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特開2024-143171移動装置、移動装置の制御装置、移動装置の制御方法、移動システム、および移動型作業ロボット
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  • 特開-移動装置、移動装置の制御装置、移動装置の制御方法、移動システム、および移動型作業ロボット 図1
  • 特開-移動装置、移動装置の制御装置、移動装置の制御方法、移動システム、および移動型作業ロボット 図2
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  • 特開-移動装置、移動装置の制御装置、移動装置の制御方法、移動システム、および移動型作業ロボット 図14
  • 特開-移動装置、移動装置の制御装置、移動装置の制御方法、移動システム、および移動型作業ロボット 図15
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143171
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】移動装置、移動装置の制御装置、移動装置の制御方法、移動システム、および移動型作業ロボット
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/43 20240101AFI20241003BHJP
【FI】
G05D1/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055703
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000236160
【氏名又は名称】株式会社テクノ菱和
(71)【出願人】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】滝口 陽介
(72)【発明者】
【氏名】唐木 千岳
(72)【発明者】
【氏名】菅田 大助
(72)【発明者】
【氏名】武石 義人
(72)【発明者】
【氏名】李 還幇
(72)【発明者】
【氏名】松村 武
【テーマコード(参考)】
5H301
【Fターム(参考)】
5H301AA01
5H301AA06
5H301BB14
5H301CC03
5H301CC04
5H301CC06
5H301CC07
5H301CC10
5H301FF08
5H301GG08
5H301GG09
5H301GG11
5H301GG14
5H301GG16
5H301LL01
5H301LL06
5H301LL11
(57)【要約】      (修正有)
【課題】使用者の設定負担を軽減した移動装置、移動装置の制御装置、移動装置の制御方法、移動システム、および移動型作業ロボットを提供する。
【解決手段】外部の測距部と通信可能に設けられた第1の測距部D1と、装置本体を移動させる移動機構102と、制御部200と、を有する移動装置であって、移動装置の制御部200は、移動機構102の移動履歴を取得する移動履歴取得部202と、測距部D1を複数の移動点に移動させ、各移動点において、測距部D間の距離を計測する移動点測距条件を記憶する測距条件記憶部201dと、移動点測距条件に基づいて、各移動点にいて測距部D間の距離を求める距離演算部206と、移動履歴から、任意の方向に対する各移動点の移動角を取得する移動角取得部207と、各移動点における測距部D間の距離と、各移動点における移動角と、を用いて、外部の測距部の方向角度を演算する方向角度演算部208と、を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部の測距部と通信可能に設けられた第1の測距部と、装置本体を移動させる移動機構と、制御部と、を有する移動装置であって、
前記移動装置の制御部は、
前記移動機構の移動履歴を取得する移動履歴取得部と、
前記第1の測距部を複数の移動点に移動させ、各移動点において、測距部間の距離を計測する移動点測距条件を記憶する測距条件記憶部と、
前記移動点測距条件に基づいて、前記各移動点における前記測距部間の距離を求める距離演算部と、
前記移動履歴から、任意の方向に対する前記各移動点の移動角を取得する移動角取得部と、
前記各移動点における前記測距部間の距離と、前記各移動点における前記移動角と、を用いて、前記外部の測距部の方向角度を演算する方向角度演算部と、を有する移動装置。
【請求項2】
前記測距条件記憶部は、前記第1の測距部が前記外部の測距部と通信可能となった原地点において、前記測距部間の距離を計測する原地点測距条件をさらに記憶し、
前記距離演算部は、前記原地点測距条件に基づいて、前記原地点における前記測距部間の距離をさらに求め、
前記方向角度演算部は、前記各移動点における前記測距部間の距離と、前記各移動点における前記移動角と、前記原地点における前記測距部間の距離と、を用いて、前記原地点に対する前記外部の測距部の方向角度を演算する、請求項1記載の移動装置。
【請求項3】
前記移動装置の前記制御部は、
前記方向角度演算部が演算した前記方向角度と、前記距離演算部が演算した前記移動点における前記測距部間の距離または前記原地点における前記測距部間の距離に基づいて、前記移動装置が前記外部の測距部に至るように前記移動機構を駆動する条件を演算する駆動条件演算部、をさらに含む、請求項2記載の移動装置。
【請求項4】
前記測距条件記憶部は、前記駆動条件演算部が演算した駆動条件に基づいて前記外部の測距部への移動を開始した前記移動装置の移動中に前記測距部間の距離を計測する移動中測距条件をさらに記憶し、
前記距離演算部は、前記移動中測距条件に基づいて、移動中における前記測距部間の距離をさらに求め、
前記移動装置の前記制御部は、
前記移動機構の移動履歴に基づいて、移動中の前記移動装置の移動距離を演算する移動距離演算部と、
前記移動距離演算部が演算した前記移動装置の移動距離と、移動中における前記測距部間の距離を比較し、前記移動装置の移動距離と、移動中における前記測距部間の距離に乖離があるか否かを判定する距離比較判定部と、
前記距離比較判定部の判定に基づいて、移動中の前記移動装置の現在位置から前記外部の測距部までの方向角度を演算させる指令を出力する再演算指令部をさらに含む、請求項3記載の移動装置。
【請求項5】
前記測距条件記憶部は、前記駆動条件演算部が演算した駆動条件に基づいて前記外部の測距部への移動を開始した前記移動装置の移動中に前記測距部間の距離を計測する移動中測距条件をさらに記憶し、
前記距離演算部は、前記移動中測距条件に基づいて、移動中における前記測距部間の距離をさらに求め、
前記移動装置の前記制御部は、
移動中における前記測距部間の距離を用いて、前記外部の測距部の位置を推定するマーカ機推定部と、
移動中の前記移動装置の移動方向を変更する進路変更部と、
前記進路変更部が前記移動装置の進路を変更した後の移動中における前記測距部間の距離に基づいて、真の前記外部の測距部を判断するマーカ機判断部と、をさらに含む、請求項3記載の移動装置。
【請求項6】
前記測距条件記憶部は、前記駆動条件演算部が演算した駆動条件に基づいて前記外部の測距部への移動を開始した前記移動装置の移動中に前記測距部間の距離を計測する移動中測距条件をさらに記憶し、
前記距離演算部は、前記移動中測距条件に基づいて、移動中における前記測距部間の距離をさらに求め、
前記移動装置の前記制御部は、
移動中における前記測距部間の距離を用いて、前記移動装置が前記外部の測距部に最も近づいた点である最接近点を判定する最接近点判定部と、
前記最接近点判定部の判定に基づいて、前記最接近点から前記外部の測距部までの方向角度を演算させる指令を出力する再演算指令部をさらに含み、
移動中における前記測距部間の距離が縮み傾向から、前記最接近点に至った後に、伸長傾向に転じた場合に、前記再演算指令部が前記指令を出力するよう構成される、請求項3記載の移動装置。
【請求項7】
前記移動装置の前記制御部は、
移動中の前記移動装置が、前記外部の測距部と接触することを防ぐための接触回避動作を記憶する回避動作記憶部を含む、請求項3記載の移動装置。
【請求項8】
前記移動装置は、
前記移動装置の動作状態を知らせるための出力を行う報知部と、
前記報知部の出力パターンと、前記移動装置の前記駆動条件と、を関連付けた報知条件を記憶する報知条件記憶部と、
前記駆動条件演算部が決定した前記駆動条件に基づいて、前記報知部を制御する条件を決定する報知条件決定部と、
をさらに含む、請求項3記載の移動装置。
【請求項9】
外部の測距部と通信可能に設けられた第1の測距部と、装置本体を移動させる移動機構と、を有する移動装置を、コンピュータ又は電子回路により制御する前記移動装置の制御方法であって、
前記コンピュータ又は前記電子回路が、
前記移動機構の移動履歴を取得する移動履歴取得ステップと、
前記第1の測距部を複数の移動点に移動させ、各移動点において、測距部間の距離を求める距離演算ステップと、
前記移動履歴から、任意の方向に対する前記各移動点の移動角を取得する移動角取得ステップと、
前記測距部間の距離と前記移動角に基づいて、前記外部の測距部の方向角度を演算する方向角度演算ステップと、を実行する、前記移動装置の制御方法。
【請求項10】
外部の測距部と通信可能に設けられた第1の測距部と、装置本体を移動させる移動機構と、を有する移動装置の制御装置であって、
前記制御装置は、
前記移動機構の移動履歴を取得する移動履歴取得部と、
前記第1の測距部を複数の移動点に移動させ、各移動点において、測距部間の距離を計測する移動点測距条件を記憶する測距条件記憶部と、
前記移動点測距条件に基づいて、前記各移動点における前記測距部間の距離を求める距離演算部と、
前記移動履歴から、任意の方向に対する前記各移動点の移動角を取得する移動角取得部と、
前記各移動点における前記測距部間の距離と、前記各移動点における前記移動角と、を用いて、前記外部の測距部の方向角度を演算する方向角度演算部と、を有する移動装置の制御装置。
【請求項11】
第1の測距部と、装置本体を移動させる移動機構と、制御部と、を有する移動装置と、
前記第1の測距部と通信可能に設けられた第2の測距部を有するマーカ機と、を含む移動システムであって、
前記移動装置の制御部は、
前記移動機構の移動履歴を取得する移動履歴取得部と、
前記第1の測距部を複数の移動点に移動させ、各移動点において、測距部間の距離を計測する移動点測距条件を記憶する測距条件記憶部と、
前記移動点測距条件に基づいて、前記各移動点における前記測距部間の距離を求める距離演算部と、
前記移動履歴から、任意の方向に対する前記各移動点の移動角を取得する移動角取得部と、
記各移動点における前記測距部間の距離と、前記各移動点における前記移動角と、を用いて前記マーカ機の方向角度を演算する方向角度演算部と、を有する移動システム。
【請求項12】
前記測距条件記憶部は、前記第1の測距部と前記第2の測距部通信可能となった原地点において、前記測距部間の距離を計測する原地点測距条件をさらに記憶し、
前記測距制御部は、前記原地点測距条件に基づいて、前記原地点における前記測距部間の距離をさらに求め、
前記方向角度演算部は、前記各移動点における前記測距部間の距離と、前記各移動点における前記移動角と、前記原地点における前記測距部間の距離と、を用いて、前記原地点に対する前記マーカ機の方向角度を演算する、請求項11記載の移動システム。
【請求項13】
前記マーカ機を複数含み、各マーカ機は、それぞれの探索順序を示す情報を有し、
前記移動装置の制御部は、
前記移動装置が前記複数のマーカ機の探索順序を示す情報を記憶する探索順序記憶部をさらに含む、請求項11又は12記載の移動システム。
【請求項14】
前記移動装置の前記測距条件記憶部は、前記複数のマーカ機のうち、ターゲットとなる前記マーカ機以外の他のマーカ機と測距を行う接触回避測距条件をさらに含み、
前記測距制御部は、前記接触回避点測距条件に基づいて、前記第1の測距部と前記他のマーカ機の前記第2の測距部の間の距離をさらに求め、
前記移動装置の制御部は、
前記移動装置が、前記他のマーカ機と接触することを防ぐための接触回避動作を記憶する回避動作記憶部と、
前記移動装置と前記他のマーカ機との間の距離が接触可能範囲にあるか否かを判定する接触範囲判定部をさらに含む、請求項13記載の移動システム。
【請求項15】
前記第1の測距部および前記第2の測距部は、UWBを用いて測距を行う、請求項11又は12記載の移動システム。
【請求項16】
請求項3に記載の移動装置と、
前記移動装置に載置された所定の作業を行うロボットと、を含み、
前記制御部および前記ロボットは、それぞれ通信部を有し、
前記制御部は、前記マーカ機に到達すると前記ロボットに作業開始信号を送信し、
前記ロボットは、前記制御部に作業終了信号を送信するよう構成されている移動型作業ロボット。
【請求項17】
