(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143199
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】眼科用顕微鏡装置
(51)【国際特許分類】
A61F 9/007 20060101AFI20241003BHJP
A61B 3/13 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A61F9/007 200C
A61B3/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055741
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 和広
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA01
4C316AA09
4C316FB11
4C316FB12
4C316FC12
4C316FY01
4C316FY05
(57)【要約】
【課題】眼科手術において後眼部像を観察する際、後眼部像の観察視野を狭くすることなく、患者の顔の一部への干渉や手術器具への干渉を防止する眼科用顕微鏡装置を提供すること。
【解決手段】眼科用顕微鏡装置Aは、被検眼Eを観察する観察光学系40を備え、眼科手術において後眼部像をモニタ装置8により観察する際に対物レンズ20と被検眼Eの間の位置に前置レンズ21を配置する。前置レンズ21は、円形広角凸レンズの外周領域の一部分を切除することにより形成したレンズ切除部21eを有する広角凸レンズ部21aを含む。レンズ切除部21eは、モニタ装置8に映し出される後眼部像のうち、モニタ画面81の画面形状による制限を受けて表示領域から外れるモニタ非表示領域部分と対応関係にあるレンズ領域部分に設定する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼を観察する観察光学系を備え、眼科手術において後眼部像をモニタ装置により観察する際に対物レンズと前記被検眼の間の位置に前置レンズを配置する眼科用顕微鏡装置であって、
前記前置レンズは、円形凸レンズの外周領域の一部分を切除することにより形成したレンズ切除部を有する凸レンズ部を含み、
前記レンズ切除部は、前記モニタ装置に映し出される前記後眼部像のうち、モニタ画面の画面形状による制限を受けて表示領域から外れるモニタ非表示領域部分と対応関係にあるレンズ領域部分に設定する
ことを特徴する眼科用顕微鏡装置。
【請求項2】
請求項1に記載された眼科用顕微鏡装置において、
前記レンズ切除部は、前記モニタ非表示領域部分に一致する円形レンズ領域の一部分形状からマージンを持たせて狭い面積にしたレンズ領域部分に設定する
ことを特徴する眼科用顕微鏡装置。
【請求項3】
請求項2に記載された眼科用顕微鏡装置において、
前記凸レンズ部は、円形広角凸レンズの外周領域を直線状にカットすることにより形成した円弧と弦に囲まれた形状の前記レンズ切除部を有する広角凸レンズ部である
ことを特徴する眼科用顕微鏡装置。
【請求項4】
請求項3に記載された眼科用顕微鏡装置において、
前記モニタ装置は、前記モニタ画面の画面形状が、上下方向の縦幅寸法より左右方向の横幅寸法が長い長方形状であり、
前記レンズ切除部は、画面表示の制限を受ける上下方向の画像領域部分に対応する上下両方を直線状にカットした形状に設定する
ことを特徴する眼科用顕微鏡装置。
【請求項5】
請求項4に記載された眼科用顕微鏡装置において、
前記前置レンズは、前記広角凸レンズ部のレンズフレーム部に一体に形成され、前記対物レンズと被検眼の間の位置に配置した状態で垂直方向に延びるレンズフレーム支持部を設け、
前記レンズフレーム支持部は、前記広角凸レンズ部のうち前記レンズ切除部に対応する位置に配置する
ことを特徴する眼科用顕微鏡装置。
【請求項6】
請求項4に記載された眼科用顕微鏡装置において、
前記前置レンズは、前記広角凸レンズ部のレンズフレーム部に一体に形成され、前記対物レンズと被検眼の間の位置に配置した状態で垂直方向に延びるレンズフレーム支持部を設け、
前記レンズフレーム支持部は、前記広角凸レンズ部のうち円弧状部分に対応する位置に配置する
ことを特徴する眼科用顕微鏡装置。
【請求項7】
請求項3に記載された眼科用顕微鏡装置において、
前記モニタ装置は、前記モニタ画面の画面形状が、上下方向の縦幅寸法より左右方向の横幅寸法が長い長方形状であり、
前記レンズ切除部は、画面表示の制限を受ける上方向の画像領域部分に対応する上側だけを直線状にカットした形状に設定する
ことを特徴する眼科用顕微鏡装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼科用顕微鏡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被検眼を観察する観察光学系を有する眼科用顕微鏡に用いる前置レンズ装置において、前記観察光学系の光軸と略平行な回転軸を中心に回転する前置レンズ支持体と、前記前置レンズ支持体を回転させる駆動部と、前記前置レンズ支持体に取り付けた少なくとも2つの前置レンズとを有し、前記前置レンズ支持体を回転させることにより、前記観察光学系の光路上に挿入される前置レンズを入れ替えることができる前置レンズ装置が知られている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、眼科手術において後眼部像を観察する際に前置レンズを使用する。前置レンズは複数種類があり、広い範囲を見たいときは広角レンズ、見たいポイントを決めて解像力を上げてみるときは、狭い範囲のレンズを使用する。特に広角で後眼部像を観察したい場合は、被検眼との距離を極力近づけることで、広域の観察を可能とする。
