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特開2024-143237ゼオライト膜複合体、分離装置、脱水装置及びゼオライト膜複合体の製造方法
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  • 特開-ゼオライト膜複合体、分離装置、脱水装置及びゼオライト膜複合体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143237
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ゼオライト膜複合体、分離装置、脱水装置及びゼオライト膜複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20241003BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20241003BHJP
   B01D 61/00 20060101ALI20241003BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20241003BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20241003BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20241003BHJP
   B01D 71/04 20060101ALI20241003BHJP
   C01B 39/14 20060101ALI20241003BHJP
   C01B 39/46 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B01D71/02
B01D53/22
B01D61/00
B01D69/00
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/02 500
B01D71/04
C01B39/14
C01B39/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055806
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】中尾 孝之
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 亨平
(72)【発明者】
【氏名】國松 美里
【テーマコード(参考)】
4D006
4G073
【Fターム(参考)】
4D006GA15
4D006GA41
4D006MA02
4D006MA03
4D006MA09
4D006MA22
4D006MA31
4D006MB03
4D006MB04
4D006MC03X
4D006MC04
4D006NA46
4D006PA01
4D006PB63
4D006PB64
4D006PB70
4G073BD15
4G073BD18
4G073CZ02
4G073CZ17
4G073DZ02
4G073DZ08
4G073FB30
4G073FD27
4G073UA06
4G073UB60
(57)【要約】
【課題】ゼオライト膜の支持体として多孔質ガラス支持体を備え、様々な用途に用いることが可能なゼオライト膜複合体を提供する。
【解決手段】ゼオライト膜複合体Cは、多孔質ガラス支持体Kと、当該多孔質ガラス支持体Kの表面Kaに形成されたゼオライト膜Mとを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質ガラス支持体と、当該多孔質ガラス支持体の表面に形成されたゼオライト膜とを有するゼオライト膜複合体。
【請求項2】
前記多孔質ガラス支持体は、平均細孔径が50nm以上100μm以下である請求項1に記載のゼオライト膜複合体。
【請求項3】
