IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人京都大学の特許一覧 ▶ スタンレー電気株式会社の特許一覧

特開2024-143148面発光半導体レーザ素子の製造方法及び面発光半導体レーザ素子
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143148
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】面発光半導体レーザ素子の製造方法及び面発光半導体レーザ素子
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/11 20210101AFI20241003BHJP
【FI】
H01S5/11
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055673
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159628
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 雅比呂
(74)【代理人】
【識別番号】100147728
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 信司
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】野田 進
(72)【発明者】
【氏名】小泉 朋朗
(72)【発明者】
【氏名】江本 渓
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AC53
5F173AC70
5F173AF60
5F173AH22
5F173AP05
5F173AP33
5F173AR23
(57)【要約】      (修正有)
【課題】空孔層と活性層とを近接させ共振効果を高くすることが可能であり、高品質の活性層を有し、低閾値かつ高効率の面発光半導体レーザ素子を製造する方法及び面発光半導体レーザ素子を提供する。
【解決手段】(a)基板上にホール形成準備層を形成し、(b)ホール形成準備層に、格子点の各々に2次元的に配置されたホールを形成して、ホール形成層を形成し、(c)ホール形成層の表面を酸化させて酸化膜を形成した後、酸化膜を除去し、(d)ホールを閉塞するファセット成長を行って第1の埋込層を形成し、(e)第1の埋込層を平坦に埋め込む第2の埋込層の成長を行って、ホールに対応する空孔を有する空孔層を含むガイド層を形成し、(f)ガイド層上に活性層を含む半導体層の結晶成長を行う。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
面発光半導体レーザ素子の製造方法であって、
(a)基板上にホール形成準備層を形成し、
(b)前記ホール形成準備層に、格子点の各々に2次元的に配置されたホールを形成して、ホール形成層を形成し、
(c)前記ホール形成層の表面を酸化させて酸化膜を形成した後、前記酸化膜を除去し、
(d)前記ホールを閉塞するファセット成長を行って第1の埋込層を形成し、
(e)前記第1の埋込層を平坦に埋め込む第2の埋込層の成長を行って、前記ホールに対応する空孔を有する空孔層を含む第1のガイド層を形成し、
(f)前記第1のガイド層上に活性層を含む半導体層の結晶成長を行う、製造方法。
【請求項2】
面発光半導体レーザ素子の製造方法であって、
(a)基板上にホール形成準備層を形成し、
(b)前記ホール形成準備層に、格子点の各々に2次元的に配置されたホールを形成して、ホール形成層を形成し、
(c)前記ホール形成層の表面を酸化させて酸化膜を形成した後、前記酸化膜を除去し、
(d)前記ホールを閉塞するファセット成長を行って第1の埋込層を形成し、
(e)前記第1の埋込層を平坦に埋め込む第2の埋込層の成長を行って、前記ホールに対応する空孔を有する空孔層を含む第1のガイド層を形成し、
(f)水素雰囲気におけるアニールにより前記第1のガイド層の表面の平坦エッチングを行い、
(g)前記平坦エッチングされた前記第1のガイド層上に活性層を含む半導体層の結晶成長を行う、製造方法。
【請求項3】
前記酸化膜を形成する工程は、オゾンによって前記ホール形成層の表面を酸化させる工程である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記面発光半導体レーザ素子はGaN系半導体レーザ素子であり、
前記ガイド層と前記活性層を含む半導体層との界面のSi濃度が2×1019cm-3以下である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記面発光半導体レーザ素子はGaN系半導体レーザ素子であり、
前記基板の結晶成長面は{0001}面であり、
前記ファセット成長のファセット面は{1-101}面である、
請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記空孔層の前記空孔の上面から前記活性層までの距離が200nm以下である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項7】
前記平坦エッチング後における前記ホール形成層の上面上の前記第2の埋込層の厚さは4nm以上である請求項2に記載の製造方法。
【請求項8】
n型半導体層と、
前記n型半導体層上に形成され、格子点の各々に2次元的に配置された空孔を有する空孔層と、前記空孔層上に形成されて前記空孔を閉塞する埋込層と、を有する第1のガイド層と、
前記埋込層上に形成され、活性層を含む半導体層と、
前記活性層を含む半導体層上に形成された第2のガイド層と、を有し、
前記空孔層の前記空孔の上面から前記活性層までの距離が4~200nmである、
面発光半導体レーザ素子。
【請求項9】
前記埋込層の表面粗さRaは、Ra≦0.7nmである請求項8に記載の面発光半導体レーザ素子。
【請求項10】
前記活性層は量子井戸構造を有し、
前記活性層までの前記距離は、前記空孔層に最も近い量子井戸と前記空孔の上面との間の距離である請求項8に記載の面発光半導体レーザ素子。
【請求項11】
