(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143250
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】紫外半導体発光素子
(51)【国際特許分類】
H01L 33/32 20100101AFI20241003BHJP
H01S 5/343 20060101ALI20241003BHJP
H01L 33/06 20100101ALI20241003BHJP
【FI】
H01L33/32
H01S5/343 610
H01L33/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055827
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小島 久範
(72)【発明者】
【氏名】白土 達也
【テーマコード(参考)】
5F173
5F241
【Fターム(参考)】
5F173AF06
5F173AF22
5F173AF24
5F173AG17
5F173AH22
5F173AJ42
5F173AR23
5F241AA03
5F241AA04
5F241CA05
5F241CA40
5F241CA60
5F241FF16
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高効率かつ高出力特性を有し、高い信頼性を有する紫外半導体発光素子を提供する。
【解決手段】単結晶AlN基板上に形成されたn型Al
XGa
1-XN層であるn型クラッド層と、n型クラッド層上に形成され、AlGaN層からなる量子井戸活性層と、量子井戸活性層上に形成されたAl
Y1Ga
1-Y1N層である電子ブロック層と、電子ブロック層上に形成されたp型Al
Y2GaN層
1-Y2であるp型クラッド層と、を有する。量子井戸活性層は、同一結晶組成の障壁層と、記障壁層によって互いに隔てられた、少なくとも1つの副量子井戸層及び電子ブロック層に最も近い量子井戸層である主量子井戸層と、を有し、該少なくとも1つの副量子井戸層は同一の結晶組成及び層厚を有し、副量子井戸層及び主量子井戸層は同一の結晶組成を有し、主量子井戸層は副量子井戸層の1.2倍以上の層厚を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶AlNからなる基板と、
前記基板上に形成されたn型AlXGa1-XN層であるn型クラッド層と、
前記n型クラッド層上に形成され、AlGaN層からなる量子井戸活性層と、
前記量子井戸活性層上に形成されたAlY1Ga1-Y1N層である電子ブロック層と、
前記電子ブロック層上に形成されたp型AlY2GaN層1-Y2であるp型クラッド層と、を有し、
前記量子井戸活性層は、同一結晶組成の障壁層と、前記障壁層によって
互いに隔てられた、少なくとも1つの副量子井戸層及び前記電子ブロック層に最も近い量子井戸層である主量子井戸層と、を有し、
前記少なくとも1つの副量子井戸層は同一の結晶組成及び層厚を有し、
前記副量子井戸層及び前記主量子井戸層は同一の結晶組成を有し、前記主量子井戸層は前記副量子井戸層の1.2倍以上の層厚を有する、
紫外半導体発光素子。
【請求項2】
前記主量子井戸層の層厚は16nm以下である請求項1に記載の紫外半導体発光素子。
【請求項3】
前記主量子井戸層と前記主量子井戸層に隣接する副量子井戸層との間の障壁層の層厚は7nm以下である請求項1又は2に記載の紫外半導体発光素子。
【請求項4】
前記主量子井戸層と前記電子ブロック層との間の障壁層である最終障壁層は9~27nmの範囲内の層厚を有する請求項1又は2に記載の紫外半導体発光素子。
【請求項5】
前記p型クラッド層は、アクセプタとなるp型不純物とドナーとなるn型不純物とがコドープされている請求項1又は2に記載の紫外半導体発光素子。
【請求項6】
前記電子ブロック層は、アクセプタとなるp型不純物とドナーとなるn型不純物とがコドープされている請求項5に記載の紫外半導体発光素子。
【請求項7】
前記量子井戸活性層の発光波長は200-280nmの範囲内である請求項1に記載の紫外半導体発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外半導体発光素子、特に深紫外光を放出する窒化物半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細菌やウイルスの不活化作用及び殺菌効果を有する光源として深紫外領域を発光波長帯域とする半導体発光素子が注目されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、活性層の量子井戸層の厚み、量子井戸層及び障壁層の組成等を制御することで、発光効率が高く、高注入電流領域でも安定した動作が可能な深紫外発光素子を実現することについて開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、p型半導体層にSiをコドープした深紫外半導体発光素子について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許6466653号公報
【特許文献2】特開2022-167231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の紫外半導体発光素子においては、半導体層の積層構造、組成や不純物濃度、層厚などについての各層の検討がなされてきたものの、十分に高効率かつ高出力な素子を実現することが困難であった。
【0007】
