(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143271
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】排尿情報測定装置および水洗便器装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/20 20060101AFI20241003BHJP
E03D 9/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A61B5/20
E03D9/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055853
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 洋式
【テーマコード(参考)】
2D038
4C038
【Fターム(参考)】
2D038ZA03
4C038DD06
(57)【要約】
【課題】被検者のプライバシを保護しつつ、尿の飛散などを簡易に測定することができる排尿情報測定装置および水洗便器装置を提供する。
【解決手段】実施形態に係る排尿情報測定装置は、測定部と、特定部とを備える。測定部は、便器内の空間に排泄された尿に関する空間分布情報を測定する。特定部は、測定部によって測定された空間分布情報に基づいて、尿の形態を特定する。特定部は、特定した尿の形態が複数に分かれた場合、複数の形態に分かれた尿のうち、側面視における面積が最も大きい部分、および、尿温度が最も高い部分の少なくともいずれかを主流として特定し、主流と特定した部分以外の部分を副流として特定する。
【選択図】
図4A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
便器内の空間に排泄された尿に関する空間分布情報を測定する測定部と、
前記測定部によって測定された前記空間分布情報に基づいて、前記尿の形態を特定する特定部と
を備え、
前記特定部は、
特定した前記尿の形態が複数に分かれた場合、複数の形態に分かれた前記尿のうち、側面視における面積が最も大きい部分、および、尿温度が最も高い部分の少なくともいずれかを主流として特定し、主流と特定した部分以外の部分を副流として特定する
ことを特徴とする排尿情報測定装置。
【請求項2】
前記測定部は、
前記尿の温度を示す尿温度情報を前記空間分布情報として測定し、
前記特定部は、
前記尿温度情報に基づいて、前記尿の形態を特定する
ことを特徴とする請求項1に記載の排尿情報測定装置。
【請求項3】
前記特定部は、
複数の形態に分かれた前記尿のうち、主流と特定された部分から離間し、かつ、前記尿の流れる方向に沿って存在する部分を、特定した主流と同じ主流として特定する
ことを特徴とする請求項1に記載の排尿情報測定装置。
【請求項4】
前記特定部によって特定された前記尿の形態を表示装置に表示させる表示制御部
を備え、
前記表示制御部は、
主流と特定された部分を除いて、副流と特定された部分を表示させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の排尿情報測定装置。
【請求項5】
前記特定部は、
主流と特定された部分における尿温度分布に基づいて、主流の連続性を評価する
ことを特徴とする請求項1に記載の排尿情報測定装置。
【請求項6】
前記特定部は、
主流と特定された部分の上流側と下流側の尿温度を比較し、比較結果に基づいて、主流における前記尿の勢いの度合いを評価する
ことを特徴とする請求項1に記載の排尿情報測定装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一つに記載の排尿情報測定装置と、
前記排尿情報測定装置を備える水洗便器と
を含むことを特徴とする水洗便器装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の実施形態は、排尿情報測定装置および水洗便器装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、排泄された尿の状態などを含む排尿情報を測定する装置が提案されている。例えば、排泄された尿をカメラで撮像し、撮像した尿流画像から尿の状態(排尿動態)を解析する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば種々の病気などに起因して、尿道口から排泄された尿が飛散するなどの排尿障害の症状が出ることがある。例えば排尿導路に閉塞があると、尿道口から排泄された尿が一つの尿流ではなく、複数に飛散するような状態になるイメージである。そのため、尿に関する検査として、尿の飛散などを簡易に測定する技術が望まれていた。従来技術にあっては、排泄された尿がカメラで撮像されることから、被検者にとって心理的負担が大きく、被検者のプライバシ保護の観点から改善の余地があった。