前記ゼオライト膜の膜厚は、0.1μm以上100μm以下である請求項1に記載のゼオライト膜複合体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のゼオライト膜複合体を有し、前記ゼオライト膜複合体によって気体の分離を行う、分離装置。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載のゼオライト膜複合体を有し、前記ゼオライト膜複合体によって水を含む混合流体の脱水を行う、脱水装置。
【請求項6】
多孔質ガラス支持体と、当該多孔質ガラス支持体の表面に形成されたゼオライト膜とを有するゼオライト膜複合体を製造する方法であって、
前記多孔質ガラス支持体の表面に、ガスデポジション法によってゼオライト膜を形成するゼオライト膜形成工程を含む、ゼオライト膜複合体の製造方法。
【請求項7】
前記ゼオライト膜形成工程では、アルミノケイ酸塩の粒子を搬送ガス中に分散させたエアロゾルを、前記多孔質ガラス支持体の表面に向けて噴出して、前記表面上にゼオライト膜を形成する、請求項6に記載のゼオライト膜複合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト膜複合体、分離装置、脱水装置及びゼオライト膜複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多孔質体の上にゼオライト膜を形成してゼオライト膜複合体としたものについて、ゼオライトの分子ふるい作用を利用した特定の分子の分離等の用途に関する様々な研究開発が行われている。
【0003】
このようなゼオライト膜複合体としては、支持体として多孔質セラミックを用いたものや金属支持体を用いたものが提案されている(特許文献1~3)。
【0004】
特許文献1には、セラミック焼結体(アルミナ焼結体やムライト焼結体、チタニア焼結体など)の表面に水熱合成法によってゼオライト膜を形成してなる複合体が開示されている。
【0005】
一方、特許文献2には、多孔質金属酸化物担体の表面を金属酸化物粒子や金属窒化物粒子で被覆した上で、被覆表面に水熱合成法によってゼオライト膜を形成してなる複合体が開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、管状の多孔質金属支持体に塩基や酸による処理を施した後、処理した部分に、水熱合成法によってゼオライト膜を形成してなる複合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2020/255867号
【特許文献2】特開2001-146416号公報
【特許文献3】特開2010-142809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ゼオライト膜複合体は、様々な用途に用いられ、用途に応じて求められる性能(分離可能な流体の種類や透過速度等)が異なる。ゼオライト膜複合体の性能には、ゼオライト膜を構成するアルミノケイ酸塩の種類や支持体の多孔度の他、支持体の材質も影響する。そのため、ゼオライト膜複合体の用途の幅を広げる上で、ゼオライト膜複合体に利用可能な支持体についての知見の蓄積が望まれている。
【0009】
本発明は以上の実情に鑑みなされたものであり、ゼオライト膜の支持体として多孔質ガラス支持体を備え、様々な用途に用いることが可能なゼオライト膜複合体、当該ゼオライト膜複合体の製造方法、ゼオライト膜複合体を用いた分離装置及び脱水装置の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明に係るゼオライト膜複合体の特徴構成は、
多孔質ガラス支持体と、当該多孔質ガラス支持体の表面に形成されたゼオライト膜とを有する点にある。
【0011】
上記特徴構成によれば、多孔質ガラス支持体上に形成されたゼオライト膜によって、流体からの分離対象の分離や水の除去が可能となる。つまり、上記特徴構成を備えたゼオライト膜複合体は、ゼオライト膜の機能を利用した様々な用途に用いることができる。
【0012】
本発明に係るゼオライト膜複合体の更なる特徴構成は、
前記多孔質ガラス支持体は、平均細孔径が50nm以上100μm以下である点にある。
【0013】