前記ロボットが、環境測定を行う測定ユニットである、請求項16記載の移動型作業ロボット。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象領域を移動する移動装置、移動装置の制御装置、移動装置の制御方法、移動システム、および移動型作業ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、対象空間の掃除、管理対象に対するロボットによる作業、荷物の運搬、又はサービス業務などにおいて、目的の移動を達成する無人型の移動装置の開発が進んでいる。このような移動装置では、室内における自装置の位置を把握して移動するために、予め対象室内のマップが記録されている。又は、LiDARセンサやカメラを用いた物体検知により対象領域のマップを自動作成する移動装置も知られている。
【0003】
マップを用いない場合、移動装置を対象領域の所定のルートに従って磁気誘導を用いて移動させるために、対象領域に磁気テープを事前に設置することがある。この場合には、移動装置は、固定された走行ルート上を自動走行する。
【0004】
他にも、移動装置の制御において、停止や回転などの移動装置の動作に関する情報を含むマーカを対象室内に適宜配置することもある。移動装置は、搭載されたカメラなどの撮像部でそのマーカを撮像し、マーカに含まれる情報に基づいて移動装置の動作を制御する。このようなマーカの一つとしては、対象領域に設置される旗状のサインポストがあげられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005‐275899号公報
【特許文献2】特開2014-021624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
磁気テープを用いた走行ルートの設定では、磁気テープの事前設置が不可欠であり、また走行ルートが固定されてしまう。例えばクリーンルーム等の清浄空間においては、磁気テープの設置自体が難しい場合もある。サインポストを用いて走行ルートの設定を行う場合には、走行ルートに沿って多数のサインポストを設置する必要があり、使用者に各サインポストの動作内容と使用方法を理解する負担が生じる。
【0007】
対象領域のマップを用いた移動装置の制御においては、地図情報の入力などにおいてロボット技術者や熟練した使用者による作業が必要となる。特に、初めて対象領域において移動装置を走行させる場合には、ロボット技術者と使用者の打ち合わせが不可欠となり手間と時間がかかる。すなわち、専門知識をもたない移動装置の使用者が、単独で所望の走行ルートを迅速かつ容易に設定することは難しい。また、マップを用いた移動装置では、無線通信を用いた測位を行う場合、固定機設置位置によっては測位できないエリアが生じる可能性がある。また、測位精度にも影響を及ぼすため、固定機設置位置の入念な設計と、マップ上の位置と実際の位置の正確な一致が必要となる。
【0008】
本発明は、上述したような従来技術の問題点を解決するために提案されたものである。その目的は、使用者の設定負担を軽減した移動装置、移動装置の制御装置、移動装置の制御方法、移動システム、および移動型作業ロボットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明の移動装置は、以下のような特徴を有している。
(1)外部の測距部と通信可能に設けられた第1の測距部と、装置本体を移動させる移動機構と、制御部と、を有する移動装置であって、前記移動装置の制御部は、前記移動機構の移動履歴を取得する移動履歴取得部と、前記第1の測距部を複数の移動点に移動させ、各移動点において、測距部間の距離を計測する移動点測距条件を記憶する測距条件記憶部と、前記移動点測距条件に基づいて、前記各移動点における前記測距部間の距離を求める距離演算部と、前記移動履歴から、任意の方向に対する前記各移動点の移動角を取得する移動角取得部と、前記各移動点における前記測距部間の距離と、前記各移動点における前記移動角と、を用いて、前記外部の測距部の方向角度を演算する方向角度演算部と、を有する。
【0010】
(2)前記測距条件記憶部は、前記第1の測距部が前記外部の測距部と通信可能となった原地点において、前記測距部間の距離を計測する原地点測距条件をさらに記憶し、前記距離演算部は、前記原地点測距条件に基づいて、前記原地点における前記測距部間の距離をさらに求め、前記方向角度演算部は、前記各移動点における前記測距部間の距離と、前記各移動点における前記移動角と、前記原地点における前記測距部間の距離と、を用いて、前記原地点に対する前記外部の測距部の方向角度を演算しても良い。
【0011】
(3)前記移動装置の前記制御部は、前記方向角度演算部が演算した前記方向角度と、前記距離演算部が演算した前記移動点における前記測距部間の距離または前記原地点における前記測距部間の距離に基づいて、前記移動装置が前記外部の測距部に至るように前記移動機構を駆動する条件を演算する駆動条件演算部、をさらに含んで良い。
【0012】
(4)前記測距条件記憶部は、前記駆動条件演算部が演算した駆動条件に基づいて前記外部の測距部への移動を開始した前記移動装置の移動中に前記測距部間の距離を計測する移動中測距条件をさらに記憶し、前記距離演算部は、前記移動中測距条件に基づいて、移動中における前記測距部間の距離をさらに求め、前記移動装置の前記制御部は、前記移動機構の移動履歴に基づいて、移動中の前記移動装置の移動距離を演算する移動距離演算部と、前記移動距離演算部が演算した前記移動装置の移動距離と、移動中における前記測距部間の距離を比較し、前記移動装置の移動距離と、移動中における前記測距部間の距離に乖離があるか否かを判定する距離比較判定部と、前記距離比較判定部の判定に基づいて、移動中の前記移動装置の現在位置から前記外部の測距部までの方向角度を演算させる指令を出力する再演算指令部をさらに含んでよい。
【0013】
(5)前記測距条件記憶部は、前記駆動条件演算部が演算した駆動条件に基づいて前記外部の測距部への移動を開始した前記移動装置の移動中に前記測距部間の距離を計測する移動中測距条件をさらに記憶し、前記距離演算部は、前記移動中測距条件に基づいて、移動中における前記測距部間の距離をさらに求め、前記移動装置の前記制御部は、移動中における前記測距部間の距離を用いて、前記外部の測距部の位置を推定するマーカ機推定部と、移動中の前記移動装置の移動方向を変更する進路変更部と、前記進路変更部が前記移動装置の進路を変更した後の移動中における前記測距部間の距離に基づいて、真の前記外部の測距部を判断するマーカ機判断部と、をさらに含んで良い。
【0014】
(6)前記測距条件記憶部は、前記駆動条件演算部が演算した駆動条件に基づいて前記外部の測距部への移動を開始した前記移動装置の移動中に前記測距部間の距離を計測する移動中測距条件をさらに記憶し、前記距離演算部は、前記移動中測距条件に基づいて、移動中における前記測距部間の距離をさらに求め、前記移動装置の前記制御部は、移動中における前記測距部間の距離を用いて、前記移動装置が前記外部の測距部に最も近づいた点である最接近点を判定する最接近点判定部と、前記最接近点判定部の判定に基づいて、前記最接近点から前記外部の測距部までの方向角度を演算させる指令を出力する再演算指令部をさらに含み、移動中における前記測距部間の距離が縮み傾向から、前記最接近点に至った後に、伸長傾向に転じた場合に、前記再演算指令部が前記指令を出力するよう構成されて良い。
【0015】
(7)前記移動装置の前記制御部は、移動中の前記移動装置が、前記外部の測距部と接触することを防ぐための接触回避動作を記憶する回避動作記憶部を含んで良い。
【0016】
(8)前記移動装置は、前記移動装置の動作状態を知らせるための出力を行う報知部と、前記報知部の出力パターンと、前記移動装置の前記駆動条件と、を関連付けた報知条件を記憶する報知条件記憶部と、前記駆動条件演算部が決定した前記駆動条件に基づいて、前記報知部を制御する条件を決定する報知条件決定部と、をさらに含んで良い。
【0017】
また、上記の発明は、移動装置の制御装置および移動装置制御方法の発明としての態様を含む。また、以下の移動システムの態様を含み得る。
【0018】
(1)第1の測距部と、装置本体を移動させる移動機構と、制御部と、を有する移動装置と、前記第1の測距部と通信可能に設けられた第2の測距部を有するマーカ機と、を含む移動システムであって、前記移動装置の制御部は、前記移動機構の移動履歴を取得する移動履歴取得部と、前記第1の測距部を複数の移動点に移動させ、各移動点において、測距部間の距離を計測する移動点測距条件を記憶する測距条件記憶部と、前記移動点測距条件に基づいて、前記各移動点における前記測距部間の距離を求める距離演算部と、前記移動履歴から、任意の方向に対する前記各移動点の移動角を取得する移動角取得部と、前記各移動点における前記測距部間の距離と、前記各移動点における前記移動角と、を用いて前記マーカ機の方向角度を演算する方向角度演算部と、を有する移動システム。
【0019】
さらに、以下の移動型作業ロボットの態様を含み得る。
【0020】
(1)上記の移動装置と、前記移動装置に載置された所定の作業を行うロボットと、を含み、前記制御部および前記ロボットは、それぞれ通信部を有し、前記制御部は、前記マーカ機に到達すると前記ロボットに作業開始信号を送信し、前記ロボットは、前記制御部に作業終了信号を送信するよう構成されていても良い。
【0021】
(2)前記ロボットが、環境測定を行う測定ユニットであっても良い。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば使用者の設定負担を軽減した移動装置、移動装置の制御装置、移動装置の制御方法、移動システム、および移動型作業ロボットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】第1の実施形態にかかる移動システムに含まれるマーカ機の構成の一例を示すブロック図である。
図2】第1の実施形態にかかる移動装置の外観を示す側面図であり、かつ他の実施形態の作業ロボットの外観を示す側面図である。
図3】第1の実施形態にかかる移動装置の制御部の構成の一例を示すブロック図である。
図4】測距条件を説明するための模式図であり、(a)は測距点が2点の場合、(b)は測距点が4点の場合、(c)は測距点が8点の場合の模式図である。
図5】測距部間の測距波の伝搬時間を説明するための模式図である。
図6】移動点における移動角の取得例を説明するための模式図である。
図7】マーカ機の方向角度の演算例を説明するための模式図である。
図8】制御部の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図9】第2の実施形態にかかる移動装置の制御部の構成の一例を示すブロック図である。
図10】移動装置の移動距離と、移動中の計測距離の関係を説明するための模式図である。
図11】第3の実施形態にかかる移動装置の制御部の構成の一例を示すブロック図である。
図12】真のマーカ機の判定プロセスを説明するための模式図であり、(a)はマーカ機の位置推定演算を説明する模式図であり、(b)は進路変更による真のマーカ機の判定を説明する模式図である。
図13】第4の実施形態にかかる移動装置の制御部の構成の一例を示すブロック図である。
図14】当初の方向角度に誤差がある場合の最接近点を示す模式図である。
図15】第5の実施形態にかかる移動装置の制御部の構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[第1の実施形態]
(移動システム概要)
本発明に係る移動システムの概要について説明する。移動システムは、被検出体としてのマーカ機Mと、マーカ機Mと通信可能に構成され、装置本体の移動を実行する移動装置1を含み構成されている。移動装置1は測距部D1を有し、マーカ機Mは測距部D1と通信可能に構成された測距部D2を有する。測距部D1および測距部D2は、移動装置1とマーカ機Mとの間の距離を計測可能に構成されている。なお、以下の説明では、測距部D1および測距部D2をまとめて測距部Dと表現する場合がある。
【0025】
測距部Dは、電波、音波、光の少なくとも1つを用いて、リアルタイムの距離計測が可能となるように構成されていればよい。測距部Dは、例えば、送信部および受信部を含み構成される。送信部は、例えば電磁波などの測距波を送出する信号源である。受信部は、送信部から送出された測距波を受波する受信器である。なお、例えば測距部D1からの測距波に対して測距部D2が返信測距波を送信する場合には、測距部D1およびD2のそれぞれが送信部および受信部の双方を含み構成される。
【0026】
測距部Dは、距離演算部を含んでいても良い。距離演算部は、採用した測距波に適した方式で、移動装置1とマーカ機Mの間の距離を求める演算部である。なお、距離演算部は、測距部Dの回路上に設けられていても良いし、移動装置1の制御部200に含まれるように構成しても良い。
【0027】
測距に用いる電波としては、UWB、Bluetooth(登録商標)、WiFi、RFIDなどの無線通信方式を採用することができる。電波を用いる場合には、移動装置1の測距部D1に送受信部及び距離演算部を設け、マーカ機Mの測距部D2に送受信部を設けて良い。距離演算部は、例えば、Time of Arrival(TOA)方式にて、信号パルスの伝搬時間を演算し、パルス伝搬時間に光速を乗じることで、移動装置1とマーカ機Mの間の距離を求めて良い。TOA方式により距離を求める場合には、測距部Dは基準クロック等を生成する構成を含む。
