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特開2024-143136成形性評価装置、成形性評価方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143136
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】成形性評価装置、成形性評価方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/20 20060101AFI20241003BHJP
   G06F 30/23 20200101ALI20241003BHJP
   B21D 22/00 20060101ALI20241003BHJP
   G06F 113/22 20200101ALN20241003BHJP
【FI】
G01N3/20
G06F30/23
B21D22/00
G06F113:22
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055650
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】田畑 亮
(72)【発明者】
【氏名】大塚 研一郎
(72)【発明者】
【氏名】相藤 孝博
【テーマコード(参考)】
2G061
4E137
5B146
【Fターム(参考)】
2G061AA07
2G061AB03
2G061AB08
2G061BA04
2G061BA11
2G061CA02
2G061CB01
2G061EA01
2G061EA04
2G061EB07
2G061EC05
4E137AA21
4E137BA01
4E137BB01
4E137BC01
4E137CA09
4E137CA12
4E137CB01
4E137CB03
4E137DA13
4E137EA02
4E137GA08
4E137GB03
5B146AA06
5B146DJ02
5B146DJ07
5B146DJ14
(57)【要約】
【課題】くびれの発生を高精度で予測し、成形性を評価することを可能にする装置および方法を提供する。
【解決手段】材料の成形性を評価する装置10であって、試験材を用いて予め求められた、くびれクライテリアを取得する取得部1と、材料に対応する解析モデルを用いて、材料に所定の成形が施された際に、材料の各部に発生するひずみ、および各部での板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配を算出する算出部2と、くびれクライテリアと、ひずみ、および応力勾配またはひずみ勾配との比較を行う比較部3と、を備える、成形性評価装置10。
【選択図】 図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料の成形性を評価する装置であって、
試験材を用いて予め求められた、前記試験材のくびれ限界ひずみと前記試験材の板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配との関係式である、くびれクライテリアを取得する、取得部と、
前記材料に対応する解析モデルを用いて、前記材料に所定の成形が施された際に、前記材料の各部に発生するひずみ、および前記各部での板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配を算出する、算出部と、
前記取得部によって取得された前記くびれクライテリアと、前記算出部によって算出された前記ひずみ、および前記応力勾配または前記ひずみ勾配との比較を行う、比較部と、を備える、
成形性評価装置。
【請求項2】
前記くびれクライテリアは、
前記試験材を用いた異なる複数の条件による張力曲げ試験によってそれぞれ求められるくびれ発生時のひずみと、
数値解析から求められる、前記張力曲げ試験におけるくびれ発生時の、前記試験材の曲げ部の板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配と、から導出される、
請求項1に記載の成形性評価装置。
【請求項3】
前記取得部は、前記試験材を用いて予め求められた、前記試験材の破断限界ひずみと前記試験材の板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配との関係式である、破断クライテリアをさらに取得し、
前記比較部は、前記取得部によって取得された前記破断クライテリアと、前記算出部によって算出された前記ひずみ、および前記応力勾配または前記ひずみ勾配との比較をさらに行う、
請求項1に記載の成形性評価装置。
【請求項4】
前記取得部は、前記試験材を用いて予め求められた、前記試験材の破断限界ひずみと前記試験材の板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配との関係式である、破断クライテリアをさらに取得し、
前記破断クライテリアは、
前記試験材を用いた異なる複数の条件による前記張力曲げ試験によってそれぞれ求められる破断発生時のひずみと、
数値解析から求められる、前記張力曲げ試験におけるくびれ発生時の、前記試験材の曲げ部の板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配と、から導出され、
前記比較部は、前記取得部によって取得された前記破断クライテリアと、前記算出部によって算出された前記ひずみ、および前記応力勾配または前記ひずみ勾配との比較をさらに行う、
請求項2に記載の成形性評価装置。
【請求項5】
前記比較部は、
前記取得部によって取得された、前記くびれクライテリアと、前記破断クライテリアと、
前記算出部によって算出された、前記ひずみ、および前記応力勾配または前記ひずみ勾配と、の比較をさらに行い、
得られた比較結果に基づき、前記所定の成形により、前記材料の前記各部でくびれおよび/または破断が発生する可能性の指標値を求める、
請求項3または請求項4に記載の成形性評価装置。
【請求項6】
