(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143207
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】鋳鉄管
(51)【国際特許分類】
F16L 58/10 20060101AFI20241003BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20241003BHJP
C09D 163/00 20060101ALI20241003BHJP
C09D 5/08 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
F16L58/10
C09D133/00
C09D163/00
C09D5/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055753
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安東 尚紀
(72)【発明者】
【氏名】冨田 直岐
(72)【発明者】
【氏名】明渡 健吾
(72)【発明者】
【氏名】柳谷 仁志
(72)【発明者】
【氏名】東 祐樹
【テーマコード(参考)】
3H024
4J038
【Fターム(参考)】
3H024EA04
3H024EC04
3H024ED05
3H024EE03
4J038CG001
4J038DB001
4J038KA06
4J038NA03
4J038PB05
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】管外面と管受口部内面とに同一の塗料を塗布し、管外面および管受口部内面の要求特性を共に満たす塗膜を形成した鋳鉄管を提供すること。
【解決手段】少なくとも一端に受口部が設けられた鉄管であって、管外面および管受口部内面に、樹脂成分がアクリル系樹脂およびエポキシ系樹脂からなる溶剤系塗料により形成される塗膜を備え、管外面と管受口部内面に備えられる塗膜が、同一の溶剤系塗料により形成されることを特徴とする、鋳鉄管、ならびに少なくとも一端に受口部が設けられた鋳鉄管の管外面および管受口部内面の防食方法であって、(a)管受口部内面に、樹脂成分がアクリル系樹脂およびエポキシ系樹脂からなる溶剤系塗料を塗布する工程、および(b)管外面に、管受口部内面と同一の溶剤系塗料を塗布する工程を含む防食方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一端に受口部が設けられた鉄管であって、
管外面および管受口部内面に、樹脂成分がアクリル系樹脂およびエポキシ系樹脂からなる溶剤系塗料により形成される塗膜を備え、
前記管外面と前記管受口部内面に備えられる塗膜が、同一の前記溶剤系塗料により形成されることを特徴とする、鋳鉄管。
【請求項2】
前記エポキシ系樹脂が、エポキシエステル樹脂を含む請求項1記載の鋳鉄管。
【請求項3】
前記溶剤系塗料中のエポキシ系樹脂の含有量が、固形分で、樹脂成分全体に対して0.5~15質量%である請求項1または2記載の鋳鉄管。
【請求項4】
少なくとも一端に受口部が設けられた鋳鉄管の管外面および管受口部内面の防食方法であって、
(a)前記管受口部内面に、樹脂成分がアクリル系樹脂およびエポキシ系樹脂からなる溶剤系塗料を塗布する工程、および
(b)前記管外面に、前記管受口部内面と同一の前記溶剤系塗料を塗布する工程
を含む防食方法。
【請求項5】
前記(a)工程と前記(b)工程とが連続して行われる請求項4記載の防食方法。
【請求項6】
前記エポキシ系樹脂が、エポキシエステル樹脂を含む請求項4記載の防食方法。
【請求項7】
前記溶剤系塗料中のエポキシ系樹脂の含有量が、固形分で、樹脂成分全体に対して0.5~15質量%である請求項4記載の防食方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管外面および管受口部内面に同じ塗料を塗布して形成される塗膜を備える鋳鉄管に関し、とりわけ該塗料が溶剤系の塗料である鋳鉄管に関する。
【背景技術】
【0002】
