(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014324
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】正極活物質層、電極、及び固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20240125BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240125BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240125BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240125BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240125BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M4/58
H01M10/0562
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117062
(22)【出願日】2022-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 夢乃
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 圭介
(72)【発明者】
【氏名】岡田 佳余子
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ11
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK05
5H029AM12
5H029DJ09
5H029EJ05
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ10
5H050AA14
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050DA02
5H050DA11
5H050DA13
5H050EA12
5H050EA24
5H050EA28
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】正極活物質層と集電体間の接着性に優れる正極を形成することができる正極活物質層、該正極活物質層を備える電極、及び該電極を備える半固体電池または全固体電池を提供する。
【解決手段】正極活物質層は、正極活物質と、固体電解質と、バインダーとを含有し、バインダーが、フッ化ビニリデンに由来する構成単位と、フッ化ビニリデン以外のモノマーに由来する構成単位とを含有するフッ化ビニリデン共重合体であって、フッ化ビニリデン以外のモノマーに由来する前記構成単位が、不飽和二塩基酸、不飽和二塩基酸モノエステル、および特定構造のカルボン酸で表される化合物から選択される少なくとも1つに由来する構成単位を含有し、前記フッ化ビニリデン共重合体が含有する全構成単位を100質量%とした場合、フッ化ビニリデンに由来する前記構成単位が90質量%以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質(A)と、固体電解質(B)と、バインダー(C)とを含有する、正極活物質層であって、
前記バインダー(C)が、フッ化ビニリデンに由来する構成単位(C-a)と、フッ化ビニリデン以外のモノマーに由来する構成単位(C-b)と、を含有するフッ化ビニリデン共重合体であって、
フッ化ビニリデン以外のモノマーに由来する前記構成単位(C-b)が、不飽和二塩基酸、不飽和二塩基酸モノエステル、および下記式(C-1)で表される化合物から選択される少なくとも1つに由来する構成単位を含有し、
前記フッ化ビニリデン共重合体が含有する全構成単位を100質量%とした場合、フッ化ビニリデンに由来する前記構成単位(C-a)が90質量%以上である、正極活物質層。
【化1】
(式(C-1)において、R
1、R
2およびR
3は、それぞれ独立に水素原子、塩素原子または炭素数1~5のアルキル基であり、X
1は、主鎖が原子数1~19で構成される分子量472以下の原子団であり、かつ酸素原子および窒素原子から選ばれる少なくとも一つのヘテロ原子を含む。)
【請求項2】
前記フッ化ビニリデン共重合体の固有粘度が2.3dL/g以上である、請求項1に記載の正極活物質層。
【請求項3】
前記フッ化ビニリデン共重合体が、前記構成単位(C-b)とは異なる構成単位として、ヘキサフルオロプロピレンに由来する構成単位を含有し、
前記フッ化ビニリデン共重合体が含有する全構成単位を100質量%とした場合、ヘキサフルオロプロピレンに由来する前記構成単位が2質量%以上8質量%以下である、請求項2に記載の正極活物質層。
【請求項4】
フッ化ビニリデン以外のモノマーに由来する前記構成単位(C-b)が、不飽和二塩基酸モノエステルに由来する前記構成単位を含有し、
前記不飽和二塩基酸モノエステルが、マレイン酸モノメチルである、請求項1から3のいずれか1項に記載の正極活物質層。
【請求項5】
前記固体電解質(B)が酸化物系固体電解質である、請求項1または2に記載の正極活物質層。
【請求項6】
前記固体電解質(B)が、下記式(B-1):
