(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014316
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】無機酸化物中空粒子
(51)【国際特許分類】
C01B 35/12 20060101AFI20240125BHJP
B01J 35/52 20240101ALI20240125BHJP
B01J 23/04 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
C01B35/12 D
B01J35/08 A
B01J23/04 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117042
(22)【出願日】2022-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三崎 紀彦
(72)【発明者】
【氏名】館山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】山崎 広樹
(72)【発明者】
【氏名】松下 修也
(72)【発明者】
【氏名】徳田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】増田 賢太
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA01
4G169AA11
4G169BA01A
4G169BA01B
4G169BA02A
4G169BA02B
4G169BA06A
4G169BA06B
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4G169BB06B
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4G169BC02B
4G169BC03A
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4G169BC09A
4G169BC09B
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4G169BC16B
4G169BD03A
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4G169BD05B
4G169DA05
4G169EA04X
4G169EB06
4G169EB18X
4G169EB18Y
(57)【要約】
【課題】従来よりも比誘電率及び誘電正接が低く、誘電特性に優れる無機酸化物中空粒子を提供すること。
【解決手段】ホウ素酸化物、カルシウム酸化物、アルミニウム酸化物及びケイ素酸化物を含み、アルミニウム酸化物とケイ素酸化物との質量比(アルミニウム酸化物/ケイ素酸化物)が0.35以上である、無機酸化物中空粒子。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素酸化物、カルシウム酸化物、アルミニウム酸化物及びケイ素酸化物を含み、
アルミニウム酸化物とケイ素酸化物との質量比(アルミニウム酸化物/ケイ素酸化物)が0.35以上である、
無機酸化物中空粒子。
【請求項2】
ホウ素酸化物の含有量が5~50質量%である、請求項1記載の無機酸化物中空粒子。
【請求項3】
カルシウム酸化物の含有量が3~40質量%である、請求項1記載の無機酸化物中空粒子。
【請求項4】
アルミニウム酸化物の含有量が5~40質量%である、請求項1記載の無機酸化物中空粒子。
【請求項5】
ケイ素酸化物の含有量が20~70質量%である、請求項1記載の無機酸化物中空粒子。
【請求項6】
マグネシウム酸化物を更に含み、マグネシウム酸化物の含有量が7質量%以下である、請求項1記載の無機酸化物中空粒子。
【請求項7】
誘電正接が0.005以下である、請求項1記載の無機酸化物中空粒子。
【請求項8】
比誘電率が3以下である、請求項1記載の無機酸化物中空粒子。
【請求項9】
空洞率が60%以上である、請求項1記載の無機酸化物中空粒子。
【請求項10】
平均粒子径が10μm以下である、請求項1記載の無機酸化物中空粒子。
【請求項11】
当該無機酸化物中空粒子は、外殻で覆われた空洞が1以上の隔壁によって区切られた複数の独立した空間を備えるものである、請求項1~10のいずれか1項に記載の無機酸化物中空粒子。
【請求項12】
外殻が無気孔である、請求項11記載の無機酸化物中空粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機酸化物中空粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