前記比較部によって求められた前記指標値の分布図を作成し、外部の表示装置に出力する出力部をさらに備える、
請求項5に記載の成形性評価装置。
【請求項7】
材料の成形性を評価する方法であって、
(a)試験材を用いて予め求められた、前記試験材のくびれ限界ひずみと前記試験材の板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配との関係式である、くびれクライテリアを取得するステップと、
(b)前記材料に対応する解析モデルを用いて、前記材料に所定の成形が施された際に、前記材料の各部に発生するひずみ、および前記各部での板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配を算出するステップと、
(c)前記(a)のステップによって取得された前記くびれクライテリアと、前記(b)のステップによって算出された前記ひずみ、および前記応力勾配または前記ひずみ勾配との比較を行うステップと、を備える、
成形性評価方法。
【請求項8】
前記くびれクライテリアは、
前記試験材を用いた異なる複数の条件による張力曲げ試験によってそれぞれ求められるくびれ発生時のひずみと、
数値解析から求められる、前記張力曲げ試験におけるくびれ発生時の、前記試験材の曲げ部の板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配と、から導出される、
請求項7に記載の成形性評価方法。
【請求項9】
前記(a)のステップにおいて、前記試験材を用いて予め求められた、前記試験材の破断限界ひずみと前記試験材の板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配との関係式である、破断クライテリアをさらに取得し、
前記(c)のステップにおいて、前記(a)のステップによって取得された前記破断クライテリアと、前記(b)のステップによって算出された前記ひずみ、および前記応力勾配または前記ひずみ勾配との比較をさらに行う、
請求項7に記載の成形性評価方法。
【請求項10】
前記(a)のステップにおいて、前記試験材を用いて予め求められた、前記試験材の破断限界ひずみと前記試験材の板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配との関係式である、破断クライテリアをさらに取得し、
前記破断クライテリアは、
前記試験材を用いた異なる複数の条件による前記張力曲げ試験によってそれぞれ求められる破断発生時のひずみと、
数値解析から求められる、前記張力曲げ試験におけるくびれ発生時の、前記試験材の曲げ部の板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配と、から導出され、
前記(c)のステップにおいて、前記(a)のステップによって取得された前記破断クライテリアと、前記(b)のステップによって算出された前記ひずみ、および前記応力勾配または前記ひずみ勾配との比較をさらに行う、
請求項8に記載の成形性評価方法。
【請求項11】
前記(c)のステップにおいて、
前記(a)のステップによって取得された、前記くびれクライテリアと、前記破断クライテリアと、
前記(b)のステップによって算出された、前記ひずみ、および前記応力勾配または前記ひずみ勾配と、の比較をさらに行い、
得られた比較結果に基づき、前記所定の成形により、前記材料の前記各部でくびれおよび/または破断が発生する可能性の指標値を求める、
請求項9または請求項10に記載の成形性評価方法。
【請求項12】
(d)前記(c)のステップによって求められた前記指標値の分布図を作成し、外部の表示装置に出力するステップをさらに備える、
請求項11に記載の成形性評価方法。
【請求項13】
コンピュータによって、材料の成形性を評価するためのプログラムであって、
前記コンピュータに、
(a)試験材を用いて予め求められた、前記試験材のくびれ限界ひずみと前記試験材の板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配との関係式である、くびれクライテリアを取得するステップと、
(b)前記材料に対応する解析モデルを用いて、前記材料に所定の成形が施された際に、前記材料の各部に発生するひずみ、および前記各部での板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配を算出するステップと、
(c)前記(a)のステップによって取得された前記くびれクライテリアと、前記(b)のステップによって算出された前記ひずみ、および前記応力勾配または前記ひずみ勾配との比較を行うステップと、を実行させる、
プログラム。
【請求項14】
前記くびれクライテリアは、
前記試験材を用いた異なる複数の条件による張力曲げ試験によってそれぞれ求められるくびれ発生時のひずみと、
数値解析から求められる、前記張力曲げ試験におけるくびれ発生時の、前記試験材の曲げ部の板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配と、から導出される、
請求項13に記載のプログラム。
【請求項15】
前記(a)のステップにおいて、前記試験材を用いて予め求められた、前記試験材の破断限界ひずみと前記試験材の板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配との関係式である、破断クライテリアをさらに取得し、
前記(c)のステップにおいて、前記(a)のステップによって取得された前記破断クライテリアと、前記(b)のステップによって算出された前記ひずみ、および前記応力勾配または前記ひずみ勾配との比較をさらに行う、
請求項13に記載のプログラム。
【請求項16】
前記(a)のステップにおいて、前記試験材を用いて予め求められた、前記試験材の破断限界ひずみと前記試験材の板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配との関係式である、破断クライテリアをさらに取得し、
前記破断クライテリアは、