また、高い光出力を得るために大きな電流で駆動した場合、早期に素子の劣化が進行し、高出力特性と高信頼性(長寿命)を両立することが困難であった。
【0008】
本願は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、高効率かつ高出力特性を有し、高い信頼性を有する紫外半導体発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1実施形態による紫外半導体発光素子は、
単結晶AlNからなる基板と、
前記基板上に形成されたn型AlXGa1-XN層であるn型クラッド層と、
前記n型クラッド層上に形成され、AlGaN層からなる量子井戸活性層と、
前記量子井戸活性層上に形成されたAlY1Ga1-Y1N層である電子ブロック層と、
前記電子ブロック層上に形成されたp型AlY2GaN層1-Y2であるp型クラッド層と、を有し、
前記量子井戸活性層は、同一結晶組成の障壁層と、前記障壁層によって
互いに隔てられた、少なくとも1つの副量子井戸層及び前記電子ブロック層に最も近い量子井戸層である主量子井戸層と、を有し、
前記少なくとも1つの副量子井戸層は同一の結晶組成及び層厚を有し、
前記副量子井戸層及び前記主量子井戸層は同一の結晶組成を有し、前記主量子井戸層は前記副量子井戸層の1.2倍以上の層厚を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の1実施形態による紫外半導体発光素子の構造を模式的に示す断面図である。
【
図2】紫外LEDのバンドダイアグラムを模式的に示す図である。
【
図3】実施例(EMB)の紫外LEDの各層の構成を示す表である。
【
図4】実施例(EMB)及び比較例(CMP)の紫外LEDにおける活性層の量子井戸層及び障壁層の層厚を示す表である。
【
図5】実施例及び比較例の紫外LEDの半導体層の断面STEM像である。
【
図6】実施例及び比較例の紫外LEDのサンプルの光出力のヒストグラムを示す図である。
【
図7】実施例及び比較例の紫外LEDの順方向電圧Vf及び発光波長λを示す図である。
【
図8】実施例及び比較例の紫外LEDの初期光出力に対する光出力維持率を示す図である。
【
図9】量子井戸層厚Lzと電子及び正孔の基底準位との関係を示す図である。
【
図10】活性層のバンドダイアグラムを模式的に示す図である。
【
図11】実施例及び比較例の紫外LEDのELスペクトルを示す図である。
【
図12】量子井戸層の層厚と電子及び正孔の波動関数の関係を模式的に示す図である。
【
図13A】最終障壁層の層厚と初期光出力との関係を示す図である。
【
図13B】p型クラッド層から主量子井戸層に至る深さ方向でのMgの濃度を示すSIMSプロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下においては、本発明の好適な実施例について説明するが、これらを適宜改変し、組合せてもよい。また、以下の説明及び添付図面において、実質的に同一又は等価な部分には同一の参照符を付して説明する。
[紫外半導体発光素子の構造]
図1は、本発明の1実施形態による紫外半導体発光素子10の構造を模式的に示す断面図である。紫外半導体発光素子10は、紫外発光ダイオード(以下、紫外LED10とも称する)であり、例えば、有機金属気相成長法(MOCVD法)により製造することができるがこれに限定されない。
【0012】
紫外LED10は、基板11上に、n型クラッド層(n型AlGaN層)12、活性層13、電子ブロック層(p型AlGaN層)14、p型クラッド層(p型AlGaN層)15及びp型コンタクト層(p型GaN層)16がこの順でエピタキシャル成長によって積層されている。
【0013】
図2には、紫外LED10のバンドダイアグラムが模式的に示されている。以下に
図1及び
図2を参照して紫外LED10についてより詳細に説明する。
【0014】
基板11は、転位密度が108cm-2以下の単結晶AlN基板であり、以下、AlN基板11と称する。本発明の紫外発光素子を構成するAlGaN系半導体材料では、例えば、OPTICS EXPRESS Vol.25 No.16 A639(2017)に記載されているように、転位密度が107~108cm-2を上回ると発光効率が急激に低下することが知られている。そのため、単結晶AlN基板の転位密度は低いほど好ましく、具体的には106cm-2以下、さらに好ましくは104cm-2以下である。このような低転位密度のAlN基板11を用いることで、後述する活性層13における転位密度を、発光効率が低下しない107cm-2以下にすることができる。
【0015】
本発明のAlN基板11の成長面(表面)は、特に限定されるものではなく、C面、M面などの成長面とすることができるが、AlGaN系材料の成長面として一般的に用いられているC面であることが好ましい。さらに、C面を結晶成長面とする場合は、AlN基板11上に成長されるAlGaN層の平滑性を向上させるなどの目的により、C面から微傾斜したOFF基板であることが好ましい。C面からの傾斜角度は特に限定されるものではなく、平滑なAlGaN層が得られるように適宜決定すればよいが、通常は0.1~1.0°の範囲で選択される。また、C面からの傾斜方向も、特に限定されるものではなく、A軸方向、M軸方向などを適宜選択すればよいが、ステップ端の直線性が高くなるM軸方向を選択することが好ましい。
【0016】
また、AlN基板11の表面粗さが大きいと、基板上に成長するAlGaN層の異常成長などの要因となるため、表面粗さ(RSM)は1.0nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.5nm以下である。このような平滑面を得るため、または基板の製造過程で基板表面に形成されたダメージ層を取り除くため、基板表面は化学機械研磨(CMP)処理が施されていることが好ましい。
