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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143127
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】給電回路及びアンテナ装置
(51)【国際特許分類】
   H01P 1/17 20060101AFI20241003BHJP
   H01Q 21/24 20060101ALI20241003BHJP
   H01Q 21/30 20060101ALI20241003BHJP
   H01Q 13/08 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
H01P1/17
H01Q21/24
H01Q21/30
H01Q13/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055638
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006220
【氏名又は名称】ミツミ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】清水 秀記
【テーマコード(参考)】
5J021
5J045
【Fターム(参考)】
5J021AB06
5J021CA00
5J021FA05
5J021FA32
5J021JA02
5J021JA06
5J045AA02
5J045AA05
5J045AB06
5J045CA04
5J045DA10
5J045JA11
5J045NA02
(57)【要約】
【課題】2点給電の円偏波アンテナにおいて、広帯域での高利得を実現し、製品間のアンテナ特性のばらつきを少なくすることである。
【解決手段】給電回路50は、第1給電点及び第2給電点を有する円偏波アンテナのアンテナ部に給電する給電回路である。給電回路50は、入力信号を同じ位相かつ同じ振幅の第1信号及び第2信号に分配するウィルキンソンカプラ部60と、分配された第1信号及び第2信号を位相シフトして90度の位相差を与え、位相シフト後の第1信号を第1給電点に出力し、位相シフト後の第2信号を第2給電点に出力する90度位相器部70と、を備える。90度位相器部70は、分配された第1信号を位相シフトする分布定数回路部71と、分配された第2信号を位相シフトする集中定数回路部72と、を有する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1給電点及び第2給電点を有する円偏波アンテナに給電する給電回路であって、
入力信号を同じ位相かつ同じ振幅の第1信号及び第2信号に分配するウィルキンソンカプラと、
前記分配された第1信号及び第2信号を位相シフトして90度の位相差を与え、当該位相シフト後の第1信号を前記第1給電点に出力し、当該位相シフト後の第2信号を前記第2給電点に出力する90度位相器と、を備え、
前記90度位相器は、前記分配された第1信号を位相シフトする分布定数回路と、前記分配された第2信号を位相シフトする集中定数回路と、を有する給電回路。
【請求項2】
前記分布定数回路の位相シフト量は、-45度であり、
前記集中定数回路の位相シフト量は、+45度である請求項1に記載の給電回路。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の給電回路と、
前記円偏波アンテナと、を備えるアンテナ装置。
【請求項4】
前記円偏波アンテナは、
積層された複数のアンテナ素子を有し、
前記各アンテナ素子に対応する周波数帯が異なる請求項3に記載のアンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、給電回路及びアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車などの移動体の位置を測位する全地球航法衛星システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)などで使用される2点給電の円偏波アンテナが知られている。2点給電の円偏波アンテナの給電回路は、当該円偏波アンテナに入力するアンテナ電流を2経路に分配するウィルキンソンカプラ部と、分配された2径路のアンテナ電流に90度の位相差を付与し2つの出力信号を出力する90度位相器部と、を有する。
