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特開2024-143288フッ素ゴム組成物、フッ素ゴム成形物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143288
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】フッ素ゴム組成物、フッ素ゴム成形物
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/20 20060101AFI20241003BHJP
   C08K 3/18 20060101ALI20241003BHJP
   C08K 9/06 20060101ALI20241003BHJP
   C08F 214/28 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L27/20
C08K3/18
C08K9/06
C08F214/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055883
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003263
【氏名又は名称】三菱電線工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】平野 耕生
(72)【発明者】
【氏名】飯田 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】厨子 敏博
【テーマコード(参考)】
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4J002BD141
4J002BD161
4J002DE077
4J002DE088
4J002DE287
4J002DJ016
4J002FB096
4J002FB116
4J002FD016
4J002FD140
4J002GJ02
4J002GQ01
4J100AC24P
4J100AC27Q
4J100CA04
4J100CA31
4J100DA47
4J100DA48
4J100DA51
4J100FA02
4J100FA18
4J100HA53
4J100HB37
4J100HB39
4J100HC42
4J100HE17
4J100HE32
4J100JA44
(57)【要約】
【課題】高い耐熱性を有し、かつ低コストに製造することが可能なフッ素ゴム組成物、およびこれを用いたフッ素ゴム成形物を提供する。
【解決手段】2元系フッ素ゴム原料であるフッ化ビニリデンおよび6フッ化プロピレンと、球状のシリカ組成物と、酸化マグネシウムまたはハイドロタルサイトのうち少なくとも一方と、水酸化カルシウムと、とを含有するフッ素ゴム組成物であって、前記シリカ組成物は、球状シリカと、前記球状シリカの表面を覆うシランカップリング剤を含む被覆層とから構成され、前記シリカ組成物は、前記2元系フッ素ゴム原料100質量部に対して1質量部以上80質量部以下の範囲で含まれる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2元系フッ素ゴム原料であるフッ化ビニリデンおよび6フッ化プロピレンと、球状のシリカ組成物と、酸化マグネシウムまたはハイドロタルサイトのうち少なくとも一方と、水酸化カルシウムと、とを含有するフッ素ゴム組成物であって、
前記シリカ組成物は、球状シリカと、前記球状シリカの表面を覆うシランカップリング剤を含む被覆層とから構成され、
前記シリカ組成物は、前記2元系フッ素ゴム原料100質量部に対して1質量部以上80質量部以下の範囲で含まれることを特徴とするフッ素ゴム組成物。
【請求項2】
前記シランカップリング剤は、アルキル系シランカップリング剤またはフッ素系シランカップリング剤であることを特徴とする請求項1に記載のフッ素ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のフッ素ゴム組成物のフッ化ビニリデンと6フッ化プロピレンとが共重合したフッ素ゴムを成形してなることを特徴とするフッ素ゴム成形品。
【請求項4】
前記フッ素ゴムは、250℃、70時間での圧縮永久歪率が40%未満であることを特徴とする請求項3に記載のフッ素ゴム成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フッ素ゴム組成物、フッ素ゴム成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種電子機器の高性能化・高集積化が進むにつれて、構成部品の製造環境がより高温になりつつある。例えば、集積回路を製造するための半導体装置においては、シール材料として高い耐熱性とともに、耐薬品性、耐プラズマ性なども求められている。