多孔質ガラス支持体の平均細孔径が小さいと、流体の透過性が低くなってゼオライト膜へと流れる流体の量も減少し、流体からの分離対象の分離や水の除去等の効率が低下する。一方、平均細孔径が大きいと、当該多孔質ガラス支持体の表面へのガスデポジション法などによるゼオライト膜の成膜性が悪くなる。上記特徴構成によれば、良好な膜質のゼオライト膜を備え、多孔質ガラス支持体が適度な透過性を有しているため、ゼオライト膜の機能が十分に発揮される。
【0014】
本発明に係るゼオライト膜複合体の更なる特徴構成は、
前記ゼオライト膜の膜厚は、0.1μm以上100μm以下である点にある。
【0015】
ゼオライト膜の透過性が低いと、当該ゼオライト膜を流体が通り抜けにくくなり、流体からの分離対象の分離や水の除去等の効率が低下する。上記特徴構成によれば、ゼオライト膜が適度な透過性を有しているため、ゼオライト膜による機能が十分に発揮される。
【0016】
上記目的を達成するための本発明に係る分離装置の特徴構成は、
上記ゼオライト膜複合体を有し、前記ゼオライト膜複合体によって気体の分離を行う点にある。
【0017】
上記特徴構成によれば、複数の成分を含む混合気体から任意の成分を分離、回収することができる。
【0018】
上記目的を達成するための本発明に係る脱水装置の特徴構成は、
上記ゼオライト膜複合体を有し、前記ゼオライト膜複合体によって水を含む混合流体の脱水を行う点にある。
【0019】
上記特徴構成によれば、水を含む混合流体から水を分離することができるため、混合流体中の水や他の成分を分離、回収できる。
【0020】
上記目的を達成するための本発明に係るゼオライト膜複合体の製造方法の特徴構成は、
多孔質ガラス支持体と、当該多孔質ガラス支持体の表面に形成されたゼオライト膜とを有するゼオライト膜複合体を製造する方法であって、
前記多孔質ガラス支持体の表面に、ガスデポジション法によってゼオライト膜を形成するゼオライト膜形成工程を含む点にある。
【0021】
一般的に、ゼオライト膜は水熱合成法と呼ばれる液相合成法によって多孔質支持体上に成膜される。ゼオライト膜の主原料であるアルミニウム、ケイ素を含む原料溶液と種々のカチオン種を含む溶液を混合し、高温高圧熱水条件下で水熱合成法を行って種結晶を形成する。そして、種結晶を分散させた分散液に多孔質体を浸漬し、種結晶を多孔質体に付着させ、これを複数回繰り返し行う。
また、水熱合成法によるゼオライト膜の形成に際しては、分子ふるいにより目的とする分子の分離が可能な細孔径のサイズを決定するための構造規定剤が必要であり、通常、ゼオライト膜を形成後に当該構造規定剤を除去するための熱処理工程を行う。この熱処理工程は、構造規定剤の種類に応じて、400~1000℃で10~200時間の加熱を要する工程である。
このように、水熱合成法によってゼオライト膜を形成する場合、所望のゼオライト膜を得るために複数の工程が必要となり、成膜に相応の時間を要する。また、構造規定剤を除去するための熱処理が必要となり、耐熱性の点から多孔質ガラス支持体を支持体として用いることが難しいなどの問題がある。
しかしながら、上記特徴構成によれば、水熱合成法よりも短時間で成膜処理が可能であり、高温での熱処理が不要なガスデポジション法を用いる。そのため、多孔質ガラス支持体を支持体として用い、当該多孔質ガラス支持体の表面に水熱合成法よりも短時間でゼオライト膜を形成できる。したがって、上記ゼオライト膜複合体の製造方法では、多孔質ガラス支持体を支持体として備えたゼオライト膜複合体を、水熱合成法を用いる場合と比較して、短時間で好適に製造できる。
また、ゼオライト膜複合体の分離性能には透過性能や選択性があり、透過性能は、ゼオライト膜の性状の他、支持体の孔径にも依存する。支持体の透過性は、孔径が大きいほど高まるが、支持体の孔径が大きいと、ゼオライト膜を水熱合成法により形成する際に、種結晶形成時に分散液が孔から漏れ出てしまう。そのため、ゼオライト膜を水熱合成法により形成する場合、支持体の孔径を大きくすることができない。
しかしながら、上記ゼオライト膜複合体の製造方法では、多孔質ガラス支持体を支持体として用いている。一般的に多孔質ガラス支持体はランダムな孔形状を有している。そのため、上記ゼオライト膜複合体の製造方法では、孔径を大きくしてもガスデポジション法によるゼオライト膜の形成が可能である。よって、上記ゼオライト膜複合体の製造方法によれば、高性能(透過性能が高い)なゼオライト膜複合体を製造できる。