Li1+x+yAlxTi2xSiyP3yO12 ・・・(B-1)
(式(B-1)中、xおよびyは、0≦x≦1、0≦y≦1を満たす。)
で表される材料を含む、請求項5に記載の正極活物質層。
【請求項7】
前記正極活物質(A)が、リン酸金属リチウムを含有し、
前記リン酸金属リチウムが、LiFePO4、LiMnPO4、LiCoPO4、およびLiNiPO4からなる群より選択される、請求項1から3のいずれか1項に記載の正極活物質層。
【請求項8】
集電体と、請求項1から3のいずれか1項に記載の正極活物質層を備える電極。
【請求項9】
請求項8に記載の電極を備える半固体電池または全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質層、電極、及び固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電解液を含有する従来の二次電池では、セルの内部短絡などセルに異常が生じ、セルの温度が上昇すると、発火する可能性が極めて高かった。そこでセルの安全性を向上させる観点から、電解液の大部分又は全てを固体電解質に変えた半固体電池または全固体電池(以下、「(半)固体電池」と称する。)の検討が行われている。(半)固体電池は、可燃性である有機溶媒を含む電解液が極少量またはゼロであるため、安全装置の簡素化が図れ、製造コストや生産性に優れていると考えられる。
【0003】
(半)固体電池の電極の活物質層は、従来の二次電池の電極活物質層を構成する活物質、導電助剤、バインダーに加え、さらに固体電解質を含有することが想定される。
【0004】
例えば、特許文献1には、正極活物質層に、正極活物質、固体電解質およびイオン液体を含有し、バインダーとしてPVDFを用いることで、全固体電池における出力低下を抑制し、かつ、正極電位の上昇に伴う充電容量の低下を抑制し得ることが開示されている。
また、例えば、特許文献2には、正極活物質層に、正極活物質と、固体電解質と、イン液体としてLiFSIおよびLiPF6を含有し、バインダーとしてPVDFを含有することによって、集電箔の腐食を抑制し、高い充放電効率を実現し得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-113444号公報
【特許文献2】特開2020-126807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、本発明者らの検討によれば、電解液を含有する従来の二次電池で用いられている正極バインダーを、固体電解質を含有する正極活物質層を備える正極に用いると、該正極活物質層と集電体間の接着性が十分でない場合があった。これは、従来の二次電池で用いられている正極バインダーの固体電解質への接着性不足が原因と考えられる。正極活物質層と集電体間の接着性が劣ると、高い充放電効率等の様々な要求特性を安定して実現することが難しくなる。このため、固体電解質を含有する正極活物質層を備える正極電極であっても、正極活物質層と集電体間の接着性を向上させる技術が求められている。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、正極活物質層と集電体間の接着性に優れる正極を形成することができる正極活物質層、該正極活物質層を備える電極、及び該電極を備える半固体電池または全固体電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、正極活物質と固体電解質を含有する正極活物質層において、バインダーとして特定のフッ化ビニリデン共重合体を含有させることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の態様は、正極活物質(A)と、固体電解質(B)と、バインダー(C)とを含有する以下の正極活物質層、電極、及び半固体電池または全固体電池に関する。
【0010】
[1] 正極活物質(A)と、固体電解質(B)と、バインダー(C)とを含有する、正極活物質層であって、
前記バインダー(C)が、フッ化ビニリデンに由来する構成単位(C-a)と、フッ化ビニリデン以外のモノマーに由来する構成単位(C-b)と、を含有するフッ化ビニリデン共重合体であって、
フッ化ビニリデン以外のモノマーに由来する前記構成単位(C-b)が、不飽和二塩基酸、不飽和二塩基酸モノエステル、および下記式(C-1)で表される化合物から選択される少なくとも1つに由来する構成単位を含有し、
前記フッ化ビニリデン共重合体が含有する全構成単位を100質量%とした場合、フッ化ビニリデンに由来する前記構成単位(C-a)が90質量%以上である、正極活物質層。
【化1】
(式(C-1)において、R
1、R
2およびR
3は、それぞれ独立に水素原子、塩素原子または炭素数1~5のアルキル基であり、X
1は、主鎖が原子数1~19で構成される分子量472以下の原子団であり、かつ酸素原子および窒素原子から選ばれる少なくとも一つのヘテロ原子を含む。)
【0011】
[2] 前記フッ化ビニリデン共重合体の固有粘度が2.3dL/g以上である、[1]に記載の正極活物質層。
[3] 前記フッ化ビニリデン共重合体が、前記構成単位(C-b)とは異なる構成単位として、ヘキサフルオロプロピレンに由来する構成単位を含有し、
前記フッ化ビニリデン共重合体が含有する全構成単位を100質量%とした場合、ヘキサフルオロプロピレンに由来する前記構成単位が2質量%以上8質量%以下である、[2]に記載の正極活物質層。