【0005】
実施形態の一態様は、被検者のプライバシを保護しつつ、尿の飛散などを簡易に測定することができる排尿情報測定装置および水洗便器装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の一態様に係る排尿情報測定装置は、便器内の空間に排泄された尿に関する空間分布情報を測定する測定部と、前記測定部によって測定された前記空間分布情報に基づいて、前記尿の形態を特定する特定部とを備え、前記特定部は、特定した前記尿の形態が複数に分かれた場合、複数の形態に分かれた前記尿のうち、側面視における面積が最も大きい部分、および、尿温度が最も高い部分の少なくともいずれかを主流として特定し、主流と特定した部分以外の部分を副流として特定することを特徴とする。
【0007】
これにより、被検者の排泄状態を見られるという精神的な弊害が無く、プライバシを保護しつつ、尿の飛散などを簡易に測定することができる。すなわち、特定部は、空間分布情報に基づいて、尿の形態を特定するとともに、複数の形態に分かれた尿を主流と副流とに区別して特定するようにした。これにより、特定部は、尿の形態を精度良く特定することができるとともに、排尿を主流および副流に特定することで、排尿が飛散した状態であることを簡易、かつ、精度良く測定(検知)することができる。
【0008】
また、従来技術のようにカメラで撮像された尿流画像ではなく、空間分布情報を用いることから、被検者の心理的負担の軽減を図ることができ、被検者のプライバシを保護することができる。
【0009】
また、前記測定部は、前記尿の温度を示す尿温度情報を前記空間分布情報として測定し、前記特定部は、前記尿温度情報に基づいて、前記尿の形態を特定することを特徴とする。
【0010】
このように、特定部は、尿温度情報に基づいて尿の形態を特定するようにしたので、排尿の形態を精度良く特定することができる。すなわち、例えば従来技術のようにカメラで撮像された尿流画像を用いた場合、尿の色や水洗大便器のボウル部の色などの要素に起因して、尿の形態を特定する精度が低下するおそれがある。詳しくは、尿の色と水洗大便器のボウル部の色とが同じまたは類似するような場合、尿流画像では、尿とボウル部との境界が明確にならず、結果として尿の形態を特定する精度が低下してしまう。特定部は、尿温度情報を用いることで、尿の色や水洗大便器のボウル部の色などの要素から影響を受けにくくなり、尿の形態を精度良く特定することができる。
【0011】
また、前記特定部は、複数の形態に分かれた前記尿のうち、主流と特定された部分から離間し、かつ、前記尿の流れる方向に沿って存在する部分を、特定した主流と同じ主流として特定することを特徴とする。
【0012】
これにより、特定部は、滴下した尿を主流として特定することができる、言い換えると、副流として特定しないようにすることができ、よって滴下した尿を飛散した尿として誤測定(誤検知)してしまうことを抑制することができる。
【0013】
また、前記特定部によって特定された前記尿の形態を表示装置に表示させる表示制御部を備え、前記表示制御部は、主流と特定された部分を除いて、副流と特定された部分を表示させることを特徴とする。
【0014】
これにより、例えば被検者や検査者は、飛散として測定(検知)される副流部分のみの形態を視認することができることから、尿における飛散の有無や飛散の状態をより一層容易に把握することができる。
【0015】
また、前記特定部は、主流と特定された部分における尿温度分布に基づいて、主流の連続性を評価することを特徴とする。
【0016】
このように、特定部は、主流と特定された部分における尿温度分布に基づいて、主流の連続性を評価するようにしたので、尿の飛散とは別に、尿の滴下などの状態を評価(測定)することができる。
【0017】
また、前記特定部は、主流と特定された部分の上流側と下流側の尿温度を比較し、比較結果に基づいて、主流における前記尿の勢いの度合いを評価することを特徴とする。
【0018】
このように、特定部は、主流と特定された部分の上流側と下流側の尿温度を比較した比較結果に基づいて、主流における尿の勢いの度合いを評価するようにしたので、尿の飛散とは別に、尿の勢いを評価(測定)することができる。