主に水道管として用いられているダクタイル鉄管の外面や内面には、管を保護するための塗装が施される。管外面においては、埋設時の防食性や保管時の耐候性等を考慮した塗料が一般に用いられている。また管内面においては、防食性や水質衛生性などを考慮して、エポキシ樹脂粉体塗装などが施されていることが多い。一方、このような鋳鉄管には、少なくともその一端に、隣り合う他の管体の挿し口が挿入される受口を備えるものがあり、このような鋳鉄管では、直管部の内面に上述の粉体塗装がなされ、受口内面には防食性や水質衛生性などを考慮した粉体塗装とは異なる塗装が一般に用いられている。
【0003】
具体的には、管外面においては、アクリル系樹脂塗料や、エポキシ系樹脂塗料が、スプレー塗装、ローラー塗装により塗布されることが開示されている(特許文献1)。
【0004】
受口内面においては、溶剤系のエポキシ樹脂塗料による塗装や(特許文献2)、水系のエポキシエステル系樹脂とアクリル系樹脂エマルジョンとアクリル系樹脂ディスパージョンとを含む塗料による塗装が開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-148330号公報
【特許文献2】特開2010-209967号公報
【特許文献3】特開2019-158113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような管外面に使用されているアクリル系樹脂塗料は防食性が十分でない場合があり、エポキシ系樹脂塗料は耐候性が十分でない場合がある。
【0007】
また、管外面の塗装と管受口部内面の塗装とは、その要求特性の違いから、異なる塗料を用いており、管受口部内面の塗料は、防食性、水質衛生性、および管受口部内面塗装前に直管部に塗装されるエポキシ樹脂粉体塗装との密着性が必要であることから、管外面の塗料を適用しにくく、使用する塗料の種類が多くなる問題があった。
【0008】
さらには、呼び径が大きい管は管の加熱がしにくいため、水系塗料は適用し難く、また主剤と硬化剤を混合して使用する2液型塗料では、混合後の硬化反応により塗料粘度が増加するため、スプレー塗装時の塗装条件の管理が難しい、といった問題もあった。
【0009】
そこで、本発明では、管外面と管受口部内面とに同一の塗料を塗布し、管外面および管受口部内面の要求特性を共に満たす塗膜を形成した鋳鉄管を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本件出願人は、樹脂成分がアクリル系樹脂およびエポキシ系樹脂からなる溶剤系塗料を管外面および管受口部内面に用いることにより、良好な防食性、耐候性および水質衛生性を有する塗膜を管外面と管受口部内面に同一の該溶剤系塗料により形成できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、
[1]少なくとも一端に受口部が設けられた鉄管であって、
管外面および管受口部内面に、樹脂成分がアクリル系樹脂およびエポキシ系樹脂からなる溶剤系塗料により形成される塗膜を備え、
前記管外面と前記管受口部内面に備えられる塗膜が、同一の前記溶剤系塗料により形成されることを特徴とする、鋳鉄管、
[2]前記エポキシ系樹脂が、エポキシエステル樹脂を含む上記[1]記載の鋳鉄管、
[3]前記溶剤系塗料中のエポキシ系樹脂の含有量が、固形分で、樹脂成分全体に対して0.5~15質量%である上記[1]または[2]記載の鋳鉄管、
[4]少なくとも一端に受口部が設けられた鋳鉄管の管外面および管受口部内面の防食方法であって、
(a)前記管受口部内面に、樹脂成分がアクリル系樹脂およびエポキシ系樹脂からなる溶剤系塗料を塗布する工程、および
(b)前記管外面に、前記管受口部内面と同一の前記溶剤系塗料を塗布する工程
を含む防食方法、
[5]前記(a)工程と前記(b)工程とが連続して行われる上記[4]記載の防食方法、
[6]前記エポキシ系樹脂が、エポキシエステル樹脂を含む上記[4]記載の防食方法、および
[7]前記溶剤系塗料中のエポキシ系樹脂の含有量が、固形分で、樹脂成分全体に対して0.5~15質量%である上記[4]記載の防食方法
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、樹脂成分がアクリル系樹脂およびエポキシ系樹脂からなる溶剤系塗料を管外面および管受口部内面に用いることにより、同一の塗料により管外面および管受口部内面の要求特性(耐候性、防食性、エポキシ粉体塗料との密着性)を共に満たす鋳鉄管を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】鋳鉄管の管外面と管受口部内面とに形成される塗膜領域を説明する断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<鋳鉄管>