[4] フッ化ビニリデン以外のモノマーに由来する前記構成単位(C-b)が、不飽和二塩基酸モノエステルに由来する前記構成単位を含有し、
前記不飽和二塩基酸モノエステルが、マレイン酸モノメチルである、[1]から[3]のいずれか1つに記載の正極活物質層。
[5] 前記固体電解質(B)が酸化物系固体電解質である、[1]から[4]のいずれか1つに記載の正極活物質層。
[6] 前記固体電解質(B)が、下記式(B-1):
Li1+x+yAlxTi2xSiyP3yO12 ・・・(B-1)
(式(B-1)中、xおよびyは、0≦x≦1、0≦y≦1を満たす。)
で表される材料を含む、[5]に記載の正極活物質層。
[7] 前記正極活物質(A)が、リン酸金属リチウムを含有し、
前記リン酸金属リチウムが、LiFePO4、LiMnPO4、LiCoPO4、およびLiNiPO4からなる群より選択される、[1]から[6]のいずれか1つに記載の正極活物質層。
[8] 集電体と、[1]から[7]のいずれか1つに記載の正極活物質層を備える電極。
[9] [8]に記載の電極を備える半固体電池または全固体電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、正極活物質層と集電体間の接着性に優れた正極を形成することができる正極活物質層、該正極活物質層を備える電極、及び該電極を備える半固体電池または全固体電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
≪正極活物質層≫
正極活物質層は、正極活物質(A)と、固体電解質(B)と、バインダー(C)とを含有する。
正極活物質層に含まれるバインダー(C)は、フッ化ビニリデンに由来する構成単位(C-a)と、フッ化ビニリデン以外のモノマーに由来する構成単位(C-b)と、を含有するフッ化ビニリデン共重合体である。
フッ化ビニリデン以外のモノマーに由来する構成単位(C-b)は、不飽和二塩基酸、不飽和二塩基酸モノエステル、および後述する下記式(C-1)で表される化合物から選択される少なくとも1つに由来する構成単位を含有する。
【0014】
フッ化ビニリデン共重合体は、フッ化ビニリデン共重合体が含有する全構成単位を100質量%とした場合、フッ化ビニリデンに由来する構成単位(C-a)が90質量%以上である。
正極活物質層が特定のバインダー(C)を含有することにより、正極活物質層と集電体間の接着性に優れた電極を形成することができる。
【0015】
以下、正極活物質層に含まれる、必須、又は任意の成分について説明する。
【0016】
<正極活物質(A)>
正極活物質(A)としては、特に限定されず、例えば、従来公知の正極用の電極活物質を用いることができる。正極用の電極活物質としては、少なくともリチウムを含むリチウム系正極用電極活物質が好ましい。リチウム系正極用電極活物質としては、例えば、一般式LixMyOz(Mは遷移金属元素であり、x=0.02~2.2、y=1~2、z=1.4~4である。)で表される正極活物質を挙げることができる。上記一般式において、Mは、Co、Mn、Ni、V、FeおよびSiからなる群から選択される少なくとも一種が挙げられ、Co、NiおよびMnからなる群から選択される少なくとも一種であってよい。このような正極活物質としては、具体的には、LiCoO2、LiMnO2、LiNiO2、LiVO2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiMn2O4、Li(Ni0.5Mn1.5)O4、Li2FeSiO4、Li2MnSiO4等が挙げられる。
【0017】
また、上記一般式LixMyOz以外の正極活物質(A)としては、チタン酸リチウム(例えば、Li4Ti5O12)、リン酸金属リチウム(LiFePO4、LiMnPO4、LiCoPO4、LiNiPO4)、遷移金属酸化物(V2O5、MoO3)、TiS2、LiCoN、Si、SiO2、Li2SiO3、Li4SiO4、及びリチウム貯蔵性金属間化合物(例えばMg2Sn、Mg2Ge、Mg2Sb、Cu3Sb)等が挙げられる。これらの中では、リン酸金属リチウムが好ましく、リン酸金属リチウムの中では、LiFePO4が好ましい。
【0018】
正極活物質(A)の形状は特に限定されるものではないが、例えば粒子状、薄膜状とすることができ、取扱い性が良いという観点から、粒子状であってもよい。
正極活物質が粒子である場合の当該粒子の平均粒径(D50)は、例えば1nm以上100μm以下であることが好ましく、10nm以上30μm以下であることがより好ましい。
【0019】
正極活物質(A)の表面には、正極活物質と、固体電解質との反応を抑制できる観点から、Liイオン伝導性酸化物を含有するコート層が形成されていてもよい。
Liイオン伝導性酸化物としては、例えば、LiNbO3、Li4Ti5O12、及びLi3PO4等が挙げられる。
コート層の厚さの下限は、0.1nm以上であることが好ましく、1nm以上であることがより好ましい。コート層の厚さの上限は、100nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましい。
【0020】
正極活物質(A)の含有量は、特に限定されず、正極活物質層100質量%に対して、50質量%以上98質量%以下であることが好ましく、60質量%以上95質量%以下であることがより好ましく、70質量%以上90質量%以下であることがさらに好ましい。
【0021】
