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特開2024-143241ゼオライト膜複合体、分離装置、脱水装置及びゼオライト膜複合体の製造方法
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  • 特開-ゼオライト膜複合体、分離装置、脱水装置及びゼオライト膜複合体の製造方法 図1
  • 特開-ゼオライト膜複合体、分離装置、脱水装置及びゼオライト膜複合体の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143241
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ゼオライト膜複合体、分離装置、脱水装置及びゼオライト膜複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20241003BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20241003BHJP
   B01D 61/00 20060101ALI20241003BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20241003BHJP
   B01D 63/00 20060101ALI20241003BHJP
   C01B 39/20 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B01D71/02
B01D53/22
B01D61/00
B01D69/00
B01D71/02 500
B01D63/00
C01B39/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055810
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】國松 美里
(72)【発明者】
【氏名】中尾 孝之
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 享平
【テーマコード(参考)】
4D006
4G073
【Fターム(参考)】
4D006GA15
4D006GA41
4D006HA77
4D006MA02
4D006MA04
4D006MA08
4D006MA09
4D006MA40
4D006MB03
4D006MC02
4D006MC03X
4D006NA46
4D006NA54
4D006PA01
4D006PB63
4D006PB64
4D006PB70
4G073BD15
4G073BD18
4G073CZ03
4G073DZ02
4G073DZ08
4G073FB30
4G073FD27
4G073UA06
4G073UB60
(57)【要約】
【課題】貫通孔が形成された金属支持体とゼオライト膜とを有し、様々な用途への利用が容易に可能となるゼオライト膜複合体を提供する。
【解決手段】ゼオライト膜複合体Cは、貫通孔K1が形成された金属支持体Kと、当該金属支持体Kの表面Kaに形成された中間層Lと、当該中間層Lの表面Laに形成されたゼオライト膜Mとを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔が形成された金属支持体と、当該金属支持体の表面に形成された中間層と、当該中間層の表面に形成されたゼオライト膜とを有するゼオライト膜複合体。
【請求項2】
前記中間層は、多孔質である請求項1に記載のゼオライト膜複合体。
【請求項3】
前記ゼオライト膜は、少なくとも前記金属支持体の前記表面と直交する方向視において、前記貫通孔と重複する部分に、ナノパームポロメトリー法を用いた分析によって、前記ゼオライト膜を構成するアルミノケイ酸塩の細孔径を超える欠陥が見られない請求項1に記載のゼオライト膜複合体。
【請求項4】
前記金属支持体の表面の最大高さ(Sz)は、1.5μm以下である請求項1に記載のゼオライト膜複合体。
【請求項5】
前記ゼオライト膜のうち、前記金属支持体の前記表面と直交する方向視において、前記貫通孔と重複する部分の膜厚は、0.1μm以上100μm以下である請求項1に記載のゼオライト膜複合体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のゼオライト膜複合体を有し、前記ゼオライト膜複合体によって気体の分離を行う、分離装置。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載のゼオライト膜複合体を有し、前記ゼオライト膜複合体によって水を含む混合流体の脱水を行う、脱水装置。
【請求項8】
貫通孔が形成された金属支持体と、当該金属支持体の表面に形成された中間層と、当該中間層の表面に形成されたゼオライト膜とを有するゼオライト膜複合体を製造する方法であって、
前記金属支持体の表面に、前記中間層を形成する中間層形成工程と、
前記中間層の表面に、ガスデポジション法によってゼオライト膜を形成するゼオライト膜形成工程と、を含む、ゼオライト膜複合体の製造方法。
【請求項9】
前記ゼオライト膜形成工程では、アルミノケイ酸塩の粒子を搬送ガス中に分散させたエアロゾルを、前記中間層の表面に向けて噴出して、前記中間層の表面上に前記ゼオライト膜を形成する、請求項8に記載のゼオライト膜複合体の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト膜複合体、分離装置、脱水装置及びゼオライト膜複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多孔質体の上にゼオライト膜を形成してゼオライト膜複合体としたものについて、ゼオライトの分子ふるい作用を利用した特定の分子の分離等の用途に関する様々な研究開発が行われている。
