(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143236
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】成膜用原料粉、成膜用原料粉の調製方法及び成膜方法
(51)【国際特許分類】
C23C 24/04 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
C23C24/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055805
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 享平
(72)【発明者】
【氏名】中尾 孝之
(72)【発明者】
【氏名】國松 美里
【テーマコード(参考)】
4K044
【Fターム(参考)】
4K044BA13
4K044BA14
4K044BB01
4K044CA21
(57)【要約】
【課題】結晶性アルミノケイ酸塩を含む原料粉を用いたエアロゾルデポジション法によって良好な膜形成が可能となる成膜用原料粉を提供する。
【解決手段】ミクロ多孔性の結晶性アルミノケイ酸塩の粒子を含み、当該粒子を搬送ガス中に分散させたエアロゾルを基材Kの処理対象面Kaに向けて噴出して、処理対象面Ka上にセラミックス膜を形成するために用いる成膜用原料粉であって、含水率が8.5wt%以上19wt%以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミクロ多孔性の結晶性アルミノケイ酸塩の粒子を含み、当該粒子を搬送ガス中に分散させたエアロゾルを基材の処理対象面に向けて噴出して、前記処理対象面上にセラミックス膜を形成するために用いる成膜用原料粉であって、
含水率が8.5wt%以上19wt%以下である成膜用原料粉。
【請求項2】
前記結晶性アルミノケイ酸塩の骨格構造がLTA型、FAU-NA型及びFAU-K型のいずれかである請求項1に記載の成膜用原料粉。
【請求項3】
ミクロ多孔性の結晶性アルミノケイ酸塩の粒子を含み、当該粒子を搬送ガス中に分散させたエアロゾルを基材の処理対象面に向けて噴出して、前記処理対象面上にセラミックス膜を形成するために用いる成膜用原料粉を調製する方法であって、
前記成膜用原料粉の含水率を8.5wt%以上19wt%以下に調整する工程を含む、成膜用原料粉の調製方法。
【請求項4】
前記結晶性アルミノケイ酸塩の骨格構造がLTA型、FAU-NA型及びFAU-K型のいずれかである請求項3に記載の成膜用原料粉の調製方法。
【請求項5】
ミクロ多孔性の結晶性アルミノケイ酸塩の粒子を含む成膜用原料粉を用い、前記粒子を搬送ガス中に分散させたエアロゾルを基材の処理対象面に向けて噴出して、前記処理対象面上にセラミックス膜を形成する方法であって、
含水率が8.5wt%以上19wt%以下である前記成膜用原料粉を調製する原料粉調製工程と、
前記原料粉調製工程で得られた前記成膜用原料粉を前記搬送ガス中に分散させた前記エアロゾルを前記処理対象面に向けて噴出させる成膜工程と、を含む成膜方法。
【請求項6】
前記結晶性アルミノケイ酸塩の骨格構造がLTA型、FAU-NA型及びFAU-K型のいずれかである請求項5に記載の成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜用原料粉、成膜用原料粉の調製方法及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
焼結のような高温での熱処理を経ることなく、セラミックス膜を基材上に形成する方法として、エアロゾルデポジション法(AD法)と呼ばれる手法が知られている。このAD法は、膜の材料となる粒子からなる原料粉を、ノズルから音速程度で基材に向けて噴射し、原料粉が基材に衝突する際のエネルギーによって粒子を破砕、変形させることで、基材上に緻密な膜を形成する手法である。
【0003】
AD法では、一般的に乾燥状態の原料粉を用いることが推奨されている。例えば、特許文献1には、原料粉の凝集を防止することを目的として、原料粉に含まれる水分量(含水率)を0.45wt%以下とすることにより、原料粉の凝集が防止され、膜の形成が容易になる点が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、本願発明者は、種々の材料からなるセラミックス膜のAD法を用いた基材上への成膜の可否について検討を行ったところ、結晶性アルミノケイ酸塩の粒子からなる乾燥状態の原料粉を用いると、膜の形成が困難であることを発見した。