前記活性層を含む半導体層は、前記埋込層と前記活性層との間に設けられ、前記埋込層とは結晶組成の異なる異種半導体層を含む請求項8に記載の面発光半導体レーザ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトニック結晶を有する面発光半導体レーザ素子の製造方法及び面発光半導体レーザ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フォトニック結晶(PC:Photonic Crystal)を用いた、フォトニック結晶面発光レーザ(PCSEL:Photonic-Crystal Surface-Emitting Laser)の開発が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、フォトニック結晶レーザにおいて空孔層における回折効果を強め高い共振効果を得るために、ファセット選択成長を用いて側面が{10-10}からなる六角柱構造の空孔をIII族窒化物半導体層内に埋め込む方法が提案されている。これにより、フィリングファクタが大きく、また大きな光閉じ込め係数を有するフォトニック結晶を備えたフォトニック結晶レーザ素子を実現することについて記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、フォトニック結晶レーザにおいて、マストランスポートを利用して空孔をIII族窒化物半導体層内に埋め込む方法が提案されている。これにより、フォトニック結晶層を伝搬する光波に対する結合係数が大きなフォトニック結晶レーザを得ることについて記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、ファセット成長によってホールを埋込む第1の埋込成長及び表面平坦化を行う第2の埋込成長を行ってフォトニック結晶層(空孔層)を形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第7101370号公報
【特許文献2】特開2020-38892号公報
【特許文献3】WO2018/155710 A1公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のような手法を用いた場合、十分な空孔充填率の空孔層を形成することができるが、空孔層を埋め込むための層厚が厚くなり、空孔層と活性層との距離を近づけることができない。したがって、空孔層における共振効果を高めることができない。
【0008】
また、本願の発明者は、マストランスポートを利用して空孔を埋め込み形成する場合、空孔を形成した表面に堆積した多量のSiによって大きな表面荒れが発生することについて知見を得た。この表面荒れによって、埋込層上に平坦性が高く高品質の活性層を成長することが阻害され、また、空孔層と活性層とを十分に近づけることができず、空孔層と活性層との結合効率を高めることができないという問題があった。
また、高濃度のSiがGaN膜中に導入された場合、膜中に点欠陥が導入されやすくなるため、この観点からも表面に堆積した多量のSiは除去することが好ましい。
【0009】
以上のことから、従来技術においては、高い出力を維持しつつ共振効果を高め、閾値電流を下げることが困難であった。
【0010】
本願発明は、空孔層と活性層とを近接させ共振効果を高くすることが可能であり、かつ、高品質の活性層を有し、低閾値かつ高効率の面発光半導体レーザ素子を製造する製造方法及び面発光半導体レーザ素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の1実施態様による面発光半導体レーザ素子の製造方法は、
(a)基板上にホール形成準備層を形成し、
(b)前記ホール形成準備層に、格子点の各々に2次元的に配置されたホールを形成して、ホール形成層を形成し、
(c)前記ホール形成層の表面を酸化させて酸化膜を形成した後、前記酸化膜を除去し、
(d)前記ホールを閉塞するファセット成長を行って第1の埋込層を形成し、
(e)前記第1の埋込層を平坦に埋め込む第2の埋込層の成長を行って、前記ホールに対応する空孔を有する空孔層を含む第1のガイド層を形成し、
(f)前記第1のガイド層上に活性層を含む半導体層の結晶成長を行う製造方法である。
【0012】
本発明の他の実施態様による面発光半導体レーザ素子の製造方法は、
面発光半導体レーザ素子の製造方法であって、
(a)基板上にホール形成準備層を形成し、
(b)前記ホール形成準備層に、格子点の各々に2次元的に配置されたホールを形成して、ホール形成層を形成し、
(c)前記ホール形成層の表面を酸化させて酸化膜を形成した後、前記酸化膜を除去し、
(d)前記ホールを閉塞するファセット成長を行って第1の埋込層を形成し、
(e)前記第1の埋込層を平坦に埋め込む第2の埋込層の成長を行って、前記ホールに対応する空孔を有する空孔層を含む第1のガイド層を形成し、
(f)水素雰囲気におけるアニールにより前記第1のガイド層の表面の平坦エッチングを行い、
(g)前記平坦エッチングされた前記第1のガイド層上に活性層を含む半導体層の結晶成長を行う製造方法である。
【0013】
本発明のさらに他の実施態様による面発光半導体レーザ素子は、
n型半導体層と、
前記n型半導体層上に形成され、格子点の各々に2次元的に配置された空孔を有する空孔層と、前記空孔層上に形成されて前記空孔を閉塞する埋込層と、を有する第1のガイド層と、
前記埋込層上に形成され、活性層を含む半導体層と、
前記活性層を含む半導体層上に形成された第2のガイド層と、を有し、
前記空孔層の前記空孔の上面から前記活性層までの距離が4~200nmである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A】第1の実施形態のPCSEL素子の構造の一例を模式的に示す断面図である。
図1B図1Aに示す空孔層中に配列された空孔を模式的に示す拡大断面図である。
図2A】PCSEL素子の上面を模式的に示す平面図である。
図2B】n側ガイド層に平行な面における断面を模式的に示す断面図である。
図2C】PCSEL素子の下面を模式的に示す平面図である。
図3】第1の実施形態のPCSEL素子の製造方法を示すフローチャートである。
図4】埋込層の形成ステップS0~S3におけるn側ガイド層の断面を模式的に示す断面図である。
図5】レジストの主開口及び副開口、及び、エッチング後の主ホール及び副ホールを模式的に示す平面図である。
図6】形成された空孔層の、中心軸CXに垂直な断面を模式的に示す図である。