前記試験材を用いた異なる複数の条件による前記張力曲げ試験によってそれぞれ求められる破断発生時のひずみと、
数値解析から求められる、前記張力曲げ試験におけるくびれ発生時の、前記試験材の曲げ部の板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配と、から導出され、
前記(c)のステップにおいて、前記(a)のステップによって取得された前記破断クライテリアと、前記(b)のステップによって算出された前記ひずみ、および前記応力勾配または前記ひずみ勾配との比較をさらに行う、
請求項14に記載のプログラム。
【請求項17】
前記(c)のステップにおいて、
前記(a)のステップによって取得された、前記くびれクライテリアと、前記破断クライテリアと、
前記(b)のステップによって算出された、前記ひずみ、および前記応力勾配または前記ひずみ勾配と、の比較をさらに行い、
得られた比較結果に基づき、前記所定の成形により、前記材料の前記各部でくびれおよび/または破断が発生する可能性の指標値を求める、
請求項15または請求項16に記載のプログラム。
【請求項18】
(d)前記(c)のステップによって求められた前記指標値の分布図を作成し、外部の表示装置に出力するステップをさらに備える、
請求項17に記載のプログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形性評価装置、成形性評価方法およびプログラムに関する。
【0002】
近年、衝突安全性および軽量化の要請から、自動車車体への高強度鋼板の適用が急速に進展しつつある。これら高強度鋼板は板厚を増加させることなく、衝突時の吸収エネルギーおよび強度を高めることができる。しかしながら、鋼板の高強度化に伴う延性の低下は、プレス成形時の破断の危険性を高めるため、有限要素法による材料の破断予測とその高精度化のニーズは高まってきている。
【0003】
例えば、特許文献1には、高強度鋼板適用時の成形課題の一つである伸びフランジ破断を未然に回避し、高強度で軽量な部品のプレス成形を実現することができる成形性評価方法、プログラム及び記録媒体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-34312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、プレス成形時には、張力が付与されながら曲げられるような成形が施される場合において、破断が生じる以前に、くびれが発生することがある。こういった場合、くびれ限界が成形限界となることから、破断の発生だけでなく、くびれの発生を高精度で予測する必要がある。特許文献1に記載の技術では、伸びフランジ加工時の破断の発生は高精度で予測可能である。しかし、張力が付与されながら曲げられるような成形が施される場合において、くびれの発生を予測することについては考慮されておらず、さらなる成形性の評価方法の開発が必要である。
【0006】
本発明は、くびれの発生を高精度で予測し、成形性を評価することを可能にする装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、下記の成形性評価装置、成形性評価方法およびプログラムを要旨とする。
【0008】
(1)材料の成形性を評価する装置であって、
試験材を用いて予め求められた、前記試験材のくびれ限界ひずみと前記試験材の板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配との関係式である、くびれクライテリアを取得する、取得部と、
前記材料に対応する解析モデルを用いて、前記材料に所定の成形が施された際に、前記材料の各部に発生するひずみ、および前記各部での板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配を算出する、算出部と、
前記取得部によって取得された前記くびれクライテリアと、前記算出部によって算出された前記ひずみ、および前記応力勾配または前記ひずみ勾配との比較を行う、比較部と、を備える、
成形性評価装置。
【0009】
(2)前記くびれクライテリアは、
前記試験材を用いた異なる複数の条件による張力曲げ試験によってそれぞれ求められるくびれ発生時のひずみと、
数値解析から求められる、前記張力曲げ試験におけるくびれ発生時の、前記試験材の曲げ部の板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配と、から導出される、
上記(1)に記載の成形性評価装置。
【0010】
(3)前記取得部は、前記試験材を用いて予め求められた、前記試験材の破断限界ひずみと前記試験材の板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配との関係式である、破断クライテリアをさらに取得し、
前記比較部は、前記取得部によって取得された前記破断クライテリアと、前記算出部によって算出された前記ひずみ、および前記応力勾配または前記ひずみ勾配との比較をさらに行う、
上記(1)に記載の成形性評価装置。
【0011】
(4)前記取得部は、前記試験材を用いて予め求められた、前記試験材の破断限界ひずみと前記試験材の板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配との関係式である、破断クライテリアをさらに取得し、
前記破断クライテリアは、
前記試験材を用いた異なる複数の条件による前記張力曲げ試験によってそれぞれ求められる破断発生時のひずみと、
数値解析から求められる、前記張力曲げ試験におけるくびれ発生時の、前記試験材の曲げ部の板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配と、から導出され、
前記比較部は、前記取得部によって取得された前記破断クライテリアと、前記算出部によって算出された前記ひずみ、および前記応力勾配または前記ひずみ勾配との比較をさらに行う、
上記(2)に記載の成形性評価装置。
【0012】
(5)前記比較部は、