【0003】
こうした半導体装置のシール材料として、従来からフッ素ゴム(FKM)が用いられている(例えば、特許文献1を参照)。フッ素ゴムには、大別してフッ化ビニリデン(VDF)と6フッ化プロピレン(HFP)との共重合体である2元系フッ素ゴムと、VDFとHFPと4フッ化エチレン(TFE)との共重合体である3元系フッ素ゴムとがある。このうち、2元系フッ素ゴムは、特に耐熱性に優れており、従来から半導体装置のシール材料として用いられている。
【0004】
しかしながら、近年の半導体装置の使用環境はますます高温化及びクリーン化が進んでおり、従来の2元系フッ素ゴムを用いたシール材料では耐熱性が不足する懸念があることと一般的にカーボンブラックを配合しているため、コンタミネーションが発生する問題がある。
【0005】
FKMを半導体装置のシール材料として用いる場合、カーボンブラックを配合したフッ素ゴムは黒色やこれに近い暗色となるために、コンタミネーションとして認識されてしまう懸念があるため、コンタミネーションとして認識されにくい白色に近い色調で、かつ高い耐熱性を有するフッ素ゴムとして、4フッ化エチレンパーフルオロメチルビニルエーテル共重合体(FFKM)を用いたシール材料も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-154043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されたシール材は、低着香性を高めるためにフッ素ゴムに対して更にフッ素樹脂を添加しているため、耐熱性が低下してしまうという課題があった。一方、FKMよりも耐熱性が高いとされるFFKMは、コストが非常に高く(例えば、FKMの50倍程度の価格)、シール材を多くの箇所に用いる半導体装置に適用した場合、装置の製造コストが大幅に高くなるという課題があった。
【0008】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、高い耐熱性を有し、かつ低コストに製造することが可能なフッ素ゴム組成物、およびこれを用いたフッ素ゴム成形物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一実施形態のフッ素ゴム組成物、フッ素ゴム成形物は、以下の手段を提案している。
(1)本発明の態様1のフッ素ゴム組成物は、2元系フッ素ゴム原料であるフッ化ビニリデンおよび6フッ化プロピレンと、球状のシリカ組成物と、酸化マグネシウムまたはハイドロタルサイトのうち少なくとも一方と、水酸化カルシウムと、とを含有するフッ素ゴム組成物であって、前記シリカ組成物は、球状シリカと、前記球状シリカの表面を覆うシランカップリング剤を含む被覆層とから構成され、前記シリカ組成物は、前記2元系フッ素ゴム原料100質量部に対して1質量部以上80質量部以下の範囲で含まれることを特徴とする。
【0010】
(2)本発明の態様2は、態様1のフッ素ゴム組成物において、前記シランカップリング剤は、アルキル系シランカップリング剤またはフッ素系シランカップリング剤であることを特徴とする。
【0011】
(3)本発明の態様3のフッ素ゴム成形品は、態様1または2のフッ素ゴム組成物のフッ化ビニリデンと6フッ化プロピレンとが共重合したフッ素ゴムを成形してなることを特徴とする。
【0012】
(4)本発明の態様4は、態様3のフッ素ゴム成形品において、前記フッ素ゴムは、250℃、70時間での圧縮永久歪率が40%未満であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い耐熱性を有し、かつ低コストに製造することが可能なフッ素ゴム組成物、およびこれを用いたフッ素ゴム成形物、シール材を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】シランカップリング剤の種類の違いによるフッ素ゴムの圧縮永久歪を示すグラフである。
図2】シランカップリング剤の種類の違いによるフッ素ゴムの引張強さを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を適用した一実施形態であるフッ素ゴム組成物、およびこれを用いたフッ素ゴム成形物について説明する。なお、以下に示す実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0016】
(フッ素ゴム組成物)
本実施形態のフッ素ゴム組成物は、フッ素ゴムの生成原料であり、2元系フッ素ゴム原料であるフッ化ビニリデンおよび6フッ化プロピレンと、球状のシリカ組成物と、酸化マグネシウムまたはハイドロタルサイトのうち少なくとも一方と、水酸化カルシウムとを含有し、シリカ組成物は、球状シリカと、この球状シリカの表面を覆うシランカップリング剤を含む被覆層とから構成され、シリカ組成物は、2元系フッ素ゴム原料100質量部に対して1質量部以上80質量部以下の範囲で含まれる。
