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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143143
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】A重油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/02 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
C10L1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055666
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江頭 嘉朗
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 史弥
【テーマコード(参考)】
4H013
【Fターム(参考)】
4H013BA00
(57)【要約】
【課題】硫黄分の含有割合を低減しつつ、スラッジの析出を効果的に抑制し得る新規なA重油組成物を提供する。
【解決手段】脂肪酸メチルエステル基材を4.0容量%~35.0容量%、所定性状を有する高圧水素化処理基材を4.0容量%~45.0容量%、硫黄分含有量が0.05~0.40質量%である流動接触分解軽油基材を30.0~50.0容量%、硫黄分含有量が0.20質量%以下である脱硫軽油基材を19.0容量%~45.0容量%含有し、前記脂肪酸メチルエステル基材、高圧水素化処理基材、流動接触分解軽油および脱硫軽油基材を各含有割合に応じて混合してなる混合基材のカウリブタノール価が36.0以上であることを特徴とするA重油組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸メチルエステル基材を4.0容量%~35.0容量%、
90容量%留出温度が320.0~360.0℃で、芳香族炭化水素を37.0~65.0質量%含む原料油の水素分圧10~18MPaによる水素化処理油から得られる、硫黄分含有量が10質量ppm未満、15℃における密度が0.8200~0.8750g/cm、蒸留範囲が245.0℃~380.0℃である高圧水素化処理基材を4.0容量%~45.0容量%、
硫黄分含有量が0.05~0.40質量%である流動接触分解軽油基材を30.0~50.0容量%、
硫黄分含有量が0.20質量%以下である脱硫軽油基材を19.0容量%~45.0容量%含有し、
前記脂肪酸メチルエステル基材、高圧水素化処理基材、流動接触分解軽油および脱硫軽油基材を各含有割合に応じて混合してなる混合基材のカウリブタノール価が36.0以上である
ことを特徴とするA重油組成物。
【請求項2】
残炭調整材を0.2~0.8容量%含む請求項1に記載のA重油組成物。
【請求項3】
前記脂肪酸メチルエステル基材および高圧水素化処理基材の合計含有割合が15.0~50.0容量%であり、
前記脂肪酸メチルエステル基材および高圧水素化処理基材の硫黄分含有量の合計量が10質量ppm以下である
請求項1または請求項2に記載のA重油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、A重油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、重油組成物は、各種産業分野において種々の用途に使用されており、JIS K2205:2006において、動粘度により、1種(A重油)、2種(B重油)及び3種(C重油)の3種類に分類されている。
これらの重油組成物のうち、A重油(A重油組成物)は、ハウス加温栽培用暖房機の燃料油や、ビル等の暖房機の燃料油や、漁船の燃料油等として用いられている(例えば、特許文献1(特開2022-138559号公報参照)。
【0003】
一般に、A重油組成物は、灯油留分や各種軽油留分から選択される一種以上の中間留分を基材として含有しつつ、さらに、常圧蒸留残渣油、減圧蒸留残渣油、直脱残渣油、エキストラクト油(潤滑油の溶剤抽出副生油)等の残渣油等を残炭調整材(残留炭素分付与基材)として含有している。
【0004】
A重油組成物の残留炭素分に関し、JIS K 2205:2006(重油)には4質量%以下とすることが規定されており、また、軽油取引税の課税対象である軽油組成物との製品区分を明確化するために、A重油組成物は、10%残油の残留炭素分を0.20質量%以上含む必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-138559号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、現在、A重油組成物中の硫黄分の含有割合は、JIS K 2205:2006において2.0質量%以下とすることが規定されているが、硫黄酸化物(SOx)の排出量を抑制して環境負荷を低減するために、A重油組成物中の硫黄分についてさらなる低減が求められるようになっている。
【0007】
A重油組成物中の硫黄分の含有割合を低減するためには、通常、A重油組成物を構成する中間留分として各種脱硫軽油基材を選択しこれを高い割合で配合する必要がある。
【0008】
しかしながら、本発明者等が検討したところ、A重油組成物中の脱硫軽油基材の配合割合を増加させた場合、A重油組成物を構成する残炭調整材に起因してアスファルテン凝集物(スラッジ)が析出し易くなることが判明した。
【0009】
すなわち、A重油組成物を燃料とするエンジンや各種の燃焼機器には、燃料系等に目開き5~250μm程度のフィルターが設けられ、燃料油中の異物を除去することにより後段の精密機器を保護しているが、A重油組成物に配合されている残炭調整材を構成するアスファルテン分(縮合環の芳香族炭化水素が架橋結合して出来た高分子化合物)が凝集することによってスラッジとして析出し、上記フィルターを閉塞し易くなることが判明した。
【0010】
このような状況下、本発明は、硫黄分の含有割合を低減しつつ、スラッジの析出を効果的に抑制し得る新規なA重油組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような状況下、本発明者等が鋭意検討したところ、脂肪酸メチルエステルを4.0容量%~35.0容量%、90容量%留出温度が320.0~360.0℃で、芳香族炭化水素を37.0~65.0質量%含む原料油の水素分圧10~18MPaによる水素化処理油から得られる、硫黄分含有量が10質量ppm未満、15℃における密度が0.820~0.875g/cm、蒸留範囲が245.0℃~380.0℃である高圧水素化処理基材を4.0容量%~45.0容量%、硫黄分含有量が0.05~0.40質量%である流動接触分解軽油基材を30.0~50.0容量%、硫黄分含有量が0.20質量%以下である脱硫軽油基材を19.0容量%~45.0容量%含有し、前記脂肪酸メチルエステル、高圧水素化処理基材、流動接触分解軽油および脱硫軽油基材を各含有割合に応じて混合してなる混合基材のカウリブタノール価が36.0以上であるA重油組成物により上記技術課題を解決し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至ったものである。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1)脂肪酸メチルエステル基材を4.0容量%~35.0容量%、
90容量%留出温度が320.0~360.0℃で、芳香族炭化水素を37.0~65.0質量%含む原料油の水素分圧10~18MPaによる水素化処理油から得られる、硫黄分含有量が10質量ppm未満、15℃における密度が0.8200~0.8750g/cm、蒸留範囲が245.0℃~380.0℃である高圧水素化処理基材を4.0容量%~45.0容量%、
硫黄分含有量が0.05~0.40質量%である流動接触分解軽油基材を30.0~50.0容量%、
硫黄分含有量が0.20質量%以下である脱硫軽油基材を19.0容量%~45.0容量%含有し、
前記脂肪酸メチルエステル基材、高圧水素化処理基材、流動接触分解軽油および脱硫軽油基材を各含有割合に応じて混合してなる混合基材のカウリブタノール価が36.0以上である
ことを特徴とするA重油組成物、
(2)残炭調整材を0.2~0.8容量%含む上記(1)に記載のA重油組成物、
(3)前記脂肪酸メチルエステル基材および高圧水素化処理基材の合計含有割合が15.0~50.0容量%であり、
前記脂肪酸メチルエステル基材および高圧水素化処理基材の硫黄分含有量の合計量が10質量ppm以下である
上記(1)または(2)に記載のA重油組成物、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、硫黄分の含有割合を低減しつつ、スラッジの析出を効果的に抑制し得る新規なA重油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