【0006】
本発明は以上の実情に鑑みなされたものであり、結晶性アルミノケイ酸塩を含む原料粉を用いたエアロゾルデポジション法によって良好な膜形成が可能となる成膜用原料粉、成膜用原料粉の調製方法及び成膜方法の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係る成膜用原料粉の特徴構成は、
ミクロ多孔性の結晶性アルミノケイ酸塩の粒子を含み、当該粒子を搬送ガス中に分散させたエアロゾルを基材の処理対象面に向けて噴出して、前記処理対象面上にセラミックス膜を形成するために用いる成膜用原料粉であって、
含水率が8.5wt%以上19wt%以下である点にある。
【0008】
本願発明者は、鋭意研究を重ねた結果、結晶性アルミノケイ酸塩の粒子を含む原料粉を用いて、粒子を搬送ガス中に分散させたエアロゾルを基材の処理対象面に向けて噴出して処理対象面上にセラミックス膜を形成する場合(いわゆるAD法によってセラミックス膜を形成する場合)、従来のように乾燥状態の原料粉を用いると膜形成が困難であるが、所定量の水分を含む原料粉を用いることで、良好な膜形成が可能となることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、上記特徴構成によれば、成膜用原料粉の含水率が8.5wt%以上19wt%以下であるため、当該成膜用原料粉を用いることで、AD法によって処理対象面上に良好な膜を形成できる。
【0010】
また、本発明に係る成膜用原料粉の更なる特徴構成は、
前記結晶性アルミノケイ酸塩の骨格構造がLTA型、FAU-NA型及びFAU-K型のいずれかである点にある。
【0011】
上記特徴構成によれば、AD法の原料粉として用いることで、骨格構造がLTA型、FAU-NA型及びFAU-K型のいずれかである結晶性アルミノケイ酸塩からなる良好な膜を形成できる。
【0012】
上記目的を達成するための本発明に係る成膜用原料粉の調製方法の特徴構成は、
ミクロ多孔性の結晶性アルミノケイ酸塩の粒子を含み、当該粒子を搬送ガス中に分散させたエアロゾルを基材の処理対象面に向けて噴出して、前記処理対象面上にセラミックス膜を形成するために用いる成膜用原料粉を調製する方法であって、
前記成膜用原料粉の含水率を8.5wt%以上19wt%以下に調整する工程を含む点にある。
【0013】
上記特徴構成によれば、含水率が8.5wt%以上19wt%以下である成膜用原料粉を調製することができる。そして、調製した成膜用原料粉を用いることで、AD法によって処理対象面上に良好な膜を形成できる。
【0014】
また、本発明に係る成膜用原料粉の調製方法の更なる特徴構成は、
前記結晶性アルミノケイ酸塩の骨格構造がLTA型、FAU-NA型及びFAU-K型のいずれかである点にある。
【0015】
上記特徴構成によれば、調製した成膜用原料粉をAD法での成膜に用いることで、骨格構造がLTA型、FAU-NA型及びFAU-K型のいずれかである結晶性アルミノケイ酸塩からなる良好な膜を形成できる。
【0016】
上記目的を達成するための本発明に係る成膜方法の特徴構成は、
ミクロ多孔性の結晶性アルミノケイ酸塩の粒子を含む成膜用原料粉を用い、前記粒子を搬送ガス中に分散させたエアロゾルを基材の処理対象面に向けて噴出して、前記処理対象面上にセラミックス膜を形成する方法であって、
含水率が8.5wt%以上19wt%以下である前記成膜用原料粉を調製する原料粉調製工程と、
前記原料粉調製工程で得られた前記成膜用原料粉を前記搬送ガス中に分散させた前記エアロゾルを前記処理対象面に噴出させる成膜工程と、含む点にある。
【0017】
上記特徴構成によれば、含水率が8.5wt%以上19wt%以下となるように成膜用原料粉を調製し、当該成膜用原料粉を用いて成膜工程を行うため、処理対象面上に良好な膜を形成できる。
【0018】
また、本発明に係る成膜方法の更なる特徴構成は、
前記結晶性アルミノケイ酸塩の骨格構造がLTA型、FAU-NA型及びFAU-K型のいずれかである点にある。