【0017】
こうしたフッ素ゴム組成物を構成するフッ化ビニリデン(C:VDF)と6フッ化プロピレン(C:HFP)の2種類のモノマーを架橋反応によって共重合させることで、フッ化ビニリデン-6フッ化プロピレン共重合体(以下、単に2元系FKMと称する)を含むフッ素ゴムを得ることができる。このようなフッ素ゴムは、共重合組成中に強固なC-F結合(フッ素結合)を有するために、耐熱性・耐油性・耐薬品性に優れている。
【0018】
2元系FKMは、モノマーの組み合わせ比率によって、互いに特性の異なるグレードが作り出される。本実施形態のフッ素ゴム組成物に含まれるフッ化ビニリデンと6フッ化プロピレンとの組成比(モル比)は、例えば、1:1~1:6の範囲であればよい。
【0019】
フッ化ビニリデンと6フッ化プロピレンとを共重合させる際の加硫方法としては、ポリオール加硫、ポリアミン加硫のいずれであってもよい。ポリオール加硫やポリアミン加硫は、アミンやオニウム塩(アンモニウム塩やホスホニウム塩等)を触媒として2元系FKMの分子鎖から脱フッ酸(フッ化水素)反応により二重結合を形成させ、この二重結合にジアミンもしくはビスフェノール化合物を付加させることによって加硫を行うものである。いずれの加硫方法であっても発生したフッ化水素酸を中和するために、受酸剤として金属酸化物を配合する必要がある。
【0020】
ポリアミン加硫の加硫剤としては、ヘキサメチレンジアミンカーバメート、ヘキサメチレンジアミンとシンナムアルデヒドの塩、シクロヘキシルジアミンカーバメートなどを用いることができる。また、加硫剤に触媒作用がないため、オニウム塩と共触媒である水酸化カルシウムが用いられる。
【0021】
本実施形態のフッ素ゴム組成物では、水酸化カルシウム(Ca(OH))を含んでいる。水酸化カルシウムは、例えば、2元系FKM原料100質量部に対して3質量部以上10質量部以下の割合で配合されていればよい。
【0022】
また、上述したポリアミン加硫およびポリオール加硫に用いるフッ化水素酸を中和するための受酸剤としては、フッ化水素酸と反応してフッ素化合物を生成するものであればよく、圧縮永久歪率を良好に保つことが可能な酸化マグネシウム(MgO)やハイドロタルサイト(MgAlCO(OH)16・4(HO))用いる。
【0023】
本実施形態のフッ素ゴム組成物では、酸化マグネシウム、またはハイドロタルサイトのうち、少なくとも一方、または両方を含んでいる。これら酸化マグネシウムやハイドロタルサイトは、例えば、2元系FKM原料100質量部に対して1質量部以上8質量部以下の割合で配合されていればよい。
【0024】
球状のシリカ組成物は、共重合後の2元系FKMに分散されるフィラーであり、球状シリカと、この球状シリカの表面を覆う被覆層とから構成されている。
球状のシリカ組成物は、フッ化ビニリデンおよび6フッ化プロピレンとからなる2元系フッ素ゴム原料100質量部に対して、1質量部以上80質量部以下、好ましくは1質量部以上50質量部以下の範囲で含まれていればよい。
【0025】
シリカ組成物を構成する球状シリカは、例えば、球状度が80%以上のシリカ(SiO)粒子である。球状シリカの平均粒子径は、例えば、1μm以上、30μm以下の範囲であればよい。こうした球状シリカは、例えば、粉砕した原料珪石を高温火炎中で溶融し、表面張力によって球状化することで得られる。
球状シリカの具体例としては、エクセリカ(株式会社トクヤマ)、アドマファイン(株式会社アドマテックス)、Denka球状シリカフィラー(デンカ株式会社)、サンスフェア(AGCエスアイテック株式会社)などが挙げられる。
【0026】
球状シリカの表面を覆う被覆層は、シランカップリング剤から構成される。被覆層に用いられるシランカップリング剤としては、アルキル系シランカップリング剤またはフッ素系シランカップリング剤を用いることが好ましい。
【0027】
アルキル系シランカップリング剤の具体例としては、トリメトキシ-ノルマル-オクチルシラン、トリエトキシ-ノルマル-オクチルシラン、デシルトリエトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシランなどヘキサデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0028】
また、フッ素系シランカップリング剤の具体例としては、トリメトキシ(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)シラン、トリメトキシ(3,3,3-トリフルオロプロピル)シラン、トリメトキシ(1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシル)シラン、トリメトキシ(1H,1H,2H,2H-パーフルオロ-ノルマル-オクチル)シラン、トリエトキシ(1H,1H,2H,2H-パーフルオロ-ノルマル-オクチル)シラン、トリメトキシ(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)シランなどが挙げられる。