なお、本明細書中、数値範囲を現す「~」は、その上限及び下限としてそれぞれ記載されている数値を含む範囲を表す。また、「~」で表される数値範囲において上限値のみ単位が記載されている場合は、下限値も同じ単位であることを意味する。
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。
本明細書において組成物中の各成分の含有率又は含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本明細書において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0015】
本明細書において、下記項目の値は、特に断らない限り、各々以下の試験方法及び計算方法を用いて求めた値を意味する。
・「15℃における密度(密度(15℃))」
JIS K 2249-1:2011「原油及び石油製品-密度の求め方―(振動法)」に規定されている方法。
・「50℃における動粘度(動粘度(50℃))」
JIS K 2283:2000「原油及び石油製品-動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」に規定されている方法。
・「窒素分(窒素化合物)含有割合」
JIS K 2609:2022「原油及び石油製品-窒素分試験方法」に規定されている方法。
・「硫黄分(硫黄化合物)含有割合」
500質量ppm以下の硫黄分:JIS K 2541-6:2013「原油及び石油製品-硫黄分試験方法-第6部:紫外蛍光法」に規定されている方法。
500質量ppmを超える硫黄分:JIS K 2541-4:2003「原油及び石油製品-硫黄分試験方法-第4部:放射線式励起法」に規定されている方法。
・「酸価」
JIS K 2501:2003「石油製品及び潤滑油-中和価試験方法」に規定されている全酸価の測定方法。
・「スラッジ量」
メンブランフィルター(孔径1.2μm)の重量を0.1mgの桁まで求めた後、吸引ろ過装置にメンブランフィルターをセットし、測定試料100mLをろ過する。メンブランフィルター上に液体が見えなくなった後、メンブランフィルターの縁に油状のものが確認できなくなるまで、n-ヘプタンで洗浄する。その後、メンブランフィルターを乾燥させ、乾燥後のメンブランフィルターの重量を測定し、乾燥後のメンブランフィルターの重量からフィルターの重量を引き、スラッジ量を求める。
・「カウリブタノール価」
ASTM D1133-13(2021)「Standard Test Method for Kauri-Butanol Value of Hydrocarbon Solvents」に記載の方法。
具体的には、以下に記載の方法により測定する。
すなわち、天然カウリ樹脂とブチルアルコールで調製した標準カウリブタノール溶液20±0.1gを200ミリリットル(mL)の三角フラスコにとり、この三角フラスコを25±1℃に保った水溶液に浸す。次に、先ずトルエンをビュレットに採り、上記の三角フラスコ内に滴定する。終点は、フラスコの下に印刷活字を置き、活字の字画が不鮮明になったときとする。同様に、トルエンとn-ヘプタンとの混合液(容量割合でトルエン25:n-ヘプタン75)についても滴定する。そして、カウリブタノール価測定対象油(以下、「試料」と言う)をビュレットにとり、同様の操作で滴定する。
カウリブタノール価は、下記数1の式によって算出する。
《数1》
カウリブタノール価=[〔65(C-B)〕/〔A-B〕]+40
A:滴定に要したトルエンの量(mL)
B:滴定に要したn-ヘプタン・トルエン混合液の量(mL)
C:滴定に供した試料の量(mL)
なお、前記カウリブタノール価の測定法において、標準カウリブタノール溶液は、トルエンで滴定したときカウリブタノール価が100~110で、容量割合でトルエン25:ヘプタン75の混合液で滴定したときカウリブタノール価が40になるように予め調整しておく。
・「引火点」
JIS K 2265-3:2007「引火点の求め方―第3部:ペンスキーマルテンス密閉法」に規定されている方法(PM法)。
・「セタン指数」
JIS K 2204:1992に規定されている方法。
・「蒸留性状(留出温度)」
JIS K 2254:2018「石油製品-蒸留性状の求め方」に規定されている「常圧法」に規定されている方法。
・「10%残油の残留炭素分(10%残留炭素分)」(試料を蒸留して試料の体積分率90%までの留出油を除いて得られる残油中の残留炭素分)
JIS K 2270-2:2009「原油及び石油製品―残留炭素分の求め方―第2部:ミクロ法」に規定されている方法。
・「残留炭素分」
JIS K 2270-2:2009「原油及び石油製品―残留炭素分の求め方―第2部:ミクロ法」に規定されている方法。
・「総発熱量」
JIS K 2279:2003「原油及び石油製品-発熱量試験方法及び計算による推定方法-」に規定されている方法。
・「真発熱量」
JIS K 2279:2003 「原油及び石油製品-発熱量試験方法及び計算による推定方法-」に規定されている方法。
・「曇り点」
JIS K 2269:1987「原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法」に規定されている方法。
・「流動点」
JIS K 2269:1987「原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法」により測定されている方法。
・「ワックス析出点」
ワックス析出点は、試料中のワックスが析出し始める温度を意味し、以下に記載するとおり、DSC(示差走査熱量計)を用い、試料を一定速度で冷却して測定したDSC曲線の発熱ピークの補外開始温度より求める。
すなわち、(株)リガク製示差走査熱量計DSCvestaを用いて、試料約10mgを、流量毎分50mlの窒素雰囲気中で室温から毎分5℃の速度で冷却し、ワックス析出による発熱ピークを取得する。その後、発熱ピークの立ち上がり部分の最大傾斜点で接線を引き、ピーク前のベースラインと接線が交わった点の温度をワックス析出点として求める。
・「-10℃析出ワックス分」
上記ワックス析出点の測定方法により求めたDSC曲線において、-10℃におけるDSC曲線の発熱量ピークより析出したワックス量を求める。
・「芳香族分(芳香族炭化水素)の含有割合」、「一環芳香族炭化水素(一環アロマ)の含有割合」、「二環芳香族炭化水素(二環アロマ)の含有割合」、「三環芳香族炭化水素(三環アロマ)の含有割合」
JPI-5S-49-07「石油製品―炭化水素タイプ試験方法―高速液体クロマトグラフ法」に規定されている方法。
なお、後述するように、高圧水素化処理基材の原料油中の芳香族炭化水素の含有量については、IP548/06「Determination OF aromatic hydrocarbon types in middle distillates - High performance liquid chromatography method With refractive index detection」に規定されている方法。
・「飽和分(飽和炭化水素化合物)の含有割合」
JPI-5S-49-07「石油製品―炭化水素タイプ試験方法―高速液体クロマトグラフ法」に規定されている方法。
・「オレフィン分(不飽和炭化水素化合物)の含有割合」
JPI-5S-49-07「石油製品―炭化水素タイプ試験方法―高速液体クロマトグラフ法」に規定されている方法。
・「ナフテン分(環式飽和炭化水素)の含有割合」
先ず高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて、以下の条件により飽和分(飽和炭化水素)と芳香族分(芳香族炭化水素)とを分取する。
装置:(株)島津製作所製 Prominence ISO-UV System (CBM20A)
カラム:Develosil 30-3 (4.6mmx250mm 野村化学(株)製)
カラム温度:室温
移動相:n-ヘキサン (HPLC用) 1.0mL/min 5.3MPa
試料希釈:n-ヘキサンで20容量%に希釈
サンプルラック温度:室温
続いて、分取した飽和分と芳香族分とを下記の条件で水素炎イオン化検出器付ガスクロマトグラフ(GC-FID)で測定し、それぞれの面積比を質量%として算出する。
装置:アジレント・テクノロジー社製Agilent 7890B
カラム:DB-HT SimDis 5m×0.53mmI.D.×0.15um (145-1001 Agilent社)
オーブン温度:40℃(1min)-(30℃/min)-350℃(2min)
注入口温度:オーブントラックモード(オーブン+3℃)
検出器:FID 400℃
キャリアガス:He 0.45702psi 3.51mL/min コンスタントフロー 27.453cm/sec
注入方法:オンカラム注入4μl
次に、分取した飽和分を以下の条件でガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)にて測定し、平均マススペクトルを求めた後、ASTM D 2786-91(2016)に従って解析を行い、鎖式飽和炭化水素と環式飽和炭化水素の容量比を求める。