【0028】
測距部Dが用いる電波としては、特にUWBが好ましい。UWBはナノ秒オーダーのパルスを用いるため、電波の到着時刻を高精度に測定でき、測距・測位を高い精度で行うことが可能である。また、UWBは、短いパルスのみを用いるため装置の消費電力を抑えられる。さらに、複雑な変復調を使用しないため、低コスト化に寄与し得る。
【0029】
測距に用いる光としては、可視光、赤外線、紫外線を用いることができる。測距に用いる音波としては、超音波を用いることができる。他にも、磁気、静電容量などを用いて距離計測を行う構成も採用できる。いずれの場合であっても、移動装置1の測距部D1またはマーカ機Mの測距部D2のどちらに、送信部または受信部を配置するかは自由であり、双方に送受信部を配置しても良い。
【0030】
また、受信部が受信する測距波が、マーカ機Mの表面で反射された反射波である場合には、測距部D1または測距部D2の一方に受信部および送信部の双方を備えることができる。例えば測距部D1が、送信部、受信部、距離演算部の全ての構成を備える場合、送信部からの測距波を反射するマーカ機Mそのものを測距部D2として捉えることができる。この測距波の反射をもって、移動装置1とマーカ機Mが通信可能に構成されていると解釈できる。
【0031】
上記の構成を有する移動システムにおいて、マーカ機Mは、例えばクリーンルームなどの屋内の対象領域において、任意の位置に配置されている。移動装置1の測距部D1とマーカ機Mの測距部D2により、距離計測を行うことで、移動装置1からマーカ機Mまでの距離を求めることができる。ただし、測距部Dにより距離計測だけでは、移動装置1は、マーカ機Mが配置されている方向角度を把握することができない。
【0032】
そこで、移動装置1は、測距部D1を複数の移動点に至るように移動させ、各移動点において、移動装置1の測距部D1とマーカ機Mの測距部D2により、移動装置1とマーカ機Mの間の距離を計測する。移動装置1とマーカ機Mの間の距離は、測距部D1と測距部D2の間の距離と捉えても良い。移動装置1の測距部D1が移動装置1の上部に取り付けられ、マーカ機Mの測距部D2が床置きされた場合、測距部D1と測距部D2の間の距離は斜面距離となる。斜面距離そのものを移動装置1とマーカ機Mの間の距離としても良いが、斜面距離を移動装置1とマーカ機Mの間の平面距離に変換して使用しても良い。移動装置1は、移動装置1の任意の方向に対する各移動点の移動角と、各移動点における移動装置1とマーカ機Mの間の計測距離と、を用いて、移動装置1からマーカ機Mへの方向角度を演算するよう構成されている。
【0033】
以下の説明では、本発明に係る移動システムの実施形態について図面を参照しつつ、より具体的に説明する。説明を明確化するために、以下では測距波をUWBとした場合のシステム構成について説明する。ただし、上記の通り、本実施形態の移動システムは、移動装置1とマーカ機Mの間の距離を計測可能な測距部Dを有していれば、UWBに限定されず様々な測距波を用いる測距部Dを採用することで実現可能となる。
【0034】
(マーカ機)
図1は、マーカ機Mの構成例を示すブロック図である。図1に示すとおり、マーカ機Mは、測距部D2を含む。測距部D2は、UWB端末であって良く、たとえば、携帯可能なUWBタグとしてよい。マーカ機MとしてUWB端末を単体で用いる場合には、UWB端末をマーカ機Mとして捉えて良く、測距部D2として捉えることもできる。
【0035】
ただし、マーカ機Mは、測距部D2であるUWB端末と、測距部D2を収容する筐体を備えていても良い。他にも、測距部D2であるUWB端末を保持するスタンドを含めても良い。マーカ機Mは、床面に配置されてよく、壁面に配置されても良い。また、UWB端末をスタンドで保持して浮かせた状態で、対象領域に配置しても良い。このようなマーカ機Mまたは測距部D2は、移動装置1の装置外部に設けられた測距部であると解釈できる。また、マーカ機Mの測距部D2は、送信機または受信機のいずれでも良いが、以下では測距部D2を送受信機と解釈可能である。
【0036】
マーカ機Mは、移動システムの使用者が、マーカ機Mを対象領域の任意の位置に配置可能に構成されている。すなわち、マーカ機Mは、従来の測距システムのように対象領域の所定の位置において固定具により固定されている固定機とは異なり、使用者が配置したい位置に持ち運び可能に構成されている。マーカ機Mは、対象空間における位置が未知の端末と言い換えることもできる。位置が未知、とは座標系等においてマーカ機Mの位置が把握されていないことを意味する。以下の説明では、移動システムの使用者が、マーカ機Mを任意の位置に配置した場合を例に説明する。ただし、マーカ機M自体が移動している場合であっても、本実施形態を適用可能である。
【0037】
複数のマーカ機Mを用いる場合には、移動装置1が複数のマーカ機Mを探索する順序を示す情報を各測距部D2が有していて良い。例えば、2台のマーカ機Mを用いる場合には、検索順序として1を有するマーカ機Mと、検索順序として2を有するマーカ機Mとなるように構成する。探索順序を示す情報としては、数字やアルファベットなど任意の文字や記号を用いることができる。探索順序を示す情報をマーカ機Mの表面等に記載することで、使用者が複数あるマーカ機Mの探索順序を把握可能とすると良い。
【0038】
ただし、移動システムは、1台のマーカ機Mのみを有し、移動装置1がマーカ機Mへの移動を完了するたびに、マーカ機Mを次の目標地点に移動させて用いる、という使い方もできる。マーカ機Mの移動は使用者が手動で行ってもいいし、マーカ機Mに走行部を設けて自動で移動するように構成しても良い。マーカ機Mを無線操縦で移動する構成としても良い。
【0039】
測距部D2は、移動装置1の測距部D1にマーカ機検出動作における要求に応答可能に構成されている。測距部D2は、測距部D1に測距動作において送信される測距波を受信可能に構成されている。測距部D2は、測距部D1が送信した測距波を受信すると、測距部D1に対して返信測距波を送信可能に構成されている。測距部D2はローカル発振器を含み、返信測距波の送信時にはローカル発振器のクロックに基づいて動作する。なお、測距部D2の時刻同期は行わなくとも良い。
【0040】
(移動装置)
移動装置1は、例えば室内等において、対象領域を自律走行する装置である。移動装置1は、装置本体を移動させる走行部を有する。移動装置1は移動以外の動作を行うように構成できる。例えば、対象領域内を移動しつつ、対象領域の環境測定を行うように構成しても良い。他にも、対象領域の掃除、荷物の積み降ろし、バルブの開閉等、様々な動作を行うロボットと組み合わせ得る。
【0041】
移動装置1は、対象領域内を移動可能に構成されている。よって、移動装置1も、対象領域における位置が固定されておらず、対象領域における位置が未知の装置であると言える。このような本実施形態の移動システムは、位置が未知の移動装置1が、位置が未知のマーカ機Mの位置情報を特定するように構成されている、と表現することもできる。
【0042】
図2は、移動装置1の外観を示す側面図である。図3は、移動装置1の構成例を示すブロック図である。図2に示す通り、移動装置1は、箱型の筐体100を有する。筐体100は、移動装置1の構成部を収容する箱型の筐体100aと、移動装置1に搭載されるロボットを収容する箱型の筐体100bを含んでいても良い。以下の説明では、筐体100aおよび筐体100bを合わせて、筐体100と表現する場合もある。
【0043】
移動装置1は、筐体100aの下面側に設けられた一対の駆動輪である走行部101が移動機構102により駆動されることで自走可能に構成されている。移動機構102は、移動装置1の走行に必要な車輪の回転駆動を行う。移動機構102は、例えば、車輪を駆動するモータや車輪の向きを変更するアクチュエータなどで構成して良い。移動装置1の車輪は、オムニホイールやメカナムホイールであってもよい。なお、移動装置1としては、例えばドローンのような回転翼を有する無人航空機を用いることを想定し得る。
【0044】
移動機構102は、図3に示す通り、回転数取得部102aを含む。回転数取得部102aは、走行部101の車輪の回転数を計測するように構成されている。移動機構102は、取得した車輪の回転数を、制御部200に出力する。
【0045】
図2および3に示すとおり、移動装置1は、測距部D1、障害物検出部11、報知部12、モーションセンサ13、および制御部200をさらに有する。なお、移動装置1には、移動装置1の動作を開始するための動作開始ボタンBが設けられている。動作開始ボタンBは使用者が押下可能に構成され、移動装置1の本体に設けることができる。また、動作開始ボタンBは、例えばリモートコントローラに設けられていても良く、制御部200の入力部Iであっても良い。いずれの場合であっても、動作開始ボタンBは制御部200に接続され、移動装置1は、使用者が動作開始ボタンBを押下したことを契機に、所定の動作を開始するように構成されている。
【0046】
(測距部)
測距部D1は、UWB端末であって良く、たとえば、携帯可能なUWBタグとしてよい。本例では、マーカ機Mの測距部D2と同様に、移動装置1の測距部D1は送受信機であるとして説明する。図2の例では、測距部D1は、移動装置1の筐体100bの上面において、中央に位置するように設けられている。筐体100bの上面中央は、移動装置1の筐体100bの回転中心である。
【0047】
測距部D1は、筐体100bの上面中央に位置する支柱Sに取り付けられている。支柱Sは、UWB端末を保持可能に構成されたスタンド等であっても良い。支柱Sは必須の構成要素ではないが、支柱Sを設けて測距部D1の高さを高くすることで、障害物等を避けて、マーカ機Mの測距部D2との通信がスムーズとなる場合に有用である。ただし、測距部D1が移動装置1の筐体100bに直接配置される構成を排除する意図はない。
【0048】
測距部D1は、マーカ機検出動作において、ターゲットとなるマーカ機Mの測距部D2と通信可能となっているか否かを確認可能に構成されている。測距部D1は、測距動作において、測距部D2に測距波を送信可能に構成されている。測距部D1はローカル発振器を含み、測距波の送信時にはローカル発振器のクロックに基づいて動作する。測距部D1は、測距波を受信した測距部D2から送信された返信測距波を受信可能に構成されている。
【0049】
(障害物検出部)
障害物検出部11は、移動装置1の進行方向にある障害物を検出するセンサである。障害物検出部11は、移動装置1の前面に設けられている。障害物検出部11としては、超音波センサ、光学式ToF(Time-of-Flight)センサ、ステレオカメラ式深度センサ、レーダーセンサなどを用いることができる。
【0050】
この中でも、対象領域がクリーンルーム内にある場合には、クリーンルームに存在するSUSなどの鏡面物質を考慮すると、低コストかつ信頼性が高い超音波センサを用いることが好ましい。超音波センサは、超音波を送信し、障害物から反射されて戻ってくるエコーを探知することで障害物を検出するセンサである。なお、障害物検出部11として、障害物に接触したことを検出するバンパセンサなどを設けても良い。また、対象領域が倉庫内である場合には、ダンボールが置かれている可能性があることを考慮すると、RiDARセンサを用いることが好ましい。障害物検出部11は、障害物を検出すると障害物を検出した旨の信号を、制御部200に送信する。
【0051】
(報知部)
報知部12は、移動装置1の動作状態を使用者に知らせるための出力を行う構成部である。報知部12は、例えば、光を発光する発光部12aと、音声信号を出力する音声出力部12bを採用することができる。ただし、制御部200に接続されたディスプレイなどの出力部Oに、移動装置1の動作状態を表示する場合、出力部Oを報知部12として捉えて良い。
【0052】
発光部12aは、LED(Light Emitting Diode)、LD(Laser Diode)等により構成される。発光部12aは、図2に示す通り、移動装置1の表面部に取り付けることが好ましい。発光部12aは、制御部200側からの制御によって、移動装置1の動作状態に合わせた発光パターンで光を発光する。
【0053】
動作状態には、移動装置1が移動している走行状態、移動装置1がマーカ機Mを探索している探索状態、移動装置1がマーカ機Mを発見した発見状態、移動装置1に搭載されたロボットが動作している作業状態、移動装置1の前に障害物があるエラー状態、移動装置1が走行動作を完了した終了状態などの状態がある。
【0054】
音声出力部12bは、例えば、不図示のDAコンバーター、アンプ、スピーカー等含む。このような音声出力部12bは、音声信号をアナログの音声出力信号に変換してスピーカーから音声を出力する。音声出力部12bが出力する音声は、電子音、音楽、予め録音された人の音声などあって良い。音声出力部12bは、制御部200側からの制御によって、移動装置1の動作状態に合わせた音声を出力する。
【0055】
(モーションセンサ)
