(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143167
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】フォトクロミック物品、眼鏡およびフォトクロミック物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/23 20060101AFI20241003BHJP
G02C 7/10 20060101ALI20241003BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20241003BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20241003BHJP
C08G 18/67 20060101ALI20241003BHJP
C08G 18/80 20060101ALI20241003BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20241003BHJP
C09D 4/02 20060101ALI20241003BHJP
C09D 133/14 20060101ALI20241003BHJP
C09D 175/14 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G02B5/23
G02C7/10
B32B27/30 A
B32B27/40
C08G18/67
C08G18/80
C09D5/00 D
C09D4/02
C09D133/14
C09D175/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055698
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】樋口 剛志
(72)【発明者】
【氏名】小林 敬
【テーマコード(参考)】
2H006
2H148
4F100
4J034
4J038
【Fターム(参考)】
2H006BE00
2H006BE02
2H148DA04
2H148DA09
2H148DA12
2H148DA24
4F100AK25B
4F100AK25C
4F100AK45A
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4F100BA07
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4F100BA10C
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4F100JN28C
4J034GA02
4J034GA03
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4J034QB08
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4J034RA03
4J034RA13
4J038DG191
4J038DG301
4J038FA281
4J038NA12
4J038PA17
4J038PB08
(57)【要約】
【課題】フォトクロミック層と基材との密着性に優れるフォトクロミック物品を提供すること。
【解決手段】基材と、プライマー層形成用ポリマー組成物から形成されたプライマー層と、フォトクロミック化合物を含むフォトクロミック層と、をこの順に有するフォトクロミック物品。上記プライマー層形成用ポリマー組成物は、ヒドロキシ基および(メタ)アクリロイル基を有するポリマーと、ブロックイソシアネートと、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
プライマー層形成用ポリマー組成物から形成されたプライマー層と、
フォトクロミック化合物を含むフォトクロミック層と、
をこの順に有し、
前記プライマー層形成用ポリマー組成物は、
ヒドロキシ基および(メタ)アクリロイル基を有するポリマーと、
ブロックイソシアネートと、
を含む、フォトクロミック物品。
【請求項2】
前記ポリマーは、(メタ)アクリルポリマーである、請求項1に記載のフォトクロミック物品。
【請求項3】
前記フォトクロミック層は、フォトクロミック化合物を含む(メタ)アクリレート系重合性組成物を硬化した硬化層である、請求項1に記載のフォトクロミック物品。
【請求項4】
前記フォトクロミック層は、フォトクロミック化合物を含む(メタ)アクリレート系重合性組成物を硬化した硬化層である、請求項2に記載のフォトクロミック物品。
【請求項5】
眼鏡レンズ、ゴーグル用レンズ、サンバイザーのバイザー部分またはヘルメットのシールド部材である、請求項1~4のいずれか1項に記載のフォトクロミック物品。
【請求項6】
眼鏡レンズである、請求項5に記載のフォトクロミック物品。
【請求項7】
請求項6に記載の眼鏡レンズを備えた眼鏡。
【請求項8】
基材上にプライマー層形成用ポリマー組成物を塗布してプライマー層を形成すること、
形成されたプライマー層上にフォトクロミック化合物を含むフォトクロミック層を形成すること、
を含み、
前記プライマー層形成用ポリマー組成物は、
ヒドロキシ基および(メタ)アクリロイル基を有するポリマーと、
ブロックイソシアネートと、
を含み、
前記フォトクロミック層を形成して得られた積層体を熱処理すること、
を更に含む、フォトクロミック物品の製造方法。
【請求項9】
前記ポリマーは、(メタ)アクリルポリマーである、請求項8に記載のフォトクロミック物品の製造方法。
【請求項10】
前記フォトクロミック層を、フォトクロミック化合物を含む(メタ)アクリレート系重合性組成物を硬化することによって形成することを含む、請求項8に記載のフォトクロミック物品の製造方法。
【請求項11】
前記フォトクロミック層を、フォトクロミック化合物を含む(メタ)アクリレート系重合性組成物を硬化することによって形成することを含む、請求項9に記載のフォトクロミック物品の製造方法。
【請求項12】
前記フォトクロミック物品は、眼鏡レンズ、ゴーグル用レンズ、サンバイザーのバイザー部分またはヘルメットのシールド部材である、請求項8~11のいずれか1項に記載のフォトクロミック物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトクロミック物品、眼鏡およびフォトクロミック物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトクロミック化合物は、光応答性を有する波長域の光の照射下で発色し、非照射下では退色する性質(フォトクロミック性)を有する化合物である。以下では、フォトクロミック化合物を含む物品を、フォトクロミック物品と呼ぶ。例えば特許文献1には、フォトクロミック化合物を含む層(フォトクロミック層)を基材上に設けた光学物品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、フォトクロミック物品の性能向上を目指し、フォトクロミック層と基材との密着性を高めるために検討を重ねた。
【0005】