【0019】
また、実施形態の一態様に係る水洗便器装置は、上記した排尿情報測定装置と、前記排尿情報測定装置を備える水洗便器とを含むことを特徴とする。
【0020】
これにより、水洗便器装置にあっては、被検者のプライバシを保護しつつ、尿の飛散などを簡易に測定することができる。
【発明の効果】
【0021】
実施形態の一態様によれば、被検者のプライバシを保護しつつ、尿の飛散などを簡易に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、実施形態に係る排尿情報測定装置を備えた水洗便器装置を示す模式斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る排尿情報測定装置の構成例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、排泄された尿の形態を説明するための図である。
【
図4A】
図4Aは、尿の形態を特定する処理を説明するための図である。
【
図4B】
図4Bは、尿の形態を特定する処理を説明するための図である。
【
図4C】
図4Cは、尿の形態を特定する処理を説明するための図である。
【
図4D】
図4Dは、尿の形態を特定する処理を説明するための図である。
【
図5】
図5は、表示装置の表示画面における表示例を示す図である。
【
図6】
図6は、表示装置の表示画面における表示例を示す図である。
【
図7】
図7は、表示装置の表示画面における表示例を示す図である。
【
図8】
図8は、表示装置の表示画面における表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する排尿情報測定装置および水洗便器装置の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0024】
(実施形態)
まず、実施形態に係る排尿情報測定装置を備えた水洗便器装置について
図1を参照して説明する。
図1は、実施形態に係る排尿情報測定装置を備えた水洗便器装置を示す模式斜視図である。
【0025】
また、
図1では、説明の便宜のために、互いに直交するX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向を規定し、Z軸正方向を鉛直上向き方向とする3次元の直交座標系を図示している。以下の説明では、X軸方向を左右方向、Y軸方向を前後方向、Z軸方向を上下方向という場合がある。
【0026】
図1に示すように、水洗便器装置1は、水洗大便器2と、便座3と、排尿情報測定装置10とを含む。水洗大便器2は、トイレ室に設置される。なお、水洗大便器2は、水洗便器の一例であり、小便器などの任意の水洗便器でもよい。また尿を排泄できるのであれば、ポータフルトイレや汚物流しも水洗便器と同様のものになる。
【0027】
水洗大便器2は、ボウル部2aを備える。ボウル部2aは、汚物を受けることが可能なボウル状に形成される。具体的には、ボウル部2aの内部には空間Aが形成され、ボウル部2aは、かかる空間Aに排泄された尿を含む汚物を受ける。ボウル部2aは、洗浄水が吐水されて洗浄され、ボウル部2aを洗浄した洗浄水は、図示しない排水管路を通って排出される。
【0028】
便座3は、水洗大便器2の上方に配置され、図示しない使用者(被検者)が着座する。使用者(被検者)は、便座3に着座した状態で排泄を行うが、これに限られず、便座3を上げて水洗大便器2の前に立った状態で排泄を行ってもよい。
【0029】
排尿情報測定装置10は、排泄された尿の状態などを含む排尿情報を測定する装置である。排尿情報測定装置10は、測定部20と、解析装置30とを備える。測定部20と解析装置30とは、有線または無線で通信可能に接続される。なお、
図1では、図示の簡略化のため、解析装置30をブロックで示している。
【0030】
測定部20は、水洗大便器2内の空間Aに排泄された尿に関する空間分布情報を測定する。空間分布情報は、排泄された尿が空間Aにおいてどのような状態で分布しているかを示す情報である。具体的には、空間Aに排泄された尿は、空間Aの温度とは異なる温度である。そのため、排泄された尿の温度を示す尿温度情報を、上記した空間分布情報とすることができる。
【0031】
詳しくは、測定部20は、空間Aに排泄された尿の温度を測定する温度センサである。測定部20としては、例えば測定対象物(ここでは尿)から発せられる赤外線を計測して温度を測定するサーモグラフィなどの非接触式の温度センサを用いることができる。なお、本明細書では、空間Aに排泄された尿を「排尿」と記載する場合がある。
