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特開2024-143176液体及び固体粒子を含む混合物による配管閉塞の予測方法及び防止方法
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  • 特開-液体及び固体粒子を含む混合物による配管閉塞の予測方法及び防止方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143176
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】液体及び固体粒子を含む混合物による配管閉塞の予測方法及び防止方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 19/00 20060101AFI20241003BHJP
   G01N 3/32 20060101ALI20241003BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20241003BHJP
【FI】
G01N19/00 Z
G01N3/32 Z
G01M99/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055708
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(72)【発明者】
【氏名】橋元 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 翔太
(72)【発明者】
【氏名】渡部 雄太
【テーマコード(参考)】
2G024
2G061
【Fターム(参考)】
2G024AA21
2G024BA11
2G024CA11
2G024DA02
2G061AA01
2G061AA02
2G061AB06
2G061BA20
2G061CB04
2G061EA01
2G061EB05
2G061EC02
(57)【要約】
【課題】液体及び固体粒子を含む混合物を、簡便、迅速、系統的かつ定量的に評価して、配管閉塞を予測し防止することができる方法の提供。
【解決手段】液体及び固体粒子を含む混合物による配管閉塞を予測する方法は、混合物をプローブで圧縮荷重値に到達するまで圧縮する工程と、圧縮の後、プローブを初期位置に戻すときに、プローブに作用する引張最大荷重を測定する工程と、引張最大荷重の絶対値と圧縮荷重値の比(引張最大荷重の絶対値/圧縮荷重値)に基づいて、混合物による配管閉塞が生じるか否かを判定する工程と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体及び固体粒子を含む混合物による配管閉塞を予測する方法であって、
前記混合物をプローブで圧縮荷重値に到達するまで圧縮する工程と、
前記圧縮の後、前記プローブを初期位置に戻すときに、前記プローブに作用する引張最大荷重を測定する工程と、
前記引張最大荷重の絶対値と前記圧縮荷重値の比(引張最大荷重の絶対値/圧縮荷重値)に基づいて、前記混合物による配管閉塞が生じるか否かを判定する工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
テクスチャーアナライザーを用いて前記圧縮及び前記測定を実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記液体が有機溶媒を含み、前記固体粒子が無機塩を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記液体が有機金属化合物を更に含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記有機金属化合物がアルキルアルミニウムを含み、前記有機溶媒が炭素原子数8~16の脂肪族炭化水素を含み、前記無機塩が塩化マグネシウムを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
液体及び固体粒子を含む混合物による配管閉塞を防止する方法であって、
請求項1又は2に記載の方法の前記判定に基づいて、前記比が小さくなるように前記混合物の物性を変化させる工程を含む、方法。
【請求項7】
