駆動源がなく、ファニッシャーロール6は版胴3の回転の影響を受けて受動的に回転している構成であってもよい。版胴3およびファニッシャーロール6の各々の回転速度は、特に限定されない。現実的には、版胴3およびファニッシャーロール6の両方が回転し続けている状態で、工程S1,S2,S3が繰り返し行なわれてもよい。
【0023】
(作用・効果)
本実施の形態における印刷物の製造方法は、上述のような特定の形状のファニッシャーロール6を備える印刷装置を用いて行なうものであるので、ファニッシャーロール6にかかる負荷が少なく抑えられ、ファニッシャーロール6の劣化の進行度合いを軽減できる。したがって、本実施の形態では、ファニッシャーロールの外周面の状態に起因したスジヌケの発生を抑えることができる。
【0024】
なお、この印刷物の製造方法においては、ファニッシャーロール6の代わりに、
図4に示すファニッシャーロール6iを備える印刷装置を用いてもよい。ファニッシャーロール6iにおいては、第1区間61の第2区間62に最も近い端11と、第3区間63の第2区間62に最も近い端12とのうち少なくとも一方は、面取りされている。ここでいう「面取りされている」とは、角に斜めの面を形成するいわゆるC面取りも含み、かつ、角に丸みをもたせた形状すなわちR形状に加工することも含む概念である。このような構造のファニッシャーロール6iを備える印刷装置を用いることとすれば、ファニッシャーロールの摩耗を遅らせることができるので、好ましい。
図4に示した例では、端11,12の両方がR形状となっている。このように両方が面取りされていることが好ましいが、一方のみが面取りされている構成であっても、一定の効果を得ることができる。
【0025】
なお、この印刷物の製造方法においては、ファニッシャーロール6の代わりに、
図5に示すファニッシャーロール6jを備える印刷装置を用いてもよい。ファニッシャーロール6jにおいては、ファニッシャーロール6jの少なくとも一方の端部は、端に近づくほど径が小さくなるテーパ形状となっている区間64,65を含む。この構成を採用することにより、ファニッシャーロール6jによって持ち上げられたインキ1が重力によってインキパン2へと落下する際に落下する高さを低くすることができるので、インキ1の周辺への飛散を抑制することができる。
図5に示した例では、ファニッシャーロール6jは両端にテーパ形状の区間64,65を備えている。このように両端にテーパ形状の区間が設けられていることが好ましいが、一方の端部のみがテーパ形状となっている構成であっても、一定の効果を得ることができる。
【0026】
本実施の形態における印刷物の製造方法を行なう際には、インキ1は、水性インキおよび油性インキのいずれであってもよい。インキ1は、たとえば水性インキである。本実施の形態における印刷物の製造方法は、水性インキを用いた印刷に適する。本実施の形態における印刷物の製造方法においては、水性エマルジョンインキを用いることが、特に好ましい。インキ1が水性インキである場合には、版胴3の外周面に対する濡れ性が低く、特にスジヌケが発生しやすいので、上述の製造方法を実施することによって、スジヌケの防止という効果の恩恵を大いに享受することができる。
【0027】
なお、ここでいう「水性インキ」とは、水、または、水とアルコールとの混合液が、溶媒または分散媒の主成分として用いられるインキのことである。ここでいう「油性インキ」とは、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、炭化水素系溶剤などの有機溶剤成分が、溶媒または分散媒の主成分として用いられるインキのことである。
【0028】
なお、インキ1は、溶媒または分散媒として第1液体を含み、この第1液体は水を主成分とし、インキ1は、有機溶剤成分を含まないか、または、質量比で10%以下の有機溶剤成分を含むことが好ましい。この構成を採用することにより、インキ1を比較的安全なものとすることができ、防爆仕様の環境が不要となる。なお、ここでいう「有機溶剤成分」の概念には、アルコールが含まれる。さらに、インキ1に含まれる有機溶剤成分の割合は、質量比で8%以下であることがより好ましい。さらに、インキ1に含まれる有機溶剤成分の割合は、質量比で5%以下であることがより好ましい。このように、有機溶剤成分の割合の質量比を小さく抑えることにより、インキ1をさらに安全なものとすることができる。
【0029】