【0003】
例えば、ウィルキンソンカプラ部と、一方の経路を0度の位相シフト量の線路のみとし、他方の経路を+90度の位相シフト量の集中定数回路で構成した90度位相器部としての位相シフト部と、を有する給電回路を備える円偏波アンテナとしてのマイクロストリップアンテナが知られている(特許文献1参照)。集中定数回路は、コンデンサやコイルのチップ部品やリード部品などからなるディスクリート部品が用いられる回路である。
【0004】
また、ウィルキンソンカプラ部と、一方の経路を2線路の位相シフト量の+45度の集中定数回路とし、他方の経路を-45度の位相シフト量の集中定数回路で構成した90度位相器部としての位相シフト部と、を有する円偏波用給電回路が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6235813号公報
【特許文献2】特許第7101201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の給電回路は、90度差を発生させる側の経路による損失が発生し、位相シフト部の2つの給電点間に振幅差が発生し、かつ位相差も周波数特性を持ちやすい。
【0007】
図12は、特許文献1の給電回路の、周波数に対する2つの出力信号の位相差のばらつきを示す図である。図13は、特許文献2の(円偏波用)給電回路の、周波数に対する2つの出力信号の位相差のばらつきを示す図である。
【0008】
図12に、特許文献1の給電回路の製品における周波数[MHz]に対する2つの出力信号の位相差[度]のばらつきを示す。図12は、90度位相器部のチップキャパシタのばらつきを±0.1[pF]とし、同じくチップインダクタのばらつきを±2%とした条件下での位相差のばらつきである。図12において、実線を給電回路の90度位相器部の2つの出力信号の位相差の設計値とし、点線を製品間の位相差のばらつきの上限とし、一点鎖線を製品間の位相差のばらつきの下限とする。周波数1100[MHz]~1700[MHz]は、GNSSのうちのGPS(Global Positioning System)のL1帯(中心周波数:1575.42[MHz])、GPSのL2帯(中心周波数:1227.60[MHz])、GPSのL5帯(中心周波数:1176.45[MHz])、QZSS(Quasi-Zenith Satellite System:みちびき(準天頂衛星システム))のL6帯(中心周波数:1278.75[MHz])の周波数1150[MHz]~1606[MHz]を含む。図12の線種、周波数は、図11図13でも同様である。
【0009】
図12に示すように、特許文献1の給電回路は、周波数1150[MHz]~1606[MHz]の全域において、2つの出力信号の位相差が低域と高域とで30度ほど差が生じる周波数特性を有する。特許文献1の給電回路において、90度位相器部の集中定数回路を分布定数回路に代えた構成においても、同様の周波数特性がある。分布定数回路は、伝送線路や、回路基板上のパターニングにより、コイルやコンデンサが形成される回路である。
【0010】
また、特許文献2の給電回路は、90度位相器部の部品点数が多く、コストが高い。また、特許文献2の給電回路は、広帯域にしようとする場合、90度位相器部の定数に非常に細かい数値の設定が必要である。
【0011】
特許文献2の給電回路の製品の周波数[MHz]に対する2つの出力信号の位相差[度]のばらつきを図13に示す。図13に示すように、特許文献2の給電回路は、周波数1150[MHz]~1606[MHz]の全域において、±5度程度の位相差のばらつきが発生する。その結果、特許文献2の円偏波アンテナの製品間にもアンテナ特性のばらつきが発生する。特許文献1の給電回路は、周波数1150[MHz]~1606[MHz]の全域において、特許文献2の給電回路ほど顕著ではないが、位相差のばらつきが発生する。
【0012】
本発明の課題は、2点給電の円偏波アンテナにおいて、広帯域での高利得を実現し、製品間のアンテナ特性のばらつきを少なくすることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明の給電回路は、
第1給電点及び第2給電点を有する円偏波アンテナに給電する給電回路であって、
