(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143169
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ストレッチ成形方法及びストレッチ成形装置
(51)【国際特許分類】
B21D 11/02 20060101AFI20241003BHJP
B21D 25/02 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B21D11/02
B21D25/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055701
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 毅
(72)【発明者】
【氏名】河野 亮
(72)【発明者】
【氏名】菅井 淳史
(72)【発明者】
【氏名】松永 優
(72)【発明者】
【氏名】大河内 真
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 智史
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA11
4E137BA05
4E137BB01
4E137CA12
4E137CA21
4E137FA10
4E137FA24
4E137GA01
(57)【要約】
【課題】作業効率の向上を図りつつ、好適なストレッチ成形を行う。
【解決手段】金属材料からなる長尺のワークの長手方向にストレッチ荷重を付与しながら、前記ワークを金型に沿わせて変形させるストレッチ成形方法において、前記ワークの一部を前記金型に設置させた状態で、前記ストレッチ荷重を付与して前記ワークの前記長手方向におけるたわみを除去する第1のステップと、前記金型に倣って前記ワークを変形させる第2のステップと、前記金型に沿う前記ワークに対して、前記ストレッチ荷重を付与して塑性変形させる第3のステップと、を実行し、前記第1のステップ及び前記第2のステップの少なくとも一方のステップでは、前記ワークに対して、前記金属材料の降伏応力以上の前記ストレッチ荷重を付与する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料からなる長尺のワークの長手方向にストレッチ荷重を付与しながら、前記ワークを金型に沿わせて変形させるストレッチ成形方法において、
前記ワークの一部を前記金型に設置させた状態で、前記ストレッチ荷重を付与して前記ワークの前記長手方向におけるたわみを除去する第1のステップと、
前記金型に倣って前記ワークを変形させる第2のステップと、
前記金型に沿う前記ワークに対して、前記ストレッチ荷重を付与して塑性変形させる第3のステップと、を実行し、
前記第1のステップ及び前記第2のステップの少なくとも一方のステップでは、前記ワークに対して、前記金属材料の降伏応力以上の前記ストレッチ荷重を付与するストレッチ成形方法。
【請求項2】
前記金属材料は、溶体化処理されたアルミニウム合金であり、
前記第1のステップ及び前記第2のステップの少なくとも一方のステップでは、塑性ひずみが1%から2%の間となるような前記ストレッチ荷重を付与する請求項1に記載のストレッチ成形方法。
【請求項3】
前記第1のステップ及び前記第2のステップにおいて、前記金属材料の降伏応力以上の前記ストレッチ荷重を付与する場合、前記第1のステップの前記ストレッチ荷重と、前記第2のステップの前記ストレッチ荷重とは同じ荷重となっている請求項1に記載のストレッチ成形方法。
【請求項4】
ワークを変形させる金型と、
金属材料からなる長尺のワークの長手方向にストレッチ荷重を付与する荷重付与部と、
前記荷重付与部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記荷重付与部を制御して、
前記ワークの一部を前記金型に設置させた状態で、前記ストレッチ荷重を付与して前記ワークの前記長手方向におけるたわみを除去する第1のステップと、
前記金型に倣って前記ワークを変形させる第2のステップと、
前記金型に沿う前記ワークに対して、前記ストレッチ荷重を付与して塑性変形させる第3のステップと、を実行しており、