なお、印刷物の製造方法は、被印刷素材に転移したインキを乾燥させて印刷層を形成する工程を含むという捉え方もできる。印刷物の製造方法は、前記転写する工程S3の後に、インキ1を乾燥させて印刷層を形成する工程を含むことが好ましい。
【0030】
なお、印刷物は、一般的には複数種類のインキを用いて、印刷することによって最終目的とする画像が形成される場合が多い。特に複数の色を用いた最終画像を得たい場合には、各色のインキごとに順に印刷が行なわれる。複数種類のインキでの印刷を行なう場合には、インキの1種類ごとに
図1に示した印刷装置が用意され、被印刷素材に対しては、これらの複数の印刷装置による印刷が順に施されることによって、上述の工程が繰り返され、複数の印刷層が形成される。この場合、特に異なるインキが乾燥前に混じり合ってしまうことを避けることが求められるので、1種類のインキでの印刷が行なわれるごとに、インキを乾燥させて印刷層を形成する工程が確保されることが好ましい。
【0031】
たとえばn色(nは2以上の整数)での印刷を行なう場合には、第1の印刷装置から第nの印刷装置が用意され、各印刷装置の間には、インキを乾燥させて印刷層を形成する工程が行なえる程度の、環境が設けられる。被印刷素材は、これらのn台の印刷装置の中を順に通り抜けるようにすればよい。このようにして、第1の印刷装置から第nの印刷装置にかけて、転写する工程と乾燥させて印刷層を形成する工程とを交互に繰り返すことによって、n色の印刷による最終画像を得ることができる。
【0032】
なお、前記版胴の接線速度に対する前記ファニッシャーロールの接線速度の割合は、5%以上50%以下であることが好ましい。この構成を採用することにより、スジヌケ防止効果をより良好に得ることができる。
【0033】
(実施の形態2)
(製造方法)
図6を参照して、本発明に基づく実施の形態2における印刷物の製造方法について説明する。この製造方法に用いる印刷装置は、
図6に示す印刷装置102である。印刷装置102は、複数のファニッシャーロールを備える。具体的には、ファニッシャーロール6a,6bを備える。版胴3は矢印91の向きに回転するが、版胴3がインキ1の液面に最も接近している箇所に比べて、版胴3の回転の上流側にファニッシャーロール6aが配置され、下流側にファニッシャーロール6bが配置されている。ファニッシャーロール6aは矢印92の向きに回転する。ファニッシャーロール6bは矢印93の向きに回転する。ファニッシャーロール6aは図示しない何らかの駆動源によって回転させられる。ファニッシャーロール6bは図示しない何らかの駆動源によって回転させられてもよいが、ファニッシャーロール6bには独自の駆動源が設けられていない構成であってもよい。ファニッシャーロール6bに独自の駆動源が設けられていない場合には、ファニッシャーロール6bは版胴3の回転の力によって回転する。インキパン2から版胴3へのインキ1の供給は、ファニッシャーロール6a,6bの両方によって行なわれる。版胴3の外周面に形成された画像領域の任意の1点に注目すると、この点に対しては、まずファニッシャーロール6aによってインキ1が供給され、その後で、ファニッシャーロール6bによってインキ1が供給され、さらに、ドクターブレード7によって余分なインキ1が掻き落とされてから、版胴3と圧胴4との間を通過する。版胴3と圧胴4との間を通過する際には、被印刷素材5へのインキ1の転写が行なわれる。
【0034】
本実施の形態における印刷物の製造方法は、
図6に示した印刷装置102を用いて、
図3に示したフローチャートに沿って行なわれる。
【0035】
(作用・効果)
本実施の形態においても、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0036】
なお、
図1および
図6においては、版胴3がインキパン2に保持されているインキ1に浸漬していない例を示したが、版胴3はインキパン2に保持されているインキ1に浸漬していてもよい。
【0037】
なお、上記実施の形態のうち複数を適宜組み合わせて採用してもよい。
【0038】
なお、今回開示した上記実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0039】
1 インキ、2 インキパン、3 版胴、4 圧胴、5 被印刷素材、6,6a,6b,6i,6j ファニッシャーロール、7 ドクターブレード、11,12 端、31,32,33 画像領域、61 第1区間、62 第2区間、63 第3区間、64,65 区間、90,91,92,93 矢印、101,102 印刷装置。