前記取得部によって取得された、前記くびれクライテリアと、前記破断クライテリアと、
前記算出部によって算出された、前記ひずみ、および前記応力勾配または前記ひずみ勾配と、の比較をさらに行い、
得られた比較結果に基づき、前記所定の成形により、前記材料の前記各部でくびれおよび/または破断が発生する可能性の指標値を求める、
上記(3)または(4)に記載の成形性評価装置。
【0013】
(6)前記比較部によって求められた前記指標値の分布図を作成し、外部の表示装置に出力する出力部をさらに備える、
上記(5)に記載の成形性評価装置。
【0014】
(7)材料の成形性を評価する方法であって、
(a)試験材を用いて予め求められた、前記試験材のくびれ限界ひずみと前記試験材の板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配との関係式である、くびれクライテリアを取得するステップと、
(b)前記材料に対応する解析モデルを用いて、前記材料に所定の成形が施された際に、前記材料の各部に発生するひずみ、および前記各部での板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配を算出するステップと、
(c)前記(a)のステップによって取得された前記くびれクライテリアと、前記(b)のステップによって算出された前記ひずみ、および前記応力勾配または前記ひずみ勾配との比較を行うステップと、を備える、
成形性評価方法。
【0015】
(8)前記くびれクライテリアは、
前記試験材を用いた異なる複数の条件による張力曲げ試験によってそれぞれ求められるくびれ発生時のひずみと、
数値解析から求められる、前記張力曲げ試験におけるくびれ発生時の、前記試験材の曲げ部の板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配と、から導出される、
上記(7)に記載の成形性評価方法。
【0016】
(9)前記(a)のステップにおいて、前記試験材を用いて予め求められた、前記試験材の破断限界ひずみと前記試験材の板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配との関係式である、破断クライテリアをさらに取得し、
前記(c)のステップにおいて、前記(a)のステップによって取得された前記破断クライテリアと、前記(b)のステップによって算出された前記ひずみ、および前記応力勾配または前記ひずみ勾配との比較をさらに行う、
上記(7)に記載の成形性評価方法。
【0017】
(10)前記(a)のステップにおいて、前記試験材を用いて予め求められた、前記試験材の破断限界ひずみと前記試験材の板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配との関係式である、破断クライテリアをさらに取得し、
前記破断クライテリアは、
前記試験材を用いた異なる複数の条件による前記張力曲げ試験によってそれぞれ求められる破断発生時のひずみと、
数値解析から求められる、前記張力曲げ試験におけるくびれ発生時の、前記試験材の曲げ部の板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配と、から導出され、
前記(c)のステップにおいて、前記(a)のステップによって取得された前記破断クライテリアと、前記(b)のステップによって算出された前記ひずみ、および前記応力勾配または前記ひずみ勾配との比較をさらに行う、
上記(8)に記載の成形性評価方法。
【0018】
(11)前記(c)のステップにおいて、
前記(a)のステップによって取得された、前記くびれクライテリアと、前記破断クライテリアと、
前記(b)のステップによって算出された、前記ひずみ、および前記応力勾配または前記ひずみ勾配と、の比較をさらに行い、
得られた比較結果に基づき、前記所定の成形により、前記材料の前記各部でくびれおよび/または破断が発生する可能性の指標値を求める、
上記(9)または(10)に記載の成形性評価方法。
【0019】
(12)(d)前記(c)のステップによって求められた前記指標値の分布図を作成し、外部の表示装置に出力するステップをさらに備える、
上記(11)に記載の成形性評価方法。
【0020】
(13)コンピュータによって、材料の成形性を評価するためのプログラムであって、
前記コンピュータに、
(a)試験材を用いて予め求められた、前記試験材のくびれ限界ひずみと前記試験材の板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配との関係式である、くびれクライテリアを取得するステップと、
(b)前記材料に対応する解析モデルを用いて、前記材料に所定の成形が施された際に、前記材料の各部に発生するひずみ、および前記各部での板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配を算出するステップと、
(c)前記(a)のステップによって取得された前記くびれクライテリアと、前記(b)のステップによって算出された前記ひずみ、および前記応力勾配または前記ひずみ勾配との比較を行うステップと、を実行させる、
プログラム。
【0021】
(14)前記くびれクライテリアは、
前記試験材を用いた異なる複数の条件による張力曲げ試験によってそれぞれ求められるくびれ発生時のひずみと、
数値解析から求められる、前記張力曲げ試験におけるくびれ発生時の、前記試験材の曲げ部の板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配と、から導出される、
上記(13)に記載のプログラム。
【0022】
(15)前記(a)のステップにおいて、前記試験材を用いて予め求められた、前記試験材の破断限界ひずみと前記試験材の板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配との関係式である、破断クライテリアをさらに取得し、
前記(c)のステップにおいて、前記(a)のステップによって取得された前記破断クライテリアと、前記(b)のステップによって算出された前記ひずみ、および前記応力勾配または前記ひずみ勾配との比較をさらに行う、