本発明の一態様は、少なくとも一端に受口部が設けられた鉄管であって、管外面および管受口部内面に、樹脂成分がアクリル系樹脂およびエポキシ系樹脂からなる溶剤系塗料により形成される塗膜を備え、管外面と管受口部内面に備えられる塗膜が、同一の上記溶剤系塗料により形成されることを特徴とする、鋳鉄管である。図面を参照してその塗膜の形成領域について説明すると、
図1に示すように、管体(例えばダクタイル鉄管)Pは、その管外面2および管受口部内面3(領域B)に、同一の樹脂成分がアクリル系樹脂およびエポキシ系樹脂からなる溶剤系塗料により形成される塗膜を有する。また、管端面5にも同一の上記溶剤系塗料による塗膜を形成することができる。管直管部内面4(領域A)には例えばエポキシ樹脂粉体塗料が施されるが、このエポキシ樹脂粉体塗料の塗装は、通常、領域Aを超えて領域Bの一部に及ぶ。そのような場合には、領域Bに施される塗装は、エポキシ樹脂粉体塗装への密着性も要求される。
【0015】
(溶剤系塗料)
本発明に用いられる溶剤系塗料としては、樹脂成分がアクリル系樹脂およびエポキシ系樹脂からなり、有機溶剤を媒体とした塗料である。また、水道用の鋳鉄管については、日本水道協会規格のJWWA K 139「水道用ダクタイル鋳鉄管合成樹脂塗料」の規定に適合するものを用いることができる。なお、「溶剤系塗料」や「溶剤系」との用語は、水性塗料と区別するために用いられるものであり、溶媒として実質的に水を含まないものを意味する。溶剤系の塗料とすることで、水系の塗料と比較して溶媒が蒸発し易く、また成膜し易いため、加熱が困難な呼び径の大きな管にも適用することができる。
【0016】
(樹脂成分)
本発明に用いられる溶剤系塗料は、樹脂成分としてはアクリル系樹脂およびエポキシ系樹脂のみを含む。アクリル系樹脂およびエポキシ系樹脂は、鋳鉄管の塗料用として流通しているものなどを使用することができ、特に限定されるものではない。水道管に使用する場合には、例えば日本水道協会規格のJWWA K 139「水道用ダクタイル鋳鉄管合成樹脂塗料」に規定されている塗料に用いられるアクリル系樹脂やエポキシ系樹脂を好適に用いることができる。
【0017】
本発明に用いられる溶剤系塗料中の、樹脂成分の合計含有量は、固形分で60質量%以上であることが好ましい。樹脂成分の合計含有量を、固形分で、60質量%以上とすることにより、塗膜表面の平滑性が向上する傾向がある。
【0018】
(アクリル系樹脂)
アクリル系樹脂としては特に限定されるものではないが、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、および/またはメタクリル酸アルキルエステルを主成分とする共重合物などを使用することができ、また例えば日本ダクタイル鉄管協会規格のJDPA Z 2010-2009「ダクタイル鋳鉄管合成樹脂塗装」の規定にしたがう、スチレン、酢酸ビニルまたはブタジエンを含むアクリレートもしくはメタクリレート共重合物も使用することができる。
【0019】
(エポキシ系樹脂)
エポキシ系樹脂としては特に限定されるものではないが、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、環式脂肪族エポキシ樹脂、グリシジルアミン型樹脂、複素環式エポキシ樹脂、多官能型エポキシ樹脂、エポキシエステル樹脂などが挙げられる。その中でも、形成される塗膜が硬くなり、鋳鉄管内面に施されるエポキシ樹脂粉体塗膜との密着性がより向上するという観点からエポキシエステル樹脂が好ましく用いられる。
【0020】
エポキシエステル樹脂としては、不飽和脂肪酸変性エポキシエステル樹脂、末端カルボキシル基含有構造を有するビニル単量体およびその他のビニル単量体を塊状重合させて得られるビニル変性エポキシエステル樹脂などが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0021】
本発明に用いられる溶剤系塗料中の、エポキシ系樹脂の含有量は、固形分で、樹脂成分全体に対して0.5質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましい。エポキシ系樹脂の含有量を、固形分で、樹脂成分全体に対して0.5質量%以上とすることにより、防食性が向上する傾向がある。また、エポキシ系樹脂の含有量は、固形分で、樹脂成分全体に対して15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。エポキシ系樹脂の含有量を、固形分で、樹脂成分全体に対して15質量%以下とすることにより、耐候性が低下せずに防食性が向上する傾向がある。
