(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143269
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】液晶ポリマー組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 67/00 20060101AFI20241003BHJP
C08L 67/04 20060101ALI20241003BHJP
C08K 5/29 20060101ALI20241003BHJP
C08G 63/60 20060101ALI20241003BHJP
C08K 7/04 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L67/00
C08L67/04
C08K5/29
C08G63/60
C08K7/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055851
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000189659
【氏名又は名称】上野製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】石津 忍
【テーマコード(参考)】
4J002
4J029
【Fターム(参考)】
4J002CF181
4J002CL062
4J002CM053
4J002DA016
4J002DE146
4J002DE186
4J002DJ006
4J002DK006
4J002DL006
4J002ER007
4J002FA042
4J002FA046
4J002FD012
4J002FD016
4J002GG01
4J029AA06
4J029AB07
4J029AC02
4J029AD06
4J029AD09
4J029AE01
4J029BB05A
4J029CB06A
4J029EB05A
4J029EC06A
4J029HA01
4J029HB01
4J029JB161
4J029KE03
(57)【要約】
【課題】本発明は、曲げ強度等の機械特性を維持しつつ、水素ガスバリア性が向上した成形品などの物品を形成し得る液晶ポリマー組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、結晶融解温度が210~250℃である全芳香族液晶ポリマー100質量部、強化繊維1~100質量部およびカルボジイミド基含有化合物0.01~10質量部を含有する、液晶ポリマー組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶融解温度が210~250℃である全芳香族液晶ポリマー100質量部、強化繊維1~100質量部およびカルボジイミド基含有化合物0.01~10質量部を含有する、液晶ポリマー組成物。
【請求項2】
全芳香族液晶ポリマーの結晶融解温度は215~245℃である、請求項1に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項3】
全芳香族液晶ポリマーは、式(I)~(IV)
【化1】
[式中、
Ar
1およびAr
2は、それぞれ1種または2種以上の2価の芳香族基を表し、p、q、rおよびsは、それぞれ、全芳香族液晶ポリエステル中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たす:
0.5≦p/q≦2.5
2≦r≦15、および
2≦s≦15]
で表される繰返し単位を含む全芳香族液晶ポリエステルである、請求項1に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項4】
式(III)および/または式(IV)は、Ar
1およびAr
2が、互いに独立して、式(1)~(4)
【化2】
からなる群から選択される芳香族基である繰返し単位の1種または2種以上を含む、請求項3に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項5】
強化繊維は炭素繊維である、請求項1に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項6】
カルボジイミド基含有化合物はポリカルボジイミド化合物である、請求項1に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物から構成される成形品。
【請求項8】
成形品が液体水素タンクである、請求項7に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲げ強度等の機械特性を維持しつつ、水素ガスバリア性が改善された成形品等の物品を形成し得る液晶ポリマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチック(FRP)は、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン等の熱可塑性樹脂のマトリックス樹脂と、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等の繊維強化材とからなる複合材料である。これらの複合材料は、例えば、繊維強化材にマトリックス樹脂が含浸された中間製品であるプリプレグから、加熱・加圧といった成形・加工工程を経て成形される。特に、炭素繊維を繊維強化材として用いた複合材料は軽量で、高強度等の優れた機械特性を有するので、近年、航空機、自動車等の部材として多用されるようになってきている。