入力信号を同じ位相かつ同じ振幅の第1信号及び第2信号に分配するウィルキンソンカプラと、
前記分配された第1信号及び第2信号を位相シフトして90度の位相差を与え、当該位相シフト後の第1信号を前記第1給電点に出力し、当該位相シフト後の第2信号を前記第2給電点に出力する90度位相器と、を備え、
前記90度位相器は、前記分配された第1信号を位相シフトする分布定数回路と、前記分配された第2信号を位相シフトする集中定数回路と、を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、2点給電の円偏波アンテナにおいて、広帯域での高利得を実現でき、製品間のアンテナ特性のばらつきを少なくできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態のアンテナ装置の斜視図である。
図2】アンテナ装置の分解斜視図である。
図3】アンテナ装置の一部断面図である。
図4】基板部の裏面部を示す平面図である。
図5】給電回路の回路図である。
図6】変形例の給電回路の回路図である。
図7】実施の形態の給電回路と、特許文献1の給電回路との、周波数に対する2つの出力信号の振幅差を示す図である。
図8】実施の形態の給電回路と、特許文献1の給電回路との、周波数に対する2つの出力信号の位相差を示す図である。
図9】特許文献1の給電回路の-90度の位相シフト量の集中定数回路部と0度の位相シフト量の線路との、周波数に対する位相を示す図である。
図10】実施の形態の給電回路の-45度の位相シフト量の分布定数回路部と+45度の位相シフト量の集中定数回路部との、周波数に対する位相を示す図である。
図11】実施の形態の給電回路の、周波数に対する2つの出力信号の位相差のばらつきを示す図である。
図12】特許文献1の給電回路の、周波数に対する2つの出力信号の位相差のばらつきを示す図である。
図13】特許文献2の給電回路の、周波数に対する2つの出力信号の位相差のばらつきを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明に係る実施の形態を詳細に説明する。ただし、発明の範囲は、図示例に限定されない。
【0017】
図1図11を参照して、本発明に係る実施の形態を説明する。まず、図1図6を参照して、本実施の形態のアンテナ装置1の装置構成を説明する。図1は、本実施の形態のアンテナ装置1の斜視図である。図2は、アンテナ装置1の分解斜視図である。図3は、アンテナ装置1の一部断面図である。図4は、基板部30の裏面部312を示す平面図である。図5は、給電回路50の回路図である。図6は、給電回路50Aの回路図である。
【0018】
図1に示すように、本実施の形態のアンテナ装置1は、移動体としての自動車などの車両に設置されたGNSS用の2点給電の給電アンテナとしてのパッチアンテナの装置である。アンテナ装置1は、自動車なら、ダッシュボードなどに設置される。また、図1に示すように、x軸、y軸、z軸をとるものとし、他の図でも同様である。
【0019】
アンテナ装置1は、GNSSの衛星測位システムの通信規格の複数の周波数帯に対応する円偏波アンテナとしてのパッチアンテナの装置である。アンテナ装置1が対応する複数の周波数帯は、例えば、GNSSのGPSのL1帯、L2帯、L5帯及びQZSSのL6帯(1150~1606[MHz])に対応するものとする。GNSS衛星から送信されたGNSS信号の電波を受信し、電気信号である受信信号として、車両内に設置されたセットの受信機(図示略)に出力する。受信機により受信されたGNSS信号に基づいて、車両の測位などが行われる。
【0020】
図2に、本実施の形態のアンテナ装置1の分解構成を示す。図1及び図2に示すように、アンテナ装置1は、レドーム100と、アンテナ本体部200と、シールドケース300と、を備える。
【0021】
レドーム100は、アンテナ本体部200の全体を上側(+z側)から覆うドーム状のトップカバーであり、アンテナ本体部200を外部環境から保護する。レドーム100は、例えば、電波透過性のある樹脂製である。
【0022】
アンテナ本体部200は、円偏波アンテナとしてのアンテナ部A1と、基板部30と、を有する。アンテナ部A1は、基板部30の上面(+z側の平面、表面)に実装される。アンテナ部A1は、アンテナ素子としてのアンテナ素子部10,20と、給電ピンP1,P2と、後述する両面テープD1と、を有する。アンテナ部A1において、アンテナ素子部20,10が、+z方向に順に積層されている。アンテナ部A1については、具体的に後述する。