即ち、本発明の一態様は、フォトクロミック層と基材との密着性に優れるフォトクロミック物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、ヒドロキシ基および(メタ)アクリロイル基を有するポリマーと、ブロックイソシアネートと、を含むプライマー層形成用ポリマー組成物から形成されたプライマー層をフォトクロミック層と基材との間に設けることによって、フォトクロミック層と基材との密着性に優れるフォトクロミック物品の提供が可能になることを新たに見出した。
ところで、フォトクロミック層と基材との密着性向上のために、特許文献1(特許第4405833号明細書)には、基材とフォトクロミック層との間に湿気硬化性ポリウレタン樹脂から形成されたポリウレタン樹脂層を設けることが提案されている。しかし、湿気硬化性ポリウレタン樹脂は、空気中の水分と反応して硬化するため、保存中に空気中の水分との反応が生じることで液粘度が上昇し易い傾向がある。これに対し、上記プライマー層形成用ポリマー組成物は、保存中の粘度上昇の抑制が可能であるため保存後に優れた塗布性を示すことができることも判明した。これは、上記プライマー層形成用ポリマー組成物に含まれるイソシアネートが、イソシアネート基がブロック剤によって保護されたブロックイソシアネートであるため、上記ポリマーが有するヒドロキシ基とイソシアネート基との保存中の反応を抑制できることによるものと推察される。ただし、本明細書に記載の推察に本発明は限定されない。
【0007】
本発明の一態様は、以下の通りである。
[1]基材と、
プライマー層形成用ポリマー組成物から形成されたプライマー層と、
フォトクロミック化合物を含むフォトクロミック層と、
をこの順に有し、
上記プライマー層形成用ポリマー組成物は、
ヒドロキシ基および(メタ)アクリロイル基を有するポリマーと、
ブロックイソシアネートと、
を含む、フォトクロミック物品。
[2]上記ポリマーは、(メタ)アクリルポリマーである、[1]に記載のフォトクロミック物品。
[3]上記フォトクロミック層は、フォトクロミック化合物を含む(メタ)アクリレート系重合性組成物を硬化した硬化層である、[1]に記載のフォトクロミック物品。
[4]上記フォトクロミック層は、フォトクロミック化合物を含む(メタ)アクリレート系重合性組成物を硬化した硬化層である、[2]に記載のフォトクロミック物品。
[5]眼鏡レンズ、ゴーグル用レンズ、サンバイザーのバイザー部分またはヘルメットのシールド部材である、[1]~[4]のいずれかに記載のフォトクロミック物品。
[6]眼鏡レンズである、[5]に記載のフォトクロミック物品。
[7][6]に記載の眼鏡レンズを備えた眼鏡。
[8]基材上にプライマー層形成用ポリマー組成物を塗布してプライマー層を形成すること、
形成されたプライマー層上にフォトクロミック化合物を含むフォトクロミック層を形成すること、
を含み、
上記プライマー層形成用ポリマー組成物は、
ヒドロキシ基および(メタ)アクリロイル基を有するポリマーと、
ブロックイソシアネートと、
を含み、
上記フォトクロミック層を形成して得られた積層体を熱処理すること、
を更に含む、フォトクロミック物品の製造方法。
[9]上記ポリマーは、(メタ)アクリルポリマーである、[8]に記載のフォトクロミック物品の製造方法。
[10]上記フォトクロミック層を、フォトクロミック化合物を含む(メタ)アクリレート系重合性組成物を硬化することによって形成することを含む、[8]に記載のフォトクロミック物品の製造方法。
[11]上記フォトクロミック層を、フォトクロミック化合物を含む(メタ)アクリレート系重合性組成物を硬化することによって形成することを含む、[9]に記載のフォトクロミック物品の製造方法。
[12]上記フォトクロミック物品は、眼鏡レンズ、ゴーグル用レンズ、サンバイザーのバイザー部分またはヘルメットのシールド部材である、[8]~[11]のいずれかに記載のフォトクロミック物品の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、フォトクロミック層と基材との密着性に優れるフォトクロミック物品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[フォトクロミック物品]
以下に、本発明の一態様にかかるフォトクロミック物品について、更に詳細に説明する。
【0010】
上記フォトクロミック物品は、基材と、プライマー層と、フォトクロミック層と、をこの順に有する。一形態では、プライマー層は、フォトクロミック層と隣接する層であることができ、基材または基材上に設けられた層と隣接する層であることができる。ここで「隣接」とは、他の層を介さずに直接接していることをいうものとする。
【0011】
<基材>
上記フォトクロミック物品は、物品の種類に応じて選択した基材上にフォトクロミック層を有することができる。基材の一例として、眼鏡レンズ基材は、プラスチックレンズ基材またはガラスレンズ基材であることができる。ガラスレンズ基材は、例えば無機ガラス製のレンズ基材であることができる。レンズ基材としては、軽量で割れ難く取扱いが容易であるという観点から、プラスチックレンズ基材が好ましい。プラスチックレンズ基材としては、(メタ)アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR-39)等のアリルカーボネート樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、イソシアネート化合物とジエチレングリコールなどのヒドロキシ化合物との反応で得られたウレタン樹脂、イソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応させたチオウレタン樹脂、分子内に1つ以上のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物を含有する硬化性組成物を硬化した硬化物(一般に透明樹脂と呼ばれる。)を挙げることができる。レンズ基材としては、染色されていないもの(無色レンズ)を用いてもよく、染色されているもの(染色レンズ)を用いてもよい。レンズ基材の屈折率は、例えば、1.50~1.75程度であることができる。ただしレンズ基材の屈折率は、上記範囲に限定されるものではなく、上記の範囲内でも、上記の範囲から上下に離れていてもよい。本発明および本明細書において、屈折率とは、波長500nmの光に対する屈折率をいうものとする。また、レンズ基材は、屈折力を有するレンズ(いわゆる度付レンズ)であってもよく、屈折力なしのレンズ(いわゆる度なしレンズ)であってもよい。
【0012】
眼鏡レンズは、単焦点レンズ、多焦点レンズ、累進屈折力レンズ等の各種レンズであることができる。レンズの種類は、レンズ基材の両面の面形状により決定される。また、レンズ基材表面は、凸面、凹面、平面のいずれであってもよい。通常のレンズ基材および眼鏡レンズでは、物体側表面は凸面、眼球側表面は凹面である。ただし、本発明は、これに限定されるものではない。フォトクロミック層は、通常、レンズ基材の物体側表面上に設けることができるが、眼球側表面上に設けてもよい。
【0013】
<プライマー層>
上記プライマー層は、ヒドロキシ基および(メタ)アクリロイル基を有するポリマーと、ブロックイソシアネートと、を含むプライマー層形成用ポリマー組成物から形成されたプライマー層である。
【0014】
(ポリマー)