【0003】
また、炭化水素燃料に替えてクリーンな燃料である水素を利用する時代、いわゆる水素エネルギー社会が到来しつつある状況下では、取り扱いの容易さを考えて、水素貯蔵容器の軽量化が一層求められている。そのために、従来から用いられてきたステンレスやアルミニウム等の金属材料よりも軽量で、かつ比強度に優れた炭素繊維強化プラスチックを用いることが有効であると考えられる。しかし、有機系のプラスチックは一般的にガスバリア性が低く、特に極めて分子直径が小さい水素ガスは容易に通過してしまうため、炭素繊維強化プラスチックは、そのまま水素用の容器として使用することは困難である。
そこで、ガスバリア性に優れた液晶ポリマーを水素用の容器として使用することが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、液晶ポリマーはガスバリア性に優れるものの、これに強化繊維を添加して成形体を製造した場合、ガスバリア性が低下し、水素ガス用の容器としては適さないため、さらなる改善が求められていた。
【0006】
本発明の目的は、曲げ強度等の機械特性を維持しつつ、水素ガスバリア性が向上した成形品などの物品を形成し得る液晶ポリマー組成物を提供することにある。また、本発明の目的は、該成形体を用いた液体水素タンクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、液晶ポリマーと強化繊維を含む組成物に、さらにカルボジイミド基含有化合物を配合することにより、成形品等の物品の曲げ強度等の機械特性を維持しつつ、水素ガスバリア性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の好適な態様を包含する。
〔1〕結晶融解温度が210~250℃である全芳香族液晶ポリマー100質量部、強化繊維1~100質量部およびカルボジイミド基含有化合物0.01~10質量部を含有する、液晶ポリマー組成物。
〔2〕全芳香族液晶ポリマーの結晶融解温度は215~245℃である、〔1〕に記載の液晶ポリマー組成物。
〔3〕全芳香族液晶ポリマーは、式(I)~(IV)
【化1】
[式中、
Ar
1およびAr
2は、それぞれ1種または2種以上の2価の芳香族基を表し、p、q、rおよびsは、それぞれ、全芳香族液晶ポリエステル中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たす:
0.5≦p/q≦2.5
2≦r≦15、および
2≦s≦15]
で表される繰返し単位を含む全芳香族液晶ポリエステルである、〔1〕または〔2〕に記載の液晶ポリマー組成物。
〔4〕式(III)および/または式(IV)は、Ar
1およびAr
2が、互いに独立して、式(1)~(4)
【化2】
からなる群から選択される芳香族基である繰返し単位の1種または2種以上を含む、〔3〕に記載の液晶ポリマー組成物。
〔5〕強化繊維は炭素繊維である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
〔6〕カルボジイミド基含有化合物はポリカルボジイミド化合物である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
〔7〕〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物から構成される成形品。
〔8〕成形品が液体水素タンクである、〔7〕に記載の成形品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の液晶ポリマー組成物は、曲げ強度等の機械特性および水素ガスバリア性に優れるため、例えば液体水素タンクなどの水素ガスバリア性が必要な容器等の様々な用途に好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の液晶ポリマー組成物に使用する全芳香族液晶ポリマーとは、当業者にサーモトロピック液晶ポリマーと呼ばれる、異方性溶融相を形成する全芳香族液晶ポリエステルまたは全芳香族液晶ポリエステルアミドである。
【0011】
全芳香族液晶ポリマーの異方性溶融相の性質は直交偏向子を利用した通常の偏向検査法、すなわち、ホットステージに載せた試料を窒素雰囲気下で観察することにより確認できる。
【0012】
本発明に使用する全芳香族液晶ポリマーを構成する繰返し単位としては、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位、芳香族アミノカルボニル繰返し単位およびこれらの組合せなどが挙げられる。
【0013】
芳香族オキシカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ヒドロキシカルボン酸である、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、2-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、5-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、3’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、4’-ヒドロキシフェニル-3-安息香酸など、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中では4-ヒドロキシ安息香酸および6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸が、得られる全芳香族液晶ポリマーの機械物性、耐熱性、結晶融解温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから好ましい。