【0023】
基板部30は、PCB(Printed Circuit Board)であり、アンテナ素子部20の-z方向側に設けられている。基板部30は、基板本体部31と、コネクタ32と、を有する。基板本体部31は、ガラス繊維にエポキシ樹脂を染み込ませたFR(Flame Retardant Type)4などの絶縁体の基板に、配線パターンが形成され回路素子が実装されている。基板本体部31は、上面(+z側の平面)を表面部311とし、下面(-z側の平面)を裏面部312とする。また、基板本体部31は、雄螺子S1用の穴部313を有する。また、図2及び後述する図4において、基板本体部31の銅箔などの導体部分を白色で表し、絶縁体部分を網掛けで表すものとする。
【0024】
表面部311上に、アンテナ部A1が実装されている。裏面部312上に、アンテナ部A1で受信された衛星信号の増幅、位相シフト、結合などを行う回路(後述するLNA(Low Nose Amplifier)回路40及び給電回路50)が実装されている。表面部311には、銅箔などの金属導体からなる接地電極(図示略)がアンテナ部A1の実装領域にパターン形成されている。基板本体部31の平面は、例えば、アンテナ素子部20に対応する形状よりも大きな略正方形であるものとする。
【0025】
コネクタ32は、LNA回路40及び給電回路50に電気的に接続されており、GNSSの受信機に接続された同軸ケーブルの一端のレセプタクルが接続導通されるプラグのコネクタである。
【0026】
シールドケース300は、給電回路50を下側(-z側)から覆うケースである。シールドケース300は、例えば金属製であり、外部からのノイズがLNA回路40、給電回路50の信号に乗ることを防いでいる。また、4つの雄螺子S1が基板本体部31の穴部313を挿通してレドーム100の雌螺子に螺合されることにより、レドーム100がアンテナ本体部200に取り付けられる。
【0027】
なお、アンテナ装置1は、レドーム100、シールドケース300を備える構成に限定されるものではない。アンテナ装置1は、レドーム、シールドケース、クッションシート、ブラケットなどの少なくとも1つを備える構成としてもよい。
【0028】
図2及び図3に示すように、アンテナ部A1において、アンテナ素子部20、両面テープD1、アンテナ素子部10が、-z方向側から+z方向側へ順に積層されている。アンテナ素子部10の下面(後述する接地電極13)と、アンテナ素子部20の上面(後述する放射電極22)とは、両面テープD1で接着されている。
【0029】
図2及び図3に示すように、アンテナ素子部10は、基体部11と、放射電極12と、接地電極13と、を有する。基体部11は、上面が略正方形の誘電体の基体部である。基体部11は、例えば、セラミックスなどの誘電体材料から形成されている。ただし、基体部11は、誘電体からなる構成に限定されるものではなく、誘電体及び磁性体の複合材料からなる構成としてもよい。この複合材料は、ポリプロピレンなどの誘電体基体に、鉄、六方晶フェライトなどの磁性体の粒子が混ぜ合わされた構成を有する。
【0030】
また、基体部11、放射電極12及び接地電極13は、上面から下面に貫通する2つの穴部H1(図示略)、穴部H2を有する。穴部H1には、給電ピンP1が挿入されている。穴部H2には、給電ピンP2が挿入されている。放射電極12は、アンテナ信号の放射面(GNSS衛星からの電波の受信面)としての基体部11の上面に設けられ、銀などの金属ペーストや銅箔などからなる導体部である。また、放射電極12は、例えば、摂動素子(切れ込み)がない略正方形の形状とする。なお、放射電極12は、摂動素子がある形状としてもよい。また、給電ピンP1,P2は、放射電極12にはんだ付けされ、電気的に接続されている。接地電極13は、基体部11の下面に設けられ、銅箔などからなる導体部である。また、接地電極13は、給電ピンP1,P2に電気的に接続されていない。
【0031】
また、基体部11、放射電極12、接地電極13の寸法、形状は、GPSのL1帯のGNSS信号(GPS信号)の受信に対応する(共振する)ものに設定されている。
【0032】