本発明および本明細書において、「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基とメタクリロイル基とを包含する意味で用いられ、「(メタ)アクリロイルオキシ基」とは、アクリロイルオキシ基とメタクリロイルオキシ基とを包含する意味で用いられる。上記ポリマーにおいて、アクリロイル基はアクリロイルオキシ基の形態で含まれていてもよく、メタクリロイル基はメタクリロイルオキシ基の形態で含まれていてもよい。この点は、後述する(メタ)アクリレートについても当てはまる。
【0015】
本発明および本明細書における「ポリマー」は、単独重合体であってもよく、共重合体であってもよい。
【0016】
上記ポリマーは、ポリマーの側鎖にヒドロキシ基および(メタ)アクリロイル基を含むことができる。本発明者らは、上記ポリマーに含まれるヒドロキシ基は、ブロックイソシアネートのブロック剤を解離させて再生させたイソシアネート基とともに基材とプライマー層との間に結合を形成することに寄与し、上記ポリマーに含まれる(メタ)アクリロイル基はフォトクロミック層とプライマー層との間に結合を形成することに寄与すると推察している。これらの結合形成によって、フォトクロミック層と基材との密着性を高めることができると考えられる。
【0017】
上記ポリマーの主骨格は特に限定されるものではない。一形態では、上記ポリマーは、(メタ)アクリルポリマーであることができる。本発明および本明細書において、「(メタ)アクリルポリマー」とは、(メタ)アクリレートの単独重合体または共重合体をいうものとする。「(メタ)アクリレート」の詳細については後述する。
【0018】
ヒドロキシ基および(メタ)アクリロイル基を有するポリマーとしては、公知の方法で合成されたポリマーを使用することができ、市販品を使用することもできる。市販品の一例としては、ケーエスエム社製反応性ポリマー(RP-274S)を挙げることができる。
【0019】
(ブロックイソシアネート)
ブロックイソシアネート(blocked isocyanate)とは、イソシアネート基がブロック剤で保護されたイソシアネートである。ブロック剤によってイソシアネート基の反応が抑制され、熱処理によってブロック剤が解離するとイソシアネート基が再生され、再生されたイソシアネート基は活性水素含有基(例えばヒドロキシ基)と架橋反応することができる。
【0020】
ブロックイソシアネートとしては、ジイソシアネート、トリイソシアネート等のポリイソシアネートのブロックイソシアネートを挙げることができる。イソシアネートの種類としては、アダクト型、ビューレット型およびイソシアヌレート型が挙げられ、ビューレット型およびイソシアヌレート型が好ましい。基材の変形、変質等が生じ難い温度で解離可能なブロック剤が好ましく、この点から好ましいブロック剤としては、ジエチルアロマート(DEM)、ジメチルピラゾール(DMP)等を挙げることができる。イソシアネートに含まれる複数のイソシアネート基が異なるブロック剤によって保護されていてもよい。例えば、ブロック剤としてDEMおよびDMPが含まれるブロックイソシアネートを用いることもできる。
【0021】
(プライマー層形成用ポリマー組成物の調製)
プライマー層形成用ポリマー組成物において、上記ポリマーとブロックイソシアネートとの合計100質量%に対するブロックイソシアネートの含有率は、例えば、30.0質量%以上60.0質量%以下であることができる。
上記ポリマーとブロックイソシアネートとの合計100質量%に対する上記ポリマーの含有率は、例えば、30.0質量%以上、40.0質量%以上または50.0質量%以上であることができる。また、上記ポリマーの含有率は、例えば、90.0質量%以下、80.0質量%以下、70.0質量%以下または60.0質量%以下であることができる。
プライマー層形成用ポリマー組成物は、上記ポリマーを1種または2種以上含むことができ、ブロックイソシアネートを1種または2種以上含むことができる。本発明および本明細書において、ある成分が2種以上含まれる場合、その成分の含有率とは、それら2種以上の合計含有率をいうものとする。
【0022】
上記プライマー層形成用ポリマー組成物は、上記ポリマーが有する(メタ)アクリロイル基に対して重合開始剤として機能することができる公知の重合開始剤の1種または2種以上を含むことができる。上記プライマー層形成用ポリマー組成物は、固形分全量を100質量%として、例えば0.01~3.0質量%の範囲の含有率で重合開始剤を含むことができる。本発明および本明細書において、ある組成物について「固形分全量」とは、溶剤を除く全成分の合計量をいうものとする。
【0023】
重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤が好ましい。また、重合開始剤としては、光重合開始剤または熱重合開始剤を使用することができ、短時間で重合反応を進行させる観点から光重合開始剤が好ましい。光ラジカル重合開始剤としては、例えば2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン等のベンゾインケタール;1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン等のα-ヒドロキシケトン;2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、1,2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン等のα-アミノケトン;1-[(4-フェニルチオ)フェニル]-1,2-オクタジオン-2-(ベンゾイル)オキシム等のオキシムエステル;ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等のホスフィンオキシド;2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジ(メトキシフェニル)イミダゾール二量体、2-(o-フルオロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(o-メトキシフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(p-メトキシフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体等の2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体;ベンゾフェノン、N,N’-テトラメチル-4,4’-ジアミノベンゾフェノン、N,N’-テトラエチル-4,4’-ジアミノベンゾフェノン、4-メトキシ-4’-ジメチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン化合物;2-エチルアントラキノン、フェナントレンキノン、2-tert-ブチルアントラキノン、オクタメチルアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、2,3-ベンズアントラキノン、2-フェニルアントラキノン、2,3-ジフェニルアントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-メチルアントラキノン、1,4-ナフトキノン、9,10-フェナントラキノン、2-メチル-1,4-ナフトキノン、2,3-ジメチルアントラキノン等のキノン化合物;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル等のベンゾインエーテル;ベンゾイン、メチルベンゾイン、エチルベンゾイン等のベンゾイン化合物;ベンジルジメチルケタール等のベンジル化合物;9-フェニルアクリジン、1,7-ビス(9、9’-アクリジニルヘプタン)等のアクリジン化合物:N-フェニルグリシン、クマリン等が挙げられる。