【0005】
しかし、前置レンズとして円形の広角レンズを配置し、後眼部像を観察する場合、被検眼との距離が、例えば、1mm程度というように極めて近い位置になり、患者の顔の一部への干渉や手術器具への干渉が問題となる。この回避案として、円形の前置レンズの外径サイズを小さくすることで干渉を防止しているが、前置レンズの外径サイズを小さくする分、後眼部像の観察視野が狭くなってしまう、という課題がある。
【0006】
本開示は、上記課題に着目してなされたもので、眼科手術において後眼部像を観察する際、後眼部像の観察視野を狭くすることなく、患者の顔の一部への干渉や手術器具への干渉を防止する眼科用顕微鏡装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本開示の眼科用顕微鏡装置は、被検眼を観察する観察光学系を備え、眼科手術において後眼部像をモニタ装置により観察する際に対物レンズと前記被検眼の間の位置に前置レンズを配置する。前記前置レンズは、円形凸レンズの外周領域の一部分を切除することにより形成したレンズ切除部を有する凸レンズ部を含む。前記レンズ切除部は、前記モニタ装置に映し出される前記後眼部像のうち、モニタ画面の画面形状による制限を受けて表示領域から外れるモニタ非表示領域部分と対応関係にあるレンズ領域部分に設定する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の眼科用顕微鏡装置では、レンズ切除部が、モニタ非表示領域部分と対応関係にあるレンズ領域部分に設定される。このため、レンズの外径サイズを縮小することなく、眼科手術においてレンズ切除部を干渉が問題になる部分に合わせて配置できる。よって、眼科手術において後眼部像を観察する際、後眼部像の観察視野を狭くすることなく、患者の顔の一部への干渉や手術器具への干渉を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1の眼科用顕微鏡装置を示す全体図である。
【
図2】実施例1の眼科用顕微鏡装置の顕微鏡本体部に内蔵されている顕微鏡光学系の構成を示す平面図である。
【
図3】実施例1の眼科用顕微鏡装置の顕微鏡本体部に内蔵されている顕微鏡光学系の構成を示す側面図である。
【
図4】実施例1の眼科用顕微鏡装置において対物レンズと被検眼の間の位置に配置される上下カットの前置レンズ(120D)を示す斜視図である。
【
図5】実施例1の眼科用顕微鏡装置において上下カットの前置レンズ(120D)のレンズ切除部の設定を示すレンズ切除部設定説明図である。
【
図6】実施例1の眼科用顕微鏡装置において制御系構成を示すブロック図である。
【
図7】比較例の眼科用顕微鏡装置において対物レンズと被検眼の間の位置に配置される前置レンズ(小径120D)を示す斜視図である。
【
図8】比較例の前置レンズ(小径120D)における観察画角(a)と観察視野(b)を示す説明図である。
【
図9】眼科手術の一例として白内障手術の後に前置レンズを挿入して眼底手術を実施するときの動作を示すフローチャートである。
【
図10】前置レンズを挿入して眼底手術を行うときの前置レンズと被検眼の位置関係を示す作用説明図である。
【
図11】実施例1の前置レンズ(小径120D)における観察画角(a)と観察視野(b)を示す説明図である。
【
図12】実施例2の眼科用顕微鏡装置において対物レンズと被検眼の間の位置に配置される上下カットの前置レンズ(120D)を示す斜視図である。
【
図13】実施例2の眼科用顕微鏡装置において上下カットの前置レンズ(120D)のレンズ切除部の設定を示すレンズ切除部設定説明図である。
【
図14】実施例3の眼科用顕微鏡装置において対物レンズと被検眼の間の位置に配置される上側カットの前置レンズ(120D)を示す斜視図である。
【
図15】実施例3の眼科用顕微鏡装置において上側カットの前置レンズ(120D)のレンズ切除部の設定を示すレンズ切除部設定説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示に係る眼科用顕微鏡装置を実施するための形態を、図面に示す実施例1~3に基づいて説明する。実施例1~3は、観察モードとして、前眼部(例えば、角膜、虹彩、前房、隅角、水晶体、毛様体、チン小帯など)を観察する前眼部観察モードと、後眼部(例えば、網膜、脈絡膜、強膜、硝子体など)を観察する後眼部観察モードと、を有する眼科用顕微鏡装置への適用例である。なお、各図面において、対物レンズの光軸方向をZ方向(例えば、手術時には鉛直方向、上下方向)とする。Z軸に直交する所定の方向をX方向(例えば、手術時には水平方向、術者及び患者にとっては左右方向)とする。Z方向及びX方向の双方に直交する方向をY方向(例えば、手術時には水平方向、術者にとって前後方向、患者にとって体軸方向)とする。
