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特開2024-143170機械加工方法及び溝加工条件の導出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143170
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】機械加工方法及び溝加工条件の導出方法
(51)【国際特許分類】
   B23P 25/00 20060101AFI20241003BHJP
   B23Q 15/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B23P25/00
B23Q15/00 303Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055702
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 毅
(72)【発明者】
【氏名】河野 亮
(72)【発明者】
【氏名】江藤 潤
(72)【発明者】
【氏名】海野 絋和
(72)【発明者】
【氏名】杉原 範明
(57)【要約】
【課題】残留応力による変形を抑制する。
【解決手段】素材を機械加工して製品を製造する機械加工方法において、前記素材は、内部に発生する残留応力に応じた変形モード及び変位量となっており、前記変形モードは、外側に突出する凸面を有しており、前記素材の前記凸面となる部位であって、前記素材の形状から前記製品の形状を差し引いた部位である余肉部に、前記残留応力を解放するための溝加工を行うステップと、溝加工後の前記素材を機械加工して、前記製品を製造するステップと、を実行する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素材を機械加工して製品を製造する機械加工方法において、
前記素材は、内部に発生する残留応力に応じた変形モード及び変位量となっており、
前記変形モードは、外側に突出する凸面を有しており、
前記素材の前記凸面となる部位であって、前記素材の形状から前記製品の形状を差し引いた部位である余肉部に、前記残留応力を解放するための溝加工を行うステップと、
溝加工後の前記素材を機械加工して、前記製品を製造するステップと、を実行する機械加工方法。
【請求項2】
前記溝加工は、前記余肉部の範囲内での溝加工であり、スリットを形成するスリット加工、及び貫通孔を形成する貫通孔加工の少なくとも一方を含む請求項1に記載の機械加工方法。
【請求項3】
素材に機械加工される溝であって、前記素材の内部に発生する残留応力を解放するための前記溝の加工条件を導出する、コンピュータにより実行される溝加工条件の導出方法であって、
前記コンピュータが、
実素材の変形モードと変位量とを取得するステップと、
前記素材の形状に基づいて、FEM解析の解析モデルとなるソリッドモデルを作成するステップと、
前記素材の製造プロセスを模擬する模擬解析を実行して、取得した前記実素材の前記変形モード及び前記変位量と一致するように、前記素材の前記ソリッドモデルに前記残留応力を導入するステップと、
前記残留応力が導入された前記ソリッドモデルに対して、前記素材の形状から製品の形状を差し引いた部位である余肉部であって、前記素材の外側に突出する凸面となる部位に、機械加工される前記溝の設定を行うステップと、
前記余肉部の範囲内で、前記溝の最大深さを設定するステップと、
前記残留応力が導入された前記ソリッドモデルに対して、要素消滅法による前記溝の機械加工を模擬したFEM解析を実行して、前記素材の前記変形モード及び前記変位量を取得し、予め規定された前記変位量以下となる前記溝の加工条件を導出するステップと、を実行する溝加工条件の導出方法。
【請求項4】
前記製造プロセスを模擬する前記模擬解析は、前記素材への焼き入れ処理を模擬する熱弾塑性解析と、前記素材への成形を模擬する弾塑性解析を含む請求項3に記載の溝加工条件の導出方法。
【請求項5】
素材に機械加工される溝であって、前記素材の内部に発生する残留応力を解放するための前記溝の加工条件を導出する、コンピュータにより実行される溝加工条件の導出方法であって、
前記コンピュータが、
実素材の変形モードと変位量とを取得するステップと、
前記素材の形状に基づいて、材料力学を用いたたわみ計算の計算モデルとなる片持ち梁モデルを作成するステップと、
