(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143282
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】活物質の分離方法および電極用活物質
(51)【国際特許分類】
H01M 10/54 20060101AFI20241003BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20241003BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20241003BHJP
【FI】
H01M10/54
H01M4/525
H01M4/505
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055873
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】玉井 敦
(72)【発明者】
【氏名】新庄 紗枝
【テーマコード(参考)】
5H031
5H050
【Fターム(参考)】
5H031RR02
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
(57)【要約】
【課題】溶媒を使用しないで活物質の再利用が可能となる活物質の分離方法を提供する。
【解決手段】 実施形態の活物質の分離方法は、活物質、結着剤、及び、集電体を含む電極を有する蓄電装置から、活物質を分離する分離方法であって、蓄電装置から電極を取り出す第1工程と、電極に対し、電磁波を照射する第2工程と、電極から活物質を分離する第3工程と、を含み、第2工程において、電磁波の照射により電極の少なくとも一部の温度が、前記結着剤の融点以上となる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質、結着剤、及び、集電体を含む電極を有する蓄電装置から、前記活物質を分離する分離方法であって、
前記蓄電装置から前記電極を取り出す第1工程と、
前記電極に対し、電磁波を照射する第2工程と、
前記電極から前記活物質を分離する第3工程と、
を含み、
前記第2工程において、前記電磁波の照射により前記電極の少なくとも一部の温度が、前記結着剤の融点以上となる、活物質の分離方法。
【請求項2】
前記第3工程後の前記活物質の状態を確認する第4工程をさらに含む、請求項1に記載の活物質の分離方法。
【請求項3】
前記第2工程において、前記電磁波の周波数が、前記電磁波を前記結着剤が吸収する周波数である、請求項1に記載の活物質の分離方法。
【請求項4】
前記電磁波の前記周波数が、1kHz以上1THz未満である、請求項3に記載の活物質の分離方法。
【請求項5】
前記第3工程は、前記電極を振とうする工程を含む、請求項1に記載の活物質の分離方法。
【請求項6】
前記結着剤がフッ素を含む高分子である、請求項1に記載の活物質の分離方法。
【請求項7】
前記第2工程において、前記電磁波の照射により、前記電極の少なくとも一部の温度が、前記結着剤の融点よりも高く、示差走査熱量測定により測定される前記活物質の発熱温度よりも低い温度となる、請求項1に記載の活物質の分離方法。
【請求項8】
前記活物質がマンガン、ニッケル、およびコバルトからなる群から選択される1種以上を含有する、請求項1に記載の活物質の分離方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の活物質の分離方法で得られた電極用活物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活物質の分離方法および電極用活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、より多くの人々が手ごろで信頼でき、持続可能かつ先進的なエネルギーへのアクセスを確保できるようにするため、エネルギーの効率化に貢献する二次電池の再利用に関する研究開発が行われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで特許文献1のような二次電池の再利用に関する技術においては、環境負荷が大きい有機溶媒の使用が課題となっている。
【0005】
本願は上記課題の解決のため、有機溶媒を使用しない活物質の再利用の達成を目的としたものである。そして、延いてはエネルギーの効率化に寄与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
<1> 本発明の態様1の活物質の分離方法は、
活物質、結着剤、及び、集電体を含む電極を有する蓄電装置から、前記活物質を分離する分離方法であって、