【0003】
このようなゼオライト膜複合体としては、例えば、金属支持体の表面にゼオライト膜が形成されたものが知られている(特許文献1や特許文献2)。金属支持体を用いることでモジュール化した際に気密性を確保することが容易であったり、支持体の耐破損強度が高いといった優位性がある。
【0004】
特許文献1には、多孔質金属酸化物担体の表面を金属酸化物粒子や金属窒化物粒子で被覆した上で、被覆表面にゼオライト膜を形成してなる複合体が開示されている。
【0005】
特許文献2には、管状の多孔質金属支持体に塩基や酸による処理を施した後、処理した部分にゼオライト膜を形成してなる複合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-146416号公報
【特許文献2】特開2010-142809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ゼオライト膜複合体でゼオライトの分子ふるい作用を利用する場合、当該ゼオライト膜複合体の性能(処理可能な流体の種類や透過速度)には、金属支持体についての流体の透過性も影響を与える。したがって、用途に応じてゼオライト膜複合体に求められる性能を実現する上で、支持体に用いる金属支持体は、流体の透過性が調整し易いものであると優位である。そして、金属支持体についての流体の透過性は、当該金属支持体の多孔度や孔の形状等の影響を受ける。
【0008】
ここで、孔加工によって表裏に貫通した貫通孔を有した金属支持体であれば、形成する貫通孔の数や孔径を調整することで流体の透過性を調整しやすい。したがって、貫通孔を有した金属支持体を支持体として用いれば、分離可能な流体の種類や透過速度といった性能を容易に変更でき、様々な用途への利用が容易になると考えられる。
【0009】
上記特許文献1や特許文献2には、ゼオライト膜複合体の支持体として、多孔質金属支持体を用い、当該多孔質金属支持体の表面にゼオライト膜を形成するための方法についての知見は提示されているが、ゼオライト膜複合体の用途の幅を広げる上で、支持体として金属支持体を用いたゼオライト膜複合体についての知見の蓄積が望まれている。
【0010】
本発明は以上の実情に鑑みなされたものであり、貫通孔が形成された金属支持体とゼオライト膜とを有し、様々な用途への利用が容易に可能となるゼオライト膜複合体、当該ゼオライト膜複合体の製造方法、ゼオライト膜複合体を用いた分離装置及び脱水装置の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明に係るゼオライト膜複合体の特徴構成は、
貫通孔が形成された金属支持体と、当該金属支持体の表面に形成された中間層と、当該中間層の表面に形成されたゼオライト膜とを有する点にある。
【0012】
本願発明者は、貫通孔が形成された金属支持体を支持体とする場合、当該金属支持体の表面に中間層が形成されていることにより、当該中間層の表面にゼオライト膜を形成することで、ゼオライト膜を構成するアルミノケイ酸塩の細孔径を超える欠陥の少ないゼオライト膜を有したゼオライト膜複合体となることを見出し、本発明を完成させた。
ゼオライト膜に当該ゼオライト膜を構成するアルミノケイ酸塩の細孔径よりも遥かに大きな欠陥が存在したり、アルミノケイ酸塩の細孔径よりも大きな欠陥が多数存在すると、分離対象についての選択性が低下し、流体からの分離対象の分離や水の除去といったゼオライト膜の機能が低下する。しかしながら、上記特徴構成によれば、ゼオライト膜に、当該ゼオライト膜を構成するアルミノケイ酸塩の細孔径を超える欠陥が少ないため、ゼオライト膜による機能が十分に発揮される。
また、上記特徴構成によれば、貫通孔が形成された金属支持体とゼオライト膜とを有することで、金属支持体の流体の透過性を調整しやすく、分離可能な流体の種類や透過速度といった性能を容易に変更できる。したがって、上記特徴構成を備えたゼオライト膜複合体は、様々な用途への利用が容易に可能である。
【0013】
本発明に係るゼオライト膜複合体の更なる特徴構成は、
前記中間層は、多孔質である点にある。
【0014】
上記特徴構成によれば、金属支持体の貫通孔を通った流体が中間層を介してゼオライト膜に供給され易い。したがって、流体からの分離対象の分離や水の除去を効率よく行うことが可能となる。
【0015】
本発明に係るゼオライト膜複合体の更なる特徴構成は、
前記ゼオライト膜は、少なくとも前記金属支持体の前記表面と直交する方向視において、前記貫通孔と重複する部分に、ナノパームポロメトリー法を用いた分析によって、前記ゼオライト膜を構成するアルミノケイ酸塩の細孔径を超える欠陥が見られない点にある。
【0016】
上記特徴構成によれば、ゼオライト膜における貫通孔と重複する部分に、ゼオライト膜を構成するアルミノケイ酸塩の細孔径を超える欠陥が存在しない。これにより、ゼオライト膜複合体では、ゼオライト膜による機能が十分に発揮される。
【0017】
本発明に係るゼオライト膜複合体の更なる特徴構成は、
前記金属支持体の表面の最大高さ(Sz)は、1.5μm以下である点にある。
【0018】
金属支持体の表面の最大高さ(Sz)が低ければ、当該金属支持体の表面へのガスデポジション法などによる中間層の成膜性が良好なものとなる。したがって、上記特徴構成によれば、例えば、中間層がガスデポジション法によって成膜されたものである場合には、金属支持体と中間層との密着性を高くできる。
【0019】
本発明に係るゼオライト膜複合体の更なる特徴構成は、
前記ゼオライト膜のうち、前記金属支持体の前記表面と直交する方向視において、前記貫通孔と重複する部分の膜厚は、0.1μm以上100μm以下である点にある。
【0020】