【0022】
本発明に係るゼオライト膜複合体の製造方法の更なる特徴構成は、
前記ゼオライト膜形成工程では、アルミノケイ酸塩の粒子を搬送ガス中に分散させたエアロゾルを、前記多孔質ガラス支持体の表面に向けて噴出して、前記表面上にゼオライト膜を形成する点にある。
【0023】
上記特徴構成によれば、所謂エアロゾルデポジション法によってゼオライト膜を形成できる。エアロゾルデポジション法は、水熱合成法よりも短時間で成膜処理が可能であり、高温での熱処理が不要である。したがって、上記ゼオライト膜複合体の製造方法によれば、多孔質ガラス支持体を支持体として備えたゼオライト膜複合体を、水熱合成法を用いる場合と比較して、短時間で好適に製造できる。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明に係るゼオライト膜複合体、当該ゼオライト膜複合体の製造方法、ゼオライト膜複合体を用いた分離装置及び脱水装置は、ゼオライト膜の支持体として多孔質ガラス支持体を備え、様々な用途に用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本実施形態に係るゼオライト膜複合体の概略構成を示す図である。
図2】本実施形態に係るゼオライト膜複合体の製造方法に用いる成膜装置の概略構成を示す図である。
図3】本実施形態に係る分離装置を用いた混合気体の分離手順を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して一実施形態に係るゼオライト膜複合体、当該ゼオライト膜複合体の製造方法、及びゼオライト膜複合体を用いた分離装置について説明する。なお、以下の説明において、上下とは、図面における上側、下側をいうものとする。
【0027】
〔ゼオライト膜複合体C〕
まず、本実施形態に係るゼオライト膜複合体Cについて説明する。
【0028】
図1は、本実施形態に係るゼオライト膜複合体Cを示す模式図である。図1に示すように、ゼオライト膜複合体Cは、多孔質ガラス基板Kと、当該多孔質ガラス基板Kの表面Kaに形成されたゼオライト膜Mとを有している。なお、本実施形態では、多孔質ガラス基板Kが「多孔質ガラス支持体」に相当する。
【0029】
〔多孔質ガラス基板K〕
多孔質ガラス基板Kは、ゼオライト膜Mを支持する支持体としての役割を担い、ゼオライト膜複合体Cの強度を保つためのものであって、本実施形態では全体として板状である。多孔質ガラス基板Kとしては、公知の手法により作製したものや市販のものを使用できる。
【0030】
多孔質ガラス基板Kの平均細孔径は特に限定されるものではないが、平均細孔径が小さすぎると、流体の透過性が低くなってゼオライト膜Mへ流れる流体が少なくなり、ゼオライト膜Mへと供給される流体の量が減少し、結果的に流体の分離や脱水が不能になる虞がある。逆に大きすぎると、ガスデポジション法(具体的にはエアロゾルデポジション法)によるゼオライト膜Mの成膜性が低下する虞がある。したがって、平均細孔径が50nm以上100μm以下であることが好ましい。例えば、多孔質ガラス基板Kは、孔径が50~100nmの細孔を有するものであってもよいし、孔径が50~100μmの細孔を有するものであってもよい。
【0031】
多孔質ガラス基板Kの厚さH1は、流体の透過性やゼオライト膜複合体Cに求められる強度を基に適宜設定すればよい。具体的には、多孔質ガラス基板Kの厚さH1が厚すぎると、透過性が低くなってゼオライト膜Mへ流れる流体が少なくなり過ぎ、逆に厚さH1が薄すぎると、ゼオライト膜複合体Cの十分な強度を確保できなくなる。したがって、多孔質ガラス基板Kの厚さH1は、0.1mm以上3mm以下であると好ましく、0.3mm以上2mm以下であるとより好ましく、0.5mm以上1.2mm以下であると更に好ましい。
【0032】
多孔質ガラス基板Kの表面Kaの形状や表面粗さは、特に限定されるものではない。多孔質ガラス基板Kの表面Kaは、表面Kaにゼオライト膜Mを成膜できる形状や表面粗さであればよい。具体的には、表面Kaにガスデポジション法(具体的にはエアロゾルデポジション法)によってゼオライト膜Mを成膜できる形状や表面粗さであればよく、市販品の形状や市販品と同程度の表面粗さであればよい。