前記蓄電装置から前記電極を取り出す第1工程と、
前記電極に対し、電磁波を照射する第2工程と、
前記電極から、前記活物質を分離する第3工程と、
を含み、
前記第2工程において、前記電磁波の照射により前記電極の少なくとも一部の温度が、前記結着剤の融点以上となる。
<2>本発明の態様2は、態様1の活物質の分離方法において、前記第3工程後の前記活物質の状態を確認する第4工程をさらに含んでもよい。
<3>本発明の態様3は、態様1または2の活物質の分離方法は、前記第2工程において、前記電磁波の周波数が、前記電磁波を前記結着剤が吸収する周波数であってもよい。
<4>本発明の態様4は、態様3の活物質の分離方法において、前記電磁波の前記周波数が、1kHz以上1THz未満であってもよい。
<5>本発明の態様5は、態様1~4のいずれか1つに記載の活物質の分離方法において、前記第3工程は、前記電極を振とうする工程を含んでもよい。
<6>本発明の態様6は、態様1~5のいずれか1つに記載の活物質の分離方法において、前記結着剤がフッ素を含む高分子であってもよい。
<7>本発明の態様7は、態様1~6のいずれか1つに記載の活物質の分離方法において、前記第2工程において、前記電磁波の照射により、前記電極の少なくとも一部の温度が、前記結着剤の融点よりも高く、示差走査熱量測定により測定される前記活物質の発熱温度よりも低い温度となってもよい。
<8>本発明の態様8は、態様1~7のいずれか1つに記載の活物質の分離方法において、前記活物質がマンガン、ニッケル、およびコバルトからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。
<9>本発明の態様9の電極用活物質は、態様1~8のいずれか1つに記載の活物質の分離方法で得られる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の上記各態様よれば、溶媒を使用しないで活物質の再利用が可能となる。そして、延いてはエネルギーの効率化に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一態様に係る活物質の分離方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態に係る活物質の分離方法について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る活物質の分離方法のフローチャートである。本開示の活物質の分離方法は、活物質、結着剤、及び、集電体を含む電極を有する蓄電装置から活物質を分離する分離方法であって、蓄電装置から電極を取り出す第1工程S1と、電極に対し、電磁波を照射する第2工程S2と、電極から活物質を分離する第3工程S3と、を含む。本開示の活物質の分離方法は、さらに、活物質の状態を確認する第4工程S4をさらに含む。以下、各工程について説明する。
【0010】
(第1工程S1)
第1工程S1では、蓄電装置から電極を取り出す。
【0011】
(蓄電装置)
蓄電装置は、活物質、結着剤、および集電体を含む電極を有する。蓄電装置は、電気を蓄えることができ、かつ、活物質、結着剤、および集電体を含む電極を有していれば特に限定されない。蓄電装置は、例えば、リチウムイオン二次電池である。
図2は、電極の構成を示す模式図である。本開示の活物質の分離方法が対象とする電極は正極10および負極20である。以下、電極の構成を説明する。
【0012】
「正極」
電極である正極10は、正極活物質11、正極導電助剤12、正極結着剤13、および正極集電体14を含む。正極活物質11、正極導電助剤12および正極結着剤13からなる層を正極合材層とする。正極合材層は、正極集電体14の片面または両面に形成されていてもよい。なお、正極活物質11が導電性を有していれば、正極合材層には、正極導電助剤12が含まれていなくてもよい。
【0013】
正極で用いる活物質である正極活物質11は、Liイオンを吸蔵および放出することが可能であれば、特に限定されない。正極活物質11としては、リチウムニッケル酸化物(例えばLiNiO2)、リチウムコバルト酸化物(例えばLiCoO2)、リチウムニッケルコバルト酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物、LiFePO4、LiMn1-xFexPO4、LiMnPO4、LiCoPO4、LiNiPO4などが挙げられる。正極活物質11は、マンガン、ニッケル、およびコバルトからなる群から選択される1種以上を含有することが好ましい。
【0014】
正極10で用いる導電助剤である正極導電助剤12は、正極活物質11と正極集電体14との間の導電パスの形成を補助する。正極導電助剤12としては、導電性を有していれば特に限定されず、例えば、アセチレンブラックなどのカーボンブラック、カーボンナノチューブ、人造黒鉛などの黒鉛(グラファイト)などが挙げられる。