【0017】
また、活性層から放射される紫外光に対する基板の吸収係数が大きいと、外部へ取り出せる紫外光の総量が減少して発光効率の低下を招く懸念がある。そのため、AlN基板およびAlNテンプレートのAlN層の吸収係数は、好ましくは20cm-1以下であり、さらに好ましくは10cm-1以下である。10cm-1以下にすることで、例えばAlN基板11の板厚が100μmであっても、90%以上の直線透過率を確保することができる。
【0018】
n型クラッド層(n型AlXGa1-XN層)12は、Si(シリコン)ドープされたn型導電層である。紫外半導体発光素子において、発光層から放出された紫外光は、通常n型AlGaN層12と基板11を透過して外部に放出される。n型AlGaN層はAl組成が大きくなるにつれて、n型AlGaN層のバンドギャップは大きくなり、それに応じて、より短波長の紫外光を透過することができるようになるため、n型AlGaN層のAl組成は、所望とする紫外光の発光波長に対して十分な透過性が得られるように適宜決定すればよい。
【0019】
また、n型クラッド層12はAl組成(X)の異なる複数の層から形成されていてもよく、さらに積層方向にAl組成が傾斜する組成傾斜層とすることもできる。例えば、第1のn型クラッド層(n型AlX1Ga1-X1N層)12A及び第2のn型クラッド層(n型AlX2Ga1-X2N層)12Bからなる積層構造が挙げられる。
【0020】
第1のn型クラッド層12Aは、例えば、積層方向(成長方向)にAl組成X1が1.0から0.75に減じる組成傾斜層であり、第2のn型クラッド層12Bは、例えば、Al組成X2が0.75から0.70に減じる組成傾斜層である。なお、第1のn型クラッド層12A及び第2のn型クラッド層12Bの界面におけるAl組成は等しいことが好ましい。
【0021】
また、n型クラッド層12の層厚は特に限定されるものではなく適宜決定すればよいが、n型クラッド層12の層厚が厚くなりすぎると、AlN基板11とn型クラッド層12が格子緩和を起こして転位が発生しやすくなるため、n型クラッド層12の総層厚は0.5~2.0μmの範囲に設定することが好ましい。
【0022】
例えば、n型クラッド層12が、上述した第1のn型クラッド層(n型AlX1Ga1-X1N層)12A及び第2のn型クラッド層(n型AlX2Ga1-X2N層)12Bからなる積層構造の場合は、第1のn型クラッド層12Aは200nmの層厚を有し、第2のn型クラッド層12Bは1000nmの層厚を有している積層構造を用いればよい。当然のことながら、これらの第1、および第2のn型クラッド層12A,12Bの層厚は例示した数字に限定されるものではなく、総層厚が2.0μm以下になるように適宜決定すれば良い。
【0023】
また、n型クラッド層12にドーピングするSi濃度は、所望のn型導電性が得られるように適宜決定すればよいが、n型クラッド層12の抵抗値を下げる観点からは、1×1018~1×1020cm-3であることが好ましく、更には5×1018~5×1019cm-3であることが好ましい。
【0024】
またSiドーピング濃度は、n型クラッド層12内の層厚方向で一定であってもいいし、層厚方向でSi濃度の異なる変調ドーピングにすることもできる。なお、Si濃度、および後述するMg濃度は、公知のSecondary Ion Mass Spectrometry(SIMS)分析により測定することができる。また、本願におけるSi濃度、およびMg濃度は、AlN層、AlGaN層、GaN層について、それぞれAlN、Al0.65Ga0.35N、GaNの標準試料を用いた定量値を採用している。
【0025】
活性層(ACT)13は、AlA1Ga1-A1N層からなる複数の障壁層13Bと、AlA2Ga1-A2N層からなる3つの量子井戸層QS1,QS2,QMで構成される多重量子井戸(MQW:Multi Quantum Well)構造を有する。
【0026】
より詳細には、活性層(ACT)13は、1つの主量子井戸層QMと、2つの副量子井戸層QS1,QS2を有する。より詳細には、基板11側から順に設けられた副量子井戸層QS1及びQS2と、主量子井戸層QMとを有する。
【0027】
より詳細には、活性層13は、n型クラッド層12上に設けられた第1障壁層13B1(層厚:TB1)、第1の副量子井戸層QS1と第2の副量子井戸層QS2との間に設けられた第2障壁層13B2(層厚:TB2),第2の副量子井戸層QS2と主量子井戸層QMとの間に設けられた第3障壁層13B3(層厚:TB3)及び主量子井戸層QMと電子ブロック層(p型AlY1Ga1-Y1N層)14との間に設けられた最終障壁層13L(層厚:TL)を有する。
【0028】
第1の副量子井戸層QS1及び第2の副量子井戸層QS2は同一の結晶組成及び層厚TSを有する。また、第1の副量子井戸層QS1、第2の副量子井戸層QS2及び主量子井戸層QMは同一の結晶組成(A2)を有する。
ここで、本明細書において、結晶組成及び層厚の「同一」とは、実質的な同一を含み、半導体層の結晶成長において得られる程度の同一性をいう。
【0029】
また、障壁層13B、すなわち第1障壁層13B1、第2障壁層13B2、第3障壁層13B3及び最終障壁層13Lは同一の結晶組成(A1)を有する。なお、これら複数の障壁層の各々を特に区別しない場合は、障壁層13Bと総称して説明する。
【0030】
なお、各副量子井戸層間の障壁層の層厚(上記の場合では、TB2)と、主量子井戸層QMに最も近い副量子井戸層との間の障壁層の層厚(上記の場合では、TB3)とは同一であることが好ましい。