【0019】
上記特徴構成によれば、骨格構造がLTA型、FAU-NA型及びFAU-K型のいずれかである結晶性アルミノケイ酸塩からなる良好な膜を形成できる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明に係る成膜用原料粉、成膜用原料粉の調製方法及び成膜方法によれば、結晶性アルミノケイ酸塩を含む原料粉を用いたエアロゾルデポジション法によって良好な膜形成が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本実施形態に係る成膜方法に用いる成膜装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して一実施形態に係る成膜用原料粉、成膜用原料粉の調製方法及び成膜方法について説明する。なお、以下の説明において、上下とは、図面における上側、下側をいうものとする。
【0023】
〔成膜装置〕
まず、本実施形態に係る成膜方法に用いる成膜装置1について説明する。
【0024】
図1は、成膜装置1の概略構成を示す図である。
図1に示すように、成膜装置1は、成膜用原料粉を搬送ガス中に分散させたエアロゾルを基材Kの処理対象面Kaに向けて噴出して、基材Kの処理対象面Kaの上に膜を形成する装置である。つまり、成膜装置1は、エアロゾルデポジション法によって基材Kの処理対象面Kaの上に膜を形成する装置である。
【0025】
本実施形態において、成膜装置1は、内部に基材Kが配設される処理室2と、成膜処理の対象である基材Kを保持する保持部4と、保持部4を移動可能に構成された移動機構3と、噴出端5aからエアロゾルを噴出するエアロゾル搬送管5と、成膜用原料粉をガスに分散させたエアロゾルを発生させるエアロゾル発生部15と、成膜用原料粉をエアロゾル発生部15に送給する原料粉供給機構16と、搬送ガスをエアロゾル発生部15に送給する搬送ガス送給機構18と、を備えている。
【0026】
処理室2は、気密状の筐体で構成されており、上端面に開口2aが形成されている。また、処理室2の内部には、保持部4やエアロゾル搬送管5が配設されている。処理室2の開口2aには、排気設備としてのメカニカルブースターポンプP1及び真空ポンプP2が排気管S1によって接続されている。処理室2内は、メカニカルブースターポンプP1及び真空ポンプP2によって気体が排出されることで所定圧力(例えば、0.75kPa程度)以下に減圧される。
【0027】
保持部4は、処理対象面Kaが水平面と平行となるように当該処理対象面Kaを下側に向けて基材Kを保持可能に構成されている。基材Kを保持する手法としては、真空吸着を利用する手法や、クーロン力を利用する手法などの既知の手法を用いることができる。
【0028】
移動機構3は、保持部4を水平方向に移動させる水平駆動機構(図示せず)や鉛直方向に移動させる昇降駆動機構(図示せず)などで構成されている。なお、
図1では、移動機構3を処理室2の外部に配置した状態を示したが、処理室2の内部に移動機構3を配置してもよい。
【0029】
エアロゾル搬送管5は、円筒状の直管部材であり、噴出端5aの断面形状が円形である。また、エアロゾル搬送管5は、噴出端5aが保持部4と対向するように処理室2内に配設されている。エアロゾル搬送管5における噴出端5aと反対の端部はエアロゾル発生部15に接続されている。このエアロゾル搬送管5によれば、噴出端5aから基材Kの処理対象面Kaに向けてエアロゾルが噴射される。
【0030】
エアロゾル発生部15は、上記のように、成膜用原料粉をガスに分散させたエアロゾルを発生させるように構成されている。エアロゾル発生部15には、エアロゾル搬送管5、並びに、後述する原料供給管S2及び搬送ガス送給管S3が接続されている。エアロゾル発生部15では、原料粉供給機構16によって一定速度で供給される成膜用原料粉と、搬送ガス送給機構18によって送給される搬送ガスとを混合したエアロゾルが発生する。発生したエアロゾルは、エアロゾル搬送管5に送給される。
【0031】
原料粉供給機構16は、原料粉供給部17や原料供給管S2などで構成される。原料粉供給部17には、成膜用原料粉が貯留されている。成膜用原料粉は、原料供給管S2を通してエアロゾル発生部15に供給される。なお、成膜用原料粉の詳細については後述する。
【0032】