図7】表面酸化/酸化膜除去処理(ステップS1)を行って製造したPCSEL素子(EMB)の深さ方向のSIMSプロファイルを示している。
図8】表面酸化/酸化膜除去工程(ステップS1)を行わずに製造したPCSEL素子(CMP)の深さ方向のSIMSプロファイルを示している。
図9A】第2の実施形態のPCSEL素子の構造の一例を模式的に示す断面図である。
図9B図9Aの空孔層及び空孔層中に配列された空孔を模式的に示す拡大断面図である。
図10】第2の実施形態のPCSEL素子の製造方法を示すフローチャートである。
図11】ステップS3Aにおけるn側ガイド層の断面を模式的に示す断面図である。
図12】表面酸化/酸化膜除去処理を行った後、埋込層を再成長した基板の表面をHアニールによってエッチングしたときの断面を示すSEM像である。
図13図12に示すサンプル(i)~(iv)の表面のAFM像を示す図である。
図14】エッチング後の埋込層の厚さDEに対する20μm×20μmの領域での表面粗さRaをプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下においては、本発明の好適な実施形態について説明するが、これらを適宜改変し、組合せてもよい。また、以下の説明及び添付図面において、実質的に同一又は等価な部分には同一の参照符を付して説明する。
【0016】
[第1の実施形態]
1.フォトニック結晶面発光レーザ素子の構造
フォトニック結晶面発光レーザ素子(PCSEL素子)は、発光素子を構成する半導体発光構造層(n側ガイド層、発光層、p側ガイド層)と平行方向に共振器層を有し、当該共振器層に直交する方向にコヒーレントな光を放射する面発光半導体レーザ素子である。
【0017】
すなわち、PCSEL素子では、空孔層(フォトニック結晶層)に平行な面内を伝搬する光波はフォトニック結晶の回折効果により回折され2次元的な共振モードを形成するとともに、当該平行面に垂直な方向にも回折される。すなわち、PCSEL素子では、共振方向(空孔層に平行な面内)に対して、光取り出し方向が垂直方向である。
【0018】
図1Aは、本発明の実施形態によるフォトニック結晶面発光レーザ素子(PCSEL素子)10の構造の一例を模式的に示す断面図である。また、図1Bは、図1Aの空孔層14P及び空孔層14P中に配列された空孔(air hole)対14Kを模式的に示す拡大断面図である。
【0019】
また、図2Aは、PCSEL素子10の上面を模式的に示す平面図である。また、図2Bは、空孔層14Pのn側ガイド層14に平行な面における断面を模式的に示す断面図であり、図2Cは、PCSEL素子10の下面を模式的に示す平面図である。
【0020】
図1Aに示すように、半導体構造層11が透光性の素子基板12上に形成されている。なお、半導体構造層11の中心軸CXに垂直に半導体層が積層されている。
【0021】
また、半導体構造層11は、六方晶系の窒化物半導体からなる。本実施形態においては、半導体構造層11は、例えば、GaN系半導体からなる。
【0022】
より詳細には、素子基板12上に複数の半導体層からなる半導体構造層11、すなわちn-クラッド層(第1導電型の第1のクラッド層)13、n側に設けられたガイド層であるn側ガイド層(第1のガイド層)14、光分布調整層23、活性層(ACT)15、p側に設けられたガイド層であるp側ガイド層(第2のガイド層)16、電子障壁層(EBL:Electron Blocking Layer)17、p-クラッド層(第2導電型の第2のクラッド層)18、p-コンタクト層19がこの順で形成されている。
【0023】
なお、第1導電型がn型、第1導電型の反対導電型である第2導電型がp型の場合について説明するが、第1導電型及び第2導電型がそれぞれp型、n型であってもよい。
【0024】
素子基板12は、六方晶のGaN単結晶であり、活性層15から放射された光の透過率が高い基板である。より詳細には、素子基板12は、主面(結晶成長面)が、Ga原子が最表面に配列した{0001}面である+c面の六方晶のGaN単結晶基板である。裏面(光出射面)は、N原子が最表面に配列した(000-1)面である-c面である。-c面は酸化等に対して耐性があるので光出射面として適している。
【0025】
素子基板12はこれに限定されないが、いわゆるジャスト基板、又は、例えば、主面がm軸方向に1°程度までオフセットした基板が好ましい。例えば、m軸方向に0.3~0.7°程度までオフセットした基板は、広範な成長条件下にて鏡面成長を得ることができる。
【0026】
主面と対向する基板裏面が光出射面であり、N原子が最表面に配列した(000-1)面である「-c」面である。-c面は酸化等に対して耐性があるので光取り出し面として適している。
【0027】
以下に各半導体層の組成、層厚等の構成について説明するが、例示に過ぎず、適宜改変して適用することができる。
【0028】
n-クラッド層13は、例えばAl組成が4%のn-Al0.04Ga0.96N層であり、層厚は2μmである。アルミニウム(Al)組成比は、活性層15側に隣接する層(すなわち、n側ガイド層14)より屈折率が小さくなる組成としている。
【0029】
n側ガイド層14は、下ガイド層14A、フォトニック結晶層(PC層)である空孔層(air-hole layer)14P及び埋込層14Bからなる。図1Bに示すように、フォトニック結晶層14Pは層厚dPCを有し、埋込層14Bは層厚DEを有する。例えば、空孔層14Pの層厚dPCは40~180nmである。
【0030】
なお、本明細書において、空孔層14Pは、n側ガイド層14において空孔の上端から下端に至る層部分をいう(図1Bを参照)。したがって、空孔層14Pの層厚dPCは、空孔の高さに等しい。
【0031】
下ガイド層14Aは、例えば層厚が100~400nmのn-GaNである。空孔層14Pは、層厚(又は空孔14Kの高さ)が40~180nmのn-GaNである。
【0032】
埋込層14Bは、n-GaN又はn-InGaN、又はアンドープGaN、アンドープInGaNからなる。あるいは、これらの半導体層が積層された層であってもよい。埋込層14Bの層厚DEは、例えば4~200nmである。なお、埋込層14Bは、第1の埋込層14B1及び第2の埋込層14B2からなる。換言すれば、埋込層14Bは、第1の埋込層14B1上に第2の埋込層14B2が積層された積層埋込層である。
【0033】