上記(13)に記載のプログラム。
【0023】
(16)前記(a)のステップにおいて、前記試験材を用いて予め求められた、前記試験材の破断限界ひずみと前記試験材の板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配との関係式である、破断クライテリアをさらに取得し、
前記破断クライテリアは、
前記試験材を用いた異なる複数の条件による前記張力曲げ試験によってそれぞれ求められる破断発生時のひずみと、
数値解析から求められる、前記張力曲げ試験におけるくびれ発生時の、前記試験材の曲げ部の板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配と、から導出され、
前記(c)のステップにおいて、前記(a)のステップによって取得された前記破断クライテリアと、前記(b)のステップによって算出された前記ひずみ、および前記応力勾配または前記ひずみ勾配との比較をさらに行う、
上記(14)に記載のプログラム。
【0024】
(17)前記(c)のステップにおいて、
前記(a)のステップによって取得された、前記くびれクライテリアと、前記破断クライテリアと、
前記(b)のステップによって算出された、前記ひずみ、および前記応力勾配または前記ひずみ勾配と、の比較をさらに行い、
得られた比較結果に基づき、前記所定の成形により、前記材料の前記各部でくびれおよび/または破断が発生する可能性の指標値を求める、
上記(15)または(16)に記載のプログラム。
【0025】
(18)(d)前記(c)のステップによって求められた前記指標値の分布図を作成し、外部の表示装置に出力するステップをさらに備える、
上記(17)に記載のプログラム。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、くびれの発生を高精度で予測し、成形性を評価することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る成形性評価装置の概略構成を示す図である。
図2図2は、張力曲げ試験について説明するための模式図である。
図3図3は、画像相関法によって求められた、張力曲げ試験における、(a)試験材の曲げ部に付与される最大主ひずみと、パンチストロークとの関係および(b)パンチに付与される荷重と、パンチストロークとの関係を示した図である。
図4図4は、有限要素法を用いた数値解析によってひずみ勾配を求める方法を説明するための図である。
図5図5は、くびれおよび破断の発生時における、試験材の曲げ部に付与される最大主ひずみと、試験材の曲げ部の板厚方向におけるひずみ勾配との関係を示した図である。
図6図6は、くびれクライテリア、破断クライテリア、および、ひずみとひずみ勾配とのプロットを同時に示した図である。
図7図7は、くびれおよび/または破断が発生する可能性の指標値の求め方を説明するための図である。
図8図8は、本発明の他の実施形態に係る成形性評価装置の概略構成を示す図である。
図9図9は、本発明の一実施形態に係る成形性評価方法を示すフロー図である。
図10図10は、指標値の分布図の一例を示す図である。
図11図11は、本実施形態における成形性評価装置を実現するコンピュータの一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の一実施形態に係る成形性評価装置および成形性評価方法について、図1~11を参照しながら説明する。
【0029】
図1は、本発明の一実施形態に係る成形性評価装置の概略構成を示す図である。成形性評価装置は、材料の成形性を評価する装置である。なお、材料の種類については特に制限はないが、例えば、金属材料、なかでも鋼材に好適に適用することができる。
【0030】
図1に示すように、成形性評価装置10は、取得部1と、算出部2と、比較部3とを備える。
【0031】
取得部1は、試験材を用いて予め求められた、くびれクライテリアを取得する。試験材は、後述する張力曲げ試験に用いられるものである。試験材としては、評価対象となる材料と同一種のものを用いることが好ましい。本願明細書において、同一種であるとは、化学組成および金属組織が略同一であることを意味する。
【0032】
試験材の寸法について特に制限はないが、例えば、長さ300mm、幅40mmの板材を用いることができる。また、試験材の厚さについても特に制限はなく、材料の厚さと異なった場合であっても、正確な評価は可能である。しかし、より高い精度で評価を行う観点からは、試験材の厚さと材料の厚さとは略同一であることが好ましい。
【0033】
また、くびれクライテリアとは、試験材のくびれ限界ひずみと試験材の板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配との関係式である。例えば、くびれクライテリアは、試験材を用いた異なる複数の条件による張力曲げ試験によってそれぞれ求められるくびれ発生時のひずみと、数値解析から求められる、上記の張力曲げ試験におけるくびれ発生時の、試験材の曲げ部の板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配と、から導出することができる。
【0034】
取得部1は、上記と同じ試験材を用いて予め求められた、破断クライテリアをさらに取得してもよい。破断クライテリアとは、試験材の破断限界ひずみと試験材の板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配との関係式である。例えば、破断クライテリアは、試験材を用いた異なる複数の条件による張力曲げ試験によってそれぞれ求められる破断発生時のひずみと、数値解析から求められる、上記の張力曲げ試験におけるくびれ発生時の、試験材の曲げ部の板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配と、から導出することができる。
【0035】