取得した前記実素材の前記変形モード及び前記変位量と一致するように、前記残留応力を含む前記片持ち梁モデルを設定するステップと、
前記残留応力を含む前記片持ち梁モデルに対して、前記素材の形状から製品の形状を差し引いた部位である余肉部であって、前記素材の外側に突出する凸面となる部位に、機械加工される前記溝の設定を行うステップと、
前記余肉部の範囲内で、前記溝の深さを設定するステップと、
設定された前記溝の深さに基づいて、前記溝が機械加工された前記片持ち梁モデルを用いたたわみ計算を実行して、予め規定された前記変位量以下となる前記溝の加工条件を導出するステップと、を実行する溝加工条件の導出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、機械加工方法及び溝加工条件の導出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、型素材に溝を加工して、型素材に生じている残留応力を解放し、この後、型素材の型彫りして型を製造する型の製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-117355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示すように、内部に残留応力が生じている素材に対して、残留応力を解放するための溝を加工する場合、型素材の内部に没入する凹面に形成されている。しかしながら、素材の凹面に溝加工を行っても、残留応力を適切に解放することができず、素材を機械加工して製造される製品に発生する変形を抑制することが困難であった。
【0005】
そこで、本開示は、残留応力による変形を抑制することができる機械加工方法及び溝加工条件の導出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の機械加工方法は、素材を機械加工して製品を製造する機械加工方法において、前記素材は、内部に発生する残留応力に応じた変形モード及び変位量となっており、前記変形モードは、外側に突出する凸面を有しており、前記素材の前記凸面となる部位であって、前記素材の形状から前記製品の形状を差し引いた部位である余肉部に、前記残留応力を解放するための溝加工を行うステップと、溝加工後の前記素材を機械加工して、前記製品を製造するステップと、を実行する。
【0007】
本開示の溝加工条件の導出方法は、素材に機械加工される溝であって、前記素材の内部に発生する残留応力を解放するための前記溝の加工条件を導出する、コンピュータにより実行される溝加工条件の導出方法であって、前記コンピュータが、実素材の変形モードと変位量とを取得するステップと、前記素材の形状に基づいて、FEM解析の解析モデルとなるソリッドモデルを作成するステップと、前記素材の製造プロセスを模擬する模擬解析を実行して、取得した前記実素材の前記変形モード及び前記変位量と一致するように、前記素材の前記ソリッドモデルに前記残留応力を導入するステップと、前記残留応力が導入された前記ソリッドモデルに対して、前記素材の形状から製品の形状を差し引いた部位である余肉部であって、前記素材の外側に突出する凸面となる部位に、機械加工される前記溝の設定を行うステップと、前記余肉部の範囲内で、前記溝の最大深さを設定するステップと、前記残留応力が導入された前記ソリッドモデルに対して、要素消滅法による前記溝の機械加工を模擬したFEM解析を実行して、前記素材の前記変形モード及び前記変位量を取得し、予め規定された前記変位量以下となる前記溝の加工条件を導出するステップと、を実行する。
【0008】
本開示の溝加工条件の導出方法は、素材に機械加工される溝であって、前記素材の内部に発生する残留応力を解放するための前記溝の加工条件を導出する、コンピュータにより実行される溝加工条件の導出方法であって、前記コンピュータが、実素材の変形モードと変位量とを取得するステップと、前記素材の形状に基づいて、材料力学を用いたたわみ計算の計算モデルとなる片持ち梁モデルを作成するステップと、取得した前記実素材の前記変形モード及び前記変位量と一致するように、前記片持ち梁モデルに含まれる前記残留応力を設定するステップと、前記残留応力が設定された前記片持ち梁モデルに対して、前記素材の形状から製品の形状を差し引いた部位である余肉部であって、前記素材の外側に突出する凸面となる部位に、機械加工される前記溝の設定を行うステップと、前記余肉部の範囲内で、前記溝の深さを設定するステップと、設定された前記溝の深さに基づいて、前記溝が機械加工された前記片持ち梁モデルを用いたたわみ計算を実行して、予め規定された前記変位量以下となる前記溝の加工条件を導出するステップと、を実行する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、残留応力による変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、第一実施形態に係る機械加工方法の説明図である。