【0022】
(溶剤)
溶剤としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、イソブタノール、n-ブタノール、メタノール、メチルイソブチルケトンおよびプロピレングリコールモノエチルエーテルなどを、単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0023】
(顔料)
本発明に用いる溶剤系塗料には、十分な着色性や防錆性などを付与するために、顔料を配合することができる。具体的には、二酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック(例えば、商品名 MA100、三菱化学(株)製など)、シアニンブルー、シアニングリーンなどの着色顔料;炭酸カルシウム、タルク、硫酸バリウム、クレーなどの体質顔料;燐酸亜鉛、燐酸カルシウム、リンモリブデン酸アルミニウムなどの防錆顔料などが挙げられる。これらは単独で使用しても良く、必要により2種以上を混合して使用しても良い。
【0024】
(その他の成分)
溶剤系塗料には、上記成分のほかに必要に応じて公知の添加剤などを添加することができる。その他の添加剤としては、シリコーンや有機高分子からなる消泡剤;シリコーンや有機高分子からなる表面調整剤;アマイドワックス、有機ベントナイトなどからなる粘性調整剤(タレ止め剤);シリカ、アルミナなどからなる艶消し剤;ポリカルボン酸塩などからなる分散剤;ベンゾフェノンなどからなる紫外線吸収剤;ヒンダードアミン系光安定剤;フェノール系酸化防止剤;ワックスなど、公知の添加剤を挙げることができる。これらは必要により単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0025】
溶剤系塗料の製造には塗料製造に慣用されている設備を使用する。製造方法は特に限定されないが、例えば市販の樹脂成分に顔料、添加剤(顔料分散剤、粘性調整剤等)、溶剤などを添加した後、ロールミル、SGミル、ディスパーなどで分散処理することによって所望の塗料が得られる。
【0026】
溶剤系塗料による塗膜の形成は、特に限定されるものではないが、通常、鋳鉄管を加温せずに常温で行われる。鋳鉄管を加温する場合には溶剤が沸かない温度までの加温が行われる。塗装方法としては、特に限定されないが、刷毛塗装、ローラー塗装、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、浸漬塗装、シャワーコート塗装などの方法で塗布される。本発明の溶剤系塗料は、一液型であるため、二液型のエポキシ系樹脂塗料と比較してスプレー塗装においても塗装条件管理が容易となり、安定して塗装することができる。
【0027】
溶剤系塗料により形成される塗膜の厚さは、塗装処理される鋳鉄管の用途により適宜設定されるものであり、特に限定されるものではないが、例えば上下水道に用いられる鋳鉄管の場合、管外面の塗膜でおおよそ100~150μmの範囲、管受口部内面の塗膜も同じくおおよそ100~150μmの範囲で適宜設定することができる。
【0028】
(鋳鉄管)
本発明の鋳鉄管は、例えば、上下水道用、貯水用など特に限定されるものではないが、本発明の効果をより発揮することができるという観点から、上下水道用の鋳鉄管が好ましい。また、鋳鉄管の管直管部内面には、モルタルライニング処理またはエポキシ樹脂粉体塗装が施されていることが好ましく、本発明の効果を充分に発揮できるという観点から、エポキシ樹脂粉体塗装が施されていることが好ましい。さらに、本発明の鋳鉄管は、適用する塗料が溶剤系であり、水系塗料と比べて溶媒の蒸発に高い温度を必要としないことから、加熱のし難い呼び径が大きい管(例えばφ900mm以上)が本発明の効果を充分に発揮することができ好ましい。
【0029】
<鋳鉄管の管外面および管受口部内面の防食方法>
本発明の別の態様としては、鋳造後の少なくとも一端に受口部が設けられた鋳鉄管の、(a)管受口部内面に、樹脂成分がアクリル系樹脂およびエポキシ系樹脂からなる溶剤系塗料を塗布する工程、および(b)管外面に管受口部内面に塗布した溶剤系塗料と同一の溶剤系塗料を塗布する工程を含む、管外面および管受口部内面の防食方法が提供される。