装置:アジレント・テクノロジー社製Agilent 7890A Agilent 5975C 四重極質量分析計
カラム:DB-1HT 30m×0.32mmI.D.×0.10um
オーブン温度:40℃(2min)-(20℃/min)-300℃(5min)
注入口温度:オーブントラックモード(オーブン+3℃)
トランスファライン温度:300℃
キャリアガス:He定圧モード30kPa 初期2.1mL/min 52cm/sec
溶媒待ち時間:2.5分
質量範囲:30-750 Threshold:100 Sampling♯2 2.07scan/sec
イオン化電圧:EI 70eV
注入方法:オンカラム注入0.5μl
最後に、飽和分と芳香族分の密度が同一と仮定し、GC-FIDで求めた飽和分の質量%に、GC/MSで求めた鎖式飽和炭化水素と環式飽和炭化水素の容量比を乗算することで、組成物中における鎖式飽和炭化水素の容量%とともに環式飽和炭化水素(ナフテン分)の容量%を求める。
【0016】
本発明に係るA重油組成物は、
脂肪酸メチルエステル基材を4.0容量%~35.0容量%、
90容量%留出温度が320.0~360.0℃で、芳香族炭化水素を37.0~65.0質量%含む原料油の水素分圧10~18MPaによる水素化処理油から得られる、硫黄分含有量が10質量ppm未満、15℃における密度が0.8200~0.8750g/cm、蒸留範囲が245.0℃~380.0℃である高圧水素化処理基材を4.0容量%~45.0容量%、
硫黄分含有量が0.05~0.40質量%である流動接触分解軽油基材を30.0~50.0容量%、
硫黄分含有量が0.20質量%以下である脱硫軽油基材を19.0容量%~45.0容量%含有し、
前記脂肪酸メチルエステル基材、高圧水素化処理基材、流動接触分解軽油および脱硫軽油基材を各含有割合に応じて混合してなる混合基材のカウリブタノール価が36.0以上である
ことを特徴とするものである。
【0017】
以下、本発明に係るA重油組成物を構成する各基材について説明する。
【0018】
本発明に係るA重油組成物は、脂肪酸メチルエステル(Fatty acid methyl ester(略称: FAME))を構成基材として含むものである。
【0019】
脂肪酸メチルエステルが動植物油由来のもの、すなわち、動植物油から得られる脂肪酸(以下、「動植物油脂肪酸」と称することがある。)をメチルエステル化して得られたものである場合、A重油組成物用燃料基材として、自然環境への影響を抑制することができる。
【0020】
動植物油脂肪酸の原料となる動植物油としては、特に制限されないが、例えば、菜種油、大豆油、パーム油、オリーブ油、ココナッツ油、米油、大麻油、オウレンボク等の植物油や、牛脂、豚脂、魚油等の動物油の他、天婦羅油など廃食用油等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
これらの中でも、原料の入手性の観点から植物油が好ましく、特に、菜種油、大豆油、パーム油等から選ばれる一種以上が好ましい。
【0021】
本発明に係るA重油組成物の構成基材となる脂肪酸メチルエステルが動植物油由来のものである場合、上記動植物油から公知の方法で調製することができ、例えば、以下の(i)工程および(ii)工程を順次施すことにより調製することができる。
(i)動植物油にメタノールと触媒を加えてエステル交換反応を行った後、酸を加えて中和し、脂肪酸メチルエステルとグリセリンに分離する。
(ii)次いで、分離した脂肪酸メチルエステルを水洗処理や蒸留処理を行って触媒やアルコールなどを除去する。
【0022】
本発明に係るA重油組成物は、脂肪酸メチルエステルを構成基材として含むことにより、従来の石油系基材から構成されるA重油組成物と同様の沸点範囲を有するA重油組成物を容易に製造することができる。
【0023】
本発明に係るA重油組成物において、基材となる脂肪酸メチルエステルは、炭素数が10~24であるものが好ましく、炭素数が12~22であるものがより好ましく、炭素数が14~20であるものがより好ましい。
【0024】
本発明に係るA重油組成物において、基材となる脂肪酸メチルエステルとして、具体的には、酪酸メチルエステル、ラウリン酸メチルエステル、ステアリン酸メチルエステル、オレイン酸メチルエステル、リノール酸メチルエステル、リノレン酸メチルエステル、ドコサヘキサエン酸メチルエステル、エルカ酸メチルエステル等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
また、本発明に係るA重油組成物において、基材となる脂肪酸メチルエステルとして、例えば、大豆油、菜種油、ひまわり油、パーム油、アマニ油、落花生油、イワシ油、牛脂肪油および廃食用油等から選ばれる一種以上の動植物油に由来する脂肪酸メチルエステルを挙げることができる。
【0025】
本発明に係るA重油組成物において、基材となる脂肪酸メチルエステルが動植物油由来のもの、すなわち動植物油脂肪酸のメチルエステル化物である場合、通常不純物を含み、この不純物の含有量は、原料となる動植物油脂肪酸の種類、精製方法及びエステル化方法によって変動する。
本発明に係るA重油組成物において、基材となる脂肪酸メチルエステルが動植物油由来のものである場合、脂肪酸メチルエステルの純度は、90容量%~100容量%が好ましく、95容量%~100容量%がより好ましく、98容量%~100容量%であることが好ましい。
【0026】
なお、本出願書類において、脂肪酸メチルエステルの純度は、EN14103:2020「Fat and oil derivatives - Fatty Acid Methyl Esters (FAME) - Determination of ester and linolenic acid methyl ester contents」により測定した値を意味する。
【0027】
本発明に係るA重油組成物において、基材となる脂肪酸メチルエステルの15℃における密度(密度(15℃))は、0.8600~0.9000g/cmであることが好ましく、0.8700~0.9000g/cmであることがより好ましく、0.8800~0.9000g/cmであることがさらに好ましい。
【0028】
本発明に係るA重油組成物において、基材となる脂肪酸メチルエステルの15℃における密度(密度(15℃))が上記範囲内にあることにより、容量あたりの炭化水素含有量が多くなり、発熱量が向上してA重油組成物の燃焼時に良好な燃焼状態を容易に発揮することができる。
本発明に係るA重油組成物において、基材となる脂肪酸メチルエステルの硫黄分(硫黄化合物)含有割合は、10質量ppm以下(0~10質量ppm)であることが好ましく、8質量ppm以下(0~8質量ppm)であることがより好ましく、6質量ppm以下(0~6質量ppm)であることがさらに好ましい。
【0029】
本発明に係るA重油組成物において、脂肪酸メチルエステルの硫黄分(硫黄化合物)含有割合が上記範囲内にあることにより、燃焼時における硫黄酸化物の生成を容易に低減することができる。
【0030】
本発明に係るA重油組成物において、基材となる脂肪酸メチルエステルの酸価は、0.50mgKOH/g以下(0.00~0.50mgKOH/g)であることが好ましく、0.40mgKOH/g以下(0.00~0.40mgKOH/g)であることがより好ましく、0.30mgKOH/g以下(0.00~0.30mgKOH/g)であることがさらに好ましい。
【0031】
本発明に係るA重油組成物において、脂肪酸メチルエステルの酸価が上記範囲内にあることにより、A重油組成物を貯蔵ないし燃焼する際に使用する燃料タンクやエンジン等の腐食を抑制することができる。
【0032】
本発明に係るA重油組成物において、基材となる脂肪酸メチルエステルのスラッジ量は、0.0~5.0mg/100mLであることが好ましく、0.0~4.0mg/100mLであることがより好ましく、0.0~3.0mg/100mLであることがさらに好ましい。
【0033】
本発明に係るA重油組成物において、基材となる脂肪酸メチルエステルのスラッジ量が上記範囲内にあることにより、A重油組成物への脂肪酸メチルエステル由来のスラッジの持ち込みを容易に抑制することができる。
【0034】
本発明に係るA重油組成物において、基材となる脂肪酸メチルエステルのカウリブタノール価は、45.0~100.0であることが好ましく、50.0~100.0であることがより好ましく、55.0~100.0であることがさらに好ましい。
【0035】
本発明に係るA重油組成物において、基材となる脂肪酸メチルエステルのカウリブタノール価が上記範囲内にあることにより、アスファルテンを含む残炭調整材を好適に溶解してスラッジの析出を好適に抑制することができる。
【0036】
本発明に係るA重油組成物において、基材となる脂肪酸メチルエステルのセタン指数は、50.0~60.0であることが好ましく、52.0~60.0であることがより好ましく、53.0 ~60.0であることがさらに好ましい。
【0037】