図2図2は、第一実施形態に係る溝加工条件の導出方法に関するフローチャートである。
図3図3は、第二実施形態に係る溝加工条件の導出方法で用いる片持ち梁モデルの説明図である。
図4図4は、第二実施形態に係る溝加工条件の導出方法で用いる溝加工された片持ち梁モデルの説明図である。
図5図5は、第二実施形態に係る溝加工条件の導出方法に関するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本開示に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの開示が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能であり、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせることも可能である。
【0012】
[第一実施形態]
第一実施形態に係る機械加工方法は、内部に残留応力が生じた素材5に溝加工を行った後、溝加工された素材5を機械加工して製品6を製造する方法となっている。溝加工条件の導出方法は、素材5に対する溝加工の溝加工条件を導出する方法となっている。
【0013】
図1は、第一実施形態に係る機械加工方法の説明図である。図2は、第一実施形態に係る溝加工条件の導出方法に関するフローチャートである。先ず、図1を参照して、機械加工方法について説明する。
【0014】
(機械加工方法)
図1に示すように、機械加工の対象となる素材5は、内部に発生する残留応力に応じた変形モード及び変位量となっている。素材5は、例えば、押出成形され溶体化処理されたアルミニウム合金である。なお、素材5は、特に限定されず、内部に残留応力が生じるものであれば、何れの素材5を機械加工の対象としてもよい。素材5は、変形モードとして、例えば、図1のように、弓形の形状となる変形モードであり、変位量として、中央部に対する両端部の浮き上がり(反り)量を変位量としている。素材5は、弓形形状となっていることから、外側に突出する凸面と、凸面の反対側の面であって内側に没入する凹面とを有している。
【0015】
機械加工方法では、弓形形状となる素材5に対して、溝加工を行うステップS1を実行する。ステップS1では、素材5の形状から製品6の形状を差し引いた部位、つまり、製品6に干渉しない素材5の余剰部位である余肉部7に、溝加工が実行される。この溝加工を実施する際には、弓型形状の素材5の変形をクランプで矯正して平板状として加工を行っても良い。また、ステップS1では、素材5の凸面となる部位に溝加工が実行される。溝加工によって形成される溝8は、素材5の内部に生じる残留応力を解放するための溝となっている。溝8は、余肉部7の範囲内において形成され、溝加工として、有底のスリットを形成するスリット加工、及び貫通孔を形成する貫通孔加工の少なくとも一方が実行される。この溝加工を施工することにより、素材5の変形が小さくなり、余肉部7の範囲内で採取形状の部品等の製品6を削り出すことが可能となる。
【0016】
機械加工方法では、溝加工された素材5をクランプ治具10により固定し、素材5を機械加工して、製品を製造するステップS2を実行する。素材5をクランプ治具10により固定する際、素材5の変形を最小とするためにシム11を挟んで、素材矯正による変形応力をできる限り発生させないことが望ましい。ステップS2では、クランプ治具10により素材5を所定形状に矯正した状態で、機械加工が実行される。ステップS2では、溝加工によって残留応力が解放された素材5に対して、機械加工を実行することができるため、製造された製品6に発生する変位量を抑制できる。
【0017】
(溝加工条件の導出方法)
上記の機械加工方法において素材5に溝加工される溝8の溝加工条件は、図2に示す溝加工条件の導出方法により導出される。図2を参照して、溝加工条件の導出方法について説明する。なお、溝加工条件の導出方法では、下記するステップがコンピュータにより実行される。
【0018】