ゼオライト膜の透過性が低いと、当該ゼオライト膜を流体が通り抜けにくくなり、流体からの分離対象の分離や水の除去等の効率が低下する。上記特徴構成によれば、ゼオライト膜のうち貫通孔を通って流体が供給される部分が適度な透過性を有しているため、ゼオライト膜による機能が十分に発揮される。
【0021】
上記目的を達成するための本発明に係る分離装置の特徴構成は、
上記ゼオライト膜複合体を有し、前記ゼオライト膜複合体によって気体の分離を行う点にある。
【0022】
上記特徴構成によれば、複数の成分を含む混合気体から任意の成分を分離、回収することができる。
【0023】
上記目的を達成するための本発明に係る脱水装置の特徴構成は、
上記ゼオライト膜複合体を有し、前記ゼオライト膜複合体によって水を含む混合流体の脱水を行う点にある。
【0024】
上記特徴構成によれば、水を含む混合流体から水を分離することができるため、混合流体中の水や他の成分を分離、回収できる。
【0025】
上記目的を達成するための本発明に係るゼオライト膜複合体の製造方法の特徴構成は、
貫通孔が形成された金属支持体と、当該金属支持体の表面に形成された中間層と、当該中間層の表面に形成されたゼオライト膜とを有するゼオライト膜複合体を製造する方法であって、
前記金属支持体の表面に、前記中間層を形成する中間層形成工程と、
前記中間層の表面に、ガスデポジション法によってゼオライト膜を形成するゼオライト膜形成工程と、を含む点にある。
【0026】
一般的に、ゼオライト膜は水熱合成法と呼ばれる液相合成法によって多孔質支持体上に成膜される。ゼオライト膜の主原料であるアルミニウム、ケイ素を含む原料溶液と種々のカチオン種を含む溶液を混合し、高温高圧熱水条件下で水熱合成法を行って種結晶を形成する。そして、種結晶を分散させた分散液に多孔質体を浸漬し、種結晶を多孔質体に付着させ、これを複数回繰り返し行う。
また、水熱合成法によるゼオライト膜の形成に際しては、分子ふるいにより目的とする分子を分離が可能な細孔径のサイズを決定するための構造規定剤が必要であり、通常、ゼオライト膜を形成後に当該構造規定剤を除去するための熱処理工程を行う。この熱処理工程は、構造規定剤の種類に応じて、400~1000℃で10~200時間の加熱を要する工程である。
このように、水熱合成法によってゼオライト膜を形成する場合、所望のゼオライト膜を得るために複数の工程が必要となり、成膜に相応の時間を要する。また、水熱合成時に酸や塩基に晒されて金属支持体の耐久性が低下する、或いは構造規定剤を除去するための熱処理が必要となり、金属支持体が劣化するなどの問題がある。
しかしながら、上記特徴構成によれば、水熱合成法よりも短時間で成膜処理が可能であり、酸や塩基による処理や高温での熱処理が不要なガスデポジション法を用いてゼオライト膜を形成できる。したがって、上記ゼオライト膜複合体の製造方法では、水熱合成法を用いる場合と比較して、短時間且つ金属支持体の耐久性の低下や劣化を抑えつつ、様々な用途への利用が容易に可能なゼオライト膜複合体を好適に製造できる。
また、ゼオライト膜複合体の分離性能には透過性能や選択性があり、透過性能は、ゼオライト膜の性状の他、支持体の孔径にも依存する。支持体の透過性は、孔径が大きいほど高まるが、支持体の孔径が大きいと、ゼオライト膜を水熱合成法により形成する際に、種結晶形成時に分散液が孔から漏れ出てしまう。そのため、ゼオライト膜を水熱合成法により形成する場合、支持体の孔径を大きくすることができない。
しかしながら、上記ゼオライト膜複合体の製造方法では、複雑な工程を要せず、酸処理等も不要なガスデポジション法によって、比較的大きな孔径の貫通孔を有した金属支持体上にゼオライト膜を形成することが可能である。よって、上記ゼオライト膜複合体の製造方法によれば、高性能(透過性能が高い)なゼオライト膜複合体を容易に製造できる。
【0027】
また、貫通孔を有した金属支持体の表面にガスデポジション法によってゼオライト膜を直接成膜すると、金属支持体の貫通孔と表面との間の段差に起因して、形成されるゼオライト膜に欠陥が発生する場合がある。しかしながら、上記特徴構成によれば、金属支持体の表面に中間層を形成し、当該中間層の表面にゼオライト膜を形成するため、上記段差による影響を軽減し、ゼオライト膜を構成するアルミノケイ酸塩の細孔径を超える欠陥が少ないゼオライト膜を形成できる。つまり、上記特徴構成によれば、ゼオライト膜を構成するアルミノケイ酸塩の細孔径を超える欠陥が少ないゼオライト膜を有し、ゼオライト膜による機能が十分に発揮されるゼオライト膜複合体を好適に製造できる。
【0028】
本発明に係るゼオライト膜複合体の製造方法の更なる特徴構成は、
前記ゼオライト膜形成工程では、アルミノケイ酸塩の粒子を搬送ガス中に分散させたエアロゾルを、前記中間層の表面に向けて噴出して、前記中間層の表面上に前記ゼオライト膜を形成する点にある。
【0029】
上記特徴構成によれば、所謂エアロゾルデポジション法によってゼオライト膜を形成できる。エアロゾルデポジション法は、水熱合成法よりも短時間で成膜処理が可能であり、酸や塩基による処理や高温での熱処理が不要である。したがって、上記ゼオライト膜複合体の製造方法によれば、水熱合成法を用いる場合と比較して、短時間且つ金属支持体の耐久性の低下や劣化を抑えつつ、ゼオライト膜複合体を好適に製造できる。
【発明の効果】
【0030】
以上のように、本発明に係るゼオライト膜複合体、当該ゼオライト膜複合体の製造方法、ゼオライト膜複合体を用いた分離装置及び脱水装置では、貫通孔が形成された金属支持体とゼオライト膜とを有し、様々な用途への利用が容易に可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本実施形態に係るゼオライト膜複合体の概略構成を示す図である。
図2】本実施形態に係るゼオライト膜複合体の製造方法に用いる成膜装置の概略構成を示す図である。
図3】本実施形態に係る分離装置を用いた混合気体の分離手順を説明するための図である。
図4】実施例1のナノパームポロメトリー法による測定結果を示すグラフである。