また、2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体において、2つのトリアリールイミダゾール部位のアリール基の置換基は、同一で対称な化合物を与えてもよく、相違して非対称な化合物を与えてもよい。また、ジエチルチオキサントンとジメチルアミノ安息香酸の組み合わせのように、チオキサントン化合物と3級アミンとを組み合わせてもよい。これらの中で、硬化性、透明性および耐熱性の観点から、α-ヒドロキシケトンおよびホスフィンオキシドが好ましい。
【0024】
プライマー層形成用ポリマー組成物は、イソシアネート基の架橋反応を触媒する触媒を含むことができる。上記触媒の含有率は、固形分全量を100質量%として、例えば0.1~15.0質量%の範囲であることができる。上記触媒としては、例えばジブチル錫ジラウレート、ジブチルチオンオクテート、ジメチルシクロヘキシルアミン、ジメチルベンジルアミン、トリオクチルアミン、ビス((2-モルホリノエチル)エーテル)等が挙げられる。
【0025】
プライマー層形成用ポリマー組成物は、任意の溶剤を任意の量で含むことができる。
【0026】
プライマー層形成用ポリマー組成物は、更に、プライマー層形成のための組成物に通常添加され得る公知の添加剤を任意の量で含むことができる。添加剤としては、公知の化合物を使用することができる。
【0027】
以上説明した各種成分を同時または任意の順序で順次混合することによって、プライマー層形成用ポリマー組成物を調製することができる。
【0028】
上記プライマー層形成用ポリマー組成物を基材に塗布し、塗布された組成物に乾燥処理を施し溶剤の一部または全部を除去することによって、プライマー層を基材上に形成することができる。乾燥処理は、溶剤の一部または全部が除去できるように行えばよい。例えば、室温での風乾等によって乾燥処理を行うことができる。本明細書に記載の「室温」とは、20~25℃の範囲の温度である。塗布前の基材表面には、基材表面の清浄化等のために、アルカリ処理、UVオゾン処理等の公知の前処理の1つ以上を任意に施すことができる。また、プライマー層が塗布される基材表面には、ハードコート層の他の層が形成されていてもよい。塗布方法としては、スピンコート法、ディップコート法等の公知の塗布方法を採用することができ、塗布の均一性の観点からはスピンコート法が好ましい。
【0029】
プライマー層に含まれる上記ポリマーが有する(メタ)アクリロイル基を反応させるための硬化処理およびブロックイソシアネートのブロック剤を解離させるための熱処理については後述する。
【0030】
プライマー層の厚さは、例えば3μm以上であることができ、4μm以上であることが好ましい。また、プライマー層の厚さは、例えば15μm以下であることができ、10μm以下であることが好ましい。
【0031】
<フォトクロミック層>
<<重合性化合物>>
上記フォトクロミック物品は、上記プライマー層上にフォトクロミック化合物を含むフォトクロミック層を有する。上記フォトクロミック層は、フォトクロミック層形成用重合性組成物を硬化した硬化層であることができる。フォトクロミック層形成用重合性組成物は、例えば、(メタ)アクリレート系重合性組成物であることができる。本発明および本明細書において、「(メタ)アクリレート系重合性組成物」とは、(メタ)アクリレートを含む重合性組成物をいうものとする。「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートとを包含する意味で用いられる。「アクリレート」とは、1分子中にアクリロイル基を1つ以上有する化合物である。「メタクリレート」とは、1分子中にメタクリロイル基を1つ以上有する化合物である。(メタ)アクリレートについて、官能数は、1分子中に含まれるアクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選ばれる基の数である。本発明および本明細書では、「メタクリレート」とは、(メタ)アクリロイル基としてメタクリロイル基のみを含むものをいうものとし、(メタ)アクリロイル基としてアクリロイル基とメタクリロイル基の両方を含むものはアクリレートと呼ぶ。また、特記しない限り、記載されている基は置換基を有してもよく無置換であってもよい。ある基が置換基を有する場合、置換基としては、アルキル基(例えば炭素数1~6のアルキル基)、ヒドロキシ基、アルコキシ基(例えば炭素数1~6のアルコキシ基)、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子)、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、アシル基、カルボキシ基、アリール基、ポリエーテル基等を挙げることができる。また、置換基を有する基について「炭素数」とは、置換基を含まない部分の炭素数を意味するものとする。
【0032】
以下に、フォトクロミック層形成用重合性組成物の一形態である(メタ)アクリレート系重合性組成物について説明する。ただし、以下の形態は例示であって、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0033】
フォトクロミック層形成用重合性組成物は、一形態では、下記成分A、下記成分Bおよび下記成分Cからなる群から選ばれる1種以上の重合性化合物を含む(メタ)アクリレート系重合性組成物であることができる。
【0034】
(成分A)
成分Aは、ポリアルキレングリコール部位を含有する分子量500以上の多官能(メタ)アクリレートである。本発明および本明細書において、「ポリアルキレングリコール部位」とは、下記式2:
【化1】
で表される部分構造をいうものとする。式2中、Rはアルキレン基を表し、nはROで表されるアルコキシ基の繰り返し数を示し、2以上である。*は、式2で表される部分構造が隣り合う原子と結合する結合位置を示す。Rで表されるアルキレン基の炭素数は、1以上もしくは2以上であることができ、また、例えば5以下もしくは4以下であることができる。Rで表されるアルキレン基の具体例としては、エチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基等が挙げられる。nは、2以上であり、例えば30以下、25以下または20以下であることができる。一形態では、成分Aは、Rがエチレン基を表す上記部分構造、即ちポリエチレングリコール部位を有することができる。また、一形態では、成分A
は、Rがプロピレン基を表す上記部分構造、即ちポリプロピレングリコール部位を有することができる。
【0035】