モーションセンサ13は、慣性センサ(3軸加速度センサと3軸角速度センサ)と3軸地磁気センサを組み合わせた9軸センサとすることができる。モーションセンサ13は、移動装置1が移動したときに生じる加速度を検出することが好ましく、少なくとも3軸加速度センサおよび3軸角速度センサを備えていれば良い。ただし、移動装置1の移動履歴取得に用いられるセンサであれば、いずれのセンサも採用できる。モーションセンサ13で検出された値は、制御部200に出力される。
【0056】
(制御部)
図3に示す通り、制御部200は、CPUやメモリを含み所定のプログラムで動作するコンピュータや専用の電子回路で構成されている。制御部200には、入力部Iや出力部Oが接続可能に構成されている。予め制御部200に設定されている情報を用いて移動装置1を制御する場合には、使用者は入力部Iを介した入力を行う必要はない。
【0057】
移動装置1は、使用者が動作開始ボタンBを押下したことを契機に動作開始し、それ以降は自動で走行動作を行う。そのため、使用者がマウスやキーボードなど入力部Iを介して操作を行う必要がない。また、報知部12により移動装置1の動作状態が理解できるため、ディスプレイなどの出力部Oを接続して、移動装置1の出力内容を確認する必要はない。移動装置1は、移動装置1の管理者が使用するために、入力部Iや出力部Oが接続可能に構成されていれば十分であると言える。ただし、使用者のために入力部Iや出力部Oを接続する構成を排除する意図はない。
【0058】
この制御部200は、移動装置1の制御装置として捉えることができる。また、制御部200の処理をコンピュータが実行する移動装置1の制御方法として捉えることもでき、制御方法の各処理をコンピュータに実行させる移動装置1の制御プログラムとして捉えても良い。なお、ハードウェアでの処理範囲や、プログラムを含むソフトウェアでの処理範囲に関しても適宜設定可能であり、特定の態様に限定されない。
【0059】
制御部200には、測距部D1、動作開始ボタンB、障害物検出部11、報知部12、移動機構102、およびモーションセンサ13が接続されている。また、制御部200は、記憶部201、移動履歴取得部202、マーカ機検出部203、測距制御部204、伝搬時間演算部205、距離演算部206、移動角取得部207、方向角度演算部208、駆動条件演算部209、移動機構制御部210、報知条件決定部211、および報知制御部212、を有する。
【0060】
(記憶部)
記憶部201は、移動装置1の走行動作に必要な各種の情報を記憶する記憶部である。記憶部201は、探索条件記憶部201a、探索順序記憶部201b、原地点記憶部201c、測距条件記憶部201d、移動履歴記憶部201e、移動角記憶部201f、原地点距離記憶部201g、移動点距離記憶部201h、方向角度記憶部201i、走行動作記憶部201j、報知条件記憶部201kを含む。
【0061】
(探索条件記憶部)
探索条件記憶部201aは、移動装置1がマーカ機Mを探索するための探索条件を記憶する記憶部である。探索条件は、移動装置1を移動させて、移動装置1の測距部D1とマーカ機Mの測距部D2が通信可能となる位置を探索する条件である。例えば、探索条件は、移動装置1の動作がスタートされた時に、移動装置1を1m前進させるような条件である。ただし、移動装置1の動作スタート時点で、測距部D1と測距部D2が通信可能な状態である場合には、探索条件に基づく移動装置1の移動は省略可能である。
【0062】
例えば探索条件として1m前進が記憶されている場合、前進距離が1mに満たなくとも、測距部D1と測距部D2が通信可能な状態となった時点で移動装置1の前進を停止するような条件を含んでも良い。なお、移動装置1は、マーカ機Mを探索するために必ずしも1m前進する必要はなく、前進距離は任意に設定可能である。また、移動装置1の探索動作は前進に限定されず、円形の進路を進む旋回であっても良い。
【0063】
探索条件記憶部201aは、複数の探索条件を記憶していても良い。例えば、第1の探索条件として20cm前進が記憶され、第2の探索条件として1m前進を記憶することができる。第2の探索条件は、第1の探索条件より探索範囲を広げるような条件とすると良い。第1の探索条件でマーカ機Mが検出されない場合には、第2の条件により再度マーカ機Mの探索を行うように構成できる。
【0064】
(探索順序記憶部)
探索順序記憶部201bは、移動装置1が複数のマーカ機Mを探索する順序を示す情報が記憶されている。順序情報は、例えば、探索順序として1を有するマーカ機Mから、昇順で探索順序として10を有するマーカ機Mまで探索を行うというような情報である。探索順序を示す情報としては、数字やアルファベットなど任意の文字や記号を用いることができる。
【0065】
(原地点記憶部)
原地点記憶部201cは、原地点Pを記憶するための記憶部である。原地点Pとは、探索条件記憶部201aに記憶されている探索条件および探索順序記憶部201bに記憶されている順序情報に基づく探索で、移動装置1がターゲットとなるマーカ機Mを発見した位置を意味する。ターゲットとなるマーカ機Mが発見されると、マーカ機Mの方向角度を演算するために、移動装置1は移動を開始する。原地点記憶部201cは、移動装置1が移動を行った後に、原地点Pに回帰可能となるように原地点Pに関する情報を記憶すればよい。
【0066】
例えば、移動装置1の移動履歴として移動距離や移動角を記憶することで、原地点Pに回帰可能となるように構成することも、原地点Pを記憶していると解釈可能である。また、移動装置1を中心座標とする、例えば1×1m程度の大きさのマップを生成し、中心座標(x0、y0)を原地点Pとして記憶しても良い。この場合には、マップ上における移動点の座標を記憶する構成とすることもできる。
【0067】
(測距条件記憶部)
測距条件記憶部201dは、移動装置1がターゲットとなるマーカ機Mを発見した場合に、このマーカ機Mまでの距離を測距部Dにより計測する測距条件を記憶する記憶部である。具体的な測距条件の例を、図4(a)~(c)を用いて説明する。図4(a)~(c)では、原地点Pからマーカ機Mまでの計測距離Rを点線の矢印で示す。また、図4(a)~(c)では、移動点bからマーカ機Mまでの計測距離rのみを二点鎖線の矢印で示し、他の移動点における計測距離rについては図示を省略する。
【0068】
測距条件記憶部201dには、原地点測距条件が記憶されている。原地点測距条件は、原地点Pにおいて移動装置1からマーカ機Mまでの距離を計測する条件である。移動装置1がターゲットとなるマーカ機Mを発見すると、この原地点測距条件に基づき、移動装置1を原地点Pから移動させること無く、測距部D1および測距部D2による距離計測を行うよう構成されている。
【0069】
また、測距条件記憶部201dには、移動点測距条件も記憶されている。移動点測距条件は、測距部D1を複数の移動点に移動させて、移動装置1からマーカ機Mまでの距離を計測する条件である。移動点測距条件は、移動装置1を移動させて測距部D1を移動する条件であっても良いし、測距部D1のみを移動させる条件であっても良い。移動点測距条件は、例えば、原地点Pから等間隔に、移動装置1を前後に移動させてマーカ機Mまでの距離を計測するというような条件である。複数の移動点は、少なくとも2点の移動点とするが、3点以上の移動点があるとマーカ機Mの方向角度の演算精度をより高めることができる。以下の説明では、移動点に符号を付けない場合には、各移動点を総称していることを意味する。
【0070】
図4(a)に示す例は、2点の移動点a、bにおいて測距を行う場合の移動点測距条件の一例である。この場合、移動点測距条件として、移動装置1が所定距離前進して移動してから、移動装置1からマーカ機Mまでの距離を計測する条件が記憶されている。移動装置1が所定距離前進して至る点を移動点aとする。また、移動点aにおける測距の後に、移動装置1が原地点Pに戻り所定距離後進して移動してから、移動装置1からマーカ機Mまでの距離を計測する条件が記憶されている。移動装置1が所定距離後進して至る点を移動点bとする。図4の例では、原地点Pから各移動点a、bまでの移動距離は等距離としているが、各移動点a、bまでの移動距離が異なっていても良い。
【0071】
UWBを測距波とする場合、原地点Pから移動点までの距離は、少なくとも20cm以上とすると良い。原地点Pから移動点までの距離は、長ければ長いほど演算誤差は少なくなって良いが、対象領域の面積や障害物の有無などにより移動装置1の移動可能範囲が制限される場合もある。原地点Pから移動点までの距離を少なくとも20cm確保できれば、誤差を十分に低減できるためマーカ機Mの方向角度の演算結果が良好となる。また、原地点Pから移動点までの距離が20cmを下回る場合には、移動点の数を増やすことで、マーカ機Mの方向角度の演算精度を高めることが可能となる。
【0072】
図4(b)に示す例は、4点の移動点a、b、c、dにおいて測距を行う場合の移動点測距条件の一例である。移動装置1が移動点aおよびbに至る移動点測距条件は、上記図4(a)の場合と同一であって良い。それに加えて、移動点測距条件として、移動点bにおける測距の後に、移動装置1が原地点Pに戻り所定距離左進して移動してから、移動装置1からマーカ機Mまでの距離を計測する条件が記憶されている。移動装置1が所定距離左進して至る点を移動点cとする。同様に、移動点測距条件として、移動点cにおける測距の後に、移動装置1が原地点Pに戻り所定距離右進して移動してから、移動装置1からマーカ機Mまでの距離を計測する条件が記憶されている。移動装置1が所定距離右進して至る点を移動点dとする。
【0073】
図4(c)に示す例は、8点の移動点a’、b’、c’、d’、e’、f’、g’、h’において測距を行う場合の移動点測距条件の一例である。8点の移動点は、半円20cmの円周上において等間隔に存在するように設定されている。この場合、移動点測距条件として、移動装置1が所定距離である20cm前進して移動してから、移動装置1からマーカ機Mまでの距離を計測する条件が記憶されている。移動装置1が所定距離前進して至る点を移動点a’とする。次に、移動点測距要件として、移動装置1が原地点Pを円心とする同一円周上を旋回して移動することで移動点b’、c’、d’、e’、f’、g’、h’のそれぞれに順次至り、各移動点において、移動装置1からマーカ機Mまでの距離を計測する条件が記憶されている。
【0074】
なお、図4(a)および(c)の例では、移動装置1が前後左右に進むものとして説明したが、図4(c)の例のように、移動装置1が同一円周上を旋回して各移動点に至るような移動点測距条件であっても良い。反対に、図4(c)の例でも、移動装置1が前後左右に移動を繰り返すことで各移動点に至るような移動点測距条件とすることもできる。移動点の数は、2以上であればいくつあっても良い。例えば同一円周上を移動しながら随時測距を行うような移動点測距条件も採用可能である。また、必ずしも原地点Pの周囲に移動点を設定する必要はない。例えば原地点Pから前進し続け、1mごとに移動点を設けても良い。
【0075】
(移動履歴記憶部)
移動履歴記憶部201eは、移動履歴取得部202が取得した、移動装置1の移動履歴を記憶する記憶部である。移動履歴とは、回転数取得部102aにより取得された走行部101の車輪の回転数やモーションセンサ13が検出した値などから演算される、移動装置1の移動距離や回転角度等の移動情報である。
【0076】
(移動角記憶部)
移動角記憶部201fは、移動角取得部207が取得した移動点における移動角θiを記憶する記憶部である。移動角記憶部201fは、各移動点について取得された移動角θiをそれぞれ記憶する。
【0077】
(原地点距離記憶部)
原地点距離記憶部201gは、距離演算部206により検出された、原地点Pにおける移動装置1からマーカ機Mまでの計測距離Rを記憶する記憶部である。
【0078】
(移動点距離記憶部)
移動点距離記憶部201hは、距離演算部206により検出された、移動点における移動装置1からマーカ機Mまでの計測距離riを記憶する記憶部である。移動点距離記憶部201hは、各移動点において計測された計測距離riをそれぞれ記憶する。
【0079】
(方向角度記憶部)
方向角度記憶部201iは、方向角度演算部208により演算された、マーカ機Mの方向角度を記憶する記憶部である。移動装置1からマーカ機Mへの方向角度は、原地点Pからの方向角度であっても良いし、移動装置1の現在位置からの方向角度であっても良い。
【0080】
(走行動作記憶部)
走行動作記憶部201jは、マーカ機Mにおける移動装置1の走行動作が記憶される記憶部である。例えば、走行動作記憶部201jには、探索順序記憶部201bに記憶されている順序情報に対応して走行動作が関連づけられて記憶されている。例えば、順序情報1~5では、所定の動作を行い、次のマーカ機Mを探して移動するというような走行動作を記憶できる。また、順序情報6では、所定の動作を行った後、処理を終了するというような走行動作を記憶できる。
【0081】
走行動作記憶部201jは、順序情報に対応する走行動作以外の走行動作を記憶可能に構成されている。例えば、障害物検出部11が障害物を検出した場合には、直ちに移動装置1の走行を停止する、というような走行動作を記憶することができる。また、検出された障害物が除去された場合には、移動装置1の走行を再開するというような走行動作を記憶して良い。