【0032】
測定部20は、例えばボウル部2aの上縁を形成するリム部2bに取り付けられる。具体的には、測定部20は、リム部2bの左右方向(X軸方向)における側面部分において、空間Aを臨むような位置に取り付けられる。これにより、測定部20は、側面視において排尿が流れる様子を示す尿温度情報を測定することができる(
図4A参照)。
【0033】
なお、測定部20の取り付け位置は、上記に限定されるものではない。すなわち、測定部20は、例えばボウル部2aや便座3に取り付けられてもよく、任意の場所に取り付け可能である。また、測定部20は、空間Aの大きさや位置に合わせて複数を任意の場所に取り付けることができる。
【0034】
解析装置30は、測定部20によって測定された空間分布情報(尿温度情報)を解析して、尿の状態などを含む排尿情報を測定する装置である。なお、解析装置30の詳細な構成については、
図2を参照して後述する。
【0035】
解析装置30は、測定部20と同じトイレ室内に設置されるが、これに限定されるものではない。すなわち、解析装置30は、測定部20が設置されるトイレ室とは異なる場所に設けられてもよく、任意の場所に設置可能である。
【0036】
次に、排尿情報測定装置10の構成について
図2を参照して詳説する。
図2は、実施形態に係る排尿情報測定装置10の構成例を示すブロック図である。なお、
図2のブロック図では、本実施形態の特徴を説明するために必要な構成要素のみを機能ブロックで表しており、一般的な構成要素についての記載を省略している。
【0037】
換言すれば、
図2のブロック図に図示される各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。例えば、各機能ブロックの分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することが可能である。
【0038】
排尿情報測定装置10は、上記した測定部20と、解析装置30と、表示装置60とを備える。表示装置60は、解析装置30と有線または無線で通信可能に接続される。表示装置60は、解析装置30によって測定された、尿の状態などを含む排尿情報を表示する装置(ディスプレイ)である。同様のものとしては、トイレとは離れた場所で主治医が観察することを配慮したパーソナルコンピュータの画面であってもよい。
【0039】
なお、
図2では、表示装置60が排尿情報測定装置10に含まれる例を示したが、これに限定されるものではなく、表示装置60が排尿情報測定装置10に含まれない構成であってもよい。
【0040】
解析装置30は、制御部40と、記憶部50とを備える。制御部40は、例えば、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)などにより、記憶部50に記憶されているプログラムを、RAM(Random Access Memory)を作業領域として実行することで実現される。なお、制御部40は、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアによっても実現可能である。記憶部50は、揮発性メモリや不揮発性メモリを有し、例えば、RAMやフラッシュメモリ(Flash Memory)などの半導体メモリ素子などにより実現される。
【0041】
なお、解析装置30は、サーバ装置であってもよい。例えば、解析装置30は、単数または複数の情報処理装置からなるクラウドコンピューティングにより構成されたクラウドサーバであってもよい。
【0042】
解析装置30の制御部40は、特定部41と、表示制御部42とを備える。特定部41は、測定部20によって測定された空間分布情報(尿温度情報)を取得する。特定部41は、取得した空間分布情報(尿温度情報)に基づいて、排泄された尿(排尿)の形態を特定する。
【0043】
ここで、排泄された尿の形態について
図3を参照して説明する。
図3は、排泄された尿の形態を説明するための図である。なお、
図3は、側面視における尿の形態を示している。尿の形態は、言い換えると、排泄された尿の形(形状)である。なお、
図3および後述する
図4A~4Dはいずれも模式図である。
【0044】
例えば、被検者に排尿障害などの症状がない場合、
図3の左図に示すように、被検者の尿道口cから排泄された尿dは、尿道口c付近で分かれて飛散したりせずに流れ落ちる。