搬送ガス送給機構18は、ガス供給部19や搬送ガス圧力制御部20、搬送ガス流量制御部21、搬送ガス送給管S3などで構成されている。
【0033】
ガス供給部19には、搬送ガス送給管S3が接続されている。ガス供給部19は、空気やN2、He、Arなどの搬送ガスをコンプレッサーやガスボンベによって搬送ガス送給管S3に供給するように構成されている。
【0034】
搬送ガス送給管S3は、ガス供給部19から供給される搬送ガスをエアロゾル発生部15まで送給するためのものである。本実施形態において、ガス供給部19から送出された搬送ガスは、搬送ガス圧力制御部20、搬送ガス流量制御部21を順に経由してエアロゾル発生部15まで送給される。つまり、搬送ガス送給管S3は、ガス供給部19、搬送ガス圧力制御部20、搬送ガス流量制御部21及びエアロゾル発生部15の間を繋ぐ複数の配管によって構成されている。搬送ガス送給管S3における搬送ガス流量制御部21とエアロゾル発生部15との間には、搬送ガス送給管S3内の圧力を検出する圧力センサM1が設けられている。
【0035】
搬送ガス圧力制御部20は、搬送ガス送給管S3内を流通する搬送ガスを適正圧力に静定するものである。搬送ガス流量制御部21は、搬送ガス送給管S3内を流通する搬送ガスの流量を制御するものである。搬送ガス圧力制御部20及び搬送ガス流量制御部21は、圧力センサM1により検出される圧力などを基に、適宜制御装置によって動作が制御される。
【0036】
〔成膜用原料粉〕
次に、本実施形態に係る成膜用原料粉について説明する。成膜用原料粉は、ミクロ多孔性の結晶性アルミナ粒子を含み、当該粒子を搬送ガス中に分散させたエアロゾルを基材の処理対象面に向けて噴出して、処理対象面上にセラミックス膜を形成するために用いるものである。
【0037】
ここで、本願発明者が新たに得た知見によれば、成膜用原料粉を結晶性アルミノケイ酸塩の粒子で構成した場合、乾燥状態では粒子の真比重が小さい(2g/cm3程度)ため、基材Kに衝突した際の衝撃力が弱く、成膜体が形成され難い。これに対して、結晶格子内に水分が取り込まれた状態では、粒子の比重が増して衝撃力が増加するため、成膜体が形成され易くなる。一方で、過剰な水分が取り込まれた状態では粒子同士が凝集し、基材Kの衝突時に粒子が破砕、変形せずに堆積した圧粉体が形成されるなどの成膜不良が発生する。そのため、成膜用原料粉の含水率を適切な範囲に調整する必要がある。
【0038】
そして、本願発明者は、鋭意研究を重ねた結果、結晶性アルミノケイ酸塩の粒子で構成した成膜用原料粉を用いる場合、当該成膜用原料粉の含水率が8.5wt%以上19wt%以下であることにより、圧粉体の形成などの成膜不良を抑えつつ良好な膜形成が可能となることを発見した。
【0039】
そこで、本実施形態では、成膜用原料粉として、含水率を8.5wt%以上19wt%以下に調整したものを使用する。なお、成膜用原料粉の含水率は、10wt%を超え、18.5wt%未満であることがより好ましい。
【0040】
また、成膜用原料粉を構成する結晶性アルミノケイ酸塩としては、種々の骨格構造を有するものを用いることができるが、本実施形態では、LTA型の結晶性アルミノケイ酸塩を用いている。
【0041】
〔成膜用原料粉の調製方法〕
次に、成膜用原料粉の調製方法について説明する。成膜用原料粉の調製方法は、成膜用原料粉の含水率を8.5wt%以上19wt%以下に調整する工程を含む。なお、当該工程は、成膜方法における原料粉調製工程に相当する。
【0042】
成膜用原料粉の調製は、結晶性アルミノケイ酸塩の粒子に過剰の水分を添加した後、加熱処理によって成膜用原料粉の含水率を調整して行うことができる。本実施形態では、水分添加後の結晶性アルミノケイ酸塩の粒子をホットプレート上で加熱し、加熱温度及び加熱時間の調整によって水分の揮発速度を調整し、所望の含水率を有する成膜用原料粉を調製する。
【0043】
また、本実施形態においては、露点が-20℃よりも低い空間で加熱処理を行う。より具体的には、露点が-10℃以上-50℃以下の空間で加熱処理を行う。このように、低露点の環境下において加熱処理を行うようにすれば、加熱空間中の水分量が少なく、水分の再吸着の影響が抑えられるため、含水率の調整を容易に行うことができる。
【0044】