無機酸化物中空粒子は、外殻に包囲された空洞を有するため、非中空粒子に比べて軽量性、熱伝導率が小さく、熱安定性に優れており、断熱性材料、遮熱性材料、触媒担体、建築材料、電子材料等として広く普及している。
【0003】
無機酸化物中空粒子として、例えば、真珠岩、黒曜石等の天然ガラス質岩石を原料とし、内部空間が隔壁によって区切られたシリカ質の中空微粒子であって、容重が0.15~0.35g/cm3であり、最も薄い部分の殻の膜厚が0.5~5μmであるシリカ質中空微粒子(特許文献1)が知られている。また、平均粒子径が5~300nmであり、かつ比表面積が50~1500m2/gである中空シリカ微粒子が集合・結着してなる球状シリカ粒子(特許文献2)や、シリカを含むシェル(外殻)を有し、該シェルに内包された金属及び/又は金属化合物のナノ粒子を具備するシリカ含有中空粒子(特許文献3)も報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-172863号公報
【特許文献2】特開2009-114010号公報
【特許文献3】特開2016-150880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、情報ネットワーク技術の著しい進歩、情報ネットワークを活用したサービスの拡大により、電子機器には情報量の大容量化、処理速度の高速化が進んでいる。大容量のデジタル信号を高速で伝達するためには、電子機器のプリント配線板の伝送損失の低減が重要であり、プリント配線板に用いられる無機酸化物中空粒子には、比誘電率及び誘電正接がより低く、誘電特性に優れることが求められている。
本発明の課題は、従来よりも比誘電率及び誘電正接が低く、誘電特性に優れる無機酸化物中空粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み検討したところ、ホウ素酸化物、カルシウム酸化物、アルミニウム酸化物及びケイ素酸化物を必須とし、アルミニウム酸化物とケイ素酸化物とを特定の量比で含有する無機酸化物中空粒子が、従来よりも比誘電率及び誘電正接が低く、誘電特性に優れることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔12〕を提供するものである。
〔1〕ホウ素酸化物、カルシウム酸化物、アルミニウム酸化物及びケイ素酸化物を含み、
アルミニウム酸化物とケイ素酸化物との質量比(アルミニウム酸化物/ケイ素酸化物)が0.35以上である、
無機酸化物中空粒子。
〔2〕ホウ素酸化物の含有量が5~50質量%である、前記〔1〕記載の無機酸化物中空粒子。
〔3〕カルシウム酸化物の含有量が3~40質量%である、前記〔1〕又は〔2〕記載の無機酸化物中空粒子。
〔4〕アルミニウム酸化物の含有量が5~40質量%である、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一に記載の無機酸化物中空粒子。
〔5〕ケイ素酸化物の含有量が20~70質量%である、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一に記載の無機酸化物中空粒子。
〔6〕マグネシウム酸化物を更に含み、マグネシウム酸化物の含有量が7質量%以下である、前記〔1〕~〔5〕のいずれか一に記載の無機酸化物中空粒子。
〔7〕誘電正接が0.005以下である、前記〔1〕~〔6〕のいずれか一に記載の無機酸化物中空粒子。
〔8〕比誘電率が3以下である、前記〔1〕~〔7〕のいずれか一に記載の無機酸化物中空粒子。
〔9〕空洞率が60%以上である、前記〔1〕~〔8〕のいずれか一に記載の無機酸化物中空粒子。
〔10〕平均粒子径が10μm以下である、前記〔1〕~〔9〕のいずれか一に記載の無機酸化物中空粒子。
〔11〕当該無機酸化物中空粒子は、外殻で覆われた空洞が1以上の隔壁によって区切られた複数の独立した空間を備えるものである、前記〔1〕~〔10〕のいずれか一に記載の無機酸化物中空粒子。
〔12〕外殻が無気孔である、前記〔11〕記載の無機酸化物中空粒子。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来よりも比誘電率誘電正接が低く、誘電特性に優れる無機酸化物中空粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1で得られた無機酸化物中空粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において「中空粒子」とは、内部に中空構造を有する粒子であって、中空部を区画する外殻を有する粒子をいう。したがって、粒子の表面から内部へ延びる複数の細孔を有する多孔質粒子とは異なる。なお、中空粒子は、透過型電子顕微鏡(TEM)像により多孔質粒子と区別することができる。また、「無機酸化物中空粒子」とは、中空部を区画する外殻が無機酸化物で構成されている中空粒子をいう。