【0015】
正極活物質11の結着剤である正極結着剤13は、正極活物質11、正極導電助剤12、および正極集電体14をそれぞれ結合する。正極結着剤13としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリアクリル酸及びその共重合体、ポリアミドイミド(PAI)、ポリベンゾイミダゾール、ポリエーテルスルホン(PES)、無水マレイン酸変性ポリプロピレンおよびこれらの混合物などが挙げられる。正極結着剤13には、融点を有する結晶性の高分子が含有されていることが好ましい。正極結着剤13は、フッ素を含む高分子であることが好ましい。フッ素を含む高分子としては、PVDF、PTFEなどが挙げられる。
【0016】
正極集電体14としては、例えば、アルミニウム箔、ステンレス箔、ニッケル箔などの金属箔が挙げられる。正極集電体14には、カーボンコート層が形成されていてもよい。また、正極集電体14は、メッシュ状に加工されていてもよい。
【0017】
「負極」
電極である負極20は、負極活物質21、負極導電助剤22、負極結着剤23、および負極集電体24を含む。負極活物質21、負極導電助剤22および負極結着剤23からなる層を負極合材層とする。負極合材層は、負極集電体24の片面または両面に形成されていてもよい。なお、負極活物質21が導電性を有していれば、負極合材層には、負極導電助剤22が含まれていなくてもよい。
【0018】
負極20の活物質である負極活物質21は、Liイオンを吸蔵および放出することが可能であれば、特に限定されない。負極活物質21としては、例えば、黒鉛(人造黒鉛、天然黒鉛)、アモルファスカーボン(ハードカーボン)、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、Si材料(シリコン、Si合金、Si酸化物)などが挙げられる。
【0019】
負極20の導電助剤である負極導電助剤22は、負極活物質21と負極集電体24との間の導電パスの形成を補助する。負極導電助剤22としては、導電性を有していれば特に限定されず、例えば、アセチレンブラックなどのカーボンブラック、カーボンナノチューブ、人造黒鉛などの黒鉛(グラファイト)などが挙げられる。
【0020】
負極20の結着剤である負極結着剤23は、負極活物質21、負極導電助剤22、および負極集電体24をそれぞれ結合する。負極結着剤23としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリル酸、フッ素ゴム、スチレンブタジエンゴムなどのジエン系ゴムなどが挙げられる。負極結着剤23には、融点を有する結晶性の高分子が含有されていることが好ましい。負極結着剤23は、フッ素を含む高分子であることが好ましい。フッ素を含む高分子としては、PVDF、PTFE、フッ素ゴムなどが挙げられる。
【0021】
負極20の集電体である負極集電体24としては、例えば、銅箔、ステンレス箔、ニッケル箔などの金属箔が挙げられる。負極集電体24には、カーボンコート層が形成されていてもよい。また、負極集電体24は、メッシュ状に加工されていてもよい。
【0022】
第1工程S1において、蓄電装置から電極である正極10および負極20を取り出す方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。蓄電装置が充電された状態で解体を行うと危険であるので、蓄電装置を十分放電することが好ましい。例えば、放電後、蓄電装置の外装材などを切断し、蓄電装置の中から正極10および負極20を取り出す。また、取り出した正極10および負極20は、電磁波の照射に適したサイズに切断をしてもよい。
【0023】
(第2工程S2)
第2工程S2では、電極である正極10または負極20に対し、電磁波を照射する。電磁波を照射する電極は正極10でも負極20でもよい。電磁波を照射する電極としては正極10が好ましい。
【0024】
第2工程S2において、電磁波の照射により電極の少なくとも一部の温度が、結着剤の融点以上となる。正極10の場合は、電磁波の照射により、正極10の少なくとも一部の温度が正極結着剤13の融点以上になる。負極20の場合は、電磁波の照射により、正極10の少なくとも一部の温度が負極結着剤23の融点以上になる。電磁波の照射により、電極の少なくとも一部の温度が結着剤の温度よりも高くなることで、電極中の活物質を分離しやすくすることができる。
【0025】