<固体電解質(B)>
固体電解質(B)としては、硫化物系固体電解質、及び酸化物系固体電解質等を用いることができる。このなかでも、電解質の安全性、安定性の観点から、酸化物系固体電解質を用いることが好ましい。
【0022】
硫化物系固体電解質としては、例えば、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2O-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、Li2S-P2S5、Li3PS4等が挙げられる。
【0023】
酸化物系固体電解質としては、LLTO系化合物((La,Li)TiO3)、Li6La2CaTa2O12、Li6La2ANb2O12(A:アルカリ土類金属)、Li2Nd3TeSbO12、Li3BO2.5N0.5、Li9SiAlO8、LAGP系化合物(Li1+xAlxGe2-x(PO4)3(0≦x≦1))、Li2O-Al2O3-TiO2-P2O5のようなLATP系化合物(Li1+xAlxTi2-x(PO4)3(0≦x≦1))、Li1+xTi2-xAlxSiy(PO4)3-y(0≦x≦1、0≦y≦1)、Li1+yAlxM2-x(PO4)3(Mは、Ti、Ge、Sr、Sn、Zr、及びCaからなる群から選択される1種又は2種以上の元素であり、0≦x≦1、0≦y≦1)、LiTixZr2-x(PO4)3(0≦x≦1)、LISICON(Li4-2xZnxGeO4(0≦x≦1))、LIPON系化合物(Li3+yPO4-xNx(0≦x≦1、0≦y≦1))、NASICON系化合物(LiTi2(PO4)3など)、ガーネット系化合物(Li7La3Zr2O12、Li7-xLa3Zr1-xNbxO12(0≦x≦1)など)などが挙げられる。
【0024】
酸化物系固体電解質のうち、高いリチウムイオン伝導度を有する観点から、LATP系化合物が好ましい。LATP系化合物としては、下記式(1):
Li1+x+yAlxTi2-xSiyP3-yO12 ・・・(1)
(式(1)中、xおよびyは、0≦x≦1、0≦y≦1を満たす。)
で表される材料を含むことが好ましい。
【0025】
また、上記LATP系化合物以外の好ましい酸化物系固体電解質としては、例えば、Li7La3Zr2O12(LLZO)、Li6.75La3Zr1.75Ta0.25O12(LLZTO)、Li0.33La0.56TiO3(LLTO)、Li1.6Al0.6Ge1.4(PO4)3(LAGP)等が挙げられる。
【0026】
固体電解質(B)の含有量は、特に限定されず、正極活物質層100質量%に対して、1質量%以上40質量%以下であることが好ましく、2質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0027】
<バインダー(C)>
バインダー(C)は、フッ化ビニリデンに由来する構成単位(C-a)と、フッ化ビニリデン以外のモノマーに由来する構成単位(C-b)と、を含有するフッ化ビニリデン共重合体である。
フッ化ビニリデン以外のモノマーに由来する上記構成単位(C-b)は、不飽和二塩基酸、不飽和二塩基酸モノエステル、および後述する式(C-1)で表される化合物から選択される少なくとも1つに由来する構成単位を含有する。
フッ化ビニリデン共重合体が含有する全構成単位を100質量%とした場合、フッ化ビニリデンに由来する上記構成単位(C-a)が90質量%以上である。
バインダー(C)は、固体電解質とその他の部材(集電体、活物質、導電助剤等)の接着性を向上させることを目的として用いられる。
【0028】
構成単位(C-b)を与える上記不飽和二塩基酸としては、例えば、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、フタル酸等が挙げられる。
【0029】
構成単位(C-b)を与える上記不飽和二塩基酸モノエステルとしては、例えば、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、シトラコン酸モノメチル、シトラコン酸モノエチル、フタル酸モノメチル、フタル酸モノエチル等が挙げられる。
【0030】
構成単位(C-b)を与える式(C-1)で表される化合物は以下の通りである。
【化2】
【0031】
式(C-1)において、R1、R2およびR3は、それぞれ独立に水素原子、塩素原子または炭素数1~5のアルキル基であり、X1は、主鎖が原子数1~19で構成される分子量472以下の原子団であり、かつ酸素原子および窒素原子から選ばれる少なくとも一つのヘテロ原子を含む。
【0032】
上記式(C-1)で表される化合物としては、下記式(C-2)で表される化合物が好ましい。
【化3】
【0033】
式(C-2)中、R1、R2、R3は、上記式(C-1)と同様であり、X2は、主鎖が原子数1~18で構成される分子量456以下の原子団である。
【0034】
式(C-1)、(C-2)において、重合反応性の観点から、特にR1、R2は立体障害の小さな置換基であることが望まれ、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましい。
【0035】
式(C-1)において、X1で表わされる原子団の分子量は472以下であるが、172以下であることが好ましい。また、X1で表わされる原子団の分子量の下限としては特に限定はないが、通常はXが-CH2-の態様、すなわち分子量としては14である。また、式(C-2)において、X2で表わされる原子団の分子量は456以下であるが、156以下であることが好ましい。また、X2で表わされる原子団の分子量の下限としては特に限定はないが、通常はX2が-CH2-の態様、すなわち分子量としては14である。