【0011】
本発明の無機酸化物中空粒子は、外殻がホウ素酸化物、カルシウム酸化物、アルミニウム酸化物及びケイ素酸化物を含む無機酸化物により構成され、アルミニウム酸化物とケイ素酸化物との質量比(アルミニウム酸化物/ケイ素酸化物)が従来知られている無機酸化物中空粒子よりも高いことを特徴とする。これにより、従来よりも比誘電率及び誘電正接が低く、誘電特性に優れた無機酸化物中空粒子とすることができる。
【0012】
ホウ素酸化物としては、比誘電率及び誘電正接の低減の観点から、B2O3が好ましい。
カルシウム酸化物としては、比誘電率及び誘電正接の低減の観点から、CaOが好ましい。
アルミニウム酸化物としては、比誘電率及び誘電正接の低減の観点から、Al2O3が好ましい。
ケイ素酸化物としては、比誘電率及び誘電正接の低減の観点から、SiO2が好ましい。
【0013】
本発明の無機酸化物中空粒子は、アルミニウム酸化物とケイ素酸化物との質量比(アルミニウム酸化物/ケイ素酸化物)が0.35以上であるが、比誘電率及び誘電正接の低減の観点から、0.37以上が好ましく、0.39以上がより好ましく、0.41以上が更に好ましい。アルミニウム酸化物とケイ素酸化物との質量比(アルミニウム酸化物/ケイ素酸化物)の上限値は特に限定されないが、比誘電率及び誘電正接の低減の観点から、0.70以下が好ましく、0.65以下がより好ましく、0.60以下が更に好ましく、0.58以下がより更に好ましい。
【0014】
本発明の無機酸化物中空粒子中のホウ素酸化物の含有量は、比誘電率及び誘電正接の低減の観点から、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、13質量%以上が更に好ましく、17質量%以上がより更に好ましく、そして50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下が更に好ましく、35質量%以下が更に好ましく、30質量%以下が更に好ましく、25%以下がより更に好ましい。
【0015】
本発明の無機酸化物中空粒子中のカルシウム酸化物の含有量は、比誘電率及び誘電正接の低減の観点から、3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、7質量%以上が更に好ましく、9質量%以上がより更に好ましく、そして40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましく、30質量%以下が更に好ましく、25質量%以下が更に好ましく、20質量%以下が更に好ましく、15質量%以下が更に好ましく、12質量%以下がより更に好ましい。
【0016】
本発明の無機酸化物中空粒子中のアルミニウム酸化物の含有量は、比誘電率及び誘電正接の低減の観点から、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、14質量%以上が更に好ましく、18質量%以上がより更に好ましく、そして40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましく、30質量%以下が更に好ましく、25%以下がより更に好ましい。
【0017】
本発明の無機酸化物中空粒子中のケイ素酸化物の含有量は、比誘電率及び誘電正接の低減の観点から、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、35質量%以上が更に好ましく、40質量%以上がより更に好ましく、そして70質量%以下が好ましく、65質量%以下がより好ましく、60質量%以下が更に好ましく、55質量%以下がより更に好ましく、50質量%未満が殊更に好ましい。
【0018】
なお、本明細書において、外殻を構成する無機酸化物の各含有量は、蛍光X線分析法にて酸化物換算で測定し、化学成分を算出した値である。
【0019】
本発明の無機酸化物中空粒子は、外殻を構成する無機酸化物として上記以外の無機酸化物を更に含んでいてもよい。例えば、比誘電率及び誘電正接の低減の観点から、マグネシウム酸化物を含有することができる。
マグネシウム酸化物としては、比誘電率及び誘電正接の低減の観点から、MgOが好ましい。
本発明の無機酸化物中空粒子中のマグネシウム酸化物の含有量は、比誘電率及び誘電正接の低減の観点から、7質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましい。マグネシウム酸化物の含有量の下限値は特に限定されず、0質量%であっても構わないが、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が更に好ましい。