本発明に係るA重油組成物において、基材となる脂肪酸メチルエステルのセタン指数が上記範囲内にあることにより、A重油組成物を燃焼させる際に良好な燃焼状態を得ることができる。
【0038】
本発明に係るA重油組成物において、基材となる脂肪酸メチルエステルの常圧法蒸留試験における90容量%留出温度(T90)は、320.0~340.0℃であることが好ましく、325.0~340.0℃であることがより好ましく、330.0~340.0℃であることがさらに好ましい。
【0039】
本発明に係るA重油組成物において、基材となる脂肪酸メチルエステルの常圧法蒸留試験におけるT90が上記範囲内にあることにより、A重油組成物の構成基材として好適に使用することができる。
【0040】
本発明に係るA重油組成物において、基材となる脂肪酸メチルエステルの総発熱量は、44.80~45.40MJ/kgであることが好ましく、44.90~45.30MJ/kgであることがより好ましく、45.00~45.20MJ/kgであることがさらに好ましい。
また、本発明に係るA重油組成物において、基材となる脂肪酸メチルエステルの真発熱量は、42.10~42.70MJ/kgであることが好ましく、42.20~42.60MJ/kgであることがより好ましく、42.30~42.50MJ/kgであることがさらに好ましい。
【0041】
本発明に係るA重油組成物において、基材となる脂肪酸メチルエステルの総発熱量または真発熱量が上記範囲内にあることにより、A重油組成物の単位重量あたりの発熱量を容易に向上させることができる。
【0042】
本発明に係るA重油組成物は、脂肪酸メチルエステルを、基材として、4.0容量%~35.0容量%含むものであり、4.0容量%~33.0容量%含むものであることが好ましく、4.0容量%~31.0容量%含むものであることがより好ましい。
【0043】
本発明に係るA重油組成物は、脂肪酸メチルエステルを基材として上記範囲内で含有するものであることにより、アスファルテンを含む残炭調整材を好適に溶解して、スラッジ析出を容易に抑制することができる。
【0044】
本発明に係るA重油組成物は、90容量%留出温度が320.0~360.0℃で、芳香族炭化水素を37.0~65.0質量%含む原料油の水素分圧10~18MPaによる水素化処理油から得られる、硫黄分含有量が10質量ppm未満、15℃における密度が0.8200~0.8750g/cm、蒸留範囲が245.0℃~380.0℃である高圧水素化処理基材を構成基材として含むものである。
【0045】
本発明に係るA重油組成物を構成する高圧水素化処理基材は、硫黄分含有量が、10質量ppm未満(0質量ppm以上10質量ppm未満)であるものであり、7質量ppm以下(0質量ppm以上7質量ppm以下)であるものが好ましく、3質量ppm以下(0質量ppm以上3質量ppm以下)であるものがより好ましい。
本発明に係るA重油組成物を構成する高圧水素化処理基材の硫黄分含有量が上記範囲内にあることにより、燃焼時における硫黄酸化物の生成を容易に低減することができる。
【0046】
本発明に係るA重油組成物は、上記脂肪酸メチルエステル基材および高圧水素化処理基材の硫黄分含有量の合計量が10質量ppm以下(0質量ppm以上10質量ppm未満)であることが好ましく、8質量ppm以下(0質量ppm以上8質量ppm以下)であるものがより好ましく、6質量ppm以下(0質量ppm以上6質量ppm以下)であるものがさらに好ましい。
本発明に係るA重油組成物において、脂肪酸メチルエステル基材および高圧水素化処理基材における硫黄分含有量の合計量が上記範囲内にあることにより、燃焼時における硫黄酸化物の生成を一層容易に低減することができる。
【0047】
本発明に係るA重油組成物を構成する高圧水素化処理基材は、15℃における密度が、0.8200g/cm~0.8750g/cm3であるものであり、0.8300g/cm~0.8650g/cmであることが好ましく、0.8400g/cm~0.8550g/cmであることがより好ましい。
A重油組成物を構成する高圧水素化処理基材の密度が上記範囲内にあることにより、容量あたりの炭化水素含有量が多くなり、発熱量が向上してA重油組成物の燃焼時に良好な燃焼状態を容易に発揮することができる。
【0048】
本発明に係るA重油組成物において、基材となる高圧水素化処理基材の酸価は、0.03mgKOH/g以下(0.00~0.03mgKOH/g)であることが好ましく、0.02mgKOH/g以下(0.00~0.02mgKOH/g)であることがより好ましく、0.01mgKOH/g以下(0.00~0.01mgKOH/g)であることがさらに好ましい。
【0049】
本発明に係るA重油組成物において、高圧水素化処理基材の酸価が上記範囲内にあることにより、A重油組成物を貯蔵ないし燃焼する際に使用する燃料タンクやエンジン等の腐食を抑制することができる。
【0050】
本発明に係るA重油組成物において、高圧水素化処理基材のスラッジ量は、0.0~0.5mg/100mLであることが好ましく、0.0~0.4mg/100mLであることがより好ましく、0.0~0.3mg/100mLであることがさらに好ましい。
【0051】
本発明に係るA重油組成物において、高圧水素化処理基材のスラッジ量が上記範囲内にあることにより、A重油組成物への高圧水素化処理基材由来のスラッジの持ち込みを容易に抑制することができる。
【0052】
本発明に係るA重油組成物において、高圧水素化処理基材のカウリブタノール価は、23.0~30.0であることが好ましく、24.0~30.0あることがより好ましく、25.0~30.0であることがさらに好ましい。
【0053】
本発明に係るA重油組成物において、高圧水素化処理基材のカウリブタノール価が上記範囲内にあることにより、アスファルテンを含んだ残炭調整材を好適に溶解してスラッジの析出を好適に抑制することができる。
【0054】
本発明に係るA重油組成物において、高圧水素化処理基材のセタン指数は、50.0~60.0であることが好ましく、51.0~60.0であることがより好ましく、52.0~60.0であることがさらに好ましい。
【0055】
本発明に係るA重油組成物において、高圧水素化処理基材のセタン指数が上記範囲内にあることにより、A重油組成物を燃焼させる際に良好な燃焼状態を得ることができる。
【0056】
本発明に係るA重油組成物を構成する高圧水素化処理基材は、蒸留範囲が、245.0.0℃~380.0℃であるものであり、245.5.0℃~370.0℃であるものが好ましく、246.0℃~360.0℃であるものがより好ましい。
本発明に係るA重油組成物を構成する高圧水素化処理基材の蒸留範囲が上記範囲内にあることにより、A重油組成物に配合した際に、燃料油としての使用に適した蒸留性状を容易に付与することができる。
なお、本出願書類において、蒸留範囲とは、初留点(IBP)~終点(EP)に係る温度範囲を意味する。
【0057】
本発明に係るA重油組成物を構成する高圧水素化処理基材は、常圧蒸留における10容量%留出温度(T10)が、240.0~300.0℃であるものが好ましく、250.0~300.0℃であるものがより好ましく、260.0~300.0℃であることがさらに好ましい。
本発明に係るA重油組成物を構成する高圧水素化処理基材のT10が240.0℃以上であることにより、A重油として適切な引火点および動粘度を保つことができるとともに、容量あたりの炭化水素の含有量が多くなって発熱量が向上する。また、本発明に係るA重油組成物を構成する高圧水素化処理基材のT10が300.0℃以下であることにより、ワックス析出温度が制限され、低温流動性を保つ上で好適である。
本発明に係るA重油組成物を構成する高圧水素化処理基材は、常圧蒸留における90容量%留出温度(T90)が、310.0~360.0℃であるものが好ましく、320.0~360.0℃であるものがより好ましく、330.0~360.0℃であるものがさらに好ましい。
本発明に係るA重油組成物を構成する高圧水素化処理基材のT90が310.0℃以上であることにより、A重油として適切な引火点および動粘度を保つことができるとともに、容量あたりの炭化水素の含有量が多くなり、発熱量が向上する。また、本発明に係るA重油組成物を構成する高圧水素化処理基材のT90が360.0℃以下であることにより、燃料噴霧時の霧化不良に伴う燃焼室汚染、ノズルへのカーボン付着などを抑えることができるため好ましい。
【0058】
本発明に係るA重油組成物を構成する高圧水素化処理基材は、引火点が、100.0℃以上であるものが好ましく、110.0℃以上であるものがより好ましい。
高圧水素化処理基材の引火点の上限は特に制限されないが、高圧水素化処理基材の引火点は、通常、140.0℃以下である。
A重油組成物を構成する高圧水素化処理基材の引火点が上記範囲内にあることにより、常温で可燃性蒸気が発生し難く、静電気等による着火を抑制し易くなる。
【0059】
本発明に係るA重油組成物を構成する高圧水素化処理基材は、ワックス析出点が、-10℃~6℃であるものが好ましく、-10℃~5℃であるものがより好ましく、-10℃~4℃であるものがさらに好ましい。