【実施例0011】
[装置全体構成(
図1)]
眼科用顕微鏡装置Aは、被検眼Eを撮影してデジタル画像データ(動画像データ)を生成する。眼科用顕微鏡装置Aは、
図1に示すように、脚部1と、支柱2と、第1アーム部3と、第2アーム部4と、X-Y微動装置5と、顕微鏡本体支持アーム6と、フットスイッチ7と、モニタ装置8と、前置レンズ支持装置9と、顕微鏡本体部10と、を備えている。
【0012】
脚部1は、移動可能であり、脚部1に支柱2が支持されている。支柱2には、前方に屈曲した第1アーム部3が係合しており、第1アーム部3には、眼科用顕微鏡装置Aを吊り下げて固定する第2アーム部4が連結している。第2アーム部4を上下させることにより、眼科用顕微鏡装置Aの高さを制御することができる。また、第2アーム部4と眼科用顕微鏡装置Aとの間には、X-Y微動装置5が設けられていて、顕微鏡本体支持アーム6を介して垂下支持される顕微鏡本体部10の水平方向であるXY方向の位置を微調整することができる。
【0013】
フットスイッチ7は、術者の足により被検眼Eを観察しながら操作できるスイッチである。フットスイッチ7では、顕微鏡本体部10の位置制御操作、前置レンズ支持装置9に保持されている前置レンズ21の位置制御操作、モニタ装置8のモニタ表示制御操作などを多機能に行うことができる。モニタ装置8は、眼科手術中に術者や助手から視認し易い位置に配置されていて、モニタ画面81に前眼部や後眼部などの眼科手術に必要な観察画像を表示する。
【0014】
前置レンズ支持装置9は、顕微鏡本体部10の側面位置に上端部が固定され、下端部の位置に前置レンズ21が着脱可能に取り付けられる。前置レンズ21は、前置レンズセットとして用意された複数種類の中から選択される。ここで、モニタ装置8のモニタ画面81に映し出される前眼部画像を観察しながら実施する眼科手術の際は、顕微鏡本体部10と被検眼Eとの間から前置レンズ21が外される。一方、モニタ装置8のモニタ画面81に映し出される後眼部画像を観察しながら実施する眼科手術の際は、顕微鏡本体部10と被検眼Eの間の位置に前置レンズ21が配置される。
【0015】
[顕微鏡光学系の構成(
図2、
図3)]
次に、顕微鏡本体部10に内蔵されている顕微鏡光学系の構成を、
図2及び
図3を参照しながら説明する。顕微鏡光学系は、
図2及び
図3に示すように、対物レンズ20と、反射ミラーRMと、ダイクロイックミラーDMと、照明光学系30と、観察光学系40と、ズームエキスパンダ50と、撮像カメラ60と、左カメラリレーレンズユニット61Lと、右カメラリレーレンズユニット61Rと、を備えている。
【0016】
対物レンズ20は、被検眼Eに対向するように配置される。対物レンズ20の光軸OAは、Z方向に平行に配置される。対物レンズ20は、2枚以上のレンズを含んでいてもよい。対物レンズ20と被検眼Eの間の位置には、眼科手術において後眼部像をモニタ装置8により観察する際に前置レンズ21が配置される。ここで、後眼部像を観察する際の前置レンズ21としては、眼底像などを広い範囲を見たいときに広角レンズ(例えば、120Dなど)が使用され、眼底像などの中から見たいポイントを決めて解像力を上げて見たいときに狭い範囲のレンズ(例えば、40D、80Dなど)が使用される。
【0017】
反射ミラーRMは、対物レンズ20の上方に配置されていて、Z方向に延びる対物レンズ20の光軸OAの上端は、反射ミラーRMの位置に配置されている。また、反射ミラーRMは、Y方向に延びる左眼用観察光学系40L及び右眼用観察光学系40Rの各光軸OBを、対物レンズ20の光軸OAと平行な向き(Z方向)になるように偏向する。反射ミラーRMにおいて、対物レンズ20の光軸OAは、左眼用観察光学系40Lの光軸OBと右眼用観察光学系40Rの光軸OBとの中間に位置している。第1照明光学系31L及び31Rは、ダイクロイックミラーDMの上方に設けられている。第2照明光学系32は、対物レンズ20の上方に設けられている。第2照明光学系32は、反射ミラーRMに対してダイクロイックミラーDM側に偏位した位置に配置されている。つまり、第2照明光学系32の光軸OSは、対物レンズ20の光軸OAよりもダイクロイックミラーDM側に位置している。
【0018】
ダイクロイックミラーDMは、照明光学系30(第1照明光学系31L及び31R)の光路と観察光学系40の光路を結合する。ダイクロイックミラーDMは、ズームエキスパンダ50と反射ミラーRMの間の位置に配置される。ダイクロイックミラーDMは、照明光学系30(第1照明光学系31L及び31R)からの照明光を反射して反射ミラーRM、対物レンズ20、前置レンズ21を介して被検眼Eに導く。これとともに、前置レンズ21、対物レンズ20、反射ミラーRMによって導かれた被検眼Eからの戻り光を透過させてズームエキスパンダ50を介して撮像カメラ60に導く。
【0019】
照明光学系30は、対物レンズ20及び前置レンズ21を介して被検眼Eを照明するための光学系である。照明光学系30は、色温度が異なる2以上の照明光のいずれかによって被検眼Eを照明するように構成されてもよい。照明光学系30は、制御部200の制御の下に、指定された色温度の照明光を被検眼Eに投射する。照明光学系30は、第1照明光学系31L及び31Rと、第2照明光学系32とを含んでいる。