【0020】
また、本発明の無機酸化物中空粒子は、外殻を構成する無機酸化物として第1族元素酸化物を更に含んでいても構わない。
第1族元素酸化物としては、例えば、リチウム酸化物、ナトリウム酸化物、カリウム酸化物、ルビジウム酸化物、セシウム酸化物を挙げることができる。中でも、ナトリウム酸化物、カリウム酸化物が好ましい。ナトリウム酸化物としては、Na2Oが好ましく、カリウム酸化物としては、K2Oが好ましい。なお、第1族元素酸化物は、1種又は2種以上含有することができる。
【0021】
本発明の無機酸化物中空粒子中の第1族元素酸化物の含有量は、可及的に少ないことが比誘電率及び誘電正接の低減の観点から好ましい。第1族元素酸化物の含有量は、本発明の無機酸化物中空粒子中に、例えば、3質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下が更に好ましく、0.2質量%以下がより更に好ましい。なお、本発明の無機酸化物中空粒子中の第1族元素酸化物の含有量の下限値は特に限定されず、0質量%であっても構わないが、ガラス成分の軟化点を適正に制御する観点から、0.001質量%以上が好ましく、0.005質量%以上がより好ましく、0.01質量%以上が更に好ましい。なお、第1族元素酸化物の含有量は、第1族元素酸化物の総量であり、第1族元素酸化物として1種のみを含有する場合にも上記含有量が適用される。
【0022】
更に、本発明の無機酸化物中空粒子は、外殻を構成する無機酸化物として、例えば、カルシウム酸化物及びマグネシウム酸化物以外の第2族元素酸化物、第4族元素酸化物を含有していてもよい。
カルシウム酸化物及びマグネシウム酸化物以外の第2族元素酸化物としては、例えば、SrO、BaO、RaOを挙げることができる。また、第4族元素酸化物としては、例えば、TiO2、ZrO2、HfO2を挙げることができる。
なお、これら無機酸化物の含有量は、本発明の効果を阻害しない範囲内で適宜選択することができる。
【0023】
本発明の無機酸化物中空粒子は、
図1に示されるように、外殻で覆われた空洞が1以上の隔壁によって区切られた複数の独立した空間を有していてもよい。独立した空間は、それぞれ隔壁によって隔てられた互いに連通しない気泡(以下、「独立気泡」ともいう。)によって形成されているため、比誘電率及び誘電正接をより低くすることができる。ここでいう「外殻」とは、粒子の最も表面側に位置する壁であって、粒子内部の1つの独立気泡のみ接する壁をいい、また「隔壁」とは、粒子内部の隣接する2つの独立気泡を互いに区画する壁をいう。なお、本発明の無機酸化物中空粒子が独立気泡を有する場合、外殻及び隔壁は、上記において説明した無機酸化物により形成されている。
【0024】
また、本発明の無機酸化物中空粒子は、比誘電率及び誘電正接の低減の観点から、外殻に開口のない無気孔であることが好ましい。とりわけ、独立気泡を有し、かつ無気孔である無機酸化物中空粒子とすることにより、独立気泡が完全に封鎖されるため、比誘電率及び誘電正接をより一層低減できるだけでなく、優れた断熱性、遮熱性を発現し、また独立気泡の複数の隔壁によって粒子強度を高めることができる。なお、外殻が無気孔であることは、走査型電子顕微鏡(SEM)像や、水に浮かぶことにより確認することができる。
【0025】
更に、本発明の無機酸化物中空粒子は、比誘電率及び誘電正接の低減の観点から、凝集していない一次粒子であることが好ましい。また、走査型電子顕微鏡(SEM)像により、多孔質粒子や二次粒子と明確に区別することが可能である。
【0026】
本発明の無機酸化物中空粒子は、空洞率が、比誘電率及び誘電正接の低減の観点から、60%以上が好ましく、65%以上がより好ましく、70%以上が更に好ましい。なお、かかる空洞率の上限値は、十分な強度を確保する観点から、95%以下が好ましく、90%以下が更に好ましい。ここで、本明細書において「空洞率」は、乾式自動密度計を使用して粒子の嵩密度と真密度とを測定し、その値から下記式により算出される値である。なお、個々の粒子について計測することが難しいため、粒子群としての空洞割合である。また、「真密度」は、空洞部分を取り除くために、箱型電気炉にて融点以上で6時間加熱した後、冷却して乾式自動密度計で測定するものとする。乾式自動密度計として、例えば、アキュピック(島津製作所)を使用することができる。
【0027】
空洞率=(真密度-嵩密度)×100/真密度
【0028】