【0082】
(報知条件記憶部)
報知条件記憶部201kは、報知部12である発光部12aの発光パターンや音声出力部12bの出力パターンを、移動装置1の駆動条件に関連付けた報知条件として記憶する記憶部である。すなわち、報知条件記憶部201kは、移動装置1の複数の動作状態に対して、それぞれ報知条件を記憶している。報知条件記憶部201kが記憶する報知条件の一例を、以下の表1に示す。
【表1】
【0083】
表1に記載の通り、報知条件は、移動装置1の動作状態に対して報知部12がどのような報知動作を行うかを予め登録したものである。発光部12aに関しては、発光する色、点灯態様、点灯時間等を記憶すると良い。音声出力部12bに関しては、出力する音声、音量、繰り返し回数、出力時間等を記憶すると良い。音声は、メロディー、人間の声、電子音等、種々の音声を採用することができる。
【0084】
(移動履歴取得部)
移動履歴取得部202は、移動装置1の移動履歴を取得する処理部である。具体的には、移動履歴取得部202は、予め入力されている車輪の半径や車輪距離等の情報を利用し、車輪の回転数から移動装置1の移動距離や回転角度等の移動情報を演算可能に構成されている。移動履歴取得部202は、回転数取得部102aから得た車輪の回転数に基づいて、例えば原地点記憶部201cに記憶されている原地点Pを基準とした場合の、移動装置1の移動情報を演算可能に構成されている。
【0085】
車輪の回転数で測位を行う場合、例えば床の摩擦等により回転数あたりの進む距離が変化する可能性がある。そこで、移動履歴取得部202は、車輪の回転数に加え、例えば、モーションセンサ13が検出した加速度を用いて移動情報を演算するように構成しても良い。移動履歴取得部202は、加速度を積分することにより移動装置1の移動情報を求めることができる。このモーションセンサ13で検出した値による移動情報の演算結果を反映することで、車輪の回転数のみの場合に比べて、移動情報の演算の精度が高まる。
【0086】
具体的には、車輪の回転数がモーションセンサ13の値より大きい場合には、モーションセンサ13の値を使用することで、車輪の空転による誤差をなくすことができる。また、車輪の回転数がモーションセンサ13の値より小さい場合には、車輪の回転数の値を使用することで、モーションセンサ13の誤差や異常値をフィルタリングすることができる。移動履歴取得部202は、取得した移動履歴を移動履歴記憶部201eに記憶する。
【0087】
(マーカ機検出部)
マーカ機検出部203は、測距部D1を制御し、ターゲットとなるマーカ機Mを検出する処理部である。移動装置1は、探索条件記憶部201aに記憶されている探索条件および探索順序記憶部201bに記憶されている順序情報に基づいて、ターゲットとなるマーカ機Mの探索を開始する。このとき、マーカ機検出部203は、測距部D1が、マーカ機検出動作を行うように制御する。
【0088】
マーカ機検出動作とは、測距部D1が、ターゲットとなるマーカ機Mの測距部D2と通信可能となっているか否かを確認する動作である。例えば、マーカ機検出部203は、測距部D1を、順序情報として1を有するマーカ機Mに応答を要求するように制御する。順序情報として1を有するマーカ機Mの測距部D2から、測距部D1が応答を得た場合、マーカ機検出部203は、ターゲットとなるマーカ機Mが検出されたと判断する。なお、通信可能な測距部D2を発見してから、この測距部D2の順序情報を確認する構成としても良い。
【0089】
(測距制御部)
測距制御部204は、測距条件記憶部201dに記憶されている測距条件に基づいて、測距部D1を制御し、移動装置1とターゲットとなるマーカ機Mの間の距離を演算するための測距波の時間情報を取得する処理部である。マーカ機検出部203により、ターゲットとなるマーカ機Mが検出されると、原地点Pにおいて、測距制御部204は、測距部D1が、測距動作を少なくとも1回行うように制御する。ただし、測距動作は複数回実行し、以下に説明する伝搬時間tpの平均値を求めることで、測距精度が高まる。
【0090】
測距動作とは、測距部D1とターゲットとなるマーカ機Mの測距部D2との間で測距波の送受信を行う動作である。例えば、図5に示す通り、測距部D1は、測距部D2に測距波を送信し、この測距波を受信した測距部D2は返信測距波を測距部D1に対して送信するように構成して良い。測距波および返信測距波の送受信は、各測距部Dのローカル発振器のクロックに基づいて行われる。例えば送信動作をするときのローカル発振器の時刻を送信時刻、受信動作をするときのローカル発振器の時刻を受信時刻として用いる。測距制御部204は、原地点測距条件および移動点測距条件に基づき、原地点Pおよび複数の移動点で測距動作を行うように測距部D1を制御する。測距制御部204は、測距動作により得られた測距波の時間情報を、伝搬時間演算部205に出力する。
【0091】
本実施形態では、制御のしやすさを考慮して測距部D1が測距動作を行うように構成している。ただし、測距部D2が測距動作を行う構成とすることもできる。その場合には、測距部D2は、測距部D1に測距波を送信し、この測距波を受信した測距部D1は返信測距波を測距部D2に対して送信するように構成して良い。また、測距動作において双方向の測距波の送受信を必ず行う必要はない。
【0092】
(伝搬時間演算部)
伝搬時間演算部205は、測距動作における測距部D1および測距部D2の測距波の送受信における時間関係に基づいて、測距波の伝搬時間tを求める演算部である。伝搬時間演算部205は、以下の数1および2に記載の方程式を用いて、伝搬時間tを求める。伝搬時間演算部205は、測距動作を複数回実行した場合には、各測距動作における伝搬時間tを求め、伝搬時間tの平均値を算出して良い。伝搬時間演算部205は、演算により求めた伝搬時間tを、距離演算部206に出力する。
【0093】
(数1)
(数2)
上記数1および2における各変数は、以下の通りである。
2R:測距部D2からの返信測距波を測距部D1が受信した時刻(測距部D1のクロックに基づく)
2T:測距部D2が返信測距波を送信した時刻(測距部D2のクロックに基づく)
1R:測距部D1からの測距波を測距部D2が受信した時刻(測距部D2のクロックに基づく)
1T:測距部D1が測距波を送信した時刻(測距部D1のクロックに基づく)
o:測距部D1のクロックと測距部D2のクロックの間の時間オフセット
【0094】
(距離演算部)
距離演算部206は、伝搬時間演算部205が求めた伝搬時間tを用いて、移動装置1からマーカ機Mまでの距離を求める演算部である。距離演算部206は、原地点Pにおいて求められた伝搬時間tを用いて、計測距離Rを演算する。また、距離演算部206は、各移動点において求められた伝搬時間tを用いて、計測距離rを演算する。距離演算部206により演算された計測距離Rは、原地点距離記憶部201gに記憶される。距離演算部206により演算された、各移動点における計測距離rは、移動点距離記憶部201hに記憶される。
【0095】
距離演算部206は、以下の数3を用いて、距離を演算する。
(数3)
距離=光速×伝搬時間t
【0096】
(移動角取得部)
移動角取得部207は、移動履歴から各移動点の移動角θiを取得する処理部である。本例では、移動履歴記憶部201eに記憶されている移動履歴は、原地点Pにおける移動装置1の任意の0°方向に対する各移動点の移動角θiの情報を含むとして説明する。図6(a)および(b)を用いて、移動履歴に含まれる移動角θiの取得例について説明する。移動装置1の0°方向は、任意に設定可能であるが、図6(a)および(b)の例では、原地点Pにおける移動装置1の正面方向を0°方向として設定している。移動角取得部207は、移動履歴記憶部201eに記憶されている移動履歴から、同一の0°方向に対する各移動点の移動角θiを取得する。このように、移動角θは、移動装置1が、各移動点で測距を行う際に取得される移動履歴から得られる。
【0097】
図6(a)の例では、移動装置1の0°方向に対する移動点bの移動角θiは、180°となる。図6(b)の例では、移動装置1の0°方向に対する移動点h’の移動角θiは、315°となる。移動角取得部207が取得した、各移動点の移動角θiは、移動角記憶部201fに記憶される。
【0098】
(方向角度演算部)
方向角度演算部208は、マーカ機Mの方向角度φを求める演算部である。本例では、原地点Pにおいて、移動装置1の0°方向に対するマーカ機Mの方向角度φを求める。方向角度に用いる移動装置1の0°方向は、移動角取得部207が用いた0°方向と同一とする。図7に、方向角度φの一例を図示する。方向角度演算部208は、原地点距離記憶部201gに記憶されている計測距離Rと、移動点距離記憶部201hに記憶されている計測距離rと、移動角記憶部201fに記憶されている移動角θiを用いて、方向角度φを演算する。具体的には、方向角度演算部208は、下記数4~6を用いて、方向角度φを求める。
【0099】
(数4)
(数5)
(数6)
【0100】
なお、方向角度演算部208がマーカ機Mの方向角度φに用いる数式は上記数4~数6に限定されるものではない。上記数4~数6は、原地点Pにおいて、移動装置1の任意の0°方向に対するマーカ機Mの方向角度φを求めるための数式である。また、数4~数6を用いるには、測距部D1を移動装置1の筐体100bの回転中心の位置に配置することも条件の一つとなる。すなわち、方向角度演算部208は、測距部D1の配置を加味した数式を用いて方向角度φを演算しても良い。
【0101】
また、方向角度演算部208は、例えば、移動装置1が複数の移動点における測距を全て終了した時点の移動装置1の現在位置から、マーカ機Mの方向角度φを求めるような演算を行うことも可能である。いずれの場合であっても、方向角度演算部208は、少なくとも計測距離rと、移動角θiを用いることで、マーカ機Mの方向角度φを算出可能である点が、移動システムの特徴点であると言える。方向角度演算部208が算出した方向角度φは、方向角度記憶部201iに記憶される。
【0102】
(駆動条件演算部)
駆動条件演算部209は、移動機構102を駆動する駆動条件を計算する演算部である。移動装置1の動作が開始されたとき、駆動条件演算部209は、探索条件記憶部201aに記憶されている探索条件に基づいて、移動機構102を駆動する条件を演算する。また、移動装置1がマーカ機Mを発見した場合には、駆動条件演算部209は、測距条件記憶部201dに記憶されている原地点測距条件および移動点測距条件に基づいて、移動機構102を駆動する条件を演算する。
【0103】
さらに、駆動条件演算部209は、原地点距離記憶部201gに記憶されている計測距離Rと、方向角度記憶部201iに記憶されている方向角度φを用いて、移動装置1が原地点Pからマーカ機Mに至るために移動機構102を駆動する条件を演算する。このとき、駆動条件演算部209は、移動点における測距を全て終了した時点の移動装置1の現在位置から、原地点Pを経由してマーカ機Mに至るような駆動条件を演算して良い。駆動条件演算部209は、決定した駆動条件を、移動機構制御部210および報知条件決定部211に出力する。
【0104】
(移動機構制御部)
移動機構制御部210は、駆動条件演算部209が決定した駆動条件に基づいて、移動機構102を制御する処理部である。移動機構制御部210は、駆動条件に基づいて、移動機構102に駆動信号を出力する。
【0105】
(報知条件決定部)
報知条件決定部211は、駆動条件演算部209が決定した駆動条件に基づいて、報知部12を制御する条件を決定する処理部である。報知条件決定部211は、報知条件記憶部201kに記憶されている報知条件を参照し、入力された駆動条件に対応する報知条件を決定する。報知条件決定部211は、決定した報知条件を、報知制御部212に出力する。
【0106】
(報知制御部)
報知制御部212は、報知条件決定部211が決定した報知条件に基づいて、報知部12を制御する処理部である。報知制御部212は、決定された報知条件に基づいて、報知部12に報知信号を出力する。
【0107】
[動作]
本実施形態の移動システムの動作を以下に説明する。移動システムの使用者は、移動装置1の動作をスタートする前に、任意の数のマーカ機Mを対象領域内の任意位置に配置する。複数のマーカ機Mを用いる場合には、移動システムの管理者は、移動装置1に対して、入力部Iを介して、マーカ機Mの探索に用いる順序情報を入力して良い。ただし、探索順序は、移動装置1の探索順序記憶部201bに予め記憶されているものを用いても良いため、この入力作業は必須ではない。
【0108】
(移動装置の動作)
移動装置1の動作について、図8のフローチャートを用いて以下に説明する。移動装置1の動作開始に際し、使用者が行うオペレーションは、移動装置1の動作を開始するための動作開始ボタンBを押下することのみである。なお、以下の例では、3点の移動点を移動して、移動装置1の原地点Pに対するマーカ機Mの方向角度を演算する場合を例に説明する。
【0109】