【0020】
第1照明光学系31L及び31Rを用いた照明法は、いわゆる「同軸照明」であり、それにより、眼底での拡散反射を利用した徹照像を得ることができる。つまり、ユーザーは、被検眼Eの徹照像を左眼用観察光学系40L及び右眼用観察光学系40Rの双方で撮影し、得られた一対の徹照像をモニタ装置8のモニタ画面81に表示することが可能である。
【0021】
第2照明光学系32の光軸OSは、対物レンズ20の光軸OAからY方向に偏位した位置に配置されている。第1照明光学系31L及び31R並びに第2照明光学系32は、対物レンズ20の光軸OAに対する光軸OL及びORの偏位よりも大きくなるように配置されている。これにより、いわゆる「角度付き照明(斜め照明、傾斜照明)」を実現することができ、角膜反射などに起因するゴーストの混入を防止しつつ被検眼Eを双眼で観察することが可能になる。さらに、被検眼Eの部位や組織の凹凸を詳細に観察することも可能になる。
【0022】
第1照明光学系31Lは、光源31aと、コンデンサーレンズ31bとを含む。光源31aは、例えば、3000K(ケルビン)の色温度に相当する可視領域の波長の照明光を出力する。光源31aから出力された照明光は、コンデンサーレンズ31bを通過し、ダイクロイックミラーDMに反射され、反射ミラーRMに反射され、対物レンズ20及び前置レンズ21を通過して被検眼Eに入射する。第1照明光学系31Rについても同様である。
【0023】
第2照明光学系32は、光源32aと、レンズ32bと、指標部材35とを含む。指標部材35は、光源32aとレンズ32bの間の位置に配置されている。光源32aは、図示しないコンデンサーレンズを含んでいてもよい。光源32aは、例えば、4000K~6000Kの色温度に相当する可視領域の波長の照明光を出力する。指標部材35には、複数の指標が設けられている。レンズ32bは、指標部材35に設けられた複数の指標を被検眼Eに投影する他の作用を奏する。
【0024】
観察光学系40は、左眼用観察光学系40L及び右眼用観察光学系40Rを含む。そして、左眼用観察光学系40Lの光路と左眼用照明光学系(第1照明光学系31L)の光路とは、ダイクロイックミラーDMにより同軸に結合する。右眼用観察光学系40Rの光路と右眼用照明光学系(第1照明光学系31R)の光路とは、ダイクロイックミラーDMにより同軸に結合する。
【0025】
ズームエキスパンダ50は、ビームエキスパンダ、可変ビームエキスパンダとも呼ばれ、左眼用ズームエキスパンダ50Lと、右眼用ズームエキスパンダ50Rとを含んでいる。左眼用ズームエキスパンダ50Lと右眼用ズームエキスパンダ50Rのそれぞれは、複数のズームレンズ51、52及び53を含む。複数のズームレンズ51、52及び53の少なくとも1つは、後述する変倍機構50Ld,50Rdによって光軸方向に移動可能である。変倍機構50Ld,50Rdは、左眼用ズームエキスパンダ50Lの各ズームレンズ51、52及び53と、右眼用ズームエキスパンダ50Rの各ズームレンズ51、52及び53とを、独立に又は一体的に光軸方向に移動するように構成されてよい。それにより、被検眼Eを撮影する際の拡大倍率が変更される。
【0026】
撮像カメラ60は、観察光学系40により形成される像を撮影してデジタル画像データを生成するデバイスであり、典型的には、デジタルビデオカメラである。撮像カメラ60は、左眼用撮像カメラ60Lと右眼用撮像カメラ60Rとを含んでいる。左眼用撮像カメラ60Lと右眼用撮像カメラ60Rとは、同様の構成である。
【0027】
左眼用撮像カメラ60Lは、左撮像素子62Lを含んでいる。左撮像素子62Lは、エリアセンサであり、典型的には、電化結合素子(CCD)イメージセンサ又は相補型金属酸化膜半導体(CMOS)イメージセンサであってもよい。左撮像素子62Lは、制御部200の制御の下に動作する。
【0028】
右眼用撮像カメラ60Rは、右撮像素子62Rを含んでいる。右撮像素子62Rは、エリアセンサであり、典型的には、電化結合素子(CCD)イメージセンサ又は相補型金属酸化膜半導体(CMOS)イメージセンサであってもよい。右撮像素子62Rは、制御部200の制御の下に動作する。
【0029】
左カメラリレーレンズユニット61Lは、左眼用ズームエキスパンダ50Lを通過した戻り光に基づく像を左撮像素子62Lの撮像面に形成するもので、例えば、1枚のレンズ、又は、複数枚のレンズにより構成されている。
【0030】
右カメラリレーレンズユニット61Rは、右眼用ズームエキスパンダ50Rを通過した戻り光に基づく像を右撮像素子62Rの撮像面に形成するもので、例えば、1枚のレンズ、又は、複数枚のレンズにより構成されている。
【0031】
[前置レンズ構成(
図4、
図5)]
次に、眼科手術において後眼部像をモニタ装置8により観察する際に対物レンズ20と被検眼Eの間の位置に配置される前置レンズ21の構成を、
図4及び
図5を参照しながら説明する。前置レンズ21は、
図4に示すように、広角凸レンズ部21a(凸レンズ部)と、レンズフレーム部21bと、第1レンズフレーム支持部21cと、第2レンズフレーム支持部21dと、を含む。なお、レンズフレーム部21bと第1レンズフレーム支持部21cと第2レンズフレーム支持部21dは、樹脂成形により一体に形成される。