【0030】
本発明の防食方法においては、鋳鉄管製造時における作業性の観点から、(a)工程と(b)工程とが連続して行われることが好ましい。ここで、「連続して」とは、具体的には同時もしくは連続した工程として作業することを意味し、(a)工程と(b)工程との間隔は、好ましくは5分以内である。
【0031】
また、本発明の防食方法においては、(a)工程の前に管直管部内面にエポキシ樹脂粉体塗装がなされることが好ましい。
【0032】
(管直管部内面処理)
本発明の防食方法に用いる鋳鉄管は、一実施形態において、管直管部内面4にモルタルライニング処理またはエポキシ樹脂粉体塗装が施されている。エポキシ樹脂粉体塗装は、鋳鉄管内面に防食性を付与するため、鋳鉄管を加熱し、鋳鉄管の内面に、エポキシ樹脂粉体塗料を、例えばスプレー塗装して内面塗膜を形成することによってなされる。また、鋳鉄管内面に防食性を付与するため、エポキシ樹脂粉体塗料による内面塗膜を形成する代わりに鋳鉄管内面にモルタルライニング層を形成することもできる。エポキシ樹脂粉体塗装やモルタイルライニング層の形成前には、必要に応じて管内面を研磨、清掃などの素地調整を行うことが好ましい。モルタルライニング層の形成は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば珪砂などの骨材を含むセメント材料を、内面ライニング装置を管軸方向に移動させながら、管内面にモルタルライニングを形成し、蒸気養生する方法があげられる。モルタルライニング層の厚さはJWWA A 113「水道用ダクタイル鋳鉄管モルタルライニング」において口径ごとに規定されている。
【0033】
((a)工程:管受口部内面の塗膜の形成)
本発明の防食方法では、例えば、管直管部内面処理を施した後、(a)工程として、受口部1の内面(管受口部内面3)に塗膜を形成する(領域B)。用いる溶剤系塗料については、鋳鉄管について上述した内容を全て適用することができる。管受口部内面3の塗膜の形成は、管直管部内面処理により管温度を上昇させた場合は、その余熱を利用することができ、管直管部内面処理を施した後、連続して行われることが好ましい。管直管部内面処理工程と管受口部内面の塗膜の形成工程との間隔は特に限定されるものではないが、自然冷却の場合、内面処理工程の後、通常15分以内の間隔、より好ましくは10以内の間隔で連続して管受口部内面の塗膜の形成を行う。このときの鋳鉄管の表面温度は好ましくは50℃以下である。50℃より高いと塗料中の溶剤が沸く傾向がある。
【0034】
管受口部内面3の塗膜の形成((a)工程)は、その塗装方法が、特に限定されるものではなく、スプレーや刷毛、ローラーによって所望の膜厚に塗装することができる。
【0035】
((b)工程:管外面の塗膜の形成)
本発明の防食方法では、例えば、(a)工程を行った後、(b)工程として、管外面2に管受口部内面と同一の塗料を塗布して塗膜を形成する。用いる溶剤系塗料については、鋳鉄管について上述した内容を全て適用することができる。管外面2の塗装方法は、特に限定されるものではなく、スプレーや刷毛、ローラーなどを使用することができる。また、塗装時の管体の温度は通常は常温であるが、加温する場合は50℃以下が好ましい。管体の温度が50℃より高いと塗料中の溶剤が沸く傾向がある。
【0036】
(管端面の塗膜の形成)
本発明の防食方法の一実施形態では、(a)工程の後あるいは(b)工程の後に、管端面5にも、管外面および管受口部内面と同じ溶剤系塗料により塗膜を形成してもよい。管端面5の塗膜の形成は、特に限定されるものではなく、スプレーや刷毛、ローラー、浸漬などにより行うことができる。
【0037】
その他、特段の矛盾がない限り、本発明の鋳鉄管において上述した内容はすべて本発明の防食方法に適用され、本発明の防食方法において上述した内容はすべて本発明の鋳鉄管に適用される。
【実施例0038】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
まず、実施例等で使用した成分を下記に示す。
<溶液系塗料>
(樹脂)
・アクリル樹脂ワニス:アクリディック A9510(DIC(株)製)
・エポキシエステル樹脂ワニス:アラキード9201N(荒川化学工業(株)製)
(顔料)
・カーボンブラック:MA-100(三菱ケミカル(株)製)