高圧水素化処理基材のワックス析出点が上記範囲内にあることにより、高圧水素化処理基材を配合したA重油組成物におけるワックス分の析出を抑制し易くなるとともに、燃料フィルターや配管系内部での詰まりの発生を抑制し易くなり、低温始動性、及び低温運転性を容易に向上することができる。
【0060】
本発明に係るA重油組成物において、高圧水素化処理基材中の飽和分の含有割合は、60.0~95.0容量%であることが好ましく、65.0~94.0容量%であることがより好ましく、70.0~93.0容量%であることがさらに好ましい。
高圧水素化処理基材中の飽和分の含有割合が上記範囲内にあることにより、A重油組成物に配合したときに、良好な燃焼性を容易に発揮することができる。
【0061】
本発明に係るA重油組成物において、高圧水素化処理基材中のオレフィン分の含有割合は、0.3容量%以下(0.0容量%~0.3容量%)であることが好ましく、0.2容量%以下(0.0容量%~0.2容量%)であることがより好ましく、0.1容量%以下(0.0容量%~0.1容量%であることがさらに好ましい。
高圧水素化処理基材中のオレフィン分の含有割合が上記範囲内にあることにより、A重油組成物に配合したときに、良好な酸化安定性を容易に発揮することができる。
【0062】
本発明に係るA重油組成物において、高圧水素化処理基材中の芳香族分の含有割合は、5.0~40.0容量%であることが好ましく、6.0~35.0容量%であることがより好ましく、7.0~30.0容量%であることがさらに好ましい。
本発明に係るA重油組成物において、高圧水素化処理基材中の芳香族分の含有割合が上記範囲内にあることにより、アスファルテンを含んだ残炭調整材を好適に溶解してスラッジの析出を好適に抑制することができる。また、燃焼時に炭素粒子である「すす」の発生量を低減して良好な燃焼性を容易に発揮することができる。
【0063】
本発明に係るA重油組成物において、高圧水素化処理基材中のナフテン(環状飽和炭化水素)の含有割合は、35.0~65.0容量%であることが好ましく、40.0~60.0容量%であることがより好ましく、45.0~55.0容量%であることがさらに好ましい。
高圧水素化処理基材中のナフテン(環状飽和炭化水素)の含有割合が上記範囲内にあることにより、A重油組成物に配合した際に、良好な燃焼性を容易に発揮することができる。
【0064】
本発明に係るA重油組成物において、高圧水素化処理基材の総発熱量は、38,500~39,000J/mLが好ましく、38,600~39,000J/mLがより好ましく、38,750~39,000J/mLがさらに好ましく、35,800~39,000J/mLが一層好ましい。
総発熱量が上記範囲内にあることにより、A重油組成物における燃焼時に燃焼効率を容易に向上させることができる。
なお、上記総発熱量は、JIS K2279「原油及び石油製品-発熱量試験方法及び計算による推定方法」により測定される値を意味する。
【0065】
次に、本発明に係るA重油組成物を構成する高圧水素化処理基材を製造する方法について説明する。
【0066】
(高圧水素化処理基材の原料油)
本発明に係るA重油組成物を構成する高圧水素化処理基材の原料油は、90容量%留出温度が320.0~360.0℃であり、芳香族炭化水素を37.0~65.0質量%含むものである。
【0067】
高圧水素化処理基材の原料油は、90容量%留出温度(T90)が、320.0~360.0℃であり、330.0~360.0℃が好ましく、340.0~360.0℃がより好ましい。
【0068】
高圧水素化処理基材の原料油は、芳香族炭化水素化合物の含有量が、37.0~65.0質量%であり、40.0~60.0質量%が好ましく、45.0~60.0質量%がより好ましく、50.0~60.0質量%が一層好ましい。
なお、本出願書類において、高圧水素化処理基材の原料油中の芳香族炭化水素の含有量は、IP548/06「Determination OF aromatic hydrocarbon types in middle distillates - High performance liquid chromatography method With refractive index detection」により測定される値を意味する。
【0069】
高圧水素化処理基材の原料油は、硫黄分含有量が、3質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましい。
上記原料油の硫黄分含有量は低い程好ましいため、硫黄分の含有量の下限値は特に限定されないが、通常0.5質量%以上である。
【0070】
高圧水素化処理基材の原料油は、窒素分含有量が、1,000質量ppm以下であることが好ましく、800質量ppm以下であることがより好ましい。
窒素分の含有量は低い程好ましいため、窒素分の含有量の下限値は特に限定されないが、通常100質量ppm以上である。
【0071】
高圧水素化処理基材の原料油の15℃における密度は、0.8600~0.9100g/mLが好ましく、0.8650~0.9050g/mLがより好ましい。
【0072】
高圧水素化処理基材の原料油としては、熱分解軽質軽油、接触分解軽油、及び熱分解重質軽油を水素化処理して得られた軽質軽油から選ばれる一種以上を挙げることができ、芳香族炭化水素化合物含有量が多い熱分解軽質軽油、及び接触分解軽油から選ばれる一種以上であることが好ましい。
原料油の総容積に対する熱分解軽質軽油と接触分解軽油の合計含有量は、30.0~100.0容量%が好ましく、40.0~98.0容量%がより好ましく、50.0~95.0容量%がさらに好ましく、60.0~95.0容量%が一層好ましい。
例えば、原料油の総容積に対して、熱分解軽質軽油の含有量が30.0~60.0容量%で、かつ接触分解軽油の含有量が35.0~65.0容量%が好ましい。
高圧水素化処理基材の原料油としては、上記熱分解軽質軽油、接触分解軽油、熱分解重質軽油を水素化処理して得られた軽質軽油以外の留分として、例えば、常圧蒸留装置から得られる直留軽油、間接脱硫装置から得られる軽油留分、直接脱硫装置から得られる軽油留分等を含んでもよい。
原料油の総容積に対する上記熱分解軽質軽油、接触分解軽油、熱分解重質軽油を水素化処理して得られた軽質軽油以外の留分の含有割合は、0~70容量%が好ましく、2~60容量%がより好ましく、5~50容量%がさらに好ましい。
【0073】
(原料油の高圧水素化処理)
本発明に係るA重油組成物を構成する高圧水素化処理基材は、上記原料油を水素分圧10~18MPaで高圧水素化処理した水素化処理油から得られるものである。
【0074】
(水素化処理触媒)
上記高圧水素化処理時に使用する水素化処理触媒としては、担体が、アルミナを含有する多孔質無機酸化物であるものが好ましい。
水素化処理触媒を構成する活性成分としては、周期表第6族から選ばれる少なくとも1種の金属元素、周期表第8~10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素が例として挙げられる。
周期表第6族から選ばれる少なくとも1種の金属元素としては、モリブデン、タングステンが好ましい。モリブデン化合物としては、三酸化モリブデン、モリブデン酸アンモニウム等が好ましく、タングステン化合物としては、三酸化タングステン、タングステン酸アンモニウム等が好ましい。第6族金属の担持量は、酸化物換算で水素化処理触媒の総質量に対して8~20質量%が好ましい。
周期表第8~10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素としては、コバルト、ニッケルが好ましい。コバルト化合物としては、炭酸コバルト、塩基性炭酸コバルト、硝酸コバルト等が好ましく、ニッケル化合物としては、炭酸ニッケル、塩基性炭酸ニッケル、硝酸ニッケル等が好ましい。第9族と第10族の金属元素の担持量は、酸化物換算で水素化処理触媒の総質量に対して2~6質量%が好ましい。
上述した活性成分のなかでは、モリブデンとニッケルとを組み合わせたモリブデンニッケル系触媒が好ましい。
また、上述の水素化処理触媒を、水素雰囲気下で、300~400℃で、1~36時間、水素還元処理して使用することが好ましい。
【0075】
(水素化処理条件)
原料油の高圧水素化処理時における水素分圧は、10~18MPaであり、11~16MPaが好ましく、13~15MPaがより好ましい。
【0076】
高圧水素化処理を流通式反応装置で実施する場合、反応器入口の水素/油比(以下、「水素/油比」と称する)は、例えば100~800Nm/KLであり、200~700Nm/KLが好ましく、300~650Nm/KLがより好ましい。
また、反応器内の発熱に応じてクエンチ水素を加えても良い。
【0077】
高圧水素化処理を流通式反応装置で実施する場合、液空間速度(LHSV)は、例えば0.1~3hr-1であり、0.2~2hr-1が好ましく、0.25~1hr-1がより好ましい。
【0078】
触媒層の温度は、例えば、300~420℃が好ましく、310~400℃がより好ましく、310~390℃がさらに好ましい。