図5】比較例1のナノパームポロメトリー法による測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照して一実施形態に係るゼオライト膜複合体、当該ゼオライト膜複合体の製造方法、及びゼオライト膜複合体を用いた分離装置について説明する。なお、以下の説明において、上下とは、図面における上側、下側をいうものとする。
【0033】
〔ゼオライト膜複合体C〕
まず、本実施形態に係るゼオライト膜複合体Cについて説明する。
【0034】
図1は、本実施形態に係るゼオライト膜複合体Cを示す模式図である。図1に示すように、ゼオライト膜複合体Cは、貫通孔K1が形成された金属支持体Kと、当該金属支持体Kの表面Kaに形成された中間層Lと、当該中間層Lの表面Laに形成されたゼオライト膜Mとを有している。
【0035】
〔金属支持体K〕
金属支持体Kは、ゼオライト膜Mを支持する支持体としての役割を担い、ゼオライト膜複合体Cの強度を保つためのものであって、本実施形態では全体として板状である。金属支持体Kの材料は、特に限定されるものではないが、例えば、フェライト系ステンレス、オーステナイト系ステンレス、ニッケル基合金などの中から、ゼオライト膜複合体Cの強度を確保するという観点やコスト面を考慮して適宜選択すればよい。なお、本実施形態の金属支持体Kは、フェライト系ステンレスで構成されている。
【0036】
金属支持体Kは、中間層Lが形成される面(表側の面)から裏側の面へ貫通し、複数の貫通孔K1を有している。具体的に、本実施形態において、金属支持体Kは、金属板の表側の面と裏側の面とを直線状に貫通するように、パンチング加工やエッチング加工、レーザ加工などの、機械的、化学的あるいは光学的穿孔加工(孔加工)などにより、開口縁が略円形の複数の貫通孔K1が形成された金属板である。
【0037】
金属支持体Kは、貫通孔K1の数や孔径を変更することで、流体の透過性を調整することができる。したがって、本実施形態のゼオライト膜複合体Cは、金属支持体Kの貫通孔K1の数や孔径を変更するだけで、分離可能な流体の種類や透過速度を変更でき、様々な用途に容易に利用できる。
【0038】
なお、貫通孔K1の孔径については、小さくなり過ぎると当該貫通孔K1内を流体が流れにくくなり、ゼオライト膜Mへと供給される流体の量が減少し、結果的に流体の分離や脱水が不能になる虞がある。したがって、貫通孔K1の孔径は、0.1μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、10μmより大きいことが更に好ましい。一方、貫通孔K1の孔径は、金属支持体Kの表面Kaにガスデポジション法によって中間層Lを形成する際の成膜性に影響を与える。具体的に、貫通孔K1の孔径が小さい方が成膜性が向上する傾向にあり、孔径が大きすぎると、ガスデポジション法によって中間層Lを成膜することが困難となる。したがって、中間層Lをガスデポジション法によって形成する場合については、貫通孔K1の孔径は、25μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。なお、転写等の方法によって金属支持体Kの表面Kaに中間層Lを形成する場合については、この限りではない。貫通孔K1の開口縁の形状は、円形に限られるものではなく、楕円形や矩形であってもよいが、この場合、孔径とは、開口縁に外接する円の直径をいうものとする。
【0039】
金属支持体Kの厚さH1は、流体の透過性やゼオライト膜複合体Cに求められる強度を基に適宜設定すればよい。具体的には、金属支持体Kの厚さH1が厚すぎると、透過性が低くなってゼオライト膜Mへ流れる流体が少なくなり過ぎ、逆に厚さH1が薄すぎると、ゼオライト膜複合体Cの十分な強度を確保できなくなる。したがって、金属支持体Kの厚さH1は、0.1mm以上2mm以下であると好ましく、0.15mm以上1.5mm以下であるとより好ましく、0.2mm以上1mm以下であると更に好ましい。
【0040】
金属支持体Kの表面Kaは、中間層Lをガスデポジション法によって形成する場合、表面Kaへの中間層Lの成膜性の観点から、最大高さ(Sz)が1.5μm以下であることが好ましく、1.4μm以下であることがより好ましい。
【0041】
〔中間層L〕
中間層Lは、ゼオライト膜Mをガスデポジション法によって形成する際の下地の役割を担うものである。中間層Lの材料は、特に限定されるものではないが、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)やAl、SiO等のセラミックスや、を用いることができる。
【0042】
中間層Lは、多孔質な層である。本実施形態の中間層Lは、分離対象が含まれる流体が通流可能な孔を有する多孔質層である。中間層Lの気孔率は、流体の透過性やガスデポジション法によるゼオライト膜Mの形成に耐え得る強度等を基に適宜設定すればよい。気孔率が高すぎると、ガスデポジション法によるゼオライト膜Mの形成に耐えられる強度を確保できなくなり、逆に低すぎると、透過性が低くなってゼオライト膜Mへ流体が流れにくくなって流体からの分離対象の分離や水の除去の効率が低くなる。したがって、中間層Lの気孔率は、1%以上40%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましい。
【0043】
中間層Lの厚さH3についても、流体の透過性やガスデポジション法によるゼオライト膜Mの形成に耐え得る強度等を基に適宜設定すればよい。中間層Lの厚さH3が厚すぎると、透過性が低くなってゼオライト膜Mへ流体が流れにくくなって流体からの分離対象の分離や水の除去の効率が低くなり、逆に厚さH3が薄すぎると、ガスデポジション法によるゼオライト膜Mの形成に耐えられる強度を確保できなくなる。したがって、中間層Lの厚さH3は、1μm以上500μm以下であることが好ましく、5μm以上80μm以下であることがより好ましく、10μm以上50μm以下であることが更に好ましい。