使用者により移動装置1の動作が開始されると、駆動条件演算部209は、探索条件記憶部201aに記憶されている探索条件に基づいて、移動機構102を駆動する条件を決定する。探索条件が、移動装置1を1m前進させるような条件である場合、移動装置1は、その場で前進を行うように制御される。このとき、マーカ機検出部203は、測距部D1が、マーカ機検出動作を行うように制御し、探索順序記憶部201bに記憶されている順序情報に基づいて、ターゲットとなるマーカ機Mの測距部D2と測距部D1が通信可能となっているか否かを確認する。(ステップS01)ターゲットとなる測距部D2と通信ができない場合(ステップS02 NO)移動装置1は、探索条件に基づいてマーカ機Mの探索を続ける。
【0110】
測距部D1がターゲットとなる測距部D2と通信可能となると(ステップS02 YES)、原地点記憶部201cが移動装置1の現在位置を原地点Pとして記憶する(ステップS03)。測距制御部204は、測距部D1が測距動作を行うように制御し、ターゲットとなるマーカ機Mの測距部D2との間で測距波の送受信を行う(ステップS04。)
【0111】
測距動作が終了すると、移動装置1の制御部200は、原地点Pにおける移動装置1からマーカ機Mまでの計測距離Rを演算する(ステップS05)。具体的には、伝搬時間演算部205は、測距動作における測距部D1および測距部D2の測距波の送受信における時間関係に基づいて、原地点Pにおける測距波の伝搬時間tを求める。そして、距離演算部206は、原地点Pにおいて求められた伝搬時間tを用いて、計測距離Rを演算する。
【0112】
原地点距離の演算が終了すると、駆動条件演算部209は、測距条件記憶部201dに記憶されている移動点測距条件に基づいて、移動機構102を駆動する条件を決定する。移動点測距条件が、移動装置1を原地点Pから3点の移動点に移動させて、移動装置1からマーカ機Mまでの距離を計測する条件である場合、駆動条件演算部209は、順次移動点に移動して測距を行うような駆動条件を決定する(ステップS06)。
【0113】
移動点への移動が完了すると、測距制御部204は、測距部D1が測距動作を行うように制御し、移動点において、ターゲットとなるマーカ機Mの測距部D2との間で測距波の送受信を行う(ステップS07。)測距動作が終了すると、移動装置1の制御部200は、移動点における移動装置1からマーカ機Mまでの計測距離rを演算する(ステップS08)。具体的には、演算方法は、上記原地点Pにおける計測距離Rの演算と同様である。
【0114】
また、移動角取得部207は、移動装置1の移動履歴から、移動装置1の任意の0°方向に対する各移動点の移動角θiを取得する(ステップS09)。ステップS06~09は、最後の移動点における演算が終了するまで繰り返される(ステップS10 NO)。最後の移動点での演算が終了すると(ステップS10 YES)、方向角度演算部208は、計測距離Rと、各移動点における計測距離rと、各移動点における移動角θiを用いて、方向角度φを演算する(ステップS011)。
【0115】
方向角度φの演算が終了すると、駆動条件演算部209は、原地点距離記憶部201gに記憶されている計測距離Rと、方向角度記憶部201iに記憶されている方向角度φを用いて、移動装置1が原地点Pからマーカ機Mに至るために移動機構102を駆動する条件を演算する(ステップS12)。移動機構制御部210が、駆動条件演算部209が決定した駆動条件に基づいて、移動機構102を制御することにより移動装置1はターゲットとなるマーカ機Mに移動する(ステップS13)。
【0116】
なお、移動装置1がマーカ機Mの近傍に移動した後に、走行動作記憶部201jに記憶されている走行動作を行っても良い。例えば、順序情報として1を有するマーカ機Mの走行動作として、環境測定を行い、次の数字のマーカ機Mを探して移動することが記憶されている。その場合には、環境測定などの所定の動作を行う(ステップS14)。
【0117】
このマーカ機Mが処理終了の走行動作を有するマーカ機Mではない場合(ステップS15 NO)探索順序に基づき、マーカ機Mの順序情報を2にインクリメントし(ステップS16)、ステップS01に戻る。このマーカ機Mが処理終了の走行動作を有するマーカ機Mの場合(ステップS15 YES)、移動装置1は処理を終了する。
【0118】
(報知動作)
上記の移動装置1の動作説明においては、説明を省略したが、駆動条件演算部209は決定した駆動条件を、報知条件決定部211に出力している。そして、報知条件決定部211は、駆動条件演算部209が決定した駆動条件に基づいて、報知部12を制御する条件を決定し、報知制御部212に出力する。報知制御部212は、決定された報知条件に基づいて、報知部12に報知信号を出力するため、発光部12aおよび音声出力部12bは、移動装置1の動作状態に合わせた報知を行う。
【0119】
[作用効果]
以上のような本実施形態の移動装置1の作用効果は、以下の通りである。
(1)外部の測距部と通信可能に設けられた第1の測距部D1と、装置本体を移動させる移動機構102と、制御部200と、を有する移動装置1であって、移動装置1の制御部200は、移動機構102の移動履歴を取得する移動履歴取得部202と、測距部D1を複数の移動点に移動させ、各移動点において、測距部D間の距離を計測する移動点測距条件を記憶する測距条件記憶部201dと、移動点測距条件に基づいて、各移動点にいて測距部D間の距離を求める距離演算部206と、移動履歴から、任意の方向に対する各移動点の移動角を取得する移動角取得部207と、各移動点における測距部D間の距離と、各移動点における移動角と、を用いて、外部の測距部の方向角度を演算する方向角度演算部208と、を有する。
【0120】
従来の位置推定システムでは、対象領域に配置された位置が既知である3以上の固定機を用いて、対象領域内を移動する移動機の位置を推定することは可能であった。この場合には、予め対象領域のマップ等を作成し、座標系において3以上の固定機の位置を把握する必要があった。
【0121】
本実施形態の移動装置1では、移動装置1の測距部D1が、複数の移動点に移動し、例えば外部の測距部であるマーカ機Mの測距部D2と測距動作を行うことで、各移動点における測距部D間の距離として移動点距離を求める。また、各移動点に移動した際の移動履歴を用いて、任意の方向に対する各移動点の移動角を求める。これらの移動点距離と移動角を用いて演算を行うことで、測距部D2の方向角度を演算することができる。測距部D1と測距部D2の間の距離は測距動作により既知となっているため、測距部D2の方向角度を演算することにより、移動装置1により測距部D2の相対位置を求めることが可能となる。
【0122】
このような移動装置1を使用者が用いる場合には、外部の測距部として測距部D2を含むマーカ機Mを所望の位置に配置するだけで、移動装置1がマーカ機Mの相対位置を求めることができる。マーカ機Mの方向角度演算完了後に移動装置1が行う動作は種々想定されるが、例えば、移動点距離と方向角度を用いて、移動装置1をマーカ機Mの近傍に移動させることもできる。移動装置1の使用者が行うことは、マーカ機Mの配置のみであることから、移動装置1により、移動装置1の使用者の設定負担を大幅に軽減することができる。
【0123】
また、従来の移動装置では、マップを予め規定する必要があるため、登録したマップ外の領域において移動装置が移動することができなかった。しかし、本実施形態の移動装置1では、マップ等の制限を受けず、測距部D間の通信可能範囲であれば、移動装置1を移動させることが可能である。なお、移動装置1の初期位置で測距部D間の通信ができない場合であっても、移動装置1を探索中に移動させることで測距部D間の通信が可能となれば測距部D間の通信可能範囲を超える移動が可能であることは言うまでもない。
【0124】
(2)測距条件記憶部201dは、第1の測距部D1が外部の測距部と通信可能となった原地点Pにおいて、測距部D間の距離を計測する原地点測距条件をさらに記憶し、距離演算部206は、原地点測距条件に基づいて、原地点Pにおける測距部D間の距離をさらに求め、方向角度演算部208は、各移動点における測距部D間の距離と、各移動点における移動角と、原地点Pにおける測距部D間の距離と、を用いて、原地点Pに対する外部の測距部の方向角度を演算する。
【0125】
上記の通り、従来の移動装置では、対象領域全域のマップを予め登録し、移動装置の位置と目的地の位置を対象領域のマップ上で把握し、移動装置の走行経路を決定するのが一般的であった。広い範囲のマップを登録すると、走行経路の決定において制御部は膨大な演算処理を行う必要が生じ、演算に時間を要していた。これを解決するには、高性能なコンピュータを移動装置に搭載する必要があった。
【0126】
原地点Pにおいて測距動作を行うことで、原地点Pに対する外部の測距部の方向角度を演算することができる。原地点Pに対する方向角度の演算は上記数4~6に記載されている通り、最もシンプルな演算で行うことが可能となる。原地点Pから外部の測距部への距離は、原地点距離の演算で既知となっているため、原地点Pに対する方向角度の演算することにより、原地点Pに対する外部の測距部の相対位置を求めることが可能となる。原地点Pを用いた演算をする場合であっても、移動装置1の動作開始前に使用者が行うことがマーカ機Mの配置のみであることに変わりはない。そのため、使用者の負担に加え、演算負荷を軽減させた移動装置1を提供することができる。
【0127】
(3)移動装置1の制御部200は、方向角度演算部208が演算した方向角度と、距離演算部206が演算した移動点における測距部D間の距離または原地点における測距部D間の距離に基づいて、移動装置1が外部の測距部に至るように移動機構102を駆動する条件を演算する駆動条件演算部209、をさらに含む。
【0128】
従来の移動装置では、マップの設定など熟練した管理者による移動装置の設定が不可欠であった。また、移動機と固定機の通信のみによって、移動機を、例えば固定機の近傍などの所望の場所に移動させることもできなかった。すなわち、固定機は移動装置の位置推定の為にのみ用いられるため、移動機の移動の制御を行うには、別の構成要素が必要であった。
【0129】
本実施形態では、上記の移動装置1の演算結果として得られる方向角度と、移動点距離または原地点距離を用いて駆動条件が演算可能であり、移動装置1を外部の測距部に向かって移動させることが可能となる。そのため、移動装置1の使用者は、移動装置1を移動させたい場所に、外部の測距部としてのマーカ機Mを配置するだけで、移動装置1の走行ルートを設定可能であると言える。つまり、移動装置1の使用者が単独で所望の走行ルートを迅速かつ容易に設定することが可能となる。
【0130】
(4)マーカ機Mを複数含み、各マーカ機Mは、それぞれの探索順序を示す情報を有し、
移動装置1の制御部200は、移動装置1が複数のマーカ機Mを探索する順序を示す情報を記憶する探索順序記憶部201bをさらに含む。
【0131】
本実施形態の移動システムでは、マーカ機Mとして、それぞれ異なる探索順序情報を含むマーカ機Mを複数採用することができる。使用者は、所望の探索順序となるようにマーカ機Mを対象領域に配置し、移動装置1の走行動作を開始するという容易な手順で、移動装置1について、より複雑な走行ルートを設定することが可能となる。
【0132】
(5)移動装置1の走行動作を記憶する走行動作記憶部201jをさらに含み、駆動条件演算部209は、走行動作に応じて、移動装置1の駆動条件を計算する。
【0133】
移動装置1について種々の走行動作を記憶することで、例えば、移動装置1に搭載されたロボットの制御や、移動装置1の走行停止などを行わせることが可能となる。従って、使用者は、移動装置1の動作開始ボタンBを押下した後に現場を離れても良く、使用者の負担をさらに軽減することができる。
【0134】
(6)移動装置1は、移動装置1の動作状態を知らせるための出力を行う報知部12と、報知部12の出力パターンと、移動装置1の駆動条件と、を関連付けた報知条件を記憶する報知条件記憶部201kと、駆動条件演算部209が決定した駆動条件に基づいて、報知部12を制御する条件を決定する報知条件決定部211と、をさらに含む。
【0135】
上述の通り、使用者が移動装置1の動作開始ボタンBを押下したことを契機に、移動装置1は自動で走行動作を行う。動作中の移動装置1を見るだけでは、移動装置1がどのような動作状態にあるかを、使用者が把握することが難しい。そこで、移動装置1に報知部12を設け、移動装置1の動作状態に合わせて所定の出力パターンにて出力することで、使用者が移動装置1の動作状態を容易に把握することが可能となる。
【0136】
(7)第1の測距部D1および第2の測距部D2は、UWBを用いて測距を行う。
【0137】
上記数4~6に示す通り、第2の測距部D2の方向角度の演算には、各移動点における計測距離rが用いられる。そのため、計測距離rの誤差が大きくなると、演算される方向角度の誤差も大きくなる。以上より、測距部D間の測距精度は高い方が好ましい。測距波として電波を採用する場合には、UWBを用いることで測距精度を高めることができる。UWBを用いる場合には、移動装置1が半径20cm程度の円周を動けば測距精度が高まるため、対象領域のスペースにより移動装置1の移動範囲が制限を受ける場合に特に好ましいと言える。もちろん、半径20cmを超えて、移動装置1が大きく動けば誤差のパーセンテージがより小さくなるので、その分精度は良くなる。
【0138】
[第2の実施形態]