図3に示すように、アンテナ素子部20は、基体部21と、放射電極22と、接地電極23と、を有する。基体部21は、上面が略正方形の誘電体の基体部である。基体部21は、例えば、セラミックスなどの誘電体材料から形成され、誘電体及び磁性体の複合材料からなる構成としてもよい。また、基体部21は、上面から下面に貫通する2つの穴部H3(図示略)、穴部H4を有する。穴部H3,H4のxy平面上の位置は、順にそれぞれ、穴部H1,H2のxy平面上の位置に対応する。穴部H3には、給電ピンP1が挿入されている。穴部H4には、給電ピンP2が挿入されている。
【0033】
放射電極22は、アンテナ信号の放射面(受信面)としての基体部21の上面に設けられ、銀などの金属ペーストや銅箔などからなる導体部である。また、放射電極22は、例えば、対角に一対の摂動素子(切れ込み)がない略正方形の形状とする。なお、放射電極22は、摂動素子がある形状としてもよい。接地電極23は、基体部21の下面に設けられ、銅箔などからなる導体である。ただし、穴部H3の軸方向の断面の直径は、給電ピンP1の軸方向の断面の直径よりも大きい。穴部H4の軸方向の断面の直径は、給電ピンP2の軸方向の断面の直径よりも大きい。このため、放射電極22、接地電極23は、給電ピンP1,P2に電気的に接続されていない。
【0034】
また、基体部21、放射電極22、接地電極23の寸法、形状は、GPSのL2帯と、GPSのL5帯及びQZSSのL6帯とのGNSS信号の受信に対応する(共振する)ものに設定されている。GPSのL2帯、L5帯、QZSSのL6帯は、GPSのL1帯よりも周波数が低い。このため、例えば、基体部21、放射電極22、接地電極23の寸法は、基体部11、放射電極12、接地電極13の寸法よりも大きく設定されている。
【0035】
また、基体部11、基体部21の誘電体の誘電率を高くすることで、波長短縮効果により、基体部11(アンテナ素子部10)、基体部21(アンテナ素子部20)を小型化できる。また、基体部11、基体部21に複合材料を用いる場合に、基体部11、基体部21の誘電率、透磁率を高くすることで、波長短縮効果により、基体部11(アンテナ素子部10)、基体部21(アンテナ素子部20)を小型化できる。なお、図1図2において、基体部21の誘電率(、透磁率)などに応じて、放射電極22の寸法、形状は、適宜設定される。例えば、放射電極22の寸法、形状は、基体部11(接地電極13)の寸法、形状に対応したものとしてもよい。
【0036】
また、基体部11、基体部21の厚み(積層方向の長さ)を変化させることで、対応可能な周波数帯の帯域を調整できる。例えば、基体部11、基体部21の厚みを厚くすることにより、帯域を広げたり、基体部11、基体部21が大きくなるので利得の絶対値を上げたりすることができる。基体部11、基体部21の厚みを薄くすることにより、帯域を狭くしたり(所定の帯域を捨てたり)、基体部11、基体部21が小さくなるので利得の絶対値を下げることができる。
【0037】
図4に示すように、基板本体部31の裏面部312には、平面のほぼ全面に銅箔などの金属が形成されており、平面の略中心部分の領域に、LNA回路40及び給電回路50が形成されている。LNA回路40は、給電回路50の後述する入力端子I1とコネクタ32とに電気的に接続されたアンプである。LNA回路40は、給電回路50の入力端子I1から出力された信号を増幅してコネクタ32(受信機側)に出力する。給電回路50は、LNA回路40及びアンテナ部A1に電気的に接続された給電回路である。給電回路50は、アンテナ部A1の給電ピンP1に対応する第1給電点(後述する出力端子O1)から入力された衛星信号と、給電ピンP2に対応する第2給電点(後述する出力端子O2)から入力された衛星信号と、を位相シフトし結合してLNA回路40へ出力する。
【0038】
ついで、図5図6を参照して、アンテナ装置1の給電回路50を説明する。図5は、給電回路50を示す回路図である。図6は、変形例としての給電回路50Aを示す回路図である。
【0039】
図5に示すように、給電回路50は、ウィルキンソンカプラとしてのウィルキンソンカプラ部60と、90度位相器部としての90度位相器部70と、を有する。ウィルキンソンカプラ部60は、集中定数回路部61,62と、抵抗63と、を有する。90度位相器部70は、分布定数回路としての分布定数回路部71と、集中定数回路部としての集中定数回路部72と、を有する。集中定数回路部61,62は、入力端子I1にそれぞれ一端が接続され、並列に接続された分布定数回路である。集中定数回路部61,62の他端の間は、抵抗63が接続されている。