【0033】
〔ゼオライト膜M〕
ゼオライト膜Mは、ゼオライト(アルミノケイ酸塩)の分子ふるい作用を利用した特定の分子の分離等の役割を担うものである。ゼオライト膜Mは、ゼオライト(アルミノケイ酸塩)で構成される。ゼオライト膜Mを構成するゼオライトは、分離対象の分子サイズ等に応じて、種々の骨格構造を有する既知のゼオライト種から適宜選択したものを用いることができる。例えば、結晶の細孔径が0.38nmであるチャバサイト(CHA)や細孔径が0.74nmであるフォージャサイト(FAU)、細孔径が0.41nmであるA型ゼオライト(LTA)などを用いることができる。
【0034】
ゼオライト膜Mの厚さH2は、流体の透過性を考慮して適宜設定すればよい。具体的には、ゼオライト膜Mの厚さH2が厚すぎると、透過性が低くなってゼオライト膜Mを流体が通り抜けにくくなり、混合流体からの分離対象の分離や水の除去(脱水)の効率が低下する。逆に、厚さH2が薄すぎると、透過性が高くなり過ぎ、混合流体からの分離対象の分離や水の除去(脱水)の効率が低下する。したがって、ゼオライト膜Mの厚さH2は、0.1μm以上100μm以下であると好ましく、0.2μm以上80μm以下であるとより好ましく、0.5μm以上50μm以下であると更に好ましい。
【0035】
本実施形態に係るゼオライト膜複合体Cによれば、多孔質ガラス基板Kの表面Kaに形成されたゼオライト膜Mによって、混合流体からの分離対象の分離や水の除去(脱水)が可能である。
【0036】
次に、本実施形態に係るゼオライト膜複合体Cの製造方法について説明する。まず、本製造方法に用いる成膜装置1について説明する。
【0037】
〔成膜装置1〕
図2は、成膜装置1の概略構成を示す図である。図2に示すように、成膜装置1は、アルミノケイ酸塩の粒子からなる原料粉を搬送ガス中に分散させたエアロゾルを多孔質ガラス基板Kの表面Kaに向けて噴出して、多孔質ガラス基板Kの表面Kaの上にゼオライト膜Mを形成する装置である。つまり、成膜装置1は、エアロゾルデポジション法によって多孔質ガラス基板Kの表面Kaの上にゼオライト膜Mを形成する装置である。
【0038】
本実施形態において、成膜装置1は、内部に多孔質ガラス基板Kが配設される処理室2と、成膜処理の対象である多孔質ガラス基板Kを保持する保持部4と、保持部4を移動可能に構成された移動機構3と、噴出端5aからエアロゾルを噴出するエアロゾル搬送管5と、原料粉をガスに分散させたエアロゾルを発生させるエアロゾル発生部15と、原料粉をエアロゾル発生部15に送給する原料粉供給機構16と、搬送ガスをエアロゾル発生部15に送給する搬送ガス送給機構18と、を備えている。
【0039】
処理室2は、気密状の筐体で構成されており、上端面に開口2aが形成されている。また、処理室2の内部には、保持部4やエアロゾル搬送管5が配設されている。処理室2の開口2aには、排気設備としてのメカニカルブースターポンプP1及び真空ポンプP2が排気管S1によって接続されている。処理室2内は、メカニカルブースターポンプP1及び真空ポンプP2によって気体が排出されることで所定圧力(例えば、0.75kPa程度)以下に減圧される。
【0040】
保持部4は、表面Kaが水平面と平行となるように当該表面Kaを下側に向けて多孔質ガラス基板Kを保持可能に構成されている。多孔質ガラス基板Kを保持する手法としては、真空吸着を利用する手法や、クーロン力を利用する手法などの既知の手法を用いることができる。
【0041】
移動機構3は、保持部4を水平方向に移動させる水平駆動機構(図示せず)や鉛直方向に移動させる昇降駆動機構(図示せず)などで構成されている。なお、図2では、移動機構3を処理室2の外部に配置した状態を示したが、処理室2の内部に移動機構3を配置してもよい。
【0042】
エアロゾル搬送管5は、円筒状の直管部材であり、噴出端5aの断面形状が円形である。また、エアロゾル搬送管5は、噴出端5aが保持部4と対向するように処理室2内に配設されている。エアロゾル搬送管5における噴出端5aと反対の端部はエアロゾル発生部15に接続されている。このエアロゾル搬送管5によれば、噴出端5aから多孔質ガラス基板Kの表面Kaに向けてエアロゾルが噴射される。
【0043】