【0031】
主量子井戸層QMは電子ブロック層14に最も近い量子井戸層である。また、2つの副量子井戸層QS1,QS2は同一の層厚TSを有し、主量子井戸層QMは、副量子井戸層QS1,QS2よりも大きな層厚TM(TS<TM)を有する。
【0032】
なお、副量子井戸層が2つ設けられた場合を例に示したが、少なくとも1つの副量子井戸層QS1,QS2,・・・,QSn(nは1以上の整数)が設けられていればよい。副量子井戸層が複数設けられる場合には、当該複数の副量子井戸層は同一の結晶組成及び層厚を有する。なお、複数の副量子井戸層の各々を特に区別しない場合は、副量子井戸層QSと総称して説明する。
【0033】
活性層13の発光ピーク波長は200~360nmの範囲内にある。活性層13から放出される光の波長は主量子井戸層QMのAl組成と層厚によって決まるため、Al組成と層厚は、上記の波長範囲において所望の発光波長が得られるように適宜決定することができる。
【0034】
なお、活性層13の発光ピーク波長が深紫外の短波長領域であるUVC領域の波長、特に、殺菌作用に優れる200-280nmの範囲内であることが好ましい。
【0035】
また、主量子井戸層QM及び副量子井戸層QS1,QS2、障壁層13Bは、Siがドープされたn型層とすることもできる。主量子井戸層QM及び副量子井戸層QS1,QS2、障壁層13BはSiドーピング層であってもよいし、主量子井戸層QM及び副量子井戸層QS1,QS2のいずれかにSiがドーピングされていてもよく、もしくは障壁層13BのみにSiがドーピングされた構造であってもよい。 ドーピングされるSi濃度は、特に限定されるものではないが、1×1017~5×1018cm-3の範囲が好ましい。
【0036】
なお、最終障壁層13LにはMgなどのp型ド-パントが含まれていてもよい。ここで、最終障壁層13Lに含まれるMgは、後述する電子ブロック層(p型AlY1Ga1-Y1N層)14からの拡散による拡散ドーピングによるものであってもいいし、または意図的にMgをドーピングしたものであってもよい。
活性層13上の電子ブロック層(EBL:Electron Blocking Layer)14は、活性層13に注入された電子が後述するp型クラッド層(p型AlY2Ga1-Y2N層)15へオーバーフローすることを抑制する機能を有する。そのため、電子ブロック層(AlY1Ga1-Y1N層)14は、活性層13、およびp型クラッド層15よりも大きなバンドギャップを有し、電子ブロック層14のAl組成Y1は0.8<Y1≦1.0の範囲で決定されることが好ましい。
【0037】
発光波長の短波長化に伴って、基板11上にエピタキシャル成長するAlGaN層のAl組成は高くなり、発光波長が270nmよりも短い場合では、電子ブロック層としての機能を十分に発現させるため、Al組成Y1は0.9≦Y1≦1.0であることが好ましい。なお本実施例においては、AlY1Ga1-Y1N層14としてAlN(Y1=1)を用いている。
【0038】
また、電子ブロック層14は、電子ブロック層としての機能を発現できる限りは、アンドープ層であってもよく、またはp型ドーパントがドーピングされていてもよい。
【0039】
電子ブロック層14におけるp型のドーパント材料としてはMg(マグネシウム)、Zn(亜鉛),Be(ベリリウム)、C(炭素)等を用いることができる。特に、AlGaN層のp型ドーパント材料として一般的に用いられているMgを用いることが好ましく、後述する本発明の実施例においてもMgを用いている。
【0040】
p型ドーパント材料は、電子ブロック層14の積層方向において、一様にドーピングされていてもよいし、積層方向でドーパント材料の濃度を変えることもできる。例えば、活性層と接する側から、アンドープのAlN層14A(Y1=1)及びMg(マグネシウム)ドープされたp型AlN層14Bからなる積層構造などとすることもできる。電子ブロック層14におけるp型ドーパント濃度は、電子ブロック層としての機能が得られ、発光層へのキャリアの注入効率を高められるという観点から、1.0×1019~8.0×1019cm-3であることが好ましく、さらに好ましくは3.0×1019~5.0×1019cm-3、特に好ましくは、3.0×1019~4.0×1019cm-3である。
【0041】
また、電子ブロック層14は、4~10nmの範囲の層厚を有することが好ましい。4nm未満であると、トンネリング効果によって電子ブロック層としての効果が小さく、10nm以上であると、正孔(ホール)の注入効率の低下を生じるからである。
【0042】
p型クラッド層(p型AlY2Ga1-Y2N層)15は、p型AlY1Ga1-Y1N層14上に形成され、Mgがドーピングされたクラッド層として機能する。p型ドーパント材料には上述した材料を制限なく用いることができるが、電子ブロック層(p型AlY1Ga1-Y1N層)14と同様にMgを用いることが好ましい。
【0043】
本発明の紫外発光素子においては、p型クラッド層15中のMg濃度は、2.0×1019~1.0×1020cm-3であることが好ましく、さらに好ましくは2.0×1019~5.0×1019cm-3である。p型クラッド層15中のMg濃度を上述の範囲にすることによって、高い発光効率を得ることができる。
【0044】
p型クラッド層(p型AlY2Ga1-Y2N層)15のAl組成Y2は、積層方向でY2が一定の値である構造の場合、活性層の障壁層のAl組成を超え、かつ電子ブロック層14のAl組成Y1以下であることが好ましい。p型クラッド層15のAl組成Y2を上記の範囲にすることにより、紫外発光素子の注入電流量が多い場合においても、高いキャリアオーバーフローの抑制効果が得られる。より高い効果を得るためには、活性層の障壁層のAl組成とp型クラッド層15のAl組成Y2の差が、0.5~1.0であることが好ましい。