埋込層14Bの表面層である第2の埋込層14B2上には、第2の埋込層14B2とは結晶組成が異なり、第2の埋込層14B2とヘテロ構造を形成するヘテロ半導体層(異種半導体層)である光分布調整層23が設けられている。
【0034】
なお、光分布調整層23は第2の埋込層14B2とは同一導電型の半導体層であるか、又は少なくとも一方がi層(真性半導体層)であってもよい。
【0035】
光分布調整層23は、埋込層14Bと活性層15との間に設けられ、空孔層14P内を伝搬する光と共振器としての空孔層14Pとの結合効率を調整する機能を有する。または、光分布調整層23は、バルク構造及び量子井戸構造の活性層に関して用いられるSCH(Separate Confinement Heterostructure)層としての機能を有していてもよい。
本実施形態においては、光分布調整層23は、アンドープのIn0.03Ga0.97N層であり、例えば層厚は50nmである。光分布調整層23の組成又は屈折率、及び層厚は、結合効率の調整に応じて選ばれる。
【0036】
なお、n側ガイド層14及び光分布調整層23を含むn側半導体層を第1の半導体層とも称するが、光分布調整層23は設けられていなくともよい。
【0037】
発光層である活性層15は、例えば2つの量子井戸層を有する多重量子井戸(MQW)層である。MQWのバリア層及び量子井戸層は、それぞれGaN(層厚6.0nm)及びInGaN(層厚4.0nm)である。また、活性層15の発光中心波長は440nmである。
【0038】
なお、活性層15は、空孔層14Pから180nm以内(すなわち空孔の周期PK以内)に配置されていることが好ましい。この場合、空孔層14Pによる高い共振効果が得られる。
【0039】
p側ガイド層16は、アンドープIn0.02Ga0.98N層(層厚70nm)であるp側ガイド層(1)16AとアンドープGaN層(層厚180nm)であるp側ガイド層(2)16Bとからなる。
【0040】
p側ガイド層16は、ドーパント(Mg:マグネシウム等)による光吸収を考慮してアンドープ層としたが、良好な電気伝導性を得るためにドープしても良い。また、発振動作モードの電界分布を調整するため、p側ガイド層(1)16AのIn組成及び層厚は適宜選択することができる。
【0041】
電子障壁層(EBL)17は、マグネシウム(Mg)がドープされたp型のAl0.2Ga0.8N層であり、例えば。層厚15nmを有する。
【0042】
p-クラッド層18は、Mgドープのp-Al0.06Ga0.94N層であり、例えば、層厚600nmを有する。p-クラッド層18のAl組成は、p側ガイド層16よりも屈折率が小であるように選ばれていることが好ましい。p-クラッド層18は、第1のp-クラッド層として機能する。
【0043】
また、p-コンタクト層19は、Mgドープのp-GaN層であり、例えば。層厚20nmを有する。p-コンタクト層19のキャリア密度は、その表面に設けた透光性導電体層である透光性電極29とオーミック接合できる濃度としている。p型GaNの代わりに、p型またはアンドープInGaNを用いてもよい。あるいは、GaN層とInGaN層を積層させた層としてもよい。
【0044】
なお、p側ガイド層16、電子障壁層17、p-クラッド層18及びp-コンタクト層19からなる層を第2の半導体層とも称する。
【0045】
なお、本明細書において、「n側」、「p側」は、必ずしもn型、p型を有することを意味するものではない。例えば、n側ガイド層は活性層よりもn側に設けられたガイド層を意味し、アンドープ層(又はi層)であってもよい。
【0046】
また、n-クラッド層13は単一層ではなく複数の層から構成されていてもよく、その場合、全ての層がn層(nドープ層)である必要はなく、アンドープ層(i層)を含んでいてもよい。ガイド層16、p-クラッド層18についても同様である。
【0047】
また、上記した全ての半導体層を設ける必要はなく、第1導電型の第1の半導体層、第2導電型の第2の半導体層及びこれらの層に挟まれた活性層(発光層)を有する構成であればよい。
【0048】
また、本実施形態においては、第1の半導体層(n型半導体層)内に空孔層14P(フォトニック結晶層)を設けた場合について説明したが、空孔層を第2の半導体層(p型半導体層)内に設けた構成してもよい。
【0049】
p-コンタクト層19上には、p電極20B(第2の電極)として、透光性電極29(図示せず)、銀(Ag)層、金(Au)層が順に積層された、透光性電極/Ag/Au層が形成されている。すなわち、p電極20Bは光反射層として機能し、透光性電極29とp電極20BのAg層との界面が反射面SRである。なお、反射面SRは空孔層14Pと平行に設けられている。
【0050】
p電極20Bは、空孔形成領域14Rの中心軸CXを中心とする直径がRAの円形状を有している。具体的には、透光性電極29は、上面視において(すなわち、半導体構造層11に垂直な方向から見たとき)、例えばRA=300μmの直径を有している。なお、p電極20Bとして、Pd、Al、Al合金等を用いることもできる。また、p電極20B上にパッド電極等を設けてもよい。
【0051】
透光性電極29は、透光性の導電体によって形成され、例えばインジウムスズ酸化物(ITO)で形成されている。なお、透光性電極29は、ITOに限定されず、亜鉛錫酸化物(ZTO)、GZO(ZnO:Ga)、AZO(ZnO:Al)等の透光性導電体を用いることができる。
【0052】
半導体構造層11の側面及び上面及びp電極20Bの側面は、SiOなどの絶縁膜21で被覆されている。また、絶縁膜21は、p電極20Bに乗り上げ、p電極20Bの上面の縁部を覆うように形成されている。
【0053】
絶縁膜21は保護膜としても機能し、PCSEL素子10を構成するアルミニウム(Al)を含む結晶層を腐食性ガス等から保護する。また、付着物や実装時におけるはんだの這い上がりによる短絡等を防止し、信頼性、歩留まりの向上に寄与する。絶縁膜21の材料はSiOに限らず、ZrO、HfO、TiO、Al、SiNx、Si等を選択することができる。
【0054】
素子基板12の裏面には円環状のカソード電極20A(第1の電極)が形成されている(図2Cを参照)。また、カソード電極20Aの内側には無反射(AR)コート層27が形成されている。
【0055】
カソード電極20Aは、Ti/Auからなり、素子基板12とオーミック接触している。電極材料は、Ti/Au以外に、Ti/Al、Ti/Rh、Ti/Al/Pt/Au、Ti/Pt/Auなどを選択することができる。