エアロゾル発生部15は、上記のように、原料粉をガスに分散させたエアロゾルを発生させるように構成されている。エアロゾル発生部15には、エアロゾル搬送管5、並びに、後述する原料供給管S2及び搬送ガス送給管S3が接続されている。エアロゾル発生部15では、原料粉供給機構16によって一定速度で供給される原料粉と、搬送ガス送給機構18によって送給される搬送ガスとを混合したエアロゾルが発生する。発生したエアロゾルは、エアロゾル搬送管5に送給される。
【0044】
原料粉供給機構16は、原料粉供給部17や原料供給管S2などで構成される。原料粉供給部17には、原料粉が貯留されている。原料粉は、原料供給管S2を通してエアロゾル発生部15に供給される。なお、原料粉の詳細については後述する。
【0045】
搬送ガス送給機構18は、ガス供給部19や搬送ガス圧力制御部20、搬送ガス流量制御部21、搬送ガス送給管S3などで構成されている。
【0046】
ガス供給部19には、搬送ガス送給管S3が接続されている。ガス供給部19は、空気やN、He、Arなどの搬送ガスをコンプレッサーやガスボンベによって搬送ガス送給管S3に供給するように構成されている。
【0047】
搬送ガス送給管S3は、ガス供給部19から供給される搬送ガスをエアロゾル発生部15まで送給するためのものである。本実施形態において、ガス供給部19から送出された搬送ガスは、搬送ガス圧力制御部20、搬送ガス流量制御部21を順に経由してエアロゾル発生部15まで送給される。つまり、搬送ガス送給管S3は、ガス供給部19、搬送ガス圧力制御部20、搬送ガス流量制御部21及びエアロゾル発生部15の間を繋ぐ複数の配管によって構成されている。搬送ガス送給管S3における搬送ガス流量制御部21とエアロゾル発生部15との間には、搬送ガス送給管S3内の圧力を検出する圧力センサQが設けられている。
【0048】
搬送ガス圧力制御部20は、搬送ガス送給管S3内を流通する搬送ガスを適正圧力に静定するものである。搬送ガス流量制御部21は、搬送ガス送給管S3内を流通する搬送ガスの流量を制御するものである。搬送ガス圧力制御部20及び搬送ガス流量制御部21は、圧力センサQにより検出される圧力などを基に、適宜制御装置によって動作が制御される。
【0049】
〔原料粉〕
原料粉は、アルミノケイ酸塩の粒子で構成されており、本実施形態では、アルミノケイ酸塩の粒子として、平均粒子径が0.5μm以上10μm以下のものを使用する。原料粉を構成するアルミノケイ酸塩としては、FAUやLTAなど種々の骨格構造を有するものを用いることができる。
【0050】
〔ゼオライト膜複合体Cの製造方法〕
次に、本実施形態に係るゼオライト膜複合体Cの製造方法について説明する。本製造方法は、多孔質ガラス基板Kの表面Kaに、ガスデポジション法によってゼオライト膜Mを形成するゼオライト膜形成工程を含む。本実施形態において、ゼオライト膜形成工程では、アルミノケイ酸塩の粒子を搬送ガス中に分散させたエアロゾルを、多孔質ガラス基板Kの表面Kaに向けて噴出して、表面Ka上にゼオライト膜Mを形成する。
【0051】
具体的に、本実施形態では、まず、搬送ガス圧力制御部20及び搬送ガス流量制御部21によって搬送ガス送給管S3内を流通する搬送ガスの流量や圧力を調整しながらガス供給部19からエアロゾル発生部15へと搬送ガスを送給する。エアロゾル発生部15では、送給された搬送ガスと原料粉供給部17から供給される原料粉とが混合したエアロゾルが発生する。発生したエアロゾルは、エアロゾル搬送管5に送給される。
【0052】
エアロゾル搬送管5に送給されたエアロゾルは、噴出端5aから多孔質ガラス基板Kの表面Kaに向けて噴出され、噴出されたエアロゾルが多孔質ガラス基板Kの表面Kaに衝突することで、当該表面Kaにゼオライト膜Mが形成される(ゼオライト膜形成工程)。
【0053】
このように、本実施形態に係るゼオライト膜複合体Cの製造方法では、ゼオライト膜Mをガスデポジション法(具体的にはエアロゾルデポジション法)によって形成している。そのため、多孔質ガラス基板Kを支持体として用い、当該多孔質ガラス基板Kの表面Kaに水熱合成法よりも短時間でゼオライト膜Mを形成できる。つまり、本実施形態に係るゼオライト膜複合体Cの製造方法によれば、多孔質ガラス基板Kを支持体として備えたゼオライト膜複合体Cを、水熱合成法を用いる場合よりも短時間で製造できる。