【0045】
また、p型クラッド層15のAl組成Y2は、n型クラッド層12のAl組成よりも大きいことが好ましく、これによってp型層へのキャリアオーバーフローの抑制効果が高まり、紫外発光素子の発光効率を高めることができる。
【0046】
また、p型クラッド層15は、Al組成Y2が積層方向で変化する組成傾斜層であってもよい。特に、電子ブロック層14に接する側から、Al組成Y2が積層方向に小さくなる構造であることが好ましい。これによって、p型クラッド層15内で分極ドーピング効果が得られるため、より高いホール濃度が得られやすくなり、その結果、活性層へのホールの注入効率が高くなる。例えば、発光波長が270nm以下の場合、電子ブロック層14に接する側のAl組成は0.95~1.0であることが好ましく、反対側のp型クラッド層15の表層におけるAl組成は0.60~0.85であることが好ましい。このような構造を採用することで、上述した分極ドーピング効果を高め、かつ発光波長に対して透明性を維持できるため、高い発光効率が得られやすくなる。
【0047】
また、p型クラッド層15の層厚は、特に制限されるものではないが、10~150nmの範囲で適宜決定すればよい。p型クラッド層15の層厚が10nm未満になると、上述したキャリアオーバーフローの抑制効果が得られにくくなり、一方で、層厚が厚くなり、150nmを超える場合、p型クラッド層15の抵抗値が大きくなり、結果として紫外発光素子の動作電圧の上昇を招いてしまう。このような観点から、p型クラッド層15の層厚は、40~120nmであることが好ましく、特に好ましくは50~100nmである。本発明の実施形態においては、Al組成Y2が電子ブロック層14のAl組成から成長方向に減じる(Al組成Y2が1.0から0.8に減じる)組成傾斜層を採用している。また、p型クラッド層15の層厚は、60nmとしている。
【0048】
本実施形態のp型クラッド層(p型AlY2Ga1-Y2N層)15にはアクセプタとなるp型不純物とドナーとなるn型不純物がコドーピングされている。なお、p型クラッド層15はコドープされていることが好ましいが、これに限定されない。以下に、コドーピングについて説明する。
【0049】
p型クラッド層15にドーピングされるp型不純物には、Mg(マグネシウム)、Zn(亜鉛),Be(ベリリウム)、C(炭素)等が使用し得る。中でも、AlGaN半導体のp型ドーパント材料として一般的に用いられているMgを用いることが好ましい。またn型不純物には、Si、Ge(ゲルマニウム)、Se(セレン)、S(硫黄)、O(酸素)等を使用することができる。中でも、n型ドーパント材料として一般的に用いられているSiを用いることが好ましい。
【0050】
本実施形態のp型クラッド層15は、p型クラッド層15中のn型不純物濃度(Nd)とp型不純物濃度の比(Nd/Na)が、式(1)を満たす。
【0051】
0.009≦(Nd/Na)<0.185 ・・・式(1)
さらには、Nd/Naが次式のいずれかを満たすことがさらに好ましい。
【0052】
0.009≦(Nd/Na)<0.135 ・・・式(2)
0.038≦(Nd/Na)<0.185 ・・・式(3)
p型不純物濃度の比(Nd/Na)が上記式(1)~(3)のいずれかを満たすようにp型クラッド層15にコドープされることにより、高発光効率で、良好な出力維持率(素子寿命)を有する紫外LEDが実現される。
【0053】
また、p型クラッド層15にドーピングされるp型不純物量は、1×1017~1.2×1020cm-3であることが好ましい。また、J. Applmaru Physmaru, Volmaru 95, No. 8, 15 April (2004)において理論的に示されているように、p型クラッド層15中のp型不純物量に伴って、劣化の要因と考えられる窒素欠陥量も増加すると考えられる。そのため、p型不純物量が1.2×1020cm-3を超える場合、初期に形成される窒素欠陥量が多くなりすぎて、高い出力維持率を得ることが困難になる。
【0054】
また、p型不純物濃度が低くなると、特にAl組成Y2が一定であるときは、ホール濃度の低下と少数キャリア(電子)移動度増加により、Al組成Y2が傾斜している場合には少数キャリア(電子)移動度増加により、出力が低下して高い発光効率を得ることが困難となる。従って、p型不純物濃度は、このようなトレードオフを勘案して、上記の範囲内で適宜決定することができるが、より高い出力維持率と高出力を得るためには、1×1019~5×1019cm-3であることが好ましく、さらに好ましくは、1×1019~4×1019cm-3である。
【0055】
p型クラッド層15にドーピングされるn型不純物量は、1.1×1018以上9.0×1018cm-3以下であることが好ましく、さらに好ましくは、1.8×1018以上8.0×1018cm-3以下である。これらn型不純物量において、高い発光効率の発光素子10を得ることができる。
【0056】
また、p型クラッド層15にドーピングされるp型不純物とn型不純物は、それらの濃度が層内で一定であってもよいし積層方向で濃度差を設けてもよい。例えば、電子ブロック層14に接する側をコドーピング層として、残りのp型クラッド層15層は、n型不純物をドーピングしない層にすることもできる。
【0057】