第2工程S2において、電磁波の照射により、電極の少なくとも一部の温度が、結着剤の融点よりも高く、示差走査熱量測定により測定される活物質の発熱温度よりも低い温度となることが好ましい。正極10の場合は、電磁波の照射により、正極10の少なくとも一部の温度が、正極結着剤13の融点よりも高く、示差走査熱量測定により測定される正極活物質11の発熱温度よりも低い温度となることが好ましい。負極20の場合は、電磁波の照射により、負極20の少なくとも一部の温度が、負極結着剤23の融点よりも高く、示差走査熱量測定により測定される負極活物質21の発熱温度よりも低い温度となることが好ましい。電極の少なくとも一部の温度が結着剤の温度よりも高くなることで、電極中の活物質を分離しやすくすることができる。また、活物質の発熱温度よりも低くすることで、活物質への電磁波の影響を低減することができる。
【0026】
示差走査熱量測定により測定される活物質の発熱温度は例えば、以下の方法で評価することができる。例えば、示差走査熱量分析装置を用い、5℃/minの昇温速度で室温から300℃の温度範囲で測定を行う。得られた発熱ピークのピークトップの温度を発熱温度とする。得られた発熱ピークが複数ある場合は、もっとも熱量の高いピークトップの温度を発熱温度とする。
【0027】
電磁波は公知の方法で照射することができる。照射する電磁波の周波数は、1kHz以上以上であることが好ましい。より好ましい電磁波の周波数は、300MHz以上である。電磁波の周波数は3THz以下が好ましい。より好ましい電磁波の周波数は、1THz未満である。
【0028】
電磁波の周波数は、結着剤が電磁波を吸収する周波数であることが好ましい。電磁波の周波数が、結着剤が電磁波を吸収する周波数であれば、結着剤のみを加熱することができ、活物質への影響をより低減することができる。
【0029】
電磁波の周波数は例えば、以下の方法で設定することができる。電極を構成する各材料に対し、周波数を変えて電磁波を所定の時間照射する。各材料で得られた結果から、結着剤のみが温度上昇する周波数を照射する電磁波の周波数としてよい。
【0030】
(第3工程S3)
第3工程S3では、電極から活物質を分離する。電極が正極10である場合は、正極10から正極活物質11を分離する。電極が負極20である場合は、負極20から負極活物質21を分離する。第3工程S3は、第2工程S2の後で行ってもよいし、第2工程S2と同時に行ってもよい。電極から活物質を分離することによって、電極用活物質を得ることができる。
【0031】
電極から活物質を分離する方法は特に限定されない。第3工程S3は、電極を振とうする工程を含むことが好ましい。電極を振とうすることで、活物質を集電体などから剥離しやすくすることができる。電極が正極10の場合は、正極活物質11を正極集電体14から剥離しやすくすることができる。電極が負極20の場合は、負極活物質21を負極集電体24から剥離しやすくすることができる。
【0032】
(第4工程S4)
第4工程S4では、第3工程S3後に得られた活物質の状態を確認する。電極が正極10である場合は、第3工程S3で得られた正極活物質11の状態を確認する。電極が負極20である場合は、第3工程S3で得られた負極活物質21の状態を確認する。活物質の状態の確認方法は特に限定されない。例えば、X線回折、ラマン分光法で評価することができる。X線回折の場合は、得られたピークの位置、半値幅などに基づいて判断することができる。
【0033】
例えば、第3工程S3後に得られた活物質の状態を充放電前の作製直後の活物質の測定結果と比較し、所定の条件を満足していた場合、利用可能として判断する。例えば、第4工程S4は、X線回折、ラマン分光法などの定性分析をした後(定性分析工程後)、定量分析を行い判断する工程(定量分析工程)をさらに含んでもよい。定量分析工程において、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法により取得されるニッケル/マンガン/コバルト/リチウム/鉄/アルミなどの構成元素の組成比、あるいは粒度分布を測定し、測定して得られる測定値が、作製直後の活物質に近い測定値としてあらかじめ定められた範囲内であった場合、利用可能と判断してもよい。
【0034】
以上説明したように、本実施形態に係る活物質の分離方法によれば、溶媒を使用しないで活物質の再利用が可能となる。
【0035】
本実施形態に係る活物質の分離方法では、第4工程S4を含んでいたが、第4工程S4工程は無くてもよい。
【0036】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0037】
10 正極、11 正極活物質、12 正極導電助剤、13 正極結着剤、14 正極集電体、20 負極、21 負極活物質、22 負極導電助剤、23 負極結着剤、24 負極集電体、S1 第1工程、S2 第2工程、S3 第3工程、S4 第4工程