【0054】
また、本実施形態に係るゼオライト膜複合体Cの製造方法では、多孔質ガラス基板Kを支持体として用いている。一般的に多孔質ガラスはランダムな孔形状を有している。そのため、本実施形態に係るゼオライト膜複合体Cの製造方法では、多孔質ガラス支持体の孔径を大きくしてもガスデポジション法によるゼオライト膜の形成が可能であり、高性能(透過性能が高い)なゼオライト膜複合体Cを製造できる。
【0055】
〔分離装置〕
ゼオライト膜複合体Cを上記のような構成とすることで、当該ゼオライト膜複合体Cを分離装置として用いることができる。つまり、ゼオライト膜複合体Cによって気体の分離を行う分離装置を実現でき、複数の成分を含む混合気体から任意の成分を分離、回収できる。なお、ゼオライト膜複合体Cは、例えば、二酸化炭素とメタンとの混合気体の分離や二酸化炭素と窒素との混合気体の分離に用いることができる。
【0056】
図3は、ゼオライト膜複合体Cを分離装置として用いる場合の混合気体の分離手順を説明するための図である。図3に示すように、ゼオライト膜複合体Cを分離装置として用いる場合、多孔質ガラス基板Kの裏面Kbの側から分離対象を含む混合気体を供給する。供給された混合気体は、多孔質ガラス基板Kの細孔を通してゼオライト膜Mに供給され、当該ゼオライト膜Mを透過する際に、ゼオライトの分子ふるい作用によって分離対象が分離される。
【0057】
〔実施例及び比較例〕
以下、実施例1~3及び比較例1~4について説明する。実施例1~3では、使用する多孔質ガラス基板の平均細孔径や使用するアルミノケイ酸塩の骨格構造以外の条件を揃えた上で、多孔質ガラス基板を水平方向に沿って移動させながら、表面にエアロゾルを吹き付けて所定時間成膜処理を行い、所謂エアロゾルデポジション法を用いてゼオライト膜複合体を作製した。エアロゾル搬送管には、噴出端における流路断面の形状が円形であるものを使用した。更に、搬送ガスの流量は30L/min、処理室内の圧力は0.25kPaとした。なお、各実施例では、厚さがおよそ20μmのゼオライト膜を形成した。
【0058】
実施例1では、孔径が50~100nmの細孔を有する多孔質ガラス基板を使用し、実施例2及び3では、孔径が50~100μmの細孔を有する多孔質ガラス基板を使用した。また、原料粉として、実施例1及び2では、平均粒子径が1μmのLTA型のアルミノケイ酸塩の粒子を使用し、実施例3では、平均粒子径が1μmのCHA型のアルミノケイ酸塩の粒子を使用した。
【0059】
一方、比較例1~3では、「Masahiro Seshimo, Bo Liu, Hey Ryeon Lee, Katsunori Yogo, Yuichiro Yamaguchi, Nobuyuki Shigaki, Yasuhiro Mogi, Hidetoshi Kita and Shin-ichi Nakao, Membrane Reactor for Methanol Synthesis Using Si-Rich LTA Zeolite Membrane, Membranes 2021, 11(7), 505」で報告されている手法に倣って、水熱合成法によって多孔質アルミナ管の表面にLTA型のアルミノケイ酸塩を含むゼオライト膜を形成し、ゼオライト膜複合体を作製した。
【0060】
また、比較例4は、「N. Kosinov et al., Journal of Materials Chemistry A, 2 (2014) 13083」(以下、「参考文献」という)で報告されているゼオライト膜複合体であり、α-アルミナからなる中空糸膜の表面に水熱合成法によってCHA型のゼオライトからなる膜を形成したものである。
【0061】
実施例1~3及び比較例1~3のゼオライト膜複合体を用いて、複数の単成分ガスの透過率を測定し、透過率の比から選択性を算出した。なお、単成分ガスの透過率として、実施例1及び2並びに比較例1~3では、二酸化炭素、窒素及び四フッ化炭素それぞれの透過率を測定し、実施例3では、二酸化炭素及び窒素の透過率を測定した。
【0062】