【0036】
X1又はX2で表わされる原子団の分子量が前述の範囲であると、重合性の観点から好ましい。
【0037】
式(C-2)で示される化合物としては、例えば、2-カルボキシエチルアクリレート、2-カルボキシエチルメタクリレート、アクリロイロキシエチルコハク酸、メタクリロイロキシエチルコハク酸、アクリロイロキシプロピルコハク酸、メタクリロイロキシプロピルコハク酸、アクリロイロキシエチルフタル酸、メタクリロイロキシエチルフタル酸等が挙げられる。
【0038】
バインダー(C)としてのフッ化ビニリデン共重合体において、フッ化ビニリデンに由来する構成単位(C-a)の含有量は、固体電解質とその他の部材(集電体、活物質、導電助剤等)の接着性を向上させる観点から、フッ化ビニリデン共重合体が含有する全構成単位を100質量%とした場合、90.0質量%以上であり、95.0質量%以上であることが好ましく、98.0質量%以上であることがより好ましい。
【0039】
バインダー(C)としてのフッ化ビニリデン共重合体において、フッ化ビニリデン以外のモノマーに由来する構成単位(C-b)の含有量は特に限定されないが、例えば、フッ化ビニリデン共重合体中の全構成単位に対し、0.01質量%以上10.0質量%以下が好ましく、0.1質量%以上5.0質量%以下がより好ましく、0.2質量%以上2.0質量%以下がさらに好ましい。
【0040】
フッ化ビニリデン共重合体としては、固体電解質とその他の部材(集電体、活物質、導電助剤等)の接着性を向上させる観点から、前述した構成単位(C-a)および(C-b)を与えるモノマーとは異なる他のモノマーに由来する構成単位(C-c)を含有してもよい。
他のモノマーとしては、例えば、フッ化ビニリデン以外の含フッ素単量体由来の構成単位;エチレンおよびプロピレン等の炭化水素系単量体由来の構成単位等が含まれる。
含フッ素単量体の例には、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ヘキサフルオロエチレン、フルオロアルキルビニルエーテル、およびパーフルオロメチルビニルエーテルに代表されるパーフルオロアルキルビニルエーテル等が含まれる。これらの中でも、クロロトリフルオロエチレンまたはヘキサフルオロプロピレンが好ましく、ヘキサフルオロプロピレンがより好ましい。
【0041】
バインダー(C)としてのフッ化ビニリデン共重合体において、上記他のモノマーに由来する構成単位の含有量は、フッ化ビニリデン共重合体が含有する全構成単位を100質量%とした場合、0.1質量%以上10質量%未満であることが好ましく、2.0質量%以上8質量%以下であることがより好ましい。バインダー(C)としてのフッ化ビニリデン共重合体が上記他のモノマーに由来する構成単位を含有する場合において、フッ化ビニリデンに由来する構成単位(C-a)の含有量は、固体電解質とその他の部材(集電体、活物質、導電助剤等)の接着性を向上させる観点から、フッ化ビニリデン共重合体が含有する全構成単位を100質量%とした場合、90質量%以上であり、91質量%以上が好ましく、92質量%以上がより好ましい。またフッ化ビニリデン以外のモノマーに由来する構成単位(C-b)の含有量は、0.01質量%以上2質量%以下が好ましく、0.1質量%以上1.5質量%以下がより好ましく、0.2質量%以上0.8質量%以下がさらに好ましい。
【0042】
バインダー(C)としてのフッ化ビニリデン共重合体の固有粘度は、固体電解質とその他の部材(集電体、活物質、導電助剤等)の接着性を向上させる観点から、2.3dL/g以上であることが好ましく、2.5dL/g以上であることがより好ましい。
【0043】
バインダー(C)の含有量は、特に限定されず、正極活物質層100質量%に対して、1質量%以上40質量%以下であることが好ましく、2質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0044】
(バインダー(C)の製造方法)
バインダー(C)の製造方法は特に限定されず、通常は、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等の方法で行われる。後処理の容易さ等の点から水系の懸濁重合、乳化重合が好ましく、水系の懸濁重合がより好ましい。
【0045】
水系の懸濁重合法としては特に限定されず、例えば、水系の媒体中、懸濁剤、重合開始剤、連鎖移動剤等の存在下で、重合に使用するモノマーを重合させる方法等が挙げられる。
【0046】
懸濁剤としては、特に限定されず、例えば、メチルセルロース、メトキシ化メチルセルロース、プロポキシ化メチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ゼラチン等が挙げられる。懸濁剤の使用量は特に限定されず、例えば、重合に使用する全モノマー100質量部に対して、0.005質量部以上1.0質量部以下であることが好ましく、0.01質量部以上0.4質量部以下であることがより好ましい。
【0047】