成分Aの分子量は、500以上である。本発明および本明細書において、多量体についての分子量は、化合物の構造解析により決定された構造式または製造する際の原料仕込み比から算出した理論分子量を採用するものとする。成分Aの分子量は、500以上であり、510以上であることが好ましく、520以上であることがより好ましく、550以上であることが好ましく、570以上であることがより好ましく、600以上であることが更に好ましく、630以上であることが一層好ましく、650以上であることがより一層好ましい。成分Aの分子量は、フォトクロミック層の高硬度化の観点からは、例えば2000以下、1500以下、1200以下、1000以下、または800以下であることが好ましい。
【0036】
成分Aは、多官能(メタ)アクリレートであって、例えば、2官能、3官能、4官能または5官能(メタ)アクリレートであることができ、2官能または3官能(メタ)アクリレートであることが好ましい。成分Aは、(メタ)アクリロイル基として、アクリロイル基のみを含んでもよく、メタクリロイル基のみを含んでもよく、アクリロイル基およびメタクリロイル基を含んでもよい。即ち、成分Aは、アクリレートまたはメタクリレートであることができる。
【0037】
一形態では、成分Aは、非環状の多官能(メタ)アクリレートであることができる。本発明および本明細書において、「非環状」とは、環状構造を含まないことを意味する。これに対し、「環状」とは、環状構造を含むことを意味する。非環状の多官能(メタ)アクリレートとは、環状構造を含まない2官能以上の(メタ)アクリレートをいうものとする。かかる成分Aの具体例としては、下記式3で表されるポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートを挙げることができる。
【0038】
【0039】
式3中、R1およびR2は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、Rはアルキレン基を表し、nはROで表されるアルコキシ基の繰り返し数を示し、2以上である。Rおよびnについては、式2で表される部分構造について先に記載した通りである。式3で表されるポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイル基として、アクリロイル基のみを含んでもよく、メタクリロイル基のみを含んでもよく、アクリロイル基およびメタクリロイル基を含んでもよい。式3で表されるポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートの具体例としては、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0040】
また、成分Aの具体例としては、下記式4で表されるトリ(メタ)アクリレートを挙げることもできる。式4で表されるトリ(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイル基として、アクリロイル基のみを含んでもよく、メタクリロイル基のみを含んでもよく、アクリロイル基およびメタクリロイル基を含んでもよい。
【0041】
【0042】
式4中、R40、R41、R44、R45、R47およびR48は、それぞれ独立にアルキレン基を表し、R43はアルキル基を表し、R42、R46およびR49は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を表す。n1は、OR41で表されるアルコキシ基の繰り返し数を示し、2以上である。n2は、OR45で表されるアルコキシ基の繰り返し数を示し、2以上である。n3は、OR48で表されるアルコキシ基の繰り返し数を示し、2以上である。
【0043】
以下、式4について更に詳細に説明する。
【0044】
式4中のR41、R45およびR48については、式2中のRについて先に記載した通りである。式4中のn1、n2およびn3については、式2中のnについて先に記載した通りである。式4中、R41、R45およびR48は、同一であってもよく、2つまたは3つが異なってもよい。この点は、n1、n2およびn3についても同様である。
【0045】
R42、R46およびR49は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を表す。式4で表されるトリ(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイル基として、アクリロイル基のみを含んでもよく、メタクリロイル基のみを含んでもよく、アクリロイル基およびメタクリロイル基を含んでもよい。
【0046】
R43で表されるアルキル基の炭素数は、1以上もしくは2以上であることができ、また、例えば5以下もしくは4以下であることができる。R43で表されるアルキル基は、直鎖アルキル基または分岐アルキル基であることができる。R43で表されるアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基等が挙げられる。
【0047】
R40、R44およびR47は、それぞれ独立にアルキレン基を表す。かかるアルキレン基の炭素数は、1以上もしくは2以上であることができ、また、例えば5以下もしくは4以下であることができる。その具体例としては、エチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基等が挙げられる。
【0048】
式4で表されるトリ(メタ)アクリレートの具体例としては、トリメチロールプロパンポリオキシエチレンエーテルトリ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0049】
単官能(メタ)アクリレート
(メタ)アクリレートを含む重合性組成物の(メタ)アクリロイル基含有量を高める観点からは、分子中に占める(メタ)アクリロイル基の割合が高い(メタ)アクリレートが好ましい。この点からは、低分子量の単官能(メタ)アクリレートが好ましく、分子量150以下の単官能(メタ)アクリレートがより好ましい。分子量150以下の単官能(メタ)アクリレートは、環状の単官能(メタ)アクリレートでもよく、非環状の単官能(メタ)アクリレートでもよい。分子量150以下の環状の単官能(メタ)アクリレートの具体例としては、グリシジル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。分子量150以下の非環状の単官能(メタ)アクリレートの具体例としては、n-ブチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。分子量150以下の単官能(メタ)アクリレートの分子量は、例えば100以上であることができるが、これに限定されるものではない。
【0050】
多官能(メタ)アクリレート
先に記載したように、(メタ)アクリレートを含む重合性組成物の(メタ)アクリロイル基含有量を高める観点からは、分子中に占める(メタ)アクリロイル基の割合が高い(メタ)アクリレートが好ましい。この点からは、成分Aより分子量が小さい多官能(メタ)アクリレートも好ましい。かかる多官能(メタ)アクリレートとしては、成分Aとして使用される多官能(メタ)アクリレートより官能数が大きい多官能(メタ)アクリレートも好ましい。かかる多官能(メタ)アクリレートの分子量は、500未満、400以下、300以下または200以下であることが好ましい。その分子量は、例えば100以上であることができるが、これに限定されるものではない。また、かかる多官能(メタ)アクリレートは、例えば10官能以上(例えば10官能以上15官能以下)の多官能(メタ)アクリレートであることができる。具体例としては、後述の実施例の欄に記載のポリ[(3-メタクリロイルオキシプロピル)シルセスキオキサン]誘導体等を挙げることができる。