本発明の無機酸化物中空粒子は、微小な粒子であるため、小型化や薄型化が必要とされる電子機器部品への適用が容易である。より具体的には、本発明の無機酸化物中空粒子の平均粒子径は、通常10μm以下であり、好ましくは8μm以下であり、より好ましくは7μm以下であり、更に好ましくは6μm以下であり、より更に好ましくは5μm以下である。なお、かかる平均粒子径の下限値は、空洞を十分確保する観点から、0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましく、0.3μm以上が更に好ましい。ここで、本明細書において「平均粒子径」とは、JIS R 1629に準拠して試料の粒度分布を体積基準で作成したときに積算分布曲線の50%に相当する粒子径(D50)を意味する。なお、粒子径分布測定には、例えば、レーザ回折・散乱式粒子径分布測定装置を使用することができる。
【0029】
本発明の無機酸化物中空粒子の形状は、非球状であることが好ましい。非球状とすることで、樹脂等に添加した場合に粒子同士の接地面積が少なく、より一層の熱伝導性の低下を期待できる。無機酸化物中空粒子の平均円形度が、通常0.85以上、好ましくは0.90以上である場合、ほぼ球状であると判断される。本明細書では、100個の粒子について円形度を測定し、その平均値を以って平均円形度とする。なお、円形度は、次の手順で算出できる。先ず、走査型電子顕微鏡写真から粒子の投影面積(A)と周囲長(PM)を測定する。周囲長(PM)に対する真円の面積を(B)とすると、その粒子の円形度はA/Bとして表される。ここで、粒子の周囲長(PM)と同一の周囲長を持つ真円の周囲長及び面積は、それぞれPM=2πr、B=πr2で表されるから、B=π×(PM/2π)2となる。したがって、粒子の円形度は、円形度=A/B=A×4π/(PM)2により算出することができる。
【0030】
本発明の無機酸化物中空粒子は、粒子密度が、通常0.1~1.5g/cm3であり、好ましくは0.2~1.0 g/cm3であり、更に好ましくは0.3~0.8 g/cm3である。なお、粒子密度は、JIS R 1620に準拠して気体置換法により測定することができる。粒子密度測定装置として、例えば、乾式自動密度計「アキュピック(島津製作所製)」を使用することができる。
【0031】
本発明の無機酸化物中空粒子は、低誘電率化及び低誘電正接化の観点から、1GHzにおける比誘電率が3以下であることが好ましく、2.8以下がより好ましく、2.5以下が更に好ましく、2.2以下がより更に好ましく、2以下が殊更に好ましい。
また、本発明の無機酸化物中空粒子は、低誘電率化及び低誘電正接化の観点から、1GHzにおける誘電正接が0.005以下であることが好ましく、0.004以下がより好ましく、0.003以下が更に好ましい。
ここで、本明細書において「比誘電率」及び「誘電正接」は、温度25℃、湿度60%の環境下、1GHzにおいて測定するものとする。なお、比誘電率及び誘電正接は、例えば、摂動方式空洞共振器(KEYCOM社製)を用いて測定することができる。
【0032】
本発明の無機酸化物中空粒子は、断熱材料、遮熱材料、触媒担体、建築材料、電子材料等に適用することができるが、比誘電率及び誘電正接が低く、高強度の微小粒子であることから、電子材料、とりわけ配線回路基板、半導体封止材等に有用である。
【0033】
本発明の無機酸化物中空粒子の製造方法は、上記構成を有する無機酸化物中空粒子を得ることができれば特に限定されないが、例えば、原料化合物を含む被噴霧液体を、噴霧熱分解装置内に装着された噴霧装置から噴霧し、噴霧された液滴(ミスト)を熱分解する方法を挙げることができる。
【0034】
原料化合物としては、無機酸化物を構成する元素としてホウ素、カルシウム、アルミニウム又はケイ素を含有する化合物を挙げることができる。かかる化合物としては、水に溶解する化合物であれば特に限定されないが、例えば、無機塩、有機塩、アルコキシドを挙げられ、1又は2以上を含有することができる。無機塩としては、例えば、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、水酸化物、ハロゲン化物を挙げることができる。有機塩としては、例えば、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩を挙げることができる。
【0035】
ホウ素含有化合物としては、例えば、ホウ酸塩、ホウ酸を挙げることができる。ホウ酸塩としては、例えば、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム等のメタホウ酸塩、四ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸カリウム等の四ホウ酸塩、五ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸カリウム等の五ホウ酸塩を挙げることができる。