【0056】
活性層15からの放射光は空孔層(PC層)14Pによって回折される。空孔層14Pによって回折され(回折面WS)、空孔層14Pから直接放出された光(直接回折光Ld:第1の回折光)と、空孔層14Pの回折によって放出され、反射面SRによって反射された光(反射回折光Lr:第2の回折光)とが素子基板12の裏面(出射面)12Rの光出射領域20L(図2C)から外部に出射される。
【0057】
図2Bに示すように、空孔層14Pにおいて空孔14Kは、例えば矩形の空孔形成領域14R内に周期的に配列されて設けられている。図2Cに示すように、アノード領域RAは、空孔形成領域14R内に包含されるように形成されている。
【0058】
また、カソード電極20Aは、空孔層14Pに対して垂直方向から見たときにp電極20Bに重ならないようにp電極20Bの外側に環状の電極として設けられている。
【0059】
カソード電極20Aの内側の領域が光出射領域20Lである。また、カソード電極20に電気的に接続され、外部からの給電用のワイヤを接続するボンディングパッド20Cが設けられている。
【0060】
2.空孔層の製法及び再結晶成長
以下に、空孔層の作製工程及び再結晶成長について説明する。結晶成長方法としてMOVPE(Metalorganic Vapor Phase Epitaxy)法を用いた。なお、以下においては、空孔層14Pが二重格子フォトニック結晶層である場合を例にその形成方法について説明するが、単一格子フォトニック結晶層及び多重格子フォトニック結晶層も同様にして形成することができる。
【0061】
(a)製造フロー
図3は、PCSEL素子10の製造方法を示すフローチャートである。以下に、図3を参照し、凹部(ホール)の埋め込み成長を行って空孔層の空孔(air-hole)を形成し、続いて活性層、p側ガイド層を成長してPCSEL素子10を製造する工程について詳細に説明する。
【0062】
また、図4は、埋込層14Bの形成ステップS0~S3におけるn側ガイド層14の断面を模式的に示す断面図である。なお、図4においては、説明及び理解の容易さのため、空孔層14Pが単一格子フォトニック結晶層である場合を図示して説明するが、多重格子フォトニック結晶層の場合においても同様にして形成することができる。
【0063】
以下に、図3及び図4を参照して空孔(air-hole)上に再結晶成長によって形成される埋込層14B(積層埋込層)について詳細に説明する。
(ステップS0)ホールの形成
まず、基板12上にn-クラッド層13としてAl組成が4%のn型Al0.04Ga0.96N層を成長した。続いて、図4に示すように、n-クラッド層13上にn型GaN層であるホール形成準備層14Eを成長した。このホール形成準備層14Eは、下ガイド層14Aと、空孔(air-hole)を含む空孔層14Pを形成するための準備層である。ホール形成準備層14Eは、平坦な(0001)面からなる表面(上面)を有している。
【0064】
上記ホール形成準備層14Eを形成後、基板をMOVPE装置のチャンバより取り出し、成長層表面に微細な凹部(ホール)を形成した。洗浄により清浄表面を得た後、プラズマCVDを用いてシリコン窒化膜(SiN)を成膜した。この上に電子線描画用レジストを塗布し、電子線描画装置に入れて2次元周期構造のパターニングを行った。
【0065】
図5は、レジストの主開口K1及び副開口K2、及び、エッチング後の主ホール14H1及び副ホール14H2を模式的に示す平面図である。図5に示すように、長円形状の主開口K1及び主開口K1よりも小なる副開口K2からなる開口対を周期PKで正方格子状にレジストの面内で2次元配列したパターニングを行った。なお、図面の明確さのため、開口部にハッチングを施して示している。
【0066】
より詳細には、主開口K1は、その重心CD1が互いに直交する2方向(x方向及びy方向)に周期PKの正方格子の格子点上に2次元的に配列されている。副開口K2も同様に、その重心CD2がx方向及びy方向に周期PKの正方格子の格子点上に2次元的に配列されている。
【0067】
主開口K1及び副開口K2の長軸は結晶方位の<11-20>方向に平行であり、主開口K1及び副開口K2の短軸は<1-100>方向に平行である。
【0068】
また、副開口K2の重心CD2は、主開口K1の重心CD1に対してΔx及びΔyだけ離間している。ここでは、Δx=Δyとした。すなわち、副開口K2の重心CD2は、主開口K1の重心CD1から<1-100>方向に離間している。
【0069】
また、主開口K1及び副開口K2の重心間距離Δx、Δyを、Δx=Δy=0.46PKとした。パターニングしたレジストを現像後、ICP-RIE(Inductive Coupled Plasma - Reactive Ion Etching)装置によってSiN膜を選択的にドライエッチングした。これにより周期PKの正方格子の格子点上に2次元的に配列された主開口K1及び副開口K2がSiN膜を貫通するように形成された。
【0070】
なお、周期(空孔間隔)PKは、発振波長(λ)を438nmとするため、PK=177.5nmとした。
【0071】
続いて、レジストを除去し、パターニングしたSiN膜をハードマスクとしてGaN表面部に凹部(ホール)を形成した。ICP-RIE装置にて塩素系ガス及びアルゴンガスを用いてGaNを深さ方向にドライエッチングすることにより、GaN表面に垂直に掘られた長円柱状の凹部である主ホール14H1及び副ホール14H2を形成した。
【0072】
なお、上記エッチングによりGaN表面部に掘られた凹部(ホール)を空孔層14Pにおける空孔(air-hole)と区別するため、単にホールと称する。また、主ホール14H1,副ホール14H2を特に区別しない場合には、これらをホール14Hと総称する場合がある。
【0073】
なお、ホール14Hの形状は長円柱状に限らず、円柱状、多角形状などであってもよい。
【0074】
以上により、ホール形成準備層14Eにホール14Hが形成され、ホール形成層14Jが形成された(図4、S0)。
【0075】
(ステップS1)表面酸化/酸化膜除去
ホール14Hを形成した基板は、脱脂洗浄を行った後、バッファードフッ酸(BHF)を用いてSiN膜を除去した。
【0076】