【0032】
広角凸レンズ部21aは、円形広角凸レンズの外周領域の一部分(円弧と弦により囲まれた部分)を切除することにより形成したレンズ切除部21eを有する構成にしている。つまり、広角凸レンズ部21aは、切除前の円形広角凸レンズにおけるレンズ中心軸Oの位置や外径サイズを変えないままで、円形広角凸レンズの外周領域の二箇所を切除している。
【0033】
レンズ切除部21eは、
図5に示すように、モニタ装置8のモニタ画面81に映し出される後眼部像のうち、モニタ画面81の画面形状による制限を受けて表示領域から外れるモニタ非表示領域部分と対応関係にあるレンズ領域部分に設定している。このとき、レンズ切除部21eは、モニタ非表示領域部分に完全一致させたレンズ領域部分に設定するのではなく、モニタ非表示領域部分に一致する円形レンズ領域の一部分形状からマージンMA(余裕代)を持たせて狭い面積にしたレンズ領域部分に設定している。ここで、円形レンズ領域の一部分形状は、円弧と弦(=画面境界線に一致する線)により囲まれた形状であり、弦の位置を外側にオフセットさせたときのオフセット量がマージンMAになる。
【0034】
モニタ装置8のモニタ画面81の形状は、上下方向の縦幅寸法SVより左右方向の横幅寸法SHが長い左右方向にワイドな長方形状(例えば、SV:SH=9:16)としている。よって、円形広角凸レンズの外周領域の一部分にレンズ切除部21eを設定するとき、画面表示の制限を受ける上下方向の画像領域部分を直線状にカットした形状に設定することが可能である。これに対し、実施例1のレンズ切除部21eの場合は、画面表示の制限を受ける上下方向の画像領域部分に対応する上下両方を直線状にカットした形状に設定している。
【0035】
レンズフレーム部21bは、レンズ切除部21eを有する広角凸レンズ部21aの外周を保持する部材である。レンズフレーム部21bは、レンズ切除部21eによる直線領域を保持するフレーム部分の厚みt1を、レンズ切除部21eを除いた円弧領域を保持するフレーム部分の厚みt2(>t1)よりも薄くしている。これは、レンズフレーム部21bの内面に広角凸レンズ部21aを組み込んだ前置レンズ21の構成において、実質的な切除領域をなるべく広く確保し、患者の顔との干渉などを有効に防止するためである。このため、レンズ切除部21eによる直線領域を保持するフレーム部については、例えば、細い樹脂糸などを掛け渡して保持する構成としてもよい。また、円弧領域を保持する部分だけで広角凸レンズ部21aの保持機能を得られる構成とした場合は、レンズ切除部21eによる直線領域を保持するフレーム部を無くした構成としてもよい。
【0036】
第1レンズフレーム支持部21cは、レンズフレーム部21bの外周部に一体に形成され、対物レンズ20と被検眼Eの間の位置に配置した状態で垂直方向(Z方向)に延びる部材である。第1レンズフレーム支持部21cのレンズフレーム部21bに対する一体接続部は、レンズフレーム部21bのうち、広角凸レンズ部21aの外周領域のうちレンズ切除部21eに対応する一箇所の位置に設定している。
【0037】
第2レンズフレーム支持部21dは、第1レンズフレーム支持部21cの上端部から一体に形成され、対物レンズ20と被検眼Eの間の位置に配置した状態で水平方向(X方向)に延びる部材である。第2レンズフレーム支持部21dには、前置レンズ支持装置9の支持ピン9aが挿通されるピン穴21fが形成されている。
【0038】
[制御系構成(
図6)]
次に、眼科用顕微鏡装置Aの制御系構成を、
図6を参照しながら説明する。眼科用顕微鏡装置Aの制御系は、
図6に示すように、制御部200と、照明光学系30と、観察光学系40と、フットスイッチ7と、モニタ装置8と、移動機構31d,32dと、変倍機構50Ld,50Rdと、データ処理部210と、を備えている。
【0039】
制御部200は、眼科用顕微鏡装置Aの各部の制御を行う。制御部200は、主制御部201と記憶部202とを含む。主制御部201は、プロセッサを含み、眼科用顕微鏡装置Aの各部を制御する。例えば、プロセッサは、所望の機能を実現するため、記憶部202又は、他の記憶装置に格納されているデータや情報を利用することができる。
【0040】
主制御部201は、照明光学系30の2つの光源31aのそれぞれの制御、照明光学系30の光源32aの制御、観察光学系40の左右の撮像素子62L,62Rのそれぞれの制御、移動機構31d及び32dのそれぞれの制御、変倍機構50Ld及び50Rdのそれぞれの制御、フットスイッチ7の制御、モニタ装置8の制御などを実行する。
【0041】
光源31aの制御には、光源の点灯、消灯、光量調整、照明絞りの調整などがある。照明光学系30が色温度を変更可能な光源を含む場合、主制御部201は、この光源を制御することによって、出力される照明光の色温度を変更することができる。
【0042】
左右の撮像素子62L,62Rの制御には、露光調整、ゲイン調整、撮影レート調整などがある。主制御部201は、左右の撮像素子62L,62Rの撮影タイミングが一致するように左右の撮像素子62L,62Rを制御すること、又は、左右の撮像素子62L,62Rの撮影タイミングの差が所定時間以内になるように左右の撮像素子62L,62Rを制御することができる。さらに、主制御部201は、左右の撮像素子62L,62Rにより得られたデジタルデータの読み出し制御を行うことができる。