【0036】
カルシウム含有化合物としては、例えば、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、蟻酸カルシウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム等のカルシウム塩を挙げることができる。
【0037】
アルミニウム含有化合物としては、例えば、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、燐酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、酢酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム等の無機塩、アルミニウムメトキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド等のアルミニウムアルコキシドを挙げることができる。また、アルミノケイ酸塩や、アルミニウム酸化物を溶媒に分散した溶液、アルミニウム酸化物のゾル溶液も原料化合物溶液として用いることができる。アルミノケイ酸塩としては、例えば、アルミノケイ酸ナトリウム、アルミノケイ酸カリウム、アルミノケイ酸カルシウムを挙げられる。
【0038】
ケイ素含有化合物としては、例えば、ケイ酸アルコキシドを挙げることができる。ケイ酸アルコキシドとしては、例えば、オルトケイ酸テトラメチル(TMOS)、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、オルトケイ酸テトラプロピル(TPOS)、テトラブトキシシランを挙げることができる。また、ケイ素酸化物を溶媒に分散した溶液、ケイ素酸化物のゾル溶液も原料化合物溶液として用いることができる。
【0039】
本発明においては、原料化合物として、ホウ素、カルシウム、アルミニウム及びケイ素以外の元素を含有する化合物が更に含まれていてもよい。
このような化合物としては水に溶解する金属化合物であれば特に限定されないが、例えば、マグネシウム含有化合物、第1族元素含有化合物を挙げることができる。これら化合物としては、例えば、無機塩、有機塩、アルコキシドが挙げられ、その具体例は上記において説明したとおりである。
【0040】
マグネシウム含有化合物しては、例えば、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、燐酸マグネシウム、水酸化マグネシウムを挙げることができる。
【0041】
第1族元素含有化合物としては、第1族元素を含む化合物であれば特に限定されないが、リチウム含有化合物、ナトリウム含有化合物、カリウム含有化合物、ルビジウム含有化合物、セシウム含有酸化物を挙げることができる。ナトリウム含有化合物としては、例えば、塩化ナトリウム、水酸化ナトリウム、硫酸ナトリウムを挙げることができる。なお、リチウム含有化合物、カリウム含有化合物、ルビジウム含有化合物及びセシウム含有酸化物においても、ナトリウム含有化合物と同様の無機塩を使用することができる。
【0042】
これら原料化合物から得られる無機酸化物としては、例えば、酸化ホウ素、酸化カルシウム、アルミナ、シリカの他、酸化ナトリウム、酸化リチウム等の第1族元素酸化物、酸化マグネシウムが挙げられ、これら酸化物を組み合せた複合酸化物も挙げることができる。
【0043】
被噴霧液体は、原料化合物を、水又はエタノール等の有機溶媒と混合して調製すればよい。なお、原料化合物の配合割合は、上記した組成の無機酸化物中空粒子となるように、原料化合物の種類に応じて適宜調整すればよい。
【0044】
被噴霧液体中の原料化合物濃度は、各元素の総量として、0.01mol/L~2.0mol/Lが好ましく、0.1mol/L~1.0mol/Lがより好ましい。
【0045】
噴霧熱分解装置は、熱分解炉の形状が堅型円筒状であることが好ましく、熱分解炉の大きさは、製造スケールにより適宜選択することができる。
【0046】
噴霧装置としては、例えば、2流体ノズル、3流体ノズル、4流体ノズル等の流体ノズルを挙げることができる。ここで、流体ノズルの方式には、気体と原料溶液とをノズル内部で混合する内部混合方式と、ノズル外部で気体と原料溶液を混合する外部混合方式があるが、いずれも採用できる。ノズルに供給する気体としては、例えば、空気や、窒素、アルゴン等の不活性ガス等を使用することができる。中でも、経済性の観点から、空気が好ましい。なお、噴霧装置は、1基又は2基以上設置することができる。
【0047】
被噴霧液体の流量は、通常1~100L/hであり、好ましくは3~80L/hであり、更に好ましくは5~60L/hである。