【0044】
〔ゼオライト膜M〕
ゼオライト膜Mは、ゼオライト(アルミノケイ酸塩)の分子ふるい作用を利用した特定の分子の分離等の役割を担うものである。ゼオライト膜Mを構成するゼオライトには、分離対象の分子サイズ等に応じて、種々の骨格構造を有する既知のゼオライト種から適宜選択したものを用いることができる。例えば、結晶の細孔径が0.38nmであるチャバサイト(CHA)や細孔径が0.74nmであるフォージャサイト(FAU)、細孔径が0.41nmであるA型ゼオライト(LTA)などを用いることができる。
【0045】
本実施形態において、ゼオライト膜Mは、金属支持体Kの表面Kaと直交する方向視において、貫通孔K1と重複する重複部M1と、貫通孔K1と重複しない非重複部M2とを有している。
【0046】
ここで、欠陥のないゼオライト膜Mでは、当該ゼオライト膜Mを構成するアルミノケイ酸塩の細孔径を超える空隙は存在しない。よって、ゼオライト膜Mにアルミノケイ酸塩の細孔径を超える空隙が存在する場合、当該空隙は欠陥であると考えられる。そして、ゼオライト膜Mに大きな欠陥が存在すると、ゼオライト膜Mに供給された流体がゼオライト本来の細孔より欠陥部分を優先的に流れるため、分離対象についての選択性が低下する。
【0047】
ゼオライト膜Mにおける空隙の有無や最大空隙寸法は、ナノパームポロメトリー法による測定を行うことで確認できる。ナノパームポロメトリー法とは、毛細管凝縮現象を用いた細孔径分布測定法であり、膜中の細孔内で凝縮成分である水が毛細管凝縮して細孔を埋めることで、非凝縮成分である窒素の透過を阻害することを原理とするものである。
細孔内では凝縮成分である水の蒸気圧と、凝縮によって埋まる細孔のサイズの関係が以下の数式1で表される。数式1において、dはケルビン径[m]、νはモル体積[m/mol]、Rは気体定数[J/mol/K]、Tは温度[K]、σは表面張力[N/m]、θは接触角[deg]、Pは蒸気圧[Pa]、Psは測定温度での飽和蒸気圧[Pa]である。
窒素と水蒸気の濃度を変えることで、混合ガスの蒸気圧が変化し、それに応じて水の凝縮が生じる細孔サイズ(ケルビン径)が変化する。水蒸気を含まない乾燥窒素の透過率を測定し、その後水蒸気を添加して再度透過率を測定すると、凝縮が生じる細孔サイズ以下の細孔はすべて閉塞され、窒素の透過が阻害されるため窒素透過率が減少する。ナノパームポロメトリー法では、様々な濃度の窒素と水蒸気の混合ガスを膜に供給し、窒素の透過率の減少率から細孔径分布を推定するものである(都留稔了、平成18年度助成研究報告書I(平成20年3月発行))。
【0048】
【数1】
【0049】
本願のナノパームポロメトリー法による測定では、凝縮が生じる細孔サイズが1~50nmの範囲で水蒸気濃度を変化させて窒素の透過率を測定し、乾燥窒素の透過率に対して、窒素の透過率が約50%となる水蒸気濃度を求め、その水蒸気濃度を空隙寸法に変換した値を、膜の平均細孔径と定義し、また透過率が約0%(検出下限)に到達した点を膜の最大空隙寸法とした。透過率は、高精度精密膜流量計(HORIBA製、SF-1U、体積管ユニットVP-1Uを使用)を用いて膜を透過した窒素の流量を測定し、圧力計(クローネ製、KDM30)を用いて膜間差圧を測定し、透過した窒素流量を膜間差圧と膜面積で除することで、単位膜面積当たり・差圧当たりの窒素透過率を算出した。また乾燥窒素の透過率を1として、窒素・水蒸気混合ガスを供給した際の窒素透過率を規格化した。
【0050】
ゼオライト膜Mを構成するアルミノケイ酸塩の細孔径は、ゼオライト種によって異なるものの1nm未満である。一方で、上記本願のナノパームポロメトリー法による測定においては、最大空隙寸法の検出限界が1nmである。したがって、本願のナノパームポロメトリー法による測定によって空隙の存在を確認できない場合、ゼオライト膜Mには、ゼオライト膜Mを構成するアルミノケイ酸塩の細孔径を超える欠陥が存在しないか、仮に存在するとしても分離対象についての選択性にほぼ影響を与えない1nm未満の欠陥である。
【0051】
そして、本実施形態において、ゼオライト膜Mの重複部M1及び非重複部M2(つまりゼオライト膜M全体)は、ナノパームポロメトリー法を用いた分析によって、ゼオライト膜Mを構成するアルミノケイ酸塩の細孔径を超える欠陥が見られない。より厳密に言えば、ゼオライト膜Mの重複部M1及び非重複部M2は、ナノパームポロメトリー法を用いた分析によって、検出限界である1nm以上の欠陥が見られない。したがって、本実施形態のゼオライト膜複合体Cでは、ゼオライト膜Mによる機能が十分に発揮される。
【0052】
ゼオライト膜Mの厚さH2は、流体の透過性を考慮して適宜設定すればよい。具体的には、ゼオライト膜Mの厚さH2が厚すぎると、透過性が低くなってゼオライト膜Mを流体が通り抜けにくくなり、混合流体からの分離対象の分離や水の除去(脱水)の効率が低下する。逆に、厚さH2が薄すぎると、透過性が高くなり過ぎ、混合流体からの分離対象の分離や水の除去(脱水)の効率が低下する。したがって、ゼオライト膜Mの厚さH2、より具体的には、ゼオライト膜Mの重複部M1の厚さH2は、0.1μm以上100μm以下であると好ましく、0.2μm以上80μm以下であるとより好ましく、0.5μm以上50μm以下であると更に好ましい。
【0053】
次に、本実施形態に係るゼオライト膜複合体Cの製造方法について説明する。まず、本製造方法に用いる成膜装置1について説明する。
【0054】
〔成膜装置1〕
図2は、成膜装置1の概略構成を示す図である。図2に示すように、成膜装置1は、アルミノケイ酸塩の粒子からなる原料粉や、中間層Lの原料となる物質の粒子からなる原料粉を搬送ガス中に分散させたエアロゾルを金属支持体Kの表面Kaや中間層Lの表面Laに向けて噴出して、金属支持体Kの表面Kaの上に中間層Lを形成し、中間層Lの上にゼオライト膜Mを形成する装置である。つまり、成膜装置1は、エアロゾルデポジション法によって中間層Lやゼオライト膜Mを形成する装置である。