前記混合物の物性を変化させる工程が、前記混合物を溶媒で希釈する、又は前記混合物に含まれる溶媒を除去することを含む、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体及び固体粒子を含む混合物による配管閉塞の予測方法及び防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固形物は液体と比較して工業プロセスにおいてトラブルを引き起こしやすい。特に、液体及び固体粒子を含有する湿潤状態の混合物は、乾燥状態の固体粒子と比較して、付着、凝集、又は塊状化が生じ易い。そのため、このような湿潤状態の混合物は、配管、壁体等に付着して蓄積し、配管閉塞、ブリッジなどのトラブルを招き、その結果、工場の操業又は生産体制に大きな影響を与える場合がある。工場を安定的に操業するために、このような湿潤状態の混合物の性状を正確に把握することが求められている。
【0003】
固形物の性状を評価する方法として総合評価法が知られている(非特許文献1)。総合評価法は、(1)安息角、(2)圧縮度、(3)スパチュラ角、及び(4)凝集度の4項目を測定し、各項目の結果から総合的に固形物の性状を表す方法である。
【0004】
粉体の形状、粒度分布、比表面積、濡れ性等によっても粉体の性状が変化することから、力学的解析と分光学的解析とを組み合わせる方法が知られている(特許文献1及び特許文献2)。
【0005】
貯蔵容器、配管などに付着しやすい粉体の付着性を評価する方法として、粉体を円筒容器内に入れ、円筒容器を回転させ、粉体を排出した後に内壁に付着して残存した粉体の割合を測定する方法が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11-183355号公報
【特許文献2】特開2001-228075号公報
【特許文献3】特開2008-70342号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】粉体工学研究会誌、Vol.12、No.4、1975、p.209~216
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に、固形物の性状解析では複数の分析を組み合わせる必要があるため、測定及び解析すべき項目数が膨大となり、系統的かつ定量的なデータを迅速に取得することは困難であった。液体及び固体粒子を含む混合物の性状を評価する場合、一般に測定及び分析するための前処理(乾燥処理等)が必要となるため、湿潤状態で当該混合物の性状を把握することは困難であった。配管閉塞の要因である湿潤混合物の付着又は凝集は、固体粒子間にはたらくファンデルワールス力、静電気力、液架橋力が複雑に作用する。そのため、これらの項目を評価するだけでも長時間を要し、測定結果のばらつきを減らすために分析者の実験スキルも必要であった。したがって、配管閉塞を引き起こす湿潤状態の混合物による配管閉塞を予測することができる新たな手法が望まれている。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、液体及び固体粒子を含む混合物を、簡便、迅速、系統的かつ定量的に評価して、配管閉塞を予測し防止することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、液体及び固体粒子を含む混合物にプローブを接触させて圧縮した後、引張時の最大荷重を測定し、圧縮時の設定荷重と引張時の最大荷重の比に基づいて配管閉塞が生じるか否かを判定できることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本願は以下の発明を包含する。
[1]液体及び固体粒子を含む混合物による配管閉塞を予測する方法であって、
前記混合物をプローブで圧縮荷重値に到達するまで圧縮する工程と、
前記圧縮の後、前記プローブを初期位置に戻すときに、前記プローブに作用する引張最大荷重を測定する工程と、
前記引張最大荷重の絶対値と前記圧縮荷重値の比(引張最大荷重の絶対値/圧縮荷重値)に基づいて、前記混合物による配管閉塞が生じるか否かを判定する工程と、
を含む、方法。
[2]テクスチャーアナライザーを用いて前記圧縮及び前記測定を実施する、項目1に記載の方法。
[3]前記液体が有機溶媒を含み、前記固体粒子が無機塩を含む、項目1又は2に記載の方法。
[4]前記液体が有機金属化合物を更に含む、項目3に記載の方法。
[5]前記有機金属化合物がアルキルアルミニウムを含み、前記有機溶媒が炭素原子数8~16の脂肪族炭化水素を含み、前記無機塩が塩化マグネシウムを含む、項目4に記載の方法。
[6]液体及び固体粒子を含む混合物による配管閉塞を防止する方法であって、
項目1~5のいずれか一項に記載の方法の前記判定に基づいて、前記比が小さくなるように前記混合物の物性を変化させる工程を含む、方法。