【0040】
集中定数回路部61は、一端が入力端子I1に接続され、他端が分布定数回路部71の入力端に接続された集中定数回路である。集中定数回路部62は、一端が入力端子I1に接続され、他端が集中定数回路部72の入力端に接続された集中定数回路である。集中定数回路部61,62は、それぞれ、例えば、ディスクリート部品としての1つのインダクタ(コイル)と2つのキャパシタ(コンデンサ)とからなるC-L-Cのπ型フィルタで構成されている。
【0041】
抵抗63のインピーダンスは、例えば100[Ω]である。抵抗63は、集中定数回路部61,62の2つの出力端(アンテナ部A1側の端部)のアイソレーションをとるために設けられている。1つの入力端子I1から入力され、集中定数回路部61,62の各出力端から出力される2つの信号(第1信号、第2信号)は、同振幅かつ同位相(位相差が0)である。
【0042】
分布定数回路部71は、一端が集中定数回路部61の出力端に接続され、他端が出力端子O1に接続されたマイクロストリップ線路からなる分布定数回路である。出力端子O1は、第1の給電点として、給電ピンP1に電気的に接続されている。分布定数回路部71は、インピーダンスが50[Ω]であり、1/8λ(λ:GNSS信号の波長)に対応する線路長を有する。このため、分布定数回路部71は、集中定数回路部61の出力端から入力された第1信号に、-45度の位相シフト量を与える位相シフト回路である。
【0043】
集中定数回路部72は、一端が集中定数回路部62の出力端に接続され、他端が出力端子O2に接続された集中定数回路である。出力端子O2は、第2の給電点として、給電ピンP2に電気的に接続されている。集中定数回路部72は、例えば、ディスクリート部品としての2つのインダクタと1つのキャパシタとからなるL-C-Lのπ型フィルタで構成されている。また、集中定数回路部72は、集中定数回路部62の出力端から入力された第2信号に、+45度の位相シフト量を与える位相シフト回路である。
【0044】
このため、分布定数回路部71、集中定数回路部72は、90度の位相差の第1信号、第2信号を出力する。90度の位相差の第1信号、第2信号が、出力端O1,O2を介して、アンテナ部A1に出力されると、円偏波の電波が放射される。つまり、アンテナ部A1でGNSS信号の円偏波の電波を受信すると、給電回路50により、位相差のないGNSS信号を受信機側に出力できる。なお、分布定数回路部71から出力される第1信号が第2給電点(出力端子O2、給電ピンP2)に出力され、集中定数回路部72から出力される第2信号が第1給電点(出力端子O1、給電ピンP1)に出力される構成としてもよい。
【0045】
また、給電回路50を、図6に示す給電回路50Aに代える構成としてもよい。給電回路50Aは、給電回路50のうち、ウィルキンソンカプラ部60を、ウィルキンソンカプラ部60Aに代えた構成を有する。ウィルキンソンカプラ部60Aは、分布定数回路部61A,62Aと、抵抗63と、を有する。
【0046】
分布定数回路部61Aは、一端が入力端子I1に接続され、他端が分布定数回路部71の入力端に接続されたマイクロストリップ線路からなる分布定数回路である。分布定数回路部62Aは、一端が入力端子I1に接続され、他端が集中定数回路部72の入力端に接続されたマイクロストリップ線路からなる分布定数回路である。分布定数回路部61A,62Aは、それぞれ、インピーダンスが70.7[Ω]であり、1/4λに対応する線路長を有する。分布定数回路部61A,62Aは、それぞれ、コイルやコンデンサを線路で形成しており、所定の周波数帯のフィルタとして機能している。
【0047】
給電回路50は、ディスクリート部品が多いので製品コストが比較的高いが、実装面積が比較的小さい。給電回路50Aは、ディスクリート部品が少ないので製品コストが比較的低いが、実装面積が比較的大きい。
【0048】