前記第1のステップ及び前記第2のステップの少なくとも一方のステップでは、前記ワークに対して、前記金属材料の降伏応力以上の前記ストレッチ荷重を付与するストレッチ成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ストレッチ成形方法及びストレッチ成形装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ストレッチ成形として、長尺のワークをストレッチ成形するための金型と、金型に取り外し可能に設置される金型よりも小さい第2金型と、を用いたストレッチ成形が知られている(例えば、特許文献1参照)。このストレッチ成形では、残留応力によって生じるワークの中央部と端部とのひずみ差を低減すべく、ワーク中央部に第2金型を接触させて1段階目のストレッチ成形を行った後、第2金型を取り外して、ワーク全体に金型を接触させて2段階目のストレッチ成形を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のストレッチ成形では、第2金型を用いたり、2段階のストレッチ成形を行ったりする必要があるため、作業が煩雑なものとなってしまう。
【0005】
そこで、本開示は、作業効率の向上を図りつつ、好適なストレッチ成形を行うことができるストレッチ成形方法及びストレッチ成形装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のストレッチ成形方法は、金属材料からなる長尺のワークの長手方向にストレッチ荷重を付与しながら、前記ワークを金型に沿わせて変形させるストレッチ成形方法において、前記ワークの一部を前記金型に設置させた状態で、前記ストレッチ荷重を付与して前記ワークの前記長手方向におけるたわみを除去する第1のステップと、前記金型に倣って前記ワークを変形させる第2のステップと、前記金型に沿う前記ワークに対して、前記ストレッチ荷重を付与して塑性変形させる第3のステップと、を実行し、前記第1のステップ及び前記第2のステップの少なくとも一方のステップでは、前記ワークに対して、前記金属材料の降伏応力以上の前記ストレッチ荷重を付与する。
【0007】
本開示のストレッチ成形装置は、ワークを変形させる金型と、金属材料からなる長尺のワークの長手方向にストレッチ荷重を付与する荷重付与部と、前記荷重付与部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記荷重付与部を制御して、前記ワークの一部を前記金型に設置させた状態で、前記ストレッチ荷重を付与して前記ワークの前記長手方向におけるたわみを除去する第1のステップと、前記金型に倣って前記ワークを変形させる第2のステップと、前記金型に沿う前記ワークに対して、前記ストレッチ荷重を付与して塑性変形させる第3のステップと、を実行しており、前記第1のステップ及び前記第2のステップの少なくとも一方のステップでは、前記ワークに対して、前記金属材料の降伏応力以上の前記ストレッチ荷重を付与する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、作業効率の向上を図りつつ、好適なストレッチ成形を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、第一実施形態に係るストレッチ成形装置及びストレッチ成形方法の説明図である。
【
図2】
図2は、第二実施形態に係るストレッチ成形装置及びストレッチ成形方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本開示に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの開示が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能であり、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせることも可能である。
【0011】
[第一実施形態]
第一実施形態に係るストレッチ成形装置10及びストレッチ成形方法は、金属材料からなる長尺のワークWの長手方向にストレッチ荷重を付与しながら、ワークWを金型15に沿わせて変形させる装置及び方法である。
【0012】
ワークWは、例えば、金属材料として、溶体化処理されたアルミニウム合金が用いられる。なお、ワークWは、ストレッチ成形の対象となる金属材料であれば、何れの材料であってもよい。また、ワークWは、長手方向に長い長尺物となっており、金型15を用いたストレッチ成形により弓形形状に成形される。
【0013】
(ストレッチ成形装置)
次に、
図1を参照して、ストレッチ成形装置10について説明する。ストレッチ成形装置10は、金型15と、荷重付与部16と、制御部17と、を備えている。
【0014】
金型15は、ワークWを弓形形状に成形する型材である。金型15は、その上面が上側に凸の曲面となる弓形の成形面となっている。金型15は、ワークWの成形時において、成形面の頂部に、ワークWの長手方向における中央部が接触する。
【0015】