p型クラッド層15上には、電極との接触抵抗を下げる目的で、p型ドーパントがドーピングされたp型コンタクト層(p型GaN層)16が形成されていてもよい。p型ドーパント材料としては上述した公知のp型ドーパント材料を用いることができるが、同様の理由によりMgを用いることが好ましい。p型GaN層16中のMgドーピング濃度は、特に制限されるものではないが、p型GaN層中の抵抗値を下げ、かつ接触抵抗を下げるためには、1×1018~2×1020cm-3であることが好ましい。また、p型GaN層16の層厚も特に制限されるものではなく、5~500nmの範囲で適宜決定すればよい。
【0058】
なお、p型GaN層16を除き、AlGaN層12,13,14,15の全ての層はAlN基板11と格子整合した状態で結晶成長されているため、AlN基板11と同等の低い転位密度を有している。具体的には、105cm-2以下の転位密度を有している。
【0059】
なお、上記においては、本発明の紫外半導体発光素子が紫外LED10(発光ダイオード)である場合について説明するが、半導体レーザ素子(LD:Laser Diode)として構成されていてもよい。
【0060】
次に、上記で説明した構造の紫外LED10の製造方法について説明する。本発明の紫外LED10は、有機金属気相成長(MOCVD)法、分子線エピタキシー(MBE)法などの公知の結晶成長法によって製造することができる。中でも、生産性が高く、工業的に広く採用されているMOCVD法が好ましい。本発明で使用するIII族(Al、Ga)原料ガス、V族(N)原料ガスには、特に制限なく公知の原料ガスを使用できる。
【0061】
例えば、III族原料ガスとしては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム等のガスを使用できる。またV族原料ガスとしては、通常アンモニアが用いられる。
【0062】
また、Mg、Siのドーパント原料ガスも、公知の材料が制限なく使用でき、例えばビスシクロペンタジエニルマグネシウム、モノシラン、テトラエチルシランなどを使用できる。
【0063】
以上の原料ガスを、水素/および又は窒素などのキャリアガスと共に基板11上に供給することで紫外LED10の素子層を成長させる。
【0064】
III族原料ガスとV族原料ガスの供給量比(V/III比)は、所望の特性が得られるように適宜決定すればよいが、500~10000の範囲内で設定することが好ましい。
【0065】
また、紫外LED10を構成する素子層の成長温度については、特に制限されるものではなく所望とする、各層の特性、および紫外LED10の特性が得られるように適宜決定すればよいが、1000~1200℃で成長することが好ましく、より好ましくは1000~1150℃である。
【実施例0066】
以下においては、発光波長265nmの紫外LED10を作製した実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
(a)素子構造
図3は、作製した実施例(EMB)の紫外LED10の各層の構成を示す表である。また、
図4は、実施例(EMB)の紫外LED10及び比較例(CMP)の紫外LEDにおける活性層の量子井戸層及び障壁層の層厚を示す表である。なお、比較例(CMP)の紫外LEDは、実施例(EMB)の紫外LED10とは量子井戸層及び障壁層の層厚が異なる点を除いて同一の構造を有する。
【0067】
図4に示すように、実施例の紫外LED10及び比較例の紫外LEDにおいては、各量子井戸層及び最終障壁層13Lはアンドープ層であり、第1~3障壁層13B1~13B3には1.0×10
18cm
-3の濃度でSiがドーピングされている。なお、最終障壁層13Lはドープ層であってもよい。第1~3障壁層13B1~13B3又は最終障壁層13LへのSiのドーピング濃度は1.0×10
17cm
-3~5.0×10
18cm
-3の範囲内であることが好ましい。また、第1~3障壁層13B1~13B3はアンドープ層であってもよい。
【0068】
また、
図5は、実施例及び比較例の半導体層を走査透過電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)を用いて観察した断面STEM像である。
図5に示すように、実施例及び比較例の量子井戸層及び障壁層について断面STEM像により評価を行い、層厚(
図4)の確認を行った。図の左側に比較例(CMP)のSTEM像を、右側に実施例(EMB)のSTEM像を対比して示している。
【0069】
実施例の紫外LED10においては、比較例の紫外LEDに比べて主量子井戸層QM及び最終障壁層13Lの層厚がそれぞれ約2倍程度に厚くなっている(
図4を参照)ことが分かる。なお、実施例の紫外LED10の副量子井戸層QS1,QS2の層厚は、比較例の紫外LEDの第1~3の量子井戸層の層厚とほぼ同一である(
図4)。
【0070】
(b)素子特性及び考察
(b-1)光出力特性
図6は、実施例(EMB)の紫外LED10及び比較例(CMP)の紫外LEDのサンプルの光出力(mW)のヒストグラムを示し、
図7は、実施例の紫外LED10及び比較例の紫外LEDのサンプルの順方向電圧Vf及び発光波長λを示している。
【0071】
図6に示すように、実施例の紫外LED10では光出力の平均値が75mWであり、比較例の紫外LEDの光出力の平均値が50mWに比べて大きく改善された。また、実施例の紫外LED10では外部微分効率(EQE)の平均値が3.1%であり、比較例の紫外LEDの外部微分効率の平均値2.1%に比べて改善された。
【0072】
図7に示すように、順方向電圧Vfの平均値Vf(avg.)については、実施例の紫外LED10では6.9Vであり、比較例の紫外LEDの7.1Vに比べて有意な差は見られなかった。
【0073】