表1は、実施例及び比較例のゼオライト種及び選択性(二酸化炭素/窒素選択比、二酸化炭素/四フッ化炭素選択比)をまとめた表である。なお、表1中の比較例4の選択性は、参考文献に記載された値である。
【0063】
【表1】
【0064】
表1に示すように、実施例1~3及び比較例1~4のゼオライト膜複合体は、ゼオライト種や支持体の種類、ゼオライト膜の形成手法に違いはあるが、いずれも一定の選択性を示しており、二酸化炭素を窒素や四フッ化炭素に比べて選択的に透過できることがわかる。
【0065】
実施例1と実施例2とを比較すると、両者は同等の選択性を示している。このことから、多孔質ガラス基板の平均細孔径が少なくとも50nm以上100μm以下の範囲であれば、ゼオライト膜の機能が十分に発揮されると推察される。
【0066】
また、ゼオライト膜がLTA型のアルミノケイ酸塩で構成される実施例1及び2と比較例1~3とを比較すると、支持体の種類が異なるが、いずれのゼオライト膜複合体も同程度の選択性を示している。また、ゼオライト膜がCHA型のアルミノケイ酸塩で構成される実施例3と比較例4とを比較しても、支持体の種類が異なるが、いずれのゼオライト膜複合体も同程度の選択性を示している。このことから、ゼオライト膜複合体の支持体として多孔質ガラス基板を用いることができ、当該多孔質ガラス基板を支持体として用いたゼオライト膜複合体では、ゼオライト膜の機能が十分に発揮されることがわかる。
【0067】
また、同じく実施例1及び2と比較例1~3、実施例3と比較例4とを比較すると、ゼオライト膜の形成手法の違いはあるが、ゼオライト膜を構成するアルミノケイ酸塩の骨格構造が同じであれば同等の選択性を示している。このことから、ゼオライト膜の形成方法は選択性に大きな差が生じないと推察される。したがって、ゼオライト膜をガスデポジション法(エアロゾルデポジション法)により形成したゼオライト膜複合体は、ゼオライト膜を水熱合成法により形成するものと比較して、同等の性能を備えつつ、短時間で製造可能である点で優位性がある。
【0068】
〔別実施形態〕
〔1〕上記実施形態では、多孔質ガラス支持体として、全体として板状である多孔質ガラス基板Kを用いる態様について説明したが、このような態様に限られるものではない。例えば、板状の多孔質ガラスで構成された箱状や円筒状のなどの形状を有した多孔質ガラス支持体を用い、その外面にゼオライト膜が形成された態様であってもよい。
【0069】
〔2〕上記実施形態では、エアロゾルデポジション法によってゼオライト膜Mを形成する態様について説明したが、このような態様に限られるものではない。ゼオライト膜Mを他のガスデポジション法によって形成する態様であってもよい。
【0070】
〔3〕上記実施形態では、ゼオライト膜複合体Cを分離装置として用いる態様について説明したが、このような態様に限られるものではない。例えば、ゼオライト膜複合体Cを脱水装置として用いる態様であってもよい。この場合、水を含む混合流体から水を分離することができるため、混合流体中の水や他の成分を分離、回収できる。なお、ゼオライト膜複合体Cは、ゼオライトの分子ふるい作用を利用可能な種々の用途に用いることができる。
【0071】
〔4〕上記実施形態では、エアロゾル搬送管5として、円筒状の直管部材を用い、噴出端5aの断面形状が円形である態様について説明したが、このような態様に限られるものではない。エアロゾル搬送管における噴出端の断面形状は、楕円形であってもよく、三角形や矩形(スリットを含む)等の多角形であってもよい。
【0072】
〔5〕上記実施形態では、表面Kaが下向きとなるように保持部4が多孔質ガラス基板Kを保持する態様について説明したが、このような態様に限られるものではない。保持部とエアロゾル搬送管の噴出端との位置を上下で入れ替え、処理対象面が上向きとなるように保持部が基材を保持する態様であってもよい。
【0073】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 :成膜装置
2 :処理室
3 :移動機構
5 :エアロゾル搬送管
15 :エアロゾル発生部
16 :原料粉供給機構
18 :搬送ガス送給機構
C :ゼオライト膜複合体
K :多孔質ガラス基板(多孔質ガラス支持体)
Ka :表面
M :ゼオライト膜
図1
図2
図3