荷重付与部16は、ワークWの長手方向の両端部を保持して、ワークWの長手方向に引っ張ることで、ストレッチ荷重を付与している。荷重付与部16は、制御部17によって制御されることで、金型15に対してワークWを移動させると共に、ストレッチ荷重を付与することで、ワークWに対する各種処理を実行している。
【0016】
制御部17は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等の集積回路を含んでいる。制御部17は、荷重付与部16を制御して、下記するストレッチ成形方法を実行する。なお、以下の説明では、ワークWとして、溶体化処理されたアルミニウム合金を金属材料として用いている。
【0017】
(ストレッチ成形方法)
次に、
図1を参照して、ストレッチ成形装置10により実行されるストレッチ成形方法について説明する。ストレッチ成形方法では、ワークWのたわみを除去するステップ(第1のステップ)S1と、金型15に倣ってワークWを変形させるステップ(第2のステップ)S2と、ワークWにストレッチ荷重を付与して弓形形状に成形するステップ(第3のステップ)S3と、を実行している。
【0018】
ステップS1は、ワークWに対して事前にストレッチ荷重を付与するプレ・ストレッチ工程となっている。ステップS1では、制御部17が、荷重付与部16により、ワークWの両端部を保持しながら、ワークWの中央部を金型15の頂部に設置させる。そして、ワークWの中央部を金型15の頂部に設置させた状態で、制御部17は、荷重付与部16によりワークWにたわみを除去可能なストレッチ荷重を付与する。このとき、制御部17は、ストレッチ荷重として、ワークWで用いられる金属材料の降伏応力以上のストレッチ荷重を付与する。具体的に、制御部17は、金属材料がアルミニウム合金である場合、塑性ひずみが1%から2%の間となるようなストレッチ荷重を付与している。これにより、ステップS1では、ワークWに対して塑性変形するストレッチ荷重が付与される。
【0019】
ステップS2は、金型15に対してワークWを巻き付けるラップ工程となっている。ステップS2では、制御部17が、ステップS1において付与したストレッチ荷重を低くして、ワークWを金型15に近づける方向に移動させ、ワークWの両端部を金型15に設置させる。これにより、ワークWは、金型15に接触する面積が、ステップS1に比してステップS2が広い面積となる。ステップS2において、制御部17は、ワークWに付与するストレッチ荷重が、ワークWで用いられる金属材料の降伏応力よりも小さいものとなっている。これにより、ステップS2では、ワークWに対して弾性変形するストレッチ荷重が付与される。
【0020】
ステップS3は、ワークWに対してストレッチ荷重を付与するポスト・ストレッチ工程となっている。ステップS3では、制御部17が、ステップS2において付与したストレッチ荷重を高くして、金型15に沿うワークWに対して、ストレッチ荷重を付与する。ステップS3において、制御部17は、ワークWに付与するストレッチ荷重が、ワークWで用いられる金属材料の降伏応力以上のストレッチ荷重を付与する。これにより、ステップS3では、ワークWに対して塑性変形するストレッチ荷重が付与される。
【0021】
[第二実施形態]
次に、
図2を参照して、第二実施形態について説明する。
図2は、第二実施形態に係るストレッチ成形装置及びストレッチ成形方法の説明図である。なお、第二実施形態では、重複した記載を避けるべく、第一実施形態と異なる部分について説明し、第一実施形態と同様の構成である部分については、同じ符号を付して説明する。
【0022】
(ストレッチ成形方法)
第二実施形態のストレッチ成形方法は、第一実施形態のステップS2におけるストレッチ荷重を、ワークWが塑性変形するストレッチ荷重としている。
【0023】
具体的に、第二実施形態のストレッチ成形方法におけるステップS2Aでは、制御部17が、ステップS1において付与したストレッチ荷重と同じストレッチ荷重で、ワークWを金型15に近づける方向に移動させ、ワークWの両端部を金型15に設置させる。つまり、ステップS2Aにおいて、制御部17は、ワークWに付与するストレッチ荷重が、ワークWで用いられる金属材料の降伏応力以上のストレッチ荷重となっている。これにより、ステップS2Aでは、ワークWに対して塑性変形するストレッチ荷重が付与される。
【0024】
なお、第二実施形態において、ステップS2Aでは、ストレッチ荷重をステップS1と同じ荷重としたが、特に限定されず、塑性変形可能なストレッチ荷重であれば、何れの荷重であってもよい。
【0025】
また、第二実施形態では、ステップS1及びステップS2Aにおいて、ワークWを塑性変形可能なストレッチ荷重を付与したが、この場合、ステップS3のストレッチ荷重を、塑性変形可能なストレッチ荷重としつつ、第一実施形態に比してストレッチ量を低くしてもよい。