【0043】
移動機構31dは、対物レンズ20の光軸に交差する方向に2つの光源31aを独立に又は一体的に移動する。主制御部201は、移動機構31dを制御することにより、対物レンズ20の光軸OAに対して照明光学系30の光軸OL及びORを独立に又は一体的に移動することができる。
【0044】
移動機構32dは、対物レンズ20の光軸に交差する方向に光源32aを移動する。主制御部201は、移動機構32dを制御することにより、対物レンズ20の光軸OAに対して光軸OSを移動することができる。
【0045】
変倍機構50Ldは、左眼用ズームエキスパンダ50Lの複数のズームレンズ51~53の少なくとも1つを光軸方向に移動する。主制御部201は、変倍機構50Ldを制御することによって左眼用観察光学系40Lの拡大倍率を変更することができる。
【0046】
変倍機構50Rdは、右眼用ズームエキスパンダ50Rの複数のズームレンズ51~53の少なくとも1つを光軸方向に移動する。主制御部201は、変倍機構50Rdを制御することによって右眼用観察光学系40Rの拡大倍率を変更することができる。
【0047】
フットスイッチ7の制御には、操作許可制御、操作禁止制御、フットスイッチ7からの操作信号の送信制御及び/又は受信制御などがある。主制御部201は、フットスイッチ7により生成された操作信号を受信し、この受信信号に対応する制御を実行する。
【0048】
モニタ装置8に対する制御には、情報表示制御などがある。主制御部201は、表示制御部として、撮像素子62により生成されたデジタル画像データに基づく画像をモニタ装置8に表示させることができる。典型的には、左右の撮像素子62L,62Rによりそれぞれ並行して生成された一対の映像データ(映像信号)に基づいて、一対の映像(一対の動画像)を並行してモニタ装置8に表示させることができる。また、主制御部201は、一対の映像のいずれかに含まれる静止画像(フレーム)をモニタ装置8に表示させることができる。さらに、主制御部201は、左右の撮像素子62L,62Rにより生成されたデジタル画像データを加工して得られた画像(動画像、静止画像など)をモニタ装置8に表示させることができる。また、主制御部201は、眼科用顕微鏡装置Aにより生成された任意の情報や、眼科用顕微鏡装置Aが外部から取得した任意の情報をモニタ装置8に表示させることができる。
【0049】
主制御部201は、左眼用映像及び右眼用映像を立体視可能な態様でモニタ装置8に表示させることができる。例えば、主制御部201は、実質的に同時に取得された左眼用フレーム及び右眼用フレームから左右一対の視差画像を生成し、この一対の視差画像をモニタ装置8に表示させることができる。術者などは、公知の立体視手法を利用して一対の視差画像を立体画像として認識することができる。適用可能な立体視手法は、任意であってよく、例えば、裸眼での立体視手法、補助器具(偏光眼鏡など)を用いた立体視手法、左眼用フレーム及び右眼用フレームに対する画像処理(画像合成、レタリングなど)を利用した立体視手法、一対の視差画像を同時に表示させる立体視手法、一対の視差画像を切り換え表示させる立体視手法、及び、これらのうちの2つ以上を組み合わせた立体視手法のうちいずれかであってよい。
【0050】
データ処理部210は、各種のデータ処理を実行する。データ処理部210は、例えば、左眼用観察光学系40Lの撮像素子62により左眼用映像データとして逐次に生成されるデジタル画像データ(フレーム)に対して逐次に所定の処理(画像処理)を適用することができる。また、右眼用観察光学系40Rの撮像素子62により右眼用映像データとして逐次に生成されるデジタル画像データ(フレーム)に対して逐次に所定の処理(画像処理)を適用することができる。
【0051】
[背景技術(
図7、
図8)]
前置レンズとして小型レンズを用いる比較例による背景技術を、
図7及び
図8を参照しながら説明する。
図7は、比較例の眼科用顕微鏡装置において対物レンズと被検眼の間の位置に配置される前置レンズ(小径120D)を示し、
図8は、比較例の前置レンズ(小径120D)における観察画角(a)と観察視野(b)を示す。
【0052】
眼科手術において後眼部像(眼底像など)を広角で観察する際に前置レンズを使用する。前置レンズは複数種類があり、広い範囲を見たいときは広角レンズ(例えば、120Dなど)を使用し、見たいポイントを決めて解像力を上げてみるときは、狭い範囲のレンズ(例えば、40D,80Dなど)を使用する。特に広角で後眼部像を観察したい場合は、被検眼との距離を極力近づけることで、広域の観察を可能とする。
【0053】
しかし、前置レンズとして、広い観察視野が得られる外径サイズによる広角レンズを配置して後眼部像を観察する場合、被検眼との距離が、例えば、1mm程度というように極めて近い位置になり、患者の顔の一部への干渉や手術器具への干渉が問題となる。この回避案として、前置レンズの外径サイズを小さくすることで干渉を防止している。例えば、広い観察視野が得られる外径サイズが、セル外径φ23.5mmによる120D前置レンズとする。この場合、干渉回避案である比較例の前置レンズの場合、外径サイズを小さくし、例えば、