溝加工条件の導出方法において、コンピュータは、機械加工前の現実の素材(実素材)5の変形モードと変位量とを取得するステップS11を実行する。続いて、コンピュータは、素材5の形状に基づいて、FEM解析の解析モデルとなるソリッドモデルを作成するステップS12を実行する。ステップS2において生成されるソリッドモデルは、材料特性が設定された解析モデルとなる一方で、素材5の残留応力は設定されていない解析モデルとなっている。
【0019】
ステップS12の実行後、コンピュータは、ステップS11において取得した素材5の変形モード及び変位量と一致するように、ソリッドモデルに残留応力を導入するステップS13を実行する。ステップS13において、コンピュータは、素材5を製造する製造プロセスを模擬する模擬解析を実行して、残留応力を導出する。素材5の製造プロセスでは、素材5に焼き入れを行う焼き入れ処理と、素材5に引張荷重を付与して残留応力を除去するストレッチ成形処理と、が実行されている。ステップS13において、コンピュータは、焼き入れ処理と焼き入れ処理後の冷却による素材5表面の塑性変形を模擬するための熱弾性解析を実行して、素材5のソリッドモデルの内部に残留応力を発生させる。この後、ステップS13において、コンピュータは、熱弾性解析において残留応力を付与したソリッドモデルに対してストレッチ成形を模擬した塑性変形解析を実行して、素材5のソリッドモデルの残留応力を除去する。そして、ステップS13において、コンピュータは、残留応力の除去後のソリッドモデルが、ステップS11において取得した素材5の変形モード及び変位量と一致するまで、素材5の製造プロセスを模擬する模擬解析を実行する。ステップS13において、コンピュータは、ステップS11において取得した素材5の変形モード及び変位量と一致する、残留応力が導入されたソリッドモデルを、初期のソリッドモデルとする。
【0020】
ステップS13の実行後、コンピュータは、残留応力が導入されたソリッドモデルに対して、余肉部7であって、素材5の凸面となる部位に、溝8の設定を行うステップS14を実行する。ステップS14の実行後、コンピュータは、余肉部7の範囲内で、溝8の最大深さを設定するステップS15を実行する。なお、ステップS15では、溝8を貫通できる余肉部7であれば、貫通孔となる溝8の最大深さを設定する。
【0021】
ステップS15の実行後、コンピュータは、残留応力が導入されたソリッドモデルに対して、ステップS15において設定された深さとなる溝8の機械加工を模擬し、要素消滅法によるFEM解析を実行するステップS16を行う。機械加工される溝8の加工条件の設定は、素材5の凸面の形状において、交わる短辺と長辺の差が大きい場合、短辺と並行となるように溝8の設定を行い、交わる短辺と長辺の差が小さい場合、溝8を交差させたグリッド状の溝8の設定を行ってもよい。ステップS16において、コンピュータは、要素消滅法によるFEM解析を実行することで、溝加工後の素材5の変形モード及び変位量を取得する。そして、ステップS16において、コンピュータは、予め規定された変位量以下となる溝8の加工条件を導出する。例えば、コンピュータは、複数の溝加工条件に基づくFEM解析を実行し、最も大きな変位量の低減効果が得られる条件を溝加工条件としている。
【0022】
なお、ステップS16において、溝加工条件を設定する場合、溝8同士の間隔を、素材5の凸面の長辺の1/10から1/30までの範囲を目安に設定することが望ましい。
【0023】
また、第一実施形態では、ステップS13を実行したが、ステップS13を実行せずに、すなわち、ソリッドモデルに残留応力の導入をせずに、ステップS14からステップS16を実行してもよい。
【0024】
[第二実施形態]
次に、図3から図5を参照して、第二実施形態について説明する。図3は、第二実施形態に係る溝加工条件の導出方法で用いる片持ち梁モデルの説明図である。図4は、第二実施形態に係る溝加工条件の導出方法で用いる溝加工された片持ち梁モデルの説明図である。図5は、第二実施形態に係る溝加工条件の導出方法に関するフローチャートである。
【0025】
(溝加工条件の導出方法)
第二実施形態の溝加工条件の導出方法は、第一実施形態の溝加工条件の導出方法と異なる方法となっており、材料力学の計算モデルを用いたたわみ計算により溝加工条件を導出している。
【0026】