[7]前記混合物の物性を変化させる工程が、前記混合物を溶媒で希釈する、又は前記混合物に含まれる溶媒を除去することを含む、項目6に記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、液体及び固体粒子を含む混合物を、簡便、迅速、系統的かつ定量的に評価して、配管閉塞を予測及び防止する方法が提供される。これにより、配管閉塞を予防又は抑止してプラントを安定的かつ効率的に操業することができ、配管のメンテナンス作業に係る運転員の作業負荷を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】トリメチルアルミニウムの製造プラントで副生する釜残のn-ドデカン含有率(横軸)と、引張最大荷重の絶対値と圧縮荷重値の比(縦軸)の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、液体及び固体粒子を含む混合物による配管閉塞の予測方法及び防止方法を提供する。一実施形態の液体及び固体粒子を含む混合物による配管閉塞を予測する方法は、
当該混合物をプローブで圧縮荷重値に到達するまで圧縮する工程と、
圧縮の後、プローブを初期位置に戻すときに、プローブに作用する引張最大荷重を測定する工程と、
引張最大荷重の絶対値と圧縮荷重値の比(引張最大荷重の絶対値/圧縮荷重値)に基づいて、当該混合物による配管閉塞が生じるか否かを判定する工程と、
を含む。
【0015】
液体及び固体粒子を含む混合物(以下、本開示において「湿潤混合物」ともいう。)は、ダイラタンシーなど複雑な流体挙動を示すことが知られている。湿潤混合物は、塊状、粘土状、クリーム状、ペースト状、スラリー状など様々な形態をとり、硬さ、脆さ、流動性、べたつき(stickiness)など様々な異なる物性を有する。配管閉塞には、湿潤混合物の様々な物性が複合して関与すると考えられる。例えば、湿潤混合物の流動性が高ければ、凝集せずに配管内を流れることができるため、配管閉塞は生じない。一方で、湿潤混合物のべたつきが低ければ、凝集物の形態であっても配管に付着せず、配管内を転がって移動及び落下できるため、配管閉塞は生じない。
【0016】
本発明者らは、配管閉塞の予測及び防止の観点から湿潤混合物を総合的に評価するための手法として、湿潤混合物にプローブを接触させて所定の荷重値(圧縮荷重値)まで湿潤混合物を圧縮し、その後、プローブを初期位置に戻すときにプローブに作用する引張最大荷重とを測定し、引張最大荷重の絶対値と圧縮荷重値の比に基づいて配管閉塞が生じるか否かを判定できることを見出した。いかなる理論に拘束される訳ではないが、配管閉塞に関係する付着力(adhesion)は、流動性及びべたつきが複合して関係する特性であり、引張最大荷重の絶対値と圧縮荷重値の比(引張最大荷重の絶対値/圧縮荷重値)は、湿潤混合物の付着力の大きさの指標として利用できると考えられる。この比が大きい場合、湿潤混合物の流動性が低くべたつきが大きいため、配管閉塞のリスクがより大きいと考えられる。そのため、前記比が所定の値を超えると配管閉塞の発生が予測される、所定の値以下であれば配管閉塞は発生しない、と判定することができる。
【0017】
湿潤混合物は、液体及び固体粒子を含むものであれば特に限定されない。湿潤混合物の液体として有機溶媒、水などの溶媒、及び前記溶媒に溶解した成分を含む溶液が挙げられる。有機溶媒としては、例えば、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、アルコール、エーテル、ケトン、エステル、スルホキシド及びアミドが挙げられる。固体粒子としては、例えば、金属、金属合金、無機塩、無機酸化物、無機窒化物、又は有機高分子を含む粒子が挙げられる。固体粒子の平均粒径は、特に限定されないが、例えば1μm~300μmである。固体粒子の平均粒径は、レーザー回折散乱法を用いて決定される累積体積中位径D50である。
【0018】
湿潤混合物中の液体の含有量は、特に限定されないが、例えば1質量%~99質量%である。
【0019】
一実施形態の湿潤混合物において、液体は有機溶媒を含み、固体粒子は無機塩を含む。液体は有機金属化合物を更に含んでもよく、有機金属化合物は有機溶媒に溶解していてもよい。有機金属化合物は、例えば、金属と有機ハロゲン化物を触媒の存在下、有機溶媒中で反応させることにより合成される。その際に、金属ハロゲン化物が無機塩として副生し、液相に有機金属化合物及び有機溶媒、固相に無機塩を含む粗生成物が得られる。粗生成物から有機金属化合物及び有機溶媒を蒸留により無機塩と分離することにより、無機塩を主成分とする残渣が生じる場合もある。これらの粗生成物及び残渣は、それらに含まれる有機溶媒の濃度によって、塊状、粘土状、クリーム状、ペースト状、スラリー状など性状が変化し、他の表面に対する付着性も変化する場合がある。本発明の予測方法により、有機溶媒及び任意に有機金属化合物を含む液体と、無機塩を含む固体粒子とを含む湿潤混合物による配管閉塞を予測することができる。