第2の実施形態に係る移動装置1について図面を参照しつつ説明する。なお、第1の実施形態の移動装置と同一の構成、機能については同一の符号を付してその説明は省略する。まず、図9に示す通り、移動装置1の制御部200は、さらに、移動中距離記憶部201l、移動距離演算部213、距離比較判定部214、および再演算指令部215を含む。
【0139】
また、測距条件記憶部201dには、さらに移動中測距条件が記憶されている。移動中測距条件とは、移動装置1が、駆動条件演算部209が演算した駆動条件に基づいてマーカ機Mへの移動を開始してから、移動装置1の移動中に移動装置1からマーカ機Mまでの距離を計測する条件である。移動装置1がターゲットとなるマーカ機Mへの移動を開始すると、この移動中測距条件に基づき、測距部D1および測距部D2による距離計測を行うよう構成されている。
【0140】
移動中の測距のタイミングは、例えば10秒経過毎に1回測距する、というような条件であっても良い。他にも、移動履歴取得部202が有する移動履歴を用いて移動装置1が20cm進むごとに一回測距するように構成することもできる。また、時間や距離に関係なく、随時測距を行い続けるような構成とすることもできる。
【0141】
移動装置1の移動中は、測距制御部204は、移動中測距条件に基づき、測距部D1が測距動作を行うように制御する。伝搬時間演算部205および距離演算部206により、上記実施形態と同様に、移動装置1の移動中におけるマーカ機Mまでの距離を求める。距離演算部206により演算された、移動中における計測距離r’は、移動中距離記憶部201lに記憶される。
【0142】
移動距離演算部213は、移動中の移動装置1の移動距離を演算する処理部である。移動距離演算部213は、移動履歴記憶部201eに記憶されている移動装置1の移動情報を用いて、例えば原地点Pを基準とした場合の、移動中の移動装置1の移動距離を演算する。移動距離演算部213は、マーカ機Mに向かって移動を開始した時点の移動装置1の位置を始点とし、その始点からの移動距離を演算するように構成すれば良い。なお、移動距離の演算は、移動履歴取得部202が行ってもよい。その場合には移動履歴取得部202が移動距離演算部213を含んでいると見做すことができる。
【0143】
距離比較判定部214は、移動距離演算部213が演算した移動装置1の移動距離と、移動中距離記憶部201lに記憶された計測距離r’を比較し、移動装置1の移動距離と計測距離r’に乖離があるか否かを判定する処理部である。例えば、移動装置1とマーカ機Mまでの距離が1mである場合、移動装置1の移動距離が80cmであれば、移動中の計測距離r’は20cmとなる。このとき、図10に示す模式図のように、方向角度演算部208が演算した方向角度φに誤差が生じていた場合には、例えば、移動装置1の移動距離が80cmであるにも関わらず、移動中の計測距離r’から算出した移動装置1とマーカ機Mの間において短縮した距離は60cmというような誤差が生じる。
【0144】
距離比較判定部214は、移動装置1の移動距離と、計測距離r’との間に例えば20cm以上の誤差がある場合、移動装置1の移動距離と計測距離r’に乖離があると判定し、その旨を再演算指令部215に通知する。ただし、上記の誤差は測距波としてUWBを用いた場合の誤差であり、測距条件により、許容可能な誤差は適宜設定可能である。
【0145】
再演算指令部215は、距離比較判定部214からの通知に基づいて、移動中の移動装置1の現在位置からマーカ機Mまでの方向角度φ’を演算するように、駆動条件演算部209に指令を出力する処理部である。駆動条件演算部209は、測距条件記憶部201dに記憶されている原地点測距条件および移動点測距条件を用いて、移動機構102を駆動する条件を演算する。方向角度φ’の演算処理は上記実施形態と同様のため、具体的な説明は省略するが、例えば、移動中の移動装置1の現在位置を原地点Pに記憶し直して、上記実施形態のステップS03~S13の処理を各構成部に実行させればよい。
【0146】
以上説明した通り、第2の実施形態に係る移動装置1では、測距条件記憶部201dは、駆動条件演算部209が演算した駆動条件に基づいて外部の測距部への移動を開始した移動装置1の移動中に測距部D間の距離を計測する移動中測距条件をさらに記憶し、距離演算部206は、移動中測距条件に基づいて、移動中における測距部D間の距離をさらに求め移動装置1の制御部200は、移動機構102の移動履歴に基づいて、移動中の移動装置1の移動距離を演算する移動距離演算部213と、移動距離演算部213が演算した移動装置1の移動距離と、移動中における測距部D間の距離を比較し、移動装置1の移動距離と、移動中における測距部D間の距離に乖離があるか否かを判定する距離比較判定部214と、距離比較判定部214の判定に基づいて、移動中の移動装置1の現在位置から外部の測距部までの方向角度を演算させる指令を出力する再演算指令部215をさらに含む。
【0147】
第2の実施形態の移動システムでは、マーカ機Mに向かって移動を開始した移動装置1の移動距離と、移動中の測距部D間の計測距離r’を比較することで、移動装置1が本来進むべき方向に進んでいるか否かを判定可能となる。距離比較判定部214により、最初に求めた方向角度φに誤差が生じているか可能性があると判断した場合には、移動中の移動装置1の現在位置から、マーカ機Mまでの方向角度φ’を再度演算することで、移動装置1をより確実にマーカ機Mの近傍に移動させることが可能となる。したがって、移動装置1が最初に求めた方向角度φに誤りがあったとしても、使用者が走行ルートの補正などを行う必要がないため、使用者の設定負担をさらに軽減した移動装置1を提供することができる。
【0148】
[第3の実施形態]
第3の実施形態に係る移動装置1について図面を参照しつつ説明する。なお、上記実施形態の移動装置と同一の構成、機能については同一の符号を付してその説明は省略する。まず、図11に示す通り、第2の実施形態と同様に、測距条件記憶部201dが移動中測距条件を記憶し、移動装置1の制御部200が移動中距離記憶部201lを含む。移動中測距条件および移動中距離記憶部201lについては上記と同様のため説明は省略する。これに加え、本実施形態の移動装置1の制御部200は、マーカ機推定部216、進路変更部217、マーカ機判断部218をさらに含む。
【0149】
マーカ機推定部216は、移動中距離記憶部201lに記憶されている移動中における計測距離r’を用いて、マーカ機Mの位置を推定する演算部である。マーカ機推定部216は、複数の計測距離を用い、それぞれの計測距離を半径とする円の交差点から、マーカ機Mの位置を推定することができる。演算に用いる複数の計測距離は、原地点Pにおける計測距離Rと、移動中の計測距離r’であって良い。また、複数の測距点で複数の移動中の計測距離r’を取得して演算に用いても良い。なお、移動点における計測距離r’を用いる構成を排除しない。マーカ機推定部216は2以上の計測距離があればマーカ機Mの位置を推定可能であるが、3以上の計測距離を用いることでマーカ機Mを絞り込むことができる。さらに、計測距離を4以上とすることで、推定精度を高めることが可能となる。
【0150】
例えば、図12(a)に示すとおり、移動中測距条件に基づいて、測距点P1および測距点P2においてそれぞれ演算された計測距離r’が移動中距離記憶部201lに記憶されているとする。また、移動中距離記憶部201lには、測距点P1から測距点P2へ移動装置1が移動した際の走行距離も記憶されている。そして、マーカ機推定部216は、これらの距離情報を用いて、測距点P1、測距点P2、マーカ機Mを頂点とした、2つの三角形の三辺の長さx、y、zを把握する。
x:測距点P1における、測距部D間の距離
y:測距点P2における、測距部D間の距離
z:測距点P1と測距点P2の距離
【0151】
ここで余弦定理より、y=x+z-2xz cosθが成り立つ。この式を組み替えると、cosθ=(x-y+z)/(2xz)となる。逆三角関数を用いて表現すればarc cos(x-y+z)/(2xz)=θとなり、(x-y+z)/(2xz)を解くことで、マーカ機推定部216は、マーカ機角度θを求める。図12(a)の例では、マーカ機推定部216は、マーカ機M1とマーカ機M2をマーカ機Mの位置として推定する。
【0152】
進路変更部217は、移動中の移動装置1の移動方向を変更する処理部である。進路変更部217は、移動装置1の移動方向に対して、左右どちらかに移動装置1の移動方向を変更させる駆動条件を演算するよう駆動条件演算部209に指令を出す。進路変更後の移動装置1の移動方向は、左右のどちらであっても良い。図12(b)には、右に進路変更した場合の移動装置1の測距点P3と、左に進路変更した場合の移動装置1の測距点P4と、を示す。測距点P3またはP4に到達すると、移動中測距条件に基づいて、測距部D間の距離が計測される。
【0153】
マーカ機判断部218は、マーカ機推定部216が推定したマーカ機Mのから真のマーカ機Mを判断する演算部である。マーカ機判断部218は、進路変更後の測距点における移動中の計測距離r’に基づいて、真のマーカ機Mを判断する。マーカ機判断部218は真のマーカ機Mが判断すると、駆動条件演算部209に、真のマーカ機Mに向かって計測距離r’分進むような駆動条件を演算させる。
【0154】
例えば、図12(b)に示すように、マーカ機M1が真のマーカ機Mで合った場合、測距点P3における計測距離r’は、測距点P2における計測距離r’より短くなる。すなわち、移動装置1が真のマーカ機Mに近づいていることが分かる。この場合、マーカ機判断部218は、マーカ機M1が真のマーカ機Mであると判断する。
【0155】
一方、マーカ機M2が真のマーカ機Mであれば、測距点P4における計測距離r’は、測距点P2における計測距離r’より短くなるはずである。しかし、測距点P4における計測距離r’は、測距点P2における計測距離r’より長くなる。つまり、マーカ機M2は偽のマーカ機Mであることが明らかとなる。図12(b)に示すとおり、測距点P4における計測距離r’を半径とする円を用いた交差点にマーカ機M2は位置しないことからも、マーカ機M2が偽であることは明らかである。よって、マーカ機判断部218は、マーカ機M1が真のマーカ機Mであると判断する。
【0156】
上記の説明では、移動後の測距点P3またはP4における計測距離r’と、測距点P2における計測距離r’とを比較して、真のマーカ機Mを判断する構成とした。ただし、測距点P1から測距点P2における距離の縮まり方と、測距点P2から測距点P3またはP4における距離の縮まり方と、を比較して決定することも出来る。距離の縮まり方とは、移動装置1からマーカ機M1までの距離が縮まる速度を意味する。例えば、測距点P1から測距点P2における距離の縮まり方と比較して、測距点P2から測距点P4における距離の縮まり方が遅かった場合には、マーカ機M1が真のマーカ機M1であると判断する。
【0157】
以上説明した通り、第3の実施形態に係る移動装置1では、測距条件記憶部201dは、駆動条件演算部209が演算した駆動条件に基づいて外部の測距部への移動を開始した移動装置1の移動中に測距部D間の距離を計測する移動中測距条件をさらに記憶し、距離演算部206は、移動中測距条件に基づいて、移動中における測距部D間の距離をさらに求め、移動装置1の制御部200は、移動中における測距部D間の距離を用いて、マーカ機の位置を推定するマーカ機推定部216と、移動中の移動装置1の移動方向を変更する進路変更部217と、進路変更部217が移動装置1の進路を変更した後の移動中における測距部D間の距離に基づいて、真のマーカ機Mを判断するマーカ機判断部218と、をさらに含む。
【0158】
第3の実施形態の移動システムでは、マーカ機Mに向かって移動を開始した移動装置1の移動中の測距部D間の計測距離r’を用いて、マーカ機Mの位置を推定することができる。そして、進路変更部217が進路を変更した後の、測距部D間の計測距離r’に基づいて、推定されたマーカ機Mから、真のマーカ機Mを判断することが可能となる。したがって、移動装置1が最初に求めた方向角度φが正しいか否かを判断しながら、移動装置1を確実にマーカ機Mの近傍に移動させることが可能となる。よって、使用者が走行ルートの補正などを行う必要がないため、使用者の設定負担をさらに軽減した移動装置1を提供することができる。
【0159】
なお、上記第1~第3の実施形態を組み合わせて、距離比較判定部214により、最初に求めた方向角度φに誤差が生じているか可能性があると判断した場合に、再演算指令部215の指令によりマーカ機Mまでの方向角度φ’を再度演算する代わりに、マーカ機推定・進路変更・マーカ機判断を行っても良い。この場合にも、移動装置1が最初に求めた方向角度φに誤りがあったとしても、移動装置1を確実にマーカ機Mの近傍に移動させることが可能となる。
【0160】
[第4の実施形態]
第4の実施形態に係る移動装置1について図面を参照しつつ説明する。なお、上記実施形態の移動装置と同一の構成、機能については同一の符号を付してその説明は省略する。図13に示す通り、移動装置1の制御部200は、再演算指令部215に加え、最接近点判定部219をさらに含む。まず、最初に演算した方向角度φに基づいて、移動装置1は前進を続ける。このときも、移動装置1は、移動中測距条件に基づいて、移動中における測距部D間の距離を計測している。