【0079】
高圧水素化処理時における反応形式としては、固定床、移動床又は流動床が例として挙げられ、この反応器に上記の原料油を導入し、上記の水素化処理条件で処理すればよい。最も一般的には、上述した触媒を上記の態様で固定床として維持し、原料油が固定床を下方に通過するようにする。
【0080】
水素化処理して得られた処理油を蒸留分離して、目的とする高圧水素化処理基材を得る。
上記蒸留分離には、蒸留装置を用いることが好ましい。ここで、蒸留装置とは、液体混合物を沸点の差を利用して分離する装置で、常温、常圧で液体又は固体の混合物でも温度と圧力調節により液体混合物として蒸留により分離できる装置を意味する。
【0081】
その他、高圧水素化処理基材の製造方法の詳細は、特開2019-178252号公報において高発熱量軽油基材の製造方法として記載されているとおりである。
【0082】
本発明に係るA重油組成物は、構成基材として、上記高圧水素化処理基材を、4.0容量%~45.0容量%含み、5.0容量%~44.0容量%含むことが好ましく、6.0容量%~43.0容量%含むことがより好ましい。
【0083】
本発明に係るA重油組成物は、脂肪酸メチルエステル基材および流動接触分解軽油基材とともに高圧水素化処理基材を上記割合で含むものであることにより、硫黄分の含有割合を低減しつつ、脱硫軽油基材を一定割合含む場合においてもスラッジの析出を効果的に抑制することができる。
【0084】
本発明に係るA重油組成物は、上記脂肪酸メチルエステル基材および高圧水素化処理基材を、合計で、15.0容量%~50.0容量%含むことが好ましく、16.0容量%~48.0容量%含むことがより好ましく、17.0容量%~46.0容量%含むことがさらに好ましい。
【0085】
本発明に係るA重油組成物は、脂肪酸メチルエステル基材および高圧水素化処理基材を上記割合で含むものであることにより、硫黄分の含有割合を低減しつつ、脱硫軽油基材を一定割合含む場合においてもスラッジの析出を効果的に抑制することができる。
【0086】
本発明に係るA重油組成物は、構成基材として、流動接触分解軽油(LCO)を含むものである。
本出願書類において、流動接触分解軽油とは、流動接触分解装置または残渣流動接触分解装置から得られる軽油留分を意味する。
【0087】
本発明に係るA重油組成物において、基材となる流動接触分解軽油の15℃における密度(密度(15℃))は、0.8700 ~0.9100g/cmであることが好ましく、0.8800~0.9100g/cmであることがより好ましく、0.8900~0.9100g/cmであることがさらに好ましい。
【0088】
本発明に係るA重油組成物において、基材となる流動接触分解軽油の15℃における密度(密度(15℃))が上記範囲内にあることにより、容量あたりの炭化水素含有量が多くなり、発熱量が向上してA重油組成物の燃焼時に良好な燃焼状態を容易に発揮することができる。
【0089】
本発明に係るA重油組成物において、基材となる流動接触分解軽油の硫黄分(硫黄化合物)含有割合は、0.05~0.40質量%であり、0.05~0.30質量%であることが好ましく、0.05~0.20質量%であることがより好ましい。
【0090】
本発明に係るA重油組成物において、流動接触分解軽油基材の硫黄分(硫黄化合物)含有割合が上記範囲内にあることにより、燃焼時における硫黄酸化物の生成を容易に低減することができる。
【0091】
本発明に係るA重油組成物において、基材となる流動接触分解軽油の芳香族分(芳香族炭化水素化合物)の含有割合は、45.0~65.0容量%であることが好ましく、50.0~65.0容量%であることがより好ましく、55.0~65.0容量%であることがさらに好ましい。
【0092】
本発明に係るA重油組成物において、基材となる流動接触分解軽油の芳香族分(芳香族炭化水素化合物)含有割合が上記範囲内にあることにより、A重油組成物の発熱量が向上するとともにスラッジの析出を容易に抑制することができる。
【0093】
本発明に係るA重油組成物において、基材となる流動接触分解軽油の酸価は、0.03mgKOH/g以下(0.00~0.03mgKOH/g)であることが好ましく、0.02mgKOH/g以下(0.00~0.02mgKOH/g)であることがより好ましく、0.01mgKOH/g以下(0.00~0.01mgKOH/g)であることがさらに好ましい。
【0094】
本発明に係るA重油組成物において、基材となる流動接触分解軽油の酸価が上記範囲内にあることにより、A重油組成物を貯蔵ないし燃焼する際に使用する燃料タンクやエンジン等の腐食を抑制することができる。
【0095】
本発明に係るA重油組成物において、基材となる流動接触分解軽油のスラッジ量は、0.0~0.5mg/100mLであることが好ましく、0.0~0.4mg/100mLであることがより好ましく、0.0~0.3mg/100mLであることがさらに好ましい。
【0096】
本発明に係るA重油組成物において、基材となる流動接触分解軽油のスラッジ量が上記範囲内にあることにより、A重油組成物への流動接触分解軽油由来のスラッジの持ち込みを容易に抑制することができる。
【0097】
本発明に係るA重油組成物において、基材となる流動接触分解軽油のカウリブタノール価は、45.0~55.0であることが好ましく、46.0~55.0であることがより好ましく、47.0~55.0であることがさらに好ましい。
【0098】
本発明に係るA重油組成物において、基材となる流動接触分解軽油のカウリブタノール価が上記範囲内にあることにより、アスファルテンを含む残炭調整材を好適に溶解してスラッジの析出を好適に抑制することができる。
【0099】
本発明に係るA重油組成物において、基材となる流動接触分解軽油のセタン指数は、30.0~40.0であることが好ましく、31.0~40.0であることがより好ましく、32.0~40.0であることがさらに好ましい。
【0100】
本発明に係るA重油組成物において、基材となる流動接触分解軽油のセタン指数が上記範囲内にあることにより、A重油組成物を燃焼させる際に良好な燃焼状態を得ることができる。
【0101】
本発明に係るA重油組成物において、基材となる流動接触分解軽油の常圧法蒸留試験における10容量%留出温度(T10)は、190.0~210.0℃であることが好ましく、195.0~210.0℃であることがより好ましく、200.0~210.0℃であることがさらに好ましい。
本発明に係るA重油組成物において、基材となる流動接触分解軽油の常圧法蒸留試験における90容量%留出温度(T90)は、330.0~ 360.0℃であることが好ましく、335.0~355.0℃であることがより好ましく、340.0~350.0℃であることがさらに好ましい。
【0102】
本発明に係るA重油組成物において、基材となる流動接触分解軽油の常圧法蒸留試験におけるT10およびT90が上記範囲内にあることにより、A重油として適切な引火点および動粘度、低温流動性を好適に発揮することができる。
【0103】
本発明に係るA重油組成物において、基材となる流動接触分解軽油の総発熱量は、42.00~46.00MJ/kgであることが好ましく、43.00~46.00MJ/kgであることがより好ましく、44.00~46.00MJ/kgであることがさらに好ましい。
また、本発明に係るA重油組成物において、基材となる流動接触分解軽油の真発熱量は、40.00~44.00MJ/kgであることが好ましく、41.00~44.00MJ/kgであることがより好ましく、42.00~44.00MJ/kgであることがさらに好ましい。
【0104】
本発明に係るA重油組成物において、基材となる流動接触分解軽油の総発熱量または真発熱量が上記範囲内にあることにより、A重油組成物の単位重量あたりの発熱量を容易に向上させることができる。
【0105】
本発明に係るA重油組成物は、流動接触分解軽油基材を、30.0容量%~50.0容量%含むものであり、30.0容量%~48.0容量%含むものであることが好ましく、30.0 容量%~46.0容量%含むものであることがより好ましい。
【0106】
本発明に係るA重油組成物は、流動接触分解軽油基材を上記含有割合で含有するものであることにより、アスファルテンを含む残炭調整材を好適に溶解してスラッジの析出を効果的に抑制することができる。
【0107】
また、本発明に係るA重油組成物は、上記脂肪酸メチルエステル基材、高圧水素化処理基材および流動接触分解軽油基材を、合計で、40.0容量%~85.0容量%含むことが好ましく、45.0容量%~83.0容量%含むことがより好ましく、50.0容量%~82.0容量%含むことがさらに好ましい。
【0108】
本発明に係るA重油組成物は、脂肪酸メチルエステル基材、高圧水素化処理基材および流動接触分解軽油基材を上記割合で含むものであることにより、硫黄分の含有割合を低減しつつ、脱硫軽油基材を一定割合含む場合においてもスラッジの析出を一層効果的に抑制することができる。
【0109】
本発明に係るA重油組成物は、脱硫軽油基材を構成基材として含むものである。