【0020】
有機金属化合物としては、例えば、アルキルアルミニウム、アルキルインジウム、及びアルキル亜鉛が挙げられる。有機溶媒としては、例えば、炭素原子数6~18の飽和脂肪族炭化水素、炭素原子数6~18の不飽和脂肪族炭化水素、及び炭素原子数6~20の芳香族炭化水素が挙げられる。
【0021】
この実施形態において、有機金属化合物はアルキルアルミニウムを含み、有機溶媒は炭素原子数8~16の脂肪族炭化水素を含み、無機塩は塩化マグネシウムを含むことが好ましい。例示的なトリメチルアルミニウム(TMAL)製造プラントでは、溶媒としてn-ドデカン中で、触媒の存在下、アルミニウムマグネシウム合金(固体)と塩化メチル(気体)とを反応させて、トリメチルアルミニウム及び副生物として塩化ジメチルアルミニウム(DMAC)を含む粗トリメチルアルミニウムを生成する反応工程、及び粗トリメチルアルミニウムに含まれる副生したDMACを同様の触媒存在下、アルミニウムマグネシウム合金と更に反応させて、トリメチルアルミニウムに還元する還元工程が実施される。反応工程及び還元工程のいずれにおいても無機塩である塩化マグネシウムが副生する。塩化マグネシウムは、反応工程後の粗蒸留及び還元工程後の精密蒸留における釜残に主成分として含まれる。釜残には一般に、有機溶媒であるn-ドデカン、蒸留時に残留したTMAL又はDMACも含まれる。ろ過によりn-ドデカンを分離した後のろ物をフィーダーにより次工程に輸送する際に、当該フィーダー内又はその下流のシュート内などでろ物による配管閉塞が生じる場合がある。本発明の予測方法は、TMALなどのアルキルアルミニウム製造プラントにおける配管閉塞の予測に好適に使用することができる。
【0022】
一実施形態では、湿潤化合物は、アルキルアルミニウムを0.1質量%~10質量%、炭素原子数8~16の脂肪族炭化水素を10質量%~60質量%、塩化マグネシウムを35質量%~70質量%、その他の成分を0~20質量%含む。
【0023】
湿潤混合物の圧縮、及び引張最大荷重の測定は、圧縮引張試験機を用いて行うことができる。圧縮引張試験機は、荷重を検知するセンサーであるロードセル、及びロードセルに取り付けられたプローブを備え、プローブで試料を圧縮したり引っ張ったりしたときに掛かる荷重を測定する装置である。圧縮又は引張の方向は、鉛直方向(重力方向)に沿っていてもよく、鉛直方向と0度超、90度以下の角度を成していてもよい。圧縮及び引張の方向がいずれも鉛直方向に沿っていることが好ましい。
【0024】
湿潤混合物をプローブで圧縮荷重値に到達するまで圧縮する工程では、荷重値は正の値として測定される。圧縮の後、プローブを初期位置に戻すときにプローブに作用する引張最大荷重を測定する工程では、引張最大荷重は負の値として測定される。そのため、引張最大荷重の絶対値が前記比の算出に使用される。
【0025】
圧縮引張試験機としては、テクスチャーアナライザーと呼ばれる装置を好適に使用することができる。テクスチャーアナライザーは、プローブで測定対象物に圧縮、引張などの荷重を掛けたときの、測定対象物の形状変化、歪などの時間分解測定が可能な装置である。様々な種類のプローブ及び測定対象物を収容する様々な種類の試料フォルダーを用いることにより、目的及び測定対象物の性状に応じた測定を行うことができる。テクスチャーアナライザーを用いた測定に掛かる時間は1分程度である。テクスチャーアナライザーは、食品及び医薬の分野において、官能評価などに使用できることは知られているが、配管を閉塞させるおそれのある湿潤混合物の評価に使用された例はこれまでにない。テクスチャーアナライザーを用いることにより、性状評価が困難であった湿潤混合物を簡便、迅速、系統的かつ定量的に評価することができる。
【0026】
測定装置及び測定条件は、湿潤混合物の組成及び性状、対象配管を含む装置又はプラントの仕様及び運転条件などに応じて、適宜設定することができる。圧縮荷重値は、湿潤混合物がプローブにより圧縮されて変形又は流動するが、プローブが湿潤混合物を貫通又は破壊しない値となるように設定することが好ましい。その他の測定条件の項目としては、例えば、プローブの形状、材質、並びに試料と接触する箇所の形状及び面積;試料フォルダーの形状、容積、径、及び深さ;プローブの下降速度(圧縮時)及び上昇速度(初期位置への復帰時);並びに測定温度が挙げられる。一実施形態では、圧縮荷重値は100gf~4,000gf、200gf~2,000gf、又は500gf~1,500gfの範囲内となるように設定される。