【0045】
これに対し、例えば被検者に排尿障害などの症状がある場合、
図3の中央図に示すように、尿道口cから排泄された尿dは、尿道口c付近で尿d1,d2,d3に分かれて飛散して流れ落ちる。また、排尿障害は、上記した飛散に限られず、
図3の右図に示すように、しずく状になって流れ落ちるものもある。詳しくは、尿dが、尿道口c付近で尿d7と分かれて飛散しつつ、尿d4,d5,d6のように分かれて滴下するものがある。なお、
図3の右図では、尿dが尿d7と分かれて飛散する例を示したが、飛散せずに滴下することもある。
【0046】
本実施形態に係る排尿情報測定装置10にあっては、特定部41(
図2参照)が
図3の中央図や右図に示すような尿の形態を精度良く特定することで、尿の飛散や滴下などを測定することができる構成とした。
【0047】
特定部41が実行する尿の形態を特定する処理について、
図4A~4Dを参照しつつ説明する。
図4A~4Dは、尿の形態を特定する処理を説明するための図である。なお、
図4A~4Dは、特定部41が取得した空間分布情報(尿温度情報)を示す図でもある。
図4A~4Dでは、理解の便宜のため、尿温度情報に含まれる尿の温度が、高温から低温まで3段階で示されるようにしたが、これに限られず、2段階あるいは4段階以上で示されてもよい。なお、
図4A~4Dに示す「低温」は、測定された尿の温度において相対的に低いことを意味する。別言すれば、
図4A~4Dに示す「低温」と水洗大便器2内の空間A(
図1参照)の温度とを比較した場合、「低温」は空間Aの温度より高い値となる。なお、尿温度情報に含まれる尿の温度は、上記したような段階的ではなく、連続的に変化するように示されてもよい。また、測定部20またはその他の温度センサにより空間Aの温度を測定し、その温度差によって尿を特定してもよい。
【0048】
図4Aに示すように、飛散が生じた排尿dは「主流」と「副流」とに区別することができる。具体的には、尿道口cから排泄された尿dの大部分は「主流」して流れ落ち、主流から分かれて飛散した部分が「副流」として流れ落ちる。従って、排尿dが「主流」と「副流」とに区別して特定された場合、かかる排尿dは飛散した状態といえる。
【0049】
具体的には、特定部41はまず、尿温度情報に基づいて、排尿dの形態を特定する。例えば、排尿dは、水洗大便器2内の空間A(
図1参照)の温度より高い温度であることから、特定部41は、かかる高い温度を示した部分に排尿dが存在すると判定し、高い温度を示した部分を排尿dの形態として特定する。
図4では、特定部41によって排尿d1,d2,d3の形態が特定された例を示している。
【0050】
特定部41は、特定した排尿dの形態が複数(ここでは排尿d1,d2,d3)に分かれた場合、複数の形態に分かれた排尿d1,d2,d3を「主流」と「副流」とに区別して特定する。
【0051】
例えば、特定部41は、複数の形態に分かれた排尿d1,d2,d3のうち、尿温度が最も高い部分(ここでは排尿d1)を主流として特定する。すなわち、主流は、尿道口cから排泄された尿dの大部分が流れる部分であることから、その尿温度も、他の部分の尿温度と比較して最も高くなると考えられるためである。
【0052】
続いて、特定部41は、複数の形態に分かれた排尿d1,d2,d3のうち、主流と特定した部分(ここでは排尿d1)以外の部分(ここでは排尿d2,d3)を副流として特定する。
【0053】
このように、特定部41は、空間分布情報である尿温度情報に基づいて、排尿dの形態を特定するとともに、複数の形態に分かれた排尿dを主流と副流とに区別して特定するようにした。これにより、特定部41は、排尿dの形態を精度良く特定することができるとともに、排尿dを主流および副流に特定することで、排尿dが飛散した状態であることを簡易、かつ、精度良く測定(検知)することができる。
【0054】
また、本実施形態にあっては、従来技術のようにカメラで撮像された尿流画像ではなく、空間分布情報(尿温度情報)を用いることから、被検者の心理的負担の軽減を図ることができ、被検者のプライバシを保護することができる。
【0055】
なお、上記では、特定部41は、尿温度が最も高い部分を主流として特定するようにしたが、これに限定されるものではない。すなわち、特定部41は、特定した排尿dの形態における面積、言い換えると、排尿dの形態の側面視における面積に基づいて、主流を特定してもよい。
【0056】