【0026】
また、第二実施形態では、ステップS1及びステップS2Aにおいて、ワークWを塑性変形可能なストレッチ荷重を付与したが、ステップS1において、ワークWを弾性変形としてもよい。
【0027】
以上のように、第一実施形態から第二実施形態に記載のストレッチ成形方法及びストレッチ成形装置は、例えば、以下のように把握される。
【0028】
第1の態様に係るストレッチ成形方法は、金属材料からなる長尺のワークWの長手方向にストレッチ荷重を付与しながら、前記ワークWを金型15に沿わせて変形させるストレッチ成形方法において、前記ワークWの一部を前記金型15に設置させた状態で、前記ストレッチ荷重を付与して前記ワークWの前記長手方向におけるたわみを除去する第1のステップS1と、前記金型15に倣って前記ワークWを変形させる第2のステップS2と、前記金型15に沿う前記ワークWに対して、前記ストレッチ荷重を付与して塑性変形させる第3のステップS3と、を実行し、前記第1のステップS1及び前記第2のステップS2の少なくとも一方のステップでは、前記ワークWに対して、前記金属材料の降伏応力以上の前記ストレッチ荷重を付与する。
【0029】
この構成によれば、第1のステップS1及び第2のステップS2の少なくとも一方のステップにおいて、ワークWの降伏応力以上のストレッチ荷重を付与することにより、ワークWを塑性変形させることができる。このため、金型15とワークWとの接触面積が小さい状態において、ワークW全体に塑性ひずみを与えることができ、ワークWの残留応力を好適に除去することができる。そして、第3のステップS3において、金型15に沿う残留応力を除去したワークWに対して、ストレッチ荷重を付与することにより、ワークWの変形を抑制しつつ、好適なストレッチ成形を行うことができる。また、単一の金型15を用いたストレッチ成形となるため、作業効率の向上を図ることができる。
【0030】
第2の態様として、第1の態様に係るストレッチ成形方法において、前記金属材料は、溶体化処理されたアルミニウム合金であり、前記第1のステップS1及び前記第2のステップS2の少なくとも一方のステップでは、塑性ひずみが1%から2%の間となるような前記ストレッチ荷重を付与する。
【0031】
この構成によれば、溶体化処理されたアルミニウム合金に生じる残留応力を好適に除去することができる。
【0032】
第3の態様として、前記第1のステップS1及び前記第2のステップS2において、前記金属材料の降伏応力以上の前記ストレッチ荷重を付与する場合、前記第1のステップS1の前記ストレッチ荷重と、前記第2のステップS2の前記ストレッチ荷重とは同じ荷重となっている。
【0033】
この構成によれば、ステップS1からステップS2に移行する場合、ストレッチ荷重を変更することがない分、作業効率の向上をさらに図ることができる。
【0034】
第4の態様に係るストレッチ成形装置は、ワークWを変形させる金型15と、金属材料からなる長尺のワークWの長手方向にストレッチ荷重を付与する荷重付与部16と、前記荷重付与部16を制御する制御部17と、を備え、前記制御部17は、前記荷重付与部16を制御して、前記ワークWの一部を前記金型15に設置させた状態で、前記ストレッチ荷重を付与して前記ワークWの前記長手方向におけるたわみを除去する第1のステップS1と、前記金型15に倣って前記ワークWを変形させる第2のステップS2と、前記金型15に沿う前記ワークWに対して、前記ストレッチ荷重を付与して塑性変形させる第3のステップS3と、を実行しており、前記第1のステップS1及び前記第2のステップS2の少なくとも一方のステップでは、前記ワークWに対して、前記金属材料の降伏応力以上の前記ストレッチ荷重を付与する。
【0035】
この構成によれば、第1のステップS1及び第2のステップS2の少なくとも一方のステップにおいて、ワークWの降伏応力以上のストレッチ荷重を付与することにより、ワークWを塑性変形させることができる。このため、金型15とワークWとの接触面積が小さい状態において、ワークW全体に塑性ひずみを与えることができ、ワークWの残留応力を好適に除去することができる。そして、第3のステップS3において、金型15に沿う残留応力を除去したワークWに対して、ストレッチ荷重を付与することにより、ワークWの変形を抑制しつつ、好適なストレッチ成形を行うことができる。また、単一の金型15を用いたストレッチ成形となるため、作業効率の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0036】
10 ストレッチ成形装置
15 金型
16 荷重付与部
17 制御部