【0055】
本実施形態において、成膜装置1は、内部に金属支持体Kが配設される処理室2と、成膜処理の対象である金属支持体Kを保持する保持部4と、保持部4を移動可能に構成された移動機構3と、噴出端5aからエアロゾルを噴出するエアロゾル搬送管5と、原料粉をガスに分散させたエアロゾルを発生させるエアロゾル発生部15と、原料粉をエアロゾル発生部15に送給する原料粉供給機構16と、搬送ガスをエアロゾル発生部15に送給する搬送ガス送給機構18と、を備えている。
【0056】
処理室2は、気密状の筐体で構成されており、上端面に開口2aが形成されている。また、処理室2の内部には、保持部4やエアロゾル搬送管5が配設されている。処理室2の開口2aには、排気設備としてのメカニカルブースターポンプP1及び真空ポンプP2が排気管S1によって接続されている。処理室2内は、メカニカルブースターポンプP1及び真空ポンプP2によって気体が排出されることで所定圧力(例えば、0.25kPa程度)以下に減圧される。
【0057】
保持部4は、表面Kaが水平面と平行となるように当該表面Kaを下側に向けて金属支持体Kを保持可能に構成されている。金属支持体Kを保持する手法としては、真空吸着を利用する手法や、クーロン力を利用する手法などの既知の手法を用いることができる。
【0058】
移動機構3は、保持部4を水平方向に移動させる水平駆動機構(図示せず)や鉛直方向に移動させる昇降駆動機構(図示せず)などで構成されている。なお、図2では、移動機構3を処理室2の外部に配置した状態を示したが、処理室2の内部に移動機構3を配置してもよい。
【0059】
エアロゾル搬送管5は、円筒状の直管部材であり、噴出端5aの断面形状がスリット状である。また、エアロゾル搬送管5は、噴出端5aが保持部4と対向するように処理室2内に配設されている。エアロゾル搬送管5における噴出端5aと反対の端部はエアロゾル発生部15に接続されている。このエアロゾル搬送管5によれば、噴出端5aから金属支持体Kの表面Kaや当該金属支持体Kの表面Kaに形成された中間層Lの表面Laに向けてエアロゾルが噴射される。
【0060】
エアロゾル発生部15は、上記のように、原料粉をガスに分散させたエアロゾルを発生させるように構成されている。エアロゾル発生部15には、エアロゾル搬送管5、並びに、後述する原料供給管S2及び搬送ガス送給管S3が接続されている。エアロゾル発生部15では、原料粉供給機構16によって一定速度で供給される原料粉と、搬送ガス送給機構18によって送給される搬送ガスとを混合したエアロゾルが発生する。発生したエアロゾルは、エアロゾル搬送管5に送給される。
【0061】
原料粉供給機構16は、原料粉供給部17や原料供給管S2などで構成される。原料粉供給部17には、原料粉が貯留されている。原料粉は、原料供給管S2を通してエアロゾル発生部15に供給される。なお、原料粉の詳細については後述する。
【0062】
搬送ガス送給機構18は、ガス供給部19や搬送ガス圧力制御部20、搬送ガス流量制御部21、搬送ガス送給管S3などで構成されている。
【0063】
ガス供給部19には、搬送ガス送給管S3が接続されている。ガス供給部19は、空気やN、He、Arなどの搬送ガスをコンプレッサーやガスボンベによって搬送ガス送給管S3に供給するように構成されている。
【0064】
搬送ガス送給管S3は、ガス供給部19から供給される搬送ガスをエアロゾル発生部15まで送給するためのものである。本実施形態において、ガス供給部19から送出された搬送ガスは、搬送ガス圧力制御部20、搬送ガス流量制御部21を順に経由してエアロゾル発生部15まで送給される。つまり、搬送ガス送給管S3は、ガス供給部19、搬送ガス圧力制御部20、搬送ガス流量制御部21及びエアロゾル発生部15の間を繋ぐ複数の配管によって構成されている。搬送ガス送給管S3における搬送ガス流量制御部21とエアロゾル発生部15との間には、搬送ガス送給管S3内の圧力を検出する圧力センサQが設けられている。
【0065】
搬送ガス圧力制御部20は、搬送ガス送給管S3内を流通する搬送ガスを適正圧力に静定するものである。搬送ガス流量制御部21は、搬送ガス送給管S3内を流通する搬送ガスの流量を制御するものである。搬送ガス圧力制御部20及び搬送ガス流量制御部21は、圧力センサQにより検出される圧力などを基に、適宜制御装置によって動作が制御される。
【0066】
〔原料粉〕
本実施形態では、中間層形成用原料粉及びゼオライト膜形成用原料粉の2種類を使用する。中間層形成用原料粉は、中間層Lの原料となる物質の粒子で構成されており、粒子には、平均粒子径が0.1μm以上10μm以下のものを使用する。中間層Lの原料としては、YSZやAlなどを用いることができる。また、ゼオライト膜形成用原料粉は、アルミノケイ酸塩の粒子で構成されており、本実施形態では、アルミノケイ酸塩の粒子として、平均粒子径が金属支持体Kの貫通孔K1の孔径よりも小さいものを使用する。具体的に、本実施形態では、アルミノケイ酸塩の粒子として、平均粒子径が0.5μm以上10μm以下のものを使用する。アルミノケイ酸塩としては、FAUやLTAなど種々の骨格構造を有するものを用いることができる。
【0067】
〔ゼオライト膜複合体の製造方法〕
次に、本実施形態に係るゼオライト膜複合体Cの製造方法について説明する。本製造方法は、貫通孔K1が形成された金属支持体Kの表面Kaに中間層Lを形成する中間層形成工程と、中間層Lの表面Laにガスデポジション法によってゼオライト膜Mを形成するゼオライト膜形成工程とを含む。本実施形態において、中間層形成工程では、中間層Lの原料となる物質の粒子を搬送ガス中に分散させたエアロゾルを、金属支持体Kの表面Kaに噴出して、金属支持体Kの表面Kaの上に中間層Lを形成する。ゼオライト膜形成工程では、アルミノケイ酸塩の粒子を搬送ガス中に分散させたエアロゾルを、中間層Lの表面Laに向けて噴出して、中間層Lの表面La上にゼオライト膜Mを形成する。