溝加工条件の導出方法において、コンピュータは、機械加工前の現実の素材(実素材)5の変形モードと変位量とを取得するステップS21を実行する。続いて、コンピュータは、素材5の形状に基づいて、材料力学を用いたたわみ計算の計算モデルとなる片持ち梁モデルDを作成するステップS22を実行する。ステップS22では、図1に示すように、素材5の変形モードが弓形形状であるため、素材5の中央部を固定端とし、素材5の端部を自由端とした片持ち梁モデルDを作成する。
【0027】
ここで、無応力状態の片持ち梁モデルDに対して自重が付加されたときの変位は、下記する(1)式に示す各梁要素の6つの変位の和で表せる。
【0028】
δ=δ1+δ2+δ3+δ4+δ5+δ6 ・・・(1)
δ:梁要素のたわみ
δ1:梁要素の自重によるたわみ
δ2:他の梁要素からの集中荷重によるたわみ
δ3:他の梁要素からの曲げモーメントMによるたわみ
δ4:たわみによる梁の傾きθによる変位
δ5:残留応力の曲げモーメントMrによるたわみ
δ6:残留応力の曲げモーメントMrに梁の傾きφによる変位
【0029】
また、各梁要素は、下記する(2)式から(7)式によって表せる。なお、(2)式から(7)式は、図4に示す溝加工後の片持ち梁モデルDをもとに説明する。
【0030】
δ1=ql/8EI ・・・(2)
δ2=Pl/3EI ・・・(3)
δ3=Ml/2EI ・・・(4)
δ4=lsinθ ・・・(5)
δ5=Mrl/2EI ・・・(6)
δ6=ltanφ ・・・(7)
q:自重による等分布荷重
l:梁の長さ
ql:自重
M:曲げモーメント
P:他の要素の自重による集中荷重
I:梁要素の断面二次モーメント
E:ヤング率
Mr:残留応力の曲げモーメント
【0031】
なお、残留応力の曲げモーメントMrは、実素材の一部を加工して、その曲げ曲率Rの変化から、「Mr=E(I0/R0-I1/R1)」の式で求められる。
【0032】
ステップS22の実行後、コンピュータは、ステップS21において取得した素材5の変形モード及び変位量と一致するように、片持ち梁モデルDを設定するステップS23を実行する。つまり、ステップS23では、残留応力の曲げモーメントMrを導出して、片持ち梁モデルDに導入する。そして、コンピュータは、ステップS21において取得した素材5の変形モード及び変位量と一致する、残留応力が導入された片持ち梁モデルDを、初期の片持ち梁モデルDとする。
【0033】
ステップS23の実行後、コンピュータは、残留応力が導入された片持ち梁モデルDに対して、余肉部7であって、素材5の凸面となる部位に、溝8の設定を行うステップS24を実行する。ステップS24の実行後、コンピュータは、余肉部7の範囲内で、溝8の最大深さを設定するステップS25を実行する。なお、ステップS25では、溝8を貫通できる余肉部7であれば、貫通孔となる溝8の最大深さを設定する。
【0034】
ステップS25の実行後、コンピュータは、残留応力が導入された片持ち梁モデルDに対して、溝8が機械加工された片持ち梁モデルDを設定するステップS26を実行する。ステップS26では、図4に示すように、ステップS26では、片持ち梁モデルDに、機械加工される複数の溝8を設定し、設定した複数の溝8に基づいて(2)式から(7)式に基づくたわみ計算を実行する。そして、ステップS26において、コンピュータは、ステップS25において設定された溝8の深さに基づいて、溝8が機械加工された片持ち梁モデルDを用いたたわみ計算を実行する。ステップS26において、コンピュータは、たわみ計算を実行することで、溝加工後の素材5の変形モード及び変位量を取得する。そして、ステップS26において、コンピュータは、予め規定された変位量以下となる溝8の加工条件を導出する。例えば、コンピュータは、複数の溝加工条件に基づくたわみ計算を実行し、最も大きな変位量の低減効果が得られる条件を溝加工条件としている。
【0035】
なお、第二実施形態では、ステップS22において、片持ち梁モデルDを作成する場合、(6)式及び(7)式を加えることで片持ち梁モデルDに残留応力を導入したが、(6)式及び(7)式を省いてもよい。
【0036】
以上のように、第一実施形態から第二実施形態に記載の機械加工方法及び溝加工条件の導出方法は、例えば、以下のように把握される。
【0037】
第1の態様に係る機械加工方法は、素材5を機械加工して製品6を製造する機械加工方法において、前記素材5は、内部に発生する残留応力に応じた変形モード及び変位量となっており、前記変形モードは、外側に突出する凸面を有しており、前記素材5の前記凸面となる部位であって、前記素材5の形状から前記製品6の形状を差し引いた部位である余肉部7に、前記残留応力を解放するための溝加工を行うステップS1と、溝加工後の前記素材5を機械加工して、前記製品6を製造するステップS2と、を実行する。