本出願書類において、脱硫軽油基材とは、石油精製プロセスで得られる各種留分を水素化脱硫装置で脱硫処理して得られる、通常軽油組成物の基材として使用される脱硫処理して得られる軽油相当留分を意味する。
上記脱硫軽油基材として、具体的には、原油を常圧蒸留して得られる軽油留分(直留軽油)を水素化脱硫処理した「水素化脱硫軽油基材」、原油の常圧蒸留残査を減圧蒸留して得られる減圧軽油を水素化脱硫処理して得られる「間接脱硫軽油基材」、原油の常圧蒸留残渣及び減圧蒸留残渣を水素化脱硫処理して得られる「直接脱硫軽油基材」等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
上記脱硫軽油基材としては、カウリブタノール価が高く、スラッジの溶解性に優れる間接脱硫軽油基材が好ましい。
【0110】
本発明に係るA重油組成物において、脱硫軽油基材の15℃における密度(密度(15℃))は、0.8200~0.9000 g/cmであることが好ましく、0.8300~0.8900 g/cmであることがより好ましく、0.8400~0.8800g/cmであることがさらに好ましい。
【0111】
本発明に係るA重油組成物において、脱硫軽油基材の15℃における密度(密度(15℃))が上記範囲内にあることにより、容量あたりの炭化水素含有量が多くなり、発熱量が向上してA重油組成物の燃焼時に良好な燃焼状態を容易に発揮することができる。
【0112】
本発明に係るA重油組成物において、脱硫軽油基材の硫黄分(硫黄化合物)含有割合は、0.20質量%以下(0.00~0.20質量%)であり、0.05~0.20質量%であることが好ましく、0.10~0.20質量%であることがより好ましい。
【0113】
本発明に係るA重油組成物において、脱硫軽油基材の硫黄分(硫黄化合物)含有割合が上記範囲内にあることにより、燃焼時における硫黄酸化物の生成を容易に低減することができる。
【0114】
本発明に係るA重油組成物において、脱硫軽油基材の酸価は、0.03mgKOH/g以下(0.00~0.03mgKOH/g)であることが好ましく、0.02mgKOH/g以下(0.00~0.02mgKOH/g)であることがより好ましく、0.01mgKOH/g以下(0.00~0.01mgKOH/g)であることがさらに好ましい。
【0115】
本発明に係るA重油組成物において、脱硫軽油基材の酸価が上記範囲内にあることにより、A重油組成物を貯蔵ないし燃焼する際に使用する燃料タンクやエンジン等の腐食を抑制することができる。
【0116】
本発明に係るA重油組成物において、脱硫軽油基材のスラッジ量は、0.0~0.8mg/100mLであることが好ましく、0.0~0.7mg/100mLであることがより好ましく、0.0~0.6mg/100mLであることがさらに好ましい。
【0117】
本発明に係るA重油組成物において、脱硫軽油基材のスラッジ量が上記範囲内にあることにより、A重油組成物への脱硫軽油基材由来のスラッジの持ち込みを容易に抑制することができる。
【0118】
本発明に係るA重油組成物において、脱硫軽油基材のカウリブタノール価は、23.0~27.0であることが好ましく、24.0~27.0であることがより好ましく、25.0~27.0であることがさらに好ましい。
【0119】
本発明に係るA重油組成物において、脱硫軽油基材のカウリブタノール価が上記範囲内にあることにより、アスファルテンを含む残炭調整材を好適に溶解してスラッジの析出を好適に抑制することができる。
【0120】
本発明に係るA重油組成物において、脱硫軽油基材のセタン指数は、50.0~56.0であることが好ましく、51.0~56.0であることがより好ましく、52.0~56.0であることがさらに好ましい。
【0121】
本発明に係るA重油組成物において、脱硫軽油基材のセタン指数が上記範囲内にあることにより、A重油組成物を燃焼させる際に良好な燃焼状態を得ることができる。
【0122】
本発明に係るA重油組成物において、脱硫軽油基材の常圧法蒸留試験における10容量%留出温度(T10)は、220~285.0℃であることが好ましく、225.0~285.0℃であることがより好ましく、235.0~285.0℃であることがさらに好ましい。
本発明に係るA重油組成物において、脱硫軽油基材の常圧法蒸留試験における90容量%留出温度(T90)は、325.0~390.0℃であることが好ましく、330.0~390.0℃であることがより好ましく、335.0~390.0℃であることがさらに好ましい。
【0123】
本発明に係るA重油組成物において、脱硫軽油基材の常圧法蒸留試験におけるT10およびT90が上記範囲内にあることにより、A重油として適切な引火点、動粘度および低温流動性を好適に発揮することができる。
【0124】
本発明に係るA重油組成物において、脱硫軽油基材の総発熱量は、43.00~48.00MJ/kgであることが好ましく、44.00~47.00MJ/kgであることがより好ましく、45.00~46.00MJ/kgであることがさらに好ましい。
また、本発明に係るA重油組成物において、脱硫軽油基材の真発熱量は、40.00~45.00MJ/kgであることが好ましく、41.00~44.00MJ/kgであることがより好ましく、42.00~43.00MJ/kgであることがさらに好ましい。
【0125】
本発明に係るA重油組成物において、脱硫軽油基材の総発熱量または真発熱量が上記範囲内にあることにより、A重油組成物の発熱量を容易に向上させることができる。
【0126】
本発明に係るA重油組成物は、脱硫軽油基材を、19.0容量%~45.0容量%含むものであり、21.0 容量%~45.0容量%含むものであることが好ましく、22.0容量%~45.0容量%含むものであることがより好ましい。
【0127】
本発明に係るA重油組成物は、脱硫軽油基材を上記範囲内で含むとともに、上述した脂肪酸メチルエステル基材、高圧水素化処理基材および流動接触分解軽油基材を所定範囲内で含有するものであることにより、A重油組成物に配合したときに、スラッジの析出を効果的に抑制しつつ、硫黄分含有量を所望範囲内に好適に抑制することができる。
【0128】
本発明に係るA重油組成物は、上記脂肪酸メチルエステル基材、高圧水素化処理基材、流動接触分解軽油基材および脱硫軽油基材を、合計で、99.2~99.8容量%含むことが好ましく、99.3~99.8容量%含むことがより好ましく、99.4~99.8容量%含むことがさらに好ましい。
【0129】
本発明に係るA重油組成物が、上記脂肪酸メチルエステル基材、高圧水素化処理基材、流動接触分解軽油基材および脱硫軽油基材の合計含有量が上記範囲内にあることにより、硫黄分の含有割合を低減しつつ、スラッジの析出を効果的に抑制することができる。
【0130】
本発明に係るA重油組成物は、上記脂肪酸メチルエステル基材、高圧水素化処理基材、流動接触分解軽油基材および脱硫軽油基材とともに、通常A重油組成物を構成する各種基材を含有してもよい。
本発明に係るA重油組成物において、上記脂肪酸メチルエステル基材、高圧水素化処理基材、流動接触分解軽油基材および脱硫軽油基材以外の構成基材としては、未脱硫軽油基材、未脱硫灯油基材および減圧軽油基材等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0131】
本発明に係るA重油組成物は、残炭調整材(残留炭素分付与基材)を含む。残炭調整材としては、常圧蒸留残渣油、減圧蒸留残渣油、直脱残渣油、エキストラクト油(潤滑油の溶剤抽出副生油)等の残渣油等を挙げることができる。
【0132】
本発明に係るA重油組成物は、残炭調整材の含有割合は、0.2~0.8容量%であることが適当であり、0.2~0.7容量%であることがより適当であり、0.4~0.7容量%であることがさらに適当である。
【0133】
本発明に係るA重油組成物は、残炭調整材を上記範囲内で含むものであっても、スラッジの析出を効果的に抑制することができ、特に、残炭調整材を多量に含む場合においても、スラッジの析出を効果的に抑制することができる。
【0134】
本発明に係るA重油組成物は、上記各構成基材や残炭調整材の他に、各種添加剤を配合してなるものであってもよい。
上記添加剤としては、低温流動性向上剤、酸化防止剤等の公知の燃料添加剤から選択される一種以上が挙げられる。
【0135】
本発明に係るA重油組成物は、15℃における密度(密度(15℃))が、0.8500~0.8900g/cmであるものが好ましく、0.8550~0.8900g/cmであることがより好ましく、0.8600~0.8900g/cmであることがさらに好ましい。
【0136】
本発明に係るA重油組成物の15℃における密度(密度(15℃))が上記範囲内にあることにより、容量あたりの炭化水素含有量が多くなり、発熱量が向上してA重油組成物の燃焼時に良好な燃焼状態を容易に発揮することができる。
【0137】
本発明に係るA重油組成物は、硫黄分(硫黄化合物)含有割合が、0.03~0.12質量%であることが好ましく、0.03~0.10質量%であることがより好ましく、0.03~0.09質量%であることがさらに好ましい。
【0138】