【0161】
最接近点判定部219は、移動中距離記憶部201lに記憶されている移動中における計測距離r’を用いて、移動装置1がマーカ機Mに最も近づいた点である最接近点PMを判定する演算部である。例えば当初の方向角度φに誤差がなければ、最接近点PMはマーカ機Mの位置となる。一方、図14に示すとおり、例えば当初の方向角度φに誤差がある場合、移動中における測距部D間の距離は徐々に縮まり、最も小さい値に達し、再び増加傾向に転じる事となる。この場合、移動中における測距部D間の距離が最も小さい値であった位置が、最接近点PMとなる。
【0162】
最接近点判定部219は、移動中における測距部D間の距離が縮み傾向から最接近点PMに至った後に伸長傾向に転じた場合、駆動条件演算部209に判定した最接近点PMに移動装置1を移動させるような駆動条件を演算させる。また、最接近点判定部219の出力を送信し、再演算指令部215は、最接近点MPからマーカ機M1までの方向角度φ’を演算するように、駆動条件演算部209に指令を出力する。駆動条件演算部209は、測距条件記憶部201dに記憶されている原地点測距条件および移動点測距条件を用いて、移動機構102を駆動する条件を演算する。
【0163】
以上説明した通り、第4の実施形態に係る移動装置1では、測距条件記憶部201dは、駆動条件演算部209が演算した駆動条件に基づいて外部の測距部への移動を開始した移動装置1の移動中に測距部D間の距離を計測する移動中測距条件をさらに記憶し、距離演算部206は、移動中測距条件に基づいて、移動中における測距部D間の距離をさらに求め、移動装置1の制御部200は、移動中における測距部D間の距離を用いて、移動装置1が外部の測距部に最も近づいた点である最接近点PMを判定する最接近点判定部219と、最接近点判定部219の判定に基づいて、最接近点PMから外部の測距部までの方向角度を演算させる指令を出力する再演算指令部215をさらに含み、移動中における測距部D間の距離が縮み傾向から、最接近点PMに至った後に、伸長傾向に転じた場合に、再演算指令部215が指令を出力するよう構成される。
【0164】
第2の実施形態に記載した、移動中の距離差に基づく方向角度の誤差判断は、方向角度の誤差または移動装置1の移動距離が大きい場合に有利となる誤差判定方法である。一方方向角度の誤差や移動装置1の移動距離が小さい場合には、移動中の距離差を判断できない可能性もある。このような場合に、移動装置1は当初の方向角度に進み続けるため、マーカ機Mに到達できない可能性が生じる。
【0165】
第4の実施形態の移動装置1では、最接近点判定部219を設けている。当初の方向角度φに向かって移動中の測距部D間の距離が縮み傾向から、最接近点PMに至った後に、伸長傾向に転じた場合、移動装置1がマーカ機Mに到達できなかったと判断することが可能となる。この場合には、最接近点PMを原地点Pとして、マーカ機Mまでの方向角度φ’を再度演算することで、移動装置1をより確実にマーカ機Mの近傍に移動させることが可能となる。したがって、移動装置1が最初に求めた方向角度φに誤りがあったとしても、使用者が走行ルートの補正などを行う必要がないため、使用者の設定負担をさらに軽減した移動装置1を提供することができる。
【0166】
[第5の実施形態]
第5の実施形態に係る移動装置1について図面を参照しつつ説明する。なお、上記実施形態の移動装置と同一の構成、機能については同一の符号を付してその説明は省略する。図15に示す通り、移動装置1の制御部200は、回避動作記憶部201m、接触範囲判定部220を更に含む。また、測距条件記憶部201dは、移動装置1は、ターゲットとなるマーカ機M以外のマーカ機Mと測距を行う接触回避測距条件をさらに含む。移動システムとして複数のマーカ機Mを用いる場合には、この接触回避測距条件に基づき、ターゲットとなるマーカ機M以外のマーカ機Mについても、測距部D1および測距部D2による距離計測を行うよう構成されている。
【0167】
回避動作記憶部201mは、移動中の移動装置1が、マーカ機Mと接触することを防ぐための接触回避動作を記憶する記憶部である。例えば、順序情報として1を有するマーカ機Mへの移動完了後に、順序情報として2を有するマーカ機Mへ移動する場合などに、回避条件に基づく制御を行うことができる。駆動条件演算部209は、回避条件に基づいて、駆動条件を演算可能に構成されている。
【0168】
回避動作記憶部201mが記憶する回避条件としては、例えば、ターゲットとなるマーカ機Mへの移動を完了した後に、マーカ機Mへの方向角度φに対して-180°回転し所定距離を進んだ後に、+90°回転し所定距離を進む、というような条件である。このような条件を設定することにより、順序情報として1を有するマーカ機Mへの移動完了後に、順序情報として2を有するマーカ機Mへ移動する際に、移動装置1と順序情報として1を有するマーカ機Mが接触することを防止できる。回避条件は、移動装置1やマーカ機Mの実際の大きさを考慮の上、到達後のマーカ機Mに移動装置1が接触することを回避できるような条件を適宜選択可能である。
【0169】
回避動作記憶部201mは、ターゲットとなるマーカ機Mに向かって移動している最中に、移動装置1と他のマーカ機Mの間の距離が所定の範囲となった場合に、移動装置1の進路を変更し、所定距離前進するような回避条件を記憶していても良い。接触範囲判定部220は、移動中の移動装置1と他のマーカ機Mとの間の距離が接触可能範囲にあるか否かを判定する判定部である。接触可能範囲は、移動装置1やマーカ機Mの実際の大きさを考慮の上適宜設定可能である。
【0170】
接触範囲判定部220は、接触回避測距条件に基づいて測距の結果から、移動装置1の、例えば1m以内に他のマーカ機Mが存在するか否かを判定する処理部である。接触範囲判定部220が、移動装置1の接触可能範囲に他のマーカ機Mが存在すると判断した場合、回避条件に基づく接触回避動作を行い、接触回避動作の後の地点を原地点として、ターゲットとなるマーカ機Mの方向角度の演算を再度行う構成とすることができる。
【0171】
以上のような構成を有する第5の実施形態では、マーカ機Mが移動装置1と接触することを防止することが可能となる。したがって、移動システムの使用者が、マーカ機Mを配置する際に、移動装置1の走行ルート等を考慮する必要がなくなり、使用者の設定負担がより軽減される。
【0172】
[その他の実施の形態]
(1)上記実施形態で説明した通り、移動装置1は、所定の作業を行うロボットを載置することで、様々な動作を行う移動型作業ロボットとして構成することもできる。例えば、図2に示すように、室内の環境測定を行う測定ユニットを搭載することもできる。図2の例では、移動装置1の筐体100aの上に、さらにユニット用の筐体100bが設けられている。この筐体100bの中に、環境測定を行う測定ユニットが設けられている。
【0173】
また、筐体100bの上部には、筐体100bの内部とつながる円筒状のパイプ104が設けられている。測定ユニットは、パイプ104を介してユニット内に気体を導入し、環境測定を行うように構成されている。
【0174】
移動装置1に作業ロボットが搭載される場合には、移動装置1の制御部200および作業ロボットの双方が、制御信号の送受信が可能な通信部を有するように構成される。通信部は、無線通信を行っても良く、また有線通信であっても良い。移動装置1の通信部は、マーカ機Mごとに作業ロボット(ここでは測定ユニット)の通信部に作業開始信号を送信する。作業開始信号を受信した測定ユニットは、環境測定を開始する。
【0175】
環境測定が終わると、測定ユニットの通信部は、移動装置1の通信部に作業終了信号を送信する。作業終了信号を受信した移動装置1は、次のマーカ機Mに向けて移動を開始する。このように構成することで、所望の作業を行いつつ、走行経路を移動する移動型作業ロボットを得ることができる。このような移動型作業ロボットの使用者は、作業を行いたい位置にマーカ機Mを配置するだけで良いため、ロボットの技術者を介さずとも、容易かつ迅速に作業ルートの設定を行うことができる。
【0176】
(2)室内の環境測定を行う測定ユニットの一例としては、パーティクルカウンター、温湿度センサ、COセンサ、ガス濃度センサを組み込んだ測定ユニットがある。測定ユニットは、例えばパーティクルカウンターにより微粒子測定の結果に基づき、室内の清浄度を演算する演算部を含んでいて良い。測定ユニットは、自動で各測定結果を一覧表にまとめた測定結果報告書を作成するように構成され、この測定報告書を保存する記憶部を含んでいても良い。このような測定ユニットを移動装置1に搭載して移動型作業ロボットとすることで、従来作業者が測定プローブを持って対象室内を移動して行っていた環境測定を、自動で行うことが可能となる。人手で行う測定では、作業者自身からの発塵により室内を汚染させる可能性があるが、移動型作業ロボットを用いた測定を行う場合にはそのような汚染を低減できる。
【0177】
(3)上記実施形態では、駆動条件演算部209は、原地点距離記憶部201gに記憶されている計測距離Rと、方向角度記憶部201iに記憶されている方向角度φを用いて、移動装置1が原地点Pからマーカ機Mに至るために移動機構102を駆動する条件を演算することとした。ただし、駆動条件演算部209は移動装置1をマーカ機Mに移動させる以外の駆動条件を演算しても良い。例えば、移動装置1の位置は移動させずに、移動装置1から、計測距離Rと方向角度φを用いて、移動装置1からマーカ機M側にクレーンを伸ばして所定の作業を行うような駆動条件を演算しても良い。すなわち、計測距離Rと方向角度φを用いて実施可能なロボットの動作等に関して、駆動条件演算部209が駆動条件を演算する構成とすることができる。
【0178】
(4)上記実施形態では、特にUWBを用いる測距部Dについて説明しているが、上述の通り、測距波としては様々な電波、音、光等を採用することができる。例えば、Bluetooth(登録商標)による測距は、UWBと比較すると精度が高いとは言いにくい。十分な測距精度が得られない場合には、移動装置1の移動範囲が広がるように移動点を設定することで、測距の誤差を低減できる。また、多くの移動点で測距を行うことで、方向角度演算の精度を高めることができる。このように、採用する測距波によって、測距精度を高める工夫を凝らすことで、UWB以外の測距波であっても移動システムを実現することが可能となる。
【0179】
(5)上記実施形態では、測距部D1を移動装置1の筐体100の上面中央に配置し、移動装置1が移動点に移動する構成とした。ただし、移動装置1が移動していなくても、測距部D1を移動点に移動させることができれば、上記実施形態の移動システムを適用可能である。例えば、移動装置1の上面にターンテーブルを設け、ターンテーブルを回転させることで測距部D1を移動させても良い。同様に、移動装置1の上面にレールを設け、レール上を測距部D1が走行する構成とすることもできる。また、測距部D1を移動装置1の端部に配置すれば、移動装置1が回転動作をするだけで、測距部D1を移動点に移動させることができる。
【0180】
(6)上記実施形態では、移動装置1には動作開始ボタンBが設けられているが、移動装置1の緊急停止ボタンなど、他の動作ボタンを設けても良い。移動装置1は、動作開始ボタンBの押下により動作完了まで自動で走行動作が進められるため、使用者の意思で移動装置1の動作を停止することができない。そこで、移動装置1に緊急停止ボタンを設け、緊急停止ボタンが押下された場合には全ての走行動作を停止するように構成することが好ましい。また、緊急停止ボタンとしては、物理的なスイッチに加えて、制御部200にソフトスイッチを設けることもできる。
【符号の説明】
【0181】
M、M1、M2:マーカ機
1:移動装置
11:障害物検出部
12:報知部
12a:発光部
12b:音声出力部
13:モーションセンサ
100:筐体
100a:筐体
100b:筐体
101:走行部
102:移動機構
102a:回転数取得部
104:パイプ
200:制御部
201:記憶部
201a:探索条件記憶部
201b:探索順序記憶部
201c:原地点記憶部
201d:測距条件記憶部
201e:移動履歴記憶部
201f:移動角記憶部
201g:原地点距離記憶部
201h:移動点距離記憶部
201i:方向角度記憶部
201j:走行動作記憶部
201k:報知条件記憶部
201l:移動中距離記憶部
201m:回避動作記憶部
202:移動履歴取得部
203:マーカ機検出部
204:測距制御部
205:伝搬時間演算部
206:距離演算部
207:移動角取得部
208:方向角度演算部
209:駆動条件演算部
210:移動機構制御部
211:報知条件決定部
212:報知制御部
213:移動距離演算部
214:距離比較判定部
215:再演算指令部
216:マーカ機推定部
217:進路変更部
218:マーカ機判断部
219:最接近点判定部
220:接触範囲判定部
B:動作開始ボタン
D、D1、D2:測距部
S:支柱
I:入力部
O:出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15