【0027】
例えば、テクスチャーアナライザーを用いた測定を、以下の装置及び条件で実施することができる。
測定装置:テクスチャーアナライザー(Brookfield製、製品名CT-3、荷重レンジ1.0g~10kg)
初期負荷荷重:10gf
圧縮荷重値:1,000gf
プローブ移動速度:1mm/s
プローブ:TA44(アクリル製、円筒型、38mmΦ×20mmH)
試料フォルダー:ステンレス製円筒型容器(44mmΦ×17mmH)
測定試料量:10g
測定温度:25℃
【0028】
上記装置及び条件は、トリメチルアルミニウム製造プラントで生じる釜残による配管閉塞について使用することができる。
【0029】
引張最大荷重の絶対値と圧縮荷重値の比(引張最大荷重の絶対値/圧縮荷重値)に基づいて、湿潤混合物による配管閉塞が生じるか否かを判定する工程では、前記比が所定値よりも大きいか小さいかによって配管閉塞の成否を判定する。この所定値は、実際に稼働している装置又はプラントにおいて配管閉塞を生じさせる湿潤混合物の前記比と、配管閉塞を生じさせない湿潤混合物の前記比とから、これらの値の間となるように適宜設定することができる。
【0030】
一実施形態では、前記比が所定値を超える場合に配管閉塞が発生するおそれがある、前記比が所定値以下の場合に配管閉塞が発生しない、と判定することができる。例えば、トリメチルアルミニウム製造プラントの配管閉塞を対象とする実施形態では、前記比が60%を超える場合に配管閉塞が発生するおそれがある、前記比が60%以下の場合に配管閉塞が発生しない、と判定することができる。配管閉塞が発生するおそれがあると判定された場合、警報の発報、装置又はプラントの運転の自動停止などを実行してもよい。
【0031】
一実施形態の液体及び固体粒子を含む混合物による配管閉塞を防止する方法は、前記予測方法の判定に基づいて、引張最大荷重の絶対値と圧縮荷重値の比(引張最大荷重の絶対値/圧縮荷重値)が小さくなるように当該混合物の物性を変化させる工程を含む。
【0032】
混合物の物性を変化させる工程としては、例えば、湿潤混合物を溶媒で希釈する、又は湿潤混合物に含まれる溶媒を除去することが挙げられる。湿潤混合物に含まれる溶媒の除去は、例えば、湿潤混合物の蒸留、ろ別、遠心分離などにより行うことができる。
【0033】
例えば、トリメチルアルミニウム製造プラントの配管閉塞を対象とする実施形態では、前記比が0~60%、好ましくは0~40%、より好ましくは0~20%の範囲に維持されるように、湿潤混合物にn-ドデカンが添加してn-ドデカン含有率を高めるか、上流工程において蒸留又はろ別により湿潤混合物からn-ドデカンを除去してn-ドデカン含有率を低下させることが好ましい。
【0034】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【0035】
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
【実施例0036】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0037】
液体及び固体粒子を含む混合物として、トリメチルアルミニウムの製造プラントで副生した塩化マグネシウムを主成分として含み、有機溶媒の含有率の異なる数種類の釜残を使用した。釜残の組成は、MgCl50質量%~60質量%、n-ドデカン(有機溶媒)23質量%~40質量%、AlMg合金5質量%~10質量%、トリメチルアルミニウム2質量%~4質量%、その他未同定の成分(残部)3質量%~6質量%の範囲であった。
【0038】
液体及び固体粒子を含む混合物の性状評価は、以下の装置及び条件を使用して行った。
測定装置:テクスチャーアナライザー(Brookfield製、製品名CT-3、荷重レンジ1.0g~10kg)
初期負荷荷重:10gf
圧縮荷重値:1,000gf
プローブ移動速度:1mm/s
プローブ:TA44(アクリル製、円筒型、38mmΦ×20mmH)
試料フォルダー:ステンレス製円筒型容器(44mmΦ×17mmH)
測定試料量:10g
測定温度:25℃
【0039】
液体及び固体粒子を含む混合物による配管閉塞については、当該混合物が生成する工程から別工程に移送する際に、配管径10~14インチ、傾斜45度のシュート内で配管閉塞が生じるか否かにより判断した。