【0029】
アルキル系シランカップリング剤の具体例としては、トリメトキシ-ノルマル-オクチルシラン、トリエトキシ-ノルマル-オクチルシラン、デシルトリエトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシランなどが挙げられる。
また、フッ素系シランカップリング剤の具体例としては、トリメトキシ(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)シランが挙げられる。
【0030】
また、球状シリカの表面に対する被覆層の被覆率は、例えば80%以上、好ましくは90%以上であればよい。
【0031】
このような構成のシリカ組成物をフッ化ビニリデンと6フッ化プロピレンとが共重合した2元系FKMに分散させることによって、シリカ組成物を含まない2元系FKMと比べて、耐熱性が大幅に向上させ、耐熱性の指標となる圧縮永久歪率を改善させることができる。また、金型からの離型性が向上することもある。
【0032】
(フッ素ゴム成形物)
本実施形態のフッ素ゴム成形物は、上述したフッ素ゴム組成物に含まれる2元系フッ素ゴム原料であるフッ化ビニリデンと6フッ化プロピレンの共重合体を架橋させる(加硫)とともに、所望の形状に成形することによって得られる。
【0033】
具体的には、フッ素ゴム組成物に充填剤や加硫剤等を添加してロールやニーダー等を用いて混錬する。その後、混練りしたゴムをシート状にして裁断する等して、予備成形を実施し。成形形状を象った金型に仕込んだ後、加圧・加熱することによって、フッ化ビニリデンと6フッ化プロピレンとの間に架橋反応が生じて、金型の形状のフッ素ゴム成形物が形成される。形成された成形物に熱処理を実施して最終的な成形品となる。
【0034】
本実施形態のフッ素ゴム成形物によれば、架橋反応によって形成された2元系FKMに球状のシリカ組成物が分散させることによって、2元系FKMにフィラーなどを含まないフッ素ゴム成形物と比較して、耐熱性が大幅に向上したフッ素ゴム成形物を低コストで製造することが可能になる。
例えば、本実施形態のフッ素ゴム成形物の耐熱性の指標となる圧縮永久歪率は、250℃、70時間の条件で40%未満であり、優れた耐熱性を有している。
【0035】
(シール材)
本実施形態のシール材は、上述したフッ素ゴム組成物に含まれる2元系フッ素ゴム原料であるフッ化ビニリデンと6フッ化プロピレンの共重合体を架橋させる(加硫)とともに、シール材の設置個所の形状に合わせて成形することによって得られる。例えば、シール材の具体例としては、半導体装置などの配管結合箇所に設けられるOリングやパッキンが挙げられる。
【0036】
例えば、本実施形態のシール材は、従来のFFKMといった高コストなシール材料と比べて、コストが大幅に低いため、半導体装置などの装置コストを低減することができる。
また、本実施形態のシール材は、白色度の高い球状シリカをシランカップリング剤からなる被覆層で覆ったシリカ組成物を分散させた2元系FKMを用いているため、フィラーとしてカーボンブラックを分散させた従来のシール材などと比較して黒くなく、半導体装置のシール材料として用いても、コンタミネーションとして認識される懸念が低い。
例えば、本実施形態のシール材は、カーボンブラックを分散させた黒色の従来のシール材と比較して、黒色ではないシール材を実現できる。
【0037】
以上、本発明の実施形態を説明したが、こうした実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例0038】
本発明の効果を検証した。
(検証例1)
(本発明例1)
まず、シリカ組成物を形成した。球状シリカ(FB-3SDC(粒径3μm):デンカ株式会社製)50gと、シランカップリング剤としてデシルトリメトキシシラン0.25gを秤量し、混合装置(あわとり練太郎:シンキー株式会社製)を用いて5分間混合した。この混合物を室温(25℃)で1時間放置してから恒温槽を用いて、150℃で3時間熱処理を行った。この後、アセトンで洗浄して、球状シリカの表面をシランカップリング剤(被覆層)で覆ったシリカ組成物を得た。
【0039】
次に、フッ化ビニリデンと6フッ化プロピレンの混合物100質量部に対して、酸化マグネシウム3.0質量部、水酸化カルシウム6.0質量部、および上述したシリカ組成物5質量部を6インチロールで混練りして、フッ素ゴム組成物を得た。
そして、このフッ素ゴム組成物を加硫処理することによって、ポリマーを架橋させて、本発明例1のフッ素ゴム(試料)を得た。
【0040】
(本発明例2)
フッ素ゴム組成物に含まれるシリカ組成物を20質量部にしたこと以外は本発明例1と同様である。
【0041】
(本発明例3)
フッ素ゴム組成物に含まれるシリカ組成物を80質量部にしたこと以外は本発明例1と同様である。