ついで、図7図11を参照して、アンテナ装置1のアンテナ特性と、従来例の円偏波アンテナのアンテナ特性との比較を説明する。図7は、給電回路50と、特許文献1の給電回路との、周波数に対する2つの出力信号の振幅差を示す図である。図8は、給電回路50と、特許文献1の給電回路との、周波数に対する2つの出力信号の位相差を示す図である。図9は、特許文献1の給電回路の-90度の位相シフト量の集中定数回路部と0度の位相シフト量の線路との、周波数に対する位相を示す図である。図10は、給電回路50の-45度の位相シフト量の分布定数回路部71と+45度の位相シフト量の集中定数回路部72との、周波数に対する位相を示す図である。図11は、給電回路50の、周波数に対する2つの出力信号の位相差のばらつきを示す図である。
【0049】
図7に、GPSのL1帯、L2帯、L5帯、QZSSのL6帯の周波数帯(1150~1606[MHz])を含む1100~1700[MHz]の周波数帯において、給電回路50と、特許文献1の給電回路との、周波数[MHz]に対する、2つの出力信号の振幅差[dB]を示す。1150~1606[MHz]の全域において、給電回路50の2つ(出力端O1,O2)の出力信号の振幅差は、0.1[dB]よりも小さく、特許文献1の給電回路の2つの出力信号の振幅差より低い。
【0050】
図8に、図7と同じ1100~1700[MHz]において、給電回路50と、特許文献1の給電回路と、の周波数[MHz]に対する、2つの出力信号の位相差[度]を示す。位相差は、90度が理想的な値である。1150~1606[MHz]のほぼ全域において、給電回路50の2つ(出力端O1,O2)の出力信号の位相差は、90度±10度よりも差分が小さく、特許文献1の給電回路の2つの出力信号の位相差の90度からの差分より小さい。これらのため、給電回路50は、広帯域において良好な振幅差及び位相差が得られている。
【0051】
給電回路50と異なり、特許文献1の給電回路は、90度位相器部において、90度の位相シフトを片側の集中定数回路部で実現する。図9に、特許文献1の給電回路の-90度の位相シフト量の集中定数回路部と0度の位相シフト量の線路との、周波数[MHz]に対する位相[度]を示す。
【0052】
図9に示すように、特許文献1の給電回路の一方の-90度の位相シフト量の集中定数回路部の位相は、1100-1700[MHz]の帯域で、約55度の位相差を持つため、位相の周波数特性がある。しかし、もう一方の0度の位相シフト量の線路は、集中定数回路部の位相に対して90度の位相差をとるため、数mmで短く構成される。結果的に、0度の位相シフト量の線路の位相は、1100-1700[MHz]帯域幅で4~6度程度の位相差となり、位相の周波数特性はほぼなくなる。そのため90度位相器全体としては、1100-1700MHzで約50度の位相差が発生する。この状態では、L1帯とL2帯、L5帯及びL6帯とを、同時に使用できない。
【0053】
図10に、給電回路50の-45度の位相シフト量の分布定数回路部71と+45度の位相シフト量の集中定数回路部72との、周波数に対する位相を示す。図10に示すように、給電回路50は、-45度の分布定数回路部71と+45度の位相シフト量の集中定数回路部72とが、位相について同じ周波数特性をする。このため、給電回路50は、広帯域で良好な位相差の特性となる。給電回路50と、特許文献2の給電回路とは、位相差の広帯域性について差はない(電気的な構成は同じ)。広帯域における良好な振幅差及び位相差の結果、アンテナ装置1のアンテナ特性が広帯域で高利得になる。
【0054】
また、図11に、図7と同様の1100~1700[MHz]において、給電回路50の、周波数[MHz]に対する2つの出力信号の位相差[度]のばらつきを示す。位相差のばらつきの条件は、図12図13の位相差のばらつきの条件と同様である。1150~1606[MHz]の全域において、給電回路50の2つの出力信号の位相差のばらつきは、図12の特許文献1の給電回路や、図13の特許文献2の給電回路よりも、小さい。
【0055】
例えば、特許文献2の位相シフト部の一方の集中定数回路(C-L-Cのπ型フィルタ)のインピーダンスは、インダクタ:jωL、キャパシタ:1/(jωC)により、インダクタンスLに比例し、キャパシタンスCに反比例する。ただし、j:虚数単位、ω:角速度(角周波数)である。
【0056】
1500[MHz]において位相シフト量-45度を実現しようとすると、L=3.3[nH]、C=1.2[pF]程度となる。また、一般的なチップ部品において、インダクタンスLは、±2%のばらつきが発生し、キャパシタンスCは、±0.1[pF]程度のばらつきが発生する。このとき位相シフト量は、-45±3度程度ばらつくことになる。