図7に示すように、セル外径φ18.0mmによる小径120D前置レンズを用いることになる。
【0054】
しかし、干渉回避案の小径120D前置レンズを用いる場合、
図8(a)に示すように、観察画角θ1が約100度程度の画角になる。そして、前置レンズの外径サイズを小さくした分、
図8(b)に示すように、太破線で囲まれる後眼部像(眼底像など)の観察視野が狭くなってしまう。
【0055】
[眼科手術の実施作用(
図9~
図11)]
上記背景技術の課題に対し、デジタル顕微鏡装置を用いる場合、横方向にワイドな画面によるモニタ装置が使用されるケースが多いため、モニタ画面に収まる像を取得できる前置レンズであればレンズ形状が円形である必要性は無いという点に着目した。
【0056】
すなわち、前置レンズ21は、円形広角凸レンズの外周領域の一部分を切除することにより形成したレンズ切除部21eを有する広角凸レンズ部21aを含む。レンズ切除部21eは、モニタ装置8に映し出される後眼部像のうち、モニタ画面81の画面形状による制限を受けて表示領域から外れるモニタ非表示領域部分と対応関係にあるレンズ領域部分に設定する構成を採用した。
【0057】
このため、眼科手術において、広角レンズを用いた前置レンズ21が被検眼Eに接近して配置される場合、広角凸レンズ部21aの外径サイズを縮小することなく、レンズ切除部21eを患者の眉骨部などに合わせて配置できる。よって、眼科手術において後眼部像を観察する際、後眼部像の観察視野を狭くすることなく、患者の顔の一部への干渉や手術器具への干渉を防止することができる。つまり、後眼部像の観察視野が欠けることなく観察ができ、同時に、患者及び手術器具への干渉を防止することができる。
【0058】
例えば、
図9に示すフローチャートを参照しながら、眼科手術の一例として、白内障手術の後に前置レンズ21を挿入して眼底手術を実施するときの動作を説明する。
【0059】
ステップS1では、白内障手術を実施し、次のステップS2では、白内障手術が完了したか否かが判断される。つまり、ステップS2にて白内障手術が完了したと判断されるまでは、ステップS1→ステップS2へと進む流れが繰り返される。白内障手術では、前置レンズ21が外されている状態であり、左右の撮像素子62L,62Rから取得した白内障手術に必要な前眼部像が、モニタ装置8のモニタ画面81に表示される。
【0060】
ステップS2にて白内障手術が完了したと判断されるとステップS3へと進み、ステップS3では前置レンズ21が光路(=光軸OA)に挿入される。次のステップS4では前置レンズ21のXY方向の位置合わせが行われ、次のステップS5では前置レンズ21のZ方向の位置合わせが行われる。このように、前置レンズ21が光路に挿入され、前置レンズ21のXY方向及びZ方向の位置合わせが行われると、前置レンズ21と被検眼Eの位置関係は、
図10に示すようになる。つまり、前置レンズ21のレンズ切除部21eを、患者の眉骨部に向かい合わせた配置にされることで、前置レンズ21と患者の眉骨部との干渉が防止されるとともに、前置レンズ21の周囲と患者の顔との間に手術器具を挿入するスペースが確保される。また、第1レンズフレーム支持部21cがレンズ切除部21eに対応する位置に配置されることで、手術対象眼が左眼か右眼かにかかわらず、第1レンズフレーム支持部21cが患者の鼻と干渉することが防止される。
【0061】
ステップS5にて前置レンズ21のZ方向の位置合わせが行われると、眼底側の手術の体制が整い、次のステップS6へ進み、ステップS6では、眼底側の手術が実施される。次のステップS7では、眼底側の手術が完了したか否かが判断される。つまり、ステップS7にて眼底側の手術が完了したと判断されるまでは、ステップS6→ステップS7へと進む流れが繰り返される。眼底側の手術では、前置レンズ21が挿入されていることで、2つの撮像素子62から取得した眼底側の手術に必要な後眼部像(眼底像など)が、モニタ装置8のモニタ画面81に表示される。
【0062】
モニタ装置8のモニタ画面81に表示される後眼部像(眼底像など)は、レンズ切除部21eを有する広角凸レンズ部21aを含む前置レンズ21を用いたことで、
図11(a)に示すように、画角観察画角θ2が約130度程度の画角になる。つまり、
図7に示す比較例の場合は観察画角θ1が約100度程度であったのに対し、画角観察画角θ2が約130度程度の画角まで拡大する。そして、前置レンズ21の外径サイズは、広い観察視野が得られる外径サイズのままとしていることで、
図11(b)に示すように、太破線で囲まれる後眼部像(眼底像など)の観察視野が確保される。つまり、左右の撮像素子62L,62Rを基準として観察視野を対比すると、
図7に示す比較例の場合は、
図8(b)に示すように、観察視野が中央部領域に限られていたのに対し、レンズ切除部21eを除いた領域の観察視野は外周部領域まで拡大する。さらに、モニタ画面81を基準として観察視野を対比すると、レンズ切除部21eがモニタ非表示領域部分に設定されているため、レンズ切除部21eにより観察視野が欠けることがない。
【0063】
ステップS7にて眼底側の手術が完了したと判断されると、ステップS7からステップS8へと進み、ステップS8では、前置レンズ21を光路から退避させ、エンドへ進む。