本実施形態では、100℃以上200℃以下の加熱温度で加熱処理を行う。加熱温度が200℃を超えるような高温である場合、水分の揮発速度が速くなり、水分を高速で除去できるが、含水率の微調整が難しい。一方で、加熱温度が100℃を下回るような場合、結晶格子内に取り込まれた水分を結晶格子内から除去し難く、含水率の調整が難しい。なお、水分の揮発速度を適度な速度とし、含水率の調整のし易さと含水率の調整に要する時間とのバランスをとるという観点からすれば、加熱処理は、150℃以上200℃以下の加熱温度で行うことが好ましい。
【0045】
また、本実施形態では、ハロゲン水分計を使用して含水率を測定する。具体的には、加熱処理後の結晶性アルミノケイ酸塩の粒子を所定温度で所定時間加熱して加熱前後の重量変化を測定し、重量減少分を水分量として含水率を測定する。
【0046】
〔成膜方法〕
次に、本実施形態に係る成膜方法について説明する。成膜方法は、含水率が8.5wt%以上19wt%以下である成膜用原料粉を調製する原料粉調製工程と、当該原料粉調製工程で得られた成膜用原料粉を搬送ガス中に分散させたエアロゾルを処理対象面に向けて噴出させる成膜工程とを含む。
【0047】
具体的に、本実施形態の成膜方法では、まず、上記のように含水率が8.5wt%以上19wt%以下である成膜用原料粉を調製し(原料粉調製工程)、調製した成膜用原料粉を原料粉供給部17に貯留する。
【0048】
次に、搬送ガス圧力制御部20及び搬送ガス流量制御部21によって搬送ガス送給管S3内を流通する搬送ガスの流量や圧力を調整しながらガス供給部19からエアロゾル発生部15へと搬送ガスを送給する。エアロゾル発生部15では、送給された搬送ガスと原料粉供給部17から供給される成膜用原料粉とが混合したエアロゾルが発生する。発生したエアロゾルは、エアロゾル搬送管5に送給される。
【0049】
エアロゾル搬送管5に送給されたエアロゾルは、噴出端5aから基材Kの処理対象面Kaに向けて噴出され、噴出されたエアロゾルが基材Kの処理対象面Kaに衝突することで、当該処理対象面Kaに膜が形成される(成膜工程)。
【0050】
本実施形態に係る成膜方法では、成膜用原料粉として、結晶性アルミノケイ酸塩の粒子からなり、含水率を8.5wt%以上19wt%以下に調整したものを使用している。これにより、結晶性アルミノケイ酸塩粒子の結晶格子内に適度に水分が取り込まれ、粒子同士が凝集し難く、且つ、比重が真比重よりも増加した状態の粒子が基材Kに衝突する。そのため、この成膜方法によれば、圧粉体の形成などの成膜不良の発生を抑えつつ良好な膜形成が可能となる。
【0051】
〔実施例及び比較例〕
以下、実施例1~3及び比較例1~5について説明する。実施例1~3及び比較例1~5では、使用する成膜用原料粉の含水率以外の条件を揃えた上で、基材を水平方向に沿って往復移動させながら処理対象面にエアロゾルを吹き付けて所定時間成膜処理を行った。なお、エアロゾル搬送管には、噴出端における流路断面の形状が円形であり、流路断面積が24mm2であるものを使用した。また、噴出端と基材の処理対象面との間の距離は、50mmで固定した。更に、成膜用原料粉として、真密度が2.0g/cm3、平均粒子径が2.6μmであるLTA型の結晶性アルミノケイ酸塩の粒子を使用した。また、搬送ガスの流量は12L/min、処理室内の圧力は0.75kPaとした。
【0052】
各実施例及び各比較例で使用した成膜用原料粉は、結晶性アルミノケイ酸塩の粒子に過剰の水分を添加した後、加熱処理によって水分の除去を行うことで、含水率が所望の値となるように調製した。具体的には、露点が-40℃の空間内で、過剰の水分を添加した結晶性アルミノケイ酸塩の粒子をホットプレート上で加熱し、150~200℃の範囲での加熱温度の調整及び加熱時間の調整によって水分の揮発速度を調整し、所望の含水率を有する成膜用原料粉を調製した。
【0053】
なお、含水率については、ハロゲン水分計を用いて測定した。具体的には、ホットプレート上で加熱した結晶性アルミノケイ酸塩の粒子を199℃で5分間加熱して重量変化を測定し、重量減少分を水分量として含水率を算出した。
【0054】
表1は、実施例1~3及び比較例1~5において使用した成膜用原料粉の含有水分量(含水率)と、成膜処理によって形成された成膜体の膜重量とをまとめた表である。なお、成膜体の膜重量とは、外観上の膜質が良好な膜の重量をいい、圧粉体などの不良膜の重量は成膜体の膜重量には含まない。