【0051】
フォトクロミック層形成用重合性組成物である(メタ)アクリレート系重合性組成物に含まれ得る(メタ)アクリレートとしては、下記式1で表される単官能(メタ)アクリレート(以下、「成分B」とも記載する。)および下記式5で表される2官能(メタ)アクリレート(以下、「成分C」とも記載する。)を挙げることもできる。一形態では、上記(メタ)アクリレート系重合性組成物は、下記式1で表される単官能(メタ)アクリレートおよび下記式5で表される2官能(メタ)アクリレートからなる群から選択される1種以上の(メタ)アクリレートを含む重合性組成物であることができる。他の一形態では、上記(メタ)アクリレート系重合性組成物は、下記式1で表される単官能(メタ)アクリレートおよび下記式5で表される2官能(メタ)アクリレートからなる群から選択される1種以上の(メタ)アクリレートを含まない重合性組成物であることができる。一形態では、上記(メタ)アクリレート系重合性組成物は、分子量150以下の単官能(メタ)アクリレートとして、成分Bを含むこともできる。
【0052】
(成分B)
成分Bは、下記式1で表される単官能(メタ)アクリレートである。
【0053】
【0054】
以下、式1について更に詳細に説明する。
【0055】
式1中、R10は水素原子またはメチル基を表す。式1で表される単官能(メタ)アクリレートは、アクリレートであってもよく、メタクリレートであってもよい。
【0056】
R11は、炭素数3以上の直鎖アルキル基または炭素数3以上の分岐アルキル基を表す。これらアルキル基は、無置換であってもよく置換基を有していてもよい。置換基は特に限定されず、例えば先に記載した各種置換基を挙げることができる。R11で表される直鎖または分岐のアルキル基の炭素数は、3以上であり、4以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、11以上の順に更に好ましい。一方、上記組成物中のフォトクロミック化合物の溶解性の観点からは、上記炭素数は、15以下であることが好ましく、14以下であることがより好ましく、13以下、12以下の順に更に好ましい。
【0057】
式1で表される単官能(メタ)アクリレートの分子量は、例えば100以上であることができ、また、例えば300以下であることができる。ただし、上記範囲に限定されるものではない。先に記載したように、一形態では、式1で表される単官能(メタ)アクリレートが、分子量150以下の単官能(メタ)アクリレートであることができる。式1で表される単官能(メタ)アクリレートの具体例としては、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n-ラウリル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0058】
(成分C)
成分Cは、下記式5:
【化5】
で表される(メタ)アクリレートである。
【0059】
式5中、R3およびR4は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、mは1以上の整数を表す。mは、1以上であって、例えば、10以下、9以下、8以下、7以下または6以下であることができる。
【0060】
成分Cの分子量は、例えば400以下であることができ、フォトクロミック層の着色濃度をより高める観点からは、350以下であることが好ましく、300以下であることがより好ましく、250以下であることが更に好ましい。また、成分Cの分子量は、例えば、100以上、150以上または200以上であることができる。
【0061】
成分Cは、(メタ)アクリロイル基として、アクリロイル基のみを含んでもよく、メタクリロイル基のみを含んでもよく、アクリロイル基およびメタクリロイル基を含んでもよい。成分Cの具体例としては、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0062】
上記(メタ)アクリレート系重合性組成物において、成分Aの含有率は、組成物に含まれる重合性化合物の全量を100質量%として、50質量%以上であることが好ましく、55質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが更に好ましい。成分Aは、一形態では、組成物に含まれる複数の重合性化合物の中で、最も多くを占める成分であることができる。また、成分Aの含有率は、組成物に含まれる重合性化合物の全量を100質量%として、90質量%以下、85質量%以下または80質量%以下であることができる。上記組成物は、成分Aを、一形態では1種のみ含むことができ、他の一形態では2種以上含むことができる。2種以上の成分Aが含まれる場合、上記の成分Aの含有率は、2種以上の合計含有率である。この点は、本発明および本明細書において、他の成分に関する含有率についても同様である。
【0063】
上記(メタ)アクリレート系重合性組成物は、上記の各種(メタ)アクリレートを、例えば、組成物の(メタ)アクリロイル基含有量が3.50mmol/g以上になる量で含むことができる。例えば、上記(メタ)アクリレート系重合性組成物は、分子量150以下の単官能(メタ)アクリレートを、組成物に含まれる重合性化合物の全量を100質量%として、5質量%以上含むことが好ましく、10質量%以上含むことがより好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。また、分子量150以下の単官能(メタ)アクリレートの含有率は、組成物に含まれる重合性化合物の全量を100質量%として、30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましい。
【0064】
上記(メタ)アクリレート系重合性組成物の(メタ)アクリロイル基含有量は、フォト層の耐候性向上の観点から、3.50mmol/g以上であることが好ましく、3.55mmol/g以上であることがより好ましく、3.60mmol/g以上であることが更に好ましく、3.65mmol/g以上であることが一層好ましく、3.70mmol/g以上であることがより一層好ましく、3.75mmol/g以上であることが更により一層好ましい。上記(メタ)アクリレート系重合性組成物の(メタ)アクリロイル基含有量は、例えば、5.00mmol/g以下、4.50mmol/g以下もしくは4.00mmol/g以下であることができ、または、ここに例示した値を上回ってもよい。
【0065】
(メタ)アクリレートを含む重合性組成物の「(メタ)アクリロイル基含有量」は、以下のように算出するものとする。
質量基準で、重合性組成物に含まれる(メタ)アクリレートの合計量を「1」として、各(メタ)アクリレートの含有率を算出する。
各(メタ)アクリレートについて、「(メタ)アクリロイル基含有量×上記含有率」を求める。こうして重合性組成物に含まれるすべての(メタ)アクリレートについて算出された値の合計を、その重合性組成物の(メタ)アクリロイル基含有量とする。