【0014】
芳香族ジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ジカルボン酸であるテレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシビフェニルなど、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではテレフタル酸および2,6-ナフタレンジカルボン酸が、得られる全芳香族液晶ポリマーの機械物性、耐熱性、結晶融解温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから好ましい。
【0015】
芳香族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ジオールであるハイドロキノン、レゾルシン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’-ジヒドロキシビフェニル、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニルエーテルなど、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではハイドロキノンおよび4,4’-ジヒドロキシビフェニルが、重合時の反応性、得られる全芳香族液晶ポリマーの機械物性、耐熱性、結晶融解温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから好ましい。
【0016】
芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位および芳香族アミノカルボニル繰返し単位を与える単量体としては、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンおよび芳香族アミノカルボン酸などが挙げられる。
【0017】
本発明に使用する全芳香族液晶ポリマーは本発明の目的を損なわない範囲で、芳香族オキシジカルボニル繰返し単位やチオエステル結合を含むものであってもよい。チオエステル結合を与える単量体としては、メルカプト芳香族カルボン酸、および芳香族ジチオールおよびヒドロキシ芳香族チオールなどが挙げられる。これらの単量体の使用量は、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位および芳香族アミノカルボニル繰返し単位を与える単量体などの合計量を含む全体に対して10モル%以下であるのが好ましい。
【0018】
これらの繰り返し単位を組み合わせた共重合体には、単量体の構成や組成比、共重合体中での各繰り返し単位のシークエンス分布によっては、異方性溶融相を形成するものとしないものが存在するが、本発明に使用する全芳香族液晶ポリマーは異方性溶融相を形成する共重合体に限られる。
【0019】
本発明に使用する全芳香族液晶ポリマーは、2種以上の液晶ポリマーをブレンドしたものであってもよい。
【0020】
本発明に使用する全芳香族液晶ポリマーの示差走査熱量計により測定される結晶融解温度は210~250℃であり、好ましくは212~248℃であり、より好ましくは215~245℃である。
【0021】
全芳香族液晶ポリマーの結晶融解温度が上記範囲内であることによって、強化繊維が組成物中で均一に分散しやすくなり、曲げ強度等の機械特性が改善される。
【0022】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、「結晶融解温度」とは、示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimeter、以下DSCと略す)によって、昇温速度20℃/分で測定した際の結晶融解ピーク温度から求めたものである。より具体的には、全芳香族液晶ポリマーの試料を、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1より20~50℃高い温度で10分間保持し、次いで、20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却した後に、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を全芳香族液晶ポリマーの結晶融解温度とする。測定用機器としては、例えば、セイコーインスツルメンツ(株)製Exstar6000等を使用することができる。
【0023】
本発明に使用する全芳香族液晶ポリマーとしては、式(I)~(IV)で表される繰返し単位を含む全芳香族液晶ポリエステルが好適に使用される。
【化3】
【0024】
[式中、
Ar1およびAr2は、それぞれ1種または2種以上の2価の芳香族基を表し、p、q、rおよびsは、それぞれ、全芳香族液晶ポリエステル中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たすものである:
0.5≦p/q≦2.5
2≦r≦15、および
2≦s≦15。]
【0025】
上記式(I)に係る組成比p(モル%)と式(II)に係る組成比q(モル%)のモル比(p/q)は、0.6~1.8がより好ましく、0.8~1.6がさらに好ましい。