SiN膜を除去した後、室温においてOガスを流しながらUV光(紫外光)を照射してOガスを活性化させ、発生したオゾンによってホール形成層14Jの表面の酸化処理(10min)を行った。これによりSiO(ガラス)がホール形成層14Jの上面及びホール14H内の表面に形成された。
【0077】
オゾン処理を行った後、基板をバッファードフッ酸(BHF)に浸漬させて、当該表面に形成された酸化膜を除去した。以上の工程により、Gaに結合したSiを除去した。
【0078】
最後に、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)を1%程度含む半導体洗浄液(フルウチ化学:SemicoClean23)に10min浸漬し、その後水洗した。
【0079】
(ステップS2)ホール閉塞-第1の埋込成長
続いて、ホール14Hを形成し(ステップS0)、表面酸化/酸化膜除去処理(ステップS1)を行った基板(図4)を脱脂洗浄した後、再度MOVPE装置のリアクタ内に導入し、再結晶成長を行った。具体的には、アンモニア(NH3)及びトリメチルガリウム(TMG)を供給してファセット成長による第1の埋込成長がなされ、ホール14Hの開口を閉塞した。
【0080】
具体的には、マストランスポートによってホール14Hの形状が熱的に安定な面で構成される形状へと変形する第1の温度(920℃)で第1の埋込成長がなされた。
【0081】
より詳細には、この第1の温度領域では、成長基板の最表面にはN原子が付着しているため、N極性面が選択的に成長される。したがって、図4に示すように、表面が{1-101}ファセットである結晶が選択的に成長される。対向する{1-101}ファセットがそれぞれぶつかることで、ホール14Hは閉塞され埋め込まれる(ファセット成長)。かかるファセット成長による第1の埋込成長がなされ、ホール14Hに対応して空孔14Kが形成される。
【0082】
なお、図4には埋込層14Bが形成される前のホール形成層14J(GaN層)を破線で示している。
【0083】
(ステップS3)平坦化埋め込み-第2の埋込成長
続いて、ファセット成長によりホール14Hを閉塞した後、厚さが50nmの第2の埋込層14B2を成長した。第2の埋込層14B2の成長は、基板温度(成長温度)を1050℃(第2の埋込温度)まで昇温後、トリメチルガリウム(TMG)及びNH3を供給することで行った。なお、第2の埋込温度は、第1の埋込温度よりも高温であった。ただし、第2の埋込層14B2の成長表面が(0001)面となるように成長することができれば、第2の埋め込み温度と第1の埋め込み温度との温度関係は逆転しても良い。
【0084】
図4に示すように、熱効果によりマストランスポートを発生させ、第2の埋込成長(平坦化埋込成長)がなされ、表面に(0001)面が出現した第2の埋込層14B2が形成される。第1の埋込成長及び第2の埋込成長により、埋込層14Bが形成される。
【0085】
なお、ここでは説明の便宜上、空孔層14Pの上面(活性層15に近い側の面)からホール形成層14Jの上面14JSまでの層(ホール形成層14Jの一部を含む)を第1の埋込層14B1と称し、ホール形成層14Jの上面14JSから第2の埋込成長による平坦表面までの層を第2の埋込層14B2と称する(図4、S3を参照)。
【0086】
また、空孔層14Pの上面から第2の埋込層14B2の上面までの半導体層の全体(ホール形成層14Jの一部を含む)を埋込層14Bと称する。
【0087】
また、ここで、第1の埋込層14B1の厚さをD1と定義し、第2の埋込層14B2の厚さをD2と定義する。したがって、埋込層14Bの厚さはD=D1+D2で与えられる。
なお、本明細書において、n側ガイド層(第1のガイド層)14の各半導体層について、「上面」とは活性層15に近い側の面をいう。
【0088】
また、本実施形態において第2の埋込成長にはGaNを用いた。第2の埋込層14B2は、光と空孔層14Pとの結合効率(光フィールド)を調整するための光分布調整層としても機能する。
【0089】
すなわち、本実施形態において第1の埋込成長及び第2の埋込成長にはアンドープGaNを用いた。しかし、第1の埋込成長及び第2の埋込成長には、GaNに限らず、n-GaN、n-InGaN、又はアンドープGaN、アンドープInGaN、あるいは、これらの半導体を組み合わせて用いることができる。
【0090】
(ステップS4)再結晶成長
続いて、埋込層14Bのエッチングを行った基板に対し、リアクタ内にて光分布調整層23よりも上部層の結晶成長を行った。
【0091】
具体的には、第2の埋込層14B2上に光分布調整層23を成長した。具体的には、光分布調整層23はアンドープのIn0.03Ga0.97N層であり、埋込層14B(GaN層)とは結晶組成の異なる半導体層(異種半導体層)である。
【0092】
続いて、光分布調整層23上に、活性層15、p側ガイド層(第2のガイド層)16、電子障壁層(EBL)17、p-クラッド層18、p-コンタクト層19を順次成長した。以上により、PCSEL素子10が作製された。
【0093】
(b)空孔層
上記した埋込工程により、主空孔14K1及び副空孔14K2からなる空孔対14Kが正方格子点の各々に2次元的に配置された二重格子構造の空孔層14Pが形成された。ここで、副空孔14K2は主空孔14K1よりも空孔径及び高さが小さい。本発明において、多重格子構造の空孔層14Pにおける空孔の上面は、主空孔14K1または副空孔14K2の上面のうちより上部層(活性層)に近い上面(すなわち、浅い上面を有する空孔)を意味する。尚、空孔対14Kは、大きさの異なる主空孔14K1及び副空孔14K2でなく、同じ大きさの空孔が正方格子点の各々に2次元的に配置された単一光子構造とすることもできる。
【0094】
図6は、形成された空孔層14Pの、中心軸CXに垂直な断面を模式的に示す図である。III族窒化物においてホール14Hを埋め込む際には、マストランスポートによってホール14Hの形状が熱的に安定な面で構成される形状へと変形し空孔14Kが形成される。
【0095】
すなわち、+c面基板においては、ホール14Hの内側面は(1-100)面(すなわち、m面)へと形状変化する。すなわち、長円柱状の形状から側面がm面で構成される長六角柱状の空孔14Kへと形状変化する。
【0096】
形成された主空孔14K1は、長径が72.5nm及び短径が43.5nmであり、長径/短径比は1.67である長六角柱形状を有していた。また、副空孔14K2は長径が44.6nm及び短径が38.3nmであり、長径/短径比は1.16であり、主空孔14K1よりも正六角柱に近い長六角柱形状を有していた。