・酸化チタン:アナタース(堺化学工業(株)製)
・炭酸カルシウム:NEOLIGHT SA-200(竹原化学工業(株)製)
・硫酸バリウム:硫酸バリウム W-6(竹原化学工業(株)製)
・タルク:Tタルク(竹原化学工業(株)製)
<粉体塗料>
・エポキシ樹脂粉体塗料:V-PET#1600クリモトグレーFH(大日本塗料(株)製、JWWA G 112規格品、粉末)
【0040】
実施例1
鋳鉄管(φ900×6000mm)を240~330℃に加熱した。その後、エポキシ樹脂粉体塗料を用い、塗料を吐出して管内面に塗装する粉体塗装装置を用いて目標膜厚300μmで粉体塗装を行い、管内面を塗装した(
図1における領域A)。その後、管温度が50℃以下となるまで自然冷却した後、表1の塗料Aを用いてエアレススプレーにより管受口部内面(
図1における領域B)を塗装した(膜厚:100μm)。その後、管外面(
図1における2)をエアレススプレーにより表1の塗料Aを用いて塗装し(膜厚:100μm)、最後に受口部の管端面(
図1における5)を、表1の塗料Aを用いて刷毛により塗装した(膜厚:100μm)。
【0041】
得られた鋳鉄管は、1種類の塗料のみで管外面および管受口内面に関する防食性および耐候性の性能を満たすことができるため、製造工数を減らしながら要求性能を満たすものであった。
【0042】
【0043】
試験例1:耐候性
(1)試験片の作製
サンドブラスト処理された鋼板(150mm×70mm×2mm)に膜厚が100μmとなるように、表1に記載の塗料A、塗料Bまたは塗料Cのいずれかを刷毛塗装し、その後自然乾燥させた。
【0044】
(2)試験方法
JIS K 5600-7-7 キセノンランプ法に準拠して耐候性評価を行った。(1)で作製した試験片をアイ スーパー キセノンテスター XER-W75(岩崎電機(株)製)にセットし、JIS K 5600-7-7の9.5に規定されるサイクルAの試験条件にて、300時間試験した。
【0045】
(3)評価
評価は以下の基準にて行った。
○:割れ、剥がれ、錆を認められない
×:割れ、剥がれ、錆が認められる
【0046】
試験例2:耐食性
(1)試験片の作製
試験片は試験例1と同様にして作製した。
【0047】
(2)試験方法
JIS K 5600-7-1 耐中性塩水噴霧性に準じて耐食性評価を行った。上記試験片の塗装面の中央部に下地まで達するようにカッターナイフでクロスカットを入れた後、雰囲気温度35℃、塩化ナトリウム濃度5%水溶液を噴霧する環境で試験を行った。
【0048】
(3)評価
評価は、クロスカット部の周囲2mm以外の箇所を対象として、以下の基準にて行った。
○:240時間後に赤錆、フクレ発生なし
△:120時間後に赤錆、フクレ発生なし
【0049】
試験例3:耐温水性
(1)試験片の作製
試験片は試験例1と同様にして作製した。
【0050】
(2)試験方法
試験片を沸騰した水道水に10分間浸漬させて塗膜の外観を目視にて観察した。
【0051】
(3)評価
評価は以下の基準にて行った。
○:塗膜にフクレ発生なし
×:塗膜にフクレ発生あり
【0052】
試験例4:粉体塗料との密着性
(1)試験片の作製
内面にエポキシ樹脂粉体塗装(膜厚300μm)を施したダクタイル鉄管(φ100mm)を150mmの長さに切断し、さらに周方向に4分割して鋳鉄片(150mm×70mm)を得た。この鋳鉄片のエポキシ樹脂粉体塗膜上に膜厚が100μmとなるように表1に記載の塗料A、塗料Bまたは塗料Cのいずれかを刷毛塗装し、その後自然乾燥した。
(2)試験方法
試験片をJIS K 5600-5-6 クロスカット法に準じて付着性試験を行った。試験片は、各塗料を塗布後23℃の環境で7日間養生し、試験方法7.1.3、7.1.4に記載されているように、格子パターンのカット数を6個、カットの間隔を2mmとして粉体塗膜まで達するクロスカットを行った。カット後にクロスカット部の塗膜についてテープ剥離試験を行い、剥離状況を観察した。
(3)評価
評価は、JIS K 5600-5-6の8.3表1「試験結果の分類」の記載に照らし合わせて行い、以下のように分類した。
○:分類0~1
×:分類2~5
【0053】
表1から、樹脂成分がアクリル系樹脂およびエポキシ系樹脂からなる溶剤系塗料を用いる場合、樹脂成分がアクリル系樹脂のみである溶剤系塗料を用いる場合と比較して、耐食性、耐温水性および粉体塗膜との密着性に優れ、管外面および管受口内面塗装を同一の塗料にて行うことが可能であることがわかる。