【0026】
上記の好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルについて、pとqの合計の組成比は、70~96モル%が好ましく、76~90モル%がより好ましい。
【0027】
上記の好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルについて、式(I)に係る組成比pと式(II)に係る組成比qは、それぞれ、32~54モル%が好ましく、36~52モル%がより好ましい。
【0028】
本発明に好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルにおいて、式(I)および式(II)で表される繰り返し単位を、少なくとも上記のモル比(p/q)、および場合により上記のpとqの合計の組成比および/またはpとqのそれぞれの組成比(モル%)で含むことにより、210℃~250℃である結晶融解温度を示す全芳香族液晶ポリエステルを好適に得ることができる。
【0029】
また、本発明に好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルについて、式(III)に係る組成比rと式(IV)に係る組成比sは、それぞれ、2~15モル%が好ましく、5~12モル%がより好ましい。rとsは、等モル量であるのが好ましい。
【0030】
上記の繰返し単位において、例えばAr1(またはAr2)が2種以上の2価の芳香族基を表すとは、式(III)(または(IV))で表される繰返し単位が全芳香族液晶ポリエステル中に2価の芳香族基の種類に応じて2種以上含まれることを意味する。この場合、式(III)に係る組成比r(または式(IV)に係る組成比s)は、2種以上の繰返し単位を合計した組成比を表す。
【0031】
式(I)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸およびこのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0032】
式(II)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸およびこのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0033】
式(III)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ジオールであるハイドロキノン、レゾルシン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’-ジヒドロキシビフェニル、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニルエーテルなど、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0034】
式(IV)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ジカルボン酸であるテレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシビフェニルなど、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0035】
また、本発明に好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルのなかでも、式(III)および式(IV)で表される繰返し単位に係るAr
1およびAr
2が、互いに独立して、式(1)~(4)で表される芳香族基からなる群から選択される1種または2種以上を含む全芳香族液晶ポリエステルが、さらに好適に使用される。
【化4】
【0036】
これらの中でも、式(III)で表される繰返し単位としては、式(1)および式(3)で表される芳香族基が、すなわち、これら繰返し単位を与える単量体として、ハイドロキノンおよび4,4’-ジヒドロキシビフェニルならびにこれらのエステル形成性誘導体を用いることが、重合時の反応性および得られる全芳香族液晶ポリエステルの機械物性、耐熱性、結晶融解温度および成形加工性を適度なレベルに調整しやすいことから特に好ましい。
【0037】
また、式(IV)で表される繰返し単位としては、式(1)および式(4)で表される芳香族基が、すなわち、これら繰返し単位を与える単量体として、テレフタル酸および2,6-ナフタレンジカルボン酸ならびにこれらのエステル形成性誘導体を用いることが、得られる全芳香族液晶ポリエステルの機械物性、耐熱性、結晶融解温度および成形加工性を適度なレベルに調整しやすいことから特に好ましい。
【0038】
上記の繰返し単位において、例えばAr1(またはAr2)が2種以上の芳香族基を含むとは、式(III)(または(IV))で表される繰返し単位が全芳香族液晶ポリエステル中に2価の芳香族基の種類に応じて2種以上含まれることを意味する。すなわち、式(III)および/または式(IV)は、Ar1およびAr2が、互いに独立して、式(1)~(4)からなる群から選択される芳香族基である繰返し単位の1種または2種以上を含む全芳香族液晶ポリエステルが好ましい。この場合、式(III)に係る組成比r(または式(IV)に係る組成比s)は、2種以上の繰返し単位を合計した組成比を表す。
【0039】