【0068】
具体的に、本実施形態では、まず、搬送ガス圧力制御部20及び搬送ガス流量制御部21によって搬送ガス送給管S3内を流通する搬送ガスの流量や圧力を調整しながらガス供給部19からエアロゾル発生部15へと搬送ガスを送給する。エアロゾル発生部15では、送給された搬送ガスと原料粉供給部17から供給される中間層形成用原料粉とが混合したエアロゾルが発生する。発生したエアロゾルは、エアロゾル搬送管5に送給される。
【0069】
エアロゾル搬送管5に送給されたエアロゾルは、噴出端5aから金属支持体Kの表面Kaに向けて噴出され、噴出されたエアロゾルが金属支持体Kの表面Kaに衝突することで、当該表面Kaに中間層Lが形成される(中間層形成工程)。
【0070】
ついで、使用する原料粉をゼオライト膜形成用原料粉に変更し、中間層形成工程と同様の手順を行うことで、搬送ガスとゼオライト膜形成用原料粉とが混合したエアロゾルが発生し、発生したエアロゾルは、エアロゾル搬送管5に送給される。そして、エアロゾル搬送管5に送給されたエアロゾルは、噴出端5aから中間層Lの表面Laに向けて噴出され、噴出されたエアロゾルが中間層Lの表面Laに衝突することで、当該表面Laにゼオライト膜Mが形成される(ゼオライト膜形成工程)。
【0071】
このように、本実施形態に係るゼオライト膜複合体Cの製造方法では、貫通孔K1を有した金属支持体Kの表面Kaの上に中間層Lを形成した上で、当該中間層Lの表面Laの上に、ゼオライト膜Mを形成している。したがって、金属支持体Kの貫通孔K1と表面Kaとの間の段差による影響を軽減でき、ゼオライト膜Mを構成するアルミノケイ酸塩の細孔径を超える欠陥が少ないゼオライト膜Mを形成できる。
【0072】
また、本実施形態に係るゼオライト膜複合体Cの製造方法では、ゼオライト膜Mをガスデポジション法(具体的にはエアロゾルデポジション法)によって形成している。したがって、水熱合成法を用いてゼオライト膜Mを形成する場合と比較して、短時間且つ金属支持体Kの耐久性の低下や劣化を抑えつつ、ゼオライト膜複合体Cを製造できる。
また、本実施形態に係るゼオライト膜複合体Cの製造方法では、複雑な工程を要せず、酸処理等も不要なガスデポジション法によって、比較的大きな孔径の貫通孔を有した金属支持体上にゼオライト膜を形成することが可能である。よって、ゼオライト膜複合体Cの製造方法によれば、高性能(透過性能が高い)なゼオライト膜複合体Cを容易に製造できる。
【0073】
〔分離装置〕
ゼオライト膜複合体Cを上記のような構成とすることで、当該ゼオライト膜複合体Cを分離装置として用いることができる。つまり、ゼオライト膜複合体Cによって気体の分離を行う分離装置を実現でき、複数の成分を含む混合気体から任意の成分を分離、回収できる。なお、ゼオライト膜複合体Cは、例えば、二酸化炭素とメタンとの混合気体の分離や二酸化炭素と窒素との混合気体の分離に用いることができる。
【0074】
図3は、ゼオライト膜複合体Cを分離装置として用いる場合の混合気体の分離手順を説明するための図である。図3に示すように、ゼオライト膜複合体Cを分離装置として用いる場合、金属支持体Kの裏面Kbの側から分離対象を含む混合気体を供給する。供給された混合気体は、貫通孔K1を通り、中間層Lを介してゼオライト膜Mの重複部M1に供給され、当該重複部M1を透過する際に、ゼオライトの分子ふるい作用によって分離対象が分離される。
【0075】
〔実施例及び比較例〕
以下、実施例1並びに比較例1及び2について説明する。実施例1では、孔径15μmの貫通孔を有する金属支持体の上に中間層を形成した上で、中間層の上にゼオライト膜を形成し、比較例1では、孔径15μmの貫通孔を有する金属支持体の上に直接ゼオライト膜を形成した。なお、使用した金属支持体の表面高さ(Sz)は、1.5μm以下である。
【0076】
具体的に、実施例1では、金属支持体を水平方向に沿って往復移動させながら、表面にエアロゾルを吹き付けて所定時間成膜処理を行い、金属支持体の表面に中間層を形成し、その後、同様の手順で成膜処理を行って中間層の表面にゼオライト膜を形成し、ゼオライト膜複合体を作製した。比較例1では、金属支持体を水平方向に沿って往復移動させながら、表面にエアロゾルを吹き付けて所定時間成膜処理を行って金属支持体の表面にゼオライト膜を形成し、ゼオライト膜複合体を作製した。なお、各実施例では、厚さがおよそ10~50μmのゼオライト膜を形成した。
【0077】
エアロゾル搬送管には、噴出端における流路断面がスリット状であり、流路断面積が20mm×0.5mmのものを使用した。また、噴出端と金属支持体の表面との間の距離は、50mmとした。中間層形成用原料粉として、平均粒子径が1μmのYSZの粒子を使用し、ゼオライト膜形成用原料粉として、平均粒子径が1.6μmのFAU型のアルミノケイ酸塩の粒子を使用した。また、搬送ガスの流量は30L/min、処理室内の圧力は0.25kPaとした。
【0078】
一方、比較例2は、「Hasegawa Y, Tanaka T, Watanabe K, et al. ,Korean J. Chem. Eng. 2002;19(2):309-313」(以下、「参考文献」という)で報告されているゼオライト膜複合体であり、円筒状のアルミナの表面に水熱合成法によってFAU型のゼオライト膜を形成したものである。
【0079】
実施例1及び比較例1のゼオライト膜複合体について、上記ナノパームポロメトリー法による測定を行うとともに、これらゼオライト膜複合体を用いて、二酸化炭素のモル分率を0.2、窒素のモル分率を0.8とした混合気体の分離を行った。
【0080】