ここで、数値解析においては、破断発生時の応力勾配またはひずみ勾配を正確に求めることが困難である。そのため、本実施形態においては、破断クライテリアの導出に際して、くびれクライテリアの導出に用いられる、くびれ発生時の応力勾配またはひずみ勾配を用いることが好ましい。
【0036】
以下に、くびれクライテリアおよび破断クライテリアの導出方法について、より具体的に説明する。なお、以下の説明では、板厚方向におけるひずみ勾配を用いた場合を例に挙げるが、板厚方向における応力勾配を用いた場合であっても、同様に導出することができる。
【0037】
まず、張力曲げ試験による、くびれ発生時および破断発生時のひずみの測定方法について説明する。図2は、張力曲げ試験について説明するための模式図である。張力曲げ試験とは、図2に示すように、試験材の両端部を、それぞれ治具で押圧した状態で、試験材の中央部をパンチで押し込むことによって、試験材に張力を付与しながら曲げ加工を施す試験を指す。曲げ加工は、例えば、試験材の曲げ部に破断が生じるまで行えばよい。この際、多くの場合で、破断が発生する以前にくびれが発生する。そして、同様の試験を、異なる複数の条件により行う。ここで、条件が異なるとは、パンチの先端形状および/または治具によって押圧される荷重が異なることを意味する。
【0038】
パンチの先端形状および治具によって押圧される荷重を試験条件として変化させる理由は、この2つの条件が試験材の曲げ部の板厚方向におけるひずみ勾配に大きく影響を与えるためである。具体的には、パンチ先端の曲率半径Rが同じであれば、治具によって押圧される荷重が小さく、張力が低いほど、ひずみ勾配は大きくなる。また、治具によって押圧される荷重が同じであれば、パンチ先端の曲率半径Rが小さいほど、ひずみ勾配は大きくなる。なお、パンチ先端の曲率半径Rは例えば1~10mm、治具によって押圧される荷重は30~60tonの範囲で適宜設定することができる。
【0039】
上記の張力曲げ試験によって、くびれ発生時に試験材の曲げ部に付与されるひずみを測定する。くびれ発生時のひずみとしては、例えば、最大主ひずみを採用することができるが、これに限定されず、相当塑性ひずみ、板厚ひずみ等を採用することもできる。くびれ発生時の最大主ひずみは、例えば、画像相関法によって測定することができる。画像相関法とは、カメラで撮影された画像から測定対象の変位の大きさを測定することで、ひずみを求める方法である。
【0040】
図3は、画像相関法によって求められた、張力曲げ試験における、(a)試験材の曲げ部に付与される最大主ひずみと、パンチストロークとの関係および(b)パンチに付与される荷重と、パンチストロークとの関係を示した図である。図3(a)に示されるように、くびれ発生時にはパンチストロークに対する最大主ひずみの傾きが急激に変化することが分かる。この関係性を利用し、例えば、パンチストロークに対する最大主ひずみの傾きの変化量が所定の閾値(例えば、5~10%)以上となった際の最大主ひずみを、くびれ発生時の最大主ひずみとすることができる。
【0041】
同様に、図3(b)に示されるように、くびれ発生時には、パンチに付与される荷重の傾きが急激に変化する。この関係性を利用して、例えば、パンチストロークに対するパンチに付与される荷重の傾きの変化量が所定の閾値(例えば、5~10%)以上となった際のパンチストロークを求め、当該パンチストロークに対応する最大主ひずみを、くびれ発生時の最大主ひずみとすることができる。
【0042】
上記の張力曲げ試験によって、破断発生時に試験材の曲げ部に付与されるひずみを同時に測定することも可能である。破断発生時の最大主ひずみは、上記と同様に、画像相関法によって測定することができる。また、破断の発生は明瞭に視認できるため、その際の最大主ひずみを、破断発生時の最大主ひずみとすればよい。
【0043】
次に、試験材の曲げ部の板厚方向におけるひずみ勾配を数値解析によって求める方法について説明する。張力曲げ試験の際の、試験材の曲げ部の板厚方向におけるひずみ勾配は、張力曲げ試験で採用したパンチの先端形状および治具によって押圧される荷重に関する情報に基づき、数値解析を行うことで求める。数値解析としては、例えば、有限要素法を用いた数値解析を採用することができる。
【0044】
図4は、有限要素法を用いた数値解析によってひずみ勾配を求める方法を説明するための図である。図4に示す数値解析においては、張力曲げ試験での曲げ部に対応する部分を板厚方向に7つの要素に分割しており、曲げ頂部となる一端側の要素から他端側の要素に向かって順番に要素(1)~要素(7)としている。
【0045】
図4(a)に示す方法においては、板厚方向における一端側の要素(1)と他端側の要素(7)とのそれぞれにおいてひずみ(εx(1)およびεx(7))を計算し、その差を板厚(t)で割ることによってひずみ勾配Δεを求める。また、図4(b)に示すように、板厚方向における一端側の要素(1)と板厚中央部の要素(4)とのそれぞれにおいてひずみ(εx(1)およびεx(4))を計算し、その差を板厚の半分(t/2)で割ることによってひずみ勾配Δεを求めることもできる。
【0046】
なお、図4(b)中に示しているように、応力勾配Δσも同様の方法により求めることができる。ただし、応力勾配Δσを用いる場合は、図4(b)に示すように、板厚方向における一端側の要素(1)と板厚中央部の要素(4)とのそれぞれにおいて応力(σx(1)およびσx(4))を計算し、その差を板厚の半分(t/2)で割ることによって応力勾配Δσを求めることが好ましい。
【0047】
図5は、くびれおよび破断の発生時における、試験材の曲げ部に付与される最大主ひずみと、試験材の曲げ部の板厚方向におけるひずみ勾配との関係を示した図である。図5に示されるように、破断発生時の最大主ひずみは概ね一定であるのに対して、くびれ発生時の最大主ひずみは、試験条件に応じて大きく変化し、ひずみ勾配との間に良好な相関関係を有する。
【0048】