本発明に好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルにおいて繰返し単位の組成比の合計[p+q+r+s]が100モル%であることが好ましいが、本発明の目的を損なわない範囲において、他の繰返し単位をさらに含有してもよい。
【0040】
本発明に好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルを構成する他の繰返し単位を与える単量体としては、他の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、芳香族アミノカルボン酸、芳香族ヒドロキシジカルボン酸、芳香族メルカプトカルボン酸、芳香族ジチオール、芳香族メルカプトフェノールおよびこれらの組合せなどが挙げられる。
【0041】
他の芳香族ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、例えば、3-ヒドロキシ安息香酸、2-ヒドロキシ安息香酸、5-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、3’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、4’-ヒドロキシフェニル-3-安息香酸およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0042】
これらの他の単量体成分から与えられる繰返し単位の組成比の合計は、繰返し単位全体において、10モル%以下であるのが好ましい。
【0043】
以下、本発明に使用する全芳香族液晶ポリマーの製造方法について説明する。
【0044】
本発明に使用する全芳香族液晶ポリマーの製造方法に特に制限はなく、前記の単量体の組合せからなるエステル結合やアミド結合などを形成させる公知の重縮合方法、例えば溶融アシドリシス法、スラリー重合法などを使用することができる。
【0045】
溶融アシドリシス法とは、本発明で使用する全芳香族液晶ポリマーの製造方法に使用するのに好ましい方法であり、この方法は、最初に単量体を加熱して反応物質の溶融液を形成し、続いて反応を続けて溶融ポリマーを得るものである。なお、縮合の最終段階で副生する揮発物(例えば、酢酸、水など)の除去を容易にするために真空を適用してもよい。
【0046】
スラリー重合法とは、熱交換流体の存在下で反応させる方法であって、固体生成物は熱交換媒質中に懸濁した状態で得られる。
【0047】
溶融アシドリシス法およびスラリー重合法のいずれの場合においても、全芳香族液晶ポリマーを製造する際に使用する重合性単量体成分は、常温において、ヒドロキシル基および/またはアミノ基をアシル化した変性形態、すなわち低級アシル化物として反応に供することもできる。低級アシル基は炭素原子数2~5のものが好ましく、炭素原子数2または3のものがより好ましい。特に好ましくは前記単量体のアセチル化物を反応に使用する方法が挙げられる。
【0048】
単量体のアシル化物は、別途アシル化して予め合成したものを用いてもよいし、全芳香族液晶ポリマーの製造時に単量体に無水酢酸等のアシル化剤を加えて反応系内で生成せしめることもできる。
【0049】
溶融アシドリシス法またはスラリー重合法のいずれの場合においても反応時、必要に応じて触媒を用いてもよい。
【0050】
触媒の具体例としては、例えば、有機スズ化合物(ジブチルスズオキシドなどのジアルキルスズオキシド、ジアリールスズオキシドなど)、二酸化チタン、三酸化アンチモン、有機チタン化合物(アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなど)、カルボン酸のアルカリおよびアルカリ土類金属塩(酢酸カリウム、酢酸ナトリウムなど)、ルイス酸(BF3など)、ハロゲン化水素などの気体状酸触媒(HClなど)などが挙げられる。
【0051】
触媒の使用割合は、単量体全量に対して通常1~1000ppm、好ましくは2~100ppmである。
【0052】
このようにして重縮合反応されて得られた全芳香族液晶ポリマーは、溶融状態で重合反応槽より抜き出された後に、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工される。
【0053】
本発明の液晶ポリマー組成物は、上述した全芳香族液晶ポリマーに加えて強化繊維およびカルボジイミド基含有化合物を含有することにより、ガスバリア性が改善される。
【0054】
本発明の液晶ポリマー組成物が含有する強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、アラミド繊維などが挙げられる。これらの中で、機械物性に優れる点で炭素繊維が特に好ましい。これらの強化繊維は単独で使用してもよく、または2種以上を併用してもよいが、強化繊維全体における炭素繊維の割合が80質量%以上となるように使用するのが好ましい。
【0055】
本発明の液晶ポリマー組成物に含まれる強化繊維として好適に使用される炭素繊維は、プリカーサーと呼ばれる前駆体を焼成して得られる一般的な炭素繊維である。より具体的には、まずプリカーサーを酸化雰囲気中で耐炎化処理した後、得られた耐炎化繊維を不活性ガス雰囲気中、800~2000℃程度で焼成する。さらに必要に応じて、これをより高温の不活性ガス中で焼成する。炭素繊維は、通常、その表面にサイジング剤が付与されたものが知られている。
【0056】
本発明の液晶ポリマー組成物に含まれる炭素繊維の種類は、特に限定されないが、例えばポリアクリロニトリル系(以下、「PAN系」と言うことがある。)、石油・石炭ピッチ系(以下、「ピッチ系」と言うことがある。)、レーヨン系、リグニン系などが挙げられる。