【0048】
噴霧装置から噴霧された液滴は、熱分解炉内の加熱装置により加熱されて無機化合物を含む膜が形成され、それを起点に無機酸化物中空粒子が形成される。
液滴の噴出速度は、通常1~50m/sであり、好ましくは5~35m/sであり、更に好ましくは10~20m/sである。
【0049】
加熱装置は、例えば、燃焼バーナー、熱風ヒータ、電気ヒータ等を挙げることができる。加熱装置は、1基又は2基以上設置することが可能である。なお、燃焼バーナー、熱風ヒータ及び電気ヒータは、一般的に販売されているものあれば、いずれも使用することができる。
加熱装置の温度は、400~1800℃が好ましく、600~1500℃がより好ましく、700~1400℃が更に好ましく、800~1200℃がより更に好ましい。このような温度であれば、熱分解が十分となり、また粒子が熱分解炉外に排出されたときに粒子同士が凝集し難くなる。
【0050】
熱分解反応によって生じた無機酸化物中空粒子は、熱分解炉の下流側から回収される。無機酸化物中空粒子の回収は、高性能サイクロン粉体回収機やバグフィルターを用いた粉体回収装置を用いることができる。
【0051】
また、本発明においては、回収した無機酸化物中空粒子をエタノールと撹拌混合し、該粒子をエタノールに一旦浸漬させた後、液面に浮遊した粒子のみを採取することで、独立気泡を有する無機酸化物中空粒子を高純度で得ることができる。なお、エタノールの使用量は、無機酸化物中空粒子に対して、通常5~20質量倍であり、好ましくは10~15質量倍である。
【実施例0052】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。但し、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0053】
1.化学組成の分析
無機酸化物中空粒子をプレス機で成型してブリケットを作製し、そのブリケットを蛍光X線分析装置(ZSX primus II、リガク社製)にて酸化物換算で測定し、化学成分を算出した。
【0054】
2.粒子密度の分析
乾式自動密度計(アキュピック1340、島津製作所製)を用いて、定容積膨張法により測定した。即ち、セル内にサンプルを投入した後、これに不活性ガスを充填して試料の体積を測定し、この体積と予め測定しておいた試料質量とから粒子密度を求めた。
【0055】
3.空洞率の分析
乾式自動密度計としてアキュピック(島津製作所製)を使用し、粒子の嵩密度と真密度を測定し、下記式により算出した。なお、「嵩密度」は、JIS R 1620に準拠して気体置換法により測定した。また、真密度は、空洞部分を取り除くために、箱型電気炉にて融点以上で6 時間加熱した後、冷却して乾式自動密度計で測定した。
【0056】
空洞率=(真密度-嵩真密度)×100/真密度
【0057】
4.平均粒子径の分析
粒子径分布測定装置(MT3000II、マイクロトラックベル社製)を用い、JIS R 1629に準拠して体積基準の粒度分布を作成し、積算分布曲線の50%に相当する粒子径(D50)を求めた。
【0058】
5.比誘電率及び誘電正接の分析
摂動方式空洞共振器(KEYCOM社製)を用い、温度25℃、湿度60%の環境下、1GHzにおいて測定した。
【0059】
本実施例で使用した原料は、下表のとおりである。
【0060】
【0061】
実施例1~11及び比較例1~7
反応容器内に、表2に示す組成となる割合のSi源、Al源、a源、Mg源、B源、Na源及びK源と、水とを投入し、原料無機化合物含有水溶液を3時間攪拌した。続いて、この原料無機化合物含有水溶液を2流体ノズルに送液し、ノズルから噴霧熱分解炉内に原料無機化合物含有水溶液を噴霧し、表2に示す温度で焼成して無機酸化物中空粒子を回収した。なお、2流体ノズルの運転条件は、ノズルエアー量を500L/min、送液量を500mL/minに設定した。また、実施例8及び9は、ノズルに供給するエア量を3,000L/minに設定して微細なミストを形成した。
次いで、回収した無機酸化物中空粒子20gをエタノール300gと撹拌混合し、該粒子をエタノールに一旦浸漬させた後、液面に浮遊した粒子のみを採取した。そして、採取した無機酸化物中空粒子について分析を行った。その結果を表2に示す。また、実施例1で採取した無機酸化物中空粒子のSEM像を
図1に示す。
【0062】
【0063】
表2から、アルミニウム酸化物とケイ素酸化物との質量比(アルミニウム酸化物/ケイ素酸化物)が0.35以上である無機酸化物中空粒子は、いずれも比誘電率及び誘電正接が低く、誘電特性に優れることが分かる。なお、実施例1~11で得られた粒子は、いずれも空洞が独立気泡を有する無機酸化物中空粒子であった。