そして、図5において点線で示される関係式が、くびれクライテリアである。図5の例では、くびれクライテリアは、複数のくびれ発生時の最大主ひずみとひずみ勾配とのプロットに基づき、最小二乗法によって求めている。しかし、関係式の導出方法についてはこれには限定されない。また、図5の例では、関係式は一次関数としているが、これには限定されず、二次以上の関数等であってもよい。くびれクライテリアを用いることによって、ひずみ勾配に対応するくびれ限界ひずみを決定することができる。
【0049】
くびれクライテリアは、2つの異なる試験条件で測定されたくびれ発生時の最大主ひずみと、それに対応するひずみ勾配とが得られていれば導出可能である。しかし、高精度のくびれクライテリアを導出する観点からは、5つ以上の異なる試験条件で測定されたくびれ発生時の最大主ひずみと、それに対応するひずみ勾配とを用いることが好ましい。
【0050】
また、図5において一点鎖線で示される関係式が、破断クライテリアである。図5の例では、破断クライテリアは、複数の破断発生時の最大主ひずみとひずみ勾配とのプロットに基づき、最小二乗法によって求めている。しかし、関係式の導出方法についてはこれには限定されず、二次以上の関数等であってもよい。また、最大主ひずみがひずみ勾配によらず概ね一定の場合には、それらの平均値を用いてもよい。破断クライテリアを用いることによって、ひずみ勾配に対応する破断限界ひずみを決定することができる。
【0051】
算出部2は、評価対象となる材料に対応する解析モデルを用いて、材料に所定の成形が施された際に、材料の各部に発生するひずみ、および各部での板厚方向における応力勾配またはひずみ勾配を算出する。上記の解析モデルとしては、例えば、有限要素法を用いた解析モデルを採用することができる。また、ひずみとしては、上述の張力曲げ試験で測定されるひずみと同種のものを用いる必要があり、例えば、最大主ひずみを用いることができる。
【0052】
比較部3は、取得部1によって取得されたくびれクライテリアと、算出部2によって算出されたひずみ、および応力勾配またはひずみ勾配との比較を行う。比較方法については特に制限されないが、例えば、くびれクライテリアが表示されたグラフ上において、ひずみと応力勾配またはひずみ勾配とがプロットされる位置を、くびれクライテリアと比較することができる。なお、必ずしも比較においてグラフを用いる必要はなく、数値計算のみで比較を行ってもよい。
【0053】
比較部3は、取得部1によって取得された破断クライテリアと、算出部2によって算出されたひずみ、および応力勾配またはひずみ勾配との比較をさらに行ってもよい。この場合、例えば、くびれクライテリアおよび破断クライテリアが表示されたグラフ上において、ひずみと応力勾配またはひずみ勾配とがプロットされる位置を、くびれクライテリアおよび破断クライテリアと比較することができる。
【0054】
図6は、くびれクライテリア、破断クライテリア、および、ひずみとひずみ勾配とのプロットを同時に示した図である。図6の例において、ひずみは最大主ひずみである。また、図6に示される3つの四角プロットは、有限要素法を用いて解析モデルによって求められた、材料に対して、3種類の成形A,B,Cを施した場合における、最も高い最大主ひずみが付与される部位での最大主ひずみと、その部位でのひずみ勾配との関係を示している。
【0055】
図6に示される比較部3による比較結果に基づき、例えば、オペレータは、成形Aの場合、上記部位における最大主ひずみが、同じひずみ勾配の時の破断限界ひずみを超えているため、破断が生じる可能性が高い、と判断することができる。オペレータは同様の手順により、成形Bの場合、破断は生じないもののくびれが生じる可能性が高く、成形Cの場合、破断もくびれも生じない可能性が高い、と判断することができる。
【0056】
さらに、比較部3は、比較結果に基づき、材料に所定の成形が施された際に、材料の各部でくびれおよび/または破断が発生する可能性の指標値を求めてもよい。くびれおよび/または破断が発生する可能性の指標値の求め方については特に制限はなく、例えば、以下の方法を用いることができる。
【0057】
図7は、くびれおよび/または破断が発生する可能性の指標値の求め方を説明するための図である。図7(a)において、点Oは最大主ひずみが0である点、点Rは材料の所定の部位における最大主ひずみを示す点、点Nはくびれ限界ひずみを示す点、点Bは破断限界ひずみを示す点である。O,R,N,Bにおいては、いずれもひずみ勾配は同一の値である。
【0058】
図7に示すように、点Oおよび点Rの距離(OR)と点Oおよび点Nの距離(ON)との比(OR/ON)を求めることによって、くびれが発生する可能性の指標値とすることができる。同様に、点Oおよび点Rの距離(OR)と点Oおよび点Bの距離(OB)との比(OR/OB)を求めることによって、破断が発生する可能性の指標値とすることができる。さらに、OR/ONおよびOR/OBの値を組み合わせることで、くびれまたは破断が発生する可能性の指標値としてもよい。この場合、オペレータは例えば、図7(b)に示すような閾値に基づき、破断が発生する可能性の大小を見積もることが可能となる。
【0059】
図8は、本発明の他の実施形態に係る成形性評価装置の概略構成を示す図である。図8に示すように、成形性評価装置10は、出力部4をさらに備えてもよい。出力部4は、比較部3によって求められた指標値の分布図を作成し、外部の表示装置20に出力する。指標値の分布図を作成するに際しては、例えば、上述のOR/ONおよびOR/OBの値に基づき、材料の各部で破断が発生する可能性の指標値を求め、当該指標値を色分けして示すか、または等高線によって示すことができる。
【0060】
次に、本発明の一実施形態に係る成形性評価方法を、図9を用いて説明する。図9は、本発明の一実施形態に係る成形性評価方法を示すフロー図である。なお、以降の説明においては、材料および試験材として980MPa級熱延鋼板(以下、単に「鋼板」ともいう。)を用い、6つの異なる条件で張力曲げ試験を行い、くびれクライテリアおよび破断クライテリアの横軸として、板厚方向におけるひずみ勾配を用いた場合を例に挙げる。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。
【0061】