【0042】
(比較例1)
フッ化ビニリデンと6フッ化プロピレンの混合物100質量部に対して、酸化マグネシウム3.0質量部、水酸化カルシウム6.0質量部を混合して、フッ素ゴム組成物を得た(フィラーは無し)。
そして、このフッ素ゴム組成物を加硫処理することによって、フッ化ビニリデンと6フッ化プロピレンとを共重合させて、比較例1のフッ素ゴム(試料)を得た。
【0043】
(比較例2)
フッ素ゴム組成物に含まれるシリカ組成物を100質量部にしたこと以外は本発明例1と同様である。
【0044】
(比較例3)
フッ化ビニリデンと6フッ化プロピレンの混合物100質量部に対して、酸化マグネシウム3.0質量部、水酸化カルシウム6.0質量部、球状シリカ20質量部を混合して、フッ素ゴム組成物を得た(球状シリカにシランカップリング剤の被覆層は無し)。
そして、このフッ素ゴム組成物を加硫処理することによって、フッ化ビニリデンと6フッ化プロピレンとを共重合させて、比較例3のフッ素ゴム(試料)を得た。
【0045】
以上の本発明例1~3、比較例1~3の各試料を用いて、以下の試験を行った。
(硬さ測定)
JIS K6253:1997に従い、タイプAデュロメータを用いて、2mmのゴムシートを3枚重ねて形成した各試料の硬さ測定(瞬間値)を行った。
【0046】
(引張強さ、伸び率、100%引張応力)
引張強さ、伸び率、100%引張応力はJIS K6251に従い試験を実施した。成形したシートからJIS3号ダンベル状を打ち抜き、形成した各試料を、引張試験機を用いて、引張強さ(MPa)、試験前の長さに対する最大伸び率(%)、および100%引張応力をそれぞれ測定した。
引張強さは、試料破断時の応力を試料の初期断面積で除算することで算出した値である。また、100%引張応力は、試料に比率100%で伸びを加えた際の応力を試料の初期断面積で除算することで算出した値である。
【0047】
(圧縮永久歪)
圧縮永久ひずみは、JIS K6262に従って実施した。
試験は、各試料を250℃で25%圧縮し、72時間保持することによって、試験開始前の厚みに対して、復元されない圧縮永久歪の割合(%)を測定することで行った。
以上の様な各試験項目の結果を表1に纏めて示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示す結果によれば、本発明例1~3は、耐熱性の指標となる250℃における圧縮永久歪がいずれも40%未満であり、圧縮永久歪がいずれも40%を超える比較例1~3と比べて、優れた耐熱性を有することが確認された。また、本発明例1~3は、引張強さ、伸び率、100%引張応力が、シランカップリング剤で覆われた球状シリカを含まない比較例1や比較例3と同等以上に確保されていることが確認された。
【0050】
(検証例2)
次に、シリカ組成物の形成時に、シランカップリング剤を種類を変えて形成したフッ素ゴム組成物を用いて、それぞれフッ素ゴム(試料)を形成し、圧縮永久歪と引張強さとを測定した。なお、シランカップリング剤を種類を変えた以外は、検証例1における本発明例1と同様の手順で試料を作製した。
用いたシランカップリング剤の種類は以下の通りである。
デシルトリエトキシシラン(アルキル系)
ビニルトリメトキシシラン(ビニル系)
3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(エポキシ系)
3-アミノプロピルトリメトキシシラン(アミノ系)
トリメトキシ-ノルマル-オクチルシラン(アルキル系)
トリエトキシ-ノルマル-オクチルシラン(アルキル系)
デシルトリメトキシシラン(アルキル系)
ドデシルトリメトキシシラン(アルキル系)
【0051】
これらそれぞれのシランカップリング剤を用いたシリカ組成物を含むフッ素ゴムの250℃、72時間における圧縮永久歪(%)を図2にグラフで示す。また、引張強さ(MPa)を図3にグラフで示す。
【0052】
図2によれば、シランカップリング剤の種類によって圧縮永久歪は大きく変わらないが、エトキシ基を持つシランカップリング剤のほうが、メトキシ基を持つシランカップリング剤よりも、圧縮永久歪が良くなる傾向が見られた。なお、ビニル系、およびエポキシ系のシランカップリング剤を用いると、得られたフッ素ゴムに白色の異物が多数発生することが確認された。
【0053】
また、引張強さは、トリエトキシ-ノルマル-オクチルシラン、およびデシルトリエトキシシランをシランカップリング剤として用いたシリカ組成物を含むフッ素ゴムが、特に引張強さが優れていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のフッ素ゴム組成物、フッ素ゴム成形物は、球状シランをシランカップリング剤からなる被覆層で覆ったシリカ組成物を2元系FKMに分散させることによって、高い耐熱性を有するフッ素ゴムを低コストで提供することを可能にする。従って、産業上の利用可能性を有する。
図1
図2