【0040】
<実施例1>
試料フォルダーに、測定試料としてn-ドデカン含有率16.0質量%(湿料基準)の釜残を10g投入し、テクスチャーアナライザーのサンプル台に設置した。テクスチャーアナライザーのプローブを1mm/sの速度で下降させて、プローブが測定試料に接触しかつ10gfの初期荷重を加えた時点を測定開始時とした。1,000gfの圧縮荷重値に到達するまでプローブを下降させた後、1mm/sの速度でプローブを上昇させたときにプローブに作用した引張最大荷重を測定したところ、1gf(絶対値表記)であった。引張最大荷重の絶対値と圧縮荷重値の比(引張最大荷重の絶対値/圧縮荷重値)は0.1%であった。この釜残は、粘土状で部分的に塊状物を含んでおり、配管閉塞を生じさせなかった。
【0041】
<実施例2>
測定試料としてn-ドデカン含有率22.0質量%(湿量基準)の釜残を使用した以外は、実施例1に記載の手順で測定を行った。引張最大荷重は6gf(絶対値表記)であった。引張最大荷重の絶対値と圧縮荷重値の比(引張最大荷重の絶対値/圧縮荷重値)は0.6%であった。この釜残は、粘土状で部分的に塊状物を含んでおり、配管閉塞を生じさせなかった。
【0042】
<実施例3>
測定試料としてn-ドデカン含有率25.7質量%(湿量基準)の釜残を使用した以外は、実施例1に記載の手順で測定を行った。引張最大荷重は50gf(絶対値表記)であった。引張最大荷重の絶対値と圧縮荷重値の比(引張最大荷重の絶対値/圧縮荷重値)は5.0%であった。この釜残は、粘土状で部分的に塊状物を含んでおり、配管閉塞を生じさせなかった。
【0043】
<実施例4>
測定試料としてn-ドデカン含有率30.3質量%(湿量基準)の釜残を使用した以外は、実施例1に記載の手順で測定を行った。引張最大荷重は75gf(絶対値表記)であった。引張最大荷重の絶対値と圧縮荷重値の比(引張最大荷重の絶対値/圧縮荷重値)は7.5%であった。この釜残は、粘土状で部分的に塊状物を含んでおり、配管閉塞を生じさせなかった。
【0044】
<実施例5>
測定試料としてn-ドデカン含有率38.0質量%(湿量基準)の釜残を使用した以外は、実施例1に記載の手順で測定を行った。引張最大荷重は634gf(絶対値表記)であった。引張最大荷重の絶対値と圧縮荷重値の比(引張最大荷重の絶対値/圧縮荷重値)は63.4%であった。この釜残は、濃いクリーム状で粘着性を有しており、配管閉塞を生じさせた。
【0045】
<実施例6>
測定試料としてn-ドデカン含有率49.2質量%(湿量基準)の釜残を使用した以外は、実施例1に記載の手順で測定を行った。引張最大荷重は320gf(絶対値表記)であった。引張最大荷重の絶対値と圧縮荷重値の比(引張最大荷重の絶対値/圧縮荷重値)は32.0%であった。この釜残は、ペースト状で流動性を有しており、配管閉塞を生じさせなかった。
【0046】
<参考例1>
測定試料としてn-ドデカンを使用した以外は、実施例1に記載の手順で測定を行った。この例では、プローブが測定試料を貫通して試料フォルダーに接触したため、1,000gfの圧縮荷重値に到達するまでプローブを下降させて試料フォルダーに荷重を掛けた後、プローブを上昇させた。引張最大荷重は0gf(絶対値表記)であった。
【0047】
実施例1~実施例6及び参考例1の結果を以下の表1にまとめる。図1にn-ドデカン含有率(横軸)と引張最大荷重の絶対値と圧縮荷重値の比(縦軸)の関係(黒丸)をグラフで示す。図1には参考例1の値(n-ドデカン含有率100質量%)も黒四角で示す。
【0048】
【表1】
【0049】
図1から明らかなように、n-ドデカン含有率(湿量基準)に応じて引張最大荷重の絶対値と圧縮荷重値の比は顕著に変化した。特に、n-ドデカン含有率が約40質量%のときに当該比が最大(60%超)となり、配管閉塞が発生した。したがって、当該比を60%以下となるようにトリメチルアルミニウムの製造プラントを稼働させることにより、釜残による配管閉塞を防止することができる。例えば、トリメチルアルミニウムの製造プラントの稼働中に釜残の当該比が60%に近づいてきたら、釜残にn-ドデカンを添加する、又はろ過条件などを変更して釜残からn-ドデカンをより多く除去することにより、釜残に含まれるn-ドデカンの含有率を変化させ、これにより配管閉塞を防止することができる。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、使用する装置、材料、各種条件等は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
図1