発光波長λの平均値λ(avg.)については、実施例の紫外LED10では265.0nmであり、比較例の紫外LEDの261.0nmに比べて4nm長波長化した。実施例の紫外LED10の発光波長は、比較例の紫外LEDの量子井戸層厚(すなわち、実施例の紫外LED10の副量子井戸層厚)に比べて2倍の層厚を有する主量子井戸層QMの量子準位間エネルギーの再結合による発光波長と合致している。すなわち、実施例の紫外LED10の発光は主量子井戸層QMによる発光が支配的であることが分かった。
【0074】
(b-2)信頼性(素子寿命)
図8は、実施例(EMB)の紫外LED10及び比較例(CMP)の紫外LEDの初期光出力(任意単位)に対する光出力の変化率を示す光出力維持率(%)を示している。より詳細には、室温(RT)において、素子の駆動電流を一定とし、初期光出力(任意単位)を基準とし、通電開始から100(hr)経過後の光出力の変化率を光出力維持率(%)とした。なお、
図6に示したサンプルから光出力が異なるサンプルを選んで光出力維持率を測定した。また、p型クラッド層(p型Al
Y2Ga
1-Y2N層)15がコドープされていない比較例(CMP0)についてもプロットしている(破線で囲んで示している)。
【0075】
実施例の紫外LED10の光出力維持率は全ての初期光出力で改善しており、加えて光出力維持率は初期光出力に対する依存性が小さくなっているため、特に高い初期光出力において顕著に改善されている。
【0076】
(c)素子構造の考察
(c-1)外部微分効率(EQE)及び光出力の向上
まず、紫外半導体発光素子においては、一般に、p型半導体層の正孔濃度が低く、かつ正孔の移動度が電子に比べて低いため、外部量子効率及び光出力が低い。
【0077】
本実施例の紫外LED10において光出力が増加した理由として、p型クラッド層15及び電子ブロック層14からの活性層13へのホールの注入効率が増加したことが考えられる。
【0078】
すなわち、電子ブロック層14に最も近い主量子井戸層QMの層厚を厚くしたことで、主量子井戸層QMによる電子ブロック層14からのホールキャリアの捕獲効率が増加し、発光に寄与するキャリアの量が増加したことで再結合確率が上がり外部微分効率(EQE)及び光出力が増加したと考えられる。
【0079】
また、
図9に模式的に示すように、量子井戸層厚Lzを増大させると電子と正孔の基底準位(量子準位En1,Eh1)が量子井戸のバンド端、すなわち伝導帯Ec及び価電子帯Evに近づき、より発光再結合しやすくなり光出力が増加したと考えられる。
【0080】
(c-2)主量子井戸層QMによる発光が支配的であること
図10は、活性層13のバンドダイアグラムを模式的に示している。また、
図11は、実施例(EMB)の紫外LED10及び比較例(CMP)の紫外LEDのEL(エレクトロルミネセンス)スペクトルを示している。なお、450mA注入時のELスペクトルである。以下に、実施例の紫外LED10において主量子井戸層QMによる発光が支配的であることについて説明する。
【0081】
(i) まず、
図10に模式的に示すように、p型半導体層の正孔濃度が低く、かつ正孔の移動度が電子に比べて低いため、p型半導体層(実施例では、電子ブロック層14)に最も近い量子井戸層QMが正孔の殆どを捕獲し、閉じ込めていると考えられる。
【0082】
(ii) また、前述のように、実施例の紫外LED10では、副量子井戸層QS1,QS2の層厚TS(=3.9nm)に対し、主量子井戸層QMの層厚TMを約2倍の7.9nmとした。実施例の紫外LED10では比較例の紫外LEDに比べて発光波長が4nm長波長化したが、この波長シフト量が、量子井戸層の層厚の増加量(4nm)に対するシミュレーション結果の波長シフト量長と合致している。
【0083】
(iii)
図11に示すように、実施例の紫外LED10のELスペクトルの半値幅(FWHM)は8.5nmであり、比較例の紫外LEDの半値幅FWHM=9.4nmと比べて拡がっていない。
【0084】
すなわち、副量子井戸層QS1,QS2が一定程度で発光に寄与しているとすると、副量子井戸層QS1,QS2による261.0nmの発光と、主量子井戸層QMによる265.0nmとの発光による発光ピークを呈するか、ELスペクトルの半値幅の増加が見られるはずである。
【0085】
しかしながら、実施例の紫外LED10のELスペクトルには半値幅FWHMの増加はみられず、むしろ減少している。したがって、副量子井戸層QS1,QS2による発光は非常に小さいと推測される。
【0086】
なお、実施例の紫外LED10のELスペクトルの半値幅(8.5nm)が比較
例(CMP)の紫外LEDの半値幅(9.4nm)よりも減少したのは、主量子井戸層QMの層厚TMが厚いため、層厚のゆらぎに対する基底準位の変化率が低くなったためであると考えられる。
【0087】
(c-3)副量子井戸層の機能
活性層13に設けられている副量子井戸層QSの機能について以下に説明する。
図10を再び参照すると、主量子井戸層QMと主量子井戸層QMに隣接する副量子井戸層QS2との間の第3障壁層13B3の層厚TB3が小さい場合(例えば、数nm)、副量子井戸層QS2に閉じ込められている電子がトンネル効果により基底準位が低い主量子井戸層QMにトンネリングし、注入される。
【0088】
電子のトンネリングにより、井戸層が厚い主量子井戸層QMへのキャリアの閉じ込め効果及び注入効果と、電子のトンネリングにより電子のオーバーフローを低減することができ、発光再結合確率がより増加し出力が増加すると考えられる。
【0089】
一方、価電子帯では正孔濃度が低くかつ正孔移動度が小さいため、正孔のほとんどが第三井戸層で捕獲される。したがって、副量子井戸層QSは、主量子井戸層QMへのキャリアの閉じ込めを増強する機能を有している。
【0090】
第3障壁層13B3の層厚TB3は、電子のトンネリングの点から10nm以下であることが好ましく、7nm以下であることがさらに好ましい。また、6nm以下であることがより一層好ましい。