重合開始剤としては、特に限定されず、例えば、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジ-n-ヘプタフルオロプロピルパーオキシジカーボネート、イソブチリルパーオキサイド、ジ(クロロフルオロアシル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロアシル)パーオキサイド、t-ブチルパーオキシピバレート等が挙げられる。重合開始剤の使用量は特に限定されず、例えば、重合に使用する全モノマー100質量部に対して、0.05質量部以上5質量部以下であることが好ましく、0.15質量部以上2質量部以下であることがより好ましい。
【0048】
連鎖移動剤としては、特に限定されず、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、アセトン、炭酸ジエチル等が挙げられる。
【0049】
また、重合に使用するモノマーの仕込量は、モノマーの合計:水の質量比で、通常は1:1~1:10であり、1:2~1:5であることが好ましい。懸濁重合を行う際の、重合温度、重合時間等の重合条件は、特に限定されず、例えば、公知の重合条件を採用してもよい。重合温度Tは、重合開始剤の10時間半減期温度T10に応じて適宜選択され、通常はT10-25℃≦T≦T10+25℃の範囲で選択される。例えば、t-ブチルパーオキシピバレートおよびジイソプロピルパーオキシジカーボネートのT10はそれぞれ、54.6℃および40.5℃(日油株式会社製品カタログ参照)である。したがって、t-ブチルパーオキシピバレートおよびジイソプロピルパーオキシジカーボネートを重合開始剤として用いた重合では、その重合温度Tはそれぞれ29.6℃≦T≦79.6℃および15.5℃≦T≦65.5℃の範囲で適宜選択される。重合時間は、特に制限されず、生産性等を考慮すると、1~24時間であることが好ましい。
【0050】
<他の成分>
正極活物質層は、本発明の効果を損なわない限り、前述した正極活物質(A)と、固体電解質(B)と、バインダー(C)以外の成分(以下、「他の成分」ともいう。)を含有してもよい。他の成分としては、公知の添加剤であれば全て使用することができ、例えば、導電助剤、アルミナやマグネシアやシリカ等の絶縁性無機フィラー、ポリテトラフルオロエチレンやポリイミドやポリアクリロニトリル等の絶縁性有機フィラー、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート等の可塑剤、LiPF6、LiFSI、LiTFSI等のLi塩、分散剤、難燃剤、消泡剤等が挙げられる。
【0051】
導電助剤(D)としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0052】
導電助剤(D)の含有量は特に限定されないが、正極活物質層100質量%に対して、0.05質量%以上15質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上10質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上8質量%以下であることがさらに好ましい。
【0053】
≪電極≫
電極とは、正極電極を意味する。電極は、集電体と、前述した正極活物質層を備える。
上記正極活物質層を備えることにより、電極は、集電体と正極活物質層との界面抵抗が抑制されるという効果を奏する。
【0054】
(集電体)
集電体は、電気を取り出すための端子である。集電体の材質としては、特に限定されるものではなく、アルミニウム、銅、鉄、ステンレス鋼、鋼、ニッケル、チタン等の金属箔あるいは金属網等を用いることができる。また、他の媒体の表面に上記金属箔あるいは金属網等を施したものであってもよい。
【0055】
電極の嵩密度としては、特に限定されず、例えば、1.5g/cm3以上5g/cm3以下であることが好ましい。
電極の目付量としては、特に限定されず、例えば、20gm2以上1000g/m2以下であることが好ましい。
【0056】
≪電極の製造方法≫
電極の製造方法としては、例えば、前述した正極活物質(A)と、固体電解質(B)と、バインダー(C)と、必要に応じて他の成分と、非水溶媒(S)とを混合して正極スラリーを作製する工程、得られた正極スラリーを集電体に塗布した後、乾燥させる工程を含む態様が挙げられる。すなわち、上記実施態様では、正極スラリーを乾燥させる工程を経て、正極活物質層が作製されるとともに、電極も作製される。
【0057】
非水溶媒(S)としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(以下、「NMP」ともいう。)、ジメチルホルムアミド、N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスフォアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラメチルウレア、トリエチルホスフェイト、トリメチルホスフェイト、アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトンおよびテトラヒドロフラン等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0058】
塗布方法としては、特に限定されず、例えば、ドクターブレード法、リバースロール法、コンマバー法、グラビヤ法、エアーナイフ法、ダイコート法、及びディップコート法等を適用することができる。
【0059】