【0057】
PAN系炭素繊維としては、例えば、東レ株式会社製「トレカ(登録商標)」、三菱ケミカル株式会社製「パイロフィル(登録商標)」、および帝人株式会社製「テナックス(登録商標)」などが挙げられる。ピッチ系炭素繊維としては、例えば、三菱ケミカル株式会社製「ダイアリード(登録商標)」、大阪ガスケミカル株式会社製「ドナカーボ(登録商標)」、および株式会社クレハ製「クレカ(登録商標)」などが挙げられる。
【0058】
本発明の液晶ポリマー組成物に含まれる炭素繊維は、特に制限されないが、複数の単繊維が収束した炭素繊維束またはチョップド炭素繊維束が好ましく、生産性の観点から炭素繊維束がより好ましい。
【0059】
本発明の液晶ポリマー組成物に含まれる炭素繊維の数平均繊維径は、特に限定されないが、1μm以上10μm以下であり、5μm以上8μm以下であることが好ましい。炭素繊維の数平均繊維径は、炭素繊維を走査型電子顕微鏡(1000倍)にて観察し、50本の炭素繊維について繊維径を計測した値の数平均値を意味する。
【0060】
上記炭素繊維の数平均繊維径が1μm以上であると、全芳香族液晶ポリマー中で炭素繊維が分散されやすい。また、液晶ポリマー組成物の製造時に炭素繊維を取り扱いやすい。また、炭素繊維の数平均繊維径が10μm以下であると、炭素繊維による全芳香族液晶ポリマーの強化が効率よく行われる。そのため、本発明の液晶ポリマー組成物を成形した成形体に、優れた機械的強度を付与できる。
【0061】
本発明の液晶ポリマー組成物に含まれる炭素繊維束の繊維集束本数は、特に限定されないが、3000本以上が好ましく、12000本以上がより好ましい。炭素繊維束の繊維集束本数が3000本以上であると、成形体としたときの機械的強度に優れる点において、液晶ポリマー組成物中の炭素繊維の含有量が十分となる。また、炭素繊維束の繊維集束本数は、60000本以下が好ましく、18000本以下がより好ましい。炭素繊維束の繊維集束本数が60000本以下であると、全芳香族液晶ポリマー中で炭素繊維が分散されやすい。また、液晶ポリマー組成物の製造時に炭素繊維を取り扱いやすい。
【0062】
本発明の液晶ポリマー組成物に含まれる強化繊維の含有量は、全芳香族液晶ポリマー100質量部に対して、1~100質量部であり、好ましくは2~80質量部であり、より好ましくは3~70質量部であり、さらに好ましくは5~60質量部である。強化繊維の含有量が上記範囲内であることにより、曲げ強度等の機械特性に優れた成形品を形成することができる。
【0063】
本発明の液晶ポリマー組成物に使用されるカルボジイミド基含有化合物とは、カルボジイミド基(-N=C=N-)を有する化合物であり、カルボジイミド基を少なくとも1個有する化合物であれば、特に制限されるものではない。
【0064】
カルボジイミド基含有化合物としては、分子内に2個以上のカルボジイミド基を有するポリカルボジイミド化合物や分子内に1個のカルボジイミド基を有するモノカルボジイミド化合物が挙げられる。
【0065】
ポリカルボジイミド化合物としては、具体的には、ポリ(4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(p-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニルカルボジイミド)等の芳香族ポリカルボジイミド;ポリ(ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)等の脂環族ポリカルボジイミドが挙げられる。
【0066】
モノカルボジイミド化合物としては、ジフェニルカルボジイミド、ジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、ジ-2,6-ジエチルフェニルカルボジイミド、ジ-2,6-ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、ジ-2,6-ジtert-ブチルフェニルカルボジイミド、ジ-o-トリルカルボジイミド、ジ-p-トリルカルボジイミド、ジ-2,4,6-トリメチルフェニルカルボジイミド、ジ-2,4,6-トリイソプロピルフェニルカルボジイミド、ジ-2,4,6-トリイソブチルフェニルカルボジイミド等の芳香族モノカルボジイミド化合物;ジ-シクロヘキシルカルボジイミド、ジ-シクロヘキシルメタンカルボジイミド等の脂環族モノカルボジイミド化合物;ジ-イソプロピルカルボジイミド、ジ-オクタデシルカルボジイミド等の脂肪族モノカルボジイミド化合物等が挙げられる。
【0067】
前記カルボジイミド基含有化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、好ましい具体的な化合物は、ポリカルボジイミド化合物であり、特に好ましくは脂肪族ポリカルボジイミド化合物であり、その市販品としては、例えば、日清紡ケミカル(株)製のカルボジライト(登録商標)HMV-8CAやカルボジライト(登録商標)LA-1が挙げられる。
【0068】
本発明の液晶ポリマー組成物におけるカルボジイミド基含有化合物の含有量は、全芳香族液晶ポリマー100質量部に対して、0.01~10質量部であり、好ましくは0.02~5質量部であり、より好ましくは0.03~3質量部であり、さらに好ましくは0.05~1.5質量部であり、特に好ましくは、0.07~1質量部である。カルボジイミド基含有化合物の含有量が上記範囲内であることにより、液晶ポリマー組成物の水素ガスバリア性が向上する。
【0069】