【0091】
(c-4)主量子井戸層の層厚
図12は、量子井戸層の層厚Lzが小さい場合(図の左側)及び大きい場合(図の右側)の電子及び正孔の波動関数を模式的に示す図である。
【0092】
量子井戸層と障壁層との結晶組成差によって、量子井戸層と障壁層との間に格子歪が発生しピエゾ電界が生じる。そのため、量子井戸層における電子と正孔と波動関数がずれ、その重なりが減少することで、発光遷移確率が減少し、発光効率が低下する。量子井戸層の層厚Lzを大きくすると、波動関数の重なりが減少するので、発光効率が低下してしまう。
【0093】
また、AlN基板上にAlGaN層を積層すると、格子定数が異なるため下地層に引っ張られ圧縮歪みがかかる。AlGaN層を厚くしていき、臨界膜厚まで到達すると格子緩和が発生し、AlGaN層に貫通転位ができて内部量子効率が減少、発光効率が減少してしまう。
【0094】
上記した実施例においては、主量子井戸層QMの層厚TMが副量子井戸層QS1,QS2の層厚TSの2倍である場合について説明したが、これに限らない。
半導体デバイス用バンドギャップモデリングソフト(「SiLENSe」)を使用し、AlGaNの積層体の組成や層厚に基づいて、副量子井戸層QS1、QS2、主量子井戸層QMの層厚を変化させて、シミュレーションを行った。
このシミュレーションによれば、量子井戸層厚が大きくなると、内部量子効率は増加し、副量子井戸層QS2の層厚の1.2倍以上で有効であることが分かった。また、上記した副量子井戸層QS2から主量子井戸層QMへの電子のトンネル効果、及び、電子の閉じ込め効果が十分有効に発揮されるために、主量子井戸層QMの層厚TMが主量子井戸層QMに隣接する副量子井戸層QS(副量子井戸層QS2)の層厚TSの1.5倍以上であることさらに好ましい。
【0095】
一方、主量子井戸層QMの層厚TMは、AlN基板上にAlGaN層を積層した場合の臨界膜厚である16nm以下であることが好ましい。また、電子と正孔の重なり積分のシミュレーションから、積分値が有意な値をとる範囲として、10nm以下であることがさらに好ましい。
【0096】
(c-5)最終障壁層の層厚
図13Aは、最終障壁層13Lの層厚TLと初期光出力との関係を示している。最終障壁層13Lの層厚TLを増加すると光出力が増加する。最終障壁層13Lの層厚が大きくなると、正孔の注入効率が低下するためである。
【0097】
したがって、最終障壁層13Lの層厚TLは30nm以下が好ましく、27nm以下がさらに好ましく、21nm以下であることがさらに好ましい。
【0098】
図13Bは、p型クラッド層15から主量子井戸層QMに至る深さ方向でのMg(p型ドーパント)の濃度を示すSIMSプロファイルである。
【0099】
このMg濃度のプロファイルによれば、電子ブロック層(EBL)14から9nmの範囲でMg濃度は1×1018cm-3以上である。Mgが1×1018cm-3以上の濃度で主量子井戸層QMに入っている場合、すなわち、多量の窒素欠陥が主量子井戸層QMに入ると、素子寿命を劣化させるため、最終障壁層13Lの層厚TLは9nm以上であることが好ましい。
【0100】
(c-6)p型クラッド層のコド-ピング
本実施形態のp型クラッド層(p型AlY2Ga1-Y2N層)15にはアクセプタとなるp型不純物とドナーとなるn型不純物がコドープされている。
【0101】
再び、
図8を参照すると、p型クラッド層がコドープされていない比較例(CMP0、図中、破線で囲んで示している。)の紫外LEDでは、コドープされている比較例(CMP)の紫外LEDよりも光出力は増加するが、光出力維持率(%)が低下し、信頼性(素子寿命)が悪化することがわかる。
【0102】
本実施形態においては、Siコドーピングと厚い最終障壁層13Lを用いている。p型クラッド層15にSiをコドープすることでp型クラッド層15発生する窒素欠陥の量を減少させることができる。また、厚い最終障壁層13Lを用いることにより、通電中の熱による窒素欠陥の拡散を抑制するという相乗効果によって光出力及び信頼性(素子寿命)の向上が実現されている。
【0103】
なお、p型クラッド層15にコドープした場合(
図4)について説明したが、電子ブロック層14にもコドープしてもよい。
(c-7)発光波長及びAlGaN層の組成
AlN基板上に形成されるAlGaN層、すなわち、n型クラッド層(n型Al
XGa
1-XN層)12、活性層13、電子ブロック層(Al
Y1Ga
1-Y1N層)14及びp型クラッド層(p型Al
Y1Ga
1-Y1N層)15は、III族元素におけるAlの割合であるAl組成(X,Y1,Y2等)が100%~50%のAlGaNからなり、紫外LED10は波長が200~280nmのUVC領域で発光する発光素子であることが好ましい。
【0104】
Al組成を50%以上としているのは、AlN基板に対する格子ひずみ量の増加による転位の発生を考慮している。Energy balance model (People and Beanの式)の理論計算によれば、Al組成が40%以下の場合、臨界膜厚は45nmであるが、本実施形態の活性層15の全体の厚さ(上記実施例の場合では44.3nm)に近いため、活性層15の内部に格子緩和が発生して光出力の低下を生じないようAl組成が50%以上であることが好ましい。加えて、最も殺菌効果の高い深紫外光(例えば、波長が265nm)をAlN基板側から取り出す際の吸収損失を考慮している。
【0105】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、高効率かつ高出力特性を有し、高い信頼性を有する紫外半導体発光素子を提供することができる。