乾燥温度としては、例えば、80℃以上300℃以下であることが好ましく、90℃以上200℃以下であることがより好ましく、100℃以上180℃以下であることがさらに好ましい。
乾燥時間としては、例えば、10秒以上300分以下であることが好ましく、1分以上200分以下であることがより好ましい。
乾燥は、異なる温度で複数回行ってもよい。乾燥の際には、圧力を印加してもよい。
【0060】
≪全固体電池≫
全固体電池は、前述した実施態様の電極を備える。全固体電池としては、正極以外の部材、例えば、負極、セパレータ等は従来公知のものを用いることができる。
【0061】
≪半固体電池≫
半固体電池は、前述した実施態様の電極を備える。半固体電池としては、正極以外の部材、例えば、負極、セパレータ等は従来公知のものを用いることができる。半固体電池に含有される電解液量は、従来の二次電池に含まれる電解液の体積を100%としたとき、1~95%が好ましく、1~90%がより好ましく、1~80%がさらに好ましい。
【実施例0062】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0063】
[実施例1~5及び比較例1~3]
<使用材料>
実施例および比較例において、正極活物質(A)として、下記A1を用いた。
A1:LiFePO4
【0064】
実施例および比較例において、固体電解質(B)として、下記B1を用いた。
B1:Li1+x+yAlx Ti2x Siy P3yO12(LATP)(オハラ社製、「LICGCTMPW-01(粒径1μm)」)
【0065】
実施例および比較例において、バインダー(C)として、下記C1~C8を作製し、用いた。また、作製した各バインダーの固有粘度を下記方法に従い、測定した。
なお、使用したモノマーは、以下の通りである。
(1)フッ化ビニリデンに由来する構成単位(C-a)を与えるモノマー:
フッ化ビニリデン(VDF)
(2)フッ化ビニリデン以外のモノマーに由来する構成単位(C-b)を与えるモノマー:
マレイン酸モノメチル(MMM)(不飽和二塩基酸モノエステル)
アクリロイロキシプロピルコハク酸(APS)(上記式(C-2)で表される化合物)
(3)構成単位(C-c)を与えるモノマー:
ヘキサフルオロプロピレン(HFP)
【0066】
(固有粘度の測定)
各バインダー80mgを、N,N-ジメチルホルムアミド20mlに溶解させ、バインダー含有溶液を準備した。そして、当該バインダー含有溶液の粘度η1を、30℃の恒温槽内でウベローデ粘度計を用いて測定した。同様に、30℃の恒温槽内でウベローデ粘度計を用いて、N,N-ジメチルホルムアミドの粘度η0を測定した。そして、以下の式に基づき、固有粘度ηを求めた。
固有粘度η=(1/C)・ln(η1/η0)
【0067】
(バインダーC1(VDF/HFP/MMM)の作製例)
容積2Lのオートクレーブに、イオン交換水240.2質量部、メチルセルロース0.2質量部、フッ化ビニリデン(VDF)97質量部、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)3質量部、マレイン酸モノメチル(MMM)0.3質量部、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート(IPP)0.47質量部を入れ、26℃で重合した。得られた共重合体を、95℃で60分間熱処理した後、脱水、水洗し、さらに80℃で20時間乾燥して、バインダーC1を得た。バインダーC1には、全構成単位に対して、VDFが97.4質量%、HFPが2.3質量%、MMMが0.3質量%含まれていた。バインダーC1の固有粘度(η)は3.1dL/gであった。なお、バインダーC1中の各モノマーの量は、VDF/HFP比を、19F-NMRによって算出し、VDF/MMM比を後述の方法により算出した後、VDF、HFPおよびMMMの合計が100mol%になるように計算することにより求めた。重合体中のVDF/MMM比(フッ化ビニリデンに由来する構成単位の量とマレイン酸モノメチルに由来する構成単位の量とのモル比)はWO国際公開第2009/084483号に開示されたIRスペクトルと検量線を用いた算出方法に基づき算出した。
【0068】
(バインダーC2(VDF/HFP/MMM)の作製例)
イオン交換水を259質量部、メチルセルロースを0.15質量部、VDFを90質量部、HFPの量を10質量部、MMMを0.5質量部、IPPを0.5質量部に変更した以外は、バインダーC1の作製例と同様の方法で、VDF、HFP、およびMMMを重合し、バインダーC2を得た。バインダーC2には、全構成単位に対してVDFが92.5質量%、HFPが7.0質量%、MMMが0.5質量%含まれていた。バインダーC2の固有粘度(η)は2.6dL/gであった。
【0069】
(バインダーC3(VDF/APS)の作製例)
イオン交換水を231.3質量部、メチルセルロースを0.05質量部、VDFを99質量部、アクリロイロキシプロピルコハク酸(APS)を1.0質量部、IPPを0.5質量部使用した以外はバインダーC1の作製例と同様の方法で、VDFおよびAPSを重合し、バインダーC3を得た。バインダーC3には、全構成単位に対してVDFが99.0質量%、APSが1.0質量%含まれていた。バインダーC3の固有粘度(η)は2.5dL/gであった。
【0070】
(バインダーC4(VDF/HFP/APS)の作製例)