【0066】
フォトクロミック層に含まれるフォトクロミック化合物は、一例として、太陽光等の光の照射を受けて励起状態を経て、構造変化する。光照射を経て構造変化した後の構造を「着色体」と呼ぶことができる。これに対し、光照射前の構造を「無色体」と呼ぶことができる。なお、無色体について「無色」とは、完全な無色に限定されるものではなく、着色体に対して色が薄い場合が包含される。光照射により着色体に構造変化して着色した後、着色体から無色体への構造変化の速度が速いほど、退色速度は速くなる。フォトクロミック層において、重合性化合物の重合反応によって形成されたマトリックス中でフォトクロミック化合物が分子運動し易いほど、上記構造変化の速度は速くなると考えられる。かかる速度を速くする観点からは、柔軟なマトリックスが望ましいと考えられる。以上の点に関して、成分Aはマトリックスを柔軟にすることに寄与できると推察される。詳しくは、成分Aの分子量が500以上であることと、成分Aがポリアルキレングリコール部位を有することが、成分Aによって柔軟なマトリックスを形成可能な理由と考えられる。
また、上記(メタ)アクリレート系重合性組成物における(メタ)アクリロイル基含有量が3.50mmol/g以上であることは、かかる組成物から形成されたマトリックスにおいて、分子間に剛直なポリマーネットワークを形成することに寄与すると考えられる。剛直なポリマーネットワークを有するマトリックス中では、耐候性の低下をもたらし得る活性種の拡散が抑制できることが、上記(メタ)アクリレート系重合性組成物によって耐候性に優れるフォトクロミック層を形成可能な理由と推察される。
【0067】
上記(メタ)アクリレート系重合性組成物における重合性化合物の含有率(複数の重合性化合物が含まれる場合には、それらの合計含有率)は、組成物の全量を100質量%として、例えば80質量%以上、85質量%以上または90質量%以上であることができる。また、上記(メタ)アクリレート系重合性組成物における重合性化合物の含有率は、組成物の全量を100質量%として、例えば、99質量%以下、95質量%以下、90質量%以下または85質量%以下であることができる。上記(メタ)アクリレート系重合性組成物は、溶剤を含んでもよく、含まなくてもよい。溶剤を含む場合、使用可能な溶剤としては、重合性組成物の重合反応の進行を阻害しないものであれば、任意の溶剤を任意の量で使用することができる。
【0068】
<<フォトクロミック化合物>>
上記組成物は、上記重合性化合物とともにフォトクロミック化合物を含む。上記組成物に含まれるフォトクロミック化合物としては、フォトクロミック性を示す公知の化合物を使用することができる。フォトクロミック化合物は、例えば紫外線に対してフォトクロミック性を示すことができる。例えば、フォトクロミック化合物としては、アゾベンゼン類、スピロピラン類、スピロオキサジン類、ナフトピラン類、インデノナフトピラン類、フェナントロピラン類、ヘキサアリルビスイミダゾール類、ドナー-アクセプターステンハウス付加物(DASA)類、サリシリデンアニリン類、ジヒドロピレン類、アントラセンダイマー類、フルギド類、ジアリールエテン類、フェノキシナフタセンキノン類、スチルベン類等のフォトクロミック性を示す公知の骨格を有する化合物を例示できる。好ましいフォトクロミック化合物としては、フルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、クロメン化合物、インデノ縮合ナフトピラン化合物等を例示できる。また、フォトクロミック化合物としては、WO2022/138966に記載されている一般式Aで表されるフォトクロミック化合物、一般式Bで表されるフォトクロミック化合物及び一般式Cで表されるフォトクロミック化合物からなる群から選ばれる1種以上を挙げることもできる。フォトクロミック化合物は、1種単独で使用することができ、2種以上を混合して使用することもできる。上記組成物のフォトクロミック化合物の含有率は、組成物の全量を100質量%として、例えば0.1~15質量%程度とすることができるが、この範囲に限定されるものではない。
【0069】
<<他の成分>>
フォトクロミック層形成用重合性組成物は、重合性化合物およびフォトクロミック化合物に加えて、重合性組成物に通常含まれ得る各種添加剤の1種以上を任意の含有率で含むことができる。フォトクロミック層形成用重合性組成物に含まれ得る添加剤としては、例えば、重合反応を進行させるための重合開始剤を挙げることができる。重合開始剤については、先の記載を参照できる。重合開始剤の含有率は、組成物の全量を100質量%として、例えば0.1~5.0質量%の範囲であることができる。
【0070】
フォトクロミック層形成用重合性組成物には、更に、フォトクロミック化合物を含む組成物に通常添加され得る公知の添加剤、例えば、界面活性剤、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、光安定化剤、紫外線吸収剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤、シランカップリング剤等の添加剤を任意の量で添加できる。これら添加剤としては、公知の化合物を使用することができる。
【0071】
フォトクロミック層形成用重合性組成物は、以上説明した各種成分を同時または任意の順序で順次混合して調製することができる。
【0072】
フォトクロミック層は、プライマー層上にフォトクロミック層形成用重合性組成物を塗布し、塗布された組成物に硬化処理を施すことによって形成することができる。塗布方法については、先の記載を参照できる。硬化処理は、光照射および/または加熱処理であることができ、短時間で硬化反応を進行させる観点からは光照射が好ましい。硬化処理条件は、フォトクロミック層形成用重合性組成物に含まれる各種成分(先に記載した重合性化合物、重合開始剤等)の種類および上記組成物の組成に応じて決定すればよい。こうして形成されるフォトクロミック層の厚さは、例えば5~80μmの範囲であることが好ましく、20~60μmの範囲であることがより好ましい。ここで行われる硬化処理によって、プライマー層に含まれる上記ポリマーの(メタ)アクリロイル基の反応を進行させることができ、これによりフォトクロミック層とプライマー層との間に結合を形成することができると推察される。
【0073】
上記のフォトクロミック層を有するフォトクロミック物品は、上記した各種の層に加えて一層以上の機能性層を更に有してもよく、有さなくてもよい。機能性層としては、耐久性向上のための保護層、ハードコート層、反射防止層、撥水性または親水性の防汚層、防曇層等の光学物品の機能性層として公知の層を挙げることができる。例えば、保護層については、特開2021-107909号公報の段落0009~0021、0026および同公報の実施例の記載等を参照できる。
【0074】
<熱処理>
基材上にプライマー層およびフォトクロミック層が形成された積層体には、上記機能性層の形成前または形成後、熱処理を施すことができる。ここで行われる熱処理によって、ブロックイソシアネートのブロック剤を解離させてイソシアネート基を再生させることができる。再生したイソシアネートは、上記ポリマーのヒドロキシ基とともに基材とプライマー層との間に結合を形成することに寄与することができると推察される。熱処理は、ブロックイソシアネートに含まれるブロック剤の解離温度以上の温度で行えばよい。