【0064】
このように、眼科手術において後眼部像を観察する際、後眼部像の観察視野を狭くすることなく、患者の顔の一部への干渉や手術器具への干渉を防止できる。これに加え、レンズ切除部21eは、前置レンズ21の角度変更、シフト、旋回などの動作の際にも有用に働き、前置レンズ21を傾けた際の干渉にも対応可能になる。さらに、前置レンズ21を位置合わせしながら設置する際、顔の一部及び手術器具への干渉が低減できるため、前置レンズ21のXY方向及びZ方向の位置合わせ作業を容易にすることができる。また、眼科手術の際、術者が手術器具を前置レンズ21の周りから出し入れする場合、作業スペースに余裕ができる。
【0065】
以上説明したように、実施例1の眼科用顕微鏡装置Aにあっては、下記に列挙する効果を奏する。
(1)眼科用顕微鏡装置Aは、被検眼Eを観察する観察光学系40を備え、眼科手術において後眼部像をモニタ装置8により観察する際に対物レンズ20と被検眼Eの間の位置に前置レンズ21を配置する。前置レンズ21は、円形凸レンズの外周領域の一部分を切除することにより形成したレンズ切除部21eを有する凸レンズ部(広角凸レンズ部21a)を含む。レンズ切除部21eは、モニタ装置8に映し出される後眼部像のうち、モニタ画面81の画面形状による制限を受けて表示領域から外れるモニタ非表示領域部分と対応関係にあるレンズ領域部分に設定する。このため、眼科手術において後眼部像を観察する際、後眼部像の観察視野を狭くすることなく、患者の顔の一部への干渉や手術器具への干渉を防止することができる。
【0066】
(2)レンズ切除部21eは、モニタ非表示領域部分に一致する円形レンズ領域の一部分形状からマージンMAを持たせて狭い面積にしたレンズ領域部分に設定する。このため、光路に挿入した前置レンズ21のXY方向の位置合わせを行う際、位置合わせ誤差分がマージンMAにより許容され、前置レンズ21の位置合わせ誤差によりモニタ画面81に映し出される後眼部像の一部が欠けるのを防止できる。
【0067】
(3)凸レンズ部は、円形広角凸レンズの外周領域を直線状にカットすることにより形成した円弧と弦に囲まれた形状のレンズ切除部21eを有する広角凸レンズ部21aである。このため、眼科手術において、被検眼Eの後眼部像を広角レンズにより広い観察画角で観察する際、前置レンズ21を被検眼Eに対して接近させても患者の顔の一部への干渉や手術器具への干渉を有効に防止できる。
【0068】
(4)モニタ装置8は、モニタ画面81の画面形状が、上下方向の縦幅寸法SVより左右方向の横幅寸法SHが長い長方形状である。レンズ切除部21eは、画面表示の制限を受ける上下方向の画像領域部分に対応する上下両方を直線状にカットした形状に設定する。このため、二箇所の直線状カットによって前置レンズ21の周りにスペースを確保する構成としたことで、後眼部像の観察視野を狭くすることなく、患者の顔の一部への干渉や手術器具への干渉を有効に防止することができる。
【0069】
(5)広角凸レンズ部21aは、レンズフレーム部21bに一体に形成され、対物レンズ20と被検眼Eの間の位置に配置した状態で垂直方向(Z方向)に延びる第1レンズフレーム支持部21cを設け、第1レンズフレーム支持部21cは、広角凸レンズ部21aのうちレンズ切除部21eに対応する位置に配置する。このため、眼底側の手術を実施する際、手術対象眼が左眼か右眼かにかかわらず、第1レンズフレーム支持部21cが患者の鼻と干渉するのを防止することができる。
広角凸レンズ部21a’は、円形広角凸レンズの外周領域の一部分(円弧と弦により囲まれた部分)を切除することにより形成した2つのレンズ切除部21eを有する構成とされている。つまり、広角凸レンズ部21a’は、切除前の円形レンズにおけるレンズ中心軸Oの位置や外径サイズを変えないままで、円形広角凸レンズの外周領域の二箇所を平行に切除した構成にしている。
レンズフレーム部21b’は、2つのレンズ切除部21eを有する広角凸レンズ部21a’の外周を保持する部材である。レンズフレーム部21b’は、実施例1と同様に、2つのレンズ切除部21eによる直線領域を保持するフレーム部分の厚みt1を、レンズ切除部21eを除いた円弧領域を保持するフレーム部分の厚みt2(>t1)よりも薄くしている。
第1レンズフレーム支持部21c’は、広角凸レンズ部21a’のうち円弧状部分に対応する位置に配置している。つまり、実施例1の第1レンズフレーム支持部21cがレンズ切除部21eに対応する位置に配置しているのに対し、実施例2は、第1レンズフレーム支持部21c’の位置を異ならせている。
このように、レンズ切除部21eは、画面表示の制限を受ける上下方向の画像領域部分に対応する上下両方を直線状にカットした形状に設定していため、実施例1と同様に、後眼部像の観察視野を狭くすることがない。また、眼底側の手術を実施する際、前置レンズ21’のXY方向及びZ方向の位置合わせを行うと、二箇所の直線状カットによって前置レンズ21’の周りにスペースが確保されることになる。さらに、手術対象眼が右眼であるときと左眼であるときとで前置レンズ支持装置9を水平方向に180度転回させる使い方をすることで、第1レンズフレーム支持部21c’と患者の鼻との干渉が防止される。