【0038】
この構成によれば、素材5の凸面に溝加工を行うことで、素材5の残留応力を適切に解放することができる。そして、適切に残留応力が解放された素材5に対して機械加工を行うことで、変形が抑制された製品6を製造することができる。
【0039】
第2の態様として、第1の態様に係る機械加工方法において、前記溝加工は、前記余肉部7の範囲内での溝加工であり、スリットを形成するスリット加工、及び貫通孔を形成する貫通孔加工の少なくとも一方を含む。
【0040】
この構成によれば、素材5の余肉部7の範囲内において、残留応力を適切に解放する溝加工を実行することができる。
【0041】
第3の態様に係る溝加工条件の導出方法は、素材5に機械加工される溝8であって、前記素材5の内部に発生する残留応力を解放するための前記溝8の加工条件を導出する、コンピュータにより実行される溝加工条件の導出方法であって、前記コンピュータが、実素材の変形モードと変位量とを取得するステップS11と、前記素材5の形状に基づいて、FEM解析の解析モデルとなるソリッドモデルを作成するステップS12と、前記素材5の製造プロセスを模擬する模擬解析を実行して、取得した前記実素材の前記変形モード及び前記変位量と一致するように、前記素材5の前記ソリッドモデルに前記残留応力を導入するステップS13と、前記残留応力が導入された前記ソリッドモデルに対して、前記素材5の形状から製品6の形状を差し引いた部位である余肉部7であって、前記素材5の外側に突出する凸面となる部位に、機械加工される前記溝8の設定を行うステップS14と、前記余肉部7の範囲内で、前記溝8の最大深さを設定するステップS15と、前記残留応力が導入された前記ソリッドモデルに対して、要素消滅法による前記溝8の機械加工を模擬したFEM解析を実行して、前記素材5の前記変形モード及び前記変位量を取得し、予め規定された前記変位量以下となる前記溝8の加工条件を導出するステップS16と、を実行する。
【0042】
この構成によれば、素材5の凸面に機械加工される溝8の加工条件を適切に導出することができ、導出した加工条件に基づく溝加工を行うことで、素材5の残留応力を適切に解放することができる。そして、適切に残留応力が解放された素材5に対して機械加工を行うことで、変形が抑制された製品6を製造することができる。
【0043】
第4の態様として、第3の態様に係る溝加工条件の導出方法において、前記製造プロセスを模擬する前記模擬解析は、前記素材への焼き入れ処理を模擬する熱弾塑性解析と、前記素材への成形を模擬する弾塑性解析を含む。
【0044】
この構成によれば、素材5の製造プロセスを好適に模擬し、製造プロセスに基づく残留応力を素材5のソリッドモデルに設定することができる。
【0045】
第5の態様に係る溝加工条件の導出方法は、素材5に機械加工される溝8であって、前記素材5の内部に発生する残留応力を解放するための前記溝8の加工条件を導出する、コンピュータにより実行される溝加工条件の導出方法であって、前記コンピュータが、実素材の変形モードと変位量とを取得するステップS21と、前記素材の形状に基づいて、材料力学を用いたたわみ計算の計算モデルとなる片持ち梁モデルDを作成するステップS22と、取得した前記実素材の前記変形モード及び前記変位量と一致するように、前記残留応力を含む前記片持ち梁モデルDを設定するステップS23と、前記残留応力を含む前記片持ち梁モデルDに対して、前記素材5の形状から製品6の形状を差し引いた部位である余肉部7であって、前記素材5の外側に突出する凸面となる部位に、機械加工される前記溝8の設定を行うステップS24と、前記余肉部7の範囲内で、前記溝8の深さを設定するステップS25と、設定された前記溝8の深さに基づいて、前記溝8が機械加工された前記片持ち梁モデルDを用いたたわみ計算を実行して、予め規定された前記変位量以下となる前記溝8の加工条件を導出するステップS26と、を実行する。
【0046】
この構成によれば、素材5の凸面に機械加工される溝8の加工条件を適切に導出することができ、導出した加工条件に基づく溝加工を行うことで、素材5の残留応力を適切に解放することができる。そして、適切に残留応力が解放された素材5に対して機械加工を行うことで、変形が抑制された製品6を製造することができる。
【符号の説明】
【0047】
5 素材
6 製品
7 余肉部
8 溝
図1
図2
図3
図4
図5