本発明に係るA重油組成物の硫黄分(硫黄化合物)含有割合が上記範囲内にあることにより、燃焼時における硫黄酸化物の生成を容易に低減することができる。
【0139】
本発明に係るA重油組成物の酸価は、0.10mgKOH/g以下(0.00~0.10mgKOH/g)であることが好ましく、0.08mgKOH/g以下(0.00~0.08mgKOH/g)であることがより好ましく、0.07mgKOH/g以下(0.00~0.07mgKOH/g)であることがさらに好ましい。
【0140】
本発明に係るA重油組成物の酸価が上記範囲内にあることにより、A重油組成物を貯蔵ないし燃焼する際に使用する燃料タンクやエンジン等の腐食を抑制することができる。
【0141】
本発明に係るA重油組成物は、スラッジ量が、0.0~4.0mg/100mLであることが好ましく、0.0~3.5mg/100mLであることがより好ましく、0.0~3.2mg/100mLであることがさらに好ましい。
【0142】
本発明に係るA重油組成物において、スラッジ量が上記範囲内にあることにより、エンジンや各種の燃焼機器に設けられたフィルターの閉塞を容易に抑制することができる。
【0143】
本発明に係るA重油組成物は、脂肪酸メチルエステル基材、高圧水素化処理基材、流動接触分解軽油および脱硫軽油基材を各含有割合に応じて混合してなる混合基材のカウリブタノール価が、36.0以上であるものであり、36.0~50.0であるものが好ましく、37.0~50.0であるものがより好ましい。
【0144】
本発明に係るA重油組成物において、各含有割合に応じて基材を混合した混合基材のカウリブタノール価が上記範囲内にあることにより、アスファルテンを含んだ残炭調整材を好適に溶解してスラッジの析出を好適に抑制することができる。
【0145】
上記カウリブタノール価は、炭化水素の相対的溶解力を示すものであり、カウリブタノール価が高いほど樹脂溶解性が高いことを示すものである。
上記樹脂溶解性の指標となるカウリブタノール価は、従来、(液体である)石油系の燃料組成物の溶解性を示す指標として殆ど使用されてこなかったが、本発明者等が検討したところ、アスファルテン凝集物(スラッジ)の溶解性を示す指標として好適に使用し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至ったものである。
【0146】
なお、上記混合基材は、脂肪酸メチルエステル基材、高圧水素化処理基材、流動接触分解軽油および脱硫軽油基材の混合物からなるものであって、残炭調整材は含まないものとする。
【0147】
本発明に係るA重油組成物は、セタン指数が、40.0~55.0であることが好ましく、42.0~54.0であることがより好ましく、43.0~53.0であることがさらに好ましい。
【0148】
本発明に係るA重油組成物のセタン指数が上記範囲内にあることにより、A重油組成物を燃焼させる際に良好な燃焼状態を得ることができる。
【0149】
本発明に係るA重油組成物は、常圧法蒸留試験における10容量%留出温度(T10)が、215.0~255.0℃であることが好ましく、220.0~250.0℃であることがより好ましく、225.0~245.0℃であることがさらに好ましい。
本発明に係るA重油組成物は、常圧法蒸留試験における90容量%留出温度(T90)が、335.0~365.0℃であることが好ましく、340.0~360.0℃であることがより好ましく、345.0~355.0℃であることがさらに好ましい。
【0150】
本発明に係るA重油組成物の常圧法蒸留試験におけるT10およびT90が上記範囲内にあることにより、A重油として適切な引火点、動粘度および低温流動性を好適に発揮することができる。
【0151】
本発明に係るA重油組成物は、総発熱量が、44.95~46.00MJ/kgであることが好ましく、44.97~46.00 MJ/kgであることがより好ましく、45.00~46.00MJ/kgであることがさらに好ましい。
また、本発明に係るA重油組成物は、真発熱量が、42.10~43.00MJ/kgであることが好ましく、42.20~43.00MJ/kgであることがより好ましく、42.30~43.00MJ/kgであることがさらに好ましい。
【0152】
本発明に係るA重油組成物は、上述した脂肪酸メチルエステル基材、高圧水素化処理基材、流動接触分解軽油基材および脱硫軽油基材を必須基材として所定量混合するとともに、さらに本発明の効果を阻害しない範囲において公知の基材または添加剤を混合することにより調製することができる。
【0153】
上記各基材を混合して本発明に係るA重油組成物を調製する場合、その混合順序は特に制限されない。
【0154】
本発明に係るA重油組成物の総発熱量または真発熱量が上記範囲内にあることにより、燃焼効率を容易に向上させることができる。
【0155】
本発明によれば、硫黄分の含有割合を低減しつつ、スラッジの析出を効果的に抑制し得る新規なA重油組成物を提供することができる。
【実施例0156】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれ等の例により何ら限定されるものではない。
【0157】
(基材)
以下の実施例および比較例においては、以下の基材を使用した。各基材の特性を表1-1および表1-2に示す。
・脂肪酸メチルエステル基材(FAME)
菜種油とメタノールとをエステル交換して得られた脂肪酸メチルエステル(純度99.0容量%以上)からなるもの。
・高圧水素化処理基材
90容量%留出温度(T90)が350.0℃で、芳香族炭化水素を55.0質量%含む原料油を水素分圧14MPaで高圧水素化処理して得られる高圧水素化処理油を蒸留処理したもの。
・流動接触分解軽油基材(LCO)
流動接触分解装置から留出した分解軽油。
・水素化脱硫軽油基材
中東系原油等を常圧蒸留して得られる軽油留分(直留軽油)を水素化脱硫処理したもの。
・間接脱硫軽油基材
中東系原油等の常圧蒸留残査を減圧蒸留する際に得られた減圧軽油を水素化脱硫処理して得られたもの。
・残炭調整材
中東系原油等の常圧蒸留残渣を減圧蒸留する際に得られた減圧残渣に流動接触分解軽油(LCO)等を配合したもの。
【0158】
また、以下の表1-1中で、窒素分が「<1」であるとは、窒素分(窒素化合物)の含有割合が1質量ppm未満であることを意味し、酸価が「<0.01」であるとは、酸価が0.01mgKOH/g未満であることを意味し、10%残油中の残留炭素分が「<0.01」であるとは10%残油中の残留炭素分が0.01質量%未満であることを意味する。
【0159】
【表1-1】
【0160】
【表1-2】
【0161】
(実施例1~実施例6、比較例1~比較例5)
上記各基材、すなわち、脂肪酸メチルエステル基材(FAME)、高圧水素化処理基材、流動接触分解軽油基材(LCO)、脱硫軽油基材(水素化脱硫軽油基材および間接脱硫軽油基材)と残炭調整材とを、表2に示す配合割合で各々配合することにより、実施例1~実施例6、比較例1~比較例5に係る各A重油組成物を調製した。
得られた各A重油組成物の特性を表3に示す。
【0162】
また、以下の表3中で、酸価が「<0.01」であるとは、酸価が0.01mgKOH/gであることを意味し、10%残油中の残留炭素分が「<0.01」であるとは10%残油中の残留炭素分が0.01質量%未満であることを意味する。
また、以下の表3中、「カウリブタノール価」は、脂肪酸メチルエステル基材、流動接触分解軽油基材、高圧水素化処理基材、水素化脱硫軽油基材および間接脱硫軽油基材を、各実施例および比較例における配合割合に応じて混合した混合基材のカウリブタノール価を意味する。
【0163】
【表2】
【0164】
【表3】
【0165】
表1-1~表1-2、表2および表3より、実施例1~実施例6で得られた本発明に係るA重油組成物は、脂肪酸メチルエステル基材を4.0容量%~35.0容量%、所定の高圧水素化処理基材を4.0容量%~45.0容量%、所定の流動接触分解軽油基材を30.0~50.0容量%、所定の脱硫軽油基材(水素化脱硫軽油基材および間接脱硫軽油基材)を19.0容量%~45.0容量%含有し、各基材を配合割合に応じて混合した基材混合物のカウリブタノール価が36.0以上であるものである。
このため、これ等の実施例で得られたA重油組成物は、硫黄分の含有割合を低減しつつ、スラッジの析出を効果的に抑制し得ることが分かる(表3参照)。
【0166】
一方、表1-1~表1-2、表2および表3より、比較例1~比較例5で得られたA重油組成物は、脂肪酸メチルエステルを含まないかその含有割合が所定範囲外であるものや(比較例1~比較例5)、所定の高圧水素化処理基材を含まないかその含有割合が所定範囲外であるものである(比較例3~比較例4)。
このため、これ等の比較例で得られたA重油組成物は、スラッジの析出を抑制し得ないこと(比較例1~比較例5)、また、酸価が高く、発熱量が低いこと(比較例4~比較例5)が分かる(表3参照)。
【産業上の利用可能性】
【0167】
本発明によれば、硫黄分の含有割合を低減しつつ、スラッジの析出を効果的に抑制し得る新規なA重油組成物を提供することができる。