本発明の液晶ポリマー組成物は、使用する全芳香族液晶ポリマーの結晶融解温度が210~250℃であるという特徴により、マトリクス樹脂である全芳香族液晶ポリマー中に強化繊維およびカルボジイミド基含有化合物が均一に分散し、かつ低温での溶融混練によるブレンドが可能となる。
【0070】
本発明の液晶ポリマー組成物は、任意の成分として、前述した強化繊維以外の無機および/または有機充填材を含有してもよい。
【0071】
本発明の液晶ポリマー組成物が含有してもよい、無機および/または有機充填材の具体例としては、例えば、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ドロマイト、クレー、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスバルーン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタンなどが挙げられる。これらは単独で用いてよく、または2種以上を併用してもよい。これらの中では、タルクが、物性とコストのバランスが優れている点で好ましい。
【0072】
無機および/または有機充填材を配合する場合、その含有量は、全芳香族液晶ポリマー100質量部に対して、1~150質量部であることが好ましく、10~100質量部であることがより好ましい。
【0073】
無機および/または有機充填材の含有量が1質量部未満であると、液晶ポリマー組成物について無機および/または有機充填材による機械強度および耐熱性の向上効果が得られにくく、150質量部を超えると流動性が低下する傾向がある。本発明において、液晶ポリマー組成物は、無機および/または有機充填材を含まないことが好ましい。
【0074】
本発明の液晶ポリマー組成物には、全芳香族液晶ポリマー、強化繊維およびカルボジイミド基含有化合物の他に、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに他の添加剤や樹脂成分が添加されてもよい。
【0075】
他の添加剤の具体例としては、例えば、滑剤である高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩(ここで高級脂肪酸とは、炭素原子数10~25のものをいう)など、離型剤であるポリシロキサン、フッ素樹脂など、着色剤である染料、顔料、カーボンブラックなど、難燃剤、帯電防止剤、界面活性剤、造核剤であるタルク、有機リン酸塩、ソルビトール類など、アンチブロッキング剤、酸化防止剤であるリン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤など、耐候剤、熱安定剤、中和剤などが挙げられる。これらの添加剤は、単独でまたは2種以上を併用することができる。
【0076】
液晶ポリマー組成物における他の添加剤の合計量は、全芳香族液晶ポリマー100質量部に対して、好ましくは0.01~5質量部、より好ましくは0.1~3質量部である。
【0077】
他の添加剤の合計量が0.01質量部未満であると、添加剤の機能を実現しにくく、5質量部を超えると、液晶ポリマー組成物の成形加工の熱安定性が悪くなる傾向がある。
【0078】
また、上記他の添加剤のうち、滑剤、離型剤、アンチブロッキング剤などの添加剤を使用する場合は、液晶ポリマー組成物を作製する際に添加してもよいし、成形する際に液晶ポリマー組成物のペレット表面に付着させてもよい。
【0079】
他の樹脂成分の具体例としては、例えば、熱可塑性樹脂であるポリアミド、ポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテルおよびその変性物、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどや、熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。これらの樹脂成分は単独でまたは2種以上を併用してもよい。
【0080】
他の樹脂成分を含有する場合、その含有量は、全芳香族液晶ポリマー100質量部に対して100質量部以下であることが好ましく、80質量部以下であることがより好ましい。
【0081】
本発明の液晶ポリマー組成物は、上記の全芳香族液晶ポリマー、強化繊維およびカルボジイミド基含有化合物と、所望により上記の無機充填材および/または有機充填材、他の添加剤や他の樹脂成分などを所定の組成で配合し、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出し機などを用いて溶融混練することによって、本発明の液晶ポリマー組成物とすることができる。また、全芳香族液晶ポリマー、強化繊維およびカルボジイミド基含有化合物をドライブレンドし、成形機内で溶融混練することによっても、本発明の液晶ポリマー組成物とすることができる。
【0082】
このようにして得られた本発明の液晶ポリマー組成物は、射出成形、圧縮成形、押出し成形、ブロー成形など公知の成形加工方法によって成形品に加工することができる。
【0083】
本発明の液晶ポリマー組成物から構成される成形品は、曲げ強度等の機械特性を維持しつつ、水素ガスバリア性が向上したものであるため、ボトル、フィルム、容器、タンクなどの包装容器に好適に用いられる。特に液体水素タンクに有用である。
【実施例0084】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の曲げ強度、水素ガス透過度試験は以下に記載の方法で行った。
【0085】
〈曲げ強度および曲げ弾性率〉