具体的には、特定部41は、特定した排尿dの形態が複数(ここでは排尿d1,d2,d3)に分かれた場合、複数の形態に分かれた排尿d1,d2,d3それぞれの側面視における面積を算出する。そして、特定部41は、複数の形態に分かれた排尿d1,d2,d3のうち、側面視における面積が最も大きい部分(ここでは排尿d1)を主流として特定する。すなわち、主流は、尿道口cから排泄された尿dの大部分が流れる部分であることから、その面積も、他の部分の面積と比較して最も大きくなると考えられるためである。
【0057】
このように、特定部41は、排尿dの形態における面積に基づいて、複数の形態に分かれた排尿dを主流と副流とに区別して特定するようにした。特定部41は、排尿dを主流および副流に特定することで、排尿dが飛散した状態であることを簡易、かつ、精度良く測定(検知)することができる。
【0058】
なお、特定部41は、複数の形態に分かれた排尿dのうち、尿温度が最も高い部分、または、側面視における面積が最も大きい部分を主流として特定してもよいし、尿温度が最も高く、かつ、側面視における面積が最も大きい部分を主流として特定してもよい。すなわち、特定部41は、複数の形態に分かれた排尿dのうち、側面視における面積が最も大きい部分、および、尿温度が最も高い部分の少なくともいずれかを主流として特定すればよい。特定部41は、尿温度と面積を掛け合わせた数値などを用いて主流を特定してもよい。
【0059】
また、本実施形態に係る特定部41は、尿温度情報に基づいて、排尿dの形態を特定するようにしたので、排尿dの形態を精度良く特定することができる。すなわち、例えば従来技術のようにカメラで撮像された尿流画像を用いた場合、排尿dの色や水洗大便器2のボウル部2aの色などの要素に起因して、排尿dの形態を特定する精度が低下するおそれがある。詳しくは、排尿dの色と水洗大便器2のボウル部2aの色とが同じまたは類似するような場合、尿流画像では、排尿dとボウル部2aとの境界が明確にならず、結果として排尿dの形態を特定する精度が低下してしまう。本実施形態では、尿温度情報を用いることで、排尿dの色や水洗大便器2のボウル部2aの色などの要素から影響を受けにくくなり、排尿dの形態を精度良く特定することができる。
【0060】
次に、
図4Bについて説明する。
図4Bは、排尿dが飛散しつつ、滴下する状態を示している。具体的には、排尿dは、尿道口c付近で排尿d7と分かれて飛散しつつ、排尿d4,d5,d6のように分かれて滴下している。
【0061】
このような排尿dのうち、排尿d5,d6は滴下したものであり、排尿dにおける飛散とは異なる。そこで、本実施形態に係る特定部41にあっては、滴下した排尿d5,d6を、飛散として誤って測定(検知)してしまうことを抑制するようにした。
【0062】
具体的に説明すると、特定部41は、尿温度情報に基づいて、排尿d4を主流として特定する。詳しくは、特定部41は、複数の形態に分かれた排尿d4~d7のうち、尿温度が最も高い部分(ここでは排尿d4)を主流として特定する。
【0063】
そして、特定部41は、複数の形態に分かれた排尿dのうち、主流と特定された部分(ここでは排尿d4)から離間し、かつ、排尿dの流れる方向に沿って存在する部分(ここでは排尿d5,d6)を、特定した主流と同じ主流として特定する。例えば、特定部41は、主流と特定された部分(ここでは排尿d4)から、排尿dの流れる方向を示す仮想線eを延長するように引き、かかる仮想線e上に位置する排尿d(排尿d5,d6)も、主流として特定する。
【0064】
これにより、特定部41は、滴下した排尿d5,d6を主流として特定することができる、言い換えると、副流として特定しないようにすることができ、よって滴下した排尿d5,d6を飛散した尿として誤測定(誤検知)してしまうことを抑制することができる。
【0065】
次に、
図4Cについて説明する。
図4Cは、排尿dが滴下する状態を示している。具体的には、排尿dは、排尿d4,d5,d6のように分かれて滴下している。なお、かかる排尿d4,d5,d6は、主流として特定されたものとする。
【0066】
特定部41は、主流と特定された排尿d(ここでは排尿d4,d5,d6)の連続性を評価する。排尿dの連続性とは、排尿dが連続して流れ落ちていることを示す指標値である。具体的には、主流と特定された排尿dに滴下などが生じていない場合、排尿dは分かれていないため、連続性は高くなる。一方、排尿dに滴下などが生じている場合、排尿dは複数の形態に分かれるため、連続性は低くなる。すなわち、主流と特定された排尿dの連続性は、排尿dに生じた滴下の有無や滴下の度合いなどを示しているともいえる。
【0067】