イオン交換水を273質量部、メチルセルロースを0.05質量部、VDFを92質量部、、HFPを2質量部、APSを0.5質量部、IPPを0.4質量部使用した以外はバインダーC1の作製例と同様の方法で、VDF、HFPおよびAPSを重合し、バインダーC4を得た。バインダーC4には、全構成単位に対してVDFが94.1質量%、HFPが5.4質量%、APSが0.5質量%含まれていた。バインダーC4の固有粘度(η)は2.1dL/gであった。
【0071】
(バインダーC5(VDF/HFP/APS)の作製例)
イオン交換水を256量部、メチルセルロースを0.05質量部、VDFを90質量部、HFPを10質量部、APSを0.5質量部、IPPを1.0質量部、酢酸エチルを0.22質量部使用した以外はバインダーC1の作製例と同様の方法で、VDF、HFP、およびAPSを重合し、バインダーC5を得た。バインダーC5には、全構成単位に対してVDFが91.8質量%、HFPが7.7質量%、APSが0.5質量%含まれていた。バインダーC5の固有粘度(η)は2.6dL/gであった。
【0072】
(バインダーC6(PVDF)の作製例)
イオン交換水を231.8質量部、メチルセルロースを0.05質量部、VDFを100質量部、IPPを0.7質量部、酢酸エチルを0.7質量部使用した以外はバインダーC1の作製例と同様の方法で、VDFを重合し、バインダーC6を得た。バインダーC6には、全構成単位に対してVDFが100.0質量%含まれていた。バインダーC6の固有粘度(η)は2.1dL/gであった。
【0073】
(バインダーC7(VDF/HFP/MMM)の作製例)
イオン交換水を290質量部、メチルセルロースを0.1質量部、VDFを85質量部、HFPを15質量部、MMMを0.5質量部、IPPを0.9質量部、酢酸エチルを0.3質量部に変更した以外は、バインダーC1の作製例と同様の方法で、VDF、HFP、およびMMMを重合し、バインダーC7を得た。バインダーC7には、全構成単位に対してVDFが87.6質量%、HFPが11.9質量%、MMMが0.5質量%含まれていた。バインダーC7の固有粘度(η)は1.3dL/gであった。
【0074】
(バインダーC8(VDF/HFP)の作製例)
イオン交換水を253質量部、メチルセルロースを0.05質量部、VDFを90質量部、HFPを10質量部、IPPを0.4質量部、酢酸エチルを1.0質量部使用した以外は、バインダーC1の作製例と同様の方法で、VDFおよびHFPを重合し、バインダーC8を得た。バインダーC8には、全構成単位に対してVDFが93.0質量%、HFPが7.0質量%含まれていた。また、バインダーC8の固有粘度(η)は1.9dL/gであった。
【0075】
得られたバインダーC1~C8の詳細情報を表1に示す。
【0076】
【0077】
実施例および比較例において、導電助剤(D)として、下記D1を用いた。
D1:カーボンナノチューブ(CNT)分散液
【0078】
実施例および比較例において、非水溶媒(S)として、下記S1を用いた。
S1:N-メチル-2-ピロリドン(NMP)
【0079】
(正極スラリーの作製)
バインダー(C)の濃度が任意の濃度となるように、各バインダー(C)を室温でN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に分散し、その後溶液温度を50℃に昇温して各バインダー(C)を溶解させた(以下、「バインダー溶液」と称す。)。正極活物質(A)、固体電解質(B)、導電助剤(D)、および上記各バインダー溶液を用い、正極活物質(A)/固体電解質(B)/導電助剤(D)/バインダー(C)=90/10/2/10(質量%)となるように各成分を混合し、各正極スラリーを得た。正極スラリーの固形分はNMPを用いて調整した。
【0080】
(正極電極の作製)
得られた各正極スラリーをAl箔(厚さ15μm)に塗布した後、120℃で乾燥させた。得られた各予備正極電極をプレスし、120℃で3時間熱処理をさらに実施した。これにより、電極嵩密度が2.3g/cm3、目付け量が200g/m2である各正極電極を得た。
【0081】
<評価>
得られた各正極電極の剥離強度を、以下の方法に従い測定した。
【0082】
(剥離強度)
得られた各正極電極を2.0cm×5.0cmのサイズに切り出し、各正極電極の正極活物質層側に両面テープを貼り、該正極活物質層とアクリル板とを張り合わせて4MPaで20秒間プレスをした。アクリル板上に固定された上記正極電極のAl箔を半分剥がしてチャックに挟み、JIS K6854-1に準拠して測定を行った。測定条件は、ヘッド速度10mm/min、チャック間距離10mmとし、90℃剥離にて測定した。結果を表2に示す。
【0083】
【0084】
表2から、フッ化ビニリデンの単独重合体であるバインダーC6(PVDF)、フッ化ビニリデンに由来する構成単位(C-a)が90質量%未満であるバインダーC7(VDF/HFP/MMM)、フッ化ビニリデン以外のモノマーに由来する構成単位(C-b)を含まないバインダーC8(VDF/HFP)を含む正極活物質層を備える比較例1~3の正極電極では、剥離強度が最大でも67。4gf/mmしかなかった。
一方、フッ化ビニリデンに由来する構成単位(C-a)と、フッ化ビニリデン以外のモノマーに由来する特定の構成単位(C-b)とを含有し、構成単位(C-a)の含有量が90質量%以上であるバインダーC1~C5を含む正極活物質層では、実施例1~5に示すように、剥離強度が最小でも107.5gf/mmを示し、接着性が大きく向上したことが分かる。