射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH1000-110)を用いて、結晶融解温度+20~40℃のシリンダー温度、金型温度70℃で射出成形し、短冊状曲げ試験片(長さ127mm×幅12.7mm×厚さ3.2mm)を得た。曲げ試験は、3点曲げ試験を株式会社島津製作所製オートグラフAGX-Vを用いて、ASTM D790に準拠し、スパン間距離50.0mm、圧縮速度1.3mm/分で行った。
【0086】
〈引張強度および引張弾性率〉
曲げ強度および曲げ弾性率測定に用いた成形片と同条件にし、ダンベル状引張試験片(ASTM4号 厚さ3.2mm)を得た。引張試験は、株式会社島津製作所製オートグラフAG-X plusを用いて、ASTM D638に準拠し、スパン間距離64.0mm、引張速度5mm/分で測定した。
【0087】
〈水素ガス透過度〉
射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH1000-110)を用いて、角型試験片(100mm×100mm×厚さ0.8mm)を成形し、これを直径60mmの円形になるように加工し、これを用いてJIS K7126-1に準拠して、23℃、乾燥状態で測定し、水素ガス透過係数を算出した。
【0088】
実施例および比較例において下記の略号は以下の化合物を表す。
LCP:全芳香族液晶ポリマー
CF:炭素繊維
CI:カルボジイミド基含有化合物
IP:イミン変性ポリオレフィン
POB:4-ヒドロキシ安息香酸
BON6:6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸
HQ:ハイドロキノン
TPA:テレフタル酸
【0089】
(液晶ポリマーの合成)
[合成例1(LCP-1)]
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、POB:349.3g(40モル%)、BON6:476.0g(40モル%)、HQ:69.7g(10モル%)およびTPA:105.0g(10モル%)を仕込み、さらに全単量体の水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0090】
窒素ガス雰囲気下に室温~145℃まで1時間で昇温し、同温度にて30分間保持した。次いで、副生する酢酸を留去させつつ330℃まで7時間かけ昇温した後、80分間かけて10mmHgにまで減圧した。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器から内容物を取り出し、粉砕機により全芳香族液晶ポリエステル樹脂のペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。得られたLCPペレットのDSCにより測定された結晶融解温度(Tm)は218℃であった。
【0091】
炭素繊維、カルボジイミド基含有化合物およびイミン変性ポリオレフィンは以下のものを使用した。
【0092】
〈炭素繊維(CF)〉
三菱ケミカル株式会社製チョップドファイバー「PYROFIL(登録商標)TR06U B4J」
【0093】
〈カルボジイミド基含有化合物(CI)〉
日清紡株式会社製「カルボジライト(登録商標)LA-1」
【0094】
〈イミン変性ポリオレフィン(IP)〉
三井化学株式会社製「アドマー(登録商標)IP AT3346」
【0095】
(実施例1~3)
LCP-1、炭素繊維およびカルボジイミド基含有化合物(CI)を表1に記載の含有量となるように配合し、2軸押出機(日本製鋼(株)製TEX-30)を用いて、250℃にて溶融混練を行い、液晶ポリマー組成物のペレットを得た。得られたペレットを用いて、上記の方法により、曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度、引張弾性率および水素ガス透過係数を測定した。結果を表1に示す。
【0096】
(比較例1)
カルボジイミド基含有化合物を含まない以外は実施例1と同様の方法で液晶ポリマー組成物のペレットを得、曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度、引張弾性率および水素ガス透過係数を測定した。結果を表1に示す。
【0097】
(比較例2)
カルボジイミド基含有化合物を含まない以外は実施例3と同様の方法で液晶ポリマー組成物のペレットを得、曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度、引張弾性率および水素ガス透過係数を測定した。結果を表1に示す。
【0098】
(比較例3)
カルボジイミド基含有化合物に代えてイミン変性ポリオレフィン(IP)を使用した以外は実施例1と同様の方法で液晶ポリマー組成物のペレットを得、曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度、引張弾性率および水素ガス透過係数を測定した。結果を表1に示す。
【0099】
(参考例1)
カルボジイミド基含有化合物および炭素繊維を含まない以外は実施例1と同様の方法で液晶ポリマーのペレットを得、曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度、引張弾性率および水素ガス透過係数を測定した。結果を表1に示す。
【0100】
表1に示すように、実施例1~3の液晶ポリマー組成物はいずれも、曲げ強度等の機械特性に優れ、かつ水素ガスバリア性が向上したものであった。
【0101】
これに対して、比較例1~3の組成物は、参考例1に対して水素ガスバリア性の低下が確認された。
【0102】