本実施形態に係る特定部41は、主流の連続性を、主流と特定された部分(ここでは排尿d4,d5,d6の部分)における尿温度分布に基づいて評価する。
図4Cの例では、主流と特定された部分の尿温度分布が、排尿d4の部分、排尿d5の部分、排尿d6の部分の3つに分かれている。そのため、特定部41は、排尿dの主流部分は、3つの形態に分かれていることを検出することができる。特定部41は、検出された排尿dの数と閾値とを比較することで、主流の連続性を評価する。例えば、特定部41は、検出された排尿dの数が、閾値として設定された3つ以上である場合、主流の連続性は低いと評価するが、これは例示であって限定されるものではない。なお、閾値は、任意の値に設定可能である。
【0068】
このように、特定部41は、主流と特定された部分における尿温度分布に基づいて、主流の連続性を評価するようにしたので、排尿dの飛散とは別に、排尿dの滴下などの状態を評価(測定)することができる。
【0069】
次に、
図4Dについて説明する。
図4Dは、主流として特定された排尿d8を示している。特定部41は、主流における排尿の勢いの度合いを評価する。詳しくは、排尿障害には、排尿の勢いが弱いなども含まれる。従って、排尿の勢いの度合いは、排尿の勢いが弱いという排尿障害の状態を示した指標値である。従って、排尿の勢いの度合いが低い場合、排尿の勢いが弱いという排尿障害が発生していることを示している。
【0070】
本実施形態に係る特定部41は、主流における排尿の勢いの度合いを、主流と特定された部分(ここでは排尿d8の部分)の上流側d8aの尿温度と下流側d8bの尿温度とに基づいて評価する。
【0071】
詳しくは、排尿d8は、勢いが弱いと、尿道口cからボウル部2a(
図1参照)に流れ落ちるまでに時間がかかる。このように、流れ落ちるのに時間がかかると、排尿d8は、その上流側d8aと下流側d8bとで尿温度が比較的大きく変化する。より詳しくは、勢いが弱いときの排尿d8の下流側d8bの尿温度は、勢いが強いときに比べて、上流側d8aの尿温度から大きく低下する。
【0072】
従って、特定部41はまず、主流と特定された部分の上流側d8aと下流側d8bの尿温度を比較する。そして、特定部41は、かかる比較結果に基づいて、主流における排尿の勢いの度合いを評価する。例えば、特定部41は、主流と特定された部分の上流側d8aの尿温度と下流側d8bの尿温度と温度差が予め設定された閾値以上であって、下流側d8bの尿温度が上流側d8aの尿温度から大きく低下している場合、排尿の勢いの度合いが低いと評価する。なお、閾値は、任意の値に設定可能である。
【0073】
このように、特定部41は、主流と特定された部分の上流側d8aと下流側d8bの尿温度を比較した比較結果に基づいて、主流における排尿dの勢いの度合いを評価するようにしたので、排尿dの飛散とは別に、排尿dの勢いを評価(測定)することができる。
【0074】
図2の説明に戻ると、表示制御部42は、特定された排尿dの形態などを表示装置60に表示させる。これにより、被検者や、検査を行った検査者は、表示された排尿dの形態を視認することで、排尿dにおける飛散の有無や滴下の有無などを容易に把握することができる。
【0075】
ここで、表示装置60における表示例について
図5~8を参照して説明する。
図5~8は、表示装置60の表示画面61における表示例を示す図である。
【0076】
図5に示すように、表示制御部42は、主流と特定された部分(ここでは排尿d1部分)を除いて、副流と特定された部分(ここでは排尿d2,d3部分)を表示させる。なお、
図5では、理解の便宜のため、除かれた排尿d1部分を破線で示しているが、表示画面61には表示されていないものとする。また、主流と特定された部分のみを実線などで模式的に表示させてもよい。
【0077】
これにより、被検者や検査者は、主流と特定された部分を直接視認しないため、排尿を視認する際の被検者の心理的負担の軽減を図ることができ、被検者のプライバシをより保護することができる。また、被検者や検査者は、飛散として測定(検知)される副流部分のみの形態を視認することができることから、排尿dにおける飛散の有無や飛散の状態をより一層容易に把握することができる。
【0078】
また、
図6に示すように、表示制御部42は、主流と特定された部分(排尿d1部分)や副流と特定された部分(排尿d2,d3部分)を、実線や破線などで模式的に表示させてもよい。これにより、排尿の形態がそのまま表示される場合に比べて、被検者の心理的負担の軽減を図ることができ、被検者のプライバシをより保護することができる。
【0079】