【0097】
また、主空孔14K1及び副空孔14K2の重心間距離Δx及びΔyは、81.6nm(Δx=Δy=0.46PK)であり、埋め込み前から変化していないことが確認された。また、主空孔14K1及び副空孔14K2の長軸は<11-20>軸(すなわち、a軸)に平行であることが確認された。
【0098】
また、主空孔14K1及び副空孔14K2の空孔充填率(フィリングファクタ)FF1,FF2を算出したところ、FF1=8.8%、FF2=4.2%であった。ここで空孔充填率とは、2次元的な規則配列において、単位面積あたりの各空孔が占める面積の割合である。具体的には、空孔層14Pにおける主空孔14K1及び副空孔14K2の面積をそれぞれS1、S2としたとき、主空孔14K1及び副空孔14K2の空孔充填率FF1,FF2は次の式で与えられる。
【0099】
FF1=S1/PK, FF2=S2/PK
以上の工程により、空孔層である空孔層14Pを含むn側ガイド層14の形成が完了した。
【0100】
3.表面酸化/酸化膜除去の効果
(a)界面Si濃度の低減
図7は、ホール14Hを形成した基板に表面酸化/酸化膜除去処理(ステップS1)を行って製造したPCSEL素子10(EMB)の深さ方向のSIMS(二次イオン質量分析)の測定結果(SIMSプロファイル)を示している。なお、図の明確さのため、各半導体層については、それらの参照符号で示している。例えば、「14B1」は第1の埋込層14B1を、「14B2」は第2の埋込層14B2を、「23」は光分布調整層23を示している。
【0101】
また、図8は、表面酸化/酸化膜除去工程(ステップS1)を行わずに製造したPCSEL素子(CMP)の深さ方向のSIMSプロファイルを示している。
【0102】
表面酸化/酸化膜除去を行わなかったPCSEL素子(CMP)では、第1の埋込層14B1と第2の埋込層14B2との界面、及び、第2の埋込層14B2と光分布調整層23との界面において、1×1020cm-3程度の高濃度のSiが存在していた。
【0103】
一方、図7に示すように、オゾン処理によって表面のSiを酸化させ、酸化膜をBHF処理によって除去することで界面のSi濃度を2×1019cm-3程度(約1/4以下)まで低減することができる。
【0104】
(b)再成長層の平坦性
ホール14Hを形成した半導体表面には、ハードマスクであるSiNx膜や大気中のシロキサンなどの付着による多量のSiが堆積していた。結晶成長時において、反応性の高い窒素雰囲気(例えば、NHが高温で解離した雰囲気)では表面のSiがNと反応しSiNを形成する。SiNはGaN面においてインバージョンドメインを形成し、これにより、ファセット成長による第1埋込層上面のSiNで汚染された領域に形成されたGaNの極性が局所的に反転し、第2の埋込層14B2を形成時におけるマストランスポートによる形状変化の際にインバージョンドメインが形成され大きな表面荒れを発生させる。また、インバージョンドメインを形成するレベルのSiがドーピングされた場合には表面平坦性を保ち埋込層を成長できた場合でも、点欠陥が導入されやすくなる。
【0105】
すなわち、従来技術においては、高い平坦性の成長面を得ることができず、面発光レーザ素子の発振閾値電流を低減することができない。また、空孔層14Pと活性層15とを十分に近づけることができないため、空孔層14Pと活性層15との結合効率が高く良好な特性の面発光レーザ素子を得ることが困難である。
また、多量の点欠陥が膜中に導入され結晶性が悪化し、良好な特性の面発光レーザ素子を得ることが困難となる。
【0106】
上記したように、表面酸化及び酸化膜除去処理を行うことによって、界面のSi濃度を大きく低減し、インバージョンドメインの形成を抑制することができ、平坦性が高く高品質の活性層を成長することができる。
【0107】
したがって、低閾値かつ高効率の面発光半導体レーザ素子を提供することができる。
【0108】
[第2の実施形態]
図9Aは、第2の実施形態によるフォトニック結晶面発光レーザ素子(PCSEL素子)30の構造の一例を模式的に示す断面図である。また、図9Bは、図9Aの空孔層14P及び空孔層14P中に配列された空孔(air hole)14Kを模式的に示す拡大断面図である。
【0109】
図10は、第2の実施形態のPCSEL素子30の製造方法を示すフローチャートである。なお、第1の実施形態のPCSEL素子10の製造方法と同一工程には同一の参照符号を付している。
【0110】
また、図11は、製造方法のステップS3Aにおけるn側ガイド層14の断面を模式的に示す断面図である。
【0111】
(a)PCSEL素子の製法及び構造
図10に示すように、PCSEL素子30においては、表面酸化及び酸化膜除去処理(ステップS1)を行った後、埋込層14Bを成長(ステップS2,S3)し、次にHアニールによって埋込層14Bをエッチングした(ステップS3A)。
【0112】
より詳細には、図11に示すように、埋込層14B(厚さD)の表面から空孔層14P上の半導体層をTEだけエッチングした。残存した埋込層14Bの厚さはDE(=D-TE)である。すなわち、空孔14Kの上面から残存した埋込層14Bの表面(上面)までの厚さはDEである。
【0113】
換言すれば、ステップS3Aのエッチングによって厚さDEを有する埋込層14BE(薄膜化された埋込層、以下、薄膜化埋込層とも称する)が形成された。
【0114】
すなわち、PCSEL素子30はエッチングされて形成された薄膜化埋込層14BEを有している点において第1の実施形態のPCSEL素子10と異なり、その他は第1の実施形態のPCSEL素子10と同一である。
【0115】
(b)埋込層の薄膜化-Hアニール・エッチング
埋込層14Bの表面から埋込層14BをHアニールによってエッチングしたときの埋込層14B(薄膜化埋込層14BE)の表面モフォロジについて評価した。
【0116】
具体的にはエッチング時間を変化させて薄膜化埋込層14BE(すなわち、エッチング後の埋込層14B)の厚さDEを変化させたサンプル(i)~(iv)を作製した。
【0117】
なお、上記したように、表面酸化及び酸化膜除去処理によって界面のSi濃度は2×1019cm-3程度まで低減されている。
【0118】
図12は、表面酸化/酸化膜除去処理(ステップS1)を行った後、埋込層14Bを再成長した半導体層の表面をHアニールによってエッチングしたときの断面を示すSEM像である。