まず前提として、パンチの先端形状および/または治具によって押圧される荷重が異なる6つの条件において、試験材を用いて張力曲げ試験を行う。そして、上述の画像相関法により、くびれ発生時および破断発生時の最大主ひずみを測定する。次に、有限要素法を用いた数値解析によって、上記の6つの条件での、試験材の曲げ部の板厚方向におけるひずみ勾配を求める。
【0062】
そして、図5に示しているように、6つの条件でのくびれおよび破断の発生時における、試験材の曲げ部に付与される最大主ひずみと、試験材の曲げ部の板厚方向におけるひずみ勾配との関係から、最小二乗法によって、くびれクライテリアおよび破断クライテリアを導出する。
【0063】
続いて、図9に示すように、取得部1は、上記の方法によって予め求められたくびれクライテリアおよび破断クライテリアを取得する(ステップA1)。次に、算出部2は、評価対象となる材料に対応する、有限要素法による解析モデルを用いて、材料に所定の成形が施された際に、材料の各部に発生する最大主ひずみ、および板厚方向におけるひずみ勾配を算出する(ステップA2)。
【0064】
その後、比較部3は、取得部1によって取得されたくびれクライテリアおよび破断クライテリアと、算出部2によって算出された最大主ひずみ、およびひずみ勾配との比較を行い、材料の各部でくびれが発生する可能性の指標値を求める(ステップA3)。具体的には、図7(a)に示すOR/ONの値を求め、当該値をくびれが発生する可能性の指標値とする。
【0065】
そして、出力部4は、比較部3によって求められた指標値の分布図を作成し、表示装置20に出力する(ステップA4)。図10は、指標値の分布図の一例を示す図である。
【0066】
本発明の一実施形態に係るプログラムは、コンピュータに、図9に示すステップA1~A4を実行させるプログラムであればよい。このプログラムをコンピュータにインストールし、実行することによって、本実施の形態における成形性評価装置10を実現することができる。この場合、コンピュータのプロセッサは、取得部1、算出部2、比較部3、および出力部4として機能し、処理を行う。
【0067】
また、本実施の形態におけるプログラムは、複数のコンピュータによって構築されたコンピュータシステムによって実行されてもよい。この場合は、例えば、各コンピュータが、それぞれ、取得部1、算出部2、比較部3、および出力部4のいずれかとして機能してもよい。
【0068】
ここで、本実施形態におけるプログラムを実行することによって、成形性評価装置10を実現するコンピュータについて図11を用いて説明する。図11は、本実施形態における成形性評価装置を実現するコンピュータの一例を示すブロック図である。
【0069】
図11に示すように、コンピュータ100は、CPU(Central Processing Unit)111と、メインメモリ112と、記憶装置113と、入力インターフェイス114と、表示コントローラ115と、データリーダ/ライタ116と、通信インターフェイス117とを備える。これらの各部は、バス121を介して、互いにデータ通信可能に接続される。なお、コンピュータ100は、CPU111に加えて、またはCPU111に代えて、GPU(Graphics Processing Unit)、またはFPGA(Field-Programmable Gate Array)を備えていてもよい。
【0070】
CPU111は、記憶装置113に格納された、本実施の形態におけるプログラム(コード)をメインメモリ112に展開し、これらを所定順序で実行することにより、各種の演算を実施する。メインメモリ112は、典型的には、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の揮発性の記憶装置である。また、本実施の形態におけるプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体120に格納された状態で提供される。なお、本実施の形態におけるプログラムは、通信インターフェイス117を介して接続されたインターネット上で流通するものであってもよい。
【0071】
また、記憶装置113の具体例としては、ハードディスクドライブの他、フラッシュメモリ等の半導体記憶装置が挙げられる。入力インターフェイス114は、CPU111と、キーボードおよびマウスといった入力機器118との間のデータ伝送を仲介する。表示コントローラ115は、ディスプレイ装置119と接続され、ディスプレイ装置119での表示を制御する。
【0072】
データリーダ/ライタ116は、CPU111と記録媒体120との間のデータ伝送を仲介し、記録媒体120からのプログラムの読み出し、およびコンピュータ100における処理結果の記録媒体120への書き込みを実行する。通信インターフェイス117は、CPU111と、他のコンピュータとの間のデータ伝送を仲介する。
【0073】
また、記録媒体120の具体例としては、CF(Compact Flash(登録商標))およびSD(Secure Digital)等の汎用的な半導体記憶デバイス、フレキシブルディスク(Flexible Disk)等の磁気記録媒体、またはCD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)などの光学記録媒体が挙げられる。
【0074】
なお、本実施の形態における成形性評価装置10は、プログラムがインストールされたコンピュータではなく、各部に対応したハードウェアを用いることによっても実現可能である。また、成形性評価装置10は、一部がプログラムで実現され、残りの部分がハードウェアで実現されていてもよい。さらに、成形性評価装置10は、クラウドサーバを用いて構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によれば、くびれの発生を高精度で予測し、成形性を評価することが可能になる。
【符号の説明】
【0076】
1.取得部
2.算出部
3.比較部
4.出力部
10.成形性評価装置
20.表示装置
100.コンピュータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11