図4及び図5は、実施例1及び比較例1のゼオライト膜複合体を上記ナノパームポロメトリー法により測定した結果を示すグラフであり、図4は実施例1、図5は比較例1のグラフである。また、表1は、ナノパームポロメトリー法による測定で得られた最大空隙寸法及び平均細孔径をまとめた表である。表2は、実施例1並びに比較例1及び2の選択性(二酸化炭素/窒素選択比)をまとめた表である。なお、表2中の比較例2の選択性は、参考文献に記載された値である。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
図4図5及び表1に示すように、実施例1のゼオライト膜複合体は、ナノパームポロメトリー法による測定によって空隙の存在を確認できなかった。つまり、実施例1のゼオライト膜複合体には、ゼオライト膜を構成するFAU型のアルミノケイ酸塩の細孔径(0.74nm)を超える欠陥が存在しないか、仮に存在するとしても分離対象についての選択性にほぼ影響を与えない1nm未満の欠陥である。これにより、実施例1のゼオライト膜複合体は、表2に示すように、一定の選択性を示しており、二酸化炭素を窒素に比べて選択的に透過できることがわかる。これに対して、比較例1では、最大空隙寸法がFAU型のアルミノケイ酸塩の細孔径よりも遥かに大きく、平均細孔径も25nmであることにより、表2に示すように、選択性を示さなかった。
【0084】
以上のことから、ゼオライト膜複合体の支持体として貫通孔を有する金属支持体を用いる場合、当該金属支持体の上に中間層を形成し、当該中間層の上にゼオライト膜を形成することにより、ゼオライト膜を構成するアルミノケイ酸塩の細孔径を超える欠陥が少ないゼオライト膜を形成でき、ゼオライト膜複合体において、ゼオライト膜による機能が十分に発揮されることがわかる。
【0085】
また、エアロゾルデポジション法によりゼオライト膜を形成した実施例1と水熱合成法によりゼオライト膜を形成した比較例2とを比較すると、いずれも一定の選択性を示している。このことから、ゼオライト膜の形成方法により選択性に大きな差が生じないことがわかる。したがって、ゼオライト膜をガスデポジション法(エアロゾルデポジション法)により形成したゼオライト膜複合体は、ゼオライト膜を水熱合成法により形成するものと比較して、同等の性能を備えつつ、短時間且つ金属支持体の耐久性の低下や劣化を抑えて製造可能である点で優位性がある。
【0086】
〔別実施形態〕
〔1〕上記実施形態では、金属支持体Kが全体として板状である態様について説明したが、このような態様に限られるものではない。例えば、板状の金属支持体Kに曲げ加工等を施して、箱状や円筒状のなどの形状に加工し、その外面にゼオライト膜が形成された態様であってもよい。
【0087】
〔2〕上記実施形態では、ゼオライト膜Mの重複部M1及び非重複部M2の双方が、ナノパームポロメトリー法を用いた分析によって、ゼオライト膜Mを構成するアルミノケイ酸塩の細孔径を超える欠陥が見られない態様について説明したが、このような態様に限られるものではない。重複部M1及び非重複部M2のいずれか一方のみが、ナノパームポロメトリー法を用いた分析によって、ゼオライト膜Mを構成するアルミノケイ酸塩の細孔径を超える欠陥が見られない態様であってもよい。また、ゼオライト膜Mの重複部M1及び非重複部M2の双方に、分離対象についての選択性にほぼ影響を与えないような大きさの欠陥が存在する態様であってもよい。なお、ゼオライト膜Mの機能を十分に発揮させるという観点からすれば、金属支持体Kの貫通孔K1を通って流体が供給される重複部M1については、ゼオライト膜Mを構成するアルミノケイ酸塩の細孔径を超える欠陥が見られないことが好ましい。
【0088】
〔3〕上記実施形態では、エアロゾルデポジション法によってゼオライト膜Mを形成する態様について説明したが、このような態様に限られるものではない。ゼオライト膜Mを他のガスデポジション法によって形成する態様であってもよい。
【0089】
〔4〕上記実施形態では、ゼオライト膜複合体Cを分離装置として用いる態様について説明したが、このような態様に限られるものではない。例えば、ゼオライト膜複合体Cを脱水装置として用いる態様であってもよい。この場合、水を含む混合流体から水を分離することができるため、混合流体中の水や他の成分を分離、回収できる。なお、ゼオライト膜複合体Cは、ゼオライトの分子ふるい作用を利用可能な種々の用途に用いることができる。
【0090】
〔5〕上記実施形態では、中間層Lをエアロゾルデポジション法によって形成する態様について説明したが、このような態様に限られるものではない。例えば、中間層Lを転写やスクリーン印刷によって金属支持体Kの表面Kaの上に形成する態様であってもよい。
【0091】
〔6〕上記実施形態では、エアロゾル搬送管5として、円筒状の直管部材を用い、噴出端5aの断面形状がスリット状である態様について説明したが、このような態様に限られるものではない。エアロゾル搬送管における噴出端の断面形状は、スリットなどの矩形に限られず、円形や楕円形であってもよく、三角形等の多角形であってもよい。
【0092】
〔7〕上記実施形態では、表面Kaが下向きとなるように保持部4が金属支持体Kを保持する態様について説明したが、このような態様に限られるものではない。保持部とエアロゾル搬送管の噴出端との位置を上下で入れ替え、処理対象面が上向きとなるように保持部が基材を保持する態様であってもよい。
【0093】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【符号の説明】
【0094】
1 :成膜装置
2 :処理室
3 :移動機構
5 :エアロゾル搬送管
15 :エアロゾル発生部
16 :原料粉供給機構
18 :搬送ガス送給機構
C :ゼオライト膜複合体
K :金属支持体
Ka :表面
K1 :貫通孔
L :中間層
La :表面
M :ゼオライト膜
M1 :重複部(貫通孔と重複する部分)
図1
図2
図3
図4
図5