【0119】
図12に示すように、薄膜化埋込層14BEの厚さDEは(i)DE=114nm,(ii)DE=66nm,(iii)DE=4nm,(iv)DE<1nmであった。
【0120】
雰囲気中でのアニールにおいては、(0001)面は熱的に安定な面であり、表面の平坦性を保ったまま埋込層14Bをエッチングして薄くすることができる。したがって、埋込層14B上に平坦性が高く、高品質の活性層を成長することができる。なお、アニール雰囲気にはIII族原料、V族原料が含まれていても良い。
【0121】
より詳細には、III族窒化物半導体においては、H雰囲気中で高温アニールを行うと表面原子の脱離が発生し、表面がエッチングされる。この時、最もエッチングレートの遅い面が残るため、最も熱的に安定な(0001)面が表面には形成される。したがって、+c面基板を用いる場合には基板に平行な(0001)面を維持したままエッチングを行うことができる。これにより、埋込層14Bを薄くすることができ、空孔層14P(空孔層)と活性層15との間隔(距離)を小さくすることができる。
【0122】
サンプル(i)~(iv)の表面モフォロジをAFM(原子間力顕微鏡)を用いて観察した。図13は、サンプル(i)~(iv)の表面のAFM像を示す図である。
【0123】
薄膜化埋込層14BEの厚さDEが(i)DE=114nm,(ii)DE=66nm,(iii)DE=4nm,(iv)DE<1nmの場合の表面粗さは、20μm×20μmの領域で、それぞれRa=0.633nm、0.508nm、0.532nm、2.43nmであった。
【0124】
(i)~(iii)の場合では十分に平坦な表面が得られることが分かった。また、(iii)DE=4nmと極めて薄くした場合でも良好な平坦性が得られることが分かった。(iv)DE<1nmの場合では、大きな表面荒れが観察された。
【0125】
図14は、薄膜化埋込層14BEの厚さDEに対する20μm×20μmの領域での表面粗さRaをプロットしたグラフである。
【0126】
図14に示すように、DE≧4nmであれば十分に平坦な表面が得られることが分かる。より詳細には、薄膜化埋込層14BEの厚さDEが4nm以上であれば、20μm×20μmの領域での表面粗さRaは、Ra≦0.7nmが得られることがわかる。
【0127】
(c)空孔層及び活性層間の距離
上記した結果から、空孔層14Pと活性層15との距離、すなわち空孔層14Pの空孔14Kの上面と活性層15との距離が4nm以上であれば十分に平坦な活性層15が得られ、空孔層14Pと活性層15との結合効率が高く良好な特性の面発光レーザ素子が得られることがわかる。
【0128】
また、高い結合効率を得る点から、空孔層14Pと活性層15との距離は200nm以下であることが好ましい。
【0129】
さらに、空孔層14Pと活性層15との距離を4~150nmとすることで、より高い共振効果を有し、低閾値かつ高効率の面発光半導体レーザ素子を得ることができる。
【0130】
なお、活性層15が量子井戸構造の活性層の場合には、空孔14Kの上面と活性層15との距離は、空孔14Kの上面と最初の量子井戸層(すなわち、最も空孔層14Pに近い量子井戸層)との距離をいう。
【0131】
また、従来、多重格子構造の空孔層において、高い空孔充填率を得る場合には、単一格子構造の空孔層よりも厚い埋込層を必要とする場合があった。本発明によれば、かかる場合であっても、薄い埋込層を用いることができ、空孔層と活性層との高い結合効率(共振効果)を得ることができる。
【0132】
本実施形態によれば、空孔層14Pと高い平坦性を有する活性層15とを近接して設けることができる。具体的には、上記したように、埋込層14BEの厚さが4nm以上であれば、埋込層14BEの表面粗さRaは、Ra≦0.7nmである。
【0133】
なお、図7及び図8のSIMS測定結果に示されるように、第1の埋込層14B1中のSi濃度が平坦な部分では、ホール形成層14Jの酸化膜除去(ステップS1)を行った場合(図7)ではSi濃度が約4.5×1018cm-3であり、酸化膜除去を行わなかった場合(図8)の約6.0×1018cm-3に比べて低減されていることがわかる。
【0134】
したがって、ホール形成層14Jの表面酸化及び酸化膜除去を行うことにより、埋込層14B中のSi濃度が低減され、高い平坦性を有する半導体層の再成長が可能なことが理解される。
【0135】
以上、第1及び第2の実施形態について詳細に説明した。第1及び第2の実施形態においては、光分布調整層23を設けた場合について説明したが、光分布調整層23を設けることなく、埋込層14B又は埋込層14BE上に活性層15を直接形成してもよい。この場合、さらに空孔層14Pと高い平坦性を有する活性層15とを近接して設けることができる。
【0136】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、空孔層と活性層とを近接させ共振効果を高くすることが可能であり、かつ、高品質の活性層を有し、低閾値かつ高効率の面発光半導体レーザ素子を製造する方法及びフォトニック結晶面発光レーザ素子を提供することができる。
【0137】
なお、上記した実施形態における数値等は、特に示した場合を除き、例示に過ぎず適宜改変して適用することができる。また、二重格子構造のPCSEL素子について例示したが、単一格子構造のPCSEL素子、及び一般に多重格子構造のPCSEL素子について適用することができる。
【0138】
また、本発明は、空孔が六角柱形状を有するフォトニック結晶層について例示したが、フォトニック結晶層の空孔が円柱状、矩形状、多角形状、またティアドロップ形状などの不定柱形状を有する場合についても適用することができる。
【符号の説明】
【0139】
10:PCSEL素子
12:素子基板
13:第1のクラッド層
14:第1のガイド層
14A:下ガイド層
14B:埋込層
14BE:埋込層
14B1:第1の埋込層
14B2:第2の埋込層
14B2:第2の埋込層
14E:ホール形成準備層
14J:ホール形成層
14K:空孔/空孔対
14K1/14K2:主/副空孔
14P:フォトニック結晶層(空孔層)
15:活性層
16:第2のガイド層
17;電子障壁層
18:第2のクラッド層
19:コンタクト層
23:光分布調整層

図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14