【0075】
上記フォトクロミック物品は光学物品であることができ、光学物品の一形態は眼鏡レンズである。また、光学物品の一形態としては、ゴーグル用レンズ、サンバイザーのバイザー(ひさし)部分、ヘルメットのシールド部材等を挙げることもできる。これら光学物品用の基材上にプライマー層を介してフォトクロミック層形成用重合性組成物を塗布し、塗布された組成物に硬化処理を施すことによりフォトクロミック層を形成することによって、防眩機能を有する光学物品を得ることがでる。
【0076】
[眼鏡]
本発明の一態様は、上記フォトクロミック物品の一形態である眼鏡レンズを備えた眼鏡に関する。この眼鏡に含まれる眼鏡レンズの詳細については、先に記載した通りである。上記眼鏡は、かかる眼鏡レンズを備えることにより、例えば屋外ではフォトクロミック層に含まれるフォトクロミック化合物が太陽光の照射を受けて着色すること(coloring)でサングラスのように防眩効果を発揮することができ、屋内に戻るとフォトクロミック化合物が退色することで透過性を回復することができる。上記眼鏡について、フレーム等の構成については、公知技術を適用することができる。
【0077】
[フォトクロミック物品の製造方法]
本発明の一態様は、
基材上にプライマー層形成用ポリマー組成物を塗布してプライマー層を形成すること、
形成されたプライマー層上にフォトクロミック化合物を含むフォトクロミック層を形成すること、
を含み、
上記プライマー層形成用ポリマー組成物は、
ヒドロキシ基および(メタ)アクリロイル基を有するポリマーと、
ブロックイソシアネートと、
を含み、
上記フォトクロミック層を形成して得られた積層体を熱処理すること、
を更に含む、フォトクロミック物品の製造方法。
に関する。
【0078】
上記製造方法によれば、基材とフォトクロミック層との密着性に優れるフォトクロミック物品を製造することができる。上記製造方法の詳細については、先の記載を参照できる。
【実施例0079】
以下、本発明を実施例により更に説明する。ただし、本発明は実施例に示す実施形態に限定されるものではない。
【0080】
<基材>
後述の各種基材は、以下に記載のプラスチックレンズ基材である。いずれの基材も、物体側表面が凸面であり、眼球側表面が凹面である。基材4(屈折率1.59)は、両面ハードコート層付きの基材であり、後述のプライマー層形成用ポリマー組成物の塗布はハードコート層表面に対して行った。
基材1:屈折率1.50(ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR-39))
基材2:屈折率1.53(ウレア樹脂)
基材3:屈折率1.55(フタル酸ジアリル樹脂)
基材4:屈折率1.59(ポリカーボネート樹脂)
基材5:屈折率1.60(ウレタン樹脂)
基材6:屈折率1.67(チオウレタン樹脂)
【0081】
[実施例1~6]
<眼鏡レンズ(フォトクロミック物品)の作製>
プラスチックレンズ基材を10質量%水酸化ナトリウム水溶液(液温60℃)に5分間浸漬処理した後に純水で洗浄し乾燥させた。その後、プラスチックレンズ基材の凸面(物体側表面)にプライマー層を形成した。
詳しくは、表1に示す各種成分を混合して得られた混合物を十分に撹拌した後、自転公転方式撹拌脱泡装置で脱泡した。こうして得られたプライマー層形成用ポリマー組成物を、1週間室温環境で保管した後、温度25℃相対湿度50%の環境において、表3に示すプラスチックレンズ基材の凸面にスピンコート法により塗布した後、同環境において5分間風乾させてプライマー層を形成した。形成したプライマー層の厚さは4μmであった。1週間保管後のプライマー層形成用ポリマー組成物の粘度は保管前の粘度と同様であった。
上記プライマー層の上に、以下のように調製したフォトクロミック層形成用重合性組成物((メタ)アクリロイル基含有量:3.61mmol/g)をスピンコート法により塗布した。スピンコートは、特開2005-218994号公報に記載の方法により行った。その後、プライマー層上に塗布された上記フォトクロミック層形成用重合性組成物に対して窒素雰囲気中(酸素濃度500ppm以下)で紫外線(波長405nm)を照射し、この組成物を硬化させてフォトクロミック層を形成した。形成されたフォトクロミック層の厚さは40μmであった。
こうして形成したフォトクロミック層上に、特開2021-107909号公報の実施例1に記載の方法で保護層を形成した。形成された保護層の厚さは15μmであった。
その後、基材上にプライマー層、フォトクロミック層および保護層がこの順に形成された積層体を雰囲気温度90℃の加熱炉内で2時間熱処理した。
こうして、基材、プライマー層、フォトクロミック層および保護層をこの順に有する眼鏡レンズを作製した。
【0082】
【0083】
(フォトクロミック層形成用重合性組成物の調製)
プラスチック製容器内で、表2に示す量の表2に示す成分を混合した。
こうして得られた重合性化合物の混合物に、下記フォトクロミック化合物(米国特許第6296785号明細書に記載の構造式で示されるインデノ縮合ナフトピラン化合物)、光ラジカル重合開始剤(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(IGM Resin B.V.社製Omnirad819))、酸化防止剤(ビス[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオン酸][エチレンビス(オキシエチレン)])、光安定化剤(セバシン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル))を混合し十分に撹拌した。その後、自転公転方式撹拌脱泡装置で脱泡した。こうして、フォトクロミック層形成用重合性組成物を調製した。組成物の全量を100質量%とした上記成分の含有率は、上記重合性化合物の混合物は94.9質量%、フォトクロミック化合物は3質量%、光ラジカル重合開始剤は0.3質量%、酸化防止剤は0.9質量%、光安定化剤は0.9質量%である。
【0084】
【0085】
【0086】
[比較例1]
ブロックイソシアネートに代えてイソシアネート基がブロック剤で保護されていないビューレット型トリイソシアネートを使用した点以外、実施例1について記載した方法によってプライマー層形成用ポリマー組成物を調製した。調製したプライマー層形成用ポリマー組成物を1週間室温環境で保管したところ、保管前と比べて粘度が大幅に上昇し、スピンコート法による塗布には使用できなかった。
【0087】
[密着性評価]
実施例1~6について眼鏡レンズをそれぞれ3つ作製した。作製した各眼鏡レンズについて、JIS K5600-5-6:1999にしたがい、クロスカット法によって密着性を評価した。総マス目数100に対する残存マス目数を表3に示す。残存マス目数が99以上であれば、密着性に優れるということができる。表3に示す結果から、実施例1~6の各眼鏡レンズが、基材とフォトクロミック層との密着性に優れることが確認できる。
【0088】
【0089】
本明細書に記載の各種態様および各種形態は、任意の組み合わせで2つ以上を組み合わせることができる。
【0090】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。