【0055】
【0056】
表1に示すように、成膜用原料粉の含水率が8.5wt%未満である比較例1~3では成膜体の膜重量が0mgであり、処理対象面上に成膜体が形成されていない。これは、粒子の密度不足によって基材へ衝突した際の衝撃力が不足した結果であると推察される。一方で、含水率が19wt%を超える比較例4及び5でも成膜体の膜重量がほぼ0mgであり、処理対象面上に成膜体が形成されていない。比較例4及び5では、含水率が高く過ぎることで粒子の凝集が激しくなり、原料供給部からエアロゾル発生部へと成膜用原料粉が供給され難くなったため、結果的に処理対象面上に成膜体が形成され難くなった。
【0057】
これに対して、成膜用原料粉の含水率が8.5wt%以上19wt%以下である実施例1~3では、成膜体の膜重量がそれぞれ3.7mg、5.5mg、3.8mgであり、処理対象面上に十分な量の成膜体が形成された。特に、含水率が13.4wt%である実施例2では、実施例1及び3よりも成膜体の膜重量が多くなっている。このことから、成膜用原料粉の含水率が10wt%を超え、18.5wt%未満であることにより、良好な膜をより多く形成できることがわかる。
【0058】
〔別実施形態〕
〔1〕上記実施形態では、結晶性アルミノケイ酸塩として、LTA型のものを使用する態様について説明したが、このような態様に限られるものではない。上記のように、結晶性アルミノケイ酸塩としては、種々の骨格構造を有するものを用いることができる。なお、成膜用原料粉がある程度の含水率を有するものである必要があることから、結晶格子内へ水分を取り込み易い骨格構造を有するものであることが好ましい。結晶格子内へ水分を取り込み易い骨格構造を有するものとしては、シリカの割合が多いものが挙げられ、例えば、LTA型の他、FAU-NA型、FAU-K型を例示できる。したがって、結晶性アルミノケイ酸塩の骨格構造は、LTA型、FAU-NA型及びFAU-K型のいずれかであることが好ましい。
【0059】
〔2〕上記実施形態では、成膜用原料粉の含水率を調整する際に、水分添加後の結晶性アルミノケイ酸塩の粒子をホットプレート上で加熱する態様について説明したが、このような態様に限られるものではない。外部からエネルギーを与えて水分を除去できる方法であればどのような態様であってもよく、例えば、電気炉を用いて加熱する態様であってもよいし、マイクロ波を照射する態様であってもよい。
【0060】
〔3〕上記実施形態では、露点が-20℃よりも低い空間(具体的には、露点が-10℃以上-50℃以下の空間)で加熱処理を行う態様について説明したが、このような態様に限られるものではない。水分の再吸着の影響を受ける可能性があるが、一般的な大気環境下で加熱処理を行う態様であってもよい。
【0061】
〔4〕上記実施形態では、100℃以上200℃以下の加熱温度で加熱処理を行う態様について説明したが、このような態様に限られるものではない。水分の除去が可能な温度であれば、200℃を超える加熱温度や100℃を下回る加熱温度で加熱処理を行う態様であってもよい。
【0062】
〔5〕上記実施形態では、ハロゲン水分計を使用して含水率を測定する態様について説明したが、このような態様に限られるものではない。例えば、TG-DTA(熱重量・示差熱同時測定)等が可能な分析装置を用いて含水率を測定する態様であってもよい。
【0063】
〔6〕上記実施形態では、エアロゾル搬送管5として、円筒状の直管部材を用い、噴出端5aの断面形状が円形である態様について説明したが、このような態様に限られるものではない。エアロゾル搬送管における噴出端の断面形状は、楕円形であってもよく、三角形や矩形(スリットを含む)等の多角形であってもよい。
【0064】
〔7〕上記実施形態では、処理対象面Kaが下向きとなるように保持部4が基材Kを保持する態様について説明したが、このような態様に限られるものではない。保持部とエアロゾル搬送管の噴出端との位置を上下で入れ替え、処理対象面が上向きとなるように保持部が基材を保持する態様であってもよい。
【0065】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 :成膜装置
2 :処理室
3 :移動機構
5 :エアロゾル搬送管
15 :エアロゾル発生部
16 :原料粉供給機構
18 :搬送ガス送給機構
K :基材
Ka :処理対象面