また、
図7に示すように、表示制御部42は、排尿dの形態に代えて、あるいは加えて、排尿dにおける主流と特定された部分と、副流と特定された部分との割合を表示させてもよい。これにより、被検者や検査者は、副流の割合などから、排尿dにおける飛散の状態をより一層容易に把握することができる。
【0080】
また、
図8に示すように、表示制御部42は、排尿dの形態に代えて、あるいは加えて、主流と特定された部分において、滴下と特定された部分と、滴下していない非滴下の部分(排尿d4の部分。
図4B参照)との割合を表示させてもよい。これにより、被検者や検査者は、滴下と特定された部分の割合などから、主流の排尿dにおける滴下の状態をより一層容易に把握することができる。
【0081】
なお、上記では、測定部20が温度センサである例を示したが、これに限定されるものではない。すなわち、測定部20として、温度センサに加えて、あるいは代えて、マイクロ波センサなどその他のセンサを用いて、空間分布情報を測定してよい。例えば、マイクロ波センサは、検知対象(排尿d)に対してマイクロ波を送信し、検知対象によって反射されたマイクロ波を受信する。マイクロ波センサは、送信したマイクロ波と、受信したマイクロ波との周波数差に基づいて、検知対象である排尿dが存在する位置を特定することができる、言い換えると、排尿dの形態を特定することができる。
【0082】
このように、マイクロ波センサなどその他のセンサを用いた場合であっても、特定部41は、排尿dの形態を特定することができ、また、複数の形態に分かれた排尿dのうち、側面視における面積が最も大きい部分を主流として特定し、主流と特定した部分以外の部分を副流として特定することができる。
【0083】
また、マイクロ波センサを用いて排尿の形態を簡易的に検知することもできる。飛散や滴下がない尿は、マイクロ波の振幅と尿流速の測定値の分散が少なく、飛散や滴下がある尿は、マイクロ波の振幅と尿流速の測定値の分散が多くなる傾向にある。そのため、測定値の分散から排尿dにおける飛散の有無や滴下の有無などを検知し、検知した空間の尿温度分布を測定するよう、測定部20の測定領域を変化させるまたは測定部20の測定開始・終了のトリガーとすることもできる。
【0084】
<付記>
(1)
便器内の空間に排泄された尿に関する空間分布情報を測定する測定部と、
前記測定部によって測定された前記空間分布情報に基づいて、前記尿の形態を特定する特定部と
を備え、
前記特定部は、
特定した前記尿の形態が複数に分かれた場合、複数の形態に分かれた前記尿のうち、側面視における面積が最も大きい部分、および、尿温度が最も高い部分の少なくともいずれかを主流として特定し、主流と特定した部分以外の部分を副流として特定する
ことを特徴とする排尿情報測定装置。
(2)
前記測定部は、
前記尿の温度を示す尿温度情報を前記空間分布情報として測定し、
前記特定部は、
前記尿温度情報に基づいて、前記尿の形態を特定する
ことを特徴とする(1)に記載の排尿情報測定装置。
(3)
前記特定部は、
複数の形態に分かれた前記尿のうち、主流と特定された部分から離間し、かつ、前記尿の流れる方向に沿って存在する部分を、特定した主流と同じ主流として特定する
ことを特徴とする(1)または(2)に記載の排尿情報測定装置。
(4)
前記特定部によって特定された前記尿の形態を表示装置に表示させる表示制御部
を備え、
前記表示制御部は、
主流と特定された部分を除いて、副流と特定された部分を表示させる、
ことを特徴とする(1)~(3)のいずれか一つに記載の排尿情報測定装置。
(5)
前記特定部は、
主流と特定された部分における尿温度分布に基づいて、主流の連続性を評価する
ことを特徴とする(1)~(4)のいずれか一つに記載の排尿情報測定装置。
(6)
前記特定部は、
主流と特定された部分の上流側と下流側の尿温度を比較し、比較結果に基づいて、主流における前記尿の勢いの度合いを評価する
ことを特徴とする(1)~(5)のいずれか一つに記載の排尿情報測定装置。
(7)
(1)~(6)のいずれか一つに記載の排尿情報測定装置と、
前記排尿情報測定装置を備える水洗便器と
を含むことを特徴とする水洗便器装置。
【0085】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。従って、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0086】
10 排尿情報測定装置
20 測定部
30 解析装置
41 特定部
42 表示制御部
60 表示装置