【0057】
一方で、給電回路50の-45度の位相シフト量の分布定数回路部71は、基板のパターンで構成されており、基板の線路長の公差を±0.1mmとしても、±0.5%⇒-45±0.23度程度とばらつきを抑えられる。その結果、90度位相器部70の2つの出力信号の位相差のばらつきを抑えることができ、アンテナ装置1のアンテナ特性のばらつきを抑えることができる。
【0058】
以上、本実施の形態によれば、給電回路50は、第1給電点としての給電ピンP1及び第2給電点としての給電ピンP2を有する円偏波アンテナのアンテナ部A1に給電する給電回路である。給電回路50は、入力信号を同じ位相かつ同じ振幅の第1信号及び第2信号に分配するウィルキンソンカプラ部60と、分配された第1信号及び第2信号を位相シフトして90度の位相差を与え、位相シフト後の第1信号を給電ピンP1に出力し、位相シフト後の第2信号を給電ピンP2に出力する90度位相器部70と、を備える。90度位相器部70は、分配された第1信号を位相シフトする分布定数回路部71と、分配された第2信号を位相シフトする集中定数回路部72と、を有する。
【0059】
このため、給電回路50において、広帯域での良好な振幅差及び位相差を実現でき、位相差のばらつきを低減できる。よって、2点給電の円偏波アンテナにおいて、広帯域での高利得を実現でき、製品間のアンテナ特性のばらつきを少なくできる。
【0060】
また、分布定数回路部71の設計の位相シフト量は、-45度であり、集中定数回路部72の設計の位相シフト量は、+45度である。このため、2点給電の円偏波アンテナにおいて、広帯域での高利得を実現でき、製品間のアンテナ特性のばらつきを少なくできる。
【0061】
また、アンテナ装置1は、給電回路50と、アンテナ部A1と、を備える。このため、2給電の円偏波アンテナにおいて、広帯域での高利得を実現でき、製品間のアンテナ特性のばらつきを少なくするアンテナ装置1を実現できる。
【0062】
また、アンテナ部A1は、積層された複数のアンテナ素子部10,20を有する。各アンテナ素子部10,20に対応する周波数帯が異なる。このため、アンテナ素子部10,20に対応する周波数帯に対応する広帯域での高利得を実現できる。
【0063】
なお、上記実施の形態における記述は、本発明に係る給電回路及びアンテナ装置の一例であり、これに限定されるものではない。
【0064】
上記実施の形態では、アンテナ装置1に適用する周波数帯として、GPSのL1帯、L2帯、L5帯及びQZSSのL6帯としたが、これに限定されるものではない。他の通信規格や周波数帯に適用することとしてもよい。このとき、異なる2つの周波数帯のそれぞれに応じて、アンテナ素子部10,20の大きさ、形状を設定する。また、アンテナ装置のアンテナ部におけるアンテナ素子部の数を3以上にする構成としてもよい。
【0065】
また、上記実施の形態の給電回路50,50Aにおいて、90度位相器部70は、-45度の位相シフト量の分布定数回路部71と、+45度の位相シフト量の集中定数回路部72と、を有する構成であった。しかし、この構成に限定されるものではない。集中定数回路部72を、+30度など、+45度以外の位相シフト量の機能を有するものでもよい。この構成の場合に、集中定数回路部72の位相シフト量に合わせて、分布定数回路部71の線路長を伸ばし/短くし、位相差を90度にする構成としてもよい。
【0066】
その他、上記実施の形態におけるアンテナ装置の細部構成及び詳細動作に関しても、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 アンテナ装置
100 レドーム
200 アンテナ本体部
A1 アンテナ部
10,20 アンテナ素子部
11,21 基体部
12,22 放射電極
13,23 接地電極
H2,H4 穴部
P1,P2 給電ピン
D1 両面テープ
30 基板部
31 基板本体部
311 表面部
312 裏面部
313 穴部
32 コネクタ
50,50A 給電回路
60,60A ウィルキンソンカプラ部
61,62 集中定数回路部
61A,62A 分布定数回路部
63 抵抗
70 90度位相器部
71 分布定数回路部
72 集中定数回路部
300 シールドケース
S1 雄螺子
図1
図2
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